説明

液晶装置及びプロジェクタ

【課題】 OCBモードにおける初期配向転移を円滑に行うことができ、均一な表示と高い信頼性を具備した液晶装置を提供する。
【解決手段】 表示動作時にベンド配向を呈する液晶層50と、該液晶層50を挟持して対向する一対の基板10,20とを備え、前記基板10,20の前記液晶層側に、無機配向膜16,22が形成されている構成とした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液晶装置及びプロジェクタに関するものである。
【背景技術】
【0002】
液晶装置の分野において、近年、動画の画質向上を目的として応答速度の速いOCBモードの液晶装置が脚光を浴びている(例えば特許文献1参照)。OCBモードでは、初期状態では液晶分子が2枚の基板間でスプレイ状に開いたスプレイ配向とであり、表示動作時には液晶分子が弓なりに配列した状態(ベンド配向)に移行する(例えば特許文献1参照)。OCBモードの液晶装置では、特許文献1にも記載されているように、初期配向転移が十分に成されないと表示不良が生じたり、所望の高速応答性が得られないという問題が生じることが知られている。
【特許文献1】特開2002−328399号公報
【特許文献2】特開平11−133430号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
上記特許文献1では、初期配向転移を円滑に行うために画素間の横電界を利用しているが、初期配向転移には、配向膜による初期配向状態の制御も重要であり、例えば液晶のプレチルト角の大小により初期配向転移の速度が変化する。しかしながら、一般的なラビング処理を用いる方法では、プレチルト角を大きくするとラビングスジによるムラが視認されやすくなるという問題がある。ラビング処理以外の配向処理方法としては、例えば特許文献2に記載の光照射による配向処理が知られているが、プロジェクタのような高強度の光照射を受ける用途では配向膜の劣化が生じやすいという問題がある。
【0004】
本発明は、上記従来技術の問題点に鑑み成されたものであって、OCBモードにおける初期配向転移を円滑に行うことができ、均一な表示と高い信頼性を具備した液晶装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、上記課題を解決するために、表示動作時にベンド配向を呈する液晶層と、該液晶層を挟持して対向する一対の基板とを備え、前記基板の前記液晶層側に、無機配向膜が形成されていることを特徴とする液晶装置を提供する。
すなわち本発明に係る液晶装置は、ベンド配向状態の液晶の電気光学作用を利用したOCB(Optical Compensated bend)モードの液晶装置である。そして、本発明に係る液晶装置は、液晶層の初期配向状態を制御する配向膜が無機配向膜とされていることで、液晶層のプレチルト角を容易に高くすることができ、これによりスプレイ配向からベンド配向への初期配向転移を円滑に行うことができる液晶装置となっている。また、無機配向膜ではラビング処理が不要であることから、プレチルト角を高くしてもラビングスジによるムラが視認されるということもない。無機配向膜の優れた耐光性と耐熱性とによって優れた信頼性を得ることができる。
【0006】
本発明の液晶装置では、前記一対の基板のうち少なくとも一方の基板の内面側に、液晶分子のプレチルト角が異なる複数の領域が区画形成されていることが好ましい。液晶のプレチルト角を高くすることで、OCBモードの初期配向転移は円滑に行えるようになるが、プレチルト角が高すぎると光学補償板等を用いる際に補償範囲を超えてしまうおそれがあり、光学補償板の設計変更による高コスト化を招く可能性がある。そこで、上記のようにプレチルト角が異なる複数の領域を設けることで、プレチルト角を相対的に低くした領域では光学補償板の光学補償作用を最大限に得ることができるようにし、プレチルト角を相対的に高くした領域では、初期配向転移が円滑に行われるようにすることで、プレチルト角を低くした領域でも初期配向転移の円滑性を損なうことなく、良好な表示が得られるようにすることができる。
【0007】
本発明の液晶装置では、当該液晶装置の画素領域に対応して第1のプレチルト角を有する第1領域が形成され、該画素領域の外側の領域に対応して第2のプレチルト角を有する第2領域が形成されており、前記第1のプレチルト角が、前記第2のプレチルト角より小さい角度であることが好ましい。
このように画素領域に対応する第1領域でプレチルト角を相対的に低くすることで、光学補償板による補償作用を最大限得られるようになり、良好な表示を得られるようになる。また、プレチルト角を相対的に大きくした第2領域を画素外に配置するので、当該第2領域で光学補償作用が十分に得られなくとも、画像表示には影響しない。
【0008】
本発明の液晶装置では、前記第2領域が、前記第1領域を取り囲んで形成されていることが好ましい。前記第2領域ではプレチルト角が相対的に高く設定されることから、当該領域の液晶では初期配向転移が円滑に成される。そして、このような第2領域により第1領域を取り囲むことで、相対的にプレチルト角が低く設定された第1領域の液晶に対して、前記第2領域の液晶を効果的に作用させることができ、前記第1領域においても円滑に初期配向転移が成されるようにすることができる。
【0009】
本発明の液晶装置では、前記無機配向膜が、複数の柱状構造体を前記基板上に立設してなる構造を有することが好ましい。このような無機配向膜を用いれば、前記柱状構造体の立設角度の調整により容易に液晶のプレチルト角を制御することができ、初期配向転移を円滑に行えるプレチルト角に液晶を制御しうる配向膜を容易に得られるようになる。
【0010】
本発明の液晶装置では、前記無機配向膜が、複数の無機配向膜を積層してなる部位を有している構成とすることもできる。このように複数の無機配向膜を積層することで、無機配向膜表面における液晶のプレチルト角を容易に制御することができる。
また本発明の液晶装置では、少なくとも前記第1領域において複数の無機配向膜が積層形成されている構成とすることが好ましい。すなわち、無機配向膜を積層構造とすることによるプレチルト角の制御は、単層の無機配向膜によるプレチルト角に対してプレチルト角を低くする方向ですることが好ましい。
【0011】
本発明の液晶装置では、前記一対の基板の外面側に、少なくとも1枚の光学補償板が設けられていることが好ましい。この構成によれば、液晶装置のコントラストの視角特性を改善することができる。
【0012】
本発明の液晶装置では、前記光学補償板が、正または負の屈折率異方性を有する光学媒体からなる光学異方性層を備えていることが好ましい。また本発明の液晶装置では、前記光学補償板が、光学的に一軸性又は二軸性を示す光学異方性層を備えていることが好ましい。
【0013】
本発明の液晶装置では、前記光学補償板が、負の屈折率異方性を有する光学媒体をハイブリッド配向させてなる光学異方性層を有する構成とすることが好ましい。
【0014】
本発明の液晶装置では、前記光学補償板が、正の屈折率異方性を有する光学媒体をハイブリッド配向させてなる光学異方性層を有する構成とすることもできる。
【0015】
本発明の液晶装置では、前記無機配向膜の表面に、アルコール分子に由来するアルキル基を主体としてなる表面層が形成されていることが好ましい。
無機配向膜の材料には、一般に半導体や金属の酸化物が多く用いられ、膜の表面には多くのOH基を有している。本発明では、無機配向膜の液晶材料側の表面をアルコールで化学反応処理すると、アルコール分子とそのOH基とが化学反応する。この化学反応によりOH基が失われ、無機配向膜の表面のOH基の数が少なくなる。OH基は強い極性を有しているため、OH基の数が少なくなると、その分無機配向膜の表面の極性が低減し、極性の影響による不純物の吸着を抑えることができる。
【0016】
アルコール分子がOH基と反応すると、無機配向膜の表面にアルコール分子に由来するアルキル基が残った状態になる。無機配向膜の表面にアルキル基があると当該無機配向膜のアンカリング力が大きくなるため、液晶分子が一旦注入される方向に向いていても、アンカリング力により所定の方向に配向させることができる。これにより、誘電率が正の液晶を注入する工程で、液晶が注入口から注入された方向に沿って葉脈状に配向してしまうのを防ぐことができる。
【0017】
また、前記アルコールが、低級アルコールであることが好ましい。
「低級アルコール」については、一般式CH(CHOHで表されるアルコールのうち、例えば整数nの値が0以上7以下の範囲内にあるアルコールが挙げられる。アルキル基が直鎖であっても良いし、鎖が分岐する構造異性体であっても良い。
【0018】
低級アルコールの分子は、例えば高級アルコールの分子等に比べてアルキル基の鎖が短いため、表面張力を低下させる事ができるため、その結果アンカリング力を高める事ができる。また、無機配向膜の液晶材料側の表面でも同様に多くのアルキル基が存在することが可能であるため、無機配向膜の液晶材料側の表面に存在するOH基は多くのアルキル基と反応することになる。この反応により無機配向膜の液晶材料側の表面から失われるOH基の数が多くなると、その分当該無機配向膜の液晶材料側の表面の極性が低くなるので、極性の影響による不純物の吸着をより効果的に抑えることができる。
【0019】
また、前記アルコールが、高級アルコールであることが好ましい。
「高級アルコール」については、一般式CH(CHOHで表されるアルコールのうち、例えば整数nの値が8以上20以下の範囲内にあるものが挙げられる。アルキル基が直鎖であっても良いし、鎖が分岐する構造異性体であっても良い。
【0020】
高級アルコールは、例えば低級アルコールの分子等に比べてアルキル基の鎖が長い。このため、無機配向膜の表面にOH基が残っていたとしても、当該OH基の極性の影響を緩和することができるので、不純物の吸着をより効果的に抑えることができる。また、アルキル鎖が長い為に、アルキル鎖の間に液晶分子が入り込むため、液晶の配向規制力を高めることができる。
【0021】
次に、本発明の液晶装置の製造方法は、表示動作時にベンド配向を呈する液晶層と、該液晶層を挟持して対向する一対の基板とを備えた液晶装置の製造方法であって、前記一対の基板のうち少なくとも一方の基板の前記液晶層側となる面に、無機材料からなる第1配向膜を形成する工程と、前記第1配向膜上に無機材料からなる第2配向膜を部分的に形成することで、当該第2配向膜の形成領域に第1のプレチルト角をもって液晶を配向させる第1領域を形成するとともに、前記第1配向膜のみが形成された領域に第2のプレチルト角をもって液晶を配向させる第2領域を形成する工程とを有することを特徴とする。
この製造方法によれば、前記基板上に、液晶のプレチルト角が異なる第1領域と第2領域とを区画形成することができ、先に記載のように、初期配向転移の円滑性を損なうことなく表示品質を向上させた液晶装置を製造することができる。
【0022】
本発明の液晶装置の製造方法は、前記第1配向膜及び第2配向膜を形成する工程が、いずれも無機材料を斜方蒸着する工程であり、前記第2配向膜の形成に際して、前記無機材料の蒸発流に対する前記基板の支持位置を、前記第1配向膜の形成工程における前記基板の支持位置に対して方位角で90°ずれた位置に支持して行うことを特徴とする。
この製造方法によれば、第1配向膜と第2配向膜とを積層してなる無機配向膜における液晶のプレチルト角を広い範囲で調整することが可能である。例えば、第1配向膜を蒸着角度80°で行うと液晶のプレチルト角は約30°となり、第2配向膜を60°の蒸着角度で行うと液晶のプレチルト角は0°となるが、両者では液晶の配向方向が方位角で90°ずれているので、本製造方法のように第2配向膜を形成する際に基板の方位角を90°ずらしておけば、第1配向膜と第2配向膜の液晶の配向方向を一致させることができ、0°から30°の広い範囲でプレチルト角を任意に調整できるようになる。
【0023】
本発明の液晶装置の製造方法は、前記第2配向膜をマスク蒸着法を用いて形成することを特徴とする。この製造方法によれば、前記第2配向膜を選択的に形成する工程を容易に行うことができる。
【0024】
本発明の液晶装置の製造方法は、前記第1配向膜及び前記第2配向膜が形成された前記基板の表面に、アルコール処理を施す工程を有することを特徴とする。
この製造方法によれば、アルコール分子と無機配向膜表面のOH基との反応により、配向膜表面にアルコール分子に由来するアルキル基が結合して表面層を形成する。このようなアルキル基の存在により、配向膜のアンカリング力を高めることができ、液晶の配向制御性をより良好なものとすることができる。また、基板上にプレチルト角の異なる第1領域と第2領域とを設ける場合に、高プレチルト角の領域(第2領域)で極めて高いプレチルト角を得られるため、当該領域の液晶の作用により低プレチルト角の領域の初期配向転移をさらに円滑なものとすることが可能である。
【0025】
次に、本発明のプロジェクタは、先に記載の本発明の液晶装置を備えたことを特徴とする。この構成によれば、動画表示性能に優れた高画質表示が可能であり、かつ信頼性にも優れたプロジェクタを提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0026】
以下、本発明の実施形態につき、図面を参照して説明する。なお、以下の説明に用いる各図面では、各部材を認識可能な大きさとするため、各部材の縮尺を適宜変更している。また本明細書では、液晶装置の各構成部材における液晶層側を内側と呼び、その反対側を外側と呼ぶことにする。
【0027】
(第1の実施形態)
以下、本発明の第1の実施の形態を図1〜図12を参照して説明する。
本実施形態では、薄膜トランジスタ(Thin Film Transistor, 以下、TFTと略記する)を画素スイッチング素子として用いたTFTアクティブマトリクス方式のOCBモード液晶装置の例を挙げて説明する。
【0028】
図1(a)は本実施形態の液晶装置を各構成要素とともに対向基板の側から見た平面図、図1(b)は(a)図のH−H’線に沿う断面図、図2は同液晶装置の等価回路図、図3は液晶装置の画素領域における部分断面構成図である。
なお、以下の説明に用いた各図においては、各層や各部材を図面上で認識可能な程度の大きさとするため、各層や各部材毎に縮尺を異ならせてある。
【0029】
図1に示すように、本実施形態の液晶装置100は、TFTアレイ基板10と対向基板20とがシール材52によって貼り合わされ、このシール材52によって区画された領域内に液晶層50が封入されている。液晶層50は、正の誘電率異方性を有する液晶から構成されており、初期状態ではスプレイ配向、表示動作時にはベンド配向を呈するものとなっている。シール材52の形成領域の内側の領域に、遮光性材料からなる遮光膜(周辺見切り)53が形成されている。シール材52の外側の周辺回路領域には、データ線駆動回路101および外部回路実装端子102がTFTアレイ基板10の一辺に沿って形成されており、この一辺に隣接する2辺に沿って走査線駆動回路104が形成されている。TFTアレイ基板10の残る一辺には、表示領域の両側に設けられた走査線駆動回路104の間を接続するための複数の配線105が設けられている。また、対向基板20の角部においては、TFTアレイ基板10と対向基板20との間で電気的導通をとるための基板間導通材106が配設されている。
【0030】
図2の等価回路図に示すように、液晶装置の表示領域を構成すべくマトリクス状に配置された複数の画素には、画素電極9がそれぞれ形成されている。また、その画素電極9の側方には、当該画素電極9への通電制御を行う画素スイッチング素子であるTFT素子30が形成されている。TFT素子30のソースには、データ線6aが電気的に接続されている。各データ線6aには画像信号S1、S2、…、Snが供給される。なお画像信号S1、S2、…、Snは、各データ線6aに対してこの順に線順次で供給してもよく、相隣接する複数のデータ線6aに対してグループ毎に供給してもよい。
【0031】
TFT素子30のゲートには、走査線3aが電気的に接続されている。走査線3aには、所定のタイミングでパルス的に走査信号G1、G2、…、Gmが供給される。なお、走査信号G1、G2、…、Gmは、各走査線3aに対してこの順に線順次で印加される。また、TFT素子30のドレインには、画素電極9が電気的に接続されている。そして、走査線3aから供給された走査信号G1、G2、…、Gmにより、スイッチング素子であるTFT素子30を一定期間だけオン状態にすると、データ線6aから供給された画像信号S1、S2、…、Snが、各画素の液晶に所定のタイミングで書き込まれる。
【0032】
液晶に書き込まれた所定レベルの画像信号S1、S2、…、Snは、画素電極9と後述する共通電極との間に形成される液晶容量で一定期間保持される。なお、保持された画像信号S1、S2、…、Snがリークするのを防止するため、画素電極9と容量線3bとの間に蓄積容量70が形成され、液晶容量と並列に接続されている。このように、液晶に電圧が印加されると、その電圧レベルにより液晶分子のベンド配向状態が変化する。これにより、液晶に入射した光が変調されて階調表示が可能となる。
【0033】
以上、等価回路図を用いて画像表示を行う際の動作として説明したが、OCBモードの液晶装置として後述する初期転移のための電圧印加動作を行う際にも、画像表示動作の場合と同様、データ線に初期転移用信号を、走査線に走査信号を供給し、表示領域内の複数の画素を駆動する。
【0034】
図3は、液晶装置の画素の概略断面構造を示す図である。図3に示すように、本実施形態の液晶装置100は、TFTアレイ基板10と、これに対向配置された対向基板20と、これらの間に挟持された液晶層50とを主体として構成されている。TFTアレイ基板10は、ガラスや石英等の透光性材料からなる基板本体10Aを基体としてなり、基板本体10A上の内側に、ITO(インジウム錫酸化物)等の透明導電材料からなる画素電極9と、シリコン酸化物等からなる配向膜16とが順に積層されている。画素電極9には図示略のTFT素子30が電気的に接続されている。基板本体10Aの外側には、光学補償板17と偏光板14とが順に積層されている。
一方の対向基板20は、ガラスや石英等の透光性材料からなる基板本体20Aを基体としてなり、その内側にITO等の透明導電材料からなる共通電極21と、シリコン酸化物等からなる配向膜22とが順に積層されている。基板本体20Aの外側には、偏光板24が配設されている。
【0035】
ここで、図4は、液晶装置100の光学軸配置を模式的に示す説明図であり、同図には説明に必要な偏光板14、光学補償板17、液晶層50、及び偏光板24のみを示している。図4に示すように、偏光板14,24は互いの透過軸14a、24aが直交するように配置されている。符号50a、50bを付して示す矢印は、図3に示した配向膜16、22に近接する位置における液晶の初期配向方向を示しており、初期配向方向50a、50bはいずれもx軸方向に平行である。また液晶層50と偏光板14との間に設けられた光学補償板17の光学軸17aは、y軸方向に平行に配置されている。すなわち、光学軸17aは、初期配向方向50a、50bと直交し、偏光板14の透過軸14aと略45°の角度を成して交差する方向に配置されている。
【0036】
図5は、配向膜16の概略構成を示す斜視構成図である。図6は、配向膜16の形成工程を示す側面構成図である。図7は、配向膜16の形成に用いる蒸着装置の概略構成図である。
図7に示す蒸着装置300は、蒸着室303中に一酸化珪素等の蒸着部材を充填された蒸着源302を具備しており、この蒸着源302の上方に基板本体10A(20A)が設置されるようになっている。蒸着室303内において基板本体10Aは、蒸着源302からの蒸発流305の流出方向に対して斜めに設置できるようになっている。蒸着室303内には、蒸着源302から基板本体10Aに至る蒸発流を制御するための仕切板等の蒸着流制御部材を設けてもよい。
【0037】
図5に示すように、配向膜16は、図示略の画素電極9を備えた基板本体10A上に、複数の柱状構造体16aを斜め方向に立設してなるものである。このような配向膜16は、図7に示す蒸着装置300を用いて、基板本体10Aの全面に無機材料を斜方蒸着することで形成することができる。真空蒸着法による成膜では、図6(a)に示すように、成膜初期段階で基板本体10A上に島状に蒸着物質16pが堆積し、この島状の蒸着物質16pから核成長して被膜を形成する。このとき、蒸発流305が基板面に対して斜め方向から入射していると、基板本体10A上に堆積した島状の蒸着物質16pにより遮蔽される部分が生じる。そして、蒸発流305に曝されている部分と遮蔽部分との間の成長速度差に起因して蒸着物質が斜め方向に柱状に成長し、図6(b)に示すような柱状構造体16aが基板本体10A上に多数形成される。
【0038】
柱状構造体16aの成長方向は、蒸着流305と基板面との成す角度(蒸着角度)で調整することができ、かかる調整により液晶分子51のプレチルト角を調整することができる。前記蒸着角度は0°を超えて90°未満の範囲で任意の値に設定することが可能であるが、10°以上の高いプレチルト角を選るには、70°〜85°の蒸着角度で配向膜16を形成するのがよい。
【0039】
本実施形態の場合、配向膜16は、例えば純度99%のSiOを加熱蒸着法により基板上に50nm程度堆積させることにより得られたものである。蒸着角度(図7に示す角度θ)は、基板法線方向から80°(基板面からは10°)であり、このようにして形成した配向膜16により配向方向を規制された液晶分子51のプレチルト角は約30°となる。
【0040】
なお、上記では配向膜16を挙げて説明したが、対向基板20側の配向膜22についても同様の方法で形成することができるのは勿論である。また、配向膜16,22は、斜方スパッタ法を用いて形成することもできる。
また、斜方蒸着する無機材料としては公知のものを使用することができる。具体的には、SiO,Al,CeO,Cr,Ga,HfO,NiO,MgO,ITO,Nb,Ta,Y,WO,TiO,Ti,TiO,ZnO,ZrO+TiO(複合酸化物),ZrO,AlF,CaF,CeF,LaF,LiF,MgF,NbF,NaF等を例示することができる。
【0041】
上記構成を具備した本実施形態の液晶装置100は、画素電極9と共通電極21との間に電圧が印加されない状態では、図3(b)に示すスプレイ配向状態を呈しており、電極9,21間に電圧を印加することでスプレイ配向状態から図3(a)に示すベンド配向状態へ移行させ(初期配向転移)、ベンド配向を維持した状態で画像表示を行うようになっている。このような初期配向転移が起こるのは、液晶の各配向状態におけるギブスエネルギーが印加電圧の変化に伴い変化することによる。
【0042】
ここで図8は、液晶の各配向状態について、印加電圧とギブスエネルギーとの関係を示すグラフである。図8に示すように、印加電圧の高低に対するギブスエネルギーの変化率は各配向状態で異なっており、特定の電圧(臨界電圧)Vcrを境にギブスエネルギーの大小関係が逆転する。すなわち、臨界電圧Vcrより低電圧側では、スプレイ配向が最もギブスエネルギーが小さく、安定であるのに対して、臨界電圧Vcrより高電圧側では、ベンド配向が最もギブスエネルギーが小さく、安定である。したがって、臨界電圧Vcrより高い電圧を印加することで、上記初期配向転移を生じさせることができる。
【0043】
また、OCBモードの液晶装置において、上記臨界電圧Vcrは液晶の初期配向状態に応じて異なる値となる。図9は、液晶のプレチルト角と臨界電圧Vcrとの関係を示すグラフであり、同グラフから明らかなように、プレチルト角(横軸)が大きくなるほど臨界電圧Vcrは顕著に低下する。したがって、より低電圧側で初期配向転移を生じさせるには、液晶のプレチルト角を大きくすることが有効である。
【0044】
この点、本実施形態の液晶装置100は、液晶層50の初期配向状態を規制する配向膜16,22が無機材料からなる無機配向膜であるため、容易にプレチルト角を高くすることができる。例えば、ポリイミド等の有機材料を用いた配向膜では15°以上のプレチルト角を得るのは極めて困難であるが、無機配向膜では30°程度のプレチルト角を容易に得ることができる。したがって本実施形態の液晶装置100では、初期配向転移を円滑に行うことができ、また表示動作時におけるベンド配向状態の保持も容易なものとなっている。
【0045】
また、従来のポリイミド配向膜ではラビング処理が必要であったため、プレチルト角を高くするとラビング処理時に配向膜表面に形成された溝(ラビングスジ)に起因するムラが視認されやすくなり、表示画質を低下させるという問題があったが、本実施形態に係る配向膜16,22ではラビング処理が不要であることから、プレチルト角を高くしても表示画質が低下することはない。
さらに、配向膜16,22を用いることで極めて優れた耐光性、耐熱性を得ることができ、プロジェクタ等の高強度の光が照射される用途においても優れた信頼性、寿命を得ることができる。
【0046】
また、本実施形態の液晶装置100では、光入射側の基板である対向基板20の外側に、光学補償板17が配設されている。図10(a)は、光学補償板17の概略側断面図である。光学補償板17は、サファイアガラスや石英等の高熱伝導率の支持基板175上に、三酢酸セルロース(TAC)等の支持体と配向膜とを設け(いずれも不図示)、その配向膜上にネマチック層(光学異方性層)170を形成したものである。ネマチック層170は、光学的に正の一軸性を有する光学媒体であり、その空気界面(図示下側面)の近傍で液晶分子175Aが配向膜による配向規制方向に沿う略水平配向を成し、配向膜界面(図示上側面)付近では液晶分子175Bが配向膜面に対して所定のチルト角をもった配向を成している。すなわち、ネマチック層174は、厚さ方向で液晶分子の配向角度が連続的に変化するハイブリッド配向となっている。なお、配向膜の表面にはラビング等が施され、液晶分子の配向方向を規制しうるようになっている。このような光学補償板17として、具体的には日本石油製のNHフィルム(商品名)を採用することが可能である。
【0047】
OCBモードの液晶装置では、図3に示すように、画像表示動作時のベンド配向状態では、液晶層50の中央部の液晶分子はほぼ垂直に配向しており、そこから配向膜16,22に向かって徐々に液晶分子が水平側へ倒れるような側面視弓形に配向している。液晶装置100を正面視した場合には、配向膜22側の液晶で生じる位相差と、配向膜16側の液晶で生じる位相差とが互いに打ち消し合うように作用するため、良好な黒表示が得られるが、液晶装置100を斜視したときには上記作用が弱くなるため、黒表示の光漏れを生じやすくなる。そこで、図10に示すような光学補償板17を設けることで、斜視したときの位相差も効果的に補償することができるようになり、光漏れを減少させてコントラストを向上させることができる。
【0048】
図3及び図4では、光学補償板17を対向基板20えと偏光板14との間に配設しているが、本発明に係る液晶装置における光学補償板17の配置形態はこれに限定されるものではなく、例えば光学補償板17をTFTアレイ基板10と偏光板24との間に配設してもよく、TFTアレイ基板10と対向基板20の双方に光学補償板17を配設してもよい。光学補償板17を液晶層50の光射出側に配置すれば、光照射や熱による光学補償板の劣化を抑えることができる。
また、図10(b)に示すように、(a)図に示す光学補償板17を互いの支持基板175を対向させるように2枚重ねにしたものを、図3及び図4の光学補償板17に代えて用いることもできる。このとき、各光学補償板17の光学軸17aは同一方向となるように配置される。
【0049】
本実施形態の液晶装置100では、光学補償板17に代えて、図11に概略部分断面構成を示す光学補償板18を用いることもできる。光学補償板18は、サファイアガラスや石英等の高熱伝導率の支持基板175上に、三酢酸セルロース(TAC)等の下地膜と配向膜とを設け(いずれも不図示)、その配向膜上にトリフェニレン誘導体等のディスコティック液晶層(光学異方性層)172を塗設したものである。
ディスコティック化合物は、液晶相を呈したときに、光学的に負の一軸性を示す。そこで、支持基板175上に塗設されたディスコティック液晶層180を加熱し、ディスコティックネマチック(ND)相を形成させた後に、配向状態を固定化する。このND相の形成時に、ディスコティック液晶層180は、配向膜界面(図示上側面)付近で液晶分子181Bの光軸181bが垂直になるホメオトロピック配向をとり、支持基板175と反対側の空気界面(図示下側面)付近で液晶分子181Aの光軸181aが配向規制方向(配向膜のラビング方向)に沿って水平になるホモジニアス配向をとる。したがって、ディスコティック液晶層180は、厚さ方向で液晶分子の配向角度が連続的に変化するハイブリッド配向となっている。また、図示略の配向膜の表面にはラビング等が施され、液晶分子の配向方向を規制するようになっている。このような光学補償板18として、具体的には富士フィルム社製のWVフィルム(商品名)を採用することが可能である。
【0050】
図11に示す光学補償板18を用いる場合、その光学特性に応じて液晶装置における光学軸配置を変更する。図12は、光学補償板17に代えて光学補償板18を用いた場合の液晶装置100の光学軸配置を示す説明図である。
【0051】
図12に示すように、光学補償板18の光学軸18aは、液晶層50の初期配向方向50a、50bに対して平行かつ逆向きに配置される。上記光学軸18aは、図11に示すように、光学補償板18のディスティック液晶層180を配向させるための配向膜のラビング方向に一致する。また、光学補償板18はいずれも液晶層50に対してその支持基板175を反対側に向けて配置されている。
【0052】
液晶層50のネマチック液晶は、光学的に正の一軸性を示すものであるのに対して、光学補償板18を構成するディスコティック液晶は、光学的に負の一軸性を示すものである。すなわち、図11に示す液晶分子181の光軸181a、181b方向の屈折率が他の方向の屈折率より小さく、円盤形の屈折率楕円体を有するものである。そして、かかる光学特性を具備した光学補償板18により液晶層50の位相差を打ち消すように作用させるべく、配向膜の配向方向50a,50bと平行かつ逆向きに配置することとしている。
【0053】
なお、図12では、液晶層50を挟んだ両側に1枚ずつの光学補償板18を配しているが、光学補償板18は液晶層50と偏光板14,24との間に少なくとも1枚配設されていれば光学補償機能を得ることができ、図10(b)に示したのと同様に2枚の光学補償板18を積層したものを液晶層50と偏光板14,24との間に配設してもよい。
【0054】
(第2の実施形態)
次に、本発明の第2実施形態について、図13〜図15を参照して説明する。なお、本実施形態の液晶装置200は、液晶層50の初期配向制御を行う配向膜の形態に特徴を有するものであり、基本構成は第1実施形態に係る液晶装置100と同様であるから、液晶装置100と共通の構成要素については図1〜図12と同一の符号を付して詳細な説明は省略する。
【0055】
図13は、本実施形態の液晶装置200の部分断面構成を示す図である。図13に示すように、液晶装置200は、液晶層50を挟持して対向するTFTアレイ基板10と対向基板20とを備えている。TFTアレイ基板10は、基板本体10Aの内側に画素電極9を形成し、画素電極9上に第1配向膜161と第2配向膜162とを積層してなる配向膜16を形成した構成を備えている。対向基板20は、基板本体20Aの内側に共通電極21を形成し、共通電極21上に第1配向膜221と第2配向膜222とを積層してなる配向膜22を形成した構成を備えている。
【0056】
なお、以下の本実施形態の説明では、主にTFTアレイ基板10側の配向膜16について説明することとするが、対向基板20側の配向膜22は、配向膜16と同様の構成を具備したものであり、配向膜16と同様の作用効果を奏するものである。
ただし、本実施形態の構成は、配向膜22について配向膜16と異なる構成を採用することを妨げるものではない。
【0057】
本実施形態の配向膜16は、図13に示す2層構造を具備しているが、第1配向膜161と第2配向膜162とでは、形成時の蒸着角度(図5に示した蒸着流305の進行方向と基板表面との成す角度)θが異なっている。具体的には、第1配向膜161は、蒸着角度θが80°の条件で形成されたものであり、第2配向膜162は、蒸着角度θが60°の条件で形成されたものである。
【0058】
図14は、配向膜形成時の蒸着角度による液晶分子の配向状態の差異を説明するための斜視構成図であり、(a)は、蒸着角度θを80°とした場合、(b)は蒸着角度θを60°とした場合をそれぞれ示している。図14(a)、(b)を比較すると明らかなように、蒸着角度θを大きくすると、形成される柱状構造体16aの基板本体10A表面に対する傾斜角度が小さくなる(成長方向が水平方向寄りになる。)。また、柱状構造体16a自身によるセルフシャドーイング効果が大きくなる結果、柱状構造体16aの形成密度が小さくなり、柱状構造体16aの間隙が広くなる。
【0059】
そして、上記柱状構造体16aの態様の差異に起因して、液晶分子51の初期配向状態も異なったものとなる。蒸着角度θが80°の場合、図14(a)に示すように、柱状構造体16aの長さ方向(図示X方向)に沿うように液晶分子51が配向し、このときのプレチルト角は約30°である。一方、蒸着角度θが60°の場合、図14(b)に示すように、液晶分子51は柱状構造体16aの長さ方向(図示X方向)と略直交する方向(図示Y方向)に配向し、このときのプレチルト角はほぼ0°である。
【0060】
そして、本実施形態に係る配向膜16では、上記蒸着角度θの変化に伴う液晶の初期配向状態の差異を利用し、蒸着角度θを異ならせた第1配向膜161と第2配向膜162とを積層した構造とすることで、液晶の初期配向状態におけるプレチルト角を制御することができるようになっている。
【0061】
具体的には、まず蒸着角度80°でSiOを斜方蒸着して所定膜厚の第1配向膜161を形成する。次いで、基板本体10Aを水平面内で90°回転させて配置した後、蒸着角度60°でSiOを斜方蒸着して所定膜厚の第2配向膜162を形成することで、2層構造の配向膜16を得る。第1配向膜161の形成工程と第2配向膜162の形成工程との間に、基板本体10Aを回転させる工程を設けているのは、図14に示すように、80°斜方蒸着により形成した配向膜と60°斜方蒸着により形成した配向膜とでは液晶分子51の配向方向が90°ずれているので、両者の配向方向を揃えるためである。
【0062】
上記配向膜16の成膜方法によれば、第1配向膜161と第2配向膜162のそれぞれの膜厚を変化させることで、液晶分子51のプレチルト角を0°から約30°の範囲で任意に調整することが可能である。例えば、第1配向膜161の膜厚を40nm、第2配向膜162の膜厚を10nmとした場合に、プレチルト角20°で液晶を配向させることができる。
【0063】
これにより、例えば基板外面に設けられる光学補償板17(18)による光学補償作用をさらに効果的なものとすることができる。先に記載の光学補償板17,18は、正または負の屈折率異方性を有する光学媒体をハイブリッド配向させたものであり、製造プロセス上の制限や、光学媒体の特性に依存して補償可能な位相差範囲が限られる場合もある。そこで、上記の如く第1配向膜161と第2配向膜162との膜厚調整によりプレチルト角を調整すれば、液晶層50の初期配向状態を光学補償板17,18の調整可能範囲に対応させることができ、光学補償効果を効率的に得ることができる。これにより、高コントラストの表示が可能な液晶装置とすることができる。
【0064】
次に、図15は、TFTアレイ基板10の内面における複数の画素領域を示す平面構成図である。図15に示すように、液晶装置200では2層構造の配向膜16は基板本体10Aの全面に設けられているのではなく、平面視矩形状の画素電極9の形成領域に対応して設けられており、画素電極9の外側の画素間領域(斜線を付した領域)には、第1配向膜161のみが設けられている。
この構成により、TFTアレイ基板10上に、液晶のプレチルト角が互いに異なる第1領域(配向膜16の形成領域)と、第2領域(画素間領域)とを形成することができる。
例えば、2層構造の配向膜16が形成された第1領域における液晶のプレチルト角が、第1配向膜161と第2配向膜162の膜厚調整により20°とされるのに対して、第1配向膜161のみが設けられた第2領域では、液晶のプレチルト角が30°とされる。また図示は省略するが、対向基板20側の配向膜についても、画素領域に対応して第1配向膜221と第2配向膜222とが積層された第1領域が形成され、画素間領域に対応して第1配向膜221のみが形成された第2領域が形成されている構成とすることが好ましい。
【0065】
このようにTFTアレイ基板10上(及び対向基板20上)に、液晶のプレチルト角の異なる2つの領域を区画形成されていることで、初期配向転移の円滑性、確実性を損なうことなく、表示コントラストを向上させることが可能である。
上述したように、液晶のプレチルト角は、初期配向転移を円滑に行うために任意に設定できるのではなく、光学補償板17,18の光学特性に起因する制限等を考慮して決定する必要があり、表示品質を優先するために、画素領域に対応する第1領域におけるプレチルト角を小さくする必要が生じることもある。この場合、図9に示したように、プレチルトの低下に伴って初期配向転移の臨界電圧Vcrが高電圧側にシフトすることになる。これに対して、液晶装置200のように、上記第1領域と第2領域とが区画形成されていれば、プレチルトを高く設定してある第2領域の液晶の作用により、第1領域においても円滑な初期配向転移が可能になる。
【0066】
また、プレチルトを低く設定した場合、表示動作中の電圧変動によるベンド配向からスプレイ配向への逆転移が生じやすくなるという問題があるが、上記第1領域を取り囲むように配された高プレチルトの第2領域の作用により、上記逆転移も効果的に防止できる利点がある。
【0067】
上記構成を具備したTFTアレイ基板10を製造するには、画素電極9が設けられた基板本体10A上に配向膜を形成するに際して、マスク蒸着法を適用すればよい。具体的には、前記画素電極9を含む基板本体10A上の全面に第1配向膜161を斜方蒸着した後、画素間領域を覆う平面視略格子状のマスク部材を基板本体10A上に配設した状態で第2配向膜162の斜方蒸着を行えばよい。
【0068】
以上の構成を具備した本実施形態の液晶装置200によれば、配向膜16,22が無機配向膜とされていることで、プレチルト角を容易に高くすることができ、円滑な初期配向転移が可能なOCBモードの液晶装置を実現している。また、ラビング処理が不要であることから、プレチルト角を高くしてもラビングスジによる表示むらが生じることが無く、さらに耐光性、耐熱性に優れた配向膜により、表示品質と信頼性の双方に優れた液晶装置を実現できる。
【0069】
また、2層構造の配向膜16を画素領域に選択的に設けたことで、画素領域におけるプレチルト角を0°〜30°程度の範囲で任意に調整でき、光学補償板17の光学特性に合わせた設計を極めて容易に行うことができる。さらに、光学補償板17の光学特性に合わせることにより画素領域のプレチルト角が低くなる場合にも、画素間領域に高プレチルト角の領域を設けているので、かかる領域の液晶の作用により画素領域での初期配向転移を円滑に行うことが可能である。
【0070】
(第3の実施形態)
次に、図16を参照して第3の実施形態について説明する。
本実施形態の液晶装置400は、液晶層50の初期配向制御を行う配向膜の形態に特徴を有するものであり、その基本構成は第1実施形態に係る液晶装置100と同様であるから、液晶装置100と共通の構成要素については図1〜図12と同一の符号を付して詳細な説明は省略する。
【0071】
図16は、本実施形態の液晶装置400の部分断面構成を示す図である。図16に示すように、液晶装置400は、液晶層50を挟持して対向するTFTアレイ基板10と対向基板20とを備えている。TFTアレイ基板10は、基板本体10Aの内側に画素電極9を形成し、画素電極9上に第1配向膜161と第2配向膜163と表面層164とを有する配向膜16を形成した構成を備えている。対向基板20は、基板本体20Aの内側に共通電極21を形成し、共通電極21上に第1配向膜221と第2配向膜223と表面層224とを有する配向膜22を形成した構成を備えている。
【0072】
なお、以下の本実施形態の説明では、主にTFTアレイ基板10側の配向膜16について説明することとするが、対向基板20側の配向膜22は、配向膜16と同様の構成を具備したものであり、配向膜16と同様の作用効果を奏するものである。
ただし、本実施形態の構成は、配向膜22について配向膜16と異なる構成を採用することを妨げるものではない。
【0073】
本実施形態に係る配向膜16を構成する層のうち、第1配向膜161は、SiOを斜方蒸着(蒸着角度θ=80°)により40nm厚さに成膜したものである。第2配向膜163は、SiOを斜方蒸着(蒸着角度θ=60°)により5nm厚さに成膜したものである。第2配向膜163の成膜に際しては、先の第2実施形態に係る第2配向膜162の成膜時と同様、第1配向膜161成膜時に対して、基板位置を方位角90°ずらして成膜を行う。60°斜方蒸着により形成した配向膜は、液晶分子の配向方向が80°斜方蒸着により形成した配向膜に対して90°ずれるためである(図14参照。)。
【0074】
また、本実施形態に係る配向膜16も、第2実施形態と同様、画素領域に対応して選択的に形成されている(図15参照)。すなわち、画素電極9の形成領域に対応して、第1配向膜161と第2配向膜163との積層膜を含む配向膜16が選択的に形成され、画素電極9の非形成領域である画素間領域には、第1配向膜161と表面層164とが積層形成されている。この構成により、TFTアレイ基板10上に、液晶のプレチルト角が互いに異なる第1領域(配向膜16の形成領域)R1と、第2領域(画素間領域)R2とを形成することができる。このような構造は、第2配向膜163をマスク蒸着することで形成することができる。
【0075】
本実施形態の場合、配向膜16は表面層164を有している。
表面層164は、第2配向膜163上(画素間領域では第1配向膜161)上に設けられており、第2配向膜163を構成するSiO膜表面の一部の酸素原子に結合したアルコールのアルキル基を主体とする層である。ここで、上記アルコールには、一般式CH(CHOHで表されるアルコールのうち、整数nの値が0以上7以下の範囲内にある低級アルコール、整数nの値が8以上20以下である高級アルコールのいずれであってもよい。
【0076】
低級アルコールの具体例としては、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール、ペンタノール、ヘキサノール、ヘプタノール及びオクタノールを挙げることができる。また、これらのアルコールのアルキル基の部分は、直鎖であっても良いし、鎖の途中で分岐する構造異性体(例えば、イソプロパノール、イソブタノール、イソペンタノール、イソヘキサノール、イソヘプタノール及びイソオクタノールのアルキル基)が含まれていても良い。また例えば、ペンタノールの2位ではなく3位、4位、5位にエチル基が結合されたイソヘキサノールのアルキル基であっても良い。さらに、ブタノールとメチル基とを組み合わせたイソヘプタノールのアルキル基であってもよく、2,3−エチルブタノール等のように鎖が3以上に分岐するアルコールのアルキル基であっても構わない。
【0077】
高級アルコールの具体例としては、ノナノール、デカノール、ウンデカノール、ドデカノール、トリデカノール、テトラデカノール、ペンタデカノール、ヘキサデカノール、ヘプタデカノール、オクタデカノール、ノナデカノール、イコサノール及びヘンイコサノール等を挙げることができる。また、低級アルコールの場合と同様、アルキル基の部分は直鎖であってもよいし、鎖の途中で分岐する構造異性体が含まれていてもよい。
【0078】
高級アルコールからなる表面層では、低級アルコールの分子等に比べてアルキル基の鎖が長いため、アルキル鎖の間に液晶分子が入り込んで配向することで高い配向規制力を得られる。また、表面層の厚さも低級アルコールの場合と比べてやや厚くなるので、極性の影響を緩和することができ、不純物の吸着をより効果的に抑えることができるという利点がある。
【0079】
ここで、表面層164の形成方法について説明する。
表面層164の形成工程に供される基板本体10A上には、第1配向膜161及び第2配向膜163が形成されている。これら2層構造の無機配向膜の形成方法は、先の第2実施形態と同様である。表面層164の形成は、第2配向膜163の表面(画素間領域では第1配向膜161の表面)を、例えばヘキサノール等の低級アルコールで化学反応処理することにより行われる。
【0080】
具体的には、配向膜161,163が形成された基板本体10Aを約100℃〜250℃で加熱し、当該基板本体10Aの表面に吸着した水分を除去する。吸着水分を除去したら、例えばヘキサノールを溶解させたキシレン溶液Xy(ヘキサノールの濃度は5重量パーセント)中に基板本体10Aを浸漬し、キシレン溶液Xyを約125℃に保ちながら約2時間攪拌し、配向膜161,163の表面のOH基とキシレン溶液Xy中のヘキサノールとを化学反応させることで、表面層164を形成する。表面層164を形成した後は、アルコールやアセトン等の溶媒を用いて基板本体10Aを超音波洗浄し、その後約100℃〜200℃で加熱して乾燥させる。
【0081】
以上の工程により、第1配向膜161と第2配向膜163と表面層164とを有する配向膜16が基板本体10A上に形成される。
なお、上記表面層の形成方法では、配向膜の表面処理に低級アルコールを用いた場合を説明したが、高級アルコールを用いた場合も同様の処理で表面層164を形成することができる。
【0082】
以上の構成を具備した本実施形態の液晶装置400によれば、配向膜16,22が無機配向膜とされていることで、プレチルト角を容易に高くすることができ、円滑な初期配向転移が可能なOCBモードの液晶装置を実現している。また、ラビング処理が不要であることから、プレチルト角を高くしてもラビングスジによる表示むらが生じることが無く、さらに耐光性、耐熱性に優れた配向膜により、表示品質と信頼性の双方に優れた液晶装置を実現できる。
【0083】
そして、配向膜16の液晶側の表面をヘキサノール等のアルコールで化学反応処理することで、各ヘキサノール分子と、極性を有するOH基とが化学反応する。この化学反応によりOH基が失われ、配向膜16の表面のOH基の数が少なくなる。OH基の数が少なくなると、その分配向膜16の表面の極性が低減するため、極性の影響による不純物の吸着を抑えることができ、液晶装置の歩留まりを向上させることができる。
【0084】
また、ヘキサノール分子がOH基と反応すると、配向膜16の表面にアルキル基が残った状態になる。無機配向膜16の表面にアルキル基があると、当該配向膜16のアンカリング力が大きくなるため、液晶分子が一旦注入される方向に向いていても、アンカリング力により所定の方向に配向させることができる。これにより、液晶を注入する工程で、液晶が液晶注入口から注入された方向に沿って葉脈状に配向してしまうのを防ぐことができる。
【0085】
また、2層構造の無機配向膜を有する配向膜16を画素領域に選択的に設けたことで、画素領域におけるプレチルト角を0°〜30°程度の範囲で任意に調整でき、光学補償板17の光学特性に合わせた設計を極めて容易に行うことができる。また、光学補償板17の光学特性に合わせることにより画素領域のプレチルト角が低くなる場合にも、画素間領域に高プレチルト角の領域を設けているので、かかる領域の液晶の作用により画素領域での初期配向転移を円滑に行うことが可能である。特に本実施形態の場合、アルコール処理によって画素領域に対応する第1領域のプレチルト角が25°程度とされる一方、画素間領域に対応する第2領域のプレチルト角が88°と極めて高くなっているため、画素領域の液晶の初期配向転移を円滑に行う作用が極めて良好なものとなっている。
【0086】
(プロジェクタ)
次に、上記実施形態の液晶装置をライトバルブとして用いたプロジェクタについて説明する。
図17は、プロジェクタの構成例を示す平面図である。この図に示されるように、プロジェクタ1100内部には、ハロゲンランプ等の白色光源からなるランプユニット1102が設けられている。このランプユニット1102から射出された投射光は、ライトガイド1104内に配置された4枚のミラー1106および2枚のダイクロイックミラー1108によってRGBの3原色に分離され、各原色に対応するライトバルブとしての液晶パネル1110R、1110Bおよび1110Gに入射される。
液晶パネル1110R、1110Bおよび1110Gの構成は、上述した液晶装置と同等であり、画像信号処理回路から供給されるR、G、Bの原色信号でそれぞれ駆動されるものである。そして、これらの液晶パネルによって変調された光は、ダイクロイックプリズム1112に3方向から入射される。このダイクロイックプリズム1112においては、RおよびBの光が90度に屈折する一方、Gの光が直進する。したがって、各色の画像が合成される結果、投射レンズ1114を介して、スクリーン等にカラー画像が投写されることとなる。ここで、各液晶パネル1110R、1110Bおよび1110Gによる表示像について着目すると、液晶パネル1110Gによる表示像は、液晶パネル1110R、1110Bによる表示像に対して左右反転することが必要となる。
上記構成を具備した本実施形態のプロジェクタによれば、動画表示性能が高く、また高画質、高信頼性の液晶装置を光変調手段として具備しているので、高画質の動画を投射表示することが可能である。
【0087】
上記では液晶プロジェクタを例示して説明したが、本発明に係る液晶装置は、表示機能を有する各種の電子機器に適用可能である。例えば、携帯電話機、カーナビゲーションシステム、携帯情報端末、表示機能付きファックス装置、デジタルカメラ及びビデオカメラのファインダ及び映像表示部、テレビ受像機、電子手帳、宣伝公告用ディスプレイなどにも好適に用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0088】
【図1】第1実施形態に係る液晶装置の全体構成を示す図。
【図2】同、液晶装置の回路構成図。
【図3】同、液晶装置の画素領域における部分断面構成図。
【図4】同、液晶装置の光学軸配置を模式的に示す説明図
【図5】第1実施形態に係る配向膜の斜視構成図。
【図6】同、配向膜の形成工程を示す側面構成図。
【図7】同、配向膜の形成に用いる蒸着装置の概略構成図。
【図8】印加電圧とギブスエネルギーとの関係を示すグラフ。
【図9】液晶のプレチルト角と臨界電圧Vcrとの関係を示すグラフ。
【図10】第1実施形態に係る光学補償板の概略側断面図。
【図11】同、光学補償板の他の形態を示す概略側断面図。
【図12】他の形態の光学補償板を含む光学軸配置を示す説明図。
【図13】第2実施形態に係る液晶装置の部分断面構成図。
【図14】同、配向膜の複数の形態を説明するための斜視構成図。
【図15】同、複数の画素領域を示す平面構成図。
【図16】第3実施形態に係る液晶装置の部分断面構成図。
【図17】プロジェクタの一例を示す構成図。
【符号の説明】
【0089】
100,200,300 液晶装置、10 TFTアレイ基板、20 対向基板、50 液晶層、16,22 配向膜、16a 柱状構造体、17,18 光学補償板、161 第1配向膜、162,163 第2配向膜、164 表面層、170 ネマチック層(光学異方性層)、180 ディスコティック液晶層(光学異方性層)、221 第1配向膜、222,223 第2配向膜、224 表面層、R1 第1領域、R2 第2領域

【特許請求の範囲】
【請求項1】
表示動作時にベンド配向を呈する液晶層と、該液晶層を挟持して対向する一対の基板とを備え、
前記基板の前記液晶層側に、無機配向膜が形成されていることを特徴とする液晶装置。
【請求項2】
前記一対の基板のうち少なくとも一方の基板の内面側に、液晶分子のプレチルト角が異なる複数の領域が区画形成されていることを特徴とする請求項1に記載の液晶装置。
【請求項3】
当該液晶装置の画素領域に対応して第1のプレチルト角を有する第1領域が形成され、該画素領域の外側の領域に対応して第2のプレチルト角を有する第2領域が形成されており、
前記第1のプレチルト角が、前記第2のプレチルト角より小さい角度であることを特徴とする請求項2に記載の液晶装置。
【請求項4】
前記第2領域が、前記第1領域を取り囲んで形成されていることを特徴とする請求項3に記載の液晶装置。
【請求項5】
前記無機配向膜が、複数の柱状構造体を前記基板上に立設してなる構造を有することを特徴とする請求項1から4のいずれか1項に記載の液晶装置。
【請求項6】
前記一対の基板の外面側に、少なくとも1枚の光学補償板が設けられていることを特徴とする請求項1から5のいずれか1項に記載の液晶装置。
【請求項7】
前記光学補償板が、正または負の屈折率異方性を有する光学媒体からなる光学異方性層を備えていることを特徴とする請求項6に記載の液晶装置。
【請求項8】
前記光学補償板が、光学的に一軸性又は二軸性を示す光学異方性層を備えていることを特徴とする請求項7に記載の液晶装置。
【請求項9】
前記光学補償板が、負の屈折率異方性を有する光学媒体をハイブリッド配向させてなる光学異方性層を有することを特徴とする請求項6に記載の液晶装置。
【請求項10】
前記光学補償板が、正の屈折率異方性を有する光学媒体をハイブリッド配向させてなる光学異方性層を有することを特徴とする請求項6に記載の液晶装置。
【請求項11】
請求項1から10のいずれか1項に記載の液晶装置を備えたことを特徴とするプロジェクタ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【公開番号】特開2007−17502(P2007−17502A)
【公開日】平成19年1月25日(2007.1.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−196101(P2005−196101)
【出願日】平成17年7月5日(2005.7.5)
【出願人】(304053854)三洋エプソンイメージングデバイス株式会社 (2,386)
【Fターム(参考)】