説明

液滴噴射装置

【課題】ヘッドのノズルの周囲を密閉空間として封止可能な凹部を有するキャップと、上記凹部内の空気を吸引可能な吸引手段と、を備えた液滴吐出装置において、上記凹部内に溜まった液滴を効率的に除去すること。
【解決手段】ノズルプレート27は、ノズル27m〜27kが形成された領域よりも右側に、広い平面状の領域(負圧チャージ領域27a)を有し、更にその右端縁には、キャップ24,25の前方側端部と対向する位置に三角の切り欠き27bが形成されている。キャップ24の凹部24aを負圧チャージ領域27aで封止し(C)、吸引して負圧を印加した後(D)、ヘッド17を移動させて凹部24aに切り欠き27bを対向させると(E),(F)、その切り欠き27bを介して凹部24a内のインク全体に大気圧が加わり、切り欠き27bから吸引口24bに向かって気流及びインク流が発生する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ノズルから液滴を噴射可能なヘッドを備えた液滴噴射装置に関し、詳しくは、上記ヘッドのノズルの周囲を密閉空間として封止可能な凹部を有するキャップと、上記凹部内の空気を吸引可能な吸引手段と、を備えた液滴噴射装置装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、ノズルからインク等の液滴を噴射可能なヘッドを備えた液滴噴射装置が考えられている。この種の液滴噴射装置では、例えば、ノズルから適宜のタイミングでインクを噴射して被記録媒体に付着させることにより、被記録媒体に画像を形成することができる。また、この種の液滴噴射装置では、ノズル内でインクが固化するのを防止するため、上記ヘッドのノズルの周囲を密閉空間として封止可能な凹部を有するキャップと、上記凹部内の空気を吸引可能な吸引手段と、を設けることも考えられている。この場合、キャップによりノズルの周囲を密閉空間として封止した上で、吸引手段により凹部内の空気を吸引することにより、ノズル内に留まった古いインクを吸引除去することができる。また、キャップによりノズルの周囲を密閉空間として封止した上で、ヘッドにインクの噴射動作を行わせることによっても、同様に古いインクを除去することができる。
【0003】
このようにしてノズル内から古いインクを除去した場合、キャップの上記凹部には除去されたインクが溜まる。そこで、ノズル内のインクを吸引除去した後、ヘッドとキャップとの間に隙間を形成して、凹部内に溜まったインクを吸引除去(以下、空吸引ともいう)することが提案されている(例えば、特許文献1参照。)。
【特許文献1】特開平6−126947号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところが、上記吸引手段による吸引はキャップに設けられた通常1個の吸引口からなされるのが一般的である。この場合、上記のように凹部内に溜まったインクを吸引除去しようとすると、吸引口近傍のインクは除去できても、その後は空気が吸引されるのみで、吸引口から離れた部分では凹部内にインクが付着したままである可能性がある。吸引口を上記凹部の最も深い位置(底の低い位置)に設け、インクが吸引口近傍まで流れ落ちるのを待って何度も空吸引を繰り返せば、凹部内のインクを全て除去することができるが、これでは極めて効率が悪い。そこで、本発明は、ヘッドのノズルの周囲を密閉空間として封止可能な凹部を有するキャップと、上記凹部内の空気を吸引可能な吸引手段と、を備えた液滴吐出装置において、上記凹部内に溜まった液滴を効率的に除去することを目的としてなされた。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記目的を達するためになされた本発明は、ノズルから液滴を噴射可能なヘッドと、該ヘッドのノズルの周囲を密閉空間として封止可能な凹部を有するキャップと、上記凹部内の空気を吸引可能な吸引手段と、を備えた液滴噴射装置装置であって、上記ノズルが上記凹部外に配置された状態で、上記凹部を密閉空間として封止可能な封止手段と、当該封止手段に上記凹部を密閉空間として封止させて上記吸引手段に上記凹部内の空気の吸引を実行させることにより上記凹部内を負圧に維持した状態で、上記封止手段による封止を解除させる制御手段と、を備えたことを特徴としている。
【0006】
このように構成された本発明では、封止手段は、ノズルが上記凹部外に配置された状態で、上記凹部を密閉空間として封止することができる。そこで、制御手段は、この封止手段に上記凹部を密閉空間として封止させた状態で、吸引手段により上記凹部内の空気の吸引を実行させる。これによって、ノズル内の液滴を吸引することなく、上記凹部内の密閉空間に負圧を印加することができる。そして、更に制御手段は、上記凹部内を負圧に維持した状態で、上記封止手段による封止を解除させる。すると、上記凹部内に溜まった液滴全体に大気圧が加わり、その液滴を上記凹部から効率的に除去することができる。
【0007】
なお、本発明は、上記封止手段の構成を特に限定するものではないが、上記封止手段が、上記ノズルが形成されたノズルプレートと一体の平板として構成された場合、構成を一層簡略化して製造コストを低減することができる。
【0008】
また、このように封止手段がノズルプレートと一体の平板として構成された場合、上記ヘッドを搭載して往復移動するキャリッジを、更に備え、上記制御手段が、上記封止手段に上記凹部を封止させて上記凹部内を負圧に維持した状態から、上記キャリッジを移動させることにより上記封止手段による封止を解除させてもよい。
【0009】
この場合、キャリッジの移動を利用して上記封止を解除することができるので、上記封止を解除するための特別な駆動機構を設ける必要がなく、構成を更に一層簡略化して製造コストを更に低減することができる。
【0010】
また、上記目的を達するためになされた本発明は、ノズルから液滴を噴射可能なヘッドと、該ヘッドのノズルの周囲を密閉空間として封止可能な凹部を有するキャップと、該キャップに設けられた吸引口から上記凹部内の空気を吸引可能な吸引手段と、を備えた液滴噴射装置装置であって、上記ノズルが上記凹部外に配置された状態で、上記凹部を、少なくとも上記吸引口から最も離れた部分を含む一部を残して封止可能な封止手段を、備えたものであってもよい。
【0011】
この場合、封止手段は、吸引口から最も離れた部分を含む一部を残してキャップを封止することができる。この状態から空吸引を行えば、上記一部から吸引口に到る気流または液滴の流れが形成され、上記凹部内に溜まった液滴を効率的に除去することができる。また、このとき、ノズルは上記凹部外に配置されるので、ノズルから余分に液滴が吸引されることもない。
【0012】
なお、本発明は、凹部の形状や吸引口の位置を特に限定するものではないが、上記凹部の上記ノズル周囲に接触する部分が扁平な環状に構成され、上記吸引口がその扁平形状の一端部近傍に、上記一部が上記扁平形状の他端部近傍に、それぞれ配設されてもよい。この場合、上記一部と吸引口とが、上記凹部のノズル周囲との接触部において全く反対側に配設されるので、上記流れが凹部のほぼ全体を横切ることになり、一層効率的に空吸引を行うことができる。
【0013】
また、本発明も、上記封止手段の構成を特に限定するものではないが、上記封止手段が、上記ノズルが形成されたノズルプレートと一体の平板として構成された場合、構成を一層簡略化して製造コストを低減することができる。
【0014】
更に、このように封止手段がノズルプレートと一体の平板として構成された場合、上記ヘッドを搭載して往復移動するキャリッジと、上記封止手段を構成する平板に設けられ、上記キャリッジの移動により上記凹部と対向したとき、その凹部における上記一部に配設される穴部または切り欠き部と、を更に備えてもよい。
【0015】
この場合、キャリッジの移動を利用して上記穴部または切り欠き部を上記凹部と対向させれば、封止手段としての平板により上記一部を残してキャップを封止することができる。従って、封止手段による前述のような封止を行うための特別な機構を設ける必要がなく、構成を更に一層簡略化して製造コストを更に低減することができる。
【0016】
また更に、この場合、上記封止手段が、上記ノズルが上記凹部外に配置された状態で上記凹部を密閉空間として封止可能に構成され、上記キャリッジの移動により上記封止手段に上記凹部を密閉空間として封止させて、上記吸引手段に上記凹部内の空気の吸引を実行させることにより上記凹部内を負圧に維持した状態で、上記キャリッジを更に移動させることにより上記凹部を上記穴部または切り欠き部と対向させる制御手段を、更に備えてもよい。
【0017】
この場合、封止手段は、ノズルが上記凹部外に配置された状態で、上記凹部を密閉空間として封止することができる。そこで、制御手段は、キャリッジの移動により封止手段に上記凹部を密閉空間として封止させた状態で、吸引手段に上記凹部内の空気の吸引を実行させる。これによって、ノズル内の液滴を吸引することなく、上記凹部内の密閉空間に負圧を印加することができる。そして、更に制御手段は、上記凹部内を負圧に維持した状態で、キャリッジを更に移動させることにより上記凹部を上記穴部または切り欠き部と対向させる。すると、上記凹部内に溜まった液滴全体に大気圧が加わり、一層効率的に空吸引を行うことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
次に、本発明の実施の形態を、図面と共に説明する。図1は、本発明が適用された多機能装置1の構成を表す斜視図である。なお、本実施の形態の多機能装置1は、プリンタ機能、コピー機能、スキャナ機能、ファクシミリ機能、電話機能等を備えたいわゆる複合機である。
【0019】
[多機能装置1の構成の説明]
図1に示すように、多機能装置1には、後端部に給紙装置2が設けられ、給紙装置2の下部前側にインクジェット式のプリンタ3が設けられ、プリンタ3の上側にコピー機能とファクシミリ機能とを実行するための読み取り装置4が設けられている。また、プリンタ3の前側には、排紙トレイ5が設けられ、読み取り装置4の前端上面部には、操作パネル6が設けられている。
【0020】
給紙装置2は、用紙を傾斜姿勢に保持する傾斜壁部66と、傾斜壁部66に着脱自在に装着される拡張用紙ガイド板67とを備えており、複数枚の用紙(被記録媒体に相当)を蓄積することができる。傾斜壁部66には、給紙モータ(図示省略)や給紙ローラ(図示省略)などが内蔵されており、その給紙モータの駆動力により回転する給紙ローラが、上記蓄積された用紙をプリンタ3に向けて送出する。
【0021】
[プリンタ3の構成の説明]
次に、プリンタ3について説明する。図2は、プリンタ3の内部構造を表す平面図である。図2に示すように、プリンタ3は、上記用紙が搬送されるプラテン11を備えている。プラテン11は、表面にリブ11aを多数平行に形成することで、そのリブ11aによって上記用紙を受けるように構成されている。なお、上記用紙は、図示しない前述の給紙ローラによって、矢印Pの方向から搬送される。
【0022】
プラテン11の前部には、ベルト13が用紙の幅方向全体に渡って架設され、このベルト13は、キャリッジモータ15(図6参照)によって駆動される駆動プーリ13aと従動プーリ13bとの間に掛け渡されている。このベルト13にはヘッド17を下部に搭載したキャリッジ19が固定され、キャリッジモータ15の駆動に応じてキャリッジ19はプラテン11上を右端から左端或いは左端から右端まで移動する。また、プラテン11とベルト13との間には、多数のスリットが形成されたエンコーダストリップ21が配設され、キャリッジ19には、このエンコーダストリップ21のスリットを光学的に検出してキャリッジ19の位置を算出するためのセンサ23(図6参照)が設けられている。
【0023】
なお、図示省略したが、ヘッド17の左右からはインクを供給するためのチューブが4本突出しており、このチューブは、プラテン11の裏側に設けられたマゼンタ,イエロー,シアン,またはブラックのインク保持部にそれぞれ接続されている。このため、ヘッド17は、各インク保持部から供給されたインクを必要に応じてノズル27m,27y,27c,27k(図3参照)から吐出することにより、用紙に所望のカラー画像を形成することができる。ヘッド17から吐出されたインクによって画像を形成された用紙は、下流側の搬送ローラ(図示省略)によって更に搬送され、排紙ローラ(図示省略)を経て前述の排紙トレイ5(図1参照)上に蓄積される。
【0024】
また、プラテン11の右端(以下、図2における右方向を右という)には、キャップ24,25を備えたメンテナンス装置31が設けられている。次に、このメンテナンス装置31の構成及び前述のヘッド17の構成について、図3を参照して説明する。
【0025】
[ヘッド17及びメンテナンス装置31の構成の説明]
メンテナンス装置31は、キャップ24,25を一体に備えたキャップユニット26を備えている。図3(A),(B)は、図2のA−A線断面におけるヘッド17,キャップユニット26の構成を表す断面図である。
【0026】
図3(A)に示すように、ヘッド17の下面には、ノズル27m,27y,27c,27kが形成された平板状のノズルプレート27が設けられ、図示省略した圧電アクチュエータが駆動されることにより、ノズル27m,27y,27c,27kからマゼンタ,イエロー,シアン,ブラックのインク滴(液滴に相当)が吐出される。また、図3(C)に示すノズルプレート27の平面図から分かるように、ノズル27m,27y,27c,27kは、互いに平行な直線上に配列され、ノズル27m,27y,27cの列は近接してノズル27kの列とは離れて配設されている。なお、各ノズル27m,27y,27c,27kは、それぞれ円形の穴として構成され、図3(C)に示すように直線状に多数配列されている。
【0027】
また、ノズルプレート27は、ノズル27m,27y,27c,27kが形成された領域よりも右側に、次に述べるキャップユニット26の平面視とほぼ同面積の広い平面状の領域を有し、この領域が後述の負圧チャージ領域27aとなっている。更に、ノズルプレート27の右端縁には、キャップ24,25の前方側端部と対向する位置に三角の切り欠き27bが形成されている。
【0028】
図3(B)の断面図に示すように、キャップ24,25は、ゴム等の弾性材料により一体のキャップユニット26として構成され、キャップ24にはノズル27m,27y,27cの周囲を密閉空間として封止可能な凹部24aが、キャップ25にはノズル27kの周囲を密閉空間として封止可能な凹部25aが、それぞれ形成されている。また、凹部24a,25aの内部には、上面が断面円弧状でインクを弾き易い樹脂にて構成されたキャップチップ34,35が弾性固定されている。すなわち、凹部24a,25aは底面が広がっており、キャップチップ34,35は下端部がこの底面近傍に嵌合することによって、キャップユニット26に固定されている。また、キャップユニット26は、上部材37aと下部材37bとを圧縮コイルバネ37cを介して接続したキャップホルダ37の、上部材37aに嵌合固定されている。
【0029】
図3(D)は、キャップチップ34,35及びキャップホルダ37を省略して、キャップユニット26のみを表した平面図である。図3(D)に示すように、キャップ24,25はノズル27m,27y,27c,27kの配列方向に沿って細長く形成され、その後方端部における凹部24a,25aの底面に、凹部24a,25a内の空気を吸引するための吸引口24b,25bが穿設されている。
【0030】
この吸引口24b,25bは、図4に概略的に示すように、チューブ41,42、切替機構43、及びチューブ44を介してポンプ45に接続されている。この切替機構43は、ポンプ45が発生する吸引力をチューブ41,42の双方に及ぼす第1モードと、上記吸引力をチューブ41のみに及ぼす第2モードと、上記吸引力をチューブ42のみに及ぼす第3モードとを切り替え可能に構成されている。
【0031】
更に、キャップホルダ37は、図5に概略的に示すように、エアシリンダ47の動作により上下動可能に構成されている。このため、キャップ24,25は、エアシリンダ47の動作によって、その上端がノズルプレート27に圧接される上昇位置と、上端がノズルプレート27から隔離される下降位置との間を移動する。
【0032】
[制御系の構成及び制御]
次に、図6に示すように、この切替機構43,ポンプ45,エアシリンダ47は、前述のキャリッジモータ15,センサ23と共に制御回路50に接続されている。この制御回路50は、CPU51,ROM52,RAM53を中心とするマイクロコンピュータとして構成され、所定のタイミングとなるか、若しくは操作パネル6が操作されることによってインクの吸引が指示されると、次のようにしてノズル27m,27y,27c,27k内のインクを吸引する吸引処理を実行する。
【0033】
図7は、カラーのノズル27m,27y,27cに対するインクの吸引が指示されたときに、制御回路50が実行する吸引処理を表すフローチャートである。処理が開始されると、先ず、S1(Sはステップを表す:以下同様)にて、切替機構43を上記第2モードに切り替えることにより、キャップ24のみにポンプ45が接続される。
【0034】
続くS2では、センサ23にてエンコーダストリップ21のスリットを読み取りながらキャリッジモータ15が駆動されてキャリッジ19が移動されることにより、凹部24a及び凹部25aがノズル27m,27y,27c及びノズル27kと対向され、更に、エアシリンダ47が駆動されてキャップ24,25が上昇することにより、ノズル27m,27y,27c,27kがキャップ24,25で封止(キャップ)される。
【0035】
続くS3では、ポンプ45が駆動されることにより、凹部24aの内部の空気が吸引されて、ノズル27m,27y,27c内のインクが吸引除去される。更に続くS4では、エアシリンダ47が駆動されてキャップ24,25が下降することにより上記封止が解除(アンキャップ)される。
【0036】
図8は、この処理におけるキャップ24,25及びヘッド17の動作を表す説明図である。すなわち、S2では、エンコーダストリップ21に基づき図8(A),(B)に示す位置までヘッド17が移動された後、図8(C)に示すようにキャップ24,25が上昇してノズル27m,27y,27c,27kが封止される。この状態で、S3による吸引がなされた後(図8(D))、S4ではキャップ24,25が下降して、図8(E)に示すように上記封止が解除されるのである。
【0037】
図7へ戻って、続くS5では、エンコーダストリップ21に基づきヘッド17が移動され、キャップ24,25が負圧チャージ領域27aに対向配置される。更に続くS6では、エアシリンダ47が駆動されてキャップ24,25が上昇することにより、負圧チャージ領域27aがキャップ24,25で封止される。この状態では、ノズル27m,27y,27c,27kが凹部24aの外に配置された状態で凹部24aが密閉空間として封止される。ここで「ノズルが凹部外に配置された状態」とは、ポンプ45が駆動されたとしても各ノズル内からインクが吸引除去されない状態をいう。そこで、続くS7にてポンプ45が駆動されると、その密閉空間に負圧を印加することができる。更に続くS8では、ポンプ45を駆動しながら、キャリッジモータ15が駆動されることにより、負圧チャージ領域27aが更に左へ移動されて処理が終了する。
【0038】
図9は、この処理におけるキャップ24,25及びヘッド17の動作を表す説明図である。すなわち、S5では、図9(A),(B)に示すように、負圧チャージ領域27aにキャップ24,25が対向する位置までヘッド17が移動された後、S6にて、図9(C)に示すようにキャップ24,25が上昇して負圧チャージ領域27aにおける封止がなされる。この状態で、S7にてポンプ45が駆動されると(図9(D))、ノズル27m,27y,27c,27kが凹部24aの外に配置されているので凹部24aに負圧が印加される。続いて、S8にて、その負圧を維持したまま負圧チャージ領域27aが左へ移動されると、図9(E),(F)に示すように切り欠き27bが凹部24aの前端に対向し、このとき次のようにして空吸引がなされる。
【0039】
すなわち、凹部24aが負圧に維持されているので、凹部24aの前端が切り欠き27bと対向すると、その切り欠き27bを介して凹部24a内のインク全体に大気圧が加わる。しかも、このとき、ポンプ45は駆動されているので、切り欠き27bから吸引口24bに向かって、凹部24a全体を横切るような気流及びインク流が発生する。従って、凹部24a内に溜まったインクを効率的に除去することができる。更に、凹部24aにはキャップチップ34が配設されているため、上記気流及びインク流が整流され、一層効率的にインクを除去することができる。なお、ポンプ45は、上記インクの除去に充分な時間駆動され続けた後、停止される。
【0040】
次に、図10は、黒のノズル27kに対するインクの吸引が指示されたときに、制御回路50が実行する吸引処理を表すフローチャートである。この処理では、最初のS11にて、切替機構43を上記第3モードに切り替えることにより、キャップ25のみにポンプ45が接続される点を除いて、図7と同様の処理が実行される。
【0041】
すなわち、S12にてノズル27m,27y,27c,27kがキャップ24,25で封止(キャップ)され、S13にてポンプ45が駆動される。本処理では、ここでノズル27k内のインクが吸引除去される。続くS14では封止が解除(アンキャップ)され、S15によるヘッド17の移動後、S16にて負圧チャージ領域27aがキャップ24,25で封止される。この状態では、ノズル27m,27y,27c,27kが凹部25aの外に配置された状態で凹部25aが密閉空間として封止される。ここで「ノズルが凹部外に配置された状態」とは、ポンプ45が駆動されたとしても各ノズル内からインクが吸引除去されない状態をいう。そこで、続くS17にてポンプ45が駆動されると、その凹部25aの密閉空間に負圧を印加することができる。更に続くS18では、ポンプ45を駆動しながら、キャリッジモータ15が駆動されることにより、負圧チャージ領域27aが左へ移動されて処理が終了する。
【0042】
本処理では、凹部25aが形成する密閉空間に負圧が印加されているので、図11(A)に示すように負圧チャージ領域27aが封止された状態から、負圧チャージ領域27aが左へ移動して図11(B)に示すように凹部25aが切り欠き27bと対向した時点で、前述のように空吸引を行うことができる。すなわち、この時点で、凹部25a内のインクに大気圧が加わり、切り欠き27bから吸引口25bに向かって気流及びインク流が発生して、凹部25aに溜まったインクを効率的に除去することができる。なお、本処理では、負圧チャージ領域27aが更に移動すると、図11(C)に示すように凹部24aが切り欠き27bと対向するが、本処理では凹部24aに負圧が印加されないため、凹部24aに対する空吸引はなされない。
【0043】
図12は、カラーの27m,27y,27cとノズル黒のノズル27kとの双方に対するインクの吸引が指示されたときに、制御回路50が実行する吸引処理を表すフローチャートである。この処理では、最初のS21にて、切替機構43を上記第1モードに切り替えることにより、キャップ24,25の双方にポンプ45が接続される点を除いて、図7と同様の処理が実行される。
【0044】
すなわち、S22にてノズル27m,27y,27c,27kがキャップ24,25で封止(キャップ)され、S23にてポンプ45が駆動される。本処理では、ここで全てのノズル27m,27y,27c,27k内のインクが吸引除去される。続くS24では封止が解除(アンキャップ)され、S25によるヘッド17の移動後、S26にて負圧チャージ領域27aがキャップ24,25で封止される。この状態では、ノズル27m,27y,27c,27kが凹部24a,25aの外に配置された状態で凹部24a,25aが密閉空間として封止される。ここで「ノズルが凹部外に配置された状態」とは、ポンプ45が駆動されたとしても各ノズル内からインクが吸引除去されない状態をいう。そこで、続くS27にてポンプ45が駆動されると、その各密閉空間に負圧を印加することができる。更に続くS28では、ポンプ45を駆動しながら、キャリッジモータ15が駆動されることにより、負圧チャージ領域27aが左へ移動されて処理が終了する。
【0045】
本処理では、凹部24a,25aが形成する密閉空間に負圧が印加されているので、図11(B)に示すように凹部25aが切り欠き27bと対向した時点では凹部25a内に溜まったインクを、図11(C)に示すように凹部24aが切り欠き27bと対向した時点では凹部24aに溜まったインクを、それぞれ空吸引することができる。以上のように、本実施の形態では、キャップ24,25の凹部24a,25aに溜まったインクを、極めて効率的に除去することができる。
【0046】
なお、上記実施の形態において、ポンプ45が吸引手段に、制御回路50が制御手段に、負圧チャージ領域27aが封止手段に、切り欠き27bが切り欠き部に、それぞれ相当する。また、本発明は上記実施の形態に何ら限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲で種々の形態で実施することができる。例えば、切り欠き27bは穴に替えてもよく、凹部の吸引口が凹部の中央に配設される場合は、切り欠きまたは穴を凹部の長手方向両端に対向する位置に2箇所設けてもよい。
【0047】
更に、封止手段は、キャリッジ19とは別体に設けてもよい。図13は、キャリッジ19とは別体に、キャップユニット26の上方で前後方向に突出退避可能に設けられた封止手段としての封止板90の構成を表す平面図である。この封止板90の先端には、凹部24a,25aと対向する位置に切り欠き94,95が設けられており、次のような突出/退避の動作を行うことによって上記実施の形態と同様の効果を呈する。
【0048】
すなわち、図14(A),(B)に示すように、封止板90を最大限に突出させると、封止板90の全面がキャップ24,25と対向し、切り欠き94,95がキャップ24,25とは全く対向しない。この状態で、図14(C)に示すようにキャップ24,25を上昇させると、凹部24a,25aが密閉空間として封止され、図14(D)に示すようにポンプ45を駆動して、双方または所望のいずれか一方の密閉空間に負圧を印加することができる。続いて、図14(E),(F)に示すように、封止板90を退避させ、切り欠き94,95が凹部24a,25aと対向すると、前述のように、負圧を印加された上記密閉空間が切り欠き94または95のいずれかを介して大気に連通し、前述のように効率的に空吸引を行うことができる。
【0049】
但し、前述の実施の形態のように、封止手段をノズルプレート27と一体に構成した場合、構成を簡略化して製造コストを低減することができる。反面、後者の実施の形態のように封止手段を別体に設けた場合、印刷中に空吸引を行うなどの制御が可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0050】
【図1】本発明が適用された多機能装置の構成を表す斜視図である。
【図2】その多機能装置のプリンタの内部構造を表す平面図である。
【図3】そのプリンタのヘッド及びキャップユニットの構成を表す断面図及び平面図である。
【図4】そのプリンタのポンプ及び切替機構の構成を概略的に表す説明図である。
【図5】そのプリンタのキャップを上下させる構成を概略的に表す説明図である。
【図6】そのプリンタの制御系の構成を表すブロック図である。
【図7】その制御系で実行される吸引処理を表すフローチャートである。
【図8】その吸引処理におけるノズルからのインク吸引動作を表す説明図である。
【図9】その吸引処理におけるキャップ内のインクの空吸引動作を表す説明図である。
【図10】上記吸引処理の他の形態を表すフローチャートである。
【図11】その吸引処理におけるキャップ内のインクの空吸引動作を表す説明図である。
【図12】上記吸引処理の更に他の形態を表すフローチャートである。
【図13】封止手段の変形例としての封止板の構成を表す平面図である。
【図14】その封止板を利用したキャップ内のインクの空吸引動作を表す説明図である。
【符号の説明】
【0051】
1…多機能装置 2…給紙装置 3…プリンタ
4…読み取り装置 5…排紙トレイ 6…操作パネル
15…キャリッジモータ 17…ヘッド 19…キャリッジ
21…エンコーダストリップ 23…センサ 24,25…キャップ
24a,25a…凹部 24b,25b…吸引口 27…ノズルプレート
27a…負圧チャージ領域 27m,27y,27c,27k…ノズル
27b,94,95…切り欠き 34…キャップチップ 37…キャップホルダ
43…切替機構 45…ポンプ 47…エアシリンダ
50…制御回路 90…封止板

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ノズルから液滴を噴射可能なヘッドと、
該ヘッドのノズルの周囲を密閉空間として封止可能な凹部を有するキャップと、
上記凹部内の空気を吸引可能な吸引手段と、
を備えた液滴噴射装置装置であって、
上記ノズルが上記凹部外に配置された状態で、上記凹部を密閉空間として封止可能な封止手段と、
当該封止手段に上記凹部を密閉空間として封止させて上記吸引手段に上記凹部内の空気の吸引を実行させることにより上記凹部内を負圧に維持した状態で、上記封止手段による封止を解除させる制御手段と、
を備えたことを特徴とする液滴噴射装置。
【請求項2】
上記封止手段が、上記ノズルが形成されたノズルプレートと一体の平板として構成されたことを特徴とする請求項1記載の液滴噴射装置。
【請求項3】
上記ヘッドを搭載して往復移動するキャリッジを、
更に備え、
上記制御手段が、上記封止手段に上記凹部を封止させて上記凹部内を負圧に維持した状態から、上記キャリッジを移動させることにより上記封止手段による封止を解除させることを特徴とする請求項2記載の液滴噴射装置。
【請求項4】
ノズルから液滴を噴射可能なヘッドと、
該ヘッドのノズルの周囲を密閉空間として封止可能な凹部を有するキャップと、
該キャップに設けられた吸引口から上記凹部内の空気を吸引可能な吸引手段と、
を備えた液滴噴射装置装置であって、
上記ノズルが上記凹部外に配置された状態で、上記凹部を、少なくとも上記吸引口から最も離れた部分を含む一部を残して封止可能な封止手段を、
備えたことを特徴とする液滴噴射装置。
【請求項5】
上記凹部の上記ノズル周囲に接触する部分が扁平な環状に構成され、上記吸引口がその扁平形状の一端部近傍に、上記一部が上記扁平形状の他端部近傍に、それぞれ配設されたことを特徴とする請求項4記載の液滴噴射装置。
【請求項6】
上記封止手段が、上記ノズルが形成されたノズルプレートと一体の平板として構成されたことを特徴とする請求項4または5記載の液滴噴射装置。
【請求項7】
上記ヘッドを搭載して往復移動するキャリッジと、
上記封止手段を構成する平板に設けられ、上記キャリッジの移動により上記凹部と対向したとき、その凹部における上記一部に配設される穴部または切り欠き部と、
を更に備えたことを特徴とする請求項6記載の液滴噴射装置。
【請求項8】
上記封止手段が、上記ノズルが上記凹部外に配置された状態で上記凹部を密閉空間として封止可能に構成され、
上記キャリッジの移動により上記封止手段に上記凹部を密閉空間として封止させて、上記吸引手段に上記凹部内の空気の吸引を実行させることにより上記凹部内を負圧に維持した状態で、上記キャリッジを更に移動させることにより上記凹部を上記穴部または切り欠き部と対向させる制御手段を、
更に備えたことを特徴とする請求項7記載の液滴噴射装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【公開番号】特開2007−118526(P2007−118526A)
【公開日】平成19年5月17日(2007.5.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−317051(P2005−317051)
【出願日】平成17年10月31日(2005.10.31)
【出願人】(000005267)ブラザー工業株式会社 (13,856)
【Fターム(参考)】