説明

液晶表示装置

【課題】
液晶セルに位相差フィルムおよび偏光板を使用する液晶表示装置において、位相差フィルムの遅相軸方位のズレを低減し、ムラのない表示品位に優れた液晶表示装置を提供すること。
【解決手段】
液晶セルの両側に偏光板がクロスニコルになるように配置され、少なくとも一方の偏光板の偏光子と液晶セルの間に位相差フィルムが設けられた液晶表示装置であって、面内の任意の位置における1cmあたりの輝度差が0.1cd/m以下であることを特徴とする液晶表示装置。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液晶表示装置、とくに液晶セルの両側に位相差フィルムおよび偏光板を用いた液晶表示装置に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に液晶表示装置は、液晶セル、位相差フィルム、偏光板から構成される。位相差フィルムは画像着色を解消したり、視野角を拡大するために用いられており、延伸した複屈折フィルムや透明フィルムに液晶を塗布したフィルムが使用されている。例えば、特許文献1ではディスコティック液晶をセルローストリアセテートフィルム上に塗布し、配向させて固定化した光学補償シートをTNモードの液晶セルに適用し、視野角を広げる技術が開示されている。
しかしながら、大画面で様々な角度から見ることが想定されるテレビ用途の液晶表示装置は視野角依存性に対する要求が厳しく、、特許文献1のような手法をもってしても要求を満足することはできていない。また、最近ではモニター用途の液晶表示装置に対する要求性能も高まっている。そのため、IPS(In-Plane Switching)モード、OCB(Optically Compensatory Bend)モード、VA(Vertically Aligned)モードなど、TNモードとは異なる液晶表示装置が研究されている。特にVAモードは正面コントラストが高く、製造の歩留まりが高いことから着目されており、すでにモニターやTV用の液晶表示装置として利用されている。
【0003】
VAモードの液晶表示装置においても視野角特性を向上させるために位相差フィルムが用いられている。VAモード用の位相差フィルムでは20乃至200nmの面内レターデーション(Re(λ))、70乃至400nmの厚さ方向レターデーション(Rth(λ))が必要とされるため、従来はポリカーボネートフィルムやポリスルホンフィルムのようなレターデーション値が高い合成ポリマーフィルムを用いることが普通であった。
【0004】
最近、液晶セル側の保護フィルムに用いられるセルロースアシレートフィルムに高いレターデーションを付与し、安価で薄膜の位相差フィルム付偏光板が開示されている。例えば、特許文献2は、従来の一般的な原則を覆して、光学的異方性が要求される用途にも使用できる高いレターデーション値を有するセルロースアセテートフィルムが開示されている。一般にセルローストリアセテートは延伸しにくい高分子素材であり、複屈折率を大きくすることは困難であることが知られているが、特許文献1ではレターデーションを発現させる為の添加剤をセルローストリアセテートフィルム内に加え、延伸処理でセルローストリアセテートと添加剤を同時に配向させることにより複屈折率を大きくすることを可能にしている。このフィルムは偏光板の保護膜を兼ねることができるため、安価で薄膜な液晶表示装置を提供することができる利点がある。
【0005】
一般に広幅の高分子フィルムを延伸した場合には、面内で位相差や遅相軸方位のズレやばらつきが発生しやすいことが知られている。特にセルローストリアセテートフィルムは前項段落[0004]に記載したように延伸しにくい素材であるため、位相差や遅相軸方位のばらつきが発生しやすい。光学性能のばらつきはLCDのコントラスト低下や「ムラ」の原因となるため、位相差フィルムとして用いるためには高い均一性が必要である。
広幅の延伸した高分子フィルムにおいて光学性能のばらつきを小さくする様々な方法が開示されている。例えば、特許文献3ではフィルムを延伸するときに加熱温度をフィルム幅方向に勾配を持たせることによって幅方向の膜厚ムラをなくす方法が開示されている。レターデーションはフィルム膜厚と複屈折率により定義される為、膜厚ムラの低減により光学性能ばらつきは小さくなる。また、特許文献4では位相差フィルムを製造する工程でレターデーションを測定してその結果をフィードバックし、延伸条件やフィルム搬送のテンションを調整することで位相差ムラを小さくする方法を開示している。しかしながら、セルロースアシレートフィルムを延伸して光学性能を発現させた位相差フィルムにおいて、特許文献3、4のような方法を適用しても、実際のパネルにおいて「ムラ」が発生する場合があり、安定した表示品位を提供できない問題があった。
【0006】
【特許文献1】特許第2587398号公報
【特許文献2】欧州特許出願公開第911656号公報
【特許文献3】特開平10−244586号公報
【特許文献4】特開2001−272537号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、液晶セルに位相差フィルムおよび偏光板を使用する液晶表示装置において、位相差フィルムの遅相軸方位のズレを低減し、ムラのない表示品位に優れた液晶表示装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
発明者等が鋭意検討した結果、ムラ発生の要因は、フィルムの複屈折率のばらつきではなく、局所的な膜厚ばらつき、および偏光子の透過軸と位相差フィルムの遅相軸が成す角度のズレにより発生していることが分かった。さらに調べた結果、膜厚ばらつきよりも軸角度のズレの発生が主要因であることが分かった。そこで偏光板の吸収軸と位相差板の遅相軸が成す角度のズレを安定的に小さく出来ない原因を調べた結果、位相差フィルムの遅相軸角度が安定的に小さく出来ていないこと、偏光板加工時に位相差フィルムの遅相軸が角度ずれる場合があることが主原因であることが分かった。
本発明は、上記軸角度のズレを無くすために、位相差フィルムの製造方法および、偏光板加工時の貼合方法を工夫することで上記問題を解決することを可能にするものである。即ち、位相差フィルムの作製時、あるいは偏光板加工時において延伸ポリマーフィルムあるいは位相差フィルムの遅相軸方向をオンラインで測定し、遅相軸角度とフィルムの長さ方向が成す角度のズレを一定範囲内に収めるよう工程条件を調整することで上記課題の達成を可能にするものである。
【0009】
具体的には、以下の手段によって達成された。
(1)液晶セルの両側に偏光板がクロスニコルになるように配置され、少なくとも一方の偏光板の偏光子と液晶セルの間に位相差フィルムが設けられた液晶表示装置であって、面内の任意の位置における1cmあたりの輝度差が0.1cd/m以下であることを特徴とする液晶表示装置。
(2)幅方向に延伸して作製したポリマーフィルムからなる位相差フィルムが設けられた液晶表示装置あって、該ポリマーフィルムの遅相軸方向が長さ方向に対して90°±1°以内であり、かつ該位相差フィルムのRe(λ)およびRth(λ)の値が下記式(I)および(II)を満足することを特徴とする上記(1)に記載の液晶表示装置。
(I)20≦Re(590) ≦200
(II)70≦Rth(590)≦400
[式中、Re(λ)は波長λnmにおける正面レターデーション値(単位:nm)、Rth(λ)は波長λnmにおける膜厚方向のレターデーション値(単位:nm)である。]
(3)幅方向に延伸して作製したポリマーフィルムからなる位相差フィルムが設けられた液晶表示装置あって、該ポリマーフィルム延伸工程中において該ポリマーフィルムの遅相軸方向を測定し、該遅相軸方向とフィルムの長さ方向が成す角度α1が90°±1°になるように工程条件を調整することで該ポリマーフィルムが作成されたことを特徴とする上記(1)および(2)に記載の液晶表示装置。
(4)幅方向に延伸して作製したポリマーフィルムからなる位相差フィルムが設けられた液晶表示装置あって、該ポリマーフィルム延伸工程中において該ポリマーフィルムの遅相軸方向を測定し、該遅相軸方向とフィルムの長さ方向が成す角度α1が90°±1°になるように延伸開始時の残留溶剤量を調整することにより該ポリマーフィルムが作製されたことを特徴とする上記(3)に記載の液晶表示装置。
(5)位相差フィルムを備えた偏光板が設けられた液晶表示装置であって、該位相差フィルムを偏光子と接着させる工程において該位相差フィルムの遅相軸方向を偏光子に接着する直前で測定し、該遅相軸方向と位相差フィルムの長さ方向が成す角度α2が90°±1°となるように搬送テンションを調整することにより該位相差フィルムが作成されたことを特徴とする上記(1)〜(4)のいずれかに記載の液晶表示装置。
(6)位相差フィルムを備えた偏光板が設けられた液晶表示装置であって、該位相差フィルムと偏光子を接着して偏光板を作製する直前において該位相差フィルムのレターデーションRe(λ)1を測定し、位相差フィルムにテンションがかかっていない時のレターデーションをRe(λ)2としたときに、Re(λ)1−Re(λ)2≦10nmとなるように搬送テンションを調整することにより該位相差フィルムが作成されたことを特徴とする上記(1)〜(5)のいずれかに記載の液晶表示装置。
(7)延伸したポリマーフィルムがセルロースアシレートフィルムからなることを特徴とする上記(1)から(6)に記載の液晶表示装置。
(8)セルロースの水酸基をアセチル基および炭素原子数が3以上のアシル基で置換して得られたセルロースの混合脂肪酸エステルからなるセルロースアシレートフィルムであって、アセチル基の置換度A、炭素原子数が3以上のアシル基の置換度Bとが下記式(V)(VI)をみたすセルロースアシレートフィルムを用いたことを特徴とする上記(7)に記載の液晶表示装置。
(III)2.0≦A+B≦3.0
(IV)B>0
(9)該セルロースの6位の水酸基の置換度の総和が0.75以上であることを特徴とするセルロースアシレートフィルム用いたことを特徴とする上記(7)又は(8)に記載の液晶表示装置。
(10)該セルロースアシレート100質量部に対して、少なくとも二つの芳香族環を有する化合物を0.01乃至20質量部含むセルロースアシレートフィルムを用いたことを特徴とする上記(7)〜(9)のいずれかに記載の液晶表示装置。
(11)少なくとも一方の位相差フィルムがロールツーロールで偏光子に接着されたことを特徴とする上記(1)〜(10)のいずれかに記載の液晶表示装置。
(12)液晶セルがVAモードまたはOCBモードである上記(1)〜(11)のいずれかに記載の液晶表示装置。
【発明の効果】
【0010】
位相差フィルムの製造方法および、偏光子との接着方法を工夫して、位相差フィルムの遅相軸方向とフィルム幅方向のなす角度を平行にした本発明によって、視認できるムラが低減されて、表示品位に優れた液晶表示装置を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
(液晶表示装置の構成)
本発明の液晶表示装置は液晶セルの両側に偏光板がクロスニコルになるように配置され、少なくとも一方の偏光板の偏光子と液晶セルの間に位相差フィルムが設けられる。位相差フィルムの遅相軸と偏光子の吸収軸の角度は略平行または垂直となるように積層するが、特に、位相差フィルムを液晶セルの片面に用いる場合には、略垂直にすることが好ましい。また、位相差フィルムを液晶セルの両面に用いる場合には、位相差フィルム同士の遅相軸方向が成す角度が略垂直になるように配置することが好ましい。
【0012】
(液晶表示装置の輝度測定)
液晶表示装置の黒輝度の測定は暗室中で液晶表示装置を点灯して黒を表示し、表示装置正面から輝度計で測定する。測定機には本発明の要件を満たす輝度差の測定が可能であれば特に制限がなく、市販の測定装置を用いて行うことができる。
【0013】
(偏光板)
偏光板は、偏光子およびその両側に配置された二枚の透明保護フィルムからなる。本発明で位相差フィルムを設ける場合には、一方の保護フィルムの代わりに所望の位相差を付与した位相差フィルムを用いる。
偏光子には、ヨウ素系偏光子、二色性染料を用いる染料系偏光子やポリエン系偏光子がある。ヨウ素系偏光子および染料系偏光子は、一般にポリビニルアルコール系フィルムを用いて製造する。偏光板の作製方法は特に限定されず、一般的な方法で作製することができる。保護フィルムおよび位相差フィルムにセルロースアシレートフィルムを用いる場合にはアルカリ処理し、ポリビニルアルコールフィルムを沃素溶液中に浸漬延伸して作製した偏光子の両面に完全ケン化ポリビニルアルコール水溶液を用いて貼り合わせる方法が一般的であり、本発明でも好ましく用いられる。アルカリ処理の代わりに特開平6−94915号、特開平6−118232号に記載されているような易接着加工を施してもよい。保護フィルム処理面と偏光子を貼り合わせるのに使用される接着剤としては、例えば、ポリビニルアルコール、ポリビニルブチラール等のポリビニルアルコール系接着剤や、ブチルアクリレート等のビニル系ラテックス等が挙げられる。
偏光板は偏光子及びその両面を保護する保護フィルムおよび位相差フィルムの外側に、更に該偏光板の一方の面にプロテクトフィルムを、反対面にセパレートフィルムを貼合して構成される。プロテクトフィルムは、出荷検査や輸送時に偏光板の表面を保護する目的で貼合され、偏光板を液晶板へ貼合する面の反対面側に用いられる。又、セパレートフィルムは液晶板へ貼合する接着層をカバーする目的で用いられ、偏光板を液晶板へ貼合する面側に用いられる。
【0014】
(位相差フィルム)
本発明に用いる位相差フィルムは発明の構成要件を満たすフィルムであれば特に制限はないが、正の配向複屈折性(形成したフィルムを延伸した場合に、延伸方向の屈折率が大きくなることを意味する)を示すポリマーが好ましい。そのようなポリマーとしては、例えば、セルロースアシレートのようなセルロース樹脂、ノルボルネン樹脂、ポリカーボネート、ポリオレフィン、ポリエステル、ポリ塩化ビニル、塩化ビニリデン、ポリスチレン、ポリアクリロニトリル、ポリスルホン、アクリル樹脂、ポリアリレートおよびそれらの共重合体が好ましく用いられる。特に好ましくはセルロースアシレートフィルムを用いる。
位相差フィルムの光学特性は、Re(λ)、Rth(λ)の値が下記式(I)および(II)を満足する。
(I)20≦Re(590) ≦200
(II)70≦Rth(590)≦400
[式中、Re(λ)は波長λnmにおける正面レターデーション値(単位:nm)、Rth(λ)は波長λnmにおける膜厚方向のレターデーション値(単位:nm)である。]
さらに好ましくは、
20nm≦Re(590)≦100nm
70nm≦Rth(590)≦200nm
である。
実際にはRe(λ)は複屈折計(KOBRA 21ADH、王子計測機器(株)製)において波長λnmの光をフィルム法線方向に入射させて測定する。また、Rth(λ)は前記Re(λ)、面内の遅相軸を傾斜軸としてフィルム法線方向に対して+40°傾斜した方向から波長λnmの光を入射させて測定したレターデーション値、および面内の遅相軸を傾斜軸としてフィルム法線方向に対して−40°傾斜した方向から波長λnmの光を入射させて測定したレターデーション値の計3つの方向で測定したレターデーション値を基に、平均屈折率の仮定値1.48および膜厚を入力して算出する。
位相差フィルムの全幅のRe(λ)のばらつきは±5nm以下であることが好ましく、±3nm以下であることが更に好ましい。Rth(λ)のばらつきはフィルムの前幅に亘って±10nmが好ましく、±5nmであることが更に好ましい。また、長さ方向のRe値、及びRth値のバラツキも幅方向のバラツキの範囲内であることが好ましい。なお、位相差フィルムの全幅とは、ロール状に製造した位相差フィルムの幅を示す。全幅は600mm以上2500mm以下が好ましく、800mm以上2000mm以下が好ましく、1000mm以上1800mmが最も好ましい。
位相差フィルムの厚みは特に制限は無いが、20μm〜500μmが好ましく、40μm〜200μmが更に好ましく、40μm〜120μmが最も好ましい。厚みのばらつきは±0.6μm以下が好ましく、±0.4μm以下がより好ましく、±0.2μm以下が最も好ましい。
【0015】
(保護フィルム)
保護フィルムは特に制限はなく、一般的に用いられているセルローストリアセテートフィルムを好ましく用いることができる。保護フィルムの膜厚に制限はないが、30乃至120μmが好ましく、40乃至100μmがさらに好ましく、40乃至90μmが最も好ましい。市販品としてはKC4UX2M(コニカオプト株式会社製40μm)、KC5UX(コニカオプト株式会社製60μm)、TD80U(富士写真フイルム製80μm)等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0016】
(位相差フィルムの製造方法)
本発明に用いる位相差フィルムは、フィルムの幅方向に延伸して位相差を発現させたポリマーフィルムを用いる。フィルムの延伸はポリマーフィルム製膜の工程中に延伸ゾーンを設けて行っても良いし、延伸処理をせずに製膜して巻き取ったフィルムに延伸処理を施しても良いが、製膜工程の途中で延伸する方がより好ましい。製膜工程の途中で延伸する場合には残留溶剤量を含んだ状態で延伸を行っても良く、残留溶剤量が2乃至30%で好ましく延伸することができる。
【0017】
フィルムの延伸は、常温または加熱条件下で実施する。加熱温度は、フィルムのガラス転移温度以下であることが好ましい。フィルムの延伸は、横だけの一軸延伸でもよく、縦延伸と横延伸の同時あるいは逐次2軸延伸でもよい。ただし、本発明に用いる位相差フィルムは幅方向に遅相軸を有するので、幅方向の屈折率が長さ方向の屈折率よりも大きくする必要がある。従って一般的には幅方向により多く延伸することが好ましい。
延伸は1〜200%の延伸倍率で行う。好ましくは1〜100%の延伸が好ましく、特に好ましくは1から50%の延伸を行う。
【0018】
フィルムの幅方向に延伸する方法は特に限定はなく、公知の方法で行うことができるが、フィルム両端を専用のクリップではさみ、拡縮するテンター延伸が好ましい。遅相軸方向の幅方向の均一性を高めるため、テンター内の拡縮幅は4ヵ所以上で調整可能にすることが好ましい。6箇所以上調整可能にすることが更に好ましく、8箇所以上15箇所以内で調整することが最も好ましい。4箇所よりも少ないと幅方向の均一性を微調整することが困難であり、15箇所以上にすると煩雑になり製造中に調整することが困難になる。
テンター内の加熱は本発明の要件が満たされるように製造される限り既知の手法を用いることが出来るが、加熱風を吹き込んで過熱する方法を好ましく用いることができる。その場合、風向と風量を調整してフィルム面内の加熱温度を均一にすることが望ましい。加熱風の調整のためにテンター内に専用の風調板等を設けても良い。
テンタークリップは延伸温度以下に保持することが好ましい。冷却が不十分の場合には、延伸時にテンターチャック部で破断する可能性がある。また、破断しなくても遅相軸方位が大きくばらつく可能性がある。冷却方法は特に限定はなく、延伸フィルムを離脱後に風を吹きつける方法などを用いることができる。温度は室温近傍が望ましい。温度が低すぎるとテンターチャック部に結露がおこり、延伸時にフィルムがすべる等の問題が発生する。
【0019】
本発明に用いる位相差フィルムは、延伸処理を行うときにオンラインで遅相軸方向を測定し、遅相軸方向とフィルムの長さ方向の成す角度が90°±1°に保たれるように工程条件を調整することが望ましい。遅相軸角度の測定法には特に制限は無く、測定制度が適切である限り市販されているいずれの測定装置を用いても良い。測定位置は延伸後、巻き取りまでの工程中であれば特に制限はないが、一般に延伸部および乾燥部は加熱している場合が多いため、巻き取り直前のところで測定することが好ましい。測定位置は幅方向に少なくとも3箇所以上設けることが好ましい。フィルムの幅によって最も好ましい数は異なるが、一般的に市販されるフィルム幅である600〜1500mmの場合には3箇所乃至7箇所程度設けることが好ましい。
【0020】
工程条件の調整は遅相軸方向とフィルムの長さ方向の成す角度が90°±0.5°の範囲を超えた場合に行うことが好ましい。工程条件の調整は種々の条件を変更することで行うことが出来るが、特に延伸を開始するフィルムの残留溶剤量を調整することが軸ズレを低減する上で好ましい。これは延伸開始時の残留溶媒量が多すぎる場合、延伸してもフィルム中の分子配列の緩和が起こりやすく、軸ズレが生じやすい反面、逆に延伸開始時の残留溶剤量が少なすぎると、フィルム中の分子の運動性が損なわれるため、所望の方向に分子が配列しにくく、軸ズレを生じてしまうためである。例えば一般的に知られているボーイング現象のような幅方向の軸ズレが発生した場合にも延伸を開始するフィルムの残留溶剤量を調整することで軸ズレを低減することができる。
【0021】
残留溶剤量の調整は搬送速度を調整しても良いし、テンター内の延伸開始位置および/または緩和位置を調整してもよい。また、テンターゾーンの加熱風を幅方向に分割して調整する方法を用いても良い。
【0022】
フィルム面内で均一に0.5°以上ずれた場合、テンター部の劣化が原因でありオンラインで調整することが難しいため、一度停止してテンターを再調整することが好ましい。即ち、フィルム面内の均一のずれはテンターチェーンが片側だけのびたり、延伸の中心が機械中心からずれていたり、クリップのフィルム保持力が低下して部分的にフィルムがすべっていたりすることが原因であり、これらを新しいものに交換したり、位置を修正することによって直すことができる。
【0023】
また遅相軸方向が不規則にばらついている場合、延伸に必要な加熱のムラが主原因であることが多いため、加熱のための給気風量を微調整することによって遅相軸方向を調整することもできる。
【0024】
(セルロースアシレート)
本発明に用いる位相差フィルムに好ましいセルロースアシレートフィルムおよびその製造方法について詳細に記載する。セルロースアシレートは本発明の効果を発現する限りにおいて特に限定されない。異なる2種類以上のセルロースアシレートを混合して用いても良い。しかし、その中でも好ましいセルロースアシレートは以下の素材を挙げることができる。すなわち、セルロースの水酸基への置換度が下記式(III)(IV)を満足するセルロースアシレートである。
(III) 2.0≦A+B≦3.0
(IV) B>0
ここで、式中A及びBはセルロースの水酸基に置換されているアシル基の置換基を表し、Aはアセチル基の置換度、またBは炭素原子数3〜22のアシル基の置換度である。セルロースを構成するβ−1,4結合しているグルコース単位は、2位、3位および6位に遊離の水酸基を有している。セルロースアシレートは、これらの水酸基の一部または全部をアシル基によりエステル化した重合体(ポリマー)である。アシル置換度は、2位、3位および6位のそれぞれについて、セルロースがエステル化している割合(100%のエステル化は置換度1)を意味する。本発明では、水酸基のAとBの置換度の総和は、より好ましくは2.2〜2.86であり、特に好ましくは2.40〜2.80である。また、Bの置換度は1.50以上であり、特には1.7以上である。さらにBはその28%以上が6位水酸基の置換基であるが、より好ましくは30%以上が6位水酸基の置換基であり、31%がさらに好ましく、特には32%以上が6位水酸基の置換基であることも好ましい。また更に、セルロースアシレートの6位のAとBの置換度の総和が0.75以上であり、さらには0.80以上であり特には0.85以上であるセルロースアシレートフィルムもあげることができる。これらのセルロースアシレートフィルムにより溶解性の好ましい溶液が作製でき、特に非塩素系有機溶媒において、良好な溶液の作製が可能となる。更に粘度が低くろ過性のよい溶液の作製が可能となる。
【0025】
本発明に用いるセルロースアシレートにおいて炭素数3〜22のアシル基(B)としては、脂肪族基でもアリル基でもよく特に限定されない。それらは、例えばセルロースのアルキルカルボニルエステル、アルケニルカルボニルエステルあるいは芳香族カルボニルエステル、芳香族アルキルカルボニルエステルなどであり、それぞれさらに置換された基を有していてもよい。これらの好ましいBとしては、プロピオニル、ブタノイル、ケプタノイル、ヘキサノイル、オクタノイル、デカノイル、ドデカノイル、トリデカノイル、テトラデカノイル、ヘキサデカノイル、オクタデカノイル、iso‐ブタノイル、t‐ブタノイル、シクロヘキサンカルボニル、オレオイル、ベンゾイル、ナフチルカルボニル、シンナモイル基などの各基を挙げることが出来る。これらの中でも、プロピオニル、ブタノイル、ドデカノイル、オクタデカノイル、t‐ブタノイル、オレオイル、ベンゾイル、ナフチルカルボニル、シンナモイルなどの各基である。特に好ましくはプロピオニル基及びブタノイル基である。
【0026】
(セルロースアシレートの合成方法)
セルロースアシレートの合成方法の基本的な原理は、右田他、木材化学180〜190頁(共立出版、1968年)に記載されている。代表的な合成方法は、カルボン酸無水物−酢酸−硫酸触媒による液相酢化法である。具体的には、綿花リンタや木材パルプ等のセルロース原料を適当量の酢酸で前処理した後、予め冷却したアシル化混液に投入してエステル化し、完全セルロースアシレート(2位、3位および6位のアシル置換度の合計が、ほぼ3.00)を合成する。上記アシル化混液は、一般に溶媒としての酢酸、エステル化剤としての無水カルボン酸および触媒としての硫酸を含む。無水カルボン酸は、これと反応するセルロースおよび系内に存在する水分の合計よりも、化学量論的に過剰量で使用することが普通である。アシル化反応終了後に、系内に残存している過剰の無水カルボン酸の加水分解およびエステル化触媒の一部の中和のために、中和剤(例えば、カルシウム、マグネシウム、鉄、アルミニウムまたは亜鉛の炭酸塩、酢酸塩または酸化物)の水溶液を添加する。次に、得られた完全セルロースアシレートを少量の酢化反応触媒(一般には、残存する硫酸)の存在下で、50〜90℃に保つことによりケン化熟成し、所望のアシル置換度および重合度を有するセルロースアシレートまで変化させる。所望のセルロースアシレートが得られた時点で、系内に残存している触媒を前記のような中和剤を用いて完全に中和するか、あるいは中和することなく水または希硫酸中にセルロースアシレート溶液を投入(あるいは、セルロースアシレート溶液中に、水または希硫酸を投入)してセルロースアシレートを分離し、洗浄および安定化処理によりセルロースアシレートを得る。
【0027】
本発明に用いる位相差フィルムにセルロースアシレートフィルムを用いる場合には、フィルムを構成するポリマー成分が実質的に上記の条件式を満たすセルロースアシレートからなることが好ましい。『実質的に』とは、ポリマー成分の55質量%以上(好ましくは70質量%以上、さらに好ましくは80質量%以上)を意味する。フィルム製造の原料としては、セルロースアシレート粒子を使用することが好ましい。使用する粒子の90質量%以上は、0.5〜5mmの粒子径を有することが好ましい。また、使用する粒子の50質量%以上が1〜4mmの粒子径を有することが好ましい。セルロースアシレート粒子は、なるべく球形に近い形状を有することが好ましい。
好ましく用いられるセルロースアシレートの重合度は、粘度平均重合度200〜700、好ましくは250〜550、更に好ましくは250〜400であり、特に好ましくは粘度平均重合度250〜350である。平均重合度は、宇田らの極限粘度法(宇田和夫、斉藤秀夫、繊維学会誌、第18巻第1号、105〜120頁、1962年)により測定できる。更に特開平9−95538に詳細に記載されている。
【0028】
低分子成分が除去されると、平均分子量(重合度)が高くなるが、粘度は通常のセルロースアシレートよりも低くなるため有用である。低分子成分の少ないセルロースアシレートは、通常の方法で合成したセルロースアシレートから低分子成分を除去することにより得ることができる。低分子成分の除去は、セルロースアシレートを適当な有機溶媒で洗浄することにより実施できる。なお、低分子成分の少ないセルロースシレテートを製造する場合、酢化反応における硫酸触媒量を、セルロース100重量に対して0.5〜25質量部に調整することが好ましい。硫酸触媒の量を上記範囲にすると、分子量部分布の点でも好ましい(分子量分布の均一な)セルロースアシレートを合成することができる。セルロースアシレートの製造時に使用される際には、その含水率は2質量%以下であることが好ましく、さらに好ましくは1質量%以下であり、特には0.7質量%以下の含水率を有するセルロースアシレートである。一般に、セルロースアシレートは、水を含有しており2.5〜5質量%が知られている。セルロースアシレートの含水率を上記のようにするためには、乾燥することが必要であり、その方法は目的とする含水率とすることができるなら特に限定されない。
本発明に用いられるこれらのセルロースアシレートは、その原料綿や合成方法は発明協会公開技報公技番号2001−1745号(2001年3月15日発行、発明協会)の7頁〜12頁に詳細に記載されている。
【0029】
(添加剤)
セルロースアシレート溶液には、種々の添加剤(例えば、可塑剤、紫外線防止剤、劣化防止剤、レターデーション(光学異方性)発現剤、微粒子、剥離剤など)を加えることができ、それらは固体でもよく油状物でもよい。すなわち、その融点や沸点において特に限定されるものではない。例えば20℃以下と20℃以上の紫外線吸収材料の混合や、同様に可塑剤の混合などであり、例えば特開平2001−151901号などに記載されている。剥離剤としてはクエン酸のエチルエステル類が例として挙げられる。さらにまた、赤外吸収染料としては例えば特開平2001−194522号に記載されている。またその添加する時期はドープ作製工程において何れで添加しても良いが、ドープ調製工程の最後の調製工程に添加剤を添加し調製する工程を加えて行ってもよい。更にまた、各素材の添加量は機能が発現する限りにおいて特に限定されない。また、セルロースアシレートフィルムが多層から形成される場合、各層の添加物の種類や添加量が異なってもよい。例えば特開平2001−151902号などに記載されているが、これらは従来から知られている技術である。これら添加剤の種類や添加量の選択によって、セルロースアシレートフィルムのガラス転移点Tgを70〜135℃に、引張試験機で測定する弾性率を1500〜3000MPaすることが好ましい。
さらにこれらの詳細は、発明協会公開技報公技番号2001−1745号(2001年3月15日発行、発明協会)の16頁以降に詳細に記載されている。
【0030】
(レターデーション発現剤)
セルロースアシレートフィルムには、レターデーション値を発現するために少なくとも二つの芳香族環を有する化合物をレターデーション発現剤として好ましく用いることができる。レターデーション発現剤は、ポリマー100重量部に対して、0.05乃至20重量部の範囲で使用することが好ましく、0.1乃至10重量部の範囲で使用することがより好ましく、0.2乃至5重量部の範囲で使用することがさらに好ましく、0.5乃至2重量部の範囲で使用することが最も好ましい。二種類以上のレターデーション発現剤を併用してもよい。
レターデーション発現剤は、250乃至400nmの波長領域に最大吸収を有することが好ましく、可視領域に実質的に吸収を有していないことが好ましい。
【0031】
本明細書において、「芳香族環」は、芳香族炭化水素環に加えて、芳香族性ヘテロ環を含む。
芳香族炭化水素環は、6員環(すなわち、ベンゼン環)であることが特に好ましい。芳香族環としては、ベンゼン環、フラン環、チオフェン環、ピロール環、オキサゾール環、チアゾール環、イミダゾール環、トリアゾール環、ピリジン環、ピリミジン環、ピラジン環および1,3,5−トリアジン環が好ましく、特に1,3,5−トリアジン環が好ましく用いられる。具体的には例えば特開2001−166144に開示の化合物が好ましく用いられる。
【0032】
レターデーション発現剤が有する芳香族環の数は、2乃至20であることが好ましく、2乃至12であることがより好ましく、2乃至8であることがさらに好ましく、2乃至6であることが最も好ましい。
二つの芳香族環の結合関係は、(a)縮合環を形成する場合、(b)単結合で直結する場合および(c)連結基を介して結合する場合に分類できる(芳香族環のため、スピロ結合は形成できない)。結合関係は、(a)〜(c)のいずれでもよい。
【0033】
芳香族環および連結基は、置換基を有していてもよい。
置換基の例には、ハロゲン原子(F、Cl、Br、I)、ヒドロキシル基、カルボキシル基、シアノ基、アミノ基、ニトロ基、スルホ基、カルバモイル基、スルファモイル基、ウレイド基、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、脂肪族アシル基、脂肪族アシルオキシ基、アルコキシ基、アルコキシカルボニル基、アルコキシカルボニルアミノ基、アルキルチオ基、アルキルスルホニル基、脂肪族アミド基、脂肪族スルホンアミド基、脂肪族置換アミノ基、脂肪族置換カルバモイル基、脂肪族置換スルファモイル基、脂肪族置換ウレイド基および非芳香族性複素環基が含まれる。
レターデーション発現剤の分子量は、300乃至800であることが好ましい
【0034】
本発明では1,3,5−トリアジン環を用いた化合物の他に直線的な分子構造を有する棒状化合物も好ましく用いることができる。直線的な分子構造とは、熱力学的に最も安定な構造において棒状化合物の分子構造が直線的であることを意味する。熱力学的に最も安定な構造は、結晶構造解析または分子軌道計算によって求めることができる。例えば、分子軌道計算ソフト(例、WinMOPAC2000、富士通(株)製)を用いて分子軌道計算を行い、化合物の生成熱が最も小さくなるような分子の構造を求めることができる。分子構造が直線的であるとは、上記のように計算して求められる熱力学的に最も安定な構造において、分子構造で主鎖の構成する角度が140度以上であることを意味する。
【0035】
少なくとも二つの芳香族環を有する棒状化合物としては、下記一般式(1)で表される化合物が好ましい。

一般式(1):Ar1−L1−Ar2

上記一般式(1)において、Ar1およびAr2は、それぞれ独立に、芳香族基である。
本明細書において、芳香族基は、アリール基(芳香族性炭化水素基)、置換アリール基、芳香族性ヘテロ環基および置換芳香族性ヘテロ環基を含む。アリール基および置換アリール基の方が、芳香族性ヘテロ環基および置換芳香族性ヘテロ環基よりも好ましい。芳香族基の芳香族環としては、ベンゼン環、フラン環、チオフェン環、ピロール環、オキサゾール環、チアゾール環、イミダゾール環、トリアゾール環、ピリジン環、ピリミジン環およびピラジン環が好ましく、ベンゼン環が特に好ましい。
【0036】
一般式(1)において、L1は、アルキレン基、アルケニレン基、アルキニレン基、−O−、−CO−およびそれらの組み合わせからなる基から選ばれる二価の連結基である。
【0037】
一般式(1)の分子構造において、L1を挟んで、Ar1とAr2とが形成する角度は、140度以上であることが好ましい。
棒状化合物としては、下記式一般式(2)で表される化合物がさらに好ましい。

一般式(2):Ar1−L2−X−L3−Ar2

上記一般式(2)において、Ar1およびAr2は、それぞれ独立に、芳香族基である。芳香族基の定義および例は、一般式(I)のAr1およびAr2と同様である。
【0038】
一般式(2)において、L2およびL3は、それぞれ独立に、アルキレン基、−O−、−CO−およびそれらの組み合わせからなる基より選ばれる二価の連結基である。
【0039】
棒状化合物は直線的な分子構造を有することが好ましい。そのため、幾何異性体が存在する化合物の場合はトランス型の方がシス型よりも好ましい。光学異性体については、特に優劣はなく、D、Lあるいはラセミ体のいずれでもよい。
【0040】
溶液の紫外線吸収スペクトルにおいて最大吸収波長(λmax)が250nmより短波長である棒状化合物を、二種類以上併用してもよい。
棒状化合物は、文献記載の方法を参照して合成できる。文献としては、Mol. Cryst. Liq. Cryst., 53巻、229ページ(1979年)、同89巻、93ページ(1982年)、同145巻、111ページ(1987年)、同170巻、43ページ(1989年)、J. Am. Chem. Soc.,113巻、1349ページ(1991年)、同118巻、5346ページ(1996年)、同92巻、1582ページ(1970年)、J. Org. Chem.,40巻、420ページ(1975年)、Tetrahedron、48巻16号、3437ページ(1992年)を挙げることができる。
レターデーション発現剤の添加量は、ポリマーの量の0.1乃至30質量%であることが好ましく、0.5乃至20質量%であることがさらに好ましい。
【0041】
芳香族化合物は、セルロースアセテート100質量部に対して、0.01乃至20質量部の範囲で使用する。芳香族化合物は、セルロースアセテート100質量部に対して、0.05乃至15質量部の範囲で使用することが好ましく、0.1乃至10質量部の範囲で使用することがさらに好ましい。また、二種類以上の化合物を併用してもよい。
【0042】
セルロースアシレートが溶解される有機溶媒については特に制限はなく、公知の溶媒を使用することができるが、特に塩素系有機溶媒が好ましく用いられる。本発明においては、セルロースアシレートが溶解し流延,製膜できる範囲において、その目的が達成できる限りはその塩素系有機溶媒の種類は特に限定されない。また、塩素系有機溶媒以外の有機溶媒を混合することも特に問題ない。その場合は、ジクロロメタンは少なくとも50質量%使用することが必要である。
【0043】
次に非塩素系であっても好ましく用いることができる溶媒について記載する。
本発明においては、セルロースアシレートが溶解し、流延,製膜できて、その目的が達成できる限り、非塩素系有機溶媒は特に限定されない。本発明で用いられる非塩素系有機溶媒は、炭素原子数が3〜12のエステル、ケトン、エーテルから選ばれる溶媒が好ましい。エステル、ケトンおよび、エーテルは、環状構造を有していてもよい。エステル、ケトンおよびエーテルの官能基(すなわち、−O−、−CO−および−COO−)のいずれかを2つ以上有する化合物も、主溶媒として用いることができ、たとえばアルコール性水酸基のような他の官能基を有していてもよい。
【0044】
本発明のセルロースアシレートの好ましい溶媒は、互いに異なる3種類以上の混合溶媒であって、第1の溶媒が酢酸メチル、酢酸エチル、蟻酸メチル、蟻酸エチル、アセトン、ジオキソラン、ジオキサンから選ばれる少なくとも一種あるいはそれらの混合液であり、第2の溶媒が炭素原子数が4〜7のケトン類またはアセト酢酸エステルから選ばれる溶媒であり、第3の溶媒として炭素数が1〜10のアルコールまたは炭化水素から選ばれ、アルコールの場合、より好ましくは炭素数1〜8のアルコールである。なお第1の溶媒が、2種以上の溶媒の混合液である場合は、第2の溶媒がなくてもよい。第1の溶媒は、さらに好ましくは酢酸メチル、アセトン、蟻酸メチル、蟻酸エチルあるいはこれらの混合物であり、第2の溶媒は、メチルエチルケトン、シクロペンタノン、シクロヘキサノン、アセチル酢酸メチルが好ましく、これらの混合液であってもよい。第3の溶媒が炭化水素の場合は、は、直鎖であっても分枝を有していても環状であってもよく、その中でも飽和脂肪族炭化水素であることが好ましい。
【0045】
以上の3種類の混合溶媒は、第1の溶媒が20〜95質量%、第2の溶媒が2〜60質量%さらに第3の溶媒が2〜30質量%の比率で含まれることが好ましく、さらに第1の溶媒が30〜90質量%であり、第2の溶媒が3〜50質量%、さらに第3のアルコールが3〜25質量%含まれることが好ましい。また特に第1の溶媒が30〜90質量%であり、第2の溶媒が3〜30質量%、第3の溶媒がアルコールであり3〜15質量%含まれることが好ましい。なお、第1の溶媒が混合液で第2の溶媒を用いない場合は、第1の溶媒が20〜90質量%、第3の溶媒が5〜30質量%の比率で含まれることが好ましく、さらに第1の溶媒が30〜86質量%であり、さらに第3の溶媒が7〜25質量%含まれることが好ましい。以上の本発明で用いられる非塩素系有機溶媒は、さらに詳細には発明協会公開技報公技番号2001−1745号(2001年3月15日発行、発明協会)の12頁〜16頁に詳細に記載されている。
本発明に用いるドープには、上記本技術の非塩素系有機溶媒以外に、ジクロロメタンを本発明の全有機溶媒量の10質量%以下含有させてもよい。
【0046】
(セルロースアシレート溶液特性)
セルロースアシレート溶液は、有機溶媒に10〜30質量%溶解している溶液であることを特徴とするが、より好ましくは13〜27質量%であり、特に15〜25質量%溶解しているセルロースアシレート溶液であることが好ましい。これらの濃度にセルロースアシレート溶液を調製する方法は、溶解する段階で所定の濃度になるように実施してもよく、また予め低濃度溶液(例えば9〜14質量%)として溶解した後に後述する濃縮工程で所定の高濃度溶液に調製してもよい。さらに、予め高濃度のセルロースアシレート溶液として後に、種々の添加物を添加することで所定の低濃度のセルロースアシレート溶液としてもよく、いずれの方法で本発明のセルロースアシレート溶液濃度になるように調製されれば特に問題ない。
【0047】
セルロースアシレート溶液を同一組成の有機溶媒で0.1〜5質量%にした希釈溶液のセルロースアシレートの会合体分子量は15万〜1500万であることが好ましい。さらに好ましくは、会合分子量が18万〜900万である。この会合分子量は静的光散乱法で求めることができる。その際に同時に求められる慣性自乗半径は10〜200nmになるように溶解することが好ましい。さらに好ましい慣性自乗半径は20〜200nmである。更にまた、第2ビリアル係数が−2×10-4〜4×10-4となるように溶解することが好ましく、より好ましくは第2ビリアル係数が−2×10-4〜2×10-4である。ここで、本発明での会合分子量、さらに慣性自乗半径および第2ビリアル係数の定義について述べる。これらは下記方法に従って、静的光散乱法を用いて測定した。測定は装置の都合上希薄領域で測定したが、これらの測定値は本発明の高濃度域でのドープの挙動を反映するものである。まず、セルロースアシレートをドープに使用する溶剤に溶かし、0.1質量%、0.2質量%、0.3質量%、0.4質量%の溶液を調製した。なお、秤量は吸湿を防ぐためセルロースアシレートは120℃で2時間乾燥したものを用い、25℃,10%RHで行った。溶解方法は、ドープ溶解時に採用した方法(常温溶解法、冷却溶解法、高温溶解法)に従って実施した。続いてこれらの溶液、および溶媒を0.2μmのテフロン(登録商標)製フィルターで濾過した。そして、ろ過した溶液を静的光散乱を、光散乱測定装置(大塚電子(株)製DLS−700)を用い、25℃に於いて30度から140度まで10度間隔で測定した。得られたデータをBERRYプロット法にて解析した。なお、この解析に必要な屈折率はアッベ屈折系で求めた溶剤の値を用い、屈折率の濃度勾配(dn/dc)は、示差屈折計(大塚電子(株)製DRM−1021)を用い、光散乱測定に用いた溶媒、溶液を用いて測定した。
【0048】
(ドープ調製)
セルロースアシレート溶液(ドープ)の調製については、その溶解方法は特に限定されず、室温でもよくさらには冷却溶解法あるいは高温溶解方法、さらにはこれらの組み合わせで実施される。これらに関しては、例えば特開平5−163301、特開昭61−106628、特開昭58−127737、特開平9−95544、特開平10−95854、特開平10−45950、特開2000−53784、特開平11−322946、さらに特開平11−322947、特開平2−276830、特開2000−273239、特開平11−71463、特開平04−259511、特開2000−273184、特開平11−323017、特開平11−302388などの各公報にセルロースアシレート溶液の調製法、が記載されている。以上記載したこれらのセルロースアシレートの有機溶媒への溶解方法は、本発明においても適宜本発明の範囲であればこれらの技術を適用できるものである。これらの詳細は、特に非塩素系溶媒系については発明協会公開技報公技番号2001−1745号(2001年3月15日発行、発明協会)にて22頁〜25頁に詳細に記載されている方法で実施される。さらに本発明のセルロースアシレートのドープ溶液は、溶液濃縮,ろ過が通常実施され、発明協会公開技報公技番号2001−1745号(2001年3月15日発行、発明協会)の25頁に詳細に記載されている。なお、高温度で溶解する場合は、使用する有機溶媒の沸点以上の場合がほとんどであり、その場合は加圧状態で用いられる。
【0049】
セルロースアシレート溶液は、その溶液の粘度と動的貯蔵弾性率がある範囲であることが好ましい。回転粘弾性計としてレオメーター(CLS 500)を用い、直径4cm/2°のSteel Coneを用いて(共にTA Instrumennts社製)試料溶液1mLを採って測定した。測定条件はOscillation Step/Temperature Rampで40℃〜−10℃の範囲を2℃/分で変化させて測定し、40℃の静的非ニュートン粘度 n*(Pa・s)および−5℃の貯蔵弾性率G’(Pa)を求めた。尚、試料溶液は予め測定開始温度にて液温一定となるまで保温した後に測定を開始した。本発明では、40℃での粘度が1〜400Pa・sであり、15℃での動的貯蔵弾性率が500Pa以上が好ましく、より好ましくは40℃での粘度が10〜200Pa・sであり、15℃での動的貯蔵弾性率が100〜100万が好ましい。さらには低温での動的貯蔵弾性率が大きいほど好ましく、例えば流延支持体が−5℃の場合は動的貯蔵弾性率が−5℃で1万〜100万Paであることが好ましく、支持体が−50℃の場合は−50℃での動的貯蔵弾性率が1万〜500万Paが好ましい。
【0050】
セルロースアシレート溶液の濃度は前述のごとく、高濃度のドープが得られるのが特徴であり、濃縮という手段に頼らずとも高濃度でしかも安定性の優れたセルロースアシレート溶液が得られる。更に溶解し易くするために低い濃度で溶解してから、濃縮手段を用いて濃縮してもよい。濃縮の方法としては、特に限定するものはないが、例えば、低濃度溶液を筒体とその内部の周方向に回転する回転羽根外周の回転軌跡との間に導くとともに、溶液との間に温度差を与えて溶媒を蒸発させながら高濃度溶液を得る方法(例えば、特開平4−259511号公報等)、加熱した低濃度溶液をノズルから容器内に吹き込み、溶液をノズルから容器内壁に当たるまでの間で溶媒をフラッシュ蒸発させるとともに、溶媒蒸気を容器から抜き出し、高濃度溶液を容器底から抜き出す方法(例えば、米国特許第2,541,012号、米国特許第2,858,229号、米国特許第4,414,341号、米国特許第4,504,355号各明細書等などに記載の方法)等で実施できる。
【0051】
溶液は流延に先だって金網やネルなどの適当な濾材を用いて、未溶解物やゴミ、不純物などの異物を濾過除去しておくのが好ましい。セルロースアシレート溶液の濾過には絶対濾過精度が0.1〜100μmのフィルタが用いられ、さらには絶対濾過精度が0.5〜25μmであるフィルタを用いることが好ましく用いられる。フィルタの厚さは、0.1〜10mmが好ましく、更には0.2〜2mmが好ましい。その場合、ろ過圧力は16kgf/cm2 (1.57MPa)以下、より好ましくは12kgf/cm2(1.18MPa) 以下、更には10kgf/cm2 (0.98MPa)以下、特に好ましくは2kgf/cm2(0.19MPa) 以下で濾過することが好ましい。濾材としては、ガラス繊維、セルロース繊維、濾紙、四フッ化エチレン樹脂などのフッ素樹脂等の従来公知である材料を好ましく用いることができ、特にセラミックス、金属等が好ましく用いられる。セルロースアシレート溶液の製膜直前の粘度は、製膜の際に流延可能な範囲であればよく、通常10Pa・s〜2000Pa・sの範囲に調製されることが好ましく、30Pa・s〜1000Pa・sがより好ましく、40Pa・s〜500Pa・sが更に好ましい。なお、この時の温度はその流延時の温度であれば特に限定されないが、好ましくは−5〜70℃であり、より好ましくは−5〜55℃である。
【0052】
(製膜)
セルロースアシレート溶液を用いたフィルムの製造方法について述べる。
セルロースアシレートフィルムを製造する方法及び設備は、従来セルローストリアセテートフィルム製造に供する溶液流延製膜方法及び溶液流延製膜装置が用いられる。溶解機(釜)から調製されたドープ(セルロースアシレート溶液)を貯蔵釜で一旦貯蔵し、ドープに含まれている泡を脱泡して最終調製をする。ドープをドープ排出口から、例えば回転数によって高精度に定量送液できる加圧型定量ギヤポンプを通して加圧型ダイに送り、ドープを加圧型ダイの口金(スリット)からエンドレスに走行している流延部の金属支持体の上に均一に流延され、金属支持体がほぼ一周した剥離点で、生乾きのドープ膜(ウェブとも呼ぶ)を金属支持体から剥離する。
製膜工程中で延伸する場合は、剥離後に延伸ゾーンを設けることが好ましい。得られるウェブの両端をクリップで挟み、幅保持しながらテンターで搬送して延伸し、続いて乾燥装置のロール群で搬送し乾燥を終了して巻き取り機で所定の長さに巻き取る。ただし、テンターとロール群の乾燥装置の配置は目的によって変えても良い。ハロゲン化銀写真感光材料や電子ディスプレイ用機能性保護膜に用いる溶液流延製膜方法においては、溶液流延製膜装置の他に、下引層、帯電防止層、ハレーション防止層、保護層等のフィルムへの表面加工のために、塗布装置が付加されることが多い。以下に各製造工程について簡単に述べるが、これらに限定されるものではない。
【0053】
まず、調製したセルロースアシレート溶液(ドープ)は、ソルベントキャスト法によりセルロースアシレートフィルムを作製される際に、ドープはドラムまたはバンド上に流延し、溶媒を蒸発させてフィルムを形成する。流延前のドープは、固形分量が5〜40質量%となるように濃度を調整することが好ましい。ドラムまたはバンドの表面は、鏡面状態に仕上げておくことが好ましい。ドープは、表面温度が30℃以下のドラムまたはバンド上に流延することが好ましく用いられ、特には−10〜20℃の金属支持体温度であることが好ましい。さらに特開2000−301555号、特開2000−301558号、特開平07−032391号、特開平03−193316号、特開平05−086212号、特開昭62−037113号、特開平02−276607号、特開昭55−014201号、特開平02−111511号、および特開平02−208650号の各公報に記載の技術を本発明では応用できる。
【0054】
(重層流延)
セルロースアシレート溶液を、金属支持体としての平滑なバンド上或いはドラム上に単層液として流延してもよいし、2層以上の複数のセルロースアシレート液を流延してもよい。複数のセルロースアシレート溶液を流延する場合、金属支持体の進行方向に間隔を置いて設けた複数の流延口からセルロースアシレートを含む溶液をそれぞれ流延させて積層させながらフィルムを作製してもよく、例えば特開昭61−158414号、特開平1−122419号、および特開平11−198285号の各公報などに記載の方法が適応できる。また、2つの流延口からセルロースアシレート溶液を流延することによってもフィルム化することでもよく、例えば特公昭60−27562号、特開昭61−94724号、特開昭61−947245号、特開昭61−104813号、特開昭61−158413号、および特開平6−134933号の各公報に記載の方法で実施できる。また、特開昭56−162617号公報に記載の高粘度セルロースアシレート溶液の流れを低粘度のセルロースアシレート溶液で包み込み、その高,低粘度のセルロースアシレート溶液を同時に押出すセルロースアシレートフィルム流延方法でもよい。更に又、特開昭61−94724号および特開昭61−94725号の各公報に記載の外側の溶液が内側の溶液よりも貧溶媒であるアルコール成分を多く含有させることも好ましい態様である。或いはまた2個の流延口を用いて、第一の流延口により金属支持体に成型したフィルムを剥離し、金属支持体面に接していた側に第二の流延を行なうことでより、フィルムを作製することでもよく、例えば特公昭44−20235号公報に記載されている方法である。流延するセルロースアシレート溶液は同一組成の溶液でもよいし、異なるセルロースアシレート溶液でもよく特に限定されない。複数のセルロースアシレート層に機能を持たせるために、その機能に応じたセルロースアシレート溶液を、それぞれの流延口から押出すこともできる。さらにセルロースアシレート溶液は、他の機能層(例えば、接着層、染料層、帯電防止層、アンチハレーション層、UV吸収層、偏光層など)を同時に流延することも実施しうる。
【0055】
従来の単層液では、必要なフィルム厚さにするためには高濃度で高粘度のセルロースアシレート溶液を押出すことが必要であり、その場合セルロースアシレート溶液の安定性が悪くて固形物が発生し、ブツ故障となったり、平面性が不良であったりして問題となることが多かった。この解決として、複数のセルロースアシレート溶液を流延口から流延することにより、高粘度の溶液を同時に金属支持体上に押出すことができ、平面性も良化し優れた面状のフィルムが作製できるばかりでなく、濃厚なセルロースアシレート溶液を用いることで乾燥負荷の低減化が達成でき、フィルムの生産スピードを高めることができた。共流延の場合、内側と外側の厚さは特に限定されないが、好ましくは外側が全膜厚の1〜50%であることが好ましく、より好ましくは2〜30%の厚さである。ここで、3層以上を共流延した場合は最外層の2層を合わせた膜厚を外側の厚さと定義する。共流延の場合、前述の可塑剤、紫外線吸収剤、マット剤等の添加物濃度が異なるセルロースアシレート溶液を共流延して、積層構造のセルロースアシレートフィルムを作製することもできる。例えば、スキン層/コア層/スキン層といった構成のセルロースアシレートフィルムを作ることができる。例えば、マット剤は、スキン層に多く、又はスキン層のみに入れることができる。可塑剤、紫外線吸収剤はスキン層よりもコア層に多くいれることができ、コア層のみにいれてもよい。又、コア層とスキン層で可塑剤、紫外線吸収剤の種類を変更することもでき、例えばスキン層に低揮発性の可塑剤及び/又は紫外線吸収剤を含ませ、コア層に可塑性に優れた可塑剤、或いは紫外線吸収性に優れた紫外線吸収剤を添加することもできる。また、剥離剤を金属支持体側のスキン層のみ含有させることも好ましい態様である。また、冷却ドラム法で金属支持体を冷却して溶液をゲル化させるために、スキン層に貧溶媒であるアルコールをコア層より多く添加することも好ましい。スキン層とコア層のTgが異なっていても良いが、スキン層のTgよりコア層のTgが低いことが好ましい。又、流延時のセルロースアシレートを含む溶液の粘度もスキン層とコア層で異なっていても良く、スキン層の粘度がコア層の粘度よりも小さいことが好ましいが、コア層の粘度がスキン層の粘度より小さくてもよい。
【0056】
(流延方法)
溶液の流延方法としては、調製されたドープを加圧ダイから金属支持体上に均一に押し出す方法、一旦金属支持体上に流延されたドープをブレードで膜厚を調節するドクターブレードによる方法、或いは逆回転するロールで調節するリバースロールコーターによる方法等があるが、加圧ダイによる方法が好ましい。加圧ダイにはコートハンガータイプやTダイタイプ等があるが、いずれも好ましく用いることができる。また、ここで挙げた方法以外にも従来知られているセルローストリアセテート溶液を流延製膜する種々の方法で実施でき、用いる溶媒の沸点等の違いを考慮して各条件を設定することによりそれぞれの公報に記載の内容と同様の効果が得られる。本発明のセルロースアシレートフィルムを製造するのに使用されるエンドレスに走行する金属支持体としては、表面がクロムメッキによって鏡面仕上げされたドラムや表面研磨によって鏡面仕上げされたステンレスベルト(バンドといってもよい)が用いられる。本発明のセルロースアシレートフィルムの製造に用いられる加圧ダイは、金属支持体の上方に1基或いは2基以上の設置でもよい。好ましくは1基又は2基である。2基以上設置する場合には流延するドープ量をそれぞれのダイに種々な割合にわけてもよく、複数の精密定量ギヤアポンプからそれぞれの割合でダイにドープを送液してもよい。流延に用いられるセルロースアシレート溶液の温度は、−10〜55℃が好ましく、より好ましくは25〜50℃である。その場合、工程のすべてが同一温度でもよく、あるいは工程の各所で異なっていてもよい。異なる場合は、流延直前で所望の温度であればよい。
【0057】
(乾燥)
セルロースアシレートフィルムの製造に係わる金属支持体上におけるドープの乾燥は、一般的には金属支持体(ドラム或いはベルト)の表面側、つまり金属支持体上にあるウェブの表面から熱風を当てる方法、ドラム或いはベルトの裏面から熱風を当てる方法、温度コントロールした液体をベルトやドラムのドープ流延面の反対側である裏面から接触させて、伝熱によりドラム或いはベルトを加熱し表面温度をコントロールする液体伝熱方法などがあるが、裏面液体伝熱方式が好ましい。流延される前の金属支持体の表面温度はドープに用いられている溶媒の沸点以下であれば何度でもよい。しかし乾燥を促進するためには、また金属支持体上での流動性を失わせるためには、使用される溶媒の内の最も沸点の低い溶媒の沸点より1〜10度低い温度に設定することが好ましい。尚、流延ドープを冷却して乾燥することなく剥ぎ取る場合はこの限りではない。
【0058】
(セルロースアシレートフィルムの表面処理)
セルロースアシレートフィルムは、場合により表面処理を行うことによって、セルロースアシレートフィルムと各機能層(例えば、下塗層およびバック層)との接着の向上を達成することができる。例えばグロー放電処理、紫外線照射処理、コロナ処理、火炎処理、酸またはアルカリ処理を用いることができる。ここでいうグロー放電処理とは、10−3〜20Torrの低圧ガス下でおこる低圧プラズマでもよく、更にまた大気圧下でのプラズマ処理も好ましい。プラズマ励起性気体とは上記のような条件においてプラズマ励起される気体をいい、アルゴン、ヘリウム、ネオン、クリプトン、キセノン、窒素、二酸化炭素、テトラフルオロメタンの様なフロン類及びそれらの混合物などがあげられる。これらについては、詳細が発明協会公開技報公技番号2001−1745号(2001年3月15日発行、発明協会)にて30頁〜32頁に詳細に記載されている。なお、近年注目されている大気圧でのプラズマ処理は、例えば10〜1000Kev下で20〜500Kgyの照射エネルギーが用いられ、より好ましくは30〜500Kev下で20〜300Kgyの照射エネルギーが用いられる。これらの中でも特に好ましくは、アルカリ鹸化処理でありセルロースアシレートフィルムの表面処理としては極めて有効である。
【0059】
アルカリ鹸化処理は、セルロースアシレートフィルムを鹸化液の槽に直接浸漬する方法または鹸化液をセルロースアシレートフィルム塗布する方法で実施することが好ましい。塗布方法としては、ディップコーティング法、カーテンコーティング法、エクストルージョンコーティング法、バーコーティング法およびE型塗布法を挙げることができる。アルカリ鹸化処理塗布液の溶媒は、鹸化液の透明支持体に対して塗布するために濡れ性が良く、また鹸化液溶媒によって透明支持体表面に凹凸を形成させずに、面状を良好なまま保つ溶媒を選択することが好ましい。具体的には、アルコール系溶媒が好ましく、イソプロピルアルコールが特に好ましい。また、界面活性剤の水溶液を溶媒として使用することもできる。アルカリ鹸化塗布液のアルカリは、上記溶媒に溶解するアルカリが好ましく、KOH、NaOHがさらに好ましい。鹸化塗布液のpHは10以上が好ましく、12以上がさらに好ましい。アルカリ鹸化時の反応条件は、室温で1秒以上5分以下が好ましく、5秒以上5分以下がさらに好ましく、20秒以上3分以下が特に好ましい。アルカリ鹸化反応後、鹸化液塗布面を水洗あるいは酸で洗浄したあと水洗することが好ましい。
【0060】
(偏光板の製造方法)
本発明に用いられる偏光板は、偏光子の透過軸と位相差フィルムの遅相軸方向を略平行にして貼り合せることが好ましく、位相差フィルムと偏光子の長手方向を合わせて連続的に貼り合せる製造方法、いわゆるロールツーロールの貼り合せ方法が特に好ましく用いられる。位相差フィルムと偏光子を貼り合わせる方法については特に制限がなく、既知の方法で行うことができる。
【0061】
本発明では位相差フィルムと偏光子を貼り合わせる際に、位相差フィルムのレターデーション、および位相差フィルムの遅相軸方向を測定して搬送テンションを調整しながら偏光板を作製する。即ち位相差フィルムと偏光子を貼り合わせる際にオンラインで位相差フィルムの遅相軸方向を測定し、遅相軸方向とフィルムの長さ方向の成す角度が90°±1°に保たれるように工程条件を調整する。
【0062】
遅相軸角度の測定は特に制限は無く、市販されている測定装置を用いても良い。測定位置は位相差フィルムの送り出しロールから偏光子との貼合部までの間であれば特に制限はない。測定位置は幅方向に少なくとも3箇所以上設けることが好ましい。フィルムの幅によって最も好ましい数は異なるが、一般的に市販されるフィルム幅である600〜1500mmの場合には3箇所乃至7箇所程度設けることが好ましい。
【0063】
搬送テンションは本発明の要件を満たしていれば特に制限はないが、フィルム幅あたり10kgf(98N)乃至300kgf(2.94kN)が好ましく、20kgf(196N)乃至200kgf(1.96kN)が更に好ましく、20kgf(196N)乃至150kgf(1.47kN)が最も好ましい。10kgf(98N)未満であると位相差フィルムがたるみやすく、偏光子との貼りあわせ時に気泡やシワが発生しやすくなり歩留まりが悪くなる。300kgf(2.94kN)を超えると位相差のわづかな軸角度のズレが増幅され、液晶表示装置に用いた時にムラが顕在化するからである。
【0064】
また本発明は偏光子に接着する直前の位相差フィルムのレターデーションをRe(λ)1、位相差フィルムのテンションがかかっていない時のレターデーションをRe(λ)2としたときに、Re(λ)1−Re(λ)2≦10nmとなるように搬送テンションを調整して位相差フィルムを作製することでも実施できる。
【0065】
この場合、Re(λ)1−Re(λ)2が10nm以下であることが好ましく、8nm以下であることが更に好ましく、5nm以下であることが好ましい。
上記に関しては、プラスチックエージ、40巻、152頁(1994)が参考となる。
【0066】
本発明に用いる偏光板の偏光子の製造方法は特に制限はなく公知の方法で製造することができる。偏光子の膜厚は10μm乃至50μmが好ましく、20μm乃至40μmが更に好ましく、25μm乃至40μmが最も好ましい。
【0067】
本発明に用いる偏光板は偏光子と位相差フィルム、透明保護フィルムと張り合わせた後に乾燥させる。乾燥方法は特に制限はなく、例えば一定の温度に保った乾燥ゾーンを通す方法で乾燥させる。乾燥温度は40℃以上100℃以下が好ましく、50°以上90℃以下が更に好ましく、60℃以上80℃以下が最も好ましい。
【0068】
(偏光板表面の機能層)
本発明に用いる偏光板の保護フィルム表面に機能層(反射防止層、防眩層、防汚層、帯電防止層等)を設けても良い。
反射防止層や防眩層は、本発明の目的に適したもの満たす範囲であれば特に制限は無く、例えばCV FILM (富士写真フイルム(株)製)、リアルック(日本油脂製)、反射防止偏光板(ARSタイプ、ARCタイプ;日東電工(株)製)等の市販フィルム、偏光板を用いることができる。
帯電防止層を設ける場合には体積抵抗率が10-8(Ωcm-3)以下の導電性を付与することが好ましい。吸湿性物質や水溶性無機塩、ある種の界面活性剤、カチオンポリマー、アニオンポリマー、コロイダルシリカ等の使用により10-8(Ωcm-3)の体積抵抗率の付与は可能であるが、温湿度依存性が大きく、低湿では十分な導電性を確保できない問題がある。そのため、導電性層素材としては金属酸化物が好ましい。金属酸化物には着色しているものがあるが、これらの金属酸化物を導電性層素材として用いるとフィルム全体が着色してしまい好ましくない。着色のない金属酸化物を形成する金属としてZn,Ti,Sn,Al,In,Si,Mg,Ba,Mo,W,又はVをあげることができ、これを主成分とした金属酸化物を用いることが好ましい。具体的な例としては、ZnO,TiO2,SnO2,Al2O3,In23,SiO2,MgO,BaO,MoO3,WO3,V2O5等、あるいはこれらの複合酸化物がよく、特にZnO,TiO2,及びSnO2が好ましい。異種原子を含む例としては、例えばZnOに対してはAl,In等の添加物、SnO2に対してはSb,Nb,ハロゲン元素等の添加、またTiO2に対してはNb,Ta等の添加が効果的である。更にまた、特公昭59−6235号公報に記載の如く、他の結晶性金属粒子あるいは繊維状物(例えば酸化チタン)に上記の金属酸化物を付着させた素材を使用しても良い。尚、体積抵抗値と表面抵抗値は別の物性値であり単純に比較することはできないが、体積抵抗値で10-8(Ωcm-3)以下の導電性を確保するためには、該導電層が概ね10-10(Ω/□)以下の表面抵抗値を有していればよく更に好ましくは10-8(Ω/□)である。導電層の表面抵抗値は帯電防止層を最表層としたときの値として測定されることが必要であり、本特許に記載の積層フィルムを形成する途中の段階で測定することができる。
【0069】
(偏光板の保管方法)
本発明で使用する偏光板は液晶セルに張り合わせるまでの間、防湿処理した袋に保管することが好ましい。偏光板を所定の温湿度に放置した後で袋に保管しても良い。防湿処理された袋の材料は特に制限は無く、公知の材料を用いることができる(非特許文献2〜4)。軽量で扱いやすい材料が望ましく、プラスチックフィルム上にシリカやアルミナ、セラミックス材料等を蒸着したフィルムやプラスチックフィルムとアルミ箔の積層フィルム等の複合材料を特に好ましく用いることができる。アルミ箔の厚さとしては、環境湿度に袋内の湿度が変化しない厚さであれば特に制限はないが、数μm〜数100μmの厚さであることが好ましく、10μm〜500μmであることが更に好ましい。防湿処理を施した袋内の湿度は偏光板を包装した状態で25℃において40%RH〜70%RHであることが好ましい。
これらに関しては、さらに「包装材料便覧」、日本包装技術協会(1995年)、「包装材料の基礎知識」、(社)日本包装技術協会(2001年11月)、「機能性包装入門」、21世紀包装研究境界(2002年2月28日 初版第1刷)などにも記載されている。
【0070】
(液晶表示装置)
一般に液晶セルはTN(Twisted Nematic)、IPS(In−Plane Switching)、FLC(Ferroelectric Liquid Crystal)、AFLC(Anti−ferroelectric Liquid Crystal)、OCB(Optically Compensatory Bend)、STN(Supper Twisted Nematic)、VA(Vertically Aligned)およびHAN(Hybrid Aligned Nematic)のような様々な表示モードが提案されており、本発明の液晶セルに用いることが出来る。このうち、VAモードまたはOCBモードが特に好ましく用いることができる。
【0071】
VAモードの液晶セルでは、電圧無印加時に棒状液晶性分子が実質的に垂直に配向している。
VAモードの液晶セルには、(1)棒状液晶性分子を電圧無印加時に実質的に垂直に配向させ、電圧印加時に実質的に水平に配向させる狭義のVAモードの液晶セル(特開平2−176625号公報記載)に加えて、(2)視野角拡大のため、VAモードをマルチドメイン化した(MVAモードの)液晶セル(SID97、Digest of tech. Papers(予稿集)28(1997)845記載)、(3)棒状液晶性分子を電圧無印加時に実質的に垂直配向させ、電圧印加時にねじれマルチドメイン配向させるモード(n−ASMモード)の液晶セル(日本液晶討論会の予稿集58〜59(1998)記載)および(4)SURVAIVALモードの液晶セル(LCDインターナショナル98で発表)が含まれる。
【0072】
OCBモードの液晶セルは、棒状液晶性分子を液晶セルの上部と下部とで実質的に逆の方向に(対称的に)配向させるベンド配向モードの液晶セルを用いた液晶表示装置である。OCBモードの液晶セルは、米国特許第4583825号、同5410422号の各明細書に開示されている。棒状液晶分子が液晶セルの上部と下部とで対称的に配向しているため、ベンド配向モードの液晶セルは、自己光学補償機能を有する。そのため、この液晶モードは、OCB(Optically Compensatory Bend)液晶モードとも呼ばれる。ベンド配向モードの液晶表示装置は、応答速度が速いとの利点がある。
【実施例1】
【0073】
以下、本発明を実施例に基づき具体的に説明するが、本発明は実施例に限定されない。
【0074】
[実施例1]
[位相差フィルム1の作製]
下記のセルロースアセテート溶液組成の各成分をミキシングタンクに投入し、加熱しながら攪拌して、各成分を溶解し、セルロースアセテート溶液を調製した。
【0075】
(セルロースアセテート溶液組成)
セルロースアセテート
(アセチル置換度2.87、全置換度2.87) 100質量部
トリフェニルホスフェート(可塑剤) 7.8質量部
ビフェニルジフェニルホスフェート(可塑剤) 3.9質量部
メチレンクロライド(第1溶媒) 318質量部
メタノール(第2溶媒) 47質量部
シリカ(粒径0.2μm) 0.1質量部
【0076】
別のミキシングタンクに、下記のレターデーション制御剤20質量部、メチレンクロライド87質量部およびメタノール13質量部を投入し、加熱しながら攪拌して、レターデーション発現剤溶液1を調製した。
セルロースアセテート溶液474質量部にレターデーション発現剤溶液1を24.1質量部を混合し、充分に攪拌してドープを調製した。レターデーション調整剤の添加量は、セルロースアセテート100質量部に対して、4.0質量部であった。
【0077】
【化1】


【0078】
得られたドープを、バンド部−テンター部−乾燥部−巻き取り部から構成されるバンド流延機を用いて流延、延伸し位相差フィルムを作製した。バンド上にドープを流し、搬送しながら乾燥させフィルムを形成させ、乾燥残留溶剤量が25質量%のフィルムを剥離した。次にテンター部において、130℃の温度で、25%の延伸倍率で横延伸した。延伸後1%緩和させた後、テンタークリップからフィルムを離脱し、フィルムの両端を切り、乾燥部にて130℃で乾燥させた。乾燥後の残留溶剤量は0.7%であった。
乾燥ゾーンと巻き取り部の間に複屈折計(KOBRA−WID、王子計測機器(株)製)をベース幅の中央および両端部が測定できるように3箇所に取り付け、延伸処理したフィルムの遅相軸方向を測定しながら、巻き取り部でフィルムを巻き取った。位相差フィルムは、α1の測定を連続して行い、フィルムの長さ方向に対して90°±0.5°の範囲を超えた場合に延伸開始位置を前後に調整しながら作製した。この微調整により、2600mのフィルム長全域において90°±0.6°の軸角度が実現できた。
このようにして得られた位相差フィルム1から試験用試料を切り出し、複屈折計(KOBRA 21ADH、王子計測機器(株)製)を用いて波長590nmにおける正面レターデーションRe(590)を測定した。同様にフィルム面に対する法線から40°および−40°傾いた方向からのレターデーションを測定し、膜厚方向レターデーションRth(590)を算出した。また、得られたフィルムの膜厚は88μmであった。
【0079】
[実施例2]
[位相差フィルム2の作製]
ドープの流延幅を広げて、完成した時の位相差フィルムの幅を1470mmにしたこと以外は実施例1と同様にして位相差フィルム2を作製した。実施例1と同様に軸角度の測定は連続して行い、同様の微調整を行うことにより、2600mのフィルム長全域で90°±0.6°の軸角度が実現されていた。
【0080】
[実施例3]
[位相差フィルム3の作製]
実施例1で作製したセルロースアセテート溶液474質量部にレターデーション発現剤溶液1を18.0質量部混合し、充分に攪拌してドープを調製した。レターデーション調整剤の添加量は、セルロースアセテート100質量部に対して、2.9質量部であった。
延伸倍率を32%にし、延伸部の延伸温度を135℃にしたこと以外は実施例1と同様にしてセルロースアセテートフィルム(厚さ:92μm)を作製した。実施例1と同様に軸角度の測定は連続して行い、同様の微調整を行うことにより、2600mのフィルム長全域で90°±0.6°の軸角度が実現されていた。得られた位相差フィルムについて、実施例1と同様の測定を行い、Re(590)およびRth(590)を求めた。
【0081】
[実施例4]
[位相差フィルム4の作製]
下記のセルロースエステル溶液組成の各成分をミキシングタンクに投入し、加熱しながら攪拌して、各成分を溶解し、セルロースアシレート溶液を調製した。
【0082】
(セルロースアシレート溶液組成)
セルロースアセテート
(アセチル置換度2.80、6位の置換度91%) 100質量部
トリフェニルホスフェート(可塑剤) 7.8質量部
ビフェニルジフェニルホスフェート(可塑剤) 3.9質量部
メチレンクロライド(第1溶媒) 318質量部
実施例1に記載のレターデーション発現剤 3.8質量部
メタノール(第2溶媒) 47質量部
シリカ(粒径0.2μm) 0.1質量部
【0083】
延伸倍率を26%、延伸温度を140℃にしたこと以外は実施例1と同様にして位相差フィルム4(厚さ:88μm)を作製した。実施例1と同様に軸角度の測定は連続して行い、同様の微調整を行うことにより、2600mのフィルム長全域で90°±0.5°の軸角度が実現されていた。得られた位相差フィルムについて、実施例1と同様の測定を行い、Re(590)およびRth(590)を求めた。
【0084】
[実施例5]
[位相差フィルム5の作製]
下記のセルロースエステル溶液組成の各成分をミキシングタンクに投入し、加熱しながら攪拌して、各成分を溶解し、セルロースアシレート溶液を調製した。
【0085】
(セルロースアシレート溶液組成)
セルロースアセテート(アセチル置換度2.80、6位の置換度91%)100質量部
トリフェニルホスフェート(可塑剤) 7.8質量部
ビフェニルジフェニルホスフェート(可塑剤) 3.9質量部
メチレンクロライド(第1溶媒) 318質量部
実施例1に記載のレターデーション発現剤 6.0質量部
メタノール(第2溶媒) 47質量部
シリカ(粒径0.2μm) 0.1質量部
【0086】
延伸倍率を20%、延伸温度を140℃にしたこと以外は実施例1と同様にして位相差フィルム5(厚さ:88μm)を作製した。実施例1と同様に軸角度の測定は連続して行い、同様の微調整を行うことにより、2600mのフィルム長全域で90°±0.5°の軸角度が実現されていた。得られた位相差フィルムについて、実施例1と同様の測定を行い、Re(590)およびRth(590)を求めた。
【0087】
[実施例6]
[位相差フィルム6の作製]
下記のセルロースアシレート溶液組成の各成分をミキシングタンクに投入し、加熱しながら攪拌して、各成分を溶解し、セルロースアシレート溶液を調製した。
【0088】
(セルロースアシレート溶液組成)
アセチル基の置換度1.90、プロピオニル基の置換度0.80のセルロースアセテートプロピオネート 100質量部
トリフェニルホスフェート 8.5質量部
エチルフタリルエチルグリコレート 2.0質量部
メチレンクロライド 290質量部
エタノール 60質量部
【0089】
別のミキシングタンクに、アセテートプロピオネート5質量部、チヌビン326(チバ・スペシャルティ・ケミカルズ(株)製)6質量部、チヌビン109(チバ・スペシャルティ・ケミカルズ(株)製)4質量部、チヌビン171(チバ・スペシャルティ・ケミカルズ(株)製)5質量部及び塩化メチレン94質量部とエタノール8質量部を投入し、加熱しながら攪拌して、添加剤溶液を調製した。
セルロースアセテート溶液474質量部に添加剤溶液10質量部を混合し、充分に攪拌してドープを調製した。
【0090】
延伸倍率を30%としたこと以外は実施例1と同様にして位相差フィルム6(厚さ:80μm)を作製した。実施例1と同様に軸角度の測定は連続して行い、同様の微調整を行うことにより、2600mのフィルム長全域で90°±0.7°の軸角度が実現されていた。得られた位相差フィルムについて、実施例1と同様の測定を行い、Re(590)およびRth(590)を求めた。
【0091】
[比較例1]
(位相差フィルム7の作製)
位相差フィルムを作製する工程中で遅相軸方向を測定せず、工程条件も調整しなかったこと以外は実施例1と同様にして位相差フィルム7(膜厚:88μm)を作製した。得られたフィルムから長さ500m毎に、幅方向7箇所を均等に切り出し、複屈折計(KOBRA DH、王子計測機器(株)製)を用いて遅相軸方向を測定したところ、2000m作製したところでフィルム長さ方向に対して90°±1.1°のズレが発生していた。また、得られた位相差フィルムについて、実施例1と同様の測定を行い、Re(590)およびRth(590)を求めた。
【0092】
[比較例2]
(位相差フィルム8の作製)
位相差フィルムを作製する工程中で遅相軸方向を測定せず、工程条件も調整しなかったこと以外は実施例1と同様にして位相差フィルム7(膜厚:88μm)を作製した。2600m長さのロール試料を10本作製するごとに比較例1と同様にして遅相軸角度を測定したところ、300本の作製で最大90°±1.5°のズレが発生していた。
【0093】
【表1】

【0094】
上記各実施例及び比較例の試験結果を表1にまとめて示した。表1は、すでに各実施例と比較例で述べたように、長さ方向と遅相軸方向が成す角度の測定位置によるばらつきの範囲が本発明例である実施例1〜6は、いずれも0.7以内であり、比較例は1.1及び1.5であって、本発明例が極めて均一な光学的均一性を有していることが示されている。
【0095】
[実施例7][偏光板1A、1Bの作製]
延伸したポリビニルアルコールフィルムにヨウ素を吸着させて偏光膜を作製した。
実施例1で作製した位相差フィルム1に以下のケン化条件でケン化処理を行い、作製した偏光膜と張り合わせた。偏光子の位相差フィルムと反対側の保護フィルムには市販のタックフィルム(TD80U、富士写真フイルム(株)製)に同様のケン化処理を行ったものを用いた。
1.5Nの水酸化ナトリウム水溶液を調製し、55℃に保温した。0.01Nの希硫酸水溶液を調製し、35℃に保温した。位相差フィルム1を上記の水酸化ナトリウム水溶液に2分間浸漬した後、水に浸漬し水酸化ナトリウム水溶液を十分に洗い流した。次いで、上記の希硫酸水溶液に1分間浸漬した後、水に浸漬し希硫酸水溶液を十分に洗い流した。最後に試料を120℃で十分に乾燥させた。
ケン化処理を施した位相差フィルム1を偏光板加工装置に取り付ける前に、試験試料を切り出し、複屈折計(KOBRA 21ADH)を用いてRe(590)2を測定したところ、位相差フィルム1作製後に測定した値と同じであった。同様にして、遅相軸方向を複屈折計(KOBRA 21DH、王子計測機器(株)製)を用いて測定した。
位相差フィルム1と偏光子を接着させるロールの手前に、位相差フィルムのRe(λ)1および遅相軸方向を測るための測定装置を幅方向に3箇所ずつ設置し、常に測定を行い、微調整を行いながら貼り合せを行った。Re(λ)は複屈折計(Exicor MT3、Hinds Instruments Inc.)の仕様の一部を変更して測定した。遅相軸方向の測定はKOBRA−WID(王子計測機器(株)製)を用いて、位相差フィルム作製時と同じようにして測定を行った。搬送テンションを調整し、Re(λ)1−Re(λ)2は4±1nmとなるようにした。また、この時の長さ方向と遅相軸方向が成す角度α2は0.6°であった。
偏光子と位相差フィルム1、タックフィルムを張り合わせた後、70℃の乾燥ゾーンで乾燥させて偏光板1Aを作製した。
【0096】
市販のタックフィルムの代わりに市販の反射防止フィルム(CV FILM CV L02 80 1290MM M2、富士写真フイルム(株)製)を使用したこと以外は偏光板1Aと同様にして偏光板1Bを作製した。
【0097】
[実施例8]
[偏光板2A、2Bの作製]
位相差フィルム1の代わりに位相差フィルム2を用いたこと以外は実施例7と同様にして偏光板2A、2Bを作製した。この時、搬送テンションを調整し、Re(λ)1−Re(λ)2は3±1nmとなるようにした。また、この時の長さ方向と遅相軸方向が成す角度α2は0.6°であった。
【0098】
[実施例9]
[偏光板3A、3Bの作製]
ペンタエリスリトールトリアクリレート、ペンタエリスリトールテトラアクリレートの混合物(PETA、日本化薬(株)製)50gをトルエン38.5gで希釈した。更に、重合開始剤(イルガキュア184、チバ・スペシャルティ・ケミカルズ(株)製)を2g添加し、混合攪拌した。この溶液を塗布、紫外線硬化して得られた塗膜の屈折率は1.51であった。
さらにこの溶液にポリトロン分散機にて10000rpmで20分分散した平均粒径3.5μmの架橋ポリスチレン粒子(屈折率1.60、SX−350、綜研化学(株)製)の30%トルエン分散液を1.7gおよび平均粒径3.5μmの架橋アクリル−スチレン粒子(屈折率1.55、綜研化学(株)製)の30%トルエン分散液を13.3g加え、最後に、フッ素系表面改質剤(FP−1)0.75g、シランカップリング剤(KBM−5103、信越化学工業(株)製)を10gを加え、完成液とした。
上記混合液を孔径30μmのポリプロピレン製フィルターでろ過して光散乱層の塗布液を調製した。
【0099】
屈折率1.42の熱架橋性含フッ素ポリマー(JN−7228、固形分濃度6%、JSR(株)製)13g、シリカゾル(シリカ、MEK−STの粒子サイズ違い、平均粒径45nm、固形分濃度30%、日産化学(株)製)1.3g、ゾル液a 0.6gおよびメチルエチルケトン5g、シクロヘキサノ0.6gを添加、攪拌の後、孔径1μmのポリプロピレン製フィルターでろ過して、低屈折率層用塗布液を調製した。
【0100】
80μmの厚さのトリアセチルセルロースフイルム(TAC−TD80U、富士写真フイルム(株)製)をロール形態で巻き出して、上記の機能層(光散乱層)用塗布液を線数180本/インチ、深度40μmのグラビアパターンを有する直径50mmのマイクログラビアロールとドクターブレードを用いて、グラビアロール回転数30rpm、搬送速度30m/分の条件で塗布し、60℃で150秒乾燥の後、さらに窒素パージ下で160W/cmの空冷メタルハライドランプ(アイグラフィックス(株)製)を用いて、放射照度400mW/cm2 、照射エネルギー量250mJ/cm2の紫外線を照射して塗布層を硬化させ、厚さ6μmの機能層を形成し、巻き取った。
該機能層(光散乱層)を塗設したトリアセチルセルロースフイルムを再び巻き出して、該調製した低屈折率層用塗布液を線数180本/インチ、深度40μmのグラビアパターンを有する直径50mmのマイクログラビアロールとドクターブレードを用いて、グラビアロール回転数30rpm、搬送速度15m/分の条件で塗布し、120℃で150秒乾燥の後、更に140℃で8分乾燥させてから窒素パージ下で240W/cmの空冷メタルハライドランプ(アイグラフィックス(株)製)を用いて、放射照度400mW/cm2 、照射エネルギー量900mJ/cm2の紫外線を照射し、厚さ100nmの低屈折率層を形成し、巻き取った。このようにして反射防止層付透明フィルムを作成した。
このようにして得られたフィルムを市販の反射防止フィルムの代わりに使用し、位相差フィルム1の代わりに位相差フィルム3を使用したこと以外は実施例7と同様にして偏光板3A、3Bを作製した。
【0101】
[実施例10]
[偏光板4A、4Bの作製]
実施例9で作成した反射防止層付透明フィルムを市販の反射防止フィルムの代わりに使用し、位相差フィルム1の代わりに市販のトリアセチルセルロースフイルム(TAC−TD80U、富士写真フイルム(株)製)を用いたこと以外は実施例7と同様にして偏光板4Aを作製した。また、位相差フィルム1の代わりに位相差フィルム4を用いたこと以外は実施例7と同様にして偏光板4Bを作製した。
【0102】
[実施例11]
[偏光板5A、5Bの作製]
位相差フィルム4A、4Bの代わりに位相差フィルム5を使用したこと以外は実施例7と同様にして偏光板5A、5Bを作製した。
【0103】
[実施例12]
[偏光板6A、6Bの作製]
実施例9で作成した反射防止層付透明フィルムを市販の反射防止フィルムの代わりに使用し、位相差フィルム1の代わりに位相差フィルム6を用いたこと以外は実施例7と同様にして偏光板4A、4Bを作製した。
【0104】
[比較例3]
位相差フィルム1の代わりに位相差フィルム2を用いたこと以外は実施例7と同様にして偏光板7A、7Bを作製した。Re(λ)1−Re(λ)2は4±1nmとなるようにした。また、この時の長さ方向と遅相軸方向が成す角度αは0.6°であった。
【0105】
[比較例4]
偏光子と位相差フィルムを貼り合わせる時の搬送テンションを強め、Re(λ)1−Re(λ)2を12±1nmにしたこと以外は実施例1と同様にして偏光板8A、8Bを作製した。
【0106】
[実施例13]
〔液晶表示装置の作製〕
垂直配向型液晶セルを使用した市販の液晶表示装置(富士通(株)製等)に用いられている一対の偏光板および一対の光学補償シートを剥がし、液晶セルのみを取り出した。液晶セルのバックライト側に偏光板1A、視認側に偏光板1Bをクロスニコルになるように粘着シートを用いて貼り付けた。このようにして作製した液晶セルを元通りに配線し、組み立てて液晶表示装置を作製した。
【0107】
〔液晶表示装置の目視観察、輝度測定〕
液晶表示装置の電源を入れて黒表示をさせた後、目視で観察した結果、全面に渡ってムラの無い均質な黒表示であった。次にパネルを上下左右に動かすことができる専用の治具に固定し、測定機(EZ-Contrast 160D、ELDIM社製)を用いて輝度を測定した。上下左右にパネルを1cmごとに動かしながら測定し輝度差を算出した。
同様にして偏光板2〜6を用いた液晶表示装置を作製し、目視観察を行ったところ、いずれも全面に渡ってムラの無い均質な黒表示であった。また、輝度差についても上記と同様にして測定した。結果を表2に示す。
【0108】
[比較例5]
偏光板1A、1Bの代わりに7A、7Bを用いたこと以外は実施例13と同様にして液晶表示装置を作製した。目視で観察したところパネルのほぼ全面に2〜3cmピッチのムラが発生していた。実施例13と同様にして輝度差を測定した結果を表2に示す。
【0109】
[比較例6]
偏光板7A、7Bの代わりに8A、8Bを用いたこと以外は実施例13と同様にして液晶表示装置を作製した。目視で観察したところ部分的に2〜3cmピッチのムラが発生していた。実施例13と同様にして輝度差を測定した結果を表2に示す。
【0110】
【表2】

【0111】
前記した各偏光板の目視結果に加えて、表2には本発明例の偏光板が均一な輝度を有していて位置による輝度のばらつきが比較例に対して顕著に少ないことを示している。この結果は、長さ方向と遅相軸方向が成す角度のばらつきα(°)が少ないことによく対応していることも示されている。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
液晶セルの両側に偏光板がクロスニコルになるように配置され、少なくとも一方の偏光板の偏光子と液晶セルの間に位相差フィルムが設けられた液晶表示装置であって、面内の任意の位置における1cmあたりの輝度差が0.1cd/m以下であることを特徴とする液晶表示装置。
【請求項2】
幅方向に延伸して作製したポリマーフィルムからなる位相差フィルムが設けられた液晶表示装置あって、該ポリマーフィルムの遅相軸方向が長さ方向に対して90°±1°以内であり、かつ該位相差フィルムのRe(λ)およびRth(λ)の値が下記式(I)および(II)を満足することを特徴とする請求項1に記載の液晶表示装置。
(I)20≦Re(590) ≦200
(II)70≦Rth(590)≦400
[式中、Re(λ)は波長λnmにおける正面レターデーション値(単位:nm)、Rth(λ)は波長λnmにおける膜厚方向のレターデーション値(単位:nm)である。]
【請求項3】
幅方向に延伸して作製したポリマーフィルムからなる位相差フィルムが設けられた液晶表示装置あって、該ポリマーフィルム延伸工程中において該ポリマーフィルムの遅相軸方向を測定し、該遅相軸方向とフィルムの長さ方向が成す角度α1が90°±1°になるように工程条件を調整することで該ポリマーフィルムが作成されたことを特徴とする請求項1又は2に記載の液晶表示装置。
【請求項4】
幅方向に延伸して作製したポリマーフィルムからなる位相差フィルムが設けられた液晶表示装置あって、該ポリマーフィルム延伸工程中において該ポリマーフィルムの遅相軸方向を測定し、該遅相軸方向とフィルムの長さ方向が成す角度α1が90°±1°になるように延伸開始時の残留溶剤量を調整することで該ポリマーフィルムが作成されたことを特徴とする請求項3に記載の液晶表示装置。
【請求項5】
位相差フィルムを備えた偏光板が設けられた液晶表示装置であって、該位相差フィルムの遅相軸方向を偏光子に接着する直前で測定し、該遅相軸方向と位相差フィルムの長さ方向が成す角度α2が90°±1°となるように搬送テンションを調整することにより該位相差フィルムが作製されたことを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の液晶表示装置。
【請求項6】
位相差フィルムを備えた偏光板が設けられた液晶表示装置であって、該位相差フィルムと偏光子を接着して偏光板を作製する直前において該位相差フィルムのレターデーションRe(λ)1を測定し、位相差フィルムにテンションがかかっていない時のレターデーションをRe(λ)2としたときに、Re(λ)1−Re(λ)2≦10nmとなるように搬送テンションを調整することによって該位相差フィルムが作製されたことを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の液晶表示装置。
【請求項7】
延伸したポリマーフィルムがセルロースアシレートフィルムからなることを特徴とする請求項1〜6のいずれかに記載の液晶表示装置。
【請求項8】
セルロースの水酸基をアセチル基および炭素原子数が3以上のアシル基で置換して得られたセルロースの混合脂肪酸エステルからなるセルロースアシレートフィルムであって、アセチル基の置換度A、炭素原子数が3以上のアシル基の置換度Bとが下記式(V)(VI)をみたすセルロースアシレートフィルムを用いたことを特徴とする請求項7に記載の液晶表示装置。
(III)2.0≦A+B≦3.0
(IV)B>0
【請求項9】
前記セルロースの6位の水酸基の置換度の総和が0.75以上であることを特徴とするセルロースアシレートフィルム用いたことを特徴とする請求項7又は8に記載の液晶表示装置。
【請求項10】
少なくとも二つの芳香族環を有する化合物を前記セルロースアシレート100質量部に対して、0.01乃至20質量部含むセルロースアシレートフィルムを用いたことを特徴とする請求項7〜9のいずれかに記載の液晶表示装置。
【請求項11】
少なくとも一方の位相差フィルムがロールツーロールで偏光子に接着されたことを特徴とする請求項1〜10のいずれかに記載の液晶表示装置。
【請求項12】
液晶セルがVAモードまたはOCBモードであることを特徴とする請求項1〜11のいずれかに記載の液晶表示装置。

【公開番号】特開2006−243517(P2006−243517A)
【公開日】平成18年9月14日(2006.9.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−61043(P2005−61043)
【出願日】平成17年3月4日(2005.3.4)
【出願人】(000005201)富士写真フイルム株式会社 (7,609)
【Fターム(参考)】