説明

汚染防止塗料、汚染防止シートおよびその製造方法

【課題】 長期的に汚染防止性能を示す汚染防止塗料、汚染防止シートおよびその製造方法を提供すること。
【解決手段】 塩基性触媒を用いて形成されたコロイダルシリカゾル(A)と親水性ポリマー(B)とを必須成分として含有していることを特徴とする汚染防止塗料。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、汚染防止塗料、汚染防止シートおよびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、種々の機能性材料が開発され、広範な分野に応用され、その機能の中には汚染防止機能が挙げられる。従来から汚染防止処理法として、汚染防止塗料を用いて建築物、建材素材、車輌、土木関係などの物品の表面に汚染防止塗膜を形成する方法が実施されてきた。特に、フッ素系樹脂、シリコーン系樹脂、アクリル系樹脂、ウレタン系樹脂、それら共重合体などが、耐久性に優れていることから汚染防止塗料の塗膜形成成分として使用されている。しかしながら、これらの塗料から形成される汚染防止塗膜は、長期にわたり屋外に曝されると、自然環境下において紫外線による劣化により、グロスの低下、塗膜亀裂の発生、雨などによる耐水性劣化(加水分解劣化)、油成分などの付着と雨水によってすじ状に汚染されるなど、塗膜表面が変化するという問題がある。これらの問題を解決する汚染防止処理方法には、非特許文献1の「フラクタル構造による超撥水/撥油表面」においては、塗膜表面に微細な凸凹構造を形成することにより濡れの因子を支配し、これにより塗膜に撥水撥油性を付与することが紹介されている。しかし、塗料を物品に塗布して上記の如き機能を発現させることは、現行塗工技術では非常に困難である。
【0003】
また、有機溶剤可溶型で反応性基を含有するフッ素樹脂を含む塗料が多くの建築物、建材、車輌、機械向け汚染防止塗料として使用されている(特許文献1および2)。しかしながら、前記の如く、これらの汚染防止塗料からなる塗膜は、紫外線による耐久性の問題と、油成分付着および雨水によるすじ状汚染が発生するといった問題がある。また、フッ素系樹脂は、非特許文献2において、ポリマーヒューム熱の発生や熱分解により毒性の高いフッ化カルボニル、パーフロロイソブチレン、フッ化水素などを発生し、人体に対する毒性が高いと考える。また、同様にフッ素系化合物であるテロマーも同様であり、加えて人体に対する安全性が確認されていない。
【0004】
【特許文献1】特開昭61−57609号公報
【特許文献2】特開昭63−182312号公報
【非特許文献1】雑誌「表面」vol.35 No.12(1997)9〜19頁
【非特許文献2】フッ素樹脂製品取扱いマニュアル、2000年5月発行 15、16頁(日本フッ素樹脂工業会)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従って本発明の目的は、上記従来技術の問題点を解消し、長期的に汚染防止性能を示す汚染防止塗料、汚染防止シートおよびその製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的は以下の本発明によって達成される。すなわち、本発明は、塩基性触媒を用いて形成されたコロイダルシリカゾル(A)と親水性ポリマー(B)とを必須成分として含有していることを特徴とする汚染防止塗料を提供する。
【0007】
上記本発明の汚染防止塗料においては、コロイダルシリカゾル(A)のシリカが、表面にシラノール基(−Si−OH)を有する平均粒子径1nm〜200nmの超微粒子形状および/または表面にシラノール基(−Si−OH)を有する長鎖状のシリカであること;コロイダルシリカゾル(A)が、メチルまたはエチルシリケートモノマーおよび/またはメチルまたはエチルシリケートオリゴマーを原料とするシリカゾルであること;コロイダルシリカゾル(A)が、ケイ酸ナトリウムを原料とするシリカゾルであること;コロイダルシリカゾル(A)中のシリカと親水性ポリマー(B)との使用割合(質量比)が、シリカ:親水性ポリマー=5:95〜99:1であることが好ましい。
【0008】
また、上記本発明の汚染防止塗料においては、親水性ポリマー(B)が、ポリビニルアルコール、変性ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、変性ポリビニルピロリドン、親水性アクリル系ポリマー、親水性ウレタン系ポリマー、セルロース化合物、水溶性ナイロン、ポリビニルホルマール、ポリビニルアセタールおよびポリビニルベンザールから選ばれる少なくとも1種であること;さらにアルミナゾル、界面活性剤、紫外線吸収剤および架橋剤からなる群から選ばれる少なくとも1種を含むこと;該架橋剤が、カルボジイミド化合物、有機金属錯体化合物、ポリイソシアネート化合物、オキサゾリン化合物およびエポキシ化合物からなる群から選ばれる少なくとも1種であることが好ましい。
【0009】
また、本発明は、基材シートと、該基材シートの一方の面に設けた汚染防止層とからなる汚染防止シートにおいて、該汚染防止層が、前記本発明の汚染防止塗料から形成されていることを特徴とする汚染防止シートを提供する。上記本発明の汚染防止シートにおいては、該汚染防止層の水に対する接触角が、20度以下であること;および汚染防止層の膜厚が0.01μm〜10μmであることが好ましい。
また、本発明は、基材シートの一方の面に前記本発明の汚染防止塗料を塗布し、常温〜120℃の温度で汚染防止層を形成することを特徴とする汚染防止シートの製造方法を提供する。
【0010】
本発明の汚染防止塗料からなる塗膜は、その最表面がシラノール基の−OH基により親水性となり、雨などの水蒸気によって水膜が形成され、汚染物が流れ落ちる機構である。発明者らは、雑誌(光触媒による環境浄化 触媒、36、524〜530(1994))において紹介されている手法として、光触媒効果と表面を親水性にすることで汚染防止効果が得られる現象をさらに発展させることで本発明に到達した。
なお、本発明において上記「シート」の用語は、「シート」および「フィルム」の双方を含む意味で使用している。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、長期的に汚染防止性能を示す汚染防止塗料、汚染防止シートおよびその製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
次に発明を実施するための最良の形態を挙げて、本発明をさらに詳細に説明する。
本発明の汚染防止塗料は、塩基性触媒を用いて形成されたコロイダルシリカゾル(A)と親水性ポリマー(B)の2成分を必須とする無機−有機複合物を含有することを特徴としている。本発明で使用するコロイダルシリカゾルとは、塩基性触媒を用いて形成されたコロイド状のシリカの水分散体であって、該コロイダルシリカは式SiOn(OH)m(OR)oで表わされる化合物であって、粒子表面に多数のシラノール基を有している。該シラノール基の存在によってゾルの安定性に優れ、該コロイダルシリカを含む汚染防止層は親水性であり、基材との密着性に優れ、さらに適当な架橋剤によって架橋すること(自己架橋、有機無機の架橋)により、汚染防止層の硬度アップを図ることができる。これに対して酸性触媒を用いて形成されたコロイド状のシリカゾルは、安定性に劣り、本発明の目的には不適当である。
【0013】
塩基性触媒を用いて形成された一般的なシリカゾルとは、図1に示すように粒子の外側にシラノール基が存在しているが、組成式としてはSiOn(OH)m(OR)o(n=1.95〜2.0、m=0〜0.1、o=0〜0.5、n+0.5m=2.0となる比、RはCH3またはC25である)で表わされる。本発明に使用するコロイダルシリカゾルとしては、ポリアルコキシシロキサン誘導体から合成されるような図2で示される長鎖状のコロイダルシリカゾルも使用できる。このシリカゾルは、組成式がSiOn(OH)m(OR)o(n=1.5〜1.95、m=0.1〜1.0、o=0〜0.5、n+0.5m+0.5o=2.0となる比、RはCH3またはC25である)で示される、シラノール基(−Si−OH)の数が多いものである。
【0014】
以上のようなコロイダルシリカゾルは種々のものが市販されているが、コロイダルシルカゾルは、表面のシラノール基(−Si−OH)を有する平均粒子径1nm〜200nmの超微粒子形状および/または表面にシラノール基(−Si−OH)を有する長鎖状のシリカからなるゾルであることが好ましい。また、コロイダルシリカゾルが、メチルシリケートモノマー、エチルシリケートモノマー、メチルシリケートオリゴマーまたはエチルシリケートオリゴマーを原料とし、塩基性触媒を用いて形成されたシリカゾル、ケイ酸ナトリウムを原料とし、塩基性触媒を用いて形成されたシリカゾルであることが好ましい。以上の如きコロイダルシルカゾルとしては、例えば、商品名としてスノーテックス(日産化学(株)製)、カタロイドS(触媒化成工業(株)製)、ルドックス(グレース社製)、シリカドール(日本化学工業(株)製)、クォートロン(扶桑化学(株)製)、アデライト(旭電化工業(株)製)、MKCシリケートMSH(三菱化学(株)製)などが市場から入手して本発明で使用できる。
【0015】
本発明で使用する親水性ポリマーとは、ポリビニルアルコール、変性ポリビニルアルコール(アクリルアミド、不飽和カルボン酸、スルホン酸モノマー、カチオン性モノマー、不飽和シランモノマー、不飽和エチレンオキサイドモノマーなどとの共重合物)、ポリビニルピロリドン、変性ポリビニルピロリドン(酢酸ビニル、不飽和イミダゾール、ビニルカプロラクトンなどとの共重合物)、ポリアクリル酸、ポリアクリル酸塩類、ポリアクリルアミド、ポリイソプロピルアクリルアミド、ポリホルムアミド、ポリエチレングリコール、デンプン、変性デンプン、ゼラチン、カゼイン、アルギン、セルロース化合物(カルボキシメチルセルロース、メチルセルロース、エチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロースなど)、水溶性ナイロン、ポリビニルホルマール、ポリビニルアセタール、ポリビニルベンザール、ポリウレタン、キチン類、キトサン類などが挙げられる。以上列記した親水性ポリマーは本発明において使用する好ましい化合物であって本発明はこれらの例示の化合物に限定されるものではない。従って上述の例示の化合物のみならず、その他現在市販されており、市場から容易に入手し得る化合物はいずれも本発明において使用することができる。
【0016】
本発明の汚染防止塗料は、水性媒体中に前記のコロイダルシリカゾルと上記の親水性ポリマーとを含むことを必須としており、コロイダルシリカゾル(A)中のシリカと親水性ポリマー(B)との使用割合(質量比)はシリカ:親水性ポリマー=5:95〜99:1の範囲が好ましく、さらに好ましくはシリカ:親水性ポリマー=20:80〜95:5の範囲である。上記において親水性ポリマーの使用量が多過ぎると、形成される汚染防止層の水に対する接触角が大きくなり汚染防止性が発揮されるまでの時間が長くなるなどの点で問題があり、一方、親水性ポリマーの使用量が少な過ぎると、汚染防止塗料を基材に塗布し乾燥するときに、クラックにより汚染防止層に凹凸が生じて外観不良や透明性などの点で問題がある。また、本発明の汚染防止塗料の固形分濃度は、約5〜15質量%の範囲が好ましく、固形分濃度が低過ぎると汚染防止層の形成時に塗工ムラや乾燥時間がかかるなどの点で問題があり、一方、固形分濃度が高過ぎると汚染防止塗料の液安定性が低下する。
【0017】
本発明の汚染防止塗料の液媒体は、水を主体とし、水としてはイオン交換水を使用することが好ましい。また、水と有機溶剤との混合物も液媒体として使用することができる。好ましい有機溶剤として、例えば、ケトン系溶媒(アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノンなど)、アルコール系溶剤(メタノール、エタノール、イソプロパノールなど)、エーテル系溶剤(ジオキサン、テトラヒドロフランなど)、エステル系溶剤(酢酸エチル、酢酸ブチル、酢酸イソブチルなど)、グリコールエーテルエステル系溶剤(エチレングリコールエチルエーテルアセテート、プロピレングリコールメチルエーテルアセテート、3−メチル−3−メトキシブチルアセテート、エチル−3−エトキシプロピオネートなど)、アミド系溶剤(ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミドなど)、ラクタム系溶剤(n−メチル−2−ピロリドンなど)が挙げられる。これらのうち、メタノール、エタノール、イソプロパノールなどのアルコールを用いることが好ましい。
【0018】
本発明の汚染防止塗料はさらに架橋剤を含むことができる。該架橋剤は、最初から汚染防止塗料中に添加しておいてもよいし、汚染防止塗料の塗布時に汚染防止塗料に添加してもよい。架橋剤としては、親水性ポリマーが有している親水性基、例えば、カルボキシル基や水酸基を利用する架橋剤が使用できる。該架橋剤としては、例えば、エポキシ系架橋剤、カルボジイミド系架橋剤、オキサゾリン系架橋剤、水分散型イソシアネートまたは金属錯体系架橋剤などの従来から使用されている公知のものが使用でき、特に限定されない。例えば、エポキシ系架橋剤としては、「エピコート」(油化シェルエポキシ社製)などの従来公知の市販されているエポキシ樹脂を添加して使用することができる。カルボジイミド系架橋剤としては、「カルボジライト」の商品名(日清紡社製)の市販品を入手して使用することができる。オキサゾリン系架橋剤としては、「エポクロス」の商品名(日本触媒社製)の市販品を入手して使用することができる。
【0019】
水分散型イソシアネート系架橋剤としては、「デュラネート」の商品名(旭化成ケミカルズ社製)の市販品を入手して使用することができる。または、金属錯体系架橋剤としては、チタン有機化合物系、「オルガチックス」の商品名(松本製薬工業社製)で市販されているジルコニウム有機化合物系が入手可能であり、アルミニウム、クロム、コバルト、銅、鉄、ニッケル、バナジウム、亜鉛、インジウム、カルシウム、マグネシウム、マンガン、イットリウム、セリウム、ストロンチウム、パラジウム、バリウム、モリブデニウム、ランタン、「ナーセム」の商品名(日本化学産業社製)で市販されているスズのアセチルアセトン錯体が入手して使用できる。これらの架橋剤は、適量であれば形成される汚染防止層の耐水性の向上に特に有効であるが、使用量が多過ぎると汚染防止層の汚染防止性能の低下を引き起こすため、汚染防止塗料の固形分100質量部に対して10質量部以下、好ましくは0.01〜1.0質量部の範囲内の使用が好ましい。
【0020】
また、本発明の汚染防止塗料には、必要に応じて従来公知の界面活性剤を少量加えてもよい。これらの界面活性剤としては、例えば、グリセリンモノオレート、グリセリンラウレート、グリセリンカプレート、ジグリセリンオレート、ジグリセリンラウレート、トリグリセリンオレートなどのグリセリン脂肪酸エステル類、ポリオキシエチレンアルキルエーテルなどのポリオキシエチレン脂肪アルコールエーテル類、ポリエチレングリコールオレート、ポリエチレングリコールラウレートなどのポリエチレングリコール脂肪酸エステル類、ポリオキシエチレンソルビタントリオレートなどのポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル類などが挙げられる。これらの界面活性剤の使用量は、特に限定されないが、使用する場合には、通常、汚染防止塗料の固形分100質量部に対して0.01〜5質量部、好ましくは0.1〜1質量部の範囲である。
【0021】
また、本発明の汚染防止塗料には、前記の親水性ポリマー以外に他の樹脂バインダーを添加してもよい。これらの樹脂バインダーとしては特に限定されないが、例えば、従来公知のシリコーン系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリイミド系樹脂、ポリスチレン系樹脂、ポリウレタン系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、ノルボルネン系樹脂、セルロース系樹脂、ポリビニルブチラール系樹脂、ポリ酢酸ビニル系樹脂などが挙げられる。これらの樹脂の使用量は特に限定されないが、使用する場合には、通常、汚染防止塗料の固形分100質量部に対して800質量部以下、好ましくは5〜500質量部の範囲である。
【0022】
本発明の汚染防止塗料には、必要に応じてさらに添加剤を加えてもよい。例えば、酸化防止剤(ヒンダードフェノール系、ホスファイト系、チオエーテル系など)、光安定剤(ヒンダードアミン系など)、紫外線吸収剤(ベンゾフェノン系、ベンゾトリアゾール系など)、ガス変色安定剤(ヒドラジン系など)、金属不活性剤などやこれら2種類以上の併用が挙げられる。
【0023】
さらに本発明の汚染防止塗料には、必要に応じてコロイダルシリカ以外の無機微粒子や有機微粒子を適宜使用することができる。無機微粒子としては、例えば、アルミナゾルが使用できる。上記の如きアルミナゾルとしては、例えば、アルミナゾル−100、アルミナゾル−200、アルミナゾル−520(日産化学工業(株)製)、カタロイドAS(触媒化学工業(株)製)、アルミナクリアゾル(川研ファインケミカル製)などを市場から入手して本発明で使用することができる。有機微粒子としては、例えば、シリコーン樹脂微粒子、フッ素樹脂微粒子、アクリル樹脂微粒子、ウレタン樹脂微粒子、ポリエチレン樹脂微粒子、反応性シロキサンなどを挙げることができる。
【0024】
本発明の汚染防止塗料により汚染防止処理される対象としては、無機ガラス、ポリエチレンテレフタレートやポリエチレンナフタレートなどのポリエステル樹脂、ポリエチレンやポリプロピレンなどのポリオレフィン樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリメチルメタクリレート樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂、セルロースエステル樹脂、ポリイミド樹脂、ポリアミド樹脂、ポリスルホンなどの透明樹脂のフィルム、射出成形品、キャスト成形品などが挙げられる。本発明は、農業用フィルムで用いられるエチレンからα−ポリオレフィン共重合体を主体とする樹脂、特に線状低密度ポリエチレン(LLDPE)から形成されている単層から多層のポリオレフィン系樹脂フィルムやポリエチレンテレフタレートなどのポリエステルフィルムに汚染防止性を付与するのに有用である。
【0025】
また、これらのプラスチックフィルムに汚染防止層を設ける場合、設けられた塗膜のプラスチックフィルムに対する接着強度と耐久性を付与するために汚染防止塗料の塗布に先立ってプラスチックフィルムにコロナ放電処理、プラズマ処理、下塗り処理、熱処理、除塵埃処理、アルカリ処理などの表面処理を施すことが好ましい。プラスチックフィルムに対するこれらの表面処理には、当該工業分野において周知の表面処理技術を利用し、本発明を実施することができる。上記成形品に汚染防止塗料の汚染防止層を形成するには、任意の塗装方法が採用される。例えば、スプレー法、ディップ法、フローコート法、ロールコート法、バーコート法、カーテンフロー法、スピンコート法、スクリーン印刷法、刷毛塗りなどの何れの方法でも差し支えない。
【0026】
本発明に係る汚染防止塗料は物品の表面に塗布し、強制乾燥または自然乾燥し、液状分散媒を揮散させることで塗膜を形成する。強制乾燥する方法としては熱風乾燥法や赤外線輻射法が採用できる。強制乾燥するときの加熱温度は、50℃〜100℃であり、汚染防止層の厚さは、0.01〜10μm、特に0.05〜2.0μmの範囲にあるのが好適である。架橋剤を用いる場合は、乾燥後に常温〜120℃で数分〜数日間、より好ましくは50℃〜80℃で1日〜3日間の熟成をすることにより十分性能が発揮される。
また、本発明の汚染防止シートは、汚染防止層の水に対する接触角が、20度以下であることが好ましい。
【0027】
本発明によれば、汚染防止性、親水性、結露防止性、帯電防止性、密着性、高硬度、機械的強度、耐擦傷性、耐摩耗性、耐光性、耐熱性、耐溶剤性、耐薬品性、耐汚染性に優れた塗膜を与える塗料が提供される。該塗料は、汚染防止機能を目的とするプラスチック用塗料、ガラス用塗料、建材用塗料、車輌用塗料、電子機器用塗料などとして有用である。
【実施例】
【0028】
次に実施例および比較例を挙げて本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例などに限定されるものではない。なお、以下の例における「部」および「%」は特に断りのない限り質量基準である。
【0029】
実施例1
コロイダルシリカゾル(商品名MKCシリケートMSH6、三菱化学(株)製、シリカ含有量6.0%、コロイダルシリカの平均粒子径1〜100nm)100部に、高速ディスパーで撹拌しながら、予め溶解しておいたポリビニルアルコール(商品名PVA−217、クラレ(株)製、ケン化度88%、平均重合度1,700)の10%水溶液10.6部を15分かけてゆっくり加え、さらに30分撹拌し、本発明の汚染防止塗料を得た。該汚染防止塗料をポリエチレンテレフタレート(以下「PET」と記す)フィルム上に乾燥汚染防止層が1.0μmの厚さになるように塗布し、120℃のオーブンで2分間乾燥し、本発明の汚染防止性フィルムを得た。
【0030】
実施例2
実施例1のポリビニルアルコールに代えて、ポリビニルアルコール(商品名PVA−117、クラレ(株)製、ケン化度98.5%、平均重合度1,700)を使用した以外は実施例1と同様にして本発明の汚染防止塗料および膜厚が1.0μmの汚染防止性フィルムを得た。
【0031】
実施例3
実施例1のポリビニルアルコールに代えて、ポリビニルアルコール(商品名PVA−205、クラレ(株)製、ケン化度88%、平均重合度500)を使用した以外は実施例1と同様にして本発明の汚染防止塗料および膜厚が1.0μmの汚染防止性フィルムを得た。
【0032】
実施例4
実施例1のポリビニルアルコールに代えて、アクリルポリマー水溶液(商品名ジョンクリル501、ジョンソンポリマー(株)製、固形分29.5%)3.6部を使用した以外は実施例1と同様にして本発明の汚染防止塗料および膜厚が1.0μmの汚染防止性フィルムを得た。
【0033】
実施例5
実施例1のポリビニルアルコール水溶液の使用量を40.0部とした以外は実施例1と同様にして本発明の汚染防止塗料および膜厚が1.0μmの汚染防止性フィルムを得た。
【0034】
実施例6
実施例5の汚染防止塗料に架橋剤である水分散イソシアネート(商品名デュラネートWB40−100、旭化成ケミカルズ社製)0.05部を添加し、50℃で3日キュアーしたこと以外は実施例1と同様にして本発明の汚染防止塗料および膜厚が1.0μmの汚染防止性フィルムを得た。
【0035】
比較例1
実施例1のポリビニルアルコールに代えて、アクリルエマルジョン(商品名ジョンクリル741、ジョンソンポリマー(株)製、固形分49%)2.2部を使用した以外は実施例1と同様にして比較例の汚染防止塗料および膜厚が1.0μmの汚染防止性フィルムを得た。
【0036】
比較例2
エチルシリケート(商品名エチルシリケート40、コルコート社製)0.3部とシランカップリング剤(商品名SH6040、東レダウコーニング社製)0.46部、2N塩酸0.01部、アルミニウムイソプロポキシド0.05部、35%塩酸0.04部、水0.09部、エタノール0.40部、N,N−ジメチルベンジルアミン0.01部を加えて25℃で10分間撹拌して得られた溶液に25%ポリアクリル酸水溶液(数平均分子量130,000)20.40部とメタノール78.60部を混合して得られた溶液を添加し、25℃で2分間撹拌して透明な汚染防止塗料を得た。この汚染防止塗料をPETフィルム上に乾燥汚染防止層が4.0μmの厚さになるように塗布しオーブンで150℃で10分間乾燥して比較例の汚染防止性フィルムを得た。
【0037】
試験例
上記で得られた実施例および比較例の汚染防止塗料および汚染防止性フィルムの性能を以下の項目について試験し、表1の結果を得た。
<造膜性>
汚染防止塗料をフィルムに塗布および乾燥後、得られた汚染防止層のクラックを目視で観察した。
クラックがない:○
クラックがある:×
【0038】
<透明性>
スガ試験機(株)製直読ヘーズコンピューターHGM−2DPを使用し、汚染防止性フィルムのヘイズ値を測定した。
ヘイズ値=測定値−基材のヘイズ値
ヘイズ値が1.0未満:○
ヘイズ値が1.0〜5.0未満:△
ヘイズ値が5.0以上:×
【0039】
<汚染防止性>
東京都地区で1年間屋外曝露後の試験片と初期試験片の外観を目視にて観察した。
初期試験片と比較し外観の変化がない:○
塗膜に汚れがやや確認された:△
塗膜の汚染が著しい:×
【0040】
<耐光性>
サンシャインウェザオメーター試験(温度:83℃、水無、200時間)後、外観の変化を目視にて観察した。
初期試験片と比較し外観の変化がない:○
塗膜の光沢性がやや低下した:△
塗膜に光沢の低下、亀裂が見られた:×
【0041】
<接触角>
協和界面科学(株)製接触角計CA−A型を使用し、水滴を0.01mlにして汚染防止性フィルムの汚染防止層面に接触させ、1分後に20℃で測定を行った。
【0042】
<耐水性>
汚染防止性フィルムの汚染防止層面に40℃の温水を滴下し、荷重100gをかけてラビング試験を行って、汚染防止層が剥離した回数で評価した。
ラビング回数10回未満:×
ラビング回数10回〜19回未満:△
ラビング回数19回以上:○
【0043】
<耐温水性>
汚染防止性フィルムを80℃の温水に2分間浸漬した後、表面の水分を拭き取り汚染防止層の変化を観察した。
まったく変化なし:◎
ほとんど変化なし:○
僅かに変化あり:△
かなり変化あり:×
【0044】
<密着性>
汚染防止性フィルムの汚染防止層と基材PETフィルムとの接着性を碁盤目試験(セロハンテープ剥離クロスカット法)にて行った。
剥離していない升目が95%以上:◎
剥離していない升目が95%未満〜70%:○
剥離していない升目が70%未満〜40%:△
剥離していない升目が40%未満:×
【0045】
<耐傷付性>
汚染防止性フィルムの汚染防止層面を約10g/cm2の荷重にてスコッチブライト(住友スリーエム(株)製)で擦り、表面の傷付きを目視にて確認した。
確認できる傷が0〜5本:○
確認できる傷が6〜10本:△
確認できる傷が11本以上:×
【0046】

【産業上の利用可能性】
【0047】
以上のように本発明の汚染防止塗料は高度な汚染防止性能を示し、従来の汚染防止塗料に比べて優れた耐久性を示す。さらに、本発明の汚染防止塗料は簡易な方法で製造が可能であり工業的に非常に有用である。
【図面の簡単な説明】
【0048】
【図1】コロイダルシリカを模式的に説明する図。
【図2】コロイダルシリカを模式的に説明する図。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
塩基性触媒を用いて形成されたコロイダルシリカゾル(A)と親水性ポリマー(B)とを必須成分として含有していることを特徴とする汚染防止塗料。
【請求項2】
コロイダルシリカゾル(A)のシリカが、表面にシラノール基(−Si−OH)を有する平均粒子径1nm〜200nmの超微粒子形状および/または表面にシラノール基(−Si−OH)を有する長鎖状のシリカである請求項1に記載の汚染防止塗料。
【請求項3】
コロイダルシリカゾル(A)が、メチルまたはエチルシリケートモノマーおよび/またはメチルまたはエチルシリケートオリゴマーを原料とするシリカゾルである請求項1に記載の汚染防止塗料。
【請求項4】
コロイダルシリカゾル(A)が、ケイ酸ナトリウムを原料とするシリカゾルである請求項1に記載の汚染防止塗料。
【請求項5】
コロイダルシリカゾル(A)中のシリカと親水性ポリマー(B)との使用割合(質量比)が、シリカ:親水性ポリマー=5:95〜99:1である請求項1に記載の汚染防止塗料。
【請求項6】
親水性ポリマー(B)が、ポリビニルアルコール、変性ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、変性ポリビニルピロリドン、親水性アクリル系ポリマー、親水性ウレタン系ポリマー、セルロース化合物、水溶性ナイロン、ポリビニルホルマール、ポリビニルアセタールおよびポリビニルベンザールから選ばれる少なくとも1種である請求項1に記載の汚染防止塗料。
【請求項7】
さらにアルミナゾル、界面活性剤、紫外線吸収剤および架橋剤からなる群から選ばれる少なくとも1種を含む請求項1に記載の汚染防止塗料。
【請求項8】
架橋剤が、カルボジイミド化合物、有機金属錯体化合物、ポリイソシアネート化合物、オキサゾリン化合物およびエポキシ化合物からなる群から選ばれる少なくとも1種である請求項7に記載の汚染防止塗料。
【請求項9】
基材シートと、該基材シートの一方の面に設けた汚染防止層とからなる汚染防止シートにおいて、該汚染防止層が、請求項1〜8のいずれか1項に記載の汚染防止塗料から形成されていることを特徴とする汚染防止シート。
【請求項10】
汚染防止層の水に対する接触角が、20度以下である請求項9に記載の汚染防止シート。
【請求項11】
汚染防止層の膜厚が、0.01μm〜10μmである請求項9に記載の汚染防止シート。
【請求項12】
基材シートの一方の面に請求項1〜8のいずれか1項に記載の汚染防止塗料を塗布し、常温〜120℃の温度で汚染防止層を形成することを特徴とする汚染防止シートの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2006−28470(P2006−28470A)
【公開日】平成18年2月2日(2006.2.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−273105(P2004−273105)
【出願日】平成16年9月21日(2004.9.21)
【出願人】(000002820)大日精化工業株式会社 (387)
【出願人】(000238256)浮間合成株式会社 (99)
【Fターム(参考)】