説明

液体噴射ヘッド及び液体噴射装置並びにアクチュエータ装置

【課題】 配線基板と電極との電気的及び機械的密着力を向上すると共にコストを低減した液体噴射ヘッド及び液体噴射装置並びにアクチュエータ装置を提供する。
【解決手段】液体を噴射するノズル開口に連通する圧力発生室が設けられた流路形成部材22と、該流路形成部材22の一方面側に設けられて前記圧力発生室に圧力変化を生じさせる圧電素子と、前記流路形成部材の一方面側に設けられて前記圧電素子に導通する端子部46と、前記圧電素子を駆動する駆動信号を供給する配線層51が設けられた配線基板50と、前記配線層51と前記端子部46とを導通すると共に前記配線基板50と前記流路形成部材22とを接合する異方性導電材からなる接着層55とを具備し、前記接着層55が設けられた領域の前記流路形成部材22及び前記配線基板50の少なくとも一方面には、前記端子部46及び前記配線層51とは電気的に不連続なギャップ層56が設けられている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ノズル開口から液体を噴射する液体噴射ヘッド及び液体噴射装置並びにアクチュエータ装置に関し、特に液体としてインクを吐出するインクジェット式記録ヘッド及びインクジェット式記録装置に関する。
【背景技術】
【0002】
ノズル開口に連通する圧力発生室の一部を振動板で構成し、この振動板を圧電素子により変形させて圧力発生室のインクを加圧してノズル開口からインク滴を吐出させるインクジェット式記録ヘッドには、下電極、圧電体層及び上電極からなる圧電素子のたわみ変形を用いたものが実用化されている。
【0003】
また、圧電素子を駆動するための駆動信号を供給する駆動回路は、フレキシブルプリント基板等の配線基板に実装され、駆動回路からの駆動信号はこの配線基板を介して圧電素子に供給される(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
また、圧電素子を駆動する駆動信号を供給する駆動回路は、フレキシブルプリント基板等の配線基板に実装され、配線基板の配線層と圧電素子に導通する端子部とが異方性導電材を介して導通されると共に、異方性導電材によって配線基板と圧電素子が設けられた流路形成基板とが接合されている(例えば、特許文献1参照)。
【特許文献1】特開平10−44418号広報(第7頁、第8図)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、配線基板の配線層と端子部とを異方性導電材で接着する際に、配線基板に異方性導電材を薄く形成した状態で両者を加圧した場合、配線層と端子部との間以外の領域で配線基板と流路形成基板との間に空隙が生じ、配線層と端子部との電気的及び機械的な密着強度が低下して、断線や配線基板と流路形成基板との剥離などが生じてしまうという問題がある。
【0006】
特に、配線層が接続される端子部の流路形成基板からの高さが高い場合、隣り合う端子部の間は、流路形成基板と配線基板との間隔が広くなり、空隙が生じ易い。
【0007】
なお、このような問題は、インクジェット式記録ヘッド等の液体噴射ヘッドに搭載されるアクチュエータ装置だけでなく、他の装置に搭載されるアクチュエータ装置においても同様に存在する。
【0008】
本発明はこのような事情に鑑み、配線基板と電極との電気的及び機械的密着力を向上すると共にコストを低減した液体噴射ヘッド及び液体噴射装置並びにアクチュエータ装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決する本発明の態様は、液体を噴射するノズル開口に連通する圧力発生室が設けられた流路形成部材と、該流路形成部材の一方面側に設けられて前記圧力発生室に圧力変化を生じさせる圧電素子と、前記流路形成部材の一方面側に設けられて前記圧電素子に導通する端子部と、前記圧電素子を駆動する駆動信号を供給する配線層が設けられた配線基板と、前記配線層と前記端子部とを導通すると共に前記配線基板と前記流路形成部材とを接合する異方性導電材からなる接着層とを具備し、前記接着層が設けられた領域の前記流路形成部材及び前記配線基板の少なくとも一方面には、前記端子部及び前記配線層とは電気的に不連続なギャップ層が設けられていることを特徴とする液体噴射ヘッドにある。
かかる態様では、ギャップ層によって、流路形成部材と配線基板との端子部以外の領域の間隔を狭めることができるため、比較的薄い異方性導電材を用いて両者を接合しても、端子部以外の領域の接着層内に空隙が生じるのを防止することができる。これにより、端子部と配線層との電気的及び機械的密着強度を向上して、断線や剥離が生じるのを防止することができると共に、少ない異方性導電材を利用するためコストを低減することができる。
【0010】
ここで、前記ギャップ層が、前記配線基板に設けられていることが好ましい。これによれば、ギャップ層を容易に且つ高精度に形成することができる。
【0011】
また、前記ギャップ層が、前記配線層と同一層で構成されていることが好ましい。これによれば、ギャップ層を配線層と同時に形成することができるため、ギャップ層を高精度に形成することができると共に、ギャップ層を他の材料や他の工程で形成するのに比べてコストを低減することができる。
【0012】
また、前記端子部が、複数並設されていると共に、前記ギャップ層が、隣り合う前記端子部の間に設けられていることが好ましい。これによれば、隣り合う端子部の間の接着層に空隙が生じるのを防止して、端子部と配線層との電気的及び機械的な密着強度を確実に向上することができる。
【0013】
また、前記端子部の前記流路形成部材からの高さが、前記圧電素子の前記流路形成部材の高さよりも高く設けられており、前記配線基板が、前記圧電素子上に所定の空間を画成した状態で配設されていることが好ましい。これによれば、配線基板が圧電素子に当接することによる圧電素子の変位低下を防止できる。
【0014】
また、前記端子部が、前記流路形成部材の表面から20μm以上の高さを有することが好ましい。これによれば、ギャップ層によって、流路形成部材と配線基板との端子部以外の領域の間隔を狭めることができるため、比較的薄い異方性導電材を用いて両者を接合しても、端子部以外の領域の接着層内に空隙が生じるのを防止することができる。
【0015】
また、前記端子部の前記流路形成部材と反対側の面が、基準面に対して前記圧電素子側が高く、前記圧電素子とは反対側が低い傾斜した接続面となっていることが好ましい。なお、ここで傾斜した接続面は多少の凹凸があってもよく、全体として傾斜していればよい。また、流路形成基板から端子部の方向に基準面から離れるほど「高い」ということを意味する。
これによれば、端子部の接続面を傾斜させることで、圧電素子と配線基板との間の距離が離れることで、圧電素子と配線基板との接触を抑制でき、端子部を低くすることができ、異方性導電材の量を低減して、異方性導電材に空隙が生じるのを防止して、電気的及び機械的強度を向上することができる。
【0016】
さらに本発明の他の態様は、上記態様の液体噴射ヘッドを具備することを特徴とする液体噴射装置にある。
かかる態様では、信頼性を向上した液体噴射装置を実現できる。
【0017】
また、本発明の他の態様は、基板上に設けられた圧電素子と、前記基板の一方面側に設けられて前記圧電素子に導通する端子部と、前記圧電素子を駆動する駆動信号を供給する配線層が設けられた配線基板と、前記配線層と前記端子部とを導通すると共に前記配線基板と前記流路形成部材とを接合する異方性導電材からなる接着層とを具備し、前記接着層が設けられた領域の前記流路形成部材及び前記配線基板の少なくとも一方面には、前記端子部及び前記配線層とは電気的に不連続なギャップ層が設けられていることを特徴とするアクチュエータ装置にある。
ギャップ層によって、基板と配線基板との端子部以外の領域の間隔を狭めることができるため、比較的薄い異方性導電材を用いて両者を接合しても、端子部以外の領域の接着層内に空隙が生じるのを防止することができる。これにより、端子部と配線層との電気的及び機械的密着強度を向上して、断線や剥離が生じるのを防止することができると共に、少ない異方性導電材を利用するためコストを低減することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下に本発明を実施形態に基づいて詳細に説明する。
(実施形態1)
図1は、本発明の実施形態1に係る液体噴射ヘッドの一例であるインクジェット式記録ヘッドの分解斜視図であり、図2はインクジェット式記録ヘッドの平面図であり、図3は、図2のA−A′断面図であり、図4は、図3のB−B′断面図である。
【0019】
図示するように、本実施形態のインクジェット式記録ヘッド10は、アクチュエータユニット20と、アクチュエータユニット20が固定される1つの流路ユニット30と、アクチュエータユニット20に接続される配線基板50とで構成されている。
【0020】
アクチュエータユニット20は、圧電素子40を具備するアクチュエータ装置であり、圧力発生室21が形成された流路形成部材である流路形成基板22と、流路形成基板22の一方面側に設けられた振動板23と、流路形成基板22の他方面側に設けられた圧力発生室底板24とを有する。
【0021】
流路形成基板22は、例えば、150μm程度の厚みを有するアルミナ(Al23)や、ジルコニア(ZrO2)などのセラミックス板からなり、本実施形態では、複数の圧力発生室21がその幅方向に沿って並設された列が2列形成されている。そして、この流路形成基板22の一方面に、例えば、厚さ10μmのジルコニアの薄板からなる振動板23が固定され、圧力発生室21の一方面はこの振動板23により封止されている。
【0022】
圧力発生室底板24は、流路形成基板22の他方面側に固定されて圧力発生室21の他方面を封止すると共に、圧力発生室21の長手方向一方の端部近傍に設けられて圧力発生室21と後述するリザーバとを連通する供給連通孔25と、圧力発生室21の長手方向他方の端部近傍に設けられて後述するノズル開口34に連通するノズル連通孔26とを有する。
【0023】
そして、圧電素子40は、振動板23上の各圧力発生室21に対向する領域のそれぞれに設けられ、例えば、本実施形態では、圧力発生室21の列が2列設けられているため、圧電素子40の列も2列設けられている。
【0024】
ここで、各圧電素子40は、振動板23上に設けられた下電極膜43と、各圧力発生室21毎に独立して設けられた圧電体層44と、各圧電体層44上に設けられた上電極膜45とで構成されている。圧電体層44は、圧電材料からなるグリーンシートを貼付することや、印刷することで形成されている。また、下電極膜43は、並設された圧電体層44に亘って設けられて各圧電素子40の共通電極となっており、振動板の一部として機能する。勿論、下電極膜43を各圧電体層44毎に設けるようにしてもよい。
【0025】
なお、アクチュエータユニット20の各層である流路形成基板22、振動板23及び圧力発生室底板24は、粘土状のセラミックス材料、いわゆるグリーンシートを所定の厚さに成形して、例えば、圧力発生室21等を穿設後、積層して焼成することにより接着剤を必要とすることなく一体化される。そして、その後、振動板23上に圧電素子40が形成される。
【0026】
一方、流路ユニット30は、アクチュエータユニット20の圧力発生室底板24に接合されるインク供給口形成基板31と、複数の圧力発生室21の共通インク室となるリザーバ32が形成されるリザーバ形成基板33と、ノズル開口34が形成されたノズルプレート35とからなる。
【0027】
インク供給口形成基板31は、厚さ150μmのジルコニアの薄板からなり、ノズル開口34と圧力発生室21とを接続するノズル連通孔36と、前述の供給連通孔25と共にリザーバ32と圧力発生室21とを接続するインク供給口37を穿設して構成され、また、各リザーバ32と連通し、外部のインクタンクからのインクを供給するインク導入口38が設けられている。
【0028】
リザーバ形成基板33は、インク流路を構成するに適した、例えば、150μmのステンレス鋼などの耐食性を備えた板材に、外部のインクタンク(図示なし)からインクの供給を受けて圧力発生室21にインクを供給するリザーバ32と、圧力発生室21とノズル開口34とを連通するノズル連通孔39とを有する。
【0029】
ノズルプレート35は、例えば、ステンレス鋼からなる薄板に、圧力発生室21と同一の配列ピッチでノズル開口34が穿設されて形成されている。例えば、本実施形態では、流路ユニット30には、圧力発生室21の列が2列設けられているため、ノズルプレート35にも、ノズル開口34の列が2列形成されている。また、このノズルプレート35は、リザーバ形成基板33の流路形成基板22の反対面に接合されてリザーバ32の一方面を封止している。
【0030】
このような流路ユニット30は、これらインク供給口形成基板31、リザーバ形成基板33及びノズルプレート35を、接着剤や熱溶着フィルム等によって固定することで形成される。なお、本実施形態では、リザーバ形成基板33及びノズルプレート35をステンレス鋼によって形成しているが、例えば、セラミックスを用いて形成し、アクチュエータユニット20と同様に流路ユニット30を一体的に形成することもできる。
【0031】
そして、このような流路ユニット30とアクチュエータユニット20とは、接着剤や熱溶着フィルムを介して接合されて固定されている。
【0032】
また、図3及び図4に示すように、各圧電素子40の長手方向一端部の圧力発生室21の周壁に相対向する領域には、圧電素子40に導通する端子部46が設けられている。端子部46は、圧電素子40毎に設けられて圧電素子40の上電極膜45に導通する端子部46と、圧電素子の並設方向両端部側に引き出された下電極膜43に導通する端子部46とが、圧電素子40の並設方向に並設されている。本実施形態では、並設された圧電素子40の列と列の間に並設された端子部46の列を2列設けるようにした。
【0033】
このような端子部46は、流路形成基板22(振動板23)からの高さ、すなわち上端面が、圧電素子40の流路形成基板22(振動板23)からの高さよりも高く形成されている。これは、詳しくは後述するが、端子部46と配線基板50の配線層51とを接続した際に、配線基板50が圧電素子40に当接して、圧電素子40の変位が低下するのを防止するためである。本実施形態では、端子部46の流路形成基板22(振動板23)からの高さを20μmで形成した。
【0034】
なお、このような端子部46は、例えば、銀(Ag)等の導電性の高い金属材料を用いて、スクリーン印刷によって形成することができる。
【0035】
そして、圧電素子40の各上電極膜45及び下電極膜43に導通する端子部46には、配線基板50に設けられた配線層51が電気的に接続されており、この配線基板50を介して図示しない駆動回路からの駆動信号が各圧電素子40に供給される。なお、駆動回路は、特に図示していないが、配線基板50上に実装されていても、また、配線基板50以外に実装されていてもよい。
【0036】
配線基板50は、2列の圧電素子40に亘って1つ設けられた、例えば、フレキシブルプリンティングサーキット(FPC)や、テープキャリアパッケージ(TCP)などからなる。詳しくは、配線基板50は、例えば、ポリイミド等のベースフィルム52の表面に銅薄をベースとして錫メッキ等を施した所定パターンの配線層51を形成し、配線層51の端子部46と接続される端部以外の領域をレジスト等の絶縁材料53で覆ったものである。
【0037】
また、配線基板50には、並設された圧電素子40の列と列の間に対向する領域に貫通孔54が設けられており、配線層51は、貫通孔54側の端部で端子部46と接続されている。なお、配線基板50の貫通孔54は、貫通孔54が設けられていないベースフィルム52の表面に、一方の列の圧電素子40に接続される配線層51と、他方の列の圧電素子40に接続される配線層51とが連続するように形成後、2列の圧電素子40に接続される導通された配線層51を切断するようにベースフィルム52に設けることで形成される。
【0038】
そして、配線基板50の配線層51と圧電素子40に導通する端子部46とは、異方性導電材からなる接着層55を介して電気的及び機械的に接続されている。
【0039】
ここで、異方性導電材からなる接着層55は、図2の領域Sに示すように、並設された複数の端子部46に亘って設けられており、端子部46と配線層51との間に設けられた接着層55によって端子部46と配線層51とを電気的に接続すると共に、隣り合う端子部46の間に設けられた接着層55によって流路形成基板22及び端子部46と配線基板50及び配線層51とを機械的に接続している。
【0040】
なお、異方性導電材としては、例えば、異方性導電性膜(ACF)や、異方性導電ペースト(ACP)等が挙げられる。ちなみに、異方性導電材としては、例えば、エポキシ系樹脂と、樹脂ボールにニッケルメッキを施したものなど、従来周知のものを利用できる。
【0041】
また、本実施形態では、配線基板50の接着層55が設けられた領域Sには、端子部46及び配線層51とは電気的に不連続なギャップ層56が設けられている。すなわち、ギャップ層56は、隣り合う端子部46の間の領域に相対向するように設けられている。なお、本実施形態では、ギャップ層56として、配線層51と同一層からなり且つ配線層51と電気的に不連続となるように形成した。また、ギャップ層56は、配線層51と電気的に不連続であれば、接着層55が設けられる領域に最大面積となるように設けるのが好ましい。
【0042】
このようなギャップ層56を設けることにより、図4に示すように、隣り合う端子部46の間の流路形成基板22(振動板23)と配線基板50との間隔を狭めることができる。すなわち、ギャップ層56を設けることによって、配線基板50と流路形成基板22(振動板23)との間隔hを、ギャップ層56と流路形成基板22(振動板23)との間隔hとすることができる。ちなみに、上述のように端子部46の高さが約20μmで、配線層51のベースフィルム52からの高さが8μmで、配線層51と端子部46との間の接着層55の厚さが2〜3μmの場合、ベースフィルム52と流路形成基板22(振動板23)との間隔hが約30μmなのに対し、ギャップ層56と流路形成基板22(振動板23)との間隔hを約22μmとすることができる。
【0043】
このように、ギャップ層56を設けることによって、隣り合う端子部46の間の流路形成基板22(振動板23)と配線基板50との間隔を狭めることができるため、配線基板50に異方性導電材を比較的薄く塗布した状態で、配線基板50と流路形成基板22(端子部46)とを接続したとしても、隣り合う端子部46の間の流路形成基板22(振動板23)と配線基板50との間に空隙が生じるのを防止することができる。これにより、空隙による配線層51と端子部46との電気的及び機械的な密着強度(流路形成基板22と配線基板50との機械的な密着強度)が低下するのを防止することができ、配線層51と端子部46との断線や配線基板50の剥離などの不具合が生じるのを防止することができる。また、比較的薄い異方性導電材を用いることで、異方性導電材のコストを低減することができると共に、異方性導電材が圧電素子40側に流出するのを防止して、圧電素子40の変位特性が低下するのを防止することができる。
【0044】
さらに、本実施形態では、ギャップ層56として、配線層51と同一層からなり且つ配線層51と電気的に不連続となるように形成することで、ベースフィルム52上に配線層51を所定パターンに形成する際に、ギャップ層56を同時に形成することができる。したがって、ギャップ層56を配線層51とは別材料又は別工程で形成するのに比べて、コストを低減することができる。
【0045】
このような構成のインクジェット式記録ヘッド10では、インクカートリッジ(貯留手段)からインク導入口38を介してリザーバ32内にインクを取り込み、リザーバ32からノズル開口34に至るまでの液体流路内をインクで満たした後、図示しない駆動回路からの記録信号を配線基板50を介して圧電素子40に供給することで、各圧力発生室21に対応する各圧電素子40に電圧を印加して圧電素子40と共に振動板23をたわみ変形させることにより、各圧力発生室21内の圧力が高まり各ノズル開口34からインク滴が噴射される。
【0046】
(実施形態2)
図5は、本発明の実施形態2に係る液体噴射ヘッドの一例であるインクジェット式記録ヘッドの断面図である。なお、上述した実施形態1と同様の部材には同一の符号を付して重複する説明は省略する。
【0047】
図5に示すように、本実施形態のインクジェット式記録ヘッド10Aは、流路形成基板22の各圧電素子40の長手方向一端部の圧力発生室21の周壁に相対向する領域に圧電素子40に導通する端子部46Aを具備する。端子部46Aは、流路形成基板22(振動板23)とは反対側の面が、配線基板50の配線層51と接続される接続面47となっている。
【0048】
端子部46Aの接続面47は、流路形成基板22の圧電素子40が設けられた基準面に対して、圧電素子40側が高く、且つ圧電素子40とは反対側が低くなるように傾斜した傾斜面となっている。すなわち、接続面47は、圧力発生室21の長手方向に沿って傾斜する傾斜面となっており、配線基板50の配線層51が接続面47に電気的に接続されることで、配線基板50は、接続面47の傾斜方向に沿って圧電素子40から離反する方向に傾斜した状態で配置される。なお、本実施形態の基準面は、流路形成基板22の圧電素子40が設けられた面のことであり、具体的には、振動板23の圧電素子40が設けられた表面のことであるが、特にこれに限定されず、例えば、流路形成基板22の振動板23側の表面や、流路形成基板22の圧力発生室底板24側の表面などであってもよい。もちろん、基準面はインクジェット式記録ヘッド10Aを構成する流路形成基板22以外の部材の表面などでもよく、また、基準面は部材の表面のみに限定されるものでもない。また、接続面47は、滑らかである必要はなく、凹凸が存在していてもよい。
【0049】
ここで、配線基板50は傾斜することで圧電素子40との間に隙間を画成するため、端子部46Aの接続面47の圧電素子40側は、圧電素子40の流路形成基板22(振動板23)からの高さよりも高くする必要はない。すなわち、端子部46Aの流路形成基板22から最も高い部分は、圧電素子40と端子部46Aとの距離や、接続面47の傾斜角度に応じて画成された圧電素子40と配線基板50との間の空間の高さに応じて、適宜調整すればよい。
【0050】
なお、このような接続面47を有する端子部46Aは、例えば、銀(Ag)等の導電性の高い金属材料を用いて、例えば、スクリーン印刷を複数回繰り返すことによって容易に形成することができる。
【0051】
また、配線基板50の配線層51と圧電素子40に導通する端子部46Aとは、上述した実施形態1と同様に、異方性導電膜(ACF)や異方性導電ペースト(ACP)等の異方性導電材からなる接着層55を介して機械的及び電気的に接続されている。
【0052】
そして、上述のように端子部46Aは、圧電素子40側が高くなるように傾斜した接続面47となっているため、この接続面47に接続された配線基板50は、接続面47の傾斜方向に沿って圧電素子40から離反する方向に傾斜した状態で配置される。
【0053】
このように、端子部46Aの接続面47を傾斜させて、この接続面47に配線基板50を接続することで、配線基板50を圧電素子40から離反させる方向に傾斜させて、配線基板50が圧電素子40に接触するのを防止して、配線基板50が圧電素子40に接触することによる圧電素子40の変位低下を防止することができる。また、配線基板50を端子部46Aの傾斜した接続面47によって傾斜させることで、配線基板50を屈曲した脚部や、圧電素子40の端子部46Aとは反対側にギャップ部などを設ける必要が無くなり、配線基板50自体や製造時のコストを低減することができる。
【0054】
さらに、端子部46Aの接続面47を傾斜させることで、接続面を水平にするよりも、配線基板50の配線層51と接続面47との接続面積を広げて電気的な接続を確実に行うことができる。
【0055】
また、端子部46Aの接続面47を傾斜させることによって、端子部46Aの接続面47の流路形成基板22からの高さを比較的低くすることができる。これにより、端子部46Aの接続面47と配線基板50の配線層51とを接着する接着層55の厚さを薄くすることができる。すなわち、接着層55は、上述した実施形態1と同様に、流路形成基板22と配線基板50とを機械的に接続するために、接着層55を隣り合う端子部46Aの間に充填する必要があるが、端子部46Aが比較的高く形成されていると、隣り合う端子部46Aの間に接着層55を充填するための量が必要となる。これに対して、本実施形態のように、端子部46Aの高さを比較的低くすることで、少ない接着剤(異方性導電材)で隣り合う端子部46Aの間に接着層55を十分に充填させることができる。また、端子部46Aの接続面47を傾斜面として、圧電素子40とは反対側の厚さが薄く形成されているため、これによっても、少ない接着剤(異方性導電材)で隣り合う端子部46Aの間に接着層55を十分に充填させることができる。このように比較的少量の接着剤で配線基板50と流路形成基板22(端子部46A)とを接続することで、コストを低減することができる。また、隣り合う端子部46Aの間の流路形成基板22(振動板23)と配線基板50との間隔を狭めて、配線基板50に異方性導電材を比較的薄く塗布した状態で、配線基板50と流路形成基板22(端子部46A)とを接続したとしても、隣り合う端子部46Aの間の流路形成基板22(振動板23)と配線基板50との間に空隙が生じるのを防止することができる。これにより、空隙による配線層51と端子部46Aとの電気的及び機械的な密着強度(流路形成基板22と配線基板50との密着強度)が低下するのを防止することができ、配線層51と端子部46Aとの断線や配線基板50の剥離などの不具合が生じるのを防止することができると共に、余分な異方性導電材が圧電素子40側に流出するのを防止して、圧電素子40の変位特性が低下するのを防止することができる。
【0056】
もちろん、本実施形態であっても、上述した実施形態1と同様に、隣り合う端子部46Aの間には、ギャップ層56が設けられているため、このギャップ層56によっても、隣り合う端子部46Aの間の流路形成基板22(振動板23)と配線基板50との間隔を狭めることができ、空隙が生じるのを防止して、配線層51と端子部46Aとの電気的及び機械的な密着強度(流路形成基板22と配線基板50との機械的な密着強度)が低下するのを防止することができ、配線層51と端子部46Aとの断線や配線基板50の剥離などの不具合が生じるのを防止することができる。
【0057】
(他の実施形態)
以上、本発明の各実施形態を説明したが、本発明の基本的構成は上述したものに限定されるものではない。例えば、上述した実施形態1及び2では、ギャップ層56として、配線層51と同一層で形成するようにしたが、特にこれに限定されない。ギャップ層は、接着層55が設けられた領域の流路形成基板22(振動板23)及び配線基板50の少なくとも一方面に設けられていればよい。すなわち、流路形成基板22(振動板23)側の隣り合う端子部46,46Aの間にギャップ層を設けてもよく、また、流路形成基板22側及び配線基板50側の両方にギャップ層を設けるようにしてもよい。ちなみに、流路形成基板22側にギャップ層を設ける場合には、端子部46,46Aと同一層で且つ端子部46,46Aと電気的に不連続となるようにギャップ層を設けることで、ギャップ層を端子部46と同一材料で同時に形成することができ、コストを低減することができる。また、上述した実施形態1では、配線層51と同一層で形成されたギャップ層56を例示したが、ギャップ層56は、上述のように流路形成基板22と配線基板50との間隔を狭めるためのものであるため、配線基板50を構成するレジスト等の絶縁材料53や、その他の材料で形成してもよい。もちろん、流路形成基板22上にギャップ層を設ける場合であっても、端子部46,46A以外の材料で形成してもよい。
【0058】
また、上述した実施形態1及び2では、配線基板50として、ベースフィルム52に貫通孔54が設けられた構成を例示したが、例えば、貫通孔54が設けられていない配線基板を用いて、並設された端子部46,46Aの列と列の間にも接着層55が設けられる場合には、ギャップ層56を並設された端子部46,46Aの列と列の間にも設けるようにすればよい。すなわち、ギャップ層56は、接着層55が設けられる領域に配線層51と電気的に不連続で最大面積となるように設ければ、さらに空隙が生じるのを防止して、電気的及び機械的密着強度を向上することができる。ちなみに、このような場合には、端子部46,46Aの各列のギャップ層56が連続していても、また不連続となるように設けられていてもよい。
【0059】
さらに、上述した実施形態1及び2では、厚膜型の圧電素子40を用いたアクチュエータ装置を例示したが、特にこれに限定されず、例えば、下電極、圧電体層及び上電極を成膜及びリソグラフィ法により順次積層する薄膜型の圧電素子や、圧電材料と電極形成材料とを交互に積層させて軸方向に伸縮させる縦振動型の圧電素子などを使用することができる。なお、本発明は、配線基板50の配線層51が電気的に接続される圧電素子40に導通する端子部46,46Aの高さが20μm以上の場合に、特に優れた効果を奏するものであるが、端子部46,46Aの高さが20μmより低い場合であっても、本発明は有効である。
【0060】
また、上述した実施形態1では、配線基板50の配線層51を圧電素子40の電極膜43、45に導通する端子部46,46Aに異方性導電材からなる接着層55で接続した構成を例示したが、特にこれに限定されず、例えば、配線基板50の配線層51を圧電素子40の上電極膜45に直接接続するようにしてもよい。すなわち、圧電素子40に導通する端子部が圧電素子40を構成する電極であってもよい。このような場合であってもギャップ層を設けることで実施形態1と同様の効果を奏することができる。
【0061】
また、流路構造なども上述した実施形態に限定されるものではなく、様々な形態をとり得る。例えば、流路形成部材は、端子部46と振動板23との間に別部材を挟んで、流路形成基板22と振動板23とこの別部材とを流路形成部材とみなしてもよい。
【0062】
また、これら実施形態のインクジェット式記録ヘッドは、インクカートリッジ等と連通するインク流路を具備する記録ヘッドユニットの一部を構成して、インクジェット式記録装置に搭載される。図6は、そのインクジェット式記録装置の一例を示す概略図である。
【0063】
図6に示すように、インクジェット式記録ヘッドを有する記録ヘッドユニット1A及び1Bは、インク供給手段を構成するカートリッジ2A及び2Bが着脱可能に設けられ、この記録ヘッドユニット1A及び1Bを搭載したキャリッジ3は、装置本体4に取り付けられたキャリッジ軸5に軸方向移動自在に設けられている。この記録ヘッドユニット1A及び1Bは、例えば、それぞれブラックインク組成物及びカラーインク組成物を吐出するものとしている。
【0064】
そして、駆動モータ6の駆動力が図示しない複数の歯車およびタイミングベルト7を介してキャリッジ3に伝達されることで、記録ヘッドユニット1A及び1Bを搭載したキャリッジ3はキャリッジ軸5に沿って移動される。一方、装置本体4にはキャリッジ軸5に沿ってプラテン8が設けられており、図示しない給紙ローラなどにより給紙された紙等の記録媒体である記録シートSがプラテン8に巻き掛けられて搬送されるようになっている。
【0065】
なお、上述した実施形態1においては、液体噴射ヘッドの一例としてインクジェット式記録ヘッドを挙げて説明したが、本発明は、広く液体噴射ヘッド全般を対象としたものであり、インク以外の液体を噴射する液体噴射ヘッドにも勿論適用することができる。その他の液体噴射ヘッドとしては、例えば、プリンタ等の画像記録装置に用いられる各種の記録ヘッド、液晶ディスプレー等のカラーフィルタの製造に用いられる色材噴射ヘッド、有機ELディスプレー、FED(電界放出ディスプレー)等の電極形成に用いられる電極材料噴射ヘッド、バイオchip製造に用いられる生体有機物噴射ヘッド等が挙げられる。
【0066】
また、本発明は、インクジェット式記録ヘッドに代表される液体噴射ヘッドに搭載されるアクチュエータ装置に限られず、他の装置に搭載されるアクチュエータ装置にも適用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0067】
【図1】本発明の実施形態1に係る記録ヘッドの分解斜視図である。
【図2】本発明の実施形態1に係る記録ヘッドの平面図である。
【図3】本発明の実施形態1に係る記録ヘッドの断面図である。
【図4】本発明の実施形態1に係る記録ヘッドの断面図である。
【図5】本発明の実施形態2に係る記録ヘッドの断面図である。
【図6】本発明の一実施形態に係るインクジェット式記録装置の概略図である。
【符号の説明】
【0068】
I インクジェット式記録装置(液体噴射装置)、 10、10A インクジェット式記録ヘッド(液体噴射装置)、 20 アクチュエータユニット、 21 圧力発生室、 22 流路形成基板(流路形成部材)、 23 振動板、 24 圧力発生室底板、 30 流路ユニット、 31 インク供給口形成基板、 32 リザーバ、 33 リザーバ形成基板、 34 ノズル開口、 35 ノズルプレート、 40 圧電素子、 43 下電極膜、 44 圧電体層、 45 上電極膜、 46、46A 端子部、 47 接続面、 50 配線基板、 51 配線層、 52 ベースフィルム、 53 絶縁材料、 54 貫通孔、 55 接着層、 56 ギャップ層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
液体を噴射するノズル開口に連通する圧力発生室が設けられた流路形成部材と、該流路形成部材の一方面側に設けられて前記圧力発生室に圧力変化を生じさせる圧電素子と、前記流路形成部材の一方面側に設けられて前記圧電素子に導通する端子部と、前記圧電素子を駆動する駆動信号を供給する配線層が設けられた配線基板と、前記配線層と前記端子部とを導通すると共に前記配線基板と前記流路形成部材とを接合する異方性導電材からなる接着層とを具備し、
前記接着層が設けられた領域の前記流路形成部材及び前記配線基板の少なくとも一方面には、前記端子部及び前記配線層とは電気的に不連続なギャップ層が設けられていることを特徴とする液体噴射ヘッド。
【請求項2】
前記ギャップ層が、前記配線基板に設けられていることを特徴とする請求項1記載の液体噴射ヘッド。
【請求項3】
前記ギャップ層が、前記配線層と同一層で構成されていることを特徴とする請求項1又は2記載の液体噴射ヘッド。
【請求項4】
前記端子部が、複数並設されていると共に、前記ギャップ層が、隣り合う前記端子部の間に設けられていることを特徴とする請求項1〜3の何れか一項に記載の液体噴射ヘッド。
【請求項5】
前記端子部の前記流路形成部材からの高さが、前記圧電素子の前記流路形成部材の高さよりも高く設けられており、前記配線基板が、前記圧電素子上に所定の空間を画成した状態で配設されていることを特徴とする請求項1〜4の何れか一項に記載の液体噴射ヘッド。
【請求項6】
前記端子部が、前記流路形成部材の表面から20μm以上の高さを有することを特徴とする請求項1〜5の何れか一項に記載の液体噴射ヘッド。
【請求項7】
前記端子部の前記流路形成部材と反対側の面が、基準面に対して前記圧電素子側が高く、前記圧電素子とは反対側が低い傾斜した接続面となっていることを特徴とする請求項1〜6の何れか一項に記載の液体噴射ヘッド。
【請求項8】
請求項1〜7の何れか一項に記載の液体噴射ヘッドを具備することを特徴とする液体噴射装置。
【請求項9】
基板上に設けられた圧電素子と、前記基板の一方面側に設けられて前記圧電素子に導通する端子部と、前記圧電素子を駆動する駆動信号を供給する配線層が設けられた配線基板と、前記配線層と前記端子部とを導通すると共に前記配線基板と前記流路形成部材とを接合する異方性導電材からなる接着層とを具備し、
前記接着層が設けられた領域の前記流路形成部材及び前記配線基板の少なくとも一方面には、前記端子部及び前記配線層とは電気的に不連続なギャップ層が設けられていることを特徴とするアクチュエータ装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2009−226923(P2009−226923A)
【公開日】平成21年10月8日(2009.10.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−272808(P2008−272808)
【出願日】平成20年10月23日(2008.10.23)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】