説明

汚水処理方法

【課題】MLSS中のMLVSSの濃度を高めて硝化・脱窒処理などの生物学的処理を極めて効率良く行うことができる汚水処理方法を提供する。
【解決手段】汚水W1を処理槽10,11内で生物学的処理する前に、汚水中の有機性及び無機性浮遊物の大半を凝集させて分離脱水機8により固液分離を行い、処理槽11から膜分離槽12内に導入されて濃縮された高濃度の活性汚泥有機性浮遊物(MLVSS)を処理槽10に戻して循環させる汚水処理方法とする。汚水の凝集、固液分離によってMLVSS/MLSSの比率を高め、膜分離槽12によって循環させるMLSSの濃度を高めてMLVSSを高濃度に維持し、脱窒効率を大幅に向上させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、豚舎や牛舎などの畜舎から排出される糞尿分離汚水や糞尿混合汚水を生物学的に処理する汚水処理方法に関し、特に、活性汚泥有機性浮遊物(MLVSS)の濃度を高めて脱窒・硝化処理などの生物学的処理を極めて効率良く行えるように改良した汚水処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、畜舎から排出される糞尿分離汚水や糞尿混合汚水の処理方法として、汚水を調整槽に送り込み、水量と水質を均一化した汚水を脱窒槽と硝化槽に順次流入させて脱窒・硝化処理を行い、処理水を沈殿槽に導入して上澄み水を放流すると共に、沈殿槽下部の汚泥を脱窒槽に戻して循環させる方法が実施されている。
【0003】
また、被処理水の流入側に無酸素域を、流出側に好気域を有する生物反応槽を用いて硝化脱窒を行う循環式硝化脱窒方法において、原水中又は生物反応槽の少なくとも一方に凝集剤を添加するように改良したもの(特許文献1)や、曝気槽の外部又は内部に膜分離装置を設けると共に、曝気槽の前に吸着槽として機能する小容量の曝気槽を設けた膜分離活性汚泥処理装置を用いて汚水処理を行う方法(特許文献2)なども知られている。
【特許文献1】特開平10−128369号公報
【特許文献2】特開2002−66584号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、従来より実施されている汚水処理方法のように、沈殿槽下部の汚泥を脱窒槽に戻して循環させる硝化液循環型の処理方法では、通常、循環させる処理水の活性汚泥浮遊物(以下、MLSSと記す)の濃度を略4000mg/Lより上げることが困難であるため、脱窒効率があまり良くないという問題がある。このように脱窒効率が良くないと、容積の大きい脱窒槽や硝化槽を設置し、循環させる水量を2Q〜4Q(処理水量Qの2〜4倍)と多くする必要があるため、イニシャルコストやランニングコストが高くなり、経済的に不利になる。
【0005】
ところで、特許文献2に記載されているような膜分離装置を用いて、MLSSを含んだ循環用の濃縮汚泥と、放流される浄化水とに分離し、この濃縮汚泥を脱窒槽に戻して循環させるようにすると、この濃縮汚泥中のMLSSの濃度を10000mg/L以上に上げることができるので、脱窒効率を向上させることはできる。けれども、脱窒に寄与する活性汚泥有機性浮遊物(以下、MLVSSと記す)のMLSS全体に占める比率は、通常65質量%以下であることから、循環される濃縮汚泥中のMLVSSの濃度はそれほど高くなく、従って、膜分離装置を用いるのみでは、脱窒効率を大幅に向上させることはできない。
【0006】
また、特許文献1には、循環式硝化脱窒方法において、原水中又は生物反応槽の少なくとも一方に凝集剤を添加することが開示されているが、これは、凝集剤の添加により、活性汚泥のフロック化を進め、良好な生物膜を支持材上に形成させること、及び、凝集剤により燐を除去することを目的としたものであって、MLVSSを高めることを目的としたものではない。
【0007】
本発明は、上記事情の下になされたもので、その解決しようとする課題は、MLSS中のMLVSSの濃度を高めて脱窒・硝化処理などの生物学的処理を極めて効率良く行うことができる汚水処理方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するため、本発明に係る汚水処理方法は、汚水を処理槽内で生物学的処理する前に、汚水中の有機性及び無機性浮遊物の大半を凝集させて固液分離を行い、処理槽から膜分離槽内に導入されて濃縮された高濃度の活性汚泥有機性浮遊物(MLVSS)を処理槽に戻して循環させることを特徴とするものである。そして、より具体的には、汚水を脱窒槽及び硝化槽内で脱窒・硝化処理する前に、汚水中の有機性及び無機性浮遊物の大半を凝集させて固液分離を行い、硝化槽から膜分離槽内に導入されて濃縮された高濃度の活性汚泥有機性浮遊物を脱窒槽に戻して循環させることを特徴とするものである。
【0009】
このような本発明の汚水処理方法においては、膜分離槽内の活性汚泥混合液に活性炭を供給して脱色処理することが望ましい。
【発明の効果】
【0010】
本発明の汚水処理方法のように、汚水を処理槽内で生物学的処理する前に、汚水中の有機性及び無機性浮遊物の大半を凝集させて固液分離を行うと、分離された汚水に含まれるSSの大半がVSSで占められ、処理槽においてMLVSS/MLSSの比率が80質量%以上と高くなるため、MLVSS/MLSSの比率が65質量%以下と低い従来の場合に比べると、膜分離槽内で濃縮されて循環される濃縮汚泥中のMLVSS濃度が略1.2倍以上となり、膜分離槽によってMLSS全体の濃度が5000〜20000mg/Lに上がることと相俟って、MLVSSを高濃度に維持することができる。従って、外部から水素供与体として有機炭素源を添加せずとも、脱窒・硝化処理などの生物学的処理を行うと脱窒効率が顕著に向上し、その分だけ脱窒槽や硝化槽などの処理槽を小型化することが可能になると共に、循環させる濃縮汚泥の量を減少させることが可能となるため、イニシャルコストやランニングコストの低減を図ることが可能となる。
【0011】
また、膜分離槽内の活性汚泥混合液に活性炭を供給して脱色処理すると、この活性炭を分離するための高分子凝集剤の添加装置や沈殿槽が不要となるので、設備費を節約することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、図面を参照して本発明の具体的な実施形態を詳述する。
【0013】
図1は本発明の一実施形態に係る汚水処理方法を説明するシステムフロー図である。
【0014】
図1に示す汚水処理方法は、豚舎からの糞尿分離汚水を脱窒・硝化処理する場合を例示したものであって、糞尿分離設備を有する豚舎1から出る分離汚水W1は、臭気が周辺地域に拡散することのない密閉型の原水槽2に導入され、分離糞S1は堆肥舎に運ばれる。
【0015】
原水槽2の汚水W1は、ポンプ保護スクリーン3に通され、粗大固形物S2が除去されて、調整槽4に導入される。調整槽4に導入された汚水W1は、後述する膜分離槽12から戻された濃縮汚泥W5と攪拌、混合され、水量と水質が均一化される。また、分離除去された粗大固形物S2は、後述する分離脱水機8で固液分離された固形分のケーキヤードS3と一緒に通気型堆肥舎5へ運ばれ、堆肥化されて堆肥として出荷される。
【0016】
調整槽4内で水量と水質が均一化された汚水W1は凝集槽6へポンプアップされ、凝集剤供給槽7から供給される高分子凝集剤Cが添加されて、固液分離用の分離脱水機8へ送られる。そして、この分離脱水機8によって固形分のケーキヤードS3と分離水W2とに分離され、分離水W2は分離水槽9に導入される。一方、ケーキヤードS3は前記粗大固形物S2と一緒に通気型堆肥舎5へ運ばれ、堆肥化されて堆肥として出荷される。高分子凝集剤Cとしては、カチオン系高分子凝集剤が好ましく使用され、その添加量は、対SS当たり0.5〜1.5質量%(無希釈換算値)の範囲とすることが好ましい。
【0017】
上記のように汚水W1に高分子凝集剤Cを加えて分離脱水機8で固液分離を行うと、汚水W1に含まれるMLSSのうちの有機性及び無機性浮遊物の大半が凝集して固形分と共に除去されるので、分離水W2(分離された汚水)に含まれるMLSSの大半が、脱窒に寄与するMLVSSで占められるようになり、実際にMLVSS/MLSSの比率は80質量%以上に上昇する。
【0018】
このようにMLVSS/MLSSの比率が高い分離水W2は、分離水槽9から嫌気性の脱窒槽10に導入され、攪拌機10aで攪拌されながら、脱窒菌による脱窒処理が行われる。脱窒槽10内の処理水W3は好気性の硝化槽11に導入され、水中曝気攪拌装置11aで散気しながら攪拌されて、硝化菌による硝化処理が行われる。そして、この硝化槽11内の処理水W3は、精密濾過膜(MF膜)12aを内蔵した膜分離槽12に送られ、放流される浄化水W4と、脱窒槽10へ戻されて循環する濃縮汚泥W5とに分離される。尚、この膜分離槽12内で濃縮されて循環される濃縮汚泥W5の一部は調整槽4に送られ、汚水W1の水量、水質の調整に利用される。
【0019】
脱窒槽10内で行われる脱窒処理は、脱窒菌が、循環される濃縮汚泥W5に含まれる硝酸態窒素や亜硝酸態窒素(硝化槽11内で硝化により生成されたもの)を呼吸系の水素受容体として利用し、NやNOを生成するものであって、多くの脱窒菌が水素供与体として有機物を利用するため、上記のように処理される分離水W2のMLVSS/MLSSの比率が80質量%以上と高い場合は、脱窒効率が上昇する。特に、膜分離槽12を用いて、放流される浄化水W4と循環される濃縮汚泥W5を分離すると、循環される濃縮汚泥W5中のMLSSの濃度を5000〜20000mg/Lまで上げることができるため、上記のようにMLVSS/MLSSの比率が高いことと相俟って、循環される濃縮汚泥W5のMLVSSを4000〜16000mg/Lの高濃度に維持することができる。このようにMLVSSを高濃度に維持できるのは、硝化槽11内の菌体がある程度破壊されて有機分として補給される、所謂、内生呼吸型の硝化・脱窒に起因するところも大きいと考えられる。
【0020】
上記のようにMLVSSを高濃度に維持できる結果、脱窒効率が顕著に向上し、その分だけ脱窒槽10や硝化槽11を小型化することができると共に、濃縮汚泥W5の循環量を1Q(処理量と同じ)まで減少させることができるので、イニシャルコストやランニングコストの低減を図ることが可能となる。因みに、窒素除去率は、MLSSが8950mg/L(MLVSSが7340mg/L)のときに、95%であることが実証試験にて確認されている。
【0021】
また、硝化槽11内で、前記の水中曝気攪拌装置11aを用いて、散気しながら攪拌を行うと、通常の散気管で散気する場合に比べて、気泡が細かく均一に散気されるため、空気(酸素)が一層溶けやすくなり、硝化処理の効率が向上する利点がある。
【0022】
脱窒効率を上げるためには、脱窒菌が水素供与体として利用する有機物量を増加させることが大切でから、図1に示すように、炭素源貯蔵槽13から炭素源として例えばメタノールMeOH等を脱窒槽10に供給することが好ましい。このメタノールの供給量は、分離水W2のBOD/T−Nが2.5以上、好ましくは2.5〜3.5となるように調整するのが適当であり、このように調整すると、窒素除去率が96%以上と高くなることが実証試験にて確認されている。尚、メタノールの供給量を更に増やしてBOD/T−Nを3.5より大きく調整すると、窒素除去率は更に高くなるけれども、メタノールのコストが増加するので、上記のようにBOD/T−Nの上限を3.5とすることが好ましい。
【0023】
また、膜分離槽12で分離された濃縮汚泥W5の循環量と窒素除去率との関係について実験したところ、循環量が1Q未満(処理量の1倍未満)のときは、窒素除去率はあまり高くないけれども、循環量が1Q〜2Q(処理量の1〜2倍)のときは、窒素除去率が略96%の高率で横ばいなることが確認された。従って、循環量を1Qに設定し、循環に要する動力費用を節約することが望ましい。
【0024】
膜分離槽12に導入された活性汚泥混合液には、活性炭供給機14から活性炭が添加され、脱色処理が行われる。活性炭としては、水蒸気賦活活性炭を使用してもよいし、塩化亜鉛で賦活した活性炭を使用してもよい。
【0025】
膜分離槽12内で上記のように活性炭による脱色処理を行うと、この活性炭が膜分離槽12のMF膜12aを通過して浄化水W4と一緒に放流されることがないので、従来のように放流前に活性炭を沈降分離するための沈殿槽が不要となり、その分、設備費を節約することができる。また、活性炭を含んだ濃縮汚泥W5の一部が既述したように調整槽4に戻されると、活性炭によって、調整槽4から揮散している臭気を大幅に低減することができる。
【0026】
膜分離槽12で脱色、分離された浄化水W4は、モニタリング設備15に送られ、周辺の生物生息環境に対する影響をモニタリングした後、沈殿分離槽16を経て放流される。このモニタリング設備15は、流水域の生物濾過槽と静水域の分離槽から構成されたもので、周辺に生息する生物を生息させ、そこに放流前の浄化水W4を通水して、流水域及び静水域における生物への影響をモニタリングし、河川の立場にたって周辺の生物生息環境に対する悪影響の有無を確認するものである。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】本発明の一実施形態に係る汚水処理方法を説明するシステムフロー図である。
【符号の説明】
【0028】
1 糞尿分離設備を有する豚舎
2 原水槽
3 ポンプ保護スクリーン
4 調整槽
6 凝集槽
7 凝集剤供給槽
8 分離脱水機
9 分離水槽
10 脱窒槽
11 硝化槽
12 膜分離槽
13 炭素源貯蔵槽
14 活性炭供給機
15 モニタリング設備
W1 汚水
W2 分離水(凝集分離された汚水)
W3 処理水
W4 浄化水
W5 濃縮汚泥

【特許請求の範囲】
【請求項1】
汚水を処理槽内で生物学的処理する前に、汚水中の有機性及び無機性浮遊物の大半を凝集させて固液分離を行い、処理槽から膜分離槽内に導入されて濃縮された高濃度の活性汚泥有機性浮遊物を処理槽に戻して循環させることを特徴とする汚水処理方法。
【請求項2】
汚水を脱窒槽及び硝化槽内で脱窒・硝化処理する前に、汚水中の有機性及び無機性浮遊物の大半を凝集させて固液分離を行い、硝化槽から膜分離槽内に導入されて濃縮された高濃度の活性汚泥有機性浮遊物を脱窒槽に戻して循環させることを特徴とする請求項1に記載の汚水処理方法。
【請求項3】
上記膜分離槽内の活性汚泥混合液に活性炭を供給して脱色処理することを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の汚水処理方法。

【図1】
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【公開番号】特開2009−50837(P2009−50837A)
【公開日】平成21年3月12日(2009.3.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−252893(P2007−252893)
【出願日】平成19年9月28日(2007.9.28)
【出願人】(000247535)株式会社モリプラント (8)
【Fターム(参考)】