説明

海水用ポンプの構造部材を溶接する溶接金属及び海水ポンプ

【課題】海水ポンプの構造部材の二相ステンレス鋼を溶接金属によって溶接した溶接部に生じる孔食進展を抑制することを可能にした信頼性の高い海水ポンプを得る海水用ポンプの構造部材を溶接する溶接金属を提供する。
【解決手段】海水用ポンプの構造部材を溶接する溶接金属は、海水用ポンプを構成する構造部材の母材金属に20%以上のCrを含有する二相ステンレス鋼を使用し、海水用ポンプの該構造部材を溶接してこの海水用ポンプを形成する溶接金属として、Cr量が前記構造部材の母材金属のCr量よりも多く含有し、且つMnを1%以上含有する溶接金属を用いる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は海水ポンプの構造部材を溶接する溶接金属、及び海水ポンプに係り、特に二相ステンレス鋼を用いた海水用ポンプの構造部材を溶接する溶接金属、及び二相ステンレス鋼の構造部材を溶接して製作する海水ポンプに関する。
【0002】
本発明は海水環境で使用される海水用ポンプを構成する構造部材に孔食の発生によってこの構造部材が損傷するのを抑制し得る海水ポンプの構造部材を溶接する溶接金属、並びにこの溶接金属によって構造部材を溶接して製作する海水ポンプに関するものである。
【背景技術】
【0003】
従来、ステンレス鋼で製作された構造部材を備えた海水ポンプを海水中のような孔食が発生しやすい環境で使用するに際しては、構造部材をステンレス鋼の鋳物で製作した上で、腐食抑制のために以下の4つの防食方法を適用していた。
【0004】
(1)電気防食
ステンレス鋼に電子を供給する電圧を有する電源を接続し、ステンレス鋼の電位がカソード側になるように電源の電圧を調整する防食方法。
【0005】
この防食方法においては、ステンレス鋼の腐食が金属側に電子を残して溶液環境中に金属の正イオンを放出することで進行するので、電子をステンレス鋼に余分に注入することで金属のイオン化を抑制する。
【0006】
(2)犠牲陽極
電気防食と同様に、腐食作用における電子移動を制御する方法である。ステンレス鋼にステンレス鋼よりも金属の電位が卑な金属を接触させる。卑な金属は溶液環境中でステンレス鋼と同じ電位になるように金属イオンが溶出し、電子をステンレス側に移送する。
【0007】
この際に、ステンレス鋼は電子供給を受けてアノード溶解反応が減少するカソード側に電位を移動させることになり、アノード腐食反応が抑制されることになる。
【0008】
接触させる卑な金属としてアルミや亜鉛が挙げられる。また、構成部材においては、ポンプ等の場合、卑な金属でかつ大面積を有する炭素鋼をステンレス鋼と接触させることにより、ステンレス鋼の腐食を抑制することが可能となる。
【0009】
特開2006−291724号に記載された海水ポンプの防食方法によれば、卑なケーシング材と貴なインペラを導通させる接触端子を用いることで、インペラ材の腐食を抑制する技術が開示されている。
【0010】
(3)表面被覆
ステンレス表面に、塩素イオンのような腐食性の環境因子が到着するのを阻害するように有機性あるいは無機性の被膜でステンレス鋼表面を被覆することで腐食を抑制する方法であり、樹脂塗料、化成処理、めっきなどが用いられる。
(4)高耐食性材料
溶液環境の腐食性に対抗できる金属組成を有する金属を用いる。ステンレス鋼においては、Cr成分の割合を増加させること、Mo成分、Nの割合を高めたものが海水のような腐食環境における孔食、隙間腐食に対して有効である。
【0011】
また、ステンレス鋼の孔食に関して判定する方法については、腐食電位の計測や孔食電位の計測に関して下記の技術が開示されている。
【0012】
たとえば、特開2003−329632号公報には、既知の孔食電位に対して、測定した際の該実効自然電位(腐食電位)が卑になる場合を孔食進行と診断する技術が開示されている。
【0013】
また、特開平10−170469号公報には、孔食深さを腐食モニターによる腐食電流の計測から算出する方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0014】
【特許文献1】特開2006−291724号公報
【特許文献2】特開2003−329632号公報
【特許文献3】特開平10−170469号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
しかしながら、上記した各技術においては、電極(対極、試料極、参照電極)を海水ポンプの構造部材に設置させる必要があるが、これらの電極を設置するスペースに海水ポンプの構造上の制約から前記電極の設置が十分に確保できずに上記電位の計測が困難となる場合が多い。
【0016】
本発明の目的は、海水と接する海水ポンプの構造部材の二相ステンレス鋼を溶接金属によって溶接した溶接部に生じる孔食進展を抑制することを可能にした信頼性の高い海水ポンプを得る海水用ポンプの構造部材を溶接する溶接金属、及び海水用ポンプを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0017】
本発明の海水用ポンプの構造部材を溶接する溶接金属は、海水用ポンプを構成する構造部材の母材金属に20%以上のCrを含有する二相ステンレス鋼を使用し、海水用ポンプの該構造部材を溶接してこの海水用ポンプを形成する溶接金属として、Cr量が前記構造部材の母材金属のCr量よりも多く含有し、且つMnを1%以上含有する溶接金属を用いることを特徴とする。
【0018】
また本発明の海水用ポンプの構造部材を溶接する溶接金属は、海水用ポンプを構成する構造部材としてのインペラの母材金属にCrを25%以上、Moを3%以上、Nを0.1%以上含有する二相ステンレス鋼を使用し、海水用ポンプの該インペラの二相ステンレス鋼と他の構造部材を溶接してこの海水用ポンプを形成させる溶接金属として、溶接金属組成がCrを25%以上、Moを3%以上、Nを0.1%以上、Mnを1%以上含有する溶接金属を用いることを特徴とする。
【0019】
また本発明の海水用ポンプの構造部材を溶接する溶接金属は、海水用ポンプを構成する構造部材としてのケーシングの母材金属にCrを25%以上、Moを3%以上、Nを0.1%以上含有する二相ステンレス鋼を使用し、海水用ポンプの該ケーシングの二相ステンレス鋼と他の構造部材を溶接してこの海水用ポンプを形成させる溶接金属として、溶接金属組成がCrを25%以上、Moを3%以上、Nを0.1%以上、Mnを1%以含有する溶接金属を用いることを特徴とする。
【0020】
本発明の海水用ポンプは、海水用ポンプの構造部材である母材金属にCrを25%以上、Moを3%以上、Nを0.1%以上、Mnを1%以上含有する二相ステンレス鋼を使用し、海水用ポンプの前記構造部材である母材金属の二相ステンレス鋼を溶接する溶接金属に、溶接金属組成がCrを25%以上、Moを3%以上、Nを0.1%以上、Mnを1%以上含有する溶接金属を用いて溶接して海水ポンプの構造部材を接合することを特徴とする。
【0021】
また本発明の海水用ポンプは、海水用ポンプを構成する構造部材であるインペラ、シャフト、ケーシングの母材金属に、20%以上のCrを含有する二相ステンレス鋼を使用してこれらの構造部材を製作し、海水用ポンプの前記各構造部材の母材金属の二相ステンレス鋼を溶接する溶接金属に、溶接金属組成がCr量が前記構造部材の母材金属のCr量よりも多く含有し、且つMnを1%以上含有する溶接金属を用いて溶接して海水ポンプの前記構造部材を接合することを特徴とする。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、海水と接する海水ポンプの構造部材の二相ステンレス鋼を溶接金属によって溶接した溶接部に生じる孔食進展を抑制することを可能にした信頼性の高い海水ポンプを得る海水用ポンプの構造部材を溶接する溶接金属、及び海水用ポンプが実現できる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】本発明の実施例の海水ポンプの構造部材に使用する二相ステンレス鋼の母材金属を溶接金属で溶接した溶接部を人工海水中に浸漬して500時間相当経過時に前記溶接部に生成した孔食の深さを測定した測定値。
【図2】本発明の実施例の海水ポンプの構造部材に使用する二相ステンレス鋼の母材金属を溶接金属で溶接した溶接部を人工海水中に浸漬して1000時間相当経過時に前記溶接部に生成した孔食の深さを測定した測定値。
【図3】本発明の実施例の海水ポンプの構造部材に使用する二相ステンレス鋼の母材金属を溶接金属で溶接した溶接部を人工海水中に浸漬して1000時間相当経過時に前記溶接部に生成した孔食の深さを測定した他の測定値。
【図4】本発明の他の実施例であるステンレス鋼を構造部材に用いた海水用ポンプの概略構造を示す断面図。
【図5】本発明の他の実施例であるステンレス鋼を構造部材に用いた海水用ポンプの概略構造を示す断面図。
【発明を実施するための形態】
【0024】
次に、本発明の一実施例である海水用ポンプの構造部材の溶接金属及び海水用ポンプの製造方法について図面を参照して以下に説明する。
【実施例1】
【0025】
次に本発明の一実施例である海水ポンプの構造部材の二相ステンレス鋼を溶接する溶接金属について説明する。
【0026】
本実施例の海水用ポンプは海水用ポンプの構造部材に使用する母材金属の二相ステンレス鋼を溶接金属で溶接することにより製作される。
【0027】
本実施例の海水ポンプの構造部材である二相ステンレス鋼と、この二相ステンレス鋼を溶接して海水用ポンプを製作する溶接金属との組み合わせについて説明する。
【0028】
図1は、本実施例の海水ポンプの構造部材に使用する二相ステンレス鋼の母材金属を溶接金属で溶接した溶接部を人工海水中に浸漬して500時間相当経過時に前記溶接部に生成した孔食の深さを測定した測定値である。
【0029】
詳細に説明すると、図1の測定値は、本実施例の海水ポンプの構造部材に使用する二相ステンレス鋼の母材金属を溶接する溶接金属として、Cr含有量が20%以上の二相ステンレス鋼の母材金属中のCrに対する前記母材金属を溶接する溶接金属中のCr含有量の比を変数として横軸に溶接部のCr量を溶接部Cr量と母材Cr量との比で表した溶接部Cr量(溶接金属Cr/母材Cr)として示し、二相ステンレス鋼の母材金属を溶接金属で溶接した溶接部を人工海水中に浸漬して500時間相当経過時に前記溶接部に生成した孔食の平均深さ(μm)を縦軸に溶接部孔食深さとして示した測定結果である。
【0030】
【表1】

【0031】
海水ポンプの構造部材に使用する二相ステンレス鋼の各母材金属としては、表1に記載した母材記号1であるC:0.013%、Si:0.35%、Mn:1.0%、P:0.022%、S:0.003%、Ni:5.25%、Cr:22.42%、Mo:3.18%、N:0.16%と、母材記号2であるC:0.014%、Si:0.31%、Mn:0.61%、P:0.022%、S:0.001%、Ni:6.54%、Cr:24.63%、Mo:3.18%、N:0.16%と、母材記号3であるC:0.017%、Si:0.31%、Mn:0.7%、P:0.024%、S:0.002%、Ni:6.91%、Cr:24.98%、Mo:3.78%、N:0.26%と、母材記号4であるC:0.012%、Si:0.32%、Mn:1.0%、P:0.021%、S:0.001%、Ni:5.25%、Cr:25.12%、Mo:3.22%、N:0.32%とを使用した。尚、前記表1の母材金属の化学組成は重量%表示である。
【0032】
【表2】

【0033】
そして前記表1に記載した二相ステンレス鋼の各母材金属である母材記号1乃至母材記号4を接合する溶接金属としては、表2に記載した溶金記号aであるC:0.011%、Si:0.33%、Mn:1.5%、P:0.022%、S:0.003%、Ni:5.25%、Cr:20.82%、Mo:3.18%、N:0.16%と、溶金記号bであるC:0.010%、Si:0.33%、Mn:1.5%、P:0.022%、S:0.001%、Ni:6.54%、Cr:23.55%、Mo:3.16%、N:0.16%と、溶金記号cであるC:0.011%、Si:0.33%、Mn:1.5%、P:0.023%、S:0.002%、Ni:6.91%、Cr:25.62%、Mo:3.23%、N:0.26%と、溶金記号dであるC:0.009%、Si:0.33%、Mn:1.5%、P:0.021%、S:0.001%、Ni:5.25%、Cr:26.84%、Mo:3.32%、N:0.32%と、比較例である比較例AのC:0.011%、Si:0.33%、Mn:0.7%、P:0.023%、S:0.002%、Ni:6.91%、Cr:25.62%、Mo:3.23%、N:0.26%と、比較例BのC:0.009%、Si:0.33%、Mn:0.7%、P:0.021%、S:0.001%、Ni:5.25%、Cr:26.84%、Mo:3.32%、N:0.32%とを使用した。尚、前記表2の溶接金属の化学組成は重量%表示である。
【0034】
そして表1に記載した前記母材金属(母材記号1乃至母材記号4)を、表2に記載した前記溶接金属(溶金記号a乃至溶金記号d、及び比較例A,比較例B)によって溶接し、溶接した溶接部を人工海水中に浸漬して500時間相当経過時に前記溶接金属に生成した孔食の平均深さ(μm)を測定した測定値について、横軸にCr量の比で表した溶接部Cr量(溶接金属Cr/母材Cr)を取り、縦軸に溶接部に生じる溶接部孔食深さを取り、その中で代表的な測定値を図1に示した。
【0035】
図1の測定値において、図1の左上部に示した測定値は表1の母材記号1を表2の溶金記号aで溶接した溶接部に対する測定値であり、図1の中央部に示した測定値は表1の母材記号4を表2の溶金記号cで溶接した溶接部に対する測定値であり、図1の右下部に示した測定値は表1の母材記号2を表2の溶金記号dで溶接した溶接部に対する測定値である。
【0036】
図1に示した計測値において、Cr量の比で表した溶接部Cr量(溶接金属Cr/母材Cr)と溶接部孔食深さとの関係を示す測定結果から理解できるように、溶接金属中のCr量を母材金属のCr量よりも多く含有させることによって溶接金属に生じる孔食の進展は抑制され、二相ステンレス鋼の母材金属を溶接するより信頼性の高い溶接金属を確保することができる。
【0037】
特に、図1で横軸にCr量の比で表した溶接部Cr量(溶接金属Cr/母材Cr)の値が1.075以上となるCr比(母材金属に対する溶接金属の比)で、前記溶接金属にMnを1%以上含有させると溶接金属に生じる孔食の進展は抑制されて年間での孔食最大深さが1.2mm以下に低減することから、母材金属の鋼板厚さが12mmのものをこの溶接金属で溶接した場合には10年間は前記溶接金属によって溶接した母材金属の鋼板に孔食による貫通孔が生成しないことがわかる。
【0038】
以上のことから、海水ポンプの構造部材に使用する二相ステンレス鋼の母材金属を溶接する溶接金属中のCr量を母材金属のCr量よりも多く含有させた溶接金属を使用することで、溶接部に生じる孔食の進展を抑制した海水用ポンプの構造部材の溶接金属を提供できる。
【0039】
本実施例によれば、海水と接する海水ポンプの構造部材の二相ステンレス鋼を溶接金属によって溶接した溶接部に生じる孔食進展を抑制することを可能にした信頼性の高い海水ポンプを得る海水用ポンプの構造部材を溶接する溶接金属、及び海水用ポンプが実現できる。
【0040】
次に本発明の実施例である海水ポンプの構造部材の二相ステンレス鋼と、この二相ステンレス鋼を溶接して海水ポンプを製作する溶接金属との組み合わせについて、1000時間人工海水中に浸漬して溶接金属に生成した孔食深さの最大値を示す測定結果について説明する。
【0041】
次に本発明の実施例である海水ポンプの構造部材の二相ステンレス鋼と、この二相ステンレス鋼を溶接して海水ポンプを製作する溶接金属との組み合わせに関して、溶接部を塩分濃度7%の人工海水中に1000時間浸漬し、この溶接部に生成した孔食深さの最大値を計測した測定値について説明する。
【0042】
図2は、本実施例の海水ポンプの構造部材に使用する二相ステンレス鋼の各母材金属として表1に記載した前記母材金属(母材記号1乃至母材記号4)を使用し、この母材金属を溶接する溶接金属として表2に記載した前記溶接金属(溶金記号a乃至溶金記号d、及び比較例A,比較例B)によって溶接した溶接部を塩分濃度7%の人工海水中に1000時間浸漬し、この溶接部に生成した孔食深さの最大値を計測した測定値である。
【0043】
図2の測定値では、横軸にCr量の比で表した溶接部Cr量(溶接金属Cr/母材Cr)を取り、縦軸に溶接部に生じる溶接部孔食深さの最大値を取って示した。
【0044】
図2に示したCr量の比で表した溶接部Cr量(溶接金属Cr/母材Cr)と溶接部に生じた孔食深さ最大値の測定結果から、図2に白丸で示した測定値に該当する溶接金属のCr量が母材のCr量よりも多く含有する溶接金属を用いて二相ステンレス鋼の母材金属を溶接した場合の方が、上記以外のCr量の溶接金属を用いた場合に比べて溶接部に生じる孔食の進展量が少ないことがわかる。
【0045】
以上のことから、海水ポンプの構造部材に使用する二相ステンレス鋼の母材金属を溶接する溶接金属中のCr量を母材金属のCr量よりも多く含有させた溶接金属を使用することで、溶接部に生じる孔食の進展を抑制した海水用ポンプを提供できる。
【0046】
本実施例によれば、海水と接する海水ポンプの構造部材を溶接する溶接金属によって構造部材に生じる孔食進展を抑制することを可能にした信頼性の高い海水ポンプを得る海水用ポンプの構造部材を溶接する溶接金属、及び海水用ポンプが実現できる。
【0047】
図3は、本実施例の海水ポンプの構造部材に使用する二相ステンレス鋼の各母材金属として表1に記載した前記母材金属(母材記号1乃至母材記号4)を使用し、この母材金属を溶接する溶接金属として表2に記載した前記溶接金属(溶金記号a乃至溶金記号d、及び比較例A,比較例B)によって溶接した溶接部を塩分濃度7%の人工海水中に1000時間浸漬し、この溶接部に生成した孔食深さの最大値を計測した別の測定値である。
【0048】
図3の測定値では、横軸に含有量の比となる溶接金属(Cr+3.3Mo+16N+Mn)と母材(Cr+3.3Mo+16N+Mn)の比を取り、縦軸に前記溶接金属によって二相ステンレス鋼の前記母材金属を溶接して形成した溶接部に生じる溶接部孔食深さの最大値を取って示した。
【0049】
図3に示した溶接金属(Cr+3.3Mo+16N+Mn)と母材(Cr+3.3Mo+16N+Mn)の比と溶接部に生じた孔食深さ最大値の測定結果から、図3に白丸で示した測定値に該当する溶接金属のCr+3.3Mo+16N+Mnの量が母材のCr+3.3Mo+16N+Mnの量よりも多く含有する溶接金属を用いて二相ステンレス鋼の母材金属を溶接した場合の方が、上記以外の含有量の溶接金属を用いた場合に比べて溶接部に生じる孔食の進展量が少ないことがわかる。
【0050】
以上のことから、海水ポンプの構造部材に使用する二相ステンレス鋼の母材金属を溶接する溶接金属中のCr+3.3Mo+16N+Mnの量を母材金属のCr+3.3Mo+16N+Mnの量よりも多く含有させた溶接金属を使用することで、溶接部に生じる孔食の進展を抑制した海水用ポンプを提供できる。
【0051】
本実施例によれば、海水と接する海水ポンプの構造部材の二相ステンレス鋼を溶接金属によって溶接した溶接部に生じる孔食進展を抑制することを可能にした信頼性の高い海水ポンプを得る海水用ポンプの構造部材を溶接する溶接金属、及び海水用ポンプが実現できる。
【実施例2】
【0052】
次に本発明の他の実施例である海水ポンプの構造部材の二相ステンレス鋼と、この二相ステンレス鋼を溶接金属で溶接して製作した海水用ポンプについて説明する。
【0053】
図4は本発明の実施例である構造部材の二相ステンレス鋼を溶接金属で溶接して製作した海水ポンプの断面を示す概略図である。
【0054】
図4において、海水ポンプ200は主要部材としてコラムパイプ201、ケーシングライナ203、及びベルマウスケーシング204が該海水ポンプ200の外周側に設置されており、前記コラムパイプ201とケーシングライナ203とはフランジ202で相互に連結され、前記ケーシングライナ203とベルマウスケーシング204とはフランジ202で相互に連結されている。
【0055】
そして前記コラムパイプ201、ケーシングライナ203、及びベルマウスケーシング204の内側の海水ポンプの軸心側には回転シャフト209が配設されており、この回転シャフト209の先端側に羽根車205が設けられている。
【0056】
更に前記コラムパイプ201、ケーシングライナ203、及びベルマウスケーシング204の内側で前記回転シャフト209の外周側には導管207が配設されており、この導管207の先端側に案内羽根206が設けられている。前記海水ポンプ200では前記した各部品が鉄鋼材料によって製造されている。
【0057】
海水ポンプ200は海水に常時浸漬して使用するため、特に耐孔食性が要求される海水用ポンプの主要な構造部材は羽根車205と案内羽根206であるので、前記羽根車205及び案内羽根206は、海水に対する孔食性に優れた二相ステンレス鋼である前記表1に記載した母材記号1のC:0.013%、Si:0.35%、Mn:1.0%、P:0.022%、S:0.003%、Ni:5.25%、Cr:22.42%、Mo:3.18%、N:0.16%の二相ステンレス鋼によって製造した。
【0058】
そして前記羽根車205及び案内羽根206と、海水ポンプ200の他の構造部材と溶接して溶接部300を形成する溶接金属として、前記表2に記載した溶金記号b、又は溶金記号cの金属組成の溶接金属を用いて溶接して溶接部300を形成し、海水ポンプ200を製作した。
【0059】
特に本実施例の海水ポンプ200の製造においては、前記溶接部300となる溶接金属に、表2に記載した溶接金属(溶金記号a乃至溶金記号dのうち、溶金記号b、又は溶金記号cとなるCrを25%以上、Moを3%以上、Nを0.1%以上、Mnを1%以上含有する金属組成の溶接金属を用いて表1に記載した母材記号1乃至母材記号4の二相ステンレス鋼の母材金属で製作された海水ポンプ200の構造部材を溶接して前記海水ポンプ200を製造するものである。
【0060】
Mnは耐食性を劣化させる元素とされていたが、溶接金属として用いる場合、溶接後の金属組織を微細化させる温度範囲が広く、粒界に腐食性化合物が析出し易い結晶粒の大型化を抑制すること、及びMn化合物により粒界における割れ進展を抑制する効果があることが確認できた。
【0061】
この結果、海水ポンプ200を構成する構造部材の二相ステンレス鋼を前記溶接金属によって溶接した溶接部300は、海水に対して十分な耐孔食性を有するものとなる。
【0062】
本実施例によれば、海水と接する海水ポンプの構造部材の二相ステンレス鋼を溶接金属によって溶接した溶接部に生じる孔食進展を抑制することを可能にした信頼性の高い海水ポンプを得る海水用ポンプの構造部材を溶接する溶接金属、及び海水用ポンプが実現できる。
【実施例3】
【0063】
次に本発明の更に他の実施例である海水ポンプの構造部材の二相ステンレス鋼と、この二相ステンレス鋼を溶接金属で溶接して製作した海水用ポンプについて説明する。
【0064】
図5は図4と同様な本発明の更に他の実施例である構造部材のステンレス鋼を溶接金属で溶接して製作した海水ポンプの断面を示す概略図である。
【0065】
本実施例の海水ポンプは、図4に示した先の実施例の海水ポンプとその主要構成が共通しているので、両者に共通した構成の説明は省略し、相違する構成についてのみ以下に説明する。
【0066】
図5において、本実施例の海水ポンプ200では、海水ポンプ200は海水に常時浸漬して使用するため、特に耐孔食性が要求される海水用ポンプの主要な構造部材は羽根車205と案内羽根206であるので、前記羽根車205及び案内羽根206は、海水に対する孔食性に優れた二相ステンレス鋼である前記表1に記載した母材記号4のC:0.012%、Si:0.32%、Mn:1.0%、P:0.021%、S:0.001%、Ni:5.25%、Cr:25.12%、Mo:3.22%、N:0.32%の二相ステンレス鋼によって製造した。
【0067】
そして前記羽根車205及び案内羽根206と、海水ポンプ200の他の構造部材と溶接して溶接部300を形成する溶接金属として、前記表2に記載した溶金記号c、又は溶金記号dの金属組成の溶接金属を用いて溶接して溶接部300を形成し、海水ポンプ200を製作した。
【0068】
特に本実施例の海水ポンプ200の製造においては、前記溶接部300となる溶接金属に、表2に記載した溶接金属(溶金記号a乃至溶金記号dのうち、溶金記号c、又は溶金記号dとなるCrを25%以上、Moを3%以上、Nを0.1%以上、Mnを1%以上含有する金属組成の溶接金属を用いて表1に記載した母材記号1乃至母材記号4の二相ステンレス鋼の母材金属で製作された海水ポンプ200の構造部材を溶接して前記海水ポンプ200を製造するものである。
【0069】
Mnは耐食性を劣化させる元素とされていたが、溶接金属として用いる場合、溶接後の金属組織を微細化させる温度範囲が広く、粒界に腐食性化合物が析出し易い結晶粒の大型化を抑制すること、及びMn化合物により粒界における割れ進展を抑制する効果があることが確認できた。
【0070】
この結果、海水ポンプ200を構成する構造部材の二相ステンレス鋼を前記溶接金属によって溶接した溶接部300は、海水に対して十分な耐孔食性を有するものとなる。
【0071】
本実施例によれば、海水と接する海水ポンプの構造部材の二相ステンレス鋼を溶接金属によって溶接した溶接部に生じる孔食進展を抑制することを可能にした信頼性の高い海水ポンプを得る海水用ポンプの構造部材を溶接する溶接金属、及び海水用ポンプが実現できる。
【産業上の利用可能性】
【0072】
本発明は、海水ポンプを構成する二相ステンレス鋼の構造部材を溶接する溶接金属、及び二相ステンレス鋼の構造部材を溶接して製作する海水ポンプに適用可能である。
【符号の説明】
【0073】
200:海水ポンプ、201:コラムパイプ、202:フランジ、203:ケーシングライナ、204:ベルマウスケーシング、205:羽根車、206:案内羽根、207:金属導管、209:回転シャフト、300:溶接部。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
海水用ポンプを構成する構造部材の母材金属に20%以上のCrを含有する二相ステンレス鋼を使用し、海水用ポンプの該構造部材を溶接してこの海水用ポンプを形成する溶接金属として、Cr量が前記構造部材の母材金属のCr量よりも多く含有し、且つMnを1%以上含有する溶接金属を用いることを特徴とする海水用ポンプの構造部材を溶接する溶接金属。
【請求項2】
請求項1に記載の海水用ポンプの構造部材を溶接する溶接金属において、
前記海水用ポンプの構造部材である前記母材金属にCrを25%以上、Moを3%以上、Nを0.1%以上含有する二相ステンレス鋼を使用し、前記海水用ポンプの該記構造部材である母材金属の二相ステンレス鋼を溶接する前記溶接金属に、溶接金属組成がCrを25%以上、Moを3%以上、Nを0.1%以上、Mnを1%以上含有する溶接金属を用いることを特徴とする海水用ポンプの構造部材を溶接する溶接金属。
【請求項3】
海水用ポンプを構成する構造部材としてのインペラの母材金属にCrを25%以上、Moを3%以上、Nを0.1%以上含有する二相ステンレス鋼を使用し、海水用ポンプの該インペラの二相ステンレス鋼と他の構造部材を溶接してこの海水用ポンプを形成させる溶接金属として、溶接金属組成がCrを25%以上、Moを3%以上、Nを0.1%以上、Mnを1%以上含有する溶接金属を用いることを特徴とする海水用ポンプの構造部材を溶接する溶接金属。
【請求項4】
海水用ポンプを構成する構造部材としてのケーシングの母材金属にCrを25%以上、Moを3%以上、Nを0.1%以上含有する二相ステンレス鋼を使用し、海水用ポンプの該ケーシングの二相ステンレス鋼と他の構造部材を溶接してこの海水用ポンプを形成させる溶接金属として、溶接金属組成がCrを25%以上、Moを3%以上、Nを0.1%以上、Mnを1%以含有する溶接金属を用いることを特徴とする海水用ポンプの構造部材を溶接する溶接金属。
【請求項5】
請求項1に記載の海水用ポンプの構造部材を溶接する溶接金属において、
海水用ポンプの構造部材である前記母材金属の二相ステンレス鋼を溶接する前記溶接金属は、前記母材金属を溶接した溶接部における溶接金属組成中のCr量の割合が、前記母材金属のCr量に対して1.0から1.2の範囲となり、かつ溶接金属組成中のMnを1%以上含有する溶接金属を使用することを特徴とする海水用ポンプの構造部材を溶接する溶接金属。
【請求項6】
海水用ポンプの構造部材である母材金属にCrを25%以上、Moを3%以上、Nを0.1%以上、Mnを1%以上含有する二相ステンレス鋼を使用し、海水用ポンプの前記構造部材である母材金属の二相ステンレス鋼を溶接する溶接金属に、溶接金属組成がCrを25%以上、Moを3%以上、Nを0.1%以上、Mnを1%以上含有する溶接金属を用いて溶接して海水ポンプの構造部材を接合することを特徴とする海水用ポンプ。
【請求項7】
海水用ポンプを構成する構造部材であるインペラ、シャフト、ケーシングの母材金属に、20%以上のCrを含有する二相ステンレス鋼を使用してこれらの構造部材を製作し、海水用ポンプの前記各構造部材の母材金属の二相ステンレス鋼を溶接する溶接金属に、溶接金属組成がCr量が前記構造部材の母材金属のCr量よりも多く含有し、且つMnを1%以上含有する溶接金属を用いて溶接して海水ポンプの前記構造部材を接合することを特徴とする海水ポンプ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2010−194562(P2010−194562A)
【公開日】平成22年9月9日(2010.9.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−40094(P2009−40094)
【出願日】平成21年2月24日(2009.2.24)
【出願人】(000005452)株式会社日立プラントテクノロジー (1,767)
【Fターム(参考)】