説明

混合シラン類

本発明は、少なくとも1種類のフルオロシランと、少なくとも1種類のアミノシランとを含む組成物、前記フルオロシランと前記アミノシランとの縮合生成物、及びそれによって調製された表面保護剤に関するものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フルオロシランとアミノシランとを含んでいる組成物、それらフルオロシランとアミノシランとの縮合生成物及びそれで調製した表面保護剤に関するものである。
【背景技術】
【0002】
シラン類は、大理石、砂岩、コンクリート、御影石、砂質石灰石、テラコッタ、硬質レンガ、割肌ブロック又はレンガのような基材に対する耐腐食や耐落書きや撥水のような建造物保護に用いられるものである。それを塗布処理するために、その処理用の製品は望ましくは水性で僅かに酸性であることが、必要である。
【0003】
フルオロ化シラン類は、優れた撥水性及び撥油性の両性能を示す。このようなフルオロ化シラン類は、今のところ、幾つかの欠点を抱えている。第一に、フルオロ化シラン類は、20℃で30以上の誘電率を有する溶媒によって、安定な溶液や乳濁液や分散液を、容易く形成しないことである。第二に、建造物保護に用いられている殆どのフルオロ化シラン類が、おそらくパーフルオロオクタン酸(PFOA)を遊離しているということである。パーフルオロオクタン酸は、動物やヒトの組織に残存して蓄積されてしまうことや、さらに、肝臓で蓄積して、甲状腺ホルモン転換のために必須なセレノタンパク質であるグルタチオンペルオキシダーゼを阻害してしまうことや、その所為で発癌を誘発することが見出されている。(非特許文献1、非特許文献2)
【0004】
特許文献1には、水系媒体中で反応を起こす、パーフルオロ化長鎖シラン類とアミノシラン類との組成物が、開示されている。
【0005】
特許文献2には、パーフルオロ化長鎖シラン類とアミノシラン類とを含む水系組成物が、開示されている。90%未満の水を含む組成物が、長期貯蔵性を有していると、記載されている。
【0006】
特許文献3には、水系媒体中で反応を起こす、パーフルオロ化長鎖シラン類とアミノシラン類との組成物が、開示されている。
【0007】
【非特許文献1】オキュペイショナル アンド エンバイロンメント メディスン(Occupationaland Environmental Medicine)、2003年、第60巻第10号、p.722-729
【非特許文献2】インターナショナル ジャーナル オブ キャンサー(InternationalJournal of Cancer)、1998年、第78巻第4号、p.491-495
【特許文献1】米国特許第6054601号明細書
【特許文献2】欧州特許出願公開第0738771号明細書
【特許文献3】米国特許第5442011号明細書
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
このような課題を解決するためになされた本発明は、高誘電率を有する溶媒系中で優れた撥水性、撥油性を発現する安定で無毒性の表面保護剤を提供するためのものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記課題を解決するためになされた本発明の最も好ましい形態は、
(a)下記一般式I
tf−SiX (式I)
(式中、Xは、アルコキシル、ハライド、オキシム、カルボキシル、フェノキシド及びポリエーテルから選択される何れかを成す基、
tfは、下記一般式II又はIII
−Y−R (式II)又は
−Y−(SiRO)SiR−Y−R (式III)
〔式中、Yは-(CH)-[但しnは1〜30の整数]、 -CO-、 -O-、
-CONH-、 -Ph-、 -SO-、及び-SONH-から選ばれる何れかを有した
有機残基内二価部位
は直鎖状又は分岐鎖状で炭素数1〜30のパーフルオロアルキレン含有基、
及びRは互いに独立に選ばれる一価有機残基、
xは0〜5の整数。〕
で示される直鎖状、分岐鎖状又は環状の有機残基である。)
で表される少なくとも1種類のフルオロシランと、
(b)下記一般式IV
−SiR (式IV)
(式中、Rは、1〜7個の炭素原子と1級、2級、3級又は4級で好ましくはプロトン化された少なくとも一つのアミノ基とを有し直鎖状、分岐鎖状又は環状のアルキル残基であり、
及びRは、互いに独立に選ばれる-R、 -OR、 及び/又は-Rであり、
は-ORである。
但しRは、1〜3個の炭素原子を有する直鎖状、分岐鎖状又は環状のアルキル残基である。)
で表される少なくとも1種類のアミノシランとが、
含まれている反応性組成物である。とりわけ、これらからなる反応性組成物であることが好ましい。
【0010】
本発明におけるプロトン化という概念は、必ずしも全窒素原子上に正電荷があるということではない。つまり、少なくとも一つの水素原子が窒素原子に結合していればよいことを意味している。
【0011】
本発明を適用する組成物は、非水系であることが好ましい。本発明における「非水系」という概念は、全く水が添加されていないことを意味している。この添加される水というのは、始発原料にもともと含まれている微量な水のことではなく、反応系内へ添加される水のことである。この組成物は、水を、好ましくは1重量%未満、一層好ましくは0.1重量%未満含んでいるものである。水を含有する組成物を非加水分解性縮合生成物や表面保護剤へ誘導するのが一般的であるから、本発明のような非水系組成物は、特に勝っている。前記の特許文献2に記載された発明と比較したところ、その特許文献2の組成物のようにフルオロ化炭素鎖中に少なくとも8個の炭素原子を有するフルオロシラン類が水中で安定な溶液となっているのに対し、本発明を適用する非水系組成物は、低水分含量となっているから、8個未満の炭素原子しか有しない炭素鎖長のフルオロ化アルキルシラン類によって、十分な安定性と、長期貯蔵性とを発現しているということが、判った。
【0012】
は、1〜8個の炭素原子を有するものであることが好ましい。Rは、
(a) CF-、 CFCF-、 CF(CF)-、 C-、 (CF)CF-、C-、 C11-、 若しくはC13-から選ばれる基、又は
(b) 下記一般式V
F−(CF−(OC−(OC−(OCF (式V)
(式中、rは1〜3の整数、s,t及びuは互いに独立し0〜200の整数)
で表されるパーフルオロ化ポリーテル基であると一層好ましい。このようなパーフルオロ化ポリエーテル類は、好ましくは-(CF(CF)-CF-O)-、 -(CF-CF-CF-O)-、 -(CF-CF)-から選ばれる構成単位を含むホモポリマー又はブロックコポリマーであってもよい。このようなポリエーテル残基は、末端が前述のようなRとなったものであることが好ましい。
【0013】
及びRは、同一又は異なることが好ましい。これらの基として、例えば直鎖状又は分岐鎖状で炭素数1〜30のアルキレン含有基、芳香環含有基、アミノアルキル含有基及びフルオロアルキル含有基が、挙げられる。
【0014】
Xは、F、Br、Cl及びIから選ばれハライドを成す基、アルコキシドを成すOR(但しRは直鎖状又は分岐鎖状で炭素数1〜22のアルキレン含有基)、オキシムを成すRC=N−O(但しRとRは同一又は異なっており互いに独立に選ばれる直鎖状又は分岐鎖状で炭素数1〜30のアルキレン含有基)、カルボキシル残基を成すR10CO(但しR10は直鎖状又は分岐鎖状で炭素数1〜30のアルキレン基)、フェノキシドを成すM−Ph−O−(但しMは水素又は一価有機基)又は(CHCHO)又は(CHCHCHO)(但しqは1〜100の数で、末端が直鎖状又は分岐鎖状で炭素数1〜30のアルキレン基)の繰返構造単位を一つ以上有しているポリアルキレンオキサイドから選ばれるポリエーテル基であることが好ましい。
【0015】
Yは、-(CH)-、 -CO-、 -(CH)-CO-(CH)-、 -(CH)-O-(CH)-、-(CH)-CONH-(CH)-、 -(CH)-Ph-(CH)-、 -(CH)-SO-(CH)-並びに-(CH)-SONH-(CH)-、 -SO-O-、 -SONH-、 -CH=CH-、 及び-CH=CH-(CH)- から選ばれる何れかを有し、分岐鎖状のアルキレン基を有し得る二価部位(但しoは1〜30の数、mは0〜30の数。)であることが、好ましい。
【0016】
Y−Rは、好ましくは出発オレフィンの構成単位を含んでいてもよく、一層好ましくは
(CH), CH=CH-R
(CH), CH=CH(CH)
(CH)O(CH), CH=CHCHO(CH)
(CH)10CO(CH),CH=CH(CH)CO(CH)
(CH)NHCOR, 及びCH=CHCHNHCOR
から得られる残基である。
【0017】
は、直鎖状又は分岐鎖状で炭素数1〜30のパーフルオロアルキレン含有基であることが好ましく、CF-、 CFCF-、 CF(CF)-、 及び(CF)CF-から選ばれる基であると一層好ましい。
【0018】
は、好ましくは下記一般式V
F−(CF−(OC−(OC−(OCF (式V)
(式中、qは1〜3の整数、m,n及びoは互いに独立し0〜200の整数)
で表されるパーフルオロ化ポリエーテル基であってもよい。
【0019】
は、好ましくは、1〜30個の炭素原子を含む直鎖状、分岐鎖状又は環状のパーフルオロ化アルキル残基である。また、R及びRは、互いに独立に-R、-CH-CH-R、-OR及び/又は-R (但しRは−OR)から、選ばれるものである。
【0020】
また、R及びRは、好ましくは、互いに独立に炭素数1〜30の直鎖状又は分岐鎖状のアルキレン含有基、芳香族含有基、アミノアルキル含有基及びフルオロアルキル含有基から選ばれるものである。
【0021】
この組成物中、式IのR基と、式IV中に存在しているアミノ基とのモル比が、好ましくは2:1〜6:1、より好ましくは2.5:1〜4:1である。このようなモル比である場合、20℃で測定したときに誘電率が少なくとも30である溶媒を用いた溶液中で、このような比率のものは特に安定していることが判った。
【0022】
が、1〜6個、好ましくは3〜6個、一層好ましくは4〜6個又は3〜5個の炭素原子を有していると、次いで調製される表面保護剤が確実にPFOAを遊離しないばかりか、優れた撥油性を発現するので、本発明が大変有益なものとなる。
【0023】
が前記フルオロシランの最長残基と少なくとも同数程度の炭素原子を有していることが好ましい。そのような組成物は、極めて安定した溶液、乳液又は分散液となるからである。
【0024】
残基Xは、好ましくは高々一つだけがR若しくは-CH-CH-Rであり、一層好ましくは何れもがRでも-CH-CH-Rでもなく、及び/又は、R、R並びにRは、好ましくは高々一つだけがRであり、一層好ましくは何れもがRでないというものである。表面処理される基材が高疎水性であっても、溶液、乳液又は分散液で処理したときの優れた安定性をもたらすことができるからである。
【0025】
前記組成物中、好ましくは、前記フルオロシランを40〜75重量%とするものであってもよい。また前記組成物中、好ましくは前記アミノシランを10〜30重量%とするものであってもよい。
【0026】
本発明を適用する組成物は、少なくとも1種類の酸を、好ましくは1〜90重量%、一層好ましくは20〜50重量%、より一層好ましくは30〜40重量%含むものである。
【0027】
本発明を適用する組成物は、単一溶媒又は混合溶媒からなる溶媒系を、さらに含んでいてもよい。このような溶媒系は、20℃で測定した誘電率を少なくとも30とするものである。単一溶媒又は混合溶媒は、アルコール類、アセトン、水、エーテル類又はN−メチルホルムアミドから選ばれるものであることが、好ましい。組成物中に、好ましくはこのような溶媒系を、4〜20重量%とするものであってもよい。
【0028】
X、R、R及び/又はRは、アルコキシ基であることが好ましく、エトキシ基又はメトキシ基であると一層好ましい。次いで調製される縮合生成物は、前記フルオロシランと前記アミノシランとの間でより優れた架橋を形成して高い安定性を示すからである。
【0029】
この残基が環状でない場合、即ち別な炭素原子へ一つだけの結合で繋がった一級炭素原子へ結合したアミノ基である場合、アミノ基は末端基であることが好ましい。このようなアミノ基は、−NHであっても置換されたものであってもよく、好ましくは−CHCHNH、フェニル基又はシクロヘキシル基で1つ又は2つ置換されたものであってもよい。アミノ基は、直鎖アルキル鎖に結合していることが好ましい。このような構成により、特に安定した溶液、乳液又は分散液にすることができる。
【0030】
本発明に用いられる前記アミノシランは、その分子構造中に、4〜17個の炭素原子、1〜4個の窒素原子、2〜5個の酸素原子及び13〜37の水素原子を有していることが好ましい。それの沸点は、100〜280℃であることが好ましい。それの分子量は、170〜270g/molであることが好ましい。それの引火点は、70〜120℃であることが好ましい。このようなアミノシランが優れているのは、普通に取り扱っていれば火災を引き起さず、前記フルオロシランと組合わせて作製した被膜に適切な疎水性を発現させることができるからである。
【0031】
前記課題を解決するためになされた本発明の別な形態は、フルオロシランとアミノシランとを配合し、次いで酸処理をして、本発明を適用する反応性組成物を調製するという製造方法である。プロトン化の反応時間は、1〜20分間であることが好ましく、5〜15分間であると一層好ましい。その反応温度は、40〜80℃であることが好ましく、60〜75℃であると一層好ましい。
【0032】
前記課題を解決するためになされた本発明のさらに別な形態は、一般式II及び/又はIIIを有するフルオロシランと、一般式IVのアミノシランとの縮合生成物である。前記フルオロシランと前記アミノシランとのマスターバッチによる混合物を、触媒促進処理、特に酸処理することによって、調製することができるというものである。
【0033】
縮合生成物は、非水系のものであることが好ましい。縮合生成物は、その化学物質中に、好ましくは1重量%未満、一層好ましくは0.1重量%未満の水を、含むだけでよい。驚くべきことに、非水系反応生成物のみが、例えば表面保護剤調製のような次工程で、加水分解されることが判った。このような反応生成物が、水系中で調製された縮合生成物に比べ、安定性(長期貯蔵性)に極めて優れていることが判った。
【0034】
縮合生成物は、透明であって、最大でも10%のヘーズ値を示すものである。ヘーズ値は、例えば透明管中で試料溶液を10mm厚にして用い、米国材料試験協会規格(ASTM)D1003に準拠して、測定したものである。
【0035】
前記フルオロシランが、さらに別な親水性シランの存在下で、縮合反応されていると、好ましい。フルオロシランが、余分な水の無い状態で、縮合反応されていると、なお一層好ましい。この親水性シランは、誘電率を少なくとも5とする極性物質であることが、好ましい。この親水性シランは、エポキシド基のような1価有機基Zを有していてもよい。親水性シランに対するフルオロシランのモル比は、好ましくは20〜1である。親水性シランは、一般式
1112MeSi−Y−Z (式VI)
(式中、R11及びR12は互いに独立にR及びMeから選ばれる何れかであり、
Zは極性の1価有機基)
で表されるものである。
【0036】
本発明を適用する前記縮合生成物は、互いに架橋したフルオロシランとアミノシランとによって化学的環境に対する高い安定性を示す。さらに、安定性に優れた縮合生成物の溶液、乳濁液又は分散液が得られる。この縮合生成物で処理した表面が高疎水性・高親油性となった基材を、作製することができる。
【0037】
用いられる酸は、好ましくは3〜7、より好ましくは3.5〜5.5のpK値を示すものであることが好ましい。このpK値が低すぎると、架橋度合いが高くなり過ぎて、不溶性又は非分散性で過大な粒径の粒子が形成されてしまう。このpK値が高すぎると、安定な溶液、乳濁液及び分散液を形成するのに必要な架橋度合いが不十分となってしまう。
【0038】
この酸は、ホウ酸、アセト酢酸、クエン酸、クロトン酸、ギ酸、フマル酸、グリセリン酸、グリコール酸、乳酸、リンゴ酸、酒石酸、及び/又は酢酸から選ばれる、ルイス酸、又はブレンステッド酸であることが、好ましい。
【0039】
縮合生成物は、その形状を粒子とすることが好ましく、その粒子の粒径の中央値を1〜1000nmの範囲、好ましくは5〜100nmの範囲内とするものである。縮合生成物の単分散度は、1〜15nmであることが好ましい。粒径が大きすぎると、コーティングされる基材への浸透性が悪くなってしまう。また、適切な粒子よりも大きな結晶形を含んでいると、表面保護剤等の分散安定性が、悪くなってしまう。
【0040】
縮合生成物は、溶媒系内に含有させておくことが好ましい。このような溶媒系は、pHが4〜5を示すものであることが好ましい。このpHは、ルイス酸又はブレンステッド酸の添加によって、調整されていることが好ましい。
【0041】
前記課題を解決するためになされた本発明の別な形態は、本発明を適用する組成物に酸を添加する工程を、少なくとも有することを特徴とするもので、本発明を適用する縮合生成物の調製のための製造方法である。
【0042】
この製造方法は、余計に水を添加しない方法のような非水系製造方法であることが好ましい。
【0043】
添加される酸と本発明を適用する組成物との重量比は、1:1〜1:4であることが好ましく、1:1.5〜1:2.5であるとなお一層好ましい。架橋反応が発熱性であることから、組成物中の感応性成分の分解を防止するために酸の添加前後であえて加熱しないことが好ましい。
【0044】
前記課題を解決するためになされた本発明の別な形態は、不飽和C−C又はC−O結合をヒドロシキル化し、それに引続いてケイ素原子へ結合している残基をアルコキシ置換する工程を有することを特徴としている式I、II及び/又はIIIのフルオロシランの調製のための製造方法である。
【0045】
前記課題を解決するためになされた本発明の別な形態は、本発明を適用する前記組成物及び/又は本発明を適用する縮合生成物と更に表面保護剤用の汎用添加剤とを含む表面保護剤である。
【0046】
表面保護剤は、高極性溶媒系に対して適当であるフルオロシランを含んでいるというものである。
【0047】
本発明を適用するこの表面保護剤は、20〜40重量%の活性成分を含んでいることが好ましい。活性成分は、本発明を適用する縮合生成物であることが好ましい。
【0048】
本発明を適用する前記表面保護剤は、好ましくは単一溶媒又は混合溶媒を含んでいてもよい。単一溶媒や混合溶媒は、20℃で測定したときの誘電率を少なくとも30とするものである。単一溶媒や混合溶媒は、アルコール類、アセトン、水、エーテル類及びN−メチルホルムアミドから選ばれることが好ましい。このような高誘電率を有する溶媒系は、コンクリートや石灰石のように表面が高極性である基材へ適切に吸収されて浸透されるというものである。この単一溶媒や混合溶媒は、表面保護剤中に、60〜80重量%含まれていることが好ましい。
【0049】
このような目的のために、本発明を適用する表面保護剤は、20℃で測定したときの誘電率を29までとする溶媒を、最大でも5重量%しか含んでいないことが好ましく、さらに20℃で測定したときの誘電率を少なくとも30とする溶媒を少なくとも10重量%、望ましくは90重量%含んでいることが好ましい。
【0050】
前記表面保護剤は、単一化合物又は化合物の混合物、例えば基材表面への接着性を向上させるもので基材表面へ浸透して疎水性や親油性を十分に向上させることができるシリコーン類/シロキサン類、アクリル化合物類、メラミン誘導体類又はワックスのような公知の添加剤を、0.1〜10重量%含んでいることが好ましい。
【0051】
本発明を適用する表面保護剤は、砂岩、石灰石又はコンクリートのような基材に対する優れた配合適合性と有効性とを持たせるために、pH値が3〜6.5を示すものであることが好ましい。
【0052】
本発明に用いられる添加剤がアクリル類、ワックス類、シリコーン類、増量剤及びポリウレタン類から選ばれるものであることが、好ましい。添加剤は、全般的な性能を向上させるために0.5〜5重量%含まれていることが好ましい。
【0053】
前記表面保護剤は、表面に浸漬させた基材での優れた疎水性と親油性とを向上させ、さらに、安定な溶液、乳濁液又は分散液を調製するためのものである。表面保護剤は、本発明を適用する組成物及び/又は縮合生成物の希釈した溶液、乳濁液、分散液を含むものであることが好ましい。本発明を適用する前記表面保護剤は、フルオロ化した化合物即ち前記フルオロシランを含むマスターバッチや組成物又は縮合生成物を、0.1〜15重量%、望ましくは1〜7重量%含んでいることが好ましい。
【0054】
本発明による安定な溶液、乳濁液又は分散液とは、常温常圧で、7日間保管している間にも、また5週間長期貯蔵している間にも、特に目立つほどの沈殿や層分離を生じていない溶液、乳濁液又は分散液のことである。
【0055】
前記課題を解決するためになされた本発明の別な形態は、前記組成物又は縮合生成物と、20℃で測定したときの誘電率を少なくとも30とする溶媒系及び添加剤とを、混合する工程を、少なくとも有しているもので、本発明を適用する表面保護剤を調製するための方法である。
【0056】
前記課題を解決するためになされた本発明の更に異なる形態は、本発明を適用する前記表面保護剤で処理した表面加工基材である。
【0057】
前記表面加工基材は、天然石材、大理石、砂岩、コンクリート、御影石、砂質石灰石、テラコッタ、硬質レンガ、肌割ブロック、レンガから選ばれるものであることが好ましい。
【0058】
このような処理が施された表面加工基材の親油性や疎水性については、接触角を測定することによって評価される。処理が施された表面加工基材について、大気に対する亜麻仁油の接触角は、少なくとも50°であり、一方、大気に対する水の接触角は、少なくとも100°である。接触角は、室温常圧下でDSA100(クルス社製)を用い、体積0.5mlの液滴による静滴測定法によって、測定することができるものである。
【発明の効果】
【0059】
本発明を適用する前記組成物は、天然石材や人工石材、壁のような装飾建材、備付家具、織布や不織布やじゅうたんのような繊維素材、皮革、プラスチック製品、ガラス製品、剥離塗装される鋳型のような金属製品、セラミックス製品、木材、紙に対して、耐油、食品接着防止、清浄容易、耐汚染、撥油、撥水のような効果を発現させるための塗料として、用いられてもよい。本発明を適用する前記組成物は、とりわけ建造物保護剤としても、有用である。
【実施例】
【0060】
略語は、
FTSが、3,3,4,4,5,5,6,6,7,7,8,8,8−トリデカフルオロオクチルトリエトキシシラン
B3958が、ノナフルオロヘキシル−l,l,2,2−H−トリメトキシシラン
AMMOが、3−アミノプロピルトリメトキシシラン
AMEOが、3−アミノプロピルトリエトキシシラン
HACが、100%酢酸(氷酢酸)
HOOCが、100%ギ酸
HClが、37%塩酸
B2858が、ヘプタフルオロイソヘキシル−l,l,2,2,3,3−H−トリメトキシシラン
である。
【0061】
(実施例1:石材用の表面保護剤)
6gのノナフルオロヘキシル−l,l,2,2−H−トリメトキシシラン(B3958)に、12gの3−アミノプロピルトリメトキシシラン(AMMO)を加え、常温で5分間撹拌し、組成物を調製した。4gの濃酢酸を加え、5分間撹拌した。その後、1.3gのイオン交換水を加えて還流し、縮合生成物を調製した。この縮合生成物を、400gのメタノールで希釈した。20gのシリコーン乳濁液Z66−83(ダウ・コーニング社製)を加え、表面保護剤を調製した。500gの表面保護剤を、砂質石灰石の1mに塗布し、5日間乾燥した。乾燥後、オリーブオイル、緑茶、コーヒー、赤ワイン、コカコーラ(登録商標)及びケチャップで付けた汚れを、水とタオルとによって、容易く拭き取ることができた。
24時間後、吸水された水は、約260g/mであった。
【0062】
(実施例2:木材用の表面保護剤)
3gのノナフルオロヘキシル−l,l,2,2−H−トリメトキシシランと、3gのグリシジルオキシプロピル−3−トリエトキシシランとを、常温で1時間撹拌した。この混合物に、100gのメタノールを加え、1分間撹拌した。10gの25%酢酸を還流下で加え、得られた混合物を、30分間撹拌した。次いで、1gの3−アミノプロピルトリメトキシシランを加えた後、混合物をさらに10分間撹拌し、縮合生成物を調製した。混合物を、木材の表面へ塗布した。5日間硬化させた後、塗布処理された木材表面は、著しく吸水性が減少していた。塗布処理された木材表面で、撥水した。
【0063】
(実施例3:繊維用の表面保護剤)
6gのノナフルオロヘキシル−l,l,2,2−H−トリメトキシシランに、1gの3−アミノプロピルトリメトキシシランを滴下し、次いで4gの100%酢酸(氷酢酸)を還流下で加えて、縮合生成物を調製した。1分間撹拌した後、1.5gの蒸留水を加え、混合物を4時間撹拌した。イオン交換水を、得られた透明溶液に加え、3000gの保護処理剤を調製した。繊維をこの保護処理剤に浸し、風乾した。得られた保護被膜の特性を、ドイツ連邦規格(DIN)のEN24920や国際標準化機構のISO2(70)に準拠し、測定したところ、公知の保護被膜の特性よりも、優れていた。
【0064】
(実施例4:石材用の表面保護剤)
撹拌器、冷却管、温度計及び滴下漏斗を取り付けた250mlの三ツ口フラスコに、16.0gのAMMOを、加えた。36gの酢酸(氷酢酸)を滴下すると、4級アミンが調製された。白いもやが立ち上っていた。10分間撹拌した後、白いもやは消失していた。反応は発熱的であり、その温度が58℃にまで上昇した。その後、48gのFTSを加え、組成物を調製した。その温度を、65℃に調節しつつ48時間加熱しながら、維持し続けた後、常温にまで放冷した。この中間体縮合生成物は、常温下で貯蔵したところ、1年以上安定であった。また水と如何なる濃度でも混和した。
水で2.5%に希釈したこの中間体とシリコーンのような多少の市販添加物との液は、砂岩やコンクリートに対して極めて優れた性能を発現した。この希釈された最終製品を貯蔵したところ、1年間以上安定であった。
【0065】
(実施例5:石材用の表面保護剤)
実施例4のFTSに代えてB3958を用いたこと以外は、実施例4の手順を繰返した。希釈された最終製品を貯蔵したところ、1年以上安定であった。
【0066】
(実施例6:石材用の表面保護剤)
FTSの代わりにB2858を用いたこと以外は実施例1の手順を繰返した。希釈された最終製品を貯蔵したところ、1年以上安定であった。
【0067】
(比較例1:特許文献2に準拠)
撹拌器、冷却管、温度計及び滴下漏斗を取り付けた250mlの三ツ口フラスコに、17.07gのAMEOを、加えた。35.53gのFTSを加えた。42.1gのIPAを混合物に加えると、単一層になった。1.58gのHOOCと0.05gのHClと3.67gの水とを滴下した。温度を80℃に調節して3時間加熱しながら、維持し続けた後、常温にまで放冷した。この中間体は、常温下で貯蔵したところ、4週間以上安定に存在できなかった。また、1重量%のような低濃度でのみ水と混和した。
水で2.5%に希釈したこの中間体とシリコーンのような多少の市販添加物との液は、砂岩やコンクリートに対して満足できる程度の性能を発現した。この希釈された最終製品を貯蔵したところ、4週間以上安定に存在できなかった。
【0068】
(比較例2:特許文献2に準拠)
撹拌器、冷却管、温度計及び滴下漏斗を取り付けた250mlの三ツ口フラスコに、46.5gのB3958を、加えた。15.5gのAMMOを加えた。34.9gのHACを滴下したところ、混合物が、二層となった。混合物に3.1gの水を滴下することによって、加水分解が開始し、その温度が60℃にまで上昇した。その後、常温にまで放冷した。調製された中間体は、1重量%のような低濃度でのみ水と混和した。この中間体及び希釈体は、貯蔵安定性が最長で4週間に制限されてしまうというものであった。
【0069】
(比較例3:特許文献2に準拠)
比較例2のように水を9.74g用いたこと以外は、比較例1と同様な手順を繰返した。調製された中間体は、1重量%のような低濃度でのみ水と混和した。この中間体及び希釈体は、安定な貯蔵が最長で4週間に制限されてしまうというものであった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)下記一般式I
tf−SiX (式I)
(式中、Xは、アルコキシル、ハライド、オキシム、カルボキシル、フェノキシド及びポリエーテルから選択される何れかを成す基、
tfは、下記一般式II又はIII
−Y−R (式II)又は
−Y−(SiRO)SiR−Y−R (式III)
〔式中、Yは-(CH)-[但しnは1〜30の整数]、 -CO-、 -O-、
-CONH-、 -Ph-、 -SO-、及び-SONH-から選ばれる何れかを有した
有機残基内二価部位
は直鎖状又は分岐鎖状で炭素数1〜30のパーフルオロアルキレン含有基、
及びRは互いに独立に選ばれる一価有機残基、
xは0〜5の整数。〕
で示される直鎖状、分岐鎖状又は環状の有機残基である。)
で表される少なくとも1種類のフルオロシランと、
(b)下記一般式IV
−SiR (式IV)
(式中、Rは、1〜7個の炭素原子と1級、2級、3級又は4級で好ましくはプロトン化された少なくとも一つのアミノ基とを有し直鎖状、分岐鎖状又は環状のアルキル残基であり、
及びRは、互いに独立に選ばれる-R、-OR及び/又は-Rであり、
は-ORである。
但しRは、1〜3個の炭素原子を有する直鎖状、分岐鎖状又は環状のアルキル残基である。)
で表される少なくとも1種類のアミノシランとが、
含まれていることを特徴とする反応性組成物。
【請求項2】
Xは、
F、Br、Cl及びIから選ばれハライドを成す基、
アキコキシドを成すOR(但しRは直鎖状又は分岐鎖状で炭素数1〜22のアルキレン基)、
オキシムを成すRC=N-O (但しR及びRは同一又は異なっており互いに独立に選ばれる直鎖状亦は分岐鎖状で炭素数1〜30のアルキレン含有基)、
カルボキシル残基を成すR10CO (但しR10は直鎖状又は分岐鎖状で炭素数1〜30のアルキレン基)、
フェノキシドを成すM-Ph-O-(但しMは水素原子又は一価有機基)、又は
(CHCHO)又は(CHCHCHO) (但しqは1〜100の数で、末端が直鎖状又は分岐鎖状で炭素数1〜30のアルキレン基)の繰返構造単位を一つ以上有しているポリアルキレンオキサイドから選ばれるポリエーテル基
であることを特徴とする請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
Yは、
-(CH)-、 -CO-、 -(CH)-CO-(CH)-、 -(CH)-O-(CH)-、-(CH)-CONH-(CH)-、 -(CH)-Ph-(CH)-、 -(CH)-SO-(CH)-並びに-(CH)-SONH-(CH)-、 -SO-O-、 -SONH-、 -CH=CH-、 及び-CH=CH-(CH)- から選ばれる何れかを有し、分岐鎖状のアルキレン基を有し得る二価部位(但しoは1〜30の数、mは0〜30の数。)であることを特徴とする請求項1に記載の組成物。
【請求項4】
は、
(a) CF-、 CFCF-、 CF(CF)-、 C-、 (CF)CF-、C-、 C11-、 若しくはC13-から選ばれる基、又は
(b) 下記一般式V
F−(CF−(OC−(OC−(OCF (式V)
(式中、rは1〜3の整数、s,t及びuは互いに独立し0〜200の整数)
で表されるパーフルオロ化ポリエーテル基であることを特徴とする請求項1に記載の組成物。
【請求項5】
は、1〜6個の炭素原子を有していることを特徴とする請求項1に記載の組成物。
【請求項6】
及びRは、互いに独立に炭素数1〜30の直鎖状又は分岐鎖状のアルキレン含有基、芳香環含有基、アミノアルキル含有基及びフルオロアルキル含有基から選ばれる何れかであることを特徴とする請求項1に記載の組成物。
【請求項7】
X、R、R及び/又はRは、互いに独立に選ばれるアルコキシル基、好ましくはエトキシ基又はメトキシ基であることを特徴とする請求項1に記載の組成物。
【請求項8】
式IのR基と、式IV中に存在しているアミノ基とのモル比が、2:1〜6:1、好ましくは2.5:1〜4:1であることを特徴とする請求項1に記載の組成物。
【請求項9】
下記一般式
1112MeSi−Y−Z (式VI)
(式中、R11及びR12は互いに独立にR及びMeから選ばれる何れかであり、
Zは極性の1価有機基)
で表される親水性シランが、更に含まれていることを特徴とする請求項1に記載の組成物。
【請求項10】
20〜50重量%、好ましくは30〜40重量%の酸が、含まれていることを特徴とする請求項1〜9の何れかに記載の組成物。
【請求項11】
請求項1〜10の何れかの組成物からなる非水系組成物。
【請求項12】
フルオロシランとアミノシランとを混合し、次いで酸処理することによって、請求項1に記載の反応性組成物を調製することを特徴とする製造方法。
【請求項13】
前記フルオロシラン及び/又は前記アミノシランが、プロトン化された状態で、反応されることを特徴とする請求項12に記載の製造方法。
【請求項14】
非水の反応系内で行われることを特徴とする請求項12又は13に記載の製造方法。
【請求項15】
前記一般式II及び/又はIIIを有するフルオロシランと、前記一般式IVのアミノシランとの混合物を触媒促進処理することによって、好ましくは酸処理によって、得られる前記フルオロシランと前記アミノシランとの縮合生成物。
【請求項16】
前記酸が、3〜7、好ましくは4〜5.5のpKa値を示すことを特徴とする請求項15に記載の縮合生成物。
【請求項17】
請求項1に記載の組成物及び/又は請求項15に記載の縮合生成物と、表面保護剤用添加剤とを、含んでいる表面保護剤。
【請求項18】
シリコーン類/シロキサン類、アクリル化合物類、メラミン誘導体類及びワックス類から選ばれる化合物又はその混合物を、0.5〜5重量%含有していることを特徴とする請求項17に記載の表面保護剤。

【公表番号】特表2009−513762(P2009−513762A)
【公表日】平成21年4月2日(2009.4.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−537062(P2008−537062)
【出願日】平成18年10月18日(2006.10.18)
【国際出願番号】PCT/EP2006/067549
【国際公開番号】WO2007/048745
【国際公開日】平成19年5月3日(2007.5.3)
【出願人】(507146120)
【氏名又は名称原語表記】Nanogate AG
【住所又は居所原語表記】Zum Schacht 3 66287 G o ttelborn Germany
【出願人】(508129263)ダウ コーニング リミテッド (1)
【氏名又は名称原語表記】DOW CORNING LTD.
【住所又は居所原語表記】Cardiff Road, Barry South Glamorgan CF63 2YL Great Britain
【Fターム(参考)】