説明

治具ユニット及びこれを用いた円周溶接装置

【課題】 ドラム缶等の天板に口金をシールドガスの雰囲気中でアークにより円周溶接する際に、アークの強烈な光を遮蔽すると共に、溶接部のシールド効果を高められるようにする。
【解決手段】 ドラム缶等の天板50の開口50a周縁部に口金51をシールドガスGの雰囲気中でアークにより円周溶接する際に用いる治具ユニット2であって、治具ユニット2は、天板50及び口金51を支持する下部治具2′と、下部治具2′との間で天板50の開口50a周縁部近傍を挾持固定する上部治具2″とから構成され、上部治具2″は、天板50の開口50a周縁部近傍に当接する環状の上部クランプ16と、上部クランプ16内に水平回転自在に配設され、溶接用トーチ28の先端部が挿入されるトーチ挿入用穴17aを有し且つ天板50と口金51の溶接個所周辺に溶接用トーチ28から放出されるシールドガスGを溜めるためのシールドガス空間Sを形成する円盤状の蓋体17とから成る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、主に石油製品や化学薬品、医薬品、食品、塗料等の各種液体や各種粉体を保管、運搬するのに適した密閉型のドラム缶やタンクの天板に形成した大径の開口及び小径の開口に、注入口を形成する筒状の大径の口金及び換気口を形成する筒状の小径の口金を夫々円周溶接により接合するようにした円周溶接装置に用いる治具ユニット及びこれを用いた円周溶接装置に係り、特に、天板の大小の開口周縁部と大小の口金とをアルゴンガス等のシールドガスの雰囲気中でアークにより円周溶接する際に、アークの強烈な光を遮蔽して作業者の目や皮膚を護ることができ、又、溶接用トーチから放出されるシールドガスを使用して溶接部のシールド効果を高め、溶接部の酸化を防止することができると共に、エネルギー密度の高い安定したアークが得られ、更に、溶接部の余分な熱を吸収して溶接による熱歪の抑制、ビードの溶け落ちや穴あきの防止を夫々図れるようにした治具ユニット及びこれを用いた円周溶接装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般に、石油製品や化学薬品、医薬品等の各種液体や粉体の保管、運搬には、ステンレス鋼板から成る密閉型のドラム缶やタンクが使用されている。
このようなステンレス製の密閉型のドラム缶やタンクは、鉄製のドラム缶やタンクに比較して高価であるため、一度内容物を入れて使用した後、内部を洗浄してから繰り返して使用するのが一般的である。
【0003】
従来、ステンレス製の密閉型のドラム缶は、円筒状の胴体の下端部と皿状の地板とを巻き締めや溶接等により結合すると共に、胴体の上端部と注入口及び換気口を有する天板とを巻き締め等により結合することにより作製されている。
又、ドラム缶の天板には、注入口を形成する筒状の大径の口金と換気口を形成する筒状の小径の口金とが設けられており、注入口を通じてドラム缶内への内容物の充填やドラム缶内の内容物の排出、ドラム缶内の洗浄等を行っている。
【0004】
前記注入口を形成する大径の口金や換気口を形成する小径の口金は、一般的に天板と別個に作製されており、図14に示す如く、天板100に形成した開口100aに天板100の表面側から口金101の端部を挿入し、天板100の開口100a周縁部と口金101の端部とを天板100の裏面側から円周溶接することにより天板100の開口100a周縁部に接合されている(例えば、特許文献1参照)。
【0005】
ところで、天板100の開口100a周縁部と口金101の端部とを溶接により接合する場合、天板100と口金101とを適当な治具(図示省略)により仮止めし、この状態でTIG溶接用トーチから天板100の開口100a周縁部及び口金101の端部へ向かってアルゴンガス等のシールドガスを流しながら、TIG溶接用トーチを天板100の開口100a及び口金101の端部に沿って旋回移動させつつ、天板100の開口100a周縁部と口金101の端部とをシールドガスの雰囲気中でアークにより円周溶接するようにしている。
【0006】
ところが、TIG溶接用トーチを用いるTIG溶接に於いては、TIG溶接用トーチに挿着したタングステン電極棒と溶接部材(天板100及び口金101)との間にアークが発生するため、アークからの強烈な光を作業員が直視することがあり、作業員の目に障害を引き起こすと云う問題があった。特に、アーク光は、強烈な可視光線の他に、目や皮膚に有害な紫外線と赤外線を含んでいるのでより一層問題である。
【0007】
又、TIG溶接用トーチを用いるTIG溶接に於いては、TIG溶接用トーチの先端に設けたシールドノズルから天板100の開口100a周縁部及び口金101の端部へ向かってシールドガスを流し、シールドガスの雰囲気中でアークにより天板100の開口100a周縁部と口金101の端部とを溶接するようにしているが、シールドノズルからただ単にシールドガスを拡散放出するだけであり、然も、溶接箇所の周囲が開放された状態になっているため、シールドガスにより溶融池への空気の侵入を完全に遮断し難く、シールドガスによるシールド効果が低下することになる。
その結果、溶接部が酸化すると共に、酸化した箇所を除去する作業が必要になって作業工程が増えるうえ、ピンホールやブローホール等の溶接欠陥を生じ易くなり、製品の品質が低下すると云う問題があった。
【0008】
更に、TIG溶接用トーチを用いるTIG溶接に於いては、シールドノズルからシールドガスを拡散放出するだけであるため、溶接時に発生したアーク周辺のシールドガスの濃度が低下し、エネルギー密度の高いアークが得られず、不安定なアークになると云う問題があった。この場合には、天板100の開口100a周縁部と口金101の端部とを溶接により接合した際に、部材の溶け込みが不十分となって天板100の開口100a周縁部表面側と口金101との間に隙間が形成されることになり、隙間腐蝕が発生すると云う問題があった。
【0009】
そのうえ、ドラム缶の天板100には、注入口を形成する大径の口金101と換気口を形成する小径の口金101を夫々溶接により固着しなければならせないが、従来のドラム缶の天板100に於いては、TIG溶接装置等を用いて注入口を形成する大径の口金101と換気口を形成する小径の口金101とを円周溶接により天板100に別々に取り付けているため、口金101の取り付けに手数と時間が掛かり、作業性に劣ると云う問題があった。
【特許文献1】特開2002−53132号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、このような問題点に鑑みて為されたものであり、その目的は、ドラム缶等の天板の開口周縁部と口金とをシールドガスの雰囲気中でアークにより円周溶接する際に、アークの強烈な光を遮蔽して作業者の目や皮膚を護ることがで、又、溶接用トーチから放出されるシールドガスを使用して溶接部のシールド効果を高め、溶接部の酸化を防止することができると共に、エネルギー密度の高い安定したアークが得られ、更に、溶接部の余分な熱を吸収して溶接による熱歪の抑制、ビードの溶け落ちや穴あきの防止を夫々図れ、然も、作業性に優れた治具ユニット及びこれを用いた円周溶接装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記目的を達成するために、本発明の請求項1の発明は、ドラム缶又は容器の天板に形成した開口に、天板の表面側から注入口又は換気口を形成する環状の口金の端部を挿入し、天板の裏面側から天板の開口周縁部及び口金の端部へ向かって溶接用トーチからシールドガスを流しながら、溶接用トーチを天板の開口及び口金の端部に沿って旋回移動させつつ、天板の開口周縁部に口金の端部をシールドガスの雰囲気中でアークにより円周溶接するようにした円周溶接装置に用いる治具ユニットであって、前記治具ユニットは、裏向けにした天板及び天板の開口に挿入した口金を下面側から支持する下部治具と、下部治具の上方位置に配設され、下部治具との間で天板の開口周縁部近傍を挾持固定する上部治具とから構成され、前記上部治具は、裏向けにした天板の開口周縁部近傍に上面側から面接触状態で当接する環状の上部クランプと、上部クランプ内に水平回転自在に配設され、外周縁部に溶接用トーチの先端部が挿入されるトーチ挿入用穴又はトーチ挿入用切欠を有すると共に、天板の開口周縁部及び口金との間に溶接用トーチから放出されるシールドガスを溜めて天板と口金の溶接個所周辺をシールドガスによりシールドするためのシールドガス空間を形成する円盤状の蓋体とから成り、当該蓋体がアークの光を遮蔽しつつ、溶接用トーチの旋回移動に伴って溶接用トーチと一緒に上部クランプ内で回転する構成としたことに特徴がある。
【0012】
本発明の請求項2の発明は、上部クランプの内周面に、蓋体の外周縁部が摺動回転自在に支持載置される段部を形成し、蓋体のトーチ挿入用穴又はトーチ挿入用切欠に挿入された溶接用トーチの旋回時に、蓋体がその外周縁部を上部クランプの段部に面接触させた状態で溶接用トーチと一緒に回転する構成としたことに特徴がある。
【0013】
本発明の請求項3の発明は、上部治具の上部クランプに冷却水が流れる冷却水通路を形成したことに特徴がある。
【0014】
本発明の請求項4の発明は、下部治具が、裏向けにした天板の開口周縁部近傍に下面側から面接触状態で当接して天板を支持する環状の下部クランプと、下部クランプ内に上下動自在に配設され、天板の開口に挿入した口金を支持する口金支持体と、口金支持体を上方へ附勢して口金の端部外周面に形成した位置決め用鍔部を天板の開口周縁部に圧接させる弾性体とから成り、天板の開口周縁部を下部クランプと上部治具の上部クランプとで挾持固定すると共に、口金の位置決め用鍔部を口金支持体及び弾性体により天板の開口周縁部に圧接させる構成としたことに特徴がある。
【0015】
本発明の請求項5の発明は、下部治具の下部クランプに冷却水が流れる冷却水通路を形成したことに特徴がある。
【0016】
本発明の請求項6の発明は、ドラム缶又は容器の天板に形成した大径の開口及び小径の開口に、天板の表面側から注入口を形成する大径の口金の端部及び換気口を形成する小径の口金の端部を夫々挿入し、天板の裏面側から天板の大径の開口周縁部に大径の口金の端部を、又、天板の裏面側から天板の小径の開口周縁部に小径の口金の端部を夫々シールドガスの雰囲気中でアークにより円周溶接するようにした円周溶接装置であって、前記円周溶接装置は、作業面を有するキャビネット本体と、キャビネット本体の作業面に配設され、裏向けにした天板の大径の開口周縁部近傍を挾持固定すると共に、天板の大径の開口に挿入した大径の口金を支持する請求項1乃至請求項5の何れかに記載の治具ユニットと、キャビネット本体の作業面に配設され、裏向けにした天板の小径の開口周縁部近傍を挾持固定すると共に、天板の小径の開口に挿入した小径の口金を支持する請求項1乃至請求項5の何れかに記載の治具ユニットと、キャビネット本体の作業面に設けられ、前記二つの治具ユニットを支持する治具支持機構と、キャビネット本体内に配設され、先端部からシールドガスを放出して天板の大径の開口周縁部に大径の口金の端部をシールドガスの雰囲気中でアークにより円周溶接する旋回自在な溶接用トーチを備えた溶接装置と、キャビネット本体内に配設され、先端部からシールドガスを放出して天板の小径の開口周縁部に小径の口金の端部をシールドガスの雰囲気中でアークにより円周溶接する旋回自在な溶接用トーチを備えた溶接装置とから構成されていることに特徴がある。
【発明の効果】
【0017】
本発明の治具ユニットは、次のような優れた効果を奏することができる。
(1)即ち、本発明の治具ユニットは、裏向けにした天板及び天板の開口に挿入した口金を下面側から支持する下部治具と、下部治具との間で天板の開口周縁部近傍を挾持する上部治具とから構成され、前記上部治具が、天板の開口周縁部近傍に上面側から面接触状態で当接する環状の上部クランプと、上部クランプ内に水平回転自在に配設され、外周縁部に溶接用トーチの先端部が挿入されるトーチ挿入用穴又はトーチ挿入用切欠を有すると共に、天板の開口周縁部及び口金との間に溶接用トーチから放出されるシールドガスを溜めて天板と口金の溶接個所周辺をシールドガスによりシールドするためのシールドガス空間を形成する円盤状の蓋体とから成り、当該蓋体が溶接用トーチの旋回移動に伴って溶接用トーチと一緒に上部クランプ内で回転する構成としているため、天板の開口周縁部に口金の端部を円周溶接する際に、上部治具の蓋体によりアークの光が遮蔽されることになり、作業員がアークからの強烈な光を直視したり、目や皮膚に有害な紫外線や赤外線を浴びたりすると云うことがなく、安全に溶接作業を行える。
(2)本発明の治具ユニットは、上部治具に溶接用トーチから放出されるシールドガスを溜めて天板と口金の溶接個所周辺をシールドガスによりシールドするシールドガス空間を形成しているため、溶融池及び溶接直後の溶接ビード部分への空気の侵入を確実且つ良好に遮断することができる。
その結果、本発明の治具ユニットを用いれば、シールドガスによる溶接部のシールド効果が大幅に高められることになり、溶接部の酸化を確実且つ良好に防止することができると共に、ピンホール等の溶接欠陥の無い溶接を行え、製品の大幅な品質向上を図れる。
(3)本発明の治具ニットは、上部治具に形成したシールドガス空間によりアーク周辺のシールドガスの濃度が高められるため、発生したアークがシールドガスによるサーマルピンチ効果により絞られてエネルギー密度の高い安定したアークとなり、溶接部材の溶け込みが大きくなって裏波が出易くなる。
その結果、本発明の治具ニットを用いれば、天板の開口周縁部と口金の端部とを円周溶接した際に、部材の溶け込みが十分に行われ、天板の開口周縁部表面側と口金との間に隙間が形成されると云うことがなく、隙間腐蝕の問題を解決することができると共に、天板と口金との接合部の強度が大幅にアップすることになる。
(4)本発明の治具ユニットは、蓋体に溶接用トーチの先端部が挿入されるトーチ挿入用穴又はトーチ挿入用切欠を有し、トーチ挿入用穴に挿入された溶接用トーチの先端部がシールドガス空間に臨む構成となっているため、溶接用トーチに挿着したタングステン電極棒周囲のシールドガスの濃度が高くなってタングステン電極棒が消耗し難くなり、タングステン電極棒の延命化を図れる。
(5)本発明の治具ユニットは、上部クランプの内周面に、蓋体の外周縁部が摺動回転自在に支持載置される段部を形成を形成し、蓋体のトーチ挿入用穴又はトーチ挿入用切欠に挿入された溶接用トーチの旋回時に、蓋体がその外周縁部を上部クランプの段部に面接触させた状態で溶接用トーチと一緒に回転する構成としているため、シールドガス空間内のシールドガスが外部へ逃げ難くなり、シールドガスによるシールド効果をより高めることができるうえ、構造も極めて簡単な構造となる。
(6)本発明の治具ユニットは、上部治具の上部クランプ及び下部治具の下部クランプに冷却水が流れる冷却水通路を形成しているため、天板の開口周縁部と口金の端部とを円周溶接する際に、上部クランプ及び下部クランプにより溶接部が確実且つ良好に冷却され、溶接部の熱歪が大幅に抑制されると共に、ビートの溶け落ちや穴あきが確実に防止されることになる。
(7)本発明の治具ユニットは、下部治具が、裏向けにした天板の開口周縁部近傍に下面側から面接触状態で当接して天板を支持する環状の下部クランプと、下部クランプ内に上下動自在に配設され、天板の開口に挿入した口金を支持する口金支持体と、口金支持体を上方へ附勢して口金の端部外周面に形成した位置決め用鍔部を天板の開口周縁部に圧接させる弾性体とから成り、天板の開口周縁部を下部クランプと上部治具の上部クランプとで挾持固定すると共に、口金の位置決め用鍔部を口金支持体及び弾性体により天板の開口周縁部に圧接させる構成としているため、天板の開口周縁部と口金の端部とを円周溶接する際に、天板の開口周縁部と口金とを隙間無く確実に且つ良好に密着させることができ、溶接欠陥の無い円周溶接を行える。
【0018】
本発明の円周溶接装置は、キャビネット本体と、キャビネット本体に配設され、天板の大径の開口周縁部近傍を挾持固定すると共に、天板の大径の開口に挿入した大径の口金を支持する治具ユニットと、キャビネット本体に配設され、天板の小径の開口周縁部近傍を挾持固定すると共に、天板の小径の開口に挿入した小径の口金を支持する治具ユニットと、キャビネット本体に設けられ、前記両治具ユニットを支持する治具支持機構と、キャビネット本体内に配設され、先端部からシールドガスを放出して天板の大径の開口周縁部に大径の口金の端部をシールドガスの雰囲気中でアークにより円周溶接する旋回自在な溶接用トーチを備えた溶接装置と、キャビネット本体内に配設され、先端部からシールドガスを放出して天板の小径の開口周縁部に小径の口金の端部をシールドガスの雰囲気中でアークにより円周溶接する旋回自在な溶接用トーチを備えた溶接装置とから構成されているため、天板の大径の開口に注入口を形成する大径の口金を、又、天板の小径の開口に換気口を形成する小径の口金を円周溶接により同時に固着することができ、天板への複数個の口金の取り付けを短時間で行え、作業性に優れている。
更に、本発明の円周溶接装置は、アークの光を遮蔽してシールドガスによるシールドガス効果を高められる治具ユニットを備えているため、天板の開口周縁部と口金とを円周溶接する際に、強烈なアーク光から作業者の目や皮膚を護ることがで、又、溶接部の酸化を防止することができると共に、エネルギー密度の高い安定したアークが得られ、更に、溶接部の余分な熱を吸収して溶接による熱歪の抑制、ビードの溶け落ちや穴あきの防止を夫々図ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
図1及び図2は本発明の実施の形態に係る治具ユニット及びこれを用いた円周溶接装置を示し、当該円周溶接装置は、ステンレス製の密閉型のドラム缶(又はタンク)の天板50の大径の開口50a及び小径の開口50aに、注入口を形成する大径の口金51及び換気口を形成する小径の口金51を夫々円周溶接により同時に固着することができるようになっている。
【0020】
即ち、前記円周溶接装置は、図1及び図2に示す如く、前面側に水平な作業面1aを有するキャビネット本体1と、キャビネット本体1の作業面1aに配設され、裏向けにした天板50の大径の開口50a周縁部近傍を上下方向から挾持固定すると共に、天板50の大径の開口50aに挿入した大径の口金51を支持する治具ユニット2と、キャビネット本体1の作業面1aに配設され、裏向けにした天板50の小径の開口50a周縁部近傍を上下方向から挾持固定すると共に、天板50の小径の開口50aに挿入した小径の口金51を支持する治具ユニット2と、キャビネット本体1の作業面1aに設けられ、前記二つの治具ユニット2を支持する治具支持機構3と、キャビネット本体1内に配設され、先端部からシールドガスGを放出して天板50の大径の開口50a周縁部に大径の口金51の端部をシールドガスGの雰囲気中でアークにより円周溶接する旋回自在な溶接用トーチ28を備えた溶接装置4と、キャビネット本体1内に配設され、先端部からシールドガスGを放出して天板50の小径の開口50a周縁部に小径の口金51の端部をシールドガスGの雰囲気中でアークにより円周溶接する旋回自在な溶接用トーチ28を備えた溶接装置4とから構成されている。
【0021】
尚、ドラム缶の天板50に取り付けられる注入口を形成する環状の大径の口金51及び換気口を形成する環状の小径の口金51は、何れも図7に示すように一端部外周面に天板50の開口50a周縁部に当接する環状の位置決め用鍔部51aを有すると共に、他端部外周面に天板50に対向するフランジ部51bを備えており、環状の位置決め用鍔部51aを形成した端部が天板50の表面側から天板50に形成した大径の開口50a及び小径の開口50aに夫々挿入され、円周溶接により天板50の開口50a周縁部に固着されている。
又、大径の口金51及び小径の口金51は、何れも内周面に雌ネジが形成された内ネジタイプの口金51に形成されている。
【0022】
前記キャビネット本体1は、図1及び図2に示す如く、底面側に複数のキャスター5及び支持脚6を有し、前面側の略上半分が前方へ開放された格好になっており、キャビネット本体1内の前面側中間部位置には、二つの治具ユニット2及びこれらを支持する治具支持機構3が設置される水平な作業面1aが形成されていると共に、キャビネット本体1内の前面側上部位置には、二台の溶接装置4の溶接条件や電極位置等を設定するタッチパネル式の操作盤7が設けられている。
又、キャビネット本体1の内部には、溶接用電源装置8及びその制御装置(図示省略)、溶接用ガスボンベ(図示省略)及びその附属品(図示省略)、治具ユニット2へ供給される冷却水を作るチラーユニット9、蛍光灯10等が夫々格納されている。
【0023】
前記二つの治具ユニット2は、裏向けにした天板50の大径の開口50a周縁部近傍及び天板50の小径の開口50a周縁部近傍を夫々上下方向から挾持固定すると共に、天板50の大径の開口50aに挿入した大径の口金51及び天板50の小径の開口50aに挿入した小径の口金51を夫々支持するものであり、天板50の大径の開口50a周縁部に大径の口金51の端部を、又、天板50の小径の開口50a周縁部に小径の口金51の端部を夫々アルゴンガス等のシールドガスGの雰囲気中でアークにより円周溶接する際に、アークの強烈な光を遮蔽すると共に、溶接用トーチ28から放出されるシールドガスGを使用して溶接部のシールド効果を高め、且つ溶接部の余分な熱を吸収するようにしたものである。
【0024】
尚、二つの治具ユニット2は、何れも同じ部材及び同じ部品により同一の構造に構成されており、大きさが異なるだけであるため、ここでは片方の治具ユニット2(天板50の小径の開口50a周縁部近傍を上下方向から挾持固定して小径の口金51を支持する治具ユニット2)のみについて説明し、他方の治具ユニット2(天板50の大径の開口50a周縁部近傍を上下方向から挾持固定して大径の口金51を支持する治具ユニット2)については、同じ部材・部品には同一の参照番号を付し、その詳細な説明を省略する。
【0025】
前記治具ユニット2は、図3、図6及び図7に示す如く、裏向けにした天板50の小径の開口50a周縁部及び天板50の小径の開口50aに挿入した小径の口金51を下面側から支持する下部治具2′と、下部治具2′の上方位置に対向状に配設され、下部治具2′との間で天板50の開口50a周縁部近傍を上下方向から挾持固定する上部治具2″とから構成されている。
【0026】
即ち、下部治具2′は、図7に示す如く、裏向けにした天板50の開口50a周縁部近傍に下面側から面接触状態で当接して天板50を支持する環状の下部クランプ11と、下部クランプ11内に上下動自在に配設され、天板50の開口50aに挿入した口金51を支持する口金支持体12と、口金支持体12を上方へ附勢して口金51の端部外周面に形成した位置決め用鍔部51aを天板50の開口50a周縁部に圧接させる弾性体13とから成り、天板50の開口50a周縁部を下部クランプ11と上部治具2″の上部クランプとで挾持固定すると共に、口金51の位置決め用鍔部51aを口金支持体12及び弾性体13により天板50の開口50a周縁部に圧接させる構成となっている。
【0027】
具体的には、下部クランプ11は、後述する治具支持機構3の下部プレート24上面にボルト15により固定され、アルミ合金等の金属材により形成された有底筒状のフランジ付きの下部ベース11aと、下部ベース11aの上面にボルト15により固定され、天板50の開口50a周縁部に下面側から面接触状態で当接する熱伝導性に優れた銅材により形成された環状の下部クランプ材11bとから成り、下部クランプ材11bの下面には、冷却水が流れる略環状の冷却水通路11cが形成されていると共に、下部ベース11aには、冷却水通路11cに連通する冷却水入口11d及び冷却水出口(図示省略)が夫々形成されている。
【0028】
口金支持体12は、アルミ合金等の金属材により略凸状に形成されており、下部クランプ11内に上下方向へ摺動自在に挿入されて口金51を支持する筒部12aと、筒部12aの上端部に連設されて口金51内に挿入される軸部11bとから成る。
この口金支持体12は、下部クランプ11内に上下動自在に挿入されており、軸部11bと下部ベース11aの底壁部分との間に介設した圧縮コイルスプリングから成る弾性体13により上方へ附勢されていると共に、下部ベース11aの底壁部分に上下動自在に挿通されて軸部に螺着した抜け止めボルト14により抜け止めされている。
尚、弾性体13の附勢力(弾性力)は、口金支持体12に口金51を介して天板50の荷重が掛かったときに口金支持体12が弾性体13の弾性力に抗して下降するように設定されている。
【0029】
一方、上部治具2″は、図7に示す如く、裏向けにした天板50の開口50a周縁部近傍に上面側から面接触状態で当接する環状の上部クランプ16と、上部クランプ16内に水平回転自在に配設され、外周縁部に溶接用トーチ28の先端部が挿入されるトーチ挿入用穴17aを有すると共に、天板50の開口50a周縁部及び口金51との間に溶接用トーチ28から放出されるシールドガスGを溜めて天板50と口金51の溶接個所周辺をシールドガスGによりシールドするためのシールドガス空間Sを形成する円盤状の蓋体17とから成り、当該蓋体17がアークの光を遮蔽しつつ、溶接用トーチ28の旋回移動に伴って溶接用トーチ28と一緒に上部クランプ16内で回転する構成となっている。
【0030】
具体的には、上部クランプ16は、後述する治具支持機構3の上部プレート25下面にボルト15により固定され、アルミ合金等の金属材により形成された環状の上部ベース16aと、上部ベース16aの下面にボルト15により固定され、天板50の開口50a周縁部近傍に上面側から面接触状態で当接する熱伝導性に優れた銅材により形成された環状の上部クランプ材16bとから成り、上部クランプ材16bの上面には、冷却水が流れる略環状の冷却水通路16cが形成されていると共に、上部ベース16aには、冷却水通路16cに連通する冷却水入口16d及び冷却水出口(図示省略)が夫々形成されている。
又、上部クランプ材16bの内径は、上部ベース16aの内径よりも小径に形成されている。そのため、上部クランプ16の内周面には、段部16eが形成された格好になっている。
【0031】
蓋体17は、セラミック材又はアルミ合金材等の金属材により円盤状に形成されており、その外周縁部が上部クランプ16の段部16eに摺動回転自在に支持載置されている。
又、蓋体7の外周縁部には、溶接用トーチ28の先端部が挿入されるトーチ挿入用穴17aが形成されていると共に、蓋体7の外周面には、上部クランプ16の段部16eに面接触状態で摺動回転自在に支持される環状の鍔部17bが形成されている。
この蓋体17は、その鍔部17bが上部クランプ16の段部16eに摺動回転自在に支持された状態で上部クランプ16内に水平回転自在に配設されており、天板50の開口50a周縁部及び口金51との間に溶接用トーチ28から放出されるシールドガスGを溜めて天板50と口金51の溶接個所周辺をシールドガスGによりシールドするためのシールドガス空間Sを形成するようになっている。
又、蓋体17は、トーチ挿入用穴17aに挿入された溶接用トーチ28の旋回時に、アークの光を遮蔽しつつ、溶接用トーチ28の旋回移動に伴って溶接用トーチ28と一緒に上部クランプ16内で回転するようになっている。
【0032】
前記治具支持機構3は、図1乃至図6に示す如く、二つの治具ユニット2の上部治具2″をキャビネット本体1の作業面1aから同じ高さ位置に支持すると共に、二つの治具ユニット2の下部治具2′を二つの上部治具2″に対向する状態で上下動自在に支持するものであり、二つの下部治具2′を、二つの上部治具2″から夫々離間させて二つの下部治具2′に天板50及び大小の口金51をセットすることができるセット位置(図1、図2、図3及び図4に示す位置)と、二つの上部治具2″に近接させて二つの下部治具2′に支持された天板50の大径の開口50a周縁部近傍及び小径の開口50a周縁部近傍を上部治具2″及び下部治具2′により夫々上下方向から挾持固定することができる溶接作業位置(図6及び図7に示す位置)とに亘って上下動させることができるようになっている。
【0033】
即ち、治具支持機構3は、図3乃至図6に示す如く、キャビネット本体1の作業面1aにボルト15により固定した長方形状のベース18と、ベース18の四隅に立設した支柱19と、各支柱19の上端部にベース18に対向する状態で固定され、二台の溶接装置4の溶接用トーチ28が夫々旋回移動可能に挿通される二つの長穴20aを形成した長方形状の支持プレート20と、ベース18の上面に配置された昇降プレート21と、ベース18の下面側に取り付けられ、昇降プレート21を昇降動させる流体圧シリンダ22と、昇降プレート21の上面に位置決めキー23を介して位置決めされた下部プレート24と、支持プレート20の下面側にボルトにより固定され、支持プレート20の二つの長穴20aに合致して二台の溶接装置4の溶接用トーチ28が夫々旋回移動可能に挿通される二つの円形穴25aを形成した上部プレート25と、下部プレート24の両端部に立設されたガイドポスト26と、支持プレート20の両端部下面に固定され、ガイドポスト26が摺動自在に嵌合されるガイドホルダー27とから構成されており、上部プレート25の下面側で且つ二つの円形穴25aの周縁部には、上部治具2″が夫々ボルト15により固定され、又、下部プレート24の上面には、下部治具2′が上部プレート25の上部治具2″に対向する状態で夫々ボルト15により固定されている。
【0034】
而して、この治具支持機構3によれば、流体圧シリンダ22を伸長動作させると、昇降プレート21及び下部プレート24がガイドポスト26及びガイドホルダー27に案内されながら上昇して下部プレート24に固定した二つの下部治具2′が溶接作業位置(図6に示す位置)に上昇し、又、流体圧シリンダ22を短縮動作させると、昇降プレート21及び下部プレート24がガイドポスト26及びガイドホルダー27に案内されながら下降して下部プレート24に固定した二つの下部治具2′がセット位置(図3に示す位置)に下降するようになっている。
【0035】
尚、二つの下部治具2′及び二つのガイドポスト26を固定した下部プレート24と、二つの上部治具2″及び二つのガイドホルダー27を固定した上部プレート25とは、ドラム缶の天板50の大きさに応じて交換可能になっており、下部プレート24には、二つの下部治具2′の間隔を変えた3組の下部プレート24が、又、上部プレート25には、二つの上部治具2″の間隔を変えた3組の上部プレート25が夫々用意されている。
【0036】
前記二台の溶接装置4は、図1及び図2に示す如く、キャビネット本体1内に一定の間隔を空けて対向状に配設されており、天板50の大径の開口50a周縁部に大径の口金51の端部を、又、天板50の小径の開口50a周縁部に小径の口金51の端部を夫々シールドガスGの雰囲気中でアークにより円周溶接するものである。これらの溶接装置4には、何れもTIG溶接装置が夫々使用されている。
【0037】
尚、二台の溶接装置4は、何れも同じ構成及び同じ構造に構成されているため、ここでは片方の溶接装置4のみについて説明し、他方の溶接装置4については、同じ部材・部品には同一の参照番号を付し、その詳細な説明を省略する。
【0038】
前記溶接装置4は、図8乃至図12に示す如く、先端部からアルゴンガス等のシールドガスGを流すと共に、タングステン電極棒28bを挿着した溶接用トーチ28と、溶接用トーチ28を旋回自在及び左右方向へ移動調整自在並びに高さ調整自在に支持するトーチ旋回ユニット29と、溶接用電源装置8と、溶接用ガスボンベ(図示省略)等から構成されており、天板50の開口50aに口金51を溶接する際に、溶接用トーチ28が溶接位置(図6及び図7に示す位置)にある天板50及び口金51の位置まで下降し、この位置で溶接用トーチ28が先端部からシールドガスGを流しながら、所定の速度で天板50の開口50a及び口金51の端部に沿って旋回移動しつつ、天板50の開口50a周縁部と口金51の端部とをシールドガスGの雰囲気中でアークにより円周溶接するようになっている。
【0039】
前記溶接用トーチ28は、図8及び図9に示す如く、絶縁材製のトーチボディ28a内にタングステン電極棒28bを保持固定する銅製のコレット(図示省略)を上下動自在に挿着すると共に、トーチボディ28aの先端部にアルゴンガス等のシールドガスGを放出する筒状のシールドノズル28cを取り付けた構造になっており、タングステン電極棒28bがその先端部をシールドノズル28cから数mm突出させた状態でコレットに保持固定されている。この溶接用トーチ28には、従来公知のTIG溶接用トーチが使用されている。
【0040】
前記トーチ旋回ユニット29は、治具支持機構3に設けた上部治具2″及び下部治具2′により溶接位置(図6及び図7に示す位置)に保持固定された天板50の開口50a周縁部に口金51の端部を溶接する際に、溶接用トーチ28を溶接位置近傍まで下降させ、その位置で溶接用トーチ28を所定の速度で天板50の開口50a及び口金51の端部に沿って旋回移動させるものであり、溶接用トーチ28を旋回自在及び左右方向へ移動調整自在並びに高さ調整自在に支持できるように構成されている。
【0041】
即ち、トーチ旋回ユニット29は、図8乃至図11に示す如く、キャビネット本体1内に配設した支持フレーム30と、支持フレーム30に2本の前後方向のガイド軸31を介してキャビネット本体1の前後方向(図2の左右方向及び図11の上下方向)へ水平移動自在に支持された枠体32と、枠体32の横向きのガイド軸32aにキャビネット本体1の左右方向(図1の左右方向及び図11の左右方向)へ水平移動自在に支持された旋回台33と、支持フレーム30に鉛直姿勢で固定され、出力軸34aが上向きの旋回駆動用モータ34と、旋回駆動用モータ34の出力軸34aに水平姿勢で取り付けられ、旋回駆動用モータ34の出力軸34aを中心にして旋回する旋回用ガイド体35と、旋回用ガイド体35にアリ型のガイドレール35aを介して旋回用ガイド体35の長手方向に沿って往復移動自在に支持され、所定の位置で旋回用ガイド体35側へロックできると共に、旋回台33の下面側に軸36及びベアリング37を介して回転自在に連動連結された旋回用スライダ38と、旋回台33の上面にキャビネット本体1の前後方向へ沿う姿勢で固定された水平姿勢のガイド体39と、ガイド体39にガイドレール(図示省略)を介してガイド体39の長手方向に沿って往復移動自在に支持され、所定の位置でガイド体39側へロックできる前後移動用スライダ40と、前後移動用スライダ40の上面にキャビネット本体1の前後方向へ沿う姿勢で固定された水平姿勢の支持アーム41と、支持アーム41の先端部にキャビネット本体1の左右方向へ沿う姿勢で固定された水平姿勢の横ガイド体42と、横ガイド体42の前面にガイドレール42aを介して横ガイド体42の長手方向に沿って往復移動自在に支持され、所定の位置で止められる横移動用スライダ43と、横移動用スライダ43に螺挿され、横ガイド体42にガイドレール42aに沿う姿勢で回転自在に支持された横ネジ軸44と、横ガイド体42に設けられ、横ネジ軸44を正逆回転させる横移動用モータ45と、横移動用スライド43の前面に縦向き姿勢で固定された縦ガイド体46と、縦ガイド体46にガイドレール46aを介して昇降自在に支持され、先端部に溶接用トーチ28を鉛直姿勢で支持するトーチ支持部材47と、トーチ支持部材47に螺挿され、縦ガイド体46にガイドレール46aに沿う姿勢で回転自在に支持された縦ネジ軸48と、縦ガイド体46に設けられ、縦ネジ軸48を正逆回転させる縦移動用モータ49とから構成されている。
【0042】
而して、このトーチ旋回ユニット29によれば、旋回用ガイド体35を旋回駆動用モータ34により旋回させると、旋回用ガイド体35の所定の位置にロックされた旋回用スライダ38が縦軸36及びベアリング37を介して旋回台33に連動連結されていると共に、旋回台33が枠体32の横向きのガイド軸32aにキャビネット本体1の左右方向へ移動自在に支持され、且つ枠体32が前後方向のガイド軸31にキャビネット本体1の前後方向へ移動自在に支持されていることとも相俟って、旋回台33が旋回駆動用モータ34の出力軸34aを中心にして旋回することになる。
その結果、旋回台33の上面にガイド体39及び前後移動用スライダ40を介して取り付けた支持アーム41も旋回台33と一緒に旋回すると共に、支持アーム41の先端部に設けた横ガイド体42、横移動用スライダ43、縦ガイド体46及びトーチ支持部材47等も旋回台33と一緒に旋回し、トーチ支持部材47に鉛直姿勢で取り付けた溶接用トーチ28が天板50の開口50a及び口金51の端部に沿って旋回移動することになる。
【0043】
尚、このトーチ旋回ユニット29は、旋回用スライダ38を旋回用ガイド体35に沿って移動させ、旋回駆動用モータ34の軸線と旋回用スライダ38の上面に固定した軸36との間隔Lを変えることによって、溶接用トーチ28の旋回半径を調整することができるようになっている。
この実施の形態では、片方の溶接装置4(図1の右側の溶接装置4)のトーチ旋回ユニット29は、溶接用トーチ28が直径73mmの真円の軌跡を描くように、又、他方の溶接装置4(図1の左側の溶接装置4)のトーチ旋回ユニット29は、溶接用トーチ28が直径37mmの真円の軌跡を描くように夫々設定されている。
【0044】
又、トーチ旋回ユニット29は、横移動用スライド43を横ネジ軸44及び横移動用モータ45により左右方向へ移動調整することによって、横移動用スライダ43にトーチ支持部材47等を介して取り付けた溶接用トーチ28を左右方向へ移動調整できるようになっている。
その結果、トーチ旋回ユニット29は、溶接用トーチ28を左右方向へ移動調整することによって、ドラム缶の天板50の直径に応じて二台の溶接装置4の溶接用トーチ28の位置を溶接に適した最適な位置に変えられるようになっている。
この実施の形態に於いては、片方の溶接装置4(図1の右側の溶接装置4)のトーチ旋回ユニット29は、溶接用トーチ28の旋回中心と天板50の中心との距離が110mm、140mm又は190mmに、又、他方の溶接装置4(図1の左側の溶接装置4)のトーチ旋回ユニット29は、溶接用トーチ28の旋回中心と天板50の中心との距離が125mm、160mm又は210mmになるように夫々設定されている。
【0045】
更に、トーチ旋回ユニット29は、トーチ支持部材47を縦ネジ軸48及び縦移動用モータ49により上下方向へ移動調整することによって、溶接用トーチ28を高さ調整することができるようになっている。
この実施の形態に於いては、二台の溶接装置4の各トーチ旋回ユニット29は、天板50の開口50a周縁部と口金51との溶接時に、各溶接用トーチ28が自動的に高さ調整されて溶接位置を取り得るようになっている。
【0046】
次に、上述した治具ユニット2及び円周溶接装置4を用いてドラム缶の大径の開口50a及び小径の開口50aに注入口を形成する大径の口金51及び換気口を形成する小径の口金51を夫々円周溶接により固着する場合について説明する。
尚、天板50には、厚さが1.5mmのステンレス製の天板50が、又、大径の口金51及び小径の口金51には、夫々ステンレス製の口金51が使用されている。更に、溶接電流、アーク長さ、左右の溶接用トーチ28の旋回速度、シールドガスGの供給量、タングステン電極棒28bの先端形状等の溶接条件は、天板50の材質や板厚、口金51の材質等に応じて最適の条件下に設定されていることは勿論である。
【0047】
先ず、大径の口金51及び小径の口金51を夫々フランジ部51bが下を向く姿勢でセット位置にある二つの下部治具2′の下部クランプ11内に夫々挿入し、大径の口金51及び小径の口金51を夫々下部クランプ11内の口金支持体12で支持させる。
【0048】
次に、ドラム缶の天板50を裏向けにし、天板50に形成した大径の開口50aに大径の口金51が、又、天板50に形成した小径の開口50aに小径の口金51が夫々嵌るように天板50をセット位置にある二つの下部治具2′の下部クランプ11に載せる。そうすると、各下部クランプ11内の口金支持体12が天板50の荷重により弾性体13の弾性力に抗して下降し、天板50の大径の開口50a周縁部近傍及び小径の開口50a周縁部近傍に夫々下部クランプ11が面接触状態で当接する。これにより、天板50及び大小の口金51は、二つの下部治具2′に支持された格好になる(図3参照)。このとき、大小の口金51は、弾性体13及び口金支持体12により上方へ附勢され、その鍔部17bが天板50の開口50a周縁部に圧接した状態となっている。
【0049】
天板50及び大小の口金51が二つの下部治具2′にセットされたら、治具支持機構3を作動させて二つの下部治具2′をセット位置から溶接作業位置へ上昇させる。そうすると、天板50の大径の開口50a周縁部近傍及び小径の開口50a周縁部近傍が上下方向から二つの上部クランプ16及び下部クランプ11により挾持固定される(図6参照)。このときにも、大小の口金51は、弾性体13及び口金支持体12により上方へ附勢され、その鍔部17bが天板50の開口50a周縁部に圧接した状態となっている。
【0050】
二つの治具ユニット2により天板50及び大小の口金51が保持固定されたら、二台の溶接装置4を作動させて天板50の大小の開口50a周縁部に大小の口金51を夫々円周溶接により固着する。
即ち、二台の溶接装置4の溶接用トーチ28がトーチ旋回ユニット29により溶接位置へ下降し、溶接用トーチ28の先端部を上部治具2″の蓋体17のトーチ挿入用穴17aに挿入してガスシールド空間S内に望ませる(図6及び図7参照)。この状態で上部治具2″の上部クランプ16及び下部治具2′の下部クランプ11の冷却水通路16c,11cに冷却水を流すと共に、溶接用トーチ28のシールドノズル28cからアルゴンガス等のシールドガスGを流しつつ、シールドガスGの雰囲気中で溶接用トーチ28のタングステン電極棒28bと天板50及び口金51の溶接個所との間にアークを発生させる。
【0051】
アークが発生したら、溶接用トーチ28がシールドノズル28cからシールドガスGを流しながら、トーチ旋回ユニット29により天板50の開口50a及び口金51の端部に沿って旋回移動すると共に、上部クランプ16内の蓋体17を回転させつつ、天板50の開口50a周縁部と口金51の端部とをシールドガスGの雰囲気中でアークにより円周溶接する。
【0052】
このとき、溶接用トーチ28の先端部が上部治具2″の蓋体17のトーチ挿入用穴17aに挿入されてシールドガス空間S内に望んでいるため、発生したアークの強烈な光が上部治具2″の蓋体17により遮蔽されることになり、作業員がアークからの強烈な光を直視したり、目や皮膚に有害な紫外線や赤外線を浴びたりすると云うことがなく、安全に溶接作業を行える。
又、溶接用トーチ28から放出されたシールドガスGを上部治具2″のシールドガス空間Sに溜めて天板50と口金51の溶接個所周辺をシールドガスGによりシールドするようにしているため、溶融池及び溶接直後の溶接ビード部分への空気の侵入を確実且つ良好に遮断することができ、溶接部の酸化を確実且つ良好に防止することができると共に、ピンホール等の溶接欠陥の無い溶接を行え、製品の大幅な品質向上を図れる。
更に、上部治具2″のシールドガス空間Sによりアーク周辺のシールドガスGの濃度が高められるため、発生したアークがシールドガスGによるサーマルピンチ効果により絞られてエネルギー密度の高い安定したアークとなり、溶接部材の溶け込みが大きくなって裏波が出易くなる。そのため、図13に示す如く、部材(天板50の開口50a周縁部及び口金51の端部)の溶け込みが十分に行われ、天板50の開口50a周縁部表面側と口金51との間に隙間が形成されると云うことがなくなり、隙間腐蝕の問題を解決することができると共に、天板50と口金51との接合部の強度が大幅にアップすることになる。
そのうえ、蓋体17がその鍔部17bを上部クランプ16の段部16eに面接触させた状態で溶接用トーチ28と一緒に回転するため、シールドガス空間S内のシールドガスGが外部へ逃げ難くなり、シールドガスGによるシールド効果をより高めることができるうえ、構造も極めて簡単な構造となる。
加えて、上部治具2″の上部クランプ16及び下部治具2′の下部クランプ11の冷却水通路16c,11cに冷却水を流しているため、上部クランプ16及び下部クランプ11により溶接部が確実且つ良好に冷却され、溶接部の熱歪が大幅に抑制されると共に、ビートの溶け落ちや穴あきが確実に防止される。
【0053】
そして、天板50と大小の口金51との円周溶接が終了すれば、二台の溶接装置4の溶接用トーチ28がトーチ旋回ユニット29により元の位置に復帰すると共に、治具支持機構3により天板50を溶接位置に保持固定している下部治具2′が溶接作業位置からセット位置へ下降する。これにより、大小の口金51を固着した天板50を下部治具2′から取り出すことができる。
【0054】
尚、上記の実施の形態に於いては、下部治具2′の下部クランプ11を下部ベース11a及び下部クランプ材11bから構成し、又、上部治具2″の上部クランプ16を上部ベース16a及び上部クランプ材16bから構成したが、他の実施の形態に於いては、下部ベース11a及び下部クランプ材11bを一体的に形成して下部クランプ11とし、又、上部ベース16a及び上部クランプ材16bを一体的に形成して上部クランプ16としても良い。
【0055】
上記の実施の形態に於いては、上部治具2″の蓋体17の外周縁部に溶接用トーチ28の先端部が挿入されるトーチ挿入用穴17aを形成したが、他の実施の形態に於いては、蓋体17の外周縁部に溶接用トーチ28の先端部が挿入されるトーチ挿入用切欠(図示省略)を形成するようにしても良い。
【0056】
上記の実施の形態に於いては、治具支持機構3に二つの治具ユニット2を設けたが、他の実施の形態に於いては、治具支持機構3に一つの治具ユニット2を設け、キャビネット本体1の作業面1aに一つの治具ユニット2を設けた治具支持機構3を二つ並べて設けるようにしても良い。
【図面の簡単な説明】
【0057】
【図1】本発明の実施の形態に係る治具ユニット及びこれを用いた円周溶接装置の正面図である。
【図2】同じく治具ユニット及びこれを用いた円周溶接装置の一部切欠側面図である。
【図3】本発明の実施の形態に係る治具ユニットと治具ユニットを支持する治具支持機構の縦断正面図である。
【図4】治具ユニット及び治具支持機構の側面図である。
【図5】治具ユニット及び治具支持機構の平面図である。
【図6】治具ユニット及び治具支持機構の作動状態を示す縦断正面図である
【図7】治具ニットの拡大縦断面図である。
【図8】トーチ旋回ユニットの正面図である。
【図9】トーチ旋回ユニットの一部破断側面図である。
【図10】トーチ旋回ユニットの一部切欠背面図である。
【図11】トーチ旋回ユニットの平面図である。
【図12】トーチ旋回ユニットの作動状態を示す平面図である。
【図13】治具ユニット及び円周溶接装置を用いて天板の開口周縁部に口金の端部を円周溶接により接合した状態の天板及び口金の縦断面図である。
【図14】天板の開口周縁部に口金の端部を従来の円周溶接により接合した状態の天板及び口金の縦断面図である。
【符号の説明】
【0058】
1はキャビネット本体、1aは作業面、2は治具ユニット、2′は上部治具、2″は下部治具、3は治具支持機構、4は溶接装置、11は下部クランプ、11cは冷却水通路、12は口金支持体、13は弾性体、16は上部クランプ、16cは冷却水通路、16eは段部、17は蓋体、17aはトーチ挿入用穴、28は溶接用トーチ、50は天板、50aは天板の開口、51は口金、51aは口金の位置決め用鍔部、Gはシールドガス、Sはシールドガス空間。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ドラム缶又は容器の天板(50)に形成した開口(50a)に、天板(50)の表面側から注入口又は換気口を形成する環状の口金(51)の端部を挿入し、天板(50)の裏面側から天板(50)の開口(50a)周縁部及び口金(51)の端部へ向かって溶接用トーチ(28)からシールドガス(G)を流しながら、溶接用トーチ(28)を天板(50)の開口(50a)及び口金(51)の端部に沿って旋回移動させつつ、天板(50)の開口(50a)周縁部に口金(51)の端部をシールドガス(G)の雰囲気中でアークにより円周溶接するようにした円周溶接装置に用いる治具ユニット(2)であって、前記治具ユニット(2)は、裏向けにした天板(50)及び天板(50)の開口(50a)に挿入した口金(51)を下面側から支持する下部治具(2′)と、下部治具(2′)の上方位置に配設され、下部治具(2′)との間で天板(50)の開口(50a)周縁部近傍を挾持固定する上部治具(2″)とから構成され、前記上部治具(2″)は、裏向けにした天板(50)の開口(50a)周縁部近傍に上面側から面接触状態で当接する環状の上部クランプ(16)と、上部クランプ(16)内に水平回転自在に配設され、外周縁部に溶接用トーチ(28)の先端部が挿入されるトーチ挿入用穴(17a)又はトーチ挿入用切欠を有すると共に、天板(50)の開口(50a)周縁部及び口金(51)との間に溶接用トーチ(28)から放出されるシールドガス(G)を溜めて天板(50)と口金(51)の溶接個所周辺をシールドガス(G)によりシールドするためのシールドガス空間(S)を形成する円盤状の蓋体(17)とから成り、当該蓋体(17)がアークの光を遮蔽しつつ、溶接用トーチ(28)の旋回移動に伴って溶接用トーチ(28)と一緒に上部クランプ(16)内で回転する構成としたことを特徴とする治具ユニット。
【請求項2】
上部クランプ(16)の内周面に、蓋体(17)の外周縁部が摺動回転自在に支持載置される段部(16e)を形成し、蓋体(17)のトーチ挿入用穴(17a)又はトーチ挿入用切欠に挿入された溶接用トーチ(28)の旋回時に、蓋体(17)がその外周縁部を上部クランプ(16)の段部(16e)に面接触させた状態で溶接用トーチ(28)と一緒に回転する構成としたことを特徴とする請求項1の記載の治具ユニット。
【請求項3】
上部治具(2″)の上部クランプ(16)に冷却水が流れる冷却水通路(16c)を形成したことを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の治具ユニット。
【請求項4】
下部治具(2′)は、裏向けにした天板(50)の開口(50a)周縁部近傍に下面側から面接触状態で当接して天板(50)を支持する環状の下部クランプ(11)と、下部クランプ(11)内に上下動自在に配設され、天板(50)の開口(50a)に挿入した口金(51)を支持する口金支持体(12)と、口金支持体(12)を上方へ附勢して口金(51)の端部外周面に形成した位置決め用鍔部(51a)を天板(50)の開口(50a)周縁部に圧接させる弾性体(13)とから成り、天板(50)の開口(50a)周縁部を下部クランプ(11)と上部治具(2″)の上部クランプ(16)とで挾持固定すると共に、口金(51)の位置決め用鍔部(51a)を口金支持体(12)及び弾性体(13)により天板(50)の開口(50a)周縁部に圧接させる構成としたことを特徴とする請求項1、請求項2又は請求項3に記載の治具ユニット。
【請求項5】
下部治具(2′)の下部クランプ(11)に冷却水が流れる冷却水通路(11c)を形成したことを特徴とする請求項4に記載の治具ユニット。
【請求項6】
ドラム缶又は容器の天板(50)に形成した大径の開口(50a)及び小径の開口(50a)に、天板(50)の表面側から注入口を形成する大径の口金(51)の端部及び換気口を形成する小径の口金(51)の端部を夫々挿入し、天板(50)の裏面側から天板(50)の大径の開口(50a)周縁部に大径の口金(51)の端部を、又、天板(50)の裏面側から天板(50)の小径の開口(50a)周縁部に小径の口金(51)の端部を夫々シールドガス(G)の雰囲気中でアークにより円周溶接するようにした円周溶接装置であって、前記円周溶接装置は、作業面(1a)を有するキャビネット本体(1)と、キャビネット本体(1)の作業面(1a)に配設され、裏向けにした天板(50)の大径の開口(50a)周縁部近傍を挾持固定すると共に、天板(50)の大径の開口(50a)に挿入した大径の口金(51)を支持する請求項1乃至請求項5の何れかに記載の治具ユニット(2)と、キャビネット本体の作業面に配設され、裏向けにした天板(50)の小径の開口(50a)周縁部近傍を挾持固定すると共に、天板(50)の小径の開口(50a)に挿入した小径の口金(51)を支持する請求項1乃至請求項5の何れかに記載の治具ユニット(2)と、キャビネット本体(1)の作業面(1a)に設けられ、前記二つの治具ユニット(2)を支持する治具支持機構(3)と、キャビネット本体(1)内に配設され、先端部からシールドガス(G)を放出して天板(50)の大径の開口(50a)周縁部に大径の口金(51)の端部をシールドガス(G)の雰囲気中でアークにより円周溶接する旋回自在な溶接用トーチ(28)を備えた溶接装置(4)と、キャビネット本体(1)内に配設され、先端部からシールドガス(G)を放出して天板(50)の小径の開口(50a)周縁部に小径の口金(51)の端部をシールドガス(G)の雰囲気中でアークにより円周溶接する旋回自在な溶接用トーチ(28)を備えた溶接装置(4)とから構成されていることを特徴とする円周溶接装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【公開番号】特開2009−262199(P2009−262199A)
【公開日】平成21年11月12日(2009.11.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−114983(P2008−114983)
【出願日】平成20年4月25日(2008.4.25)
【出願人】(391018019)JFEコンテイナー株式会社 (15)
【出願人】(501423861)JFE協和容器株式会社 (4)
【出願人】(591286823)
【Fターム(参考)】