説明

泥水用分散剤

【課題】 掘削土を循環泥水によって地上に効率良く排出するために十分な泥水粘度を有し、高温下においても、泥壁の形成性が良好で、掘削面の地層方向への泥水の透出量が小さい泥水用分散剤を提供する。
【解決手段】 ポリオキシアルキレン変性ビニルアルコール系重合体を含有する泥水用分散剤。ここで該変性ビニルアルコール系重合体は、ポリオキシアルキレン基を側鎖に含有し、粘度平均重合度Pが200〜3000であり、けん化度が80〜99.99モル%であり、ポリオキシアルキレン変性量Sが0.1〜10モル%である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、土木用の基礎工事、石油井ボーリング等、地盤を深く掘削する場合に使用される泥水用の分散剤に関する。
【背景技術】
【0002】
ビニルアルコール系重合体(以下PVAと略記する)は、数少ない結晶性の水溶性高分子として優れた界面特性および強度特性を有することから、紙加工、繊維加工およびエマルジョン用の安定剤に利用されているほか、PVA系フィルムおよびPVA系繊維等の原料として重要な地位を占めている。一方で結晶性を制御したり、官能基を導入して特定の性能を向上させた高機能化の追及も行われており、いわゆる変性PVAも種々開発されている。
【0003】
PVAの利用についても数多くの提案がなされており、その一つとして掘削工事等において用いられる泥水用の分散剤があり、例えば、特許文献1においては、カルボキシル基含有PVAを用いる例が、また、特許文献2においては、スルホン酸基含有PVAを用いる例がそれぞれ開示されている。
【0004】
掘削工事に用いられる泥水には、例えば、掘削工事においては、循環泥水によって地中で掘削された土砂が容易に地上に搬出されること、掘削面から地層方向へ泥水が流出するのを防止するため、泥壁の形成性が良好である(薄い泥壁が容易に形成される)こと、掘削面から地層方向への泥水の透出量が小さいこと等の要素が求められている。特に近年、掘削深度が深くなるにつれ、高温下での泥水物性が重要になってきている。
【0005】
しかしながら、上述の変性PVAを泥水用分散剤として用いる従来技術では、例えば、十分な泥水粘度が確保されないため、掘削土を循環泥水によって地上に排出する役割を十分に果たせない場合や、特に高温下での泥壁形成性や泥水の透出量の点において、必ずしも満足するものではないのが現状である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開昭57−23671号公報
【特許文献2】特開平8−85710号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、上記の従来技術の問題を解決するためになされたもので、掘削土を循環泥水によって地上に効率良く排出するために十分な泥水粘度を示し、高温下での泥壁形成性が良好で、泥水の透出量が少ない泥水用分散剤を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために、本発明者等は、オキシブチレン基を特定量有するポリオキシアルキレン変性ビニルアルコール系共重合体(以下、POA変性PVAと略することがある)が、泥水用分散剤として機能することを見いだし、本発明に至った。
【0009】
すなわち本発明は、POA変性PVAを含有する泥水用分散剤であって、該変性PVAは、下記一般式(I)で示されるポリオキシアルキレン基(以下、POA基と略することがある)を側鎖に含有し、粘度平均重合度Pが200〜3000であり、けん化度が80〜99.99モル%であり、POA変性量Sが0.1〜10モル%であることを特徴とする泥水用分散剤である。
【0010】
【化1】


(式中、R1は水素原子またはメチル基、R2は水素原子または炭素数1〜8のアルキル基を表す。mとnはそれぞれのオキシアルキレンユニットの繰り返し単位数を表し、0≦m≦10、3≦n≦20である。)
【0011】
ここで、前記POA変性PVAが、下記一般式(II)で示される不飽和単量体とビニルエステル系単量体とを共重合し、さらにけん化して得られる変性ビニルアルコール系重合体であることが好ましい。
【0012】
【化2】


(式中、R1、R2、m、nは上記一般式(I)と同様。R3は水素原子または−COOM基を表し、ここでMは水素原子、アルカリ金属またはアンモニウム基を表す。R4は水素原子、メチル基または−CH−COOM基を示し、ここでMは前記定義どおりである。Xは−O−、−CH−O−,−CO−,−(CH−,−CO−O−または−CO−NR5−を表す。ここでR5は水素原子または炭素数1〜4の飽和アルキル基を意味し、kはメチレンユニットの繰り返し単位数を表し、1≦k≦15である。)
【0013】
また、上記一般式(II)で示される不飽和単量体が、下記一般式(III)で示される不飽和単量体であることが好ましい。
【0014】
【化3】


(式中、R1、R2、R4、R5、m、nは上記一般式(II)と同様。)
【0015】
本発明は、上記の泥水用分散剤と無機系粘土鉱物とを含有する掘削用泥水をも包含する。ここで、前記無機系粘土鉱物はベントナイトであることが好ましい。
【発明の効果】
【0016】
本発明の泥水用分散剤を使用すると、泥水粘度が十分高くなって掘削土を循環泥水によって地上に効率良く排出することができる。また、泥水の高温下での泥壁形成性が良好となり、かつ透出量が少なくなる。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明の泥水用分散剤に含有されるPOA変性PVAは、下記一般式(I)で示されるPOA基を側鎖に有する。
【0018】
【化4】


式中、R1は水素原子またはメチル基、R2は水素原子または炭素数1〜8のアルキル基を表す。mとnはそれぞれのオキシアルキレンユニットの繰り返し単位数を表し、0≦m≦10、3≦n≦20である。ここで、繰り返し単位数がmであるユニットをユニット1と呼び、繰り返し単位数がnであるユニットをユニット2と呼ぶことにする。ユニット1とユニット2の配置は、ランダム状、ブロック状のどちらの形態になっても良い。
【0019】
一般式(I)で示されるPOA基のユニット1の繰り返し単位数mは0≦m≦10である必要があり、0≦m≦5がより好ましく、0≦m≦2が特に好ましい。また、ユニット2の繰り返し単位数nは3≦n≦20である必要があり、5≦n≦18が好ましく、8≦n≦15が特に好ましい。nが3未満の場合、POA基同士の相互作用が発現せず、泥水の粘度が低い場合がある。一方、nが20を超える場合、POA基の疎水性が高くなり、POA変性PVAの水溶性が低下し、泥水を調製できない場合がある。
【0020】
本発明の泥水用分散剤に含有されるPOA変性PVAは、上記一般式(I)で示されるPOA基を側鎖に含有していればよく、前記POA変性PVAを製造する方法は特に制限されないが、一般式(I)で示されるPOA基を有する不飽和単量体とビニルエステル系単量体との共重合を行い、得られたPOA変性ビニルエステル系共重合体をけん化する方法が好ましい。ここで、上記の共重合はアルコール系溶媒中または無溶媒で行うことが好適である。
【0021】
一般式(I)で示されるPOA基を有する不飽和単量体としては、下記一般式(II)で示される不飽和単量体であることが好ましい。
【0022】
【化5】


式中、R1、R2、m、nは上記一般式(I)と同様である。R3は水素原子または−COOM基を表し、ここでMは水素原子、アルカリ金属またはアンモニウム基を表す。R4は水素原子、メチル基または−CH−COOM基を表し、ここでMは前記定義のとおりである。Xは−O−、−CH−O−、−CO−、−(CH−、−CO−O−または−CO−NR5−を表す。ここでR5は水素原子または炭素数1〜4の飽和アルキル基を意味し、kはメチレンユニットの繰り返し単位数を表し、1≦k≦15である。
【0023】
一般式(II)で示される不飽和単量体のR2としては水素原子、メチル基またはブチル基が好ましく、水素原子またはメチル基がより好ましい。さらに、一般式(II)で示される不飽和単量体のR1が水素原子またはメチル基であり、R2が水素原子またはメチル基であり、R3が水素原子であることが特に好ましい。
【0024】
例えば、一般式(II)のR1が水素原子またはメチル基、R2が水素原子、R3が水素原子の場合、一般式(II)で示される不飽和単量体として具体的には、ポリオキシエチレンポリオキシブチレンモノアクリレート、ポリオキシエチレンポリオキシブチレンモノメタクリレート、ポリオキシエチレンポリオキシブチレンモノアクリル酸アミド、ポリオキシエチレンポリオキシブチレンモノメタクリル酸アミド、ポリオキシエチレンポリオキシブチレンモノアリルエーテル、ポリオキシエチレンポリオキシブチレンモノメタアリルエーテル、ポリオキシエチレンポリオキシブチレンモノビニルエーテル、ポリオキシプロピレンポリオキシブチレンモノアクリレート、ポリオキシプロピレンポリオキシブチレンモノメタクリレート、ポリオキシプロピレンポリオキシブチレンモノアクリル酸アミド、ポリオキシプロピレンポリオキシブチレンモノメタクリル酸アミド、ポリオキシプロピレンポリオキシブチレンモノアリルエーテル、ポリオキシプロピレンポリオキシブチレンモノメタアリルエーテル、ポリオキシプロピレンポリオキシブチレンモノビニルエーテル等が挙げられる。なかでも、ポリオキシエチレンポリオキシブチレンモノアクリル酸アミド、ポリオキシエチレンポリオキシブチレンモノメタクリル酸アミド、ポリオキシエチレンポリオキシブチレンモノビニルエーテルが好適に用いられ、ポリオキシエチレンポリオキシブチレンモノメタクリル酸アミド、ポリオキシエチレンポリオキシブチレンモノビニルエーテルが特に好適に用いられる。
【0025】
一般式(II)のR2が炭素数1〜8のアルキル基の場合、一般式(II)で示される不飽和単量体として具体的には、上記の一般式(II)のR2が水素原子の場合に例示した不飽和単量体の末端のOH基が炭素数1〜8のアルコキシ基に置換されたものが挙げられる。なかでも、ポリオキシエチレンポリオキシブチレンモノメタクリル酸アミド、ポリオキシエチレンポリオキシブチレンモノビニルエーテルの末端のOH基がメトキシ基に置換された不飽和単量体が好適に用いられ、ポリオキシエチレンポリオキシブチレンモノメタクリル酸アミドの末端のOH基がメトキシ基に置換された不飽和単量体が特に好適に用いられる。
【0026】
中でも、上記一般式(II)で示される不飽和単量体が、下記一般式(III)で示される不飽和単量体であることが特に好ましい。
【0027】
【化6】


式中、R1、R2、R4、R5、m、nは上記一般式(II)と同様である。
【0028】
一般式(I)で示されるPOA基を有する不飽和単量体とビニルエステル系単量体との共重合を行う際に採用される温度は0〜200℃が好ましく、30〜140℃がより好ましい。共重合を行う温度が0℃より低い場合は、十分な重合速度が得られにくい。また、重合を行う温度が200℃より高い場合、本発明で規定するPOA変性量を有するPOA変性PVAを得られにくい。共重合を行う際に採用される温度を0〜200℃に制御する方法としては、例えば、重合速度を制御することで、重合により生成する発熱と反応器の表面からの放熱とのバランスをとる方法や、適当な熱媒を用いた外部ジャケットにより制御する方法等があげられるが、安全性の面からは後者の方法が好ましい。
【0029】
一般式(I)で示されるPOA基を有する不飽和単量体とビニルエステル系単量体との共重合を行うのに用いられる重合方式としては、回分重合、半回分重合、連続重合、半連続重合のいずれでもよい。重合方法としては、塊状重合法、溶液重合法、懸濁重合法、乳化重合法等公知の任意の方法を用いることができる。その中でも、無溶媒またはアルコール系溶媒中で重合を行う塊状重合法や溶液重合法が好適に採用され、高重合度の共重合物の製造を目的とする場合は乳化重合法が採用される。アルコール系溶媒としては、メチルアルコール、エチルアルコール、プロピルアルコール等を用いることができるが、これらに限定されるものではない。またこれらの溶媒は2種類またはそれ以上の種類を混合して用いることができる。
【0030】
共重合に使用される開始剤としては、重合方法に応じて従来公知のアゾ系開始剤、過酸化物系開始剤、レドックス系開始剤等が適宜選ばれる。アゾ系開始剤としては、2,2’−アゾビスイソブチロニトリル、2,2’−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)、2,2’−アゾビス(4−メトキシ−2,4−ジメチルバレロニトリル)等が挙げられ、過酸化物系開始剤としては、ジイソプロピルパーオキシジカーボネート、ジ−2−エチルヘキシルパーオキシジカーボネート、ジエトキシエチルパーオキシジカーボネート等のパーカーボネート化合物;t−ブチルパーオキシネオデカネート、α−クミルパーオキシネオデカネート、t−ブチルパーオキシデカネート等のパーエステル化合物;アセチルシクロヘキシルスルホニルパーオキシド;2,4,4−トリメチルペンチル−2−パーオキシフェノキシアセテート等が挙げられる。さらには、上記開始剤に過硫酸カリウム、過硫酸アンモニウム、過酸化水素等を組み合わせて開始剤とすることもできる。また、レドックス系開始剤としては、上記の過酸化物と亜硫酸水素ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、酒石酸、L−アスコルビン酸、ロンガリット等の還元剤とを組み合わせたものが挙げられる。
【0031】
また、一般式(I)で示されるPOA基を有する不飽和単量体とビニルエステル系単量体との共重合を高い温度で行った場合、ビニルエステル系単量体の分解に起因するPVAの着色等が見られることがあるため、その場合には着色防止の目的で重合系に酒石酸のような酸化防止剤を1〜100ppm(ビニルエステル系単量体に対して)程度添加することはなんら差し支えない。
【0032】
ビニルエステル系単量体としては、ギ酸ビニル、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、酪酸ビニル、イソ酪酸ビニル、ピバリン酸ビニル、バーサチック酸ビニル、カプロン酸ビニル、カプリル酸ビニル、ラウリル酸ビニル、パルミチン酸ビニル、ステアリン酸ビニル、オレイン酸ビニル、安息香酸ビニル等が挙げられるが、中でも酢酸ビニルが最も好ましい。
【0033】
一般式(I)で示されるPOA基を有する不飽和単量体とビニルエステル系単量体との共重合に際して、本発明の主旨を損なわない範囲で他の単量体を共重合しても差し支えない。使用しうる単量体として、例えば、エチレン、プロピレン、n−ブテン、イソブチレン等のα−オレフィン;アクリル酸およびその塩;アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸n−プロピル、アクリル酸i−プロピル、アクリル酸n−ブチル、アクリル酸i−ブチル、アクリル酸t−ブチル、アクリル酸2−エチルヘキシル、アクリル酸ドデシル、アクリル酸オクタデシル等のアクリル酸エステル類;メタクリル酸およびその塩;メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸n−プロピル、メタクリル酸i−プロピル、メタクリル酸n−ブチル、メタクリル酸i−ブチル、メタクリル酸t−ブチル、メタクリル酸2−エチルヘキシル、メタクリル酸ドデシル、メタクリル酸オクタデシル等のメタクリル酸エステル類;アクリルアミド;N−メチルアクリルアミド、N−エチルアクリルアミド、N,N−ジメチルアクリルアミド、ジアセトンアクリルアミド、アクリルアミドプロパンスルホン酸およびその塩、アクリルアミドプロピルジメチルアミンおよびその塩またはその4級塩、N−メチロールアクリルアミドおよびその誘導体等のアクリルアミド誘導体;メタクリルアミド;N−メチルメタクリルアミド、N−エチルメタクリルアミド、メタクリルアミドプロパンスルホン酸およびその塩、メタクリルアミドプロピルジメチルアミンおよびその塩またはその4級塩、N−メチロールメタクリルアミドおよびその誘導体等のメタクリルアミド誘導体;メチルビニルエーテル、エチルビニルエーテル、n−プロピルビニルエーテル、i−プロピルビニルエーテル、n−ブチルビニルエーテル、i−ブチルビニルエーテル、t−ブチルビニルエーテル、ドデシルビニルエーテル、ステアリルビニルエーテル、2,3−ジアセトキシ−1−ビニルオキシプロパン等のビニルエーテル類;アクリロニトリル、メタクリロニトリル等のニトリル類;塩化ビニル、フッ化ビニル等のハロゲン化ビニル類;塩化ビニリデン、フッ化ビニリデン等のハロゲン化ビニリデン類;酢酸アリル、2,3−ジアセトキシ−1−アリルオキシプロパン、塩化アリル等のアリル化合物;マレイン酸、イタコン酸、フマル酸等の不飽和ジカルボン酸およびその塩またはそのエステル;ビニルトリメトキシシラン等のビニルシリル化合物;酢酸イソプロペニル等が挙げられる。
【0034】
また、一般式(I)で示されるPOA基を有する不飽和単量体とビニルエステル系単量体との共重合に際し、得られる共重合体の重合度を調節すること等を目的として、本発明の主旨を損なわない範囲で連鎖移動剤の存在下で共重合を行っても差し支えない。連鎖移動剤としては、アセトアルデヒド、プロピオンアルデヒド等のアルデヒド類;アセトン、メチルエチルケトン等のケトン類;2−ヒドロキシエタンチオール等のメルカプタン類;トリクロロエチレン、パークロロエチレン等のハロゲン化炭化水素類;ホスフィン酸ナトリウム1水和物等のホスフィン酸塩類が挙げられ、中でもアルデヒド類およびケトン類が好適に用いられる。連鎖移動剤の添加量は、添加する連鎖移動剤の連鎖移動定数および目的とするビニルエステル系重合体の重合度に応じて決定されるが、一般にビニルエステル系単量体に対して0.1〜10重量%が望ましい。
【0035】
POA変性ビニルエステル系共重合体のけん化反応には、従来公知の水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、ナトリウムメトキシド等の塩基性触媒またはP−トルエンスルホン酸等の酸性触媒を用いた加アルコール分解反応ないし加水分解反応を適用することができる。この反応に使用しうる溶媒としては、メタノール、エタノール等のアルコール類;酢酸メチル、酢酸エチル等のエステル類;アセトン、メチルエチルケトン等のケトン類;ベンゼン、トルエン等の芳香族炭化水素等が挙げられ、これらは単独で、または2種以上を組み合わせて用いることができる。中でもメタノールまたはメタノール/酢酸メチル混合溶液を溶媒とし、水酸化ナトリウムを触媒に用いてけん化反応を行うのが簡便であり好ましい。
【0036】
本発明の泥水用分散剤に含有されるPOA変性PVAはPOA変性量Sが0.1〜10モル%である必要がある。POA変性量Sが10モル%を超えると、POA変性PVA一分子あたりに含まれる疎水基の割合が高くなり、該PVAの水溶性が低下し、泥水を適切に調製できない場合がある。一方、POA変性量Sが0.1モル%未満の場合、POA変性PVAの水溶性は優れているものの、該PVA中に含まれるPOAユニットの数が少なく、POA変性に基づく物性が発現しない場合がある。
【0037】
POA変性量Sとは、PVAの主鎖メチレン基に対するPOA基のモル分率で表される。POA変性量Sの下限は0.1モル%以上が好ましく、0.2モル%以上がより好ましい。POA変性量Sの上限は2モル%以下が好ましく、1.5モル%以下がより好ましい。
【0038】
POA変性PVAのPOA変性量Sは、該POA変性PVAの前駆体であるPOA変性ビニルエステルのプロトンNMRから求めることができる。具体的には、n−ヘキサン/アセトンでPOA変性ビニルエステルの再沈精製を3回以上十分に行った後、50℃の減圧下で乾燥を2日間行い、分析用のPOA変性ビニルエステルのサンプルを作成する。該サンプルをCDClに溶解させ、500MHzのプロトンNMR(JEOL GX−500)を用いて室温で測定する。ビニルエステルの主鎖メチンに由来するピークα(4.7〜5.2ppm)とユニット2の末端メチル基に由来するピークβ(0.8〜1.0ppm)から下記式を用いてPOA変性量Sを算出する。なお、式中のnはユニット2の繰り返し単位数を表す。
S(モル%)={(βのプロトン数/3n)/(αのプロトン数+(βのプロトン数/3n))}×100
【0039】
POA変性PVAの粘度平均重合度Pは、JIS−K6726に準じて測定される。すなわち、該PVAを再けん化し、精製した後、30℃の水中で測定した極限粘度[η]から次式により求められる。なお、粘度平均重合度を単に重合度と呼ぶことがある。
P=([η]×10/8.29)(1/0.62)
【0040】
本発明の泥水用分散剤に含有されるPOA変性PVAの重合度は200〜3000である。重合度が3000を超えると、該POA変性PVAの生産性が低下して実用的でない。また、重合度が200未満の場合、高粘性の水溶液が得られない場合がある。
【0041】
POA変性PVAのけん化度は、その水溶性および水分散性の観点から80〜99.99モル%である必要があり、85〜99.9モル%が好ましい。けん化度が80モル%未満の場合には、POA変性PVAの水溶性が低下して、泥水を調製できなくなる場合があり、けん化度が99.99モル%を超えると、POA変性PVAの生産が困難になるので実用的でない。けん化度は88モル%以上がより好ましく、90モル%以上がさらに好ましい。なお、上記POA変性PVAのけん化度は、JIS−K6726に準じて測定し得られる値である。
【0042】
本発明の泥水用分散剤には、本発明の効果を損なわない範囲で、公知の泥水用分散剤を併用しても良い。公知の泥水用分散剤としては、バライト、フミン酸系分散剤、リグニン系分散剤、逸水防止剤、マッドオイル、カルボキシメチルセルロース、ポリアクリル酸およびその塩、消泡剤等が挙げられる。併用する量としては、本発明の効果を損なわない範囲であれば特に制限はないが、本発明の泥水用分散剤と等量以下の範囲が好ましい。
【0043】
泥水を調整する際に、本発明の泥水用分散剤と共に用いる無機系粘度鉱物としては、従来公知の無機系粘度鉱物が使用でき、例えば、モンモリロナイト、石英、クリストパライト、長石類、炭酸鉱物等のベントナイト系化合物やバイデライト、ノントロナイト、サポナイト、ヘクトライト、ソーコナイト、スチープンサイト等のスメクタイト系化合物等が挙げられる。これらの中でも、ベントナイト系化合物が好適に用いられる。
【0044】
泥水の組成としては特に制限はないが、水100重量部に対して、無機系粘度鉱物は0.1〜20重量部程度、また、本発明の泥水用分散剤は0.1〜10重量部程度の範囲で用いるのが一般的である。
【0045】
本発明の泥水用分散剤を用いた泥水を掘削工事に用いる際の好適な温度範囲は200℃以下であり、好ましくは180℃以下である。200℃を超える温度領域では、分散剤が熱分解したり、十分な泥水粘度にならない場合がある。
【0046】
本発明の泥水用分散剤を用いた泥水は、一般土木掘削工事に使用することができ、また、高温下でも安定であることから、高深度の掘削工事、とりわけ油井掘削工事にも用いることができる。
【0047】
以下、実施例により本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例により何ら限定されるものではない。以下の実施例および比較例において「部」および「%」は特に断らない限り「重量部」および「重量%」をそれぞれ意味する。
【0048】
[POA変性PVAの製造]
製造例1(PVA1の製造)
撹拌機、還流冷却管、窒素導入管、コモノマー滴下口および開始剤の添加口を備えた3Lの反応器に、酢酸ビニル750g、メタノール250g、POA基を有する不飽和単量体(単量体A)3.3gを仕込み、窒素バブリングをしながら30分間系内を窒素置換した。また、ディレー溶液としてPOA基を有する不飽和単量体(単量体A)をメタノールに溶解して濃度20%としたコモノマー溶液を調製し、窒素ガスのバブリングにより窒素置換した。反応器の昇温を開始し、内温が60℃となったところで、2,2’−アゾビスイソブチロニトリル(AIBN)0.25gを添加し重合を開始した。ディレー溶液を滴下して重合溶液中のモノマー組成(酢酸ビニルと単量体Aの比率)が一定となるようにしながら、60℃で3時間重合した後冷却して重合を停止した。重合を停止するまで加えたコモノマー溶液の総量は75mlであった。また重合停止時の固形分濃度は24.4%であった。続いて30℃、減圧下でメタノールを時々添加しながら未反応の酢酸ビニルモノマーの除去を行い、POA変性ビニルエステル系共重合体(POA変性PVAc)のメタノール溶液(濃度35%)を得た。さらに、これにメタノールを加えて調製したPOA変性PVAcのメタノール溶液453.4g(溶液中のPOA変性PVAc100.0g)に、55.6gのアルカリ溶液(水酸化ナトリウムの10%メタノール溶液)を添加してけん化を行った(けん化溶液のPOA変性PVAc濃度20%、POA変性PVAc中の酢酸ビニルユニットに対する水酸化ナトリウムのモル比0.1モル%)。アルカリ溶液を添加後約1分でゲル状物が生成したので、これを粉砕器にて粉砕し、40℃で1時間放置してけん化を進行させた後、酢酸メチル500gを加えて残存するアルカリを中和した。フェノールフタレイン指示薬を用いて中和が終了したことを確認した後、濾別して白色固体を得、これにメタノール2000gを加えて室温で3時間放置洗浄した。上記の洗浄操作を3回繰り返した後、遠心脱液して得られた白色固体を乾燥機中65℃で2日間放置してPOA変性PVA(PVA1)を得た。PVA1の重合度は1760、けん化度は98.7モル%、POA変性量は0.4モル%であった。
【0049】
製造例2〜27(PVA2〜27の製造)
酢酸ビニルおよびメタノールの仕込み量、重合時に使用するPOA基を有する不飽和単量体の種類(表2)や添加量等の重合条件、けん化時におけるPOA変性PVAcの濃度、酢酸ビニルユニットに対する水酸化ナトリウムのモル比等のけん化条件を表1および表2に示すように変更した以外は、製造例1と同様の方法により各種のPOA変性PVA(PVA2〜27)を製造した。
【0050】
製造例28(PVA28の製造)
撹拌機、還流冷却管、窒素導入管、開始剤の添加口を備えた3Lの反応器に、酢酸ビニル700g、メタノール300gを仕込み、窒素バブリングをしながら30分間系内を窒素置換した。反応器の昇温を開始し、内温が60℃となったところで、2,2’−アゾビスイソブチロニトリル(AIBN)0.25gを添加し重合を開始し、60℃で3時間重合した後冷却して重合を停止した。重合停止時の固形分濃度は17.0%であった。続いて30℃、減圧下でメタノールを時々添加しながら未反応の酢酸ビニルモノマーの除去を行い、ポリ酢酸ビニル(PVAc)のメタノール溶液(濃度30%)を得た。さらに、これにメタノールを加えて調製したPVAcのメタノール溶液544.1g(溶液中のPVAc120.0g)に、55.8gのアルカリ溶液(水酸化ナトリウムの10%メタノール溶液)を添加してけん化を行った(けん化溶液のPVAc濃度20%、PVAc中の酢酸ビニルユニットに対する水酸化ナトリウムのモル比0.1モル%)。アルカリ溶液を添加後約1分でゲル状物が生成したので、これを粉砕器にて粉砕し、40℃で1時間放置してけん化を進行させた後、酢酸メチル500gを加えて残存するアルカリを中和した。フェノールフタレイン指示薬を用いて中和が終了したことを確認した後、濾別して白色固体を得、これにメタノール2000gを加えて室温で3時間放置洗浄した。上記の洗浄操作を3回繰り返した後、遠心脱液して得られた白色固体を乾燥機中65℃で2日間放置して無変性PVA(PVA28)を得た。PVA28の重合度は1700、けん化度は98.5モル%であった。
【0051】
製造例29〜33(PVA29〜33の製造)
酢酸ビニルおよびメタノールの仕込み量、けん化時におけるPVAcの濃度、酢酸ビニルユニットに対する水酸化ナトリウムのモル比等のけん化条件を表1に示すように変更した以外は、製造例28と同様の方法により各種の無変性PVA(PVA29〜33)を製造した。
【0052】
PVA1〜33の製造条件を表1および表2に示す。
【0053】
【表1】

【0054】
【表2】

【0055】
製造例34(PVA34の製造)
特開昭57−23671号公報の実施例2と同様にして、PVA34を得た。
【0056】
製造例35(PVA35の製造)
特開平8−85710号公報の実施例1と同様にして、PVA35を得た。
【0057】
実施例1〜19および比較例1〜16
上記の製造例により得られたPVA1〜35について、下記に示す方法で泥水を調製し、泥水の粘度、泥水のろ過試験(20℃および150℃)を実施した。結果を表3に示す。
【0058】
[泥水の調整]
分散機(ハミルトンビーチ社製HMD200)に、水300重量部を加え、ベントナイト9重量部((株)テルナイト社製「テルゲルE」)を攪拌下で添加し、20℃で30分間分散させ、一晩放置した。放置後、沈殿物を除いた上澄み液に、各種泥水用分散剤を1重量部加え、再び分散機で30分間分散し、泥水を調整した。
【0059】
[泥水の粘度測定]
上述の調整で得られた泥水を用いて、BL型粘度計を用いてロータ回転数6rpm、温度20℃における粘度を測定した。
【0060】
[泥水のろ過試験]
Fann社製高温高圧フィルタープレス機(38700フィルタープレス175ml)に上述の調整で得られた泥水を投入し、ろ過試験を実施した。フィルターはFann社製のSpecial Hardenedフィルターペーパーを用いた。ろ過試験の圧力条件は、フィルタープレス機の上部圧力を600psi(4.137MPa)、下部圧力を100psi(0.690MPa)、両者の差圧を500psi(3.447MPa)にし、20℃および150℃において、それぞれ30分間ろ過試験を実施した。30分間の透水量とろ過試験後にフィルター上の残渣の厚み(ケーキ厚み)を測定した。
【0061】
【表3】

【0062】
泥水の粘度については、従来公知のPVA34およびPVA35(比較例9および10)、無変性PVAの完全けん化物PVA28〜33(比較例11〜16)、重合度が極端に小さいPVA9(比較例1)、POA基の変性量が低いPVA12(比較例3)、POA基のうち、オキシブチレン基のユニット数が本発明の範囲の下限より少ないPVA18、PVA25およびPVA26(比較例5、7および8)は、いずれも泥水粘度が数十mPa・s程度であった。また、けん化度が低いPVA9(比較例2)やPOA基の変性量が多いPVA14(比較例4)では、ポリマーの水溶性が低く、泥水の調整ができなかった。これらに対して、実施例の泥水は、いずれも数百mPa・s以上の粘度を示しており、本発明の目的の1つである、掘削土を循環泥水によって地上に効率良く排出するために十分な泥水粘度を有することがわかった。
【0063】
また、泥水のろ過試験では、20℃での試験において、従来公知のPVA34およびPVA35(比較例9および10)、無変性PVAの完全けん化物PVA28〜31(比較例11〜14)、POA基の変性量が低いPVA12(比較例3)、POA基のうち、オキシブチレン基のユニット数が本発明の範囲の下限より少ないPVA18、PVA25およびPVA26(比較例5、7および8)は、いずれもケーキ厚みが3mm以上であった。また、透水量も19.2mL以上であった。更に、無変性PVAの完全けん化物の中でも比較的重合度の大きいPVA32およびPVA33(比較例15および16)は、ろ過試験後の液の状態を確認したところ、全体がゲル化していた。これらに対して、実施例ではいずれもケーキ厚みが2.5mm以下であり、泥壁の形成性が良好であった。また、透水量も12mL以下で、良好であった。
【0064】
150℃でのろ過試験でも、本発明の泥水用分散剤を用いた実施例ではいずれも、ケーキ厚み、透水量共に良好な結果を示し、20℃でのろ過試験と比較すると、比較例との差がより顕著となった。また、20℃での試験では良好な結果を示した、重合度が小さいPVA6(比較例1)については、150℃での試験では、他の比較例と同様の値を示した。
【0065】
以上の結果から、本発明の泥水用分散剤は、従来公知のPVA系の泥水用分散剤と比較して、掘削土を循環泥水によって地上に効率良く排出するために十分な泥水粘度を有し、高温下においても、泥壁の形成性が良好で、掘削面の地層方向への泥水の透出量が小さいことが分かる。
【産業上の利用可能性】
【0066】
本発明の泥水用分散剤は、掘削土を循環泥水によって地上に効率良く排出するために十分な泥水粘度を有し、高温下においても、泥壁の形成性が良好で、掘削面の地層方向への泥水の透出量が小さいことから、土木用の基礎工事、石油井ボーリング等地盤を深く掘削する場合に好適に用いることができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリオキシアルキレン変性ビニルアルコール系重合体を含有する泥水用分散剤であって、該変性ビニルアルコール系重合体は、下記一般式(I)で示されるポリオキシアルキレン基を側鎖に含有し、粘度平均重合度Pが200〜3000であり、けん化度が80〜99.99モル%であり、ポリオキシアルキレン変性量Sが0.1〜10モル%であることを特徴とする泥水用分散剤。
【化1】


(式中、R1は水素原子またはメチル基、R2は水素原子または炭素数1〜8のアルキル基を表す。mとnはそれぞれのオキシアルキレンユニットの繰り返し単位数を表し、0≦m≦10、3≦n≦20である。)
【請求項2】
前記ポリオキシアルキレン変性ビニルアルコール系重合体が、下記一般式(II)で示される不飽和単量体とビニルエステル系単量体とを共重合し、さらにけん化して得られる変性ビニルアルコール系重合体である、請求項1に記載の泥水用分散剤。
【化2】


(式中、R1、R2、m、nは上記一般式(I)と同様。R3は水素原子または−COOM基を表し、ここでMは水素原子、アルカリ金属またはアンモニウム基を表す。R4は水素原子、メチル基または−CH−COOM基を示し、ここでMは前記定義どおりである。Xは−O−、−CH−O−,−CO−,−(CH−,−CO−O−または−CO−NR5−を表す。ここでR5は水素原子または炭素数1〜4の飽和アルキル基を意味し、kはメチレンユニットの繰り返し単位数を表し、1≦k≦15である。)
【請求項3】
前記不飽和単量体が下記一般式(III)で示される不飽和単量体である、請求項1または2に記載の泥水用分散剤。
【化3】


(式中、R1、R2、R4、R5、m、nは上記一般式(II)と同様。)
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか1項に記載の泥水用分散剤と無機系粘土鉱物とを含有する掘削用泥水。
【請求項5】
前記無機系粘土鉱物がベントナイトである、請求項4に記載の掘削用泥水。

【公開番号】特開2011−57769(P2011−57769A)
【公開日】平成23年3月24日(2011.3.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−206582(P2009−206582)
【出願日】平成21年9月8日(2009.9.8)
【出願人】(000001085)株式会社クラレ (1,607)
【Fターム(参考)】