説明

水素燃料車両

【課題】簡単且つ経済的な構成で、水素が流通される機器が配置される床下空間又はフロントボックスと客室空間とに、水素漏れを確実に知らせることを可能にする。
【解決手段】燃料電池自動車10は、車体12の床下空間14に配置され、水素が流通される燃料電池システム16と、前記燃料電池システム16からの前記水素の漏れを検出する水素漏れ検出部42とを備える。水素漏れ検出部42は、床下空間14と客室空間44とを仕切るフロアパネル46に、前記床下空間14と前記客室空間44とに跨って配置されるシール部材48を設けるとともに、前記シール部材48には、水素と反応することにより臭気を発生する成分が含有されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車体の床下に配置され、水素が流通される機器と、前記機器からの前記水素の漏れを検出する水素漏れ検出部とを備える水素燃料車両に関する。
【背景技術】
【0002】
車両の動力源として、ガソリンエンジンの他、例えば、燃料として水素を使用した燃料電池や水素エンジン等が開発されている。燃料電池は、水素と酸素との電気化学反応により発電するものであり、前記燃料電池が搭載された燃料電池自動車の走行モータを含む各種負荷に発電電力を供給することによって、前記燃料電池自動車が走行可能になる。
【0003】
上記のように、燃料として水素が使用される場合には、車両に搭載された水素タンクや水素配管等の水素流通機器から前記水素が漏れるおそれがあり、該水素の漏れが生じているか否かを検出する必要がある。
【0004】
そこで、例えば、特許文献1に開示されている移動体における有害ガス漏れ検出装置が知られている。この検出装置は、移動体の複数箇所に配設され、所定の有害ガスを検出するセンサと、前記センサのうち、漏れの検出時に異なる出力が得られるべき複数のセンサの出力に基づき、各センサの出力が前記漏れに起因するか否かを判断する判断部とを備えている。
【0005】
また、特許文献2に開示されているガス検出装置は、ガスタンク及びガス通路と、前記ガスタンク及びガス通路の外周部に構成される芳香性部材と、前記芳香性部材を覆う非通気性部材とを備え、前記非通気性部材の一部に他の部分よりも強度が弱い箇所があることを特徴としている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2003−149071号公報
【特許文献2】特許第4371051号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記の特許文献1では、検出装置が、センサとして水素の漏れを検出する水素センサを備えている。このため、水素センサが駆動(オン)されていない状態では、水素漏れを検出することができないという問題がある。さらに、水素センサによる警告表示は、キャビンの外部から視認することが困難であるという問題がある。
【0008】
また、上記の特許文献2では、ガスタンクやガス通路の外周部に芳香性部材が被覆されるとともに、前記芳香性部材を覆って非通気性部材が設けられている。従って、ガス検出装置は、構造が相当に複雑化して経済的ではなく、しかも形状面での制約が大きいため、汎用性が低下するという問題がある。
【0009】
本発明はこの種の問題を解決するものであり、簡単且つ経済的な構成で、水素が流通される機器が配置される床下空間又はフロントボックスと搭乗者が着座する客室空間とに、前記機器からの水素漏れを確実に知らせることが可能な水素燃料車両を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、車体の床下空間又はフロントボックスに配置され、水素が流通される機器と、前記機器からの前記水素の漏れを検出する水素漏れ検出部とを備える水素燃料車両に関するものである。
【0011】
この水素燃料車両では、水素漏れ検出部は、床下空間又はフロントボックスと客室空間とを仕切るフロアパネルに、前記床下空間又は前記フロントボックスと前記客室空間とに跨って配置されるシール部材を設けるとともに、前記シール部材には、水素と反応することにより臭気を発生する成分が含有されている。
【0012】
また、この水素燃料車両では、機器は、燃料電池スタック、前記燃料電池スタックに水素を供給する水素供給系機器又は該燃料電池スタックから前記水素を排出する水素排出系機器を有することが好ましい。
【0013】
さらに、この水素燃料車両では、シール部材は、フロアパネルを構成する複数のパネル同士の接続部位を封止するシーラントであることが好ましい。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、機器から水素漏れが発生すると、この水素は、シール部材に含有する成分と反応して臭気(異臭)を発生する。その際、シール部材は、床下空間又はフロントボックスと客室空間とに跨って配置されており、異臭は、機器が配置されている前記床下空間又は前記フロントボックスから搭乗者が着座する前記客室空間に進入する。
【0015】
従って、センサ類を不要にすることができ、簡単且つ経済的な構成で、客室空間内の搭乗者は、異臭により機器からの水素漏れを容易且つ確実に検出することが可能になる。しかも、床下空間にも異臭が発生しており、客室空間の外部からも水素漏れを検出することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明の実施形態に係る水素燃料自動車の概略説明図である。
【図2】前記水素燃料自動車を構成する燃料電池システムの概略構成説明図である。
【図3】前記水素燃料自動車を構成する水素漏れ検出部の拡大説明図である。
【図4】前記水素燃料自動車を構成する車体の下方からの概略斜視説明図である。
【図5】前記水素漏れ検出部の動作説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
図1に示すように、本発明の実施形態に係る水素燃料自動車(水素燃料車両)である燃料電池自動車10は、車体12を備え、前記車体12の床下空間14には、燃料電池システム16が配置される。
【0018】
燃料電池システム16は、図2に示すように、水素が流通される機器である燃料電池スタック18を備える。燃料電池スタック18は、複数の燃料電池20を矢印A方向(水平方向又は重力方向)に積層して構成されるとともに、前記燃料電池20は、例えば、固体高分子型燃料電池である。
【0019】
燃料電池スタック18には、燃料ガスである水素ガス(水素含有ガス)を供給するための水素供給装置22と、酸化剤ガスである空気(酸素含有ガス)を供給するための空気供給装置(図示せず)と、冷却媒体を供給するための冷却媒体供給装置(図示せず)とが接続される。燃料電池スタック18の発電により得られる電力は、図示しない走行モータ等に供給されることにより、燃料電池自動車10が走行可能になる。
【0020】
水素供給装置22は、高圧水素を貯留する水素タンク24を備え、この水素タンク24が水素供給路26に配置される。水素供給路26は、燃料電池スタック18の燃料ガス入口28aに連通するとともに、減圧弁30及びエゼクタ32を配設する。
【0021】
水素供給装置22は、燃料電池スタック18の燃料ガス出口28bに連通する水素循環路34を備え、前記水素循環路34は、気液分離器36を介装してエゼクタ32に連通する。気液分離器36の下部には、ドレイン配管38が接続されるとともに、前記ドレイン配管38にドレイン弁40が配設される。
【0022】
図1に示すように、燃料電池自動車10は、燃料電池システム16からの水素の漏れを検出する水素漏れ検出部42を備える。水素漏れ検出部42は、床下空間14と搭乗者が着座する客室(キャビン)空間44とを仕切るフロアパネル46に、前記床下空間14と前記客室空間44とに跨って配置されるシール部材48を設ける。
【0023】
フロアパネル46は、複数のパネル46Pを有するとともに、前記パネル46P同士の接続部位を封止してシール部材48が配置される。シール部材48は、水素を透過する一方、水を通さないシーラントであり、例えば、シリコーン系シーラントで構成される。シール部材48には、水素と反応することにより臭気を発生する成分が含有される。
【0024】
図3に示すように、シール部材48では、シーラント内に、非ガス臭物質である、例えば、ジターシャリーブチルスルフィド50と、触媒作用を有する物質、例えば、パラジウム(又はパラジウム合金)52とが混在される。ジターシャリーブチルスルフィド50は、パラジウム52等の触媒の存在下に、水素と反応してターシャリーブチルメルカプタンを発生する。このターシャリーブチルメルカプタンは、少量で強い臭気(異臭)を発生する。なお、非ガス臭物質は、ジターシャリーブチルスルフィド50に限定されるものではなく、水素と反応して異臭を発する物質であれば、種々選択可能である。
【0025】
図4に示すように、車体12を構成するフロアパネル46では、各パネル46P同士の接続部位を封止してシール部材48が設けられる。シール部材48は、車体12の進行方向(矢印L方向)に沿って延在する部位や、前記進行方向に交差する幅方向(矢印H)に沿って延在する部位等を有する。
【0026】
図1に示すように、燃料電池システム16は、燃料電池スタック18が床下空間14に配置されているが、これに限定されるものではない。例えば、燃料電池スタック18は、燃料電池自動車10のフロントボックス(エンジンルーム)54に収容されてもよく、またリアボックス(トランクルーム)56等に収容されてもよい。
【0027】
いずれのレイアウトであっても、床下空間14には、水素が流通される機器、すなわち、燃料電池スタック18、水素タンク(水素供給系機器)24、減圧弁(水素供給系機器)30、エゼクタ(水素供給系機器)32又は気液分離器(水素排出系機器)36、ドレイン弁(水素排出系機器)40等の少なくともいずれかが配置されていればよい。
【0028】
このように構成される燃料電池自動車10の動作について、以下に説明する。
【0029】
図2に示すように、水素供給装置22では、水素タンク24に貯留されている高圧水素が、減圧弁30を介して減圧されて水素供給路26に送られる。水素ガスは、エゼクタ32のノズル部から噴出されるとともに、燃料電池スタック18から排出される水素ガスを吸引して、前記燃料電池スタック18の燃料ガス入口28aに供給される。
【0030】
また、燃料電池スタック18には、図示しない空気供給装置から圧縮空気(酸化剤ガス)が供給される一方、図示しない冷却媒体供給装置からに冷却媒体(純水やエチレングリコール、オイル等)が供給される。
【0031】
このため、各燃料電池20では、アノード電極に供給される水素ガスとカソード電極に供給される空気とが、電極触媒層内で電気化学反応により消費され、発電が行われる。
【0032】
次いで、アノード電極に供給されて消費された水素ガスは、燃料ガス出口28bから水素循環路34に排出される。この水素ガスは、気液分離器36に導入されて水分が分離除去された後、エゼクタ32に吸引される。このため、水素ガスは、新たな水素ガスに混在して水素供給路26に導入され、燃料ガスとして燃料電池スタック18に供給される。なお、水素パージを行う際には、ドレイン弁40が開放される。
【0033】
この場合、本実施形態では、燃料電池システム16(少なくとも燃料電池スタック18)が床下空間14に配置されている。そして、燃料電池スタック18から水素ガスが漏れると、この水素ガスは、フロアパネル46を構成するパネル46P同士の接続部位に設けられているシール部材48を透過して客室空間44に進入する。
【0034】
ここで、シール部材48には、ジターシャリーブチルスルフィド50とパラジウム52とが混在している。従って、図5に示すように、シール部材48に水素ガスが進入すると、ジターシャリーブチルスルフィド50は、パラジウム52等の触媒の存在下に、前記水素ガスと反応して少量で強い臭気を有するターシャリーブチルメルカプタン(ガス臭気体)を発生する。
【0035】
その際、シール部材48は、床下空間14と客室空間44とに跨って配置されており、異臭は、燃料電池スタック18が配置される前記床下空間14及び前記客室空間44に進入することができる。
【0036】
これにより、センサ類を用いる必要がなく、簡単且つ経済的な構成で、客室空間44内の搭乗者は、異臭により水素が流通される機器(例えば、燃料電池スタック18、水素タンク24、エゼクタ32又は気液分離器36等)からの水素漏れを容易且つ確実に検出することが可能になるという効果が得られる。しかも、異臭は、床下空間14にも存在している。このため、客室空間44の外部からも、水素漏れを容易に検出することができる。
【符号の説明】
【0037】
10…燃料電池自動車 12…車体
14…床下空間 16…燃料電池システム
18…燃料電池スタック 20…燃料電池
22…水素供給装置 24…水素タンク
26…水素供給路 30…減圧弁
32…エゼクタ 34…水素循環路
36…気液分離器 40…ドレイン弁
42…水素漏れ検出器 44…客室空間
46…フロアパネル 48…シール部材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車体の床下空間又はフロントボックスに配置され、水素が流通される機器と、
前記機器からの前記水素の漏れを検出する水素漏れ検出部と、
を備える水素燃料車両であって、
前記水素漏れ検出部は、前記床下空間又は前記フロントボックスと客室空間とを仕切るフロアパネルに、前記床下空間又は前記フロントボックスと前記客室空間とに跨って配置されるシール部材を設けるとともに、
前記シール部材には、水素と反応することにより臭気を発生する成分が含有されることを特徴とする水素燃料車両。
【請求項2】
請求項1記載の水素燃料車両において、前記機器は、燃料電池スタック、前記燃料電池スタックに前記水素を供給する水素供給系機器又は該燃料電池スタックから前記水素を排出する水素排出系機器を有することを特徴とする水素燃料車両。
【請求項3】
請求項1又は2記載の水素燃料車両において、前記シール部材は、前記フロアパネルを構成する複数のパネル同士の接続部位を封止するシーラントであることを特徴とする水素燃料車両。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−150077(P2012−150077A)
【公開日】平成24年8月9日(2012.8.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−10634(P2011−10634)
【出願日】平成23年1月21日(2011.1.21)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】