説明

液体搬送装置

【課題】小型化と高吐出圧化とを実現した液体搬送装置を提供すること。
【解決手段】出力軸15aが挿入される貫通孔である液体搬送空間130H-1と、液体搬送空間130H-1に液体を供給する為の液体供給孔130H-2と、を備えるポンプ室130と、超音波モータ160と、を液体搬送装置1に具備させる。前記超音波モータ160は、摩擦接触子41に対して当接し、振動子40の前記楕円振動を駆動源として、前記中心軸を回転軸として回転駆動されるロータ機構部10と、ロータ機構部10に接続された円柱状部材であって、その外周面には螺旋状の溝部15hが形成され、ロータ機構部10の回転に伴って前記中心軸を回転軸として回転する出力軸15aと、前記中心軸方向に伸縮する縦振動と前記中心軸を捻れ軸とする捻れ振動と、が同時に励起される振動子40と、振動子40のうち前記楕円振動が励起される面に設けられた摩擦接触子41と、を具備する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば医療や化学分析等の種々の分野において用いられる液体搬送装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、例えば医療や化学分析等の分野においては、センサや分析装置等を小型化した分析システムが用いられている。それらの分析システムにおいては、試薬等の送液手段としてマイクロポンプが用いられることが多い。マイクロポンプに関する技術としては、例えば特許文献1に次のような技術が開示されている。
【0003】
特許文献1に開示されているマイクロポンプは、流量については1μl/分から10ml/分、圧力については10から10000Paの範囲の送液能力を有するマイクロポンプである。このマイクロポンプは、液体の補給口と吐出口とを有すると共に内部に円筒形のポンプ室を有するケーシングを具備している。このケーシング内には、外周部に螺旋状の溝が形成されたスクリュー軸が配設されている。このように構成することで、独立して逆止弁を設けることを不要としている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2006−144740号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、マイクロポンプ等の液体搬送装置には、小型化及び高吐出圧化が望まれている。しかしながら、小型化と高吐出圧化との両立は困難である。なお、特許文献1には、スクリュー軸を回転させる為の駆動装置(駆動手段)について具体的に明記されていない。従って、この駆動装置(駆動手段)としては一般的な電磁モータを適用することが想定されているものと考えられる。この場合、高吐出圧を実現するためには、モータ自体を大型にするか、ギアにより減速してトルクを増加させる必要がある。これらの場合には何れも装置の大型化を免れ得ない。
【0006】
本発明は、前記の事情に鑑みて為されたものであり、小型化と高吐出圧化とを両立した液体搬送装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記の目的を達成するために、本発明の一態様による液体搬送装置は、
中心軸に垂直な断面が矩形状を呈し、該矩形状を構成する短辺と長辺との比率が所定の値に設定され、前記中心軸方向に伸縮する縦振動と、前記中心軸を捻れ軸とする捻れ振動と、が同時に励起されることで楕円振動が励起される振動子と、
前記振動子のうち前記楕円振動が励起される面に設けられた摩擦接触子と、
前記摩擦接触子に対して当接し、前記振動子の前記楕円振動を駆動源として、前記中心軸を回転軸として回転駆動されるロータ機構部と、
前記ロータ機構部に接続された円柱状部材であって、その外周面には螺旋状の溝部が形成され、前記ロータ機構部の回転に伴って前記中心軸を回転軸として回転する出力軸と、
前記出力軸が挿入される貫通孔である液体搬送空間と、前記液体搬送空間に液体を供給する為の液体供給孔と、を備えるポンプ室と、
前記ロータ機構部に向かって前記振動子を押圧する押圧部と、
前記ロータ機構部と前記押圧部と共に前記振動子を保持するフレームと、
前記振動子のうち前記押圧部に対向する面において、前記振動子の前記捻れ軸の延長上に設けられた軸状部材であるホルダ軸と、
前記フレームのうち前記振動子の前記捻れ軸の延長上の位置に設けられ、前記ホルダ軸が挿入されるホルダ軸挿入孔と、
前記振動子のうち前記ロータ機構部に対向する面において、前記ロータ機構部の回転軸の延長上に設けられた位置決めピンと、
前記ロータ機構部のうち前記回転軸上であって前記振動子に対向する面に設けられ、前記位置決めピンが挿入される位置決め孔部と、
を具備することを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、小型化と高吐出圧化とを両立した液体搬送装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】図1は、本発明の一実施形態に係る液体搬送装置の一構成例を示す斜視図である。
【図2】図2は、図1に示す液体搬送装置のポンプ室の一構成例を示す斜視図である。
【図3】図3は、図2に示すポンプ室のA−A´線における断面矢視図である。
【図4】図4は、図1に示す液体搬送装置の固定板と超音波モータとを示す分解斜視図である。
【図5】図5は、図1に示す液体搬送装置の分解斜視図である。
【図6】図6は、図1に示す液体搬送装置が具備する超音波モータの一構成例を示す斜視図である。
【図7】図7は、図1に示す液体搬送装置が具備する超音波モータのロータ機構部近傍についての分解斜視図である。
【図8】図8は、図1に示す液体搬送装置が具備する超音波モータの分解斜視図である。
【図9】図9は、図1に示す液体搬送装置が具備する超音波モータのロータ機構部近傍の正面断面図である。
【図10】図10は、積層圧電素子を構成する圧電シートの一構成例を示す図である。
【図11】図11は、積層圧電素子の一積層構成例を示す図である。
【図12】図12は、積層圧電素子の各振動モードにおける共振周波数特性の一例を示す図である。
【図13】図13は、第1積層圧電素子及び第2積層圧電素子の外形を示す図である。
【図14】図14は、第1積層圧電素子及び第2積層圧電素子を、図13において矢印A1で示す方向から観た図(側面図)である。
【図15】図15は、第1積層圧電素子及び第2積層圧電素子を、図13において矢印A2で示す方向から観た図(側面図)である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の一実施形態に係る超音波モータについて、図面を参照して説明する。図1は、本発明の一実施形態に係る液体搬送装置の一構成例を示す斜視図である。図2は、図1に示す液体搬送装置のポンプ室の一構成例を示す斜視図である。図3は、図2に示すポンプ室のA−A´線における断面矢視図である。図4は、図1に示す液体搬送装置の固定板と超音波モータとを示す分解斜視図である。図5は、図1に示す液体搬送装置の分解斜視図である。
【0011】
本一実施形態に係る液体搬送装置1は、ポンプ室130と、超音波モータ160と、ポンプ室130と超音波モータ160とを一体的に接続する固定板200と、を具備する。
前記ポンプ室130は、図1乃至図3に示すように略直方体形状を呈し、超音波モータ160の出力軸15aが挿入される貫通孔である液体搬送空間130H−1と、液体搬送空間130H−1に液体を供給する為の液体供給孔130H−2と、が形成されている。
なお、ポンプ室130の形状は略直方体形状に限られず、後述する液体搬送空間130H−1と液体供給孔130H−2とを形成可能な形状であれば他の形状であってもよい。
【0012】
前記液体搬送空間130H−1は略円柱形状の空間であり、その一方開口部は、当該液体搬送空間130H−1内を搬送された液体の送出孔であり、当該一方開口部には管状部材(不図示)を装着する為の突起部130t−1が設けられている。なお、液体搬送空間130H−1は、図1乃至図3に示すようにポンプ室130内部から突起部130t−1内部にかけて貫通して形成されている。
【0013】
また、液体搬送空間130H−1の他方開口部は、図1乃至図3に示すように出力軸15aが挿入される開口部であり、当該他方開口部には図2及び図4に示すように超音波モータ160の出力軸15aが挿通されるベアリング部材300が設けられている。このベアリング部材300は、液体搬送空間130H−1内部の液体を超音波モータ160のロータ機構部10内へ流入させないシール部材を兼ねている。なお、このベアリング部材300については、摺動性及びシール性を向上させる為に、出力軸15aとの接触面にDLCコート等の表面処理を施してもよい。
【0014】
前記液体供給孔130H−2は、液体搬送空間130H−1に対して略垂直に交わって一体を成す略円柱形状の空間であり、液体搬送空間130H−1内への液体の流路である。この液体供給孔130H−2の開口部には管状部材(不図示)を装着する為の突起部130t−2が設けられている。なお、液体供給孔130H−2は、図1乃至図3に示すようにポンプ室130内部から突起部130t−2内部にかけて貫通して形成されている。
【0015】
前記ポンプ室130のうち固定板200に対して固定される面には、図2に示すように固定板200に対して螺子止めする為の複数の螺子孔srhと、固定板200と超音波モータ160とを固定する螺子srの頭部を収容する複数の溝部gと、が形成されている。
【0016】
なお、ポンプ室130と固定板200との接触部位については、精度の良い表面粗度に加工するか、もしくは所謂オーリング(不図示)等を挟み込むことが好ましい。このように構成することで、ポンプ室130の液体搬送空間130H−1内の液体が外部に漏れることをより確実に防ぐことができる。
【0017】
以下、超音波モータ160の一構成例について説明する。図6は、図1に示す液体搬送装置1が具備する超音波モータ160の一構成例を示す斜視図である。図7は、図1に示す液体搬送装置1が具備する超音波モータ160のロータ機構部10近傍についての分解斜視図である。図8は、図1に示す液体搬送装置1が具備する超音波モータ160の分解斜視図である(伝達部材については不図示)。図9は、図1に示す液体搬送装置1が具備する超音波モータ160のロータ機構部10近傍の正面断面図である。
【0018】
前記超音波モータ160は、ロータ機構部10と、押圧機構部20と、フレーム31と、積層圧電素子40と、を具備する。
前記フレーム31は、振動体収容フレーム31Pと、ロータ機構収容フレーム31Rと、を備える。
まず、フレーム31について詳細に説明する。
【0019】
前記振動体収容フレーム31Pは、互いに対向する一対の板状部材である第1板状部材31P1、第2板状部材31P2と、当該振動体収容フレームの底面を成す第3板状部材31P3と、から成る。
前記第1板状部材31P1には、後述する規制部材51a1を螺子止めする為の複数の螺子孔31P1shが厚み方向に形成されており、且つ、規制部材51a1に設けられた複数の突起部51a1tがそれぞれ挿通される複数の貫通孔31P1thが設けられている。
【0020】
同様に、前記第2板状部材31P2には、後述する規制部材51a2を螺子止めする為の複数の螺子孔(不図示)が厚み方向に形成されており、且つ、規制部材51a2に設けられた複数の突起部51a2tがそれぞれ挿通される複数の貫通孔(不図示)が設けられている。
【0021】
前記第3板状部材31P3には、後述するホルダ22の押圧軸22aが挿入される押圧軸挿入孔31P3hが、当該振動子収容フレーム31Pに配設された積層圧電素子40の捻れ軸(捻れ振動の中心軸)の延長上の位置に設けられている。
前記ロータ機構収容フレーム31Rは、互いに対向する一対の略コ字状部材である第1コ字状部材31R1と、第2コ字状部材31R2と、から成る。これら第1コ字状部材31R1、第2コ字状部材31R2には、固定板200との当接面に、固定板200を螺子止めする為の螺子孔31R1h,31R2hと、固定板200に形成された貫通孔200ph1,200ph2に挿入するピン31t1,31t2と、が設けられている。
【0022】
ところで、前記ロータ機構部10は、軸受け12と、摺動板14と、出力部材15と、を有する。
前記軸受け12は、固定板200の円筒部200cの内径(貫通孔200Hの径)と略同径の外径の第1円筒部12c1と、前記円筒部200cの外径と略同径の外径の第2円筒部12c2と、を備えるベアリング部材である。この軸受け12の内径は、後述する出力部材15の出力軸15aと略同径であり、出力軸15aに挿通される。
【0023】
詳細には、この軸受け12は、内周面が回転可能に構成されたベアリング部材であり、第1円筒部12c1の外周面は固定板200の円筒部200cの内周面に対して固定され、第2円筒部12c2の下端面は出力部材15の出力基部15b(詳細は後述)の上端面に接触している。
【0024】
前記摺動板14は、一方面は積層圧電素子40の上端面に設けられた摩擦接触子41に接触するよう配置され、他方面は出力部材15を構成する出力基部15bの下端面に対して、例えば接着等により固定されている略円環形状の部材である。この摺動板14によって、積層圧電素子40の振動が摩擦接触子41を介して駆動力として出力部材15に伝達される。換言すれば、摺動板14と出力部材15とが一つのロータを構成している。
【0025】
前記出力部材15は、出力軸15aと、該出力軸15aの一方端面(下端面)に接続されている略円盤形状の出力基部15bと、を備える。
【0026】
前記出力軸15aは、上述したように液体搬送空間130H−1の開口部に設けられたベアリング部材300に挿通されて液体搬送空間130H−1内に挿入される棒状部材であり、出力基部15bの回転に伴って回転する。この出力軸15aの外周面には螺旋状の溝部15hが形成されている。液体搬送空間130H−1内の液体は、回転する出力軸15aの溝部15hによって搬送され、突起部130t−1から当該ポンプ室130外部へ吐出される。換言すれば、出力軸15aに形成された螺旋状の溝部15hと、ポンプ室130H−1の内壁とが液体の流路を構成し、出力軸15aの回転によって当該流路中の液体がポンプ室130H−1の外部に吐出される。
【0027】
詳細は後述するが、積層圧電素子40に所定の交番電圧が印加されて縦振動と捻れ振動とが励起されると、当該積層圧電素子40のうち摩擦接触子41が設けられた面に楕円振動が発生する。これにより、摩擦接触子41に接触している摺動板14が回転し、これに伴って出力基部15b及び出力軸15aも回転する。
【0028】
前記出力基部15bは、出力軸15aが接続されている面とは逆側の面(下端面)が摺動板14に対して例えば接着等により固定される。詳細には、この出力基部15bは、摺動板14との対向面には摺動板14の外径と略同径の凹み部15rが形成されており、この凹み部15r表面に、摺動板14が嵌め込まれて例えば接着等により固定される。
【0029】
摺動板14及び出力基部15bには、積層圧電素子40上面に設けられた位置決めピン43(詳細は後述)が挿入される貫通孔が(位置決めピン挿入孔14h,15h)が、それぞれ積層圧電素子40側の面に形成されている。詳細には、この位置決めピン挿入孔14h,15hは、それぞれ摺動板14、出力基部15b(の凹み部15r)の中心軸に対応する位置に形成されている。詳細は後述するが、これら位置決めピン挿入孔14h,15hに、位置決めピン43を挿入するように組み立てることで、それら部材同士の位置関係が必然的に最適化されて組み上がる。
【0030】
前記固定板200は、板部200bと、該板部200bの一方面に設けられた円筒部200cと、を備える。この固定板200は、その厚み方向に、図7及び図9に示すように軸受け12の第1部12cの外径と略同径の貫通孔200Hが形成されており、この貫通孔200Hの内周面と、軸受け12の第1部12c1の外周面とが例えば接着等により固定されている。換言すれば、この固定板200には、接着等により固定された摺動板14と出力部材15とから成るロータ部組が、図7に示すように軸受け12を介して回転自在に配設されている。
【0031】
前記板部200bには、上述したようにロータ機構収容フレーム31Rに設けられたピン31t1,31t2が挿入される貫通孔200th1,200th2と、ロータ機構収容フレーム31R上に載置された当該板部200bをロータ機構収容フレーム31Rに対して螺子止めする為の貫通孔200ph1,200ph2と、が形成されている。
【0032】
さらに、前記板部200bには、図5に示すようにポンプ室130に形成された螺子孔srhに対応する位置(本例では板部200bの四隅)に貫通孔200srhが形成されている。これら貫通孔200srhは、当該板部200bとポンプ室130とを締結する螺子srが挿通される貫通孔である。
前記ポンプ室130のうち固定板200に対して固定される面には、図2及び図5に示すように固定板200を締結する為の複数の螺子孔srhと、固定板200と超音波モータ160(ロータ機構収容フレーム31R)とを締結する螺子srの頭部を収容する複数の溝部gと、が形成されている。
【0033】
上述したように、固定板200は、一方面においては上述のロータ機構収容フレーム31Rに設けられたピン31t1,31t2を基準として位置合わせされ、且つ、螺子srによりロータ機構収容フレーム31Rに対して固定されている(超音波モータ160に対して固定されている)。そして、固定板200は、他方面においてはポンプ室130に対して螺子srによって固定されている。
【0034】
そして、積層圧電素子40をロータ機構部10に向かって加圧するバネ21の押圧力によって、積層圧電素子40に設けられた摩擦接触子41が、ロータ表面(摺動板14表面)に対して、適正な押圧力で接触する(圧接する)。これにより、積層圧電素子40の楕円振動が、駆動力としてロータ機構部10に伝達可能となる。
【0035】
前記押圧機構部20は、バネ21とホルダ22とを備える。
前記バネ21は、積層圧電素子40をロータ機構部10に向かって押圧する為の部材であり、ホルダ22によって位置決めされる。このバネ21は、振動体収容フレーム31Pの第3板状部材31P3と、積層圧電素子40と、によって撓んだ状態で挟持される。具体的には、このバネ21は、例えば板バネやコイルバネ等である。
【0036】
前記ホルダ22は、押圧軸22aと固定部22fとを備える。詳細には、押圧軸22aと、積層圧電素子40の長手方向の中心軸(捻れ振動の中心軸)とが一致するように、次のように構成されている。
前記押圧軸22aは、バネ21が挿通される軸部材である。このホルダ22の一方端には後述する固定部22fが設けられており、他方端は振動体収容フレーム31Pの第3板状部材31P3に形成された押圧軸挿入孔31P3hに挿通される。詳細は後述するが、固定部22fは積層圧電素子40の下面に固定されている為、ホルダ22の押圧軸22aが振動体収容フレーム31Pの第3板状部材31P3に設けられた押圧軸挿入孔31P3hに挿入されることで、積層圧電素子40の位置が規制され、且つ位置決めが為される(積層圧電素子40がバネ21による押圧の方向と垂直な方向に移動することが規制される)。
【0037】
前記固定部22fは、一方面には押圧軸22aが接続され、他方面は、積層圧電素子40の下面のうち、駆動に寄与する方向についての振動である捻り振動の節位置に対応する位置(幅方向及び厚み方向の中心位置近傍)に、接着等により固定された板状部材である。
【0038】
この固定部22fは、押圧軸22aと一体的に形成されており、積層圧電素子40と当該固定部22fとによって挟持されて撓んだ状態のバネ21とによって、ロータ機構部10に向かって押圧される。すなわち、前記積層圧電素子40は、固定部22fを介して、バネ21によってロータ機構部10に向かって押圧される。
【0039】
なお、前記ホルダ22は、振動の伝達を低減する材料(例えば樹脂材)等から成る。これにより、積層圧電素子40の振動が振動体収容フレーム31Pに伝達されてしまうことを低減することができる。
前記積層圧電素子40は、圧電シートが積層されて成る振動体であり、摩擦接触子41と、位置決めピン43と、が設けられている。詳細は後述するが、積層圧電素子40の長手方向下端面に接着等により固定されているホルダ22と、上端面に接着等により固定されている位置決めピン43とを利用して当該超音波モータを組み立てることで、当該積層圧電素子40の中心軸(捻れ振動における中心軸)とロータ機構部10の中心軸(回転軸)とが一致した状態で組み上がる。
【0040】
前記摩擦接触子41は、積層圧電素子40上面(ロータ機構部10に対向する面)のうち駆動に最適な楕円振動が発生する位置近傍に設けられており、ロータ機構部10の摺動板14に接触している。
前記位置決めピン43は、積層圧電素子40の上面のうち長辺方向且つ短辺方向の中心(ロータ機構部10の回転軸(中心軸))上に、当該上面に対して垂直に凸となるように当該上面に例えば接着等により固定されている。
【0041】
この位置決めピン43は、上述した摺動板14、出力部材15の位置決めピン挿入孔14h,15hに挿入される。積層圧電素子40上にロータ機構部10(摺動板14、出力部材15)を配設する際に、位置決めピン43をピン挿入孔14h,15hに挿入することで、ロータ機構部10の回転中心と、積層圧電素子40上面の中心とが一致する。
【0042】
前記規制部材51a1は、複数(本例では2つ)の突起部51a1tが厚み方向に凸に設けられた板状部材であり、螺子止めの為の貫通孔51a1hが厚み方向に形成されている。同様に、前記規制部材51a2は、複数(本例では2つ)の突起部51a2tが厚み方向に凸に設けられた板状部材であり、螺子止めの為の貫通孔51a2hが厚み方向に形成されている。
【0043】
これら規制部材51a1,51a2は、積層圧電素子40の主平面(振動体収容フレーム31Pに対向する面)のうち、捻り振動の節位置近傍に、それぞれの突起部51a1t,51a2tが接触するように、振動体収容フレーム31Pの外部側から第1板状部材31P1、第2板状部材31P2に対して当て付けられ、それぞれ貫通孔51a1h,51a2hを利用して螺子srによって螺子止め固定されている。
【0044】
このように、規制部材51a1,51a2の突起部51a1t,51a2tが、積層圧電素子40の主平面のうち、当該積層圧電素子40の捻り振動の節位置に接触した状態で固定されることで、当該積層圧電素子40の振動を阻害せず(当該積層圧電素子40の長手方向端面に励起される捻り振動の振幅を減少させず)に、当該積層圧電素子40の回転(ロータ機構部10の回転と同方向の回転、バネ21の押圧力の方向に対して垂直な面内の回転)が規制される。
【0045】
以下、積層圧電素子40を構成する圧電シートについて詳細に説明する。図10は、積層圧電素子40を構成する圧電シートの一構成例を示す図である。同図に示すように、積層圧電素子40は、3種類の圧電シート(第1の圧電シート401、第2の圧電シート402、第3の圧電シート403)から成る。
【0046】
これら第1の圧電シート401、第2の圧電シート402、及び第3の圧電シート403は、矩形のシート状の圧電素子であり、例えばハード系のチタン酸ジルコン酸鉛の圧電セラミックス素子(PZT)から成る。
詳細には、前記第1の圧電シート401の電極形成面上には、その長手方向における略中央位置に、+相の第1内部電極401aと+相の第2内部電極401cとが、中心線C(短辺を2等分する線)に対して対称に設けられている。
【0047】
同様に、前記第2の圧電シート402の電極形成面上には、その長手方向における略中央位置に、−相の第1内部電極402aと−相の第2内部電極402cとが、中心線C(短辺を2等分する線)に対して対称に設けられている。
ここで、前記+相の第1内部電極401aは、矩形形状を呈する第1の圧電シート401の一方長辺に向かって延びて露出する端部401aeを備えている。前記+相の第2内部電極401cは、矩形形状を呈する第1の圧電シート401の他方長辺に向かって延びて露出する端部401ceを備えている。
【0048】
同様に、前記−相の第1内部電極402aは、矩形形状を呈する第2の圧電シート402の一方長辺に向かって延びて露出する端部402aeを備えている。前記−相の第2内部電極402cは、矩形形状を呈する第2の圧電シート402の他方長辺に向かって延びて露出する端部402ceを備えている。
【0049】
ここで、上述の各内部電極401a,401c,402a,402cは、例えば厚さ4μmの銀パラジウム合金から成る。また、上述の各内部電極401a,401c,402a,402cが設けられている位置は、積層圧電素子40のうち捻り振動の応力が最大となる位置に対応する位置である。
【0050】
前記第3の圧電シート403は、第1の圧電シート401及び第2の圧電シート402と同形状であって、且つ、内部電極が設けられていないシート状の部材である。つまり、第3の圧電シート403は、絶縁層を成す圧電シートである。
図11は、積層圧電素子40の一積層構成例を示す図である。同図に示すように、第1積層部位411と、第2積層部位412と、第3積層部位413と、第4積層部位414と、第5積層部位415と、から成る。
【0051】
詳細には、これら各積層部位(第1積層部位411、第2積層部位412、第3積層部位413、第4積層部位414、第5積層部位415)の積層構成は、上述した各圧電シートが次のように積層されて成る部位である。
《第1積層部位411》
第1積層部位411は、少なくとも1枚の第3の圧電シート403から成る(複数枚の第3の圧電シート403から成る場合は、第3の圧電シート403がその厚み方向に積層されて成る)。
《第2積層部位412》
第2積層部位412は、第1積層部位411上に積層された部位であって、第1の圧電シート401と第2の圧電シート402とがその厚み方向に交互に積層されて成る。
《第3積層部位413》
第3積層部位413は、第2積層部位412上に積層された部位であって、少なくとも1枚の第3の圧電シート403から成る(複数枚の第3の圧電シート403から成る場合は、第3の圧電シート403がその厚み方向に積層されて成る)。
《第4積層部位414》
第4積層部位414は、第3積層部位413上に積層された部位であって、第1の圧電シート401と第2の圧電シート402とがその厚み方向に交互に積層されて成る。
《第5積層部位415》
第5積層部位415は、第4積層部位414上に積層された部位であって、少なくとも1枚の第3の圧電シート403から成る(複数枚の第3の圧電シート403から成る場合は、第3の圧電シート403がその厚み方向に積層されて成る)。
【0052】
上述の構成を採る積層圧電素子40の寸法は、積層圧電素子が有する下記の特性を利用して決定している。すなわち、積層圧電素子の高さcを一定として、(短辺の長さa/長辺の長さb)の値を横軸にとり、各振動モードにおける共振周波数の値を縦軸にとると、図12に示す特性を得ることができる。すなわち、
・縦1次振動モードにおける共振周波数の値は、(a/b)の値に依存せず、略一定の値をとる。
・捻れ1次振動モード、捻れ2次振動モード、及び捻れ3次振動モードにおける共振周波数の値は、(a/b)の値の増加に従って、増加していく。
・捻れ1次振動モードにおける共振周波数は、(a/b)の値がどのような値であっても、縦1次振動モードにおける共振周波数と一致することは無い。
・捻れ2次振動モードにおける共振周波数は、(a/b)の値が0.6となる近傍で、縦1次振動モードにおける共振周波数と一致する。
・捻れ3次振動モードにおける共振周波数は、(a/b)の値が0.3となる近傍で、縦1次振動モードにおける共振周波数と一致する。
【0053】
上述したような特性の為、本一実施形態においては下記のように(a/b)の値を設定する。すなわち、
・縦1次振動モードと捻れ2次振動モードとを利用する場合、(a/b)の値が0.6〜0.7となるように、積層圧電素子40の短辺の長さa及び長辺の長さbを設定する。
【0054】
つまり本一実施形態に係る超音波モータにおいては、積層圧電素子40の中心軸100c方向に伸縮する縦1次共振振動と、中心軸100cを捻れ軸とする捻れ2次共振振動と、の共振周波数が略一致するように、積層圧電素子40における短辺の長さaと長辺の長さbとの比(比率)を設定する。このようにして共振周波数の調整を行うことができるので、従来の技術では必要とされている共振周波数の調整の為の特別な加工等は一切不要になる。
【0055】
図13は、積層圧電素子40の外形を示す図である。図14は、積層圧電素子40を、図13において矢印A1で示す方向から観た図(側面図)である。図15は、積層圧電素子40を、図13において矢印A2で示す方向から観た図(側面図)である。
【0056】
図14に示すように、積層圧電素子40の一方側面には、第2積層部位412において端部401ae同士,端部402ae同士をそれぞれ接続(短絡)する外部電極101B+,101B−と、第4積層部位414において端部401ae同士,端部402ae同士をそれぞれ接続(短絡)する外部電極101A+,101A−が設けられている。外部電極101A+はA+相の外部電極を成し、外部電極101A−はA−相の外部電極を成し、外部電極101B+はB+相の外部電極を成し、外部電極101B−はB−相の外部電極を成している。
【0057】
また、図15に示すように、積層圧電素子40の他方側面には、第2積層部位412において端部401ce同士,端部402ce同士をそれぞれ接続(短絡)する外部電極101D+,101D−と、第4積層部位414において端部401ce同士,端部402ce同士をそれぞれ接続(短絡)する外部電極101C+,101C−が設けられている。外部電極101C+はC+相の外部電極を成し、外部電極101C−はC−相の外部電極を成し、外部電極101D+はD+相の外部電極を成し、外部電極101D−はD−相の外部電極を成している。
【0058】
なお、図示はしていないが、これらの各外部電極には例えばFPCが固着されており、該FPCを介して所定の電源から駆動電圧が印加される。
ここで、積層圧電素子40のうち、少なくとも、+相の第1内部電極401aと−相の第1内部電極402aとが互いに対向する部分、及び、+相の第2内部電極401cと−相の第2内部電極402cとが互いに対向する部分は、圧電的に活性化された圧電活性化領域である。詳細には、+相の第1内部電極401aと−相の第1内部電極402aとの間、及び、+相の第2内部電極401cと−相の第2内部電極402cとの間には高電圧が印加されて圧電的に活性化されている。
【0059】
ところで、上述した第4積層部位414に対応する電極層であるA相、及び第2積層部位412に対応する電極層であるB相の各内部電極に、互いに位相が異なる交番電圧を印加することで、積層圧電素子40の厚み方向(積層方向)に分極されてなる活性化領域において縦1次共振振動と捻れ2次共振振動とが励起され、積層圧電素子40の端面において楕円振動が励起され、摩擦接触子41によって摺動板14が回転駆動される。
【0060】
詳細には、A相とB相とに同位相の交番電圧を印加することで、積層圧電素子40には縦振動が励起される。また、A相とB相とに位相差が180度(逆位相)の交番電圧を印加することで、積層圧電素子40には捻れ振動が励起される。そして、A相とB相とに位相差が90度の交番電圧を印加することで、積層圧電素子40には縦振動と捻れ振動とが同時に励起され、その端面において楕円振動が励起される。このように、本一実施形態に係る超音波モータでは、積層圧電素子40の圧電横効果を利用して駆動を行う。
【0061】
なお、積層圧電素子40のC相とD相とについては、それぞれA相、B相と同様に駆動電圧を印加することで、当該超音波モータの駆動力をより大きくすることができる。また、積層圧電素子40のC相とD相を、積層圧電素子40の振動を検出する為の振動検出相として利用しても勿論よい。
【0062】
ところで、本一実施形態に係る超音波モータでは、内部電極401a,401c,402a,402cが各圧電シートにおいて設けられている位置は、当該積層圧電素子40に励起させる捻れ2次振動の腹部に対応する位置である。換言すれば、各内部電極401a,401c,402a,402cは、捻り2次振動の応力が最大となる位置に設けられている。
【0063】
以上説明したように、本一実施形態によれば、小型化と高吐出圧化とを実現した液体搬送装置を提供することができる。
本一実施形態に係る液体搬送装置1の具備する超音波モータ160は低速且つ高トルクを実現可能なモータであり、液体搬送装置の高吐出圧化を実現する為に減速ギア等を設ける必要がない。つまり、本一実施形態によれば、液体搬送装置のうちモータ部分が占める体積を減少させることができる。
【0064】
さらに、本一実施形態に係る液体搬送装置1では、ポンプ室130と超音波モータ160とが固定板200を介して一体化されており、超音波モータ160の出力軸15aがポンプ室130内における液体搬送の為の部材として用いられている。この構成は、装置全体としての小型化に大きく寄与している。また、この構成は部品点数の削減にも寄与している。
【0065】
本一実施形態に係る液体搬送装置のように駆動部(モータ)のトルクが大きい場合、当該液体搬送装置によって搬送される液体が高粘度の液体であっても搬送が可能である。従って、液体内に異物が混入した場合であっても、問題なく搬送可能である。
以上、一実施形態に基づいて本発明を説明したが、本発明は上述した各実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨の範囲内で、種々の変形及び応用が可能なことは勿論である。
【0066】
さらに、上述した実施形態には種々の段階の発明が含まれており、開示した複数の構成要件の適当な組み合わせにより種々の発明が抽出され得る。例えば、実施形態に示す全構成要件からいくつかの構成要件が削除されても、発明が解決しようとする課題の欄で述べた課題が解決でき、発明の効果の欄で述べられている効果が得られる場合には、この構成要件が削除された構成も発明として抽出され得る。
【符号の説明】
【0067】
1…液体搬送装置、 10…ロータ機構部、 12c1,12c2…円筒部、 13a…軸部、 13g…歯車部、 13H…貫通孔、 14…摺動板、 14h,15h…ピン挿入孔、 15a…出力軸、 15…出力部材、 15b…出力基部、 15h…溝部、 15r…凹み部、 200ph1,200ph2…貫通孔、 200H…貫通孔、 19…スペーサ、 20…押圧機構部、 21…バネ、 22…ホルダ、 22a…押圧軸、 22f…固定部、 31…フレーム、 31P…振動体収容フレーム、 31R…ロータ機構収容フレーム、 31P1,31P2,31P3…板状部材、 31P1sh…螺子孔、 31P1th…貫通孔、 31P3h…押圧軸挿入孔、 31P…振動子収容フレーム、 31R1,31R2…コ字状部材、 31R1h,31R2h…螺子孔、 31t1,31t2…ピン、 31…フレーム、 40…積層圧電素子、 41…摩擦接触子、 43…ピン、 51a1t,51a2t…突起部、 51a1h,51a2h…貫通孔、 51a1,51a2…規制部材、 100c…中心軸、 101A,101B,101C,101D…外部電極、 130…ポンプ室、 130t−1,130t−2…突起部、 130H−1…液体搬送空間、 130H−2…液体供給孔、 160…超音波モータ、 200…固定板、 200c…円筒部、 200b…板部、 300…ベアリング部材。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
中心軸に垂直な断面が矩形状を呈し、該矩形状を構成する短辺と長辺との比率が所定の値に設定され、前記中心軸方向に伸縮する縦振動と、前記中心軸を捻れ軸とする捻れ振動と、が同時に励起されることで楕円振動が励起される振動子と、
前記振動子のうち前記楕円振動が励起される面に設けられた摩擦接触子と、
前記摩擦接触子に対して当接し、前記振動子の前記楕円振動を駆動源として、前記中心軸を回転軸として回転駆動されるロータ機構部と、
前記ロータ機構部に接続された円柱状部材であって、その外周面には螺旋状の溝部が形成され、前記ロータ機構部の回転に伴って前記中心軸を回転軸として回転する出力軸と、
前記出力軸が挿入される貫通孔である液体搬送空間と、前記液体搬送空間に液体を供給する為の液体供給孔と、を備えるポンプ室と、
前記ロータ機構部に向かって前記振動子を押圧する押圧部と、
前記ロータ機構部と前記押圧部と共に前記振動子を保持するフレームと、
前記振動子のうち前記押圧部に対向する面において、前記振動子の前記捻れ軸の延長上に設けられた軸状部材であるホルダ軸と、
前記フレームのうち前記振動子の前記捻れ軸の延長上の位置に設けられ、前記ホルダ軸が挿入されるホルダ軸挿入孔と、
前記振動子のうち前記ロータ機構部に対向する面において、前記ロータ機構部の回転軸の延長上に設けられた位置決めピンと、
前記ロータ機構部のうち前記回転軸上であって前記振動子に対向する面に設けられ、前記位置決めピンが挿入される位置決め孔部と、
を具備することを特徴とする液体搬送装置。
【請求項2】
前記出力軸が挿通される貫通孔が形成された板状部材である固定板を含み、
前記ロータ機構部は前記固定板の一方面に対して固定され、前記ポンプ室は前記固定板の他方面に対して固定されている
ことを特徴とする請求項1に記載の液体搬送装置。
【請求項3】
前記ポンプ室の前記液体搬送空間のうち前記ロータ機構部側の開口部近傍には、前記出力軸が挿通されるベアリング部材が設けられており、
前記ベアリング部材は、前記出力軸と共に前記ロータ機構部側の開口部を封止する
ことを特徴とする請求項1または請求項2に記載の液体搬送装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【公開番号】特開2013−74700(P2013−74700A)
【公開日】平成25年4月22日(2013.4.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−211440(P2011−211440)
【出願日】平成23年9月27日(2011.9.27)
【出願人】(000000376)オリンパス株式会社 (11,466)
【Fターム(参考)】