説明

永久磁石式同期電動機の速度制御装置、エレベータのドア制御装置およびエレベータのドア制御方法

【課題】ドアモータ(永久磁石式同期電動機)の速度検出用ロータリーエンコーダからの速度パルスの異常時でも、ドア開閉制御を可能にする。
【解決手段】ドアモータの速度検出用ロータリーエンコーダ3からの速度パルスφA,φBの異常時、永久磁石式同期電動機2の磁極位置を検出する磁極位置パルスφU,φV,φWを用いてドア速度を演算することで、ドアモータである永久磁石式同期電動機2を速度制御し、ドアの開閉制御を継続する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、永久磁石式同期電動機の速度制御装置、エレベータ等のドア制御装置およびエレベータのドア制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
エレベータのドア制御において、ドア速度検出が不能となった場合、異常な開閉速度による乗客の安全性を考え、ドア駆動を禁止することが望ましい。しかし、このために、エレベータ内に乗客が残っている場合には、閉じ込めとなる危険性がある。
【0003】
一方、特許文献1には、速度検出器の故障を検出した場合、閉じ込めを回避するため、予め、ROMに格納されている低速度指令および低トルク指令データを読み出すことで、ドアモータを、低速度および低トルクで駆動することが開示されている。
【0004】
【特許文献1】特開平5−147874号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1では、ドア速度検出が不能となっている場合、単に一定の低トルク指令を与えようとしても、磁極位置の検出を必要とする永久磁石式同期電動機の場合は実現が困難であった。
【0006】
本発明の目的は、通常のドア速度パルスが得られない場合にも、永久磁石式同期電動機の速度制御を継続できる永久磁石式同期電動機の速度制御装置を提供することである。
【0007】
また、本発明の他の目的は、永久磁石式同期電動機を駆動源とするドア制御装置において、通常のドア速度パルスが得られない場合にも、ドア開閉を制御して、安全性を確保することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の望ましい実施態様においては、通常の速度パルスに基づく速度検出が不能となっている場合に、磁極位置検出パルスを使用して永久磁石式同期電動機の速度を検出し、その速度制御を継続する。
【0009】
本発明の望ましい実施態様においては、永久磁石式同期電動機によって駆動されるドアと、前記永久磁石式同期電動機に連結され回転角度に応じた第1のパルス列と3相の磁極位置に応じた第2のパルス列とを出力するロータリーエンコーダと、速度指令発生部と、第1のパルス列に基づいて電動機の回転速度を演算する速度演算部と、速度指令と回転速度との偏差に応じたトルク指令に基く電圧を持つとともに、第2のパルス列に基づく位相を持つ3相交流を、永久磁石式同期電動機に供給する電力変換器とを備えたドア制御装置において、ロータリーエンコーダからの第1のパルス列に基づく電動機の回転速度信号が得られなくなったとき、第2のパルス列に基き速度制御系に用いる永久磁石式同期電動機の回転速度を演算する手段を備える。
【0010】
本発明の望ましい一実施形態においては、ロータリーエンコーダからの第1のパルス列に基づく電動機の回転速度信号が得られなくなったとき、磁極位置を表わす第2のパルス列に基いて速度制御系によりドア制御を行ってドアが全開した後に、ドア制御を停止する制御停止手段を備える。
【発明の効果】
【0011】
本発明の望ましい実施態様によれば、速度検出器の故障時でも、永久磁石式同期電動機の制御に使用する磁極位置検出信号により電動機の速度を検出することで、その速度制御を継続させることができる。
【0012】
また、本発明の望ましい実施態様によれば、速度検出器の故障時にも、永久磁石式同期電動機で駆動されるドアの開閉は継続可能であるため、ドアを開くことができ、安全性を向上させることが可能である。
【0013】
本発明のその他の目的と特徴は、以下に述べる実施形態の中で明らかにする。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下に、本発明の実施形態を図面を参照して説明する。本発明の実施形態では、速度位置検出および磁極位置検出にはロータリーエンコーダを使用する。
【0015】
図1は、本発明の一実施形態によるエレベータドア制御装置のブロック構成図である。
【0016】
図1において、ドア装置1は、ドアモータ2としての永久磁石式同期電動機(PMSM)によって開閉駆動される。ドアモータ(PMSM)2を制御するため、ロータリーエンコーダ(RE)3が、ドアモータ2の回転軸に取付けられ、モータ回転速度すなわちドア速度と、モータの磁極位置とを検出している。
【0017】
ロータリーエンコーダ(RE)3の速度パルスφA,φBは、速度演算部4に入力され、ドア速度が演算される。一方、ロータリーエンコーダ(RE)3の磁極位置パルスφU,φV,φWは、磁極位置演算部5に入力され、磁極位置が演算される。このとき、後述する電圧指令Vの正確な位相を求めるために、比較的疎である磁極位置パルスφU,φV,φWを、比較的密である速度パルスφA,φBで補間している。
【0018】
本発明の一実施形態においては、速度パルスφA,φBが得られないとき、磁極位置演算部5は、磁極位置パルスφU,φV,φWから速度を演算する速度演算部として機能する。切り替えスイッチ6は、速度パルスφA,φBの正常時と異常時とで、速度演算値として、速度パルスφA,φBカラノ速度演算部4ノ出力ト、磁極位置パルスφU,φV,φWからの異常時の速度演算部5の出力とを切り替えて、速度帰還値ωdfを得る。
【0019】
速度制御部7は、ドア速度指令値ωdと速度帰還値ωdfとの偏差をゼロに近づけるようにトルク指令Tを出力する。電流制御部8は、前記トルク指令Tに応じた大きさと、前記磁極位置に応じた位相とを持つ電圧指令Vを出力する。電力変換器9は、この電圧指令Vに応じた可変電圧・可変周波数の三相交流電圧を発生し、ドアモータ2を可変速駆動する。
【0020】
図2は、ロータリーエンコーダ3の出力である速度パルスφA,φBと、磁極位置パルスφU,φV,φWの一例を示したものである。
【0021】
図では、分り易くするため、破線で示すように、速度パルスφA,φBの時間軸を相対的に拡大している。実際には、例えば、パルス周波数で、60倍程度の開きがある。
【0022】
したがって、速度パルスφA,φBから演算したドア速度は高精度である。また、磁極位置パルスφU,φV,φWから磁極位置を得て、高分解能の速度パルスφA,φBで補間した磁極位置位相もまた、高精度とすることができる。一方、この速度パルスφA,φBが得られない異常時の、磁極位置パルスφU,φV,φWからの速度演算値は、精度は高くないが、永久磁石式同期電動機(PMSM)2を運転するには十分である。
【0023】
図3は、本発明の一実施形態におけるドア速度演算値の時間変化を示すグラフである。正常時の速度パルスφA,φBを使用して検出したドア速度ωdf1と、速度パルスφA,φBが得られない故障時に、磁極位置パルスφU,φV,φWを使用して検出したドア速度ωdf2とを示している。
【0024】
正常時には、速度パルスφA,φBから演算したドア速度の帰還値ωdf1と、速度指令値ωdの偏差をとり、速度制御部7により、トルク指令Tを得る。一方、磁極位置パルスφU,φV,φWと、上記トルク指令Tとから、電流制御部8により電圧指令Vが得られ、ドアモータ(PMSM)2は制御される。
【0025】
しかし、速度パルスφA,φBが得られない場合、ドア速度の帰還値ωdf1が演算不能となるので、速度パルスφA,φBの代わりに磁極位置パルスφU,φV,φWを用いてドア速度帰還値ωdf2を演算する。この異常時のドア速度帰還値ωdf2は、図3に示すように、正常時、速度パルスφA,φBから演算したドア速度ωdf1に比べて、低分解能であるが、ドア速度の検出は可能で、ドアモータ(PMSM)2の駆動制御は可能である。
【0026】
図4は、本発明の一実施形態によるエレベータのドア制御装置における処理フローの例その1である。この図を参照して、エンコーダの速度パルスφA,φBが得られなくなった場合の動作を説明する。
【0027】
ステップS1において、速度パルスφA,φBに異常があるか否かを判断する。異常と判断された場合、ステップS2において、ドア制御を停止する。
【0028】
ステップS3では、磁極位置パルスφU,φV,φWは正常か否かを判断する。正常であると判断した場合には、ステップS4へ進み、速度パルスφA,φBから、磁極位置パルスφU,φV,φWからのドア速度演算に切り替える。次に、ステップS5では、ドア制御を開始する。ステップS6では、ドアを開放制御し、ステップS7でドアが開ききるまで継続する。そして、ステップS8で、以降のドア制御を停止する。
【0029】
一方、ステップS3で、エンコーダの磁極位置パルスφU,φV,φWも異常と判断した場合には、ステップS8へ進み、ドア制御を停止する。
【0030】
図5は、本発明の一実施形態によるエレベータのドア制御装置における処理フローの例その2である。図4の実施例においては、ステップS8で、以降のドア制御を停止したが、図5の実施例においては、ステップS9へ進み、ドア制御を継続する。この場合、ドアの開閉速度は、若干、滑らかさに欠けるものの、少なくとも保守員が到着するまで。エレベータを運休させることはない。
【0031】
図6は、本発明の一実施形態によるエレベータのドア制御装置における処理フローの例その3である。図6の実施例においては、一旦、ドア開完了後、ステップS10へ進み、エレベータ利用率を判定する。そして、エレベータ利用率が、所定の判定値を上回っているときだけ、ステップS9へ進み、ドア制御を継続する。
【0032】
図7は、本発明の一実施形態によるエレベータのドア制御装置における処理フローの例その4である。この実施例においては、図6でドア制御を停止した場合に、エレベータの管制センターへドアの異常によりエレベータを運休したことを通報し、保守員の出動を促す。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1】本発明の一実施形態によるエレベータドア制御装置のブロック構成図である。
【図2】ロータリーエンコーダ3の出力である速度パルスφA,φBと、磁極位置パルスφU,φV,φWの一例図である。
【図3】本発明の一実施形態におけるドア速度演算値の時間変化グラフである。
【図4】本発明の一実施形態によるエレベータのドア制御装置における処理フローの例その1である。
【図5】本発明の一実施形態によるエレベータのドア制御装置における処理フローの例その2である。
【図6】本発明の一実施形態によるエレベータのドア制御装置における処理フローの例その3である。
【図7】本発明の一実施形態によるエレベータのドア制御装置における処理フローの例その4である。
【符号の説明】
【0034】
1…ドア装置、2…ドアモータ(永久磁石式電動機PMSM)、3…ロータリーエンコーダ、φA,φB…速度パルス、φU,φV,φW…磁極位置パルス、4…速度演算部、5…磁極位置演算部、6…切り替えスイッチ、7…速度制御部、8…電流制御部、9…電力変換器。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
永久磁石式同期電動機と、この永久磁石式同期電動機に連結され回転角度に応じた第1のパルス列と3相の磁極位置に応じた第2のパルス列とを出力するロータリーエンコーダと、速度指令発生部と、前記第1のパルス列に基づいて前記電動機の回転速度を演算する速度演算部と、前記速度指令と前記回転速度との偏差に応じたトルク指令に基く電圧を持つとともに、前記第2のパルス列に基づく位相を持つ3相交流を、前記永久磁石式同期電動機に供給する電力変換器とを備えた永久磁石式同期電動機の速度制御装置において、
前記ロータリーエンコーダからの前記第1のパルス列に基づく前記電動機の回転速度信号が得られなくなったとき、前記第2のパルス列に基き前記速度制御系に用いる前記永久磁石式同期電動機の回転速度を演算する手段を備えたことを特徴とする永久磁石式同期電動機の速度制御装置。
【請求項2】
永久磁石式同期電動機によって駆動されるドアと、前記永久磁石式同期電動機に連結され回転角度に応じた第1のパルス列と3相の磁極位置に応じた第2のパルス列とを出力するロータリーエンコーダと、速度指令発生部と、前記第1のパルス列に基づいて前記電動機の回転速度を演算する速度演算部と、前記速度指令と前記回転速度との偏差に応じたトルク指令に基く電圧を持つとともに、前記第2のパルス列に基づく位相を持つ3相交流を、前記永久磁石式同期電動機に供給する電力変換器とを備えたドア制御装置において、
前記ロータリーエンコーダからの前記第1のパルス列に基づく前記電動機の回転速度信号が得られなくなったとき、前記第2のパルス列に基き前記速度制御系に用いる前記永久磁石式同期電動機の回転速度を演算する手段を備えたことを特徴とするドア制御装置。
【請求項3】
永久磁石式同期電動機によって駆動されるエレベータ用ドアと、前記永久磁石式同期電動機に連結され回転角度に応じた第1のパルス列と3相の磁極位置に応じた第2のパルス列とを出力するロータリーエンコーダと、速度指令発生部と、前記第1のパルス列に基づいて前記電動機の回転速度を演算する速度演算部と、前記速度指令と前記回転速度との偏差に応じたトルク指令に基く電圧を持つとともに、前記第2のパルス列に基づく位相を持つ3相交流を、前記永久磁石式同期電動機に供給する電力変換器とを備えたエレベータのドア制御装置において、
前記ロータリーエンコーダからの前記第1のパルス列に基づく前記電動機の回転速度信号が得られなくなったとき、前記第2のパルス列に基き前記速度制御系に用いる前記永久磁石式同期電動機の回転速度を演算する手段を備えたことを特徴とするエレベータのドア制御装置。
【請求項4】
請求項3において、前記ロータリーエンコーダからの前記第1のパルス列に基づく前記電動機の回転速度信号が得られなくなったとき、前記第2のパルス列に基いて前記速度制御系によりドア制御を行ってドアが全開した後に、ドア制御を停止する制御停止手段を備えたことを特徴とするエレベータのドア制御装置。
【請求項5】
請求項3または4において、前記前記第2のパルス列に基いて前記速度制御系によりドア制御を行ってドアが全開した後に、エレベータの利用状況が高いときはドア制御を継続し、利用状況が所定値まで低下したときにドア制御を停止する制御停止手段を備えたことを特徴とするエレベータのドア制御装置。
【請求項6】
請求項4または5において、ドア制御を停止するとき、エレベータの管制センターにドア制御の停止を知らせる通報手段を備えたことを特徴とするエレベータのドア制御装置。
【請求項7】
永久磁石式同期電動機によって駆動されるエレベータ用ドアと、前記永久磁石式同期電動機に連結され回転角度に応じた速度パルスと3相の磁極位置パルスを出力するロータリーエンコーダと、速度指令発生部と、前記速度パルスに基づいて前記電動機の回転速度を演算する速度演算部と、前記速度指令と前記回転速度との偏差に応じたトルク指令に基く電圧を持つとともに、前記磁極位置パルスに基づく位相を持つ3相交流を前記永久磁石式同期電動機に供給する電力変換器とを備えたエレベータのドア制御方法において、
前記ロータリーエンコーダからの前記速度パルスに基づく前記電動機の回転速度信号が得られなくなったとき、前記磁極位置パルスに基き前記速度制御系に用いる前記永久磁石式同期電動機の回転速度を演算することを特徴とするエレベータのドア制御方法。
【請求項8】
請求項5において、前記ロータリーエンコーダからの前記速度パルスに基づく前記電動機の回転速度信号が得られなくなったとき、前記磁極位置パルスに基いて前記速度制御系によりドア制御を行ってドアが全開した後に、ドア制御を停止することを特徴とするエレベータのドア制御方法。
【請求項9】
請求項8において、前記磁極位置パルスに基いて前記速度制御系によりドア制御を行ってドアが全開した後に、エレベータの利用状況が高いときはドア制御を継続し、利用状況が所定値まで低下したときにドア制御を停止することを特徴とするエレベータのドア制御方法。
【請求項10】
請求項8または9において、ドア制御を停止するとき、エレベータの管制センターにドア制御の停止を通報することを特徴とするエレベータのドア制御方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2009−137691(P2009−137691A)
【公開日】平成21年6月25日(2009.6.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−314585(P2007−314585)
【出願日】平成19年12月5日(2007.12.5)
【出願人】(000005108)株式会社日立製作所 (27,607)
【Fターム(参考)】