説明

波長変換レーザ装置

【課題】簡易な構成で、安定した出力の高調波光を発生させる。
【解決手段】半導体光増幅素子1と、グレーティング部6を内部に形成した光ファイバ3と、半導体光増幅素子1と光ファイバ3とで構成される光共振器から出射した光を入射光としその入射光の高調波光を出力する波長変換素子5とを具備し、グレーティング部6と波長変換素子5の距離Dを、入射光のコヒーレント長の1/2倍より大きくする。
【効果】グレーティング部6で反射されて半導体光増幅素子1へ戻る光と、波長変換素子5反射されグレーティング部6に戻り更に半導体光増幅素子1へ戻る光の光路長差がコヒーレント長より大きくなるため、干渉を生じなくなり、安定した出力の高調波光を発生させることが出来る。また、波長変換素子の入射部を加工する必要がないから、構成も簡易化できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、波長変換レーザ装置に関し、さらに詳しくは、安定した出力の高調波光を発生させることが出来る波長変換レーザ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、レーザダイオードと、グレーティング部を内部に形成した光ファイバとを組み合わせ、波長を安定化した半導体レーザモジュールが公知である(例えば、特許文献1参照。)。
また、グレーティング部で波長を固定したレーザ光を高調波光へと波長変換素子で波長変換する技術が公知である(例えば、特許文献2参照。)。
さらに、波長変換素子の入射部を斜めに研磨し、波長変換素子からレーザ光源側への戻り光を低減する技術が知られている(例えば、特許文献3参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許第3120828号公報
【特許文献2】特許第3223648号公報
【特許文献3】特開平5−93931号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
波長変換素子からレーザ光源側への戻り光があると、その影響で出力が不安定になることがある。そこで、上記従来技術のように波長変換素子の入射部を斜めに研磨して戻り光を低減することが考えられる。
しかし、波長変換素子の入射部を斜めに研磨すると、波長変換素子とレーザ光源側との結合効率が低下するため、出力が低下する問題点がある。また、波長変換素子の入射部を加工する手間がかかる問題点がある。
そこで、本発明の目的は、簡易な構成で、安定した出力の高調波光を発生させることが出来る波長変換レーザ装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
第1の観点では、本発明は、半導体発光素子と、グレーティング部を内部に形成した光ファイバと、前記半導体発光素子と前記光ファイバとで構成される光共振器から出射した光を入射光としその入射光の高調波光を出力する波長変換素子とを具備し、前記グレーティング部と前記波長変換素子の距離が前記入射光のコヒーレント長の1/2倍より大きいことを特徴とする波長変換レーザ装置を提供する。
上記構成において、コヒーレント長とは、例えばビームスプリッタで2つに分けた光を異なる光路を通った後で重ね合わせたときに、干渉縞を生じうる最大の光路長差のことである。つまり、光路長差を0から大きくしていくと、はじめは干渉縞を生じるが、やがて干渉縞を生じなくなる。この干渉縞を生じうる最大の光路長差のことである。
上記第1の観点による波長変換レーザ装置では、グレーティング部と波長変換素子との距離をコヒーレント長の1/2倍より大きくした。このため、グレーティング部からレーザ光源側への戻り光と、グレーティング部を出て波長変換素子で反射されグレーティング部に戻り更にレーザ光源側へ戻る光の光路長差は、コヒーレント長より大きくなる。従って、グレーティング部からレーザ光源側への戻り光に波長変換素子からの戻り光が干渉しなくなる。よって、安定した出力の高調波光を発生させることが出来る。また、波長変換素子の入射部を加工する必要がないから、構成も簡易化できる。
【0006】
第2の観点では、本発明は、上記構成の波長変換レーザ装置において、前記入射光の波長が900[nm]〜1100[nm]のいずれかの波長であり、前記グレーティング部の反射波長帯域幅が0.1[nm]以上であり、前記距離が7[mm]以上であることを特徴とする波長変換レーザ装置を提供する。
例えば、共振器から出射した光の中心波長λ=1100[nm]であり、スペクトル幅Δλ≧0.1[nm]であるとき、コヒーレント長lcは、
lc≦λ2/Δλ=12.1[mm]
となる。
上記第2の観点による波長変換レーザ装置では、グレーティング部と波長変換素子の距離を7[mm]以上としたが、これは上記コヒーレント長lcの0.5倍より大きい距離に相当する。つまり、グレーティング部を出て波長変換素子で反射されグレーティング部に戻る光の光路長は、コヒーレント長より長くなる。従って、中心波長λやスペクトル幅Δλや位置精度に多少のバラツキがあっても、グレーティング部からレーザ光源側への戻り光に波長変換素子からの戻り光が干渉しなくなり、安定した出力の高調波光を発生させることが出来る。
【発明の効果】
【0007】
本発明の波長変換レーザ装置によれば、グレーティング部で反射されて半導体光増幅素子へ戻る光と、波長変換素子で反射されグレーティング部に戻り更に半導体光増幅素子へ戻る光の光路長差がコヒーレント長より大きくなるため、干渉を生じなくなり、安定した出力の高調波光を発生させることが出来る。また、波長変換素子の入射部を加工する必要がないから、構成も簡易化できる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】本発明の一実施形態に係る波長変換レーザ装置を示す構成説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、図に示す実施形態により本発明をさらに詳細に説明する。なお、これにより本発明が限定されるものではない。
【0010】
図1は、本発明の一実施形態にかかる波長変換レーザ装置100を示す構成説明図である。
この波長変換レーザ装置100は、光反射面1aと光出射面1bとこれらの面で挟まれた領域に電流を注入することにより光を発生し増幅する機能を有する半導体光増幅素子1と、半導体光増幅素子1で発生した光を集光するレンズ2と、内部にグレーティング部6を形成した光ファイバ3と、光ファイバ3から出射した光を集光するレンズ4と、入射光の第2高調波光を出力する波長変換素子5と、グレーティング部6を挟む2カ所で光ファイバ3を保持する第1固定部14及び第2固定部15を有するグレーティング部伸張機構20とを備えて構成されている。
そして、グレーティング部6と波長変換素子5の距離Dは、光ファイバ3から出射した光のコヒーレント長の1/2倍より大きくされている。好ましくは、5倍〜50倍にされている。
【0011】
半導体光増幅素子1は、例えば波長λが900[nm]〜1100[nm]の範囲の光を発生し増幅する。光反射面1aには発生した光に対して高反射率となるコーティングが施され、光出射面1bには発生した光に対して低反射率となるコーティングが施されている。
【0012】
光ファイバ3の入射側の端面3aは、半導体光増幅素子1から出射した光がより多く入射するように、テーパ状またはくさび状に加工されていることが好ましい。この場合、レンズ2が不用になり、構造を単純に出来る。
【0013】
グレーティング部6は、光ファイバ3の一部に屈折率が周期的に変動するような加工を施して形成されている。例えば、エキシマレーザ等の紫外レーザをビームスプリッタで2光束に分け、異なる光路を通した後、光ファイバ上に重ね合わせて照射し、干渉縞を発生させ、紫外線強度に応じて生じる光ファイバのフォトリフラクティブ効果により、干渉縞と同じ間隔で周期的に屈折率を変動させることにより形成されている。
【0014】
グレーティング部6は、ある波長帯域の光のみ反射する。例えば、900[nm]〜1100[nm]の間に中心波長λを持ち、0.1[nm]以上(例えば、0.6[nm])のスペクトル幅Δλを持つ光のみを反射する。この中心波長λやスペクトル幅Δλは、屈折率が変動する周期を変更することや、グレーティング部6の長さをグレーティング部伸張機構20で調節することで調整できる。
【0015】
グレーティング部伸張機構20は、ベース21と、そのベース21上をスライドしうる移動ナット22と、その移動ナット22に螺合しているネジ棒23と、そのネジ棒23を手動または工具を用いて回転させうる操作部24とを具備している。そして、第1固定部14はベース21に設けてあり、第2固定部15は移動ナット22に設けてある。第1固定部14および第2固定部15は、接着剤または半田付けなどにより、光ファイバ3を固定的に保持している。
【0016】
操作部24を回してネジ棒23を回すと、移動ナット22がベース21上をスライドし、第1固定部14と第2固定部15の間隔が変わる。これにより、グレーティング部6が伸縮し、屈折率が変動する周期が変わる。これにより、光ファイバ3から波長変換素子5へと出射する光を、波長変換素子5の波長変換可能帯域に合わせることが出来る。
【0017】
半導体光増幅素子1とグレーティング部6とで光共振器が構成される。すなわち、半導体光増幅素子1を出射した光は、レンズ2で集光され、光ファイバ3の入射側端面3aに入射される。光ファイバ3に入射した光は、グレーティング部6で決定される波長帯域の光が反射され、半導体光増幅素子1へ戻り、半導体光増幅素子1で増幅され、再び半導体光増幅素子1を出射し、光ファイバ3に入射する。これが繰り返されることにより、グレーティング部6で決定される波長帯域の光が光ファイバ3の出射側端面3bから出射される。
【0018】
光ファイバ3の出射側端面3bから出射された光は、レンズ4で波長変換素子5の端面5aに集光される。レンズ4には、無反射コートが施されている。
【0019】
波長変換素子5は、例えば、LiNbO3,LiTaO3,MgO:LiTaO3,KNbO3,KTiOPO4、あるいはこれらに分極反転処理を施したものに、光導波路を形成したものである。波長変換素子5は、例えば波長が900[nm]〜1100[nm]の光が入射することにより、その第2高調波である波長が450[nm]〜550[nm]の光を発生する。
【0020】
レンズ4で波長変換素子5の端面5aに集光される光の大部分は波長変換素子5へ入射するが、一部は反射し、光ファイバ3への戻り光となる。この戻り光は、光ファイバ3内に入り、グレーティング部6を通って、半導体光増幅素子1へ戻るが、このとき、グレーティング部6で反射されて半導体光増幅素子1へ戻る光と重ね合わされる。このため、干渉を生じる可能性がある。
ところが、グレーティング部6と波長変換素子5の距離Dが、光ファイバ3から出射した光のコヒーレント長の1/2倍より大きく、好ましくは5倍〜50倍にされているため、干渉を生じなくなる。従って、安定した出力の高調波光を発生させることが出来る。また、波長変換素子5の入射部を加工する必要がないから、構成も簡易化できる。
【0021】
数値例を示すと、距離D=7[mm]〜600[mm]である。
光ファイバ3から出射した光の中心波長λ=1100[nm]であり、スペクトル幅Δλ=0.1[nm]であるとき、コヒーレント長lcは、
lc=λ2/Δλ=12.1[mm]
となるから、距離Dは、コヒーレント長lcの1/2倍〜50倍に相当する。すなわち、グレーティング部6を出て波長変換素子5で反射されグレーティング部6に戻る光の光路長は、コヒーレント長lcの1倍〜100倍になる。換言すれば、グレーティング部6で反射されて半導体光増幅素子1へ戻る光と、波長変換素子5で反射されグレーティング部6に戻り更に半導体光増幅素子1へ戻る光の光路長差は、コヒーレント長lcの1倍〜100倍になる。
【産業上の利用可能性】
【0022】
本発明の波長変換レーザ装置は、半導体発光素子で発生した光の高調波光を出力するのに利用できる。
【符号の説明】
【0023】
1 半導体光増幅素子
1a 光反射面
1b 光出射面
2 レンズ
3 光ファイバ
3a 入射側端面
3b 出射側端面
4 レンズ
5 波長変換素子
5a 光導波路端面
6 グレーティング部
20 グレーティング部伸張機構

【特許請求の範囲】
【請求項1】
半導体発光素子と、
グレーティング部を内部に形成した光ファイバと、
前記半導体発光素子と前記光ファイバとで構成される光共振器から出射した光を入射光としその入射光の高調波光を出力する波長変換素子と
前記グレーティング部の中心波長λを調整する中心波長調整手段とを具備し、
前記グレーティング部と前記波長変換素子の距離をD、前記グレーティング部の反射波長帯域幅Δλとしたとき、
D>λ2/(2・Δλ)
となるように、前記中心波長調整手段で前記グレーティング部の中心波長λが調整されていることを特徴とする波長変換レーザ装置。
【請求項2】
請求項1に記載の波長変換レーザ装置において、前記入射光の波長が900[nm]〜1100[nm]のいずれかの波長であり、前記グレーティング部の反射波長帯域幅が0.1[nm]以上であり、前記距離が7[mm]以上であることを特徴とする波長変換レーザ装置。

【図1】
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【公開番号】特開2009−158985(P2009−158985A)
【公開日】平成21年7月16日(2009.7.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−97818(P2009−97818)
【出願日】平成21年4月14日(2009.4.14)
【分割の表示】特願2003−160164(P2003−160164)の分割
【原出願日】平成15年6月5日(2003.6.5)
【出願人】(000001993)株式会社島津製作所 (3,708)
【Fターム(参考)】