説明

消毒薬、抗生物質、および麻酔薬を含有する、注射および切開用の装置

注射部位または切開部位での感染リスクを低減するための装置、キット、および方法を本明細書において説明する。本装置は、生体接着性、生体適合性、および生体侵食性の材料、ならびに1つまたは複数の消毒薬を含む。好ましい態様において、材料は、1つまたは複数のヒドロゲルで形成される。本装置はまた、不快感を軽減するため、1つまたは複数の麻酔薬を含んでいてもよい。皮膚または粘膜上のあらかじめ指定した部位への局所的な注射または切開を容易にするため、本装置にマーキング、または装置に目盛りを定めてもよい。消毒薬および/または麻酔薬は、処置前、処置中、および/または処置後に送達される。消毒薬および/または麻酔薬は、放出が制御された様式で放出してもよい。消毒薬および/または麻酔薬は、遅延時間後に送達してもよい。第二の態様において、装置は、感染リスクの低減、麻酔の実施、および/または注射もしくは切開後の血液もしくは液体の逆流の防止を目的として、注射または切開後にその部位に配置してもよい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、注射部位および切開部位を消毒するための装置に対するものである。
【0002】
関連出願の相互参照
本願は、2003年9月17日に提出された米国特許仮出願第60/503,597号の優先権を主張するものである。
【背景技術】
【0003】
発明の背景
注射および切開は、体液/組織の採取および治療用薬剤の送達の両方において、最も一般的な手段のひとつである。現在の臨床上の標準では、感染リスクを最小限にするため、注射前にアルコール、ポビドンヨード、および/または抗生物質などの局所用液体消毒薬が使用される。局所麻酔薬は、眼、頬粘膜、または胃腸粘膜など、特に感受性の高い領域を除いて、一般的には使用されない。
【0004】
局所用液体消毒薬の塗布は、正確性を欠き、且つ不便である。多くの場合、液体消毒薬の作用継続時間は、薬剤が実際に液相である時間に限定される。言い換えるとこの時間は乾燥時間により制限される。この塗布方法では、液体消毒薬を再塗布しない限り、注射または切開後にその部位を持続的に消毒することができない。この様式で液体消毒薬を広範囲に塗布することはまた、消毒前に消えないマーキング器具を用いるかまたは消毒後に滅菌マーキング器具を用いるかしない限り、あらかじめ規定した位置に注射を行うことも制限する。最後に、液体消毒薬は一般的に、注射部位または切開部位における注射材料の流出または局所出血を抑制しない。
【0005】
米国疾病管理センター(Center for Disease Control)の統計によれば、現在、米国内には1700万人の糖尿病患者が存在する。米国糖尿病学会(American Diabetes Association)は、糖尿病による直接的および間接的コストが毎年2200億ドルを超えると試算している。糖尿病患者の多くはインスリン依存性であり、毎日定期的にインスリンの経皮注射を必要とする。糖尿病患者は感染リスクが高いため、すべてのインスリン注射部位は注射前に消毒することが不可欠である。現在、皮膚の消毒は液体消毒薬により行われており、特に多いのはアルコール綿による消毒である。この手法による消毒は、制限され、局所性が不十分であり、且つ継続時間が短い。この手法はまた、抜針直後の注射部位の局所出血または細菌汚染を防ぐための手段を提供しない。
【0006】
硝子体生検を行うため、および/または、薬物もしくは気体などの治療用薬剤の硝子体内注射を行うための眼内注射は、広く行われているがいくらかリスクを伴う手技である。第一に、注射部位を適切に準備および消毒しなかった場合は、眼内感染、すなわち眼内炎が生じ得る。第二に、外科的角膜輪部(角膜と強膜との接合部)の後方3.5〜4.0 mmという解剖学的に正確な位置に注射を行わなければならない。現在の標準的な手技は、局所用抗生物質および5〜10%のポビドンヨードを眼瞼縁、睫毛、および結膜表面に塗布する段階;滅菌したキャリパーを用いて外科的角膜輪部の後方3.5〜4.0 mmを測定する段階;注射後に薬物および/または硝子体が流出するリスクを最小限にするため、滅菌した綿棒を注射部位に当てる段階;ならびに、注射後の感染の可能性を最小限にするため、本手技後に局所用抗生物質の点眼剤を最大3日間投与する段階を含む。このように多数の異なる装置を使用することは、注射部位を間違えるリスクおよび注射後に感染を生じるリスクの両方を増大させる。
【0007】
25ゲージの硝子体切除用器具が入手可能である。この器具を用いると、結膜と、強膜切開の自己閉鎖する切開部位とを通して、器具を直接挿入することができる。硝子体内注射と同様、目的の切開部位を消毒するための現在の標準的な処置は、局所用抗生物質および5〜10%のポビドンヨードを眼瞼縁、睫毛、および結膜表面に塗布する段階;滅菌したキャリパーを用いて外科的角膜輪部の後方3.5〜4.0 mmを測定する段階;強膜切開部から器具を除去した後に薬物および/または硝子体が流出するリスクを最小限にするため、滅菌した綿棒を切開部位に当てる段階;ならびに注射後感染の可能性を最小限にするため、本手技後に局所用抗生物質の点眼剤を最大3日間投与する段階を含む。さらに、結膜および強膜を突き通す硝子体切除器具の操作は、その上の結膜に外傷性の裂け目を生じさせる可能性があり、そのため、手技後の創部汚染リスクをさらに増大させる。
【0008】
近年の白内障手術では、外科的角膜輪部の小切開を通して、眼の前眼房に種々の器具が配置される。手術中、および術後に切開部が治癒して術創への細菌の侵入を防ぐだけの十分な構造的完全性が得られるまでの短期間の間に、これらの切開部位から少数の細菌が持ち込まれ、眼内炎が生じる可能性がある。
【0009】
したがって、本発明の一つの目的は、麻酔を提供するため、感染リスクを低減するため、および/または、注射部位もしくは切開部位での液体の移動を最小限にするための方法を提供することである。
【0010】
本発明のさらなる目的は、麻酔を提供するため、感染リスクを低減するため、および/または、注射部位もしくは切開部位の液体の移動を最小限にするための装置を提供することである。
【発明の開示】
【0011】
発明の簡単な概要
注射部位または切開部位の感染リスクを低減するための、装置、キット、および方法を本明細書において説明する。本装置は、生体接着性(bioadhesive)、生体適合性、および生体侵食性(bioerodable)の材料ならびに1つまたは複数の消毒薬を含む。好ましい態様において、材料は、1つまたは複数のヒドロゲルで形成される。装置はまた、不快感を軽減するため、1つまたは複数の麻酔薬を含んでいてもよい。皮膚または粘膜上のあらかじめ指定した部位への局所的な注射または切開を容易にするため、装置にマーキング、または装置に目盛りを定めてもよい。注射部位または切開部位を特定または選択した後、局所消毒、および任意で局所麻酔を実現するのに十分な時間だけ、装置をその部位に配置する。次に、この構成物を通して、本部位に針または手術器具を挿入する。その後、注射の場合は薬物の投与、液体の除去を行い、または切開の場合は手術器具を本部位に配置する。次に、針または手術器具を本部位から除去し、本装置が本部位上にとぎれのないシールを形成する。消毒薬および/または麻酔薬は、処置前、処置中、および/または処置後に送達される。消毒薬および/または麻酔薬は、放出が制御された様式で放出してもよい。消毒薬および/または麻酔薬は、遅延時間後に送達してもよい。第二の態様において、装置は、感染リスクの低減、麻酔の実施、および/または注射もしくは切開後の血液もしくは液体の逆流の防止を目的として、注射または切開後にその部位に配置してもよい。
【0012】
発明の詳細な説明
I.装置
装置は、ポリマー材料、および消毒薬または麻酔薬などのその他の活性成分で形成される。装置は、生体適合性、生体接着性、および生体侵食性である。好ましい態様において、装置が完全に侵食されるまでの時間は、注射または切開後数分間〜数日間まで変化する。好ましい態様において、侵食時間は約1〜2日である。装置は一般的に小さく、直径10 mm未満であるが、10 mmを超える切開などの意図される特殊な用途に適するよう、それより大きくてもよい。装置は任意の形状(例えば正方形、長方形、円形、または楕円形)であってよい。ひとつの態様において、装置は円形または楕円形のディスクである。装置は、透明であっても、半透明であっても、または不透明度が可変であってもよい。装置は、目的の注射部位もしくは切開部位を特定するため、または、外科的角膜輪部などの認識される解剖学的目印から目的の注射部位もしくは切開部位までの距離の測定を補助するため、1つまたは複数のマーキングを含んでいてもよい。装置は、鉗子などの滅菌済み器具を用いた操作および配置を容易にするため、非生体接着性表面上の直線または曲線の2つの陥凹を持つように作製してもよい。
【0013】
a.材料
装置は、生体接着性、生体適合性、および生体侵食性の材料で形成される。好ましい態様において、装置は、1つまたは複数のヒドロゲルポリマーを含む。これらのポリマーは、消毒薬および/または麻酔薬の保存および時間依存的放出を可能にし、生体接着性であり、且つ、生体侵食される。好適なヒドロゲルとしては、皮膜形成ヒドロゲルおよび生体接着性ポリマーがある。
【0014】
生体接着性ポリマー
親水性のポリマーおよびヒドロゲルは生体接着特性を有する傾向がある。カルボキシル基を含む親水性ポリマー(例えばポリ[アクリル酸])は、最も優れた生体接着特性を示す傾向がある。軟部組織に対する生体接着性が望ましい場合は、カルボキシル基の濃度が最も高いポリマーが好ましい。アルギン酸ナトリウム、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシメチルセルロース、およびメチルセルロースなどの種々のセルロース誘導体も生体接着特性を有する。これら生体接着性材料の一部は水溶性であり、他はヒドロゲルである。ポリ(ラクチド-コ-グリコリド(lactide-co-glycolide))、ポリ無水物、およびポリオルトエステルなど、それらの滑らかな表面が侵食されるにしたがってそれらのカルボキシル基が外面に露出する急速生体侵食性のポリマーも、生体接着性材料の形成に使用できる。さらに、ポリ無水物およびポリエステルなど不安定な結合を含むポリマーも、その加水分解反応性が周知である。一般的に、これらの加水分解速度は、ポリマーのバックボーンの単純な変更により変えることができる。これらの材料も、分解時、自身の外面にカルボキシル基が露出し、したがって、生体接着性の薬物送達システムとして使用することができる。
【0015】
ヒドロゲル
好適なヒドロゲルは、ポリエチレングリコール、ポリエチレンオキシド、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、ポリアクリル酸、ポリ(エチレンテレフタレート)、ポリ(酢酸ビニル)、ならびにこれらのコポリマーおよびこれらの配合物などの合成ポリマーで形成してもよく、上述のようにセルロースおよびアルギン酸塩などの天然ポリマーで形成してもよい。材料の例としては、SEPRAFILM(登録商標)(修飾ヒアルロン酸ナトリウム/カルボキシメチルセルロース、Genzyme Pharmaceuticals)、INTERCEED(登録商標)(酸化再生セルロース、Johnson & Johnson Medical, Inc.)、BEMA(登録商標)(生体侵食性の粘膜接着性ディスク、Atrix Laboratories, Inc.)、および生体接着性眼病用薬剤挿入物(BODI)(Gurtler F, et al., J. Controlled Release 1995; 33:231-236に記載)がある。薬剤の局所送達を行うためのヒドロゲルの使用は、例えばHubbellらの米国特許第5,410,016号に記載されている。
【0016】
b.消毒薬
消毒薬は、アルコール(エチルアルコール、メチルアルコール、イソプロピルアルコール、ブチルアルコール、もしくはプロピルアルコールなど);ヨウ素もしくはポビドンヨード;アルカリ消毒薬(水酸化ナトリウムもしくは酸化カルシウムなど);クロルヘキシジン、Virosan(防腐殺菌用ウシ乳腺クリーム)、もしくはNolvasan(登録商標)(American Home Products Corp.)などのビグアニド消毒薬;陽イオン界面活性剤(Parvosol(登録商標)(Chlorhexidine、Hess & Clark、Inc.)、Roccal-D(登録商標)Plus、A33(登録商標)(第4級アンモニウム消毒薬)、Brulin Maxima 128(第4級殺菌洗浄剤)、Bramton Ken Care消毒薬、Unicide 256殺菌洗浄剤(第四アンモニウム化合物)、塩化ベンザルコニウム、塩化ベンゼトニウム、もしくは塩化セチルピリジニウムなど);ハロゲン含有化合物(次亜塩素酸ナトリウム、alcide、ジクロロイソシアヌル酸ナトリウム、次亜塩素酸カルシウム、もしくは有機塩化物など);酸化性過酸化物(過酸化水素、過ホウ酸ナトリウム、過酸化ベンゾイル、もしくは過マンガン酸カリウムなど);フェノールもしくはその関連化合物(石炭酸もしくはクレゾール酸など);合成フェノール(chlorosyenols、ヘキサクロロフェン、sporicidin、パラクロロメタキシレノール、もしくはジクロロメタキシレノールなど);還元剤もしくはアルデヒド(グルタルアルデヒド、ホルマリン、Cidex(登録商標)(Johnson & Johnson Corp.)、もしくはWavicide(登録商標)-01(Wave Energy Systems Inc.)など);チメロサール;抗菌薬(エリスロマイシン、テトラサイクリンなど);またはこれらの組合せであってもよい。消毒薬は一般的に、高濃度で有毒である。有用な濃度は当業者に公知であるか、または標準的なアッセイ法により容易に確認できる。
【0017】
c.麻酔薬
注射または切開に付随する不快感を軽減するため、装置に麻酔薬を含めてもよい。好適な麻酔薬としては、リドカイン、テトラカイン(アメトカイン)、プリロカイン、ベンゾカイン、ブピバカイン、コカイン、エチドカイン、メピバカイン、プラモキシン、プリロカイン、プロカイン、プロパラカイン、ロピバカイン、およびこれらの混合物などの局所麻酔薬があるが、それに限定されるわけではない。典型的な用量としては、2〜10%(wt/wt)のリドカインまたは2%(wt/wt)のテトラカインがあるが、これより大幅に少ない麻酔薬を用いてもよい。薬物動態的な放出を最適にするため、および/または、皮膚もしくは粘膜への浸透を高めるため、2つ以上の麻酔薬を併用してもよい。
【0018】
ひとつの態様において、装置は消毒薬と麻酔薬との組合せを含み、これは例えば(a)塩化ベンザルコニウムまたはチメロサールに(b)ポビドンヨードを伴うものもしくは伴わないものと、(c)リドカインまたはテトラカインとの組合せである。装置内の各消毒薬または麻酔薬の量は用途ごとに異なっていてもよく、且つ、経験的に決定してもよい。例えば、この組合せは、70%(wt/wt)のエチルアルコールまたは5〜10%(wt/wt)ポビドンヨードと、2〜4%(wt/wt)のリドカインまたは2%(wt/wt)のテトラカインとを含んでいてもよい。別の好適な組合せは、70%のエチルアルコールまたは5〜10%(wt/wt)のポビドンヨード、2〜4%(wt/wt)のリドカイン、および2〜4%プリロカインを含む。
【0019】
d.生物学的活性を有する他の薬剤
装置は、抗菌性の殺真菌薬または殺ウイルス薬など、生物学的活性を有する薬剤をさらに含んでいてもよい。装置はまた抗生物質を含んでいてもよく、そのような抗生物質としては、アモキシシリン、アンピシリン、セファクロル、クラリスロマイシン、セフトリアキソン、セフプロジル、硫酸ゲンタマイシン、およびバンコマイシンなどがあるが、それに限定されるわけではない。
【0020】
e.賦形剤および添加剤
装置は、薬学的に許容される希釈剤または担体、およびその他の賦形剤を含んでいてもよい。装置は、グリセリン、ペトロラタムゼリー、ペトロラタム、鉱油、エチレングリコール、グリセロール、およびこれらの組合せなど、刺激反応を低下させる薬剤を含んでいてもよい。装置は、皮膚または粘膜のpHを最適化および安定化させる、pH安定剤または緩衝剤を含んでいてもよい。装置は、生体接着性を高めるため、1つまたは複数のレクチンを含んでいてもよい。
【0021】
II.消毒薬装置の使用方法
本発明の消毒薬装置は、注射または切開後の感染リスクを低減するため、および、出血または体液の損失を防ぐための多数の異なる用途に使用できる。好適な用途としては、薬物の注射、体液の除去、ならびに硝子体切除術および白内障除去手術などの眼科手術がある。装置は皮膚または粘膜上に配置される。好ましい態様において、装置は、例えば患者にインスリンを注射する前などに、皮膚に用いられる。別の態様において、装置は、眼内への注射または他の粘膜を突き通す注射の前に、注射部位に用いられる。さらに別の態様において、装置は、硝子体手術または白内障手術の術前、術中、または術後に、角膜輪部の切開部に配置される。装置は、その部位の消毒、および任意で麻酔を行うのに十分な時間だけ、所定の位置に留置される。ひとつの態様において、装置は、所定の位置に5〜15分間留置され、この間に完全に侵食される。別の態様において、装置は、所定の位置に1〜3日間留置される。いずれの場合も、装置は、完全に侵食されるまで所定の位置に留置される。
【0022】
あらかじめ決定した部位に消毒薬装置を配置した後、針、カニューレ、または手術器具などのその他の器具を、装置を通して皮膚または粘膜内に挿入する。ひとつの態様において、器具は、白内障手術、緑内障手術、または硝子体網膜手術に使用される眼球手術器具である。装置は、針または手術器具の除去時に自己閉鎖してもよい。装置は、その部位から除去されるのではなく、その部位に接着し、数分間〜数日間の期間にわたって分解される。
【0023】
ディスクが部位に留置されている間に消毒薬および/または抗菌薬が放出される。消毒薬および/または抗菌薬は、数分間〜数日間の期間にわたって送達されてもよい。ひとつの態様において、消毒薬、麻酔薬、および/または抗菌薬は、24時間未満の時間にわたって送達されるか、装置の分解に必要な時間にわたって送達される。
【0024】
装置は麻酔薬を含んでいてもよく、麻酔薬は、5〜60分間にわたって患者に送達される。ひとつの態様において、麻酔薬は注射の前に送達される。用途に応じて、消毒薬および/または麻酔薬は、注射前、注射中、および/または注射後に送達されてもよい。
【0025】
インスリンの経皮注射
インスリンなどの薬物の注射前に、本発明の消毒装置を、目的の注射部位に配置する。一般的に5〜60分間の、注射部位を消毒および麻酔するのに有効な時間が経過した後に装置を通してインスリン注射を行ない、注射は、好ましくは配置を容易にするためにマーキングされた中央部を通して行なう。消毒装置は、円形ディスクの形状であってもよく、任意で、目的の注射部位をあらかじめ特定することを可能にするための、明確にマーキングされた中央部を有していてもよい。装置は自己閉鎖式であってもよく、これにより、抜針時の出血が防止される。消毒薬、麻酔薬、および/または抗菌薬の正確な組合せは経験的に決定することができ、同様に、装置の時間放出特性および生体侵食特性も、日常的な技術を用いて経験的に決定することができる。
【0026】
経結膜注射および/または薬物の硝子体内注射
硝子体生検を目的とした経結膜注射および/または薬物の硝子体内注射の前に、消毒装置を目的の注射部位に配置する。装置は、ディスク縁から3.5〜4.0 mmの位置に注射するための明確にマーキングされた中央部を有する生体接着性の円形ディスクであってもよく、これにより、カリパーなどの滅菌済み測定装置の必要性を解消する。ディスクの縁を外科的角膜輪部に配置することにより、目的の注射部位が正確に特定され、これにより、滅菌済みカリパーの必要性が回避される。このディスクはまた自己閉鎖式であってもよく、これにより、薬物および/または硝子体の逆流を防ぐための滅菌済み綿棒の必要性、ならびに注射後の抗生物質点眼の必要性が回避される。消毒薬、麻酔薬、および/または抗菌薬の正確な組合せは経験的に決定することができ、同様に、装置の時間放出特性および生体侵食特性も、日常的な技術を用いて経験的に決定することができる。
【0027】
硝子体切除術
硝子体切除を補助するため、25ゲージの硝子体切除器具を挿入する目的部位に、消毒装置を配置する。25ゲージの硝子体切除器具を、結膜を通して直接挿入し、硝子体を除去する。消毒装置は、円形ディスクの形状であってもよく、任意で、目的の挿入部位をあらかじめ特定することを可能にするための、明確にマーキングされた中央部を有していてもよい。目的の注射部位を正確に特定するために、ディスクの縁を外科的角膜輪部に配置することができ、これにより、滅菌済みカリパーの必要性が回避される。25ゲージの硝子体切除器具の挿入部位に麻酔を施すため、装置は局所麻酔薬を含んでいてもよい。このディスクはまた自己閉鎖式であってもよく、これにより、薬物および/または硝子体の逆流を防ぐための滅菌済み綿棒の必要性が回避される。
【0028】
装置は、徐放性の消毒薬または抗菌薬を含んでいてもよく、これにより、注射後の抗生物質点眼の必要性が回避される。消毒薬、麻酔薬、および/または抗菌薬の正確な組合せは経験的に決定することができ、同様に、装置の時間放出特性および生体侵食特性も、日常的な技術を用いて経験的に決定することができる。
【0029】
前区手術
本装置は、白内障手術、眼内レンズの設置もしくは交換、または緑内障手術などの前区手術の術前、術中、または術後に、眼に使用してもよい。そのようなひとつの用途において、本装置は、手術前、針または他の器具が眼の前区に挿入される前に用いられる。別の用途において、本装置は、手術手技の直後に注射部位または切開部位に用いられる。消毒薬、麻酔薬、および/または抗菌薬の正確な組合せは経験的に決定することができ、同様に、装置の時間放出特性および生体侵食特性も、日常的な技術を用いて経験的に決定することができる。
【0030】
アルコール、ヨウ素、ポビドンヨード、抗生物質、および/または他の消毒薬の具体的な組合せは、装置の時間放出特性および生体侵食特性と同様、適応特異的であり且つ経験的に決定されるが、消毒装置の一般的な特性は、硝子体内注射または硝子体切除器具の挿入に関する前述の説明と同一である。好ましい態様において、消毒薬は、(a)5〜10%(wt/wt)のポビドンヨード、(b)2〜4%(wt/wt)のリドカインまたは2%(wt/wt)のテトラカイン、および(c)抗生物質の組合せである。エチルアルコールは、適用後直ちに、5〜15分間にわたって放出される。抗生物質は、装置の侵食に従って、1〜3日間にわたって放出される。
【0031】
当業者であれば、日常的な実験以上のものを用いずに、本明細書に説明した本発明の具体的な態様に対する多数の同等物を認識するまたは確認できるものと思われる。そのような同等物は、添付の特許請求の範囲に含まれるものと意図される。
【0032】
III.キット
手術中または注射中に使用するためのキットは、生体接着性、生体侵食性の装置、および手術器具または注射器具を含む。好適な器具としては、白内障手術、緑内障手術、または硝子体網膜手術用の眼球手術器具、針、およびカニューレがある。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
生体接着性(bioadhesive)、生体適合性、および生体侵食性(bioerodable)の材料ならびに、1つもしくは複数の消毒薬、抗生物質、麻酔薬、またはこれらの組合せとを含む装置。
【請求項2】
アルコール、ヨウ素またはポビドンヨード、アルカリ消毒薬、ビグアニド消毒薬、陽イオン界面活性剤、ハロゲン含有化合物、酸化性過酸化物、フェノール、還元剤、アルデヒド、チメロサール、抗菌薬、およびこれらの組合せからなる群より選択される消毒薬を含む、請求項1記載の装置。
【請求項3】
生体接着性、生体適合性、および生体侵食性の材料がヒドロゲルである、請求項1記載の装置。
【請求項4】
1つまたは複数のpH安定剤または緩衝剤をさらに含む、請求項1記載の装置。
【請求項5】
グリセリン、ペトロラタムゼリー、ペトロラタム、鉱油、エチレングリコール、およびグリセロール、ならびにこれらの組合せからなる群より選択される添加剤をさらに含む、請求項1記載の装置。
【請求項6】
リドカイン、テトラカイン、プリロカイン、ベンゾカイン、ブピバカイン、コカイン、エチドカイン、メピバカイン、プラモキシン、プリロカイン、プロカイン、プロパラカイン、ロピバカイン、およびこれらの混合物からなる群より選択される麻酔薬を含む、請求項1記載の装置。
【請求項7】
抗生物質を含む、請求項1記載の装置。
【請求項8】
消毒薬、抗生物質、麻酔薬、またはこれらの組合せを注射部位または切開部位に投与するための方法であって、以下の段階を含む方法:
該注射部位に、装置を適用する段階であって、ここで該装置が、生体接着性、生体適合性、および生体侵食性の材料、ならびに1つもしくは複数の消毒薬、1つもしくは複数の抗菌薬、1つもしくは複数の局所麻酔薬、およびこれらの組合せからなる群より選択される化合物を含む段階;ならびに
注射器具または手術器具を該装置に挿入する段階。
【請求項9】
装置が、注射部位または切開部位の位置を特定するためのマーキングをさらに含む、請求項8記載の方法。
【請求項10】
注射器具または切開器具がマーキング内に挿入される、請求項9記載の方法。
【請求項11】
消毒薬が、アルコール、ヨウ素またはポビドンヨード、アルカリ消毒薬、ビグアニド消毒薬、陽イオン界面活性剤、ハロゲン含有化合物、酸化性過酸化物、フェノール、還元剤、アルデヒド、チメロサール、抗菌薬、およびこれらの組合せからなる群より選択される、請求項8記載の方法。
【請求項12】
装置が、注射器具の除去の直後に自己閉鎖する、請求項8記載の方法。
【請求項13】
消毒薬が、1〜3日間の期間にわたって注射部位に送達される、請求項8記載の方法。
【請求項14】
消毒薬が、注射後に注射部位または切開部位に送達される、請求項8記載の方法。
【請求項15】
注射部位が皮膚または粘膜上に位置する、請求項8記載の方法。
【請求項16】
注射部位または切開部位が眼の粘膜上に位置する、請求項15記載の方法。
【請求項17】
消毒薬、抗生物質、麻酔薬、またはこれらの組合せを注射部位または切開部位に投与するためのキットであって、生体接着性、生体適合性、および生体侵食性の材料、1つまたは複数の消毒薬、1つまたは複数の抗菌薬、ならびに1つまたは複数の局所麻酔薬を含む装置;注射器具または手術器具を含むキット。
【請求項18】
器具が、白内障手術、緑内障手術、または硝子体網膜手術用の眼球手術器具、針、およびカニューレからなる群より選択される、請求項17記載のキット。

【公表番号】特表2007−505918(P2007−505918A)
【公表日】平成19年3月15日(2007.3.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−527038(P2006−527038)
【出願日】平成16年9月17日(2004.9.17)
【国際出願番号】PCT/US2004/030435
【国際公開番号】WO2005/027989
【国際公開日】平成17年3月31日(2005.3.31)
【出願人】(506092112)
【Fターム(参考)】