説明

液体混合機構

【課題】微小領域で効率よく拡散混合を行うことができる液体混合機構を提供する。
【解決手段】交差部37又は合流部38で交差又は合流する微小な第1及び第2の流路31a,31bを備え、第1の流路31aを流れる第1の液体と第2の流路31bを流れる第2の液体とが交差部37又は合流部38で交差又は合流して混合する。第1及び第2の液体の少なくとも一方は、交差部37又は合流部38に、脈動しながら送液される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液体混合機構に関し、詳しくは、微量の液体を混合する液体混合機構に関する。
【背景技術】
【0002】
μ−TAS(μ−Total Analysis System)は、従来使われてきた器具であるフラスコや試験管に比べて格段に小さいサイズである。そのため、用いる試薬、検体の量やコスト、廃棄を抑えることができ、微小量の合成や検出が可能となる点が、特徴の一つとして注目されている。μ−TASは、臨床分析チップ、環境分析チップ、遺伝子分析チップ(DNAチップ)、衛生分析チップ、化学・生化学合成チップ等に適用することができる。
【0003】
例えば、特表2000−512541号公報には、約10μm〜約100μmの流路を有する抽出装置が開示されている。
【0004】
また、「マイクロリアクター技術の現状と展望」(社団法人近畿化学協会ロボット合成研究会監修)には、“LIQUID−SHEET BREAKUP IN MICROMIXERS”が開示されている。このシステムでは、同一平面上に液体とガスを互いに逆方向から流し、合流させて真上に取り出すように構成されている。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
チャンネルがマイクロスケールである微小な流路の世界においては、寸法及び流速のいずれも小さく、レイノルズ数は200以下である。例えば、マイクロ流路で用いられる平均的な200μm幅の流路に流速2mm/sで水を流した場合、レイノルズ数は0.4となる。よって、微小な流路(例えば、水では流路幅が約500μm以下)の世界では、従来の反応装置のような乱流支配ではなく、層流支配の世界である。
【0006】
マイクロスケールの空間では、比界面積が大きいため、層流が接触する界面での拡散混合に有利である。混合に要する時間は、2液の接する界面の断面積と液層の厚さに依存する。
【0007】
拡散理論に従うと、混合に要する時間(T)は、流路幅をW、拡散係数をDとすると、W/Dに比例するので、流路幅を小さくすればするほど、混合(拡散)時間は速くなる。また、拡散係数Dは、次式で与えられる。
D=Kb×T/6×π×μ×r ………(1)
(ただし、T:液温、μ:粘度、r:粒子半径、Kb:ボルツマン定数)
【0008】
例えば、粒径10nm(0.01μm)の粒子を用いた場合の流路幅(チャンネル幅)と比界面積(S/V)及び拡散時間(t)との関係は、図1に示したようになる。なお、Sは界面積、Vは体積である。
【0009】
つまり、マイクロスケール空間では、機械的攪拌などを用いなくても、分子輸送、反応、分離が、分子・粒子の自発的挙動だけで速やかに行われる。
【0010】
最近、流路幅方向に拡散させるタイプの研究が発表されているが、流路幅がせいぜい200μm程度までは、比較的簡単に作成でき、ポンプを組み合わせた場合でも、流路抵抗の上昇が問題になるレベルではない。しかしながら、用途によっては、200μmレベルの流路幅で自発的拡散による混合を行った場合、時間がかかりすぎるという問題がある。
【0011】
例えば、代表的な例として、マイクロ流路内で血漿を拡散させることにより血液凝固検査を行う場合が挙げられる。
【0012】
血漿は、血球を除いた成分で、全て100nm以下の粒子と考え、粘度も平均的な2cpsと仮定する。混合させる試薬は、約45nm以下と考える。血漿中の凝固に関係するフェブリノーゲンは、約45nm分子であり、拡散係数は、D=5×10−8cm/秒となり、100μm移動するための拡散時間は2000秒と計算される。25μmの移動では、拡散時間は125秒となる。
【0013】
しかし、実際は、血漿の中に多くのタンパク質、分子が含まれ、相互に作用し合い、血漿と混合させたい試薬の種類(溶媒、濃度)により、拡散の推進力になる濃度差(モル分率)、相互拡散係数等を補正し算出する必要がある。また、検体によっては粘度が高い場合もあり、例えば粘度が20cpsとすると、上記結果の10倍も拡散時間がかかってしまう。
【0014】
凝固検査の結果は、試薬と混合させ固まるまでの時間を、0.1秒の分解能で計る必要があるが、上記計算結果のように混合に2000秒かかってしまうと、幅方向に2000秒分の粘度勾配をもった状態で検出される。検出の観点からは、難題である。
【0015】
また、最大の問題は、凝固の終了が短時間、例えば10秒以内で済む検査の場合、微小な流路内で拡散がほとんど進んでいないうちに、2液の界面で凝固が起こり、それがバリアとなって拡散が進行しなくなる。このように瞬間的に混合させる必要がある血液凝固検査の場合は、幅100μmレベルの流路においては、検査が成り立たない。また、血液凝固以外であっても、極短時間の混合は、一般的に多くの分野で要求されており、用途は多い。
【0016】
しかし、拡散時間を効率的に速くしようと流路幅を極端に小さくしてしまうと、流路抵抗が極端に大きくなり、送液の制御ができないばかりか、送液のために非常に大きな圧力が必要となり、送液機構が大型化してしまい、トータルなマイクロシステムにはならない。また、流路幅が極端に小さいということは、流体量が極端に少なく、検出限界が下がり、さらに高感度な検出機構が必要となり、現在の検出方法ではアプリケーションが限られる。
【0017】
したがって、本発明が解決しようとする技術的課題は、微小領域で効率よく拡散混合を行うことができる液体混合機構を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0018】
本発明は、上記技術的課題を解決するために、以下の構成の液体混合機構を提供する。
【0019】
液体混合機構は、交差部又は合流部で交差又は合流する微小な第1及び第2の流路を備え、上記第1の流路を流れる第1の液体と上記第2の流路を流れる第2の液体とが上記交差部又は合流部で交差又は合流して混合するタイプのものである。上記第1及び第2の液体の少なくとも一方は、上記交差部又は合流部に、脈動しながら送液される。
【0020】
上記構成において、脈動する第1及び第2の液体の少なくとも一方は、間欠的に交差部又は合流部に供給される。これにより、交差部又は合流部およびそれより下流側で、第1の液体の塊と第2の液体の塊とが交互に並び、隣接する第1の液体の塊と第2の液体の塊との間で拡散混合が生じるようにすることができる。
【0021】
上記構成によれば、適宜な脈動によって、隣接する第1の液体の塊と第2の液体の塊との界面直角方向の距離を小さくし、第1及び第2の液体を短時間で均一に混合することができる。
【0022】
したがって、微小領域で効率よく拡散混合を行うことができる。
【0023】
好ましくは、上記交差部又は合流部の流路直角方向の断面積が、その前後の流路の流路直角方向の断面積よりも小さい。
【0024】
上記構成によれば、交差部又は合流部の断面積が小さいので、隣接する第1及び第2の液体の塊の界面直角方向の距離を小さくして、混合時間を短くすることができる。交差部又は合流部の断面積のみを部分的に小さくすることで、断面減少による流路抵抗の増大をできるだけ小さくすることができる。さらに、交差部又は合流部の下流側の流路で断面が大きくなることにより、液体の塊が例えば傘状に広がり、第1及び第2の液層が薄くなり、第1及び第2の液体の塊の界面直角方向の距離が小さくなり、より短時間で混合させることも可能である。
【0025】
好ましくは、上記第1及び第2の液体の少なくとも一方は、1回あたり、上記交差部又は合流部の容積の1/5倍以上で、その前後の流路幅に対して十分小さくなる量を脈動する。
【0026】
上記構成において、脈動1回当たりの流量は、交差部又は上記合流部の容積とオーダー的に同程度である。上記構成によれば、交差部又は合流部において、交差部又は合流部の容積と同程度の第1及び第2の液体の塊を形成し、効率よく混合することができる。
【0027】
好ましくは、上記第1及び第2の液体は、上記交差部又は合流部において、略逆位相で交差又は合流する。
【0028】
上記構成によれば、交差部又は合流部において、第1の液体の塊と第2の液体の塊とを交互に形成し、第1及び第2の液体を、効率よく混合することができる。
【0029】
好ましくは、上記第1及び第2の液体のいずれか一方が脈動し、他方が整流で、上記交差部又は合流部に送液される。
【0030】
上記構成によれば、第1及び第2の液体の一方のみを脈動させればよく、他方とのタイミング調整が不要となるので、簡単な制御で混合することができる。
【0031】
好ましくは、上記第1及び第2の流路が、交差した後に合流する。
【0032】
上記構成において、第1及び第2の流路は、交差部で一旦交差し、交差部より下流側はそれぞれ分離し、再び合流部で合流する。第1及び第2の流路の交差部と合流部との間では、ともに、第1及び第2の液体が混在した状態となる。これを合流部で合流させることで、第1及び第2の液体をより均一に混合することができる。
【0033】
好ましくは、上記第1及び第2の流路の少なくとも一方の上記交差部又は合流部より上流側に、マイクロポンプを備える。
【0034】
上記構成によれば、マイクロポンプにより液体に脈動を与えながら送液することができる。マイクロポンプを用いれば、全体の構成を簡単にし、小型化することが容易である。例えば、液体混合機構をマイクロチップ内に構成した場合に、好適である。
【0035】
好ましくは、上記第1及び第2の流路の少なくとも一方の上記交差部又は合流部より上流側に、ダイアフラムを備える。
【0036】
上記構成によれば、適宜な手段で送液した状態でダイアフラムを駆動することにより、送液に脈動を与えることができる。ダイアフラムは、脈動を与えるだけであるため負荷容量が小さく、構成が簡単で、小型化が容易である。例えば、液体混合機構をマイクロチップ内に構成した場合に、好適である。
【発明の効果】
【0037】
本発明によれば、適宜な脈動によって、隣接する第1の液体の塊と第2の液体の塊との界面直角方向の距離を小さくし、第1及び第2の液体を短時間で均一に混合することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0038】
以下、本発明の各実施形態に係る液体混合機構について、図2〜図15を参照しながら説明する。
【0039】
まず、第1実施形態の液体混合機構30について、図2〜図5を参照しながら説明する。
【0040】
図2の構成図に示したように、液体混合機構30は、大略、第1及び第2の流路31a,31bが交差部37でX字状に交差し、それより下流側の部分36が合流部38でY字状に合流し、その下流側に合流流路31xが接続するようになっている。
【0041】
第1及び第2の流路31a,31bは、それぞれの端部に、検体や試薬などの液体を導入するための液体導入口32a,32bが設けられている。また、液体導入口32a,32bと交差部37との間には、それぞれ、マイクロポンプ34a,34bが設けられている。交差部37及び合流部38の幅は、その前後の流路31a,31b,31xの幅よりも小さく、交差部37及び合流部38近傍の流路直角方向の断面は、その前後の流路31a,31b,31xの流路直角方向の断面よりも狭く絞られている。
【0042】
マイクロポンプ34a,34bには、例えば図3及び図4の断面図に示したように、ディフューザー型ポンプを用いる。マイクロポンプ34a,34bは、ポンプ室35bに対向する振動板320に、セラミック圧電材料であるPZT[Pb(Zr,Ti)O3]35sが貼り付けられている。PZT35sは、駆動部340により駆動電圧が印加されるとポンプ室35b側に湾曲し、ポンプ室35bの容積が変動するようになっている。このとき、前後のディフューザー35a,35cの流路インピーダンスの差により、液体が送液される。
【0043】
下流側のディフューザー35cは、ポンプ室35bの圧力変化が急激であっても緩やかであっても、液体が層流状態で流れるので、流路インピーダンスの変化が相対的に小さい。
【0044】
これに対し、上流側のディフューザー35aは、流路インピーダンスの変化が相対的に大きい。すなわち、上流側のディフューザー35aは、ポンプ室35bの圧力変化が急激な場合には、乱流が発生するために、流路インピーダンスが下流側のディフューザー35cよりも大きくなる。一方、ポンプ室35bの圧力変化が緩やかな場合には、乱流が発生しないので、流路インピーダンスは下流側のディフューザー35cよりも小さくなる。
【0045】
例えば、急激な立上がりと緩やかな立ち下がりを繰り返す鋸歯状の駆動電圧をPZT35sに印加した場合、電圧の急激な変化により、ポンプ室35bの容積が急激に小さくなり、図3において矢印364で示すように、下流側のディフューザー35cから液体が吐出する。次に、電圧の緩やかな変化により、ポンプ室35bの容積はゆっくりと元に戻り、図3において矢印362で示すように、上流側のディフューザー35aからポンプ室35b内に液体が吸い込まれる。このとき、下流側のディフューザー35cからも、多少はポンプ室35b内に液体が吸い戻される。この繰り返しにより、液体は全体として前方に送り出される。
【0046】
液体混合機構30を用いて混合する場合、液体導入口32a,32bに第1及び第2の液体、例えば液状の検体と試薬をそれぞれ供給し、マイクロポンプ34a,34bを駆動することにより、第1及び第2の液体を合流流路31xに向けて交互に送液する。
【0047】
例えば図5に示したように、マイクロポンプ34a,34b(「ポンプ1」、「ポンプ2」と表示)を逆位相で周期的に駆動し、第1及び第2の液体に、脈動の振幅Wを交互に与える。これにより、第1及び第2の液体は、大略交互に交差部37に流れ込み、第1及び第2の流路31a,31bの交差部37より下流側36には、第1及び第2の液体の塊が流路進行方向に交互に並んだ状態となる。このとき、第1及び第2の液体の塊(液層)間で自発的拡散が起こる。
【0048】
下流側36の液体は、合流部38で再び合流する。そして、合流部38では、第1流路31a側の液体の塊と、第2流路側31bの液体の塊とが交互に並んだ状態となり、同様に自発的拡散が起こる。
【0049】
そして、合流部38を流れていた液体が合流流路31xに入ると、合流流路31xの流路直角方向の断面積は合流部38の流路直角方向の断面積よりも大きいので、液の塊は大略傘状に広がり、液層が薄くなる。
【0050】
以上のようにして、第1及び第2の液体の液層を薄くし、粒子の移動距離を短くし、極めて短時間で第1及び第2の液体を均一に混合することができる。
【0051】
第1実施形態では、それぞれの流路31a,31bにマイクロポンプ32a,32bが必要であり、かつ、それらの脈動の位相差を考慮して駆動する必要があるが、以下の第2及び第3実施形態によれば、より簡便な手法で混合することができる。
【0052】
次に、第2実施形態の液体混合機構40について、図6の構成図を参照しながら説明する。
【0053】
液体混合機構40は、大略、第1実施形態と同様に構成され、第1及び第2の流路41a,41bが交差部47でX字状に交差し、それより下流側の部分46が合流部48でY字状に合流し、合流流路41xに接続するようになっている。
【0054】
一方、第1実施形態とは異なり、第1の流路41aにのみ,液体導入口42とマイクロポンプ44が設けられ、液体導入口42に供給された第1の液体の送液に脈動を与えて送液できるようになっている。
【0055】
第2の流路41bには、矢印49で示すように、第2の液体を一定流量で注入することができるようになっている。例えば、第2の流路41bに、不図示の外付けのポンプやシリンジを接続したり、変形が可能なダイアフラムを適宜な手段(例えば、外付けアクチュエータによる押し込みや、ダイアフラムに貼り付けた形状記憶合金の薄板のバイメタル変形)で変形させて押し込むことによって、一定流量で送液する。
【0056】
液体の混合は、定常的に流れる第2の液体の流れに、マイクロポンプ44により脈動する第1の液体を、間欠的に割り込ませることにより行う。すなわち、交差部47において、第1の液体の塊と第2の液体の塊とが流路進行方向に交互に並んだ状態とし、第1実施形態と同様に、自発的拡散により混合させる。
【0057】
次に、第3実施形態の液体混合機構50について、図7の構成図を参照しながら説明する。
【0058】
液体混合機構50は、大略、第1実施形態と同様に構成される。すなわち、第1及び第2の流路51a,51bは、交差部57でX字状に交差し、それより下流側56が合流部58でY字状に合流し、合流流路51xに接続するようになっている。第1及び第2の流路51a,51bの端部には、液体導入口52a,52bがそれぞれ設けられている。
【0059】
一方、第1実施形態と異なり、矢印59で示すように、合流流路51x側から吸引することにより、液体導入口52a,52bに供給された第1及び第2の液体を送液するようになっている。例えば、合流流路51xに、不図示のシリンジやポンプを接続して吸引する。真空吸引や、毛細管力を利用して吸引してもよい。
【0060】
第1流路51aには、ダイアフラム54が設けられ、適宜な手段で振動させ、送液に脈動を与えるようになっている。ダイアフラム54は、例えば、ダイアフラムに圧電素子を貼り付けて変形させたり、静電吸引力で変形させたり、外付けの振動機構を取り付けたりして、送液に脈動を与える。ダイアフラム54は、液体に推進力を与える必要はなく、脈動を起こすだけでよいので、マイクロポンプに比べ、簡単な形状、構成とすることができる。
【0061】
なお、ダイアフラム54は、第1及び第2の流路52a,52bの両方に設けてもよい。この場合、脈動のタイミングを合わせる制御が必要となるが、混合の効率は向上するものと考えられる。
【0062】
また、合流流路51x側から吸引する代わりに、液体導入口52a,52b側から液体を押し出すようにしてもよい。
【0063】
次に、第4実施形態の液体混合機構60について、図8の構成図を参照しながら説明する。
【0064】
液体混合機構60は、第1実施形態から交差部37をなくした構成である。すなわち、液導入口62a,62b及びマイクロポンプ64a,64bがそれぞれ設けられた第1及び第2の流路61a,61bが、合流部66でY字状に合流し、合流流路61xに接続するようになっている。
【0065】
液体混合機構60を用いて混合する場合、第1実施形態と同様に、液体導入口62a,62bに供給した第1及び第2の液体をマイクロポンプ64a,64bの駆動により、合流部66で合流させる。このとき、例えば第1及び第2の液体が合流部66に逆位相で供給されるようにして、第1の液体の塊と第2の液体の塊とが流路進行方向に交互に並んだ状態とし、自発的拡散により混合させる。
【0066】
液体混合機構60は、再混合の効果を得られないが、形状が単純であるので、加工が容易であり、気泡が残存するという問題が起きにくい。
【0067】
なお、第2及び第3実施形態についても交差部47,57をなくし、合流部48,58のみで混合する構成とすることができる。
【0068】
次に、第5実施形態の液体混合機構70について、図9の構成図を参照しながら説明する。
【0069】
液体混合機構70は、第4実施形態を組み合わせたものであり、第1、第2及び第3の流路71a,71b,71cが、順次、合流するようになっている。すなわち、第1及び第2の流路71a,71bが合流部76aでY字状に合流し、前合流流路71sに接続する。前合流流路71sは、合流部76bで第3の流路71cとY字状に合流し、合流流路71xに接続するようになっている。第1、第2及び第3の流路71a,71b,71cの端部には、液導入口72a,72b,73c及びマイクロポンプ74a,74b,74cがそれぞれ設けられている。
【0070】
次に、第6実施形態の液体混合機構80について、図10の構成図を参照しながら説明する。
【0071】
液体混合機構80は、第1、第2及び第3の流路81a,81b,81cは、合流部86で一度に合流し、合流流路81xに接続するようになっている。第1、第2及び第3の流路81a,81b,81cには、それぞれ、液導入口82a,82b,83cとマイクロポンプ84a,84b,84cが設けられている。
【0072】
液体混合機構80は、液導入口82a,82b,83cにそれぞれ供給された第1、第2及び第3の液体を、マイクロポンプ84a,84b,84cの駆動により、少しずつ位相をずらして合流部86に送り込むことにより、第1、第2及び第3の液体の塊を流路進行方向に並べ、自発的拡散により混合させることができる。
【0073】
なお、平面的に流路を配置した場合、流路の数が増えると、合流部近傍は過密になる。そこで、流路がそれぞれ形成された複数枚の基板を積層し、各流路を貫通穴で連結すれば、より多くの種類の液体を1ヶ所に送り込んで混合することが可能である。
【0074】
次に、液体混合機構をマイクロチップに構成した例について、図13及び図14を参照しながら説明する。
【0075】
図13の斜視図に示したマイクロチップ20は、血球分離で得られた血液成分を、マイクロチップ20上で試薬と混合し反応させることにより、検査を行うことができる。
【0076】
マイクロチップ20は、流路21が形成されたシリコン基板20aの上下面に、透明なガラス板20bが接合されている。なお、マイクロチップ20は、樹脂等を用いて形成することもできる。
【0077】
マイクロ流路21は、第1流路21aと第2流路21bとが、交差部21xで交差した後、第3流路21cと合流するように形成されている。図示していないが、交差部21xや第3流路21cとの合流部の近傍部分の流路幅は、第1実施形態のように、その前後の流路の幅よりも狭くしてもよい。
【0078】
第2流路21bには、端部にフィルター受け部23aが形成され、中間位置にダイアフラム23bが形成されている。第1流路21aと第2流路21bとには、交差部21xの近傍に、流路断面が部分的に小さくなった撥水バルブ24a,24bがそれぞれ形成されている。第3流路21cの端部側には液貯め部23cが形成されている。
【0079】
上側のガラス板20bには、第1流路21aの端部に連通する試薬導入口25aと、フィルター受け部23aに連通する血液受け25bと、第3流路21cの端部に連通する吸引穴25cと、第1流路21aと外部を連通する大気連通口22aと、第2流路21bと外部とを連通する大気連通口22bとが、設けられている。
【0080】
試薬導入口25aには、適宜な試薬を導入する。導入された試薬は、毛細管現象により第1流路21aを進行し、先端が撥水バルブ24aに達すると停止する。
【0081】
血液受け25bには血球を分離するためのフィルターが装填される。このフィルターに全血を滴下すると、フィルターで血球が除去された血液成分が、毛細管現象により、第1流路21bを進行し、ダイアフラム23bを満たし、先端が撥水バルブ24bに達すると停止する。
【0082】
撥水バルブ24a,24bで停止している試薬と血液成分は、大気連通口22a,22bを閉じた状態で、吸引穴25cから不図示のシリンジ等により適宜な圧力で吸引することで、第3流路21cに導き、混合する。このとき、ダイアフラム23bを、適宜周期で押し込んで、血液成分に脈動を与える。
【0083】
そして、第3流路21c内の混合液の変化を検出する。例えば、不図示の光源(例えば、発光ダイオード)で第3流路21cに光を照射し、第3流路21cを透過した透過光、あるいは第3流路21cからの散乱光を、不図示の光検出器(例えば、フォトダイオード)で検出する。これにより、生化学的検査や血液凝固検査などの検査(APTT、PT、複合因子T、フェブリノーゲンなど)を行うことができる。
【0084】
例えば、マイクロチップ20の外形寸法は約20mm×40mm×0.5mmであり、流路21の幅は200μm、深さは約100μmである。もっとも、寸法・形状は、これに限るものではない。マイクロ流路21を、小さくすればするほど、使用する検体、試薬の量が減り、コスト削減、被検者への負担低減を図ることができる。
【0085】
次に、マイクロチップ20の製造工程について、図14を参照しながら説明する。
【0086】
図14(a)に示したように、シリコン基板400を用意する。シリコン基板400には、例えば厚さ200μmのシリコンウエハーを用いる。
【0087】
次に、図14(b)に示したように、シリコン基板400の上下面に、酸化膜410,412を形成する。酸化膜410,412は、例えば、それぞれの厚さが1.0μmとなるように、熱酸化により成膜する。
【0088】
次に、図14(c)に示したように、下面にポリシリコン膜420を成膜する。ポリシリコン膜420は、例えば厚さが30μmとなるように、エピタキシャルにより成膜する。
【0089】
次に、上面にレジストを塗布し、所定のマスクパターンを露光し、現像し、酸化膜410をエッチングする。そして、上面のレジストを剥離した後、再びレジストを塗布し、露光、現像、エッチングを行う。これにより、図14(d)に示したように、酸化膜410を完全に除去した部分416と、厚さ方向に途中まで除去した部分414を形成する。レジスト塗布には、例えばOFPR800などのレジストを用いスピンコーターで回転塗布し、レジスト膜の厚さは、例えば1μmとする。露光はアライナーにより行い、現像はデベロッパーにより行う。酸化膜のエッチングには、例えばRIEを用いる。レジストの剥離には、剥離液、例えば硫酸過水を用いる。
【0090】
次に、上面についてシリコンエッチングを途中まで行った後に、酸化膜414をエッチングにより完全に除去し、再びシリコンエッチングを行い、図14(e)に示したように、シリコン基板400を貫通する部分404と、途中まで除去された部分402とを形成する。シリコンエッチングには、例えば、ICP(高周波誘導結合型プラズマ、Inductively Coupled Plasma)を用いる。
【0091】
次に、上面の酸化膜410を、例えばBHFを用いて完全に除去する。そして、図14(f)に示したように、シリコン基板400の上面にガラス板430を貼り付ける。例えば、900V、400℃で、陽極接合する。
【0092】
マイクロポンプを備える場合には、図14(g)に示したように、ポンプ室の振動板の部分にPZTを接着する。
【0093】
次に、液体の混合のシミュレーション結果を、図11及び図12に示す。
【0094】
図12は、合流部のみで混合する場合のシミュレーション結果である。シミュレーションモデルは、第1の流路100と第2の流路102が、合流部の細い流路104,106で合流した後、合流流路108に接続する。細い流路106の幅は20μm、合流流路108の幅は200μmである。第2流路102には、第2の液体を、一定圧力500Paで供給する。第1の流路100には第1の液体130を、2000Pa、500HzでON/OFFすることにより、脈動させる。合流流路108には、バッファー液が予め満たされている。図12(a)〜(h)は、1msごとの流れの様子を示している。符号122は、バッファー液と第2の液体との境界である。液体は、細い流路106から合流流路108に入ると、大略傘状に広がり、薄い第1の液層132,134,136と第2の液層142,144,146が流路進行方向に交互に形成される。
【0095】
図11は、交差部と合流部とを用いて混合する場合のシミュレーション結果を示す。シミュレーションモデルは、第1の流路200に接続された細い流路204と、第2の流路(図示せず)に接続された細い流路202とが、交差部206で交差した後、口字状に折れ曲がり、合流部208で合流し、広い合流流路210に接続する。合流流路210には、バッファー液が予め満たされている。図11(a)〜(d)は、5msごとの流れの様子を示している。第1及び第2の液体は、交差部206、合流部208を通り、合流流路210に流れ込んだときには、それぞれの液層が薄すぎて、既に混合している。
【0096】
以上説明したように、液体混合機構は、少なくとも2液以上の液体を同時に混合できる。脈動を利用して混合することにより、流路進行方向に非常に薄い液体の拡散層を多数形成するので、拡散混合が桁違いに短時間で終了する。例えば、比較的大きなフェブリノーゲンを100μm幅の流路の幅方向で拡散混合させるための時間は、約2000秒と計算される。これが、流路進行方向の薄い層(2μm)を拡散混合させるための時間は、約0.8秒と計算される。
【0097】
また、流路進行方向の拡散を使用するので流路幅を狭める必要がなく、流路抵抗の上昇による送液の負担が軽減される。すなわち、ポンプの発生圧力を大きくしたり、高圧に耐えるように構成を大きくする必要がない。
【0098】
また、液体混合機構の構成が比較的簡単であり、一つの基板上に平面的に形成でき、部品点数が少ない。
【0099】
それぞれの液の送り量を駆動波形によって制御するので、それぞれの液の送り量を任意に変えることができ、混合比も任意に設定することができる。また、時間によって混合比率を任意に変えることもできる。
【0100】
また、マイクロポンプはパルス群を組み合わせることで駆動してもよい。すなわち、図15(a)に示すように、ポンプAにはパルス列Paを、ポンプBにはパルス列Pbを交互に与えて駆動する。この駆動パルス群は電圧のon/offの集合であり、そのパルス形状、パルス電圧、パルス数によってポンプの動きを制御する。このような駆動制御をすることによって、液供給の高精度化・自由度の拡大が可能になる。
【0101】
図15(a)のように、ポンプAとポンプBに同じ形状、電圧、数のパルス群を与えた場合、各ポンプから供給される液は1:1になる。パルスの形状または電圧または数のいずれかあるいはいくつかを組み合わせたものを変えることによって、液の混合比率を任意に制御することができる。
【0102】
また、図15(b)のように、ポンプAをパルス列Paで脈動させ、ポンプBを整流ポンプとすることで、脈動と整流による2液の混合を実現できる。
【0103】
さらには、液の送り量を適宜に制御することで、交差部又は合流部より下流側に、濃度勾配、pH勾配等を持った溶液を作ることができる。これにより、例えば濃度やpH等の条件を変えた化学反応を一度に行うことができ、効率的である。
【0104】
なお、本発明は上記各実施形態に限定されるものではなく、その他種々の態様で実施可能である。
【0105】
例えば、液体混合機構は、マイクロチップに限らず、種々の態様で構成することができる。
【0106】
なお、上述した具体的実施形態には、以下の発明が含まれる。
(1) 交差部又は合流部で交差又は合流する微小な第1及び第2の流路に、それぞれ第1及び第2の液体を流す第1のステップと、
上記交差部又は合流部において、上記第1の液体と第2の液体を交差又は合流させる第2のステップとを備え、
上記第1のステップにおいて、上記第1及び第2の液体の少なくとも一方を脈動させることを特徴とする、液体混合方法。
(2) 上記第2のステップにおいて、上記第1の液体と第2の液体を交差又は合流させる部分の流路直角方向の断面積が、その前後の流路の流路直角方向の断面積よりも小さいことを特徴とする、上記(1)記載の液体混合方法。
(3) 上記第1ステップにおいて、上記第1及び第2の液体の少なくとも一方は、1回あたり、上記交差部又は合流部の容積の1/5倍以上で、その前後の流路幅に対して十分小さくなる量を脈動させることを特徴とする、上記(1)記載の液体混合方法。
(4) 上記第1ステップにおいて、上記第1及び第2の液体は、上記交差部又は合流部において、略逆位相で交差又は合流することを特徴とする、上記(1)記載の液体混合方法。
(5) 上記第1のステップにおいて、上記第1及び第2の液体のいずれか一方が脈動し、他方が整流であることを特徴とする、上記(1)記載の液体混合方法。
(6) 上記第2ステップにおいて、上記第1及び第2の液体を交差させた後に、再び合流させることを特徴とする、上記(1)記載の液体混合方法。
(7) 上記第1ステップにおいて、上記第1及び第2の流路の少なくとも一方の上記交差部又は合流部より上流側に設けたマイクロポンプにより、上記第1及び第2の液体の少なくとも一方を脈動させることを特徴とする、上記(1)記載の液体混合方法。
(8) 上記第1ステップにおいて、上記第1及び第2の流路の少なくとも一方の上記交差部又は合流部より上流側に設けたダイアフラムにより、上記第1及び第2の液体の少なくとも一方を脈動させることを特徴とする、上記(1)記載の液体混合方法。
【図面の簡単な説明】
【0107】
【図1】チャンネル幅と拡散時間及び比界面積の関係を示すグラフである。
【図2】本発明の第1実施形態に係る液体混合機構の構成図である。
【図3】マイクロポンプの構成図である。
【図4】図3の線IV−IVに沿って切断したマイクロポンプの断面図である。
【図5】マイクロポンプの駆動流量を示すグラフである。
【図6】本発明の第2実施形態に係る液体混合機構の構成図である。
【図7】本発明の第3実施形態に係る液体混合機構の構成図である。
【図8】本発明の第4実施形態に係る液体混合機構の構成図である。
【図9】本発明の第5実施形態に係る液体混合機構の構成図である。
【図10】本発明の第6実施形態に係る液体混合機構の構成図である。
【図11】液体混合機構の流れのシミュレーション結果である。
【図12】液体混合機構の流れのシミュレーション結果である。
【図13】液体混合機構を含むマイクロチップの斜視図である。
【図14】マイクロチップの製造工程図である。
【図15】マイクロポンプの駆動波形図である。
【符号の説明】
【0108】
20 マイクロチップ
21a 第1の流路
21b 第2の流路
21c 第3の流路(合流部)
21x 交差部
30 液体混合機構
31a 第1の流路
31b 第2の流路
34a,34b マイクロポンプ
37 交差部
38 合流部
40 液体混合機構
41a 第1の流路
41b 第2の流路
44 マイクロポンプ
47 交差部
48 合流部
50 液体混合機構
51a 第1の流路
51b 第2の流路
54 ダイアフラム
57 交差部
58 合流部
60 液体混合機構
61a 第1の流路
61b 第2の流路
64a,64b マイクロポンプ
66 合流部
70 液体混合機構
71a,71b,71c 流路
74a,74b,74c マイクロポンプ
76a,76b 合流部
80 液体混合機構
81a,81b,81c の流路
84a,84b,84c マイクロポンプ
86 合流部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
それぞれ細幅部と太幅部とを備える微小な第1及び第2の流路を備え、上記第1の流路を流れる第1の液体と上記第2の流路を流れる第2の液体とが上記細幅部で交差又は合流して混合する液体混合機構において、
上記第1及び第2の液体の少なくとも一方が、上記細幅部に、脈動しながら送液されることを特徴とする、液体混合機構。
【請求項2】
上記細幅部の流路直角方向の断面積が、前記太幅部の流路直角方向の断面積よりも小さいことを特徴とする、請求項1記載の液体混合機構。
【請求項3】
上記第1及び第2の液体は、上記細幅部において、略逆位相で交差又は合流することを特徴とする、請求項1記載の液体混合機構。
【請求項4】
上記第1及び第2の流路の少なくとも一方の上記細幅部より上流側に、ダイアフラムを備えたことを特徴とする、請求項1記載の液体混合機構。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【公開番号】特開2008−238168(P2008−238168A)
【公開日】平成20年10月9日(2008.10.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−104893(P2008−104893)
【出願日】平成20年4月14日(2008.4.14)
【分割の表示】特願2006−1560(P2006−1560)の分割
【原出願日】平成14年1月31日(2002.1.31)
【出願人】(000001270)コニカミノルタホールディングス株式会社 (4,463)
【Fターム(参考)】