説明

浮上り制振ユニット及び浮上り制振構造

【課題】 精度の向上を図るとともに、施工の手間及び工期の短縮化を図ることのできる浮上り制振ユニット及び浮上り制振構造を提供する。
【解決手段】 予め工場にて形成され、現場にて基礎12上に設置されて柱14を支持する浮上り制振ユニット10であって、基礎12上の柱14取付け位置に設置固定されるベースプレート16と、ベースプレート16の柱14対応位置に上方に向けて一体に突出形成されて柱14の上下方向の移動を許し、かつ、水平方向の変位を拘束する柱支持部18とを有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、地震が発生したときに建物の浮上りを許容して建物に作用する地震力を低減させる浮上り制振ユニット及び浮上り制振構造に関する。
【背景技術】
【0002】
塔状比が高く、スレンダーな建物において、従来の耐震設計では、地震時の柱の引き抜き力に対抗するため、柱及び基礎部の断面が大きくなってしまうこととなる。
【0003】
そこで、柱と基礎部との縁を切り、建物の浮上りを許容することにより、上部構造への地震入力を低減し、柱及び基礎部の断面を小さくする提案がなされている。
【0004】
例えば、柱及び基礎部の一方に凸部、他方に凹部を形成し、これら凸部及び凹部を嵌合させるようにしたものがある。
【0005】
このように、凸部及び凹部を嵌合させる場合、建物の水平方向変位を確実に拘束できるように、高度な製作精度、施工精度が要求されることとなる。
【0006】
このため、凸部と凹部とが水平面同士が面接触し、かつ、隣接する凸部の相対面する垂直面がそれぞれの凹部の垂直面と面接触するようにして、高度な製作精度、施工精度を不要にする提案がなされている(特許文献1参照)。
【特許文献1】特開2002−276192号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
このような特許文献1記載の技術においては、ある程度、高度な製作精度、施工精度が緩和されるものの、凸部及び凹部を現場施工によることとなるため、施工の手間がかかり、工期も長くなるという問題がある。
【0008】
また、浮上り量が大きいと、着地時の衝撃が大きくなり、居住者に無用な不安を与える可能性がある。
【0009】
本発明の目的は、精度の向上を図るとともに、施工の手間及び工期の短縮化を図ることのできる浮上り制振ユニット及び浮上り制振構造を提供することにある。
【0010】
本発明の他の目的は、建物の浮上り量を抑制し、着地時の衝撃を抑え、居住者の無用の不安を生じさせることのない浮上り制振ユニット及び浮上り制振構造を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
前記目的を達成するため、本発明の浮上り制振ユニットは、予め工場にて形成され、現場にて基礎上に設置されて柱を支持する浮上り制振ユニットであって、
前記基礎上の柱取付け位置に設置固定されるベースプレートと、
前記ベースプレートの柱対応位置に上方に向けて一体に突出形成されて前記柱の上下方向の移動を許し、かつ、水平方向の変位を拘束する柱支持部と、
を有することを特徴とする。
【0012】
本発明によれば、浮上り制振ユニットを予め工場で形成することにより、柱の水平方向の変位を拘束する柱支持部を精度よく製造することができ、しかも、浮上り制振ユニットを施工現場において柱位置に対応させて取り付けるだけでよく、施工の手間及び工期の短縮化を図ることができる。
【0013】
本発明においては、前記柱支持部に下端部が差し込み支持され上端に柱本体が接続可能にされた柱下部部材を有するものとすることができる。
【0014】
このような構成とすることにより、柱下部部材と柱支持部とをより精度よく形成することができ、施工現場では柱下部部材と柱本体とを接続するだけでよく、より施工の手間及び工期の短縮化を図ることができる。
【0015】
この場合、前記柱下部部材の外面と前記ベースプレートとをダンパーにて接続することができる。
【0016】
このような構成とすることにより、ダンパーによって柱の浮上り量を抑制して、着地時の衝撃を抑え、居住者の無用の不安をなくすことができる。
【0017】
また、ダンパーは、柱下部部材とベースプレートとに接続されているので、施工現場におけるダンパーの取付け作業を行う必要がなく、施工の手間及び工期の短縮化を図ることができる。
【0018】
本発明においては、前記ベースプレートには、設置時に前記柱に接続されて前記柱の浮上りを抑制するダンパーが設けられるようにすることができる。
【0019】
このような構成とすることにより、ダンパーによって柱の浮上り量を抑制して、着地時の衝撃を抑え、居住者の無用の不安をなくすことができる。
【0020】
本発明において、ダンパーを用いる場合、前記ダンパーは、極低降伏点鋼を縦型に用いるようにすることができる。
【0021】
このような構成とすることにより、柱の浮上り時に生じる引っ張り力が縦型に配した極低降伏点鋼に作用し、この極低降伏点鋼の塑性変形により、効率よく柱の浮上り量を抑制することができる。
【0022】
本発明の浮上り制振構造は、ダンパーを構成要素とする浮上り制振ユニットを用いた浮上り制振構造であって、
前記ダンパーは、柱の内側に配置され、
前記柱には、ダンパー点検用の開口部が形成されていることを特徴とする。
【0023】
本発明によれば、ダンパーを柱の内部に配置することで、柱の内部空間を有効利用して、ダンパーの室内設置スペースが不要となる。
【0024】
また、柱に形成したダンパー点検用の開口部より容易にダンパーの点検、交換が可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0025】
以下、本発明の実施の形態について、図面を参照して説明する。
【0026】
図1は、本発明の一実施の形態に係る浮上り制振ユニットの取付け状態を示す断面図である。
【0027】
この浮上り制振ユニット10は、予め工場にて形成され、施工現場にて基礎12上に設置されて柱14の下端を支持するもので、ベースプレート16と、柱支持部18とを有している。
【0028】
基礎12には、柱14取付け位置に複数のアンカーボルト20が上面より突出した状態で設けられている。
【0029】
柱14は、断面ボックス状の鋼製もので、内部は空洞状態となっている。
【0030】
ベースプレート16は、基礎12上の柱14取付け位置に設置固定されるもので、柱14の断面積よりも十分に大きな面積を有する方形状の鋼板製のものとされている。
【0031】
また、このベースプレート16には、各アンカーボルト20対応位置に取り付け用長孔22が形成され、取付け位置が調整できるようになっている。
【0032】
柱支持部18は、柱14の上下方向の移動を許し、かつ、水平方向の変位を拘束するもので、ベースプレート16の柱14対応位置に、柱14の外面と略相当する内面をもって方形枠状に上方に向けて溶接等にて一体に突出形成された鋼板製のものとされている。
【0033】
この柱支持部18の突出高さは、柱14の上下方向の移動を許し、かつ、水平方向の変位を拘束し得る程度の高さに設定される。
【0034】
この浮上り制振ユニット10の取付けに際しては、まず、ベースプレート16の取り付け用長孔22内にアンカーボルト20を挿通させた状態で、ベースプレート16を基礎12上に載置し、ベースプレート16の位置を調整可能な状態としておく。
【0035】
この状態で、柱14を建て込み、ベースプレート16の位置を調整しながら、柱14の下端を柱支持部18内に差し込み、ベースプレート16の位置が決まったら、アンカーボルト20にナット24を取り付けてベースプレート16を締め付け固定し、ベースプレート16上に柱14の下端を載置すれば、取付けが完了する。
【0036】
この場合、基礎12の上面に多少の凹凸があっても、ベースプレート16が柱14と基礎12との間に存在するため、基礎12の上面の平滑処理は不要となり、施工の手間が省けることとなる。
【0037】
このように、浮上り制振ユニット10を予め工場で形成することにより、柱14の水平方向の変位を拘束する柱支持部18を精度よく製造することができ、しかも、浮上り制振ユニット10を施工現場において柱14位置に対応させて取り付けるだけでよく、施工の手間及び工期の短縮化を図ることができる。
【0038】
図2は、本発明の他の実施の形態に係る浮上り制振ユニットの取り付け状態を示す断面図である。
【0039】
この浮上り制振ユニット30は、図1の浮上り制振ユニット10の状態に加え、ダンパー32を有している。
【0040】
このダンパー32は、地震時における柱14の浮上りを抑制するもので、縦型に配したプレート状の極低降伏点鋼34の周囲を上下プレート36a、36b及び左右の取り付けプレート38a、38bで囲んだ状態となっている。
【0041】
また、このダンパー32は、ボルト・ナット42を介してベースプレート16上に固定された取り付けブラケット40に取り付けられた状態となっている。
【0042】
そして、この状態で施工現場まで搬入され、柱14と基礎12との間に配設した後、柱補強用プレート44を介在させた状態で、ボルト・ナット46にて取り付けプレート38bを柱に固定することで、ダンパー32をベースプレート16と柱14とに接続するようになっている。
【0043】
このように、地震による柱14の浮上り時に生じる引っ張り力が縦型に配した極低降伏点鋼34に作用し、この極低降伏点鋼34の塑性変形により、効率よく柱14の浮上り量を抑制することができ、着地時の衝撃を抑え、居住者の無用の不安をなくすことができる。
【0044】
他の構成及び作用は、前記実施の形態と同様につき説明を省略する。
【0045】
図3は、本発明のさらに他の浮上り制振ユニットを示す斜視図である。
【0046】
同図(A)は、浮上り制振ユニットの組み立て状態、同図(B)は、分解状態を示している。
【0047】
この浮上り制振ユニット50は、図1の浮上り制振ユニット10の状態に加え、柱下部部材52を有している。
【0048】
この柱下部部材52は、柱支持部18に下端部が差し込み支持され、上端に柱本体、例えば柱14が接続可能にされている。
【0049】
このように、柱下部部材52も工場で製造することにより、柱下部部材52と柱支持部16とをより精度よく形成することができ、施工現場では柱下部部材52と柱本体とを溶接等により接続するだけでよく、より施工の手間及び工期の短縮化を図ることができる。
【0050】
他の構成及び作用は、図1の実施の形態と同様につき説明を省略する。
【0051】
図4は、本発明のさらに他の浮上り制振ユニットを示す斜視図である。
【0052】
同図(A)は、浮上り制振ユニットの組み立て状態、同図(B)は、分解状態を示している。
【0053】
この浮上り制振ユニット60は、柱本体としてクロスH型鋼を用いる場合を示しており、クロスH型鋼からなる柱下部部材62を有している。
【0054】
また、柱下部部材62の形状に対応して、柱下部部材62の中央クロス部分対応位置のベースプレート16上に、クロスの4面を支持する4つのL字部材64からなる柱支持部材66を突出形成している。
【0055】
なお、柱下部部材62を省略してクロスH型鋼からなる柱を直接柱支持部材66にて支持するようにすることも可能である。
【0056】
他の構成及び作用は、図1及び図3の実施の形態と同様につき説明を省略する。
【0057】
図5〜図8は、図2の浮上り制振ユニットにおけるダンパーの変形例を示すそれぞれの斜視図である。
【0058】
図5では、図2のダンパー32に代えて、棒形の極低降伏点鋼70からなるダンパー72を用いるようにしている。
【0059】
図6では、図2のダンパー32に代えて、粘弾性部材74のエネルギー吸収を利用したダンパー76を用いるようにしている。
【0060】
図7では、図2のダンパー32に代えて、鋼板78の摩擦力を利用したダンパー80を用いるようにしている。
【0061】
図8では、図2のダンパー32に代えて、鋼板82の塑性変形によるエネルギー吸収を用いたダンパー84を用いるようにしている。
【0062】
このような、図2及び図5〜図8の浮上り制振ユニット30においては、柱下部部材を予め工場で形成してダンパー32、72、76、80、84を予めベースプレート16及び柱部材に取り付けておくようにすることで、施工現場におけるダンパーの取付け作業を行う必要がなく、施工の手間及び工期の短縮化を図ることができる。
【0063】
図9は、本発明のダンパー付きの浮上り制振ユニットを用いた浮上り制振構造の一例を示す断面図である。
【0064】
この浮上り制振構造では、棒形の極低降伏点鋼70からなるダンパー72を用いた浮上り制振ユニット30を採用している。
【0065】
この場合、ダンパー72は柱14の内側に配置されて、ダンパー72が柱14の内側面とベースプレート16とに取り外し可能に設けられている。
【0066】
柱14には、ダンパー72の取り付け対応位置にダンパー点検用の開口部90が形成され、この開口部の周囲を補強プレート92で補強するようにしている。
【0067】
このようにすることで、柱14の内部空間を有効利用して、ダンパー72の室内設置スペースが不要となり、また、柱14に形成したダンパー点検用の開口部92より容易にダンパー72の点検、交換が可能となる。
【0068】
なお、ダンパーとしては、図2、図6〜図8に示すようなダンパーを用いることも可能である。
【0069】
本発明は、前記実施の形態に限定されるものではなく、本発明の要旨の範囲内において種々の実施の形態に変形可能である。
【0070】
前記実施の形態では、柱を鋼製のものとしているが、この例に限らず、鉄筋コンクリート製等のものを採用することも可能である。
【0071】
また、柱としてボックス断面形状のもの及びクロスH型鋼製のものを示したが、断面円形当種々の形状のものを採用することができる。
【0072】
さらに、クロスH型鋼製の柱の場合でも、ダンパーを取り付けることが可能で、この場合、特に、内部空間にダンパーを取り付けると外部に突出するダンパースペースが不要となり、しかも、フランジ間の隙間を点検用開口部として利用することも可能である。
【図面の簡単な説明】
【0073】
【図1】本発明の一実施の形態に係る浮上り制振ユニットの取付け状態を示す断面図である。
【図2】本発明の他の実施の形態に係る浮上り制振ユニットの取り付け状態を示す断面図である。
【図3】本発明のさらに他の浮上り制振ユニットを示す斜視図で、同図(A)は、浮上り制振ユニットの組み立て状態、同図(B)は、分解状態を示す図である。
【図4】本発明のさらに他の浮上り制振ユニットを示す斜視図で、同図(A)は、浮上り制振ユニットの組み立て状態、同図(B)は、分解状態を示す図である。
【図5】図2の浮上り制振ユニットにおけるダンパーの第1の変形例を示す斜視図である。
【図6】図2の浮上り制振ユニットにおけるダンパーの第2の変形例を示す斜視図である。
【図7】図2の浮上り制振ユニットにおけるダンパーの第3の変形例を示す斜視図である。
【図8】図2の浮上り制振ユニットにおけるダンパーの第4の変形例を示す斜視図である。
【図9】本発明のダンパー付きの浮上り制振ユニットを用いた浮上り制振構造の一例を示す断面図である。
【符号の説明】
【0074】
10、30、50、60 浮上り制振ユニット
12 基礎
14 柱
16 ベースプレート
18、66 柱支持部
32、72、76、80、84 ダンパー
34 極低降伏点鋼
52、62 柱下部部材
90 開口部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
予め工場にて形成され、現場にて基礎上に設置されて柱を支持する浮上り制振ユニットであって、
前記基礎上の柱取付け位置に設置固定されるベースプレートと、
前記ベースプレートの柱対応位置に上方に向けて一体に突出形成されて前記柱の上下方向の移動を許し、かつ、水平方向の変位を拘束する柱支持部と、
を有することを特徴とする浮上り制振ユニット
【請求項2】
請求項1において、
前記柱支持部に下端部が差し込み支持され上端に柱本体が接続可能にされた柱下部部材を有することを特徴とする浮上り制振ユニット。
【請求項3】
請求項2において、
前記柱下部部材の外面と前記ベースプレートとをダンパーにて接続したことを特徴とする浮上り制振ユニット。
【請求項4】
請求項1において、
前記ベースプレートには、設置時に前記柱に接続されて前記柱の浮上りを抑制するダンパーが設けられていることを特徴とする浮上り制振ユニット。
【請求項5】
請求項3又は4において、
前記ダンパーは、極低降伏点鋼を縦型に用いていることを特徴とする浮上り制振ユニット。
【請求項6】
請求項3〜5のいずれかに記載の浮上り制振ユニットを用いた浮上り制振構造であって、
前記ダンパーは、柱の内側に配置され、
前記柱には、ダンパー点検用の開口部が形成されていることを特徴とする浮上り制振構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2006−214120(P2006−214120A)
【公開日】平成18年8月17日(2006.8.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−26451(P2005−26451)
【出願日】平成17年2月2日(2005.2.2)
【出願人】(000166432)戸田建設株式会社 (328)
【出願人】(000195971)西松建設株式会社 (329)
【Fターム(参考)】