説明

流体動圧軸受装置及びこれを備えるモータ

【課題】筒状部材の一端開口部が蓋部材にて封口される流体動圧軸受装置において、必要とされる軸受性能を確保しつつ、そのコスト低減を図る。
【解決手段】円盤状の蓋部材10で、筒状部材としてのハウジング7の下端開口部が封口された流体動圧軸受装置1である。蓋部材10は、金属板を打ち抜いて形成され、外周面10cの一端部にかえり10fを有する。蓋部材10は、打ち抜き加工で形成された後、かえり10fを外側に向けた状態でハウジング7の下端開口部に隙間嵌めされる。そして、ハウジング7の下端部を、加締めによりかえり10fを巻き込みながら内径側に塑性変形させることで、ハウジング7の下端に蓋部材10が固定され、ハウジング7の下端開口部が封口されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、流体動圧軸受装置及びこれを備えるモータの改良に関する。
【背景技術】
【0002】
流体動圧軸受装置は、ラジアル軸受隙間に形成される流体の潤滑膜(油膜)で、軸部材を軸受部材に対して相対回転自在に非接触支持する軸受装置である。この流体動圧軸受装置は、高速回転、高回転精度、低騒音等の特徴を有するものであり、近年ではその特徴を活かして、ディスク駆動装置(例えば、HDD等の磁気ディスク駆動装置や、CD、DVD、ブルーレイディスク等の光ディスク駆動装置)のスピンドルモータ、レーザビームプリンタ(LBP)のポリゴンスキャナモータ、電気機器のファンモータ等のモータ用軸受装置として好適に使用されている。
【0003】
流体動圧軸受装置の一構成例として、例えば下記の特許文献1に記載されているように、軸部材と、両端が開口し、内周に軸部材を挿入した筒状部材としてのハウジングと、ハウジングの一端開口部を封口する蓋部材とを備え、軸部材の外周面に面するラジアル軸受隙間に形成される流体の潤滑膜(油膜)で軸部材がラジアル方向に支持されるものが挙げられる。この流体動圧軸受装置において、蓋部材は、ステンレス鋼、銅合金、アルミニウム合金等の金属材料で円盤状に形成され、接着や圧入等の適宜の手段でハウジングの一端開口部の内周に固定されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2004−144205号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記の構成を有する流体動圧軸受装置のコスト低減を目的として、蓋部材を金属の打ち抜き加工品(プレス切断品)とする試みがなされている。金属板の厚み方向に切断刃を侵入させることによって金属板を打ち抜き、これによって円盤状の蓋部材100を得ると、この蓋部材100の外周面には、打ち抜き加工の開始側から終了側に向けて、せん断部101、破断部102及びかえり103が順に形成される場合[図7(a)参照]と、せん断部101及びかえり103が形成される場合[図7(b)参照]とがある。つまり、金属板を打ち抜くことで円盤状の蓋部材100を形成すると、蓋部材100の外周面の一端部(蓋部材100の一端外周縁部)にかえり103が形成される。なお、せん断部101とは、金属板に対して切断刃の側面が摺動することによって形成される塑性変形面であり、一般には凹凸のない平滑面に形成される。一方、破断部102は、微小な凹凸を有する粗面に形成され、かえり103は、打ち抜き加工終了側の一端外周縁部に突設された突起物である。そのため、金属板を打ち抜いて得られる蓋部材を、圧入、接着、溶接等、広く採用されている固定手段でハウジングの開口部内周にそのまま固定しようとすると、種々の問題が生じ得る。
【0006】
すなわち、外周面(一端外周縁部)にかえりを有する蓋部材をハウジングの開口部内周に圧入すると、圧入抵抗を受けることによってかえりの一部又は全部が脱落してコンタミとなる他、ハウジングの形状によっては、ハウジングに対する蓋部材の姿勢精度に悪影響が及ぶ。ハウジングに対する蓋部材の姿勢精度が確保されないと、特に蓋部材の内底面で軸部材がスラスト一方向に支持されるような場合には、軸部材のスラスト一方向における回転精度に悪影響が及ぶ。また、蓋部材をハウジングの開口部内周に接着固定しても、かえりを接着剤で完全に被覆することが難しく、流体動圧軸受装置の運転中等にかえりが脱落してコンタミとなる可能性がある。例えば、多量の接着剤を塗布すればかえり全体を被覆することも可能ではあるが、余剰の接着剤が蓋部材の端面上で固化等することにより、軸受性能に悪影響が及ぶおそれがある。また、蓋部材をハウジングの開口部内周に溶接固定しようにも、かえりの存在が所定の溶接精度・溶接強度を確保する上での障害となる。そのため、ハウジングの一端開口を所定の態様で封口することができず、流体の外部漏洩等、致命的な問題を招来するおそれがある。
【0007】
以上で示した各種問題は、打ち抜き加工で形成した蓋部材の外周面に研削・研磨等の仕上げ加工を施し、蓋部材の外周面を平滑化することで解消することができる。しかしながら、このようにすると、工程数が増大する分、蓋部材を金属の打ち抜き加工品としたことによるコストメリットが失われる。
【0008】
かかる実情に鑑み、本発明の目的は、筒状部材の一端開口部が蓋部材にて封口される流体動圧軸受装置において、必要とされる軸受性能を確保しつつ、そのコスト低減を図ることにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記の目的を達成するために創案された本発明は、軸部材と、両端が開口し、内周に軸部材を挿入した筒状部材と、筒状部材の一端開口部を封口する蓋部材とを備え、軸部材の外周面に面するラジアル軸受隙間に形成される流体の潤滑膜で軸部材がラジアル方向に支持され、蓋部材の内底面で軸部材がスラスト一方向に支持される流体動圧軸受装置において、蓋部材が、金属板の打ち抜きで形成され、外周面の一端部にかえりを有するものであり、打ち抜き後の蓋部材がかえりを外側に向けた状態で筒状部材の一端開口部に嵌合され、筒状部材の一端部を、加締めによりかえりを巻き込みながら内径側に塑性変形させることで、蓋部材を筒状部材に固定したことを特徴とする。
【0010】
本発明に係る流体動圧軸受装置では、金属板を打ち抜いて形成され、外周面の一端部(一端外周縁部)にかえりを有する蓋部材が、かえりを外側に向けた状態で筒状部材の一端開口部に嵌合される。そのため、蓋部材を筒状部材の一端開口部に嵌合(配置)する段階において、筒状部材とかえりの接触が回避されるので、筒状部材との接触に伴うかえりの脱落、ひいてはコンタミ発生による軸受性能の低下が可及的に防止される。加えて、本発明では、筒状部材の一端部を、加締めにより蓋部材のかえりを巻き込みながら内径側に塑性変形させることで、蓋部材を筒状部材に固定した。このようにすれば、筒状部材に形成した加締め部で、蓋部材のかえりを蓋部材の外底面に押し付けながら被覆することができるので、かえりの脱落によるコンタミの発生を防止することができる。以上から、本発明によれば、打ち抜き加工(プレス切断)された蓋部材をそのまま用いたとしても、コンタミの発生を可及的に防止することができる。従って、必要とされる軸受性能を確保しつつ、流体動圧軸受装置のコスト低減を図ることができる。
【0011】
上記構成において、加締め部と蓋部材の外底面との間に空間を形成し、この空間に充填した接着剤でかえりを被覆しても良い。このようにすれば、筒状部材に対する蓋部材の固定力向上が図られると共に、かえりの脱落が一層効果的に防止される。なお、加締め部は、筒状部材の周方向で部分的(特に、かえりが存在する部分)に形成しても良いし、筒状部材の全周に亘って形成しても良い。また、上記空間の空間幅を、加締め部の基端側に向かって漸次縮小させても良い。空間に充填した接着剤に毛細管力の引き込み作用が作用し、接着剤を空間内に適切に保持することができるからである。
【0012】
蓋部材を筒状部材の一端開口部に隙間嵌めし、互いに対向する筒状部材の内周面と蓋部材の外周面との間の半径方向隙間に、接着剤を充填しても(充填・固化させても)良い。このようにすれば、筒状部材に対する蓋部材の固定強度が高まることに加え、筒状部材の一端開口の封止性が高まることから、潤滑流体の外部漏洩が効果的に防止され、流体動圧軸受装置の信頼性を高めることができる。また、打ち抜き加工された蓋部材の外周面に、凹凸面状の破断部が存在したとしても[図7(a)参照]、蓋部材を隙間嵌めすれば、筒状部材の一端開口部に蓋部材を嵌合する段階で、筒状部材と蓋部材の破断部との摺動に起因したコンタミ発生を可及的に防止することができる。なお、蓋部材の外周面に破断部が存在する場合、接着剤(接着剤層)に対する蓋部材の接触面積が増大するので、筒状部材に対する蓋部材の接着強度を高める上で有利となる。
【0013】
筒状部材に段差面を設け、この段差面に蓋部材の内底面を当接させることができる。このようにすれば、筒状部材に対する蓋部材の軸方向相対位置を正確に決定付けることができるので、例えば蓋部材の内底面でスラスト軸受部が構成されるような場合には、スラスト軸受部の軸受性能を容易に確保することができる。また、筒状部材の段差面と加締め部とで蓋部材を軸方向両側から挟持することができるので、筒状部材に対する蓋部材の固定強度がより一層向上する。
【0014】
互いに対向する軸部材の端面と蓋部材の内底面との間にスラスト軸受隙間を形成すれば、いわゆる動圧軸受からなるスラスト軸受部を構成することができるので、スラスト方向(スラスト一方向)の支持能力や静粛性を高める上で有利となる。この場合、スラスト軸受隙間を形成する一方の面となる蓋部材の内底面には、スラスト軸受隙間に流体動圧を発生させるスラスト動圧発生部を設けることができ、このスラスト動圧発生部は、金属板の打ち抜きで蓋部材を形成するのと同時に、蓋部材の内底面に型成形することができる。このようにすれば、別工程でスラスト動圧発生部を形成する手間を省くことができるので、動圧軸受からなるスラスト軸受部を低コストに構成することができる。
【0015】
上記構成において、筒状部材の内周には、軸部材の外周面との間にラジアル軸受隙間を形成する軸受スリーブを固定することができる。このようにすれば、流体動圧軸受装置の各部に求められる要求特性を最適化し易くなる。なお、筒状部材と軸受スリーブとが一体的に設けられたもの(軸受部材)を用いることも可能である。このようにすれば、部品点数や組立工数の削減を通じて流体動圧軸受装置の低コスト化を図る上で有利となる。
【0016】
軸部材の外周面には、ラジアル軸受隙間に流体動圧を発生させるラジアル動圧発生部を設けることができる。ラジアル動圧発生部は、ラジアル軸受隙間を介して軸部材の外周面と対向する面(例えば、軸受スリーブの内周面)に形成することも可能であるが、ラジアル動圧発生部は微小な動圧溝を円周方向に複数設けて構成される場合が多く、この種の動圧溝を軸受スリーブの内周面に精度良く形成しようとすると製造コストが増大する可能性が高くなる。これに対して、軸部材の外周面にラジアル動圧発生部を設ける場合には、転造や研削等の比較的簡便な手段を組み合わせることで微小な動圧溝も精度良く形成することができるので、製造コストの低廉化を図る上で有利となる。
【0017】
以上で述べた本発明に係る流体動圧軸受装置は、ステータコイルと、ロータマグネットとを備えたモータ、例えばディスク駆動装置用のスピンドルモータに組み込んで好適に使用可能である。
【発明の効果】
【0018】
以上に示すように、本発明によれば、筒状部材の一端開口部が蓋部材にて封口される流体動圧軸受装置において、必要とされる軸受性能を確保しつつ、そのコスト低減を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】流体動圧軸受装置が組み込まれた情報機器用スピンドルモータの一例を概念的に示す断面図である。
【図2】本発明の第1実施形態に係る流体動圧軸受装置の含軸断面図である。
【図3】(a)図は軸受スリーブの断面図、(b)図は軸受スリーブの下側端面を示す図である。
【図4】蓋部材の内底面を示す図である。
【図5】(a)〜(c)図は、ハウジングに対する蓋部材の固定プロセスを段階的に示す要部拡大断面図である。
【図6】本発明の第2実施形態に係る流体動圧軸受装置の含軸断面図である。
【図7】(a)(b)図共に、打ち抜き加工で形成された蓋部材の要部を模式的に示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。
【0021】
図1に、流体動圧軸受装置が組み込まれた情報機器用スピンドルモータの一構成例を概念的に示す。このスピンドルモータは、HDD等のディスク駆動装置に用いられるものであり、軸部材2を回転自在に支持する流体動圧軸受装置1と、軸部材2に固定されたディスクハブ3と、例えば半径方向のギャップを介して対向させたステータコイル4およびロータマグネット5と、モータベース6とを備えている。ステータコイル4はモータベース6の外周に取付けられ、ロータマグネット5はディスクハブ3の内周に取付けられる。流体動圧軸受装置1の軸受部材9は、モータベース6の内周に固定される。ディスクハブ3にはディスクDが一又は複数枚(図示例は2枚)保持されている。以上の構成において、ステータコイル4に通電すると、ステータコイル4とロータマグネット5との間の電磁力でロータマグネット5が回転し、それによって、ディスクハブ3およびディスクハブ3に保持されたディスクDが軸部材2と一体に回転する。
【0022】
図2に、本発明の第1実施形態に係る流体動圧軸受装置1を示す。この流体動圧軸受装置1は、軸部材2と、軸部材2が内周に挿入された軸受部材9と、軸受部材9の一端開口部を封口する蓋部材10とを構成部材として備え、内部空間には流体としての潤滑油(密な散点ハッチングで示す)が充填されている。本実施形態では、軸部材2の外周に配置された円筒状の軸受スリーブ8と、両端が開口し、軸受スリーブ8を内周に固定した円筒状のハウジング7とで軸受部材9が構成され、蓋部材10は、ハウジング7の一端開口部の内周に固定される。従って、本実施形態では、ハウジング7が、本発明でいう筒状部材に相当する。なお、以下では、説明の便宜上、蓋部材10が設けられた側を下側、その軸方向反対側を上側という。
【0023】
軸受スリーブ8は、焼結金属の多孔質体で円筒状に形成される。軸受スリーブ8の上側端面8cには、環状溝8c1と、外径端が環状溝8c1に繋がった径方向溝8c2とが形成されており、軸受スリーブ8の外周面8dには、円周方向の一又は複数箇所に軸方向溝8d1が形成されている(本実施形態では円周方向の三箇所。図3(b)を参照)。軸受スリーブ8は、多孔質樹脂に代表されるその他の多孔質体、黄銅等の軟質金属などで形成することも可能である。
【0024】
軸受スリーブ8の内周面8aには、対向する軸部21の外周面21aとの間にラジアル軸受隙間を形成するラジアル軸受面となる円筒状領域が軸方向の二箇所に離隔して設けられている。ラジアル軸受面となる各円筒状領域には、図3に示すように、軸方向に対して傾斜した複数の動圧溝Aaをヘリングボーン形状に配列してなるラジアル動圧発生部A1,A2がそれぞれ形成されている。上側のラジアル動圧発生部A1においては、上側領域の動圧溝Aaの軸方向寸法X1が下側領域の動圧溝Aaの軸方向寸法X2よりも大きくなっている。一方、下側のラジアル動圧発生部A2においては、上側領域の動圧溝Aaおよび下側領域の動圧溝Aaの軸方向寸法が上記軸方向寸法X2と等しくなっている。動圧溝Aaは、ヘリングボーン形状に限らず、スパイラル形状に形成(配列)することもできる。
【0025】
軸受スリーブ8の下側端面8bには、対向するフランジ部22の上側端面22aとの間に第1スラスト軸受部T1のスラスト軸受隙間を形成するスラスト軸受面となる環状領域が設けられており、この環状領域には、図3(b)に示すように、スパイラル形状の動圧溝Baを円周方向に複数配列してなるスラスト動圧発生部Bが形成されている。なお、動圧溝Baはヘリングボーン形状に形成することも可能である。また、スラスト動圧発生部Bは、対向するフランジ部22の上側端面22aに形成することもできる。
【0026】
軸部材2は、軸部21と、軸部21の下端に一体又は別体に設けられたフランジ部22とを備え、ここでは高剛性の溶製材(例えばSUS420J2等のステンレス鋼)で軸部21とフランジ部22とが一体形成されている。軸部21の外周面21aのうち、軸受スリーブ8の内周面8aのラジアル軸受面(ラジアル動圧発生部A1,A2)間領域に対向する領域には、内径側に後退した円筒状の中逃げ部23が設けられている。軸部21の外周面21aにこのような中逃げ部23を設けたことにより、概ね径一定の円筒面に形成された軸受スリーブ8の内周面8aと中逃げ部23との間に、ラジアル軸受隙間よりも隙間幅の大きい半径方向隙間が形成される。この半径方向隙間は、潤滑油溜りとして機能させることができるので、軸受運転中には、軸方向上下に隣接した2つのラジアル軸受隙間を潤沢な潤滑油で満たすことが可能となる。これにより、ラジアル方向における回転精度の安定化が図られる。また、上記半径方向隙間の隙間幅がラジアル軸受隙間のそれよりも大きく確保されていることから、ロストルクを小さくすることができ、モータの低消費電力化に寄与する。
【0027】
筒状部材としてのハウジング7は、溶製材(例えば、黄銅やステンレス鋼等の中実の金属材料)で軸方向両端が開口した略円筒状に形成されており、円筒状の側部7aと、側部7aの上端から内径側に延びたリング状のシール部7bとを一体に有する。側部7aには、相対的に小径の小径内周面7a1と、相対的に大径の大径内周面7a2とが設けられており、小径内周面7a1と大径内周面7a2とは、軸方向と直交する方向に延びる段差面7a3を介して繋がっている。小径内周面7a1の内周には、接着、圧入、圧入接着(圧入と接着の併用)、溶接等の適宜の手段で軸受スリーブ8が固定されている。一方、大径内周面7a2の内周には、蓋部材10が、その内底面10aの外径側領域を段差面7a3に当接させた状態で固定されており、これにより、ハウジング7(軸受部材9)に対する蓋部材10の軸方向相対位置が決定付けられ、両スラスト軸受部T1,T2のスラスト軸受隙間の隙間幅が規定値に管理される。
【0028】
シール部7bの内周面7b1は、下方に向けて漸次縮径したテーパ面状に形成され、対向する軸部21の外周面21aとの間に下方に向けて径方向寸法を漸次縮小させたくさび状のシール空間Sを形成する。シール部7bの下側端面7b2の内径側領域には、軸受スリーブ8の上側端面8cが当接しており、ハウジング7に対する軸受スリーブ8の軸方向における相対的な位置決めがなされている。シール部7bの下側端面7b2の外径側領域は、外径側に向かって徐々に上側に後退しており、軸受スリーブ8の上側端面8cおよび上部外周チャンファとの間に環状隙間を形成している。環状隙間の内径端部は、軸受スリーブ8の上側端面8cの環状溝8c1に繋がっている。
【0029】
蓋部材10は、ハウジング7の大径内周面7a2の内周に固定されてハウジング7の下端開口部を封口している。この蓋部材10は、ステンレス鋼、銅合金、アルミニウム合金等の金属板を打ち抜くことで円盤状に形成された打ち抜き加工品(プレス切断品)であり、打ち抜き後に特段の後加工を施すことなくそのまま使用されている。図示例の、蓋部材10の外周面10cには、打ち抜き加工に伴って形成された、せん断部10d、破断部10e及びかえり10fが存在する。なお、上述したように、せん断部10eは、金属板に対して切断刃の側面が摺動することによって形成される平滑面である。また、破断部102は、微小な凹凸が連続した粗面(凹凸面)である。また、かえり10fは、元々は、打ち抜き加工終了側の一端外周縁部に突設された突起物であるが、図2に示す完成品としての流体動圧軸受装置1においては、ハウジング7に形成された加締め部12により内径側に塑性変形している。
【0030】
蓋部材10の内底面(上側端面)10aには、対向するフランジ部22の下側端面22bとの間に第2スラスト軸受部T2のスラスト軸受隙間を形成するスラスト軸受面となる環状領域が設けられている。スラスト軸受面となる環状領域には、図4に示すように、複数の動圧溝Caをスパイラル形状に配列してなるスラスト動圧発生部Cが形成されている。このスラスト動圧発生部Cは、金属板を打ち抜くことで蓋部材10を形成するのと同時に型成形されている。なお、スラスト動圧発生部Cは、対向するフランジ部22の下側端面22bに形成することもできる。
【0031】
ここで、ハウジング7に対する蓋部材10の固定態様について詳述する。図2中の拡大図に示すように、ハウジング7(側部7a)の下端部には、先端部が基端部よりも内径側に位置するように軸方向に対して傾斜した加締め部12が、蓋部材10のかえり10fを巻き込むようにして(蓋部材10のかえり10fを蓋部材10の外端面10bに押し付けるようにして)側部7aと一体的に設けられている。これにより、蓋部材10は、軸方向上側に附勢され、内底面10aの外径側領域を側部7aの段差面7a3に当接させた状態でハウジング7の大径内周面7a2の内周に固定されている。加締め部12は、その先端部が蓋部材10のかえり10fよりも内径側に位置して流体動圧軸受装置1の最下端部を構成している。
【0032】
加締め部12は、ハウジング7の全周に亘って設けられており、蓋部材10の外底面10bとの間に環状空間13を形成している。環状空間13には、接着剤14が充填されて固化しており、この接着剤14で蓋部材10のかえり10fが被覆(捕捉)されている。加締め部12は、上記したように、先端部を相対的に内径側に位置させるようにして軸方向に対して傾斜していることから、加締め部12と蓋部材10の外底面10bとの間に形成される環状空間13は、その空間幅を加締め部12の基端側に向けて漸次縮小させたテーパ形状(楔形状)を呈する。また、本実施形態の蓋部材10は、その外径寸法がハウジング7の大径内周面7a2の内径寸法よりも小さく設定され、大径内周面7a2の内周に隙間嵌めされている。従って、互いに対向する蓋部材10の外周面10cとハウジング7の大径内周面7a2との間には、微小な半径方向隙間15が全周に亘って形成されており、この半径方向隙間15には接着剤14が充填されて固化している。
【0033】
以上で示したハウジング7に対する蓋部材10の固定構造は、以下のようにして得ることができる。まず、図5(a)に示すように、金属板を打ち抜くことで円盤状に形成された蓋部材10を、特段の後加工を施すことなく、そのまま、ハウジング7の大径内周面7a2の内周に隙間嵌めする。このとき、蓋部材10は、打ち抜き加工に伴って外周面10cの一端部(一端外周縁部)に突設されたかえり10fを軸受外側に向けた(配置した)状態で、大径内周面7a2の内周に隙間嵌めされる。ハウジング7の側部7aの下端(図5(a)では上端)には、加締め加工を受けて塑性変形することにより加締め部12となる環状の凸部7cが一体形成されている。
【0034】
次いで、ハウジング7の下端部を、加締めによりかえり10dを巻き込みながら内径側に塑性変形させ、加締め部12を形成する。ここでは、図5(b)に示すように、ハウジング7の下端部に設けた環状の凸部7cに加圧力を付与し、かえり10dを巻き込む(被覆する)ように環状の凸部7cを内径側に塑性変形させる(傾倒させる)ことにより、加締め部12をハウジング7の全周に亘って形成する。このような加締め部12を形成することにより、蓋部材10のかえり10fが軸受内部側に加圧されて塑性変形し、さらには蓋部材10の内底面10aがハウジング7の段差面7a3に押し付けられる。これにより、蓋部材10は、ハウジング7に対する軸方向の相対的な位置決めがなされた状態で、ハウジング7の側部7aの段差面7a3と、ハウジング7の下端部に形成された加締め部12とで軸方向両側から挟持されるようにしてハウジング7の大径内周面7a2の内周に加締め固定される。
【0035】
そして、図5(c)に示すように、加締め部12と蓋部材10の外底面10bとの間に形成された環状空間13に接着剤14を充填・固化させ、蓋部材10のかえり10fを接着剤14で被覆する。また、蓋部材10の外周面10cとハウジング7の大径内周面7a2との間に形成される微小な半径方向隙間15にも接着剤14を充填し、固化させる。これにより、蓋部材10がハウジング7の大径内周面7a2の内周に接着固定され、ハウジング7の下端開口が封口される。なお、半径方向隙間15に接着剤14を充填するには、例えば、加締め部12を形成するのに先立って半径方向隙間15に接着剤14を充填する、加締め部12を全周に亘って形成する途中に、半径方向隙間15に接着剤14を充填する方法等を採用することができる。
【0036】
以上の構成からなる流体動圧軸受装置1において、軸受スリーブ8の内周面8aの上下二箇所に離隔形成したラジアル軸受面と、これに対向する軸部21の外周面21aとの間にそれぞれラジアル軸受隙間が形成される。そして軸部材2の回転に伴い、両ラジアル軸受隙間に形成される油膜の圧力が動圧溝Aaの動圧作用によって高められ、その結果、軸部材2をラジアル方向に非接触支持するラジアル軸受部R1,R2が軸方向の二箇所に離隔形成される。これと同時に、フランジ部22の上側端面22aとこれに対向する軸受スリーブ8の下側端面8bに設けたスラスト軸受面との間、および、フランジ部22の下側端面22bとこれに対向する蓋部材10の上側端面10aに設けたスラスト軸受面との間に、スラスト軸受隙間がそれぞれ形成される。そして、軸部材2の回転に伴い、両スラスト軸受隙間に形成される油膜の圧力が、動圧溝Ba,Caの動圧作用によってそれぞれ高められ、その結果、軸部材2をスラスト一方向に非接触支持する第1スラスト軸受部T1および軸部材2をスラスト他方向に支持する第2スラスト軸受部T2が形成される。
【0037】
また、シール空間Sが、ハウジング7の内部側に向かって径方向寸法を漸次縮小させたくさび形状を呈しているため、シール空間S内の潤滑油は毛細管力による引き込み作用によってハウジング7の内部側に向けて引き込まれる。また、シール空間Sは、ハウジング7の内部空間に充填された潤滑油の温度変化に伴う容積変化量を吸収するバッファ機能を有し、想定される温度変化の範囲内で潤滑油の油面を常にシール空間S内に保持する。そのため、ハウジング7内部からの潤滑油漏れが効果的に防止される。
【0038】
また、ラジアル動圧発生部A1を構成する上下の動圧溝Aaの軸方向寸法差により、軸部材2の回転時、ラジアル軸受隙間に介在する潤滑油のポンピング力は上側領域が下側領域に比べて相対的に大きくなる。そのため、軸部材2が回転すると、軸受スリーブ8の内周面8aと軸部21の外周面21a1との間の隙間に介在する潤滑油は下方に流動し、第1スラスト軸受部T1のスラスト軸受隙間→軸受スリーブ8の軸方向溝8d1で形成される軸方向の流体通路11→軸受スリーブ8の上部外周チャンファ等で形成される環状空間→軸受スリーブ8の環状溝8c1および径方向溝8c2で形成される流体通路という経路を循環して、ラジアル軸受部R1のラジアル軸受隙間に再び引き込まれる。
【0039】
このような構成とすることで、潤滑油の圧力バランスが保たれると同時に、局部的な負圧の発生に伴う気泡の生成、気泡の生成に起因する潤滑油の漏れや振動の発生等の問題を解消することができる。上記の循環経路には、シール空間Sが連通しているので、何らかの理由で潤滑油中に気泡が混入した場合でも、気泡が潤滑油に伴って循環する際にシール空間S内の潤滑油の油面(気液界面)から外気に排出される。従って、気泡による悪影響は一層効果的に防止される。
【0040】
以上で示したように、本発明に係る流体動圧軸受装置1では、金属板を打ち抜いて形成され、外周面10cの一端部(一端外周縁部)にかえり10fを有する蓋部材10が、かえり10fを外側に向けた状態でハウジング7の大径内周面7a2(下端開口部)に嵌合される。そのため、蓋部材10をハウジング7の下端開口部に嵌合(配置)する段階において、ハウジング7とかえり10fの接触が回避されるので、ハウジング7との接触に伴うかえり10fの脱落、ひいてはコンタミ発生による軸受性能の低下が可及的に防止される。また、上記態様で蓋部材10をハウジング7に嵌合したことにより、蓋部材10のかえり10fがハウジング7の段差面7a3に接触しないので、ハウジング7に対する蓋部材10の固定精度が確保されないような事態が生じるのを可及的に防止することができる。加えて、本発明では、ハウジング7の下端部(環状凸部7c)を、加締めにより蓋部材10のかえり10fを巻き込みながら内径側に塑性変形させることで、蓋部材10をハウジング7に固定した。このようにすれば、ハウジング7に形成した加締め部12で、蓋部材10のかえり10fを蓋部材10の外底面10bに押し付けながら被覆することができるので、かえり10fの脱落によるコンタミの発生を防止することができる。以上から、本発明によれば、打ち抜き加工された蓋部材10をそのまま用いたとしても、コンタミの発生を可及的に防止することができる。従って、必要とされる軸受性能を確保しつつ、流体動圧軸受装置1のコスト低減を図ることができる。
【0041】
また、ハウジング7の全周に亘って加締め部12を形成し、この加締め部12と蓋部材10の外底面10bとの間に形成した環状空間13に充填した接着剤14で蓋部材10のかえり10fを被覆した。これにより、ハウジング7に対する蓋部材10の固定力向上が図られると共に、かえり10fの脱落が一層効果的に防止される。特に、環状空間13の空間幅を、加締め部12の基端側に向かって漸次縮小させたことから、環状空間13に充填した接着剤14に毛細管力の引き込み作用が作用する。そのため、接着剤14を環状空間13内に適切に保持することが、すなわちかえり10fを適切に被覆することができる。
【0042】
さらに本実施形態では、蓋部材10をハウジング7の大径内周面7a2(下端開口部)に隙間嵌めし、互いに対向するハウジング7の大径内周面7a2と蓋部材10の外周面10cとの間の半径方向隙間15に接着剤14を充填し、固化させたことから、ハウジング7に対する蓋部材10の固定力が一層高まると共に、ハウジング7の下端開口の封止性が一層高まる。また本実施形態の蓋部材10は、その外周面10cに、凹凸面状の破断部10eを有するものであるが、蓋部材10を隙間嵌めすれば、ハウジング7の下端開口部に蓋部材10を嵌合(配置)する段階で、ハウジング7の大径内周面7a2と蓋部材10の外周面10cの破断部10eとの摺動、ひいては破断部10eの脱落によるコンタミ発生を可及的に防止することができる。なお、蓋部材10の外周面10cに凹凸面状の破断部10eが存在することから、半径方向隙間15に充填した接着剤14に対する蓋部材10の接触面積が増大する。これにより、ハウジング7に対する蓋部材10の接着強度を高めることができる。
【0043】
以上、本発明の一実施形態に係る流体動圧軸受装置1について説明を行ったが、本発明は、以上で説明した実施形態に係る流体動圧軸受装置1に限定適用されるものではない。以下、本発明を適用可能な他の実施形態に係る流体動圧軸受装置1について図面を参照しながら説明する。以下に示す他の実施形態においては、説明を簡略化する観点から、上述した実施形態と実質的に同一の構成には同一の参照番号を付し、重複説明を省略する。
【0044】
図6は、本発明の第2実施形態に係る流体動圧軸受装置1の含軸断面図である。同図に示す流体動圧軸受装置1が図2に示すものと異なる主な点は、ラジアル軸受部R1,R2のラジアル軸受隙間に流体動圧を発生させるラジアル動圧発生部A1,A2(図6中、クロスハッチングで示す動圧溝Aa)を、軸受スリーブ8の内周面8aとラジアル軸受隙間を介して対向する軸部21の外周面21aに形成した点にある。
【0045】
ここで、焼結金属製とされる軸受スリーブ8の内周面8aに動圧溝Aaを形成するために広く採用されている手法は、円筒状に形成した焼結体の内周に、外周面に動圧溝形状に対応した溝型部を有するコアロッドを挿入し、その状態で焼結体に軸方向両側から圧迫力を加えることにより、焼結体の内周面をコアロッドの外周面に食い付かせて溝型部の形状を焼結体の内周面に転写し、その後、圧迫力の解放により生じる焼結体のスプリングバックを利用して、焼結体の内周からコアロッドを抜き取る、というものである。しかしながら、軸受スリーブ8の軸方向寸法が大きくなれば、動圧溝Aaを加工する際、相当に大きな圧迫力を焼結体に加える必要がある。そのため、内部の密度のばらつきが大きくなる、軸受スリーブ8の各部に精度劣化が生じるなど、加工精度の限界が生じる。
【0046】
これに対して軸部21の外周面21aに動圧溝Aaを設ける場合には、転造や研削等の比較的簡便な手段を組み合わせることで微小な動圧溝Aaを精度良く形成し易く、しかも軸受スリーブ8の内周面8aを凹凸のない平滑な円筒面に形成することができる。従って、この場合、焼結金属製の軸受スリーブ8の製造工程は、焼結体に対して内周面および外周面の矯正加工(サイジング)を行うことで完了し、上記したような内周面に動圧溝を型成形する工程を設ける必要がない。従って、軸受スリーブ8の形状の単純化を通じて軸受の精度確保が図られ、軸受スリーブ8、ひいては流体動圧軸受装置1全体としての特性確保が可能となる。
【0047】
なお、溶製材からなる軸部21(軸素材)の外周面に転造で動圧溝Aaを形成する場合、熱処理後の軸素材の外周面に転造加工を施すのが望ましい。転造により生じる肉の盛り上がり量を、未熱処理の軸素材に転造加工を施す場合に比べて小さくすることができるので、その後の仕上げ加工を簡便化することが、あるいは仕上げ加工を省略することができるからである。
【0048】
以上の実施形態では、ハウジング7の下端に一体的に設けた環状の凸部7cを内径側に塑性変形させることによって加締め部12を形成したが、加締め部12を形成するに際して、必ずしも環状の凸部7cを設ける必要はない。例えばハウジング7の平坦面状下端面を塑性変形させることで加締め部12を形成することも可能である。また、加締め部12は、必ずしもハウジング7の全周に亘って形成する必要はなく、かえり10fが存在する周方向領域にのみ形成するようにしても良い。
【0049】
また、以上の実施形態では、外周面10cに、破断部10eを有する蓋部材10を用いた関係上、蓋部材10をハウジング7の下端開口部に隙間嵌めしたが、プレス切断の実施態様によっては、蓋部材10の外周面10cに、凹凸面状の破断部10eが形成されない場合もある[図7(b)を参照]。このような蓋部材10を用いる場合には、蓋部材10をハウジング7の下端開口部に嵌合する段階で蓋部材10の外周面10cがハウジング7の大径内周面7a2に対して摺動しても、外周面10cに破断部10eが形成されている場合と比較して、コンタミの発生確率が大幅に低下することから、ハウジング7の下端開口部に対する蓋部材10の嵌合を、必ずしも隙間嵌めにて行う必要はない。
【0050】
また、以上の実施形態では、ハウジング7に、軸部21の外周面21aとの間にシール空間Sを形成するシール部7bを一体的に設けたが、シール部7bは別部材とすることも可能である(図示省略)。また、以上の実施形態では、軸受部材9を、筒状部材としてのハウジング7と、ハウジング7の内周に固定した軸受スリーブ8とで構成したが、軸受部材9は、軸受スリーブ8に相当する部分と、ハウジング8に相当する部分とが一体的に設けられたものとすることも可能である(図示省略)。
【0051】
また、以上の実施形態では、ヘリングボーン形状等の動圧溝Aaを円周方向に複数配列したラジアル動圧発生部を設けることによって動圧軸受からなるラジアル軸受部R1,R2を構成したが、動圧軸受からなるラジアル軸受部R1,R2は、ラジアル軸受隙間を介して対向する二面の何れか一方に、軸方向溝を円周方向に複数配したステップ面、あるいは多円弧面を形成することで構成することもできる。また、ラジアル軸受部R1,R2の何れか一方又は双方は、いわゆる真円軸受で構成することもできる。
【0052】
また、以上の実施形態では、スラスト動圧発生部B,Cをスパイラル形状、あるいはヘリングボーン形状の動圧溝Ba,Caで構成したが、スラスト動圧発生部B,Cの何れか一方又は双方は、径方向に延びる放射状の動圧溝を円周方向に複数配列して構成することもできる。また、スラスト軸受部は、以上で示した動圧軸受ではなく、軸部材2の一端(下端)を蓋部材10の内底面10aで接触支持するピボット軸受で構成することもできる。
【0053】
また、以上の実施形態では、流体動圧軸受装置1の内部空間に充填する潤滑流体として潤滑油を用いたが、潤滑グリース、磁性流体、さらには空気等の気体を潤滑流体として用いた流体動圧軸受装置1にも本発明は好ましく適用し得る。
【0054】
また、以上では、軸部材2を回転側、軸受部材9を静止側とした流体動圧軸受装置1に本発明を適用した場合について説明を行ったが、これとは逆に、軸部材2を静止側、軸受部材9を回転側とした流体動圧軸受装置1にも本発明は好ましく適用することができる。
【符号の説明】
【0055】
1 流体動圧軸受装置
2 軸部材
7 ハウジング
8 軸受スリーブ
9 軸受部材
10 蓋部材
10c 外周面
10d せん断部
10e 破断部
10f かえり
12 加締め部
13 環状空間
14 接着剤
15 半径方向隙間
A1,A2 ラジアル動圧発生部
B スラスト動圧発生部
C スラスト動圧発生部
R1、R2 ラジアル軸受部
T1 第1スラスト軸受部
T2 第2スラスト軸受部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
軸部材と、両端が開口し、内周に軸部材を挿入した筒状部材と、筒状部材の一端開口部を封口する蓋部材とを備え、軸部材の外周面に面するラジアル軸受隙間に形成される流体の潤滑膜で軸部材がラジアル方向に支持される流体動圧軸受装置において、
蓋部材が、金属板の打ち抜きで形成され、外周面の一端部にかえりを有するものであり、
打ち抜き後の蓋部材が前記かえりを外側に向けた状態で筒状部材の一端開口部に嵌合され、筒状部材の一端部を、加締めにより前記かえりを巻き込みながら内径側に塑性変形させることで、蓋部材を筒状部材に固定したことを特徴とする流体動圧軸受装置。
【請求項2】
加締め部と蓋部材の外底面との間に空間を形成し、この空間に充填した接着剤で前記かえりを被覆した請求項1に記載の流体動圧軸受装置。
【請求項3】
蓋部材が筒状部材の一端開口部に隙間嵌めされ、
互いに対向する蓋部材の外周面と筒状部材の内周面との間の半径方向隙間に、接着剤を充填した請求項1に記載の流体動圧軸受装置。
【請求項4】
筒状部材に段差面を設け、この段差面に蓋部材の内底面を当接させた請求項1に記載の流体動圧軸受装置。
【請求項5】
互いに対向する軸部材の端面と蓋部材の内底面との間にスラスト軸受隙間が形成され、
スラスト軸受隙間に流体動圧を発生させるスラスト動圧発生部が、金属板の打ち抜きで蓋部材を形成するのと同時に、蓋部材の内底面に型成形された請求項1に記載の流体動圧軸受装置。
【請求項6】
筒状部材の内周に、軸部材の外周面との間に前記ラジアル軸受隙間を形成する軸受スリーブを固定した請求項1に記載の流体動圧軸受装置。
【請求項7】
軸部材の外周面に、ラジアル軸受隙間に流体動圧を発生させるラジアル動圧発生部が形成された請求項1に記載の流体動圧軸受装置。
【請求項8】
請求項1〜7の何れか一項に記載の流体動圧軸受装置と、ステータコイルと、ロータマグネットとを備えるモータ。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate


【公開番号】特開2013−61025(P2013−61025A)
【公開日】平成25年4月4日(2013.4.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−200411(P2011−200411)
【出願日】平成23年9月14日(2011.9.14)
【出願人】(000102692)NTN株式会社 (9,006)
【Fターム(参考)】