説明

液体噴射装置

【課題】複雑な機構を用いることなく圧力調整部における液体の沈降成分を攪拌することができる液体噴射装置を提供する。
【解決手段】自己封止弁40を有するプリンターPRTであって、自己封止弁40は、第1インク収容室41と第2インク収容室42とを連通させる連通孔43と、第2インク収容室42側において連通孔43と対向する対向面50aを有し、ダイヤフラム部48の変位と一体的に移動可能な受圧板50と、対向面50aの姿勢を第2インク収容室42側の圧力に応じて、連通孔43と対向する第1の姿勢と、第1の姿勢とは連通孔43に対する傾きが異なる第2の姿勢と、に変位させる変位部材51と、を有するという構成を採用する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液体噴射装置に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1及び2には、液体噴射装置としてインクジェット式プリンターが開示されている。
特許文献1のプリンターにおいては、液体噴射ヘッドへのインクの供給圧を調整する自己封止弁の圧力室内の気泡を排出するために、自己封止弁の受圧部をカムによって外力を与えて変位させる機構を備えている。
【0003】
特許文献2のプリンターにおいては、インク室へは第2のインクタンク、第1のインクタンク、リザーバ部を介してインクが供給され、第2のインクタンクにモーターの駆動によりプロペラを回転させてインクを攪拌する機構を備え、第1のインクタンクと第2のインクタンクの間は、インクの供給圧を調整する手段を介して連通している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2007−15409号公報
【特許文献2】特開平5−261934号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、上記のようなプリンターにおいて、インクの噴射状態及び条件を常に一定に保つことは、高印字品質を確保するために重要である。そこで、インクカートリッジとインクジェットヘッドとの間を結ぶインク流路に、インクを溜めて圧力を調整する圧力調整部(圧力調整弁やダンパー等)を設ける構成が採用されている。しかしながら、圧力調整部は、その機能によりインクの流通を滞らせるため、顔料が分散したインク等を用いた場合、その溶媒中の成分の沈降が生じ易くなるという問題がある。
【0006】
特許文献1の自己封止弁の受圧部をカムによって外力を与えて変位させる機構によれば、気泡の排出と共に、沈降成分の攪拌を期待できるが、複雑な機構を必要する。
また、特許文献2のモーターの駆動によりプロペラを回転させてインクを攪拌する機構においても、同様に複雑な機構を必要とする。また、当該攪拌機構を設置するには、少なくともプロペラを収容できる攪拌スペースが必要となり、構成の大型化に繋がるという問題がある。
【0007】
本発明は、上記問題点に鑑みてなされたもので、複雑な機構を用いることなく圧力調整部における液体の沈降成分を攪拌することができる液体噴射装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の課題を解決するために、本発明は、液体貯溜部と液体噴射ヘッドとの間を結ぶ液体流路に設けられ、液体を溜めて圧力を調整する圧力調整部を有する液体噴射装置であって、上記圧力調整部は、上記液体貯溜部側と連通する液体流入孔が形成された液体流入部と、上記液体噴射ヘッド側と連通する液体流出孔が形成されると共に圧力に応じて変位し、容積を変化させるダイヤフラム部を有する液体収容部と、上記液体流入部と上記液体収容部とを連通させる連通孔と、上記液体収容部側において上記連通孔と対向する対向面を有し、上記ダイヤフラム部の変位と一体的に移動可能な移動部材と、上記対向面の姿勢を上記液体収容部の圧力に応じて、上記連通孔と対向する第1の姿勢と、上記第1の姿勢とは上記連通孔に対する傾きが異なる第2の姿勢と、に変位させる変位部材と、を有するという構成を採用する。
このような構成を採用することによって、本発明では、液体収容部の圧力によって圧力調整部のダイヤフラム部の変位に応じて移動する移動部材の対向面を第1の姿勢と第2の姿勢とに変位させることで、液体流入部から液体収容部内へと連通孔を介して流入する液体の流れを、当該対向面の傾きによって変化させ、この液体の流れの変化により液体の沈降成分を攪拌させることができる。
【0009】
また、本発明においては、上記液体噴射ヘッドから液体を吸引する吸引装置を備えており、上記吸引装置の吸引により所定圧力に達したときに、上記対向面が上記第2の姿勢に変位するという構成を採用する。
このような構成を採用することによって、本発明では、液体噴射ヘッドから液体を強制的に吸引するクリーニング時において対向面を傾かせ、連通孔を介して流入する液体の流れを変化させる。これにより、液体噴射ヘッドから液体を噴射する通常時においては、対向面を第1の姿勢に保ち、当該傾きによる圧力調整機能への影響を回避させることができる。
【0010】
また、本発明においては、上記変位部材は、上記ダイヤフラム部の変位方向において突出し、且つ、上記移動部材の重心位置とは異なる位置に設けられているという構成を採用する。
このような構成を採用することによって、本発明では、変位部材がダイヤフラム部の変位により移動部材に対してその重心位置を中心としたモーメント荷重を与えて、対向面を傾けさせることができる。
【0011】
また、本発明においては、上記対向面は、上記第2の姿勢のときに、上記連通孔が形成された面に対して離間する距離が、上記連通孔を挟んで上側よりも下側の方が大きくなる方向に傾くという構成を採用する。
このような構成を採用することによって、本発明では、対向面が第2の姿勢のときに、連通孔を介して流入する液体の流れを、連通孔が形成された面に対する距離が大きい下側に向けて誘導させ、当該下側に溜まった沈降成分を攪拌させることができる。
【0012】
また、本発明においては、上記変位部材は、上記対向面に対して突出し、上記第2の姿勢のときに傾く方向以外の方向を環状に囲う環状部を有するという構成を採用する。
このような構成を採用することによって、本発明では、連通孔を介して流入し、対向面に衝突した後の液体の流れを、対向面の傾き方向以外の方向において規制し、当該対向面の傾き方向へのより強い流れとして導くことで、液体の沈降成分を効率よく攪拌させることができる。
【0013】
また、本発明においては、上記変位部材は、上記移動部材に設けられているという構成を採用する。
このような構成を採用することによって、本発明では、変位部材が気泡を溜め易い(捕集し易い)形状であったとしても、変位部材をダイヤフラム部の変位に応じて移動する移動部材に設けて、対向面の傾きと共にその姿勢を変位させることにより、気泡の排出を好適に行うことができる。
【0014】
また、本発明においては、上記液体流出孔は、上記液体収容部の底よりも上方に設けられているという構成を採用する。
このような構成を採用することによって、本発明では、液体噴射ヘッドから液体を噴射する通常時においては、液体収容部の底に溜まった沈降成分を液体流出孔から液体噴射ヘッドへと供給されないようにすることができる。
【0015】
また、本発明においては、上記液体流出孔は、上記ダイヤフラム部の変位方向において、上記移動部材と対向する領域外に設けられているという構成を採用する。
このような構成を採用することによって、本発明では、ダイヤフラム部の変位方向における移動部材と対向する領域外では、ダイヤフラム部が変位するため容積の変化が大きくなることから、当該領域外に液体流出孔を設けることで、液体流出孔を介した気泡の排出を好適に行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明の実施形態におけるプリンターを示す平面図である。
【図2】本発明の実施形態におけるインク供給機構のインク流路を示す概略構成図である。
【図3】本発明の実施形態における自己封止弁を示す側面図である。
【図4】図3におけるA−A断面矢視図である。
【図5】本発明の実施形態におけるクリーニング時の対向面の姿勢を示す図である。
【図6】本発明の別実施形態における受圧板の構成を示す図である。
【図7】本発明の別実施形態における受圧板の作用を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明に係る液体噴射装置の各実施形態について、図を参照して説明する。なお、以下の説明に用いる各図面では、各部材を認識可能な大きさとするため、各部材の縮尺を適宜変更している。本実施形態では、本発明に係る液体噴射装置として、インクジェット式プリンター(以下、プリンターと称する)を例示する。
【0018】
図1は、本発明の実施形態におけるプリンターPRTを示す平面図である。
図1に示すプリンターPRTは、紙、プラスチックシートなどのシート状の記録媒体Mを搬送しつつ印刷処理を行う装置である。プリンターPRTは、筐体PBと、記録媒体Mにインクを噴射するインクジェット機構IJと、当該インクジェット機構IJにインクを供給するインク供給機構ISと、記録媒体Mを搬送する搬送機構CVと、インクジェット機構IJの保全動作を行うメンテナンス機構MNと、これら各機構を制御する制御装置CONTとを備えている。
【0019】
以下、XYZ直交座標系を設定し、当該XYZ直交座標系を適宜参照しつつ各構成要素の位置関係を説明する。本実施形態では、記録媒体Mの搬送方向をX軸方向とし、当該記録媒体Mの搬送面においてX軸方向に直交する方向をY軸方向とし、X軸及びY軸を含む平面に垂直な方向をZ軸方向と表記する。
【0020】
筐体PBは、Y軸方向を長手とするように形成されている。筐体PBには、上記のインクジェット機構IJ、インク供給機構IS、搬送機構CV、メンテナンス機構MN及び制御装置CONTの各部が取り付けられている。筐体PBには、プラテン13が設けられている。プラテン13は、記録媒体Mを支持する支持部材である。プラテン13は、筐体PBのうちX軸方向の中央部に配置されている。プラテン13は、+Z側に向けられた平坦面13aを有している。当該平坦面13aは、記録媒体Mを支持する支持面として用いられる。
【0021】
搬送機構CVは、搬送ローラーや当該搬送ローラーを駆動するモーター等(共に不図示)を有している。搬送機構CVは、筐体PBの−X側から当該筐体PBの内部に記録媒体Mを搬送し、当該筐体PBの+X側から当該筐体PBの外部に排出する。搬送機構CVは、筐体PBの内部において、記録媒体Mがプラテン13上を通過するように当該記録媒体Mを搬送する。搬送機構CVは、制御装置CONTによって搬送のタイミングや搬送量などが制御されるようになっている。
【0022】
インクジェット機構IJは、インクを噴射するインクジェットヘッド(液体噴射ヘッド)Hと、当該インクジェットヘッドHを保持して移動させるヘッド移動機構ACとを有している。インクジェットヘッドHは、プラテン13上に送り出された記録媒体Mに向けてインクを噴射する。インクジェットヘッドHは、インクを噴射する噴射面Haを有している。噴射面Haは、Z軸方向に向けられており、プラテン13の支持面に対向するように配置されている。
【0023】
ヘッド移動機構ACは、キャリッジCAを有している。インクジェットヘッドHは、当該キャリッジCAに固定されている。キャリッジCAは、筐体PBの長手方向(Y軸方向)に架設されたガイド軸8に沿って移動自在な構成となっている。インクジェットヘッドH及びキャリッジCAは、プラテン13に対して+Z側に配置されている。
【0024】
ヘッド移動機構ACは、キャリッジCAの他、パルスモーター9と、当該パルスモーター9によって回転駆動される駆動プーリー10と、筐体PBの長手方向において駆動プーリー10が設けられる側(+Y側)とは逆側(−Y側)に設けられた従動プーリー11と、駆動プーリー10と従動プーリー11との間に掛け渡されたタイミングベルト12とを有している。
【0025】
キャリッジCAは、タイミングベルト12に接続されている。キャリッジCAは、タイミングベルト12の回転に伴ってY軸方向に移動可能に設けられている。Y軸方向へ移動する際、キャリッジCAは、ガイド軸8によって案内されるようになっている。
【0026】
メンテナンス機構MNは、インクジェットヘッドHのホームポジションに配置されている。このホームポジションは、記録媒体Mに対して印刷が行われる領域から外れた領域に設定されている。本実施形態では、プラテン13の+Y側にホームポジションが設定されている。ホームポジションは、プリンターPRTの電源がオフである時や、長時間に亘って記録が行われない時などに、インクジェットヘッドHが待機する場所である。
【0027】
メンテナンス機構MNは、インクジェットヘッドHの噴射面Haを覆うキャッピング機構CPや、当該噴射面Haを払拭するワイピング機構WPなどを有している。キャッピング機構CPには、吸引ポンプなどの吸引装置SCが接続されている。吸引装置SCにより、キャッピング機構CPは、噴射面Haを覆いつつインクジェットヘッドHからインクを吸引できるようになっている。
【0028】
インク供給機構ISは、インクジェットヘッドHにインクを供給する。インク供給機構ISは、複数のインクカートリッジ(液体貯溜部)CTRを有している。本実施形態のプリンターPRTは、インクカートリッジCTRがインクジェットヘッドHとは異なりキャリッジCAに搭載されない構成(オフキャリッジ型)を採用している。
【0029】
図2は、本発明の実施形態におけるインク供給機構ISのインク流路20を示す概略構成図である。
インク供給機構ISは、インクカートリッジCTRとインクジェットヘッドHとの間を結ぶインク流路(液体流路)20を有する。インク流路20の一端部には、インク供給針21が設けられている。インク供給針21は、インクカートリッジCTR内に挿入され、インクカートリッジCTR内部とインク流路20とを連通させる。
【0030】
インク供給針21を介してインク流路20に導入されたインクは、逆止弁22を介して減圧室23に到る。減圧室23は、内部圧力の大きさに応じて変位し、容量を変化させるダイヤフラム部24と、ダイヤフラム部24を付勢する圧縮バネ25とを有する。また、減圧室23には、その内部を減圧状態とする減圧ポンプ26と、その内部の減圧状態を解除する大気開放弁27とが接続されている。
【0031】
大気開放弁27を閉じ、減圧ポンプ26を駆動させると、ダイヤフラム部24が圧縮バネ25の付勢に抗して膨らみ、インクカートリッジCTR側から減圧室23内にインクを流入させることができる。また、減圧ポンプ26の駆動を停止し、大気開放弁27を開放すると、圧縮バネ25の付勢によりダイヤフラム部24が収縮して、逆止弁28を介し所定圧力で減圧室23からインクを流出させることができる。
【0032】
減圧室23から流出したインクは、チョーク弁29、自己封止弁(圧力調整部)40を介して、インクジェットヘッドHへ供給される。チョーク弁29は、キャッピング機構CPの吸引装置SCによって、インクジェットヘッドH側が所定圧力よりも減圧されたときに、インク流路20を閉塞するダイヤフラム部30を有する。吸引装置SCは、チョーク弁29により、所謂チョーククリーニングを実施可能となる。
【0033】
チョーククリーニングとは、吸引装置SCの駆動によりインクジェットヘッドH側のインク流路20を減圧し、チョーク弁29が閉じた後においてもさらにチョーク弁29よりも上流側の閉塞された流路を減圧し、この減圧状態で、減圧室23から加圧されたインクをチョーク弁29に流し込むことで、閉塞された流路を開放すると共に減圧されたインクジェットヘッドH側のインク流路20にインクを勢いよく流し込み、自己封止弁40、インクジェットヘッドHにおける混入した気泡や増粘インク等を強制的に排出させるクリーニング処理である。なお、インクジェットヘッドHから強制的に吸引排出されたインクは、廃液として廃液吸収材31に吸収される。
【0034】
図3は、本発明の実施形態における自己封止弁40を示す側面図である。図4は、図3におけるA−A断面矢視図である。なお、図3及び図4における紙面上下方向は、鉛直方向(重力方向)に対応しており、また、符号Sは、インクに含まれる顔料等の沈降成分を模式的に示す。
【0035】
自己封止弁40は、インクカートリッジCTRとインクジェットヘッドHとの間を結ぶインク流路20に設けられ、インクを溜めると共にインクジェットヘッドH側の圧力に応じてインク流路20を開閉する圧力調整弁として機能する。自己封止弁40は、インクジェットヘッドHと共にキャリッジCAに搭載されている(図1参照)。
【0036】
自己封止弁40は、図4に示すように、インクカートリッジCTR側に設けられた第1インク収容室(液体流入部)41と、インクジェットヘッドH側に設けられた第2インク収容室(液体収容部)42と、を連通させる連通孔43を開閉する開閉弁44を有する。開閉弁44は、第2インク収容室42の圧力に応じて、連通孔43を閉塞する位置と、開閉圧調整バネ45の付勢に抗して連通孔43を開放する位置と、に変位可能な構成となっている。
【0037】
本実施形態の開閉弁44は、開閉圧調整バネ45によって、第2インク収容室42の圧力が大気圧から−100Pa(パスカル)に達すると連通孔43を開放する構成となっている。例えば、開閉弁44の全変位ストロークを1mm〜2mmとすると、この際の開閉弁44の変位ストロークは、0.03mm〜0.05mmとなるように設定されている。なお、クリーニング時において、吸引装置SCが大気圧から−80kPa(キロパスカル)でインクを吸引すると、開閉弁44は、上記0.03mm〜0.05mmよりも大きく変位するように、例えば全変位(1mm〜2mmの変位)するように設定されている。
【0038】
第1インク収容室41は、ベース部材46によって形成されている。第1インク収容室41は、ベース部材46に形成されてインクカートリッジCTR側と連通するインク流入孔(液体流入孔)47を備える。インク流入孔47は、インク流路20を介してチョーク弁29(図2参照)と接続されている。第1インク収容室41は、インク流入孔47から流入したインクを貯溜する所定の容積を有する。なお、第1インク収容室41には、連通孔43を閉塞可能な開閉弁44の一端部と、開閉圧調整バネ45とが収容されている。
【0039】
第2インク収容室42は、ベース部材46とダイヤフラム部48とによって形成されている。第2インク収容室42は、ベース部材46に形成されてインクジェットヘッドH側と連通するインク流出孔(液体流出孔)49を備える。インク流出孔49は、インク流路20を介しインクジェットヘッドHと接続されている。第2インク収容室42は、連通孔43から流入したインクを貯溜する可変の容積を有する。なお、第2インク収容室42には、開閉弁44の他端部と、受圧板(移動部材)50とが収容されている。
【0040】
ダイヤフラム部48は、複層の可撓性樹脂フィルムから形成されている。ダイヤフラム部48は、ベース部材46の一側面に所定の弛みを持たせた状態で固着されている。ダイヤフラム部48は、第2インク収容室42の圧力に応じて変位し、第2インク収容室42の容積を変化させる構成となっている。
【0041】
受圧板50は、ダイヤフラム部48の第2インク収容室42に面する樹脂層(例えばポリプロピレン層)に熱溶着されており、ダイヤフラム部48の変位と一体的に移動可能な構成となっている。受圧板50は、連通孔43と対向する対向面50aを有する。対向面50aには、連通孔43を挿通した開閉弁44の他端部が当接している。開閉弁44の他端部は、面取りされ、丸みを帯びている。
【0042】
受圧板50は、円板形状を有し(図3参照)、その円形の対向面50aの中心位置(重心位置)に開閉弁44の他端部が当接している。受圧板50には、開閉圧調整バネ45による付勢力が、ダイヤフラム部48を膨らませる方向に作用している。インクジェットヘッドH側でインクが消費され、第2インク収容室42の圧力が小さくなり、ダイヤフラム部48が収縮すると、受圧板50は、開閉圧調整バネ45の付勢に抗して開閉弁44を押し返し、連通孔43を開放させる。
【0043】
受圧板50には、第2インク収容室42の圧力に応じて、対向面50aの姿勢を変位させる変位部材51が設けられている。変位部材51は、ダイヤフラム部48の変位方向(図4において紙面左右方向)において突出し、且つ、受圧板50の重心位置とは異なる位置に、対となって設けられている(図3参照)。本実施形態の変位部材51は、重心位置よりも下側の対向面50aから、連通孔43が形成されたベース部材46の連通孔形成面46aに向かって立設している。変位部材51の先端部は、面取りされ、丸みを帯びている。
【0044】
変位部材51の先端部は、インクジェットヘッドHからインクを強制的に吸引するクリーニング時以外の時、すなわち、インクジェットヘッドHからインクを記録媒体Mに向けて噴射し、印刷する通常時においては、連通孔形成面46aに対して、距離Kをあけて配置されている。具体的に距離Kは、第2インク収容室42の圧力が大気圧から−100Pa(パスカル)以下に達したときの開閉弁44の変位ストロークの0.03mm〜0.05mmよりも大きくなるように設定されている。
【0045】
対向面50aは、クリーニング時以外の通常時、図4に示すように、連通孔43に正対する第1の姿勢(換言すると、連通孔43から延びる直線に対して対向面50aが直交する姿勢)を保つ構成となっている。この構成によれば、インクジェットヘッドHからインクを噴射する通常時においては、対向面50aが第1の姿勢に一定に保たれるので、圧力調整機能への影響(開閉圧のバラツキ等)を回避させることができる。
【0046】
第1の姿勢の対向面50aは、第1インク収容室41から第2インク収容室42内へと連通孔43を介して流入するインクの流れを、対向面50aに沿った放射的な流れとさせる。なお、インク流出孔49は、第2インク収容室42の底よりも上方に設けられている。この構成によれば、インクジェットヘッドHからインクを噴射する通常時においては、第2インク収容室42の底に溜まった沈降成分Sをインク流出孔49からインクジェットヘッドH側へと供給されないようにすることができる。
【0047】
図5は、本発明の実施形態におけるクリーニング時の対向面50aの姿勢を示す図である。
変位部材51は、クリーニング時の吸引装置SCの吸引により所定圧力に達したときに、図5に示すように、対向面50aを上記第1の姿勢とは連通孔43に対する傾きが異なる第2の姿勢に変位させる構成となっている。なお、所定圧力は、大気圧から−100Paより小さく、且つ、大気圧から−80kPa以上の圧力の範囲内で設定されている。
【0048】
変位部材51は、ダイヤフラム部48の変位方向において突出し、且つ、受圧板50の重心位置とは異なる位置に設けられている。このため、ダイヤフラム部48の変位によりその先端部が連通孔形成面46aと接触すると、受圧板50に対してその重心位置を中心としたモーメント荷重を与えて、対向面50aを傾けさせることができる。すなわち、変位部材51は、クリーニング時の圧力によるダイヤフラム部48の収縮により、その収縮に応動する受圧板50の対向面50aの姿勢を傾斜させ、連通孔43から流入するインクの流れを対向面50aの傾きにより規制し、インクの流れ方向を変化させることで、攪拌流を形成し、下側に溜まった沈降成分Sを攪拌させることができる。
【0049】
対向面50aは、クリーニング時、連通孔43が形成された連通孔形成面46aに対して離間する距離が、連通孔43を挟んで上側よりも下側の方が大きくなる方向に傾く第2の姿勢(換言すると、連通孔43から延びる直線に対して対向面50aが交差する姿勢)を保つ構成となっている。第2の姿勢の対向面50aは、第1インク収容室41から第2インク収容室42内へと連通孔43を介して流入するインクの流れを、対向面50aに衝突させて下側に向けて誘導させ、当該下側に溜まった沈降成分Sを攪拌させる。すなわち、対向面50aが第2の姿勢のとき、連通孔形成面46aに対する距離が小さい上側は、連通孔形成面46aに対する距離が大きい下側に対して流路抵抗が大きいため、インクの流れの殆どを下側に向けて誘導させることができ、当該下側に溜まった沈降成分Sを効果的に攪拌させることができる。
【0050】
また、対向面50aが、連通孔43が形成された連通孔形成面46aに対して離間する距離が、連通孔43を挟んで上側よりも下側の方が大きくなる方向に傾くと、ダイヤフラム部48の上側が下側に比較して収縮し易くなる。そうすると、第2インク収容室42の天部に気泡が存在する場合、当該気泡は、ダイヤフラム部48の上側の収縮により押し出され、インク流れに乗って、インク流出孔49から外部に排出され易くなる。また、インク流出孔49を、ダイヤフラム部48の変位方向において、受圧板50と対向する領域外に設ける(図3参照)ことによって、受圧板50と対向する領域外において、ダイヤフラム部48が収縮するので、気泡がインク流出孔49から外部に排出され易くなる。
【0051】
攪拌された沈降成分Sは、インク流出孔49を介して流出し、インクジェットヘッドH及び吸引装置SCを経て、廃液吸収材31に吸収されることとなる。このように、沈降成分Sを攪拌することで、従来のクリーニングのように第2インク収容室42内の全てのインクを廃液しなくても、沈降成分Sを効果的に除去することができる。したがって、従来よりもクリーニング時のインクの廃液量を少なくすることが可能となる。
【0052】
したがって、上述した本実施形態によれば、インクカートリッジCTRとインクジェットヘッドHとの間を結ぶインク流路20に設けられ、インクを溜めると共にインクジェットヘッドH側の圧力に応じてインク流路20を開閉して圧力を調整する自己封止弁40を有するプリンターPRTであって、自己封止弁40は、インクカートリッジCTR側と連通するインク流入孔47が形成された第1インク収容室41と、インクジェットヘッドH側と連通するインク流出孔49が形成されると共に上記圧力に応じて変位し、容積を変化させるダイヤフラム部48を有する第2インク収容室42と、第1インク収容室41と第2インク収容室42とを連通させる連通孔43と、第2インク収容室42側において連通孔43と対向する対向面50aを有し、ダイヤフラム部48の変位と一体的に移動可能な受圧板50と、対向面50aの姿勢を第2インク収容室42側の圧力に応じて、連通孔43と対向する第1の姿勢と、第1の姿勢とは連通孔43に対する傾きが異なる第2の姿勢と、に変位させる変位部材51と、を有するという構成を採用することによって、インクジェットヘッドH側の圧力によって自己封止弁40のダイヤフラム部48の変位に応じて移動する受圧板50の対向面50aを第1の姿勢と第2の姿勢とに変位させることで、第1インク収容室41から第2インク収容室42内へと連通孔43を介して流入するインクの流れを、当該対向面50aの傾きによって変化させ、このインクの流れの変化によりインクの沈降成分Sを攪拌させることができる。
したがって、本実施形態では、複雑な機構を用いることなく自己封止弁40におけるインクの沈降成分Sを攪拌することができるプリンターPRTが得られる。
【0053】
以上、図面を参照しながら本発明の好適な実施形態について説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではない。上述した実施形態において示した各構成部材の諸形状や組み合わせ等は一例であって、本発明の主旨から逸脱しない範囲において設計要求等に基づき種々変更可能である。
【0054】
例えば、図6及び図7に示すように、変位部材51が環状部52を有する構成であっても良い。環状部52は、対向面50aに対して突出し、第2の姿勢のときに傾く方向以外の方向を環状に囲う構成となっている。すなわち、環状部52は、図7に示す第2の姿勢のときに、連通孔43を囲む環形状の下方向が切り欠かれた形状を有している。この構成によれば、連通孔43を介して流入し、対向面50aに衝突した後のインクの流れを、対向面50aの傾き方向以外の方向において規制し、当該対向面50aの傾き方向へのより強い流れとして導くことで、インクの沈降成分Sを効率よく攪拌させることができる。
【0055】
また、上記実施形態では、変位部材51を受圧板50側に設けた場合を例示して説明したが、ベース部材46側に設けても良い。但し、図6及び図7のように、変位部材51が気泡を溜め易い(捕集し易い)環状部52を有していた場合、変位部材51をダイヤフラム部48の変位に応じて移動する受圧板50に設けて、対向面50aの傾きと共にその姿勢を変位させることにより、気泡の排出を好適に行うことができる。
【0056】
また、上記実施形態では、対向面50aの傾斜によりインクの流れ方向を下方に誘導する構成について説明したが、他の方向であっても、クリーニング時に通常時と異なる方向にインクの流れを形成できれば、沈降成分Sの攪拌作用が得られるため、例えばインクの流れ方向を上方向に誘導して気泡を排出し易くすることもできる。
【0057】
また、上記実施形態では、インク流出孔49を連通孔43の鉛直下方(図3において6時方向)に配置した場合を例示して説明したが、第2インク収容室42の底でなければ、例えば図3において連通孔43に対して4時方向等に配置しても良い。
【0058】
また、上記実施形態においては、液体噴射装置がプリンターPRTである場合を例にして説明したが、プリンターに限られず、複写機及びファクシミリ等の装置であってもよい。
【0059】
また、液体噴射装置としては、インク以外の他の液体を噴射したり吐出したりする構成を採用してもよい。本発明は、例えば微小量の液滴を吐出させる液体噴射ヘッド等を備える各種の液体噴射装置に流用可能である。なお、液滴とは、上記液体噴射装置から吐出される液体の状態をいい、粒状、涙状、糸状に尾を引くものも含むものとする。また、ここでいう液体とは、液体噴射装置が噴射させることができるような材料であればよい。例えば、物質が液相であるときの状態のものであればよく、粘性の高い又は低い液状体、ゾル、ゲル水、その他の無機溶剤、有機溶剤、溶液、液状樹脂、液状金属(金属融液)のような流状態、また物質の一状態としての液体のみならず、顔料や金属粒子などの固形物からなる機能材料の粒子が溶媒に溶解、分散又は混合されたものなどを含む。また、液体の代表的な例としては上記実施形態で説明したようなインクが挙げられる。ここで、インクとは一般的な水性インク及び油性インク並びにジェルインク、ホットメルトインク等の各種液体組成物を包含するものとする。
【符号の説明】
【0060】
H…インクジェットヘッド(液体噴射ヘッド)、20…インク流路(液体流路)、40…自己封止弁(圧力調整部)、41…第1インク収容室(液体流入部)、42…第2インク収容室(液体収容部)、43…連通孔、46a…連通孔形成面、47…インク流入孔(液体流入孔)、48…ダイヤフラム部、49…インク流出孔(液体流出孔)、50…受圧板(移動部材)、50a…対向面、51…変位部材、52…環状部、SC…吸引装置、CTR…インクカートリッジ(液体貯溜部)、PRT…プリンター(液体噴射装置)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
液体貯溜部と液体噴射ヘッドとの間を結ぶ液体流路に設けられ、液体を溜めて圧力を調整する圧力調整部を有する液体噴射装置であって、
前記圧力調整部は、
前記液体貯溜部側と連通する液体流入孔が形成された液体流入部と、
前記液体噴射ヘッド側と連通する液体流出孔が形成されると共に圧力に応じて変位し、容積を変化させるダイヤフラム部を有する液体収容部と、
前記液体流入部と前記液体収容部とを連通させる連通孔と、
前記液体収容部側において前記連通孔と対向する対向面を有し、前記ダイヤフラム部の変位と一体的に移動可能な移動部材と、
前記対向面の姿勢を前記液体収容部の圧力に応じて、前記連通孔と対向する第1の姿勢と、前記第1の姿勢とは前記連通孔に対する傾きが異なる第2の姿勢と、に変位させる変位部材と、
を有することを特徴とする液体噴射装置。
【請求項2】
前記液体噴射ヘッドから液体を吸引する吸引装置を備えており、
前記吸引装置の吸引により所定圧力に達したときに、前記対向面が前記第2の姿勢に変位することを特徴とする請求項1に記載の液体噴射装置。
【請求項3】
前記変位部材は、前記ダイヤフラム部の変位方向において突出し、且つ、前記移動部材の重心位置とは異なる位置に設けられていることを特徴とする請求項1または2に記載の液体噴射装置。
【請求項4】
前記対向面は、前記第2の姿勢のときに、前記連通孔が形成された面に対して離間する距離が、前記連通孔を挟んで上側よりも下側の方が大きくなる方向に傾くことを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載の液体噴射装置。
【請求項5】
前記変位部材は、前記対向面に対して突出し、前記第2の姿勢のときに傾く方向以外の方向を環状に囲う環状部を有することを特徴とする請求項1〜4のいずれか一項に記載の液体噴射装置。
【請求項6】
前記変位部材は、前記移動部材に設けられていることを特徴とする請求項1〜5のいずれか一項に記載の液体噴射装置。
【請求項7】
前記液体流出孔は、前記液体収容部の底よりも上方に設けられていることを特徴とする請求項1〜6のいずれか一項に記載の液体噴射装置。
【請求項8】
前記液体流出孔は、前記ダイヤフラム部の変位方向において、前記移動部材と対向する領域外に設けられていることを特徴とする請求項1〜7のいずれか一項に記載の液体噴射装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2012−158003(P2012−158003A)
【公開日】平成24年8月23日(2012.8.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−17641(P2011−17641)
【出願日】平成23年1月31日(2011.1.31)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】