説明

液冷ジャケットの製造方法および摩擦攪拌接合方法

【課題】摩擦撹拌接合の接合部の密閉性能を向上させる。
【解決手段】熱発生体が発生する熱を外部に輸送する熱輸送流体が流れるとともに一部が開口した凹部11を有するジャケット本体10に、凹部11の開口部12を封止する封止体30を摩擦攪拌接合によって固定して構成される液冷ジャケット1の製造方法において、ジャケット本体10の凹部11の開口周縁部12aに、その表面から下がった段差底面からなる封止体30の支持面15aを形成し、この支持面15aに凹溝20を形成し、支持面15aに封止体30を載置して、ジャケット本体10の段差側面15bと封止体30の外周面30bを突き合わせた状態で、段差側面15bと封止体30との突合部40に沿って回転ツール50を一周させ、前記突合部に塑性化領域41を形成しつつ、凹溝20に塑性流動化されたメタルを流入させて、封止体30をジャケット本体10に固定することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液冷ジャケットの製造方法および摩擦攪拌接合方法に関する。
【背景技術】
【0002】
金属部材同士を接合する方法として、摩擦攪拌接合(FSW=Friction Stir Welding)が知られている。摩擦攪拌接合とは、回転ツールを回転させつつ金属部材同士の突合部に沿って移動させ、回転ツールと金属部材との摩擦熱により突合部の金属を塑性流動させることで、金属部材同士を固相接合させるものである。
【0003】
ところで、近年、パーソナルコンピュータに代表される電子機器は、その性能が向上するにつれて、搭載されるCPU(熱発生体)の発熱量が増大し、CPUの冷却が益々重要になっている。従来、CPUを冷却するために、空冷ファン方式のヒートシンクが使用されてきたが、ファン騒音や、空冷方式での冷却限界といった問題がクローズアップされるようになり、次世代冷却方式として、液冷ジャケットが注目されている。
【0004】
このような液冷ジャケットにおいて、構成部材同士を摩擦攪拌接合によって接合した技術が特許文献1で開示されている。この液冷ジャケットは、たとえば、金属製フィンを収容するフィン収容室を有するジャケット本体と、フィン収容室を封止する封止体とを備えており、フィン収容室を取り囲むジャケット本体の周壁と封止体との突合部に沿って回転ツールを一周させて、摩擦攪拌接合することで液冷ジャケットを製造するように構成されている。そして、特許文献1では、摩擦攪拌接合における始端と終端とをオーバーラップさせることで、ジャケット本体と封止体とを良好に接合して、フィン収容室内を流れる熱輸送流体が外部に漏れにくくなるようにする技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2006−324647号公報(図18〜図20)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、液冷ジャケットは、パーソナルコンピュータ等の精密電子機器に設けられるため、さらなる信頼性の向上のためにジャケット本体と封止体の接合部における密閉性能を向上させることが要求されている。
【0007】
そこで、本発明は、接合部の密閉性能を向上させることができる液冷ジャケットの製造方法および摩擦攪拌接合方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記課題を解決するための手段として、本発明は、熱発生体が発生する熱を外部に輸送する熱輸送流体が流れるとともに一部が開口した凹部を有するジャケット本体に、前記凹部の開口部を封止する封止体を摩擦攪拌接合によって固定して構成される液冷ジャケットの製造方法において、前記ジャケット本体の前記凹部の開口周縁部に、その表面から下がった段差底面からなる前記封止体の支持面を形成し、この支持面に凹溝を形成し、前記支持面に前記封止体を載置して、前記ジャケット本体の段差側面と前記封止体の外周面を突き合わせた状態で、前記段差側面と前記封止体との突合部に沿って回転ツールを一周させ、前記突合部に塑性化領域を形成しつつ、前記凹溝に塑性流動化されたメタルを流入させて、前記封止体を前記ジャケット本体に固定することを特徴とする液冷ジャケットの製造方法である。
【0009】
このような方法によれば、支持面に形成された凹溝に塑性流動化されたメタルが流入することでジャケット本体に係合する凸条となるので、塑性化領域とジャケット本体とが互いに噛み合う。これによって、ジャケット本体と封止体の接合部における密閉性能を向上させることができ、液冷ジャケットの信頼性が高くなる。
【0010】
そして、本発明は、前記凹溝が、前記支持面の外周部に形成されていることを特徴とする。
【0011】
このような方法によれば、突合部と凹溝が近くなるので、塑性流動化されたメタルが凹溝に流入しやすくなる。
【0012】
また、本発明は、前記回転ツールを前記突合部に沿って一周させた後、一周目の始端部に沿って前記回転ツールを移動させて、前記塑性化領域の一部を重複させることを特徴とする。
【0013】
このような方法によれば、塑性化領域の一部が重複していることにより、ジャケット本体と封止体とを良好に接合することができるので、接合部の密閉性能をさらに向上させることができる。
【0014】
さらに、本発明は、前記回転ツールの攪拌ピンの長さ寸法が、前記封止体の厚さ寸法と同等或いは前記厚さ寸法より小さいことを特徴とする。
【0015】
このような方法によれば、攪拌ピンが凹溝に入り込まないので、凹溝の周辺部分の変形を抑制できる。これによって、メタルと凹溝の内壁面との接触面積が大きくなるので塑性化領域とジャケット本体の係合性を向上させることができる。
【0016】
また、本発明は、前記回転ツールのショルダー径寸法が、前記凹溝の幅寸法よりも大きいことを特徴とする。
【0017】
このような方法によれば、凹溝の上方を回転ツールのショルダー部で覆うことができるので、凹溝の上方全体が塑性化領域となり、塑性流動化されたメタルが凹溝に流入しやすくなる。
【0018】
さらに、本発明は、前記回転ツールを一周させた後に、前記回転ツールを前記突合部の外側に偏移させて、前記回転ツールの攪拌ピンが前記ジャケット本体上を移動するように、前記回転ツールを前記突合部に沿ってさらに一周させたことを特徴とする。
【0019】
このような方法によれば、一周目で空洞欠陥が発生したとしても二周目の移動で攪拌して空洞欠陥を低減することができるとともに、万一、二周目で空洞欠陥が発生したとしても、ジャケット本体の表面で突合部から離反した部分に発生するので、熱輸送流体が外部に漏れにくく、接合部の密閉性能を低下させることはない。
【0020】
また、本発明は、前記回転ツールの二周目で形成された塑性化領域と、前記回転ツールの一周目で形成された塑性化領域とが、全周に亘ってその幅方向の一部同士が重複するように前記回転ツールを移動させたことを特徴とする。
【0021】
このような方法によれば、塑性化領域の一部が重複していることにより、ジャケット本体と封止体とを良好に接合することができるので、接合部の密閉性能をさらに向上させることができる。
【0022】
さらに、本発明は、前記封止体の厚さ寸法が、前記ジャケット本体の前記凹部の開口周縁部の表面から前記段差底面までの深さ寸法よりも大きいことを特徴とする。
【0023】
このような方法によれば、回転ツールの押込み量が小さくても、凹溝に流入するメタル量を確保することができる。ジャケット本体側では封止体より押込み量が小さいので攪拌作用が少なく、空洞欠陥の発生確率を低減することができる。また、押込み量が小さいとバリの発生が少なくなり、材料ロスを低減できる。
【0024】
また、本発明は、前記凹溝が、前記支持面の外周縁に沿ってその内側寄りに形成されていることを特徴とする。
【0025】
このような方法によれば、塑性化領域と支持面との接触長さが長くなり、接合部の密閉性能をさらに向上させることができる。
【0026】
さらに、本発明は、前記回転ツールを前記突合部上で一周させた後に、前記回転ツールを前記突合部の内側に偏移させて、前記回転ツールの攪拌ピンが前記凹溝の上方を移動するように、前記回転ツールを前記突合部に沿ってさらに一周させたことを特徴とする。
【0027】
このような方法によれば、支持面の外周縁に沿ってその内側寄りに形成された凹溝に、塑性流動化されたメタルが流入しやすくなる。
【0028】
また、前記回転ツールの二周目で形成された塑性化領域と、前記回転ツールの一周目で形成された塑性化領域とが、全周に亘ってその幅方向の一部同士が重複するように前記回転ツールを移動させたことを特徴とする。
【0029】
このような方法によれば、塑性化領域の一部が重複していることにより、ジャケット本体と封止体とを良好に接合することができるので、接合部の密閉性能をさらに向上させることができる。
【0030】
さらに、本発明は、前記回転ツールの二周目における押込み量を、一周目における押込み量よりも大きくすることを特徴とする。
【0031】
このような方法によれば、凹溝に流入するメタル量を確保することができる。
【0032】
また、本発明は、前記回転ツールを前記開口部に対して右回りに移動させるときは、前記回転ツールを右回転させ、前記回転ツールを前記開口部に対して左回りに移動させるときは、前記回転ツールを左回転させることを特徴とする。
【0033】
このような方法によれば、回転ツールのシアー側が厚肉のジャケット本体側に位置する。このため、空洞欠陥が発生したとしても、ジャケット本体側であって突合部よりも外側位置の離反した部分(シアー側)に発生することとなり、熱輸送流体が外部に漏れにくくなるので、接合部の密閉性能を低下させることはない。
【0034】
さらに、本発明は、前記回転ツールで前記塑性化領域を形成する工程に先立って、前記突合部の一部を前記回転ツールよりも小型の仮接合用回転ツールを用いて仮接合することを特徴とする。
【0035】
このような方法によれば、ジャケット本体と封止体とを仮接合することによって、本接合の際に、封止体が移動することがなく、本接合しやすくなるとともに、封止体の位置決め精度が向上する。また、仮接合用回転ツールが本接合用の回転ツールよりも小さいので、本接合用の回転ツールを、仮接合部分の上で移動させて摩擦攪拌するだけで、本接合が仕上げられる。
【0036】
また、本発明は、前記突合部が矩形環状を呈しており、前記仮接合用回転ツールで前記突合部を仮接合する工程において、前記突合部の一方の対角同士を先に仮接合した後に、他方の対角同士を仮接合することを特徴とする。
【0037】
このような方法によれば、封止体をバランスよく仮接合することができ、封止体のジャケット本体に対する位置決め精度が向上する。
【0038】
さらに、本発明は、前記突合部が矩形環状を呈しており、前記仮接合用回転ツールで前記突合部を仮接合する工程において、前記突合部の一方の対辺の中間部同士を先に仮接合した後に、他方の対辺の中間部同士を仮接合することを特徴とする。
【0039】
このような方法によれば、封止体をバランスよく仮接合することができ、封止体のジャケット本体に対する位置決め精度が向上する。さらに、仮接合は直線状に行われるので、加工が容易となる。
【0040】
また、本発明は、第一部材の凹部の開口部に板状の第二部材を摩擦攪拌接合によって固定する摩擦攪拌接合方法において、前記第一部材の前記凹部の開口周縁部に、その表面から下がった段差底面からなる前記第二部材の支持面を形成し、この支持面に凹溝を形成し、前記支持面に前記第二部材を載置して、前記第一部材の段差側面と前記第二部材の外周面を突き合わせた状態で、前記段差側面と前記第二部材との突合部に沿って回転ツールを一周させ、前記突合部に塑性化領域を形成しつつ、前記凹溝に塑性流動化されたメタルを流入させて、前記第二部材を前記第一部材に固定することを特徴とする摩擦攪拌接合方法である。
【0041】
このような方法によれば、支持面に形成された凹溝に塑性流動化されたメタルが流入することで第一部材に係合する凸条となるので、塑性化領域と第一部材とが互いに噛み合う。これによって、第一部材と第二部材の接合部における密閉性能を向上させることができ、摩擦攪拌接合方法の信頼性が高くなる。
【発明の効果】
【0042】
本発明によれば、液冷ジャケットのジャケット本体と封止体との接合部、または、第一部材の開口部と板状の第二部材との接合部の密閉性能を向上させることができるといった優れた効果を発揮する。
【図面の簡単な説明】
【0043】
【図1】第1実施形態に係る液冷ジャケットの分解斜視図である。
【図2】第1実施形態に係る液冷ジャケットの封止体の斜視図である。
【図3】(a)〜(c)は、第1実施形態に係る液冷ジャケットの製造方法の工程を示した断面図である。
【図4】(a)、(b)は、第1実施形態に係る液冷ジャケットの製造方法の工程を示した平面図である。
【図5】(a)、(b)は、第1実施形態に係る液冷ジャケットの製造方法の工程を示した平面図である。
【図6】(a)、(b)は、第2実施形態に係る液冷ジャケットの製造方法の工程を示した平面図である。
【図7】(a)、(b)は、第3実施形態に係る液冷ジャケットの製造方法の工程を示した平面図である。
【図8】(a)〜(c)は、第4実施形態に係る液冷ジャケットの製造方法の工程を示した断面図である。
【図9】(a)〜(c)は、第5実施形態に係る液冷ジャケットの製造方法の工程を示した断面図である。
【図10】(a)、(b)は、第5実施形態に係る液冷ジャケットの製造方法の工程を示した平面図である。
【図11】(a)、(b)は、第5実施形態に係る液冷ジャケットの製造方法の工程を示した平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0044】
以下、本発明の実施形態について、図面を適宜参照して詳細に説明する。
【0045】
(第1実施形態)
まず、本発明に係る液冷ジャケットの製造方法および摩擦攪拌接合方法によって形成された液冷ジャケットについて説明する。液冷ジャケットは、例えば、パーソナルコンピュータ等の電子機器に搭載される冷却システムの構成部品であって、CPU(熱発生体)等を冷却する部品である。液冷システムは、CPUが所定位置に取り付けられる液冷ジャケットと、冷却水(熱輸送流体)が輸送する熱を外部に放出するラジエータ(放熱手段)と、冷却水を循環させるマイクロポンプ(熱輸送流体供給手段)と、温度変化による冷却水の膨張/収縮を吸収するリザーブタンクと、これらを接続するフレキシブルチューブと、熱を輸送する冷却水とを主に備えている。冷却水は、熱発生体であるCPU(図示せず)が発生する熱を外部に輸送する熱輸送流体である。冷却水としては、例えば、エチレングリコール系の不凍液が使用される。そして、マイクロポンプが作動すると、冷却水がこれら機器を循環するようになっている。
【0046】
図1に示すように、液冷ジャケット1は、冷却水(図示せず)が流れるとともに一部が開口した凹部11を有するジャケット本体10に、凹部11の開口部12を封止する封止体30を摩擦攪拌接合(図3参照)によって固定して構成されている。
【0047】
液冷ジャケット1は、その下方側の中央に、熱拡散シート(図示せず)を介してCPU(図示せず)が取り付けられるようになっており、CPUが発生する熱を受熱すると共に、内部を流通する冷却水と熱交換する。これによって、液冷ジャケット1は、CPUから受け入れた熱を冷却水に伝達し、その結果として、CPUを効率的に冷却する。なお、熱拡散シートは、CPUの熱を、ジャケット本体10に効率的に伝達させるためのシートであり、例えば、銅などの高熱伝導性を有する金属から形成されている。
【0048】
ジャケット本体10は、一側面(本実施形態では上側面)が開口した浅底の箱体であって、その内側に凹部11が形成されており、底壁13と、周壁14とを有している。このようなジャケット本体10は、例えば、ダイキャスト、鋳造、鍛造などによって作製される。ジャケット本体10は、アルミニウムまたはアルミニウム合金から形成されている。これにより、液冷ジャケット1は軽量化が達成されており、取り扱い容易となっている。
【0049】
ジャケット本体10の凹部11の開口周縁部12aには、凹部11の底面側に一段下がった段差底面からなる支持面15aが形成されている。図3の(a)に示すように、ジャケット本体10の上面と支持面15aとの高低差(深さ寸法)H1は、封止体30の厚さ寸法(後記する蓋板部31の厚さ寸法)T1と同じ寸法に設定されている。支持面15aは、封止体30を支持する面であって、支持面15a上には、封止体30の周縁部30aが載置される。
【0050】
図1および図3に示すように、支持面15aには、開口周縁部12aに沿って凹溝20が環状に形成されている。凹溝20は、本実施形態では、支持面15aの外周部に形成されており、断面矩形を呈している。凹溝20の外側面20aは、ジャケット本体10の開口周縁部12aの段差側面15bと面一となっている。凹溝20は、その幅寸法W1が、摩擦攪拌接合に用いられる回転ツール50のショルダー径(ショルダー部51の直径)寸法R1よりも小さく設定されている(回転ツール50のショルダー径寸法R1は、凹溝20の幅寸法W1よりも大きい)。特に、本実施形態では、ショルダー径寸法R1の半分(半径寸法)が、凹溝20の幅寸法W1より大きい。また、凹溝20の幅寸法W1は、支持面15aの幅寸法W2の1/4程度となっている。
【0051】
図1に示すように、凹部11の周囲の周壁14の互いに対向する一対の壁部14a,14aには、凹部11に冷却水を流通させるための貫通孔16,16がそれぞれ形成されている。貫通孔16,16は、本実施形態では、壁部14a,14aの対向方向(図1中、X軸方向)に延在しており、円形断面を有し、壁部14aの中央部に形成されている。なお、貫通孔16の形状、数および形成位置は、これに限られるものではなく、冷却水の種類や流量に応じて適宜変更可能である。
【0052】
図1および図2に示すように、封止体30は、ジャケット本体10の段差側面15b(図1参照)と同じ形状(本実施形態では正方形)の外周形状を有する板状の蓋板部31と、蓋板部31の下面に設けられた複数のフィン32,32…とを備えて構成されている。
【0053】
蓋板部31は、その厚さ寸法T1が、回転ツール50の攪拌ピン52の長さ寸法L1と同等或いは攪拌ピン52の長さ寸法L1よりも大きく設定されている(回転ツール50の攪拌ピン52の長さ寸法L1が、封止体30の蓋板部31の厚さ寸法T1と同等或いは厚さ寸法T1よりも小さい)。
【0054】
フィン32は、封止体30の表面積を大きくするために設けられている。複数のフィン32,32…は、互いに平行で且つ蓋板部31に対して直交して配置されており、蓋板部31と一体に構成されている。これにより、蓋板部31とフィン32,32…との間において、熱が良好に伝達するようになっている。図1に示すように、フィン32,32…は、貫通孔16,16が形成された周壁14の壁部14a,14aと直交する方向(図1中、X軸方向)に延在するように配置されている。フィン32は、凹部11の深さ寸法と同等の高さ(深さ)寸法(図1中、Z軸方向長さ)を有しており、その先端部が凹部11の底面に当接するようになっている。これによって、封止体30がジャケット本体10に取り付けられた状態で、封止体30の蓋板部31と、隣り合うフィン32,32と、凹部11の底面とで筒状の空間が区画され、その空間が、冷却水が流れる流路33(図4の(a)参照)として機能することとなる。また、フィン32,32…は、凹部11の一辺の長さ寸法よりも小さい長さ寸法(図1中、X軸方向長さ)を有しており、その両端は、周壁14の各壁部14a,14aの内壁面とそれぞれ所定の間隔を隔てるように構成されている。フィン32,32…の端部と、壁部14aとの間の空間は、フィン32,32によって形成される流路33と、貫通孔16とを繋ぐ流路ヘッダ部34(図4の(a)参照)を構成する。
【0055】
封止体30もジャケット本体10と同様に、アルミニウムまたはアルミニウム合金から形成されている。これにより、液冷ジャケット1は軽量化が達成されており、取り扱い容易となっている。封止体30は、アルミニウムまたはアルミニウム合金から形成されたブロックを切削加工することで蓋板部31とフィン32を形成して作製されている。なお、作製方法はこれに限定されるものではなく、例えば、蓋板部31と複数のフィン32,32…からなる断面形状を有する部材を、押出成形または溝加工によって形成し、そのフィン32の両端部を取り除くことによって作製してもよいし、ダイキャスト、鋳造、鍛造などによって作製してもよい。
【0056】
次に、ジャケット本体10に、封止体30を摩擦攪拌接合によって固定する方法について、図4および図5を参照して説明する。
【0057】
まず、図4の(a)に示すように、封止体30を、フィン32が下側になるようにして、ジャケット本体10の凹部11に挿入して、封止体30の周縁部30aを、支持面15a上に載置する。すると、ジャケット本体10の段差側面15bと、封止体30の外周面30bとが突き合わされ、突合部40が構成される。また、このとき、支持面15aに形成された凹溝20は、封止体30の周縁部30aによって覆われて、断面矩形の空間が区画形成される(図3の(a)参照)。
【0058】
次に、摩擦攪拌接合用の回転ツール50を挿入位置53に挿入した後、突合部40上に移動させて、その後、回転ツール50の移動方向を変えて、回転ツール50を突合部40に沿って移動させる。このとき、ジャケット本体10の周壁14の外周面に、ジャケット本体10を四方向から囲む治具(図示せず)を予め当てておくのが好ましい。これによれば、周壁14の厚さが薄く、回転ツール50のショルダー部51(図3の(b)参照)の外周面と、周壁14の外周面との距離(隙間)が、例えば、2.0mm以下であっても、回転ツール50の押圧力によって周壁14が外側に変形しにくくなる。なお、周壁14の厚さが厚い場合は、前記の治具は設置しなくてもよい。
【0059】
回転ツール50は、ジャケット本体10や封止体30よりも硬質の金属材料からなり、図3の(b)および(c)に示すように、円柱状を呈するショルダー部51と、このショルダー部51の下端面に突設された攪拌ピン(プローブ)52とを備えて構成されている。回転ツール50の寸法・形状は、ジャケット本体10および封止体30の材質や厚さ等に応じて設定すればよい。なお、本実施形態では、攪拌ピン52は、下部が縮径した円錐台状を呈しており、その突出長さ寸法L1は、封止体30の蓋板部31の厚さ寸法T1以下となっている。また、回転ツール50のショルダー径寸法R1は、凹溝20の幅寸法W1よりも大きくなっている。そして、摩擦攪拌接合時には、攪拌ピン52の先端が支持面15aの表面と略同じ高さに位置するか、或いは表面より上側に位置するように、回転ツール50が押し込まれる。さらに、回転ツール50の押込み量は、凹溝20の容積にも応じて決定されており、摩擦攪拌によって塑性流動化したメタルが、凹溝20全体に流れ込むように設定される。回転ツール50の回転速度は500〜15000(rpm)、送り速度は0.05〜2(m/分)で、突合部40を押さえる押込み力は1〜20(kN)程度で、ジャケット本体10および封止体30の材質や板厚および形状に応じて適宜選択される。
【0060】
以下に、回転ツール50の動きを具体的に説明する。まず、回転ツール50を回転させながら挿入位置53に挿入する。回転ツール50の挿入位置53は、図4の(a)に示すように、突合部40から外側に外れた周壁14の上面となっている。なお、回転ツール50の挿入位置53に、予め下穴(図示せず)を形成していてもよい。このようにすれば、回転ツール50の挿入時間(押込み時間)を短縮できる。
【0061】
その後、回転ツール50を、挿入位置53から突合部40の真上位置(回転ツール50の中心が突合部40上となる位置)まで回転させながら移動させる。その後、回転ツール50の中心(軸芯)が突合部40上を移動するように、回転ツール50の移動方向を変えて、突合部40に沿って回転ツール50を移動させる。このとき、突合部40の周囲のジャケット本体10と封止体30は、一体的に塑性流動化されて塑性化領域41となる。ここで、「塑性化領域」とは、回転ツール50の摩擦熱によって加熱されて現に塑性化している状態と、回転ツール50が通り過ぎて常温に戻った状態の両方を含むこととする。回転ツール50によって、塑性流動化されたジャケット本体10および封止体30のメタルの一部は、凹溝20内に流入する。そして、凹溝20内に流入したメタルは、回転ツール50の通過後、常温に戻って固まる。
【0062】
このとき、回転ツール50の移動方向(図4中、矢印Y1参照)と同じ方向に回転ツール50が回動(図4中、矢印Y2参照)するシアー側50b(被接合部に対する回転ツール50の外周の相対速さが、回転ツール50の外周における接線速度の大きさに移動速度の大きさを加算した値となる側)が、外側のジャケット本体10上に位置するように、回転ツール50を回転、移動させる。つまり、突合部40における回転ツール50の回転方向(自転方向)が、移動方向(公転方向)と同じ方向となるようにする。具体的には、本実施形態では、回転ツール50を凹部11の開口部12に対して右回りに移動させているので、回転ツール50も右回転させる。なお、回転ツール50を凹部11の開口部12に対して左回りに移動させるときは、回転ツール50を左回転させることとなる。このようにすることによって、回転ツール50のシアー側50bが厚肉のジャケット本体10側に位置する。そして、薄肉の封止体30側は、回転ツール50のフロー側50a(被接合部に対する回転ツール50の外周の相対速さが、回転ツール50の外周における接線速度の大きさから移動速度の大きさを減算した値となる側)となる。このため、封止体30側は、メタルの流動量が少なくなり、空洞欠陥が発生しにくくなる。そして、摩擦攪拌によって空洞欠陥が発生したとしても、ジャケット本体10側であって突合部40よりも外側位置の離反した部分に発生することとなり、熱輸送流体が外部に漏れにくくなるので、接合部の密閉性能を低下させることはない。
【0063】
引き続き、回転ツール50の回転および移動を継続し、図4の(b)に示すように、回転ツール50を、開口部12の周りを一周させて塑性化領域41を形成する。回転ツール50を一周させたら、一周目の始端54aを含む始端部(始端54aから回転ツール50の移動方向に所定長さ進んだ位置(終端54bと同じ位置)までの部分)に沿って回転ツール50を所定長さ移動させる。これによって、回転ツール50の周方向移動における始端54aと終端54bとが互いにオーバーラップしており、塑性化領域41の一部が重複するように構成される。
【0064】
その後、図5の(a)に示すように、回転ツール50の移動軌跡を一周目の終端54bから外側へ偏移させた後に、二周目の摩擦攪拌を行う。回転ツール50は、移動方向に向かうに連れて外側へ向かうように斜めに移動させることで偏移させる。回転ツール50の偏移量は、回転ツール50のショルダー部51が、回転ツール50の一周目の移動で形成された塑性化領域41の少なくとも幅方向の一部と重複する部分までとし、塑性化領域41のシアー側50bが回転ツール50の二周目の摩擦攪拌によって、再攪拌されるようにする。その後、回転ツール50は、突合部40に沿って塑性化領域41に対して平行移動する。二周目の移動に入るに際して、回転ツール50は、交換を行わず、突合部40に挿入したままの状態で、移動方向および回転方向は一周目と同様に右回転(図5中、矢印Y1,Y2参照)を継続させ、押込み量も変更しない。なお、回転ツール50の回転速度や移動速度等は、ジャケット本体10と封止体30の形状や材質に応じて適宜変更してもよい。これによって、回転ツール50が一周目と同じ方向に移動して同方向に回転する二周目によって、一周目で形成された塑性化領域41の幅方向の一部と重合する第二塑性化領域43が形成される。
【0065】
そして、図5の(b)に示すように、回転ツール50の二周目の移動が終了したならば、回転ツール50を第二塑性化領域43(突合部40)から外側に外れた周壁14の上面の引抜位置55へと移動させ、その位置で回転ツール50を引き抜く。引抜位置55は、突合部40から外側に外れた位置となっているので、引抜跡が突合部40に形成されることはなく、ジャケット本体10と封止体30との接合性をさらに高めることができる。なお、引抜跡は補修するようにしてもよい。
【0066】
以上のように、回転ツール50を凹部11の開口部12の周囲で、突合部40に沿って二周させて摩擦攪拌接合を行って塑性化領域41および第二塑性化領域43を形成し、ジャケット本体10に封止体30を固定することで、液冷ジャケット1が形成される。
【0067】
本実施形態に係る液冷ジャケット1の製造方法および摩擦攪拌接合方法によれば、回転ツール50によって、塑性流動化されたジャケット本体10および封止体30のメタルの一部が、凹溝20内に流入して、常温に戻って固まるので、凹溝20に流入したメタルがジャケット本体10に係合する凸条となる。これによって、塑性化領域41とジャケット本体10とが互いに噛み合うことになり係合性が高くなる。したがって、ジャケット本体10と封止体30の接合部における密閉性能を向上させることができ、液冷ジャケット1の信頼性を高めることができる。
【0068】
さらに、凹溝20の流入したメタルが、支持面15aの表面に対して直交して垂下する壁面を構成するので、この壁面が堰の役目を果たし、ジャケット本体10と封止体30の接合部における液密性を向上させることができる。
【0069】
また、本実施形態では、凹溝20は、支持面15aの外周部に形成されているので、突合部40と凹溝20が近くなる。これによって、突合部40上を移動した回転ツール50による一周目の摩擦攪拌によって塑性流動化されたメタルが凹溝20に流入しやすくなる。さらに、回転ツール50のショルダー径寸法R1が、凹溝20の幅寸法W1よりも大きく、特に、本実施形態では、ショルダー部51の半径が凹溝20の幅寸法W1よりも大きいので、凹溝20の上方を回転ツール50のショルダー部51で覆うことができ、凹溝20の上方全体が塑性化領域41となり、塑性流動化されたメタルが凹溝20に流入しやすくなる。したがって、凹溝20内の全体に塑性流動化されたメタルが流入して、ジャケット本体10と封止体30の接合部における密閉性能を向上させることができる。
【0070】
さらに、回転ツール50の攪拌ピン52の長さ寸法L1が、封止体30の厚さ寸法T1と同等或いは厚さ寸法T1より小さいので、攪拌ピン52の先端が凹溝20に入り込まない。これによって、凹溝20の周辺部分の変形を抑制でき、塑性流動化したメタルと凹溝20の内壁面との係合面積が大きくなるので、塑性化領域41とジャケット本体10の係合性を向上することができる。
【0071】
また、回転ツール50を突合部40に沿って一周させた後、一周目の始端部に沿って回転ツール50を移動させて、塑性化領域41の一部を重複させることで、凹部11の開口部12で塑性化領域41が途切れることがない。したがって、開口部12の全周に亘ってジャケット本体10と封止体30とが確実に接合されるので、接合部の密閉性能をさらに向上させることができる。
【0072】
さらに、本実施形態では、回転ツール50を、開口部12に対する移動方向と同じ方向に回転させるとともに、回転ツール50を一周させた後に、回転ツール50を突合部40の外側に偏移させて、回転ツール50の攪拌ピン52がジャケット本体10上を移動するように回転ツール50を突合部40に沿ってさらに一周させているので、シアー側50bとなる塑性化領域41の外周側は、回転ツール50の二周目の移動によって再攪拌されることとなる。したがって、塑性化領域41の外周側に空洞欠陥が発生していたとしても二周目の移動で空洞欠陥を低減することができる。さらに、回転ツール50の二周目の移動におけるシアー側50bは、ジャケット本体10の表面で突合部40から離反した部分となるので、万一、空洞欠陥が発生したとしても、突合部40から離反した部分に発生する。したがって、熱輸送流体が外部に漏れにくく、接合部の密閉性能を低下させることはない。また、塑性化領域41と第二塑性化領域43とは、その幅方向の一部が開口部12の全周に亘って重複していることにより、ジャケット本体10と封止体30とを隙間なく良好に接合することができる。よって、接合部の密閉性能をさらに向上させることができる。
【0073】
さらに、封止体30は、蓋板部31とフィン32,32…が一体的に形成されていることによって、蓋板部31の剛性が高くなり、摩擦攪拌接合の熱により封止体30が変形するのを防止できる。これによって、凹部11の開口部12の開口周縁部12aと封止体30の周縁部30aとの突合状態が良好となり、接合部の密閉性能をさらに向上させることができる。
【0074】
なお、前記実施形態では、回転ツール50を開口部12の周りを二周させて、摩擦攪拌を行っているが、これに限定するものではなく、一周目の摩擦攪拌で、凹溝20内に塑性流動化されたメタルの一部が流入するので、回転ツール50の移動を一周だけで終了させてもよい。
【0075】
(第2実施形態)
次に、第2実施形態に係る液冷ジャケットの製造方法および摩擦攪拌接合方法について、図6を参照して説明する。
【0076】
かかる実施形態は、図6の(a)に示すように、第1実施形態の回転ツール50で塑性化領域41(図6の(b)参照)を形成する工程に先立って、ジャケット本体10と封止体30との突合部40の一部を回転ツール50よりも小型の仮接合用回転ツール60を用いて仮接合することを特徴とする。仮接合を行った後には、図6の(b)に示すように、回転ツール50を用いて第1実施形態と同様の本接合を行う。
【0077】
図6の(a)に示すように、仮接合用回転ツール60は、回転ツール50よりも小径のショルダー部と攪拌ピン(図示せず)を備えており、形成される塑性化領域45は、後の工程で回転ツール50によって形成される塑性化領域41(図6の(b)参照)の幅よりも小さい幅を有することとなる。そして、塑性化領域45は、後の工程で塑性化領域41が形成される位置からはみ出さない位置に形成される。これによって、仮接合における塑性化領域45は、塑性化領域41で完全に覆われることとなるので、塑性化領域45に残った仮接合用回転ツール60の引抜跡および塑性化領域45の跡が残らない。
【0078】
本実施形態では、突合部40が正方形(矩形枠状)を呈しており、仮接合用回転ツール60で突合部40を仮接合する工程において、突合部40の一方の対角44a,44b同士を先に仮接合した後に、他方の対角44c,44d同士を仮接合するようになっている。このような順序で仮接合することで、封止体30をバランスよくジャケット本体10に仮接合することができ、封止体30のジャケット本体10に対する位置決め精度が向上するとともに、封止体30の変形を防止できる。また、封止体30の仮接合を行ったことによって、回転ツール50による本接合時の封止体30のズレを防止でき、接合部の密閉性能をより一層向上させることができる。
【0079】
(第3実施形態)
次に、第3実施形態に係る液冷ジャケットの製造方法および摩擦攪拌接合方法について、図7を参照して説明する。
【0080】
かかる実施形態は、図7の(a)に示すように、第1実施形態の回転ツール50で塑性化領域41(図7の(b)参照)を形成する工程に先立って、ジャケット本体10と封止体30との突合部40の一部を回転ツール50よりも小型の仮接合用回転ツール60を用いて仮接合することを特徴とする。ここでの仮接合は、第2実施形態が、正方形の突合部40の角部を摩擦攪拌接合しているのに対して、各辺の中間部を摩擦攪拌接合することによって直線状に行われている。具体的には、突合部40が正方形(矩形枠状)を呈しており、仮接合用回転ツール60で突合部40を仮接合する工程において、突合部40の一方の対辺46,46の中間部46a,46b同士を先に仮接合した後に、他方の対辺47,47の中間部47a,47b同士を仮接合するようになっている。このとき仮接合用回転ツール60で形成される塑性化領域48は、それぞれ同じ長さの直線状になるようになっている。また、塑性化領域48は、後の工程で塑性化領域41が形成される位置からはみ出さない位置に形成される。
【0081】
本実施形態では、前記のような順序で仮接合することで、封止体30をバランスよくジャケット本体10に仮接合することができ、封止体30のジャケット本体10に対する位置決め精度が向上するとともに、封止体30の変形を防止できる。また、封止体30の仮接合を行ったことによって、回転ツール50による本接合時の封止体30のズレを防止できる。さらに、本実施形態によれば、仮接合の摩擦攪拌接合が直線状であるので、仮接合用回転ツール60を直線的に移動させるだけでよく加工が容易である。
【0082】
(第4実施形態)
次に、第4実施形態に係る液冷ジャケットの製造方法および摩擦攪拌接合方法について、図8を参照して説明する。
【0083】
かかる実施形態は、図8の(a)に示すように、封止体30’の厚さ寸法T2が、ジャケット本体10の凹部11の開口周縁部12aの表面から段差底面(支持面15a)までの深さ寸法H1よりも大きいことを特徴とする。なお、その他の構成は、第1実施形態と同様であるので、同じ符号を付して説明を省略する。
【0084】
図8の(b)に示すように、封止体30’の厚さ寸法T2は、凹溝20の容積と、回転ツール50の押込み量に応じて適宜設定される。具体的には、回転ツール50のショルダー部51および攪拌ピン52によって押し込まれるメタルの容積からバリとなるメタルの容積を引いた値が、凹溝20の容積と略同等となるように、封止体30’の厚さ寸法T2が決定される。
【0085】
以上のように、封止体30’の厚さ寸法T2を大きくした本実施形態によれば、塑性流動化される封止体30’のメタル量が増加するので、ジャケット本体10側における回転ツール50の押込み量を小さくすることができる。これによって、バリの発生を低減することができ、ジャケット本体10および封止体30’の材料ロスを低減することができる。また、ジャケット本体10側は回転ツール50のシアー側50bとなるが、シアー側50bの押込み量が小さくなることによって、メタルの攪拌作用が小さくなるので、空洞欠陥の発生を抑制することができる。さらに、本実施形態では、図8の(c)に示すように、回転ツール50の二周目における押込み量も小さくなるので、ジャケット本体10の材料ロスをさらに低減することができる。
【0086】
(第5実施形態)
次に、第5実施形態に係る液冷ジャケットの製造方法および摩擦攪拌接合方法について、図9乃至図11を参照して説明する。
【0087】
かかる実施形態は、図9の(a)に示すように、凹溝20’は、支持面15aの外周縁(開口周縁部12aの段差側面15bと同一面)に沿ってその内側寄りに形成されている。具体的には、凹溝20’は、その幅方向中心部の突合部40からの離間距離L2が、回転ツール50のショルダー径(ショルダー部51の直径)寸法R1よりも小さくなるように形成されている。凹溝20’の幅寸法W1(図9の(b)参照)は、第1実施形態の凹溝20と同様に、摩擦攪拌接合に用いられる回転ツール50のショルダー径寸法R1よりも小さく設定されており、特に、本実施形態では、ショルダー径寸法R1の半分(半径寸法)が、凹溝20’の幅寸法W1より大きい。また、凹溝20’は、支持面15aの幅方向中央部に形成されている。
【0088】
次に、以上のような構成の凹溝20’が形成されたジャケット本体10に、封止体30を摩擦攪拌接合によって固定する方法について説明する。本実施形態のジャケット本体10に封止体30を接合するに際しては、回転ツール50を突合部40上で一周させた後に、突合部40の内側に偏移させて、回転ツール50の攪拌ピン52が凹溝20’の上方を移動するように、回転ツール50を突合部40に沿ってさらに一周させるようにすることを特徴とする。
【0089】
まず、図10の(a)に示すように、封止体30を、フィン32が下側になるようにして、ジャケット本体10の凹部11に挿入して、封止体30の周縁部30aを、支持面15a上に載置する。
【0090】
次に、摩擦攪拌接合用の回転ツール50を挿入位置53に挿入した後、突合部40上に移動させて、その後、回転ツール50の移動方向を変えて、回転ツール50を突合部40に沿って移動させる。
【0091】
回転ツール50は、前記実施形態と同様に、円柱状を呈するショルダー部51と、このショルダー部51の下端面に突設された攪拌ピン(プローブ)52とを備えて構成されている(図9の(b)および(c)参照)。回転ツール50の寸法・形状は、ジャケット本体10および封止体30の材質や厚さ、凹溝20’の形成位置等に応じて設定すればよい。なお、本実施形態では、攪拌ピン52は、下部が縮径した円錐台状を呈しており、その突出長さ寸法は、封止体30の蓋板部31の厚さ寸法以下となっている。また、回転ツール50のショルダー径寸法R1は、凹溝20’の幅寸法W1よりも大きくなっている。そして、摩擦攪拌接合時には、攪拌ピン52の先端が支持面15aの表面と略同じ高さに位置するか、或いは表面より上側に位置するように、回転ツール50が押し込まれる。さらに、回転ツール50の押込み量は、凹溝20’の容積に応じて決定されており、回転ツール50の二周目の摩擦攪拌によって塑性流動化したメタルが、凹溝20’全体に流れ込むように設定される。
【0092】
以下に、回転ツール50の動きを具体的に説明する。まず、回転ツール50を回転させながら挿入位置53に挿入する。回転ツール50の挿入位置53は、図10の(a)に示すように、突合部40から外側に外れた周壁14の上面となっている。なお、回転ツール50の挿入位置53に、予め下穴(図示せず)を形成していてもよい。このようにすれば、回転ツール50の挿入時間(押込み時間)を短縮できる。
【0093】
その後、回転ツール50を、挿入位置53から突合部40の真上位置(回転ツール50の中心が突合部40上となる位置)まで回転させながら移動させる。その後、回転ツール50の中心(軸芯)が突合部40上を移動するように、回転ツール50の移動方向を変えて、突合部40に沿って回転ツール50を移動させる。このとき、突合部40の周囲のジャケット本体10と封止体30は、一体的に塑性流動化されて塑性化領域41となる。
【0094】
回転ツール50は、第1実施形態と同様に、移動方向(図10中、矢印Y1参照)と同じ方向に回転(図10中、矢印Y2参照)する。このようにすることによって、回転ツール50のシアー側50bが厚肉のジャケット本体10側に位置するとともに、薄肉の封止体30側は、回転ツール50のフロー側50aとなる。このため、封止体30側は、メタルの流動量が少なくなり、空洞欠陥が発生しにくくなる。そして、摩擦攪拌によって空洞欠陥が発生したとしても、ジャケット本体10側であって突合部40よりも外側位置の離反した部分に発生することとなり、熱輸送流体が外部に漏れにくくなるので、接合部の密閉性能を低下させることはない。
【0095】
その後、引き続き、回転ツール50の回転および移動を継続し、図10の(b)に示すように、回転ツール50を、開口部12の周りを一周させて塑性化領域41を形成する。回転ツール50を一周させたら、一周目の始端54aを含む始端部(始端54aから回転ツール50の移動方向に所定長さ進んだ位置(終端54bと同じ位置)までの部分)に沿って回転ツール50を所定長さ移動させる。これによって、回転ツール50の周方向移動における始端54aと終端54bとが互いにオーバーラップしており、塑性化領域41の一部が重複するように構成される。
【0096】
その後、図11の(a)に示すように、回転ツール50の移動軌跡を一周目の終端54bから内側へ偏移させた後に、二周目の摩擦攪拌を行う。回転ツール50は、移動方向に向かうに連れて内側へ向かうように斜めに移動させることで偏移させる。回転ツール50の偏移量は、回転ツール50の中心が凹溝20’の中心上に位置する部分まで偏移することとし、このとき、回転ツール50のショルダー部51が、回転ツール50の一周目の移動で形成された塑性化領域41の少なくとも幅方向の一部と重複するようになっている。その後、回転ツール50は、突合部40に沿って塑性化領域41に対して平行移動する。二周目の移動に入るに際して、回転ツール50は、交換を行わず、突合部40に挿入したままの状態で、移動方向および回転方向は一周目と同様に右回転(図5中、矢印Y1,Y2参照)を継続させ、押込み量を一周目よりも深くする。なお、回転ツール50の回転速度や移動速度等は、ジャケット本体10と封止体30の形状や材質に応じて適宜変更してもよい。これによって、回転ツール50が一周目と同じ方向に移動して同方向に回転する二周目によって、一周目で形成された塑性化領域41の幅方向の一部と重合する第二塑性化領域43が形成される。図9の(c)に示すように、回転ツール50の二周目の摩擦攪拌によって、塑性流動化されたジャケット本体10および封止体30のメタルの一部は、凹溝20’内に流入する。そして、凹溝20’内に流入したメタルは、回転ツール50の通過後、常温に戻って固まる。
【0097】
そして、図10の(b)に示すように、回転ツール50の二周目の移動が終了したならば、回転ツール50を第二塑性化領域43から外側に外れた周壁14の上面の引抜位置55へと移動させ、その位置で回転ツール50を引き抜く。引抜位置55は、突合部40から外側に外れた位置となっているので、引抜跡が突合部40に形成されることはなく、ジャケット本体10と封止体30との接合性をさらに高めることができる。なお、引抜跡は補修するようにしてもよい。
【0098】
以上のように、回転ツール50を凹部11の開口部12の周囲で、突合部40に沿って二周させて摩擦攪拌接合を行って塑性化領域41および第二塑性化領域43を形成し、ジャケット本体10に封止体30を固定することで、液冷ジャケット1’が形成される。
【0099】
本実施形態に係る液冷ジャケット1の製造方法および摩擦攪拌接合方法によれば、回転ツール50によって、塑性流動化されたジャケット本体10および封止体30のメタルの一部が、凹溝20’内に流入して、常温に戻って固まるので、凹溝20’に流入したメタルがジャケット本体10に係合する凸条となる。これによって、塑性化領域43とジャケット本体10とが互いに噛み合うことになり係合性が高くなる。したがって、ジャケット本体10と封止体30の接合部における密閉性能を向上させることができ、液冷ジャケット1’の信頼性を高めることができる。
【0100】
さらに、凹溝20’の流入したメタルが、支持面15aの表面に対して直交して垂下する壁面を構成するので、この壁面が堰の役目を果たし、ジャケット本体10と封止体30の接合部における液密性を向上させることができる。
【0101】
また、本実施形態では、凹溝20’は、支持面15aの幅方向中央部に形成されているが、回転ツール50を突合部40よりも内側に偏移させて二周目の摩擦攪拌を行っているので、回転ツール50が凹溝20’の上方で回転することなる。これによって、突合部40上を移動した回転ツール50による摩擦攪拌によって塑性流動化されたメタルが凹溝20’に流入しやすくなる。さらに、回転ツール50のショルダー径寸法R1が、凹溝20’の幅寸法W1よりも大きいので、凹溝20’の上方を回転ツール50のショルダー部51で覆うことができ、凹溝20’の上方全体が塑性化領域43となり、塑性流動化されたメタルが凹溝20’に流入しやすくなる。したがって、凹溝20’内に塑性流動化されたメタルが流入して、ジャケット本体10と封止体30の接合部における密閉性能を向上させることができる。
【0102】
さらに、二周目の回転ツール50の押込み量を一周目よりも大きくしているので、凹溝20’内に塑性流動化されたメタルを確実に流入させることができる。さらには、一周目の回転ツール50の押込み量を小さくすることができるので、バリの発生を低減することができ、ジャケット本体10および封止体30’の材料ロスを低減することができる。また、ジャケット本体10側は回転ツール50のシアー側50bとなるが、シアー側50bの押込み量が小さくなることによって、メタルの攪拌作用が小さくなるので、空洞欠陥の発生を抑制することができる。
【0103】
また、回転ツール50を突合部40に沿って一周させた後、一周目の始端部に沿って回転ツール50を移動させて、塑性化領域41の一部を重複させることで、凹部11の開口部12で塑性化領域41が途切れることがない。したがって、開口部12の全周に亘ってジャケット本体10と封止体30とが確実に接合されるので、接合部の密閉性能をさらに向上させることができる。
【0104】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明の実施形態はこれに限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更が可能であり、例えば、前記実施形態では、封止体30が平面視正方形であるが、これに限定されるものではなく、長方形、多角形、円形等の他の形状であってもよい。さらに、前記実施形態では封止体30に設けられているフィン32は、蓋板部と別体であってもよく、例えば、ジャケット本体と一体であってもよい。
【0105】
また、前記実施形態では、液冷ジャケットの製造方法として、ジャケット本体10と封止体30との摩擦攪拌接合方法を説明したが、摩擦攪拌接合方法の実施形態としてはこれに限られるものではなく、他の形態の金属材(ジャケット本体10に相当する第一部材と、封止体30に相当する板状の第二部材)同士の接合に適用できるのは勿論である。
【0106】
さらに、前記実施形態では、ジャケット本体10の凹部11の開口周縁部12aの段差側面15bと、凹溝20の外側面20aは、垂直に形成されているが、これに限定されるものではない。ジャケット本体10および封止体30をダイキャストにて作製する場合において、段差側面15bと、凹溝20の外側面20aの上方が広がるように傾斜して形成すれば、型から抜き出しやすくなり、ジャケット本体10と封止体30の製作が容易になる。
【符号の説明】
【0107】
1 液冷ジャケット
10 ジャケット本体
11 凹部
12 開口部
12a 開口周縁部
15a 支持面
15b 段差側面
20 凹溝
30 封止体
30a 周縁部
30b 外周面
40 突合部
41 塑性化領域
43 塑性化領域
50 回転ツール
60 仮接合用回転ツール
20’ 凹溝
30’ 封止体


【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱発生体が発生する熱を外部に輸送する熱輸送流体が流れるとともに一部が開口した凹部を有するジャケット本体に、前記凹部の開口部を封止する封止体を摩擦攪拌接合によって固定して構成される液冷ジャケットの製造方法において、
前記ジャケット本体の前記凹部の開口周縁部に、その表面から下がった段差底面からなる前記封止体の支持面を形成し、この支持面に凹溝を形成し、
前記支持面に前記封止体を載置して、前記ジャケット本体の段差側面と前記封止体の外周面を突き合わせた状態で、前記段差側面と前記封止体との突合部に沿って回転ツールを一周させ、前記突合部に塑性化領域を形成しつつ、前記凹溝に塑性流動化されたメタルを流入させて、前記封止体を前記ジャケット本体に固定する
ことを特徴とする液冷ジャケットの製造方法。
【請求項2】
前記凹溝は、前記支持面の外周部に形成されている
ことを特徴とする請求項1に記載の液冷ジャケットの製造方法。
【請求項3】
前記回転ツールを前記突合部に沿って一周させた後、一周目の始端部に沿って前記回転ツールを移動させて、前記塑性化領域の一部を重複させる
ことを特徴とする請求項1または請求項2に記載の液冷ジャケットの製造方法。
【請求項4】
前記回転ツールの攪拌ピンの長さ寸法は、前記封止体の厚さ寸法と同等或いは前記厚さ寸法より小さい
ことを特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれか1項に記載の液冷ジャケットの製造方法。
【請求項5】
前記回転ツールのショルダー径寸法は、前記凹溝の幅寸法よりも大きい
ことを特徴とする請求項1乃至請求項4のいずれか1項に記載の液冷ジャケットの製造方法。
【請求項6】
前記回転ツールを一周させた後に、前記回転ツールを前記突合部の外側に偏移させて、前記回転ツールの攪拌ピンが前記ジャケット本体上を移動するように、前記回転ツールを前記突合部に沿ってさらに一周させた
ことを特徴とする請求項2乃至請求項5のいずれか1項に記載の液冷ジャケットの製造方法。
【請求項7】
前記回転ツールの二周目で形成された塑性化領域と、前記回転ツールの一周目で形成された塑性化領域とが、全周に亘ってその幅方向の一部同士が重複するように前記回転ツールを移動させた
ことを特徴とする請求項6に記載の液冷ジャケットの製造方法。
【請求項8】
前記封止体の厚さ寸法は、前記ジャケット本体の前記凹部の開口周縁部の表面から前記段差底面までの深さ寸法よりも大きい
ことを特徴とする請求項1乃至請求項7のいずれか1項に記載の液冷ジャケットの製造方法。
【請求項9】
前記凹溝は、前記支持面の外周縁に沿ってその内側寄りに形成されている
ことを特徴とする請求項1に記載の液冷ジャケットの製造方法。
【請求項10】
前記回転ツールを前記突合部上で一周させた後に、前記回転ツールを前記突合部の内側に偏移させて、前記回転ツールの攪拌ピンが前記凹溝の上方を移動するように、前記回転ツールを前記突合部に沿ってさらに一周させた
ことを特徴とする請求項9に記載の液冷ジャケットの製造方法。
【請求項11】
前記回転ツールの二周目で形成された塑性化領域と、前記回転ツールの一周目で形成された塑性化領域とが、全周に亘ってその幅方向の一部同士が重複するように前記回転ツールを移動させた
ことを特徴とする請求項10に記載の液冷ジャケットの製造方法。
【請求項12】
前記回転ツールの二周目における押込み量を、一周目における押込み量よりも大きくする
ことを特徴とする請求項10または請求項11に記載の液冷ジャケットの製造方法。
【請求項13】
前記回転ツールを前記開口部に対して右回りに移動させるときは、前記回転ツールを右回転させ、
前記回転ツールを前記開口部に対して左回りに移動させるときは、前記回転ツールを左回転させる
ことを特徴とする請求項1乃至請求項12のいずれか1項に記載の液冷ジャケットの製造方法。
【請求項14】
前記回転ツールで前記塑性化領域を形成する工程に先立って、前記突合部の一部を前記回転ツールよりも小型の仮接合用回転ツールを用いて仮接合する
ことを特徴とする請求項1乃至請求項13のいずれか1項に記載の液冷ジャケットの製造方法。
【請求項15】
前記突合部が矩形環状を呈しており、
前記仮接合用回転ツールで前記突合部を仮接合する工程において、前記突合部の一方の対角同士を先に仮接合した後に、他方の対角同士を仮接合する
ことを特徴とする請求項14に記載の液冷ジャケットの製造方法。
【請求項16】
前記突合部が矩形環状を呈しており、
前記仮接合用回転ツールで前記突合部を仮接合する工程において、前記突合部の一方の対辺の中間部同士を先に仮接合した後に、他方の対辺の中間部同士を仮接合する
ことを特徴とする請求項14に記載の液冷ジャケットの製造方法。
【請求項17】
第一部材の凹部の開口部に板状の第二部材を摩擦攪拌接合によって固定する摩擦攪拌接合方法において、
前記第一部材の前記凹部の開口周縁部に、その表面から下がった段差底面からなる前記第二部材の支持面を形成し、この支持面に凹溝を形成し、
前記支持面に前記第二部材を載置して、前記第一部材の段差側面と前記第二部材の外周面を突き合わせた状態で、前記段差側面と前記第二部材との突合部に沿って回転ツールを一周させ、前記突合部に塑性化領域を形成しつつ、前記凹溝に塑性流動化されたメタルを流入させて、前記第二部材を前記第一部材に固定する
ことを特徴とする摩擦攪拌接合方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2010−179349(P2010−179349A)
【公開日】平成22年8月19日(2010.8.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−27045(P2009−27045)
【出願日】平成21年2月9日(2009.2.9)
【出願人】(000004743)日本軽金属株式会社 (627)
【Fターム(参考)】