説明

流動床式ガス化炉の運転方法及び流動床式ガス化炉

【課題】アルカリ金属等を含む産業廃棄物や有機性廃棄物等をガス化する際に使用される流動床式ガス化炉において、流動床に用いられる流動媒体の大粒化を抑制し流動障害を防止し、効率よくガス化を行えるようにすること。
【解決手段】流動媒体を有する流動床式ガス化炉の運転方法であって、二酸化ケイ素を主成分とする粒体とアルミナの粒体とを含み、該アルミナの割合が20〜80重量%の混合物で前記流動媒体を構成し、前記流動床ガス化炉の流動床の温度を740℃以下に維持して被ガス化原料をガス化することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、バイオマス等の有機性廃棄物や産業廃棄物等の被ガス化原料をガス化する際に使用される流動床式ガス化炉の運転方法及び流動床式ガス化炉に係り、特に流動床式ガス化炉の流動床を成す流動媒体の大粒化を防止する技術に関するものである。
【背景技術】
【0002】
産業廃棄物や有機性廃棄物等の被焼却材を燃焼させて焼却処理することを目的として使われる流動床式焼却炉がある。この流動床式焼却炉では、焼却炉本体の下部に流動床が設けられており、該流動床は通常珪砂(主成分は二酸化ケイ素:SiO)の粒体で構成されている。
一方、焼却処理される産業廃棄物や有機性廃棄物等の被焼却材の中には、ナトリウムやカリウム等のアルカリ金属やカルシウム、マグネシウム等のアルカリ土類金属及びこれらの塩等のいわゆるアルカリ性物質を多く含んでいるものがある。例えば、植物系バイオマスでは稲わら、動物系バイオマスでは鶏糞などがカリウム等の前記アルカリ性物質を多く含んでいる。
【0003】
前記流動床式焼却炉において、前記アルカリ性物質が多く含まれる前記被焼却材を高温(800℃以上)で燃焼処理すると、該被焼却材中に含まれる、例えばカリウムやナトリウム等と珪砂中のSiOとが反応して低融点化合物であるカリガラス(KO・3SiO)やソーダガラス(NaO・3SiO)等が生成する。この低融点化合物は800℃以上の高温では融解して、流動媒体である珪砂の粒子表面に付着する。その結果、該粒子同士が接触した際に粒子表面に融解状態で付着している前記低融点化合物の部分で粒子同士が互いにくっ付いて、流動媒体である珪砂の粒子が大粒化する大粒化現象を引き起こす。
そして、この大粒化現象によって、流動媒体である珪砂が流動しにくくなる問題、いわゆる流動障害の問題が発生する。
【0004】
そこで、前記流動障害を防止するための技術の一例として、特開平10−185154号公報に記載されている、流動床式焼却炉による汚泥を含む産業廃棄物の処理方法が挙げられる(特許文献1)。この処理方法は、流動床の流動媒体として通常用いられる珪砂の代わりに、焼却処理する前記汚泥中に含まれていた固形分及び/又はその残渣を用いて炉床部に流動床を形成し、この流動床に下方からエアーを供給し該流動床を流動させるようになっている。
【0005】
しかし、特許文献1に記載された方法では、被焼却材(汚泥)の種類や性状の変動が大きいため、前記汚泥中に含まれていた固形分及び/又はその残渣を用いて流動床を安定して形成することは容易ではなく実用的ではなかった。
【0006】
また、前記流動障害を防止するための技術の他の例として、特開平11−132426号公報に記載されている、流動床式焼却炉における流動媒体の固化防止方法が挙げられる(特許文献2)。この固化防止方法は、被焼却材が低融点物質(例えばアルカリ金属)を多く含むSAレジン(ソルビン酸カリウム)等である場合に、被焼却材(SAレジン等)をカオリンクレーと混合して燃焼させることで、該被焼却材中のアルカリ金属とカオリンクレーとの反応により高融点を持つ鉱物を直接生成させ、低融点の化合物の生成を抑制することが意図されている。
【0007】
しかし、特許文献2に記載された方法では、被焼却材に対してカオリンクレーを均一に混合することが簡単ではなく、前記高融点化合物の生成反応を安定して進行させることは難しかった。そのため、低融点化合物が生成し、前記流動障害の問題が発生する虞があった。
【0008】
また、特許文献2に記載された方法は、流動媒体に珪砂を用いるので、カオリンクレーの添加によって低融点化合物(KO・3SiO
カリガラス等)の生成割合を低下することはできるが、それでも低融点化合物は必ず生成する。焼却炉本体内の温度は、焼却を目的とする炉であることから850〜900℃(段落0045)の高温に維持されている。そのため、生成した前記低融点化合物は、焼却炉本体内で十分に融解してしまい、融解状態の前記低融点化合物を起点として流動媒体である珪砂の粒子が大粒化する大粒化現象を引き起こす問題がある。
【0009】
以上においては、前記流動媒体の大粒化現象による前記流動障害を、流動床式焼却炉における問題として説明したが、この問題はバイオマス等の被ガス化原料を不完全燃焼させてガス化し、合成ガス(一酸化炭素と水素を含む混合ガス)を生成する流動床式ガス化炉においても、同様に生じる。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、上記事情に鑑みなされたもので、その目的は、アルカリ金属等を多く含むバイオマス等の有機性廃棄物や産業廃棄物等の被ガス化原料をガス化して合成ガスを生成する場合であっても、そのガス化に使用される流動床式ガス化炉において、流動床に用いられる流動媒体の大粒化を抑制して流動障害を防止し、効率よくガス化を行えるようにすることにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記目的を達成するために本発明の第1の態様は、流動媒体を有する流動床式ガス化炉の運転方法であって、二酸化ケイ素を主成分とする粒体とアルミナの粒体とを含み、該アルミナの割合が20〜80重量%の混合物で前記流動媒体を構成し、前記流動床ガス化炉の流動床の温度を740℃以下に維持して被ガス化原料をガス化することを特徴とするものである。
【0012】
本態様によれば、流動床を成す流動媒体は、二酸化ケイ素を主成分とする粒体とアルミナの粒体との混合物で構成される。該混合物の一つの組成物を成す二酸化ケイ素を主成分とする粒体は、ガス化反応の際に被ガス化原料中のアルカリ物質と反応して低融点化合物であるカリガラス(KO・3SiO)やソーダガラス(NaO・3SiO)等を生成する。しかし、前記混合物の他方の成分であるアルミナは、被ガス化原料中のアルカリ物質と反応して生成するのは高融点化合物である。
【0013】
前者の低融点化合物はガス化反応の際に融解状態になるが、後者の高融点化合物はガス化反応の際に融解状態にはならない。前者の低融点化合物の生成量は、流動媒体の全量が二酸化珪素を主成分とする粒体だけで構成されている場合に比して、20〜80重量%少ない。従って、その少ない分だけ低融点化合物の生成量も少なくなり、流動媒体が粒子同士互いにくっ付いて大粒化する傾向は大幅に低減される。
更に、生成される前記高融点化合物は粉末となって全体に行き渡り、前記低融点化合物の表面に付着して、そのくっ付き力を低下する作用が発現され、この点からも前記大粒化現象は低減される。
【0014】
また、二酸化ケイ素を主成分とする粒体である例えば珪砂に比してアルミナは高価であるが、安価な珪砂等が80〜20重量%使われるため、高価なアルミナの使用量を低減でき、流動媒体の全体としてのコストアップを低く抑えることができる。
【0015】
また、本態様によれば、流動床式ガス化炉の流動床の温度が740℃以下の状態で被ガス化原料をガス化するので、被ガス化原料中のアルカリ性物質と流動媒体中の二酸化ケイ素が反応して低融点化合物であるカリガラス(KO・3SiO)やソーダガラス(NaO・3SiO)等が生成するが、前記生成した低融点化合物の内で例えばカリガラス(KO・3SiO)はその融点が約750℃であるため、融解状態にはならない。従って、前記カリガラスが流動媒体の粒子表面に付着することはないので、該カリガラスに基づく流動媒体粒子の大粒化現象を防止することができる。
【0016】
本発明の第2の態様は、前記第1の態様に係る流動床式ガス化炉の運転方法において、流動化ガス速度と流動化開始速度との関係が、流動化ガス速度/流動化開始速度>4の条件を満たすように流動化ガスを前記流動床に供給することを特徴とするものである。
【0017】
前記低融点化合物の内、ソーダガラス(NaO・3SiO)は、融点が約635℃であるので、流動床の温度が740℃以下であっても前記融点(約635℃)より高ければ融解状態になる。従って、ソーダガラスは流動媒体の粒子同士を互いにくっ付ける作用をする。しかし、カリガラスに因るくっ付きは無いので、その分だけ前記くっ付き力は低下している。
【0018】
また、流動床の温度を、ガス化効率が低下しないようできるだけ高めにするとの観点に立って、740℃以下の例えば700℃程度(650℃〜730℃程度)に設定した場合、前記カリガラスは融解状態にはならないはずであるが、流動床の全領域において温度バラツキがあると、部分的にカリガラスの融点よりも高温になる箇所ができ得る。その高温箇所においては、カリガラスも融解状態になるので、流動媒体の粒子同士を互いにくっ付ける作用をする。しかし、カリガラスの全量の内の一部が融解状態になるだけなので、全体としての前記くっ付き力は低下している。
【0019】
すなわち、流動床の温度を740℃以下に設定することによって、前記アルミナとの混合物にしたことと相俟って、融解状態になる低融点化合物が一部生成することがあっても、その融解状態になる低融点化合物の全体としての生成量を大幅に低減することができる。更に、前記生成量の低減によって流動媒体の粒子同士が互いにくっ付いて大粒化するくっ付き力自体を低下させることができる。
【0020】
本態様によれば、前記融解状態になる低融点化合物の生成量の前記低減によって前記くっ付き力が低下した状態において、流動化ガス速度と流動化開始速度との関係が、流動化ガス速度/流動化開始速度>4の条件を満たすように流動化ガスを前記流動床に供給するようになっている。
従って、流動媒体の粒子の表面に融解状態の低融点化合物が付着して大粒化現象の起点ができていても、その起点は前記くっ付き力が低下しているので、その状態で前記流動化ガスが前記条件の速度を満たすように適度な速度で供給されて流動状態が作られると、その流動の運動によってくっ付き掛かった粒子同士は強制的に離される。すなわち、前記粒子同士のくっ付き掛かっては離されることの繰り返しが、前記条件を満たすように流動化ガスを供給することで安定して実現することができ、以って前記大粒化現象を防止することができる。
【0021】
本発明の第3の態様は、前記第1の態様または第2の態様に記載された流動床式ガス化炉の運転方法において、前記被ガス化原料は、該被ガス化原料を燃焼灰化させて得られる灰中にカリウムを8重量%以上含むカリウム高含有原料であることを特徴とするものである。
本発明は、このようなカリウム高含有原料を流動床式ガス化炉でガス化する際に特に顕著な効果が得られる。
【0022】
本発明の第4の態様は、第1の態様から第3の態様のいずれか一つの態様に記載された流動床式ガス化炉の運転方法において、前記流動床の温度は635℃以上に維持されることを特徴とするものである。
【0023】
本態様によれば、流動床の温度が635℃以上に維持されるので、流動床式ガス化炉におけるガス化反応の効率を低下することなく、且つ上記の如く、融解状態になる低融点化合物が一部生成することがあっても、前記くっ付き力の低下によって、前記粒子同士のくっ付き掛かっては強制的に離されることの繰り返しが安定して実現され、以って前記大粒化現象を防止することができる。
【0024】
本発明の第5の態様は、流動媒体を有する流動床式ガス化炉であって、前記流動媒体は、二酸化ケイ素を主成分とする粒体とアルミナの粒体とを含み、該アルミナの割合が20〜80重量%の混合物で構成され、前記流動床式ガス化炉の流動床の温度は740℃以下に維持可能に構成されていることを特徴とするものである。
本態様によれば、前記第1の態様と同様の作用効果が得られる。
【0025】
本発明の第6の態様は、第5の態様に記載された流動床式ガス化炉において、前記流動床に供給する流動化ガスの流動化ガス速度と流動化開始速度との関係が、流動化ガス速度/流動化開始速度>4を満たすように構成されていることを特徴とするものである。
本態様によれば、前記第2の態様と同様の作用効果が得られる。
【0026】
本発明の第7の態様は、第6の態様に記載された流動床式ガス化炉において、前記流動床の温度を635℃〜740℃の範囲に維持する温度制御部と、前記流動化ガス速度/流動化開始速度>4を満たすように制御する流動化ガス速度制御部と、を備えていることを特徴とするものである。
本態様によれば、第6の態様の作用効果に加え、流動床の温度管理や流動化ガス速度の管理を自動化して簡単に行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】本発明の一実施形態に係る流動床式ガス化炉の概略構成図である。
【図2】本発明に係る流動床式ガス化炉を使用して生成された合成ガスを利用しエタノールを合成する際のフロー図である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下、図面を参照しながら、本発明に係る流動床式ガス化炉及び流動床式ガス化炉の運転方法の実施形態について説明する。なお、本発明は以下の実施形態に限定されるものではない。
【0029】
図1において、流動床式ガス化炉1は、縦型で内部に空間を有するガス化炉本体15を備え、ガス化炉本体15の上部にはフリーボード部2が、下部には流動媒体3’で構成された流動床3が設けられている。更に、流動床3の下部にはウィンドボックス4が設けられている。流動床3とウィンドボックス4は仕切り板5によって仕切られている。ウィンドボックス4の側面には、酸化剤一次吹き込み口11が設けられ、吹き込み口の入り口付近の流量計30によって吹き込まれる空気等の酸化剤の流量が測定されている。酸化剤一次吹き込み口11からウィンドボックス4に供給された酸化剤は、仕切り板5に設けられた酸化剤供給口6から流動床3へ送り込まれ、流動床3の流動媒体3’を流動(浮揚)させるとともに、流動床3において被ガス化原料Mを不完全燃焼させて合成ガスを生成するために使用される。
【0030】
前述したように酸化剤は、流動媒体3’を流動させる流動化ガスとしての役割と、被ガス化原料Mを不完全燃焼させるための役割を果たしており、一般的には空気が用いられる。しかし、酸化作用を有する物質であれば、特に空気に限定されるものではなく、例えば、水蒸気、酸素、酸素富化空気でも良い。
【0031】
また、流動床3を構成する流動媒体3’の例としては、珪砂とアルミナを含む混合物が挙げられる。混合物としては、珪砂とアルミナの混合物でもいいし、珪砂、アルミナ及び他の物質との混合物であっても良い。
ここで、混合物中のアルミナの割合は20〜80重量%であることが好ましい。特に好ましい範囲は30〜70%である。アルミナの混合割合が低すぎると、珪砂中の二酸化ケイ素と被ガス化原料中のアルカリ性物質とが反応し低融点化合物が多く生成し、流動媒体3’の大粒化現象を抑制することができなくなる。一方、アルミナの混合割合が高すぎると、アルミナが高価なため流動媒体3’の価格が高くなり経済性の点で問題が生じてしまう。
【0032】
本発明で用いられる流動媒体3’の珪砂の粒径は、200〜600ミクロン程度であり、アルミナの粒径は、200〜600ミクロン程度である。また、比重は珪砂が約2.3〜2.7、アルミナが約3.9〜3.98程度である。
そこで、珪砂の粒径とアルミナの粒径を、前記比重差を相殺する関係にして両者を混合して流動媒体を構成するようにすれば、被ガス化材によって形成される流動床の流動状態を、流動媒体が混合物であっても、単一組成物と同様の一様な流動状態を実現することができる。
【0033】
なお、酸化剤を流動床3に送り込んで該流動床を流動状態に維持する速度、すなわち、流動化ガス速度(Uf)と、酸化剤を流動床3に送り続けて流動媒体3’が流動し始める時の速度、すなわち流動化開始速度(Umf)の比は、4より大きく設定される。流動床3への酸化剤供給速度(流動化ガス速度
Uf)は、ウィンドボックス4側の酸化剤供給口6付近に設けられた流速計測装置31によって計測され、その値が流動ガス化速度の制御部20に送られ、Uf/Umf>4を満たすように酸化剤の流量が流量計30を介して調整される。
【0034】
被ガス化原料Mは、流動床3の側面に設けられた被ガス化原料供給装置7によって、直接流動床3に供給され、流動している流動媒体3’によって燃焼させられる。上部から投入せずに直接流動床に投入することにより、流動床3内の流動媒体3’と被ガス化原料が投入後直ぐに接触して燃焼することから、効率よくガス化を行うことが出来る。なお、従来のように流動床式ガス化炉の上部に原料投入口を設け、被ガス化原料を流動床式ガス化炉の上部から投入するようにしてもよい。
【0035】
流動床3の温度は500〜740℃に設定するのが好ましい。更に好ましい範囲は635℃〜740℃、更に650℃〜720℃である。流動床の温度が740℃より高くなると、被ガス化原料中のアルカリ性物質、例えば、カリウムが流動媒体である珪砂中のSiOと反応して低融点化合物のカリガラス(KO・3SiO
)を生成した際に、該カリガラスが融解して流動媒体3’である珪砂の粒子表面に付着する。そして該粒子同士が接触した際には粒子表面に付着している低融点化合物の部分で該粒子同士がくっ付き、流動媒体3’である珪砂の粒子が大粒化する現象を起してしまうこととなる。そのため、大粒化現象が起きた流動媒体3’を新しい流動媒体に交換しなければならなくなり、その交換の手間が生じるとともに、流動床式ガス化炉の稼働率も下がってしまうことになる。
一方、流動床3の温度が500℃より低くなると、被ガス化原料Mに対する燃焼作用が小さくなり、ガス化効率が落ちてしまう。635℃〜740℃、或は650℃〜720℃であると、ガス化効率の低下を一層抑制することができる。
【0036】
なお、被ガス化原料中のアルカリ性物質にナトリウムが含まれている場合には、ナトリウムが流動媒体中の二酸化ケイ素と反応してソーダガラス(NaO・3SiO
)が生成する。ソーダガラスは、融点が約635℃であるので、流動床の温度が740℃以下であっても前記融点(約635℃)より高ければ融解状態になる。この場合、ソーダガラスは流動媒体3’の粒子同士を互いにくっ付ける作用をする。しかし、前記カリガラスに因るくっ付きは無いので、その分だけ前記くっ付き力は低下している。
【0037】
すなわち、流動床3の温度を740℃以下に設定することによって、前記アルミナとの混合物にしたことと相俟って、融解状態になる低融点化合物が一部生成することがあっても、その融解状態になる低融点化合物の全体としての生成量を大幅に低減することができる。更に、前記生成量の低減によって流動媒体の粒子同士が互いにくっ付いて大粒化するくっ付き力自体を低下させることができる。
【0038】
そして、本実施例によれば、前記融解状態になる低融点化合物の生成量の前記低減によって前記くっ付き力が低下した状態において、流動化ガス速度(Uf)と流動化開始速度(Umf)との関係が、Uf/Umf>4の条件を満たすように流動化ガスを前記流動床3に供給するようになっている。
【0039】
従って、流動媒体3’の粒子の表面に融解状態の低融点化合物が付着して大粒化現象の起点ができていても、その起点は前記くっ付き力が低下しているので、その状態で前記流動化ガスが前記条件(Uf/Umf>4)の速度を満たすように、適度な速度で供給されて流動状態が作られると、その流動の運動によってくっ付き掛かった粒子同士は強制的に離される。すなわち、前記粒子同士のくっ付き掛かっては離されることの繰り返しが、前記条件を満たすように流動化ガスを供給することで安定して実現することができ、以って前記大粒化現象を防止することができる。
【0040】
上記説明は、流動床3の温度がソーダガラスが融解する温度以上に設定されている場合であるが、流動床の温度を630℃以下に設定することも可能である。このように温度設定すれば、ソーダガラスに起因するくっ付き力も無くなるので、流動媒体3’の粒子の大粒化の現象を一層低減することができる。
【0041】
流動床3内の温度は、該流動床3内に設けられた熱電対32によって測定され、温度制御部21に伝えられる。温度制御部21は熱電対32によって測定された測定値を参照しながら、被ガス化原料供給装置7へ電気信号を送り、被ガス化原料Mの流動床3への供給を調整することにより、本実施例では常に流動床3の温度が635℃〜740℃に維持されるように流動床3の温度を制御する。
【0042】
次に、流動床3の温度制御について詳述する。
【0043】
最初に、流動床式ガス化炉1の運転を始める際には、酸化剤一次吹き込み口11から流動化ガスとしての酸化剤(例えば空気)をウィンドボックス4に吹き込んで、酸化剤供給口6を通じて流動床3に供給し、流動媒体3’を流動(浮揚)させながら昇温バーナー10で流動媒体3’を加熱する(空気比は約1の状態)。
【0044】
次に、熱電対32によって測定される流動床3内の温度が、所定の温度(約700℃)になったら温度制御部21から被ガス化原料装置7へ電気信号を送り、被ガス化原料Mを流動床3内に投入する(空気比は約0.3〜0.6の状態に調整する)。そして、被ガス化原料Mが流動媒体3’によって燃焼させられ、その際発生する部分酸化(一酸化炭素の生成)の熱によって流動媒体3’自体の温度、つまり流動床3内の温度が維持される。また、熱電対32によって測定される流動床3内の温度が所定の温度よりも上昇して過熱状態になりそうな場合には、温度制御部21から被ガス化原料装置7へ電気信号を送り、被ガス化原料Mの流動床3内への投入量を減らすことにより過熱状態になるのを抑制する。
【0045】
最後に、流動床式ガス化炉1の運転を止める際には、被ガス化原料Mの投入を停止する。ただし、しばらくの間は流動化ガスである酸化剤の供給は続けるようにしておく。これにより、流動床3内の温度を低下させ、流動媒体3’の大粒化を抑制することができる。
【0046】
なお、流動床3内に投入する被ガス化原料Mが多い場合には、昇温バーナー10の上部に設けられた酸化剤二次次吹き込み口12を使用して酸化剤を供給するようにする。被ガス化原料Mが多いときに、酸化剤一次吹き込み口11から流動化ガスとしての酸化剤を多く供給すると、すなわち酸化剤の流量を多くすると、流動媒体3’が上部に浮揚し過ぎる状態となり、効率よくガス化ができない状態が生じる。そこで、このような状態を生じさせないように、酸化剤一次吹き込み口11から供給する酸化剤の流量をある程度抑えて、その抑えた分の酸化剤を酸化剤二次吹き込み口12を使用して供給するようになっている。
【0047】
本発明の流動床式ガス化炉1は、流動床3を740℃以下の温度にして運転しているため、流動媒体3’の粒子の大粒化現象を抑制することが出来る。しかし、前記大粒化現象を完全に抑制することはできない。そのため時間が経つと、流動床3中に大粒化した流動媒体3’の粒子が増加し、流動床3の通気抵抗が大きくなり、ウィンドボックス内4の圧力と流動床式ガス化炉内1の圧力差が正常時より大きくなる。そこで、この圧力差の変化を差圧計33で検知して所定(正常時)の圧力差以上になった場合に、流動媒体抜出し装置9を作動させて、流動床3から造粒した流動媒体3’の粒子を、流動床3の下部から突出している流動媒体抜出し管9’を通じて流動媒体抜出し装置9に送り、流動床式ガス化炉1外部に排出するようにしている。
【0048】
一方、新たな流動媒体3’を補充する場合は、フリーボード部2の側面に設けられている補充用流動媒体供給装置8から補充することができるようになっている。
【0049】
本発明で使用される被ガス化原料Mは、いわゆる産業廃棄物や有機性廃棄物と言われる物である。産業廃棄物としては、金属やプラスチック等が挙げられる。また有機性廃棄物としてはバイオマス、例えば、稲わら、麦わら、籾殻、竹、笹、パーム椰子空果房、パーム椰子の幹、バガス等サトウキビ由来の廃材等の草本系バイオマス、製材所の残材、間伐材(杉、松、檜、ラワン、ブナ、ゴム、イチジク等)、街路樹剪定材、建築廃材、廃電柱、バーク、ダム流木等の木質系バイオマス、畜産系残渣の一例である鶏糞等の畜産由来のバイオマス、更に、発酵残渣、食品残渣、黒液、海藻等が挙げられる。
【0050】
本発明は、前記被ガス化原料Mが、該被ガス化原料Mを燃焼灰化させて得られる灰中にカリウムを8重量%以上含むカリウム高含有原料を流動床式ガス化炉でガス化する際に特に有効である。
被ガス化原料を燃焼させて得られた灰中のカリウムの量は、JIS M8812 石炭類及びコークス類―工業分析法、に準拠して測定される。簡単に説明すると、被ガス化原料を所定量採取し、815℃で燃焼灰化させた後、水に溶解させて該水溶液をフレーム原子吸光光度法によって測定し、被ガス化原料中に含まれるカリウム量を測定する。
【0051】
本発明を使用して生成された合成ガスは、生成ガス排出口13を経て、生成ガス収集装置14で収集された後、精製されてエタノール等の有用な物質の合成に用いられる。
【0052】
なお、精製された合成ガスをエタノール合成に用いる際には、触媒を使用する触媒法や合成ガス中の一酸化炭素からエタノールを生成する嫌気性細菌を使用する方法が利用できる。嫌気性細菌としては、クロストリジウム属又はその派生属(例えば、サーモアナエロバクテリウム属、サーモアナエロバクター属、モーレラ属等)に属する菌が挙げられる。具体的には、クロストリジウムリジェンダリー(Clostridium ljungdahlii)やクロストリジウムオートエタノゲウムエスピー(Clostridium autoethanogenum sp.)などが挙げられる。
【0053】
図2には、本発明を使用して生成された合成ガスを利用してエタノールを合成するプロセスの一例が記載されている。
【0054】
本プロセスでは、被ガス化原料であるバイオマスを破砕して乾燥した後、本発明に係る流動床式ガス化炉でガス化を行う。生成した合成ガスはバグフィルター等の除塵装置を経て除塵され水で冷却されて精製される。なお、流動床ガス化装置内で発生した炭化物や灰及びバグフィルター等の除塵装置で収集した炭化物や灰は本プロセス外へ排出される。また、生成した合成ガスを冷却した際に生じたタールは、再度流動床ガス化炉内へ戻してガス化を行う。
【0055】
精製された合成ガスは、触媒法あるいは嫌気性細菌を使用する方法によってエタノール合成に利用される。或は、ボイラーを稼動させるための燃料として利用される。そして、ボイラーから発生した蒸気は、破砕したバイオマスの乾燥やエタノールを分離するために用いられる。
【0056】
以上、本発明に係る流動床式ガス化炉で生成した合成ガスはエタノールを合成する際の原料として利用できる。なお合成する物質はエタノールに限らずメタノールや混合アルコールも合成することが可能である。
【符号の説明】
【0057】
1 流動床式ガス化炉、 2 フリーボード、 3 流動床、 3’ 流動媒体、 4 ウィンドボックス、 5仕切り板、 6 酸化剤供給ノズル、 7 被ガス化原料供給装置、 8 補充用流動媒体供給装置、 9 流動媒体抜出し装置、 9’ 流動媒体抜出し管、 10 昇温バーナー、 11 酸化剤1次吹き込み口、 12 酸化剤2次吹き込み口、 13 生成ガス排出口、 14 生成ガス収集装置、 20 流動化ガス速度制御部、 21 温度制御部、 F 流量計、 M 被ガス化原料、 P 圧力センサー、 ΔP 差圧計、 T 熱電対、 U 流速計測装置
【先行技術文献】
【特許文献】
【0058】
【特許文献1】特開平10−185154号公報
【特許文献2】特開平11−132426号公報

【特許請求の範囲】
【請求項1】
流動媒体を有する流動床式ガス化炉の運転方法であって、
二酸化ケイ素を主成分とする粒体とアルミナの粒体とを含み、該アルミナの割合が20〜80重量%の混合物で前記流動媒体を構成し、
前記流動床ガス化炉の流動床の温度を740℃以下に維持して被ガス化原料をガス化することを特徴とする流動床式ガス化炉の運転方法。
【請求項2】
請求項1に記載された流動床式ガス化炉の運転方法において、
流動化ガス速度と流動化開始速度との関係が、流動化ガス速度/流動化開始速度>4の条件を満たすように流動化ガスを前記流動床に供給することを特徴とする流動床式ガス化炉の運転方法。
【請求項3】
請求項1または2に記載された流動床式ガス化炉の運転方法において、
前記被ガス化原料は、該被ガス化原料を燃焼灰化させて得られる灰中にカリウムを8重量%以上含むカリウム高含有原料であることを特徴とする流動床式ガス化炉の運転方法。
【請求項4】
請求項1から3のいずれか一項に記載された流動床式ガス化炉の運転方法において、
前記流動床の温度は635℃以上に維持されることを特徴とする流動床式ガス化炉の運転方法。
【請求項5】
流動媒体を有する流動床式ガス化炉であって、
前記流動媒体は、二酸化ケイ素を主成分とする粒体とアルミナの粒体とを含み、該アルミナの割合が20〜80重量%の混合物で構成され、
前記流動床式ガス化炉の流動床の温度は740℃以下に維持可能に構成されていることを特徴とする流動床式ガス化炉。
【請求項6】
請求項5に記載された流動床式ガス化炉において、
前記流動床に供給する流動化ガスの流動化ガス速度と流動化開始速度との関係が、流動化ガス速度/流動化開始速度>4を満たすように構成されていることを特徴とする流動床式ガス化炉。
【請求項7】
請求項6に記載された流動床式ガス化炉において、
前記流動床の温度を635℃〜740℃の範囲に維持する温度制御部と、
前記流動化ガス速度/流動化開始速度>4を満たすように制御する流動化ガス速度制御部と、を備えていることを特徴とする流動床式ガス化炉。


【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2010−223564(P2010−223564A)
【公開日】平成22年10月7日(2010.10.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−74645(P2009−74645)
【出願日】平成21年3月25日(2009.3.25)
【出願人】(000005902)三井造船株式会社 (1,723)
【Fターム(参考)】