説明

活性炭及びその製造方法、並びに製造装置

【課題】木質材料等の有機系の処理対象物を原料として用いて、高い比表面積と電気二重層キャパシタに適した細孔構造を有する活性炭、及びその製造方法を提供する。
【解決手段】木質材料を主成分とした処理対象物に対して炭化処理、賦活化処理を過熱水蒸気雰囲気中において連続して行うことで製造され、全比表面積が600m/g以上を有するとともに、外比表面積が全比表面積の20%以上75%以下を占める細孔分布構造を有する活性炭である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、木質系材料を原料に用いて、乾燥、乾留、賦活等の炭化処理を行うことで得られる活性炭及びその製造方法、並びに製造装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、電気二重層キャパシタ電極に用いる活性炭の有力候補の一つとして、フェノール樹脂等の石油系炭素前駆体を炭化、賦活処理して得られるものが挙げられる。そして、このような活性炭については、電気二重層キャパシタに用いる際に適した細孔分布構造として孔径の小さなミクロ孔の分布を抑制する試みが有機電解液系の電気二重層キャパシタ用分野で行われている。
【0003】
例えば、(特許文献1)では、電解液として有機系電解液を使用する活性炭が開示されており、石油系炭素前駆体に所定の粒径を有する金属化合物の粒子を混合し、アルゴンや窒素等の非酸化性雰囲気中で700〜2000℃の温度で長時間温度を保持した後に、水蒸気又は二酸化炭素等の酸化性ガス中で加熱することで活性炭を製造する方法が開示されている。そして、得られた活性炭は、窒素吸着等温線からt−plot法により算出されるミクロポアに基づく比表面積が全比表面積の70%以下であることが示されている。
【0004】
また、(特許文献2)では、炭素化物原料に対して450℃〜550℃で1〜10時間の第1次空気賦活処理を行い、その後、350〜430℃で10〜60時間の第二次空気賦活処理を行うことを特徴とする活性炭の製造方法が開示されている。そして、メソ孔の容積が比較的大きい活性炭が得られることが示されている。
【0005】
さらに、(特許文献3)では、合成樹脂、石油系ピッチ、石油系ピッチ(原料)を熱処理(焼成)したコークス等の炭素化物にアルカリ土類金属化合物の粉末を添加して高温熱処理することにより所定の活性炭を製造する技術が開示されている。
【0006】
【特許文献1】特開2000−340470号公報
【特許文献2】特開2005−286170号公報
【特許文献3】特開2004−175660号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、(特許文献1〜3)に記載の活性炭の製造方法は、木質材料を出発原料とするものではなく、いずれも合成樹脂、石炭系ピッチ、石油系ピッチ等を原料として用いたものであった。そして、従来、木質材料等の原料は、合成樹脂、石炭系ピッチ、石油系ピッチ等と比較して比表面積や細孔構造を制御することが難しく、電気二重層キャパシタとして用いるには性能を適合させにくいという問題があった。また、(特許文献1、3)は電解液としてイオン径の大きい有機系電解液を用いることを想定したものであり、イオン径の小さな水系電解液を想定したものではなかった。
【0008】
上記従来の状況に鑑み、本発明では、木質材料を原料として用いて、大きい比表面積と、水系電解液の電気二重層キャパシタに適した細孔構造を有する活性炭、及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するため、本発明の活性炭では請求項1として、木質材料を主成分とした処理対象物に対して炭化処理、賦活処理を過熱水蒸気雰囲気中において連続して行うことで製造され、全比表面積が600m/g以上を有するとともに、外比表面積が全比表面積の20%以上75%以下を占める細孔分布構造を有することを特徴とする。なお、全比表面積は、活性炭に対する窒素ガスの吸着量からαプロット法を用いて算出された活性炭1g当たりの表面積を表す。また、外比表面積は、同様にαプロット法を用いて算出される数値であり、ミクロ孔(細孔径が2nm以下のものをいう)以外の大きさの細孔に対する活性炭1g当たりの表面積を表し、外比表面積の多くはメソ孔によるものである。
【0010】
また、本発明の活性炭の製造方法は、請求項2として、木質材料を主成分とした処理対象物を乾燥する工程と、前記乾燥工程において乾燥された処理対象物を400℃〜950℃の過熱水蒸気雰囲気中に所定時間滞留させることにより炭化処理、賦活処理を連続して行う炭化・賦活処理工程とを有することを特徴とする。また、請求項3では、請求項2記載の製造方法において、炭化・賦活処理工程は、炭化・賦活処理を開始する際の過熱水蒸気の温度が400℃〜700であり、炭化・賦活処理を終了する際の過熱水蒸気の温度が750℃〜950℃であるとともに、炭化・賦活処理の開始からまで過熱水蒸気の温度を上昇させて行われることを特徴とする。
【0011】
また、本発明の活性炭の製造装置は、請求項4として、過熱水蒸気を導入するための水蒸気導入口を備え、木質材料を主成分とした処理対象物に対して炭化処理及び賦活処理を行う炭化炉を有する活性炭製造装置であって、前記炭化炉は、木質材料を主成分とした処理対象物を過熱水蒸気に接触することによって炭化させる炭化部と、前記炭化部で炭化処理された処理対象物を連続して過熱水蒸気に接触することによって賦活処理を行う賦活部とを有し、前記水蒸気導入口が前記賦活部に少なくとも二つ以上設けられたことを特徴とする。
【0012】
また、請求項5として、請求項4記載の活性炭製造装置において、水蒸気導入口のいずれか一以上に過熱水蒸気の流量を制御するための流量制御弁が設けられたことを特徴とする。
【0013】
また、請求項6として、請求項4又は5記載の活性炭製造装置において、炭化部には150〜300℃のガスを追加的に導入する低温ガス導入口が設けられたことを特徴とする。
【0014】
また、請求項7として、請求項4〜6のいずれか記載の活性炭製造装置において、炭化炉が炭化部から賦活部に向かって0.1〜10°下方に傾斜するように配置されたことを特徴とする。
【0015】
また、請求項8として、請求項7記載の活性炭製造装置において、炭化炉の傾斜角度を調整する傾斜角度制御装置を設けたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0016】
本発明の活性炭によれば、木質材料を主成分とした処理対象物を原料として用いるとともに、大きな比表面積を有するとともに、さらには全比表面積に対して高い外比表面積の割合を有する。そして、外比表面積の大きさは電気二重層キャパシタの静電容量の向上に大きく寄与するものであり、電気二重層キャパシタに好適に用いることができる。さらには、木質材料を出発原料に用いているので、近年森林に大量に放置されている間伐材を電気二重層キャパシタの電極材料など付加価値の高い活性炭として利用することが可能になる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下、本発明を実施するための最良の形態について詳細に説明する。本発明の活性炭は、木質材料を主成分とした処理対象物に対して炭化処理、賦活処理を過熱水蒸気雰囲気中において連続して行うことで製造され、全比表面積が600m/g以上を有するとともに、外比表面積が全比表面積の20%以上75%以下を占める細孔分布構造を有する。そして、本発明の活性炭は、全比表面積が800m/g以上を有することが好ましく、1000m/g以上を有することが特に好ましい。また、外比表面積の全比表面積に占める割合は、35%以上75%以下であることが好ましく、50%以上75%以下であることが特に好ましい。
【0018】
本発明者らは、木質材料を主成分とした処理対象物に対して過熱水蒸気雰囲気中において炭化処理、賦活処理を連続して行うことで全比表面積が600m/g以上という表面積を有し、さらには外比表面積が全比表面積の20%以上75%以下を占める細孔分布構造を有する活性炭を製造できることを見出し、本発明を完成するに至った。すなわち、本発明の活性炭は、細孔径が2nm以下のミクロ孔を除いた比表面積である外比表面積が全比表面積の20%以上75%以下を占めており、そのほとんどが細孔径が2〜50nmのメソ孔によるものである。
【0019】
なお、本発明における活性炭の全比表面積、及び外比表面積は、窒素吸着測定装置を用いて以下の手法で測定した。全比表面積の算出に当たっては、Singにより提唱されたαプロット法を用いた。具体的には、低相対圧における窒素ガスの吸着量データからα値に対する窒素ガスの吸着量をプロットしたαプロットを作成した。なお、α値とは、式1に示すように、各相対圧での吸着量Wを吸着等温線上のP/P=0.4における吸着量(WP/P0=0.4)で割った値を示す。
α=W/WP/P0=0.4 ・・・(1)
そして、作成したαプロットに基づき、全比表面積Stotalは、αプロット中の原点を通る一本の右上がりの直線部分の傾きから求めた。また、外比表面積Sextはミクロ孔以外の比表面積であり、αプロット中の上部の勾配が小さい直線の傾きから算出した。そして、ミクロ孔比表面積Smicroは全比表面積Stotalから求めた。
【0020】
また、本発明における活性炭は、BET法により算出されたBET比表面積SBETを用いて表した場合550m/g以上の比表面積を有する。なお、BET比表面積については、活性炭に対する窒素ガスの吸着量からBET式を用いて算出した。
【0021】
続いて、上述のような活性炭を製造するための活性炭製造装置について詳しく説明する。
図1は、本発明に実施の形態(1)係る活性炭製造用炭化装置の全体構成図である。また、図2は、活性炭製造用炭化装置に用いる炭化炉を示す図である。図1に示すように、活性炭製造用炭化装置10には、木材チップなどの原料を乾燥炉30に供給する処理対象物供給手段20と、炭化炉40が排出した水蒸気を導入して処理対象物を乾燥させて乾燥済みの処理対象物と使用済みの水蒸気とを排出する乾燥工程を行う乾燥炉30と、乾燥炉30にて乾燥させた処理対象物を供給し高温水蒸気発生装置60から過熱水蒸気を導入して処理対象物を炭化処理、賦活処理させて炭化済みの活性炭と使用済みの水蒸気とを排出する炭化・賦活処理を行う炭化炉40と、炭化炉40にて炭化した活性炭を冷却して貯蔵する排出装置50とを設けてある。
【0022】
また、活性炭製造用炭化装置10には、廃熱ボイラ80から水蒸気を導入して炭化炉40に供給する高温の過熱水蒸気を生成する高温水蒸気発生装置60と、乾燥炉30から排出された使用済みの水蒸気に含まれる不純物を加熱して脱臭燃焼させ高温の排気を排出する脱臭炉70と、脱臭炉70から排出される高温の排気を用いて水を加熱し高温水蒸気発生装置60に供給するための水蒸気を生成する廃熱ボイラ80と、廃熱ボイラ80に水を供給する水供給装置90と、脱臭炉70から排出された後に廃熱ボイラ80で熱交換を行なった後の排気に含まれる粉塵や水分を、サイクロン等を用いて集塵するとともに無臭化、無煙化する集塵装置96と、集塵した後の排気を大気に放出する排気筒98とを設けている。
【0023】
処理対象物供給手段20には、木材チップなどの原料処理対象物を貯蔵するホッパ22と、ホッパ22に貯蔵してある処理対象物をフィーダ26に供給するコンベア24と、乾燥炉30に処理対象物を計量供給するフィーダ26とを設けている。
【0024】
乾燥炉30の円筒シェル31には、フィーダ26が計量した処理対象物を供給する処理対象物供給口32と、処理対象物を乾燥、乾留させつつ攪拌移動させる円筒部33と、円筒シェル31内で処理対象物を乾燥、乾留させつつ攪拌移動させるための1乃至複数の回転可能なプロペラフィーダ等の攪拌羽根34と、乾燥、乾留済みの処理対象物を排出する排出口35と、炭化炉40から排出された使用済みの水蒸気を円筒部33外側から攪拌羽根34の回転方向と同じ方向の円筒内面接線方向(タンジェンシャル方向)に導入する水蒸気導入口36と、円筒シェル31内で処理対象物を加熱した後の使用済み水蒸気を円筒部33内面から円筒部外側へ円筒部33内面の接線方向(タンジェンシャル方向)に排出する水蒸気排出口37を設けている。
【0025】
炭化炉40の円筒シェル41には、乾燥炉30の排出口35から排出されてきた乾燥済みの処理対象物を供給する処理対象物供給口42と、処理対象物を炭化、賦活させつつ攪拌移動させる円筒部43と、円筒シェル41内の低酸素状態で処理対象物を炭化、賦活させつつ攪拌移動させるための1乃至複数の回転可能なスクリュー型コンベア、プロペラフィーダ等の攪拌羽根44と、炭化、賦活済みの処理対象物を排出する排出口45と、高温水蒸気発生装置60から排出された700〜920(℃)の過熱水蒸気を円筒部43外側から攪拌羽根44の回転方向と同じ方向の円筒内面接線方向(タンジェンシャル方向)に導入する水蒸気導入口46と、円筒シェル41内で処理対象物を加熱した後の使用済み水蒸気を円筒部43内面から円筒部外側へ円筒部43内面の接線方向(タンジェンシャル方向)に排出する水蒸気排出口47を設けている。なお、回転可能に構成された撹拌羽根の回転軸は円筒部43と平行となるように設けられている。また、炭化炉40は、処理対象物供給口42から排出口45に向かって下方に傾斜するように配置されており、その傾斜角度は0.1°〜10°であることが好ましく、0.5°〜2°であることが特に好ましい。炭化炉40が処理対象物供給口42から排出口45に向かって下方に傾斜しているので、撹拌羽根44による移動と相俟って処理対象物を確実かつ安定的に移動させることが可能となる。なお、炭化炉40を傾斜させるための角度制御装置を設けることが好ましい。そして、炭化炉40の円筒シェル41は、木質材料を主成分とした処理対象物を過熱水蒸気に接触することによって炭化させる炭化部と、前記炭化部で炭化処理された処理対象物を連続して過熱水蒸気に接触することによって賦活処理を行う賦活部とに区分される。
【0026】
この際、図2に示すように、過熱水蒸気は炭化炉40に設けた1箇所の水蒸気導入口46から集中的に導入されるので、水蒸気導入口46から水蒸気排出口47へ向かって過熱水蒸気の温度は低下する。一方、処理対象物側から見た場合には、処理対象物供給口42から排出口45へ向かって撹拌移動されるが、接触する過熱水蒸気の温度は排出口45へ向かって上昇することとなる。なお、処理対象物供給口42における過熱水蒸気の温度は、炭化処理を開始する際の炭化処理開始温度であり400℃〜700℃が好ましく、500℃〜650℃であることが特に好ましい。また、排出口45における過熱水蒸気の温度は賦活処理を終了する際の賦活処理終了温度であり800℃〜920℃であることが好ましく、800〜880℃であることが特に好ましい。また、炭化炉40に供給する過熱水蒸気又は使用済みの水蒸気の流速は、処理対象物への熱伝達を進める上で、5(m/s)以上の流速であることが望ましい。しかし、20(m/s)以上にすると炭化炉40の内部で使用している部品にエロージョン等の問題が発生するので、適切な流速の範囲が存在する。水蒸気導入口46には、水蒸気導入口の開口面積等を圧力調節機構又は絞りによって調節することで過熱水蒸気の流量を制御する流量制御弁を設けることが好ましい。
【0027】
排出装置50には、炭化炉40にて炭化、賦活した高温の活性炭を水で冷却する冷却ジャケット52と、出来上がった活性炭を冷却しつつ製品タンク54に送る水冷ジャケット付のスクリューコンベア56とを設けてある。
【0028】
高温水蒸気発生装置60は、廃熱ボイラ80から水蒸気を、LPG等をバーナで燃焼させている雰囲気中に導入して過熱水蒸気を生成する。高温水蒸気発生装置60にて生成した過熱水蒸気は、炭化炉40に供給し、処理対象物を乾留、炭化、賦活させて活性炭を生成する。
【0029】
脱臭炉70は、炭化炉40から排出された使用済みの水蒸気を石油バーナ等の燃焼雰囲気中に供給して、使用済みの水蒸気に含まれる、アンモニア、メルカブタン、硫化水素、硫化メチル、二硫化メチル、トリメチルアミン、アセトアルデヒド、スチレン等の不純物を脱臭燃焼させ、高温の排気を排出する。
【0030】
廃熱ボイラ80は、脱臭炉70から排出される高温の排気を用いて水を多段階に加熱して水蒸気(ドライスチーム)を生成し、高温水蒸気発生装置60に供給する。
【0031】
集塵装置96は、脱臭炉70から排出された後に廃熱ボイラ80で熱交換を行なった後の排気に含まれる粉塵(固形物など)や水分を、サイクロン等を用いて集塵するとともに、無煙化する処理を行なう。また、排気筒98は、集塵した後のクリーンな排気を大気に放出する。
【0032】
続いて、活性炭製造用炭化装置10を用いた活性炭の製造方法について説明する。
先ず脱臭炉ブロワー72を動作させて脱臭炉70に燃焼用の空気を供給する。次に灯油タンク74から灯油ポンプ76を用いて灯油を脱臭炉70に供給して燃焼を開始させる。脱臭炉70からは、800乃至1200(℃)の排気が排出され、この高温の排気は廃熱ボイラ80に供給する。
【0033】
廃熱ボイラ80の温度が上昇したら、水供給装置90の軟水器92を経由して軟水タンク94に貯蔵されている軟水を給水ポンプ95にて圧送して廃熱ボイラ80に供給する。廃熱ボイラ80の後段では、供給した軟水を高温に加熱する。そして、更に廃熱ボイラ80の前段に供給して150乃至300(℃)の過熱水蒸気(ドライスチーム)を生成して高温水蒸気発生装置60に供給する。
【0034】
高温水蒸気発生装置60では、送風機62を動作させて燃焼用の空気を高温水蒸気発生装置60に供給する。次に、水蒸気を加熱するために、LPGボンベ64からガバナ66を介してLPGをバーナ68に供給して点火する。すると、廃熱ボイラ80から導入した150℃〜300℃の水蒸気を更に加熱して750℃〜950℃の過熱水蒸気、より好ましくは880℃〜920℃の過熱水蒸気を生成し、炭化炉40に供給する。
【0035】
一方、活性炭のもとになる木質材料等の処理対象物は、予め処理対象物供給手段20のホッパ22に投入して貯蔵しておく。ホッパ22内に貯蔵された処理対象物は、処理対象物供給手段20に設けてあるコンベア24にてフィーダ26に供給する。フィーダ26は、所定の量の処理対象物を適宜乾燥炉30に計量供給する。
【0036】
処理対象物は、乾燥炉30の円筒シェル31に設けられている処理対象物供給口32から円筒シェル31内部に供給される。円筒シェル31内部では攪拌羽根34が回転しているので、円筒シェル31内の円筒部33において処理対象物が攪拌されつつ排出口35の方向へ徐々に移動する。
【0037】
なお、水蒸気導入口36からは、炭化炉40から排出された使用済みの750℃〜950℃の過熱水蒸気が、円筒部33外側から攪拌羽根34の回転方向と同じ方向の円筒内面接線方向(タンジェンシャル方向)に導入されて、強い渦を発生している。したがって過熱水蒸気は、攪拌羽根34にて攪拌移動されている処理対象物とよく混合しながら加熱分解又は加水分解等の反応を行なう。
【0038】
過熱水蒸気によって処理対象物は、加熱、乾燥、乾留の反応を行いつつ円筒部33を水蒸気排出口37に向かって進み、使用済み過熱水蒸気は円筒部33内面から円筒部外側へ円筒部33内面の接線方向(タンジェンシャル方向)に排出される。ここでも円筒部33内面の接線方向に使用済みの過熱水蒸気が排出されるように水蒸気排出口37を設けているので、円筒部33内の過熱水蒸気の旋回流れを維持し処理対象物との相対流速を高く保ち、伝熱を促進する。
【0039】
なお、過熱水蒸気は、円筒部33の外側から5乃至20(m/s)の流速にて攪拌羽根34の回転方向と同じ方向の円筒内面接線方向に導入して、強い水蒸気の渦を発生するようにしている。またこの過熱水蒸気は、円筒部33の製品の排出口35に近い側面から円周接線方向に5乃至20(m/s)の流速をもって吹き付け、処理対象物供給口32の入口近くに設けた水蒸気排出口37から、攪拌羽根34と同一の回転方向の円周接線方向に向かって排出する。この構造によって、水蒸気は旋回流を伴って被処理物質との大きな相対速度をある程度継続して持ちながら反応炉内を移動するために、処理対象物に対する熱の伝達が促進され、処理対象物の温度が水蒸気の温度に近づき、乾燥、乾留等の各種反応が促進される。なお、処理対象物供給口32あるいは水蒸気排出口37付近における使用済の過熱水蒸気は、250℃〜600℃の温度を有していることが好ましく、300℃〜500℃の温度を有していることが特に好ましい。この使用済みの水蒸気には、窒素化合物等の有害な物質や臭気を含まれており、脱臭炉70内において使用済みの水蒸気中に含まれた有害な物質を灯油等とともに燃焼させて800℃〜1200℃の温度に加熱して、有害物質が分解される。
【0040】
続いて、乾燥炉30にて乾燥させた処理対象物は排出口35から排出され、次の処理工程の炭化炉40に供給される。乾燥炉30から排出された処理対象物は、乾燥炉40の円筒シェル41に設けられている処理対象物供給口42から円筒シェル41内部に供給される。円筒シェル41内部では攪拌羽根44が回転しているので、円筒シェル41内の円筒部43において処理対象物が攪拌されつつ排出口45の方向へ徐々に移動する。
【0041】
水蒸気導入口46からは、高温水蒸気発生装置60から供給される過熱水蒸気が、円筒部43外側から攪拌羽根44の回転方向と同じ方向の円筒内面接線方向(タンジェンシャル方向)に導入されて、水蒸気の強い旋回流を発生するようにしている。したがって過熱水蒸気は、攪拌羽根44にて攪拌移動されている処理対象物とよく混合して反応し、処理対象物を炭化、賦活させつつ円筒部43を水蒸気排出口47に向かって進み、使用済み水蒸気は円筒部34内面から円筒部外側へ円筒部43内面の接線方向(タンジェンシャル方向)に排出される。ここでも円筒部43内面の接線方向に使用済みの水蒸気が排出されるように水蒸気排出口47を設けているので、処理対象物とよく混合しながら加熱分解又は加水分解等の反応が促進される。
【0042】
続いて、図3に、本発明の実施の形態(1)に係る炭化炉内での温度分布を示す。図3に示すように炭化炉40の処理対象物供給口42から排出口45に向かって温度が上昇し、炭化・賦活処理の開始から終了まで過熱水蒸気の温度が上昇するような炉内温度分布となるように過熱水蒸気の温度が設定されている。具体的には、木質材料を主成分とした処理対象物を炭化させる炭化部において過熱水蒸気の温度が400℃〜700℃であり、炭化部で炭化処理された処理対象物を連続して賦活処理を行う賦活部における過熱水蒸気の平均温度が750℃〜900℃となるように設定することが好ましく、750℃〜850℃であることが特に好ましい。このように炭化・賦活処理工程における温度を設定することで、全比表面積が大きく、かつ外比表面積の割合が高い活性炭を得ることができる。また、炭化部及び賦活部において上述のような過熱水蒸気の温度を得るためには、炭化処理を開始する際の処理対象物供給口42における過熱水蒸気の温度を400℃〜700℃とすることが好ましく、賦活処理を終了する際の排出口45における過熱水蒸気の温度を800℃〜920℃とすることが好ましく、800℃〜880℃であることが特に好ましい。また、装置内で処理対象物の炭化から引続き移行して行われる賦活部における滞留時間は10分から30分程度が好ましい。滞留時間が不足すれば細孔の発生が不十分となり長過ぎれば細孔の大きさが発達し過ぎて比表面積が低下する場合がある。
【0043】
続いて、炭化炉40にて炭化、賦活させた結果生成した活性炭は排出口45から排出され、排出装置50に供給される。炭化炉40から排出された高温の活性炭を酸素雰囲気中に置くと再燃焼してしまう場合があるので、排出装置50に設けた冷却ジャケット52にて冷却する。更に水冷ジャケット付のスクリューコンベア56によって活性炭を冷却しつつ製品タンク54に送り貯蔵する。
【0044】
上記実施の形態では、乾燥炉30(第1の反応炉)と炭化炉40(第2の反応炉)との2種類の反応炉を用いて、有機系の処理対象物を乾燥、乾留、賦活等の炭化処理を行なう活性炭製造用炭化装置について説明したが、本発明は2種類の反応炉を用いて炭化処理を行なう例に限定されるものではない。
【0045】
例えば、処理対象物の種類や処理量に応じて、脱臭炉70から排出される高温の排気から熱回収を行なった過熱水蒸気を用いて高温の過熱水蒸気を生成し、この高温の過熱水蒸気を乾燥炭化炉(第1の反応炉)に導入して処理対象物を乾燥させるとともに炭化し、使用済みの水蒸気を排出する処理を行なっても本発明の目的を達成することが可能である。
【0046】
また、過熱水蒸気を導入して処理対象物の炭化を促進させて使用済みの水蒸気を排出する炭化促進炉(第3の反応炉)と、炭化促進炉から排出した水蒸気を導入して処理対象物を炭化させて使用済みの水蒸気を排出する炭化炉(第2の反応炉)と、炭化炉から排出した水蒸気を導入して処理対象物を乾燥させて使用済みの水蒸気を排出する乾燥炉(第1の反応炉)と、水蒸気を導入して炭化炉に供給するための高温の過熱水蒸気を生成する高温水蒸気発生装置と、乾燥炉から排出された使用済みの水蒸気に含まれる不純物を加熱して脱臭燃焼させて高温の排気を排出する脱臭炉と、脱臭炉から排出される高温の排気を用いて水を加熱して高温水蒸気発生装置に供給する水蒸気を生成する廃熱ボイラとを備え、複数段の反応炉をカスケード状に利用して処理対象物を炭化させる活性炭製造用炭化装置としても本発明の目的を達成することが可能である。
【0047】
続いて、本発明の実施の形態(2)に係る活性炭製造用炭化装置の炭化炉について図4及び図5に基づき説明する。図4は、本発明の実施の形態(2)に係る活性炭製造用炭化装置の炭化炉を示す。また、図5に、実施の形態(2)に係る炭化炉内における炉内温度分布を示す。
【0048】
上記実施の形態(2)では、図2に示すように炭化炉40に水蒸気導入口46を1箇所設けた例で説明したが、図4に示すように、炭化炉40の賦活部にのみ水蒸気導入口46、46A、46Bを複数設けるようにしてもよい。炭化炉40に複数の水蒸気導入口46、46A、46Bを設けることで賦活部において処理対象物を均質な状態で高温に加温することが可能となる。この場合、炭化炉40の賦活部内における過熱水蒸気の平均温度は750℃〜900℃であることが好ましく、750℃〜850℃であることが特に好ましい。また、各水蒸気導入口46、46A、46Bからの過熱水蒸気は、処理対象物供給口42側に向かって水蒸気導入口46、46A、46Bの順で導入量を多くすることが好ましい。これにより排出口45側の水蒸気導入口46、46Aから供給された過熱水蒸気の温度が賦活部において降下することをより効果的に抑制でき、賦活部における過熱水蒸気の温度を一定に保つことができる。また、炭化部の処理対象物供給口42付近には、150〜300℃の低温ガスを追加的に導入する低温ガス導入口48が設けられている。低温ガス導入口48から低温ガスを導入することで炭化部における過熱水蒸気の温度が過度に上昇しないようにして、処理対象物の炭化初期における炭化を緩やかに進行させることができる。これにより偏りの少ない均質な炭化処理を行うことができ、その後の賦活処理において大きい全比表面積を有し、高い外表面積の割合を有する活性炭を製造するのに最適な炭化状態に制御することが可能となる。また、これらの各水蒸気導入口46、46A、46Bは、高温水蒸気発生装置60から排出された過熱水蒸気を、円筒部43外側から攪拌羽根44の回転方向と同じ方向の円筒内面接線方向(タンジェンシャル方向)に導入する。なお、必要以上に水蒸気導入口を増やしてしまうと、水蒸気導入口1つ当たりの過熱水蒸気流の力が弱まって過熱水蒸気の旋回流が弱くなることも考えられる。
【実施例】
【0049】
以下、実施例に基づいて本発明について具体的に説明する。
(実施例1)
・活性炭の製造
処理可能な大きさに加工された檜間伐材チップを予め処理対象物供給手段20のホッパ22に投入して貯蔵しておく。ホッパ22内に貯蔵された処理対象物は、処理対象物供給手段20に設けてあるコンベア24にてフィーダ26に供給する。乾燥炉30に供給された処理対象物は、円筒シェル31内部で攪拌羽根34により処理対象物が攪拌されつつ排出口35の方向へ徐々に移動し乾燥される。続いて、乾燥炉30にて乾燥させた処理対象物は排出口35から排出され、次の処理工程の炭化炉40に供給され、炭化、賦活が行われる。そして、炭化炉40の内部には、水蒸気導入口36より800℃の過熱水蒸気を導入し、攪拌羽根34にて攪拌移動されている処理対象物とよく混合しながら炭化又は賦活等の反応を行なった。なお、導入した過熱水蒸気は炭化炉40内の賦活工程における過熱水蒸気の平均温度が760℃となるように設定した。また、炭化炉40にて炭化、賦活させた結果生成した活性炭は排出口45から排出され、得られた活性炭について比表面積、細孔構造評価、電気二重層キャパシタ容量を測定した。
【0050】
(実施例2)
水蒸気導入口より導入する過熱水蒸気の温度を874℃と設定し、炭化炉40内の賦活工程における過熱水蒸気の平均温度を840℃とした以外は、(実施例1)と同様に行った。
【0051】
(比較例1)
水蒸気導入口より導入する過熱水蒸気の温度を780℃と設定し、炭化炉40内の賦活工程における過熱水蒸気の平均温度を745℃とした以外は、(実施例1)と同様に行った。
【0052】
(比較例2)
水蒸気導入口より導入する過熱水蒸気の温度を940℃と設定し、炭化炉40内の賦活工程における過熱水蒸気の平均温度を905℃とした以外は、(実施例1)と同様に行った。
【0053】
・比表面積の測定
各実施例、比較例において製造された活性炭をメノウ乳鉢中で粉砕して活性炭粉末を得て、得られた活性炭粉末を窒素気流中で900℃に1時間加熱処理する。その後、ガス吸着測定用シリンダー中で真空中300℃で数時間乾燥を行って、活性炭粉末を秤量した。なお、真空中での飛散を防ぐため活性炭粉末はアルミ箔容器の中に入れた。そして、77Kにおいて高純度窒素ガスの吸着曲線を測定した。そして、得られた窒素ガスの吸着曲線の窒素ガス相対圧P/P0<0.3における窒素ガスの吸着量からBET比表面積SBETを多点法により測定した。
【0054】
・細孔構造評価
ミクロポアの比表面積はSingにより提唱されたαプロット法により算出した。低相対圧における窒素ガスの吸着量データからαプロットを作成し、作成したαsプロットに基づき、全比表面積Stotal、外比表面積Sext,ミクロ孔比表面積Smicroを求めた。
【0055】
(実施例1、2)及び(比較例1、2)で得られた活性炭の比表面積に関するデータを表1に示す。
【0056】
【表1】

【0057】
表1からも明らかなように、実施例1及び2で得られた活性炭はBET比表面積及び全比表面積が大きいだけではなく、外比表面積の全比表面積に対する割合がそれぞれ0.53、0.50と非常に大きいことが分かる。
【0058】
・電気二重層キャパシタ容量
活性炭について電気二重層キャパシタを測定した。測定については、3極式のセルを用いて、1MHSO電解液中で、電流密度を50mAから1000mAで変化させて電流密度を測定した。実施例1、2で得られた活性炭についてそれぞれ測定した結果を表2に示す。また、参考例1として市販のキャパシタ用ヤシ殻活性炭について測定を行った結果を併せて表2に示す。なお、測定用の試料には、活性炭をメノウ乳鉢中で粉砕して得られた活性炭粉末とアセチレンブラックとPTFE粉末とを80:10:10の割合で混合し、フィルム状に成形したものを用いた、なお、フィルムの厚さは約100μmとした。
【0059】
【表2】

【0060】
表2に示すように、実施例1、2で得られた活性炭は、市販の活性炭と比較しても非常に大きなRate Performanceを有しており、電気二重層キャパシタの電極として好適に用いることができることが分かる。
【図面の簡単な説明】
【0061】
【図1】本発明の実施の形態(1)に係る活性炭を製造するための活性炭製造用炭化装置の全体構成図である。
【図2】本発明の実施の形態(1)に係る活性炭製造用炭化装置の炭化炉を示す図である。
【図3】本発明の実施の形態(1)に係る炭化炉内での温度分布を示す図である。
【図4】本発明の実施の形態(2)に係る活性炭製造用炭化装置の炭化炉を示す図である。
【図5】実施の形態(2)に係る炭化炉内での温度分布を示す図である。
【符号の説明】
【0062】
10 活性炭製造用炭化装置
20 処理対象物供給手段
22 ホッパ
24 コンベア
26 フィーダ
30 乾燥炉
31 円筒シェル
32 処理対象物供給口
33 円筒部
34 攪拌羽根
35 排出口
36 水蒸気導入口
37 水蒸気排出口
40 炭化炉
41 円筒シェル
42 処理対象物供給口
43 円筒部
44 攪拌羽根
45 排出口
46、46A、46B、46C…水蒸気導入口
47 水蒸気排出口
50 排出装置
52 冷却ジャケット
54 製品タンク
56 スクリューコンベア
60 高温水蒸気発生装置
62 送風機
64 LPGボンベ
66 ガバナ
68 バーナ
70 脱臭炉
72 脱臭炉ブロワー
74 灯油タンク
76 灯油ポンプ
80 廃熱ボイラ
90 水供給装置
92 軟水器
94 軟水タンク
95 給水ポンプ
96 集塵装置
98 排気筒

【特許請求の範囲】
【請求項1】
木質材料を主成分とした処理対象物に対して炭化処理と賦活処理とを過熱水蒸気雰囲気中において連続して行うことで製造され、全比表面積が600m/g以上を有するとともに、外比表面積が全比表面積の20%以上75%以下を占める細孔分布構造を有することを特徴とする活性炭。
【請求項2】
木質材料を主成分とした処理対象物を乾燥する乾燥工程と、前記乾燥工程において乾燥された処理対象物を400℃〜950℃の過熱水蒸気雰囲気中に所定時間滞留させることにより炭化処理及び賦活処理を連続して行う炭化・賦活処理工程とを有することを特徴とする活性炭の製造方法。
【請求項3】
請求項2記載の製造方法において、炭化・賦活処理工程は、炭化・賦活処理を開始する際の過熱水蒸気の温度が400℃〜700℃であり、炭化・賦活処理を終了する際の過熱水蒸気の温度が800℃〜920℃であるとともに、炭化・賦活処理の開始から終了まで過熱水蒸気の温度を上昇させて行われることを特徴とする活性炭の製造方法。
【請求項4】
過熱水蒸気を導入するための水蒸気導入口を備え、木質材料を主成分とした処理対象物に対して炭化処理及び賦活処理を行う炭化炉を有する活性炭製造装置であって、前記炭化炉は、木質材料を主成分とした処理対象物を過熱水蒸気に接触することによって炭化させる炭化部と、前記炭化部で炭化処理された処理対象物を連続して過熱水蒸気に接触することによって賦活処理を行う賦活部とを有し、前記水蒸気導入口が前記賦活部に少なくとも二つ以上設けられた活性炭製造装置。
【請求項5】
請求項4記載の活性炭製造装置において、水蒸気導入口のいずれか一以上に過熱水蒸気の流量を制御するための流量制御弁が設けられたことを特徴とする活性炭製造装置。
【請求項6】
請求項4又は5記載の活性炭製造装置において、炭化部には150〜300℃のガスを追加的に導入する低温ガス導入口が設けられたことを特徴とする活性炭製造装置。
【請求項7】
請求項4〜6のいずれか記載の活性炭製造装置において、炭化炉が炭化部から賦活部に向かって0.1〜10°下方に傾斜するように配置されたことを特徴とする活性炭製造装置。
【請求項8】
請求項7記載の活性炭製造装置において、炭化炉の傾斜角度を調整する傾斜角度制御装置を設けたことを特徴とする活性炭製造装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2009−179485(P2009−179485A)
【公開日】平成21年8月13日(2009.8.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−108078(P2006−108078)
【出願日】平成18年4月10日(2006.4.10)
【出願人】(502037638)株式会社アイ・ピー・ビー (28)
【Fターム(参考)】