説明

油圧式パワーステアリングシステムの油圧コントローラ

【課題】油圧式パワーステアリングシステムの油圧コントローラにおいて、ハンドルスリップ現象を軽減するためのプラグ部材を安価に製作して、コストダウンを図る。
【解決手段】プラグ部材94をプレス加工可能な板材によって形成し、プラグ部材94の外周縁側に、該外周縁側とトロコイドロータ82との間に介在する環状のシール材97を嵌合させる環状のシール材嵌合部96を、該プラグ部材94を構成する板材をプレス加工によって凹ませることにより形成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば、トラクタや田植機などの農業機械(走行機械)の全油圧式パワーステアリングシステムに採用される油圧コントローラに関するものである。
【背景技術】
【0002】
通常、全油圧式パワーステアリングシステムはステアリングホイールを回すことにより油圧コントローラのバルブ装置を切替え、油圧ポンプから送られた圧油をステアリングホイールの回転量に応じてステアリングシリンダに送っている。
ステアリングホイールの操作時に、ステアリングシリンダがエンドに達した場合、又は、タイヤが障害物により動きを止められた場合、それ以上、ステアリングホイールが回らなくなる。
【0003】
しかし、油圧コントローラの構成部品には、隙間があるため、圧油の漏れが生じ、ステアリングホイールが少しずつ回転してしまう。この現象をハンドルスリップ現象といい、操縦者に不快感を与えないため、ある一定回転数以下であることが、全油圧式パワーステアリングシステムの性能の1つとして評価される。
前記ハンドルスリップ現象を軽減することができる油圧コントローラが特許文献1に開示されている。
【0004】
この油圧コントローラは、ステアリングホイールによって操作されて圧油の方向を切り替えるバルブ装置と、このバルブ装置と連動機構を介して連動していてステアリングホイールの操作量に対応した量の圧油をステアリングシリンダに送るべく吐出するメータリングポンプとを備え、メータリングポンプは、トロコイド歯形の内歯を有するトロコイドステータと、このトロコイドステータの内歯と噛み合うトロコイド歯形の外歯を有するトロコイドロータとを備え、前記トロコイドステータを、メータリングポンプに対する圧油の入出力ポートを備えたプレートと、メータリングポンプのカバーとの間に固定している。
【0005】
この油圧コントローラにあっては、ステアリングホイールの回転操作によってバルブ装置を操作すると、連動機構によってメータリングポンプのトロコイドロータを回転させてステアリングシリンダに対して圧油を吐出させる。
したがって、メータリングポンプの容積室の圧油がリークすると、トロコイドロータが動いて連動機構、バルブ装置を介してステアリングホイールが動いてしまう。
【0006】
そこで、トロコイドロータにブレーキ力を与えるために、前記カバーとトロコイドロータとの間にプラグ部材を設けている。
この油圧コントローラにあっては、前記プラグ部材とカバーとの間に存在する圧油によりプラグ部材でトロコイドロータを押圧して該トロコイドロータをプレートに押し付けることによりトロコイドロータにブレーキ力を与えるようにしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特許3180141号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
前記油圧コントローラにあっては、プラグ部材の外周縁部には、トロコイドロータ側からカバー側に向けて凹設状の環状のシール材嵌合部が段付き状に設けられている。
このシール材嵌合部はプラグ部材を構成する厚板材を切削することによって形成されており、プラグ部材は切削加工に不向きな形状であるためコスト高であるという問題がある。
【0009】
そこで、本発明は、プラグ部材の大幅なコストダウンを図ることを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
前記技術的課題を解決するために本発明が講じた技術的手段は、ステアリングホイール13によって操作されて圧油の方向を切り替えるバルブ装置9を備え、このバルブ装置9と連動機構23を介して連動していてステアリングホイール13の操作量に対応した量の圧油をステアリングシリンダSに送るべく吐出するメータリングポンプ10を備え、このメータリングポンプ10は、トロコイド歯形の内歯を有するトロコイドステータ81と、このトロコイドステータ81の内歯と噛み合うトロコイド歯形の外歯を有するトロコイドロータ82とを備え、前記トロコイドステータ81を、メータリングポンプ10に対する圧油の入出力ポート87を備えたプレート79と、メータリングポンプ10のカバー80との間に固定し、前記カバー80とトロコイドロータ82との間にプラグ部材94を設け、前記プラグ部材94とカバー80との間に存在する圧油によりプラグ部材94でトロコイドロータ82を押圧して該トロコイドロータ82をプレート79に押し付けることによりトロコイドロータ82にブレーキ力を与えるようにした油圧式パワーステアリングシステムの油圧コントローラにおいて、
前記プラグ部材94をプレス加工可能な板材によって形成し、
該プラグ部材94の外周縁側に、該外周縁側とトロコイドロータ82との間に介在する環状のシール材97を嵌合させる環状のシール材嵌合部96を、該プラグ部材94を構成する板材をプレス加工によって凹ませることにより形成したことを特徴とする。
【0011】
また、プラグ部材94に、トロコイドロータ82側からカバー80側に向けて突出する突部99を、プラグ部材94を構成する板材をプレス加工することによって形成するのがよい。
また、前記バルブ装置9をステアリングホイール13の回転操作によって回転操作されるロータリバルブによって構成し、連動機構23はバルブ装置9の回転動作に連動してトロコイドロータ82を回転させるためのシャフト76を備え、このシャフト76は、トロコイドロータ82の中心側に形成されたスプライン穴84にスプライン嵌合するスプライン軸部78を有し、プラグ部材94を前記スプライン穴84を塞ぐように設け、前記シール材嵌合部96をスプライン穴84の歯底円より径外側に位置するように設け、前記突部99をプラグ部材94の中心側に形成し、プラグ部材94はシール材嵌合部96と突部99との間でトロコイドロータ82を押圧するように構成するのがよい。
【0012】
また、 前記環状のシール材嵌合部96は、該プラグ部材94を構成する板材をトロコイドロータ82側からカバー80側に向けて凹ませることにより形成されているのがよい。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、プラグ部材の外周縁側に、該外周縁側とトロコイドロータとの間に介在する環状のシール材を嵌合させる環状のシール材嵌合部を、該プラグ部材を構成する板材をプレス加工によって凹ませることにより形成したので、プラグ部材を安価に製作することができ、コストダウンを図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】図8のA−A線矢視断面図である。
【図2】図8のB−B線矢視断面図である。
【図3】図8のC−C線矢視断面図である。
【図4】図8のD−D線矢視断面図である。
【図5】(a)は図1のE−E線矢視断面図、(b)は図1のF−F線矢視断面図である。
【図6】(a)は図1のG−G線矢視断面図、(b)は図1のH−H線矢視断面図図である。
【図7】(a)は図1のJ−J線矢視断面図、(b)は図1のK−K線矢視断面図図である。
【図8】(a)は油圧コントローラの右側面図、(b)は油圧コントローラの左側面図、(c)は油圧コントローラの背面図、(d)は油圧コントローラの図正面である。
【図9】本発明の要部の側面断面図である。
【図10】メータリングポンプの背面図である。
【図11】全油圧式パワーステアリングシステムの油圧回路図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施の形態を図面を参照して説明する。
図1〜8,図11において、符号1は、車両の全油圧式パワーステアリングシステムに採用される油圧コントローラ(パワステコントローラ)である。
先ず、この油圧コントローラ1を、図11の油圧回路を参照して概略説明する。
油圧コントローラ1は、油圧ポンプPからの圧油を入力するポンプポート2と、圧油をタンクTへと排出するためのタンクポート3と、ステアリングシリンダSの左側油室4Lに油圧ホース等の油圧管路を介して接続される第1シリンダポート5と、ステアリングシリンダSの右側油室4Rに油圧ホース等の油圧管路を介して接続される第2シリンダポート6とを有する。
【0016】
前記ステアリングシリンダSは、シリンダ内がピストン7によって左側油室4Lと右側油室4Rとに分けられ、左右操向輪のナックルアームに連動連結される左右一対のピストンロッド8L,8Rを有する。
また、油圧コントローラ1は、バルブ装置9(ステアリングバルブ)と、メータリングポンプ10と、リリーフ弁11と、チェック弁12とを有する。
【0017】
前記バルブ装置9は、ステアリングホイール13によって操作されて圧油の方向を切り替えるものであり、中立位置14と、通常操作位置15L,15Rと、エンド位置16L,16Rとに切替自在である。
より具体的には、ステアリングホイール13を左右一方に通常操作すると一方の通常操作位置15L,15Rに切り替わり、他方に通常操作すると他方の通常操作位置15L,15Rに切り替わる。また、ステアリングホイール13を左右一方にストロークエンドまで切ると一方のエンド位置16L,16Rに切り替わり他方にストロークエンドまで切ると他方のエンド位置16L,16Rに切り替わる。
【0018】
また、バルブ装置9は、ポンプポート2に給油路17を介して接続され、タンクポート3に排油路18を介して接続され、一対のメータリング油路19A,19Bによってメータリングポンプ10に接続され、第1出力路21を介して第1シリンダポート5に接続され、第2出力路22を介して第2シリンダポート6に接続されている。
前記メータリングポンプ10は、ステアリングホイール13の回転の度合いに応じた油量を計量してステアリングシリンダSに供給するものであり、このメータリングポンプ10はバルブ装置9と連動機構23を介して連動されていて、ステアリングホイール13の回転操作によってバルブ装置9を操作した際の該バルブ装置9の動きに連動して動くように構成されている。
【0019】
前記構成の油圧コントローラ1にあっては、バルブ装置9が中立位置14にあるときには、ポンプポート2から流入して給油路17を介してバルブ装置9に供給された圧油は、バルブ装置9内を通って排油路18に至りタンクポート3から排出される。
また、例えば、ステアリングホイール13を中立位置から左側に切ると、バルブ装置9は、中立位置14から一方の通常位置15L又は一方のエンド位置16Lに切り替わり、油圧ポンプPからの圧油が一方のメータリング油路19Aを介してメータリングポンプ10に供給され、該メータリングポンプ10から吐出した圧油は、他方のメータリング油路19Bから第2出力路22を経て第2シリンダポート6から出力されて、ステアリングシリンダSの右側油室4Rに供給される。一方、ステアリングシリンダSの左側油室4Lから排出された油は第1出力路21、排油路18、タンクポート3を経てタンクTドレンされる。これによって、操向輪が左側に操向操作される。
【0020】
また、ステアリングホイール13を中立位置から右側に切ると、バルブ装置9は、中立位置14から他方の通常位置15R又は他方のエンド位置16Rに切り替わり、油圧ポンプPからの圧油が前記他方のメータリング油路19Bを介してメータリングポンプ10に供給され、該メータリングポンプ10から吐出した圧油は、前記一方のメータリング油路19Aから第1出力路21を経て第1シリンダポート5から出力されて、ステアリングシリンダSの左側油室4Lに供給される。一方、右側油室4Rから排出された油は第2出力路22、排油路18、タンクポート3を経てタンクTドレンされる。これによって、操向輪が右側に操向操作される。
【0021】
前記リリーフ弁11は、油路を介して前記給油路17と排油路18とに接続されていて、給油路17の圧が設定圧以上になると開いて給油路17から排油路18へと圧油を逃がすように構成されている。
前記チェック弁12は、給油路17と排油路18とを接続する油路に、油圧ポンプPの駆動時は給油路17から排油路18への圧油流通を阻止し、油圧ポンプP停止時は排油路18から給油路17への圧油流通を許容できるように介装されている。
【0022】
次に、図1〜10を参照して、前記油圧コントローラ1の具体的構造を説明する。
油圧コントローラ1のバルブ装置9はロータリバルブからなり、バルブボディ24に貫通形成された弁孔25内に、該弁孔25と同心状で且つ軸心回りに回転自在に配置された筒体からなるスリーブ26と、このスリーブ26内に、該スリーブ26と同心状で且つ軸心回りに相対回転自在に配置されたスプール27とを有する。
【0023】
以下の説明において、弁孔25の軸心(ロータリバルブ9の回転軸心)方向一端側(図1において符号Xで示す)を前端側、該軸心方向他端側(図1において符号Yで示す)を後端側として説明する。
バルブボディ24には、弁孔25に平行な第1〜4油孔28,29,30,31が該バルブボディ24の後面から前方に向けて形成されている。
【0024】
また、バルブボディ24には、弁孔25に平行な軸方向流通路32が該バルブボディ24の後面から前方に向けて形成されている。この軸方向流通路32は弁孔25の周囲に、周方向に間隔をおいて複数(7つ)形成されている。
各軸方向流通路32は、前端側において第1連通孔33によって弁孔25に連通し、中途部において第2連通孔34によって連通している。
【0025】
また、弁孔25の内周面には第1〜4周溝36,37,38,39が前から後へと順に形成されている。
前記第1油孔28の前方には、該第1油孔28の前端から前方に延びる吸込油路40が形成され、この吸込油路40は第3連通孔41を介して前記第1周溝36に連通している。
【0026】
また、この吸込油路40は第1油孔28より径小に形成され、該吸込油路40と第1油孔28との接続部分に、第1油孔28から吸込油路40への圧油の流通を阻止し且つ吸込油路40から第1油孔28への圧油の流通を許容できるように前記チェック弁12が設けられている。
第1油孔28は前記チェック弁12より後方側で第4連通孔42を介して第3周溝38に連通している。
【0027】
また、第2油孔29は第5連通孔43を介して第1周溝36に連通し、第3油孔30は第6連通孔44を介して第4周溝39に連通し、第4油孔31は第7連通孔45を介して第2周溝37に連通している。
また、バルブボディ24には、前記リリーフ弁11が組み込まれている。
このリリーフ弁11は、バルブボディ24の前面から後方に向けて形成された第1装着孔46と、この第1装着孔46より径小に形成されていて該第1装着孔46から後方に延びる第2装着孔47と、第2装着孔47に前方側から挿入されたポペット48と、ポペット48を後方に付勢するように第1装着孔46内に設けられたスプリング49とを有する。
【0028】
第1装着孔46の前部側には、プラグ50がネジ着されている。
第1装着孔46は第8連通孔51を介して第1周溝36に連通され、第2装着孔47は第9連通孔52を介して第3周溝38に連通している。
スリーブ26の前端側には内外周溝53,54が形成され、これら内外周溝53,54は、スリーブ26に径方向貫通状に形成された第1通路56によって連通されていると共に、前記外周溝54は前記第1周溝36に連通している。
【0029】
前記第1通路56は、スリーブ26の周方向に間隔をおいて複数(図例では6つ)形成されている。
また、スリーブ26には、第1通路56の後方に径方向一対のピン支持孔57が径方向貫通状に形成されていると共に、このピン支持孔57の後方に、径方向貫通状の第2〜7通路58,59,60,61,62,63が後方に向けて順に形成されている。
【0030】
第2通路58は第2周溝37に連通し、第3通路59は第1連通孔33と前後方向に関して対応する位置に形成され、第4通路60及び第5通路61は第3周溝38に連通し、第6通路62は第2連通孔34と前後方向に関して対応する位置に形成され、第7通路63は第4周溝39に連通している。
また、第2通路58及び第7通路63は径方向一対形成され、第3〜6通路59,60,61,62は周方向に間隔をおいて複数(6つ)形成されている。
【0031】
スプール27は中空状に形成され、該スリーブ26の中空部64は、前端側が閉塞状で、後方に開口状とされている。
このスプール27の前端側には、バルブボディ24から前方に突出するように、スプライン軸部65が一体形成され、このスプライン軸部65に、ステアリングホイール13と一体回動するハンドル軸が連動連結されていて、ステアリングホイール13の回転操作に連動してスプール27が回転操作されるよう構成されている。
【0032】
また、スプール27の前部には、スリーブ26に形成された一対のピン支持孔57に対応する位置に形成されたピン挿通孔66が一対設けられている。
一方のピン支持孔57から他方のピン支持孔57にわたってスプール27の軸心に直交するように配置されたピン67が挿通されている。
ピン支持孔57はピンと略同径とされてピン67の端部側が内嵌され、ピン挿通孔66はピン支持孔57に対して径大であり、ピン67とピン挿通孔66との間の隙間分スプール27とスリーブ26とが相対回転可能とされている。
【0033】
また、ピン挿通孔66はスリーブ26の前記内周溝53に連通している。
また、前記ピン67の前方側において、スプール27とスリーブ26とにわたって板ばねからなるセンタリングバネ68が設けられており、スプール27が中立位置からスリーブ26に対して回転したときにセンタリングバネ68が弾性変形し、該センタリングバネ68によってスプール27に対してスリーブ26が中立位置に向けて付勢されて、スリーブ26がスプール27の回転に追従するようになっている。
【0034】
センタリングバネ68を挿通するバネ挿通孔は、スプール27及びスリーブ26を貫通して形成されている。
スプール27の外周面には、スリーブ26に形成された第3通路59に連通する第5周溝69と、中立時に第4通路60と第5通路61とを連通させる切欠溝70と、スリーブ26に形成された第6通路62に連通する第6周溝71とが形成されている。
【0035】
また、スプール27には、前記第2通路58と前後方向に関して対応する位置に設けられた第1の逃し孔72と、中立時に切欠溝70を介して第4通路60と第5通路61に連通する第2・3の逃し孔73,74と、前記第7通路63と前後方向に関して対応する位置に設けられた第4の逃し孔75とが径方向貫通形成されている。
スプール27の中空部64内には、該スプール27の軸心に対して傾斜して配置されたシャフト76が配置され、このシャフト76の前端側は二股状に形成され、この二股部77に前記ピン67が挿入されている。
【0036】
また、シャフト76の後端側は中空部64から後方に突出していると共に、該シャフト76後端側にスプライン軸部78が形成されている。
前記メータリングポンプ10はバルブボディ24の後面側に取付固定されている。
このメータリングポンプ10とバルブボディ24との間にはプレート79が介装され、メータリングポンプ10の後面側にはカバー80が配置されている。
【0037】
メータリングポンプ10は、トロコイド歯形の内歯を有するトロコイドステータ81と、このトロコイドステータ81の内歯と噛み合うトロコイド歯形の外歯を有するトロコイドロータ82とから主構成されたトロコイド式のロータリポンプからなる。
本実施形態では、トロコイドステータ81の歯数は7であり、トロコイドロータ82歯数は6であり、トロコイドステータ81とトロコイドロータ82との間には容積室83が形成されている。このメータリングポンプ10は、ステアリングホイール13の回転に連動するトロコイドロータ82の自公転運動によりステアリングホイール13の回転に応じた油量を計量(吐出)するようになっている。
【0038】
トロコイドロータ82の中心側にはスプライン穴84が形成されている。
バルブボディ24の後部、プレート79、トロコイドステータ81及びカバー80の外形状は同径の円柱状に形成されている。
トロコイドステータ81、カバー80及びプレート79は、後方からカバー80、トロコイドステータ81及びプレート79を貫通してバルブボディ24に形成されたネジ孔85に螺合されたボルト86によってバルブボディ24に取付固定されている。
【0039】
前記プレート79には、トロコイドステータ81の各歯底に対応する位置に、前後方向貫通状の入出力ポート87が形成され、各入出力ポート87はバルブボディ24に形成された前記軸方向流通路32に連通している。したがって、前記軸方向流通路32はトロコイドステータ81の各歯底の数に対応する数形成されている。
また、プレート79の中心側には前記シャフト76の後端側を挿通させるためのシャフト挿通孔88が形成され、シャフト76後端側のスプライン軸部78はトロコイドロータ82のスプライン穴84とスプライン嵌合している。
【0040】
したがって、ステアリングホイール13の回転操作によってスプール27が回転動作し、該スプール27の回転動作に追従してスリーブ26が回転すると、ピン67を介してシャフト76が偏心回転運動(すりこぎ運動)してトロコイドロータ82をトロコイドステータ81内で回転させるようになっている。
そして、ステアリングホイール13の回転操作量に連動してトロコイドロータ82が回転すると、隣接する3つの入出力ポート87が吸入側となってメータリングポンプ10内に圧油が吸入されると共に、他の隣接する3つの入出力ポート87が吐出側となってステアリングシリンダSに対して圧油が出力される。
【0041】
また、ステアリングホイール13の回転方向に応じてトロコイドロータ82の回転方向が変わることにより、吐出側と吸入側とが逆になる。
前記ピン67とシャフト76によって、メータリングポンプ10とバルブ装置9と連動する前記連動機構23が構成されている。
前記バルブボディ24に形成された前記第1〜4油孔28,29,30,31には、後方からカバー80、トロコイドステータ81及びプレート79を貫通して各油孔28,29,30,31の後端側に形成した雄ネジに螺合された第1〜4油圧継手89,90,91,92が接続され、第1油圧継手89の後端のポートがポンプポート2とされ、第2油圧継手90の後端のポートがタンクポート3とされ、第3油圧継手91の後端のポートが第1シリンダポート5とされ、第4油圧継手92の後端のポートが第2シリンダポート6とされている。
【0042】
前記構成の油圧コントローラ1にあっては、バルブ装置9の中立時にあっては、ポンプポート2から流入した油圧ポンプPからの圧油は、第1油圧継手89、第1油孔28、第4連通孔42、第3周溝38、第4、5通路60,61、第2・3の逃し孔73,74等を介して、スプール27の中空部64に入り、この中空部64からピン挿通孔66、内周溝53、第1通路56、外周溝54、第1周溝36、第5連通孔43、第2油孔29、第2油圧継手90等を介してタンクポート3から排出される。
【0043】
一方、ステアリングホイール13を左に切ったときは、スプール27の外周面に形成された油溝によって第4通路60が第6周溝71に連通し、他の油溝によって第5周溝69が第2通路58に連通する。
これによって、ポンプポート2からの圧油は、第4通路60から第6周溝71、第6通路62、第2連通孔34、軸方向流通路32、入出力ポート87を経てメータリングポンプ10の容積室83に入る。このとき、前述したように隣接する3つの入出力ポート87が吸入側となり、他の隣接する3つの入出力ポート87が吐出側となる。メータリングポンプ10から吐出された圧油は、入出力ポート87、軸方向流通路32、第1連通孔33、第3通路59、第5周溝69、第2通路58、第2周溝37、第7連通孔45、第4油孔31、第4油圧継手92を介して第2シリンダポート6から出力される。
【0044】
このとき、ステアリングシリンダSからの戻りの油は、第1シリンダポート5、第3油穴30、第6連通孔44、第4周溝39、第7通路63、第4逃し孔75を介してスプール27の中空部64内に至り、ここからタンクポート3へと流れる。
また、ステアリングホイール13を右に切ったときは、スプール27の外周面に形成された油溝によって第4通路60が第5周溝69に連通し、他の油溝によって第6周溝71が第7通路63に連通する。
【0045】
これによって、ポンプポート2からの圧油は、第4通路60から第5周溝69、第3通路59、第1連通孔33、軸方向流通路32、入出力ポート87を経てメータリングポンプ10の容積室83に入る。
すなわち、ステアリングホイール13を左に切ったときに対して、吸入側と吐出側とが逆転する。
【0046】
メータリングポンプ10から吐出された圧油は、入出力ポート87、軸方向流通路32、第2連通孔34、第6通路62、第6周溝71、第7通路63、第4周溝39、第6連通孔44、第3油孔30、第3油圧継手91を介して第1シリンダポート5から出力される。
このとき、ステアリングシリンダSからの戻りの油は第2シリンダポート6、第4油穴31、第7連通孔45、第2周溝37、第2通路58、第1逃し孔72を介してスプール27の中空部64内に至り、ここからタンクポート3へと流れる。
【0047】
前記トロコイドロータ82の後面中心側には、該トロコイドロータ82の中心を中心とする円形状の凹部93が後方から前方に向けて凹設することで形成されている。この凹部93は、スプライン穴84の歯底円よりも径大に形成されている。
この凹部93内には、スプライン穴84を後方から塞ぐように正面視円形状のプラグ部材94が設けられている。このプラグ部材94は、プレス加工可能な金属板材からなり、凹部93の内径と略同じ外径に形成されている。
【0048】
このプラグ部材94とスプライン軸部78との間にはヒラザガネ95が介装されている。
また、このプラグ部材94は、ステアリングシリンダSがエンドに達した場合や、タイヤが障害物により動きを止められた場合において、油圧コントローラ1の構成部品の圧油の漏れによってステアリングホイール13が少しずつ回転してしまうという、ハンドルスリップ現象を軽減すべくトロコイドロータ82にブレーキ力を与える役目を有する。
【0049】
すなわち、プラグ部材94の背面(後面)には、メータリングポンプ10の容積室83から漏れ出た油がトロコイドロータ82とカバー80との接当面間を流れて侵入する。
そして、ステアリングホイール13の操作時に、ステアリングシリンダSがエンドに達した場合、又は、タイヤが障害物により動きを止められた場合などにおいて、油圧コントローラ1のリリーフ弁11が開き、この油圧リリーフ時に、プラグ部材94の背面の油の圧が高圧となり、この圧油によってプラグ部材94が前方に押圧されることにより、該プラグ部材94がトロコイドロータ82をプレート79に押し付け、摩擦ブレーキ力を発生させる。これによって、ハンドルスリップ現象を軽減させるのである。
【0050】
また、プラグ部材94は、外周縁側に、プラグ部材94を構成する板材自体を全周にわたって後方側に凹ませることにより形成されたシール材嵌合部96が設けられており、このシール材嵌合部96の前面側にOリングからなるシール材97が嵌合されている(すなわち、本実施形態では、環状のシール材嵌合部96は、該プラグ部材94を構成する板材をトロコイドロータ82側からカバー80側に向けて凹ませることにより形成されている)。
【0051】
前記シール材嵌合部96はスプライン穴84の歯底円より径外側に位置するように設けられていて、前記シール材97は、スプライン穴84の歯底円よりも径外側で凹部93の奥面98に接当している。
また、プラグ部材94の中心側(中央部)には、該プラグ部材94を構成する板材自体を後方に向けて突出させることにより形成された球面状の突部99が設けられている。
【0052】
このプラグ部材94は、一枚の金属板材をプレス加工することにより、前記シール材嵌合部96及び突部99が形成されている(プラグ部材94はプレス加工によって成形されている)。
前記突部99を圧力(油圧)による押付力の方向に対し逆方向へ突起させるように設けることにより、プレス成形可能な金属板材でプラグ部材94を形成しても、該プラグ部材94の強度を確保することができる。
【0053】
また、突部99はスプライン穴84の刃先円の内側に対応する位置に位置していて、プラグ部材94によるトロコイドロータ82押圧に寄与しない部分に形成されているので、プラグ部材94の機能に問題はない。
また、突部99の形状は、球面状に限定されることはなく、例えば、有底円筒状であってもよい。
【0054】
プラグ部材94のシール材嵌合部96と突部99との間は、前後方向に直交する面に沿う平坦状の環状壁とされ、この環状壁がトロコイドロータ82を押圧する押圧部100とされており、この押圧部100は、トロコイドロータ82のスプライン穴84の歯の背面に接当している。
また、シール材嵌合部96を、プレス加工によってプラグ部材94を構成する板材自体を全周にわたって後方側に凹ませたことにより、押圧部100を背面側からみると、後方から前方に向けて凹んでおり(油溜まり空間が形成され)、該押圧部100とカバー80との間が、メータリングポンプ10の容積室83から漏れ出てトロコイドロータ82とカバー80との接当面間を流れる圧油が侵入する圧力室101となっている。
【0055】
そして、油圧リリーフ時に、この圧力室101内の圧が高圧となって、プラグ部材94によってトロコイドロータ82をプレート79に押し付ける押圧力が発生する。
シール材嵌合部96の後面はカバー80に接当しており、突部99の後端部は、本実施形態では、カバー80に接触していなく、若干隙間がある。なお、突部99の後端部はカバー80に接触するように構成されていてもよい。
【0056】
前記プラグ部材94はトロコイドロータ82と一緒に動く。
前記油圧コントローラ1にあっては、エンジンOFF時などにおいて、油圧ポンプPからの圧油の供給がなくなった際にも、ステアリングホイール13が動作するように、タンクT側の油を吸込油路40からチェック弁12を介して第1油孔28に流すことのできるハンドルポンプ性能を備えている。
【0057】
このハンドルポンプ性能を実現するための部品として、前記チェック弁12のボール102のほか、このボール102の可動域を制限する可動域制限要素103が設けられている。
この可動域制限要素103は、バルブボディ24の外周面から第1油孔28へと向けて形成され且つチェック弁12の後方近傍に形成されたネジ穴104にねじ込まれるネジ部材105と、このネジ部材105に固定されていて第1油孔28内に挿入され且つボール102の後方近傍に位置する棒状の制限部材106とから構成されている。
【0058】
ボール102の可動域を制限するための可動域制限要素を前後方向に長いプレートで構成し、このプレートを第1油孔28のボール102後方側に配置することも考えられるが、この可動域制限要素としてプレートを採用した場合、以下のような問題が発生することが考えられる。
(1)プレートは拘束されていないため、流体脈動や混入エア等の影響により該プレートが暴れ、摩耗を起こし、ボール102と第1油孔28の内面との間に入り込み、最終的にチェック弁12がチェック弁12としての機能を果たせなくなる。
(2)プレートはボール102と第1油圧継手89との間に位置するので、通常作動時において、プレートの向きや傾きによって圧力損失が大きく変化する惧れがある。
【0059】
なお、前記(1)については、プレートに熱処理を加えることや、第1油圧継手89の雄ネジ形成部分にスリットを入れて、そこにプレートを固定することにより、回避することも可能ではある。
本実施形態の油圧コントローラ1に採用された可動域制限要素103にあっては、ボール102と第1油孔28との間に入り込むことがなく、また、向きや傾きによる通常作動時の圧力損失の変動がなく、第1油孔28内のボール102と第1油圧継手89との間に長く存在しないので、通常作動時の圧力損失自体も小さくなる。
【符号の説明】
【0060】
9 バルブ装置
10 メータリングポンプ
13 ステアリングホイール
23 連動機構
76 シャフト
78 スプライン軸部
79 プレート
80 カバー
81 トロコイドステータ
82 トロコイドロータ
84 スプライン穴
87 入出力ポート
94 プラグ部材
96 シール材嵌合部
97 シール材
99 突部
S ステアリングシリンダ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ステアリングホイール(13)によって操作されて圧油の方向を切り替えるバルブ装置(9)を備え、このバルブ装置(9)と連動機構(23)を介して連動していてステアリングホイール(13)の操作量に対応した量の圧油をステアリングシリンダ(S)に送るべく吐出するメータリングポンプ(10)を備え、このメータリングポンプ(10)は、トロコイド歯形の内歯を有するトロコイドステータ(81)と、このトロコイドステータ(81)の内歯と噛み合うトロコイド歯形の外歯を有するトロコイドロータ(82)とを備え、前記トロコイドステータ(81)を、メータリングポンプ(10)に対する圧油の入出力ポート(87)を有するプレート(79)と、メータリングポンプ(10)のカバー(80)との間に固定し、前記カバー(80)とトロコイドロータ(82)との間にプラグ部材(94)を設け、前記プラグ部材(94)とカバー(80)との間に存在する圧油によりプラグ部材(94)でトロコイドロータ(82)を押圧して該トロコイドロータ(82)をプレート(79)に押し付けることによりトロコイドロータ(82)にブレーキ力を与えるようにした油圧式パワーステアリングシステムの油圧コントローラにおいて、
前記プラグ部材(94)をプレス加工可能な板材によって形成し、
該プラグ部材(94)の外周縁側に、該外周縁側とトロコイドロータ(82)との間に介在する環状のシール材(97)を嵌合させる環状のシール材嵌合部(96)を、該プラグ部材(94)を構成する板材をプレス加工によって凹ませることにより形成したことを特徴とする油圧式パワーステアリングシステムの油圧コントローラ。
【請求項2】
前記プラグ部材(94)に、トロコイドロータ(82)側からカバー(80)側に向けて突出する突部(99)を、プラグ部材(94)を構成する板材をプレス加工することによって形成したことを特徴とする請求項1に記載の油圧式パワーステアリングシステムの油圧コントローラ。
【請求項3】
前記バルブ装置(9)をステアリングホイール(13)の回転操作によって回転操作されるロータリバルブによって構成し、連動機構(23)はバルブ装置(9)の回転動作に連動してトロコイドロータ(82)を回転させるためのシャフト(76)を備え、このシャフト(76)は、トロコイドロータ(82)の中心側に形成されたスプライン穴(84)にスプライン嵌合するスプライン軸部(78)を有し、プラグ部材(94)を前記スプライン穴(84)を塞ぐように設け、前記シール材嵌合部(96)をスプライン穴(84)の歯底円より径外側に位置するように設け、前記突部(99)をプラグ部材(94)の中心側に形成し、プラグ部材(94)はシール材嵌合部(96)と突部(99)との間でトロコイドロータ(82)を押圧するように構成していることを特徴とする請求項2に記載の油圧式パワーステアリングシステムの油圧コントローラ。
【請求項4】
前記環状のシール材嵌合部(96)は、該プラグ部材(94)を構成する板材をトロコイドロータ(82)側からカバー(80)側に向けて凹ませることにより形成されていることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の油圧式パワーステアリングシステムの油圧コントローラ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2012−20705(P2012−20705A)
【公開日】平成24年2月2日(2012.2.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−161636(P2010−161636)
【出願日】平成22年7月16日(2010.7.16)
【出願人】(000001052)株式会社クボタ (4,415)
【Fターム(参考)】