説明

水素貯蔵タンクおよびその製造方法

【課題】 一体成型の金属製ライナー内に水素吸蔵物質を充填したカートリッジを収容した水素貯蔵タンクにおいて、疲労破壊が発生しにくく、安全で信頼性の高い形状の水素貯蔵タンクを提供する。
【解決手段】 カートリッジ10はカートリッジ本体部11、固定側軸部13、自由側軸部12からなり、ライナー20はライナー胴部21、ドーム状部24を介して固定側開口25aが形成される固定側端部25、ドーム状部22を介して自由側軸部12aを支持するための保持プラグ30を支持する自由側開口23aが形成される自由側端部23が継ぎ目なく一体成型され、固定側開口25aは固定側軸部13を固定支持し、封止プラグ40で封止し、自由側開口23aは保持プラグ30で封止し、自由側軸部12は軸線方向に前後移動できるように保持プラグ30に形成された凹部31で緩挿支持する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、主として自動車用水素燃料タンク等に使用される水素貯蔵タンクに関し、さらに詳細には水素吸蔵物質が充填されたカートリッジがタンク内に収容されるハイブリッド型の水素貯蔵タンクに関する。
【0002】
近年の地球温暖化に伴い、車両から排出される二酸化炭素が問題となっており、二酸化炭素排出量を低減することに努力が払われている。燃料電池自動車は、水素と酸素との電気化学的反応により発生した電力をエネルギー源として使用するものであり、反応過程で二酸化炭素が発生しないことから、次世代の自動車として開発が行われている。燃料電池自動車では、燃料となる水素の供給源として、水素貯蔵タンクを搭載する。水素貯蔵タンクは安全であることが重要であるととともに、一個の水素貯蔵タンクの占有容積はできるだけ小さく、それでいて充填される水素量が大きいことが求められている。このような要求を満たすための水素貯蔵タンクとして、水素吸蔵合金を内蔵した水素貯蔵タンクの開発が行われている。
【0003】
例えば、円筒容器内に水素吸蔵合金が充填され、円筒容器の端部の開口がフランジで止めつけられた水素貯蔵タンクが開示されている(特許文献1)。
この場合、水素ガスの充填圧を高くするほど大量の水素を貯蔵できることになるが、高圧下では、大径のフランジ部による気密性だけでは十分ではないため、リークする可能性がある。
【0004】
また、ライナーを分割式にして、金属容器に水素吸蔵合金を充填した水素吸蔵用ユニットが挿入可能な寸法の開口部を設け、さらに分割部分のシール性を確保するように工夫がなされた圧力容器が開示されている(特許文献2参照)。この場合は、分割部分の径を小さくするほど、容器内圧力により分割部分にかかる力を小さくできるのでシール性を向上させることが容易になるが、分割部分の径は水素吸蔵ユニットの外径より小さくはできないため、やはり一定以上の高圧になるとシール材等の耐圧限度を超えリークする可能性が高まる。
さらに、分割式のライナーは、たとえシール性が確保できたとしても、シール部がない一体成型のライナーに比べると、シール部分からのリークに注意を払わなければならないことから、できれば一体成型のライナーを用いることが望ましい。
【0005】
これに対し、外壁材内(タンク容器)に水素吸蔵合金が充填された充填部(熱交換器)を収納した後に、外壁材の開口部を絞り加工するガス貯蔵タンクの製造方法を採用することにより、充填部を外壁材の内空間に収納する際に、収納の動作に支障がないように外壁材開口部の大きさを大きくするとともに、ガスを貯蔵する際には、内部のガス圧に耐えつつタンクの気密性を確保することが容易となるように、外壁材の開口部(接続口)の大きさを充分に小さくした水素貯蔵タンクが開示されている(特許文献3参照)。
【0006】
この文献によれば、一体成型による金属製タンクが以下の方法で製造される。すなわち、タンク容器となる円柱形状のアルミ合金(加工前タンク容器)を用意し、この円柱内部に水素吸蔵合金が充填された熱交換器を収納する。このとき、アルミ合金(加工前タンク容器)と熱交換器との間に支持材を配設し、熱交換器の重量が支持材を介してアルミ合金(加工前タンク容器)に支えられるようにする。
そして、アルミ合金(加工前タンク容器)の両端に対して絞り加工(口絞り加工)を施し、両端部の開口部を小さくして、接続口と成す。これにより両端に小さな接続口(開口)が形成されたタンク容器の形状となる。
その後、タンク容器に対して、熱処理(加熱と冷却)を施し、アルミ合金の疲労強度を向上させる処理を行う。すなわち、水素吸蔵合金への水素充填、水素放出を繰り返すことによって内部圧力が昇降するので、タンク容器の膨張、収縮が発生し、次第に金属疲労が増大するようになるので、熱処理により耐疲労性を高めるようにする。熱処理後に、タンク容器の外周に補強層を形成して水素貯蔵タンクを完成する。
以上の手順により製造された水素貯蔵タンクは、軽量で耐疲労性が強く、しかも35MPa以上の圧力の水素を貯蔵することができ、水素貯蔵容器として優れたものが形成できることが開示されている。
【特許文献1】特開2000−55300号公報
【特許文献2】特開2004−270861号公報
【特許文献3】特開2004−286177号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献3に開示されたような、予め水素吸蔵合金が充填された充填部(カートリッジ)を大きな開口を有する筒状金属の筒内空間に配置し、その後に、筒状金属の両側開口部分を絞り加工して、充填部(カートリッジ)の外径より小さな接続口にする方法で製造されるタンク容器(ライナー)は、耐圧性に優れており、高圧水素貯蔵用タンクに使用するライナーとして信頼性が高い。しかしながら、改良すべき構造上あるいは製造工程上の問題がある。
【0008】
すなわち、この製造方法によれば充填部(カートリッジ)は、タンク容器(ライナー)と充填部(カートリッジ)との間に配設された支持材により支持される。したがって、タンク容器(ライナー)内面は支持材と接触して充填部(カートリッジ)の荷重を支えており、衝撃や熱膨張による支持材の摩擦等で容器内面に傷が生じやすい。水素ガスの充填・放出によりタンク容器は膨張・収縮を繰り返すため、タンク容器には疲労が増大していくが、タンク容器内面に傷が生じると、そこから疲労破壊が発生しやすくなる。そのため、タンク容器の内面は、非接触な状態に維持することが望ましい。また、タンク容器の内面で支持材が接触する場合には、安全上、支持材との接触部分に傷が発生していないかの検査工程が必要になる。
【0009】
さらに、支持材と接触するタンク容器の部分(ライナーの胴部分)は、タンク容器両端の接続口(開口)近傍に比べると肉厚が薄く、熱処理時の加熱に弱い。そのため充填部(カートリッジ)の荷重を支えた状態で熱処理が行われると、支持材を介して力が加わった部分が変形してしまうおそれがある。
【0010】
そこで、本発明は、継ぎ目のない一体成型された金属製ライナー内に水素吸蔵物質を充填したカートリッジ(充填部)を収容した構造の水素貯蔵タンクにおいて、疲労破壊が発生しにくく、安全で信頼性の高い形状の水素貯蔵タンクを提供することを目的とする。
【0011】
また、本発明は製造方法を工夫することにより、金属ライナーの胴部分の内面が非接触な状態に維持することにより内面の傷検査が不要な構造の水素貯蔵タンクを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記課題を解決するためになされた本発明の水素貯蔵タンクは、水素吸蔵物質が充填されたカートリッジが金属製ライナー内に収容された水素貯蔵タンクであって、カートリッジは水素吸蔵物質が充填される筒状のカートリッジ本体部と、カートリッジ本体部の軸線に沿って一端側に設けられる固定側軸部と、カートリッジ本体部の軸線に沿って他端側に設けられる自由側軸部とからなり、ライナーはカートリッジ本体部を収容するための空間を有するライナー胴部と、ライナー胴部の一端側にドーム状部を介して突設され、カートリッジの固定側軸部を支持するための固定側開口が形成される固定側端部と、ライナー胴部の他端側にドーム状部を介して突設され、カートリッジの自由側軸部を支持するための保持プラグの外周を支持する自由側開口が形成される自由側端部とが継ぎ目なく一体成型され、ライナーの固定側開口はカートリッジの固定側軸部を固定支持するとともに封止プラグにより封止され、ライナーの自由側開口は保持プラグで封止され、カートリッジの自由側軸部は軸線方向に前後移動できるように保持プラグに形成された凹部に緩挿支持され、保持プラグには凹部と外部とを連通する保持プラグ流路が形成され、カートリッジには自由側軸部を貫通してカートリッジ本体部と連通するカートリッジ流路が形成されるようにしている。
【0013】
ここで、「水素吸蔵物質」は水素吸蔵合金が代表例であるが、例えばカーボンナノチューブのような水素を吸蔵する性質を有する物質であってもよい。
「ドーム状部」とは、径が大きいライナー胴部から径が小さい自由側端部または固定側端部に径を変化させるために絞り込んだ領域をいう。椀状、楕円状、半球状等が代表的な形状であるが、特に限定されない。
ライナーが「継ぎ目なく一体成型され」とは、ガスケット等のシール材で接続されたり、溶接部で接続されたりすることなく、一個の金属素材からライナー全体が形成されることをいう。
【0014】
本発明によれば、水素貯蔵タンクは、筒状のカートリッジ本体部に水素吸蔵物質が充填される。カートリッジ本体部の一端に突設された固定側軸部は、固定側軸部の周囲がライナーの固定側開口に固定されるようにして支持される。一方、カートリッジ本体部の他端に突設された自由側軸部は、保持プラグの凹部に緩挿され、保持プラグはその外周がライナーの自由側開口に支持される。これにより、カートリッジが熱の影響で膨張・収縮するときに、自由側軸部が保持プラグの凹部内で軸線方向に前後移動することで、膨張・収縮によるカートリッジの変形が生じても、カートリッジを両側で安定に支持されるようにする。
ライナーは、ライナー胴部、自由側端部、固定側端部、ライナー胴部と自由側端部との間のドーム状部、ライナー胴部と固定側端部との間のドーム状部からなるライナー全体が継ぎ目のないように、1つの金属素材から一体成型する。そしてカートリッジは、ライナーの自由側端部、固定側端部のみで支持されるようにし、ライナー胴部内面は非接触に維持するようにして、ライナーが一体成型された後に、ライナー胴部内面に接触による傷が生じない構造にして、胴部内面の検査が必要ないようにする。
そして、自由側開口を保持プラグで封止し、固定側開口を封止プラグで封止する。また、保持プラグに凹部と外部とを連通する保持プラグ流路を形成し、カートリッジに自由側軸部を貫通してカートリッジ本体部と連通するカートリッジ流路を形成し、これらの流路を利用して、水素貯蔵タンク製造の際に水素吸蔵物質をカートリッジ内に充填したり、水素貯蔵タンクを使用する際に水素ガスを充填したり放出したりする。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、継ぎ目のない一体成型された金属製ライナー内に水素吸蔵物質を充填したカートリッジを収容することができ、しかも金属製ライナー胴部は非接触に維持できるので、疲労破壊が発生しにくく、安全で信頼性の高い形状の水素貯蔵タンクにすることができる。
また、一体成型した金属ライナー内面を非接触に維持できることにより、ライナー完成後には実際上困難なライナー胴部内面の検査を行う必要がなくなる。
さらに、カートリッジを両端で支持する構造なので、バランスよく支持することができる。しかも保持プラグの凹部により、カートリッジの熱膨張・熱収縮、あるいは加圧時に発生する前後移動を吸収するようにしているので、熱歪等による不具合を防ぐことができる。
さらに、ライナー内にカートリッジを収容した構造の水素貯蔵タンクが完成してから、保持プラグ流路およびカートリッジ流路を介して水素吸蔵物質をカートリッジ内に充填することができるので、タンク製造工程中(例えば熱処理工程中)に、水素吸蔵物質が水分に触れないように注意する必要がなくなる。
【0016】
(他の課題を解決するための手段および効果)
上記発明において、ライナーはアルミ合金で形成され、ライナーの外側に繊維強化樹脂層が形成されるようにしてもよい。
ライナーにアルミ合金を使用することにより、容器の軽量化が図れ、また、ライナーの外側に繊維強化樹脂を形成することにより、強度を補強することができ安全性、信頼性を高めることができる。
【0017】
また、別の観点からなされた本発明の水素貯蔵タンク製造方法は、水素吸蔵物質充填用のカートリッジが継ぎ目のない一体成型の金属ライナー内に収容された構造の水素貯蔵タンクの製造方法であって、(a)筒状のカートリッジ本体部、カートリッジ本体部の軸線に沿って一端側に形成される固定側軸部、カートリッジ本体部の軸線に沿って他端側に形成される自由側軸部とからなるカートリッジと、カートリッジ本体部が収容可能なライナー胴部の一端側にドーム状部を介して自由側開口を有する自由側端部が一体成型された片側加工ライナーとを用意する主要部品形成工程と、(b)自由側開口で支持される仮保持プラグを自由側開口に挿入してカートリッジの自由側軸部を仮保持プラグで支持するとともに、カートリッジの固定側軸部を支持してカートリッジを両端で支持し、さらに片側加工ライナーのライナー胴部の外周面を支持した上で、片側加工ライナーの自由側端部が形成された側と反対側のライナー胴部に絞り加工を施すことによりドーム状部を形成するとともにカートリッジの固定側軸部を支持するための固定側開口が形成される固定側端部をドーム状部から突設するように形成して両側加工ライナーに成型するスピニング工程と、(c)カートリッジが収容された両側加工ライナーに熱処理を行う熱処理工程と、(d)カートリッジの自由側軸部を軸線方向に移動可能に緩挿するための凹部を有する保持プラグで自由側軸部を支持した上で自由側端部を封止するとともに、固定側端部を封止する封止工程と、(e)保持プラグに形成された貫通孔および自由側軸部に形成された貫通孔を介して、カートリッジ内に水素吸蔵物質を充填する充填工程とを備えるようにしている。
【0018】
この発明によれば、片側加工ライナーの自由側端部に、仮保持プラグを挿入してカートリッジの自由側軸部を支持し、さらにカートリッジの固定側軸部を支持して、これによりカートリッジを両端で支持する。さらに、片側加工ライナーのライナー胴部の外周面を支持する。この状態で、片側加工ライナーの未加工側のライナー胴部に絞り加工を施してドーム状部を形成し、さらにドーム状部に続いて、固定側開口が形成される固定側端部を形成する。
続いて、熱処理を行う。この熱処理(加熱と水冷)により、金属の耐疲労性が改善される。
続いて、仮保持プラグを外し、凹部を有する保持プラグを用いて、その凹部に自由側軸部を緩挿支持させる。また、固定側開口は封止プラグで封止する。
続いて、保持プラグに形成された貫通孔(保持プラグ流路)および自由側軸部に形成された貫通孔(カートリッジ流路)を介して、カートリッジ内に水素吸蔵物質を充填する。
以上の工程により、継ぎ目のない一体成型された金属製ライナー内に水素吸蔵物質を充填したカートリッジを収容した構造で、しかも金属製ライナー胴部を非接触に維持するようにした構造の、安全で信頼性の高い形状の水素貯蔵タンクを製造することができる。
【0019】
上記製造方法の発明において、(b)のスピニング工程でのカートリッジの支持は、仮保持プラグを自由側開口の外側から自由側端部に挿入し、カートリッジの自由側軸部が仮保持プラグに形成された凹部に緩挿支持されるようにし、さらに仮支持ロッドでカートリッジの固定側軸部を軸線方向に押圧してカートリッジを両端で支持するようにしてもよい。
これにより、スピニング工程の際に、カートリッジとライナーとを容易に支持することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
(水素貯蔵タンクの構造)
以下、本発明の水素貯蔵タンクの構造について図面を用いて説明する。図1は本発明の一実施形態である水素貯蔵タンクの断面図である(ただし、カートリッジ部分については断面図ではなく一部破断の正面図として記載している)。
【0021】
この水素貯蔵タンク1は、主にカートリッジ10と、ライナー20と、保持プラグ30と、封止プラグ40とから構成される。
カートリッジ10は、円筒状の本体部11と、本体部11の一端側において軸線方向に沿って突設される自由側軸部12と、本体部11の他端側において軸線方向に沿って突設される固定側軸部13とからなる。本体部11は中空であり、内部に水素吸蔵合金が充填されるようにしてある。また、本体部11の外周(あるいは内部)には、水素吸蔵合金を(水素吸蔵時に)冷却したり(水素放出時に)加熱したりするための熱交換用流路配管14が形成されている。また、自由側軸部12には軸線方向に沿ってカートリッジ流路12aとなる貫通孔が形成してあり、水素吸蔵合金を充填したり、水素ガスを吸蔵・放出したりする際の流路として用いられる。また、固定側軸部13には、軸線方向に沿って流体供給用流路13aが形成してあり、本体部11の熱交換用流路配管14、および、後述する封止プラグ40の流体供給用流路42(往復)に接続されることにより冷媒あるいは熱媒が流通されるようにしてある。
【0022】
ライナー20は、内部にカートリッジの本体部11を収容するライナー胴部21と、自由側軸部12a近傍に形成されるドーム状部22と、ドーム状部22から突設し、自由側開口23aを有する自由側端部23と、固定側軸部近傍に形成されるドーム状部24と、ドーム状部24から突設し、固定側開口25aを有する固定側端部25からなる。ライナー20にはアルミ合金が用いられ、後述する製造方法によりライナー全体が1個の金属素材で一体成型されている。
ライナー胴部21の内径は、カートリッジの本体部11が接触しない寸法にしてある。自由側開口23aは、保持プラグ30が挿入された状態で螺合するためのネジ溝が螺刻されている。固定側開口25aは、カートリッジの固定側軸部13が「焼きばめ」により固定支持されるとともに、封止プラグ40の固定に用いるネジ溝が螺刻されている。
さらにライナー20の外面には、炭素繊維等が含まれる繊維強化樹脂層26が形成され、ライナーの強度を補強して、耐圧性能を向上させるようにしてある。
【0023】
保持プラグ30は、外側から自由側開口23aに挿入され、自由側端部23に螺合される。自由側端部23と保持プラグ30との間には、図示しないガスケットが取り付けてあるので、これにより封止される。
保持プラグ30のうち、ライナー内に挿入される側の端面には軸線に沿って凹部31が形成してある。この凹部31は、カートリッジの自由側軸部12が緩挿支持できる内径寸法にしてあり、凹部31の奥行き寸法は自由側軸部12が熱膨張により前進してきたときにも凹部31の底面に当接しない寸法にしてあり、カートリッジとライナーが相対的に前後に移動できるようにしてある。また、保持プラグ30の中心軸に沿って保持プラグ流路32が形成され、外部と凹部31とが連通するようにしてある。さらに凹部31の側面に貫通孔が形成され、ライナー内との通気性が十分に確保されるようにしてある。
【0024】
封止プラグ40は、固定側開口25aにおいて、固定側軸部13aの外側で螺合される。固定側端部25と封止プラグ40との間には、環状部材41が螺合により固定側端部25に取り付けてあり、環状部材41の内周面および外周面に図示しないガスケットを取り付けることにより封止される。封止プラグ40には、軸方向に貫通する流体供給流路42が形成され、既述のように、固定側軸部13に形成された流体供給流路13aを経てカートリッジの本体部11の熱交換用流路配管に冷媒、熱媒が供給されるようにしてある。環状部材41を用いているのは、ライナー20の内空間と外部とを封止するとともに、流体供給流路13aとライナー20の内空間とを封止するためである。
【0025】
なお、カートリッジの固定側軸部13とライナーの固定側端部25とが焼きばめで固定されており、焼きばめされた部分も密接しているので封止されているが、高圧条件下(35MPa〜70MPa)で完全な封止が保証されるように、別途に封止プラグ40を設けて二重に封止している。封止プラグの形状や開口と封止プラグとの封止構造は、信頼性の高い封止ができるのであればどのような封止であってもよい。
【0026】
(水素貯蔵タンクの製造方法)
次に、水素貯蔵タンク1の製造方法について説明する。図2は水素貯蔵タンク1の製造工程を説明するフローチャートである。また、図3は片側加工ライナーを形成する工程を説明する模式図、図4は両側加工ライナーを形成する工程を説明する模式図である。
【0027】
(a)主要部品形成工程
最初にカートリッジ10と、ライナー20を途中まで加工した片側加工ライナー20’とを用意する。カートリッジ10は、切削加工や溶接等の一般的な機械加工で形成できるので説明を省略する。片側加工ライナー20’は、図3に示すように、アルミ合金の長尺円筒パイプAから必要な長さを切り出し、短筒状ブランク材Bを形成する(パイプカット工程、図3(a))。
続いて、短筒状ブランク材Bを図示しないマンドレルに外嵌合して取り付け、成型ローラもしくはリング状の金型で短筒状ブランク材Bの外周面を圧接させることで、短筒状ブランク材Bの外周面をしごく。これによりライナー胴部21が形成された長筒状ブランク材Cを形成する(胴部冷間加工工程、図3(b))。なお、形成されたライナー胴部21の内面傷の検査をこの時点で行い、以後、ライナー胴部21は非接触に維持することで、内面検査を行う必要がないようにする。
【0028】
続いて、長筒状ブランク材Cの外周面を図示しないチャック装置で保持して回転させ、成型ローラを片側開口端近傍から開口端にかけて、口絞りを行い、ドーム状部22および自由側端部23を形成する。以上の工程により片側加工ライナー20’が形成される(片側スピニング工程、図3(c))。
【0029】
(b)スピニング工程
続いて、カートリッジ10をライナー胴部21の内側にセットした状態で片側加工ライナー20’の残りの端面を加工して、ライナー20(両側加工ライナー)を形成する。
片側加工ライナー20’の自由側端部23に、ライナー外側から仮保持プラグ50を挿入する。自由側端部23には、予めネジ溝が刻まれてあり、仮保持プラグ50が螺合され支持される。片側加工ライナー20’のライナー胴部21の外周面を、チャック装置60で保持する。自由側軸部12を先頭にして、ライナー胴部21内にカートリッジ10を挿入し、自由側軸部12を仮保持プラグ50の凹部51に緩挿する。一方、固定側軸部13を仮支持ロッド51とプレス装置61で押圧し、カートリッジ10を両端で支持する(図4(a))。
片側加工ライナー20’とカートリッジ10とが支持された状態で、成型ローラ62により、ライナー胴部21の加工されていない側の端部を絞り、ドーム状部24および固定側端部25を形成される(スピニング工程、図4(b))。これにより、固定側端部25では固定側軸部13が密接するようになり、ライナー20(両側加工ライナー)の外形ができ上がる。
【0030】
(c)熱処理工程
仮保持プラグ50を付けた状態で、加熱し、その後、急冷することにより、アルミ合金の耐疲労強度を向上させる。
【0031】
(d)封止工程
仮保持プラグ50を取り外し、保持プラグ30を螺合して取り付ける。このとき保持プラグ30に図示しないガスケットを取り付けて封止する。
また、固定側軸部25の外側に、環状部材41を取付け、封止プラグ40を螺合して取り付ける。このとき環状部材の内周面、外周面に図示しないガスケットを取り付けて封止する(図1参照)。
【0032】
(e)水素吸蔵合金充填工程
保持プラグ30に形成された保持プラグ流路32、カートリッジの軸部12に形成されたカートリッジ流路12aを介してカートリッジの本体部11に水素吸蔵合金を充填する。
【0033】
以上の工程により、カートリッジ10が両端のみで支持される水素貯蔵タンク1が製造できる。
【産業上の利用可能性】
【0034】
本発明は、自動車用水素燃料タンクとして利用することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【図1】本発明の一実施形態である水素貯蔵タンクの断面図。
【図2】図1の水素貯蔵タンクの製造工程を説明する図。
【図3】半加工ライナーを形成する工程を説明する模式図。
【図4】半加工ライナーから両側加工ライナーを形成する状態を説明する模式図。
【符号の説明】
【0036】
1 水素貯蔵タンク
10 カートリッジ
11 本体部
12 自由側軸部
12a カートリッジ流路
13 固定側軸部
13a 流体供給流路
20 ライナー(両側加工ライナー)
20’半加工ライナー
21 ライナー胴部
22、24 ドーム状部
23 自由側端部
23a 自由側開口
25 固定側端部
25a 固定側開口
30 保持プラグ
31 凹部
32 保持プラグ流路
40 封止プラグ
41 環状部材
42 流体供給流路
50 仮保持プラグ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
水素吸蔵物質が充填されたカートリッジが金属製ライナー内に収容された水素貯蔵タンクであって、
カートリッジは水素吸蔵物質が充填される筒状のカートリッジ本体部と、カートリッジ本体部の軸線に沿って一端側に設けられる固定側軸部と、カートリッジ本体部の軸線に沿って他端側に設けられる自由側軸部とからなり、
ライナーはカートリッジ本体部を収容するための空間を有するライナー胴部と、ライナー胴部の一端側にドーム状部を介して突設され、カートリッジの固定側軸部を支持するための固定側開口が形成される固定側端部と、ライナー胴部の他端側にドーム状部を介して突設され、カートリッジの自由側軸部を支持するための保持プラグの外周を支持する自由側開口が形成される自由側端部とが継ぎ目なく一体成型され、
ライナーの固定側開口はカートリッジの固定側軸部を固定支持するとともに封止プラグにより封止され、
ライナーの自由側開口は保持プラグで封止され、
カートリッジの自由側軸部は軸線方向に前後移動できるように保持プラグに形成された凹部に緩挿支持され、
保持プラグには凹部と外部とを連通する保持プラグ流路が形成され、
カートリッジには自由側軸部を貫通してカートリッジ本体部と連通するカートリッジ流路が形成されることを特徴とする水素貯蔵タンク。
【請求項2】
ライナーはアルミ合金で形成され、ライナーの外側に繊維強化樹脂層が形成されることを特徴とする請求項1に記載の水素貯蔵タンク。
【請求項3】
水素吸蔵物質充填用のカートリッジが継ぎ目のない一体成型の金属ライナー内に収容された構造の水素貯蔵タンクの製造方法であって、
(a)筒状のカートリッジ本体部、カートリッジ本体部の軸線に沿って一端側に形成される固定側軸部、カートリッジ本体部の軸線に沿って他端側に形成される自由側軸部とからなるカートリッジと、
カートリッジ本体部が収容可能なライナー胴部の一端側にドーム状部を介して自由側開口を有する自由側端部が一体成型された片側加工ライナーとを用意する主要部品形成工程と、
(b)自由側開口で支持される仮保持プラグを自由側開口に挿入してカートリッジの自由側軸部を仮保持プラグで支持するとともに、カートリッジの固定側軸部を支持してカートリッジを両端で支持し、さらに片側加工ライナーのライナー胴部の外周面を支持した上で、片側加工ライナーの自由側端部が形成された側と反対側のライナー胴部に絞り加工を施すことによりドーム状部を形成するとともにカートリッジの固定側軸部を支持するための固定側開口が形成される固定側端部をドーム状部から突設するように形成して両側加工ライナーに成型するスピニング工程と、
(c)カートリッジが収容された両側加工ライナーに熱処理を行う熱処理工程と、
(d)カートリッジの自由側軸部を軸線方向に移動可能に緩挿するための凹部を有する保持プラグで自由側軸部を支持した上で自由側端部を封止するとともに、固定側端部を封止する封止工程と、
(e)保持プラグに形成された貫通孔および自由側軸部に形成された貫通孔を介して、カートリッジ内に水素吸蔵物質を充填する充填工程とを備えたことを特徴とする水素貯蔵タンクの製造方法。
【請求項4】
(b)のスピニング工程でのカートリッジの支持は、仮保持プラグを自由側開口の外側から自由側端部に挿入し、カートリッジの自由側軸部が仮保持プラグに形成された凹部に緩挿支持されるようにし、さらに仮支持ロッドでカートリッジの固定側軸部を軸線方向に押圧してカートリッジを両端で支持することを特徴とする請求項3に記載の水素貯蔵タンクの製造方法。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2008−151206(P2008−151206A)
【公開日】平成20年7月3日(2008.7.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−338319(P2006−338319)
【出願日】平成18年12月15日(2006.12.15)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 1.刊行物に発表 発行者名 財団法人日本自動車研究所 刊行物名 「自動車研究」 巻数、号数 第28巻第7号 発行年月日 平成18年 7月 1日 2.電気通信回線を通じて発表 掲載年月日 平成18年 6月16日 掲載アドレス 「平成17年度中間年報 水素安全利用等基盤技術開発 車両関連機器に関する研究開発 水素吸蔵合金と超高圧容器を組み合わせたハイブリッド貯蔵タンクの研究開発2(H17−H19)」 http://www.tech.nedo.go.jp/servlet/TopPageServlet?KENSAKU=HOKOKUSYO&kensakuHoho=Barcode_Kensaku&db=n&SERCHBARCODE=100007539
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成18年度、独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構委託研究「水素安全利用等基盤技術開発 車両関連機器に関する研究開発 水素吸蔵合金と超高圧容器を組み合わせたハイブリッド貯蔵タンクの研究開発」 産業活力再生特別措置法第30条の適用を受ける特許出願
【出願人】(593166462)サムテック株式会社 (12)
【出願人】(000231372)日本重化学工業株式会社 (14)
【出願人】(591056927)財団法人日本自動車研究所 (26)
【Fターム(参考)】