説明

流路開閉装置

【課題】所望の作動温度や圧力にて作動させることができ、安定した開閉動作を行うことができる流路開閉装置を提供する。
【解決手段】流体Fが流通する管路1内に設けられる流路開閉装置である。駆動手段3と、駆動手段3によって軸方向に伸縮する伸縮体4と、流通路6を有する遮蔽体2と、駆動手段3の駆動によって伸縮体4を介して流通路6の開閉を行う蓋体5とを備える。駆動手段3に、温度の上昇又は圧力の低下にて高圧の水素ガスを放出し、温度の下降又は圧力の上昇にて水素を吸収する水素吸蔵物質を用いた。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば、排水弁等に使用される流路開閉装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
流路開閉装置として、蒸気機器に取り付けられるディスク式スチームトラップが知られている(特許文献1)。特許文献1のディスク式スチームトラップは、蒸気機器の始動直後の低温時においては弁体が流路を開状態としてドレイン(復水)を排出する一方、時間が経過して蒸気機器が高温になると弁体が流路を閉状態として、復水が溜まるまで弁は閉じた状態になる。
【0003】
前記のようなスチームトラップにおいて、弁体を移動させて開弁又は閉弁させる駆動手段として、バイメタル環を使用している。バイメタルは熱膨張率が異なる2枚の金属板を貼り合わせて構成されたもので、温度の変化によって2枚の金属板が湾曲する。すなわち、弁座に、弁体側から反弁体側に向かって拡径するテーパ面を設け、このテーパ面にバイメタル環を外嵌状に取り付ける。低温時には、バイメタル環の温度低下による縮径作用により、バイメタル環がテーパ面に沿って上動し、弁体を押し上げて開弁させる。高温時には、バイメタル環の温度上昇による拡径作用により、バイメタル環がテーパ面に沿って下動し、弁体を弁座に当接させて閉弁させる。
【0004】
このような性質を有するバイメタルは、前記のようなスチームトラップ以外にも、温度計や温度調節装置等に広く用いられている。
【特許文献1】特公昭50−8809号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、バイメタルの作動温度や圧力は、常温・常圧付近であり、作動環境の範囲が狭い。また、特に、消火設備のスプリンクラーの駆動手段は、1回のみの使用であった。このため、取替作業が頻繁に発生したり、コスト高となったりしていた。
【0006】
本発明は、上記課題に鑑みて、所望の作動温度や圧力にて作動させることができ、安定した開閉動作を行うことができる流路開閉装置を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の流路開閉装置は、流体が流通する管路内に設けられる流路開閉装置であって、駆動手段と、この駆動手段によってその軸方向に伸縮する伸縮体と、前記管路内に設けられるとともに流通路を有する遮蔽体と、駆動手段の駆動によって伸縮体を介して前記流通路の開閉を行う蓋体とを備え、前記駆動手段に、温度の上昇又は圧力の低下にて高圧の水素ガスを放出し、温度の下降又は圧力の上昇にて水素を吸収する水素吸蔵物質を用いたものである。
【0008】
本発明の流路開閉装置によれば、駆動手段として水素吸蔵物質を用いているので、温度の変化によって伸縮体が伸縮して流通路の開閉を行うことができる。しかも、水素吸蔵物質を構成する材料を任意に選択することによって、駆動手段を所望の作動環境とすることができる。
【0009】
前記伸縮体は、伸縮可能なベローズを備えるものとすることができる。
【0010】
前記水素吸蔵物質は、使用環境に応じて選択することができる。
【0011】
前記水素吸蔵物質は、希土類元素系水素吸蔵合金としたり、マグネシウム系水素吸蔵合金としたりすることができる。
【0012】
本発明の流路開閉装置をドレントラップに用いたり、スプリンクラーに用いたりすることができる。
【発明の効果】
【0013】
本発明の流路開閉装置は、用途に応じて材料の種類を選択すると、所望の作動温度や圧力にて作動させることができ、安定した開閉動作を行うことができる。また、温度変化に伴って伸縮体を伸縮させることができるので、駆動手段を複数回使用することができて、いわゆる使い捨てとはならず、取替作業の省略やコスト低減に寄与することができる。
【0014】
前記伸縮体は、伸縮可能なベローズを備えるものとすることができるので、ベローズが円滑に伸縮して、確実に流通路の開閉を行うことができる。
【0015】
前記水素吸蔵物質は、使用環境に応じて選択することができるため、駆動手段を所望の作動環境とすることができる。このため、この装置が適用される作動環境を拡げることができる。すなわち、水素吸蔵物質の水素吸収・放出圧力、水素吸収・放出温度は、材料の種類によって、マイナス数十℃からプラス数百℃、数気圧から数百気圧まで存在するため、水素吸蔵物質を構成する材料を任意に選択することによって、所望の作動環境とすることができる。
【0016】
前記水素吸蔵物質を希土類元素系水素吸蔵合金とすると、常温常圧付近の作動環境で駆動手段が作動することになり、この範囲で作動することが必要な装置に特に好適となる。また、水素吸蔵物質をマグネシウム系水素吸蔵合金とすると、数百℃・数百気圧の作動環境で駆動手段が作動することになり、この範囲で作動することが必要な装置に特に好適となる。
【0017】
本発明の流路開閉装置をドレントラップやスプリンクラーに用いると、作動環境を拡げることができるドレントラップやスプリンクラーを提供することができる。また、本流路開閉装置を使用すれば、ドレントラップやスプリンクラーに最適となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下本発明の実施の形態を図1及び図2に基づいて説明する。
【0019】
図1は本発明の流路開閉装置を示し、この流路開閉装置は、例えば水等の流体Fが流通する管路内に弁機構を構成するものであって、流通路(流通孔)6を開閉するものである。なお、図面の上側を上流側、図面の下側を下流側としており、図面の上側から下側に向かって流体Fが流通する。
【0020】
流路開閉装置は、図1に示すように、管路1内に設けられるとともに流通路6を有する遮蔽体2と、駆動手段3と、この駆動手段3によってその軸方向に伸縮する伸縮体4と、駆動手段3の駆動によって伸縮体4を介して管路1の軸方向に沿って往復動して前記流通路6の開閉を行う蓋体5とを有する。
【0021】
管路1は断面円形のパイプ体であり、このパイプ体の内側は、流体Fが流通する流路となっている。管路1としては、一般の管材であってもよく、専用の部材でもよい。専用の部材の場合には、通常の管材に接続可能な接続部分を有する。
【0022】
管路1には、内壁から内径方向に向かって延びる円環状の遮蔽体2が設けられる。この遮蔽体2には孔が形成されている。この孔が、流体Fが流通する前記流通路(流通孔)6を構成する。遮蔽体2の駆動手段側には、周方向に沿って凹溝(図示省略)が形成されており、この凹溝にOリング等のシール材7が嵌合されている。
【0023】
管路1の内壁に、1対の円環状の支持体10、10が設けられて、この支持体10、10に駆動手段3が固定されている。駆動手段3は、ケーシング11と、ケーシング11に収納される水素吸蔵物質とを備えている。ケーシング11内には、例えば水素用通路が設けられ、この通路が後述する伸縮体4に連結されている。この場合、ケーシング11をメッシュ等にして、流体Fが水素吸蔵物質に浸透するような構造にすることが好ましい。
【0024】
水素吸蔵物質とは、圧力や温度が所定条件下で水素を吸蔵し、また、所定条件下で可逆的に水素を放出することができるものである。水素吸蔵物質としては、2種類以上の金属を、ある配合比(組成)で混ぜて合金とした水素吸蔵合金や、カーボン等があり、本実施形態では水素吸蔵物質に水素吸蔵合金を使用している。水素吸蔵合金には、マンガン、チタン、ジルコニウム、ニッケル等の遷移元素の合金をベースとしたAB型や、希土類元素、ニオブ、ジルコニウムに対して触媒効果を持つ遷移元素(ニッケル、コバルト、アルミニウム等)を含む合金をベースとしたAB型、マグネシウム合金等がある。本実施形態では、マグネシウム系水素吸蔵合金を用いている。これにより、駆動手段3は、数百℃、数百気圧で作動するものとなる。
【0025】
駆動手段3の流通路6側には、駆動手段3の駆動力にて軸方向に伸縮する伸縮体4が設けられている。伸縮体4は、棒部材8と伸縮可能なベローズ9とを備えている。ベローズ9は、蛇腹状の筒状体であり、伸縮性・気密性・バネ性を有する。このため、ベローズ9に駆動手段3の水素通路から高圧の水素ガスが供給されることによって、ベローズ9の内圧が高められる。逆に、ベローズ9から駆動手段3に高圧の水素ガスが吸収されることによって、内圧が低くなる。そして、棒部材8の先端部には、駆動手段3の駆動によって軸方向に沿って往復動して流通路6の開閉を行う蓋体5が設けられている。
【0026】
次に、流路開閉装置の流通路6の開閉方法を説明する。低温時には、駆動装置3の水素吸蔵合金が高圧の水素ガスを吸収する。水素ガスの吸収により、ベローズ9内の圧力が下がり、ベローズ9が図2の矢印Aの方向に縮まる。一方、高温時には、駆動手段3の水素吸蔵合金が高圧の水素ガスを放出する。水素ガスの放出により、ベローズ9内の圧力が上がり、ベローズ9は矢印Bの方向に伸びる。このため、この実施形態では、低温時に蓋体5が流通路6から離れて、流体の流通路6の流通を許容する。一方、高温時には、棒部材8が蓋体5を軸方向に押圧して蓋体5が流通路6を塞ぐ。この際、シール材7にてシールされ、流体の流通路6の流通を規制する。なお、図2の仮想線は高温時の状態を示している。
【0027】
水素吸蔵物質は、使用環境に応じて選択可能であり、使用環境に適した水素吸蔵物質を選択して取り付けることや、交換することができる。また、装置全体を交換することもできる。水素吸蔵物質を取り換える場合、駆動手段3(ケーシング11及び水素吸蔵物質の両方)を交換することができる。ケーシング11と伸縮体4とが連結構造を介して連結されている場合、この連結構造の連結状態の解除をすることによって、ケーシング11を取り外すことができる。逆に分離状態から連結構造を介してケーシング11と伸縮体4とを連結することができる。連結構造としては、例えば、ねじ機構にて構成することができる。また、ケーシング11から水素吸蔵物質を取出せるものであれば、水素吸蔵物質のみを交換することができ、取出せないものであれば、前記したように水素吸蔵物質が収納されたケーシング11を外すことにより水素吸蔵物質を交換することができる。
【0028】
この装置は、所定の高温時に閉状態となり、所定の低温時に開状態となる。このため、所定の高温時に閉状態、所定の低温時に開状態であることが必要な用途、例えばスチームトラップ、人体用温水洗浄装置の排水弁等に最適となる。しかも、水素吸蔵物質は、使用環境に応じて選択可能とすることができるため、種々の環境に適用することができる。例えば、流体Fが常温常圧付近で流通路6を開閉させたい場合は、水素吸蔵物質を希土類元素系水素吸蔵合金とすることができる。これにより、駆動装置3が常温常圧付近で作動することになり、この範囲で作動することが必要な装置に特に好適となる。
【0029】
このように、本発明の流路開閉装置は、水素吸蔵物質を構成する材料を任意に選択することによって、駆動手段3を所望の作動環境とすることができるため、この装置が適用される作動環境を拡げることができる。すなわち、水素吸蔵物質の水素吸収・放出圧力、水素吸収・放出温度は、材料の種類によって、マイナス数十℃からプラス数百℃、数気圧から数百気圧まで存在する。このため、用途に応じて材料の種類を選択すると、所望の作動温度や圧力にて作動させることができ、適用範囲を拡大することができる。また、温度変化に伴って伸縮体4を伸縮させることができるので、駆動手段3を複数回使用することができて、いわゆる使い捨てとはならず、取替作業の省略やコスト低減に寄与することができる。
【0030】
前記伸縮体4は、伸縮可能なベローズ9を備えるものとすれば、ベローズ9が円滑に伸縮して、確実に流通路6の開閉を行うことができる。
【0031】
水素吸蔵物質をマグネシウム系水素吸蔵合金とすれば、数百℃・数百気圧の作動環境で駆動手段3が作動することになり、この範囲で作動することが必要な装置に特に好適となる。
【0032】
本発明の流路開閉装置をドレントラップに用いているので、作動環境を拡げることができるドレントラップを提供することができる。また、駆動手段3を複数回使用するドレントラップを提供することができて、前記したように使い捨てとはならず、取替作業の省略やコスト低減に寄与することができる。
【0033】
また、消化設備であるスプリンクラーにも本発明の流路開閉装置を用いることができる。この場合も、前記ドレントラップと同様の効果を得ることができる。
【0034】
以上、本発明の実施形態につき説明したが、本発明は前記実施形態に限定されることなく種々の変形が可能であって、例えば、管路1は円筒形でなくてもよく、断面が三角形、四角形、多角形等種々のものを使用できる。遮蔽体2の形状は管路1の形状に応じて種々の形状とすることができ、遮蔽体2の肉厚としても種々の肉厚とすることができる。遮蔽体2の先端縁をテーパ面とすることもできる。また、流通路6を構成する孔の形状も、平面視円形、楕円形、四角形等種々の形状を採用でき、この流通路6の形状に応じて蓋体5の断面形状も種々の形状を採用することができる。蓋体5としては、管路1の軸方向に移動するものでなくてもよく、蓋体5の一部と遮蔽体2とをヒンジ等で枢結して、蓋体5がこの枢結部を中心に揺動するようなものであってもよい。実施形態では、水素吸蔵物質として水素吸蔵合金を用いたが、合金に限られずカーボン等であってもよい。実施形態では、駆動手段3のケーシング11内に水素用通路を設けたが、このような通路がなくても、水素がこのケーシング11から伸縮体4に流入したり、伸縮体4からケーシング11に流入したりするものであればよい。伸縮体4としては、棒部材8を省略してもよい。支持体10としては、実施形態の形状に限られず、また、駆動手段3を直接管路内に固定して支持体10を省略してもよい。
【0035】
実施形態では、流通路6の閉状態で、蓋体5をOリングに圧接させるものとしたが、シール性が担保されればOリングを省略して蓋体5を直接遮蔽体2に当接させてもよい。Oリングを蓋体側に設けてもよい。さらには、他のシール材であってもよい。前記実施形態では、高温時に閉状態となり、低温時に開状態となるものであったが、逆に、高温時に開状態となり、低温時に閉状態となるようにすることもできる。この場合、例えば、蓋体5を遮蔽体2の反駆動装置側に配置するとよい。伸縮体4としては、水素ガスの吸収・放出により伸縮するものであればよいので、ピストンを水素ガスの吸収放出により伸縮させるシリンダ機構等にて構成してもよい。実施形態では、駆動手段3の作動条件として温度に依存するものであったが、圧力に依存するものであってもよい。すなわち、所定の高圧時に閉状態となり、所定の低圧時に開状態となるものとしたり、逆に、所定の高圧時に開状態となり、所定の低圧時に閉状態となるものとしたりすることができる。流体Fは、水素吸蔵物質が機能するための水素元素を含有するものであれば水に限られず、他の液体であってもよく、気体であってもよい。流体の流れる方向としては、実施形態とは逆の方向であってもよい。
【図面の簡単な説明】
【0036】
【図1】本発明の流路開閉装置の断面図である。
【図2】本発明の流路開閉装置の作動状態を示す断面図である。
【符号の説明】
【0037】
1 管路
2 遮蔽体
3 駆動手段
4 伸縮体
5 蓋体
6 流通路
8 棒部材
9 ベローズ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
流体が流通する管路内に設けられる流路開閉装置であって、
駆動手段と、この駆動手段によってその軸方向に伸縮する伸縮体と、流通路を有する遮蔽体と、駆動手段の駆動によって伸縮体を介して前記流通路の開閉を行う蓋体とを備え、
前記駆動手段に、温度の上昇又は圧力の低下にて高圧の水素ガスを放出し、温度の下降又は圧力の上昇にて水素を吸収する水素吸蔵物質を用いたことを特徴とする流路開閉装置。
【請求項2】
前記伸縮体は、伸縮可能なベローズを備えたことを特徴とする請求項1の流路開閉装置。
【請求項3】
前記水素吸蔵物質を、使用環境に応じて選択可能としたことを特徴とする請求項1又は請求項2の流路開閉装置。
【請求項4】
前記水素吸蔵物質は、希土類元素系水素吸蔵合金であることを特徴とする請求項1〜請求項3のいずれか1項の流路開閉装置。
【請求項5】
前記水素吸蔵物質は、マグネシウム系水素吸蔵合金であることを特徴とする請求項1〜請求項3のいずれか1項の流路開閉装置。
【請求項6】
ドレントラップに用いたことを特徴とする請求項1〜請求項5のいずれか1項の流路開閉装置。
【請求項7】
スプリンクラーに用いたことを特徴とする請求項1〜請求項5のいずれか1項の流路開閉装置。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2009−197839(P2009−197839A)
【公開日】平成21年9月3日(2009.9.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−37736(P2008−37736)
【出願日】平成20年2月19日(2008.2.19)
【出願人】(000156938)関西電力株式会社 (1,442)
【Fターム(参考)】