説明

油圧システムおよび該油圧システムを備えたフォークリフト

【課題】所定の順序動作が失われた場合であっても、容易に所定の順序動作に復帰させることができる油圧システムおよび該油圧システムを備えたフォークリフトを提供する。
【解決手段】第1油圧シリンダ5と第2油圧シリンダ6Aを接続する第1配管11と、第2油圧シリンダ6Aと油圧装置10Aを接続する第2配管12Aと、規制手段9を介して油圧装置10Aと第2油圧シリンダ6Aを接続する第3配管12Bと、規制手段9を制御する制御部19とを備え、制御部19は、第1および第2油圧シリンダ5、6A、6Bが所定の順序で動作していない場合に、規制手段9を制御して作動油の流量を規制させることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複数のマストに案内されたフォークを段階的に昇降させる油圧システムおよび該油圧システムを備えたフォークリフトに関する。
【背景技術】
【0002】
図4(A)に示すように、従来から、複数のマストに案内されたフォークを段階的に昇降させる油圧システムとして、車体の前部に取り付けられるアウタマスト3、ミドルマスト23およびインナマスト4からなる3段式のマストを備えた油圧システム1Bが知られている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
かかる3段式のマストを備えた油圧システム1Bにおいては、フォーク8付きのリフトブラケット7をチェーン21を介して昇降させる第1油圧シリンダ5がインナマスト4に設けられており、第1油圧シリンダ5の上方にチェーン21をかけるためのチェーンホイール20が設けられている。この他、油圧システム1Bでは、一端がアウタマスト3に固定され、かつ他端がインナマスト4に固定されたチェーン25をかけるためのチェーンホイール24がミドルマスト23に設けられ、さらに、上端がミドルマスト23のアッパービーム23aに連結された左右一対の第2油圧シリンダ6A、6Bがアウタマスト3に設けられている。
【0004】
第1油圧シリンダ5および第2油圧シリンダ6A、6Bは、図5に示すように、それぞれ油圧シリンダ本体5a、6aと、該油圧シリンダ本体5a、6a内に形成された油圧室5b、6bと、油圧シリンダ本体5a、6aから伸長するピストンロッド5c、6cとを有している。第2油圧シリンダ6Aのピストンロッド6cには、作動油を通流させる流路6dが形成されている。
【0005】
第1油圧シリンダ5の油圧室5bは、第1配管11を介して第2油圧シリンダ6Aのピストンロッド6cに接続されている。第2油圧シリンダ6Aの油圧室6bは、第2配管12Aを介して油圧装置10Bに接続されている。また、第2油圧シリンダ6Bの油圧室6bは、第3配管12Bを介して油圧装置10Bに接続されている。
【0006】
油圧装置10Bは、作動油の流れを制御するコントロールバルブ13と、作動油が貯留された作動油タンク14と、作動油タンク14の作動油を吸引して吐出する油圧ポンプ15と、油圧ポンプ15を駆動する油圧モータ16とを有している。
【0007】
この油圧システム1Bでは、通常、第1油圧シリンダ5のピストンロッド5cを伸長させるために必要な油圧室5bの圧力(以下、「第1油圧シリンダの作動圧力」)が、第2油圧シリンダ6A、6Bのピストンロッド6cを伸長させるために必要な油圧室6bの圧力(以下、「第2油圧シリンダの作動圧力」)よりも小さくなるように設定されている。具体的には、第1油圧シリンダ5の内径を第2油圧シリンダ6A、6Bの内径よりも大きくして、ピストンロッド5cの受圧面積をピストンロッド6cの受圧面積よりも大きくしている。これにより、油圧システム1Bでは、油圧装置10Bから作動油が供給されると、第1油圧シリンダ5のピストンロッド5cが先に伸長して(図4(B)参照)、その後に第2油圧シリンダ6A、6Bのピストンロッド6cが伸長する(図4(C)参照)といった所定の順序動作を確保している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開平11−228094号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、従来の油圧システム1Bでは、第1油圧シリンダ5が第1配管11を介して第2油圧シリンダ6Aに接続されているので、第1配管11における作動油の通流抵抗の影響を受けて、第1油圧シリンダ5の作動圧力が見かけ上大きくなってしまう。
【0010】
この通流抵抗は、例えば、作動油の平均流速が大きいほど大きくなる傾向にある。このため、従来の油圧システム1Bでは、リフトレバーが大きく倒された場合(リフトレバーの操作量が大きい場合)、油圧モータ16の回転数が上昇して作動油の平均流速が大きくなり、第1油圧シリンダ5の作動圧力と第2油圧シリンダ6A、6Bの作動圧力の大小関係が逆転しやすくなる。
【0011】
第1油圧シリンダ5の作動圧力と第2油圧シリンダ6A、6Bの作動圧力の大小関係が逆転して所定の順序動作が失われると、手動でリフトレバーの操作量を調節することにより、作動油の平均流速を調節する必要がある。このため、従来の油圧システム1Bでは、一旦所定の順序動作が失われると、所定の順序動作に復帰させるのに手間がかかってしまうという問題があった。
【0012】
なお、この問題は、第1油圧シリンダ5の内径をさらに大きくして、第1油圧シリンダ5の作動圧力をあらかじめ小さくしておくことで回避できるようにも思えるが、第1油圧シリンダ5の内径を大きくしすぎると、第1油圧シリンダ5が大型化してしまうため、前方視界の悪化やコストアップといった新たな問題が生じてしまう。また、第1油圧シリンダ5の内径を大きくする代わりに、第2油圧シリンダ6A、6Bの内径を小さくした場合は、耐久性の問題が生じてしまう。
【0013】
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであって、その課題とするところは、所定の順序動作が失われた場合であっても、容易に所定の順序動作に復帰させることができる油圧システムおよび該油圧システムを備えたフォークリフトを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記課題を解決するために、本発明に係る油圧システムは、フォーク付きのリフトブラケットを昇降させる第1油圧シリンダと、第1油圧シリンダが設けられたインナマストと、インナマストを昇降させる一対の第2油圧シリンダと、一対の第2油圧シリンダが設けられたアウタマストと、第1油圧シリンダおよび一対の第2油圧シリンダを接続する複数の配管と、該複数の配管を介して第1および第2油圧シリンダに作動油を供給する油圧装置とを備えた油圧システムであって、
複数の配管は、一対の第2油圧シリンダのうちの一方の第2油圧シリンダと第1油圧シリンダとを接続する第1配管と、一方の第2油圧シリンダと油圧装置とを接続する第2配管と、作動油の流量を規制する規制手段を介して、一対の第2油圧シリンダのうちの他方の第2油圧シリンダと油圧装置とを接続する第3配管と、を有し、
油圧装置は、第1油圧シリンダの動作量が上限に達したかどうかを検知する第1検知手段と、第2油圧シリンダの動作を検知する第2検知手段と、第1および第2検知手段の検知結果に基づいて第1および第2油圧シリンダが所定の順序で動作しているかどうかを判定する順序判定部と、順序判定部の判定結果に基づいて規制手段を制御する制御部と、を有し、
制御部は、順序判定部により第1および第2油圧シリンダが所定の順序で動作していないと判定されると、作動油の流量を規制させることを特徴とする。
【0015】
この構成によれば、何らかの要因で第1油圧シリンダの作動圧力と第2油圧シリンダの作動圧力の大小関係が逆転しても、制御部が規制手段を制御して他方の第2油圧シリンダに供給される作動油の流量を規制させるので、第2油圧シリンダの作動圧力が増加して、上記作動圧力の大小関係が回復する。したがって、この構成によれば、所定の順序動作が失われた場合であっても、容易に所定の順序動作に復帰させることができる。
【0016】
また、上記油圧システムは、第2検知手段が、アウタマストに対するインナマストの昇降を検知することで第2油圧シリンダの動作量を検知するエンコーダであり、制御部が、第1油圧シリンダの動作量が上限に達する前に、第2検知手段により予め定められた閾値を超える第2油圧シリンダの動作量が検知された場合、第2油圧シリンダの動作量が閾値以下になるように作動油の流量を規制させることが好ましい。
【0017】
この構成によれば、制御部は、第2油圧シリンダの動作量が予め定められた閾値以下になるように作動油の流量を規制させるので、第2油圧シリンダの作動圧力を適切に増加させることができ、より確実に所定の順序動作に復帰させることができる。
【0018】
また、上記課題を解決するために、本発明に係るフォークリフトは、上記いずれかの油圧システムを備えたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、所定の順序動作が失われた場合であっても、容易に所定の順序動作に復帰させることができる油圧システムおよび該油圧システムを備えたフォークリフトを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明に係る油圧システムを備えたフォークリフトの側面図である。
【図2】本発明に係る油圧システムの順序動作を示す概略側面図あって、(A)は第1および第2油圧シリンダが縮長した状態を示す図、(B)は第1油圧シリンダだけが伸長した状態を示す図、(C)は第1および第2油圧シリンダが伸長した状態を示す図である。
【図3】本発明に係る油圧システムの概略構成図である。
【図4】従来の油圧システムの順序動作を示す概略側面図あって、(A)は第1および第2油圧シリンダが縮長した状態を示す図、(B)は第1油圧シリンダだけが伸長した状態を示す図、(C)は第1および第2油圧シリンダが伸長した状態を示す図である。
【図5】従来の油圧システムの概略構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、添付図面を参照して、本発明に係る油圧システムおよびフォークリフトの好ましい実施形態について説明する。
【0022】
図1に、本発明の一実施形態に係る油圧システム1Aを備えたフォークリフト1の側面図を示す。同図に示すように、本実施形態に係る油圧システム1Aは、車体2の前部に取り付けられたアウタマスト3と、アウタマスト3の内側に設けられたインナマスト4とからなる2段式のマストを備えている。
【0023】
図2(A)に示すように、インナマスト4には、フォーク8付きのリフトブラケット7をチェーン21を介して昇降させる第1油圧シリンダ5が設けられており、第1油圧シリンダ5の上方には、チェーン21をかけるためのチェーンホイール20が設けられている。
【0024】
第1油圧シリンダ5には、該第1油圧シリンダ5の動作量が上限に達したかどうか(ピストンロッド5cが伸長しきったかどうか)を検知するためのセンサ17a(本発明の「第1検知手段」に相当)が設けられている。
【0025】
アウタマスト3には、上端がインナマスト4のアッパービーム4aに連結された左右一対の第2油圧シリンダ6A、6Bが設けられている。
【0026】
また、インナマスト4には、アウタマスト3に対するインナマスト4の上昇量から第2油圧シリンダ6A、6Bの動作量(ピストンロッド6cの動作量)を検知するためのロータリエンコーダ17b(本発明の「第2検知手段」に相当)が、インナマスト4とアウタマスト3に挟まれるように設けられている。なお、ロータリエンコーダ17bおよびセンサ17aは、後述する油圧装置10Aに含まれる。
【0027】
図3に示すように、第1油圧シリンダ5および第2油圧シリンダ6A、6Bは、それぞれ油圧シリンダ本体5a、6aと、該油圧シリンダ本体5a、6a内に形成された油圧室5b、6bと、油圧シリンダ本体5a、6aから伸長するピストンロッド5c、6cとを有している。第2油圧シリンダ6Aのピストンロッド6cには、作動油を通流させるための流路6dが形成されている。
【0028】
第1油圧シリンダ5の内径は第2油圧シリンダ6A、6Bの内径よりも大きく、ピストンロッド5cの受圧面積はピストンロッド6cの受圧面積よりも大きくなっている。このため、第1油圧シリンダ5の作動圧力は、第2油圧シリンダ6A、6Bの作動圧力よりも小さくなっている。なお、第2油圧シリンダ6Aの作動圧力と第2油圧シリンダ6Bの作動圧力は、実質的に同じ大きさになっている。
【0029】
第1油圧シリンダ5の油圧室5bは、第1配管11を介して第2油圧シリンダ6Aのピストンロッド6cに接続されている。第2油圧シリンダ6Aの油圧室6bは、第2配管12Aを介して油圧装置10Aに接続されている。また、第2油圧シリンダ6Bの油圧室6bは、第3配管12Bを介して油圧装置10Aに接続されている。
【0030】
第3配管12Bには、作動油の流量を規制する規制手段9が設けられている。規制手段9としては、弁を絞ることにより作動油の流量を0〜100%の間で規制する流量制御弁が用いられている。
【0031】
油圧装置10Aは、第1油圧シリンダ5および第2油圧シリンダ6A、6Bに作動油を供給するものであり、センサ17aおよびロータリエンコーダ17bに加えて、作動油の流れを制御するコントロールバルブ13と、作動油が貯留された作動油タンク14と、作動油タンク14の作動油を吸引して吐出する油圧ポンプ15と、油圧ポンプ15を駆動する油圧モータ16と、第1油圧シリンダ5および第2油圧シリンダ6A、6Bが所定の順序(第1油圧シリンダ5のピストンロッド5cが上限まで伸長した後に、第2油圧シリンダ6A、6Bのピストンロッド6cが伸長する順序)で動作しているかどうかを判定する順序判定部18と、順序判定部18の判定結果に基づいて規制手段9を制御する制御部19と、を有している。
【0032】
順序判定部18は、センサ17aおよびロータリエンコーダ17bから一定時間おきに送信された検知結果を受信して、第1油圧シリンダ5および第2油圧シリンダ6A、6Bが所定の順序で動作しているかどうかを判定する。具体的には、センサ17aにより第1油圧シリンダ5の動作量が上限に達していないことが検知され、かつロータリエンコーダ17bにより予め定められた閾値(好ましくはゼロ)を超える第2油圧シリンダ6A、6Bの動作量が検知された場合に、第1油圧シリンダ5および第2油圧シリンダ6A、6Bが所定の順序で動作していないと判定し、それ以外の場合に、第1油圧シリンダ5および第2油圧シリンダ6A、6Bが所定の順序で動作していると判定する。
【0033】
第1油圧シリンダ5および第2油圧シリンダ6A、6Bが所定の順序で動作していると判定された場合、制御部19は、規制手段9の弁が完全に開いた状態(流量100%)になるように制御する。一方、第1油圧シリンダ5および第2油圧シリンダ6A、6Bが所定の順序で動作していないと判定された場合、制御部19は、第2油圧シリンダ6A、6Bの動作量が閾値以下になるようにフィードバック制御して、規制手段9の弁を絞り、第2油圧シリンダ6Bの油圧室6bに供給される作動油の流量を規制させる。
【0034】
第1油圧シリンダ5は、図3に示すように、第1配管11を介して第2油圧シリンダ6Aに接続されているので、第1配管11における作動油の通流抵抗の影響を受けて、第1油圧シリンダ5の作動圧力が見かけ上大きくなる。
【0035】
ここで、配管における作動油の通流抵抗(摩擦による圧力損失)△p[MPa]は、作動油の動粘度に正比例する摩擦係数λ、作動油の密度ρ[kg/cm3]、配管の内径d[cm]、配管の長さL[cm]、および作動油の平均流速V[cm/sec]に基づいて、次式により算出することができる。
【数1】

また、作動油の摩擦係数λ(作動油の動粘度)は、作動油の温度と反比例の関係を有しており、作動油の平均流速Vは、油圧モータの回転数と正比例の関係を有している。したがって、上式から、作動油の温度が低下した場合や油圧モータの回転数が上昇した場合に、作動油の通流抵抗が増加してしまうことが分かる。作動油の通流抵抗が増加すると、所定の作動圧力の関係(第1油圧シリンダ5の作動圧力<第2油圧シリンダ6A、6Bの作動圧力)が逆転する場合がある。
【0036】
具体的には、作動油の通流抵抗の増加分が、第2油圧シリンダ6A、6Bの作動圧力と第1油圧シリンダ5の作動圧力の差分を超えた場合、所定の作動圧力の関係が逆転してしまう。この場合、所定の作動圧力の関係を回復させるためには、作動油の通流抵抗や第1油圧シリンダ5の作動圧力を減少させるか、第2油圧シリンダ6A、6Bの作動圧力を増加させる必要がある。
【0037】
この点、本実施形態に係る油圧システム1Aを備えたフォークリフト1では、所定の作動圧力の大小関係が逆転すると、制御部19が規制手段9の弁を絞り、第2油圧シリンダ6Bに供給される作動油の流量が規制される。これにより、第2油圧シリンダ6Bの作動圧力が増加するので、所定の作動圧力の大小関係が回復する。したがって、本実施形態に係る油圧システム1Aを備えたフォークリフト1によれば、第1油圧シリンダ5および第2油圧シリンダ6A、6Bにおける所定の順序動作が失われた場合であっても、容易に所定の順序動作に復帰させることができる。
【0038】
次に、第1油圧シリンダ5および第2油圧シリンダ6A、6Bにおける所定の順序動作について、図2(A)〜(C)および図3を参照して説明する。
【0039】
本実施形態に係る油圧システム1Aを備えたフォークリフト1では、図2(A)の状態において運転席のリフトレバーが操作されると、コントロールバルブ13が開状態となり、第1油圧シリンダ5および第2油圧シリンダ6A、6Bへの作動油の供給が可能となる。なお、この時点では、規制手段9の弁が完全に開いた状態(流量100%)になっている。
【0040】
油圧モータ16は、リフトレバーの操作量に応じて回転し、油圧ポンプ15は、作動油タンク14の作動油を吸引し、吐出する。油圧ポンプ15から吐出された作動油は、油圧モータ16の回転数に応じた平均流速で、第2配管12Aおよび第3配管12Bを介して第2油圧シリンダ6A、6Bの油圧室6bに供給されるとともに、第2油圧シリンダ6Aの流路6dおよび第1配管11を介して第1油圧シリンダ5の油圧室5bに供給される。
【0041】
少なくとも作動油が油圧室5b、6bに供給されている間は、センサ17aにより第1油圧シリンダ5のピストンロッド5cの動作量が上限に達したかどうかが検知され、かつロータリエンコーダ17bにより第2油圧シリンダ6A、6Bのピストンロッド6cの動作量が検知される。これらの検知結果は、一定時間おきに順序判定部18に送信される。
【0042】
ロータリエンコーダ17bにより検知された動作量が予め定められた閾値以下の場合、順序判定部18は、第1油圧シリンダ5および第2油圧シリンダ6A、6Bが所定の順序で動作していると判定し、制御部19は、規制手段9の状態(流量100%)が維持されるように制御する。その結果、図2(B)に示すように、第1油圧シリンダ5のピストンロッド5cのみが伸長して、フォーク8が上昇する。
【0043】
一方、ロータリエンコーダ17bにより検知された動作量が予め定められた閾値を超えた場合、すなわち、上記所定の作動圧力の関係が崩れ、第1油圧シリンダ5のピストンロッド5cが伸長しきる前に第2油圧シリンダ6A、6Bのピストンロッド6cが伸長し始めた場合、順序判定部18は、第1油圧シリンダ5および第2油圧シリンダ6A、6Bが所定の順序で動作していないと判定し、制御部19は、ロータリエンコーダ17bにより検知される動作量が閾値以下になるようにフィードバック制御して、規制手段9の弁を絞り、第2油圧シリンダ6Bの油圧室6bに供給される作動油の流量を規制させる。
【0044】
作動油の流量が規制されると、第2油圧シリンダ6Bの作動圧力が増加して、第2油圧シリンダ6Bのピストンロッド6cが縮長し始める。これにより、第2油圧シリンダ6Aのピストンロッド6cだけでインナマスト4を支えることになるので、第2油圧シリンダ6Aの作動圧力も見かけ上増加して、第2油圧シリンダ6Aのピストンロッド6cも縮長し始める。すなわち、作動油の流量が規制されることにより上記圧力関係が回復するので、第2油圧シリンダ6A、6Bのピストンロッド6cが縮長するとともに、図2(B)に示すように、第1油圧シリンダ5のピストンロッド5cのみが伸長して、フォーク8が上昇する。
【0045】
そして、第1油圧シリンダ5のピストンロッド5cの動作量が上限に達した後、さらに第2油圧シリンダ6A、6Bの油圧室6bに作動油が供給され、第2油圧シリンダ6A、6Bの油圧室6bの圧力が上昇して第2油圧シリンダ6A、6Bの作動圧力に達すると、図2(C)に示すように、第2油圧シリンダ6A、6Bのピストンロッド6cが伸長して、フォーク8がさらに上昇する。
【0046】
なお、このとき、ロータリエンコーダ17bにより閾値を超える動作量が検知されるが、センサ17aにより第1油圧シリンダ5のピストンロッド5cの動作量が上限に達したことも検知されるので、順序判定部18は、第1油圧シリンダ5および第2油圧シリンダ6A、6Bが所定の順序で動作していると判定し、制御部19は、規制手段9の弁が完全に開いた状態(流量100%)になるように制御する。
【0047】
結局、本実施形態に係る油圧システム1Aおよびフォークリフト1では、所定の作動圧力の関係が崩れても、制御部19が規制手段9を制御して第2油圧シリンダ6Bに供給される作動油の流量を規制させるので、第2油圧シリンダ6Bの作動圧力を上昇させることができ、所定の作動圧力の関係を回復させることができる。したがって、本実施形態に係る油圧システム1Aおよびフォークリフト1によれば、所定の順序動作が失われた場合であっても、容易に所定の順序動作に復帰させることができる。
【0048】
以上、本発明の好ましい実施形態について説明したが、本発明は上記構成に限定されるものではなく、種々の変形例が考えられる。
【0049】
例えば、上記実施形態では、アウタマスト3およびインナマスト4からなる2段式のマストを備えた油圧システム1Aを例に挙げて説明したが、2段式のマストに替えて図4に示すような3段式のマストを備えていてもよい。この場合、ロータリエンコーダ17bは、アウタマスト3に対するミドルマスト23の上昇量から間接的に第2油圧シリンダ6A、6Bの動作量(ピストンロッド6cの動作量)を検知することができるように、アウタマスト3とミドルマスト23との間に設けることが好ましい。
【0050】
また、上記実施形態では、第2検知手段として第2油圧シリンダ6A、6Bの動作量を検知するロータリエンコーダ17bを用いているが、これに替えて、他のエンコーダや、単に第2油圧シリンダ6A、6Bの動作を検知するリミットスイッチ等のセンサを用いてもよい。リミットスイッチを用いて作動油の流量を規制する場合、制御部19は、第2油圧シリンダ6Bの油圧室6bに供給される作動油の流量をあらかじめ設定された割合(例えば、50%)だけ規制させるように規制手段9の弁を絞ってもよいし、作動油の流量が0%になるように規制手段9の弁を完全に閉じてもよい。
【0051】
さらに、上記実施形態では、第1検知手段としてセンサ17aを用いているが、第1油圧シリンダ5の動作量が上限に達したかどうかを検知できるものであれば任意に変更することができる。
【0052】
また、センサ17a等の第1検知手段や、ロータリエンコーダ17b等の第2検知手段を設ける位置は任意に変更することができる。
【0053】
さらに、上記実施形態では、規制手段9として流量制御弁を用いているが、作動油の流量を規制できるものであれば任意に変更することができる。例えば、規制手段9としてON(流量100%)/OFF(流量0%)のみの切り替えが可能な弁を用いてもよい。
【符号の説明】
【0054】
1 フォークリフト
1A 油圧システム
2 車体
3 アウタマスト
4 インナマスト
5 第1油圧シリンダ
6A、6B 第2油圧シリンダ
7 リフトブラケット
8 フォーク
9 規制手段
10A 油圧装置
11 第1配管
12A 第2配管
12B 第3配管
13 コントロールバルブ
14 作動油タンク
15 油圧ポンプ
16 油圧モータ
17a センサ(第1検知手段)
17b ロータリエンコーダ(第2検知手段)
18 順序判定部
19 制御部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
フォーク付きのリフトブラケットを昇降させる第1油圧シリンダと、前記第1油圧シリンダが設けられたインナマストと、前記インナマストを昇降させる一対の第2油圧シリンダと、前記一対の第2油圧シリンダが設けられたアウタマストと、前記第1油圧シリンダおよび前記一対の第2油圧シリンダを接続する複数の配管と、該複数の配管を介して前記第1および第2油圧シリンダに作動油を供給する油圧装置とを備えた油圧システムであって、
前記複数の配管は、
前記一対の第2油圧シリンダのうちの一方の第2油圧シリンダと前記第1油圧シリンダとを接続する第1配管と、
前記一方の第2油圧シリンダと前記油圧装置とを接続する第2配管と、
前記作動油の流量を規制する規制手段を介して、前記一対の第2油圧シリンダのうちの他方の第2油圧シリンダと前記油圧装置とを接続する第3配管と、
を有し、
前記油圧装置は、
前記第1油圧シリンダの動作量が上限に達したかどうかを検知する第1検知手段と、
前記第2油圧シリンダの動作を検知する第2検知手段と、
前記第1および第2検知手段の検知結果に基づいて前記第1および第2油圧シリンダが所定の順序で動作しているかどうかを判定する順序判定部と、
前記順序判定部の判定結果に基づいて前記規制手段を制御する制御部と、
を有し、
前記制御部は、前記順序判定部により前記第1および第2油圧シリンダが前記所定の順序で動作していないと判定されると、前記作動油の流量を規制させることを特徴とする油圧システム。
【請求項2】
前記第2検知手段は、前記アウタマストに対する前記インナマストの昇降を検知することで前記第2油圧シリンダの動作量を検知するエンコーダであり、
前記制御部は、前記第1油圧シリンダの動作量が上限に達する前に、前記第2検知手段により予め定められた閾値を超える前記第2油圧シリンダの動作量が検知された場合、前記第2油圧シリンダの動作量が前記閾値以下になるように前記作動油の流量を規制させることを特徴とする請求項1に記載の油圧システム。
【請求項3】
請求項1または2に記載の油圧システムを備えたことを特徴とするフォークリフト。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate


【公開番号】特開2012−250819(P2012−250819A)
【公開日】平成24年12月20日(2012.12.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−125246(P2011−125246)
【出願日】平成23年6月3日(2011.6.3)
【出願人】(000232807)日本輸送機株式会社 (320)
【Fターム(参考)】