説明

液晶調光素子および撮像装置

【課題】幅広い調光範囲を有する液晶調光素子を提供する。
【解決手段】液晶調光素子26は、液晶層260a,260bにより構成される液晶層260を有する。液晶層260a,260bが配置された領域を配向領域268a,268bとする。液晶層260a,260bに含まれる分子Ma,Mbの配向方向は互いに異なる。液晶層260の一方の面側から入射した光は、配向領域268aを通過し、液晶層260の他方の面側に設けられた反射膜264により反射されて配向領域268bを通過する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液晶を用いて調光を行う液晶調光素子およびそのような液晶調光素子を備えた撮像装置に関する。
【背景技術】
【0002】
外部から印加される電圧の程度に応じて光を反射する電気調光素子が多数提案されており(例えば、特許文献1)、中でも、液晶調光素子はその構造や制御方法が単純であることから注目されている。
【0003】
液晶調光素子は、主に偏光板および液晶分子と二色性染料分子(色素)とを含むゲスト−ホスト(GH)セルから構成される。偏光板を透過した光は、ゲスト−ホストセルへと入射する。このとき液晶分子の長軸方向が光の進行方向となす角度が小さいと、出射側の光透過量が相対的に多く(光透過率が高く)なり、液晶分子の長軸方向がこの光の進行方向となす角度が直角に近いと、出射側の光透過量が相対的に少なく(光透過率が低く)なる。
【0004】
なお、液晶分子はネガ型とポジ型の2種に大別される。ネガ型は電圧無印加時に光軸方向と液晶分子の長軸方向とが平行となり、電圧印加時に光軸方向と液晶分子の長軸方向とが垂直となる。二色性染料分子は液晶分子と同方向に配列する。よって、ネガ型の液晶分子をホストとして用いた場合、電圧無印加時に光透過率が相対的に高く(明るく)、電圧印加時に光透過率が相対的に低く(暗く)なる。
【0005】
一方、ポジ型の液晶分子は、電圧無印加時および電圧印加時の液晶分子の配列がネガ型と逆となるため、ポジ型の液晶分子をホストとして用いた場合、電圧無印加時に光透過率が相対的に低く(暗く)、電圧印加時に光透過率が相対的に高く(明るく)なる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平9−305092号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、このような調光素子では、撮像装置等の様々な電子機器へと適用されることから光透過率の差(遮光度合い)を表す調光範囲(調光レンジ,ダイナミックレンジ)が広いものが求められる。
【0008】
しかしながら、これまでの液晶調光素子の調光範囲は十分なものではなく、また、調光範囲を更に広げるための研究開発も活発になされていなかった。
【0009】
本発明はかかる問題点に鑑みてなされたもので、その目的は、幅広い調光範囲を有する液晶調光素子およびこの液晶調光素子を用いた撮像装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明による液晶調光素子は、一方の面から光が入射する第1液晶層と、第1液晶層を透過する光を反射する反射膜とを備え、第1液晶層は隣接する配向領域を有し、隣接する配向領域間の液晶分子の配向方向が異なっているものである。
【0011】
本発明の液晶調光素子では、液晶層の一方の面から入射した光と、反射膜により反射され、再び液晶層を透過する光とは、通過する配向領域の液晶分子の配向方向が少なくとも一部異なる。
【0012】
本発明による撮像装置は、上記本発明の液晶調光素子を備えたものであり、当該液晶調光素子によって調光され、撮像が行われる。
【発明の効果】
【0013】
本発明の液晶調光素子および撮像装置によれば、第1液晶層を透過する光を反射する反射膜を設けると共に液晶層が液晶分子の配向方向が異なる配向領域を有するようにしたため、液晶層の一方の面から入射した光の進行方向と液晶分子の長軸方向とのなす角度および反射膜から反射された光の進行方向と液晶分子の長軸方向とのなす角度を共に制御することができる。よって、液晶調光素子の調光範囲を拡大することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の適用例に係る撮像装置の外観構成例を表す斜視図である。
【図2】図1に示した鏡筒装置の外観構成例を表す斜視図である。
【図3】図1に示した鏡筒装置等における光学系の構成例を表す図である。
【図4】図3に示した鏡筒装置の一部を拡大して表す断面図である。
【図5】本発明の第1の実施の形態に係る液晶調光素子の断面図である。
【図6】液晶分子のプレチルトについて説明するための図である。
【図7】図5に示した液晶調光素子の配向膜におけるラビング方向を説明するための模式図である。
【図8】図5に示した反射膜への入射光および反射膜からの反射光の一例を表す断面図である。
【図9】比較例1に係る液晶調光素子の断面図である。
【図10】図9に示した液晶調光素子の配向膜におけるラビング方向を説明するための模式図である。
【図11】図9に示した反射膜への入射光および反射膜からの反射光の一例を表す断面図である。
【図12】図11に示した光の進行方向からみた液晶分子について説明するための模式図である。
【図13】図9に示した液晶調光素子における電圧印加率と透過率との関係の一例を表す特性図である。
【図14】比較例2に係る液晶調光素子の断面図である。
【図15】図14に示した液晶調光素子の配向膜におけるラビング方向を説明するための模式図である。
【図16】図14に示した反射膜への入射光および反射膜からの反射光の一例を表す断面図である。
【図17】図16に示した光の進行方向からみた液晶分子について説明するための模式図である。
【図18】図14に示した液晶調光素子における電圧印加率と透過率との関係の一例を表す特性図である。
【図19】図8に示した光の進行方向からみた液晶分子について説明するための模式図である。
【図20】図5に示した液晶調光素子における電圧印加率と透過率との関係の一例を表す特性図である。
【図21】第1の実施の形態の変形例に係る液晶調光素子の断面図である。
【図22】図21に示した液晶調光素子の配向膜におけるラビング方向を説明するための模式図である。
【図23】図21に示した反射膜への入射光および反射膜からの反射光の一例を表す断面図である。
【図24】図23に示した光の進行方向からみた液晶分子について説明するための模式図である。
【図25】図21に示した液晶調光素子における電圧印加率と透過率との関係の一例を表す特性図である。
【図26】本発明の第2の実施の形態に係る液晶調光素子の断面図である。
【図27】図26に示した液晶調光素子の配向膜におけるラビング方向を説明するための模式図である。
【図28】図26に示した反射膜への入射光および反射膜からの反射光の一例を表す断面図である。
【図29】図26に示した液晶調光素子における電圧印加率と透過率との関係の一例を表す特性図である。
【図30】図5等に示した液晶調光素子の配向膜におけるラビング方向の他の例を説明するための図である。
【図31】液晶分子の配向方向を検討する方法について説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施の形態について、図面を参照して詳細に説明する。なお、説明は以下の順序で行う。
1.第1の実施の形態(液晶分子の配向方向が異なる配向領域を有する液晶調光素子の例)
2.変形例(ラビング処理の方向についての変形例)
3.第2の実施の形態(複数の液晶層が積層されてなる液晶調光素子の例)
【0016】
〔第1の実施の形態〕
[撮像装置1の全体構成]
図1は、本発明の第1の実施の形態に係る液晶調光素子(後述する液晶調光素子26)が適用された撮像装置(撮像装置1)の全体構成(外観構成)を斜視図で表したものである。この撮像装置1は、被写体からの光学的な画像を撮像素子(後述する撮像素子3)によって電気的な信号に変換するデジタルカメラ(デジタルスチルカメラ)である。なお、このようにして得られた撮像信号(デジタル信号)は、半導体記録メディア(図示せず)に記録したり、液晶ディスプレイ等の表示装置(図示せず)に表示したりすることが可能となっている。
【0017】
撮像装置1では、本体部10(筐体)上に、レンズ部11、レンズカバー12、フラッシュ13および操作ボタン14が設けられている。具体的には、本体部10の前面(Z−X平面)に、レンズ部11、レンズカバー12およびフラッシュ13がそれぞれ配設され、本体部10の上面(X−Y平面)に操作ボタン14が配設されている。この撮像装置1はまた、本体部10内に、上記したレンズ部11を含む鏡筒装置2(レンズ鏡筒装置)と、撮像素子3と、図示しない制御処理部とを備えている。なお、本体部10内には、これらの他にも、例えばバッテリーやマイクロフォン、スピーカー等(いずれも図示せず)が内蔵されている。
【0018】
鏡筒装置2は、後述するように入射した撮像光をその光路を屈曲させて出射する、いわゆる屈曲型(折り曲げ型)の鏡筒装置であり、これにより鏡筒装置2の薄型化(Y軸方向の薄型化)を図ることが可能となっている。この鏡筒装置2は、例えば図2に示したような外観構成からなる。すなわち、鏡筒装置2では、鏡筒部材20の上部(Z軸上の正方向の端部)に、上記したレンズ部11が配設されている。このレンズ部11は、後述する対物レンズとしてのレンズ21aと、本体部10の一部を構成するフロントフレーム110とからなる。なお、この鏡筒装置2内に上記した液晶調光素子26が配置されている。鏡筒装置2および液晶調光素子26の詳細構成については後述する(図3〜図5)。
【0019】
撮像素子3は、鏡筒装置2から出射された撮像光を検出して撮像信号を取得する素子である。この撮像素子3は、例えば、CCD(Charge-Coupled Devices)やCMOS(Complementary Metal-Oxide Semiconductor)等のイメージングセンサーを用いて構成されている。
【0020】
レンズカバー12は、レンズ部11を外部から保護するための部材であり、図中の破線の矢印で示したように、Z軸方向に沿って移動することが可能となっている。具体的には、被写体の撮像時には、レンズ部11が外部に露出されるように、レンズカバー12がレンズ部11の下方に配置される。一方、撮像時以外のときには、レンズ部11が外部に露出されないように、レンズ部11の上方に配置されるようになっている。
【0021】
操作ボタン14は、ここでは、撮像装置1の電源をオン・オフさせるための電源ボタン14aと、被写体の撮像を実行するための記録ボタン14b(シャッターボタン)と、撮像信号に対して所定の像ぶれ補正を実行するための手ぶれ設定ボタン14cとからなる。なお、本体部10上に、これらに加えて(これらの代わりに)他の操作を行うためのボタンが設けられているようにしてもよい。
【0022】
[鏡筒装置2の詳細構成]
次に、図3〜図5を参照して、鏡筒装置2の詳細構成について説明する。図3は、鏡筒装置2における光学系の構成例を、撮像素子3等とともに表したものである。図4は、図3に示した鏡筒装置2の一部を拡大して表した断面図(Y−Z断面図)である。
【0023】
図3に示したように、鏡筒装置2は、5つのレンズ群(第1レンズ群21、第2レンズ群22、第3レンズ群23、第4レンズ群24および第5レンズ群25)と、液晶調光素子26(調光素子)とを備えている。これら5つのレンズ群(群レンズ)のうち、第1レンズ群21は、Y軸に沿った光軸L1上およびZ軸に沿った光軸L2上に沿って配置され、第2〜第5レンズ群22〜25はそれぞれ、光軸L2上に沿って配置されている。また、第2〜第5レンズ群22〜25は、第1レンズ群21(液晶調光素子26)と撮像素子3との間の光路上において、第1レンズ群21側からこの順に配置されている。なお、ここでは、鏡筒装置2と撮像素子3との間(第5レンズ群25(後述するレンズ25b)と撮像素子3との間)には、所定の光学フィルム15が配置されている。
【0024】
第1レンズ群21は、光軸L1上に配置されたレンズ21aと、プリズム21bと、光軸L2上に配置されたレンズ21cとからなる。レンズ21aは、前述したように対物レンズとして機能するレンズであり、被写体の撮像光が入射されるようになっている。プリズム21bは、鏡筒装置2内の屈曲領域(撮像光の光路の屈曲領域)に配置されており、撮像光の入射面(Z−X面)および出射面(X−Y面)と、後述する液晶調光素子26の載置面(形成面,反射面)とを有する三角柱状となっている。すなわち、このプリズム21bは、光軸L1に沿って入射する撮像光を、その光路を屈曲させた後に(折り曲げた後に)光軸L2に沿って出射させる直角プリズムである。これにより、鏡筒装置2が前述した屈曲型(折り曲げ型)の鏡筒装置として機能するようになっている。レンズ21cは、プリズム21bの出射面側に配置されたレンズである。なお、これに対してレンズ21aは、プリズム21bの入射面側に配置されている。
【0025】
第2レンズ群22は、光軸L2上に配置された2つのレンズ22a,22bからなる。これらのレンズ22a,22bはそれぞれ、例えば、光軸L2上をワイド方向(広角方向)およびテレ方向(望遠方向)に移動することが可能となっている。
【0026】
第3レンズ群23は、ここでは1つのレンズからなり、鏡筒装置2内で固定配置されている。
【0027】
第4レンズ群24は、ここでは1つのレンズからなり、光軸L2上を移動することが可能となっている。この第4レンズ群24を構成するレンズは、焦点距離を調整するため(合焦のため)に用いられるレンズ(フォーカスレンズ)である。
【0028】
第5レンズ群25は、光軸L2上に配置された2つのレンズ25a,25bからなる。レンズ25aは鏡筒装置2内で固定配置される一方、レンズ25b(補正レンズ)は、図中の矢印および破線で示したように、Y軸方向に移動可能に構成されている。
【0029】
ここで、第2レンズ群22および第4レンズ群24は、互いに独立して光軸L2に沿ってテレ方向およびワイド方向に移動することが可能となっている。第2レンズ群22および第4レンズ群24がテレ方向またはワイド方向に移動することにより、ズーム調整およびフォーカス調整がなされるようになっている。すなわち、ズーム時には、第2レンズ群22および第4レンズ群24がワイド(広角)からテレ(望遠)まで移動することによって、ズーム調整が行われる。また、フォーカス時には、第4レンズ群24がワイドからテレまで移動することによって、フォーカス調整が行われる。
【0030】
(液晶調光素子26)
液晶調光素子26は、撮像光の光量を調整する素子(調光素子)であり、液晶を利用して電気的に光量調整(調光)を行うようになっている。この液晶調光素子26は、図3に示したように、前述した撮像光の光路の屈曲領域に配置されている。
【0031】
具体的には、図4に示したように、液晶調光素子26は、前述した入射面Sin、出射面Soutおよび載置面Spを有するプリズム21bにおける載置面Sp上に配置(形成)されている。詳細には、液晶調光素子26は、鏡筒部材20とプリズム21b(載置面Sp)との間隙部(間隙領域)20G(隙間,これらの間の空間領域)に配置されている。なお、図中に示したように、鏡筒部材20におけるプリズム21bの背面側(載置面Sp側)には、鏡筒装置2と撮像装置1の本体部10とを取り付ける際に用いられる位置決め孔20H(ボス穴)が、Y軸方向に沿って形成されている。
【0032】
図5は、液晶調光素子26の詳細な断面構成例(Y−Z断面構成例)を、プリズム21bとともに模式的に表したものである。液晶調光素子26は、プリズム21b側から、透明電極261a、配向膜262a、液晶層260、配向膜262b、透明電極261b、透明基板263(基板)および反射膜264がこの順に配置された積層構造を有している。すなわち、液晶層260の一方の面側にプリズム21bが設けられ、他方の面側に透明基板263および反射膜264がこの順に設けられている。液晶層260(第1液晶層)は仕切り部材267で区切られた液晶層260aおよび液晶層260bにより構成されている。液晶層260a,260bが配置されている領域をそれぞれ配向領域268a,268bとする。液晶調光素子26にはまた、シール剤265、スペーサー266および封止部(図示せず)が設けられている。
【0033】
液晶層260は液晶分子を含有する層であり、ここでは液晶分子に加えて所定の二色性染料分子を含有するようになっている(図5では図示の簡略化のため、液晶分子および二色性染料分子をまとめて「分子Ma,Mb」として示している)。すなわち、液晶調光素子26は、二色性色素を含有するゲスト−ホスト型の液晶を用いて構成されている。
【0034】
本実施の形態では、液晶層260がポジ型およびネガ型のいずれの液晶によって構成されていてもよいが、以下では、液晶層260がネガ型の液晶からなる場合について代表して説明する。一般的に、代表的なネガ型液晶であるVA(Vertical Alignmnt)方式用途の液晶では配向膜にラビング処理を行わないが、本実施の形態では配向膜にラビング処理が施され、液晶分子の配向方向が制御されている。
【0035】
液晶層260は、プリズム21bと略同等(好ましくは同一)の光屈折率を有する液晶を用いて構成されているのが望ましい。これにより、プリズム21bと液晶調光素子26(液晶層260)との界面において撮像光が屈折(反射)され、撮像光の光路が光軸L1,L2からずれてしまうのが回避されるからである。なお、液晶調光素子26内の他の部材(透明電極261a,261bや配向膜262a,262b等)の光屈折率による影響については、以下の理由から実質的に考慮しなくてもよい。まず、これらの部材の厚みは、非常に小さい(数十nm〜数百nm程度)ためである。また、配向膜262a,262bの光屈折率は、液晶層260の光屈折率と同程度となるように設定されるのが一般的であり、透明電極261a,261bについては、それらの膜厚の調整によって容易に光屈折率の合わせ込みを行うことができるからである。
【0036】
本実施の形態の液晶層260は前述のように、液晶層260a,260bにより構成されている。この液晶層260a,260bは、それぞれ分子Ma,Mbを含有しており、分子Ma,Mbは同種の液晶分子、二色性染料分子であるが、分子Maと分子Mbとの配向方向(倒れ方向)は互いに異なる。液晶層260a,260bが配置されている領域をそれぞれ配向領域268a,268bとする。
【0037】
ここで、図6を用いて配向方向の制御方法について説明する。図6(A)に、電圧無印加時の液晶分子Mrと基板263との関係を示し、図6(B)に電圧印加時の液晶分子Mrと基板263との関係を示した。一般的に、液晶分子の長軸方向と基板界面(配向膜)とのなす角度、所謂プレチルト角は、配向膜に対するラビング処理により制御される。このようなラビング処理を行うことにより、図6(A)に示した液晶分子Mrと基板263とが略垂直の状態から、電圧を印加していくと、図6(B)に示したようにラビング処理により決定された方向へと液晶分子Mrが倒れる。
【0038】
上記のように配向膜262a(第1配向膜),262b(第2配向膜)はそれぞれ、液晶層260a,260b内の分子Ma,Mbを所望の方向(配向方向)に配向させるための膜である。これらの配向膜262a,262bはそれぞれ、例えばポリイミド等の高分子材料や無機材料からなる。この配向膜262a,262bに予め所定の方向のラビング処理が施されることによって液晶分子の配向方向が設定されるようになっている。
【0039】
図7は配向膜262a,262bのラビング処理の方向を表した図である。図中の矢印がラビング処理の方向を表す。なお、実線が配向膜262aに対するラビング処理の方向、破線が配向膜262bに対するラビング処理の方向である。後述の図10,図15,図22および図27についても同様とする。図7に示したように、配向膜262a,262bには仕切り部材267を基準として対称となる方向にラビング処理がなされる。すなわち、配向領域268aにおける配向膜262a,262bへのラビング処理の方向と配向領域268bにおける配向膜262a,262bへのラビング処理の方向とが仕切り部材267を基準として対称となっている。プリズム21b側の配向膜262aには、プリズム21bの載置面Spの傾斜方向と平行かつ仕切り部材267に向かう方向へとラビング処理が施され、透明基板263側の配向膜262bには、配向膜262aへのラビング方向から180度回転させた方向、すなわち反平行方向のラビング処理が施される。
【0040】
図7に示した方向のラビング処理が行われることにより、分子Ma,Mbは仕切り部材267を基準として互いに対称となるように配向する。つまり、液晶層260a内の分子Maと液晶層260b内の分子Mbとは鏡像の関係となっている。
【0041】
仕切り部材267は、配向方向の異なる分子Maと分子Mbとが混在することを防止し、かつ液晶層260a内の各分子Maの動作および液晶層260b内の各分子Mbの動作それぞれを揃える役割を担う。分子Maと分子Mbとが仕切り部材267により隔てられていることにより、電圧を印加した際の液晶調光素子26の応答速度が安定化し、撮像装置1において撮影画内の変化が一様となる。特に動画撮影では、撮影画内の変化が一様となることで撮影画に生じる違和感をなくすことができる。加えて、例えば液晶調光素子26をプロジェクタに適用させた場合には投射される画像の明るさを一様に変化させることができる。
【0042】
仕切り部材267は配向領域268aと配向領域268bとの間に、配向膜262aから配向膜262bに亘り設けられている。具体的には、所定の光軸L1と光軸L1が反射膜264により反射された反射光Lref(後述の図8)とが線対称となるような仮想線を配向膜262a,262bに設け、この仮想線に沿って仕切り部材267が形成される。仕切り部材267はシール剤265と同じ材料、例えばエポキシ接着剤やアクリル接着剤等の接着剤により構成することができる。仕切り部材267は、できるだけ薄いことが好ましく、例えば0.2μm程度である。
【0043】
透明電極261a,261bはそれぞれ、液晶層260に対して電圧(駆動電圧)を印加するための電極であり、例えば酸化インジウムスズ(ITO;Indium Tin Oxide)からなる。なお、これらの透明電極261a,261bと電気的に接続するための配線(図示せず)は、適宜配置すればよい。
【0044】
透明基板263は、透明電極261b、配向膜262bおよび反射膜264を支持すると共に液晶層260を封止するための基板であり、例えばガラス基板からなる。なお、ここでは、透明電極261aおよび配向膜262aを支持すると共に液晶層260を封止するための基板が、プリズム21bにより構成されているが、このプリズム21bの代わりに、プリズム21bと透明電極261aとの間に透明基板を更に設けるようにしてもよい。ただし、プリズム21bがこのように基板の役割を兼ねている場合のほうが、液晶調光素子26の構成部材が少なくて済むため望ましいと言える。
【0045】
反射膜264は、透明基板263の鏡筒部材20側(液晶層260の反対側)に配置されており、詳細は後述するが、撮像光を例えば90度の角度で反射(全反射および一部反射)する機能を有する膜である。このような反射膜264は、例えばアルミニウム(Al)もしくは銀(Ag)、またはそれらの合金等の金属膜等からなる。
【0046】
シール剤265は、液晶層260内の分子Ma,Mbを側面側から封止するための部材であり、例えばエポキシ接着剤やアクリル接着剤等の接着剤からなる。スペーサー266は、液晶層260におけるセルギャップ(厚み)を一定に保持するための部材であり、例えば所定の樹脂材料やガラスからなる。図示しない封止部は、液晶層260内に分子Ma,Mbを封入する際の封入口であると共に、その後液晶層260内の分子Ma,Mbを外部から封止する部分である。
【0047】
[撮像装置1の作用・効果]
(1.撮像動作)
この撮像装置1では、図1に示した操作ボタン14がユーザ(使用者)によって操作されることにより被写体の撮像動作が行われ、撮像画像(撮像データ)が得られる。具体的には、図1〜図3に示したように、撮像光がレンズ部11を介して鏡筒装置2へ入射し、その撮像光の光路が鏡筒装置2内で屈曲された(折り曲げられた)後、撮像素子3へ出射されて検出される。鏡筒装置2内では、詳細には図3に示したように、まず、光軸L1に沿ってレンズ21a(対物レンズ)を介してプリズム21bへ入射した撮像光は、このプリズム21bの反射面(載置面Sp)上の液晶調光素子26内で反射される。この反射光は、レンズ21cを介して光軸L2に沿って出射される。そして、反射光としての撮像光は、第2〜第5レンズ群22〜25をこの順に通過し、鏡筒装置2から出射される。この鏡筒装置2から出射された撮像光は、光学フィルム15を介して撮像素子3へ入射し検出される。このようにして撮像素子3において取得された撮像信号に対して、制御処理部(図示せず)は、所定の信号処理を行う。また、この制御処理部は、取得された撮像信号に基づいて、鏡筒装置2内の液晶調光素子26に対して、前述した所定のフィードバック制御を行う。
【0048】
このとき、液晶調光素子26では、詳細には図8に示したように、プリズム21bの入射面Sinから載置面Sp(液晶層260)に対して斜め、例えば45度の角度で入射した撮像光(入射光Lin)が、このプリズム21bを介して液晶層260a等を通過し、反射膜264において反射(全反射)される。そして、反射された反射光Lrefは、液晶層260b等を通過し、出射光Loutとしてプリズム21bの出射面Soutから出射される。ここでは、反射層264において反射された後、液晶調光素子26を通過し終える前の光を反射光Lrefとする。この際に、液晶層260に対して所定の電圧(駆動電圧)が印加されると、分子Ma,Mbの配向方向(長軸方向)が変化し、それに応じて液晶層260を通過する撮像光の光量も変化する。したがって、このときの駆動電圧を調整することにより、液晶調光素子26全体を通過する撮像光の光量が、(機械的ではなく)電気的に調整可能となる(任意の調光動作が可能となる)。このようにして、鏡筒装置2内で撮像光に対する光量調整(調光)が行われる。
【0049】
(2.特徴的部分の作用)
次に、液晶調光素子26の特徴的部分の作用について、比較例(比較例1,2)と比較しつつ詳細に説明する。
【0050】
(比較例1)
図9は、比較例1に係る液晶調光素子126の断面図(Y−Z断面図)を表したものである。液晶層106に仕切り部材267が設けられておらず、液晶層106内の全ての分子Mの配向方向が同一となっている。この点において液晶調光素子126は本実施の形態の液晶調光素子26と異なる。
【0051】
図10に液晶調光素子126における配向膜262a,262bのラビング処理の方向を示す。液晶調光素子26と異なり、比較例1では配向膜262a内,配向膜262内ではそれぞれ同一方向にラビング処理が施されている。配向膜262a,262bにおけるラビング処理はX軸方向に行われている。配向膜262aには、図9の紙面奥から紙面手前方向、配向膜262bには、配向膜262aへのラビング処理の方向から180度回転させた方向(図9の紙面手前から紙面奥方向)にラビング処理がなされている。
【0052】
ここで、図11,図12および図13を用いて液晶調光素子126の調光動作について説明する。図11に示したように液晶調光素子126についても、液晶調光素子26と同様に入射光Linが、液晶層106等を通過し、反射層264において反射された反射光Lrefは、再び液晶層106等を通過し、出射光Loutとして出射される。比較例1では、入射光Linと反射光Lrefが通過する液晶層106内の分子Mの配向方向は同じである。
【0053】
図12は入射光Linおよび反射光Lrefの進行方向から見た分子Mの形状を模式的に表したものである。図12(A)は、入射光Linの進行方向から見た分子Mの形状、図12(B)は、反射光Lrefの進行方向から見た分子Mの形状を表す。電圧印加率0%(電圧無印加状態)から電圧無印加率100%(最大電圧印加状態)まで徐々に電圧を印加していくと、分子Mはラビング処理により制御された方向へと倒れていく。このとき、液晶層106内の全ての分子Mの配向方向が同一であるため、分子Mの長軸方向と入射光Linの進行方向とのなす角度,分子Mの長軸方向と反射光Lrefの進行方向とのなす角度が異なるものとなる(例えば、電圧印加率=12%)。
【0054】
図13は、電圧を印加していった際の比較例1に係る電圧印加率と透過率(光透過率)との関係の一例を示す特性図である。比較例1では、液晶層106にネガ型のゲスト−ホスト型液晶を用い、電圧無印加状態(0V状態)における撮像光の透過光量を基準(100%)として示している。なお、この条件は後述の図18,図20,図25および図29についても同様である。図13より、電圧印加率が大きくなるのに応じて液晶層106での遮光量が急激に大きくなっていき(透過率が急激に低くなっていき)、電圧印加率=50%程度で透過率=50%程度(略一定値)に収束していることが分かる。また、図10に示したラビング処理の方向と逆方向のラビング処理を行っても、図13に示した特性と同様の結果が得られた。
【0055】
このような液晶調光素子における透過率変化の際の値や傾き、調光範囲はそれぞれ、液晶層の材料や濃度、液晶層のセルギャップ(厚み)、配向膜の種類(材料)等に応じて変化するようになっている。例えば、液晶層106においてポジ型のゲスト−ホスト型液晶を用いた場合には、図13の特性とは逆に、電圧無印加状態(電圧印加率=0%)で透過率が低く、電圧印加率が大きくなるのに応じて透過率が上昇していく傾向となる。
【0056】
(比較例2)
図14は、比較例2に係る液晶調光素子126Aの断面図(Y−Z断面図)を表したものである。この比較例2の液晶調光素子126Aでは、比較例1に係る液晶調光素子126と同様に液晶層206に仕切り部材267が設けられておらず、液晶層206内の全ての分子Mの配向方向は同一となっている。比較例2では、比較例1と分子Mの配向方向(配向膜262a,262bのラビング方向)が異なる。
【0057】
図15に液晶調光素子126Aにおける配向膜262a,262bのラビング方向を示した。比較例1と同様に配向膜262a内,配向膜262b内ではそれぞれ同一方向にラビング処理が施される。ラビング処理はプリズム21bの載置面Spの傾斜方向と平行方向になされ、配向膜262aでは、載置面Spの傾斜を下る方向、配向膜262bでは、配向膜262aへのラビング方向から180度回転させた方向(載置面Spの傾斜を上る方向)に行われる。
【0058】
ここで、図16,図17および図18を用いて液晶調光素子126Aの調光動作について説明する。図16に示したように液晶調光素子126Aについても、入射光Linが、液晶層206を通過し、反射層264において反射された反射光Lrefは、再び液晶層206等を通過し、出射光Loutとして出射される。比較例2においても、比較例1と同様に入射光Linと反射光Lrefが通過する液晶層206内の分子Mの配向方向は同じである。
【0059】
図17は入射光Linおよび反射光Lrefの進行方向から見た分子Mの形状を模式的に表したものである。図17(A)は、入射光Linの進行方向から見た分子Mの形状、図17(B)は、反射光Lrefの進行方向から見た分子Mの形状を表す。比較例1と同様に液晶層260内の全ての分子Mの配向方向が同一であるため、分子Mの長軸方向と入射光Linの進行方向とのなす角度,分子Mの長軸方向と反射光Lrefの進行方向とのなす角度が異なるものとなる(例えば、電圧印加率=15%)。
【0060】
図18に電圧を印加していった際の液晶調光素子126Aにおける電圧印加率と透過率との関係を表す。比較例2では電圧印加率=40%程度で透過率=45%程度(略一定値)まで減光した。図18では、比較例1(図13)と異なり、電圧印加率の増加と共に継続的に透過率の減少が進まず、電圧印加率=15%程度で透過率が一旦上昇している(透過率=110%程度)。これは、電圧印加率15%程度のとき、反射光Lrefの進行方向と分子Mの長軸方向とが平行に近い状態となるためである(図17(B))。また、図17に示したラビング処理の方向と逆方向のラビング処理を行っても、図18に示した特性と同様の結果が得られた。
【0061】
(本実施の形態の作用)
上記のような比較例1,2と異なり、図8に示したように本実施の形態の液晶調光素子26では、入射光Linは配向領域268aを通過し、反射光Lrefは配向領域268aとは液晶分子の配向方向が異なる配向領域268bを通過する。
【0062】
図19は、本実施の形態の液晶調光素子26において入射光Linおよび反射光Lrefの進行方向から見た分子Ma,Mbの形状を模式的に表したものである。図19(A)は、入射光Linの進行方向から見た分子Maの形状、図19(B)は、反射光Lrefの進行方向から見た分子Mbの形状を表す。徐々に電圧を印加していくと、分子Ma,Mb共に電圧印加率15%程度で入射光Lin,反射光Lrefの進行方向に対して、その長軸方向がほぼ垂直となる。本実施の形態に係る液晶調光素子26では、入射光Linと反射光Lrefとが配向領域268a,268bをそれぞれ通過することにより、分子Maの長軸方向と入射光Linの進行方向とのなす角度,分子Mbの長軸方向と反射光Lrefの進行方向とのなす角度の両方が制御される。
【0063】
特に、液晶調光素子26では、仕切り部材267を基準として分子Maの配向方向と分子Mbの配向方向とが対称となるようにしたので、分子Maの長軸方向と入射光Linの進行方向とのなす角度と、分子Mbの長軸方向と反射光Lrefの進行方向とのなす角度とがほぼ等しくなる。
【0064】
図20は、電圧を印加していった際の液晶調光素子26における電圧印加率と透過率(光透過率)との関係の一例を表したものである。本実施の形態では、電圧印加率=40%程度で透過率=40%程度(略一定値)に収束していることが分かる。すなわち、液晶調光素子26における調光範囲は、約60%(透過率=100%〜40%の範囲)となっている。
【0065】
比較例1(透過率50%)および比較例2(透過率55%)と比較して本実施の形態に係る実施例では、透過率が40%程度まで下がり、調光範囲を60%程度にまで拡大していることがわかる。
【0066】
以上のように本実施の形態の液晶調光素子26では、液晶層260の他方の面側に反射膜264を設け、液晶層260が分子Ma,Mbの配向方向が異なる配向領域268a,268bを有するようにしたため、入射光Linと反射光Lrefとが、分子Ma,Mbの配向方向が異なる配向領域268a,268bをそれぞれ通過する(図8)。これにより、分子Maの長軸方向と入射光Linの進行方向とのなす角度,分子Mbの長軸方向と反射光Lrefの進行方向とのなす角度を共に制御することができる。よって、液晶調光素子26の調光範囲を拡大することができる。
【0067】
また、本実施の形態では、隣接する配向領域268a,268bの分子Ma,Mbの配向方向を配向領域268a,268bの境界(仕切り部材267)を基準として対称とすることにより、入射光Linの進行方向と分子Maの長軸方向とのなす角度,反射光Lrefの進行方向と分子Mbの長軸方向とのなす角度がほぼ等しくなる。よって、より効果的に調光範囲が拡大される。
【0068】
なお、液晶調光素子26は2つの配向領域268a,268bにより構成されているが、液晶調光素子が3つ以上の配向領域により構成されていてもよい。このとき、それぞれの配向領域における液晶分子の配向方向は全て異なっていてもよく、また、同じ配向方向の配向領域が存在していてもよい。
【0069】
<変形例>
続いて、上記第1の実施の形態の変形例について説明する。なお、上記実施の形態における構成要素と同一のものには同一の符号を付し、適宜説明を省略する。
【0070】
図21は、変形例に係る液晶調光素子26Aの断面構成例(Y−Z断面構成例)を、プリズム21bとともに模式的に表したものである。この液晶調光素子26Aでは、上記実施の形態の液晶調光素子26と分子Ma,Mbの配向方向(配向膜262a,262bへのラビング処理の方向)が逆となっている。
【0071】
図22は配向膜262a,262bにおけるラビング処理の方向を表したものである。配向膜262a,262bには仕切り部材267を基準として対称となる方向のラビング処理がなされる。本変形例では、上記実施の形態の液晶調光素子26と逆方向にラビング処理が行われる。詳細には、透明基板263側の配向膜262bには、プリズム21bの載置面Spの傾斜方向と平行かつ仕切り部材267に向かう方向へとラビング処理が施され、プリズム21b側の配向膜262aには、配向膜262bへのラビング方向から180度回転させた方向、すなわち反平行方向のラビング処理が施される。
【0072】
図22に示した方向のラビング処理が行われることにより、分子Maおよび分子Mbは仕切り部材267を基準として互いに対称となるように配向する。つまり、液晶層260a内の分子Maと液晶層260b内の分子Mbとは鏡像の関係となっている。
【0073】
本変形例の液晶調光素子26Aにおいても、液晶調光素子26と同様の調光動作を行うことが可能である。すなわち、図23に示したように、プリズム21bの入射面Sinから入射した撮像光(入射光Lin)が、このプリズム21bを介して液晶層260a等を通過し、反射層264において反射される。そして、反射された反射光Lrefは、液晶層260b等を通過し、出射光Loutとしてプリズム21bの出射面Soutから出射される。液晶調光素子26Aでは、入射光Linは配向領域268aを通過し、反射光Lrefは配向領域268aとは液晶分子の配向方向が異なる配向領域268bを通過する。
【0074】
図24は入射光Linおよび反射光Lrefの進行方向から見た分子Ma,Mbの形状を模式的に表したものである。図24(a)は、入射光Linの進行方向から見た分子Maの形状、図24(b)は、反射光Lrefの進行方向から見た分子Mbの形状を表す。徐々に電圧を印加していくと、分子Ma,Mb共に電圧印加率15%程度で入射光Lin,反射光Lrefに対して、その長軸方向がほぼ平行となる。すなわち、電圧印加率15%では入射光Lin,出射光Loutを透過しやすい方向に分子Ma,Mbが配向する。
【0075】
図25は、この液晶調光素子26Aでの電圧印加率と透過率との関係の一例を表したものである。本変形例では、図20と異なり、電圧印加率15%程度で透過率が一旦急激に上昇する。これは前述のように分子Ma,Mbが入射光Lin,出射光Loutを透過しやすい方向に配向するためである。一度このような透過率のピークをむかえた後は、電圧印加率の増加に伴い、透過率は減少していき、電圧印加率=50%程度で透過率=50%程度(略一定値)に収束している。
【0076】
図25より、本変形例では透過率50%程度までしか遮光できないため、上記実施の形態と比較して調光範囲が狭いとも思える。しかし、電圧印加率15%では電圧無印加の状態よりも透過率が上昇し、その透過率は160%程度となっている。よって、このピークを考慮すると調光範囲は110%(透過率=160%〜50%の範囲)となる。
【0077】
このように幅広い調光範囲を実現可能な液晶調光素子26Aは、撮像装置等の分野において有用である。しかし一方で、このように電圧を印加していく際に透過率が一旦上昇するものは、その後の透過率の減少が急峻であるため使用できる電圧範囲が限定される。よって、特性を考慮し、液晶調光素子を適用する状況に応じて液晶調光素子26あるいは液晶調光素子26Aを使い分けることが望ましい。
【0078】
[第2の実施の形態]
次に、第2の実施の形態について説明する。なお、上記第1の実施の形態における構成要素と同一のものには同一の符号を付し、適宜説明を省略する。
【0079】
図26は、第2の実施の形態に係る液晶調光素子27の断面構成例(Y−Z断面構成例)を、プリズム21bとともに模式的に表したものである。この液晶調光素子27では、液晶層が1層(単層)構造(液晶層260)であった上記第1の実施の形態の液晶調光素子26とは異なり、液晶層が2層(複数層)構造となっている。すなわち、液晶調光素子27では、以下詳述するように、2層の液晶層260,260cが積層されてなる。
【0080】
具体的には、液晶調光素子27は、プリズム21b側から、透明電極261a、配向膜262a、液晶層260、配向膜262b、透明電極261b、透明基板263、透明電極261a、配向膜262c、液晶層260c(第2液晶層)、配向膜262d、透明電極261b、透明基板263および反射膜264がこの順に積層された積層構造を有している。この液晶調光素子27では、液晶調光素子26と同様に、配向領域268a,268bを有し、液晶層260が仕切り部材267で区切られた液晶層260aおよび液晶層260bにより構成されている。液晶層260,260cの側面側にそれぞれシール剤265、スペーサー266および封止部(図示せず)が設けられている。
【0081】
液晶層260,260cはそれぞれ、液晶調光素子26と同様に、二色性色素を含有するゲスト−ホスト型液晶を用いて構成されている。具体的には、液晶層260を構成する液晶層260a,260bは、それぞれ分子Ma,Mbを含有し、液晶層260cは、分子Mc(液晶分子および二色性色素分子)を含有している。また、上記第1の実施の形態と同様に分子Ma,Mbの配向方向は互いに異なる。なお、ここでは液晶層260cは全ての分子Mcの配向方向が同一となっているが、液晶層260と同様に液晶分子の配向方向が異なる複数の配向領域の液晶層により構成されていてもよい。
【0082】
図27は配向膜262a,262b,262c,262dのラビング方向を表したものである。図27に示したように、配向膜262a,262bに対しては、仕切り部材267を基準として対称となる方向のラビング処理がなされる。ラビング方向は上記第1の実施の形態と同じである(図7)。配向膜262c,262dには、配向膜262a,262bになされたラビング処理の方向と直交する方向のラビング処理がなされる。詳細には、配向膜262cに、図26の紙面奥から紙面手前方向、配向膜262dに、配向膜262cのラビング方向から180度回転させた方向(図26の紙面手前から紙面奥方向)のラビング処理が行われる。
【0083】
図27に示した方向のラビング処理を行うことにより、分子Ma,Mbは仕切り部材267を基準として互いに対称となるように配向する。つまり、液晶層260a内の分子Maと液晶層260b内の分子Mbとは鏡像の関係となっている。分子Mcは分子Ma,Mbと直交する方向に配向する。
【0084】
本実施の形態の液晶調光素子27においても、液晶調光素子26と同様の調光動作を行うことが可能である。すなわち、図28に示したように、プリズム21bの入射面Sinから入射した撮像光(入射光Lin)が、このプリズム21bを介して液晶層260a,260c等を通過し、反射層264において反射される。そして、反射された反射光Lrefは、液晶層260c,260b等を通過し、出射光Loutとしてプリズム21bの出射面Soutから出射される。なお、液晶層260,260cに対する駆動電圧(印加電圧)が互いに異なるようにした場合には、例えば、撮像光における特定方向の偏光(偏光成分)を意図的に弱めつつ、一定の光量を保持するといったことも可能となる。
【0085】
ただし、この液晶調光素子27は、上記したように、2層の液晶層260,260cが積層されてなることにより、以下の効果も得られる。すなわち、まず、一般にゲスト−ホスト型液晶では、ホストとしての液晶に溶ける色素の種類や溶解量には限界があるため、液晶調光素子における調光範囲もある程度限られたものとなることが知られている。ここで、ある一定濃度のゲスト−ホスト型液晶を用いた場合、液晶層のセルギャップを増加させる(厚みを大きくする)ことによって調光範囲を増加させることが可能であるものの、セルギャップの増大は液晶の応答速度に悪影響を及ぼしてしまう(液晶の応答速度が低下してしまう)。そこで、調光範囲を増加させるために偏光板を併用することが考えられるが、偏光板が固定(偏光軸が固定)されてしまうと、この液晶調光素子を撮像装置に適用させた場合、撮像装置におけるレンズのF値が低下してしまう。そのため、偏光板を光路に対して出し入れ可能(挿脱自体)に構成して用いることが現実的であるが、そのような構成の偏光板を併用した場合、鏡筒装置(ひいては撮像装置)の省スペース化(薄型化)を図ることが困難となってしまう。
【0086】
これに対して本変形例の液晶調光素子27では、上記した2層構造の液晶層260,260cからなることにより、液晶層自体のセルギャップ(厚み)はそのままで(変化させることなく)、液晶の応答速度も保持しつつ(低下させることなく)、調光範囲を増加させることが可能となる。
【0087】
図29は、上記第1の実施の形態における図20と同様に、液晶調光素子27における電圧印加率と透過率との関係を示す一実施例を表したものである。この図29から、本実施の形態では、電圧印加率=40%程度で透過率=20%以下(略一定値)に収束していることが分かる。すなわち、この実施例では、液晶調光素子27における調光範囲が約80%(透過率=100%〜20%の範囲)となっており、図20に示した液晶調光素子26の実施例と比べ、更に調光範囲が拡大していることが分かる。
【0088】
以上のように第2の実施の形態に係る液晶調光素子27では、液晶分子の配向方向が異なる配向領域268a,268bを設けたことに加え、液晶層を液晶層260,260cから構成される2層構造としたことで、液晶調光素子27の調光範囲を更に拡大することが可能となる。
【0089】
なお、本実施の形態では液晶層が2層構造となっている場合について説明したが、この場合には限られず、液晶調光素子内において液晶層が3層以上の積層構造となっているようにしてもよい。
【0090】
また、配向膜262a,262b,262c,262dへのラビング処理の方向は限定されるものではないが、液晶層260の配向方向を制御する配向膜262a,262bへのラビング処理の方向と液晶層260cの配向方向を制御する配向膜262c,262dへのラビング処理の方向とが直交するとき、特に調光範囲を拡大することができる。ここでは、配向膜262a,262bに対して、上記第1の実施の形態に係る液晶調光素子26と同方向のラビング処理を行ったが、配向膜262a,262bに上記変形例に係る液晶調光素子26Aと同方向のラビング処理を行ってもよい。
【0091】
[その他の変形例]
以上、実施の形態および変形例を挙げて本発明を説明したが、本発明はこれらの実施の形態等に限定されず、種々の変形が可能である。
【0092】
例えば上記実施の形態等では、ラビング処理の方向をプリズム21bの載置面Spの傾斜方向と平行または垂直方向としたが、傾斜方向に対して斜めにラビング処理を行ってもよい。また、上記実施の形態等では、対向する配向膜には反平行方向のラビング処理を行ったが、対向する配向膜に同方向のラビング処理を行ってもよく、あるいは図30に示したように一方の配向膜に、他方の配向膜から90度(270度)回転させた方向のラビング処理を行ってもよい。更に、液晶分子の配向方向を制御するため、ホスト液晶に添加物を加え、液晶分子の回転角を調整してもよい。
【0093】
上記のように液晶分子の配向方向(ラビング処理の方向)の組み合わせを設計する際には、例えば、まず全ての液晶分子の配向方向が同一の液晶セル(基板,透明電極,配向膜および液晶層)を用いて検討を行う。図31に示したようにこの液晶セル306の基板に対して液晶調光素子への入射角に相当する角度θ、例えば45度の方向から光を液晶セル306へと入射させ、電圧印加率による液晶セル306の透過率変化を測定する。このような検討を重ねることにより所望の調光範囲が得られる液晶分子の配向方向を設計する。
【0094】
また、例えば、上記実施の形態等では、ゲスト−ホスト型の液晶を用いた液晶調光素子を例に挙げて説明したが、この場合には限られず、ゲスト−ホスト型の液晶以外の液晶を用いた液晶調光素子を用いるようにしてもよい。
【0095】
更に、上記実施の形態等では、鏡筒装置内の屈曲領域にプリズムが配置されている場合について説明したが、場合によっては、プリズム以外の光学部材(例えば、ミラーなど)が鏡筒装置内の屈曲領域に配設されているようにしてもよい。
【0096】
加えて、上記実施の形態等では、鏡筒装置や撮像装置等の各構成要素(光学系)を具体的に挙げて説明したが、全ての構成要素を備える必要はなく、また、他の構成要素を更に備えていてもよい。なお、上記実施の形態等においては、撮像装置としてデジタルスチルカメラを例示したが、本発明はビデオカメラやテレビカメラなどの撮像装置やライトバルブ、反射型表示体あるいは光スイッチ素子など調光素子を有する種々の装置に適用可能である。
【符号の説明】
【0097】
1…撮像装置、10…本体部、11…レンズ部、2…鏡筒装置、20…鏡筒部材、20G…間隙部、20H…位置決め孔(ボス穴)、21…第1レンズ群、21b…プリズム、22…第2レンズ群、23…第3レンズ群、24…第4レンズ群、25…第5レンズ群、26,26A,27…液晶調光素子、260,260a,260b,260c…液晶層、261a,261b…透明電極、262a,262b,262c,262d…配向膜、263…透明基板、264…反射膜、265…シール材、266…スペーサー、267…仕切り、268a,268b…配向領域、3…撮像素子、L1,L2…光軸、Lin…入射光、Lout…出射光、Lref…反射光、Sin…入射面、Sout…出射面、Sp…載置面(反射面)、M,Ma,Mb,Mc…分子(液晶分子・色素分子)。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一方の面から光が入射する第1液晶層と、
前記第1液晶層を透過する光を反射する反射膜とを備え、
前記第1液晶層は隣接する配向領域を有し、前記隣接する配向領域間の液晶分子の配向
方向が異なっている
液晶調光素子。
【請求項2】
前記隣接する配向領域では、前記液晶分子の配向方向が前記隣接する配向領域の境界を
基準として対称となっている
請求項1記載の液晶調光素子。
【請求項3】
前記第1液晶層の一方の面および他方の面には、それぞれ第1配向膜および第2配向膜
が設けられ、
前記第1配向膜は、前記隣接する配向領域に対応する領域に異なる方向のラビング処理が施されている
請求項1または2記載の液晶調光素子。
【請求項4】
前記第1配向膜に施されたラビング処理の方向は、前記隣接する配向領域の境界を基準として対称かつ前記境界に向かう方向となっている
請求項3記載の液晶調光素子。
【請求項5】
前記第2配向膜に施されたラビング処理の方向は、前記第1配向膜のラビング処理の方向と反平行方向となっている
請求項4記載の液晶調光素子。
【請求項6】
前記第1液晶層と前記反射膜との間に基板を有すると共に、前記第1液晶層の一方の面
側にプリズムを有する
請求項1または2記載の液晶調光素子。
【請求項7】
前記第1液晶層と前記反射膜との間に第2液晶層を備えた
請求項1または2記載の液晶調光素子。
【請求項8】
前記第2液晶層では、液晶分子の配向方向が一方向に揃っている
請求項7記載の液晶調光素子。
【請求項9】
前記隣接する配向領域の境界に仕切り部材を備えた
請求項1または2記載の液晶調光素子。
【請求項10】
前記第1液晶層は、二色性色素を含有するゲスト−ホスト(GH)型の液晶を用いて構成されている
請求項1または2記載の液晶調光素子。
【請求項11】
前記一方の面から前記第1液晶層へ入射する光と、前記反射膜により反射され前記一方の面へ出射する光との間で、通過する配向領域の配向方向が少なくとも一部異なっている
請求項1または2記載の液晶調光素子。
【請求項12】
液晶調光素子と撮像素子とを備え、
前記液晶調光素子は、
一方の面から光が入射する第1液晶層と、
前記第1液晶層を透過する光を反射する反射膜とを備え、
前記第1液晶層は隣接する配向領域を有し、前記隣接する配向領域間の液晶分子の配向
方向が異なっている
撮像装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【図24】
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【図25】
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【図26】
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【図27】
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【図28】
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【図29】
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【図30】
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【図31】
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【公開番号】特開2012−98321(P2012−98321A)
【公開日】平成24年5月24日(2012.5.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−243257(P2010−243257)
【出願日】平成22年10月29日(2010.10.29)
【出願人】(000002185)ソニー株式会社 (34,172)
【Fターム(参考)】