説明

波長走査型ファイバレーザ光源

【課題】高速で波長を変化させることができる波長可変型のファイバレーザ光源を提供すること。
【解決手段】光ファイバループに発振波長にゲインを有するゲイン媒体と光サーキュレータ13,14を設け、光サーキュレータ13,14で取り出された光をコリメートレンズ22,24で拡大する。その光軸上にポリゴンミラー25を設け、ポリゴンミラー25を回転させる。ポリゴンミラー25で反射された光の受光位置に回折格子27を設ける。回折格子27は入射光と同一方向に光を反射するリトロー構成とする。回折格子27への入射角度によって選択波長が変化し、2回の入射により選択度が増す。従って高速でポリゴンミラー25を回転させて選択波長を変化させても、挟帯域のままで発振波長を変化させることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は単光性の光を発生してその発光波長を周期的に走査する波長走査型ファイバレーザ光源に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、光を測定対象に照射し測定対象を分析する分析装置の光源として、広帯域の光源が用いられている。分光分析では広帯域の光を測定対象に投光し、その反射光や透過光を回折格子等で波長成分に空間的に分解したり、干渉計で周波数成分にフーリエ変換して分析する手法が広く用いられている。このような光源としては、例えば白色光源やエルビウムドープドファイバ(EDF)を用いたASE光源等があった。しかしこのような分光分析では、波長に対する光出力強度密度が低いため、分光において利用できる光のレベルが小さい。そのためフーリエ変換の分析をしても検出光信号がノイズに埋もれてしまい、分析が難しいという欠点があった。
【0003】
分析装置の光源として、強いレベルの単一スペクトルの光を所望の帯域で変化させる波長可変型の光源を用いる方法もある。これは単光性の強い光の波長を変化させて測定対象に照射し、測定対象を透過したり、又は反射する光をそのまま受光素子で受光するものである。この方法では、光源の波長に対する光強度密度が高いので、検出光のレベルと信号対ノイズ比が十分に高く、十分な測定精度を実現できる。
【0004】
従来の波長可変型の光源には外部共振器型レーザやファイバリングレーザがある。外部共振器型レーザは、ゲイン媒質、例えば半導体レーザを用い、その半導体レーザの一方の端面と外部のミラーとの間で外部共振器を形成し、外部共振器の中に回折格子等による波長可変フィルタを設けることによって発振波長を変化させ、波長可変型の光源を得るようにしたものである。外部共振器型レーザ光源では、外部共振器型長は例えば50mmと比較的小さく、縦モード間隔は例えば30GHzと広い。従って単に波長可変フィルタの波長を変えただけでは、縦モードの間で不安定になる。例えばモード間では不連続なモードホップが生じたり、マルチモードで発振することもある。そのため単一モードで連続的に波長を可変し、しかも出力を安定とするためには、外部共振器長をピエゾ素子等を用いて微妙に制御しなければならず、複雑な制御が必要となる。又機械的な動作を伴い、波長と外部共振器長とを同期させて制御するため、高速で波長を変化させることが難しいという欠点があった。
【0005】
又非特許文献1に、エルビウムドープドファイバを用いたリングレーザによる波長可変光源も提案されている。これはエルビウムドープドファイバ(EDF)及びこれを励起するファイバアンプをゲイン媒体として用い、その光ファイバループの間に波長可変型のバンドパスフィルタを設けて、このバンドパスフィルタの波長を変化させることによって波長可変光源を得るようにしたものである。この場合には光ファイバループの共振器長を例えば30mと長くできるため、縦モード間隔を狭くすることができる。そのため共振器長を変化させることなく、モードホップの影響をなくすることができる。従って厳密には単一モード発振ではないが、バンドパスフィルタの選択波長を変化させるだけで、擬似的に連続して波長可変を行うことができる。
【非特許文献1】YAMASHITA ET AL., IEEE JOURAL ON SELECTED TOPICS IN QUANTUM ELECTRONICS, VOL.7, NO.1 JANUARY/FEBRUARY 2001, PP41〜43
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
波長可変光源を分析装置の光源として用いる場合には、高速で波長を変化させること、及び発振スペクトルの幅を狭くすることが必要であり、これに応じた特性がバンドパスフィルタにも要求される。例えば光コヒーレントトモグラフィ(OCT)において、高速の波長走査が利用可能になると、高速の画像処理、血流観測、酸素飽和濃度の変化等の動的な解析が可能となるので、このような装置が要求されている。しかし画像表示フレームレートに追従するような高速の走査が可能な波長レーザ光源は存在しなかった。
【0007】
従来のフィルタ技術では高速の波長可変特性と、高いQ値を同時に得ることが難しかった。例えば光音響光学効果(AO)を利用した波長可変フィルタでは、透過波長以外での抑圧比が十分でなく、安定した発振ができないという欠点があった。又バンドパスフィルタとしてピエゾ素子を用いてファブリペローエタロンを形成した場合には、波長可変速度が数Hz以下と遅く、ヒステリシスがあるという問題点があった。又バンドパスフィルタに回折格子を用いる場合には、光軸の調整が難しく、高価になるという欠点があった。更にバンドパスフィルタとして光干渉フィルタを用いたものも考えられるが、フィルタを一度通過させるだけではフィルタのQが低く、あまりスペクトルを狭くすることができないという欠点があった。
【0008】
本発明はこのような欠点を解消するため成されたもので、狭帯域のスペクトルを持つ光源の波長を広い帯域で高速、且つ連続的に走査できるようにした波長走査型のファイバレーザ光源を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
この課題を解決するために、本発明の波長走査型ファイバレーザ光源は、レーザ発振の光路となる光ファイバループと、前記光ファイバループに接続され、発振する波長に利得を有するゲイン媒体と、前記光ファイバループより複数の光を分岐すると共に、分岐光と同一の光路で光を前記光ファイバループに戻す光分岐入射部と、前記光分岐入射部で分岐された複数の分岐光が与えられ、夫々同一の波長を連続的に可変させつつ選択し、選択した波長の光を同一の光路で光分岐入射部に与える波長可変光フィルタと、前記光ファイバループに接続され、前記光ファイバループを通過する光の一部を取り出す光学カップラと、を具備し、前記波長可変フィルタは、前記分岐入射部より得られる光ビームの反射角度を一定範囲で周期的に変化させる光ビーム偏向部と、前記光ビーム偏向部で偏向された光が入射され、入射角と同一方向に入射角に応じて変化する選択波長の光を反射する回折格子と、を具備することを特徴とする。
【0010】
ここで前記光分岐入射部は、夫々2つの端子が前記光ファイバループに接続された第1,第2の3ポート型光サーキュレータとしてもよい。
【0011】
ここで前記光分岐入射部は、前記光ファイバループに接続された4ポート型光サーキュレータであり、第1の端子及び第4の端子が光ファイバループに接続され、第2及び第3の端子が夫々並列に前記波長可変フィルタに接続されているようにしてもよい。
【0012】
ここで前記光分岐入射部は、前記光ファイバループに接続された第1の光サーキュレータと、前記光学カップラの出射側に接続され、出射された光の一部を分岐して前記波長可変フィルタに入射する第2の光サーキュレータと、を有するようにしてもよい。
【0013】
この課題を解決するために、本発明の波長走査型ファイバレーザ光源は、レーザ発振の光路となる光ファイバループと、前記光ファイバループに接続され、発振する波長に利得を有するゲイン媒体と、前記光ファイバループより光を分岐すると共に、分岐光と同一の光路で光を前記光ファイバループに戻す光分岐入射部と、前記光分岐入射部で分岐された分岐光が与えられ、波長を連続的に可変させつつ選択し、選択した波長の光を同一の光路で光分岐入射部に与える波長可変光フィルタと、前記光ファイバループに接続され、前記光ファイバループを通過する光の一部を取り出す光学カップラと、を具備し、前記波長可変フィルタは、前記光分岐入射部より得られる光ビームを反射し、軸を中心として一定範囲でその反射角度を周期的に変化させる光ビーム偏向部と、前記光ビーム偏向部で偏向された光が第1の光路を通って入射され、入射角に応じて変化する選択波長の光を前記光ビーム偏向部の軸からみて同一方向に前記第1の光路とは異なる第2の光路を通って反射する回折格子と、前記第2の光路を通って前記光ビーム偏向部で反射され、第3の光路を通って入射された光を第3の光路に折り返し反射するミラーと、を具備することを特徴とする。
【0014】
ここで前記光ファイバループは、偏波面保存型の光ファイバを含んで構成するようにしてもよい。
【0015】
ここで前記ゲイン媒体は、前記光ファイバループの一部を構成する光ファイバ増幅器としてもよい。
【0016】
ここで前記ゲイン媒体は、光を増幅する半導体光増幅器としてもよい。
【0017】
ここで前記光ファイバループには、光ファイバループを通過する光の偏波方向を一定方向に規定する偏波コントローラを更に有するようにしてもよい。
【0018】
ここで前記波長可変フィルタの光ビーム偏向部は、前記光ファイバより出射される光軸上に配置され、回転によって光の反射角を変化させる複数の反射面を有するポリゴンミラーと、前記ポリゴンミラーを回転させて光の反射角度を制御する駆動部と、を有するようにしてもよい。
【0019】
ここで前記波長可変フィルタの光ビーム偏向部は、前記光ファイバより出射される光軸上に配置され、回転によって光の反射角を変化させるミラーと、前記ミラーを一定の角度範囲で回動させるガルバノメータと、を有するようにしてもよい。
【0020】
ここで前記波長可変フィルタは、前記光ビーム偏向部で偏向された光ビームのビーム径を拡大するビームエキスパンダを更に有し、前記ビームエキスパンダは選択波長が短くなるに従って拡大率を大きくするようにしてもよい。
【0021】
ここで前記ビームエキスパンダは、前記光ファイバより得られる光ビームのビーム径を拡大し、前記光ビーム偏向部の前に配置された第1のビームエキスパンダと、前記第1のビームエキスパンダから得られる光ビームのビーム径を拡大する第2のビームエキスパンダとを有するようにしてもよい。
【発明の効果】
【0022】
このような特徴を有する本発明によれば、光ファイバループをレーザ発振の光路として用いることによって光路長を長くし、波長可変フィルタで発振波長を変化させる。波長可変フィルタは光ビーム偏向部で光を偏向し、回折格子に入射する。回折格子は入射角に応じて波長が変化するフィルタとして用い、入射光と同一方向に光を反射させる。こうすれば波長可変フィルタが光路の一部を構成することとなり、フィルタの選択波長によって発振波長を決めることができる。そして回折格子への入射角を連続的に変化させ、波長可変フィルタの選択波長を連続的に変化させることにより、発振波長を変化させることができる。この光ビーム偏向部の偏向速度を十分高くすることによって、高速で波長走査を行うことができる。この回折格子に同一方向より複数回光を入射することにより、高速で波長を走査しても選択幅を狭く保ち、挟帯域のレーザ光を得ることができるという効果が得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
図1は本発明の実施の形態による波長走査型ファイバレーザ光源の構成を示す図である。本実施の形態の波長走査型ファイバレーザ光源10は光ファイバ11を含んでループを形成している。このループの一部に、ゲイン媒体12、光サーキュレータ13,14、光カップラ15及び偏波コントローラ16を設ける。ゲイン媒体12は、光ファイバループの一部に設けられるエルビウムイオン(Er3+)を添加したエルビウムドープドファイバ17と、このエルビウムドープドファイバ17にポンプ光を入射するファイバ励起用の半導体レーザ18、及びWDMカップラ19を有している。この光ファイバループは、例えば30〜50mの長さを有するものとする。この励起用半導体レーザ18は例えば1480nmや980nmの波長が用いられ、エルビウムドープドファイバ17を透過する光を増幅するものである。光サーキュレータ13,14は、光ファイバ11を透過する光の方向を図示のように矢印方向に規制する第1,第2の3ポート型のサーキュレータであって、光分岐入射部を構成している。光サーキュレータ13の端子13a,13cが光ファイバループに接続されており、端子13aから入射した光は光サーキュレータの端子13bより出射される。又光サーキュレータ13bより入射した光は端子13cより出射される。端子13cより入射した光は端子13aより出射される。光サーキュレータ14の端子14a,14cが光ファイバループに接続されており、端子14aから入射した光は光サーキュレータの端子14bより出射される。又光サーキュレータ14bより入射した光は端子14cより出射される。端子14cより入射した光は端子14aより出射される。又光カップラ15は光ファイバループの光の一部を抽出するものである。偏波コントローラ16は、光ファイバループを透過する光の偏波方向を一定方向に規定するものである。
【0024】
光サーキュレータ13の端子13bは、光ファイバ21を介して図示のようにコリメートレンズ22に接続される。光サーキュレータ14の端子14bは、光ファイバ23を介して図示のようにコリメートレンズ24に接続される。コリメートレンズ22,24は夫々光ファイバ21,23からの光を平行光とするもので、その光軸上には平面状のポリゴンミラー25が設けられる。ポリゴンミラー25は駆動部26によって紙面に垂直な軸に沿って回転するものであって、ポリゴンミラーの面で反射した光は回折格子(グレーティング)27に入射される。回折格子27は一定のピッチで連続して断面のこぎり波形状の面が形成された格子である。そしてこの実施の形態では、リトロー配置によって入射方向が変わっても、入射光は同じ光路を通って投射方向に戻るように構成されている。そして入射角度によって選択波長が変化する。ここで選択波長は例えば1550〜1600nmの範囲とする。ここでポリゴンミラー25と駆動部26とは、光ビームの角度を一定範囲で周期的に変化させる光ビーム偏向部を構成している。この光ビーム偏向部と回折格子27によって波長可変光フィルタを構成している。
【0025】
図2はコリメートレンズとポリゴンミラー及び回折格子の関係を示す斜視図である。本図に示すように、ポリゴンミラー25の回転軸をY軸とすると、コリメートレンズ22と24から照射される光はY軸方向に隣接させるように照射することが好ましい。これによって回折格子27に同一の角度で入射されることとなり、その波長選択特性が一致する。こうすればポリゴンミラー25と回折格子27とのY軸方向の幅を適宜選択しておくことによって、コリメートレンズ22,24を通過する光の波長選択特性を同一に保つことができる。
【0026】
ここでリトロー配置について説明する。回折格子に対する光ビームの入射角をγ、反射角をδとすると、以下の式によって回折光が得られる。
Λ(sinγ+sinδ)kλ ・・・(1)
ここでkは次数であり、0,±1,±2・・・の値となる。さて回折光にはリトロー配置とリットマン配置とがある。リトロー配置では−1次の回折光と入射光の角度が等しい。従って(1)式においてγ=δ−1とすると、(1)式より回折光の波長は次式で決定される。
λ=2Λsinγ ・・・(2)
ここでΛはグレーティングのピッチ(μm)、即ち単位長さ当たりの格子線数a(本/mm)の逆数である。尚、リットマン配置では入射光と反射光の角度は一致していない。
【0027】
光ファイバループの長さは回折格子によるバンドパスフィルタの半値全幅中に複数本の縦モードが含まれるような長さを選択することが必要である。この縦モードの本数は好ましくは10本以上とし、更に好ましくは100本以上とし、多いほど好ましい。但し縦モードを多くするためには光ファイバを長くする必要があり、実用的には数十mの長さの光ファイバが用いられる。
【0028】
次にこの実施の形態の動作について説明する。前述した励起用の半導体レーザ18を駆動し、WDMカップラ19を介して光ファイバループをポンピングする。図3(a)はゲイン媒体12の利得を示す。こうすれば光サーキュレータ13の作用によって端子13aから加わった光が端子13bより光ファイバ21に入り、コリメートレンズ22によって平行光となる。そしてポリゴンミラー25の回転角度によって決まる角度で反射された光が回折格子27に加わる。そして回折格子27のリトロー配置によって選択された反射光がそのまま同一方向に反射され、ポリゴンミラー25を介してコリメートレンズ22に加わる。更にコリメートレンズ22を介して光サーキュレータ13より光ファイバループに加わる。更に光サーキュレータ14の作用によって端子14aから加わった光が端子14bより光ファイバ23に入り、コリメートレンズ24によって平行光となる。そしてポリゴンミラー25の回転角度によって決まる角度で反射された光が回折格子27に加わる。そして回折格子27のリトロー配置によって選択された反射光がそのまま同一方向に反射され、ポリゴンミラー25を介してコリメートレンズ24に加わる。更にコリメートレンズ24を介して光サーキュレータ14より光ファイバループに加わる。又偏波コントローラ16は光ファイバループを透過する光の偏波を一定方向に調整する。図3(b)は光ファイバループの長さと光ファイバの屈折率で定まる光学長に応じて定まる外部共振縦モードを示している。例えばこの光学長を30mとすると、約10MHzの間隔の縦モードが存在する。図3(c)は回折格子27の特性B1を示している。コリメートレンズ22,24からポリゴンミラー25を介して回折格子27に2回光が加わって光が選択されるため、この特性B1を更に挟帯域とした特性を持つ波長で図4(d)に示すように複数の縦モードを含んで多モード発振する。発振波長は例えば1550nmとなる。こうして光ファイバループで発振したレーザ光の一部、例えばレーザ光の90%のレベルの光を光カップラ15を介して取り出す。尚、多モードの発振での光信号は光波長多重通信で伝送する際には問題となるが、分光分析や光ファイバセンシング、光部品評価などでは発振線幅(厳密には、多モード発振時スペクトルの包絡線の半値幅)が被測定対象の分解能より十分狭ければ、問題となるものではない。光ファイバ11の長さは光フィルタの半値全幅内に複数本、好ましくは少なくとも10本以上、更に好ましくは100本以上のモードが立つような長さを選択しておくものとする。
【0029】
そして駆動部26によってポリゴンミラー25を回動させる。こうすれば回折格子部27への入射角度が変化し、これによって選択波長が図3(c)のB1〜B2〜B3のように変化する。従ってポリゴンミラー25を回動させることによって、図4に示すようにのこぎり波状に発振波長を変化させることができる。この場合に、駆動部26によってポリゴンミラー25を回転させることによって、選択波長を例えば50nmの範囲内で高速の走査速度で変化させることができる。例えばポリゴンミラー25の回転速度を3万rpmとし、ポリゴンミラー25の反射面数を12とすると、15.4KHzの走査速度でファイバレーザ光源の発振波長を変化させることができる。
【0030】
この実施の形態による発振の場合には、図3(d)に示すように多モードの状態の発振となる。ここで図3(b)のように縦モードの間隔が極めて狭いので、波長可変時の発振モードの移動は包絡線状に連続であり、従来の単一モード発振の外部共振器型半導体レーザのようなモードホップとそれに伴う出力や波長の不安定な状態はなく、波長を連続的に可変できる。なお高速でスキャニングすると光が光ファイバループを1周する時間に応じてフィルタの中心波長が長波長側にシフトし、選択特性が拡大する。また抑圧されていた外部縦モードの発振する速度が追いつかないため、出力スペクトルが拡大する。しかしこの実施の形態では波長可変フィルタを2回通過させているので、高速でスキャニングしても帯域幅を狭く保つことができる。
【0031】
次に本発明の第2の実施の形態について説明する。この実施の形態は光ファイバループの部分については第1の実施の形態と同様であり、サーキュレータ13,14、光ファイバ21,22、コリメートレンズ22,24についても同様である。この実施の形態では、図5に示すようにコリメートレンズ22,24から出射される光の光ビーム径を拡大するようにしたものである。図5に示すようにコリメートレンズ22,24からの光ビームのビーム径をWとすると、プリズム状のビームエキスパンダ31によって光ビーム径がWに拡大される。ポリゴンミラー25で反射された光は更にビームエキスパンダ32によってその光ビーム径がWに拡大されて回折格子27に加わる。これによって回折格子27に入射される光の光ビーム径を拡大することができる。
【0032】
図6はビームエキスパンダ32と回折格子27の部分を示す拡大図であり、ビームエキスパンダ32の第1面への入射角をθ、屈折角をφ、ビームエキスパンダ32の第2面に対する入射角をν、出射角をμとする。又ビームエキスパンダ32のプリズムの頂角はαとし、回折格子27に対して角度βの位置で配置されているものとする。この場合には図示のような屈折により、回折格子27への入射角はβ+νとなる。回折格子27の選択波長λは次式で示される。
λ=2Λsin(β+ν) ・・・(3)
ここでΛは回折格子ピッチ(μm)であり、回折格子定数aの定数(本/mm)の逆数である。又回折格子による選択波長の半値幅Δλは次式で与えられる。
Δλ=λ/{2πWtan(β+ν)} ・・・(4)
ここでWは回折格子27に加わる光の光ビーム径であり、β+νは回折格子に対する入射角である。式(3)より明らかなように入射角が大きくなれば選択波長が長く、入射角が小さくなれば短波長となる。そして入射角が大きくなれば図6に示されるように、回折格子の面上に投影される光ビーム径も大きくなるため、λはほぼ一定と考えると、半値幅Δλは短波長となるほど太くなる。
【0033】
従って半値幅を一定とするためには、波長に応じて入射光の光ビーム径Wを変化させるようにすればよい。ビームエキスパンダ31は元の入射光の光ビーム径WをWに拡大するものであり、ビームエキスパンダ32はポリゴンミラー25を介して得られる光ビーム径WをWに拡大するものである。この拡大された光ビーム径Wを前述した式(4)に代入することによって半値幅が決定される。ここでビームエキスパンダ32による光ビーム径Wは拡大率をMとすると、次式で与えられる。
=M ・・・(5)
又この拡大率Mは次式で与えられる。
=(cosφ・cosν)/(cosθ・cosμ) ・・・(6)
尚、ビームエキスパンダ31においても同様にビーム径が拡大され、元の光ビーム径WがWに拡大される。
【0034】
図7はこれらの角度の変化と波長変化を示す図である。図8はこの図に基づいて作成したビームエキスパンダ32を用いたときの半値幅(線分A)の波長に対する変化と、ビームエキスパンダ32を用いずそのまま光ビームをポリゴンミラー25を介して回折格子に入射したときの半値幅(線分B)の波長に対する変化を示すグラフである。尚このグラフでは半値幅をΔf(GHz)として表示している。図8より明らかなように、ビームエキスパンダを用いてその角度を適宜設定しておくことによって、図示のように選択波長にかかわらず半値幅をほぼ一定に保つことができる。
【0035】
図9は本発明の第3の実施の形態による波長走査型ファイバレーザ光源を示す図である。この実施の形態においては、3ポート型の2つの光サーキュレータに代えて、4ポート型の光サーキュレータを光分岐入射部として用いたものである。4ポート型の光サーキュレータ41は端子41a,41dが光ファイバループに接続されており、端子41aから入射した光は光サーキュレータの端子41bに出射される。又端子41bより入射した光は端子41cより出射される。端子41cより入射した光は端子41dより出射される。端子41dより入射した光は端子41aより出射される。このため第1の実施の形態の2つの光サーキュレータ13,14に代えて、4ポート型の光サーキュレータ41を光分岐入射部として用いることができる。その他の構成は第1の実施の形態と同様である。この場合にもポリゴンミラー25を図示のように紙面に垂直な軸に沿って回転させることによって、反射角度を変化させ、発振波長のスキャニングができる。
【0036】
図10は本発明の第4の実施の形態による波長走査型ファイバレーザ光源を示す図である。この実施の形態では光ファイバループには前述した3ポート型の光サーキュレータ13のみを挿入する。又光カップラ15の出力側に第3の光サーキュレータ51を配置したものである。その他の構成は第1の実施の形態と同様である。即ち光カップラ15より光ループを回る一部の光を取り出して光ファイバ23を介してコリメータ24に入射する。これによって第1の実施の形態と同一の効果を得ることができる。
【0037】
尚、この実施の形態においては第1の実施の形態と同様に2つのサーキュレータ13,14に更に光サーキュレータ51を用いてもよい。又第3の実施の形態のように4ポート型の光サーキュレータ41に加えて更に光サーキュレータ51を用いてポリゴンミラーに入射するようにしてもよい。この場合には3本の光を平行にポリゴンミラー25と回折格子27に入射することによって波長選択性を高めることができる。
【0038】
図11は本発明の第5の実施の形態による波長走査型ファイバレーザ光源を示す図である。この実施の形態では光ファイバループの一部にゲイン媒体として半導体光増幅器(SOA)61を用いる。ファイバループには通常の光ファイバ11のみでループを形成する。又偏波コントローラとして16a,16bを挿入する。その他の構成は第1の実施の形態と同様に、光サーキュレータ13,14を介して光ファイバ21,23、コリメートレンズ22,24、ポリゴンミラー25及び回折格子27を接続する。こうすれば回折格子27への入射角に対応した波長で、前述した実施の形態と同様に発振が得られる。そしてポリゴンミラー25を回動させることによって、高速で発振波長を変化させることができる。この実施の形態においても、ビームエキスパンダを用いて入射角度に応じて光軸の幅を変化させることによって、半値幅の変化を抑えることができる。尚ゲイン媒体としては、半導体光増幅器(SOA)、ファブリペロー半導体レーザ(FPLD)、又はスーパールミネッセントレーザダイオード(SLD)等を用いることができる。
【0039】
図12は本発明の第6の実施の形態による波長走査型ファイバレーザ光源を示す図である。この実施の形態では光ファイバループに偏波面保存型光ファイバ71を用いてファイバレーザ光源のループを形成したものである。この実施の形態でも第5の実施の形態と同様にゲイン媒体として半導体光増幅器61を用いる。又光サーキュレータ13,14、光カップラ16を用いることも前述の実施の形態と同様である。この実施の形態では、偏波面保存型光ファイバ71を用いるため、ループを回って発振する光の偏波面は所定方向に一定となる。その他の構成は前述した実施の形態と同様であり、比較的簡単な構成で同様の効果が得られる。
【0040】
次に本発明の第7の実施の形態について図13を用いて説明する。この実施の形態では光ビーム偏向部として平板型のミラー81とこれを回動するガルバノメータ82を用いたものである。ガルバノメータは一定の角度で平板型のミラー81を回動させる。こうすればポリゴンミラーと用いた場合と同様に光ビームを偏向させることができ、波長を変化させることができる。この場合には時間に対する波長の変化はのこぎり波状でなく、三角波状となるが、同様に高速走査が実現できる。
【0041】
次に本発明の第8の実施の形態について図14,15を用いて説明する。この実施の形態では光分岐部として光サーキュレータ13のみを用い、光サーキュレータ13から出射された光をコリメートレンズ22に入射する。コリメートレンズ22、ポリゴンミラー25及び回折格子27の構成、配置は第1の実施の形態と同様である。図15はこの状態を示す斜視図である。この実施の形態では第1の実施の形態に比べてコリメートレンズ22よりポリゴンミラー25に出射する光の光路をY軸に垂直な平面からわずかに傾けておく。そしてポリゴンミラー25で反射された光の光路を第1の光路L1とすると、光路L1を通じて回折格子25に光を入射する。回折格子27は選択した波長の光を第1の光路とは異なる第2の光路L2に向けて反射する。第1,第2の光路L1,L2は図14に示すY軸に垂直な面内では同一の光路となる。このとき図15に示すようにポリゴンミラー25に入射される光のスポット91,92はY軸に沿ったものとする。こうすれば図14で示すY軸に垂直な面から見ると前述したリトロー配置となっている。さて第2の光路L2を通じてポリゴンミラー25に入射した光は反射されて、第3の光路L3を介してミラー93に入射する。ミラー93は入射した光をそのまま第3の光路L3を介してポリゴンミラー25に反射するものである。こうすればポリゴンミラー25で反射された光は再び第2の光路L2を介して回折格子27に入射される。再び選択された波長が第1の光路L1を介してポリゴンミラー25に入射する。そしてこの光は入射光と同一経路を通ってコリメートレンズ22より光ファイバ21に戻る。こうして光が光ファイバループに戻される。尚ポリゴンミラー25の回転に伴って第1,第2の光路L1,L2は変化するが、第3の光路L3は変化しない。その他の構成は前述した第1の実施の形態と同様である。この場合にも回折格子に入射された光が2回反射されるため、波長選択性を向上させることができる。
【0042】
尚前述した各実施の形態では、光ビーム偏向部としてガルバノミラーやポリゴンミラーを用いているが、反射角度を高速で変化させるものであればよく、これらの構成に限定されるものではない。
【0043】
本実施の形態では2つの光サーキュレータを用いてこれを同時にポリゴンミラー等の光ビーム偏向部に入射するようにしているが、3以上の光サーキュレータを用いて同様にしてこれらの光を平行にして光ビーム偏向部に入射するようにしてもよい。こうすれば同一の波長可変フィルタを用いることにより、更に波長選択性を高めることができる。
【産業上の利用可能性】
【0044】
本発明は回折格子を用いて比較的簡単な構成で高速で波長が変化するレーザ光源を得ることができる。従って医療用の分析機器、例えば表皮下層の高分解能医用画像診断装置に適用することが可能となる。又ファイバグレーティングセンサを用いて歪みの計測をする場合に、本発明の波長走査型ファイバレーザ光源を光源として用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0045】
【図1】本発明の第1の実施の形態による波長走査型ファイバレーザ光源を示す概略図である。
【図2】本実施の形態の光ビーム偏向部とその周辺部を示す斜視図である。
【図3】本実施の形態の光ファイバレーザ光源のゲイン媒体の利得、発振モード、バンドパスフィルタ及び発振出力を示すグラフである。
【図4】本実施の形態の発振波長の時間的な変化を示すグラフである。
【図5】本発明の第2の実施の形態による波長走査型ファイバレーザ光源の波長可変フィルタ部分を示す概略図である。
【図6】ビームエキスパンダ32と回折格子27を示す拡大図である。
【図7】角度変化と波長変化とを示す図である。
【図8】ビームエキスパンダの有無による半値幅の波長に対する変化を示すグラフである。
【図9】本発明の第3の実施の形態による波長走査型ファイバレーザ光源を示す概略図である。
【図10】本発明の第4の実施の形態による波長走査型ファイバレーザ光源を示す概略図である。
【図11】本発明の第5の実施の形態による波長走査型ファイバレーザ光源を示す概略図である。
【図12】本発明の第6の実施の形態による波長走査型ファイバレーザ光源を示す概略図である。
【図13】本発明の第7の実施の形態による波長走査型ファイバレーザ光源を示す概略図である。
【図14】本発明の第8の実施の形態による波長走査型ファイバレーザ光源を示す概略図である。
【図15】本実施の形態の光ビーム偏向部とその周辺部を示す斜視図である。
【符号の説明】
【0046】
10 波長走査型ファイバレーザ光源
11 光ファイバ
12 ゲイン媒体
13,14,41,51 光サーキュレータ
15 光カップラ
16 偏波コントローラ
17 エルビウムドープドファイバ
18 半導体レーザ
19 WDMカップラ
21,23 光ファイバ
22,24 コリメートレンズ
25 ポリゴンミラー
26 駆動部
27 回折格子
31,32 ビームエキスパンダ
61 半導体光増幅器
71 偏波面保存型光ファイバ
81 ミラー
82 ガルバノメータ
91,92 スポット
93 ミラー

【特許請求の範囲】
【請求項1】
レーザ発振の光路となる光ファイバループと、
前記光ファイバループに接続され、発振する波長に利得を有するゲイン媒体と、
前記光ファイバループより複数の光を分岐すると共に、分岐光と同一の光路で光を前記光ファイバループに戻す光分岐入射部と、
前記光分岐入射部で分岐された複数の分岐光が与えられ、夫々同一の波長を連続的に可変させつつ選択し、選択した波長の光を同一の光路で光分岐入射部に与える波長可変光フィルタと、
前記光ファイバループに接続され、前記光ファイバループを通過する光の一部を取り出す光学カップラと、を具備し、
前記波長可変フィルタは、
前記光分岐入射部より得られる光ビームの反射角度を一定範囲で周期的に変化させる光ビーム偏向部と、
前記光ビーム偏向部で偏向された光が入射され、入射角と同一方向に入射角に応じて変化する選択波長の光を反射する回折格子と、を具備することを特徴とする波長走査型ファイバレーザ光源。
【請求項2】
前記光分岐入射部は、夫々2つの端子が前記光ファイバループに接続された第1,第2の3ポート型光サーキュレータであることを特徴とする請求項1記載の波長走査型ファイバレーザ光源。
【請求項3】
前記光分岐入射部は、前記光ファイバループに接続された4ポート型光サーキュレータであり、第1の端子及び第4の端子が光ファイバループに接続され、第2及び第3の端子が夫々並列に前記波長可変フィルタに接続されていることを特徴とする請求項1記載の波長走査型ファイバレーザ光源。
【請求項4】
前記光分岐入射部は、
前記光ファイバループに接続された第1の光サーキュレータと、
前記光学カップラの出射側に接続され、出射された光の一部を分岐して前記波長可変フィルタに入射する第2の光サーキュレータと、を有することを特徴とする請求項1記載の波長走査型ファイバレーザ光源。
【請求項5】
レーザ発振の光路となる光ファイバループと、
前記光ファイバループに接続され、発振する波長に利得を有するゲイン媒体と、
前記光ファイバループより光を分岐すると共に、分岐光と同一の光路で光を前記光ファイバループに戻す光分岐入射部と、
前記光分岐入射部で分岐された分岐光が与えられ、波長を連続的に可変させつつ選択し、選択した波長の光を同一の光路で光分岐入射部に与える波長可変光フィルタと、
前記光ファイバループに接続され、前記光ファイバループを通過する光の一部を取り出す光学カップラと、を具備し、
前記波長可変フィルタは、
前記光分岐入射部より得られる光ビームを反射し、軸を中心として一定範囲でその反射角度を周期的に変化させる光ビーム偏向部と、
前記光ビーム偏向部で偏向された光が第1の光路を通って入射され、入射角に応じて変化する選択波長の光を前記光ビーム偏向部の軸からみて同一方向に前記第1の光路とは異なる第2の光路を通って反射する回折格子と、
前記第2の光路を通って前記光ビーム偏向部で反射され、第3の光路を通って入射された光を第3の光路に折り返し反射するミラーと、を具備することを特徴とする波長走査型ファイバレーザ光源。
【請求項6】
前記光ファイバループは、偏波面保存型の光ファイバを含んで構成したことを特徴とする請求項1記載の波長走査型ファイバレーザ光源。
【請求項7】
前記ゲイン媒体は、前記光ファイバループの一部を構成する光ファイバ増幅器であることを特徴とする請求項1記載の波長走査型ファイバレーザ光源。
【請求項8】
前記ゲイン媒体は、光を増幅する半導体光増幅器であることを特徴とする請求項1記載の波長走査型ファイバレーザ光源。
【請求項9】
前記光ファイバループには、光ファイバループを通過する光の偏波方向を一定方向に規定する偏波コントローラを更に有することを特徴とする請求項1記載の波長走査型ファイバレーザ光源。
【請求項10】
前記波長可変フィルタの光ビーム偏向部は、
前記光ファイバより出射される光軸上に配置され、回転によって光の反射角を変化させる複数の反射面を有するポリゴンミラーと、
前記ポリゴンミラーを回転させて光の反射角度を制御する駆動部と、を有することを特徴とする請求項1記載の波長走査型ファイバレーザ光源。
【請求項11】
前記波長可変フィルタの光ビーム偏向部は、
前記光ファイバより出射される光軸上に配置され、回転によって光の反射角を変化させるミラーと、
前記ミラーを一定の角度範囲で回動させるガルバノメータと、を有することを特徴とする請求項1記載の波長走査型ファイバレーザ光源。
【請求項12】
前記波長可変フィルタは、
前記光ビーム偏向部で偏向された光ビームのビーム径を拡大するビームエキスパンダを更に有し、
前記ビームエキスパンダは選択波長が短くなるに従って拡大率を大きくするものであることを特徴とする請求項1記載の波長走査型ファイバレーザ光源。
【請求項13】
前記ビームエキスパンダは、
前記光ファイバより得られる光ビームのビーム径を拡大し、前記光ビーム偏向部の前に配置された第1のビームエキスパンダと、
前記第1のビームエキスパンダから得られる光ビームのビーム径を拡大する第2のビームエキスパンダとを有することを特徴とする請求項12記載の波長走査型ファイバレーザ光源。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【公開番号】特開2006−237359(P2006−237359A)
【公開日】平成18年9月7日(2006.9.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−51105(P2005−51105)
【出願日】平成17年2月25日(2005.2.25)
【出願人】(591102693)サンテック株式会社 (57)
【Fターム(参考)】