説明

活性炭収容体および被処理液の活性炭処理法

【課題】粉末活性炭処理工程の簡略化により、処理効率の大幅な向上、処理コスト削減に大きく寄与し得る活性炭収容体および該活性炭収容体を用いてなる効果的な被処理液の処理法を提供する。
【解決手段】多段式吊網籠の内部に活性炭を充填した通液性袋が収容されている活性炭収容体および該活性炭収容体を活性炭被処理液中に吊り下げて撹拌処理してなる活性炭処理方法。該処理法を用いた、醤油、酒、味醂の液体食品製造プロセスにおけるの処理方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、食品、化学、薬品等の広範囲な分野において、被処理液の脱色、被処理液中に夾雑しているマスキング物質や臭い成分を除去する目的で使用するのに適した活性炭の収容体およびこれを用いてなる効果的な被処理液の脱色・精製処理法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、例えば、醤油、酒、味醂等の液体食品製造プロセスにおいて、これら被処理液の脱色処理あるいは該被処理液中に夾雑しているマスキング物質や臭い成分を除去する目的で工業的な規模で一般に行われている典型的な活性炭処理法は、図5に示すように被処理液を収容しているタンク中に所定量の粉末活性炭を投入し、一定時間撹拌機(A)にて撹拌しながら均一に分散処理を施した活性炭処理タンク(B)の底から吸引ポンプ(C)を用いて引き抜いた活性炭分散処理液を濾過機(D)にかけて活性炭を濾別し、濾液は受けタンク(E)を介して火入れ機(F)へ導く方法である。
【0003】
しかしながら、この粉末活性炭直接投入方式は、処理完了後にはタンクや搬送配管に付着した活性炭の洗浄除去作業を要し、さらに濾過機や濾液受けタンクの設置を伴う濾過工程を経由する方式であるため、処理・生産効率が悪いという欠点を有している。
【0004】
一方、水の脱臭浄化剤を提供する方法として、水に浸される通水性の容器に、多孔質セラミックの構造物に活性炭および抗菌金属が混合されてなる多数の活性炭セラミックの粒を収容し、上記活性炭セラミックの粒は、表層部が内部に比べて硬く形成されていることを特徴とする水の脱臭浄化剤(特許文献1)や、ろ過作用に優れ、かつ省資源化が図れるろ過材を提供する方法として、活性炭、活性白土を含ませモールド成形したろ過材は、パルプを離解して綿状かつ嵩高状の不定形とし、パルプを構成するセルロース繊維の毛羽立ちを利用して食用油中の不純物を吸着させ、その吸着効率を上げる方法が知られている。(特許文献2)
【0005】
【特許文献1】特開平8−294683号公報
【特許文献2】特開2001−212413号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
そこで、本発明は、如上の事情に鑑みてなされたもので、粉末活性炭処理工程の簡略化により、処理効率の大幅な向上、ひいては処理コスト削減に大きく寄与し得る新規な活性炭収容体を提供することを目的としている。
【0007】
本発明の他の目的は、該活性炭収容体を使用してなる効果的な被処理液の処理法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記した課題を達成すべく鋭意研究した結果、粉末活性炭を通液性のあるバッグに充填し、これを、複数個の網籠が垂直方向に対して一定間隔を介して多段的に取り付けられ、活性炭被処理液中に吊り下げる方式とした、いわゆる多段式吊網籠の内部に収容した構成とすることにより、従来の粉末活性炭直接投入方式のような濾過処理工程は全く必要とせず、これと同等の脱色、精製効果が得られ、しかも工程の簡略化により処理・生産効率の大幅な向上が達成できることを見出し、本発明をなすに至った。すなわち、本発明は以下の内容を包含する。
【0009】
すなわち、本発明の第1は、上端部には活性炭を充填するための開口部が設けてあり、該開口部が閉鎖手段としての開口部密着用クリップで閉鎖されると共に、開口部以外の端縁部は熱溶着してあることを特徴とする活性炭を充填した通液性袋である。
【0010】
本発明の第2は、活性炭を充填した通液性袋は、開口部が突出して形成しているものである。
【0011】
本発明の第3は、活性炭を充填した通液性袋は、平均隙間が2〜5ミクロンのポリエチレンテレフタレート製の袋である。
【0012】
本発明の第4は、多段式吊網籠の内部に、活性炭を充填した通液性袋が収容されている、活性炭収容体である。
【0013】
本発明の第5は、多段式吊網籠の形態が筒状であって、内部の網籠には活性炭を充填した通液性袋が搭載され、上部には吊部を設けてある活性炭収容体である。
【0014】
本発明の第6は、多段式吊網籠の外部は、内部の網籠に活性炭を充填した通液性袋を供給するための開口部を設けてある活性炭収容体である。
【0015】
本発明の第7は、多段式吊網籠の外周部は、少なくとも20mm×20mmの格子状網目構造である活性炭収容体である。
【0016】
本発明の第8は、活性炭収容体を活性炭被処理液中に吊り下げて撹拌処理してなる活性炭処理方法である。
【0017】
本発明の第9は、活性炭被処理液が液体食品製造プロセスにおける被処理液であるところの活性炭処理方法である。
【0018】
本発明の第10は、液体食品製造プロセスにおける被処理液が醤油、酒又は味醂であるところの活性炭処理方法である。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、粉末活性炭を直接被処理液に投入する従来法(第5図)に比して、第4図に示したように、粉末活性炭が被処理液中に直接分散・接触しないため、処理完了後の洗浄作業が格段に容易となるばかりか、活性炭を濾過する工程が全く不要となったことから、濾過関連設備(濾過機、濾液受けタンク)や濾過助剤はもはや必要とせず、また濾過工程自体に要する作業もなくなり、その結果、処理効率の向上、処理コスト削減に大きく寄与する等の利点を享受することができる。また、活性炭収納体を用いることにより、攪拌時に通液性袋が浮遊しないので、攪拌羽根などに巻き込まれることはなく、適当に分散させることができるので、被処理液との接触面積を多量に確保できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
次に、本発明を図面に示す実施例により説明する。
図1に示した活性炭充填袋(1)は、通液性を確保するために、平均間隙が2〜5ミクロン範囲内にあるポリエチレンテレフタレート(PET)、ナイロン、レーヨン、ポリアクリルアミド、ポリプロピレン等の食品衛生法に適合したプラスチックス製の袋で間隙を通じて被処理液が袋内部へ通過可能としているもので、上部は突出した形状で、袋内に活性炭投入口を設けて必要量の活性炭を充填できるようにし、また、開口部(1−1)を設けることで袋は使用後にこれを洗浄・乾燥して再度使用することができる。開口部以外の端縁部(1−2)は、超音波、ヒートシールバー等による熱溶着とし、完全に密着させることで、端縁部からの活性炭の漏れを防ぐことができる。
【0021】
開口部(1−1)は、これを完全にクリップするため、図2に示した開口部密閉用クリップ(2)を用いて開口部をオス・メス型の面で密閉するものとし,ポリカーボネート製のものが食品衛生法上好ましい。クリップを取り外し、活性炭を入れ替え通液性袋を洗浄すれば、通液性袋を再利用することができる。
【0022】
図3は、活性炭充填袋(1)を多段的に搭載するための多段式吊網籠(3)を示し、網籠(3−4)が垂直方向に対して一定間隔を介して多段的に外周部(3−3)に取り付けられており、外周部(3−3)には活性炭充填袋(1)が手で多段式吊網籠(3)の各段に投入でき、かつ運転中に網籠から落ちることのない大きさの開口部(3−2)を設けてあり、上部には吊部(3−1)が取り付けられている。
【0023】
多段式吊網籠(3)は、その内部の各網籠(3−4)に活性炭充填袋(1)を収容し、これを、被処理液の入った容器あるいはタンク内に投入した場合、攪拌機等による破袋は受けず、また活性炭処理終了後の袋の回収が容易となる利点を有する。
【0024】
網籠(3−4)は、取扱者の作業負荷を考慮してステンレス316製の型枠以外はポリエチレン製の網目構造とし、活性炭充填袋(1)が十分に被処理液と接触できるように、各段に10cm以上の間隔を置くのが好ましい。
【0025】
吊部(3−1)は、活性炭充填袋(1)を収容した多段式吊網籠(3)をタンク内に投入した際、攪拌等の外力で流されたりしないようにするため、固定具に吊るす構成となっている。
【0026】
外周部(3−3)は、被処理液と活性炭充填袋の接触を増やすため、少なくとも20mm×20mmの格子状網目として通液しやすい構造となっている。
【0027】
網籠(3−4)は、被処理液と活性炭充填袋の接触を増やすため、外周部(3−3)と同様に少なくとも20mm×20mmの格子状網目として通液しやすい構造となっている。
【0028】
本発明によれば、被処理液の活性炭処理方法は、
(1) 活性炭充填用包装袋の開口部から粉末活性炭を充填し、開口部(1−1)を密閉用クリップ(2)で閉じる。
(2) 上記(1)の作業が終了したならば、活性炭充填袋(1)を多段式吊網籠(3)の外周部開口部(3−2)を通して内部に設けた各段の網籠(3−4)に載せる。
(3) 活性炭充填袋(1)を載せた多段式吊網籠(3)を、被処理液を含む容器あるいはタンク内に、吊部(3−1)を用いて吊るす。
(4) 攪拌等の外力を加えて被処理液を攪拌しながら、活性炭充填袋(1)内の粉末活性炭と接触させて、脱色処理あるいはマスキング物質・臭い成分を吸着させる、という順序で行われる。
【0029】
本発明によって得られる効果を列挙すれば、次のとおりである。すなわち、
(1)活性炭を直接、被処理液に投入する従来法と同等の脱色やマスキング物質,臭い成分の吸着が可能である(後記評価試験例参照)。
(2)従来法では活性炭を直接、被処理液と接触させていたため,次工程で活性炭を濾過する必要があるのに対して、本発明ではそれが全く不要となる。濾過機、濾過助材、濾液受けタンクが不要となるばかりか、濾過工程自体に要する作業がなくなることから、処理コスト削減の利点が挙げられる。
(3)従来法と比してタンク内に直接、活性炭を投入していないため、使用後の洗浄が容易となる。
(4)濾過工程が不要となることで、生産に要する期間を短縮できる。
【0030】
次に、官能評価項目(味、マスキング、香り)、脱色効果について行った試験例を示す。
【0031】
[官能評価]
味:原液8gを90℃の熱水92gを用いて評価した。
マスキング:原液1.4g、和風(魚系)調味料6.6g、90℃の92gを用いて評価した。
香り:常温(25℃)で原液のにおいをかいで評価した。
色:abs 545nm、10mmセル、原液2倍希釈で評価した。
※官能は3名のパネラーにより実施。
※3名ともに差異がないと感じた場合、差異無し(差無)とした。
【0032】
[条件及び使用器具]
・活性炭量:・0.02−0.16wt%(味の素ファインテクノ(株)「SD−V6炭」)
・活性炭処理時間:2−24hr
・液(比重1.16):300ml(500mlビーカー HARIO社製)
・活性炭袋表面積:2〜4cm2(PET、東レ製)
・攪拌条件:600−800rpm
得られた結果を一括して表1に示す。
【0033】
【表1】

【0034】
[評価結果]
味:活性炭0.02wt%以上、活性炭充填袋表面積が6.7cm/L、処理時間4時間以上で同等となった。
マスキング:活性炭0.02wt%以上、活性炭充填袋表面積が6.7cm/L、処理時間4時間以上で同等となった。
香り:活性炭0.04wt%以上、活性炭充填袋表面積が13.3cm/L、処理時間24時間で同等となった。
色度:活性炭0.02wt%以上、活性炭充填袋表面積が6.7cm/L、処理時間4時間以上で脱色効果が得られた。
【0035】
次に、袋からの活性炭漏れについて行った試験例を示す。
[袋からの活性炭漏れ量評価−1 BPスケール]
活性炭が水に分散した水溶液の濁度を予め測定して検量線を作成し、その検量線をもとに水運転中の袋から漏れでた活性炭の量を測定した。
[条件及び使用器具]
・容器:100L(SUS316 丸底)
・攪拌機:(プロペラ羽根半径:83mm,回転数:350rpm)
・活性炭袋表面積:4050cm2(PET、東レ製)
・活性炭:0.04wt%
・攪拌時間:3hr
・攪拌条件:350rpm
・分光光度計(濁度測定):ヤマト科学製、U−3210
得られた結果を表2に示す。
【0036】
【表2】

【0037】
上記条件で3時間の運転を行った結果,活性炭漏れ量は1袋あたり0.9から2.6gの範囲にあった。
【0038】
[(2)袋からの活性炭漏れ量評価−2 実生産設備]
[条件及び使用器具]
容器:10KL(FRPタンク)
水中攪拌機 (プロペラ羽根半径:65mm、回転数 1500rpm フジ機械製)
活性炭袋表面積:(PET、東レ製)
水張り込み量:8.0KL
運転時間:5hr
活性炭:0.04wt%
活性炭:60750cm2(4050cm2×15袋)
得られた結果を表3に示す。
【0039】
【表3】

【図面の簡単な説明】
【0040】
【図1】本発明に係る活性炭充填袋の1実施形態の構成を示す図である。
【図2】活性炭充填袋の開口部密閉用クリップを示す図である。
【図3】本発明に係る活性炭充填袋を収容する多段式吊網籠の1実施形態の構成を示す図である。
【図4】本発明による活性炭処理法を模式的に示した図である。
【図5】従来法による活性炭処理法を模式的に示した図である。
【符号の説明】
【0041】
1 活性炭充填袋
1−1 開口部
1−2 端縁部
2 開口部密閉用クリップ
3 多段式吊網籠
3−1 吊部
3−2 開口部
3−3 外周部
3−4 網籠
A 撹拌機
B 活性炭処理タンク
C 吸引ポンプ
D 濾過機
E 濾液受けタンク
F 火入れ機

【特許請求の範囲】
【請求項1】
上端部には活性炭を充填するための開口部が設けてあり、該開口部が閉鎖手段としての開口部密着用クリップで閉鎖されると共に、開口部以外の端縁部は熱溶着してあることを特徴とする活性炭を充填した通液性袋。
【請求項2】
活性炭を充填した通液性袋は、開口部が突出して形成している請求項1に記載の活性炭を充填した通液性袋。
【請求項3】
活性炭を充填した通液性袋は、平均隙間が2〜5ミクロンのポリエチレンテレフタレート製の袋である請求項1乃至2のうちのいずれか1項に記載の活性炭を充填した通液性袋。
【請求項4】
多段式吊網籠の内部に、請求項1乃至3のうちのいずれか1項に記載の活性炭を充填した通液性袋が収容されている、活性炭収容体。
【請求項5】
多段式吊網籠の形態が筒状であって、内部の網籠には活性炭を充填した通液性袋が搭載され、上部には吊部を設けてある請求項4に記載の活性炭収容体。
【請求項6】
多段式吊網籠の外周部は、内部の網籠に活性炭を充填した通液性袋を供給するための開口部を設けてある請求項4又は5に記載の活性炭収容体。
【請求項7】
多段式吊網籠の外周部は、少なくとも20mm×20mmの格子状網目構造である請求項4乃至6のうちのいずれか1項に記載の活性炭収容体。
【請求項8】
請求項4及至7のうちのいずれか1項に記載の活性炭収容体を活性炭被処理液中に吊り下げて撹拌処理してなる活性炭処理方法。
【請求項9】
活性炭被処理液が液体食品製造プロセスにおける被処理液である請求項8記載の活性炭処理方法。
【請求項10】
液体食品製造プロセスにおける被処理液が醤油、酒又は味醂である請求項9記載の活性炭処理方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2007−289019(P2007−289019A)
【公開日】平成19年11月8日(2007.11.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−117794(P2006−117794)
【出願日】平成18年4月21日(2006.4.21)
【出願人】(000000066)味の素株式会社 (887)
【Fターム(参考)】