説明

流体圧力調整装置およびこれを用いた燃料供給装置

【課題】調圧の設定圧を好ましい速度で切替え可能なコンパクトで配管の簡素な低コストの流体圧力調整装置および燃料供給装置を提供する。
【解決手段】複数の導入側の燃料通路37,32hおよび排出側の燃料通路31hを有するハウジング21と、ハウジング21内に導入側の燃料通路37,32hに連通する調圧室23を形成するとともに、調圧室23内に導入された燃料圧力に応じ導入側の燃料通路37,32hと排出側の燃料通路31hとを連通させて導入側の燃料通路37に導入される燃料圧力を設定圧に調整する隔壁状の調圧部材22と、を備え、導入側の燃料通路37,32hに選択的に導入される燃料圧力に応じて設定圧を切り替える流体圧力調整装置であって、低圧側の設定圧から高圧側の設定圧に切り替えるときに、複数の導入側の燃料通路37,32hのうち特定の燃料通路32hの圧力を解放させる圧力解放弁としての三方電磁弁45が設けられている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、流体圧力調整装置およびこれを用いた燃料供給装置に関し、特に内燃機関の燃料を燃料ポンプから燃料噴射弁に供給するときにその燃料圧力を調整するのに好適な流体圧力調整装置およびこれを用いた燃料供給装置に関する。
【背景技術】
【0002】
車両等に搭載される内燃機関の燃料供給装置においては、一般に、燃料ポンプからインジェクタ(燃料噴射弁)に燃料を供給するとともに、その燃料供給通路内の燃料圧力を流体圧力調整装置であるプレッシャレギュレータより調整するようになっている。このような燃料供給装置は、プレッシャレギュレータのハウジング内をダイヤフラムによって調圧室と背圧室とに区画するとともに、調圧室内の燃料圧力による開弁方向の付勢力と背圧室側からの閉弁方向の付勢力とをダイヤフラムに作用させ、ダイヤフラムの変位に応じて調圧室内の燃料の一部を排出させることで、調圧室内の燃料圧力を背圧室側からの付勢力に基づく所定の設定圧に調圧する構成となっている。
【0003】
この種の燃料供給装置としては、例えばインジェクタ側のデリバリーパイプに燃料ポンプからの加圧燃料を供給する燃料通路に高圧側圧力レギュレータと低圧側圧力レギュレータとをそれぞれ接続するとともに、その燃料通路と低圧側圧力レギュレータの間に遮断弁を設けて、エンジンの始動開始から始動完了後の所定時間までの期間は低圧側圧力レギュレータを燃料通路から遮断し、それ以降に低圧側圧力レギュレータを燃料通路に接続するようにして、エンジンに供給される燃圧を2段階に調圧するものが知られている(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
また、ハウジング内を3つの圧力室に区画する第1および第2のダイヤフラムと、ハウジングと第1のダイヤフラムの間の第1の圧力室内で調圧用の排出口を開閉するよう第1のダイヤフラムに装着された弁体と、第1および第2のダイヤフラムの間の第2の圧力室に配された連結杆を介して弁体に連結されるとともに第2ダイヤフラムに固着された受圧体と、ハウジングと第2のダイヤフラムの間の第3の圧力室内に設けられ受圧体を閉弁方向に付勢するスプリングとを具備するものが知られている。この流体圧力調整装置およびこれを用いた燃料供給装置では、第2および第3の圧力室内への供給圧力を制御することで、調圧する燃料圧力を複数段階に切り替えることができるようになっている(例えば、特許文献2参照)。
【0005】
さらに、調圧部材に背圧を加えるばねが収納されたプレッシャレギュレータの調圧室および背圧室にインジェクタへの燃料供給通路からの燃料をそれぞれ導入するとともに、その背圧室側の燃料導入通路に遮断弁を設けて、エンジン始動時に、その遮断弁を開弁させて背圧を高めることによりインジェクタへの燃料供給圧力を高めるようにしたものが知られている(例えば、特許文献3参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2008−121454号公報
【特許文献2】特開2009−108684号公報
【特許文献3】特開2001−90624号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、上述のような従来の流体圧力調整装置およびこれを用いた燃料供給装置にあっては、設定圧の異なる複数のプレッシャレギュレータを用いたり、設定圧を切替え可能とするために背圧室側でも流体圧を変化させる構成となっていたりしたため、燃料圧力を調整する装置の構成や配管が複雑になるばかりか、シール性能の要求される部位が増えてしまうことになってしまい、コスト高を招いてしまうという問題があった。
【0008】
また、調圧室以外に流体圧を供給するために余計な燃料が必要になるため、燃料ポンプの負荷が増大し、燃料ポンプの大型化やコスト高を招来してしまうという問題があった。
【0009】
さらに、ダイヤフラム等の調圧部材に背圧を付与するためにスプリングを用いるこの種のプレッシャレギュレータにおいては、設定圧を高圧側から低圧側に切り替えるときにはその切替え速度を低速にし、設定圧を低圧側から高圧側に切り替えるときにはその切替え速度を高速(高応答)にしたいという要求を満足させることができないという問題もあった。
【0010】
本発明は、上述のような従来の問題点に鑑みてなされたものであり、調整圧力の設定圧を高圧側と低圧側とに好ましい速度で切り替えることができるコンパクトで配管の簡素な低コストの流体圧力調整装置を提供し、併せて、これを用いたコンパクトで配管の簡素な低コストの燃料供給装置を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明に係る流体圧力調整装置は、上記課題を解決するために、(1)流体が導入される複数の導入側の流体通路および該流体が排出される排出側の流体通路を有するハウジングと、前記ハウジング内に前記導入側の流体通路に連通する調圧室を形成するとともに、前記調圧室内に導入された流体の圧力に応じて前記導入側の流体通路と前記排出側の流体通路とを連通させて前記導入側の流体通路のいずれかの流体通路に導入される前記流体の圧力を設定圧に調整する隔壁状の調圧部材と、を備え、前記複数の導入側の流体通路に選択的に導入される前記流体の圧力に応じて前記設定圧を切り替えるようにした流体圧力調整装置であって、前記設定圧を低圧側の設定圧から高圧側の設定圧に切り替えるときに、前記複数の導入側の流体通路のうち特定の流体通路の圧力を解放させる圧力解放手段が設けられていることを特徴とする。
【0012】
この構成により、圧力解放手段が作動して調圧部材の一面側で特定の流体通路内の流体圧力が解放されると、調圧部材に加圧された流体圧力を作用させる受圧領域が特定の流体通路以外の導入側の流体通路に対応する領域のみに縮小され、背圧に対抗する付勢力を生じさせる受圧面積が縮小されることで、設定圧が高圧側に切り替えられる。一方、圧力解放手段の非作動時には、調圧部材の一面側で特定の流体通路内の流体圧力が高まることから、調圧部材に加圧された流体圧力を作用させる受圧領域が特定の流体通路を含む複数の導入側の流体通路に対応する広い領域に拡大され、背圧に対抗する付勢力を生じさせる受圧面積が拡大されることで、設定圧が低圧側に切り替えられる。したがって、調圧部材の一面側のみで流体の出入りを制御して設定圧を切り替えることのできる、設定圧の切替えに適したコンパクトで配管の簡素な低コストの流体圧力調整装置となる。しかも、高圧側の設定圧に切り替えるときに導入側の特定の流体通路の流体圧力を解放するので、低圧側の設定圧から高圧側の設定圧への切替えを確実でかつ高応答に行うことが可能になる。
【0013】
上記(1)に記載の構成を有する流体圧力調整装置においては、(2)前記設定圧を前記高圧側の設定圧から前記低圧側の設定圧に切り替えるときに開弁するよう、前記特定の流体通路の上流側で該上流側の流体通路を開閉する通路開閉弁が設けられているのが好ましい。
【0014】
この構成により、設定圧が高圧側の設定圧に切り替えられるときには特定の流体通路に流体が導入されず、流体を無駄に排出させることがないから、消費エネルギを抑えることができる。
【0015】
上記(2)に記載の構成を有する流体圧力調整装置においては、(3)前記圧力解放手段は、前記通路開閉弁が閉弁するときに前記特定の流体通路の圧力を解放させる圧力解放弁で構成されていることが好ましい。
【0016】
この場合、圧力解放手段を圧力解放弁により簡素に構成でき、流体圧力調整装置が流体の貯留タンク内に配置される場合に好適な流体圧力調整装置となる。
【0017】
上記(3)に記載の構成を有する流体圧力調整装置においては、(4)前記通路開閉弁と前記圧力解放弁とが、前記設定圧を前記高圧側の設定圧から前記低圧側の設定圧に切り替えるときに前記特定の流体通路への前記流体の導入を許容する一方、前記設定圧を前記低圧側の設定圧から前記高圧側の設定圧に切り替えるときに、前記複数の導入側の流体通路のうち特定の流体通路の圧力を解放させる三方弁によって構成されているのがよい。
【0018】
この構成により、通路開閉弁および圧力解放弁が三方弁によって一体に構成されることで、装置の一層のコンパクト化と配管の簡素化が可能になる。
【0019】
上記(1)ないし(4)に記載の構成を有する流体圧力調整装置においては、(5)前記設定圧を前記高圧側の設定圧から前記低圧側の設定圧に切り替えるときに、前記特定の流体通路の上流側で該上流側の流体通路の断面積を縮小させることができる絞り要素が設けられていることが望ましい。
【0020】
この構成により、設定圧が高圧側から低圧側に切り替えるときに、特定の流体通路の上流側で通路断面積が絞り要素によって縮小されるので、その切替え速度を抑えて高圧側から低圧側への設定圧切替えに伴う圧力変動を緩和させることができる。
【0021】
上記(2)〜(4)に記載の構成を有する流体圧力調整装置においては、(6)前記特定の流体通路および前記上流側の流体通路のうち前記通路開閉弁と前記調圧部材の間の通路区間に、前記特定の流体通路への前記流体の導入時に閉弁し、前記特定の流体通路の圧力解放時に開弁する逆止弁体が設けられ、該逆止弁体が、前記閉弁時に前記上流側の流体通路の途中に該通路の断面積を縮小させる絞り通路を挿入するものであってもよい。
【0022】
この構成により、通路開閉弁より特定の流体通路側を1本の流体通路としても低圧側の設定圧に切り替える際の絞り通路の挿入と、高圧側の設定圧に切り替える際の十分な圧力解放とを両立させることができる。
【0023】
上記(2)〜(4)に記載の構成を有する流体圧力調整装置においては、(7)前記上流側の流体通路のうち前記通路開閉弁より上流側の通路区間に、前記上流側の流体通路の断面積を縮小させる絞り要素が配置されていてもよい。
【0024】
この構成により、絞り要素を簡素化できる。
【0025】
本発明に係る燃料供給装置は、(8)上記(1)〜(7)に記載のいずれかの流体圧力調整装置を備え、燃料ポンプから内燃機関の燃料噴射弁に供給される燃料を前記流体圧力調整装置により調圧することを特徴とする。
【0026】
この構成により、流体圧力調整装置の調圧部材の一面側のみで燃料の出入りを制御して複数の設定圧に切り替えることができ、設定圧の切替えに適したコンパクトで配管の簡素な低コストの燃料供給装置を構成できるとともに、調整圧力の設定圧を高圧側と低圧側とに好ましい速度で切り替えることができる。
【発明の効果】
【0027】
本発明の流体圧力調整装置によれば、調圧部材の一面側のみで流体の出入りを制御して設定圧を切り替えることができ、しかも、高圧側の設定圧に切り替えるときに導入側の特定の流体通路の流体圧力を解放することで、低圧側の設定圧から高圧側の設定圧への切替えを確実でかつ高応答に行うことができる。その結果、調整圧力の設定圧を高圧側と低圧側とに好ましい速度で切り替えることができる、コンパクトで配管の簡素な低コストの流体圧力調整装置を提供することができる。
【0028】
本発明の燃料供給装置によれば、本発明の流体圧力調整装置により調整圧力の設定圧を高圧側と低圧側とに好ましい速度で切り替えることができる、コンパクトで配管の簡素な低コストの燃料供給装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】本発明の第1実施形態に係る流体圧力調整装置およびこれを用いた燃料調整装置の概略構成図である。
【図2】本発明の第1実施形態に係る流体圧力調整装置における絞り要素の断面図である。
【図3】図3(a)は本発明の第1実施形態に係る流体圧力調整装置の調圧部材における高圧側の設定圧時の受圧領域の配置説明図であり、図3(b)はその調圧部材における低圧側の設定圧時の受圧領域の配置説明図である。
【図4】本発明の第2実施形態に係る流体圧力調整装置の断面図である。
【図5】本発明の第3実施形態に係る流体圧力調整装置の断面図である。
【図6】本発明の第3実施形態に係る流体圧力調整装置における絞り要素の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0030】
以下、本発明の好ましい実施形態について、図面を参照しつつ説明する。
【0031】
(第1実施形態)
図1〜図3は、本発明の第1実施形態に係る流体圧力調整装置およびこれを用いた燃料供給装置を示している。
【0032】
本実施形態は、本発明を車両用内燃機関の燃料の圧力を調整するプレッシャレギュレータとしての流体圧力調整装置およびこれを用いた燃料供給装置に適用したものであり、いわゆるインタンク式の燃料供給システムとして構成されている。すなわち、具体的なタンク構造は図示しないが、本実施形態の燃料供給装置は、燃料タンク内のサブタンクに収納されたプレッシャレギュレータを具備しており、エンジンで遂次消費される燃料消費量分の燃料を例えばジェットポンプによりサブタンク内に移送するようになっている。
【0033】
まず、本実施形態の構成について説明する。
【0034】
図1および図2に示すように、本実施形態の燃料供給装置は、内燃機関であるエンジン1で消費される燃料、例えばガソリンを貯留する燃料タンク2と、その燃料タンク2内に貯留された燃料をエンジン1に装備される複数のインジェクタ3(燃料噴射弁;図1中に1つのみ図示している)に圧送・供給する燃料圧送回路10と、この燃料圧送回路10からインジェクタ3に供給される燃料を導入して予め設定されたインジェクタ3への燃料供給圧(システム圧)である燃料圧力P1に調圧するとともに、その燃料圧力P1を高圧側の設定圧と低圧側の設定圧とのうち任意の一方に切り替える、すなわち可変制御することができるプレッシャレギュレータ20と、プレッシャレギュレータ20の設定圧を高圧側と低圧側とのうち任意の一方側の設定圧に切替え制御することができる設定圧切替機構40と、を備えている。そして、プレッシャレギュレータ20および設定圧切替機構40によって流体圧力調整装置が構成されている。
【0035】
エンジン1は、例えば多気筒の4サイクルガソリンエンジンであり、このエンジン1の複数の気筒に対応して設けられたインジェクタ3は、例えばその噴孔側端部3aを複数の気筒の吸気ポート(図示せず)内に露出している。また、燃料圧送回路10からの燃料は、デリバリーパイプ4を介して各インジェクタ3に分配されるようになっている。
【0036】
燃料圧送回路10は、燃料タンク2内の燃料を汲み上げるとともに加圧して吐出する燃料ポンプ11と、燃料ポンプ11の吸入口側で異物の吸入を阻止するサクションフィルタ12と、燃料ポンプ11の吐出口側で吐出燃料中の異物を除去する燃料フィルタ13と、燃料フィルタ13より上流側に位置するチェック弁14(逆止弁)と、を含んで構成されている。
【0037】
燃料ポンプ11は、詳細を図示しないが、ポンプ作動用の羽根車を有するポンプ作動部分11pとそのポンプ作動部分を駆動する直流の内蔵モータ11mとを有しており、燃料タンク2内から燃料を図1中に仮想線で示すように汲み上げて加圧し、吐出することができる。この燃料ポンプ11は、内蔵モータの回転速度[rpm]を変化させることで、その単位時間当りの吐出量を可変制御することができるようになっている。また、チェック弁14は、燃料ポンプ11からインジェクタ3側への燃料供給方向に開弁する一方、インジェクタ3側から燃料ポンプ11側への燃料の逆流方向には閉弁し、加圧された供給燃料の逆流を阻止するようになっている。
【0038】
また、燃料ポンプ11は、後述する電子制御ユニット(以下、ECUという)41により内蔵モータ11mへの通電を制御されることで、駆動および停止されるとともに、単位時間当りの燃料吐出量を変化させるようになっている。
【0039】
プレッシャレギュレータ20は、燃料が導入される外側の連通孔21aと、その内側で燃料を排出する中間の連通孔21bと、半径方向で最内方に位置する内側の連通孔21c(詳細図示せず)とを有するハウジング21とを備えており、このハウジング21は、一対の凹状のハウジング部材18、19をそれらの外周フランジ部18j、19jで結合したものである。なお、本実施形態では、連通孔21a、21bは、それぞれハウジング21の円周方向に等間隔に離間しているが、それぞれハウジング21の円周方向のいずれかの位置に少なくとも1つ形成すればよく、それぞれの開口形状は任意である。また、ハウジング部材18、19は、例えば鋼板やステンレス鋼板を凹状にプレス加工したものであってもよい。
【0040】
図1および図2に示すように、ハウジング21の内部には、ハウジング21の内部を2室に区画する隔壁状の調圧部材22が設けられており、調圧部材22は、ハウジング21の内部にあってこのハウジング21との間に外側の連通孔21aに連通する調圧室23を形成している。
【0041】
調圧部材22は、可撓性の環状膜部材24とその環状膜部材24の内周側に位置する略円板状の板状部材25(板状の可動弁体部)とを一体的に組み付けて構成されており、環状膜部材24はその一面側で外側の連通孔21aから調圧室23内に導入される燃料の圧力を常時受圧するようになっている。また、調圧部材22は、その他面側でハウジング21との間に背圧室26を形成しており、この背圧室26内には、調圧部材22の板状部材25を閉弁方向に付勢する付勢機構としての圧縮コイルばね27(弾性部材)が設けられている。また、調圧部材22と共に背圧室26を形成する一方のハウジング部材19には、少なくとも1つの大気圧導入穴19aが形成されている。そして、調圧部材22は、調圧室23内に導入される燃料圧力および後述するパイロット圧に応じて、圧縮コイルばね27からの閉弁方向の付勢力に抗して外側の連通孔21aを内側の連通孔21cに連通させる開弁方向に変位できるようになっている。
【0042】
調圧部材22の環状膜部材24は、具体的には、例えば基布材料層(例えば、ポリアミド合成繊維等)に燃料に対し劣化し難いゴム層(例えば、水素添加ニトリルゴムやフッ素ゴム等)を一体的に接着した可撓性のダイヤフラムで構成されており、調圧部材22の板状部材25は、環状膜部材24の中央部に支持された例えば金属(例えば、工具鋼、ステンレス鋼等)製の略円板状のプレートで構成されている。
【0043】
また、ハウジング21の内部には、調圧室23の内部で調圧部材22の板状部材25の一面側に対向する大径の外側環状弁座部31(第1弁座部)および小径の内側環状弁座部32(第2弁座部)が略同心に配置されており、外側環状弁座部31および内側環状弁座部32と板状部材25とは、相対変位により開閉する調圧バルブ機構を構成している。
【0044】
具体的には、外側環状弁座部31および内側環状弁座部32は、互いに径が異なりハウジング21の内部に同軸に配置された外側筒状部材35および内側筒状部材36によって構成されており、外側環状弁座部31に対応する外側筒状部材35は、その外周側でハウジング21および調圧部材22との間に外側の連通孔21aに連通する環状の外側燃料通路37(導入側の流体通路)を形成している。また、この外側筒状部材35と内側環状弁座部32に対応する内側筒状部材36との間には、中間の連通孔21bに連通する中間燃料通路31h(排出側の流体通路)が形成されており、内側環状弁座部32の内周側には、後述するパイロット圧が選択的に導入される内側燃料通路32h(導入側の流体通路)が形成されている。なお、外側環状弁座部31および内側環状弁座部32の内外周縁部には、それぞれ面取りが施されている。
【0045】
外側環状弁座部31は、調圧室23内に燃料を導入する外側燃料通路37と調圧室23から燃料を排出する中間燃料通路31hとの間で両通路37、31hを区画するとともに、調圧部材22に当接および離隔することにより外側燃料通路37に対して中間燃料通路31hを遮断および連通させることができる。また、内側環状弁座部32は、内側燃料通路32hと中間燃料通路31hとの間で両通路32h、31hを区画するとともに、調圧部材22に当接および離隔することにより内側燃料通路32hに対して中間燃料通路31hを遮断および連通させることができる。
【0046】
また、板状部材25は、その一面側に、外側環状弁座部31および内側環状弁座部32に着座するときに外側燃料通路37、中間燃料通路31hおよび内側燃料通路32hの相互の連通を遮断するバルブ面部25aを有しており、外側環状弁座部31および内側環状弁座部32は、板状部材25のバルブ面部25aに対して互いに略平行な弁座面(符号無し)を有している。
【0047】
このように、本実施形態では、外側燃料通路37、中間燃料通路31hおよび内側燃料通路32hがそれぞれ調圧部材22の一面側に配置されており、調圧部材22は、ハウジング21の内部で外側燃料通路37に導入される燃料の圧力に基づく、さらには内側燃料通路32hに選択的に導入されるパイロット圧に基づく開弁方向(外側燃料通路37と中間燃料通路31hとを連通させる方向)の付勢力と、圧縮コイルばね27からの閉弁方向(外側燃料通路37と中間燃料通路31hとの連通を遮断する方向)の付勢力とに応じて、外側燃料通路37と中間燃料通路31hの間および内側燃料通路32hと中間燃料通路31hの間をそれぞれ連通および遮断するようになっている。
【0048】
また、図3(a)および図3(b)に示すように、調圧部材22は、外側燃料通路37に導入される流体の圧力を受ける外側環状面部22aと、中間燃料通路31hの内端部に対向する中間環状面部22bと、内側燃料通路32hに選択的に導入される加圧燃料の圧力(パイロット圧)を受ける円形中央面部22cと、を有している。
【0049】
調圧部材22の外側環状面部22aは、板状部材25の外周部に液密(気密的)に結合するとともにハウジング21に支持された環状膜部材24によって、板状部材25の周囲に形成されており、環状の外側燃料通路37の内部の燃料の圧力を常時受圧するようになっている。また、調圧部材22の中間環状面部22bは、板状部材25の一面側のバルブ面部25a(図1参照)の一部によって形成され、燃料タンク2の内圧(例えば大気圧)相当の中間燃料通路31h内の圧力(燃料圧力)を受け、実質的に加圧されないようになっている。さらに、円形中央面部22cは、板状部材25の一面側のバルブ面部25aの残部によって形成され、内側燃料通路32h内の圧力を受けるようになっている。また、調圧部材22の外側環状面部22aと中間環状面部22bは、外側環状弁座部31に対向する境界部分(符号無し)を挟んで半径方向に隣り合っており、中間環状面部22bと円形中央面部22cとは、内側環状弁座部32に対向する境界部分(符号無し)を挟んで半径方向に隣り合っている。
【0050】
そして、調圧部材22の外側環状面部22aに対し燃料ポンプ11からの加圧燃料の圧力が作用するとき、調圧部材22は、外側燃料通路37と中間燃料通路31hとを連通および遮断することで、外側燃料通路37内に導入される供給側の燃料の圧力を設定圧に調整することができる。
【0051】
また、調圧部材22の円形中央面部22cには、燃料ポンプ11からの加圧燃料の圧力が選択的にパイロット圧として作用するようになっており、調圧部材22は、その円形中央面部22cに作用する中間燃料通路31h内の燃料の圧力(パイロット圧)の有無により設定圧を切り替えるようになっている。ここで、外側環状面部22aの受圧面積A1と円形中央面部22cの受圧面積A3とは、予め設定された面積比A1/A3になるように設定されている。
【0052】
外側燃料通路37は、ハウジング部材18、調圧部材22および外側筒状部材35によって形成され、外側の連通孔21aから燃料を導入するとともに外側環状面部22aにその燃料圧力を受圧させるようになっている。また、中間燃料通路31hは、外側筒状部材35と内側筒状部材36の間に略円筒状に形成されるとともに、ハウジング21の中間の連通孔21bに連通している。さらに、内側燃料通路32hは、内側筒状部材36の内方に略円柱状に形成されており、内側の連通孔21cに連通している。
【0053】
図1に示すように、外側の連通孔21aは、燃料圧送回路10の燃料通路15のチェック弁14より下流側の第1の分岐通路15aに接続されている。また、内側の連通孔21cは、後述する三方電磁弁45を介して燃料通路15のチェック弁14より上流側の第2の分岐通路15fに接続され、選択的にチェック弁14より上流側から加圧燃料を導入するか、燃料タンク2内に開放されるようになっている。ここで、燃料通路15の第1の分岐通路15aは、デリバリーパイプ4とチェック弁14の間の燃料配管路部分を構成するとともに、例えばサクションフィルタ12および燃料フィルタ13のフィルタエレメントを燃料ポンプ11と共に収納する図示しないフィルタケースに形成された環状通路部分を有している。
【0054】
また、燃料通路15の第2の分岐通路15fは、燃料ポンプ11から圧送された燃料をチェック弁14より上流側の一端側から導入する燃料配管路であり、この分岐通路15fの途中に三方電磁弁45(三方弁)が設けられている。
【0055】
この三方電磁弁45は、内側燃料通路32hの上流側で内側燃料通路32hへの加圧燃料(パイロット圧に加圧された燃料)の導入を許容しまたは規制することができる通路開閉弁としての機能と、この通路開閉弁が内側燃料通路32hへの燃料の導入を規制するよう閉弁するときに、その通路開閉弁より内側燃料通路32h側を燃料タンク2の内部空間に開放して内側燃料通路32h内の圧力を解放する圧力解放弁(圧力解放手段)の機能とを併有している。そして、この三方電磁弁45の開閉状態に応じて内側燃料通路32hへの加圧燃料の流入が選択的に規制されることで、調圧部材22に加圧燃料の圧力の作用する領域が、外側環状面部22aおよび円形中央面部22cの双方になるか、あるいは外側環状面部22aおよび円形中央面部22cのうちいずれか一方になるかが切り替えられるようになっている。
【0056】
三方電磁弁45は、燃料通路15の第2の分岐通路15fのうち上流側部分に接続された第1ポート45aと、燃料通路15の第2の分岐通路15fのうち下流部分に接続された第2ポート45bと、燃料タンク2の内部空間に開放された第3ポート45cと、これら3つのポート45a〜45cの間の連通状態を切替え操作する電磁操作部45dとを有している。
【0057】
電磁操作部45dは、ECU41側から励磁駆動電流が供給される操作信号ON状態になるか否かに応じて、そのON状態では第2ポート45bを第1ポート45aから遮断しつつ第3ポート45cに連通させ、ECU41側から励磁駆動電流が供給されない操作信号OFF状態では第2ポート45bを第3ポート45cから遮断しつつ第1ポート45aに連通させるようになっている。したがって、三方電磁弁45の第1ポート45aおよび第2ポート45bは、前述の通路開閉弁の入口ポートおよび出口ポートに相当し、三方電磁弁45の第2ポート45bおよび第3ポート45cは、前述の圧力解放弁の入口ポートおよび出口ポートに相当する。また、三方電磁弁45の操作信号ON状態で、前記通路開閉弁としては閉弁状態となり、前記圧力解放弁としては開弁状態となる。
【0058】
この三方電磁弁45は、ECU41と共に、プレッシャレギュレータ20の設定圧の切替え制御を実行する設定圧切替機構40を構成している。
【0059】
すなわち、この設定圧切替機構40においては、プレッシャレギュレータ20の設定圧を低圧側の設定圧から高圧側の設定圧に切り替えるときには、三方電磁弁45がON状態となり、この三方電磁弁45が、圧力解放弁として開弁して外側燃料通路37および内側燃料通路32h(複数の導入側の流体通路)のうち特定の流体通路である内側燃料通路32hの圧力を解放させるとともに、通路開閉弁として閉弁して内側燃料通路32hの上流側で内側燃料通路32hへの加圧燃料の導入を規制する。また、プレッシャレギュレータ20の設定圧を高圧側の設定圧から低圧側の設定圧に切り替えるときには、三方電磁弁45がOFF状態となり、この三方電磁弁45が、圧力解放弁として閉弁して内側燃料通路32hに連通する第2ポート45bを圧力を解放させる第3ポート45cから遮断するとともに、通路開閉弁として開弁して内側燃料通路32hの上流側で内側燃料通路32hへの加圧燃料の導入を許容するようになっている。
【0060】
また、三方電磁弁45が通路開閉弁として開弁し、外側燃料通路37に燃料ポンプ11からの加圧燃料が供給されるとともに、内側燃料通路32hにも燃料ポンプ11からの加圧燃料がパイロット圧として供給されるときには、調圧部材22に燃料圧力が作用する領域は、外側環状面部22aおよび円形中央面部22cの双方になる。この状態から、例えば三方電磁弁45が通路開閉弁として閉弁し、燃料ポンプ11からの加圧燃料が内側燃料通路32hに導入されることが規制されるときには、外側燃料通路37にのみ燃料ポンプ11からの加圧燃料が供給されることから、調圧部材22に加圧された燃料圧力が作用する領域は、外側環状面部22aのみとなる。このように、調圧部材22は、外側環状面部22aおよび円形中央面部22cにおいて液圧付勢力を受け、その付勢力によって開弁方向に付勢される。また、調圧部材22は、その板状部材25を外側環状弁座部31および内側環状弁座部32に押し付けるように付勢機構である圧縮コイルばね27から常に閉弁方向に付勢されるので、それら開弁方向および閉弁方向の付勢力の大小関係により外側燃料通路37を中間燃料通路31hに連通させる開弁方向に、あるいは外側燃料通路37を中間燃料通路31hから遮断する閉弁方向に板状部材25を変位させることができる。
【0061】
そして、プレッシャレギュレータ20は、燃料ポンプ11から吐出されインジェクタ3に供給される燃料を調圧室23内の外側燃料通路37に導入し、さらに中間燃料通路31hに選択的に導入することで、燃料通路15から調圧室23内に導入される燃料を、予め設定された高圧側の設定圧と低圧側の設定圧とのうち任意の設定圧に切り替えながら調圧することができる。
【0062】
ここで、プレッシャレギュレータ20の高圧側の設定圧および低圧側の設定圧は、調圧部材22の受圧領域が外側環状面部22aのみとなるときの受圧面積比A1と、受圧面積A1の外側環状面部22aおよび受圧面積A3の円形中央面部22cの双方になるときの受圧面積(A1+A3)との面積比に応じた圧力比を持っており、低圧側の設定圧は、高圧側の設定圧に対してA1/(A1+A3)の比で小さくなっている。
【0063】
また、プレッシャレギュレータ20は、例えばエンジン1の通常運転時の燃料供給圧に相当する低圧側の設定圧と、この低圧側の設定圧より高圧で、エンジン1の停止中、例えばアイドリングストップ時に後述する残圧保持区間内に保持される燃料圧力に相当する高圧側の設定圧とに切り替わるように構成されている。
【0064】
ここにいう残圧保持区間とは、燃料ポンプ11が停止するときに、燃料通路15のうちインジェクタ3の上流側であってチェック弁14より下流側に形成され、外側燃料通路37に連通しつつ調圧部材22を介した圧縮コイルばね27からの付勢力によって燃料圧力を保持する通路区間である。また、高圧側の設定圧は、調圧部材22に燃料圧力の作用する領域が外側燃料通路37に対応する外側環状面部22aのみとなるときの設定圧であり、本実施形態ではエンジン1および燃料ポンプ11の停止中にチェック弁14からインジェクタ3までの残圧保持区間(下流側通路区間)内の燃料圧力を外側環状面部22aに受圧させるときの設定圧であり、さらに、エンジン1の始動のために燃料ポンプ11からインジェクタ3への燃料供給が開始されるときや高負荷運転時に残圧保持区間内に高圧を生じさせるときの設定圧に近い設定圧である。
【0065】
なお、高圧側の設定圧は、例えば400[kPa](ゲージ圧;以下、同様)であり、エンジン停止直後等にデリバリーパイプ4内の燃料温度が高温になっても、燃料ベーパが生じ難い燃料圧力(通常、324kPa以上)の設定値となっている。また、低圧側の設定圧は、例えば240[kPa]となっており、通常運転時の燃料温度で燃料ベーパが生じ難い燃料圧力の設定値となっている。
【0066】
ECU41は、例えばCPU(Central Processing Unit)、ROM(Read Only Memory)、RAM(Random Access Memory)、不揮発性メモリからなるバックアップメモリに加えて、入力インターフェース回路および出力インターフェース回路等を含んで構成されており、このECU41には車両のイグニッションスイッチのON/OFF信号が取り込まれるとともに、バッテリからの電源供給がなされるようになっている。さらに、ECU41の入力インターフェース回路には、各種センサ群が接続されており、これらセンサ群からのセンサ情報がA/D変換器等を含む入力インターフェース回路を通してECU41に取り込まれるようになっている。ECU41の出力インターフェース回路には、インジェクタ3、燃料ポンプ11および三方電磁弁45等のアクチュエータ類を制御するため、リレースイッチやスイッチング素子、駆動回路等が設けられている。
【0067】
また、ECU41は、ROM内に格納された制御プログラムを実行することで、各種センサ群からのセンサ情報およびROMやバックアップメモリに予め格納された設定値やマップ情報に基づいて、エンジン1の始動のために燃料供給を開始する直前やエンジン1の停止直前に三方電磁弁45をON状態(特定の流体通路の圧力解放およびパイロット圧導入規制状態)に切り替え、燃料ポンプ11からの燃料を調圧室23内で高圧側の設定圧に調圧させるようになっている。また、ECU41は、エンジン1の運転中にその負荷状態を繰返し判定し、始動後の運転状態の大半を占める部分負荷の運転、すなわち始動後であって高負荷運転でない通常運転領域においては、三方電磁弁45をOFF状態(パイロット圧導入状態)に切り替え、燃料ポンプ11からインジェクタ3への供給燃料の圧力を調圧室23内で低圧側の設定圧に調圧させるようになっている。そのため、ECU41のROMおよびバックアップメモリに格納される設定値には、燃料圧力の高圧側の設定値および低圧側の設定値がそれぞれ含まれ、ROMやバックアップメモリに格納されるマップ情報には、運転負荷の判定とその判定結果に応じた燃料圧力の切替え制御のための運転領域判定マップ等が含まれている。
【0068】
ここにいう始動時とは、具体的には、例えばイグニッションキーがスタート位置に操作されてイグニッションONの要求が発生するとき、公知のアイドリングストップを実行する車両でエンジン1を一時停止させた後に再始動させるとき、あるいは、ハイブリッド方式のパワーユニットを搭載する車両でそのパワーユニットの効率を高めるためにエンジン1を一時停止させた後に再始動するとき等に、その始動のためのイグニッションON要求が発生したときである。
【0069】
一方、内側燃料通路32hの燃料導入時における上流側の燃料通路となる燃料通路15の第2の分岐通路15fのうち、内側の連通孔21cと三方電磁弁45の第2ポート45bとの間の通路区間15g(通路開閉弁と調圧部材の間の通路区間)には、内側燃料通路32hへの燃料導入時に閉弁し、内側燃料通路32hの圧力解放時に開弁する逆止弁体51が設けられている。
【0070】
この逆止弁体51は、図2(a)に示すように前記フィルタケースの一部あるいは配管に装着された環状の弁座52に着座することで、三方電磁弁45側から内側燃料通路32h側への燃料の流入を通路区間15gの途中で制限する閉弁状態となる。また、逆止弁体51は、図2(b)に示すように弁座52から離脱し離間することで、内側燃料通路32h側から三方電磁弁45側への圧力の解放および燃料の流出を許容する開弁状態となるようになっている。
【0071】
また、逆止弁体51の中心部には、通路区間15gの軸方向に延びる絞り通路孔51aが形成されており、逆止弁体51の閉弁時には内側燃料通路32hの通路区間15gの途中にこの絞り通路孔51aが挿入されるようになっている。
【0072】
そして、プレッシャレギュレータ20の設定圧を高圧側の設定圧から低圧側の設定圧に切り替えるように三方電磁弁45がOFF状態に切り替えられ、その三方電磁弁45を介して燃料ポンプ11からの加圧燃料が通路区間15gに流入するとき、逆止弁体51は、三方電磁弁45側から供給される加圧燃料の圧力と内側燃料通路32h側の燃料圧力との差圧に応じて図2(a)に示すように閉弁し、絞り通路孔51aの挿入位置において通路区間15gの断面積を縮小させる絞り要素として機能するようになっている。
【0073】
また、プレッシャレギュレータ20の設定圧を低圧側の設定圧から高圧側の設定圧に切り替えるように三方電磁弁45がON状態に切り替えられるとき、逆止弁体51は、内側燃料通路32h側の加圧燃料の圧力と燃料タンク2の内圧程度に低下した三方電磁弁45の第2ポート45b側の燃料圧力との差圧に応じて、図2(b)に示すように開弁し、内側燃料通路32h側の加圧燃料の圧力を燃料タンク2内に解放させるようになっている。
【0074】
なお、図2(a)および図2(b)に示すように、逆止弁体51は、圧縮コイルばね53によって環状の弁座52に着座する方向に常時付勢されている。この圧縮コイルばね53は、低ばね定数で、かつ、燃料ポンプ11の停止中に逆止弁体51を閉弁状態に保持できる程度の低ばね荷重の復帰ばねとなっている。また、逆止弁体51は部分的に切り欠かれた略有底円筒状の弁体収納部材55に変位可能に収納されており、弁体収納部材55は、通路区間15gの途中に絞り通路孔51aより十分に通路断面積の大きい環状通路54を形成するように切り欠かれている。図2(a)および図2(b)中の56は、例えば前述のフィルタケースあるいは燃料通路15の第2の分岐通路15fを形成する配管の一部である。
【0075】
次に、本実施形態の燃料供給装置における燃料圧力の制御方法について説明する。
【0076】
上述のように構成された本実施形態のプレッシャレギュレータ20およびこれを用いた燃料供給装置では、エンジン1が長時間停止している停止中においては、燃料圧送回路10の燃料ポンプ11は燃料供給停止状態で、調圧対象であるその吐出側燃料圧力は0[kPa(gauge)]であり、三方電磁弁45は電磁操作部45dに通電されないOFF状態にある。
【0077】
このとき、三方電磁弁45は、第1ポート45aおよび第2ポート45bを連通させる状態にあるが、燃料ポンプ11が燃料供給停止状態であるから、プレッシャレギュレータ20の中間燃料通路31hには加圧燃料が供給されない。したがって、調圧部材22が開弁方向に加圧燃料の圧力を受ける実質的な受圧領域は、図3(a)に示すように環状の外側燃料通路37内の燃料圧力を受ける外側環状面部22aのみとなる。このとき、インジェクタ3への燃料供給圧であるチェック弁14からインジェクタ3までの残圧保持区間の燃料圧力P1は、外側燃料通路37内の燃料圧力に等しい。
【0078】
また、調圧部材22は圧縮コイルばね27により板状部材25を外側環状弁座部31および内側環状弁座部32に着座させているから、外側燃料通路37内の燃料圧力Pは、外側燃料通路37側から調圧部材22に作用する開弁方向の燃料圧力P1×外側環状面部22aの受圧面積A1に相当する開弁方向の付勢力が、圧縮コイルばね27からの閉弁方向の付勢力と釣り合うかそれより小さい付勢力となっている(P1≦H)。ただし、後述するように、エンジン1の停止に際して燃料ポンプ11の停止直前に高圧側の設定圧Hに切り替えられることから、エンジン1の運転停止中の燃料圧力P1は、低圧側の設定圧Lより高く、高圧側の設定圧H以下の値となる(L≦P1≦H)。なお、エンジン1を停止させるときおよびその停止直後の動作については、後述する。
【0079】
エンジン1が始動されるときには、その始動に先立って、ECU41により、最初に三方電磁弁45への通電がなされる。すなわち、燃料ポンプ11による燃料供給が開始されてその吐出圧が立ち上がるより前に、三方電磁弁45が一旦ON状態に切り替えられる。
【0080】
この時点では、三方電磁弁45は、第2ポート45bを第1ポート45aから遮断させつつ第3ポート45cに連通させ、パイロット圧の導入を規制するとともに内側環状弁座部32内の燃料圧力を解放させるON状態に切り替わる。一方、燃料ポンプ11は未だ燃料供給停止状態である。
【0081】
また、このとき、チェック弁14からインジェクタ3までの残圧保持区間の燃料圧力P1は、それまでと略同様に、低圧側の設定圧L以上で高圧側の設定圧H以下となる燃料圧力に保持される(L≦P1≦H)。
【0082】
次いで、燃料ポンプ11が起動されると、残圧保持区間内に燃料ポンプ11からの燃料が供給され、このとき、三方電磁弁45は内側環状弁座部32の内部が燃料タンク2の内部空間に開放されたON状態であるから、外側燃料通路37内の燃料圧力が即座に高圧側の設定圧Hに達する。
【0083】
すなわち、外側燃料通路37側から調圧部材22に作用する開弁方向の付勢力が、圧縮コイルばね27からの閉弁方向の付勢力である高圧側の設定圧H×外側環状面部の面積A1に相当する付勢力に達するまで、外側燃料通路37の内部の燃料圧力が即座に上昇し、余剰の加圧燃料は中間燃料通路31hに排出される。
【0084】
次いで、エンジン1が始動される。このとき、インジェクタ3には、高圧側の設定圧Hまで昇圧された高圧燃料が供給されることから、インジェクタ3からエンジン1の燃焼室内に噴射される燃料の霧化が助長される。なお、エンジン1の再始動においても上述と同様な始動時の制御が実施可能であることはいうまでもない。
【0085】
エンジン1の始動後の運転状態は、高燃料圧力が要求される特定の運転状態、例えば高負荷運転の要求時を除いて、通常は、専ら部分負荷運転状態となり、その通常運転時にはエンジン1の燃費や燃料ポンプ11の信頼性の面から、低圧側の設定圧が要求される。
【0086】
この通常運転時においては、ECU41から三方電磁弁45への通電が停止されるとともに、燃料ポンプ11の運転が継続される。したがって、エンジン1が始動後、通常運転に移行するときには、三方電磁弁45がOFF状態(パイロット圧の導入状態)に切り替えられる。
【0087】
このとき、外側燃料通路37および内側燃料通路32hの双方に燃料ポンプ11からの燃料が供給されることで、図3(b)に示すように、調圧部材22の加圧燃料の受圧領域が、受圧面積A1の外側環状面部22aおよび受圧面積A2の中間環状面部22bの双方になる。
【0088】
したがって、調圧部材22は圧縮コイルばね27からの閉弁方向の付勢力H×A1を受ける一方、外側燃料通路37内の燃料圧力P(=P1)が作用する外側環状面部22aにおける開弁方向の付勢力P1×A1と、内側燃料通路32hの内の燃料圧力P1が作用する円形中央面部22cにおける開弁方向の付勢力P1×A3とを受け、これらの付勢力P1(A1+A3)が釣り合うように調圧がなされる。
【0089】
よって、このときの燃料圧力P1は、P1=H×A1/(A1+A3)=低圧側の設定圧Lとなる。したがって、高圧側の設定圧Hが400[kPa]で、外側環状面部22aと円形中央面部22cとの面積比A1/A3を便宜的に1とすると、このときの燃料圧力P1は、200[kPa]の低圧側の設定圧Lとなる。
【0090】
エンジン1の運転中、ECU41は、各種センサ情報から得られるエンジン1の回転速度や車両の車速等の運転状態、運転者のアクセルペダル操作量等に基づいて、エンジン1に要求される運転状態が予めマップ情報として保持している運転領域のどれに該当するかを判定し、要求される運転状態に適した燃料圧力になるように、三方電磁弁45への通電を制御するとともに燃料ポンプ11への通電を制御する。
【0091】
エンジン1の通常運転時には、プレッシャレギュレータ20の外側燃料通路37および内側燃料通路32hの双方に燃料ポンプ11からの加圧燃料が供給され、低圧側の設定圧Lとなる。
【0092】
車両を運転するドライバからの操作入力や車両の走行環境の変化によってエンジン1に要求される運転状態が高負荷運転領域に入るときには、ECU41により、三方電磁弁45がON状態に切り替えられるとともに、燃料ポンプ11の運転が継続される。
【0093】
この切替え直後に、上述のエンジン1の始動時と同様に、三方電磁弁45の閉弁により内側燃料通路32hへの加圧燃料の導入が停止されるとともに、内側燃料通路32h内の圧力が解放される。
【0094】
一方、燃料ポンプ11の運転は継続されるので、プレッシャレギュレータ20の外側燃料通路37には加圧燃料が供給され続け、システム圧である燃料圧力P1は即座に高圧側の設定圧Hに上昇する。したがって、高負荷要求に応え得る十分な燃料噴射量が確保できることになる。
【0095】
エンジン1を停止させるときには、ECU41は、エンジン1を停止させるのに先立って三方電磁弁45をON状態(パイロット圧の導入規制状態)にする。例えばドライバによりイグニッションキーがイグニッションOFF側に操作され、エンジン1を停止させるイグニッションOFFの要求が発生すると、まず、三方電磁弁45への通電がなされて三方電磁弁45がON状態になり、プレッシャレギュレータ20内の調圧部材22がそのON状態の姿勢で安定するのに十分な時間が経過したとき、エンジン1を停止させるのに必要な処理が実行される。
【0096】
エンジン1の停止直後には、冷却水や冷却風によるエンジン1の冷却が停止されることで、燃料供給経路中のチェック弁14からインジェクタ3までの残圧保持区間における燃料の温度が高くなる。このとき、この残圧保持区間の燃料圧力P1はプレッシャレギュレータ20の外側燃料通路37内の燃料圧力Pに等しく、その外側燃料通路37内の燃料圧力Pは、高圧側の設定圧Hに到達するまで上昇し得るよう外側環状面部22aで調圧部材22の可撓性の環状膜部材24により弾力的に加圧される状態にある。したがって、チェック弁14からインジェクタ3までの残圧保持区間における燃料の温度が高くなるとき、その温度上昇に伴って残圧保持区間内の燃料の蒸気圧が高くなるとともに、気液平衡を保つように燃料圧力P1が上昇する。したがって、エンジン停止直後等にデリバリーパイプ4内の燃料温度が高温になっても、燃料ベーパが生じ難い残圧が有効に確保され、良好な高温再始動等が可能になる。
【0097】
次に、本実施形態の作用について説明する。
【0098】
上述のような流体圧力調整装置としてのプレッシャレギュレータ20およびこれを用いた燃料供給装置においては、圧力解放弁としての三方電磁弁45が作動して調圧部材22の一面側で特定の流体通路である内側燃料通路32h内の燃料圧力が解放されると、調圧部材22に加圧された燃料圧力を作用させる受圧領域が内側燃料通路32h以外の導入側の流体通路である外側燃料通路37に対応する領域のみに縮小され、背圧に対抗する付勢力を生じさせる受圧面積が縮小されることで、プレッシャレギュレータ20の設定圧が高圧側に切り替えられる。
【0099】
一方、圧力解放弁としての三方電磁弁45の非作動時には、調圧部材22の一面側で内側燃料通路32h内の燃料圧力が高まることから、調圧部材22に加圧された燃料圧力を作用させる受圧領域が、内側燃料通路32hを含む導入側の流体通路、すなわち外側燃料通路37および内側燃料通路32hに対応する広い領域に拡大され、調圧部材22の一面側で背圧に対抗する付勢力を生じさせる受圧面積が拡大されることによって、設定圧が低圧側に切り替えられる。
【0100】
したがって、本実施形態の燃料圧力調整装置は、調圧部材22の一面側のみで流体の出入りを制御して設定圧を切り替えることのできる、設定圧の切替えに適したコンパクトで配管の簡素な低コストのものとなる。しかも、高圧側の設定圧に切り替えるときに導入側の特定の流体通路である内側燃料通路32hの燃料圧力を解放するので、低圧側の設定圧から高圧側の設定圧への切替えを確実でかつ高応答に行うことができることになる。
【0101】
また、本実施形態においては、内側燃料通路32hの上流側の通路区間15g中に、プレッシャレギュレータ20の設定圧を高圧側の設定圧から低圧側の設定圧に切り替えるときに開弁する通路開閉弁として、三方電磁弁45が設けられているので、設定圧が高圧側の設定圧に切り替えられるときには内側燃料通路32hに加圧燃料が導入されることがなく、燃料ポンプ11で加圧された燃料を無駄に還流・排出させることがない。したがって、燃料ポンプ11の消費エネルギを抑えることができる。
【0102】
さらに、三方電磁弁45が、通路開閉弁として閉弁するときに、同時に内側燃料通路32hの圧力を解放させるよう圧力解放弁として開弁する弁構成を有しているので、圧力解放手段を簡素に構成することができ、本実施形態のように燃料圧力調整装置が燃料タンク2(流体の貯留タンク)内に配置される場合に好適な燃料圧力調整装置となる。
【0103】
加えて、三方電磁弁45が通路開閉弁および圧力解放弁として機能する三方弁であるので、燃料圧力調整装置の一層のコンパクト化と配管の簡素化が可能になる。
【0104】
また、本実施形態においては、内側燃料通路32hの上流側の通路区間15gに配置された逆止弁体51が、設定圧を高圧側の設定圧から低圧側の設定圧に切り替えるときに、上流側の通路区間15gの断面積を縮小させるよう閉弁して、その絞り通路孔51aを上流側の通路区間15gの途中に挿入するので、設定圧が高圧側から低圧側に切り替えるときにその切替え速度を抑えて、高圧側から低圧側への設定圧切替えに伴う供給側の燃料圧力P1の変動を緩和することができる。
【0105】
しかも、逆止弁体51が、内側燃料通路32hおよび通路区間15gのうち通路開閉弁としての三方電磁弁45と内側の連通孔21cの間の通路区間15gにおいて、内側燃料通路32hの圧力解放時に開弁する一方、内側燃料通路32hへの加圧燃料の導入時に閉弁し、その閉弁時には、逆止弁体51が上流側の通路区間15gの途中にその通路断面積を縮小させる絞り通路孔51aを挿入するので、通路開閉弁としての三方電磁弁45より内側燃料通路32h側を1本の流体通路である通路区間15gとする簡素な構成とする場合であっても、低圧側の設定圧に切り替える際の絞り通路孔51aの挿入と、高圧側の設定圧に切り替える際の十分な圧力解放とを両立させることができる。
【0106】
このように、本実施形態の燃料圧力調整装置によれば、調圧部材22の一面側のみで流体の出入りを制御して調圧部材22の受圧面積を変化させることにより設定圧を切り替えることができ、しかも、高圧側の設定圧に切り替えるときに導入側の特定の流体通路である内側燃料通路32hの燃料圧力を解放することで、低圧側の設定圧から高圧側の設定圧への切替えを確実でかつ高応答に行うことができる。その結果、調整圧力の設定圧を高圧側と低圧側とに好ましい速度で切り替えることができる、コンパクトで配管の簡素な低コストの流体圧力調整装置およびこれを用いた燃料供給装置を提供することができる。
【0107】
(第2実施形態)
図4は、本発明の第2実施形態に係る流体圧力調整装置およびこれを用いた燃料供給装置を示している。
【0108】
なお、以下に説明する各実施形態は、上述の第1実施形態と類似する構成を有するので、その要部のみを図示し、上述の第1実施形態と同一または類似の構成要素については図1〜図3に示した対応する構成要素と同一の符合を用いながら、上述の第1実施形態との相違点について説明する。
【0109】
図4に示すように、第2実施形態の流体圧力供給装置を用いた燃料供給装置は、第1実施形態の絞り通路孔51aを有する逆止弁体51に代えて、絞り通路孔51aが形成されていない逆止弁体61と、この逆止弁体61に対し並列になるよう逆止弁体61をバイパスするバイパス通路15h上に固定の絞り要素63を設けたものである。
【0110】
その他の構成は、第1実施形態と同様である。
【0111】
本実施形態においては、上流側の通路区間15gに逆止弁体61が配置され、これをバイパスするバイパス通路15h上に固定の絞り要素63が設けられているので、設定圧を高圧側の設定圧から低圧側の設定圧に切り替えるときには、内側燃料通路32hの上流側の通路区間15gに配置された逆止弁体61が閉弁して、上流側の通路区間15gの断面積を固定の絞り要素63によって形成される絞り通路(符号無し)のみに制限することになるので、設定圧が高圧側から低圧側に切り替えるときにその切替え速度を抑えることができ、高圧側から低圧側への設定圧切替えに伴う供給側の燃料圧力P1の変動を緩和することができる。
【0112】
しかも、逆止弁体61が、通路開閉弁としての三方電磁弁45と内側の連通孔21cの間の通路区間15gにおいて、内側燃料通路32hへの加圧燃料の導入時に閉弁する一方、内側燃料通路32hの圧力解放時に開弁するので、通路開閉弁としての三方電磁弁45より内側燃料通路32h側を1本の流体通路である通路区間15gとする簡素な構成とする本実施形態においても、低圧側の設定圧に切り替える際に固定の絞り要素63の絞り作用を発揮させる一方で、高圧側の設定圧に切り替える際の逆止弁体61の開弁動作による十分な圧力解放とを両立させることができる。
【0113】
したがって、本実施形態においても、第1実施形態と同様の効果が得られる。
【0114】
(第3実施形態)
図5は、本発明の第3実施形態に係る流体圧力調整装置およびこれを用いた燃料供給装置を示している。
【0115】
図5に示すように、第3実施形態の流体圧力供給装置を用いた燃料供給装置は、第1実施形態の絞り通路孔51aを有する逆止弁体51および弁座52等のバルブ構成に代えて、燃料通路15の第2の分岐通路15f(上流側の流体通路)のうち通路開閉弁としての三方電磁弁45より上流側の通路区間15uに、この通路区間15uの通路断面積を縮小させる固定の絞り要素73(可変の絞り要素でもよい)が配置されたものである。
【0116】
図6に示すように、この絞り要素73は、第2の分岐通路15fの三方電磁弁45より上流側の通路区間15uにおいて、その通路内壁75を部分的に環状に突出させたオリフィス形状を有している。
【0117】
なお、絞り要素73は、上流側の通路区間15u内に突出してその通路区間15uの途中で通路断面積を縮小させる任意の形状の絞り要素とすることができる。
【0118】
その他の構成は、第1実施形態と同様である。
【0119】
本実施形態においては、燃料通路15の第2の分岐通路15fのうち三方電磁弁45より上流側の通路区間15uに絞り要素73が配置されているので、設定圧を高圧側の設定圧から低圧側の設定圧に切り替えるときには、通路開閉弁としての三方電磁弁45が開弁して第2の分岐通路15fを通して内側燃料通路32hに燃料ポンプ11からの加圧燃料が供給されるとともに、絞り要素73によって内側燃料通路32hへの加圧燃料の導入流量が制限されることになる。したがって、設定圧が高圧側から低圧側に切り替えるときにその切替え速度を抑えることができ、高圧側から低圧側への設定圧切替えに伴う供給側の燃料圧力P1の変動を緩和することができる。
【0120】
さらに、通路開閉弁としての三方電磁弁45と内側の連通孔21cの間の通路区間15gには、絞り要素や逆止弁を配置する必要がないので、通路開閉弁としての三方電磁弁45より内側燃料通路32h側を1本の流体通路である通路区間15gとする簡素な構成とすることができる。加えて、低圧側の設定圧に切り替える際に固定の絞り要素73の絞り作用を発揮させる一方で、高圧側の設定圧に切り替える際の三方電磁弁45の開弁動作による十分な圧力解放とを両立させることができる。
【0121】
したがって、本実施形態においても、第1実施形態と同様の効果が得られる。しかも、本実施形態では、燃料通路15の第2の分岐通路15fに固定の絞り要素73を設けるだけで済むので、第1実施形態よりも絞り要素を簡素に構成できる。
【0122】
なお、上述の各実施形態においては、外側燃料通路37、中間燃料通路31hおよび内側燃料通路32hのうちいずれか1つに燃料通路15の第1の分岐通路15a(供給側分岐通路)を接続して残圧保持区間の燃料圧力を導入し、他の1つに三方電磁弁45によってパイロット圧を選択的に導入するようにしていたが、2つの三方電磁弁を設けて、外側燃料通路37、中間燃料通路31hおよび内側燃料通路32hのうち特定の2つのいずれかに選択的に燃料ポンプ11からの加圧燃料を導入し、調圧部材22の受圧面積差に応じて設定圧を3段階に切り替えることもできる。例えば、燃料ポンプ11からの燃料圧力を外側環状面部22aのみに作用させるときに高圧の設定圧、燃料ポンプ11からの燃料圧力を外側環状面部22aおよび円形中央面部22cの双方に作用させるときに低圧の設定圧、燃料ポンプ11からの燃料圧力を円形中央面部22cのみに作用させるときに超高圧の設定圧とすることができる。
【0123】
また、外側燃料通路37および内側燃料通路32hに代えて3つあるいはそれ以上の燃料通路を設けるとともに、それらに対応する3つ以上の受圧面部を調圧部材に設けるようにすることも考えられる。すなわち、燃料導入側および燃料排出側の流体通路に対応する調圧部材22の受圧面部のうち一方または双方が複数に分割されてもよい。
【0124】
また、上述の第1実施形態における調圧部材22は、可撓性の環状膜部材24と板状部材25とを有する構成としたが、環状膜部材24はハウジング21内に摺動可能に保持されたピストン状のもので、板状部材25の背面を支持するようなものであってもよい。
【0125】
さらに、上述の各実施形態においては、インタンク式の流体圧力調整装置およびこれを用いた燃料供給装置としていたが、デリバリーパイプの近傍に配置されるものであってもよいことはいうまでもない。また、外側筒状部材35および内側筒状部材36は、ハウジング21と別体に作製されてハウジング21に固定されたものとしていたが、これら外側筒状部材35および内側筒状部材36をハウジング21と一体に成型してもよいことはいうまでもない。
【0126】
また、各実施形態では、背圧室26側を燃料タンク2内に開放されたものとしたが、ハウジング21内の調圧部材22の他面側に閉じた背圧室を形成し、その閉じた背圧室に他の負圧または正圧の圧縮性流体(例えば空気)を封入したり、専用の背圧供給回路によって背圧付与のための流体をその閉じた背圧室に供給・排出させたりすることも勿論可能である。
【0127】
さらに、上述の各実施形態においては、燃料消費部がガソリンを消費する車両用のガソリンエンジンであったが、他の燃料を用いるエンジンにも使用できることは勿論であり、車両用以外のエンジンにも適用可能である。また、燃料を消費して何らかの出力をなす各種の燃料消費部において、燃料圧力の高圧/低圧切替えがなされる場合にも、本発明を適用することができる。さらに、本発明の流体圧力調整装置は、燃料以外の流体の調圧にも使用できることはいうまでもない。
【0128】
以上説明したように、本発明は、調圧部材の一面側のみで流体の出入りを制御して設定圧を切り替えることができ、しかも、高圧側の設定圧に切り替えるときに導入側の特定の流体通路の流体圧力を解放することで、低圧側の設定圧から高圧側の設定圧への切替えを確実でかつ高応答に行うことができ、その結果、調整圧力の設定圧を高圧側と低圧側とに好ましい速度で切り替えることができるコンパクトで配管の簡素な低コストの流体圧力調整装置を提供することができるとともに、その流体圧力調整装置により調整圧力の設定圧を高圧側と低圧側とに好ましい速度で切り替えることができるコンパクトで配管の簡素な低コストの燃料供給装置を提供することができるという効果を奏するものであり、内燃機関の燃料を燃料ポンプから燃料噴射弁に供給するときにその燃料圧力を調整するのに好適な流体圧力調整装置およびこれを用いた燃料供給装置全般に有用である。
【符号の説明】
【0129】
1 エンジン(内燃機関)
2 燃料タンク(流体の貯留タンク)
3 インジェクタ(燃料噴射弁)
10 燃料圧送回路
11 燃料ポンプ
15 燃料通路
15a 第1の分岐通路
15f 第2の分岐通路(上流側の流体通路)
15g 通路区間(上流側の流体通路)
15h バイパス通路
15u 上流側の通路区間
20 プレッシャレギュレータ
21 ハウジング
21a,21b,21c 連通孔
22 調圧部材
22a 外側環状面部
22b 中間環状面部
22c 円形中央面部
23 調圧室
27 圧縮コイルばね
31 外側環状弁座部
31h 中間燃料通路(排出側の流体通路)
32 内側環状弁座部
32h 内側燃料通路(特定の流体通路、導入側の流体通路)
37 外側燃料通路(特定の流体通路以外の導入側の流体通路)
40 設定圧切替機構
45 三方電磁弁(圧力解放手段、圧力解放弁、通路開閉弁、三方弁)
51;61 逆止弁体(絞り要素)
51a 絞り通路孔
55 弁体収納部材
61 逆止弁体
63;73 固定の絞り要素
75 通路内壁
P1 燃料圧力(供給圧力、システム圧)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
流体が導入される複数の導入側の流体通路および該流体が排出される排出側の流体通路を有するハウジングと、
前記ハウジング内に前記導入側の流体通路に連通する調圧室を形成するとともに、前記調圧室内に導入された流体の圧力に応じて前記導入側の流体通路と前記排出側の流体通路とを連通させて前記導入側の流体通路のいずれかの流体通路に導入される前記流体の圧力を設定圧に調整する隔壁状の調圧部材と、を備え、
前記複数の導入側の流体通路に選択的に導入される前記流体の圧力に応じて前記設定圧を切り替えるようにした流体圧力調整装置であって、
前記設定圧を低圧側の設定圧から高圧側の設定圧に切り替えるときに、前記複数の導入側の流体通路のうち特定の流体通路の圧力を解放させる圧力解放手段が設けられていることを特徴とする流体圧力調整装置。
【請求項2】
前記設定圧を前記高圧側の設定圧から前記低圧側の設定圧に切り替えるときに開弁するよう、前記特定の流体通路の上流側で該上流側の流体通路を開閉する通路開閉弁が設けられていることを特徴とする請求項1に記載の流体圧力調整装置。
【請求項3】
前記圧力解放手段は、前記通路開閉弁が閉弁するときに前記特定の流体通路の圧力を解放させる圧力解放弁で構成されていることを特徴とする請求項2に記載の流体圧力調整装置。
【請求項4】
前記通路開閉弁と前記圧力解放弁とが、前記設定圧を前記高圧側の設定圧から前記低圧側の設定圧に切り替えるときに前記特定の流体通路への前記流体の導入を許容する一方、前記設定圧を前記低圧側の設定圧から前記高圧側の設定圧に切り替えるときに、前記複数の導入側の流体通路のうち特定の流体通路の圧力を解放させる三方弁によって構成されていることを特徴とする請求項3に記載の流体圧力調整装置。
【請求項5】
前記設定圧を前記高圧側の設定圧から前記低圧側の設定圧に切り替えるときに、前記特定の流体通路の上流側で該上流側の流体通路の断面積を縮小させることができる絞り要素が設けられていることを特徴とする請求項1ないし請求項4のうちいずれか1の請求項に記載の流体圧力調整装置。
【請求項6】
前記特定の流体通路および前記上流側の流体通路のうち前記通路開閉弁と前記調圧部材の間の通路区間に、前記特定の流体通路への前記流体の導入時に閉弁し、前記特定の流体通路の圧力解放時に開弁する逆止弁体が設けられ、該逆止弁体が、前記閉弁時に前記上流側の流体通路の途中に該通路の断面積を縮小させる絞り通路を挿入することを特徴とする請求項2ないし請求項4のうちいずれか1の請求項に記載の流体圧力調整装置。
【請求項7】
前記上流側の流体通路のうち前記通路開閉弁より上流側の通路区間に、前記上流側の流体通路の断面積を縮小させる絞り要素が配置されていることを特徴とする請求項2ないし請求項4のうちいずれか1の請求項に記載の流体圧力調整装置。
【請求項8】
請求項1ないし請求項7のうちいずれか1の請求項に記載された流体圧力調整装置を備え、燃料ポンプから内燃機関の燃料噴射弁に供給される燃料を前記流体圧力調整装置により調圧することを特徴とする燃料供給装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2011−252546(P2011−252546A)
【公開日】平成23年12月15日(2011.12.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−126968(P2010−126968)
【出願日】平成22年6月2日(2010.6.2)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】