説明

海底音響映像システム

【課題】合成開口技術とインターフェロメトリ技術を用い、海底面及び海底面上、及び海底面下の物体の三次元画像を高分解能で生成可能な海底音響映像システムを提供する。
【解決手段】海中を航行するプラットフォーム60に取り付けられ、航行する方向に垂直な向きで海底面に第1探査波を照射する送波器72と、航行する方向に垂直な方向、且つ前記第1探査波の照射方向に交差する方向に配列され、反射波をそれぞれ受波する受波アレイ74と、反射波から合成開口処理情報を生成する合成開口演算処理部と、前記プラットフォーム60の位置情報を生成する慣性航法装置と、合成開口処理済みの反射波同士の位相差に基づいて反射波の到来角を算出するとともに、前記到来角と、前記位置情報と、に基づいて反射波の反射源の三次元の位置を算出するインターフェロメトリ演算部と、を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、合成開口技術を用いた海底音響映像システムに係り、特に海底下に埋没した物体の位置及び形状を検知可能な海底音響映像システムに関する。
【背景技術】
【0002】
海上や海底に施設を建設するに先立って、その海域の海底面や海底面下において爆弾・機雷等の有害危険物の探査・回収が行なわれる。海底面上にある物体、及び海底面下に埋没している物体を検知する従来技術としては、磁気探査技術がある。磁気探査技術とは、例えば一定の間隔で配置され差動接続された2つの磁気コイルが検知する磁気の差分により局所磁場を検出し、局所磁場を発生させる物体を探査するものである。しかし、磁気探査は、反応の強弱で物体の有無を確認する技術であるが、数メートルの位置誤差を含み、海底面上に露出しているか海底面下に埋没しているかの区別は困難であり、大きさや形状の特定も困難である。よって磁気異常が検知されても、そこで実際に有害危険物が発見される確率は著しく低かった。
【0003】
そこで、海底面及び海底面下の物体の形状を認識できる技術として水中音響による合成開口ソーナー技術が注目されている。合成開口ソーナー技術は、海中を航行する移動体に搭載した送受信装置において、移動によって時々刻々取得される複数のデータを、ある場所でのデータの再構成(ホログラム画像の形成)に利用することで、画像の分解能の向上を図る技術である。そして、海底面及び海底面下のデータを得るには海中に音波を照射して、その反射波を受信する必要があるが、海底面下のデータを得るには海底面下に音波を透過させるため、数十KHzあるいはそれ以下の低周波の音波を照射する必要がある。さらに物体の形状を高い分解能で認識するためには様々な技術が必要とされる。例えば、特許文献1においては、海底堆積層の音波伝播時間と、堆積層がない場合の音波伝播時間との時間差をソーナー受信信号のリサンプリング、もしくは合成開口処理におけるカーバチャ形状の補正として与えることで、海底堆積層が存在することによる合成開口処理後画像中の対象物の輝度・コントラストをフォーカスの評価指標として位置精度、描画の分解能を向上させる技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2010−175429号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ここで、特許文献1を含め、従来技術においては、海中を航行する移動体にソーナーと慣性航法装置を取り付け、慣性航法装置による位置情報と、ソーナーが得た反射波の情報から合成開口画像を得ていた。しかし、慣性航法装置による位置情報は時間経過とともにその誤差が増大するため、合成開口画像を高い分解能で得ることは困難であった。このため検出された音波が海底面下で反射されたものである場合、音波を反射する物体の形状の特定、位置・深さの算出が困難であった。
【0006】
そこで本発明は、上記問題点に着目し、合成開口技術とインターフェロメトリ技術を用い、海底面及び海底面上の物体の三次元画像、及び海底面下の物体の三次元画像を高分解能で生成可能な海底音響映像システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するため、本発明に係る海底音響映像システムは、第1には、海中を航行するプラットフォームに取り付けられ、前記プラットフォームが航行する方向に垂直な向きで海底面に第1探査波を照射する送波器と、前記プラットフォームに取り付けられ、前記プラットフォームの航行する方向に垂直な方向、且つ前記第1探査波の照射方向に交差する方向に配列され、前記第1探査波の反射波をそれぞれ受波する複数の受波器と、前記第1探査波の反射波から合成開口処理情報を生成する合成開口演算処理部と、前記プラットフォームに取り付けられ、前記プラットフォームの位置情報を生成する慣性航法装置と、前記合成開口処理情報を構成する合成開口処理済みの第1探査波の反射波同士の位相差に基づいて前記第1探査波の反射波の到来角を算出するとともに、前記到来角と、前記位置情報と、に基づいて前記第1探査波の反射波の反射源の三次元の位置を算出するインターフェロメトリ演算部と、を有することを特徴とする。
【0008】
上記構成により、合成開口技術とインターフェロメトリ技術を併用して、反射波の反射源の三次元の位置を算出することができる。また反射波は海底面上の物体のみならず海底面より上でも反射する。よって、これを全ての位置情報に対応して算出することにより、反射波の反射源となる海底面上に配置され物体及び海底面より上の三次元画像を生成することが可能な海底音響映像システムとなる。
【0009】
第2には、前記第1探査波は、海底面下に透過可能な波長帯域を有し、前記合成開口処理情報は、海底面上で反射された海底面反射波の情報と、海底面下で反射された海底下反射波の情報と、を有し、前記インターフェロメトリ演算部は、前記海底下反射波と、前記海底下反射波と同一の到来角を有する前記海底面反射波と、の前記受波器への到達時間の時間差に基づいて、前記合成開口処理情報から、前記海底面反射波の情報と、前記海底下反射波の情報と、をそれぞれ抽出するとともに前記時間差の情報を生成し、前記海底下反射波と同一の到来角を有する前記海底面反射波の反射位置を算出することにより、前記海底下反射波の海底面上の通過位置の情報を算出し、前記位置情報と、前記通過位置の情報と、前記時間差の情報と、に基づいて前記海底下反射波の反射源の三次元の位置を算出可能とすることを特徴とする。
【0010】
上記構成により、合成開口技術とインターフェロメトリ技術を併用して、海底下反射波の反射源の位置、深さを算出することができる。そして、これを全ての位置情報に対応して算出することにより、海底下反射波の反射源となる海底面下に埋没した物体の形状と、その位置、深さを表す三次元画像を生成することが可能な海底音響映像システムとなる。
【0011】
第3には、前記プラットフォームに取り付けられ、海底面で反射する第2探査波を前記プラットフォームの航行する方向に垂直な方向、且つ前記第1探査波の照射方向に交差する方向に照射し、前記第2探査波の反射波を受波する高周波送受波器を有し、前記インターフェロメトリ演算部は、前記第2探査波の反射波から生成される高周波海底面情報を用いて前記合成開口処理情報から前記海底下反射波の情報を抽出することを特徴とする。
【0012】
上記構成により、合成開口処理情報から海底面反射波の情報と海底下反射波の情報と、の抽出が困難である場合、海底面下には透過しない第2探査波の反射波に基づいた高周波海底面情報を用いて、合成開口処理情報から海底下反射波の情報を識別することができる。
【0013】
第4には、前記受波器は、前記プラットフォームが航行する方向に垂直な方向、且つ前記第1探査波の照射方向に交差する方向に3つ以上配列されたことを特徴とする。
上記構成により、受波器で検出される第1探査波の反射波の到来角の分解能を高めることができるとともに、合成開口処理情報のノイズを抑制することができる。
【0014】
第5には、海上に配置されるとともに前記プラットフォームに測位用音響信号(質問信号)を送信し、前記プラットフォームから反射された前記測位用音響信号の反射信号(質問信号に対する返信信号)を受信して前記プラットフォームとの相対位置の情報を算出する測位手段を有し、前記測位手段は、前記相対位置の情報と、GPS測位に基づく前記測位手段の地理情報と、により前記プラットフォームの測位情報を生成して前記慣性航法装置に出力し、前記慣性航法装置は、前記測位情報により前記位置情報を更新することを特徴とする。
【0015】
上記構成により、慣性航法装置は、相対位置の情報及びGPS測位に基づく地理情報の精度で生成された測位情報により位置情報を更新することができる。よって、合成開口処理情報及び三次元画像において慣性航法装置の位置情報の誤差による分解能の劣化を抑制し、海底面及び海底面上の物体の三次元画像、及び海底面下の物体の三次元画像を高分解能で生成することが可能な海底音響映像システムとなる。
【0016】
第6には、前記測位手段は、前記測位用音響信号(質問信号)の反射信号(返信信号)を受信するとともに、前記反射信号の互いに直交する3方向の位相差を検出する受波手段を有し、前記位相差に基づいて前記相対位置の情報を生成することを特徴とする。
これにより、狭い海域においても大掛かりな装置を用いることなく、測位手段とプラットフォームとの相対位置を算出することが可能な海底音響映像システムとなる。
【0017】
第7には、海上に配置されるとともに前記プラットフォームに測位用音響信号をそれぞれ送信し、前記プラットフォームから反射された前記測位用音響信号(質問信号)の反射信号(返信信号)の戻り時間をそれぞれ算出する複数の測位手段を有し、複数の前記測位手段のいずれか1つは、各測位手段で算出された前記戻り時間の情報と、前記複数の測位手段のうち少なくとも1以上の前記測位手段のGPS測位に基づく地理情報と、に基づいて前記プラットフォームの測位情報を生成して前記慣性航法装置に出力し、前記慣性航法装置は、前記測位情報により前記位置情報を更新することを特徴とする。
これにより、プラットフォームの位置情報を算出することが可能な海底音響映像システムとなる。
【0018】
第8には、前記プラットフォームにはトランスポンダが配置され、前記トランスポンダは、前記測位用音響信号を質問信号として受信し、前記測位用音響信号の反射信号として返信信号を送信することを特徴とする。
上記構成により、測位用音響信号の反射信号を大きな強度で送信することができ、測位手段を用いたプラットフォームの測位情報の生成を容易に行うことができる。
【0019】
第9には、前記測位手段は、前記測位手段を移動させるアクチュエータを有し、前記プラットフォームと前記測位手段との相対位置が一定となるように前記アクチュエータの出力を調整可能とすることを特徴とする。
これにより、プラットフォームと測位手段との相対位置の変動を抑制し、相対位置の情報の誤差を抑制することが可能な海底音響映像システムとなる。
【0020】
第10には、前記プラットフォームに測位用音響信号をそれぞれ送信し、前記プラットフォームから反射された前記測位用音響信号の反射信号の戻り時間をそれぞれ算出する複数の測位手段が海底に固定され、各測位手段で算出された前記戻り時間の情報と、各測位手段の位置情報と、に基づいて前記プラットフォームの測位情報を生成して前記慣性航法装置に出力し、前記慣性航法装置は、前記測位情報により前記位置情報を更新することを特徴とする。
これにより、測位手段の位置を既知とすることができるので、GPS測位に基づく地理情報を用いることなく、外部でプラットフォームの測位情報を生成することが可能な海底音響映像システムとなる。
【発明の効果】
【0021】
本発明に係る海底音響映像システムによれば、慣性航法装置による位置情報をGPS測位に基づく地理情報により更新するため、合成開口処理情報(合成開口画像)及び三次元画像の分解能の劣化を抑制することができ、海底面上の物体のみならず、海底面下に埋没した物体を識別することができるとともに、その形状の特定や、位置・深さの算出を行なうことができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本実施形態の海底音響映像システムの概要図であり、図1(a)は第1実施形態の海底音響映像システムの概要(正面図)、図1(b)は表層追尾ブイとプラットフォームの底面図、図1(c)は海底音響映像システムの部分詳細図である。
【図2】送波器から照射される第1探査波の照射範囲、高周波送受波器から照射される第2探査波の照射範囲を示す。
【図3】インターフェロメトリの原理を示す図である。
【図4】海底面下に反射源となる物体が埋没している場合の第1探査波の伝播経路を示す図である。
【図5】第1探査波の反射波の情報と、第2探査波の反射波の情報とを比較した図である。
【図6】本実施形態の海底音響画像システムの一例となるブロック図である。
【図7】本実施形態の画像生成処理の一例となるブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明を図に示した実施形態を用いて詳細に説明する。但し、この実施形態に記載される構成要素、種類、組み合わせ、形状、その相対配置などは特定的な記載がない限り、この発明の範囲をそれのみに限定する主旨ではなく単なる説明例に過ぎない。
【0024】
図1に本実施形態の海底音響映像システムの概要を示し、図1(a)は本実施形態の海底音響映像システムの概要(正面図)、図1(b)は表層追尾ブイとプラットフォームの底面図、図1(c)は海底音響映像システムの部分詳細図である。また図2に送波器から照射される第1探査波の照射範囲、高周波送受波器から照射される第2探査波の照射範囲を示す。
【0025】
本実施形態の海底音響映像システム10は、観測船12と、海上に浮かんだ状態で配置されるとともにアクチュエータにより移動可能な測位手段となる表層追尾ブイ28と、海中を航行するプラットフォーム60と、を有する。観測船12には無線LAN端末14(PC、モニタ)が備えられている。そして表層追尾ブイ28は、無線LAN端末30、音響モデム46等を有する。またプラットフォーム60にも音響モデム62が備えられている。
【0026】
よって、観測船12に設けられた無線LAN端末14と、表層追尾ブイ28に設けられた無線LAN端末30は、無線LAN16により双方向通信が可能となっている。また、表層追尾ブイ28に設けられた音響モデム46とプラットフォーム60に設けられた音響モデム62は、通信信号58(音波)により双方向通信が可能となっている。なお上述の通信信号58、後述の質問信号108(測位用音響信号)、後述の返信信号108a(測位用音響信号の反射波)、後述の第1探査波92及び第2探査波93は、互いに干渉しない周波数を有するものとする。
【0027】
観測船12に設置された無線LAN端末14は、PC(パーソナルコンピュータ)やモニタ(不図示)、マウス(不図示)、キーボード(不図示)等により構成されている。さらに無線LAN端末14はインターフェース(不図示)を通じてプラットフォーム60を操縦するハンドル(不図示)に接続されている。そして無線LAN端末14は、無線LAN16を介して表層追尾ブイ28、プラットフォーム60に対して様々な指示を与えることができる。なお観測船12は、表層追尾ブイ28及びプラットフォーム60から十分離れた位置に待機し、観測船12のエンジン音等、後述の反射波92a、反射波93aのノイズの原因を発生させないようにする。
【0028】
表層追尾ブイ28は、プラットフォーム60の測位情報54を算出してプラットフォーム60側に送信するものである。また表層追尾ブイ28は、プラットフォーム60と一定の距離を保つように移動するものである。このため表層追尾ブイ28には、トランスデューサ32、スラスタ44、GPS受信器40が設置されている。
【0029】
また表層追尾ブイ28には、質問信号108を送信する質問信号送波器64が取り付けられ、プラットフォーム60に配置されたトランスポンダ61に向けて質問信号108を送信する。
【0030】
測位手段となるトランスデューサ32は、SSBL(Super Short Base Line)方式により表層追尾ブイ28とプラットフォーム60との相対位置を算出するために用いるものである。トランスデューサ32は、互いに直交する3つの方向、例えばX軸方向(アジマス方向)、Y軸方向(グランドレンジ方向)、Z軸方向(鉛直方向)の互いに異なる位置に配置され、トランスポンダ61から送信された返信信号108aを受信する複数の受波素子(不図示)により構成されている。そして受波素子(不図示)により、受信した返信信号108aのX軸方向、Y軸方向、Z軸方向の位相差を算出して、この位相差に基づいて表層追尾ブイ28とプラットフォーム60との相対位置を算出することができる。このようにSSBL音響測位システムを使用することにより、狭い海域においても大掛かりな装置を用いることなく、表層追尾ブイ28とプラットフォーム60との相対位置を算出することができる。
【0031】
アクチュエータとなるスラスタ44は、表層追尾ブイ28を海面上で移動させるものである。そしてスラスタ44は、後述のように対応する出力パラメータ56(図6参照)を調整することにより表層追尾ブイ28を移動、回転させる。
【0032】
これにより表層追尾ブイ28は、X軸方向(アジマス方向)、X軸に垂直なY軸方向(グランドレンジ方向)の並進運動のほか、X軸及びY軸に垂直なZ軸(鉛直方向)を回転軸とする回転運動を行なうことができる。
【0033】
プラットフォーム60は、基本的には海中を一定の速度で一定の方向に向かって進行するものである。プラットフォーム60にはスラスタ112が取り付けられ、プラットフォーム60に対してX軸方向(アジマス方向)のサージ(前後)、Y軸方向(グランドレンジ方向)のスウェイ(左右)、Z軸方向(鉛直方向)のヒーブ(上下)の並進運動を行なわせることができる。このうちプラットフォーム60が後述の第1探査波92、第2探査波93を照射する際に航行する方向はアジマス方向となる。
【0034】
またスラスタ112は、プラットフォーム60に対してロール(X軸回転)、ピッチ(Y軸回転)、ヨー(Z軸回転)の回転運動を行なわせることができる。そしてプラットフォーム60の運動は、予め入力された航行プログラムの情報、あるいは観測船12の無線LAN端末14等から入力される信号によりスラスタ112の出力を制御して行なうことができる。
【0035】
さらにプラットフォーム60には、トランスポンダ61、慣性航法装置68(図7参照)、ドップラー速度計70が取り付けられている。トランスポンダ61は、質問信号送波器64から送信された質問信号108を受信すると、返信信号108aを送信するものである。このトランスポンダ61を配置することにより返信信号108a(測位用音響信号の反射信号)を大きな強度で送信することができ、表層追尾ブイ28を用いたプラットフォーム60の後述の測位情報54の生成を容易に行うことができる。
【0036】
慣性航法装置68は、一定の時間間隔で加速度情報を生成し、さらにそれを積分することにより速度情報、位置情報を生成して後述の記憶部84(図7参照)に出力する。また慣性航法装置68は、後述のようにプラットフォーム60の姿勢情報を生成して後述の記憶部84(図7参照)に出力する。
【0037】
ドップラー速度計70は、X軸方向、Y軸方向の速度情報を生成するものである。ドップラー速度計70は、例えばレーザ光を被測定物である海底面の同一位置に対して速度方向(X軸方向、Y軸方向)の前方側と後方側から照射し、その散乱光を受光部(不図示)で受け、散乱光の波長変化の大きさを検出することにより海底とプラットフォーム60との相対速度の成分を抽出している。
【0038】
プラットフォーム60には、海中や海底を静止画若しくは動画として撮影するカメラ104(図6参照)や、水圧により水深を測る水深計106(図6参照)が取り付けられる場合もあり、観測船12側に海中や海底を静止画若しくは動画を表すカメラ104の情報、水深を示す水深計106の情報を出力することもできる。
【0039】
さらにプラットフォーム60には、図1に示すようにプレート60aが取り付けられる場合があり、そのプレート60aは図2に示すように、その法線をアジマス方向(プラットフォーム60の進行方向)に垂直に向けた状態で海底に向けて一定の角度(スラントレンジ方向)(オフナディア角:φ)に向くように固定されている。
【0040】
そして、図1に示すように、送波器72、受波器となる受波アレイ74、高周波送受波器76は、それぞれの音波の照射方向、受波方向をプレート60aの法線と同様にアジマス方向に垂直に向けた状態で海底に向けて一定の角度(スラントレンジ方向、オフナディア角:φ)に向くようにして設置される(図2参照)。図1等においては、送波器72、受波アレイ74、高周波送受波器76はプレート60aに取り付けられているが、これらの構成要素が上述の向きでプラットフォーム60に配置される限り、これらの構成要素を必ずしもプレート60aに取り付ける必要はない。送波器72は、第1探査波92を海底に向けて照射し、受波アレイ74は海底で反射された第1探査波92(図3参照)の反射波92a(図3参照)を受信する。
【0041】
図1(c)に示すように、受波アレイ74(受波器)は複数(図では5個)の受波素子をアジマス方向に一列に並べて形成されている。また本実施形態において、受波アレイ74は、プラットフォーム60の航行する方向(アジマス方向)に垂直な方向(図1(c)参照)、且つ第1探査波92の照射方向(スラントレンジ方向)に交差する方向(図3参照)に間隔を置いて複数配置されている。よって反射波92aの情報は受波素子ごとに生成され、互いに識別可能な状態で後述の記憶部84(図7参照)に記憶されることになる。
【0042】
本実施形態では、反射波92aの情報に対して合成開口処理を行うことによりアジマス方向の分解能を高めることができる。ここで受波素子のアジマス方向の長さをLとすると、合成開口処理情報(合成開口画像)の理論上のアジマス方向の分解能はL/2となる。また送波器72は、周波数変調(例えばチャープ変調)を掛けた状態でレンジ方向にパルス状の第1探査波92を照射することができる。そして、第1探査波92の反射波92aの情報の圧縮操作を行なうことによりレンジ方向の分解能を高めることができる。ここで、合成開口処理情報とは、上述の方法により分解能を高めた後述の反射波92bの情報(反射波92bの強度や位相等の時系列の情報)をプラットフォーム60の位置情報(海底の地理情報)に対応して生成し、探査範囲に含まれる全ての位置情報に反射波92bの情報を対応させたものである。なお合成開口処理及び周波数変調は従来技術なのでその説明を省略する。
【0043】
第1探査波92は、数十kHz或いはそれ以下と低周波であり、海底面下にも透過可能な程度の低周波である。よって海底面下に物体が埋没している場合には第1探査波92はその物体により反射する。すなわち、反射波92aは、海底面で反射された成分と海底面下で反射された成分とを有する。しかし、第1探査波92は海底面においてかなりの部分が反射されるため、海底面で反射された成分の強度は強くなるが海底面下で反射された成分の強度は小さいものとなる。
【0044】
従来技術のように受波アレイ74が一つの場合は、第1探査波92が照射されてからその反射波92aを受波アレイ74が受波するまでの戻り時間から、反射源となる物体までの距離は測定可能であるが、その方向、すなわち反射源の位置の測定は不可能である。そこで、本実施形態においては、後述のように、送波器72、複数の受波アレイ74を用いたインターフェロメトリ技術により、合成開口処理情報を構成する第1探査波92の反射波92b(合成開口処理済みの反射波)の到来角を算出する。
【0045】
高周波送受波器76は、海底面からの反射波を受波して高周波海底面情報を生成するものである。よって高周波送受波器76は、殆どが海底面下には透過せず海底面で反射される周波数を有する第2探査波93(図7参照)を海底に向けて一定の照射角度(スラントレンジ方向)で照射し、その反射波93a(図5参照)を受信する。また図2に示すように、高周波送受波器76は、送波器72と同様の照射角を有し、アジマス方向に非常に狭い角度で、レンジ方向に広い角度(ニアレンジ〜ファーレンジ)で第2探査波93を照射可能となっている。よって高周波海底面情報は、第2探査波93のアジマス方向の幅に対応したアジマス方向の分解能を有し、反射波93aの強度の時系列の時間分解能に対応したレンジ方向の分解能を有する。
【0046】
図3にインターフェロメトリの原理を示す。図3に示すように、送波器72、受波アレイ74はレンジ方向及びアジマス方向に垂直な方向に間隔を置いて並んで配置されている。
【0047】
まず受波アレイ74が2つの場合について考える。送波器72から第1探査波92が照射されると、反射源となるターゲットOにおいて第1探査波92は球面波状に反射され、ターゲットOから受波アレイ74までの距離が十分にある場合には反射波92b(92a)はほぼ平面波となって受波アレイ74に到達する。しかし各受波アレイ74とターゲットOとの距離は互いに異なるため、各受波アレイに反射波92b(92a)が到達する時間、すなわち反射波92b(92a)の位相が異なる。よって、受波アレイ74間で生じる反射波92bの位相差に基づいて反射波92bの到来角(α)を算出することができ、さらに受波アレイ74への第1探査波92の戻り時間に基づいてターゲットOの三次元の位置(平面位置、深さ)を算出することができる。
【0048】
また上述のように送波器72、受波アレイ74は、プレート60a上に置かれている場合でも互いに異なる位置に配置されているため、ターゲットOから反射された反射波92bは受波アレイ74間において必ず位相差が生じる。よって位相差の生じない信号があった場合には、これをノイズとして除去することが可能となる。以上の演算は後述のインターフェロメトリ演算部80において演算可能である。
【0049】
ここで、受波アレイ74間の寸法が、レンジ方向の範囲(ニアレンジ〜ファーレンジ)において検出される反射波92bの位相差が2πを超えないように狭く設定されている場合は、検出される位相差は必ず2π以下となるので反射源の到来方向を算出することができるが、その分解能は高くはない。一方、受波アレイ74間の寸法が上述の範囲を超えて広く設計されている場合は、反射源の到来方向を算出するための分解能は高くなるが、検出される位相差は周回成分(2nπ、n:整数)を有することになるので、反射源の方向を示す解が複数存在し、反射源の方向を一義的に算出することは不可能となる。そこで本実施形態においては、受波アレイ74を3つ配置(4つ以上でもよい)している。
【0050】
図3に示すように、送波器72と受波アレイ74(A、B,C)との位置関係は既知であり、これらは一直線上に並んで配置されているとする。そして受波アレイ74(A)と受波アレイ74(B)との間隔は、受波する反射波同士の位相差が2πを超えないように狭く設定されているものとする。一方、受波アレイ74(A)と受波アレイ(C)との間隔は、受波する反射波同士の位相差が2πを超えるように広く設定されているものとする。そして上述同様に受波アレイ74(A、B、C)は、ほぼ平面波となった反射波92b(反射波92a)をそれぞれ互いに異なる位相で受信する。
【0051】
ここで受波アレイ74(A)と受波アレイ74(C)との間は、受波アレイ74(A)と受波アレイ74(B)との間より長いので、到来角(α)を算出するための分解能は高くなるが、その解は上述の理由により複数あるので到来角(α)を一義的に算出することは不可能である。しかし受波アレイ74(A)と受波アレイ74(B)との間では低い分解能でありながら、上述の理由により到来角(α)を一義的に算出することができる。したがって、受波アレイ74(A)と受波アレイ74(C)との間で検出される位相差から算出される複数の到来角(α)のうち、受波アレイ74(A)と受波アレイ74(B)との間で検出される位相差から算出される到来角(α)に最も近いものを選択することにより、到来角(α)を高分解能で算出することができ、到来角(α)と反射波92bの戻り時間に基づいてターゲットOの三次元の位置(平面位置、深さ)を算出することができる。
【0052】
さらに受波アレイ74を4つ以上並列に並べた場合は、算出された複数の高分解能の角度のうち、これより一段低分解能となる角度に最も近い角度を選択する作業を繰り返すことにより、さらに高分解能な到来角を一義的に算出することができる。
【0053】
本実施形態においては複数の受波アレイ74で受信した反射波92aに基づいて合成開口処理情報(反射波92b)を生成することになる。そして各合成開口処理情報を構成する反射波92bにおいて、隣接する各受波アレイ74間の位相差のいずれかがゼロになる場合、隣接する各受波アレイ74間の位相差に基づいて算出されたターゲットの位置を示す複数の解が互いに著しく異なる場合等は、その位相差の根拠となる反射波92bをノイズとして除去することができる。したがって、このインターフェロメトリ技術を用いることによりノイズの少ない高精度な三次元画像(合成開口画像)を生成することができる。以上の演算は、後述のインターフェロメトリ演算部80において行なう。
【0054】
以上のように、合成開口技術とインターフェロメトリ技術を併用して、反射波92bの反射源の三次元の位置を算出することができる。また反射波92bは海底面より上の物体でも反射するが海底面で最も強く反射する。よって、これを全ての位置情報に対応して算出することにより、反射波92bの反射源となる海底面より上に配置された物体及び海底面の三次元画像を生成することができる。
【0055】
ところで、海底面下に埋没した反射源となる物体がある場合、反射波92bは海底面下からも反射されることになる。そして、第1探査波92の反射波92bは海底面で反射される成分(海底面反射波92d:図4)が最も多く、また海底面下で反射された成分であって前記海底面反射波92dと同一の到来角で到来したもの(海底下反射波92c:図4)は、前記海底面反射波92dより時間的に後に受波アレイ74に到達する。よって、反射波92bは海底面反射波92dと海底下反射波92cとを有するが、両者を互いに識別することは可能である。しかし、音波は海底面で屈折するため、上述の方法では、海底下反射波92cの本来の位置、深さを算出することはできない。そこで、本実施形態においては、反射波92bの情報から、海底面上で反射された海底面反射波92dの情報と、海底面下で反射された海底下反射波92c(サブボトム反射波)の情報をそれぞれ抽出して、海底面下で反射された反射波の反射源の位置を算出する。
【0056】
図4に海底面下に反射源となる物体が埋没している場合の音波の伝播経路を示す。また図5に、第1探査波の反射波の情報と、第2探査波の反射波の情報とを比較した図を示す。上述のようにインターフェロメトリ技術により反射波92b(海底面反射波92d、海底下反射波92c)の到来角αとその戻り時間が算出される。一方、送波器72及び受波アレイ74の傾きβ(プレート60aの傾き)はプラットフォーム60への取り付け時に既知であり、またβの変化量も慣性航法装置68が算出する姿勢情報により求められるため、反射波92bの進行方向と海底面とのなす角θを算出することができる。
【0057】
しかし、海底下反射波92cは海底面で屈折するため、実際のターゲットOの位置は、図4に示すような位置にあり、インターフェロメトリの演算においては、海底面での屈折を考慮しない場合、見かけ上ターゲットO’から反射された海底下反射波92cについて到来角α、戻り時間を算出することとなる。
【0058】
一方、第1探査波92はレンジ方向(ニアレンジ〜ファーレンジ)に照射されているので、その範囲における海底面(例えばA、B、C、D、Eの位置)を反射源とする海底面反射波92dが発生している。
【0059】
さらに海底面反射波92dには、海底面で反射し、海底面下で反射した海底下反射波92cと同じ角度θで受波アレイ74に到達したものが存在する(図4ではA)。すなわち図4において海底下反射波92cの海底面での通過位置は、同一の到来角αで受波アレイ74に到達した海底面反射波92dの反射位置と一致する。さらに受波アレイ74(プラットフォーム60)の位置は慣性航法装置68により算出される。
【0060】
したがって、海底面反射波92dの情報を用いて海底面反射波92dが反射したAを算出することが可能となり、Aと一致する海底下反射波92cの海底面の通過位置(屈折位置)の情報を算出することができる。さらに水中での音速v1、海底面下を構成する土壌中での音速v2を用いることにより、ターゲットOの位置を算出することができる。
【0061】
図4に示すように、受波アレイ74から位置Aまでの距離Rは、音波の伝播速度v1とAから受波アレイ74までの戻り時間t1との積により求めることができる。ここでv1は海中の音速を測定することで既知となり、t1は図5における海底下反射波92cと同一の到来角の海底面反射波92dの情報の受波アレイ74の到達時間から算出することができる。したがって、海底面上のAの位置は、慣性航法装置68により既知となっている受波アレイ74(プラットフォーム60)の位置と、θ、v1、t1、により算出することができる。
【0062】
また海底下反射波92cがターゲットOからAまで到達する時間t2は、図5に示すように、海底下反射波92cの情報と、Aにおける海底面反射波92dの情報と、の受波アレイ74の到達時間の時間差をとることにより求めることができる。したがって、ターゲットOからAまでの距離rは、海底面下を構成する土壌中での音速v2と、t2と、の積により算出することができる。このv2は実際に測定することにより既知となる。
【0063】
また海底下反射波92cの海底面に対するなす角θ’は、θ、v1、v2が既知となっているため、スネルの法則等を用いることにより算出することができる。
【0064】
したがって、ターゲットOの位置は、既知となったAの位置、r、θ’を用いて算出することができ、ターゲットOの海底面からの深さも、r、θ’を用いて算出することができる。そして、これを全ての位置情報に対応して算出することにより、海底下反射波92cの反射源となる海底面下に埋没した物体の画像と、その位置、深さを算出することができる。以上の演算はインターフェロメトリ演算部80において行なうことができる。
【0065】
ところで、探査対象となる海底面の起伏が激しい場合や、海底の土壌の質により、海底面において第1探査波92の反射波92a(92b)の強度が小さくなり、海底面で反射した海底面反射波92dを特定することが困難となる場合がある。すなわち、受波アレイ74において受波される第1探査波92の反射波92bから、A、B、C、D、Eにおける海底面反射波92dの情報と、図4、5に示されるターゲットOからの海底下反射波92cの情報と、を互いに識別して抽出することが困難となる場合がある。
【0066】
そこで本実施形態では、高周波送受波器76により第2探査波93を第1探査波92同様に海底に照射し、合成開口処理情報と同様に高周波海底面情報を生成する。ここで、高周波海底面情報とは、反射波93aの強度の時系列の情報等をプラットフォーム60の位置情報(海底の地理情報)に対応して生成し、探査範囲に含まれる全ての位置情報に反射波93aの情報を対応させたものである。
【0067】
上述のように、第2探査波93は海底面下には透過せず、海底面で反射されるが、海底面における反射特性は音波の周波数によらず同様となる。よって、合成開口処理情報のうち海底面反射波92dにより構成される海底面で反射された成分は、第2探査波93の反射波93aによる高周波海底面情報と同様の海底面情報を持つ。よって、図4におけるA、B、C、D、Eが海底面反射波92dの反射源になっているのであれば、第2探査波93の反射波93aの反射源にもなっている。したがって、高周波海底面情報を構成する反射波93aの情報を反射波92bの情報に対応させることにより海底面反射波92dの情報を特定した上で、図5に示される海底面反射波92dの情報と第2探査波93の反射波93aの情報の差分をとることにより、海底面下で反射した海底下反射波92cの情報を抽出することができる。そして海底下反射波92cの情報と到来角が一致する海底面反射波92dの情報を用い、上述同様に海底下反射波92cの反射源の位置及び海底面からの深さを算出することができる。
【0068】
図6に本実施形態の海底音響画像システムの一例となるブロック図を示す。観測船12に設けられた無線LAN端末14(PC、モニタ)は、上述のスラスタ112を一定の出力で駆動させる信号を、無線LAN16、通信信号58を介して出力し、プラットフォーム60を任意の進行方向、回転方向に移動させることができる。なお、探査中はプラットフォーム60がアジマス方向に一定の速度で進行できるように各スラスタ112の出力を調整するものとする。またプラットフォーム60に取り付けられたカメラ104の情報、水深計106の値の情報は、通信信号58、無線LAN16を介して受信して無線LAN端末14(モニタ)に表示され、探査前、探査中、探査後において作業者が観測できるようになっているものとする。また無線LAN端末14は、プラットフォーム60側に探査開始、探査終了の信号を出力することができる。
【0069】
また、無線LAN端末14には、合成開口処理演算部78が搭載され、後述の記憶部84に記憶された第1探査波92の反射波92aの情報、位置情報、姿勢情報を用いて合成開口処理情報を生成する。さらに、無線LAN端末14にはインターフェロメトリ演算部80が搭載され、記憶部84に記憶された第2探査波93の反射波93aの情報、位置情報、姿勢情報と、合成開口処理情報(反射波92b)を用いて海底面上または海底面下の反射源の三次元画像を生成する。
【0070】
表層追尾ブイ28の無線LAN端末30は、観測船12側から各種信号が入力されると、これらを音響モデム46に出力する。また無線LAN端末30は、音響モデム46から各種情報が入力されると、これらを観測船12の無線LAN端末14に出力する。
【0071】
制御部31は、無線LAN端末14から探査開始の信号が入力されると、一定の周期(例えば水晶発振器の発振信号を分周器で所定の周波数に分周したもの)でトリガ信号を質問信号送波器64、動揺計測装置33、戻り時間演算部35、GPS受信器40にそれぞれ出力し、探査停止の信号が入力されるとトリガ信号の出力を停止する。質問信号送波器64は、制御部31からトリガ信号が周期的に入力されると、質問信号108を周期的に送信する。
【0072】
トランスデューサ32は、トランスポンダ61から送信された返信信号108aを受信すると、位相差の情報48を相対位置情報演算部36に出力するととともに、トリガ信号を戻り時間演算部35に出力する。戻り時間演算部35は、制御部31からのトリガ信号とトランデューサ32からのトリガ信号の時間差から質問信号108が送信されてから返信信号108aを受信するまでの戻り時間を算出し、戻り時間の情報を相対位置情報演算部36に出力する。
【0073】
相対位置情報演算部36は、戻り時間演算部35から入力される戻り時間の情報と、トランスデューサ32から入力された位相差の情報48と、予め入力された海中での音波の伝播速度の情報と、に基づいて表層追尾ブイ28とプラットフォーム60との相対位置の情報50を算出し、相対位置の情報50を測位情報演算部38及び駆動制御部42に出力する。
【0074】
動揺計測装置33は、例えば、アジマス方向(X軸方向)を回転軸とする回転、及びスラントレンジ方向(Y軸方向)を回転軸とする回転に対して水平を維持可能な部材(部材)を有するジンバル構造体(不図示)と、鉛直方向(Z軸方向)を回転軸とする回転を検知するコンパス(不図示)を有している。ここで、ジンバル構造体(不図示)は、例えば、表層追尾ブイ28が水平となっているときの表層追尾ブイ28と前述の部材(不図示)との相対位置を基準として、表層追尾ブイ28のX軸方向及びY軸方向の傾斜(回転)を、前記相対位置の変化として算出することができる。そして、動揺計測装置33は、ジンバル構造体(不図示)及びコンパス(不図示)から、表層追尾ブイ28のX軸回り(ロール)、Y軸回り(ピッチ)、Z軸回り(ヨー)の回転位置を示す姿勢情報を生成するとともに、姿勢情報を常時更新している。さらに、動揺計測装置33は、制御部31からトリガ信号が入力されると最新の姿勢情報49を測位情報演算部38に出力する。
【0075】
GPS受信器40は、GPS衛星からの電波を受信することにより一定の周期でGPS測位に基づく地理情報52を更新しているが、制御部31からトリガ信号を受信することにより最新の地理情報52を測位情報演算部38に出力する。
【0076】
測位情報演算部38は、相対位置の情報50を地理情報52及び姿勢情報49に関連付けて測位情報54を生成する。すなわち相対位置の情報50を地理情報52が有する地理座標に基づいて座標変換するとともに、姿勢情報49により表層追尾ブイ28の傾き(回転)による地理情報52の誤差を補正することによりプラットフォーム60の測位情報54を生成し、音響モデム46に出力する。
【0077】
駆動制御部42は、予め入力された表層追尾ブイ28とプラットフォーム60との設定相対位置の情報と、相対位置情報演算部36から入力された相対位置の情報50との差分に基づき、表層追尾ブイ28とプラットフォーム60との実際の相対位置が設定相対位置となるように、さらに表層追尾ブイ28がプラットフォーム60に対して一定の方向を向くように各スラスタ44に出力パラメータ56を出力する。
【0078】
これにより、表層追尾ブイ28はプラットフォーム60の移動に伴って上述の設定相対位置及び方向を保つように向きを修正しつつ海上を移動することができる。よって、表層追尾ブイ28は、プラットフォーム60との間で一定の方向・距離を維持するように回転・移動し、プラットフォーム60を追尾することができる。
【0079】
音響モデム46は、無線LAN端末30及び測位情報演算部38から入力された信号や情報を、通信信号58を介してプラットフォーム60の音響モデム62に出力する。また音響モデム46は、プラットフォーム60の音響モデム62から入力された信号や情報を無線LAN端末30に出力する。
【0080】
プラットフォーム60に取り付けられた音響モデム62は、音響モデム46から入力された信号や情報を画像生成部66やスラスタ112に出力し、画像生成部66やカメラ104、水深計106から出力された信号や情報を音響モデム46に出力する。
【0081】
図7に画像生成処理の一例となるブロック図を示す。画像生成部66は、制御部67、慣性航法装置68、ドップラー速度計70、送波器72、受波アレイ74、高周波送受波器76、記憶部84を包含する。
【0082】
制御部67は、探査開始の信号を受信すると、慣性航法装置68、ドップラー速度計70、送波器72、受波アレイ74、高周波送受波器76を起動させ、探査終了の信号を受信するとこれらを停止させる。また制御部67は、探査開始の信号の受信後で探査終了の信号を受信する前までは、制御部31と時間的な同期がとられたトリガ信号を送波器72、受波アレイ74、高周波送受波器76に周期的に送信する。さらに、制御部67は、測位情報54が入力されると、これを慣性航法装置68に出力する。
【0083】
ドップラー速度計70は一定の更新時間でプラットフォーム60の速度情報を生成し、慣性航法装置68に速度情報を出力する。
慣性航法装置68は、一定の更新時間ごとにプラットフォーム60の並進方向(X軸、Y軸、Z軸)の加速度を検出し、速度情報と位置情報を生成する。また慣性航法装置68は、最新の加速度情報、速度情報、位置情報を保持するとともに記憶部84に出力する。
【0084】
慣性航法装置68においては、速度情報、位置情報は積分により生成されるため、積分定数に起因する誤差が時間経過とともに増大することになる。
そこで、慣性航法装置68においては、ドップラー速度計70から速度情報を入力し、また制御部67から測位情報54を入力し、慣性航法装置68の速度情報と位置情報を更新する。
【0085】
さらに、慣性航法装置68においては、動揺計測装置33と同様にジンバル構造体(不図示)、コンパス(不図示)を有している。そして、これらの構成要素からプラットフォーム60のX軸回り(ロール)、Y軸回り(ピッチ)、Z軸回り(ヨー)の回転位置を示す姿勢情報を生成するとともに、一定の更新時間ごとに姿勢情報を更新して記憶部84に記憶している。
【0086】
これにより慣性航法装置68が記憶部84に出力する速度情報、位置情報は、それぞれの更新時間の間隔に対応して誤差が一定の範囲に抑制されるため、後述の合成開口演算処理部78において高い分解能の合成開口処理情報(合成開口画像)を生成することができ、後述のインターフェロメトリ演算部80においては位置情報、姿勢情報により反射源の三次元の位置を正確に算出することができる。
【0087】
送波器72は、制御部67から入力されるトリガ信号に従って一定の時間間隔で第1探査波92を海底に向けて照射するとともに、照射時刻の情報を記憶部84に出力する。
【0088】
受波アレイ74は、制御部67から入力されるトリガ信号を受けると第1探査波92の反射波92aの情報(反射波92aの強度や位相等の時系列の情報)を生成して記憶部84に出力する。このとき反射波92aの情報にはトリガ信号が入力された時刻の情報(ゼロ点の時刻の情報)が含まれている。よってトリガ信号の周期は、反射波92a(後述の反射波93a)を受波アレイ74が時間方向で完全に受信するまでの期間、すなわち受波アレイ74が検知する反射波92aの強度がゼロになるまでの期間より長く設定する必要がある。また反射波92aの情報は、慣性航法装置68の加速度情報、速度情報、位置情報、姿勢情報と時刻同期を取り記憶部84に記憶される。
【0089】
高周波送受波器76は、制御部67から入力されるトリガ信号に従って一定の時間間隔で第2探査波93を海底に向けて照射する。そして高周波送受波器76は、第2探査波93の反射波93aを受信し、トリガ信号を受信した時刻の情報と反射波の強度等の時系列情報を有する反射波93aの情報を生成して記憶部84に出力する。また、反射波93aの情報は、慣性航法装置68の加速度情報、速度情報、位置情報、姿勢情報と時刻同期をとり記憶部84に記憶される。なお、反射波93aの情報を位置情報及び姿勢情報に対応づけることにより高周波海底面情報を生成することができる。
【0090】
このようにして得られた反射波92aの情報、反射波93aの情報、加速度情報、速度情報、位置情報、姿勢情報は、プラットフォーム60を海上に引き上げた上で記憶部84から取り出され、例えば無線LAN端末14の記憶領域(不図示)に入力される。
【0091】
合成開口演算処理部78は、反射波92aの情報、位置情報、姿勢情報等を用いて合成開口処理情報を生成して無線LAN端末14の記憶領域(不図示)に記録する。この合成開口処理情報は、アジマス方向及びレンジ方向の分解能が高められた第1探査波92の反射波92bにより構成されている。なお、合成開口処理情報の生成の際に、合成開口演算処理部78は、周波数変調された第1探査波92の反射波92aの情報をもとに、上述のレンジ方向の分解能を高めることができる。
【0092】
ところで、合成開口演算処理部78は、反射波92aの情報に表れる反射波92aの信号の時間分解能に対応した加速度情報、速度情報、位置情報、姿勢情報を生成して高精度な合成開口処理情報を生成する必要がある。そこで合成開口演算処理部78は、慣性航法装置68の更新時間に係る時間分解能で生成された加速度情報、速度情報、位置情報、姿勢情報を、多項式等による近似曲線により近似して、慣性航法装置68の更新時間より短い時間間隔の加速度情報、速度情報、位置情報、姿勢情報を近似曲線から抽出(内挿)することができる。すなわち、反射波92aの信号の時間分解能に対応する加速度情報、速度情報、位置情報、姿勢情報を生成して合成開口処理を行うことができる。これにより、合成開口処理情報から生成される合成開口画像の歪みを抑制し分解能を向上させることができる。
【0093】
インターフェロメトリ演算部80は、複数の合成開口処理情報中に包含される反射波92bの情報の位相差から反射波92bの到来角(図4参照)を算出して反射波92bの反射源の三次元の位置を算出する。ここで、第1探査波92は周期的に照射されるが、一の時刻に照射された第1探査波92の反射波92a(反射波92b)同士の位相差を算出する。これを合成開口処理情報全体に行なうことにより反射波92bの反射源となる物体の映像とその深さ情報(Z軸方向の情報)を加えた三次元画像となる三次元画像の情報を生成して無線LAN端末14の記憶領域(不図示)に記憶する。
【0094】
また、インターフェロメトリ演算部80は、合成開口処理情報から海底面反射波92dの情報と、海底下反射波92cの情報を抽出し、上述の方法により海底下反射波92cの反射源の三次元の位置を算出する。そして、これを合成開口処理情報全体に行なうことにより海底下反射波92cの反射源となる物体の映像とその深さ情報(Z軸方向の情報)を加えた三次元画像となる三次元画像の情報を生成して無線LAN端末14の記憶領域(不図示)に記憶する。ここで、インターフェロメトリ演算部80は、合成開口処理情報から海底面反射波92dの情報の抽出が困難であると判断した場合には、反射波93aの情報、位置情報、姿勢情報を用いて高周波海底面情報を生成し、これを合成開口処理情報に対応させて合成開口処理情報から海底面反射波92dの情報を抽出する。
【0095】
ここで、インターフェロメトリ演算部80は、一の合成開口処理情報を構成する反射波92b(一の時刻に照射された第1探査波92の反射波92b)と、この反射波とほぼ同時刻に受信した反射波であって他の合成開口処理情報を構成する反射波92b(一の時刻に照射された第1探査波92の反射波92b)と、の位相差がゼロになる場合は、その位相差の根拠となる反射波92bの信号をノイズとして除去することができる。また、いずれかの位相差が他の位相差に比べて極端に異なる場合、各位相差に基づいて算出された反射源の位置が互いに著しく異なる場合等であっても、同様に反射波92bの信号をノイズとして除去することができる。
【0096】
上記構成のもと、第1実施形態の海底音響映像システム10の動作について、その一例を説明する。まず、表層追尾ブイ28を海上に浮かせた状態で設置し、プラットフォーム60を海中に導入する。そして作業者は、モニタ(不図示)に映し出される海中・海底面の映像や水深の情報をもとに、無線LAN端末14に付属するハンドル(不図示)等を操作しながらプラットフォーム60を、探査範囲(測定対象エリア)において最初に第1探査波92等を照射する位置まで誘導する。
【0097】
そしてプラットフォーム60を所定の方向に走らせ、無線LAN端末14から探査開始の信号を送信することにより探査を開始する。プラットフォーム60に設置された送波器72は第1探査波92を海底に向けて周期的(遂次的)に照射してその反射波92aを受波アレイ74で受信して反射波92aの情報を記憶部84に記憶する。またプラットフォーム60に設置された高周波送受波器76は、第2探査波93を海底に向けて照射し、その反射波93aを受信して反射波93aの情報を記憶部84に記憶する。
【0098】
一方、表層追尾ブイ28は、探査開始により質問信号108を周期的(遂次的)にプラットフォーム60に送信してその返信信号108aを受信し、位相差の情報48、戻り時間の情報、地理情報52等に基づいてプラットフォーム60の測位情報54を生成して、これをプラットフォーム60に出力する。
【0099】
さらにプラットフォーム60に設置された慣性航法装置68は、探査開始により加速度情報、速度情報、位置情報、姿勢情報を生成して記憶部84に記憶する。そして慣性航法装置68において保持された速度情報は、ドップラー速度計70から入力される速度情報で上書きされ、位置情報は、表層追尾ブイ28から送信された測位情報54により上書きされる。そしてプラットフォーム60が探査範囲を全て航行したのちに引き上げ、記憶部84に記憶された反射波92aの情報、反射波93aの情報、加速度情報、速度情報、位置情報、姿勢情報を無線LAN端末14(PC)の記憶領域(不図示)に記憶する。
【0100】
次に合成開口処理開始により、合成開口演算処理部78は反射波92aの情報、位置情報、姿勢情報に基づいて合成開口処理情報を生成して無線LAN端末14(PC)の記憶領域(不図示)に記憶する。
【0101】
さらにインターフェロメトリ演算の開始により、インターフェロメトリ演算部80は、上述のように合成開口処理情報、反射波93aの情報、位置情報、姿勢情報を用いて、高周波海底面画像、三次元画像の情報を生成して無線LAN端末14(PC)の記憶領域(不図示)に記憶する。もちろん、無線LAN端末14(PC)の記憶領域(不図示)に記憶された情報は、全てPC付属のモニタ(不図示)上に描画することができる。
【0102】
ここで合成開口処理情報から生成される合成開口画像、三次元画像を十分な分解能で生成するためには、位置情報の誤差が小さくなることが必要である。しかし、従来技術のように慣性航法装置による位置情報を用いた場合、その位置情報の誤差(ドリフト誤差)が時間経過とともに増大するため、合成開口画像及び三次元画像において十分な分解能を得ることはできない。しかし、本実施形態においては、表層追尾ブイ28とプラットフォーム60との相対位置の情報50を、表層追尾ブイ28のGPS測位に基づく地理情報52と、表層追尾ブイ28の姿勢情報49とに対応づけた測位情報54を生成し、これを慣性航法装置68が保持する位置情報に上書きする。よって時間経過とともに位置情報の誤差が増大することはなく、位置の誤差は、地理情報52、姿勢情報49、相対位置の情報50の誤差の範囲に留まるため、合成開口画像及び三次元画像において、画像の分解能を高めることができる。
【0103】
なお、本実施形態において、質問信号送波器64は表層追尾ブイ28から進行方向前向き、かつ斜め下方に向けて質問信号108を送信する。よって、表層追尾ブイ28は俯角45°〜60°の角度をもってプラットフォーム60を追尾する位置に来るように移動させることが好適である。
【0104】
上述の実施形態においては、GPS受信器40を搭載した表層追尾ブイ28を用いたSSBL方式による測位情報54をプラットフォームに送信する旨説明してきた。しかし、プラットフォーム60側に前述の測位情報54を送信し、位置情報を更新させ、分解能の高い測位情報54を確保する構成はこれに限定されない。例えば、表層追尾ブイとプラットフォームの相対位置の算出において測位手段を有する浮体を用いた相対距離計測による三次元測位手法を用いることも可能である。この場合、測位手段となる表層追尾ブイが複数配設されるとともに測位用音響信号をプラットフォームにそれぞれ送信して、測位用音響信号の反射信号の戻り時間をそれぞれ算出する。そして各表層追尾ブイのGPS測位に基づく地理情報と、反射信号の戻り時間の情報(各表層追尾ブイとプラットフォームとの距離)と、に基づいて、プラットフォームの測位情報を生成する構成とすればよい。
【0105】
例えば、基準となる第1の表層追尾ブイ(不図示)と、それ以外の第2の表層追尾ブイ(不図示)、第3の表層追尾ブイ(不図示)を用いる。第1乃至第3の表層追尾ブイは、互いに一定の間隔を置いて海上に配置されるとともに、それぞれGPS測位に基づく地理情報を生成する。また第1乃至第3の表層追尾ブイは、それぞれ互いに周波数の異なる第1乃至第3の質問信号(測位用音響信号)をプラットフォームに向けて送信する。一方、プラットフォーム60には、第1の質問信号を受信して第1の返信信号を出力する第1のトランスポンダ(不図示)と、第2の質問信号を受信して第2の返信信号を出力する第2のトランスポンダ(不図示)と、第3の質問信号を受信して第3の返信信号を出力する第3のトランスポンダ(不図示)と、が配置されている。ここで、第1乃至第3の返信信号(測位用音響信号の反射信号)は互いに異なる周波数を有している。そして、第1の表層追尾ブイは第1の返信信号のみを受信可能とし、第2の表層追尾ブイは第2の返信信号のみを受信可能とし、第3の表層追尾ブイは第3の返信信号のみを受信可能とする構成を有している。
【0106】
そして、各表層追尾ブイは、各質問信号を送信して各トランスポンダから各返信信号を受信するまでの戻り時間を算出する。第2、第3の表層追尾ブイは、それぞれGPS測位に基づく地理情報と、戻り時間の情報を第1の表層追尾ブイに送信する。第1の表層追尾ブイは、各表層追尾ブイで算出された戻り時間の情報と、水中での音速と、各表層追尾ブイのGPS測位に基づく地理情報と、に基づいて第1の表層追尾ブイとプラットフォームとの第1の相対位置の情報を算出する。そして、この第1の相対位置の情報を第1の表層追尾ブイのGPS測位に基づく地理情報に対応づけて測位情報を生成し、これをプラットフォームに送信すればよい。
【0107】
なお、各表層追尾ブイは姿勢情報を生成可能とし、例えば各表層追尾ブイのGPS測位による地理情報を姿勢情報により補正することができる。また、基準となる表層追尾ブイとプラットフォームに測位情報を送信する表層追尾ブイとが互いに異なっていても良い。また測位情報の誤差を抑制するため、各表層追尾ブイにおいて、各表層追尾ブイを基準とした上述の測位情報を生成し、その平均値をプラットフォーム側に送信しても良い。
【0108】
一方、第1の表層追尾ブイでは、第1の相対位置の情報と入力された第2、第3の表層追尾ブイのGPS測位に基づく地理情報を用いて、第2の表層追尾ブイとプラットフォームとの第2の相対位置の情報を生成して第2の表層追尾ブイに送信し、第3の表層追尾ブイとプラットフォームとの第3の相対位置の情報を生成して第3の表層追尾ブイに送信する。
【0109】
そして、各表層追尾ブイは、各表層追尾ブイとプラットフォームとの相対位置が予め決められた位置関係となるように、入力された各相対位置の情報にもとづいて各表層追尾ブイに取り付けられたスラスタの出力を調整する。これにより、各表層追尾ブイは、移動するプラットフォームに対して一定の距離を保って追尾することができる。
【0110】
上記変形例は、表層追尾ブイごとにGPS測位に基づく地理情報を取得するものであるが、表層追尾ブイ(測位手段)同士の相対位置が固定されている、或いは表層追尾ブイ(測位手段)同士の相対位置が測定可能であれば、GPS測位に基づいた地理情報は1つでよい。例えば、1つの表層追尾ブイから互いに垂直になる方向に伸ばした3つのアームの先端に測位用音響信号を送受信する素子(測位手段)をそれぞれ配置し、上述の相対距離計測による三次元測位手法と同じ方法でプラットフォームとの相対位置を算出する方式(SBL:Short Base Line)を用い、表層追尾ブイのGPS測位に基づく地理情報とSBL方式による相対位置の情報から測位情報を算出して、測位情報をプラットフォーム側に出力してもよい。
【0111】
また、追尾をしない測位手段を3つ用いてプラットフォームの測位を行なうことも可能である。すなわち測位手段を海底に固定してプラットフォームの測位を行なうことが可能である。例えば、測位手段を着底構造物として海底に固定し、その位置を予め測定して各測位手段の位置情報を得る。そして各測位手段において、各測位手段から質問信号が送信されプラットフォームからの返信信号を受信するまでの戻り時間(プラットフォームとの相対位置)を算出し、各測位手段の位置情報と、各測位手段により算出された相対位置から、プラットフォームの測位情報を生成してプラットフォームに出力すればよい。これにより、各測位手段は移動することはないので、GPS測位情報を用いることなく、プラットフォームの測位情報を生成することができる。なお、測位手段として着底構造物を用いる場合はLBL(Long Base Line)方式となる。
【0112】
本実施形態においては、図6に示すように、表層追尾ブイ28(質問信号送波器64)から質問信号108を送信し、プラットフォーム60に配置されたトランスポンダ61がこれを受信して返信信号108aを送信し、表層追尾ブイ28(トランスデューサ32)が返信信号108aを受信する構成を前提として説明してきたが、これに限定されない。すなわちプラットフォーム60にはトランスポンダ61を配置せず、表層追尾ブイ28から測位用音響信号(質問信号108)を送信し、プラットフォーム60の筐体で反射した測位用音響信号の反射信号を表層追尾ブイ28(トランスデューサ32)が受信する方式としてもよい。すなわち、測位用音響信号の反射信号がトランスポンダ61から送信される返信信号108aに対応することになる。よって、測位用音響信号(質問信号108)の反射信号とは、プラットフォーム108の筐体に物理的に反射して得られる反射信号と、トランスポンダ61が質問信号108を受信して情報処理的に送信する返信信号108aと、を包含するものとなる。また、本実施形態において、第2探査波93を送受信する高周波送受波器76は音波を用いていたが、レーザ光のような電磁波を第2探査波として照射可能なものを用いても良い。
【0113】
また本実施形態において、表層追尾ブイ28、とプラットフォーム60との信号や情報のやり取りを通信信号58により行う旨説明してきたが、これに限定されない。例えば表層追尾ブイ28とプラットフォーム60とを、プラットフォーム60の移動に干渉しない程度の十分長いケーブルで連結し、信号や情報のやり取りを行なうようにしても良い。同様に表層追尾ブイ28と観測船12との信号や情報のやりとりを無線LAN16によってではなく、表層追尾ブイ28と観測船12とをケーブルでつないで行っても良い。
【0114】
さらに、プラットフォーム60と観測船12とをケーブルで接続し、記憶部84に記憶された反射波92aの情報、反射波93aの情報、加速度情報、速度情報、位置情報を、ケーブルを介して観測船12側に送信し、これらの情報を無線LAN端末14(PC)の記憶領域(不図示)に記憶できるようにしてもよい。
これにより、プラットフォーム60を引き上げることなく、記憶部84に記憶された情報を容易に観測船12側に送信することができる。もちろん、記憶部84に記憶された情報は、通信信号58、無線LAN16を経由して観測船12側に送信できるようにしてもよい。
【0115】
本実施形態において、観測船12と表層追尾ブイ28を用いているが、表層追尾ブイ28の構成要素を全て観測船12に搭載して、観測船12とプラットフォーム60からなる海底音響映像システム10としてもよい。この場合、プラットフォーム60による探査中は、観測船12はエンジンを停止させ、スラスタ44によりプラットフォーム60を追尾すればよい。ここで、スラスタ44は、観測船を移動させるパワーを有するとともに、測位用音響信号の送受波に影響を与えないように十分小さく設計されているものとする。そして、観測船12が測位手段となってプラットフォーム60の測位情報を生成し、測位情報をプラットフォーム60に送信すればよい。
【0116】
さらに、本実施形態において、合成開口演算処理部78、インターフェロメトリ演算部80は、観測船12に配置された無線LAN端末14(PC、モニタ)内に搭載されたものとして説明してきた。しかし、本発明においては、これに限定されず、プラットフォーム60に配置してもよいし、陸上の施設内のPC等に搭載してもよい。
【産業上の利用可能性】
【0117】
合成開口技術とインターフェロメトリ技術を用い、海底面及び海底面上の物体の三次元画像、及び海底面下の物体の三次元画像を高分解能で生成可能な海底音響映像システムとして利用できる。
【符号の説明】
【0118】
10………海底音響映像システム、12………観測船、14………無線LAN端末、16………無線LAN、28………表層追尾ブイ、30………無線LAN端末、31………制御部、32………トランスデューサ、33………動揺計測装置、35………戻り時間演算部、36………相対位置情報演算部、38………測位情報演算部、40………GPS受信器、42………駆動制御部、44………スラスタ、46………音響モデム、48……位相差の情報、49………姿勢情報、50………相対位置の情報、52………地理情報、54………測位情報、56………出力パラメータ、58………通信信号、60………プラットフォーム、60a………プレート、61………トランスポンダ、62………音響モデム、64………質問信号送波器、66………画像生成部、67………制御部、68………慣性航法装置、70………ドップラー速度計、72………送波器、74………受波アレイ、76………高周波送受波器、78………合成開口演算処理部、80………インターフェロメトリ演算部、84………記憶部、92………第1探査波、92a………反射波、92b………反射波、92c………海底下反射波、92d………海底面反射波、93………第2探査波、93a………反射波、104………カメラ、106………水深計、108………質問信号、108a………返信信号、112………スラスタ。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
海中を航行するプラットフォームに取り付けられ、前記プラットフォームが航行する方向に垂直な向きで海底面に第1探査波を照射する送波器と、
前記プラットフォームに取り付けられ、前記プラットフォームの航行する方向に垂直な方向、且つ前記第1探査波の照射方向に交差する方向に配列され、前記第1探査波の反射波をそれぞれ受波する複数の受波器と、
前記第1探査波の反射波から合成開口処理情報を生成する合成開口演算処理部と、
前記プラットフォームに取り付けられ、前記プラットフォームの位置情報を生成する慣性航法装置と、
前記合成開口処理情報を構成する合成開口処理済みの第1探査波の反射波同士の位相差に基づいて前記第1探査波の反射波の到来角を算出するとともに、前記到来角と、前記位置情報と、に基づいて前記第1探査波の反射波の反射源の三次元の位置を算出するインターフェロメトリ演算部と、を有することを特徴とする海底音響映像システム。
【請求項2】
請求項1に記載の海底音響映像システムにおいて、
前記第1探査波は、海底面下に透過可能な波長帯域を有し、
前記合成開口処理情報は、
海底面上で反射された海底面反射波の情報と、海底面下で反射された海底下反射波の情報と、を有し、
前記インターフェロメトリ演算部は、
前記海底下反射波と、前記海底下反射波と同一の到来角を有する前記海底面反射波と、の前記受波器への到達時間の時間差に基づいて、前記合成開口処理情報から、前記海底面反射波の情報と、前記海底下反射波の情報と、をそれぞれ抽出するとともに前記時間差の情報を生成し、
前記海底下反射波と同一の到来角を有する前記海底面反射波の反射位置を算出することにより、前記海底下反射波の海底面上の通過位置の情報を算出し、
前記位置情報と、前記通過位置の情報と、前記時間差の情報と、に基づいて前記海底下反射波の反射源の三次元の位置を算出可能とすることを特徴とする海底音響映像システム。
【請求項3】
請求項2に記載の海底音響映像システムにおいて、
前記プラットフォームに取り付けられ、海底面で反射する第2探査波を前記プラットフォームの航行する方向に垂直な方向、且つ前記第1探査波の照射方向に交差する方向に照射し、前記第2探査波の反射波を受波する高周波送受波器を有し、
前記インターフェロメトリ演算部は、前記第2探査波の反射波から生成される高周波海底面情報を用いて前記合成開口処理情報から前記海底下反射波の情報を抽出することを特徴とする海底音響映像システム。
【請求項4】
請求項1乃至3のいずれか1項に記載の海底音響映像システムにおいて、
前記受波器は、前記プラットフォームが航行する方向に垂直な方向、且つ前記第1探査波の照射方向に交差する方向に3つ以上配列されたことを特徴とする海底音響映像システム。
【請求項5】
請求項1乃至4のいずれか1項に記載の海底音響映像システムにおいて、
海上に配置されるとともに前記プラットフォームに測位用音響信号を送信し、前記プラットフォームから反射された前記測位用音響信号の反射信号を受信して前記プラットフォームとの相対位置の情報を算出する測位手段を有し、
前記測位手段は、前記相対位置の情報と、GPS測位に基づく前記測位手段の地理情報と、により前記プラットフォームの測位情報を生成して前記慣性航法装置に出力し、
前記慣性航法装置は、前記測位情報により前記位置情報を更新することを特徴とする海底音響映像システム。
【請求項6】
請求項5に記載の海底音響映像システムにおいて、
前記測位手段は、
前記測位用音響信号の反射信号を受信するとともに、前記反射信号の互いに直交する3方向の位相差を検出する受波手段を有し、前記位相差に基づいて前記相対位置の情報を生成することを特徴とする海底音響映像システム。
【請求項7】
請求項1乃至4のいずれか1項に記載の海底音響映像システムにおいて、
海上に配置されるとともに前記プラットフォームに測位用音響信号をそれぞれ送信し、前記プラットフォームから反射された前記測位用音響信号の反射信号の戻り時間をそれぞれ算出する複数の測位手段を有し、
複数の前記測位手段のいずれか1つは、各測位手段で算出された前記戻り時間の情報と、前記複数の測位手段のうち少なくとも1以上の前記測位手段のGPS測位に基づく地理情報と、に基づいて前記プラットフォームの測位情報を生成して前記慣性航法装置に出力し、
前記慣性航法装置は、前記測位情報により前記位置情報を更新することを特徴とする海底音響映像システム。
【請求項8】
請求項1乃至7のいずれか1項に記載の海底音響映像システムにおいて、
前記プラットフォームにはトランスポンダが配置され、
前記トランスポンダは、前記測位用音響信号を質問信号として受信し、前記測位用音響信号の反射信号として返信信号を送信することを特徴とする海底音響映像システム。
【請求項9】
請求項5乃至8のいずれか1項に記載の海底音響映像システムにおいて、
前記測位手段は、
前記測位手段を移動させるアクチュエータを有し、
前記プラットフォームと前記測位手段との相対位置が一定となるように前記アクチュエータの出力を調整可能とすることを特徴とする海底音響映像システム。
【請求項10】
請求項1乃至4のいずれか1項に記載の海底音響映像システムにおいて、
前記プラットフォームに測位用音響信号をそれぞれ送信し、前記プラットフォームから反射された前記測位用音響信号の反射信号の戻り時間をそれぞれ算出する複数の測位手段が海底に固定され、
各測位手段で算出された前記戻り時間の情報と、各測位手段の位置情報と、に基づいて 前記プラットフォームの測位情報を生成して前記慣性航法装置に出力し、
前記慣性航法装置は、前記測位情報により前記位置情報を更新することを特徴とする海底音響映像システム。

【図2】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図1】
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【図3】
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【公開番号】特開2012−108122(P2012−108122A)
【公開日】平成24年6月7日(2012.6.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−236358(P2011−236358)
【出願日】平成23年10月27日(2011.10.27)
【出願人】(504137912)国立大学法人 東京大学 (1,942)
【出願人】(591118041)財団法人シップ・アンド・オーシャン財団 (21)
【出願人】(510287533)コスモ海洋株式会社 (1)
【Fターム(参考)】