説明

活性薬剤を標的部位に送達するための装置および方法

本発明は、簡便且つ効果的な創傷洗浄を行うための、新規であり安価な高度に効果的な方法および装置を提供する。ひとつの態様において、本発明は、洗浄溶液を収容したリザーバハウジングのための吐出手段を提供し、この吐出手段は、十分な体積の洗浄溶液が適切な圧力で通過できる、特別に設計された1つまたは複数のノズルを有する。


【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、参照によりその全体が本明細書に組み入れられる、2006年12月19日に提出された米国特許仮出願第60/875,788号の恩典を主張する。
【背景技術】
【0002】
発明の背景
ヘルスケア専門職における最も大きな課題の1つは、薬物および他の治療用薬剤を、それらの活性が必要とされる部位に送達することである。それゆえ、現在の送達および投与の方法が、薬剤の活性が最も有益となるような部位への薬剤の最適な提示をもたらさないがために、有用性が損なわれている治療用薬剤が多数存在する。
【0003】
患者に治療用薬剤を投与するための広範な種々の選択肢が存在する。各投与経路は独自の課題をもたらす。これらの課題としては、生理学的に許容されるキャリヤの中に活性薬剤を製剤すること、薬剤を適切な部位にさし向けること、有効且つ毒性でない濃度および量の活性薬剤を送達すること、ならびに、薬剤が全身投与されそして酵素、免疫系、および種々の代謝過程に曝露されたときに生じるような薬剤の劣化を回避すること、などがある。
【0004】
活性成分を送達するうえで特に難しい環境の1つは、創傷部位、手術部位、および他の組織開放部への送達である。これらの部位では、経口投与および静脈内投与などの全身的経路の利用を実現することが不可能ではないとしても困難であるような性質および濃度の活性成分を投与する必要があることが多い。それゆえ、活性成分の直接投与が望ましいことが多いが、しかし、すでに公知の技法を使うそのような直接投与は、有益な活性が最も必要とされる特定の組織および細胞に活性薬剤を送達するという点において、非常に難しい課題に直面する。この点に関して注意されるべき点として、従来の創傷洗浄の方法は同時的な薬物送達と組み合わされていないのが典型的である。
【0005】
創傷を管理および治療する際には、3つの主要な目的が存在する:(1)感染症の予防、(2)機能の保存および/または回復、ならびに(3)審美的外観の保存および/または回復。これらの目的のうち最も重要なものは感染症の予防である。感染症の予防の成功は、治癒過程、ならびに機能および審美的外観を保存および/または回復することができる程度に直接影響を与える。しかしこれまで、創傷洗浄は、感染を軽減できるかまたはその他治癒を促進できる薬物の投与と直接組み合わされてはいない。
【0006】
細菌の数が、創傷が感染症になるかどうかの重大な決定因子となることが知られている。細菌の臨界レベルは組織1グラムあたり約105微生物数であることが実験証拠から示唆される。このレベル未満では創傷は通常治癒し、組織1グラムあたり105細菌数より多いレベルでは、創傷は感染症になることが多い。全ての外傷性創傷は、治療のために創傷を医療施設に見せるときまでに汚染される(Dire, Daniel I [1991]「A comparison of Wound Irrigation Solutions Used in the Emergency Department」, Annals of Emergency Medicine 19(6): 704-708)(非特許文献1)。不潔な創傷または6時間以内に治療されなかった創傷は、臨界レベルより高いレベルで細菌に汚染される可能性が高い。創傷内および創傷付近の細菌数を低下させることが、感染症の回避および創傷治癒の促進のために重要である。
【0007】
メチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)感染は、しばしば「ブドウ球菌(staph)」と呼ばれる、黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)という細菌によって引き起こされる。数十年前、それら治療に一般的に使われる広域抗生物質に対して耐性であるブドウ球菌の株が病院で出現した。これら抗生物質には、メチシリン、そしてオキサシリン、ペニシリン、およびアモキシシリンなどの、より一般的な他の抗生物質が含まれる。メチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)と名付けられたこの菌は、特に強力な薬物以外のすべての薬物に対して耐性である最初の病原菌の1つであった。
【0008】
一般的にブドウ球菌は切創または他の創傷を通って体内に入らない限り無害である。高齢の成人および病気であるかまたは免疫系が弱っている人では通常のブドウ球菌感染が重篤な病気を引き起こすことがある。MRSAも含め、ブドウ球菌感染は、老人ホームおよび透析センターなどのヘルスケア施設ならびに病院にいて免疫系が弱っている人々に最も多く生じる。
【0009】
1990年代、MRSAの1種がより広く社会に現れはじめた。今日、市中感染MRSAまたはCA-MRSAとして知られるこの形態のブドウ球菌は、多数の重篤な皮膚感染および軟部組織感染ならびに重篤な形態の肺炎の原因となっている。適切に治療されない場合、MRSA感染は致命的であることもある。
【0010】
MRSA感染は米国においてそして世界的にも急速に広がっている。疾病管理予防センター(CDC)によれば抗菌薬耐性の感染の割合が増えつつある。1974年、MRSA感染はブドウ球菌感染の総数の2パーセントを占めていたが、1995年は22%で、2004年は63%近くであった。加えて、最近の研究が示唆するところによれば、人口の30〜50%が常に身体にMRSAコロニーを保有しており、感染の拡大促進を助けている。
【0011】
従来、MRSAは院内感染として見られていたが、米国でCA-MRSAの大流行も発生している。普通、市中のMRSA感染は吹き出物および腫れ物などの皮膚感染として現れる。これらのCA-MRSA感染は、それ以外には健康である人々にも生じることがあり、そして設備またはタオルおよび剃刀を含む個人用品を共用する運動選手の間に広く生じる。事実、2000年から現在まで、高校の運動チームに生じたCA-MRSAの大発生の報告がいくつかある。運動選手におけるこの大流行には、体育館および体育館のロッカールームなどの温かく湿ったエリアでMRSAが非常に急速に増殖するという事実が寄与している。フットボールおよび野球で頻繁に生じる一般的な切創および擦過傷が、今ではMRSA感染の可能性によって重大な脅威をもたらしている。
【0012】
バンコマイシンは、もはやすべてのケースに有効ではないものの、院内感染MRSAの菌株に対してまだ有効である少数の抗生物質の1つである。いくつかの薬物はCA-MRSAに対して引き続き作用しているが、CA-MRSAは急速に進化している細菌であり、これも大多数の抗生物質に対して耐性となるのは時間の問題である可能性がある。
【0013】
創傷内に存在する細菌のレベルを低下させる、すなわち感染症の発現頻度を低下させる助けをする創傷管理の別の手法が開発されている。病原菌を含む汚染物質を導入することがある血餅、壊死組織片、不潔物質または他の外来物質を除去するための創傷および創傷周辺部位の清浄化は創傷内および創傷付近の細菌のレベルを低下させるのに重要である。壊死組織切除、切除および洗浄などの、医療従事者によって現在使用されている数多くの創傷清浄手法がある。例えば、Sinkinson Craig Alan編(1989)、「Maximizing A Wound's Potential For Healing」, Emergency Medicine Reports 10(11):83-89(非特許文献2); Lammers, Richard L. (1991)「Soft Tissue Procedures: principles of Wound Management」、「Clinical Procedures in Emergency Medicine」中、RobertsおよびHedges編、第二版、W. B. Saunders Company, pp. 515-521(非特許文献3); Cracroft, Davis (1987)「Minor Lacerations and Abrasions」、「Emergency Medicine : A Comprehensive Review」KravisおよびWarner編、第二版、Aspen Publishing Co., pp.107-110(非特許文献4);ならびにMulliken, John B. (1984) 「Management of Wounds」、「Emergency Medicine」中、May編、John Wiley & Sons, pp.283-286(非特許文献5)参照。
【0014】
洗浄は汚染された開放性創傷を洗浄するための最も普通に使用される手法である。洗浄は、創傷深度近辺および創傷深度内の遊離した失活組織、細菌繁殖部、血餅、遊離した壊死組織片および異物を除去するために滅菌した流動物を適用することを含む。任意の効果的な創傷洗浄方法および/または装置の2つの重要な要素は、(1)十分な容量の滅菌した洗浄溶液の創傷への適用、および(2)溶液を送達する際に効果的な分散パターンで適用される、汚染物質を効果的に除去するのに十分な圧力の使用。容量に関しては、必要な洗浄溶液の量は創傷の種類および汚染のレベルに依存する。大量の細菌を創傷に導入することがある外傷(刺創および咬傷など)は1リットル以上の洗浄溶液を必要とすることがある。
【0015】
米国特許第5,071,104号(特許文献1)は、洗浄用溶液を保持するリザーバの近位に例えば血圧測定用カフのような圧力袋を含む創傷洗浄装置および創傷を洗浄するための方法を記載している。'104号特許の装置も、リザーバから1本のノズルに溶液を伝送するための可撓性の管状導管を含む。導管およびリザーバは、準備に時間がかかり、使用が不便で、費用がかかる2部システムを形成する。
【0016】
米国特許第5,133,701号(特許文献2)は、装置から一定の圧力で洗浄用溶液の1回の液体流が排出されるように、リザーバに力を提供するための加圧チャンバーを有する使い捨て式加圧創傷洗浄装置を記載している。装置の洗浄剤内容物を排出する際に噴射剤が使用される。この発明は噴射剤を必要とし、労働集約的で特殊な機械を必要とする比較的精巧な製造および充填方法を含む。この装置も使用が不便で、費用がかかる。
【0017】
より近年では、洗浄液の分散流が簡便且つ効果的に創傷に適用される、有利な創傷洗浄システムが開発されている。このシステムは、例えば米国特許第5,830,197号(特許文献3)および同第6,468,253号(特許文献4)ならびに国際特許出願第WO 00/15279号(特許文献5)および同第WO 02/007799号(特許文献6)に説明されている。分散流の使用は非常に有利であるが、現在では、洗浄液を送達するノズルの形状およびサイズを改善してさらに良好な結果を得られることが確認されている。これらの開示は参照によりその全体が本明細書に組み入れられる。
【0018】
クロルヘキシジンは化学防腐剤で、グラム陽性菌およびグラム陰性菌の両方と戦う。クロルヘキシジンは細菌の増殖を妨げる静菌作用があり、そして細菌を殺す殺菌作用もある。クロルヘキシジンは歯垢および他の口腔細菌を殺すよう設計された洗口剤の活性成分として使われることが多いが、歯科以外の用途も持ち、手術時手洗いとして、および手術前の皮膚の準備として、一般的な皮膚清浄に使われる。
【0019】
クロルヘキシジンは典型的に、酢酸塩、グルコン酸塩、または塩酸塩の形態で、単独でまたはセトリミドなど他の防腐剤と組み合わせて使われる。クロルヘキシジンは、練り歯磨きおよび洗口剤中の洗浄剤として一般的に使われる陰イオン界面活性剤を含む陰イオン化合物によって不活化されうる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0020】
【特許文献1】米国特許第5,071,104号
【特許文献2】米国特許第5,133,701号
【特許文献3】米国特許第5,830,197号
【特許文献4】米国特許第6,468,253号
【特許文献5】国際特許出願第WO 00/15279号
【特許文献6】国際特許出願第WO 02/007799号
【非特許文献】
【0021】
【非特許文献1】Dire, Daniel I [1991]「A comparison of Wound Irrigation Solutions Used in the Emergency Department」, Annals of Emergency Medicine 19(6): 704-708)
【非特許文献2】Sinkinson Craig Alan編(1989)、「Maximizing A Wound's Potential For Healing」, Emergency Medicine Reports 10(11):83-89
【非特許文献3】Lammers, Richard L. (1991)「Soft Tissue Procedures: principles of Wound Management」、「Clinical Procedures in Emergency Medicine」中、RobertsおよびHedges編、第二版、W. B. Saunders Company, pp. 515-521
【非特許文献4】Cracroft, Davis (1987)「Minor Lacerations and Abrasions」、「Emergency Medicine : A Comprehensive Review」KravisおよびWarner編、第二版、Aspen Publishing Co., pp.107-110
【非特許文献5】Mulliken, John B. (1984) 「Management of Wounds」、「Emergency Medicine」中、May編、John Wiley & Sons, pp.283-286
【発明の概要】
【0022】
発明の簡単な概要
本発明は、1つまたは複数の医薬品または他の活性成分を患者体内の標的部位に効率的に送達するための、新規且つ非常に有効な方法および装置を提供する。
【0023】
本発明は1つの態様において、1つまたは複数の活性薬剤を伴う洗浄溶液を収容するリザーバハウジングを提供する。リザーバハウジングには、活性薬剤を含む溶液を標的部位に有効に送達するための適切な圧力で十分量の溶液が通過し得る複数のポートを有する吐出手段が取り付けられている。
【0024】
本発明に基づいて患者に投与されてもよい薬剤の例には、細菌性薬剤、抗ウイルス剤、殺真菌剤、化学療法剤、局所用防腐剤、麻酔剤、酸素添加した液体および/または薬剤、抗生物質、診断用薬剤、ホメオパシー用薬剤、ならびに店頭販売の医薬品/薬剤が含まれるが、それに限定されるわけではない。好ましい態様において、活性薬剤は、好ましくは濃度が0.05%未満の、グルコン酸クロルヘキシジンである。
【0025】
好ましい態様において、吐出手段が永久的にまたは取り外し可能な状態でその上に取り付けられるリザーバハウジングは、圧縮可能である(例えば、生理食塩水がただちに利用できるプラスチックボトル)。本発明の装置を使用し療法を提供する操作者(すなわち、医療もしくはヘルスケアの専門家またはその他の人物)は、リザーバハウジングを容易に圧縮して、活性薬剤を標的部位に有効に送達しそして好ましくは細菌およびデブリを含む汚染物質を移動させるのに十分な圧力で、溶液を吐出手段のノズルに通過させることができる。
【0026】
好ましい態様において、ボトルは、圧縮が終了したら速やかに元の形状に戻るよう構成される。したがって、ボトルは速やかに別の圧縮のために準備される。
【0027】
本発明は、活性薬剤を標的部位に効果的に送達するのに十分な圧力下で、十分な体積の洗浄溶液(リザーバの再充填を伴わずに)および活性薬物成分を分散流として送達できる、使用が簡単で経済的な創傷洗浄システムを提供する。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】本発明の装置の1つの態様を示す。
【図2】本発明のポートの態様を示す。
【図3】本発明のポートの断面図を示す。
【発明を実施するための形態】
【0029】
発明の詳細な説明
本発明は、好ましい態様においてリザーバハウジングと活性薬剤を標的部位に送達するための複数のノズルを有する吐出手段とを含む、新規で簡便で安価で且つ有効な薬物送達装置を提供する。本発明はまたその装置の使用方法も提供する。
【0030】
本発明の材料および方法は、例えば医薬的薬剤などを含みそして適切な体積、圧力、および分散パターンを有する液体の流れを、例えば創傷などに簡便且つ容易に適用することを可能にする。
【0031】
本明細書において、「活性薬剤」とは、治療的および/または診断的な機能を行う化合物または他の実体を指す。この機能は、組織修復を促進するかもしくは癌細胞を殺すなど直接的なものであってもよく、または、最終的に所望の有益な結果をもたらすような生理学的反応を誘発することによる間接的なものであってもよい。
【0032】
好ましい態様において、0.05%以下(または、さらには0.04%未満もしくは0.03%未満)のクロルヘキシジンを含む、滅菌水溶液(生理食塩水ではない)が、ヒトの皮膚の創傷に適用される。好ましくは、次に創傷は、5分以内(好ましくは1〜3分以内)にクロルヘキシジンを含まない滅菌生理食塩水または液体の水ですすがれる。
【0033】
特定の態様において、本発明に基づいて使われるグルコン酸クロルヘキシジンは以下の化学構造を有する:


【0034】
好ましい態様において、約15〜25 mgのグルコン酸クロルヘキシジンが創傷に適用される。さらに好ましい態様において、創傷は擦過傷または裂傷であり、そして溶液は修復/閉創の前に適用される。
【0035】
好ましくは、溶液のpHは中性またはやや酸性である。好ましくは、pHは5.0〜7.5である。より好ましくは、pHは5.5〜7.0である。1つの態様において、クロルヘキシジンは起泡剤を伴わずに適用される。
【0036】
好ましい態様において、本発明の洗浄溶液の適用は、未処置の創傷またはクロルヘキシジンを含まない生理食塩水による創傷洗浄と比較して、創傷部における細菌数の減少をもたらす。
【0037】
有利な点として、本発明の洗浄溶液は、有機物質(血液、所望の組織、ならびに/または汚れおよびデブリを含む)がたとえ存在する場合でも感染と戦うのに有効である。無論、そのような物質はすべての皮膚創傷に存在する。
【0038】
本発明の調合物は、細菌を殺すことに加えて、例えば大腸菌(E. coli)およびクレブシエラ・アエロゲネス(Klebsiella aerogenes)など特定の細菌を「非病原化」して、これら細菌が感染を引き起こす能力を下げることもできる。
【0039】
本発明の薬物送達方法は、表1に示す経路の多くによる活性薬剤の送達と併用できる。特に関心対象となるのは、頬、結膜、皮膚、歯、腹腔内、病変内、眼内、胸腔内(手術中に)、洗浄、鼻、眼、歯周、直腸、軟部組織、皮下、局所、および膣の経路である。
【0040】
最適な状況下において、本発明の薬物送達装置および方法は訓練を受けた医療技術者によって利用されるが、本発明の装置はその単純性および簡便性により、洗浄を行う操作者の訓練水準にかかわらず薬物送達の有効性を大幅に高めるために使うことができる。
【0041】
活性薬剤の送達
本発明に基づいて患者に投与されてもよい薬剤の例には、細菌性薬剤、抗ウイルス剤、殺真菌剤、化学療法剤、局所用防腐剤、麻酔剤、酸素添加した液体および/または薬剤、抗生物質、診断用薬剤、ホメオパシー用薬剤、ならびに店頭販売の医薬品/薬剤が含まれるが、それに限定されるわけではない。
【0042】
本発明に基づいて活性成分が投与されてもよい標的部位には、創傷、眼、および手術部位が含まれるが、それに限定されるわけではない。手術部位には、例えば関節置換部位、腹部手術部位、および口腔/歯周の手術部位が含まれうる。各々の場合において、活性薬剤を特定の部位に、適切な用量で、注意深く制御された圧力にて送達する能力は、独特であり且つ非常に有利である。
【0043】
活性薬剤を運ぶ溶液は、例えば水、生理食塩水、または平衡塩類溶液であってもよい。溶液は好ましくは無菌である。装置は、煮沸、オートクレーブ、およびガス滅菌などを含む公知の滅菌技法によって、リザーバハウジングと別個にまたは一緒に滅菌されてもよい。
【0044】
緩衝リンゲル液または市販の平衡塩類溶液(例えばTis-U-SolまたはPhysio-Sol)は生理学的に適合性があり且つ創傷洗浄手技に広く使われている。
【0045】
現在創傷ケアに最も広く使われている防腐剤には以下のものが含まれる。
ポピドンヨード溶液(ベタジン調製物) - 水溶性の有機複合体であるポリビニルピロリドン(PVP)のキャリヤにヨウ素が添加されている。この組合せはヨードフォアと呼ばれる。ベタジン調製物の標準的な溶液は10パーセントである。
ポピドンヨード手術用スクラブ(ベタジンスクラブ) - ヨードフォアPVP-Iおよび陰イオン洗浄剤(pH 4.5)。
pHisoHex - 陰イオン洗浄剤、エントスルホン(entsulfon)、ラノリンコレステロール、ペトロラタム、およびヘキサクロロフェンの乳濁液(pH 5.5)。
Hi-Bi-clens - グルコン酸クロルヘキシジンに起泡用基剤を加えたもの(pH 5.1〜6.5)。
緑石鹸のチンキ剤 - オレイン酸カリウム、イソプロパノール、カリウムヤシ油、石鹸。
デーキン溶液 - 0.2パーセント次亜塩素酸塩溶液。
過酸化水素 - 酸化剤。
塩化ベンザルコニウム(Zephiran) - 陽イオン界面活性剤として働く第四アンモニウム化合物。
非イオン界面活性剤 - Pluronic F-68(Shur-Clens)およびPoloxamer-188(Pharma Clens) - 抗菌活性を持たない薬剤(pH 7.1)。
【0046】
クロルヘキシジンは広域であり、皮膚に結合し(そして残効性を提供し)、迅速に働き、そして本発明に基づいて使った場合は非毒性であるため、その使用は特に有利である。
【0047】
クロルヘキシジンはグラム陽性菌およびグラム陰性菌の両方と戦うために使うことができる化学防腐剤で、静菌作用および殺菌作用の両方がある。創傷感染および/または続発性蜂巣炎の病因にはさまざまな種の細菌が関与している。これらの感染は時として外観の損ない、肢の喪失、回復の長期化、および/または死をもたらすことがある。本発明の洗浄溶液の治療効果は、その防腐的性質および洗浄過程自体に関連する性質によって、これら感染の病因に典型的に関与する微生物と戦うことである。創傷の微生物負荷を制御することは、感染を最小にしひいては疾患を軽減および/または予防するうえできわめて重大な要因である。
【0048】
活性スペクトル
クロルヘキシジンは好気性および嫌気性のグラム陽性菌およびグラム陰性菌に対して活性である。この薬物はまた、クラミジア・トラコマティス(Chlamydia trachomatis)、特定の真菌、および特定のウイルスに対してもいくらかの活性を有する。
【0049】
好気性細菌
クロルヘキシジンは、ミュータンス菌(Streptococcus mutans)、化膿レンサ球菌(S. pyogenes)(A群β溶血性レンサ球菌)、唾液レンサ球菌(S. salivarius)、およびサングイスレンサ球菌(S. sanguis)を含む、種々のグラム陽性好気性細菌に対して高い活性がある。クロルヘキシジンは黄色ブドウ球菌、表皮ブドウ球菌(S. epidermidis)、スタフィロコッカス・ヘモリティカス(S. haemolyticus)、スタフィロコッカス・ホミニス(S. hominis)、およびスタフィロコッカス・シミュランス(S. simulans)に対して活性である。この薬物は、オキサシリン耐性ブドウ球菌(ORSA)およびオキサシリン感受性ブドウ球菌(メチシリン耐性ブドウ球菌[MRSA]またはメチシリン感受性ブドウ球菌としても公知である)の両方に対して活性である。
【0050】
クロルヘキシジンは、エンテロコッカス・フェカリス(E. faecalis)およびエンテロコッカス・フェシウム(E. faecium)を含むエンテロコッカス属に対して活性であり、且つ、バンコマイシン感受性株およびバンコマイシン耐性株の両方に対して活性である。
【0051】
嫌気性細菌
クロルヘキシジンはいくつかの嫌気性細菌に対して活性である。この薬物は、バクテロイデス属、プロピオニバクテリウム属、ディフィシル菌(Clostridium difficile)、およびセレノモナス属のいくつかの株に対して活性であるが、ベイヨネラ属に対する活性はそれより低い。
【0052】
真菌
クロルヘキシジンは、カンジダ・アルビカンス(Candida albicans)、カンジダ・ダブリニエンシス(C. dubliniensis)、カンジダ・グラブラータ(C. glabrata)(以前のトルロプシス・グラブラータ[Torulopsis glabrata])、カンジダ・ギリエルモンディ(C. guillermondii)、カンジダ・ケフィル(C. kefyr)(以前のカンジダ・シュードトロピカリス[C. pseudotropicalis])、カンジダ・クルセイ(C. krusei)、カンジダ・ルシタニエ(C. lusitaniae)、およびカンジダ・トロピカリス(C. tropicalis)(以前のカンジダ・パラプシローシス[C. parapsilosis])に対していくらか活性である。クロルヘキシジンはまた、エピデルモフィトン・フロッコスム(Epidermophyton floccosum)、石膏状小胞子菌(Microsporum gypseum)、イヌ小胞子菌(M. canis)、および毛瘡白癬菌(Trichophyton mentagrophytes)を含む皮膚糸状菌に対してもいくらか活性である。
【0053】
ウイルス
クロルヘキシジンは、サイトメガロウイルス(CMV)、ヒト免疫不全ウイルス(HIV)、単純ヘルペスウイルス1型(HSV-1)および2型(HSV-2)、インフルエンザウイルス、パラインフルエンザウイルス、および痘瘡ウイルス(スモールポックスウイルス)など、外套に脂質成分を有するかまたは外部エンベロープを有するウイルスに対して抗ウイルス活性を有するようである。
【0054】
方法および調合物
有利な点として、本発明の方法を使って活性成分を患者の標的部位に正確且つ効率的に送達できることから、濃度を低くした活性成分を利用することが特定の態様において可能である。したがって、本発明の1つの態様において、クロルヘキシジンの低濃度溶液を使って、例えば創傷、手術部位、または他の組織開放部における感染を効果的に減らすことができる。好ましい態様においてクロルヘキシジン溶液は4%未満である。より好ましい態様においてクロルヘキシジンは2%未満であり、またはさらには1%未満である。1つの態様においてクロルヘキシジン溶液は0.05%である。さらなる態様においてクロルヘキシジン溶液は0.02%〜0.05%である。本明細書において具体的に例示するのはグルコン酸クロルヘキシジンの使用である。
【0055】
前述のように、本発明の1つの態様において、本発明の装置は抗菌薬などの活性薬剤を創傷などの標的部位に送達するために使われる。活性薬剤の投与に続いて、少なくとも活性薬剤の過剰分を除去するため、例えば生理食塩水などでその部位を洗い流してもよい。好ましくは、この洗い流しはクロルヘキシジン溶液投与の5分以内に生じる。より好ましくは、この洗い流しはクロルヘキシジン溶液投与の1〜3分以内に生じる。こうすることにより、活性薬剤に関連するいかなる潜在的な毒性も低減または排除されうる。グルコン酸クロルヘキシジンの場合、洗浄液ですすぐことによって、例えば皮膚のタンパク質などに結合しなかった過剰なクロルヘキシジンが除去される。
【0056】
さらに別の態様において、本発明の装置および方法を使って診断用薬剤を投与してもよい。診断用薬剤は、例えば、標的生体分子に結合する抗体、タンパク質、またはポリヌクレオチドであってもよい。次にそのような任意の結合を当業者に公知の技術を利用して可視化してもよい。これらの技術には、例えば、裸眼によってまたは適切な検出機器を通じて可視化されうる蛍光体または他の標識の使用が含まれる。本発明の診断用途には、細菌、ウイルス、寄生体、および他の病原体の検出が含まれる。癌細胞もまた本発明の診断方法を使って可視化されうる。
【0057】
さらに別の態様において、本発明の装置および方法を使って増殖因子および/またはプロテアーゼ阻害剤を標的部位に送達してもよい。例えば創傷治癒の促進などを行いうるそのような増殖因子および/またはプロテアーゼ阻害剤は当業者に周知である。
【0058】
さらに別の態様において、本発明の方法を使って酸素添加水および/または「強化水(enhanced water)」を標的部位に送達してもよい。強化水は、例えば公表されている米国特許出願第20050191364号および同出願に引用されている参考文献(それらはすべて参照によりその全部が本明細書に組み入れられる)などに説明されているものであってもよい。組織治癒を促進し且つ感染を低減するため、本発明の方法をそのような酸素添加水または強化水の効果的な送達に使用してもよい。
【0059】
さらなる態様において、本発明の装置および方法を使って、抗菌ペプチド(AMP)を標的部位に効率的に送達してもよい。AMPは当技術分野において周知である。抗菌ペプチドは、微生物の増殖を阻害する、主として小さなポリペプチドである。抗菌ペプチドは先天免疫のエフェクターとして細菌、真菌、およびウイルスを広域に直接殺す。加えて、これらのペプチドは局所炎症反応を変化させそして細胞性免疫および適応免疫の機序を活性化する。カテリシジンおよびディフェンシンが皮膚のAMPの主たるファミリーを構成するが、プロテイナーゼインヒビター、ケモカイン、およびニューロペプチドなど他の皮膚ペプチドも抗菌活性を呈する。例えばBraff, M. et al., (2005) 「Cutaneous Defense Mechanisms by Antimicrobial Peptides」、 J Invest Dermatol, 125:9-13を参照されたい。
【0060】
薬物送達装置
本発明は1つの態様において、1つまたは複数の活性薬剤を伴う溶液を収容するリザーバハウジングを提供する。リザーバハウジングには、活性薬剤を含む溶液を標的部位に有効に送達するための適切な圧力で十分量の溶液が通過し得る複数のポートを有する吐出手段が取り付けられている。
【0061】
図1に、医薬的薬剤を含む洗浄材料をその中に収容できるリザーバを形成する壁60を有するスクィーズ可能なリザーバハウジングを装置が含む、本発明の1つの態様を示す。リザーバハウジングは、リザーバをハウジング外部へと連絡する口62を有する。リザーバハウジング口の上には吐出手段80、100が配置され、リザーバハウジング口に取り付けられる。
【0062】
好ましい態様において、本発明のノズルは、液体がリザーバハウジングを出る際の圧力損失を少なくするよう特別に設計されている。
【0063】
好ましい態様において、各ノズルは、圧力下において液体がその中を通過させられるジェットとして作用し、これにより、効率的な洗浄に適した速度および圧力を実現する。ノズルは、摩擦および乱流を低減し、且つ、操作者の最小限の努力で十分な洗浄圧が得られることを促進するように設計される。
【0064】
本発明の特定の態様において、ノズルは、成形通路(shaped passageway)により規定される「成形(shaped)」ノズルである(図2および3を参照)。本明細書において、「成形通路」は、ノズルの長さにわたって伸び、且つ、出口ポート96に向かって狭くなる円筒穴98により規定される。ノズルの成形通路は、本発明の創傷洗浄装置の操作中に洗浄液がノズルを通過する際に、洗浄液中の乱流の生成を制限する。したがって、ノズルを通過する液体は、ノズルを通過しノズルから出る際に、層流(または少なくとも乱流の減少)を生じる。したがって本明細書において「成形通路」という表現は、通路を備えるノズルであり、(方形(squared-off)ではなく)湾曲した入口ポート102の断面積が出口ポート96またはその付近の断面積より大きく、且つ、ノズルを通過する乱流が、「方形の」入口ポートおよび/または直径が一定の通路を有する同じまたは同程度のサイズのノズルの乱流より少ない、ノズルを指す。この成形ノズルは、本発明に基づき洗浄液の望ましい圧力および速度を実現する上で、特に有利であることが見出されている。ノズルの説明は、参照によりその全部が本明細書に組み入れられるWO 2005/030297に記載されている。
【0065】
ノズルの通路領域98は、好ましくは、曲面を備える部分を有する漏斗形により規定され、ノズル断面が上流の広い端部102から下流の端部96へと減少する。
【0066】
図2に、本発明の細長で成形されたノズルの具体的な態様を示す。図2において、円錐形ノズルは(入口ポートから出口ポートまで)長さ0.2インチである。
【0067】
本開示の恩典を有する当業者により理解されるであろうように、本発明のノズルは、吐出手段の材料中に形成してもよい。したがって、十分に厚いプラスチックで吐出手段が形成される場合、ノズルは、単純に吐出手段の材料中を通過してもよい。または、ノズルは、吐出手段のいずれかの側部から伸びていてもよい。
【0068】
特定の態様において、吐出手段は、取り外し可能な状態でリザーバハウジング口に取り付けられる。そのような態様において、リザーバ口は、リザーバハウジング口を吐出手段に操作可能な状態で接続するための、ねじ山、スナップ嵌め、溝、または、他の機械的な接続構造などの接続手段を含んでいてもよい。
【0069】
リザーバハウジングの壁は、リザーバに洗浄溶液を充填したときに直立できるだけ十分剛性であることが好ましい任意の材料で作製または成形してもよい。典型的な態様において、リザーバハウジングは、リザーバハウジングの壁を手でスクィーズまたは圧縮してリザーバの内容物に圧力をかけることができるよう、十分に柔軟である成形プラスチックで形成される。好ましい態様は、手でスクィーズできるよう十分に柔軟であり、且つ、圧縮またはスクィーズされなくなったときに元の形状に戻るだけの十分な弾性を有する、プラスチック材料を含む。好ましい態様において、この元の形状への復帰は非常に迅速に起こる。
【0070】
リザーバハウジングの水平方向の断面形状は、円形、方形、長方形、または所望のもしくは既に利用可能な他の幾何学形状であってもよい。壁は、一方の端から他方の端に向かってテーパを有していてもよい。または、特定の用途に基づいてまたはこれに適合させて、その他の形状でリザーバハウジングを作製してもよい。例えば、リザーバハウジングの壁の一部は、一般的な砂時計形状のようにやや丸みを帯びていてもよく、且つ/または、手に容易にフィットするようにまたはその他リザーバハウジングの取り扱いもしくは圧縮を容易にするために、人間工学的に成形してもよい。本発明のハウジングにより形成されるリザーバは、典型的に約100 ml〜1000 ml、好ましくは約250 ml〜約750 ml、最も好ましくは約500 mlの体積を保持できる。有利な点として、本発明の装置および方法は、手操作による圧縮により、500 mlの洗浄液を30秒未満で送達でき、典型的には15〜25秒で送達できる。液体は約4〜20 psiで送達される。眼の創傷の洗浄にはより低い圧力を用いてもよい。眼またはその周囲の創傷の洗浄には、約1〜約5 psiの圧力が好ましい。
【0071】
さらに、好ましい態様において、リザーバハウジングは、リザーバハウジングの口部に形成されたネック部分をひとつの端部に含む。リザーバハウジングのネック部分は、一般的に、リザーバハウジングの断面部分において少なくともわずかに小さい。リザーバハウジングのネックは、好ましくはリザーバハウジングと一体式に成形されるが、別々に形成または成形してリザーバハウジングの口に取り付けてもよい。リザーバハウジングのネック部分に使用される材料は、リザーバハウジングシリンダの作製に使用される材料と同じであってもよい。または、ネック部分は、例えばリザーバハウジングの壁を形成する圧縮可能材料より剛性または頑健な材料など、異なる材料であってもよい。例えば、ネック部分の作製に使用される材料は金属もしくは硬質プラスチックなどであってもよい。
【0072】
ネック部分を含むリザーバハウジングの態様の場合、吐出手段は典型的にネック部分の上に配置され、これに取り付けられる。関連する態様において、リザーバハウジングのネック部分は、そこに吐出手段を取り外し可能な状態で取り付けるための接続手段を含んでいてもよい。接続手段は、吐出手段をネック部分に操作可能な状態で接続するための、ねじ山、ラッチ、溝、または他の機械的な接続構造を含んでいてもよい。接続手段はネック部分の外面で雄型の接続端を形成していてもよく、または、ネック部分の内面で雌型の接続端を形成していてもよい。
【0073】
好ましい態様において、吐出手段は複数のノズル70を有し、リザーバ内の洗浄溶液は加圧され且つ方向性のある様式でこの細長ノズルを通過する。リザーバハウジングまたは吐出手段にバックスプラッシュシールド90を設けてもよい。
【0074】
バックスプラッシュ保護シールドは、排出された洗浄溶液が創傷に接触した際に創傷と混合して創傷から跳ね飛ぶヒトおよび/または動物の体液のバックスプラッシュからヘルスケア専門家(または他のユーザー)を保護する。
【0075】
本明細書において、溶液の「分散」流という表現は、そこから流れが発する面積または流れが接触する面積が、典型的な洗浄用シリンジを用いて得られる面積より大きいことを意味する。典型的なシリンジは、当技術分野において周知であるように、例えば16ゲージまたは18ゲージのシリンジであってもよい。ひとつの態様において、分散流は複数のノズルを用いて実現される。ノズルは、円形または方形のパターンなど、種々のパターンで吐出手段に設けられていてもよい。
【0076】
特定の態様において、吐出手段は、現在入手可能な洗浄溶液ボトルへの相補的な取り付けを可能にするねじ山または溝である接続手段を備えるように設計される。したがって本発明の吐出手段は、所望される場合には、入手可能な洗浄溶液ボトルに設けられているスクリューキャップと互換できる。吐出手段のスクリュートップ設計は、リザーバハウジングを本発明のノズルとともに使用するか、または、吐出手段をねじ式に取り外して洗浄溶液を流し出すもしくは交換するという選択肢を操作者に提供する。
【0077】
吐出手段の各ノズルは任意の望ましいサイズであってよく、好ましくは直径1/8インチであり且つおよそ10ゲージ皮下針〜およそ30ゲージ針のサイズを有し、最も好ましくは16ゲージ針〜25ゲージ針の範囲のサイズを有する。具体的な寸法および形状を図2に示す。出口ポート96は、例えば、内径が約0.02〜約0.07インチであってもよい。ベンチュリ形ノズル(図3)については、入口ポート102(リザーバに近いほう)の直径が、例えば約0.05〜約0.30インチまたはそれ以上であってもよい。
【0078】
各ノズルは同じサイズであってもよく、またはサイズおよび形状が異なっていてもよい。ノズルのサイズが異なっていることにより、吐出手段から異なる圧力で液体を排出することが可能になる。例えば、16ゲージノズルは、通常の成人が装置をスクィーズした際に約6 psiの圧力を有する流れを作ることを可能にし、25ゲージノズルは、各ノズルから最大約20 psiの圧力を提供する。
【0079】
本発明の成形ノズルは、洗浄材料に圧力が印加されていなければ洗浄材料の放出がほとんどまたはまったく生じ得ないという点において、他のノズルと比較してさらなる利点を有する。例えば、成形ノズルを備えるリザーバハウジングを、側面から軽く叩いても、または吐出手段を通じて洗浄材料に引力がかかる状態で逆さに保持しても、成形ノズルを通じた洗浄材料の放出はほとんどまたはまったく生じない。
【0080】
好ましい態様において、吐出手段70は4つのノズルを含む。さらに、洗浄溶液を適切な圧力で排出するため、ノズルの直径は約0.02〜0.07インチであってもよい。
【0081】
上記の装置の説明により、本発明の装置を使用する方法は当業者によって容易に理解され、適合されると思われる。リザーバハウジングおよび内容物は滅菌した環境、例えば使用直前に開放される滅菌包装に保存可能である。リザーバハウジングを創傷に向けて方向付けることができ、汚染物質または壊死組織を除去するためおよび活性薬剤を送達するための創傷の洗浄を実施するために、望ましい方向および望ましい圧力で溶液を放出または排出するために圧搾または圧縮することができる。下記に提供されている実施例1も参照のこと。
【0082】
記載されている吐出手段はリザーバハウジングと別個に包装することができることも理解されると思われる。吐出手段は滅菌した環境で包装される。ひとつの態様において、薬物送達装置は、無菌裂傷用トレイ内に提供される。本発明に関し、裂傷用トレイは、本発明の薬物送達装置に加えて、創傷処置用に便利に提供される他の品目を有する。裂傷用トレイに含まれ得る品目として考えられるのは、持針器(すなわち、5" フロアグレード、平滑);剪刀(すなわち、4.5" フロアグレード、直型虹彩剪刀);止血鉗子(すなわち、5" フロアグレード、曲型モスキート止血鉗子);鑷子(すなわち、1x2の鉤を備えたフロアグレード組織鑷子);カップ(すなわち、2 oz医療用カップ);シリンジ(すなわち、10cc ルアーロックシリンジ);針(すなわち、25ゲージ x 5/8"針;27ゲージ x 1.5"針;18ゲージ x 1.5"針);被覆剤(すなわち、ガーゼ被覆剤);ドレープ(すなわち、ポリライン穴あきドレープ);およびタオル(すなわち、吸収タオル)であるが、それに限定されるわけではない。
【0083】
使用方法においては、吐出手段70が取り付けられたリザーバハウジング60が提供される。吐出手段70を創傷に向け、リザーバハウジング60を圧縮して、吐出手段70を通して洗浄溶液を排出する。溶液が排出される圧力は約4〜20 lbs/in2であってもよく、好ましい圧力は約7 psiである。
【0084】
リザーバハウジング60は、手動により圧縮してもよく、または他の機械的手段により圧縮してもよい。例えば、操作者が片手または両手を用いてリザーバハウジングを圧縮し、高い圧力(すなわち16 psi)をかけてもよい。または、加圧手段を作動させて、吐出手段を通して洗浄溶液の分散流を生成してもよい。
【0085】
別の使用方法においては、リザーバハウジング60と吐出手段70とが別々に提供され、吐出手段を、相補的接続手段によりリザーバハウジングの口またはネック部分に取り付ける。吐出手段をリザーバハウジングに取り付けた後、吐出手段を標的部位に向け、リザーバハウジングを圧縮して、吐出手段のノズルを通して洗浄溶液の分散流を排出する。
【0086】
重要なことに、表面積が小さい粒状物質(例えば、細菌)を創傷から除去するには、表面積が大きい粒状物質(例えば、汚染物質、砂または草木)を除去するより大きい力が必要であることが知られている。洗浄溶液の推奨される最低容量は異なるが、汚染されている可能性のある中程度の大きさの創傷、例えば長さ3〜6 cmおよび深さ2 cm未満の裂傷の場合には、少なくとも200〜500 ml、またはそれ以上を使用しなければならない。さらに大きく、重度に汚染されている創傷には1〜2リットルの次数のさらに大量の容量が必要になることもある。洗浄は、少なくとも、眼に見える遊離の粒状物質が全て除去されるまで、継続しなければならない。
【0087】
以下は本発明を実施するための手順を示す実施例である。これらの実施例は本発明を制限するものとして解釈されるべきではない。
【0088】
実施例1-洗浄方法
患者が創傷を当技術分野の熟練した医師または他の医療従事者に提示するとき、その医師は、他の全ての致命的傷害を含めて、患者に生じている傷害の程度を評価する。これらの致命的傷害に関する適切な行為を実施し、病歴を記録する。実際の修復過程が開始されるまで、さらなる汚染を最小にするために、全ての創傷を覆う。
【0089】
創傷の検査については、医師は、解剖学的部位の考慮、創傷の深度、例えば、衝突による外傷、穿刺傷、咬傷、弾丸、鋭い物体による切り傷等の傷害の種類を含むが、それらに限定されない組織傷害程度の詳細な評価を実施すると思われる。この検査には、汚染の種類の決定、傷害の発生から来院までに経過した時間、創傷の肉眼的汚染状況および感染症の高い発現頻度に関連する他の医学的要因(例えば、糖尿病、AIDS患者および化学療法を受けている患者)が含まれると考えられる。
【0090】
医療従事者の判断により、創傷洗浄方法が開始される前に創傷および周囲組織を表面、局所または全身麻酔によって麻酔してもよい。あるいは、麻酔剤は本発明の装置および方法を使用して送達してもよい。
【0091】
一態様において、本発明の装置はリザーバハウジングに固定された吐出手段を備える。本発明の装置を使用する医療従事者は、保護シールドを除去して吐出手段を露出してもよい。本発明の装置は使用者が好むときはどちらかの手で保持することができる。通常、瓶を保持するように利き手で保持してもよい。こうすることによって、医療従事者は適宜創傷を、好ましくは滅菌手袋によって保護したもう一方の手でやさしく開放して、創傷の深部を露出することができる。
【0092】
創傷の深部が露出されたら、吐出手段が固定されたリザーバハウジングの末端部を創傷に向けて方向づける。手動式または機械的に発生される圧力をリザーバハウジングに適用して吐出手段のノズルを介して活性薬剤を含有する洗浄溶液を排出する。眼に見える全ての汚染物質の痕跡が除去されるまで、創傷はこのように洗浄されるべきである。任意の大きさの汚染されている可能性のある創傷は200〜300 mlの最低容量の洗浄溶液で洗浄するべきである。重度に汚染されているまたはより大きい創傷は2〜3リットルの洗浄溶液を必要とすることがある。医療従事者は、汚染物質の除去をさらに介助するために創傷に対して吐出手段から排出される洗浄溶液の角度を変えてもよい。
【0093】
創傷の最初の洗浄の後、創傷の再検査を実施するべきである。創傷は、眼に見える異物または汚染物質が残存していないことを確認するために基部まで検査すべきである。異物または汚染物質が見られたら、洗浄過程を反復した後、再検査するべきである。これを数サイクル継続してもよい。
【0094】
洗浄が終了したら、すなわち眼に見える汚染物質が残存していなかったら、損傷している組織を承認されている標準的な方法で修復する。
【0095】
切り傷、かき傷(scrapes)、穿刺傷、すり傷(abrasions)など肌の創傷が、本発明の洗浄法に特に良く適している。
【0096】
実施例2‐投与経路
本発明に基づいて使用できる種々の投与経路の一覧を表1に提供する。
【0097】
(表1)投与経路




【0098】
本明細書に記載の実施例および態様は例示のためだけのものであり、それらを鑑みて様々な改変または変更が当業者には示唆されるが、それらは本出願の精神および範囲ならびに添付の特許請求の範囲内に含まれることを理解すべきである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
滅菌創傷洗浄溶液を収容するリザーバハウジングを含む創傷洗浄装置であって、該創傷洗浄装置が、該リザーバハウジングが加圧されたときに該創傷洗浄溶液の加圧流をさし向ける吐出手段を含み、該リザーバハウジングが、弾性の圧縮可能材料で作られ、且つ該吐出手段が、該リザーバハウジングが圧縮されたときに該滅菌創傷洗浄溶液が通過する複数のポートを含み、且つ該創傷洗浄溶液が、クロルヘキシジンを含有する滅菌水を含む、創傷洗浄装置。
【請求項2】
250 ml〜750 mlの創傷洗浄溶液を収容する、請求項1記載の創傷洗浄装置。
【請求項3】
前記ポートの各々が約10ゲージ〜25ゲージ針の直径を有する、請求項1記載の創傷洗浄装置。
【請求項4】
バックスプラッシュシールドをさらに含む、請求項1記載の創傷洗浄装置。
【請求項5】
生物学的に活性な薬剤が濃度0.05%未満のクロルヘキシジンである、請求項1記載の装置。
【請求項6】
創傷洗浄溶液が生理食塩水ではなく水であり、且つ、クロルヘキシジンがグルコン酸クロルヘキシジンの形態である、請求項1記載の装置。
【請求項7】
追加の生物学的に活性な薬剤をさらに含む、請求項1記載の装置。
【請求項8】
洗浄溶液のpHがpH 5.5〜pH 7.0である、請求項1記載の装置。
【請求項9】
ノズルへの入口が曲線的で且つ出口より大きい、成形ノズル
を含むポートを有する、請求項1記載の装置。
【請求項10】
創傷を洗浄するための方法であって、以下の段階を含む方法:
(a)創傷洗浄装置が、リザーバハウジングが加圧されたときに創傷洗浄溶液の加圧流をさし向ける吐出手段を含み、該リザーバハウジングが、弾性の圧縮可能材料で作られ、且つ該吐出手段が、該リザーバハウジングが圧縮されたときに該滅菌創傷洗浄溶液が通過する複数のポートを含み、且つ該創傷洗浄溶液が、クロルヘキシジンを含む、
リザーバハウジングを含む創傷洗浄装置に滅菌創傷洗浄溶液を提供する段階;
(b)創傷洗浄溶液を創傷に向けて排出するよう吐出手段およびリザーバハウジングをさし向ける段階;ならびに
(c)創傷にさし向けられた創傷洗浄溶液の分散流を生成するためリザーバハウジングから前記ポートを通して該創傷洗浄溶液を排出する段階であって、該分散流が汚染物質を移動させるのに十分な力で適用され、これにより該創傷を効果的に洗浄する段階。
【請求項11】
創傷洗浄溶液が約4 PSI〜約20 PSIの圧力で前記ポートから排出される、請求項10記載の方法。
【請求項12】
250 ml〜750 mlの創傷洗浄溶液が創傷に適用される、請求項10記載の方法。
【請求項13】
前記装置がバックスプラッシュシールドをさらに含む、請求項10記載の方法。
【請求項14】
クロルヘキシジンを含有しない創傷洗浄溶液で5分以内に創傷をすすぐ段階をさらに含む、請求項10記載の方法。
【請求項15】
ヒトの皮膚の創傷の処置に使われる、請求項10記載の方法。
【請求項16】
生物学的に活性な薬剤が濃度0.05%未満のクロルヘキシジンである、請求項10記載の方法。
【請求項17】
創傷洗浄溶液が生理食塩水ではなく水であり、且つ、クロルヘキシジンがグルコン酸クロルヘキシジンの形態である、請求項10記載の方法。
【請求項18】
追加の生物学的に活性な薬剤をさらに含む、請求項10記載の方法。
【請求項19】
洗浄溶液のpHがpH 5.5〜pH 7.0である、請求項10記載の方法。
【請求項20】
ノズルへの入口が曲線的で且つ出口より大きい、成形ノズル
を含むポートを有する、請求項10記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公表番号】特表2010−512980(P2010−512980A)
【公表日】平成22年4月30日(2010.4.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−543192(P2009−543192)
【出願日】平成19年12月19日(2007.12.19)
【国際出願番号】PCT/US2007/088185
【国際公開番号】WO2008/077114
【国際公開日】平成20年6月26日(2008.6.26)
【出願人】(509171966)イノベーション テクノロジーズ インコーポレーティッド (1)
【Fターム(参考)】