説明

液冷式冷却装置

【課題】冷却対象物の表面に液体冷媒を直接接触させて効果的に熱を回収することができ、回収した熱を所定の場所に搬送してから放熱し、機器を設置した室内への熱の拡散を防止することが可能な液冷式冷却装置を提供する。
【解決手段】冷却対象物2の熱を液体冷媒30で回収する液冷式冷却装置1であって、開口部を有する中空のカップ状となっており、中空内に液体冷媒30の流入口14及び流出口15を連通させたカップ状受熱部10と、カップ状受熱部10の流入口14及び流出口15に接続され、中空内に液体冷媒30を循環させる循環路20と、を備え、カップ状受熱部10の開口部周縁11bを冷却対象物2の表面に密着させた状態で、中空内に液体冷媒30を循環させ、該液体冷媒30を冷却対象物2の表面に直接接触させて熱の回収を行う構成としてある。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば、パーソナルコンピュータ、ディスプレイパネル、サーバー装置等の電子機器、内燃機関などの冷却対象物に広く適用することが可能な液冷式冷却装置に関し、特に、冷却対象物の表面に液体冷媒を直接接触させて効果的に熱を回収することが可能な液冷式冷却装置に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、CPU(Central Processing Unit)パッケージ、IGBT(Insulated Gate Bipolar Transistor)パッケージ等の高発熱素子、又はパーソナルコンピュータ、ディスプレイパネル、サーバー装置等の高発熱機器を冷却するための手段として、水冷式冷却装置が知られている。
【0003】
従来の水冷式冷却装置として、例えば、特許文献1には、内部に熱輸送流体が流れるジャケット本体を備え、熱拡散シートを介してジャケット本体をCPUに接触させる構成の液冷ジャケットが提案されている(特許文献1の図3及び図4参照)。
【0004】
特許文献2には、内部に液体冷媒が流れる流路を設けた受熱ジャケットを備え、この受熱ジャケットをCPUの表面に接触させ、受熱ジャケット内を流れる冷媒にCPUの熱を伝達して搬送する構成の液冷システムが提案されている(特許文献2の図1参照)。
【0005】
特許文献3には、コンピュータの筐体内において、CPUなどの発熱体に熱的に接触させた水冷用ヒートシンク(受熱板)に、液体用ポンプ及びパイプを介して、ラジエータを相互に通水可能に接続したコンピュータの冷却装置が提案されている(特許文献3の図2参照)。
【0006】
特許文献4には、受熱部材を電子機器の筐体内のCPUに接触させるとともに、放熱部材をディスプレイパネルの内面に接触させ、これら受熱部材及び放熱部材をチューブで接続し、チューブ内に液媒体を流通させた構成の電子機器が提案されている(特許文献4の図1参照)
【特許文献1】特開2008−135757号公報
【特許文献2】特開2006−235914号公報
【特許文献3】特開2005−122397号公報
【特許文献4】特開2004−312032号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上述した特許文献1〜4の水冷式冷却装置では、いずれも液体冷媒が流れる受熱部材(ジャケット又は受熱板)をCPUなどの発熱体に当接させ、受熱部材の壁部の固体内熱伝導を介して、発熱体の熱を液体冷媒へ伝達させていた。しかし、受熱部材の壁部は熱抵抗が大きく、この箇所が熱流束の律速となっていた。このため、従来の水冷式冷却装置では、発熱体を効率よく冷却することができないという問題があった。この問題は、受熱部材の壁部の固体内熱伝導に起因するものであり、たとえ、受熱部材の壁部を熱伝導率の高い金属製とし、受熱部材の壁部と発熱体との間に高伝熱性のシートやグリスを介在させたとしても、発熱体から液体冷媒への熱伝達のロスを解消することはできなかった。
【0008】
また、上述した特許文献1〜4の水冷式冷却装置では、いずれも発熱体から回収した熱を、液体冷媒の潜熱として搬送し、最終的にラジエータや放熱パイプなどの排熱手段によって電子機器の筐体外(通常は電子機器が設置された室内)へ放出していた。しかし、パーソナルコンピュータ、ディスプレイパネル又はサーバー装置等の機器の発熱量が大きい場合や機器の台数が多い場合は、これら機器から放出される熱によって室内の温度が上昇してしまい、室内温度と機器温度との間の熱の移動におけるエントロピーが増加してしまうという問題もあった。上述した発熱体から液体冷媒への熱伝達のロスに加え、室内に放出された熱が冷却効率を更に低下させてしまい、従来の水冷式冷却装置では、発熱量の大きいサーバー装置などを効果的に冷却することができなかった。これに加え、室内の温度上昇は、エアーコンディショナーの消費電力量を増大させ、省エネルギーの阻害という問題をも招来する。
【0009】
なお、近年、スーパーコンピュータ等の技術分野では、回路全体を電気絶縁性の極低温の液体冷媒中に浸漬させ、発熱体に液体冷媒を直接接触させて冷却する方法が採用されている。しかし、この冷却方法は、回路全体を収容可能な大きさの断熱容器、及び液体冷媒を冷却するための冷凍機を必要とし、冷却装置全体が大規模かつ高価となるため、特殊な用途に限定されてしまうという問題があった。
【0010】
本発明は、上記問題点に鑑みてなされたものであり、冷却対象物の表面に液体冷媒を直接接触させて効果的に熱を回収することができ、回収した熱を所定の場所に搬送してから放熱し、機器を設置した室内への熱の拡散を防止することが可能な液冷式冷却装置の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記目的を達成するために、本発明の液冷式冷却装置は、冷却対象物の熱を液体冷媒で回収する液冷式冷却装置であって、開口部を有する中空のカップ状となっており、前記中空内に前記液体冷媒の流入口及び流出口を連通させたカップ状受熱部と、前記カップ状受熱部の流入口及び流出口に接続され、前記中空内に前記液体冷媒を循環させる循環路と、を備え、前記カップ状受熱部の開口部周縁を前記冷却対象物の表面に密着させた状態で、前記中空内に前記液体冷媒を循環させ、該液体冷媒を前記冷却対象物の表面に直接接触させて熱の回収を行う構成としてある。
【0012】
上記構成によれば、カップ状受熱部によって冷却対象物の表面に液体冷媒を直接接触させて冷却することが可能となる。これにより、冷却対象物と液体冷媒との間の熱抵抗を無くすことができ、冷却対象物から液体冷媒への熱伝達が良好となり、冷却効率を大幅に向上させることができる。
【0013】
ここで、本発明における「冷却対象物」には、CPUなどのそれ自体が熱を生じさせる発熱体、発熱体を実装した基板、発熱体を内蔵した機器、該機器を収容するラックなどが広く含まれる。
【0014】
好ましくは、前記液体冷媒として、蒸気圧が大気圧よりも負圧である物質を用い、前記カップ状受熱部の開口部周縁を前記冷却対象物の表面に密着させた構成とする。このような構成によれば、冷却対象物の性質を利用し、大気圧の下でカップ状受熱部を冷却対象物に密着させることができ、カップ状受熱部の中空内に冷却対象物を封止することが可能となる。
【0015】
好ましくは、前記循環路内を大気圧よりも負圧に保つ減圧手段を設け、前記カップ状受熱部の開口部周縁を前記冷却対象物の表面に密着させた構成とする。このような構成によれば、減圧手段によってカップ状受熱部と冷却対象物との密着を維持することができ、上記液体冷媒の蒸気圧を負圧とした構成と相俟って、カップ状受熱部の中空内における冷却対象物の封止をより確実なものとすることが可能となる。
【0016】
好ましくは、前記カップ状受熱部の中空内にノズルを設け、前記流入口から供給された前記液体冷媒を、前記ノズルから前記冷却対象物の表面に噴射させる構成とする。
【0017】
上記構成によれば、液体冷媒をノズルから冷却対象物の表面に噴射させることで、液体冷媒と冷却対象物との温度境界層を薄くすることができ、冷却対象物から液体冷媒への熱伝達を促進することが可能となる。
【0018】
好ましくは、前記カップ状受熱部を前記冷却対象物の表面に押圧する保持部材を備えた構成とする。
【0019】
上述のとおり本発明の冷却装置では、液体冷媒の蒸気圧を負圧とすること、及び/又は循環路内を負圧とすることにより、カップ状受熱部を冷却対象物の表面に密着させているが、両者を保持部材によって機械的に密着させることで、液体冷媒の漏洩のより確実に防止することができる。なお、保持部材のみによってカップ状受熱部と冷却対象物との密着を維持する構成とした場合、液体冷媒の蒸気圧は負圧のものに限定されず、また、循環路内を負圧にしなくてもよい。このような構成とした場合でも、カップ状受熱部の中空内において、液体冷媒を冷却対象物の表面に直接接触させて効率よく冷却することが可能である。
【0020】
好ましくは、前記液体冷媒が回収した熱を放出させる排熱手段を前記循環路に接続するとともに、該排熱手段を前記冷却対象物が設置された空間外に配置した構成としてある。
【0021】
上記構成によれば、液体冷媒によって回収した熱が冷却対象物の周囲に拡散することを防止し、室内温度と機器温度との間の熱の移動におけるエントロピーの増加を抑えることが可能となる。これにより、液体冷媒を冷却対象物の表面に直接接触させる本発明の冷却がより効果的に行われるとともに、冷却対象物を設置した室内の空調を管理するエアーコンディショナーの消費電力量を削減することができる。上記構成からなる本発明の冷却装置は、特に、サーバー装置のような発熱量の大きい機器の冷却に有効である。
【0022】
好ましくは、前述した本発明の冷却装置において、複数の前記冷却対象物の表面に複数の前記カップ状受熱部をそれぞれ密着させ、各冷却対象物から回収した熱を、少なくとも一の前記排熱手段によって放出させる構成を採用してもよい。
【0023】
上記構成によれば、複数の冷却対象物から回収した熱を少なくとも一の排熱手段に集めて、各冷却対象物が設置された空間外に放出させることができる。これにより、複数台の高発熱機器をそれぞれ効率よく冷却することができるとともに、各機器から回収した大量の熱を、これら機器に影響のない場所で処理することが可能となる。
【発明の効果】
【0024】
以上のように、本発明の液冷式冷却装置によれば、冷却対象物の表面に液体冷媒を直接接触させて効果的に熱を回収することができ、回収した熱を所定の場所に搬送してから放熱し、機器を設置した室内への熱の拡散を防止することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】本発明の実施形態に係る液冷式冷却装置の全体を示す概略回路図である。
【図2】上記冷却装置を構成するカップ状受熱部の一実施形態を示すものであり、同図(a)は断面図、同図(b)は裏面図である。
【図3】上記冷却装置を構成する密閉式膨張タンク(減圧手段)を示す断面図である。
【図4】上記冷却装置をパーソナルコンピュータのCPUに適用した場合の実施形態を示すものであり、同図(a)は全体の概略回路図、同図(b)はカップ状受熱部の断面図である。
【図5】上記冷却装置を複数台のサーバー装置に適用した場合の実施形態を示すものであり、同図(a)は全体の概略回路図、同図(b)はカップ状受熱部の断面図である。
【図6】上記カップ状受熱部を保持部材によってCPUの表面に密着させた実施形態を示す部分断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、本発明の実施形態に係る液冷式冷却装置について図面を参照しつつ説明する。
【0027】
[液冷式冷却装置の構成]
まず、本実施形態に係る液冷式冷却装置の全体構成について、図1を参照しつつ説明する。同図において、液冷式冷却装置1は、カップ状受熱部10、循環路20、液体冷媒30、密閉式膨張タンク(減圧手段)40、ポンプ50、ラジエータ(排熱手段)60及び冷却ファン70を備えた構成となっている。
【0028】
カップ状受熱部10は、冷却対象物(本実施形態ではCPU)2の表面に密着しており、CPU2の表面に液体冷媒30を直接接触させて熱の回収を行う。循環路20は、カップ状受熱部10の流入口14及び流出口15に接続してあり、カップ状受熱部10内の中空12に液体冷媒30を流入出させる。密閉式膨張タンク40は、循環路20におけるラジエータ60の出口と、カップ状受熱部10の流入口14との間に接続してあり、循環路20内を大気圧よりも負圧に保っている。ポンプ50は、液体冷媒30を吸引送出して循環路20内を循環させる。ラジエータ60は、液体冷媒30が回収した熱を放出させる。
【0029】
<カップ状受熱部>
本発明の一実施形態に係るカップ状受熱部10の構成について、図2(a)及び(b)を参照しつつ説明する。同図(a)において、カップ状受熱部10は、例えば、合成樹脂製の成形品であり、内部が中空12となったカップ状の本体11を有する。この本体11の大きさ、開口部の寸法及び開口部周縁11bの形状等は、冷却対象物であるCPU2の大きさ、発熱量及び表面形状等に応じて決定する。
【0030】
本体11内の中空12は、仕切壁11aによって貯留室12Aと冷却室12Bとに分割されている。上部の貯留室12Aには流入口14が連通しており、下部の冷却室12Bには流出口15が連通している。また、本実施形態のカップ状受熱部10では、仕切壁11aの下面から冷却室12B内に突出する4本のノズル13、13、13、13(図2(b)を参照)を設けた構成を採用している。各ノズル13は、貯留室12Aに送り込まれた液体冷媒30を本体11の開口部に向けて噴出する。
【0031】
本実施形態では、本体11の開口部を、CPU2の上面の形状及び面積に対応する略四角形状としてあり、開口部周縁11bには、これより若干幅の狭い相似形のガスケット16が取り付けてある。このガスケット16は、CPU2の表面に密着して液体冷媒30の漏洩を防止するためのものである。
【0032】
後に詳述するが、本実施形態では、液体冷媒30として所定の導電率と蒸気圧とを備えた物質(例えば、エチルアルコール)を用いているので、ガスケット16は、気密性及び耐熱性に優れ、長年使用しても容易に変形しない材料であって、液体冷媒30の種類に応じた耐薬品性を有する材料を選定する。例えば、液体冷媒30としてエチルアルコールを用いるならば、ガスケット16の材料として、エチルアルコールに良好な耐薬品性を有するフッ素樹脂であるPTFE(ポリテトラフルオロエチレン)、PCTFE(ポリクロロトリフルオロエチレン)等が好ましい。その他、PVDF(ポリフッ化ビニリデン)、PA(ポリアミド)等の樹脂材料を用いることができる。
【0033】
<液体冷媒>
上述したように、本実施形態では、液体冷媒30として、所定の導電率と蒸気圧とを備えた物質を用いている。液体冷媒30の導電率は、液冷式冷却装置1をパーソナルコンピュータ等の電子機器に適用した場合の漏洩を考慮したものである。
【0034】
すなわち、カップ状受熱部10とCPU2との密着は、後述する液体冷媒30の蒸気圧、密閉式膨張タンク40による減圧、又は図6に示す保持部材90によって十分に確保することが可能であり、液冷式冷却装置1に用いられる液体冷媒30の導電率は、特に限定されない。しかし、カップ状受熱部10とCPU2との密着性を万全としても、あらゆる状況(例えば、メンテナンスや修理を行う場合など)で液体冷媒30が100%漏洩しないとは限らない。そこで、液体冷媒30として、導電率の低い物質を用いることとしている。
【0035】
次いで、液体冷媒30の蒸気圧は、大気圧よりも負圧である物質を用いることが好ましい。液体冷媒30の蒸気圧を負圧とすることにより、この液体冷媒30が流通するカップ状受熱部10の中空12内を負圧とすることができ、大気圧の下でカップ状受熱部10をCPU2の表面に密着させることが可能となる。
【0036】
このような液体冷媒30として、例えば、水道水(導電率約100μS/cm)よりも導電率の低い物質を広く用いることができ、好ましくは、プリント配線基板の洗浄液として用いられているエチルアルコール、フッ素系溶媒、超純水又は純水などを適用することで、万が一、液体冷媒30が漏洩した場合でもショートの問題は生じない。
【0037】
<密閉式膨張タンク>
図1において、密閉式膨張タンク40は、循環路20内を大気圧よりも負圧に保つ減圧手段である。この密閉式膨張タンク40の構成を図3に示す。同図において、密閉式膨張タンク40は、主として、循環路20に接続されたタンク本体41を有し、このタンク本体41の内部を弾性変形可能な仕切膜42で分割し、下部の液体室41Aと、上部の空気室41Bとを形成した構成となっている。
【0038】
空気室41Bには、エア抜き口43が連成してあり、エア抜き口43の出口には、逆止弁44を介して吸引バルブ45が取り付けてある。逆止弁44は、空気室41B内から外へ空気が抜ける方向のみ開く構成となっている。吸引バルブ45には、図示しないピストン等の吸引手段が接続してある。
【0039】
このような密閉式膨張タンク40では、吸引バルブ45及び逆止弁44を介して空気室41B内の空気を吸引すると、吸引された空気量に応じて仕切膜42が空気室41B側に膨張し、液体冷媒30を液体室41Aに吸い上げて循環路20内を負圧にする。その後、循環路20内の圧力変化に応じて仕切膜42が膨張又は収縮し、循環路20内を所定の負圧状態に保持する。これにより、大気圧の下でカップ状受熱部10をCPU2の表面に密着させることが可能となる。
【0040】
<ポンプ>
図1において、ポンプ50は、液体冷媒30を十分な圧力で循環させることが可能であれば、遠心ポンプ、ダイヤフラムポンプ、プランジャーポンプ、ピストンポンプ、ベーンポンプ、ローラーポンプ等の方式は限定されない。
【0041】
<ラジエータ>
液体冷媒30の排熱手段であるラジエータ60は、図1に示すように、循環路20に接続され、液体冷媒30が循環する蛇行状のパイプ61を備え、このパイプ61の外側に多数の放熱フィン62を設けた構成となっている。ラジエータ60の近傍には、モータ71で駆動される冷却ファン70が設置してあり、この冷却ファン70で放熱フィン62を空冷することで、液体冷媒30の熱を外部に放出させている。なお、液体冷媒30の排熱手段はラジエータ60に限定されるものではない。液体冷媒30を冷却することが可能な周知の冷却手段を広く適用することができる。
【0042】
[第1実施形態]
次に、上述した液冷式冷却装置1の第1実施形態として、パーソナルコンピュータのCPUに適用した場合について、図4(a)及び(b)を参照しつつ説明する。なお、以下に説明する第1〜3実施形態は、パーソナルコンピュータやサーバー装置などに上述した液冷式冷却装置1を適用する場合の好ましい構成を例示するものである。したがって、本発明の液冷式冷却装置を現実に実施する場合は、必要に応じて種々の態様を選択することができ、以下に説明する各実施形態の内容に限定されるものではない。
【0043】
<コンセプト>
図4(a)において、液冷式冷却装置1をパーソナルコンピュータ3のCPU2に適用する場合は、液冷式冷却装置1の構成要素全てをパーソナルコンピュータ3の筐体3a内に収納することが好ましい。
【0044】
ノートブック型又はデスクトップ型などのパーソナルコンピュータ3は、簡素化、設置スペースの削減、持ち運びや取り扱いの繁雑さをなくすといった観点から、必要な構成要素を全て筐体内に収納した一体型が要望される。また、ノートブック型又はデスクトップ型などのパーソナルコンピュータ3では、CPU2が小型であり、その発熱量も比較的に小さい(アイドル時〜フルロード時のコア温度=約40℃〜75℃前後)。
【0045】
したがって、このようなCPU2を冷却する場合は、図4(a)に示すカップ状受熱部10、密閉式膨張タンク40、ポンプ50、ラジエータ60及び冷却ファン70を全て小型化することができ、パーソナルコンピュータ3の筐体3a内に容易に収納することができる。一方、ノートブック型又はデスクトップ型などのパーソナルコンピュータ3では、CPU2の発熱量が比較的に小さいので、ラジエータ60を筐体3aに配設し、液体冷媒30の熱をパーソナルコンピュータ3の周囲環境(例えば室内)に放出しても冷却効率にほとんど影響はない。
【0046】
<カップ状受熱部の構成>
図4(b)に示すように、本実施形態では、カップ状受熱部10の仕切壁11aにノズル13(図2を参照)を設けず、その貯留室12Aと冷却室12Bとを複数の連通孔11c、11c…を介して連通させた構成としてある。このような構成とした場合は、貯留室12Aの液体冷媒30が液体のまま冷却室12Bに供給され、冷却室12B内に満たされた液体冷媒30がCPU2の表面に直接接触して熱の回収を行う。
【0047】
<液体冷媒の蒸気圧及び沸点>
液体冷媒30としては、蒸気圧が大気圧よりも負圧である物質、例えば、エチルアルコールを用い、大気圧の下でカップ状受熱部10をCPU2の表面に密着させる。また、密閉式膨張タンク40によって循環路20内を負圧に保ち、カップ状受熱部10とCPU2との密着をより確実なものとする。
【0048】
<冷却動作>
図4(a)において、循環路20を流れる液体冷媒30は、流入口14を介して、カップ状受熱部10の貯留室12A内に流入し、仕切壁11aの各連通孔11Cを通って冷却室12B内に液体のまま供給される。同図(b)に示すように、冷却室12B内に満たされた液体冷媒30は、CPU2の表面に直接接触し、何ら熱抵抗を介在させずに該CPU2の熱を回収する。このとき、CPU2が液体冷媒30の沸点(エタノールの沸点は、大気圧下で78.4℃であるが、本実施形態では、循環路20内を減圧しているので78.4℃よりも低い)よりも発熱している場合は、冷却室12B内の液体冷媒30が一部蒸発する。
【0049】
冷却室12B内で熱を回収した液体冷媒30は、その後、蒸発した分の気体を含んだ状態で、流出口15からポンプ50側へ吸引され、該ポンプ50からラジエータ60側へ送出される。熱を回収した液体冷媒30は、ラジエータ60の蛇行するパイプ61を通過する過程で放熱フィン62及び冷却ファン70に冷却され、液体冷媒30が回収した熱は、冷却ファン70によって筐体3aの外部へ放出される。ラジエータ60を通過した液体冷媒30は、循環路20を通り、再びカップ状受熱部10の貯留室12A内に供給される。
【0050】
以上のような経路で循環する液体冷媒30は、その過程の温度変化によって膨張又は収縮するが、このような場合は、密閉式膨張タンク40の仕切膜42が膨張又は収縮して、循環路20内の圧力を一定の負圧に保持する。
【0051】
<作用効果>
パーソナルコンピュータ3のCPU2を冷却する場合は、CPU2の発熱量が比較的小さいので、液冷式冷却装置1の各構成要素も小型となり、これら構成要素の全てをパーソナルコンピュータ3の筐体3a内に収納することができる。そして、カップ状受熱部10の冷却室12B内に満たされた液体冷媒30をCPU2の表面に直接接触させて、該CPU2の熱を効率よく回収することが可能である。
【0052】
[第2実施形態]
次に、上述した液冷式冷却装置1の第2実施形態として、複数台のサーバー装置に適用した場合について、図5(a)及び(b)を参照しつつ説明する。なお、上述した第1実施形態と同様の部分については、同一の符号を付して詳細な説明は省略する。
【0053】
<コンセプト>
従来からサーバー装置は発熱量が大きく、深刻な熱問題を抱えている。特に、ラックマウント型又はブレード型のサーバー装置は、これを構成する1ユニットごとにCPUやハードディスクなどの発熱部品を備え、複数のユニットをラック又は筐体に収納した構成となっているので、大量の熱を発生する。さらに、複数台のサーバー装置を一室に集結させたサーバールームでは、CPU単位の冷却、ユニット単位の冷却、ラック単位の冷却が必要であり、さらに、サーバールームの室温を常時管理しなければならなかった。
【0054】
そこで、本実施形態では、複数の液冷式冷却装置1を用いて、複数台のサーバー装置を効果的に冷却し、各サーバー装置から回収した大量の熱を、サーバールーム以外の所定の場所まで搬送し放出する構成を例示する。
【0055】
<全体構成>
図5(a)において、4はサーバールームであり、複数台のサーバー装置4A〜4Nが設置してある。各サーバー装置4A〜4Nを構成する1ユニットには、それぞれ液冷式冷却装置1のカップ状受熱部10及びIN/OUTの循環路20が内蔵してあり、複数のユニットのCPU2、2、2…のそれぞれにカップ状受熱部10、10、10…が密着してある。すなわち、同図(a)は、各サーバー装置4A〜4NをCPU単位の冷却する構成を例示しているのである。
【0056】
各サーバー装置4A〜4N内のIN/OUTの循環路20、20、20…は、サーバールーム4と隣の排熱室5とを隔てる壁に埋め込まれたINポート6A及びOUTポート6Bにそれぞれ接続してあり、これらINポート6A及びOUTポート6Bを介して、排熱室5内に設置したラジエータ60に接続してある。また、ラジエータ60の出口とINポート6Aとを接続する循環路20には、密閉式膨張タンク40が接続してあり、一方、ラジエータ60の入口とOUTポート6Bとを接続する循環路20には、ポンプ50が接続してある。さらに、ラジエータ60の近傍には、冷却ファン70が配設してあり、ラジエータ60から放出された熱は冷却ファン70によって排熱室5の外部へ排熱されるようになっている。
【0057】
第1実施形態と異なり、本実施形態の液冷式冷却装置1では、複数のカップ状受熱部10、10、10…に対して、共通の密閉式膨張タンク40、ポンプ50、ラジエータ60及び冷却ファン70が設けてあり、これらが液冷式冷却装置1全体における循環路20内の減圧管理、冷却媒体30の循環、及び冷却媒体30からの熱回収を行う。また、本実施形態の液冷式冷却装置1は、発熱量の大きい複数台のサーバー装置4A〜4Nを冷却するものであるから、これら密閉式膨張タンク40、ポンプ50、ラジエータ60及び冷却ファン70は、第1実施形態と比較して大型になるが、サーバールーム4及び排熱室5として専用の部屋を確保すれば、騒音の問題は生じない。さらに、排熱室5を設けずに、密閉式膨張タンク40、ポンプ50、ラジエータ60及び冷却ファン70を屋外に設置する構成としてもよい。本実施形態の液冷式冷却装置1は、サーバー装置4A〜4Nが発生する大量の熱を、サーバールーム以外の場所で排熱する点に特徴がある。
【0058】
<カップ状受熱部の構成>
図5(b)に示すように、本実施形態では、カップ状受熱部10の仕切壁11aに4本のノズル13が突設してあり、液体冷媒30を各ノズル13からCPU2の表面に噴射させて冷却する構成となっている。
【0059】
<冷却動作>
図5(a)において、循環路20を流れる液体冷媒30は、流入口14を介して、カップ状受熱部10の貯留室12A内に流入し、仕切壁11aの各ノズル13からCPU2の表面に噴射される。図5(b)に示すように、CPU2の表面に液体冷媒30が噴射されることで、液体冷媒30とCPU2との温度境界層が薄くなり、CPU2から液体冷媒30への熱伝達を促進することが可能となる。
【0060】
冷却室12B内の液体冷媒30は、流出口15からポンプ50側へ吸引され、該ポンプ50からラジエータ60側へ送られる。その後、液体冷媒30は、ラジエータ60の蛇行するパイプ61を通過する過程で、放熱フィン62及び冷却ファン70によって冷却される。このとき、液体冷媒30が回収した熱は、冷却ファン70によって排熱室5の外部に排熱される。そして、冷却された液体冷媒30は、循環路20を通って、再びカップ状受熱部10の貯留室12A内に供給される。
【0061】
<変更例>
上述した実施形態では、各サーバー装置4A〜4NをCPU単位の冷却する構成を例示したが、これに限定されるものではない。例えば、各サーバー装置4A〜4Nを構成する1ユニットの表面の形状及び面積に対応するカップ状受熱部10を設けることで、各サーバー装置4A〜4Nをユニット単位で冷却することができる。また、各ユニットを収納するラックの背面や側面の形状及び面積に対応するカップ状受熱部10を設けることで、各サーバー装置4A〜4Nをラック単位で冷却することが可能である。
【0062】
<作用効果>
複数台のサーバー装置4A〜4Nを冷却する場合は、CPU2等の発熱部品が極めて大きい熱を生じさせるので、より効果的な冷却が必要である。本実施形態の液冷式冷却装置1によれば、カップ状受熱部10の各ノズル13から液体冷媒30を噴射させることで、液体冷媒30と冷却対象物との温度境界層を薄くすることができ、冷却対象物から液体冷媒30への熱伝達を促進することが可能となる。
【0063】
また、排熱手段であるラジエータ60及び冷却ファン70を、サーバールーム4と隔絶された排熱室5に設置し、液体冷媒30が回収した熱を排熱室5まで搬送して排熱する構成としたことにより、回収した熱がサーバールーム4に拡散することを防止し、サーバールーム4の室内温度と、各サーバー装置4A〜4Nの機器温度との間の熱の移動におけるエントロピーの増加を抑えることが可能となる。この結果、液冷式冷却装置1による冷却がより効果的に行われるとともに、サーバールーム4の空調を管理するエアーコンディショナーの消費電力量を削減することができる。
【0064】
[第3実施形態]
図6は、上述した液冷式冷却装置1の第3実施形態を示すものであり、以下、図6を参照しつつ、液冷式冷却装置1の第3実施形態について説明する。なお、以下に説明する実施形態において、上述した第1及び第2実施形態と同様の部分については、同一の符号を付して詳細な説明は省略する。
【0065】
<カップ状受熱部と保持部材との構成>
同図において、本実施形態の液冷式冷却装置1では、カップ状受熱部80をCPU2の表面に押圧する保持部材90を備えた構成となっている。まず、カップ状受熱部80の構成について説明すると、該カップ状受熱部80の開口部周縁81bには、鍔状のフランジ部81aが連成してあり、このフランジ部81aの下面には、カップ状受熱部80の開口部を取り囲むガスケット82が取り付けてある。また、カップ状受熱部80の本体81を保持部材90に挿通させるため、液体冷媒30の流入口83及び流出口84は、本体81の上部に突設してある。
【0066】
一方、保持部材90は、ブラケット91とプレート92とからなっている。ブラケット91の中央には保持孔91aが開設してあり、該保持孔91aは、カップ状受熱部80の本体81とほぼ同じ形状及び寸法となっている。また、ブラケット91には、略L字型に曲折した4つの脚部91b、91b、91b、91bが連成してあり、各脚部91bには、貫通孔91c、91c、91c、91cがそれぞれ穿設してある。一方、プレート92には、各脚部91bの貫通孔91cにそれぞれ対応する4つの貫通孔92aが穿設してある。
【0067】
<保持構造>
まず、CPU2の表面にカップ状受熱部80を載置する。この状態で、カップ状受熱部80の本体81を、ブラケット91の保持孔91aに挿通させ、ブラケット91をカップ状受熱部80のフランジ部81aに当接させる。次いで、CPU2が実装されたプリント基板7の裏側にプレート92を重ね合わせ、ブラケット91の各貫通孔91c、プリント基板7の各貫通孔7a、及びプレート92の各貫通孔92aを互いに一致させる。この状態で、互いに連通する貫通孔91c、7a及び92aにねじ93を挿通し、ブラケット91とプレート92とを締結させる。これにより、ブラケット91がカップ状受熱部80のフランジ部81aを押圧し、カップ状受熱部80の開口部周縁81bがCPU2の表面に強固に密着される。
【0068】
<作用効果>
上記第1及び第2実施形態のように、本実施形態でも、液体冷媒30の蒸気圧を負圧とすること、及び循環路20内を負圧とすることにより、カップ状受熱部80をCPU2の表面に密着させているが、両者を保持部材90によって機械的に密着させることで、液体冷媒30の漏洩のより確実に防止することができる。なお、保持部材90のみによってカップ状受熱部80とCPU2との密着を維持する構成とした場合、液体冷媒30の蒸気圧は負圧のものに限定されず、また、循環路20内を負圧にしなくてもよい。このような構成とした場合でも、カップ状受熱部80の中空内において、液体冷媒80をCPU2の表面に直接接触させて効率よく冷却することが可能である。
【符号の説明】
【0069】
1 液冷式冷却装置
2 CPU(冷却対象物)
3 パーソナルコンピュータ
3a 筐体
4 サーバー室
4A,4B サーバー
5 排熱室
6A INポート
6B OUTポート
7 プリント基板
7a 貫通孔
10 カップ状受熱部
11 本体
11a 仕切壁
11b 開口部周縁
11c 連通孔
12 中空
12A 貯留室
12B 冷却室
13 ノズル
14 流入口
15 流出口
16 ガスケット
20 循環路
30 液体冷媒
40 密閉式膨張タンク(減圧手段)
41 タンク本体
41A 液体室
41B 空気室
42 仕切膜
43 エア抜き口
44 逆止弁
45 吸引バルブ
50 ポンプ
60 ラジエータ(排熱手段)
61 パイプ
62 放熱フィン
70 冷却ファン
71 モータ
80 カップ状受熱部
81 本体
81a フランジ部
81b 開口部周縁
82 ガスケット
83 流入口
84 流出口
90 保持部材
91 ブラケット
91a 保持孔
91b 脚部
91c 貫通孔
92 プレート
92a 貫通孔
93 ねじ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
冷却対象物の熱を液体冷媒で回収する液冷式冷却装置であって、
開口部を有する中空のカップ状となっており、前記中空内に前記液体冷媒の流入口及び流出口を連通させたカップ状受熱部と、
前記カップ状受熱部の流入口及び流出口に接続され、前記中空内に前記液体冷媒を循環させる循環路と、を備え、
前記カップ状受熱部の開口部周縁を前記冷却対象物の表面に密着させた状態で、前記中空内に前記液体冷媒を循環させ、該液体冷媒を前記冷却対象物の表面に直接接触させて熱の回収を行うことを特徴とする液冷式冷却装置。
【請求項2】
前記液体冷媒として、蒸気圧が大気圧よりも負圧である物質を用い、前記カップ状受熱部の開口部周縁を前記冷却対象物の表面に密着させた請求項1記載の液冷式冷却装置。
【請求項3】
前記循環路内を大気圧よりも負圧に保つ減圧手段を設け、前記カップ状受熱部の開口部周縁を前記冷却対象物の表面に密着させた請求項1又は2記載の液冷式冷却装置。
【請求項4】
前記カップ状受熱部の中空内にノズルを設け、前記流入口から供給された前記液体冷媒を、前記ノズルから前記冷却対象物の表面に噴射させる請求項1〜3いずれか1項に記載の液冷式冷却装置。
【請求項5】
前記カップ状受熱部を前記冷却対象物の表面に押圧する保持部材を備えた請求項1〜4いずれか1項に記載の液冷式冷却装置。
【請求項6】
前記液体冷媒が回収した熱を放出させる排熱手段を前記循環路に接続するとともに、該排熱手段を前記冷却対象物が設置された空間外に配置した請求項1〜5いずれか1項に記載の液冷式冷却装置。
【請求項7】
複数の前記冷却対象物の表面に複数の前記カップ状受熱部をそれぞれ密着させ、各冷却対象物から回収した熱を、少なくとも一の前記排熱手段によって放出させる請求項8に記載の液冷式冷却装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2011−210776(P2011−210776A)
【公開日】平成23年10月20日(2011.10.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−74521(P2010−74521)
【出願日】平成22年3月29日(2010.3.29)
【出願人】(390001487)サンアロー株式会社 (58)
【Fターム(参考)】