説明

液冷ジャケットおよびその製造方法

【課題】ボルト締結に耐えうる強度を確保できる液冷ジャケットを提供する。
【解決手段】熱輸送流体が流れる凹部11を有するジャケット本体10に、凹部11の開口部を封止する封止体30をボルト締結して構成される液冷ジャケット1において、ジャケット本体10および封止体30は、ボルト締結用の貫通孔17,37が形成された周縁部16,33を備え、ジャケット本体10および封止体30の少なくとも一方は、被冷却体との接触面32を有する放熱部31を備えており、周縁部33の材質強度が、放熱部31の材質強度よりも高くなるように構成したことを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液冷ジャケットおよびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、パーソナルコンピュータに代表される電子機器は、その性能が向上するにつれて、搭載されるCPU(熱発生体)の発熱量が増大し、CPUの冷却が益々重要になっている。従来、CPUを冷却するために、空冷ファン方式のヒートシンクが使用されてきたが、ファン騒音や、空冷方式での冷却限界といった問題がクローズアップされるようになり、次世代冷却方式として、例えば特許文献1に示すような液冷ジャケットが注目されている。液冷ジャケットは、CPUのみならず、IGBT(Insulated Gate Bipolar Transistor)チップなどのパワーデバイスやパワーモデュールの冷却にも用いられる。
【0003】
この液冷ジャケットは、熱輸送流体が流れる凹部を有するジャケット本体と、凹部の開口部を封止する封止体とを備えており、摩擦撹拌接合することでジャケット本体と封止体を接合して、液冷ジャケットを製造するように構成されている。なお、ジャケット本体と封止体との接合は、必ずしも摩擦攪拌接合に限定されるものではなく、特許文献2に示すように、ボルト締結によってジャケット本体と封止体を接合するものもあった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2009−166079号公報
【特許文献2】特開2008−311550号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、ジャケット本体と封止体の接合方法は、その形状、コスト等を考慮して適宜選択されるものであるが、特許文献2のようにボルト締結を選択した場合、ボルト締結が為される周縁部の強度が問題となる。
【0006】
すなわち、CPUなどの被冷却体が取り付けられるジャケット本体または封止体は、別伝導率を重視するため、高い熱伝導率を有する純アルミニウム(JIS1050など)やアルミニウム合金(JIS6063など)が選択される。しかし、これらの合金は比較的強度が低く、ボルト締結時に塑性変形を起こす虞がある問題があった。
【0007】
そこで、本発明は、前記問題を解決するために案出されたものであり、ボルト締結に耐えることができる液冷ジャケットおよびその製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記課題を解決するための本発明は、熱輸送流体が流れる凹部を有するジャケット本体に、前記凹部の開口部を封止する封止体をボルト締結して構成される液冷ジャケットにおいて、前記ジャケット本体および前記封止体は、ボルト締結用の貫通孔が形成された周縁部を備え、前記ジャケット本体および前記封止体の少なくとも一方は、被冷却体との接触面を有する放熱部を備えており、前記周縁部の材質強度が、前記放熱部の材質強度よりも高くなるように構成したことを特徴とする。
【0009】
このような構成によれば、放熱部の材質強度が低い場合であっても、周縁部は材料強度を高くしているので、ボルト締結に耐えることができ、塑性変形を防止できる。
【0010】
また、本発明は、前記放熱部が、前記周縁部と別部材からなることが好ましい。
【0011】
このような構成によれば、液冷ジャケットを容易に作成できるとともに、熱伝導率が高い放熱部と強度が高い周縁部とを明確に区別することができる。
【0012】
さらに、本発明は、熱輸送流体が流れる凹部を有するジャケット本体に、前記凹部の開口部を封止する封止体をボルト締結して構成され、前記ジャケット本体および前記封止体の少なくとも一方は、被冷却体との接触面を有する放熱部と、その外周部に設けられボルト締結用の貫通孔が形成された周縁部とを備えてなる液冷ジャケットの製造方法であって、前記放熱部に被冷却体である電子部品をろう接した後に、前記放熱部よりも材質強度が高い熱処理型アルミニウム合金からなる前記周縁部を、前記放熱部に接合することを特徴とする。
【0013】
このような方法によれば、周縁部が電子部品のろう接による熱の影響を受けないので、周縁部の材質強度の低下を防ぐことができ、周縁部は高い材質強度を得ることができる。
【0014】
また、本発明は、熱輸送流体が流れる凹部を有するジャケット本体に、前記凹部の開口部を封止する封止体をボルト締結して構成され、前記ジャケット本体および前記封止体の少なくとも一方は、被冷却体との接触面を有する放熱部と、その外周部に設けられボルト締結用の貫通孔が形成された周縁部とを備えてなる液冷ジャケットの製造方法であって、前記放熱部よりも材質強度が高い非熱処理型アルミニウム合金からなる前記周縁部を、前記放熱部に接合した後に、前記放熱部に被冷却体である電子部品をろう接することを特徴とする。
【0015】
このような方法によれば、周縁部を非熱処理型アルミニウム合金にて形成しているので、電子部品のろう接による熱を受けても、周縁部の強度が低下せず、周縁部は高い材質強度を得ることができる。
【0016】
さらに、本発明は、熱輸送流体が流れる凹部を有するジャケット本体に、前記凹部の開口部を封止する封止体をボルト締結して構成され、前記ジャケット本体および前記封止体の少なくとも一方は、被冷却体との接触面を有する放熱部と、その外周部に設けられボルト締結用の貫通孔が形成された周縁部とを備えてなる液冷ジャケットの製造方法であって、前記放熱部と前記周縁部を同一部材にて形成し、前記放熱部に被冷却体である電子部品をろう接した後に、前記周縁部を時効硬化処理することを特徴とする。
【0017】
なお、放熱部と周縁部とは、同一部材にて形成されていればよく、一体で形成するか、別体で形成した後に接合するかは問わない。以上のような方法によれば、周縁部が電子部品のろう接による熱の影響を受けて強度が低下したとしても、時効硬化処理によって強度を回復することができるので、放熱部では高い熱伝導性を確保しつつ、周縁部ではボルト締結に耐えうる強度を確保できる。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、ボルト締結に耐え得る強度を確保できる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】第一実施形態に係る液冷ジャケットを斜め上方から見た分解斜視図である。
【図2】第一実施形態に係る液冷ジャケットを斜め下方から見た分解斜視図である。
【図3】第二実施形態に係る液冷ジャケットを斜め上方から見た分解斜視図である。
【図4】(a)は、放熱部の拡大斜視図、(b)は、周縁部の拡大斜視図である。
【図5】第三実施形態に係る液冷ジャケットを斜め上方から見た分解斜視図である。
【図6】封止体の拡大斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
(第一実施形態)
第一実施形態に係る液冷ジャケットは、例えば、パーソナルコンピュータ等の電子機器に搭載される冷却システムの構成部品であって、被冷却体であるCPU(電子部品)等を冷却する部品である。冷却システムは、発熱体であるCPUが所定位置に取り付けられる液冷ジャケットと、冷却水(熱輸送流体)が輸送する熱を外部に放出するラジエータ(放熱手段)と、冷却水を循環させるマイクロポンプ(熱輸送流体供給手段)と、温度変化による冷却水の膨張/収縮を吸収するリザーブタンクと、これらを接続するフレキシブルチューブと、熱を輸送する冷却水とを主に備えている。冷却水としては、例えば、エチレングリコール系の不凍液が使用される。そして、マイクロポンプが作動すると、冷却水がこれら機器を循環するようになっている。なお、本実施形態では、被冷却体をCPUとして説明するが、液冷ジャケットは、CPUのみならず、IGBTチップなどのパワーデバイスやパワーモデュールの冷却にも用いられる。
【0021】
図1および図2に示すように、液冷ジャケット1は、凹部11(図2参照)を有するジャケット本体10に、封止体30をボルト締結によって固定して構成されている。凹部11は、CPU2が発生する熱を外部に輸送する冷却水(熱輸送流体)が流れるとともに一部が開口している。封止体30は、凹部11の開口部12(図2参照)を封止する。なお、本実施形態では、封止体30にCPU2(被冷却体)が取り付けられた場合を例に挙げる。
【0022】
液冷ジャケット1は、封止体30の中央に、熱拡散シート(図示せず)を介してCPU2が取り付けられるようになっている。液冷ジャケット1は、CPU2が取り付けられた状態で、液冷ジャケット1内を冷却水が流通することにより、CPU2が発生する熱を受熱すると共に、内部を流通する冷却水と熱交換する。これによって、液冷ジャケット1は、CPU2から受け入れた熱を冷却水に伝達し、その結果として、CPU2を効率的に冷却する。なお、熱拡散シートは、CPU2の熱を、ジャケット本体10に効率的に伝達させるためのシートであり、例えば銅などの高熱伝導性を有する金属から形成されている。
【0023】
ジャケット本体10は、一方側(本実施形態では下側)が開口した浅底の箱体であって、凹部11の底面となる底壁13と、凹部11の周面となる周壁14とを有している。このようなジャケット本体10は、例えば、ダイキャスト、鋳造、鍛造などによって作製される。ジャケット本体10は、アルミニウムまたはアルミニウム合金から形成されており、軽量化が図られている。ジャケット本体10は、高い強度(引張強度)を有した熱処理型のアルミニウム合金(例えば、「JIS6061−T6」や「JIS6061−T651」など)にて形成されている。また、ジャケット本体10は、高い強度を有した非熱処理型のアルミニウム合金(例えば、「JIS3000系」のアルミニウム−マンガン(Al−Mn)系合金など)にて形成してもよい。アルミニウム合金の強度は、ボルト締結によって周縁部16が塑性変形を起こさない程度の強度以上であればよい。
【0024】
ジャケット本体10の凹部11の周壁14の互いに対向する一対の壁部14aには、凹部11に冷却水を流通させるための貫通孔15がそれぞれ形成されている。貫通孔15は、円形断面を有し、凹部11の深さ方向中間部に形成されている。なお、貫通孔15の形状および位置は、これに限られるものではなく、冷却水の種類や流量に応じて適宜変更可能である。
【0025】
ジャケット本体10の凹部11の外周部には、枠状の周縁部16が形成されている。周縁部16は、封止体30をボルト締結して固定するための部位である。周縁部16は、凹部11を囲むように形成されており、ボルト締結用の貫通孔(以下「ボルト貫通孔」という)17が複数形成されている。隣り合うボルト貫通孔17,17間には、周縁部16の外周縁が内側に窪んだ切欠き部18が形成されている。これによって、ジャケット本体10本体の軽量化を図れる。
【0026】
封止体30は、CPU2との接触面32を有する放熱部31と、放熱部31を囲むように形成された枠状の周縁部33とを備えている。封止体30は、アルミニウムまたはアルミニウム合金から形成されている。本実施形態では、放熱部31と周縁部33は、それぞれ別部材から構成されている。また、放熱部31と周縁部33は、別体で形成されて、互いに接合されている。
【0027】
放熱部31は、凹部11の開口部12の面積よりも小さい矩形の板状部材にて構成されている。接触面32は、液冷ジャケット1の外側となる放熱部31の外表面の中央部に設けられており、平坦に形成されている。一方、放熱部31のジャケット本体10の凹部11に対向する面には、複数のフィン35,35…が形成されている。
【0028】
放熱部31および複数のフィン35は、アルミニウムまたはアルミニウム合金から形成されたブロックを切削加工することで一体に形成されている。これにより、放熱部31とフィン35,35…との間において、熱が良好に伝達されるようになっている。なお、作製方法はこれに限定されるものではなく、例えば、放熱部31と複数のフィン35,35…からなる断面形状を有する部材を、押出成形または溝加工によって形成して、適宜の長さに切断して作成してもよい。
【0029】
複数のフィン35,35…は、互いに平行で且つ放熱部31に対して直交して配置されている。フィン35,35…は、貫通孔15が形成された壁部14aと直交する方向に延在して配置されている。フィン35は、凹部11の深さ寸法と同等の高さ(深さ)寸法(図1中、Z軸方向長さ)を有しており、その先端部が凹部11の底壁13に当接するようになっている。これによって、封止体30がジャケット本体10に取り付けられた状態で、封止体30の放熱部31と、隣り合うフィン35,35と、凹部11の底壁13とで筒状の空間が区画され、その空間が、冷却水が流れる流路として機能することとなる。また、フィン35,35…は、凹部11の一辺の長さ寸法よりも短い長さ寸法(図1中、X軸方向長さ)を有しており、その両端は、凹部11の周壁14の各壁部14a,14aの内壁面とそれぞれ所定の間隔を隔てるように構成されている。これによって、封止体30がジャケット本体10に取り付けられた状態で、フィン35,35…の両端外側の、凹部11の周壁14の壁部14aとの間の空間が、貫通孔15から、フィン35の延出方向と直交する方向(図1中、Y軸方向)へ広がる流路ヘッダ部を構成することとなる。
【0030】
周縁部33は、放熱部31の外周部に接合される枠状部材からなる。周縁部33には、周縁部16のボルト貫通孔17に対応する位置に、同等のボルト貫通孔(ボルト締結用の貫通孔)37が複数形成されている。周縁部33は、ジャケット本体10の周縁部16と同等の外周形状を有しており、隣り合うボルト貫通孔37,37間には、周縁部33の外周縁が内側に窪んだ切欠き部38が形成されている。これによって、封止体30本体の軽量化を図れる。さらに、ジャケット本体10と封止体30を接合したときに、切欠き部18,38に他の部品を入り込ませることができるので、液冷ジャケット1の周囲の部品との取り合いが容易になり、レイアウト性の向上が図れる。
【0031】
周縁部33は、ジャケット本体10の周縁部16よりも広い幅を有しており、周縁部33の内周縁は、周縁部16の内周縁(開口部12の周縁)よりも内側に突出している。これによって、フィン35と、凹部11の周壁14との間に隙間が形成され、そのうちの壁部14a,14aとフィン35との隙間が流路ヘッダ部となる。周縁部33の内周縁は、放熱部31の外周縁と同等の形状を呈しており、放熱部31が周縁部33の内側に装着されるようになっている。
【0032】
ところで、周縁部33の材質は、高い強度を有する複数種のアルミニウム合金が選択可能であるが、そのアルミニウム合金の材質に応じて、放熱部31に被冷却体であるCPU2を取り付ける工程が製造工程のどの時点に組み込まれるかが限定される場合がある。また、製造工程によって、周縁部33の材質および、放熱部31と周縁部33の接合方法が限定される場合がある。以下に、選択したアルミニウム合金の種類と製造方法との関係を説明する。
【0033】
第一のケースとして、周縁部33を、高い強度(引張強度)を有した熱処理型のアルミニウム合金(例えば、「JIS6061−T6」や「JIS6061−T651」などのアルミニウム−マグネシウム−ケイ素(Al−Mg−Si)系合金)にて形成した場合について説明する。これは、周縁部33の材質から製造方法が限定されるケースである。なお、アルミニウム合金の強度は、ボルト締結によって周縁部33が塑性変形を起こさない程度の強度以上であればよい。
【0034】
この場合、放熱部31にCPU2をろう接(はんだ付またはろう付など)した後に、放熱部31と周縁部33とを互いに接合する製造方法を採用する。このような製造方法によれば、放熱部31にCPU2をろう接するときは、周縁部33は放熱部31に接合されていないので、周縁部33がろう接の熱影響を受けることはない。したがって、熱処理型のアルミニウム合金であっても、材質強度が低下しないので、周縁部33の高い強度を維持したまま、封止体30を形成することができる。なお、放熱部31は、ボルト締結に対抗する強度は求められないので、純アルミニウム(例えば、「JIS1050」など)や単に熱伝導性の高いアルミニウム合金(例えば、「JIS6063」などのアルミニウム−マグネシウム−ケイ素(Al−Mg−Si)系合金)を採用すればよい。なお、放熱部31は、フィン35と一体で形成されるので、機械加工性の高いアルミニウム合金(例えば、「JIS6063−T5」などのJIS6000系(アルミニウム−マグネシウム−ケイ素(Al−Mg−Si)系)合金)がより一層好ましい。
【0035】
そして、放熱部31と周縁部33の接合についても、ろう接の熱影響を考える必要はないので、必要な接着強度が得られる接着剤などを用いて接着すればよい。
【0036】
第二のケースとして、放熱部31と周縁部33とを互いに接合した後に、放熱部31に被冷却体であるCPU2をろう接する場合について説明する。これは、製造方法から周縁部33の材質が限定されるケースである。
【0037】
この場合は、放熱部31にCPU2をろう接するときは、既に周縁部33が放熱部31に接合された状態であるので、周縁部33がろう接の熱を受けることとなる。したがって、周縁部33はろう接の熱に対抗可能な材質とする。つまり、周縁部33は、高い強度(引張強度)を有した非熱処理型のアルミニウム合金(例えば、「JIS3000系」のアルミニウム−マンガン(Al−Mn)系合金や「JIS5000系」のアルミニウム−マグネシウム(Al−Mg)系合金など)にて形成する。このアルミニウム合金の強度は、ボルト締結によって周縁部33が塑性変形を起こさない程度の強度以上であればよい。このような材質を採用することによって、周縁部33は、ろう接の熱を受けても材質強度が低下することはないので、周縁部33の高い強度を維持したまま、封止体30を形成することができる。なお、この場合も第一のケースと同様に、放熱部31は、ボルト締結に対抗する強度は求められないので、純アルミニウム(例えば、「JIS1050」など)や単に熱伝導性の高いアルミニウム合金(例えば、「JIS6063」などのアルミニウム−マグネシウム−ケイ素(Al−Mg−Si)系合金)を採用すればよい。なお、放熱部31は、フィン35と一体で形成されるので、機械加工性の高いアルミニウム合金(例えば、「JIS6063−T5」などのJIS6000系(アルミニウム−マグネシウム−ケイ素(Al−Mg−Si)系)合金)がより一層好ましい。
【0038】
さらに、放熱部31と周縁部33の接合部は、後の工程でろう接の熱を受けるので、摩擦攪拌接合やろう付やレーザ溶接などの金属同士の接合を行う。これによれば、接合部分がろう接の熱を受けても、接合強度が低下することはない
【0039】
以上のように形成された封止体30は、周縁部33がジャケット本体10の周縁部16に当接するように配置され、各ボルト貫通孔17,37にボルト(図示せず)を挿通させてナット(図示せず)によって締め付ける。このとき、各周縁部16,33は、ともにボルト締結に対抗できる材質強度を有しているので、適度な強度で締付けを行うことができるとともに、周縁部16,33の塑性変形を防止することができる。したがって、ジャケット本体10と封止体30との接合部の密閉性能を向上させることができ、水密性の高い液冷ジャケット1を得ることができる。
【0040】
特に、第一のケースでは、封止体30の周縁部33の材質に応じて、製造手順を決定しているので、周縁部33がCPU2のろう接の熱を受けずに、その材質強度を維持することができる。また、第二のケースでは、製造手順に応じて、周縁部33の材質、および放熱部31と周縁部33の接合方法を決定しているので、周縁部33がCPU2のろう接の熱を受けても、その材質強度を維持することができるとともに、放熱部31と周縁部33の接合強度を維持することができる。
【0041】
また、放熱部31においては、周縁部33と別部材で、高い熱伝導性を有する純アルミニウムまたはアルミニウム合金で形成しているので、CPU2の冷却性能が向上されている。さらに、同じ材質でフィン35を多数形成しているので、冷却性能がより一層高められている。
【0042】
(第二実施形態)
次に、第二実施形態に係る液冷ジャケットの構成について説明する。図3および図4に示すように、かかる液冷ジャケット1’は、第一実施形態と同様に、ジャケット本体10に、封止体30’をボルト締結によって固定して構成されている。本実施形態では、封止体30’の放熱部31’と周縁部33’の接合部分に段差部40,41をそれぞれ形成している。以下に、段差部40,41の構成を説明する。なお、その他の部分の構成は、第一実施形態と同様であるので、同じ符号を付して説明を省略する。
【0043】
放熱部31’の段差部40は、外周縁全周に渡って形成されている。段差部40は、板材の厚さ方向中間部で段差が出るように構成されている。放熱部31’は、フィン35側の幅寸法および長さ寸法が小さくなるように構成されており、フィン35を上側にしたときに、段差部40が階段状になる。
【0044】
周縁部33’の段差部41は、内周縁全周に渡って形成されている。段差部41は、図4の(a)に示すように、板材の厚さ方向中間部で段差が出るように構成されている。周縁部33’の内周縁は、図3の状態で配置したときに上側半分の厚みで内側に突出しており、放熱部31’の段差部40と噛み合うように構成されている。
【0045】
このように、放熱部31’の外周縁に段差部40を形成し、周縁部33’の内周縁に段差部41を形成したことで、段差部40,41同士が噛み合うので、放熱部31’と周縁部33’を接合する際の位置決めガイドとなり、接合作業が容易になる。また、段差部40,41同士が噛み合って互いに固定されるので、段差部40,41が摩擦攪拌接合における回転ツールの押さえ治具の役目を果たし、治具の低減を図れるとともに、摩擦攪拌接合を容易に行うことができる。
【0046】
なお、本実施形態では、放熱部31’は、フィン35側の幅寸法および長さ寸法が小さくなるように構成しているが、これに限定されるものではなく、フィン35側の幅寸法および長さ寸法が大きくなるように構成してもよい。この場合は、周縁部33’を表裏逆向きにして接合すればよい。
【0047】
(第三実施形態)
次に、第三実施形態に係る液冷ジャケットの構成について説明する。図5および図6に示すように、かかる液冷ジャケット1”は、第一実施形態と同様に、ジャケット本体10に、封止体30”をボルト締結によって固定して構成されている。本実施形態では、封止体30”の周縁部33”の内側に薄板部45が形成されており、薄板部45が収容凹部46の底部を構成するようになっている。収容凹部46は、放熱部31”を収容する部分である。以下に、封止体30”の放熱部31”および周縁部33”の構成を説明する。なお、その他の部分の構成は、第一実施形態と同様であるので、同じ符号を付して説明を省略する。
【0048】
周縁部33”の内側の薄板部45は、周縁部33”の厚さの略半分の厚さに形成されている。薄板部45の一表面(図5における下側の面)は、周縁部33”の一表面(図5における下側の面)と面一になるように構成されている。収容凹部46の周囲を囲む側壁面は、薄板部45の表面に対して直角に形成されている。なお、収容凹部46の側壁面は、薄板部45の表面に対する角度は直角に限定されるものではなく、収容凹部の底部に近づくに連れて内側に向かうテーパ形状を呈するように傾斜していてもよい。この場合、放熱部31”の外周面も、収容凹部の側壁面の傾斜角度に応じて傾斜するように形成する。
【0049】
放熱部31”の板厚は、収容凹部46の深さと同等の寸法となっており、放熱部31”を収容凹部46に収容したときに、放熱部31”の表面(図5および図6における上側の面)と、周縁部33”の表面(図5および図6における上側の面)とが面一になるように構成されている(図6参照)。
【0050】
このような構成によれば、放熱部31”を周縁部33”の内側の収容凹部46に収容して接合作業を行うことになるので、放熱部31”の位置決めを容易に行えるとともに、放熱部31”を固定した状態で接合作業を行うことができる。また、薄板部45が摩擦攪拌接合における回転ツールの押さえ治具の役目を果たし、摩擦攪拌接合を容易に行うことができる。
【0051】
(製造方法の他の実施形態)
前記第一乃至第三実施形態では、放熱部31と周縁部33を、それぞれ別部材からなる別体で形成して、周縁部33の材質強度が放熱部31の材質強度よりも高くなるように構成していたが、本実施形態では、放熱部と周縁部を同一部材にて形成し、放熱部に被冷却体である電子部品をろう接した後に、周縁部を時効硬化処理することで、周縁部33の材質強度を放熱部31の材質強度よりも高くしている。
【0052】
なお、放熱部と周縁部は、同一部材にて形成していれば、一体形成してもよいし、別体で形成した後に接合して一体化してもよい。放熱部と周縁部を別体で形成する場合は、電子部品をろう接する前に接続して一体化しておく。本実施形態では、放熱部と周縁部を一体形成した場合を例に挙げて説明する。
【0053】
本実施形態では、放熱部と周縁部を、高い強度(引張強度)を有するとともに熱伝導性の高い熱処理型のアルミニウム合金(例えば、「JIS6000系」のアルミニウム−マグネシウム−ケイ素(Al−Mg−Si)系合金)など)にて一体形成して封止体を形成する。そして、封止体(放熱部と周縁部)にICチップなどの電子部品をろう接する。ろう接は、例えば、放熱部の接触面に電子部品を取り付けて、リフロー炉に挿入してはんだ付を行う。このとき、周縁部もリフロー炉に挿入されるので、変性が起こり、材料強度が低下してしまう。そこで、周縁部を局所的に加熱して時効硬化処理を行う。時効硬化処理は、例えば、高周波電磁誘導加熱やレーザー照射加熱によって局所的に加熱を行ってから冷やすことによって人工的に行う。
【0054】
このように周縁部の時効硬化処理を行うことによって、周縁部の材料強度を回復させる。このとき材料強度は、ボルト締結によって周縁部33が塑性変形を起こさない程度の強度まで回復すればよい。本製造方法によれば、ろう接によって低下した周縁部の材質強度を、時効硬化処理によって回復させるので、周縁部の材料強度が放熱部の材料強度よりも高くなる。そして、周縁部は、ボルト締結に対抗できる材質強度を有することとなり、その塑性変形を防止できる。したがって、ジャケット本体と封止体との接合部の密閉性能を向上させることができ、水密性の高い液冷ジャケットを得ることができる。
【0055】
また、時効硬化処理を局所的に行っているので、全体の時効硬化処理を行う場合と比較して処理時間を大幅に短縮でき、加工効率が向上する。さらに、放熱部と周縁部は、同一部材にて形成しているので、形成が効率的に行うことができる。特に、放熱部と周縁部を一体形成したときは、接合作業が省略される。
【0056】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明の実施形態はこれに限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更が可能であり、例えば、前記第二実施形態では、放熱部31’の外周部と、周縁部33’の内周部に段差部40,41をそれぞれ形成して、放熱部31’と周縁部33’を互いに噛み合わせているがこれに限定されるものではない。たとえば、放熱部の外周部と周縁部の内周部に互いに噛合するテーパ部を形成するようにしてもよい。
【0057】
また、前記実施形態では、封止体30にCPU2を固定するようになっているが、これに限定されるものではなく、ジャケット本体にCPUを固定してもよいし、ジャケット本体と封止体の両方にCPUを固定するようにしてもよい。この場合、ジャケット本体(および封止体)が放熱部を備えることとなり、ジャケット本体の周縁部の材料強度が前記放熱部の材料強度よりも高くなるように構成するとよい。
【符号の説明】
【0058】
1 液冷ジャケット
2 CPU(被冷却体)
10 ジャケット本体
11 凹部
30 封止体
31 放熱部
32 接触面
33 周縁部
1’ 液冷ジャケット
30’ 封止体
31’ 放熱部
33’ 周縁部
1” 液冷ジャケット
30” 封止体
31” 放熱部
33” 周縁部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱輸送流体が流れる凹部を有するジャケット本体に、前記凹部の開口部を封止する封止体をボルト締結して構成される液冷ジャケットにおいて、
前記ジャケット本体および前記封止体は、ボルト締結用の貫通孔が形成された周縁部を備え、
前記ジャケット本体および前記封止体の少なくとも一方は、被冷却体との接触面を有する放熱部を備えており、
前記周縁部の材質強度が、前記放熱部の材質強度よりも高くなるように構成した
ことを特徴とする液冷ジャケット。
【請求項2】
前記放熱部は、前記周縁部と別部材からなる
ことを特徴とする請求項1に記載の液冷ジャケット。
【請求項3】
熱輸送流体が流れる凹部を有するジャケット本体に、前記凹部の開口部を封止する封止体をボルト締結して構成され、
前記ジャケット本体および前記封止体の少なくとも一方は、被冷却体との接触面を有する放熱部と、その外周部に設けられボルト締結用の貫通孔が形成された周縁部とを備えてなる液冷ジャケットの製造方法であって、
前記放熱部に被冷却体である電子部品をろう接した後に、
前記放熱部よりも材質強度が高い熱処理型アルミニウム合金からなる前記周縁部を、前記放熱部に接合する
ことを特徴とする液冷ジャケットの製造方法。
【請求項4】
熱輸送流体が流れる凹部を有するジャケット本体に、前記凹部の開口部を封止する封止体をボルト締結して構成され、
前記ジャケット本体および前記封止体の少なくとも一方は、被冷却体との接触面を有する放熱部と、その外周部に設けられボルト締結用の貫通孔が形成された周縁部とを備えてなる液冷ジャケットの製造方法であって、
前記放熱部よりも材質強度が高い非熱処理型アルミニウム合金からなる前記周縁部を、 前記放熱部に接合した後に、
前記放熱部に被冷却体である電子部品をろう接する
ことを特徴とする液冷ジャケットの製造方法。
【請求項5】
熱輸送流体が流れる凹部を有するジャケット本体に、前記凹部の開口部を封止する封止体をボルト締結して構成され、
前記ジャケット本体および前記封止体の少なくとも一方は、被冷却体との接触面を有する放熱部と、その外周部に設けられボルト締結用の貫通孔が形成された周縁部とを備えてなる液冷ジャケットの製造方法であって、
前記放熱部と前記周縁部を同一部材にて形成し、
前記放熱部に被冷却体である電子部品をろう接した後に、
前記周縁部を時効硬化処理する
ことを特徴とする液冷ジャケットの製造方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate


【公開番号】特開2012−156302(P2012−156302A)
【公開日】平成24年8月16日(2012.8.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−13936(P2011−13936)
【出願日】平成23年1月26日(2011.1.26)
【出願人】(502444733)日軽金アクト株式会社 (107)
【Fターム(参考)】