説明

液体量を吸引するための、特に液体クロマトグラフィ装置を使って分析する試料を採取するための方法と装置

【課題】
【解決手段】
本発明は、液体量を吸引するための、特に液体クロマトグラフィ装置を使って分析する試料を採取するための方法に関するものであり、そこでは吸引する液体量を含む液体が容器7,75に用意されており、その容器は封止部材72,71;76,761を使って封止されており、その封止部材は少なくとも部分範囲がフレキシブルで採取針を使って貫通自在の材料で出来ており、規定の液体量を吸引するために、採取針の吸引開口部が液体中に充分に浸かるまで採取針6がフレキシブル材料で出来た部分範囲を突き刺し、そして規定の液体量が吸引される。本発明によれば、容器7,75内の液体量を採取することにより発生する負圧を避けるために、採取針6の長手軸に基本的に直角な方向における採取針6と容器7,75間で相対移動動作を行うことにより、封止部材72,71;76,761のフレキシブル材料の所で、フレキシブル材料を貫通することによりつくった開口部9を拡張して、採取針6の外壁部と拡張した開口部9の内壁部の間で、容器内容と周囲間の完全な又は部分的な圧力バランスを可能にするようにしている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液体量を吸引するための、特に液体クロマトグラフィ装置を使って分析する試料を採取するためのもので、特許請求項1のプレアンブルの特徴を有する方法に関するものである。さらに本発明は、その方法を実施するための特許請求項6による装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
本発明は液体クロマトグラフィの分野に対して特に意味があり、更には特に高速液体クロマトグラフィ(High Performance Liquid Chromatography、HPLC)に対して意味がある。HPLCでは混合物質がクロマトグラフィのカラムでその構成成分に分離されるので、これを分析または更に処理を行うことができる。液体クロマトグラフィ用に液体形態または溶融形態でなければならない多数の試料を自動的に分析するために、自動式インジェクターを使用し、それが試料、即ち決められた液体量を多数の試料容器から次々と取り出して、これを分析システムに従うラインに供給する。そのようなインジェクターは例えば、特許文献1および特許文献2で開示されている。
【0003】
そのようなインジェクターの基本となる作動方法は、本発明を理解するために重要であるので、以下において例で説明する。図1は、公知のインジェクターの基本的な構成要素を、簡略化して概略的に示している。
【0004】
ポンプ(図示せず)から送られる液体流は、流入キャピラリー1を通ってインジェクターに到達し、6ポート切り替えバルブ2を通過し、そして流出キャピラリー5を介してインジェクターから出て行く。分析する試料は試料容器7にあり、それから採取針または試料針6を介して取り出すことができる。それぞれ決められた位置に試料容器7を収容して固定するために、試料容器7用に概略的に図示した収容ユニット10を設けている。収容ユニットには、採取針6の長手軸に基本的に直角な面内で採取針6に対して相対的に、個々の試料容器7を位置決めするための駆動装置、およびそれに適した機構を含むことがある。この代替方法を図1で、収容ユニット10の駆動装置を制御する制御ユニット12の間にある点線矢印により明示している。図1で示しているように制御ユニット12は、試料容器7と採取針6間のアキシャル方向の相対的な移動動作を可能にするために、詳細に図示していないが採取針6をアキシャル方向位置決めするための駆動装置を制御することもある。この二つの駆動装置により実現できる、採取針6の長手軸の方向および基本的にこれに直角な面(または方向)における試料容器7ないし収容ユニット10と採取針6の相対的移動動作を、図1において矢印IとIIで示している。よって採取針6はまず、いずれかの任意の試料容器7の上方に位置し、続いてこの中に浸ける又は突き刺すことができ、それによりその試料を採取する。勿論、収容ユニット10と採取針6間の相対移動動作の実現は、採取針6だけ又は収容ユニット10だけを適切な制御自在の駆動装置を使って、アキシャル方向およびこれに直角な面内で移動自在とすることによってもできる。いずれの場合も、複数の試料容器7の所に個別に動いていき、そこに採取針6を漬けられるようにするためには、少なくとも二つの移動動作軸が必要である。
【0005】
切り替えバルブ2は、二つの切り替え状態を備えている:図1で図示している状態を、以下においてはポジション1−2と呼ぶことにし、ポートはそれぞれ、1と2、3と4、そして5と6が繋がっている。第二状態をポジション6−1と呼ぶことにし、そこでポートは、2と3、4と5、そして6と1が繋がっている。ポジション1−2では流入キャピラリー1が、流出キャピラリー5と直接繋がっている。さらに、シリンジ4、試料ループ3、接続キャピラリー8、および採取針6が順に繋がっている。
【0006】
まず、切り替えバルブ2がポジション6−1にある、すなわちシリンジ4は接続キャピラリー8を介して直接、採取針6と繋がっている。そのとき、流入キャピラリー1を介して入り込む液体流は、試料ループ3を介して流出キャピラリー5に導かれる。採取針6が試料容器7に浸かっている間に、同じく制御ユニット12により制御自在で構成されていることがあるシリンジ4を使った吸引により、当該試料容器7から規定の液体量を採取することができる。この液体量は、切り替えバルブ2に達するように、接続キャピラリー8を通じて吸引できる。引き続いて切り替えバルブ2をポジション1−2に切り替えると、それにより試料ループ3がシリンジ4と接続キャピラリー8間の経路に存在するようになる。シリンジを使って更に吸引することにより、事前に設定された正確な量の試料を試料ループ3に吸引できる。切り替えバルブをポジション6−1に切り替えることにより、引き続いて試料ループは再び、流入キャピラリー1と流出キャピラリー5間の経路に切り替えられるので、サンプル材料は液体流に接続され、そして流出キャピラリー5を介してインジェクターから出て行く。
【0007】
試料を液体流に入れることをインジェクションと呼ぶ。ここで記述した方法により、調べる試料を任意の順序でインジェクションすることができる。
【0008】
従来技術によるインジェクターの基本的な作動方法は、大抵のケースで上記の基本原理に相当している。この原理から導き出されて従来技術による色々な変形体があり、その場合に例えば、採取針と付属する針座が試料ループの構成部品となっている。それにより、試料液体と関係を簡単にできる。この種の多様な変形体ついての詳細な説明は行わない。しかしながら、本発明は意味的に同様な方法でこれらの変形体にも適用できる。
【0009】
図1で示すように開放された試料容器を使用する場合には、試料物質ないし溶媒の蒸発を招く。それにより試料物質および/または溶媒がなくなり、そして溶液中の試料の濃度が変化する。その他にも試料が周囲の空気と接触することにより、試料において望まない変化(例えば酸化)または汚染を招くことにもなる。よって多くの場合に、封止された試料容器を使用する。
【0010】
封止部材は通常、軟らかい弾性材料で出来ており、セプタム(隔膜)と呼ばれる。この種の封止部材は、例えば特許文献3に記載されており、試料採取するために採取針6により簡単に突き抜くことができ、続いて自動的に再び充分に密封するという利点を有している。よって、試料容器を開閉するための手間のかかるメカニズムは不要である。
【0011】
図2は、この種の封止試料容器の二つの例を示している。図2aは、個々の試料液体を収容するための個別試料容器7を図示している。図1による収容ユニット10には、多数のこの種の個別試料容器7が決められた位置で収容されていることがある。
【0012】
図2aによる個別試料容器7ではセプタム71は、中央に貫通穴を有するキャップ72により保持されており、セプタム71がフリーになっている。よってセプタム71は、キャップ72の貫通穴の範囲で採取針6が貫通できる。
【0013】
代替として、図2bによる多連試料容器75、いわゆるウエルプレートを使用することが増えており、そこでは個々の試料液体を収容するために、凹み(いわゆるウエル)751を設けている。この場合の封止は、段付きマットまたは段付きプレート76を介して行い、その段部761がそれぞれ凹み751に押し込まれ、当該凹みの開口部を封止する。ウエルプレートや段付きマットを使用する利点は、多量の試料液体を小さい空間に収容できること、および個々の試料容器の取り扱いが不要となることである。
【0014】
セプタム71だけでなく段付きマット76も、弾性材料で出来ている。
【0015】
試料採取のためには、採取針6をセプタム7(訳注:番号71と思われるが原文のまま)ないし当該段部761に突き刺す。そのとき、採取針6が試料容器7ないし凹み751の中にある時には、それを基本的に密封して取り囲むように、弾性材料を構成している。よって吸引過程中には、採取する試料量に対して周囲の空気が流れ込まない、すなわち試料容器内に負圧が形成される。試料容器が初めに一杯であればあったほど、あるいは封じ込められた気体量が少なければ少なかったほど、そして吸引する試料液体が多ければ多いほど、その負圧が大きい。
【0016】
試料液体には通常、気体、例えば空気中の酸素が少ないながらも確実に溶融しているので、負圧により気泡が形成することがある。さらに負圧により試料液体の沸点が降下するので、特に揮発性の溶媒では試料液体が沸騰することがある。負圧は全体吸引システムに当て嵌まるので、この影響は試料容器7ないし75だけでなく、シリンジ4、切り替えバルブ2、試料ループ3、接続キャピラリー8、または採取針6でも起きることがある。
【0017】
いずれにしても気泡の形成は、実際に吸引される試料の量が明らかに減少するという結果になる。その他に、採取針が試料容器を離れると圧力がバランスするようになる、すなわち吸引経路で発生した気泡が集結し、空気が流れる。
【0018】
以上の二つが、再現出来ない又は誤差のある分析結果を招く。この理由から、あらゆる状況において気泡の形成を防がねばならない。
【0019】
本来必要なものより明らかに大きな試料容器を使用することにより、負圧の構成に対抗することが公知である。そして、吸引する液体量と較べて残留体積(気体体積)が遙かに大きいように、これを満たす。それにより試料液体以上に気体体積があり、それが試料量の吸引過程中に緩み、よって負圧の発生に抗することになる。
【0020】
従来技術による別の解決手段は、試料採取時の吸引速度を大きく減らすことにある。それにより、針とセプタムないし試料容器間で常に存在する僅かな密封不良により流れ込むことができるので、気泡形成のリスクが著しく減少する。
【0021】
従来技術によるこの解決手段は、より大きな試料容器を使用せねばならず、それによりスペース当たりに装備できる容器収容数が減るか、あるいは吸引速度を著しく下げねばならず、それにより吸引過程が非常に長く続き、システムが相当して能力が減るのいずれかであるので、結果として実際的には欠点がある。その他に、より小さい量であるとしても負圧が発生するので、この方法で問題が解決されるのは部分的のみである。
【0022】
さらに、採取針の特別な構成により圧力バランスを可能にする解決手段が公知である。この解決手段では、採取針自体に追加の通気路が含まれているか、あるいは採取針の形状を、採取針がセプタムを突き刺す場所で空気の流入を可能にするようにしている。
【0023】
この解決手段は、複雑な形状で肉太の採取針を必要とする。これは非常に工数がかかることに加えて、セプタムを突き刺すために大きな力が必要であり、それが基本的に大きなセプタムの摩耗を招くので、同じく結果として実際的には欠点がある。さらにこの種の針は、付着した残留試料を完全に除くのが難しく、よって次の試料で分析結果のエラーを招くことがある。
【0024】
【特許文献1】US4,242,909号公報
【特許文献2】US4,713,974号公報
【特許文献3】US6,752,965号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0025】
よって本発明の課題は、液体量を吸引するための、特に液体クロマトグラフィ装置を使って分析する試料を採取するための方法を得ることであり、その方法では、場合により試料容器の充満状態、吸引する試料の量、あるいは吸引速度が制限されることを受忍する必要なく、試料吸引中における試料容器内の負圧を回避するものである。同時に本発明による解決手段は結果として、セプタム摩耗の増加または試料持ち出しの増加のような、望まない副次作用を招かないものである。さらに本発明が根拠にする課題は、その方法を実施するための装置を得ることである。
【課題を解決するための手段】
【0026】
この課題を、特許請求項1ないし6に記載の特徴により解決する。
【0027】
本発明は、吸気過程中に試料容器への空気の流入を可能にすると、試料容器で問題になるような負圧が発生することがない、という見識を前提にしている。さらに本発明が根拠にする考えは、試料吸引中のセプタムの密封効果はその弾力性に基づいており、密封効果を少なくとも一時的に中断して試料容器の内部と周囲間での圧力バランスを可能にするために、この弾性力を利用することである。
【0028】
(セプタムの)フレキシブルな材料を突き刺した後、すなわち採取針が試料容器中にある間に、採取針と試料容器を僅かな量だけお互いに相対的に動かすことにより、その移動動作を適切に選ぶと、セプタムにある穴は採取針により幾分拡張する。それにより、採取針の他に空気が試料容器の中に入ることができ、よって圧力バランスが起きる。結果として量の多い吸引でも、試料容器内に負圧が形成されることにはならず、そして気泡の発生が避けられる。
【0029】
本発明の実施形態によれば、採取針の長手軸に対して基本的に直角な方向に、容器および採取針をお互いに相対的に動かす。この種の移動動作は、公知のインジェクターで既に装備のハードウエアを使って実現できる。実現するために必要なことは、単数または複数の駆動装置の制御を合わせることのみであるが、それは主として簡単なソフトウエアまたはファームウエアの変更により可能である。
【0030】
本発明の実施形態によれば、容器内容と周囲間の圧力差の絶対値に対する規定のシキイ値を示す、または検知される時に初めて、相対移動を行うことにより圧力バランスが可能になる。
【0031】
例えば、相対移動を行うことによる圧力バランスが、液体量の吸引開始後または規定の部分量の吸引後の、規定時間経過後に可能になるようにすることがある。
【0032】
また、フレキシブル材料を突き刺す時にまず、突き刺し過程によりフレキシブル材料が内方に彎曲することにより容器内部の体積減少が生じ、そしてその体積減少に相当する部分体積が吸引されたときに初めて、相対移動を行うことによる圧力バランスが起きるようにできる。
【0033】
液体量を吸引するための、特に試料を採取して液体クロマトグラフィ装置に供給するための本発明による装置が公知の装置と異なるといえるのは、容器内部と周囲間の圧力バランスすることが可能となるように、採取針および単数または複数試料容器用収容ユニットを動かす単数または複数の駆動装置を制御して、突き刺し後に収容ユニットと採取針間の相対移動動作を行うように制御ユニットを構成していることのみである。
【0034】
実務で一般的であるように、制御ユニットがマイクロプロセッサー回路および制御ソフトウエアを有していると、本発明による解決手段は、ソフトウエアまたはファームウエアの変更の範疇で、簡単且つコスト的に有利な方法で既に存在する装置に一体化することができる。
【0035】
本発明の別の実施形態は、従属請求項から分かる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0036】
以下において本発明を、図面で図示している図を使って詳細に説明する。
【0037】
図3は、試料量ないし液体量を採取するために採取針6を突き刺している試料容器7、または75の封止部材におけるセプタム71の範囲で、採取針6をとおる概略的断面の上部外観を大きく拡大した図を示している。そこで図3は、図2によるセプタム71ないし図2aによる段付きマット76の段部761のフレキシブル材料に採取針を突き刺した後に、個別または多連試料容器7ないし75用の収容ユニットを、採取針の長手軸に基本的に直角な方向に相対移動したときに得られる状態を示している(図3の矢印は、セプタム7ないし当該段部761に対する採取針6の移動動作を示している)。移動動作経路が充分に大きいときは(採取針の移動方向で見て)採取針6の後方に、セプタム71ないし段部761のフレキシブル材料に概ね三日月形状の開口部9ができ、それを通って周囲の空気が試料容器7ないし75の内部に到達できる。それにより、容器7ないし75の内部と周囲の間で圧力バランスを行うことが可能になる。
【0038】
本発明による移動動作を実施するためには、図1で図示している公知のインジェクターに備えられているハードウエアを利用できるが、これは異なった多数の試料容器の所に移動するように設計されており、それにより採取針6の軸に直角な移動動作が可能であるからである。
【0039】
以上で可能になった圧力バランスにより、試料容器の充満状態、吸引量、または吸引速度に関して制限を受けることなく、規定の液体量を気泡なしで吸引できる。吸引速度は、関係する流動成分の流動抵抗によってのみ制限される。
【0040】
本発明による方法を実施するために、公知のインジェクターと対比して追加の構成部品を必要としないが、それは、概して種々の試料を採取出来るようにするために、移動動作に必要な機構をインジェクターに備えている筈だからである。本方法を適用するために試料容器のセプタムの側で必要なことは、充分な弾力性のみである。しかしこの弾力性は、セプタムが自己の任務、すなわち液体量の採取後に試料容器を再び封止することを満たすために、実際において必要なものである。
【0041】
よって本発明による方法は、問題となるような追加工数が発生することなく、任意の、また現存のインジェクターとセプタムにも適用できる。正しい時点に移動動作を行うように、インジェクターのソフトウエアないしファームウエアを適合させる必要があるのみである。
【0042】
採取針が充分な安定性を有していない場合には、簡単な方法で対応する安定した針と交換できる。
【0043】
移動動作は、充分に大きな開口部9が得られるような量でなければならない。そのときに、採取針6が不必要に大きく撓むことを避ける必要がある。よって移動動作を、以下に記述する影響要因を考慮して最適化せねばならない。
【0044】
セプタム71ないし段付きマット76の段部761は移動動作により、完全に開口部9が生じる前にまず広い面積で変形する。移動動作経路を確定するときに、これを考慮せねばならない。その他に考慮せねばならないことは、個別試料容器7ないし多連試料容器75(ウエルプレート)が、収容ユニット10の保持部の中で一般的にスキマを有しているので、移動動作により幾分逸れる又は転倒することがあることである。さらに、採取針6に作用する力が針の撓みを招く。
【0045】
この影響を図4では、明確にするために誇張して図示している。収容ユニット10の収容切り取り部771内での移動動作により、試料容器7が傾いており、そして採取針6はそのホルダー61に対して撓んでいる。
【0046】
これは、三日月形状の開口部9をつくるための本来の値と較べて、移動動作量を大きくすることにより調整できる。実際に必要な移動動作量は、実験的に簡単に決めることができる。そのためには、出来るだけ一杯充満した試料容器と大きな吸引量で、異なった移動動作によるテストを実施するしかない。本発明の効果を達成するために移動動作量が充分であるかどうかは、更に以下で示すようにクロマトグラフの評価により簡単に分かる。
【0047】
市場で一般的なインジェクター、採取針、試料容器、セプタムを使用するとき、移動動作量は通常、1〜2mmのレベルが目的に適っている。構成部品の形式により0.1mm〜5mmの範囲で、更に大きい又は小さい移動動作量が必要なことがある。
【0048】
圧力バランスは、いずれの場合も液体量に対する吸引過程の最初に既に可能とする必要はない。というのは、吸引過程が始まる前に採取針6が、セプタム71ないし段部761を突き刺す。その時にセプタム71ないし段部761は、下方に向かって撓む。採取針6とセプタム71ないし段部761間の摩擦により、この撓みは貫通後も保持されたままであり、容器の内部が小さくなることにより過圧を発生させる。採取針6により押し込まれた体積も同じく過圧になる。この過圧は液体量の吸引を助けるので、寧ろ好ましいものであることがある。
【0049】
しかしながら、本発明による移動動作で生じた開口部9は、この過圧が早期になくなることに至るであろう。これを避けるために移動動作を、セプタムの貫通直後ではなく、過圧が既になくなっているような量を吸引された吸引過程の開始直後に実施すると目的に適っていることがある。
【0050】
本発明による方法の有効性を、クロマトグラフ測定を使って確認した。試料吸引時に負圧問題ないし気泡が生じるとき、これは、まずインジェクトされる試料の量の変化、それによりクロマトグラフのピーク面の変化に至り、大きな気泡では誤差が大きく評価できないクロマトグラフとなる。
【0051】
よってインジェクターを使って、それぞれ特定量のカフェインをインジェクトし、ディテクターでの信号変化を評価した。試料容器はそれぞれ殆ど完全に充満していた。
【0052】
図5aは、圧力バランスの可能性なしで、前後して続く11回の測定によるクロマトグラフを示している。得られたのは部分的に大きく異なる信号変化であり、それは気泡の形成および後に吸引された空気とその注入を示唆している。以上の測定結果は、普通に行われている自動的な評価方法のためには使用できないであろう。
【0053】
図5bも同じく、図5aで記録したのと同一の条件における11のクロマトグラフを示しているが、前述の圧力バランスが可能な場合である。そして得られたカーブは予想する変化に相当しており、すべてが正確に重なり合っている。結果として、非常に良好なクロマトグラフの再現性と測定精度が達成される。
【0054】
別の測定では、類似の良好な結果を得るためには、圧力バランスを行わないと吸引速度を10倍延長せねばならないであろうことが分かった。
【0055】
この結果は、本発明を適用することにより、インジェクター性能の基本的な改善を達成できることを示している。
【図面の簡単な説明】
【0056】
【図1】液体クロマトグラフィ用のインジェクターで、本発明を理解するために基本的な構成要素の概略的図示。
【図2a】液体クロマトグラフィ用の個別試料容器の概略的図示。
【図2b】液体クロマトグラフィ用の多連試料容器の概略的図示。
【図3】セプタムを貫通する採取針をとおる概略的断面図。
【図4】収容ユニットに収容されている個別試料容器の概略的側面外観図。
【図5a】気泡を含有する試料液体の場合のクロマトグラフ。
【図5b】気泡を含有しない試料液体の場合のクロマトグラフ。
【符号の説明】
【0057】
1 流入キャピラリー
2 切り替えバルブ
3 試料ループ
4 シリンジ
5 流出キャピラリー
6 採取針
7 試料容器
8 接続キャピラリー
9 開口部
10 収容ユニット
12 制御ユニット
61 ホルダー
71 セプタム
72 キャップ
75 多連試料容器、ウエルプレート
76 段付きマット、段付きプレート
771 収容切り取り部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
液体量を吸引するための、特に液体クロマトグラフィ装置を使って分析する試料を採取するための方法であって、
(a)吸引する液体量を含む液体が、容器(7,75)に用意されており、
(b)その容器が、封止部材(72,71;76,761)を使って封止されており、その封止部材が少なくとも部分範囲で、フレキシブルであり採取針を使って突き刺し可能である材料で出来ており、
(c)規定の液体量を吸引するために、採取針(6)の吸引開口部が液体中に充分深く浸かるまで、採取針がフレキシブル材料で出来た部分範囲を貫通して突き刺し、
(d)そこで、規定の液体量を吸引する
方法において、
(e)容器(7,75)にある液体量を採取することにより発生する負圧を回避するために、採取針(6)の長手軸に対して基本的に直角な方向で、採取針(6)と容器(7,75)の間で相対移動動作を行い、
(f)それにより、封止部材(72,71;76,761)のフレキシブル材料においてフレキシブル材料を貫通することによりつくった開口部(9)を拡張して、採取針(6)の外壁部と拡張した開口部(9)の内壁部の間で、容器内容と周囲間の完全な又は部分的な圧力バランスを可能にするようにしている
ことを特徴とする方法。
【請求項2】
請求項1に記載の方法において、
容器(7,75)と採取針(6)が、採取針(6)の長手軸に対して基本的に直角の方向で、お互いに相対的に移動動作することを特徴とする方法。
【請求項3】
請求項1または2に記載の方法において、
容器内容と周囲間の圧力差の絶対値に対する規定のシキイ値を示す、または検知される時に初めて、相対移動を行うことにより圧力バランスが可能になることを特徴とする方法。
【請求項4】
前記請求項のいずれかに記載の方法において、
相対移動を行うことによる圧力バランスが、液体量の吸引開始後または規定の部分量の吸引後の、規定時間経過後に可能になることを特徴とする方法。
【請求項5】
前記請求項のいずれかに記載の方法において、
フレキシブル材料を突き刺す時に容器(7,75)の容積減少が生じること、および基本的にその容積減少に相当する部分体積量が吸引された時に初めて、相対移動を行うことによる圧力バランスが起きることを特徴とする方法。
【請求項6】
液体量を吸引するための、特に試料を採取して液体クロマトグラフィ装置に供給するための装置であって、
(a)吸引する液体量を含む液体を収容している少なくとも一つの容器(7,75)を収容するための収容ユニット(10)を備えており、
(b)容器(7,75)が、少なくとも部分範囲がフレキシブルであり採取針を使って貫通できる材料で出来た封止部材(72,71;76,761)を使って封止されており、
(c)採取針(6)をアキシャル方向で動かす、および/または基本的に採取針(6)の長手軸の方向に収容ユニット(10)を動かすための駆動装置を備えており、
(d)収容ユニット(10)を動かすための駆動装置を備えており、および/または採取針(6)の長手軸に対して基本的に直角な面で採取針(6)を動かすための駆動装置を備えており、
(e)駆動装置を制御するための制御ユニット(12)を備えており、その制御ユニット(12)が駆動装置を制御して、
(i)まず採取針(6)の長手軸に対して基本的に直角な面において、収容ユニット(10)と採取針(6)間の相対移動動作を行うことにより、フレキシブル材料製の容器封止部材(72,71;76,761)の範囲の上方に採取針(6)の先端を位置決めして、
(ii)続いて収容ユニット(10)との間でアキシャル方向の相対移動を行うことにより採取針(6)を、採取針(6)の吸引開口部が液体中に充分に深く浸かるまで、フレキシブル材料で出来た部分範囲を突き刺し、そして
(f)そこで制御ユニットが引き続いて、吸引する液体量を吸引するために吸引装置(4)を作動する
装置において、
(g)フレキシブル材料製の範囲を貫通した後に制御ユニット(12)が、採取針(6)の長手軸に対して基本的に直角な面において採取針(6)と収容ユニット(10)間の相対的移動動作を行う単数または複数の駆動装置を制御して、
(i)封止部材のフレキシブル材料でフレキシブル材料を貫通してできた開口部を拡張して、採取針の外壁部と拡張した開口部(9)の内壁部の間で、容器内容と周囲間の完全な又は部分的な圧力バランスを可能にする(訳注:項目番号iを使っているがiiはない)
ことを特徴とする装置。
【請求項7】
請求項6に記載の装置において、
容器(75)が、それぞれの液体用に多数の収容容量部(751)を有していること、および収容容量部の開口部が共通の封止手段(76)を使って封止自在であることを特徴とする装置。
【請求項8】
請求項6に記載の装置において、
封止手段が段付きマットまたは段付きプレート(76)である、またはそのようなものを含んでおり、そのとき段付きマットまたは段付きプレート(76)の段部(761)それぞれが、収容容量部(751)で封止する開口部に嵌り込む、またはこれを封止することを特徴とする装置。
【請求項9】
請求項6〜8のいずれかに記載の装置において、
制御ユニット(12)が、採取針(6)の長手軸に対して基本的に直角な面において採取針(6)と収容ユニット(10)間で、相対的移動動作を行う単数または複数の駆動装置を制御して、請求項2〜5のいずれかに記載の方法を実施することを特徴とする装置。
【請求項10】
請求項6〜9のいずれかに記載の制御ユニットにおいて、
制御ユニット(12)が、採取針(6)と収容ユニット(10)用の駆動装置を制御するマイクロプロセッサー回路、およびそのためのソフトウエアまたはファームウエアを含んでいることを特徴とする制御ユニット。
【請求項11】
データキャリアに搭載された請求項10に記載の制御ユニット用のソフトウエアまたはファームウエア

【図1】
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【図2a】
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【図2b】
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【図3】
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【図4】
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【図5a】
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【図5b】
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【公表番号】特表2009−526974(P2009−526974A)
【公表日】平成21年7月23日(2009.7.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−554587(P2008−554587)
【出願日】平成19年2月2日(2007.2.2)
【国際出願番号】PCT/DE2007/000190
【国際公開番号】WO2007/093150
【国際公開日】平成19年8月23日(2007.8.23)
【出願人】(506203811)ディオネクス ゾフトロン ゲーエムベーハー (7)
【氏名又は名称原語表記】DIONEX SOFTRON GMBH
【住所又は居所原語表記】Dornier−strasse 4,82110 Germening(DE)
【Fターム(参考)】