説明

永久磁石

【課題】 絶縁性の材料からなる被覆層が表面に形成された永久磁石粉末が緻密化されてなる永久磁石において、渦電流損失を充分に抑制し、かつ、絶縁性の材料による磁石特性の低下を防止しうる手段を提供する。
【解決手段】 絶縁性の材料からなる被覆層が表面に形成された永久磁石粉末が緻密化されてなる永久磁石であって、前記絶縁性の材料からなる被覆層の厚さt(m)と前記絶縁性の材料の体積抵抗率ρ(Ωm)との積を、前記永久磁石粉末の体積抵抗率ρ(Ωm)で除した値として定義される被覆抵抗H(=t×ρ÷ρ)と、前記永久磁石粉末の粒径d(mm)とが、H≧23000×d−1を満たすことを特徴とする、永久磁石である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、回転機器、電子部品、電子機器、モーター等に使用される永久磁石に関する。
【背景技術】
【0002】
永久磁石式回転機器には、電気抵抗値が高いフェライト永久磁石が主に使用されてきたが、近年の回転機の高性能化に伴い、より高性能な希土類永久磁石の使用頻度が増加している。
【0003】
しかし、希土類永久磁石は金属磁石であるために電気抵抗が低い。このため、回転機器等に組み込んだ場合、渦電流損失が増大し、モーター効率が低下する問題が生じる。また、温度上昇により磁石性能が低下するという問題がある。
【0004】
以上の点を鑑み、希土類磁石粉末を絶縁性の材料で被覆することによって、希土類永久磁石の比電気抵抗を増大させ、渦電流損失を低減させようとする試みがなされている。
【0005】
例えば、特許文献1には、ボンド磁石をゾルゲル法等により無機バインダで被覆し、その後に成形金型中で直接通電してフル密度磁石を得る方法が開示されている。
【0006】
また、特許文献2には、希土類磁石粉末と絶縁性の無機フッ化物または無機酸化物との混合物を、焼結等により緻密化して、希土類永久磁石を得る方法が開示されている。
【0007】
さらに、特許文献3には、希土類磁石粉末と、パラフィン系炭化水素等のバインダと、無機フッ化物等の絶縁物とを混合し、成形後に脱バインダを行うことにより緻密化して、希土類磁石を得る方法が開示されている。
【0008】
前記特許文献1〜3に記載の方法により製造された希土類永久磁石においては、いずれも、希土類磁石粉末が、絶縁性の材料により被覆されている。これにより、希土類永久磁石の電気抵抗が増大し、渦電流損失の低減が図られる。
【0009】
しかしながら、これらの方法を用いて得られる希土類永久磁石の比電気抵抗は、絶縁性の材料からなる被覆層の厚さや、希土類磁石粉末の粒径等に応じて変化しうる。このため、所望の比電気抵抗を有する磁石を製造することは困難であり、必ずしも充分に渦電流損失を低減させ得ない場合も生じていた。一方、充分な比電気抵抗を得る目的で、絶縁性の材料の使用量を増加させると、希土類磁石粉末の含有量が相対的に低下し、磁石特性が低下するという問題もあった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開平5−121220号公報
【特許文献2】特開平9−186010号公報
【特許文献3】特開平10−163055号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
そこで、本発明の目的は、絶縁性の材料からなる被覆層が表面に形成された永久磁石粉末が緻密化されてなる永久磁石において、渦電流損失を充分に抑制し、かつ、絶縁性の材料による磁石特性の低下を防止しうる手段を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明は、絶縁性の材料からなる被覆層が表面に形成された永久磁石粉末が緻密化されてなる永久磁石であって、前記絶縁性の材料からなる被覆層の厚さt(mm)と前記絶縁性の材料の体積抵抗率ρ(Ωm)との積を、前記永久磁石粉末の体積抵抗率ρ(Ωm)で除した値として定義される被覆抵抗H(=t×ρ÷ρ)と、前記永久磁石粉末の粒径d(mm)とが、H≧23000×d−1を満たすことを特徴とする、永久磁石である。
【発明の効果】
【0013】
本発明の永久磁石によれば、渦電流損失が充分に抑制され、かつ、絶縁性の材料による磁石特性の低下が防止され、高い磁石特性が維持される。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】横軸にH=t×ρ÷ρで表される被覆抵抗Hを、縦軸に相対発熱量をとり、作製した永久磁石の一部のデータをプロットしたグラフである。
【図2】横軸に磁石粉末の粒径d、縦軸に被覆抵抗Hをとり、作製した永久磁石の一部のデータをプロットしたグラフである。
【図3】横軸に磁石粉末の粒径d、縦軸に被覆抵抗Hをとり、本発明の永久磁石において磁石粉末の粒径dと被覆抵抗Hとが満たすことが好ましい関係に対応する領域を図示したグラフである。
【図4】横軸に磁石粉末の粒径d、縦軸に被覆層の厚さtをとり、作製した永久磁石の一部のデータをプロットしたグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
電磁気学の法則は、周期的磁場中におかれた磁石内に誘導される渦電流は、磁石の磁場方向に垂直な断面積が大きいほど、大きくなることを示している。したがって、磁石粉末を絶縁性の材料で被覆して渦電流を抑制する場合、渦電流を抑制する効果を高めるには、磁石粉末の粒径と、絶縁性の材料からなる被覆層(以下、単に「被覆層」とも称する)の厚さとが、所定の関係を満足することが必要であると予想される。
【0016】
本発明者らは、磁石粉末の粒径と被覆層の厚さとの関係が、被覆層の絶縁性に及ぼす影響について調査すべく、磁石粉末を、高分子化合物またはセラミックスにより被覆し、得られた粉末を緻密化させて、異なる厚さの被覆層を有する種々の磁石を作製した。そして、これらの磁石について、一定の周期的磁場中での発熱量を比較した。その結果、磁石粉末の粒径および被覆層の厚さと、被覆層の絶縁性との関係を見出し、本発明を完成するに至った。具体的には、絶縁性の材料からなる被覆層の厚さをt(mm)、絶縁性の材料の体積抵抗率をρ(Ωm)、永久磁石粉末の体積抵抗率をρ(Ωm)としたとき、H=t×ρ÷ρで表される被覆抵抗Hと、永久磁石粉末の粒径d(mm)とが、0.001≦d≦1の範囲において、H≧23000×d−1を満たすように、永久磁石を設計する。好ましくは、H≧61500×d−1.1を満たすように永久磁石を設計する。前記関係を満たすように永久磁石を設計することによって、絶縁性の材料により被覆された永久磁石粉末が緻密化されてなる永久磁石における渦電流損失が効果的に抑制される。
【0017】
本発明において、永久磁石粉末の粒径とは、永久磁石に含まれる永久磁石粉末の平均粒径をいう。なお、永久磁石粉末の粒径は、通常の測定手段によって測定すればよい。
【0018】
永久磁石粉末の粒径は、好ましくは0.001〜1mmであり、より好ましくは0.005〜0.7mmである。この粒径が小さすぎると、磁石の製造時に絶縁性の材料の体積率を制御することが困難となり、満足のいく磁化特性が得られない虞がある。一方、永久磁石粉末の粒径が大きすぎると、磁石の製造時に磁石粉末の緻密化が困難となる虞がある。
【0019】
また、永久磁石粉末の粒径d(mm)と、被覆層の厚さt(mm)とは、好ましくはt<0.16×d0.99、より好ましくはt≦0.1×d、さらに好ましくはt≦0.025×dを満足する。永久磁石粉末の粒径dと被覆層の厚さtとが、このような関係を満足することによって、磁石特性の低下を最小限にとどめることが可能である。
【0020】
以下、本発明の永久磁石について詳細に説明する。
【0021】
本発明の永久磁石は、永久磁石粉末からなる。永久磁石粉末とは、永久磁石を構成する磁石粉末であり、永久磁石粉末の表面には、絶縁性の材料により被覆されてなる被覆層が形成され、被覆層が形成された粉末は、種々の方法により緻密化され、永久磁石を構成する。
【0022】
永久磁石および永久磁石粉末の形状については、特に限定されない。永久磁石が適用される部位に応じて、永久磁石の形状は決定されればよい。例えば、自動車のモーターに適用される場合には、モーターの大きさや形状に合わせて、永久磁石の大きさや形状が決定されればよい。
【0023】
永久磁石の種類については、特に限定されず、各種金属磁石に適用可能であるが、好ましくは、本発明の永久磁石粉末は希土類磁石相を含有する。被覆層によって、多少は磁石の磁力が低下してしまうので、希土類磁石相のような磁力が強靭な磁石相を含有する磁石粉末を用いることによって、被覆層による磁石特性の低下を最小限に抑制することが可能である。ただし、磁力がそれほど求められない用途に用いる場合など、特別の理由が存在するのであれば、希土類磁石相を含有しない磁石粉末を用いてもよく、このような実施形態も本発明の技術的範囲に含まれうる。
【0024】
希土類磁石相としては、R−T−B系磁石相またはR−T磁石相(Rは、希土類元素であり、Tは、遷移金属元素である)が挙げられる。具体的には、Nd−Fe−B系磁石相、Sm−Co系磁石相が挙げられる。希土類磁石を構成する主要元素は、必要に応じて、他の元素によって置換されてもよい。例えば、Ndの一部は、Pr、Dy、Tbなどによって置換されてもよいし、Feの一部はCoによって置換されてもよい。
【0025】
これらの永久磁石粉末の中には、磁石性能を充分に確保するため、緻密化の工程で800℃以上の高温条件下で、液相を生成させる必要があるものもある。しかしながら、被覆層を構成する絶縁性の材料の種類によっては、液相との反応により絶縁特性が低下し、被覆層を設けることによる効果が低減してしまう虞がある。
【0026】
かような観点から、本発明に置いて、永久磁石粉末は、HDDR法により製造された磁石粉末(以下、「HDDR粉末」とも称する)であることが好ましい。HDDR粉末を用いると、緻密化の際の温度条件の制約が解除され、800℃未満の温度条件下においても、効率よく磁石粉末を緻密化させることが可能となる。なお、HDDR法とは、水素化−分解・脱水素−再結合(Hydrogenation−Decomposition・Desorption−Recombination)の工程を有する、磁石粉末の製造方法である。
【0027】
永久磁石の形状は、前述のように特に限定されないが、本発明においては、永久磁石粉末の粒径d(mm)および永久磁石粉末の体積抵抗率ρ(Ωm)が、前述の関係を満たすように設計される。
【0028】
永久磁石粉末の体積抵抗率ρ(Ωm)は、永久磁石粉末における電流の流れにくさを示す指標であり、単位断面積を持つ材料の電気抵抗値として定義される。体積抵抗率が高いほど絶縁性が高い。体積抵抗率は、JIS K6911などの公知の測定方法に準拠して測定されうる。特に限定されないが、永久磁石粉末の体積抵抗率ρは、通常は、0.5×10−4〜2.5×10−4μΩm程度である。
【0029】
永久磁石粉末を被覆するための被覆層を構成する絶縁性の材料としては、電気伝導性の低い、セラミックス、エポキシ樹脂やビニル樹脂などの高分子樹脂、無機化合物などが用いられうる。ただし、これらに限定されるわけではなく、永久磁石粉末間を絶縁可能であり、本発明において規定する条件を満足する材料であれば、他の材料が用いられてもよい。
【0030】
被覆層の形状は、特に限定されないが、少なくとも、異なる永久磁石粉末間には、被覆層が存在し、永久磁石粉末が被覆層によって絶縁される。本発明においては、被覆層の厚さt(mm)および被覆層の体積抵抗率ρ(Ωm)が、前述の規定を満たすように設計される。
【0031】
被覆層の厚さt(mm)は、使用する絶縁性の材料の質量を調節することによって制御可能である。被覆層の厚さtは、例えば、Fe等の磁石成分の欠乏層の厚さをEPMA(電子線マイクロアナライザ:Electron Probe X−ray Micro Analyzer)分析により解析することによって、測定されうる。被覆層の厚さtは、安定した絶縁性能を発現させるためには、均一であることが好ましいが、絶縁性能に影響が出ない程度であれば、多少の変化があってもよい。厚さtが不均一である場合には、被覆層の厚さtとして、平均値が採用される。平均値は、例えば、電子顕微鏡を用いて試料の10点の被覆層の厚さtをそれぞれ測定し、それらの平均を算出することによって求めてもよいし、用いる絶縁性の材料の質量から平均の厚さを算出してもよい。特に限定されないが、磁石粉末に対する被覆層の厚さtは、通常、10−5〜10−1mm程度である。
【0032】
被覆層の体積抵抗率ρ(Ωm)は、永久磁石粉末の体積抵抗率ρ(Ωm)と同様、被覆層における電流の流れにくさを示す指標であり、単位断面積を持つ材料の電気抵抗値として定義される。体積抵抗率は、JIS K6911などの公知の測定方法に準拠して測定されうる。特に限定されないが、絶縁膜の体積抵抗率ρは、通常は、10〜1015Ωm程度である。
【0033】
本発明の永久磁石において、絶縁性の材料により被覆された永久磁石粉末は、特に制限されず、従来公知の種々の方法により、緻密化される。磁石粉末を緻密化させるための方法としては、例えば、ホットプレス法、放電プラズマ焼結法、爆発圧搾法、および鍛造法が挙げられる。
【0034】
本発明の永久磁石の用途は、特に限定されないが、モーターに適用されうる。本発明の永久磁石は、渦電流の発生が抑制され、その上、高い磁石性能を有する。このため、本発明の永久磁石を用いて製造されたモーターを利用すれば、モーターの連続出力を高めることが容易に可能であり、中から大出力のモーターとして好適といえる。また、本発明の永久磁石を用いたモーターは、磁石特性が優れるため、製品の小型軽量化が図れる。例えば、自動車用部品に適用した場合には、車体の軽量化に伴う燃費の向上が可能である。さらに、特に電気自動車やハイブリッド電気自動車の駆動用モーターとしても有効である。これまではスペースの確保が困難であった場所にも駆動用モーターを搭載することが可能となり、電気自動車やハイブリッド自動車の汎用化に寄与すると考えられる。
【実施例】
【0035】
以下、永久磁石粉末としての、Nd−Fe−B系磁石粉末またはSm−Co系磁石粉末を、絶縁性の材料である高分子またはセラミックスによって被覆し、得られた粉末を、ホットプレス法、放電プラズマ焼結法、爆発圧搾法、または鍛造法のいずれかの方法によって緻密化させて得された永久磁石について、各パラメータと磁石特性との相関性を示す。
【0036】
<実施例1>
Nd−Fe−B系希土類磁石粉末(体積抵抗率ρ:0.000002Ωm)を、篩を用いて分粒し、0.2mm(0.18mm〜0.23mm)の粒径を有する粉末を分離した。次いで、絶縁性の高分子材料であるシリコン樹脂(体積抵抗率ρ:1.0×10Ωm)をスプレーにより吹き付けて、シリコン樹脂により被覆された磁石粉末を得た。この際、スプレー吹き付けの時間を調節することによって、被覆層の厚さtを2μmに制御した。被覆層の厚さは、磁石成分であるFe成分の欠乏層の厚さをEPMA分析により解析することで、測定された。
【0037】
上記で得られた、シリコン樹脂により被覆された磁石粉末を、ホットプレス法により緻密化させて、Nd−Fe−B系希土類永久磁石を作製した。ホットプレスは、400℃の温度条件下で、15ton/cmの圧力を120分間保持することにより行った。
【0038】
作製した永久磁石を、磁場強度0.1T、周波数1000Hzの周期的磁場中で30分間放置し、その際の温度変化および発熱量を観察した。発熱量は、被覆層が設けられていない、同様の永久磁石における発熱量を1とし、この発熱量に対する相対発熱量として評価した。条件および評価結果について、表1に示す。
【0039】
また、得られた永久磁石の残留磁化Br、および保磁力iHcを、BHトレーサーを用いて測定した。これらの測定結果を表1に示す。また、用いたNd−Fe−B系希土類磁石粉末の粒径dを0.99乗し、0.16を掛けて、被覆層の厚さtで除した値、すなわち、0.16×d0.99/tの値も、表1に示す。
【0040】
<実施例2〜40および比較例1〜4>
永久磁石粉末の種類(Nd−Fe−B系磁石粉末またはSm−Co系磁石粉末、HDDR粉末または焼結粉末)、粒径、体積抵抗率、被覆層を構成する絶縁性の材料の種類(高分子であるシリコン樹脂もしくはポリイミド樹脂、セラミックスであるDyペースト、MgOペースト、もしくはNdペースト、またはリン酸化合物)、被覆層の厚さ、体積抵抗率、被覆された磁石粉末を緻密化させる手段(ホットプレス法、放電プラズマ焼結法、爆発圧搾法、または鍛造法)を、表1に示すように変化させて、実施例1と同様の手順により種々の永久磁石を作製した。
【0041】
【表1】

【0042】
図1は、横軸にH=t×ρ÷ρで表される被覆抵抗Hを、縦軸に相対発熱量をとり、作製した永久磁石の一部のデータをプロットしたグラフである。図1に示すように、被覆抵抗Hを大きくすると、発熱量は磁石粉末の粒径dによって決まる値に収束する。つまり、渦電流の発生による発熱を抑制するためには、粒径dによって決定される所定の値以上の被覆抵抗Hを有していればよい。例えば、粒径d=0.05mmの場合には、被覆抵抗Hは、10〜10(m)程度あれば充分であり、被覆抵抗Hがこの値以上となるように永久磁石を設計すればよい。
【0043】
図2は、横軸に磁石粉末の粒径d、縦軸に被覆抵抗Hをとり、作製した永久磁石の一部のデータをプロットしたグラフである。図2において、○は「サンプルの相対発熱量=その粒径における相対発熱量の下限値」である試料を示し、△は「その粒径における相対発熱量の下限値<サンプルの相対発熱量≦その粒径における相対発熱量の下限値×2」である試料を示し、×は「その粒径における相対発熱量の下限値×2<サンプルの相対発熱量」である試料を示す。図2に示すように、相対発熱量を収束させるためには、「H≧23000×d−1」を満足すればよく、好ましくは、「H≧61500×d−1.1」を満足すればよいことがわかる。
【0044】
図3は、図2と同様に横軸に磁石粉末の粒径d、縦軸に被覆抵抗Hをとった座標系を用いて、本発明の永久磁石において渦電流の発生による発熱を抑制するために磁石粉末の粒径dと被覆抵抗Hとが満たすことが好ましい関係に対応する領域を図示したグラフである。本発明の永久磁石において、磁石粉末の粒径dと、被覆抵抗Hとは、図3に示す領域Xで表される関係を満足することが好ましい。また、図3に示す領域Yで表される関係を満足することが、より好ましい。ここで、図3に示す領域Xにおいては、H≧23000×d−1であり、dは、0.001≦d≦1の範囲の値である。また、領域Yにおいては、H≧61500×d−1.1であり、dは、0.005≦d≦0.7の範囲の値である。
【0045】
図4は、横軸に磁石粉末の粒径d、縦軸に被覆層の厚さtをとり、作製した永久磁石の一部のデータをプロットしたグラフである。図4において、◎は「9kG<サンプルの残留磁化」である試料を示し、○は「8kG<サンプルの残留磁化≦9kG」である試料を示し、△は「7kG<サンプルの残留磁化≦8kG」である試料を示し、×は「サンプルの残留磁化≦7kG」である試料を示す。図4に示すように、残留磁化の値を向上させるためには、被覆層の厚さtと前記永久磁石粉末の粒径dとが、「t<0.16×d0.99」を満足する、すなわち、0.16×d0.99/tの値が1より大きいことが好ましい。より好ましくは「t≦0.1×d」を満足すればよく、さらに好ましくは「t≦0.025×d」を満足すればよい。表1および図4に示すように、t<0.16×d0.99を満足する永久磁石は、残留磁化が7kGより大きく、磁気特性が高度に維持されている。また、t≦0.1×dを満足する永久磁石は、残留磁化が8kGより大きく、t≦0.025×dを満足する永久磁石は、残留磁化が9kGより大きかった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
絶縁性の材料からなる被覆層が表面に形成された永久磁石粉末が緻密化されてなる永久磁石であって、
前記被覆層の厚さt(mm)と前記絶縁性の材料の体積抵抗率ρ(Ωm)との積を、前記永久磁石粉末の体積抵抗率ρ(Ωm)で除した値として定義される被覆抵抗H(=t×ρ÷ρ)と、前記永久磁石粉末の粒径d(mm)とが、H≧23000×d−1を満たすことを特徴とする、永久磁石。
【請求項2】
前記被覆抵抗Hと前記永久磁石粉末の粒径dとが、H≧61500×d−1.1を満たすことを特徴とする、請求項1に記載の永久磁石。
【請求項3】
前記永久磁石粉末の粒径dが、0.001≦d≦1を満たすことを特徴とする、請求項1または2に記載の永久磁石。
【請求項4】
前記被覆層の厚さtと前記永久磁石粉末の粒径dとが、t<0.16×d0.99を満たすことを特徴とする、請求項1〜3のいずれか1項に記載の永久磁石。
【請求項5】
前記永久磁石粉末は、希土類磁石相を含有することを特徴とする、請求項1〜4のいずれか1項に記載の永久磁石。
【請求項6】
前記希土類磁石相は、R−T−B系磁石相またはR−T系磁石相(Rは、希土類元素であり、Tは、遷移金属元素である)であることを特徴とする、請求項5に記載の永久磁石。
【請求項7】
前記永久磁石粉末は、HDDR法により製造された磁石粉末であることを特徴とする、請求項1〜6のいずれか1項に記載の永久磁石。
【請求項8】
前記永久磁石粉末は、ホットプレス法、放電プラズマ焼結法、爆発圧搾法、および鍛造法からなる群から選択される1種または2種以上の方法により緻密化されてなる、請求項1〜7のいずれか1項に記載の永久磁石。
【請求項9】
請求項1〜8のいずれか1項に記載の永久磁石を用いてなるモーター。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2011−181942(P2011−181942A)
【公開日】平成23年9月15日(2011.9.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−91796(P2011−91796)
【出願日】平成23年4月18日(2011.4.18)
【分割の表示】特願2004−60609(P2004−60609)の分割
【原出願日】平成16年3月4日(2004.3.4)
【出願人】(000003997)日産自動車株式会社 (16,386)
【Fターム(参考)】