説明

液冷一体型基板の製造方法および液冷一体型基板

【課題】原材料コストや加工コストを低く抑え、反りが低減され、優れた強度および放熱性を備えた液冷一体型基板の製造方法および液冷一体型基板を提供する。
【解決手段】金属回路板15および金属ベース板20とセラミックス基板10との接合は溶湯接合法によって行われ、金属ベース板20と放熱器30との接合はろう接合法によって行われ、このろう接合法において、Al−Si−Mg合金組成のろう材のみからなる単層ブレージングシートを、金属ベース板20と放熱器30との間に挟みこみ面接触させた状態で、金属ベース板20と放熱器30とを、−1.25×10−3×(放熱器の断面2次モーメント)+2.0以上の面圧で加圧した後に加熱して、不活性ガス雰囲気下で、ろう付け温度570℃以上に保持しつつ、無フラックスでろう付け接合する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属−セラミックス接合基板に関し、特にセラミックス基板の両面にそれぞれアルミニウムまたはアルミニウム合金からなる金属回路板および金属ベース板が接合され、金属ベース板のセラミックス基板が接合されていない面に放熱器が接合されている液冷一体型基板の製造方法および液冷一体型基板に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば電気自動車、電車、工作機械等の大電流を制御するために使用されている従来のパワーモジュールでは、ベース板と呼ばれている金属板または複合材の一方の面に金属−セラミックス絶縁基板が半田付けにより固定され、この金属−セラミックス絶縁基板上に半導体チップ等の電子部品が半田付けにより固定されている。また、ベース板の他方の面(裏面)には、ネジ止め等により熱伝導グリースを介して金属製の放熱フィンや冷却ジャケット等の放熱器が取り付けられている。
【0003】
この金属−セラミックス絶縁基板へのベース板や電子部品等の半田付けは加熱により行われるため、半田付けの際に接合部材間の熱膨張係数の差によりベース板の反りが生じやすい。また、電子部品等から発生した熱は、金属−セラミックス絶縁基板と半田とベース板を介して放熱フィンや冷却ジャケット(放熱器)により空気や冷却水等に逃がされるため、ベース板の反りが発生すると放熱フィンや冷却ジャケットをベース板に取り付けた際のクリアランスが大きくなり、放熱性が極端に低下してしまう。
【0004】
そこで、例えば特許文献1には、上記問題点であるベース板の反りを非常に小さくすることができる放熱フィン(補強部)と金属ベース板とが一体的に形成され溶湯接合法により作製された金属−セラミックス直接接合基板が開示されている。また、例えば特許文献2および特許文献3には、金属ベース板や放熱フィン等に取り付けて、熱発生体を効率的に冷却する冷却ジャケットが開示されている。
【0005】
さらに特許文献4には、質量%で、Mgを0.1〜5.0%、Siを3〜13%含有するAl−Si系ろう材が最表面に位置するアルミニウムクラッド材を用いて、減圧を伴わない非酸化性雰囲気で加熱温度559〜620℃において、前記Al−Si系ろう材によりろう付け対象部材との接触密着部を接合するろう付け方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2008−218938号公報
【特許文献2】特開2006−324647号公報
【特許文献3】特開2008−135757号公報
【特許文献4】特許第4547032号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、上記特許文献1に記載の金属−セラミックス基板においては、放熱を行う機構として金属ベース板の一方の面に放熱フィンを一体的に設けるとしており、アルミニウムまたはアルミニウム合金からなる金属ベース板に対して一体的に放熱フィンを形成するために、例えば鋳型等を用いてフィン形状を加工する必要があり、加工コストや原材料コストが増大してしまうといった問題があった。また、フィン形状を加工する際に、加工時に金属ベース板に発生する残留応力によって金属ベース板に反りが発生してしまう恐れもあった。さらに、複数の放熱フィンを形成するために溝加工を行う場合、金属−セラミックス基板全体(一体型基板全体)としての強度が不十分になってしまう恐れがあった。
【0008】
また、上記特許文献1に記載の金属−セラミックス基板においては、過渡熱伝導が十分に確保されない恐れがあることから、その放熱性(冷却効率)について更なる改良の余地があった。
【0009】
また、上記特許文献2、特許文献3に記載の冷却ジャケットを金属−セラミックス基板に取り付ける(接合する)ことにより、放熱性(冷却効率)の面で優れた金属−セラミックス基板(一体型基板)が得られるが、上記特許文献2、特許文献3に記載された金属−セラミックス基板は、金属ベース板に放熱フィンが形成され、その放熱フィンを覆うように(収納するように)冷却ジャケットが接合されているため、上述した問題点である加工コスト・原材料コストの増大や一体型基板全体としての強度が不十分になってしまうといった問題点は解消されないと考えられる。さらには、特許文献3の扁平管に直接金属−セラミックス基板を接合すると、扁平管や金属−セラミックス基板の金属回路板の反りが大きくなり、電子部品の実装が困難になったり、熱衝撃が加わったときの信頼性の問題が発生することが判明した。
【0010】
さらに、上記特許文献4に記載のろう付け方法によると、フラックスや真空設備を必要とせずに大気圧下でのフラックスレスろう付けが可能になり、ろう材以外の被ろう付け構成部材へMgを添加した場合にも、ろう付け阻害要因とはならず、減圧を伴わない雰囲気での加熱となるため、MgやZnの蒸発による炉内壁等の汚染も殆ど生じない。しかしながら、上記特許文献4に記載のろう付け方法では、芯材とろう材とからなる2層以上のクラッド材を使用しており、当該ブレージングシートをアルミニウム合金部材同士の面ろう付けに適用するためには、芯材の両面にろう材を配置した3層クラッド材とする必要があり、製造が煩雑になりコストアップを伴う。
【0011】
そこで、上記問題点に鑑み、本発明の目的は、原材料コストや加工コストを低く抑え、一体型基板としての反り(形状変形)が低減され、優れた強度および放熱性を備えた液冷一体型基板の製造方法および液冷一体型基板を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記目的を達成するため、本発明は、単層型ブレージングシートによって2つのアルミニウム合金部材同士を大気圧下の不活性ガス雰囲気中で無フラックス面ろう付けすることとした。即ち、本発明によれば、セラミックス基板の一方の面にアルミニウムまたはアルミニウム合金からなる金属回路板が接合されると共に、他方の面にアルミニウムまたはアルミニウム合金からなる平板状の金属ベース板の一方の面が接合され、前記金属ベース板の他方の面には押出し材で構成される液冷式の放熱器が接合された液冷一体型基板の製造方法であって、前記金属回路板および前記金属ベース板と前記セラミックス基板との接合は溶湯接合法によって行われ、前記金属ベース板と前記放熱器との接合はろう接合法によって行われ、前記ろう接合法において、Al−Si−Mg合金組成のろう材のみからなる単層ブレージングシートを、前記金属ベース板と前記放熱器との間に挟みこみ面接触させた状態で、前記金属ベース板と前記放熱器とを、(1)式以上の面圧で加圧した後に加熱して、不活性ガス雰囲気下で、ろう付け温度570℃以上に保持しつつ、無フラックスでろう付け接合することを特徴とする、液冷一体型基板の製造方法が提供される。
面圧(MPa)=−1.25×10−3×(放熱器の断面2次モーメント)+2.0 ・・・(1)
【0013】
上記液冷一体型基板の製造方法においては、前記放熱器は多孔管からなり、前記多孔管の冷媒の流路である溝幅W(mm)と溝深さD(mm)との関係が、
3.3W<D<10W
を満たすことが好ましく、前記多孔管の冷媒の流路である溝幅W(mm)と仕切り板の幅T(mm)との関係が、
−W+1.4<T/W<−1.5W+3.3 (0.4≦W≦1.0の場合)
−0.2W+0.7<T/W<−1.5W+3.3 (1.0<W<2.0の場合)
を満たすことが好ましい。さらに、前記溝幅Wが0.4mm以上であることが好ましい。
【0014】
さらに、前記金属ベース板と前記放熱器とが、前記多孔管の仕切り板に負荷される仕切り板面圧が、−0.5×D(溝深さ)+10(MPa)以下となるように加圧した後に加熱してろう付け接合されることが好ましい。
【0015】
また、上記液冷一体型基板の製造方法においては、前記放熱器は熱伝導率が170W/mK以上であるアルミニウムまたはアルミニウム合金からなることが好ましく、前記金属ベース板は、熱伝導率が170W/mK以上であるアルミニウムまたはアルミニウム合金であることが好ましく、前記金属回路板は、熱伝導率が170W/mK以上であるアルミニウムまたはアルミニウム合金であることが好ましい。
【0016】
さらに、前記金属回路板の厚さt1と前記金属ベース板の厚さt2の関係はt2/t1≧2を満たす厚さに形成されることが好ましい。前記金属回路板の厚さt1は0.4〜3mmであり、前記金属ベース板の厚さt2は0.8〜6mmであることが好ましい。また、前記単層ブレージングシートの厚さが10〜200μmであることが好ましい。
【0017】
また、本発明によれば、セラミックス基板の一方の面にアルミニウムまたはアルミニウム合金からなる金属回路板が接合されると共に、他方の面にアルミニウムまたはアルミニウム合金からなる平板状の金属ベース板の一方の面が接合され、前記金属ベース板の他方の面には押出し材で構成される液冷式の多孔管からなる放熱器が接合された液冷一体型基板において、前記金属ベース板と前記放熱器とが、Al−Si−Mg合金組成のろう材によってろう付け接合されたことを特徴とする、液冷一体型基板が提供される。
【0018】
上記液冷一体型基板においては、前記放熱器における前記多孔管の冷媒の流路である溝の幅W(mm)と溝深さD(mm)との関係が、
3.3W<D<10W
を満たすことが好ましく、前記多孔管の冷媒の流路である溝幅W(mm)と仕切り板の幅T(mm)との関係が、
−W+1.4<T/W<−1.5W+3.3 (0.4≦W≦1.0の場合)
−0.2W+0.7<T/W<−1.5W+3.3 (1.0<W<2.0の場合)
を満たすことが好ましい。さらに、前記溝幅Wが0.4mm以上であることが好ましい。
【0019】
また、前記放熱器は熱伝導率が170W/mK以上であるアルミニウムまたはアルミニウム合金からなることが好ましく、前記金属ベース板は、熱伝導率が170W/mK以上であるアルミニウムまたはアルミニウム合金であることが好ましく、前記金属回路板は、熱伝導率が170W/mK以上であるアルミニウムまたはアルミニウム合金であることが好ましい。さらに、前記セラミックス基板と前記金属回路板との接合、前記セラミックス基板と前記金属ベース板との接合は、溶湯接合法あるいはろう接合法によって行われることが好ましい。
【0020】
前記金属回路板の厚さt1と前記金属ベース板の厚さt2の関係は、t2/t1≧2を満たし、前記金属回路板の厚さt1は0.4〜3mmであり、前記金属ベース板の厚さt2は0.8〜6mmであることが好ましい。前記多孔管の仕切り板が座屈していてもよい。
【0021】
本発明では、前記ろう接合法は、大気圧下の不活性ガス雰囲気中における無フラックスろう付けを採用しているため、真空ろう付け法とは異なり連続処理炉によるろう付けが可能となり、フラックス等による炉内への汚染の心配がない。また、本発明のろう接合法では、フラックスを用いることなく、金属ベース板と放熱器との間に治具等を用いて所定の面圧を付加してろう付けするため、前記金属ベース板と前記放熱器との間に発生しやすい空隙欠陥等を抑制することができ、結果として品質の安定した面ろう付けが行える。
【0022】
前記ろう接合法において用いるブレージングシートは、Al−Si−Mg合金組成のろう材からなる単層ブレージングシートであるため、所定の組成のスラブをDC鋳造して、均質化処理、熱間圧延、冷間圧延、必要に応じて中間焼鈍を施すことにより、比較的安価に製造できる。
【発明の効果】
【0023】
本発明によれば、原材料コストや加工コストを低く抑え、一体型基板としての反り(形状変形)が低減され、優れた強度および放熱性を備えた液冷一体型基板の製造方法および液冷一体型基板が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】液冷一体型基板1の側面断面図である。
【図2】液冷一体型基板1と蓋部材40の斜視図である。
【図3】実施例で用いた多孔管を示す断面図である。
【図4】実施例で用いたろう付け用治具を正面から見た写真である。
【図5】実施例1で行ったろう付け試験によるアルミ材の断面2次モーメントと反り量との関係を示すグラフである。
【図6】実施例1で得られたアルミ材の断面2次モーメントおよび面圧と反り量との関係を示すグラフである。
【図7】実施例2で行ったろう付け試験のろう付け後の外観を示す写真であり、(a)はサンプルの長手方向を多孔管の仕切り板に対して平行方向(X方向)に沿ってろう付けしたタイプ、(b)はサンプルの長手方向を多孔管の仕切り板に対して垂直方向(Y方向)にろう付けしたタイプである。
【図8】実施例2の試験による反り量を示すグラフである。
【図9】実施例2の試験結果であり、小型放熱基板(サンプル)のろう付け方向による断面2次モーメントと反り量との関係を示すグラフである。
【図10】実施例3で行った大型放熱基板のろう付け試験の断面2次モーメントと反り量との関係を示すグラフである。
【図11】実施例3で行った大型放熱基板と小型放熱基板の、面圧に対する単位長さ当たりの反り量を比較したグラフである。
【図12】実施例3で得られたアルミ材の断面2次モーメントおよび面圧と反り量との関係を示すグラフである。
【図13】実施例4で得られた溝幅および溝深さと性能との関係を示すグラフである。
【図14】実施例4で得られた溝幅および仕切り板の幅(放熱フィン厚さ)/溝幅と性能との関係を示すグラフである。
【図15】実施例4で得られた各面圧における仕切り板の変形状態と溝深さの分布を示すグラフであり、(a)は350N、(b)は850N、(c)は1100Nの場合である。
【図16】実施例4で得られた限界荷重と溝幅との関係を示すグラフである。
【図17】実施例4で得られた多孔管の高さ(溝深さ)と限界面圧との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、本発明の実施の形態を、図を参照して説明する。なお、本明細書および図面において、実質的に同一の機能構成を有する要素においては、同一の符号を付することにより重複説明を省略する。
【0026】
図1は本発明の実施の形態にかかる液冷一体型基板1の側面断面図である。図1に示すように、液冷一体型基板1においては、例えばAlN基板(窒化アルミニウム基板)やSiN基板(窒化珪素基板)であるセラミックス基板10の上面(図1中上方)にアルミニウムまたはSi、Mg、Zn、Bi、Snから選ばれる少なくとも1つの元素を含有するアルミニウム合金からなる金属回路板15が接合されており、また、セラミックス基板10の下面(図1中下方)にはアルミニウムまたはSi、Mg、Zn、Bi、Snから選ばれる少なくとも1つの元素を含有するアルミニウム合金からなる金属ベース板20が接合されている。また、金属ベース板20の下面(図1中下方)には押出し材によって構成される中空角柱形状の多孔管からなる放熱器30が接合されている。ここで、押出し材とは、押出し加工によって一体的に成形される部材を示している。
【0027】
なお、本実施の形態ではセラミックス基板10と金属回路板15の接合およびセラミックス基板10と金属ベース板20の接合は溶湯接合法によって接合が行われているものとし、金属ベース板20と放熱器30の接合はろう接合法によって接合が行われている。即ち、金属ベース板20と放熱器30との接合において、その間隙部31には、接合のための、Al−Si−Mg合金組成のろう材のみからなる単層ブレージングシートによるろう材層33が形成されることとなる。ろう接合法が行われる際に、接合対象物には所定の厚さ以上の厚み(ろう接時に溶けて形状が保持できない等、ろう接合に耐えうるだけの厚み)が必要となるため、この場合、特に放熱器30の上面(接合対象面)の厚みが十分に確保されている必要がある。
【0028】
また、図1に示すように、放熱器30は内部空間が中空であり、その内部空間を仕切る仕切り板(リブ、放熱フィン)35が設けられている。本実施の形態にかかる放熱器30では、図示のように内部空間を7箇所に仕切るように仕切り板35が設けられ、放熱器30の内部空間には仕切り板35によって複数(7箇所)の各流路38が形成されることとなる。仕切り板35が設けられた放熱器30は押出し加工により一体物として作製される。
【0029】
また、図2は、液冷一体型基板1と蓋部材40の斜視図である。蓋部材40は放熱器30の手前側(図2中手前側)の開口部の側面30aを覆うように取り付けられる部材であり、蓋部材40は、蓋部41と蓋部41の側面(放熱器30に取り付けた際の側面30aに対応する面)の2箇所に設けられる液循環ポート45(45a、45b)から構成される。また、放熱器30において図2中手前側の開口部の反対側に設けられた開口部には、図示しない液循環ポートを有していないこと以外は同様の蓋部材が取り付けられる。蓋部材40は、実際に液冷一体型基板1において、金属回路板15に取り付けられた例えば半導体素子等の発熱により、液冷却が行われる場合に放熱器30に取り付けられる。液循環ポート45(45a、45b)には図示しない冷却液循環機構が接続され、冷却液循環機構から液循環ポート45aを介して放熱器30の内部(流路38)に冷却液が供給され、液循環ポート45bを介して放熱器30の内部から冷却液が冷却液循環機構に排出される。即ち、冷却液循環機構の作動により冷却液が流路38に流れこみ、その後、再度冷却液循環機構に戻るといったように、冷却液が放熱器30内と冷却液循環機構との間で循環し、放熱器30の冷却能力を一定に保つような構成となっている。この蓋部材40と放熱器30とは、金属ベース20と放熱器30とがろう接合される時、同時にろう接合しても構わない。
【0030】
一方、本実施の形態にかかる液冷一体型基板1においては、金属回路板15の厚さ(高さ)t1と、金属ベース板20の厚さ(高さ)t2の関係は、t2/t1≧2となっていることが好ましい(例えば図1参照)。また、この時の各値としては、t1が0.4〜3mmであり、t2が0.8〜6mmである。金属回路板15の高さt1と、金属ベース板20の高さt2の関係がt2/t1≧2の関係であることが望ましいのは、充分な過渡熱の放熱性を得ること、一体型基板の反りを抑制するためである。また、t1が0.4〜3mmであり、t2が0.8〜6mmであることが望ましいのは、充分な過渡熱の放熱性を得ること、一体型基板の反りを抑制するためである。なお、t2が0.8〜3mmであることがさらに好ましい。
【0031】
また、放熱器30の材質としては、熱伝導率が170W/mK以上であるアルミニウムまたはSi、Mg、Zn、Bi、Snから選ばれる少なくとも1つの元素を含有するアルミニウム合金が望ましい。
【0032】
また、金属回路板15の表面粗さは、素子実装のための半田濡れを良くするためにRa0.3〜2.0μm程度が好ましい。放熱器30の表面粗さは、一般的な押出材及び板材で得られる程度で良い。また、金属ベース板20の放熱器30接合側の表面粗さはろう付性を良くするために、Ra1.0〜2.0μmが好ましい。なお、放熱器30と金属ベース板20を溶湯接合法で接合する場合はRa0.3〜2.0μmでも充分に接合できる。
【0033】
以上、図1および図2を参照して説明した液冷一体型基板1において、例えば半導体素子等の電子部品が金属回路板15に取り付けられ使用された場合に、その電子部品から発生した熱は、上記説明したように内部に冷却液が循環する放熱器30によって放熱され、液冷一体型基板1全体が冷却される。ここで、上述したように、金属回路板15の高さt1と、金属ベース板20の高さt2の関係がt2/t1≧2となっていることや、各値を、それぞれt1が0.4〜3mmであり、t2が0.8〜6mmであることが望ましく、十分な放熱性を発揮する液冷一体型基板1が得られることとなる。
【0034】
また、金属回路板15、金属ベース板20および放熱器30の材質を、熱伝導率が170/mK以上であるアルミニウムまたはSi、Mg、Zn、Bi、Snから選ばれる少なくとも1つの元素を含有するアルミニウム合金とすることで、一体型基板としての放熱性や強度や信頼性(耐熱衝撃性等)が十分に確保された液冷一体型基板1が得られる。さらには、溶湯接合法やろう接合法を用いて各部材同士を接合することで接合信頼性が十分に確保される。
【0035】
また、放熱器30を、熱伝導率が170W/mK以上であるアルミニウムまたはアルミニウム合金からなる押出し材で構成することで、放熱性も良く、放熱器30をフィン形状に切削など機械加工する場合等に比べ、放熱器30における反り(形状変形)の発生が抑えられると共に、押出し加工で一体的に成形を行うため、原材料コストや加工コストの面で優れた液冷一体型基板1を製造することが可能となる。
【0036】
本発明において、金属ベース板20と放熱器30とは、前述の通りろう付けにより接合されている。ろう付けは、金属ベース板20と放熱器30との間に、Al−Si−Mg合金組成の単層ブレージングシートからなるろう材33を挟みこみ、面接触させた状態で所定の荷重を負荷し、ろう付け炉内で、所定のろう付け温度まで加熱して行われる。なお、ブレージングシートとは、ろう材箔のことである。本発明では、
面圧=(ろう付けの加熱前のセット時に負荷する荷重)/(金属ベース板の面積)
とし、この面圧を、下記(1)式以上とした。
面圧(MPa)=−1.25×10−3×(放熱器の断面2次モーメント)+2.0 ・・・(1)
尚、放熱器30の断面2次モーメントは、次式から求める。
仕切り板に対して平行方向の場合は、
BH/12−((溝幅)×本数×D)/12
仕切り板に対して垂直方向の場合は、
BH/12−(B×D)/12
ただし、B:放熱器と金属ベース板の接合部の幅,H:放熱器の高さ,D:放熱器における多孔管の溝深さ(仕切り板の高さ)、T:仕切り板の幅
ろう付け時の面圧を、金属ベース板20の剛性に対して(1)式以上とすることにより、反り量が低減された一体型基板を得ることができる。
【0037】
次に、本発明で採用したフラックスレスの面ろう付け法における、単層ブレージングシートのAl−Si−Mg合金組成、ろう材の厚み、被接合材表面の酸化皮膜厚み、不活性ガス雰囲気、ろう付け温度及び保持時間等の詳細について説明する。
【0038】
Al−Si−Mg合金組成とは、例えば、Si:3〜12質量%、Mg:0.1〜5.0質量%を含み、残部がAl及び不可避的不純物からなる成分組成を有するものが好ましい。Siは、その含有量によって液相線の温度を下げるとともに、面ろう付け中の濡れ性を改善するための元素である。Mgは、自らが酸化されることにより、還元剤として作用するため、ろう付け加熱時の前記金属ベース板や前記放熱器の接合面とろう材との界面におけるアルミニウムの酸化を抑制し、面ろう付け中の濡れ性を改善するための元素である。Mgを所定量含有することにより、大気圧下の不活性ガス雰囲気中における無フラックスろう付けが可能となる。
【0039】
単層型ブレージングシートを構成するろう材の厚みは、健全な面ろう付けを達成できる厚みであればよい。例えば、厚さが10〜200μmのAl−Si−Mg合金薄板が好ましい。厚みが10μm未満であると、十分なろう付け強度が得られない可能性がある。厚みが200μmを超えると、接合面から染み出すろう材の量が多くなりすぎて、コスト高となる。したがって、ろう材の厚みの範囲は、10〜200μmが好ましい。より好ましい厚みの範囲は、15〜150μmである。さらに好ましい厚みの範囲は、15〜100μmである。
【0040】
面ろう付けされる金属ベース板20と放熱器30の材料としては、AA1000系、AA6063等が適用可能であり、特にろう付け面に形成されている酸化皮膜の厚みが30nm以下のものが好ましい。
【0041】
金属ベース板20と放熱器30の材料の固相線温度は570℃以上、かつ、ろう付け温度は不活性ガス雰囲気化で570℃以上とし、無フラックスでろう付け接合する。そして、面ろう付け時のろう付け温度における保持時間は2分以上、特に5分以上とすることが好ましい。
【0042】
不活性ガスとしては、ヘリウムガス、アルゴンガスの他、窒素ガスも当然のことながら含むものとする。そして、コスト的には面ろう付け時の不活性ガスは窒素ガスを採用することが好ましく、その窒素ガス中の酸素濃度は500ppm以下とすることが好ましい。
【0043】
また、放熱器30の各溝(冷却液の流路38)の深さ寸法D(mm)は、各溝の幅寸法W(mm)に対して、
3.3W<D<10W
の範囲であることが、好適な熱性能と押出し性を両立させる。さらに、幅W(mm)と仕切り板の幅T(mm)とが、
−W+1.4<T/W<−1.5W+3.3 (0.4≦W≦1.0の場合)
−0.2W+0.7<T/W<−1.5W+3.3 (1.0<W<2.0の場合)
を満たすことで、好適な熱性能と押出し性を両立させることができる。
【0044】
さらに、
仕切り板の面圧=(ろう付け時に放熱器30に負荷する荷重)/(放熱器30の仕切り板の面積)
とし、仕切り板の面圧を、−0.5×D(溝深さ)+10(MPa)以下とすることにより、放熱器の仕切り板の座屈を低減させることができる。ただし、仕切り板の面積は、仕切り材35を上板に平行な平面で切断したときの仕切り板の断面積を指す。
【0045】
以上、本発明の実施の形態の一例を説明したが、本発明は図示の形態に限定されない。当業者であれば、特許請求の範囲に記載された思想の範疇内において、各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、それらについても当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
【0046】
例えば、上記実施の形態において放熱器30の構成(断面形状)は、仕切り板35によって放熱器30の内部空間が7箇所に仕切られるものとしたが、これに限られるものではない。仕切り方や流路38の形成数は任意に設定可能であり、放熱器30の放熱性(冷却効率)が好適になるように適宜定めることが好ましい。
【実施例】
【0047】
〈実施例1〉
AlN基板の両面にアルミニウム合金が溶湯接合(直接接合)された放熱基板「アルミック」(商標登録)を用いて、ろう付けにより液冷一体型基板を製作するための基礎試験を行った。
【0048】
まず、長さ40mm×幅40mm×厚さ4mmの板材、長さ40mm×幅40mm×6mmの板材、長さ40mm×幅40mm×8mmの板材の3種類の、材質が合金番号A1100材(純アルミニウム)(固相線温度:643℃)からなる放熱器と、図3に示す長さ40mm×幅40mm×厚さ8.08mmの多孔管(材質:合金番号A6063アルミニウム合金製)(固相線温度:615℃)からなる放熱器を準備した。多孔管からなる放熱器には、図3の通り多数の冷媒の流路の管が連続して並んでおり、前記冷媒の流路である溝幅W(管の幅)が1.515mm、溝深さD(管の高さ)が6.06mm、仕切り板の幅(リブ厚さ、放熱フィン厚さ)が0.707mm、上板(天板)と下板(底板)の厚さがそれぞれ1.01mmであった。
【0049】
また、小型放熱基板として、アルミニウム合金からなる金属回路板の寸法が長さ15.7mm×幅26.4mm×厚さ0.6mm(t1)であって、セラミックス基板の寸法が長さ18.1mm×幅28.8mm×厚さ0.64mm、アルミニウム合金からなる金属ベース板20の寸法が長さ15.7mm×幅26.4mm×厚さ1.6mm(t2)を準備した。さらに、金属ベース板の20の厚さ(t2)が0.6mmであること以外は同じ構成である小型放熱基板を準備した。金属回路板および金属ベース板の材質は、0.4mass%Si−0.04mass%B−残部Alとした。なお、小型放熱基板の金属回路板及び金属ベース板は、いずれも直方体(板形状)であり、セラミックス基板の中央に配置、接合されている。
【0050】
図4に示すように、放熱器の上に、小型放熱基板の金属ベース板のアルミ部分と同一サイズ(長さおよび幅)のろう材(組成:10mass%Si−1.5mass%Mg−残部Al、厚さ15μm)をセットして、さらにろう材の上に放熱基板を置き、その上に治具を介して「インコネル」(登録商標)の皿バネをセットして所定の荷重(面圧)が負荷されるようにボルトで締め付けた。ろう材の組成を発光分光分析法にて測定した結果を表1に示す。また、表1に示されるFeは不可避的不純物である。なお、ボルトで締め付ける前に、ろう材の表面、放熱器の接合面及び金属ベース板の接合面には、フラックスを塗布していない。
【0051】
【表1】

【0052】
次に、窒素雰囲気中のろう付け炉内にセットした後、500℃まで50℃/min、605℃までは10℃/minで昇温して、ろう付け温度である605℃で10分間保持し、その後250℃までは15℃/minで冷却した。このようにろう付けした後、放熱基板の金属回路板表面の反り量(26.4mm長手方向)を測定した。結果を表2に示す。なお、反り量は、金属回路板の端部と中央部の高さの差を3次元表面粗さ計で測定した。
【0053】
【表2】

【0054】
表2から明らかなように、面圧が増加するに従い、また、放熱器(アルミ材)の断面2次モーメントが増加するに従い、放熱基板表面の反り量は減少する。また、図5に示すように、反り量と放熱器(アルミ材)の断面2次モーメントとの間には、良い相関関係があることがわかった。放熱基板の金属ベース板の厚さを変化させても反り量には差が見られなかったので、放熱基板の金属ベース板の厚さは、反りには影響しないと考えられる。ただし、過渡熱特性などの放熱性や信頼性を考慮すると、金属ベース板の厚さは大きい方が好ましい。反りが大きいと、半導体チップを半田付けによって金属回路板表面に接合する際などに不具合が発生するため、目標としている反り量は60μm以下であり、望ましくは50μm以下である。図6に示すように、反り量を60μm以下、あるいは50μm以下にするための、面圧と断面2次モーメントの範囲が存在することがわかった。つまり、
面圧(MPa)=−1.25×10−3×(放熱器の断面2次モーメント)+2.0 ・・・(1)
反り量の目標を50μm以下とすれば、(1)式以上の面圧を設定すれば、目標を達成できる。
【0055】
〈実施例2〉
図3に示すような、多数の冷媒の流路の管が連続して並んでおり、冷媒の流路である溝幅W(管の幅)が1.515mm、溝深さD(管の高さ)が6.06mm、仕切り板の幅(リブ厚さ、放熱フィン厚さ)Tが0.707mm、天板と底板の厚さがそれぞれ1.01mmである多孔管を、110mm(押出方向)×135mmに切断して多孔管からなる放熱器とし、その両側にφ18mm(内径16mm)のパイプを、蓋材としてろう付けした。図示しない冷却液循環機構により、冷媒は一方のパイプから供給され、多孔管を通過して他方のパイプから排出される構造となっている。また、多孔管の表面に、小型放熱基板(アルミ合金からなる金属回路板として15.7mm×26.4mm×0.6mm、アルミ合金からなる金属ベース板として15.7mm×26.4mm×1.6mm、セラミックス(AlN基板)18.1mm×28.8mm×0.64mm)を4枚ろう付けした。金属回路板15および金属ベース板20の材質は、0.4mass%Si−0.04mass%B−残部Alとした。このときの荷重を3500N、すなわち面圧を2.1MPaとした。ろう付け条件は実施例1と同様であるが、多孔管とパイプとのろう付けにはフラックスを塗布した。多孔管と小型放熱基板、および多孔管とパイプは同時に接合した。図7(a)に示すように小型放熱基板(5−1、5−2、5−3、5−4)の長手方向が多孔管の仕切り板に対して平行方向(冷媒の流路の方向)に沿ってろう付けしたタイプ(平行タイプと称す)と、図7(b)に示すように小型放熱基板(6−1、6−2、6−3、6−4)の長手方向が多孔管の仕切り板に対して垂直方向(冷媒の流路に直角方向)にろう付けしたタイプ(垂直タイプと称す)を試作した。これらの金属回路板表面の反り量の測定結果を図8に示す。反り量は、X方向(仕切り板に対して平行方向)の金属回路板表面、Y方向(仕切り板に対して垂直方向)の金属回路板表面、斜め方向(金属回路板の対角線方向)の金属回路板表面について、いずれも金属回路板の端部と中央部の高さの差として3次元表面粗さ計で測定した。
【0056】
図8から明らかなように、実施例1で得られた(1)式に基づいて、それ以上の面圧を設定したことにより、小型放熱基板を4枚ろう付けした場合でも、目標とする反り量50μm以下を達成することができた。
【0057】
また、仕切り板の方向によって断面2次モーメントが変化するので、図8に示すように反り量も変化する。そこで、X方向及びY方向の断面2次モーメントをそれぞれ計算して、さらに反り量を単位長さ当たりとして計算した結果を図9に示す。図9に示すように、仕切り板の方向が異なり断面2次モーメントが変化した場合でも、反り量は同一線上に分布することがわかり、反り量への影響因子として断面2次モーメントが妥当であることが判明した。
【0058】
〈実施例3〉
次に、長さ40mm×幅40mm×厚さ4mmの板材、長さ40mm×幅40mm×8mmの板材の2種類の、材質がA1100材からなる放熱器と、図3に示す長さ40mm×幅40mm×厚さ8.08mmの多孔管(材質:A6063合金製)からなる放熱器を準備した。多孔管からなる放熱器には図3の通り多数の冷媒の流路の管が連続して並んでおり、冷媒の流路である溝幅W(管の幅)が1.515mm、溝深さD(管の高さ)が6.06mm、仕切り板の幅(放熱フィン厚さ、リブ厚さ)が0.707mm、天板と底板の厚さがそれぞれ1.01mmであった。
【0059】
また、放熱基板(アルミック)として、アルミニウム合金からなる金属回路板の寸法が長さ27.4mm×幅32.4mm×厚さ0.6mm(t1)であって、セラミックス基板の寸法が28.8mm×38.8mm×0.64mmであり、アルミニウム合金からなる金属ベース板20の寸法が長さ27.4mm×幅32.4mm×厚さ1.6mm(t2)の大型放熱基板を準備した。金属回路板15および金属ベース板20の材質は、0.4mass%Si−0.04mass%B−残部Alとした。
【0060】
図4に示すように、放熱器の上に、放熱基板の金属ベース板のアルミ部分と同一サイズ(長さと幅)のろう材(組成:10mass%Si−1.5mass%Mg−残部Al、厚さ15μm)をセットして、さらにろう材の上に放熱基板を置き、ろう付けした。ろう接の条件は、面圧以外、実施例1と同様である。このとき得られた大型放熱基板の金属回路板表面の反り量(32.4mm方向)を実施例1と同様に測定した。なお、ろう付け時の荷重を、1150N(面圧1.31MPa)、1600N(面圧1.82MPa)の2通りに設定して試験を行った。
【0061】
図10に示すように、大型放熱基板の場合でも、断面2次モーメントと反り量は良い相関関係を示すことがわかった。また、前述の厚さ4mmのアルミ板からなる放熱器及び多孔管からなる放熱器に、前記小型放熱基板及び前記大型放熱基板をろう付けした時の面圧と反り量との関係を図11に示す。放熱基板のサイズが異なるので、反り量は放熱基板のサイズで割った値を用いた。図11から明らかなように、多孔管からなる放熱器の場合、反り量(反り量/放熱基板のサイズ)は、面圧と良い相関関係が見られており、放熱基板のサイズの影響は見られなかった。前記厚さ4mmのアルミ板からなる放熱器でも同様の結果となった。以上の結果より、放熱基板のサイズが異なっても、本発明の(1)式が適用できることがわかった。
【0062】
小型放熱基板の結果である図6に、大型放熱基板の結果を合わせた結果を図12に示す。尚、大型放熱基板の反り量を小型放熱基板の反り量に補正した。すなわち、大型放熱基板の反り量を1.18(32.4/27.4)で割った値で反り量を評価した。図12に示すように、大型放熱基板の結果は小型放熱基板の結果とほぼ一致した。つまり、放熱基板のサイズが変化しても(1)式が適用できることがわかった。
【0063】
以上の結果より、高放熱基板の反り量を50μm以下とするためには、(1)式以上の面圧を設定することが必要であることがわかった。
【0064】
〈実施例4〉
放熱器の大きさを50mm×70mmとし、放熱器として用いる多孔管の溝幅W、溝深さD、仕切り板の幅T(図3参照)を変化させて熱解析を行い、好適な溝幅Wと溝深さD、及び溝幅Wと仕切り板の幅T/溝幅W比との関係を求めた。さらに、多孔管の製造における押出限界を求めた。
【0065】
図13に、溝幅Wと溝深さDの関係を示す。図13に示すように、
D=3.3W
で示される熱性能限界は、熱性能が好適となる領域の下限であり、これより下方(Dが3.3Wより小さい場合)では熱性能が低下する。また、
D=10W
で示される押出限界は、押出し加工の可能な領域の上限であり、これを超える(Dが10Wより大きい場合)と押出しができない。さらに、溝幅Wと仕切り板の幅T/溝幅W比の関係を図14に示す。図14に示すように、
−W+1.4=T/W (0.4≦W≦1.0の場合)
−0.2W+0.7=T/W (1.0<W<2.0の場合)
で示される押出限界は、押出し加工の可能な領域の下限であり、これを下回ると押出しができない。
T/W=−1.5W+3.275
で示される熱性能限界は、熱性能が好適となる領域の上限であり、これを超えると熱性能が低下する。図13および図14に示すように、熱性能限界と押出限界から、溝幅W、溝深さD、仕切り板の幅Tの寸法に制約があることがわかった。なお、熱性能が好適となる下限は、金属回路基板にたとえばIGBTなどのパワー半導体チップを搭載したときの放熱性を考慮して設定したものである。
【0066】
図3に示すような多孔管の場合、放熱基板に負荷した荷重は、仕切り板(リブ、放熱フィン)に負荷される。アルミニウム合金からなる金属回路板および金属ベース板の寸法が長さ15.7mm×幅26.4mm、セラミックス基板の寸法が長さ18.1mm×幅28.8mm×厚さ0.64mm、アルミニウム合金の金属回路板15の厚さt1と金属ベース板20の厚さt2がそれぞれ0.6mm(t1)、1.6mm(t2)の放熱基板と図3に示す寸法の多孔管(40mm×40mm×8.08mm、材質A6063合金)からなる放熱器を、350N(仕切り板の面圧2.3MPa)、850N(仕切り板の面圧5.7MPa)、1100N(仕切り板の面圧7.4MPa)の3通りの荷重で、実施例1と同様にろう付けした。金属回路板15および金属ベース板20の材質は、0.4mass%Si−0.04mass%B−残部Alとした。
【0067】
ろう付け後の溝深さと仕切り板の変形状態を図15に示す。面圧7.4MPaでは仕切り板が大きく変形(座屈)し、溝深さが0.3mm減少した。面圧5.7MPaでは仕切り板の変形は小さくなり、溝深さは0.15mm減少した。面圧2.3MPaでは仕切り板の変形は非常に小さくなり、溝深さには変化が見られなかった。面圧7.3MPaの状態では冷却水の流れが不安定となり、熱性能がやや低下するが、許容範囲である。その限界の面圧は全体高さによって変化する。仕切り板の高さD‘が接合前の高さD(仕切り板の高さ、溝深さ)よりも10%変形すると、熱性能が金属回路板に半導体チップを搭載したときにその冷却に影響がでる程度に低下するので、それを指標として、仕切り板の変形量が10%以下となる溝幅を決定した。その結果を図16に示す。そのときの仕切り板の幅は、1.0mm一定とした。溝幅が減少すると仕切り板の本数が増加するので、図16から明らかなように、溝幅が減少するに従って、仕切り板が10%変形する荷重(限界荷重)は増加する。また、多孔管の高さが増加するに従い、限界荷重は減少する。
【0068】
図16の結果より、各溝幅での限界荷重を求めて、その荷重を仕切り板面積で除した値を限界面圧(MPa)とした。図17に示すように、その限界面圧は、多孔管の全体高さと良い相関関係にある。また、溝幅が増加するに従い限界面圧は減少するので、溝幅の小さい1.0mmで限界面圧を決定した。
【0069】
熱性能の低下が無い限界面圧は、−0.5×D(溝深さ、仕切り板の高さ)+10で求められ、それ以下の面圧を設定することで仕切り板の変形が無い冷却器を得ることができる。それ以上の面圧を加えると、仕切り板の座屈がさらに増えて溝幅W1の変化が大きくなるので、仕切り板の面圧を、−0.5×D(溝深さ、仕切り板の高さ)+10(MPa)以下とした。一方、大型放熱基板の場合には、荷重1100N(面圧4.1MPa)で、仕切り板の変形は無かった。なお、仕切り板の座屈は、金属回路板の反り量を小さくする効果があると考えられるので、前述の通り10%以内の変形量であれば熱性能の低下もなく、むしろ積極的に座屈を利用しても良い。
【産業上の利用可能性】
【0070】
本発明は、金属−セラミックス接合基板に適用され、特にセラミックス基板の両面にそれぞれアルミニウムまたはアルミニウム合金からなる金属回路板および金属ベース板が接合され、金属ベース板のセラミックス基板が接合されていない面に放熱器が接合されている液冷一体型基板およびその製造方法に適用される。
【符号の説明】
【0071】
1 液冷一体型基板
10 セラミックス基板
15 金属回路板
20 金属ベース板
30 放熱器
31 間隙部
33 ろう材層
35 仕切り板
38 流路
40 蓋部材
41 蓋部
45(45a、45b) 液循環ポート

【特許請求の範囲】
【請求項1】
セラミックス基板の一方の面にアルミニウムまたはアルミニウム合金からなる金属回路板が接合されると共に、他方の面にアルミニウムまたはアルミニウム合金からなる平板状の金属ベース板の一方の面が接合され、前記金属ベース板の他方の面には押出し材で構成される液冷式の放熱器が接合された液冷一体型基板の製造方法であって、
前記金属回路板および前記金属ベース板と前記セラミックス基板との接合は溶湯接合法によって行われ、
前記金属ベース板と前記放熱器との接合はろう接合法によって行われ、
前記ろう接合法において、Al−Si−Mg合金組成のろう材のみからなる単層ブレージングシートを、前記金属ベース板と前記放熱器との間に挟みこみ面接触させた状態で、前記金属ベース板と前記放熱器とを、(1)式以上の面圧で加圧した後に加熱して、不活性ガス雰囲気下で、ろう付け温度570℃以上に保持しつつ、無フラックスでろう付け接合することを特徴とする、液冷一体型基板の製造方法。
面圧(MPa)=−1.25×10−3×(放熱器の断面2次モーメント)+2.0 ・・・(1)
【請求項2】
前記放熱器は多孔管からなり、前記多孔管の冷媒の流路である溝幅W(mm)と溝深さD(mm)との関係が、
3.3W<D<10W
を満たすことを特徴とする、請求項1に記載の液冷一体型基板の製造方法。
【請求項3】
前記多孔管の冷媒の流路である溝幅W(mm)と仕切り板の幅T(mm)との関係が、
−W+1.4<T/W<−1.5W+3.3 (0.4≦W≦1.0の場合)
−0.2W+0.7<T/W<−1.5W+3.3 (1.0<W<2.0の場合)
を満たすことを特徴とする、請求項2に記載の液冷一体型基板の製造方法。
【請求項4】
前記溝幅Wが0.4mm以上であることを特徴とする、請求項2または3に記載の液冷一体型基板の製造方法。
【請求項5】
前記金属ベース板と前記放熱器とが、前記多孔管の仕切り板に負荷される仕切り板面圧が、−0.5×D(溝深さ)+10(MPa)以下となるように加圧した後に加熱してろう付け接合されたことを特徴とする、請求項2〜4のいずれかに記載の液冷一体型基板の製造方法。
【請求項6】
前記放熱器は熱伝導率が170W/mK以上であるアルミニウムまたはアルミニウム合金からなる、請求項1〜5のいずれかに記載の液冷一体型基板の製造方法。
【請求項7】
前記金属ベース板は、熱伝導率が170W/mK以上であるアルミニウムまたはアルミニウム合金である、請求項1〜6のいずれかに記載の液冷一体型基板の製造方法。
【請求項8】
前記金属回路板は、熱伝導率が170W/mK以上であるアルミニウムまたはアルミニウム合金である、請求項1〜7のいずれかに記載の液冷一体型基板の製造方法。
【請求項9】
前記金属回路板の厚さt1と前記金属ベース板の厚さt2の関係はt2/t1≧2を満たす厚さに形成される、請求項1〜8のいずれかに記載の液冷一体型基板の製造方法。
【請求項10】
前記金属回路板の厚さt1は0.4〜3mmであり、前記金属ベース板の厚さt2は0.8〜6mmである、請求項1〜9のいずれかに記載の液冷一体型基板の製造方法。
【請求項11】
前記単層ブレージングシートの厚さが10〜200μmであることを特徴とする、請求項1〜10のいずれかに記載の液冷一体型基板の製造方法。
【請求項12】
セラミックス基板の一方の面にアルミニウムまたはアルミニウム合金からなる金属回路板が接合されると共に、他方の面にアルミニウムまたはアルミニウム合金からなる平板状の金属ベース板の一方の面が接合され、前記金属ベース板の他方の面には押出し材で構成される液冷式の多孔管からなる放熱器が接合された液冷一体型基板において、
前記金属ベース板と前記放熱器とが、Al−Si−Mg合金組成のろう材によってろう付け接合されたことを特徴とする、液冷一体型基板。
【請求項13】
前記放熱器における前記多孔管の冷媒の流路である溝幅W(mm)と溝深さD(mm)との関係が、
3.3W<D<10W
を満たすことを特徴とする、請求項12に記載の液冷一体型基板。
【請求項14】
前記多孔管の冷媒の流路である溝幅W(mm)と仕切り板の幅T(mm)との関係が、
−W+1.4<T/W<−1.5W+3.3 (0.4≦W≦1.0の場合)
−0.2W+0.7<T/W<−1.5W+3.3 (1.0<W<2.0の場合)
を満たすことを特徴とする、請求項13に記載の液冷一体型基板。
【請求項15】
前記溝幅Wが0.4mm以上であることを特徴とする、請求項13または14に記載の液冷一体型基板。
【請求項16】
前記放熱器は熱伝導率が170W/mK以上であるアルミニウムまたはアルミニウム合金からなる、請求項12〜15のいずれかに記載の液冷一体型基板。
【請求項17】
前記金属ベース板は、熱伝導率が170W/mK以上であるアルミニウムまたはアルミニウム合金である、請求項12〜16のいずれかに記載の液冷一体型基板。
【請求項18】
前記金属回路板は、熱伝導率が170W/mK以上であるアルミニウムまたはアルミニウム合金である、請求項12〜17のいずれかに記載の液冷一体型基板。
【請求項19】
前記セラミックス基板と前記金属回路板との接合、前記セラミックス基板と前記金属ベース板との接合は、溶湯接合法あるいはろう接合法によって行われる、請求項12〜18のいずれかに記載の液冷一体型基板。
【請求項20】
前記金属回路板の厚さt1と前記金属ベース板の厚さt2の関係は、t2/t1≧2を満たし、
前記金属回路板の厚さt1は0.4〜3mmであり、前記金属ベース板の厚さt2は0.8〜6mmである、請求項12〜19のいずれかに記載の液冷一体型基板。
【請求項21】
前記多孔管の仕切り板が座屈している、請求項12〜20のいずれかに記載の液冷一体型基板。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図5】
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【図6】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図16】
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【図17】
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【図4】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図15】
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【公開番号】特開2012−160722(P2012−160722A)
【公開日】平成24年8月23日(2012.8.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−3757(P2012−3757)
【出願日】平成24年1月12日(2012.1.12)
【出願人】(000004743)日本軽金属株式会社 (627)
【出願人】(506365131)DOWAメタルテック株式会社 (109)
【Fターム(参考)】