減速機構および電動パワーステアリング装置
【課題】噛み合い領域において潤滑剤の十分な潤滑性能を維持することができる減速機構を提供する。
【解決手段】噛み合い領域Bでウォーム軸18とウォームホイール19が、被動ギヤ収容ハウジング22に収容される。ウォームホイール19の外周19aに対向するスライド部材27が、ウォームホイール19の回転に伴って潤滑剤Lの粘性を介してウォームホイール19に連れ回りすることにより、被動ギヤ収容ハウジング22の内周22aに沿ってスライドし、潤滑剤Lを運ぶ。第1規制部材29及び第2規制部材30がスライド部材17と当接することにより、噛み合い領域Bへの、スライド部材27の移動を規制する。
【解決手段】噛み合い領域Bでウォーム軸18とウォームホイール19が、被動ギヤ収容ハウジング22に収容される。ウォームホイール19の外周19aに対向するスライド部材27が、ウォームホイール19の回転に伴って潤滑剤Lの粘性を介してウォームホイール19に連れ回りすることにより、被動ギヤ収容ハウジング22の内周22aに沿ってスライドし、潤滑剤Lを運ぶ。第1規制部材29及び第2規制部材30がスライド部材17と当接することにより、噛み合い領域Bへの、スライド部材27の移動を規制する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は減速機構および電動パワーステアリング装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、電動モータの回転を減速機構で減速して操舵軸に伝達することにより、操舵軸の回転力を補助する電動パワーステアリング装置が知られている。減速機構としては、一般に、ウォーム減速機、ヘリカル減速機、遊星ギヤ減速機、ハイポイドベベルギヤ、ベベルギヤ等のギヤ減速機が用いられている。このギヤ減速機の潤滑には、粘度の高いグリースが一般に用いられている。
【0003】
しかしながら、従来の前記電動パワーステアリング装置の減速ギヤ機構においては、グリースは、粘性によってギヤ歯面に付着することにより歯面同士の潤滑を行うものであるが、粘性のために流動性は非常に悪い。ギヤの組み付け時に、グリースをギヤの歯溝部分を埋めるように充填しても、ギヤ同士の噛み合いによってそのほとんどが歯溝の外に押し出されてしまい、歯面にわずかに付着したグリースのみが潤滑に寄与している。このことは、前記どのタイプのギヤ形式においても同じであり、潤滑グリースは経時的に減少していくので、使用過程で潤滑グリースが不足するようになり、潤滑不良が起こる。
【0004】
特に、ウォーム減速機においては、滑り伝達であるために、一度潤滑不良が発生すると、摩擦係数が増大して発熱が大きくなり、潤滑不良をさらに悪化させることになるので、急激に摩耗が増大するという悪循環に陥ってしまう。
そこで、特許文献1では、歯車の外周の一部を包囲するグリース循環機構としての包囲部が、歯溝から押し出されるグリースを収集して歯車に再補給する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平2005−69476号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1では、ウォームホイールの歯先に付着しているグリースは、ウォームホイールが前記包囲部に対向する位置に到達するまでに、ハウジングの内周に付着し、ウォームホイールから置き去りにされ易い。すなわち、グリースが包囲部に集まり難いので、歯溝への再補給が十分でない。したがって、噛み合い領域において十分な潤滑性能を維持できない。
【0007】
そこで、本発明の目的は、噛み合い領域において潤滑剤の十分な潤滑性能を維持することができる減速機構および電動パワーステアリング装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記目的を達成するため、請求項1の発明は、噛み合い領域(B)で駆動ギヤ(18)と噛み合う円筒ギヤからなる被動ギヤ(19;119)と、被動ギヤを収容する被動ギヤ収容ハウジング(22)を含み、潤滑剤を収容したギヤハウジング(20)と、被動ギヤの外周(19a;119a)に対向し、被動ギヤの回転に伴って潤滑剤の粘性を介して被動ギヤに連れ回りすることにより、被動ギヤ収容ハウジングの内周(22a)に沿ってスライド可能なスライド部材(27;127,227,327)と、被動ギヤの回転に連れ回りするスライド部材と当接することにより、噛み合い領域への、スライド部材の移動を規制する規制部材(29,30;53,54)と、を備える減速機構(17;17A;17B;17C;17D;17E;17F;17G)を提供する。
【0009】
なお、括弧内の英数字は、後述する実施形態における対応構成要素等を表すが、このことは、むろん、本発明がそれらの実施形態に限定されるべきことを意味するものではない。以下、この項において同じ。
また、請求項2のように、前記被動ギヤの回転に伴ってスライド部材と同伴移動する潤滑剤を被動ギヤの歯溝(25)に押し込む押込部(42,43;46;47,48)を備え、前記押込部と被動ギヤの外周との間の隙間(S1,S2)が、スライド部材と被動ギヤの外周との間の隙間(S3)よりも小さく、前記押込部は、被動ギヤ収容ハウジングまたは被動ギヤ収容ハウジングに固定された部材に設けられていてもよい。
【0010】
また、請求項3のように、前記押込部は、前記規制部材に設けられていてもよい。
また、請求項4のように、前記押込部は、被動ギヤが所定の回転方向に回転するときに、その所定の回転方向に向かうにしたがって被動ギヤの外周に近づく傾斜部(44,45;49,51)を含んでいてもよい。
また、請求項5のように、前記被動ギヤの所定の回転方向は、第1回転方向(X1)と、前記第1回転方向の反対方向である第2の回転方向(X2)と、を含み、前記押込み部は、第1回転方向に向かうにしたがって被動ギヤの外周に近づく第1傾斜部(49)を有する第1押込部(47)と、第2回転方向に向かうにしたがって被動ギヤの外周に近づく第2傾斜部(51)を有する第2押込部(48)と、を含んでいてもよい。
【0011】
また、請求項6のように、前記第1押込部および第2押込部は単一のブロックで一体に形成された押込ユニット(U)を構成していてもよい。
また、請求項7のように、前記被動ギヤとしてのウォームホイールは進み角を有し、 ウォームホイールの歯部(24)は、歯すじ方向(Y1)に関して第1端部(241)および第2端部(242)を含み、前記第1端部は、ウォームホイールが第1回転方向に回転するときに駆動ギヤとしてのウォーム軸と先に噛み合い、前記第2端部は、ウォームホイールが第2回転方向に回転するときに駆動ギヤとしてのウォーム軸と先に噛み合い、前記第1傾斜部は、前記第1端部に対向する位置に配置され、前記第2傾斜部は、前記第2端部に対向する位置に配置され、前記第1押込部は、ウォームホイールが第1回転方向に回転するときに潤滑剤を第1傾斜部に案内する第1案内部(50)を含み、前記第2押込部は、ウォームホイールが第2回転方向に回転するときに潤滑剤を第2傾斜部に案内する第2案内部(52)を含んでいてもよい。
【0012】
また、請求項8の発明は、前記に記載の減速機構によって、操舵補助用の電動モータ(16)の回転を減速する電動パワーステアリング装置(1)を提供する。
【発明の効果】
【0013】
請求項1の発明によれば、被動ギヤの回転にスライド部材が連れ回りするので、噛み合い領域から遠い位置にある潤滑剤を、被動ギヤの各歯先とスライド部材との間に挟持した状態で、噛み合い領域に、より近い位置まで搬送することができる。これにより、潤滑剤の滞留を防止することができ、噛み合い領域に潤沢に潤滑剤を供給することができるので、耐久性を向上することができる。
【0014】
また、請求項2の発明によれば、被動ギヤの外周と押込部との間の隙間が、被動ギヤの外周とスライド部材との間の隙間よりも狭いので、被動ギヤの回転に伴って、スライド部材と同伴移動する潤滑剤を被動ギヤの歯溝に効果的に押し込むことができる。したがって、噛み合い領域に、より潤沢に潤滑剤を供給することができる。
また、請求項3の発明によれば、規制部材に設けられた押込部によって、スライド部材と同伴移動する潤滑剤を被動ギヤの歯溝に効果的に押し込むことができる。また、規制部材自体に押込部を設けるので、構造を簡素化することができる。
【0015】
また、請求項4の発明によれば、被動ギヤの所定の回転方向への回転に伴って、その所定の回転方向と特定の関係を持つ傾斜部によって、スライド部材と同伴移動する潤滑剤を被動ギヤの歯溝に効果的に押し込むことができる。例えば被動ギヤが双方向に回転するときには、各回転方向に対応する傾斜部が機能することになる。
また、請求項5の発明によれば、被動ギヤの第1回転方向および第2回転方向に、それぞれ対応した第1押込部および第2押込部が、スライド部材と同伴移動する潤滑剤を被動ギヤの歯溝に効果的に押し込むので、例えば噛み合い領域から遠い位置に滞留する潤滑剤の流れを良好にでき、また、押込み効果を高くすることができる。したがって、噛み合い領域から離れた位置に滞留する潤滑剤を効率良く噛み合い領域に供給することができる。
【0016】
また、請求項6の発明によれば、第1押込部および第2押込部を単一のブロックで一体に形成された押込ユニットに構成しているので、構造を簡素化することができる。
また、請求項7の発明によれば、進み角を有するウォームホイールの歯部が、歯すじ方向の第1端部および第2端部を有している。ウォームホイールが第1回転方向に回転するときには、両端部のうち第1の端部がウォームと先に噛み合い、ウォームホイールが第2回転方向に回転するときには、両端部のうち第2の端部がウォームと先に噛み合う。第1押込部は、第1の端部に対向する位置に配置された第1の傾斜部を有し、その第1傾斜部へ潤滑剤を案内する第1案内部を有している。また、第2押込部は、第2の端部に対向する位置に配置された第2の傾斜部を有し、その第2傾斜部へ潤滑剤を案内する第2案内部を有している。したがって、ウォームホイールが第1回転方向および第2回転方向の何れに回転したときにも、ウォームホイールの歯部においてウォーム軸と先に接触するほうの端部から潤滑剤を供給することができるので、噛み合い時の歯面において、潤滑剤切れを生じ難い。その結果、噛み合い領域での潤滑性を一層向上することができる。
【0017】
また、請求項8の発明によれば、減速機構の噛み合い領域での潤滑性能を維持することにより耐久性に優れた電動パワーステアリング装置を実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明の一実施の形態の減速機構を備えた電動パワーステアリング装置の概略構成を示す模式図である。
【図2】電動パワーステアリング装置の要部の断面図である。
【図3】スライド部材を案内する機構の断面図である。
【図4】減速機構の模式的断面図である。(a)ウォームホイールが第1回転方向に回転した場合を示し、(b)はウォームホイールが第2回転方向に回転した場合を示している。
【図5】本発明の別の実施の形態の減速機構の模式的断面図である。
【図6】図5の減速機構の要部の拡大図である。
【図7】本発明のさらに別の実施の形態の減速機構の模式的断面図である。
【図8】本発明のさらに別の実施の形態の減速機構の模式的断面図である。
【図9】本発明のさらに別の実施の形態の減速機構の模式的断面図である。
【図10】本発明のさらに別の実施の形態の減速機構の模式的断面図である。
【図11】(a)は本発明のさらに別の実施の減速機構の第1押込部の概略斜視図であり、(b)は第1押込部とウォームホイールの歯部の関係を示す模式図である。
【図12】(a)は図11の実施の形態における第2押込部の概略斜視図であり、(b)は第2押込部とウォームホイールの歯部の関係を示す模式図である。
【図13】本発明のさらに別の実施の形態の減速機構の押込ユニットの概略斜視図である。
【図14】本発明のさらに別の実施の形態の減速機構の模式的断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
図1は、本発明の一実施形態の電動パワーステアリング装置の概略構成図である。図1を参照して、電動パワーステアリング装置1は、ステアリングホイール等の操舵部材2に連結している操舵軸3と、操舵軸3に自在継手4を介して連結される中間軸5と、中間軸5に自在継手6を介して連結されるピニオン軸7と、ピニオン軸7の端部近傍に設けられたピニオン7aに噛み合うラック8aを有して自動車の左右方向に延びる転舵軸としてのラック軸8とを有している。ピニオン軸7およびラック軸8により、ラックアンドピニオン機構からなる操舵機構Aが構成されている。
【0020】
ラック軸8は車体に固定されるハウジング9内に図示しない複数の軸受を介して直線往復動自在に支持されている。ラック軸8の両端部はハウジング9の両側へ突出し、各端部にはそれぞれタイロッド10が結合されている。各タイロッド10は対応するナックルアーム(図示せず)を介して対応する転舵輪11に連結されている。
操舵部材2が操作されて操舵軸3が回転されると、この回転がピニオン7aおよびラック8aによって、自動車の左右方向に沿ってのラック軸8の直線運動に変換される。これにより、転舵輪11の転舵が達成される。
【0021】
操舵軸3は、操舵部材2に連なる操舵入力軸3aと、ピニオン軸7に連なる操舵出力軸3bとに分割されており、これら操舵入力軸3aおよび操舵出力軸3bはトーションバー12を介して同一の軸線上で相対回転可能に互いに連結されている。
トーションバー12を介する操舵入力軸3aおよび操舵出力軸3b間の相対回転変位量により操舵トルクを検出するトルクセンサ13が設けられており、このトルクセンサ13のトルク検出結果は、ECU(Electronic Control Unit :電子制御ユニット)14に与えられる。ECU14では、トルク検出結果や図示しない車速センサから与えられる車速検出結果等に基づいて、駆動回路15を介して操舵補助用の電動モータ16を駆動制御する。電動モータ16の出力回転が減速機構17を介して減速されてピニオン軸7に伝達され、ラック軸8の直線運動に変換されて、操舵が補助される。
【0022】
減速機構17は、電動モータ16により回転駆動される駆動ギヤとしてのウォーム軸18と、このウォーム軸18に噛み合うと共に、操舵出力軸3bに同伴回転可能に連結された被動ギヤとしてのウォームホイール19と、ウォーム軸18およびウォームホイール19を収容するギヤハウジング20とを備える。ギヤハウジング20内には、グリースからなる潤滑剤が収容されている
ギヤハウジング20は、駆動ギヤとしてのウォーム軸18を収容する筒状の駆動ギヤ収容ハウジング21と、被動ギヤとしてのウォームホイール19を収容する筒状の被動ギヤ収容ハウジング22とを交差状に有している。
【0023】
図2を参照して、ウォーム軸18は電動モータ16の出力軸23と同軸上に配置される。ウォーム軸18は、その軸長方向に離隔する第1端部18aおよび第2の端部18bを有し、第1端部18aおよび第2端部18b間の中間部にウォーム18cを有する。ウォームホイール19は、金属製であり、その外周19aに、環状に配列された複数の歯部24を有している。隣接する歯部24間に歯溝25が形成されている。
【0024】
ウォームホイール19の外周19a(より具体的には、歯部24の歯先26)は、被動ギヤ収容ハウジング22の内周22aと対向している。ウォームホイール19の外周19a(歯先26)と被動ギヤ収容ハウジング22の内周22aとの間に、円弧板からなるスライド板27が介在している。
スライド板27は、被動ギヤとしてのウォームホイール19の回転に伴って、被動ギヤ収容ハウジング22の内周22aに沿って、第1回転方向X1および第2回転方向X2にスライド可能である。スライド板27の円弧長は、ウォームホイール19の外周19aの長さの、例えば半分または半分よりも少し長めに設定されている。
【0025】
また、図3に示すように、スライド板27の側縁27a,27bの少なくとも一方(図3の例では両側縁27a,27b)が、被動ギヤ収容ハウジング22の側部に設けられた案内溝28に係合している。この案内溝28によって、スライド部材27の第1回転方向X1および第2回転方向X2の移動が案内される。
再び図2を参照して、スライド部材27は、スライド方向に沿って対向する第1端部271および第2端部272を有している。被動ギヤ収容ハウジング22には、スライド板27の第1端部271と当接することにより、スライド板27の第1回転方向X1への移動を規制する第1規制部材29が設けられている。また、被動ギヤ収容ハウジング22には、スライド板27の第2端部272と当接することにより、スライド板27の第2回転方向X2への移動を規制する第2規制部材30が設けられている。
【0026】
本実施の形態では、第1規制部材29および第2規制部材30が、被動ギヤ収容ハウジング22と単一の材料で一体に形成されている。ただし、各規制部材29,30が、被動ギヤ収容ハウジング22とは別体に形成されて、被動ギヤ収容ハウジング22に固定されていてもよい。
ウォーム軸18の第1端部18aと電動モータ16の出力軸23の対向端部とは、動力伝達継手31を介して同軸上に動力伝達可能に連結されている。動力伝達継手31は、例えばスリーブ継手であり、一端に出力軸23が圧入され、他端に、ウォーム軸18の第1端部18aに形成されたセレーションが圧入されている。
【0027】
ウォーム軸18の第1端部18aおよび第2端部18bは、対応する第1軸受32および第2軸受33をそれぞれ介してギヤハウジング20の駆動ギヤ収容ハウジング21に回転可能に支持されている。第1軸受32および第2軸受33は例えば玉軸受からなる。
第1軸受32の内輪34および第2軸受33の内輪35が、ウォーム軸18の第1端部18aおよび第2端部18bに一体回転可能に嵌合されている。各内輪34,35はそれぞれウォーム軸18の対応する互いに逆向きの位置決め段部18d,18eに当接している。第1軸受32の外輪36および第2軸受33の外輪37は、駆動ギヤ収容ハウジング21の対応する軸受保持孔38,39に保持されている。
【0028】
一方、第1軸受32の外輪36は、対応する軸受保持孔38に連なるねじ孔40にねじ込まれた予圧調整用およびバックラッシ調整用のねじ部材41によって、駆動ギヤ収容ハウジング21の位置決め段部21aに押し当てられて軸方向に位置決めされている。これにより、第1軸受32および第2軸受33に一括して予圧が与えられている。
本実施の形態によれば、被動ギヤとしてのウォームホイール19が第1回転方向X1または第2回転方向X2に回転すると、図4(a),(b)に示すように、その回転方向X1,X2にスライド部材27が連れ回りする。したがって、噛み合い領域Bから遠い位置にある潤滑剤を、ウォームホイール19の各歯先26とスライド部材27との間に挟持した状態で、噛み合い領域Bに、より近い位置まで搬送することができる。これにより、潤滑剤の滞留を防止することができ、噛み合い領域Bに潤沢に潤滑剤を供給することができるので、耐久性を向上することができる。
【0029】
また、ウォームホイール19の回転方向X1,X2に応じて、対応する規制部材29,30が、スライド部材27の対応する端部271,272に当接することにより、スライド部材27が噛み合い領域Bに移動するのを規制する。したがって、スライド部材27がウォーム軸18およびウォームホイール19の噛み合いを阻害することがない。
また、各規制部材29,30が被動ギヤ収容ハウジング22と単一の材料で一体に形成されているので、構造を簡素化することができる。
【0030】
次いで、図5は本発明の別の実施の形態を示している。本実施の形態の減速機構17Aが図3の実施の形態の減速機構17と異なるのは、第1規制部材29に第1押込部42を設け、第2規制部材30に第2押込部43を設けた点にある。
具体的には、第1押込部42とウォームホイール19の外周19aとの間の隙間S1(径方向隙間)が、ウォームホイール19の外周19aとスライド部材27との間の隙間S3(径方向隙間)よりも小さくされている。また、第1押込部42は、第1回転方向X1に向かうにしたがってウォームホイール19の外周19aに近づく第1傾斜部44を含んでいる。
【0031】
また、第2押込部43とウォームホイール19の外周19aとの間の隙間S2(径方向隙間)が、ウォームホイール19の外周19aとスライド部材27との間の隙間S3(径方向隙間)よりも小さくされている。第2押込部43は、第2回転方向X2に向かうにしたがってウォームホイール19の外周19aに近づく第2傾斜部45を含んでいる。
第1傾斜部44および第2傾斜部45のそれぞれは、図5に示すように、その断面が湾曲状をなしていてもよいし、その断面が直線状をなしていてもよい。
【0032】
本実施の形態によれば、図2と同じ作用効果を奏することができる。さらに、図5に示すように、隙間S2が隙間S3よりも狭いので、例えば、図6に示すように、ウォームホイール19が第2回転方向X2に回転するときに、第2押込部43は、ウォームホイール19の第2回転方向X2への回転時にスライド部材27と同伴移動する潤滑剤をウォームホイール19の歯溝25に押し込むように機能する。また、第2回転方向X2に向かうにしたがってウォームホイール19の外周19aに近づく第2傾斜部45によって、スライド部材27と同伴移動する潤滑剤をウォームホイール19の歯溝25に効果的に押し込むことができる。
【0033】
また、図5に示すように、隙間S1が隙間S3よりも狭いので、ウォームホイール19が第1回転方向X1に回転するときに、図示していないが、第1押込部42は、ウォームホイール19の第1回転方向X1への回転時にスライド部材27と同伴移動する潤滑剤をウォームホイール19の歯溝25に押し込むように機能する。また、第1回転方向X1に向かうにしたがってウォームホイール19の外周19aに近づく第1傾斜部44によって、スライド部材27と同伴移動する潤滑剤をウォームホイール19の歯溝25に効果的に押し込むことができる。
【0034】
また、各押込部42,43を対応する規制部材29,30に単一の材料で一体に形成したので、構造を簡素化することができる。
図5の実施の形態の減速機構17Aでは、各押込部42,43を対応する規制部材29,30に設けたが、これに限らない。例えば、図7の実施の形態の減速機構17Bに示すように、規制部材29,30とは別体に1ないし複数の押込部46を設けてもよい。
【0035】
押込部46は、被動ギヤ収容ハウジング22と単一の材料で一体に形成されていてもよいし、また、被動ギヤ収容ハウジング22とは別体で構成された押込部材を被動ギヤ収容ハウジング22に固定して、これらを押込部としてもよい。
各押込部46の位置は、スライド部材27が移動するときに、スライド部材27とウォームホイール19の外周19aとの間に介在することのできる位置であればよい。また、各押込部46は、ウォームホイール19が第1回転方向X1および第2回転方向X2の何れに回転するときにも、ウォームホイール19の歯溝25に潤滑剤を押し込む機能を果たす。
【0036】
本実施の形態においても、噛み合い領域Bから遠い位置にある潤滑剤を、ウォームホイール19の回転に伴って、ウォームホイール19の各歯先26とスライド部材27との間に挟持した状態で、噛み合い領域Bに、より近い位置まで搬送することができる。これにより、潤滑剤の滞留を防止することができ、噛み合い領域Bに潤沢に潤滑剤を供給することができるので、耐久性を向上することができる。また、ウォームホイール19の回転に伴って、押込部46によって潤滑剤をウォームホイール19の歯溝25に押し込むことができるので、噛み合い領域Bに、より潤滑に潤滑剤を供給することができる。
【0037】
また、押込部46の数を、図8の実施の形態の減速機構17Cに示すように、例えば3つ以上と、さらに増やすことにより、より多くの潤滑剤を歯溝25へ押し込むことが可能となる。
本発明は前記各実施の形態に限定されるものではなく、図9の実施の形態の減速機構17Dに示すように、押込部として、図5の実施の形態に示すように各規制部材29,30に設けられた押込部42,43と、図7(ないし図8)の実施の形態に示すように各規制部材29,30から離隔して設けられた押込部46とを併用してもよい。この場合、押込み箇所が増加するので、より潤沢に潤滑剤を歯溝25に押し込むことができる。
【0038】
次いで、図10は本発明のさらに別の実施の形態の減速機構17Eを示している。図10を参照して、本実施の形態が図7の実施の形態と異なるのは、ウォームホイール19の回転方向X1,X2に離隔する複数のスライド部材127,227,327を設け、各スライド部材127,227,327の移動範囲を規制する規制部材29,30,53,54を設け、各スライド部材127,227,327にそれぞれ対応して複数の押込部46を設けた点にある。
【0039】
具体的には、スライド部材127は、第1規制部材29と規制部材53とによって、その移動範囲を規制される。スライド部材227は、規制部材53と規制部材54とによって、その移動範囲を規制される。スライド部材327は、規制部材54と第2規制部材30とによって、その移動範囲を規制される。
本実施の形態によれば、各スライド部材127,227,327が、噛み合い領域B側へ潤滑剤Lを搬送するとともに、各スライド部材127,227,327にそれぞれ対応する複数の押込部46によって、より多くの潤滑剤を歯溝25へ押し込むことが可能となる。
【0040】
次いで、図11および図12は、本発明の別の実施の形態の減速機構17Fを示している。減速機構17Fは、図11(a)に示す第1押込部47と、図12(a)に示す第2押込部48を備えている。図11(b)に示すように、被動ギヤとしてのウォームホイール19が進み角θを有している。ウォームホイール19の歯部24は、歯すじ方向Y1に関して第1端部241および第2端部242を有している。
【0041】
図11(a)および(b)に示すように、第1押込部47は、第1回転方向X1に向かうにしたがってウォームホイール19の外周19a(図11では示さず)に近づく第1傾斜部49を有している。
図11(b)に示すように、第1傾斜部49は、第1端部241および第2端部242のうち、ウォームホイール19が第1回転方向X1に回転するときにウォーム軸18と先に噛み合うほうの端部である第1端部241に対向する位置に配置されている。
【0042】
また、図11(a)および(b)に示すように、第1押込部47は、ウォームホイール19が第1回転方向X1に回転するときにスライド部材27と同伴移動する潤滑剤Lを第1傾斜部49に案内する第1案内部50を含んでいる。第1案内部50は、ウォームホイール19の第1回転方向X1に対して傾斜した部分50aを含んでいる。
図12(a)および(b)に示すように、第2押込部48は、第2回転方向X2に向かうにしたがってウォームホイール19の外周19a(図12では示さず)に近づく第2傾斜部51を有している。
【0043】
図12(b)に示すように、第2傾斜部51は、第1端部241および第2端部242のうち、ウォームホイール19が第2回転方向X2に回転するときにウォーム軸18と先に噛み合うほうの端部である第2端部242に対向する位置に配置されている。
また、図12(a)および(b)に示すように、第2押込部48は、ウォームホイール19が第2回転方向X2に回転するときにスライド部材27と同伴移動する潤滑剤Lを第2傾斜部51に案内する第2案内部52を含んでいる。第2案内部52は、ウォームホイール19の第2回転方向X2に対して傾斜した部分52aを含んでいる。
【0044】
本実施の形態によれば、ウォームホイール19が第1回転方向X1および第2回転方向X2の何れに回転するときにも、ウォームホイール19の歯部24においてウォーム軸18と先に接触するほうの端部241または242から潤滑剤Lを供給するので、噛み合い時のウォームホイール19の歯面において、潤滑剤切れを生じ難い。その結果、噛み合い領域Bでの潤滑性を一層向上することができる。
【0045】
なお、図11に示した第1押込部47と図12に示した第2押込部48とを単一のブロックで一体に形成した、図13に示すような押込ユニットUを構成してもよい。押込ユニットUは、第1押込部47の構成要素である第1傾斜部49および第1案内部50(第1案内部50は前記部分50aを有する)を含み、且つ、第2押込部48の構成要素である第2傾斜部51および第2案内部52(第2案内部52は前記部分52aを有する)を含むことになる。本実施の形態の減速機構17Gの構成要素において、図11および図12と同じ構成要素には、図11および図12と同じ参照符号を付してある。
【0046】
本実施の形態によれば、図11および図12と同じ作用効果を奏することに加えて、第1押込部47および第2押込部48を単一のブロックで一体に形成された押込ユニットUに構成しているので、構造を簡素化することができる。
特に、図7、図8、図9および図10の各実施の形態の押込部46として、図11の第1押込部47や図12の第2押込部48を用いたり、或いは図13の押込ユニットUを用いることにより、潤滑剤Lの押込み効果を高めて、潤滑剤Lを噛み合い領域Bに効率良く供給することができる。
【0047】
特に図8や図10のように噛み合い領域Bから離れた位置に配置された押込部46として、押込ユニットUを用いることが好ましい。これにより、第1回転方向X1に対して傾斜した第1傾斜部49の働き、および第2回転方向X2に対して傾斜した第2傾斜部51の働きによって、傾斜部がない場合と比較して、噛み合い領域Bから離れた位置に滞留する潤滑剤Lの流れをより良好にでき、また、押込み効果もより高まる。したがって、噛み合い領域Bから離れた位置に滞留する潤滑剤Lを噛み合い領域Bに、より効率良く供給することが可能になる。
【0048】
なお、本発明は前記各実施の形態に限定されるものではなく、前記各実施の形態において、例えば、図14に示すように、ウォームホイール119の歯溝125が側方へ開放せず、ウォームホイール119の外周119aが、歯溝125の両側に配置された一対の円筒面119b,119cを有していてもよい。また、被動ギヤ収容ハウジング22の内周22aの一対の収容溝55にそれぞれ収容された環状の弾性部材56(例えばOリング等)が、対応する円筒面119b,119cに弾性的に接触している。
【0049】
この場合、一対の弾性部材56によって、歯溝125を含む外周119aから、ウォームホイール119の側面119d,119e側へ、潤滑剤Lが流出することを防止することができる。したがって、歯溝125を含む外周119aに潤沢に潤滑剤Lを保持しておくことができ、ひいては、噛み合い領域Bにおいて高い潤滑性能を発揮することができる。
【0050】
その他、本発明は請求項記載の範囲で種々の変更を施すことができる。
【符号の説明】
【0051】
1…電動パワーステアリング装置、2…操舵部材、3…操舵軸、3b…操舵出力軸、16…電動モータ、17;17A;17B;17C;17D;17E;17F;17G…減速機構、18…ウォーム軸(駆動ギヤ)、19…ウォームホイール(被動ギヤ)、19a…外周、20…ギヤハウジング、22…被動ギヤ収容ハウジング、22a…内周、24…歯部、241…第1端部、242…第2端部、25…歯溝、26…歯先、27;127,227,327…スライド部材、271…第1端部、272…第2端部、28…案内溝、29…第1規制部材、30…第2規制部材、42…第1押込部、43…第2押込部、44…第1傾斜部、45…第2傾斜部、46…押込部、47…第1押込部、48…第2押込部、49…第1傾斜部、50…第1案内部、51…第2傾斜部、52…第2案内部、53,54…規制部材、55…収容溝、56…弾性部材、A…転舵機構、B…噛み合い領域、L…潤滑剤、U…押込ユニット、X1…第1回転方向、X2…第2回転方向、Y1…歯すじ方向、119…ウォームホイール(被動ギヤ)、119a…外周、119b,119c…円筒面、119d,119e…側面、125…歯溝
【技術分野】
【0001】
本発明は減速機構および電動パワーステアリング装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、電動モータの回転を減速機構で減速して操舵軸に伝達することにより、操舵軸の回転力を補助する電動パワーステアリング装置が知られている。減速機構としては、一般に、ウォーム減速機、ヘリカル減速機、遊星ギヤ減速機、ハイポイドベベルギヤ、ベベルギヤ等のギヤ減速機が用いられている。このギヤ減速機の潤滑には、粘度の高いグリースが一般に用いられている。
【0003】
しかしながら、従来の前記電動パワーステアリング装置の減速ギヤ機構においては、グリースは、粘性によってギヤ歯面に付着することにより歯面同士の潤滑を行うものであるが、粘性のために流動性は非常に悪い。ギヤの組み付け時に、グリースをギヤの歯溝部分を埋めるように充填しても、ギヤ同士の噛み合いによってそのほとんどが歯溝の外に押し出されてしまい、歯面にわずかに付着したグリースのみが潤滑に寄与している。このことは、前記どのタイプのギヤ形式においても同じであり、潤滑グリースは経時的に減少していくので、使用過程で潤滑グリースが不足するようになり、潤滑不良が起こる。
【0004】
特に、ウォーム減速機においては、滑り伝達であるために、一度潤滑不良が発生すると、摩擦係数が増大して発熱が大きくなり、潤滑不良をさらに悪化させることになるので、急激に摩耗が増大するという悪循環に陥ってしまう。
そこで、特許文献1では、歯車の外周の一部を包囲するグリース循環機構としての包囲部が、歯溝から押し出されるグリースを収集して歯車に再補給する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平2005−69476号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1では、ウォームホイールの歯先に付着しているグリースは、ウォームホイールが前記包囲部に対向する位置に到達するまでに、ハウジングの内周に付着し、ウォームホイールから置き去りにされ易い。すなわち、グリースが包囲部に集まり難いので、歯溝への再補給が十分でない。したがって、噛み合い領域において十分な潤滑性能を維持できない。
【0007】
そこで、本発明の目的は、噛み合い領域において潤滑剤の十分な潤滑性能を維持することができる減速機構および電動パワーステアリング装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記目的を達成するため、請求項1の発明は、噛み合い領域(B)で駆動ギヤ(18)と噛み合う円筒ギヤからなる被動ギヤ(19;119)と、被動ギヤを収容する被動ギヤ収容ハウジング(22)を含み、潤滑剤を収容したギヤハウジング(20)と、被動ギヤの外周(19a;119a)に対向し、被動ギヤの回転に伴って潤滑剤の粘性を介して被動ギヤに連れ回りすることにより、被動ギヤ収容ハウジングの内周(22a)に沿ってスライド可能なスライド部材(27;127,227,327)と、被動ギヤの回転に連れ回りするスライド部材と当接することにより、噛み合い領域への、スライド部材の移動を規制する規制部材(29,30;53,54)と、を備える減速機構(17;17A;17B;17C;17D;17E;17F;17G)を提供する。
【0009】
なお、括弧内の英数字は、後述する実施形態における対応構成要素等を表すが、このことは、むろん、本発明がそれらの実施形態に限定されるべきことを意味するものではない。以下、この項において同じ。
また、請求項2のように、前記被動ギヤの回転に伴ってスライド部材と同伴移動する潤滑剤を被動ギヤの歯溝(25)に押し込む押込部(42,43;46;47,48)を備え、前記押込部と被動ギヤの外周との間の隙間(S1,S2)が、スライド部材と被動ギヤの外周との間の隙間(S3)よりも小さく、前記押込部は、被動ギヤ収容ハウジングまたは被動ギヤ収容ハウジングに固定された部材に設けられていてもよい。
【0010】
また、請求項3のように、前記押込部は、前記規制部材に設けられていてもよい。
また、請求項4のように、前記押込部は、被動ギヤが所定の回転方向に回転するときに、その所定の回転方向に向かうにしたがって被動ギヤの外周に近づく傾斜部(44,45;49,51)を含んでいてもよい。
また、請求項5のように、前記被動ギヤの所定の回転方向は、第1回転方向(X1)と、前記第1回転方向の反対方向である第2の回転方向(X2)と、を含み、前記押込み部は、第1回転方向に向かうにしたがって被動ギヤの外周に近づく第1傾斜部(49)を有する第1押込部(47)と、第2回転方向に向かうにしたがって被動ギヤの外周に近づく第2傾斜部(51)を有する第2押込部(48)と、を含んでいてもよい。
【0011】
また、請求項6のように、前記第1押込部および第2押込部は単一のブロックで一体に形成された押込ユニット(U)を構成していてもよい。
また、請求項7のように、前記被動ギヤとしてのウォームホイールは進み角を有し、 ウォームホイールの歯部(24)は、歯すじ方向(Y1)に関して第1端部(241)および第2端部(242)を含み、前記第1端部は、ウォームホイールが第1回転方向に回転するときに駆動ギヤとしてのウォーム軸と先に噛み合い、前記第2端部は、ウォームホイールが第2回転方向に回転するときに駆動ギヤとしてのウォーム軸と先に噛み合い、前記第1傾斜部は、前記第1端部に対向する位置に配置され、前記第2傾斜部は、前記第2端部に対向する位置に配置され、前記第1押込部は、ウォームホイールが第1回転方向に回転するときに潤滑剤を第1傾斜部に案内する第1案内部(50)を含み、前記第2押込部は、ウォームホイールが第2回転方向に回転するときに潤滑剤を第2傾斜部に案内する第2案内部(52)を含んでいてもよい。
【0012】
また、請求項8の発明は、前記に記載の減速機構によって、操舵補助用の電動モータ(16)の回転を減速する電動パワーステアリング装置(1)を提供する。
【発明の効果】
【0013】
請求項1の発明によれば、被動ギヤの回転にスライド部材が連れ回りするので、噛み合い領域から遠い位置にある潤滑剤を、被動ギヤの各歯先とスライド部材との間に挟持した状態で、噛み合い領域に、より近い位置まで搬送することができる。これにより、潤滑剤の滞留を防止することができ、噛み合い領域に潤沢に潤滑剤を供給することができるので、耐久性を向上することができる。
【0014】
また、請求項2の発明によれば、被動ギヤの外周と押込部との間の隙間が、被動ギヤの外周とスライド部材との間の隙間よりも狭いので、被動ギヤの回転に伴って、スライド部材と同伴移動する潤滑剤を被動ギヤの歯溝に効果的に押し込むことができる。したがって、噛み合い領域に、より潤沢に潤滑剤を供給することができる。
また、請求項3の発明によれば、規制部材に設けられた押込部によって、スライド部材と同伴移動する潤滑剤を被動ギヤの歯溝に効果的に押し込むことができる。また、規制部材自体に押込部を設けるので、構造を簡素化することができる。
【0015】
また、請求項4の発明によれば、被動ギヤの所定の回転方向への回転に伴って、その所定の回転方向と特定の関係を持つ傾斜部によって、スライド部材と同伴移動する潤滑剤を被動ギヤの歯溝に効果的に押し込むことができる。例えば被動ギヤが双方向に回転するときには、各回転方向に対応する傾斜部が機能することになる。
また、請求項5の発明によれば、被動ギヤの第1回転方向および第2回転方向に、それぞれ対応した第1押込部および第2押込部が、スライド部材と同伴移動する潤滑剤を被動ギヤの歯溝に効果的に押し込むので、例えば噛み合い領域から遠い位置に滞留する潤滑剤の流れを良好にでき、また、押込み効果を高くすることができる。したがって、噛み合い領域から離れた位置に滞留する潤滑剤を効率良く噛み合い領域に供給することができる。
【0016】
また、請求項6の発明によれば、第1押込部および第2押込部を単一のブロックで一体に形成された押込ユニットに構成しているので、構造を簡素化することができる。
また、請求項7の発明によれば、進み角を有するウォームホイールの歯部が、歯すじ方向の第1端部および第2端部を有している。ウォームホイールが第1回転方向に回転するときには、両端部のうち第1の端部がウォームと先に噛み合い、ウォームホイールが第2回転方向に回転するときには、両端部のうち第2の端部がウォームと先に噛み合う。第1押込部は、第1の端部に対向する位置に配置された第1の傾斜部を有し、その第1傾斜部へ潤滑剤を案内する第1案内部を有している。また、第2押込部は、第2の端部に対向する位置に配置された第2の傾斜部を有し、その第2傾斜部へ潤滑剤を案内する第2案内部を有している。したがって、ウォームホイールが第1回転方向および第2回転方向の何れに回転したときにも、ウォームホイールの歯部においてウォーム軸と先に接触するほうの端部から潤滑剤を供給することができるので、噛み合い時の歯面において、潤滑剤切れを生じ難い。その結果、噛み合い領域での潤滑性を一層向上することができる。
【0017】
また、請求項8の発明によれば、減速機構の噛み合い領域での潤滑性能を維持することにより耐久性に優れた電動パワーステアリング装置を実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明の一実施の形態の減速機構を備えた電動パワーステアリング装置の概略構成を示す模式図である。
【図2】電動パワーステアリング装置の要部の断面図である。
【図3】スライド部材を案内する機構の断面図である。
【図4】減速機構の模式的断面図である。(a)ウォームホイールが第1回転方向に回転した場合を示し、(b)はウォームホイールが第2回転方向に回転した場合を示している。
【図5】本発明の別の実施の形態の減速機構の模式的断面図である。
【図6】図5の減速機構の要部の拡大図である。
【図7】本発明のさらに別の実施の形態の減速機構の模式的断面図である。
【図8】本発明のさらに別の実施の形態の減速機構の模式的断面図である。
【図9】本発明のさらに別の実施の形態の減速機構の模式的断面図である。
【図10】本発明のさらに別の実施の形態の減速機構の模式的断面図である。
【図11】(a)は本発明のさらに別の実施の減速機構の第1押込部の概略斜視図であり、(b)は第1押込部とウォームホイールの歯部の関係を示す模式図である。
【図12】(a)は図11の実施の形態における第2押込部の概略斜視図であり、(b)は第2押込部とウォームホイールの歯部の関係を示す模式図である。
【図13】本発明のさらに別の実施の形態の減速機構の押込ユニットの概略斜視図である。
【図14】本発明のさらに別の実施の形態の減速機構の模式的断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
図1は、本発明の一実施形態の電動パワーステアリング装置の概略構成図である。図1を参照して、電動パワーステアリング装置1は、ステアリングホイール等の操舵部材2に連結している操舵軸3と、操舵軸3に自在継手4を介して連結される中間軸5と、中間軸5に自在継手6を介して連結されるピニオン軸7と、ピニオン軸7の端部近傍に設けられたピニオン7aに噛み合うラック8aを有して自動車の左右方向に延びる転舵軸としてのラック軸8とを有している。ピニオン軸7およびラック軸8により、ラックアンドピニオン機構からなる操舵機構Aが構成されている。
【0020】
ラック軸8は車体に固定されるハウジング9内に図示しない複数の軸受を介して直線往復動自在に支持されている。ラック軸8の両端部はハウジング9の両側へ突出し、各端部にはそれぞれタイロッド10が結合されている。各タイロッド10は対応するナックルアーム(図示せず)を介して対応する転舵輪11に連結されている。
操舵部材2が操作されて操舵軸3が回転されると、この回転がピニオン7aおよびラック8aによって、自動車の左右方向に沿ってのラック軸8の直線運動に変換される。これにより、転舵輪11の転舵が達成される。
【0021】
操舵軸3は、操舵部材2に連なる操舵入力軸3aと、ピニオン軸7に連なる操舵出力軸3bとに分割されており、これら操舵入力軸3aおよび操舵出力軸3bはトーションバー12を介して同一の軸線上で相対回転可能に互いに連結されている。
トーションバー12を介する操舵入力軸3aおよび操舵出力軸3b間の相対回転変位量により操舵トルクを検出するトルクセンサ13が設けられており、このトルクセンサ13のトルク検出結果は、ECU(Electronic Control Unit :電子制御ユニット)14に与えられる。ECU14では、トルク検出結果や図示しない車速センサから与えられる車速検出結果等に基づいて、駆動回路15を介して操舵補助用の電動モータ16を駆動制御する。電動モータ16の出力回転が減速機構17を介して減速されてピニオン軸7に伝達され、ラック軸8の直線運動に変換されて、操舵が補助される。
【0022】
減速機構17は、電動モータ16により回転駆動される駆動ギヤとしてのウォーム軸18と、このウォーム軸18に噛み合うと共に、操舵出力軸3bに同伴回転可能に連結された被動ギヤとしてのウォームホイール19と、ウォーム軸18およびウォームホイール19を収容するギヤハウジング20とを備える。ギヤハウジング20内には、グリースからなる潤滑剤が収容されている
ギヤハウジング20は、駆動ギヤとしてのウォーム軸18を収容する筒状の駆動ギヤ収容ハウジング21と、被動ギヤとしてのウォームホイール19を収容する筒状の被動ギヤ収容ハウジング22とを交差状に有している。
【0023】
図2を参照して、ウォーム軸18は電動モータ16の出力軸23と同軸上に配置される。ウォーム軸18は、その軸長方向に離隔する第1端部18aおよび第2の端部18bを有し、第1端部18aおよび第2端部18b間の中間部にウォーム18cを有する。ウォームホイール19は、金属製であり、その外周19aに、環状に配列された複数の歯部24を有している。隣接する歯部24間に歯溝25が形成されている。
【0024】
ウォームホイール19の外周19a(より具体的には、歯部24の歯先26)は、被動ギヤ収容ハウジング22の内周22aと対向している。ウォームホイール19の外周19a(歯先26)と被動ギヤ収容ハウジング22の内周22aとの間に、円弧板からなるスライド板27が介在している。
スライド板27は、被動ギヤとしてのウォームホイール19の回転に伴って、被動ギヤ収容ハウジング22の内周22aに沿って、第1回転方向X1および第2回転方向X2にスライド可能である。スライド板27の円弧長は、ウォームホイール19の外周19aの長さの、例えば半分または半分よりも少し長めに設定されている。
【0025】
また、図3に示すように、スライド板27の側縁27a,27bの少なくとも一方(図3の例では両側縁27a,27b)が、被動ギヤ収容ハウジング22の側部に設けられた案内溝28に係合している。この案内溝28によって、スライド部材27の第1回転方向X1および第2回転方向X2の移動が案内される。
再び図2を参照して、スライド部材27は、スライド方向に沿って対向する第1端部271および第2端部272を有している。被動ギヤ収容ハウジング22には、スライド板27の第1端部271と当接することにより、スライド板27の第1回転方向X1への移動を規制する第1規制部材29が設けられている。また、被動ギヤ収容ハウジング22には、スライド板27の第2端部272と当接することにより、スライド板27の第2回転方向X2への移動を規制する第2規制部材30が設けられている。
【0026】
本実施の形態では、第1規制部材29および第2規制部材30が、被動ギヤ収容ハウジング22と単一の材料で一体に形成されている。ただし、各規制部材29,30が、被動ギヤ収容ハウジング22とは別体に形成されて、被動ギヤ収容ハウジング22に固定されていてもよい。
ウォーム軸18の第1端部18aと電動モータ16の出力軸23の対向端部とは、動力伝達継手31を介して同軸上に動力伝達可能に連結されている。動力伝達継手31は、例えばスリーブ継手であり、一端に出力軸23が圧入され、他端に、ウォーム軸18の第1端部18aに形成されたセレーションが圧入されている。
【0027】
ウォーム軸18の第1端部18aおよび第2端部18bは、対応する第1軸受32および第2軸受33をそれぞれ介してギヤハウジング20の駆動ギヤ収容ハウジング21に回転可能に支持されている。第1軸受32および第2軸受33は例えば玉軸受からなる。
第1軸受32の内輪34および第2軸受33の内輪35が、ウォーム軸18の第1端部18aおよび第2端部18bに一体回転可能に嵌合されている。各内輪34,35はそれぞれウォーム軸18の対応する互いに逆向きの位置決め段部18d,18eに当接している。第1軸受32の外輪36および第2軸受33の外輪37は、駆動ギヤ収容ハウジング21の対応する軸受保持孔38,39に保持されている。
【0028】
一方、第1軸受32の外輪36は、対応する軸受保持孔38に連なるねじ孔40にねじ込まれた予圧調整用およびバックラッシ調整用のねじ部材41によって、駆動ギヤ収容ハウジング21の位置決め段部21aに押し当てられて軸方向に位置決めされている。これにより、第1軸受32および第2軸受33に一括して予圧が与えられている。
本実施の形態によれば、被動ギヤとしてのウォームホイール19が第1回転方向X1または第2回転方向X2に回転すると、図4(a),(b)に示すように、その回転方向X1,X2にスライド部材27が連れ回りする。したがって、噛み合い領域Bから遠い位置にある潤滑剤を、ウォームホイール19の各歯先26とスライド部材27との間に挟持した状態で、噛み合い領域Bに、より近い位置まで搬送することができる。これにより、潤滑剤の滞留を防止することができ、噛み合い領域Bに潤沢に潤滑剤を供給することができるので、耐久性を向上することができる。
【0029】
また、ウォームホイール19の回転方向X1,X2に応じて、対応する規制部材29,30が、スライド部材27の対応する端部271,272に当接することにより、スライド部材27が噛み合い領域Bに移動するのを規制する。したがって、スライド部材27がウォーム軸18およびウォームホイール19の噛み合いを阻害することがない。
また、各規制部材29,30が被動ギヤ収容ハウジング22と単一の材料で一体に形成されているので、構造を簡素化することができる。
【0030】
次いで、図5は本発明の別の実施の形態を示している。本実施の形態の減速機構17Aが図3の実施の形態の減速機構17と異なるのは、第1規制部材29に第1押込部42を設け、第2規制部材30に第2押込部43を設けた点にある。
具体的には、第1押込部42とウォームホイール19の外周19aとの間の隙間S1(径方向隙間)が、ウォームホイール19の外周19aとスライド部材27との間の隙間S3(径方向隙間)よりも小さくされている。また、第1押込部42は、第1回転方向X1に向かうにしたがってウォームホイール19の外周19aに近づく第1傾斜部44を含んでいる。
【0031】
また、第2押込部43とウォームホイール19の外周19aとの間の隙間S2(径方向隙間)が、ウォームホイール19の外周19aとスライド部材27との間の隙間S3(径方向隙間)よりも小さくされている。第2押込部43は、第2回転方向X2に向かうにしたがってウォームホイール19の外周19aに近づく第2傾斜部45を含んでいる。
第1傾斜部44および第2傾斜部45のそれぞれは、図5に示すように、その断面が湾曲状をなしていてもよいし、その断面が直線状をなしていてもよい。
【0032】
本実施の形態によれば、図2と同じ作用効果を奏することができる。さらに、図5に示すように、隙間S2が隙間S3よりも狭いので、例えば、図6に示すように、ウォームホイール19が第2回転方向X2に回転するときに、第2押込部43は、ウォームホイール19の第2回転方向X2への回転時にスライド部材27と同伴移動する潤滑剤をウォームホイール19の歯溝25に押し込むように機能する。また、第2回転方向X2に向かうにしたがってウォームホイール19の外周19aに近づく第2傾斜部45によって、スライド部材27と同伴移動する潤滑剤をウォームホイール19の歯溝25に効果的に押し込むことができる。
【0033】
また、図5に示すように、隙間S1が隙間S3よりも狭いので、ウォームホイール19が第1回転方向X1に回転するときに、図示していないが、第1押込部42は、ウォームホイール19の第1回転方向X1への回転時にスライド部材27と同伴移動する潤滑剤をウォームホイール19の歯溝25に押し込むように機能する。また、第1回転方向X1に向かうにしたがってウォームホイール19の外周19aに近づく第1傾斜部44によって、スライド部材27と同伴移動する潤滑剤をウォームホイール19の歯溝25に効果的に押し込むことができる。
【0034】
また、各押込部42,43を対応する規制部材29,30に単一の材料で一体に形成したので、構造を簡素化することができる。
図5の実施の形態の減速機構17Aでは、各押込部42,43を対応する規制部材29,30に設けたが、これに限らない。例えば、図7の実施の形態の減速機構17Bに示すように、規制部材29,30とは別体に1ないし複数の押込部46を設けてもよい。
【0035】
押込部46は、被動ギヤ収容ハウジング22と単一の材料で一体に形成されていてもよいし、また、被動ギヤ収容ハウジング22とは別体で構成された押込部材を被動ギヤ収容ハウジング22に固定して、これらを押込部としてもよい。
各押込部46の位置は、スライド部材27が移動するときに、スライド部材27とウォームホイール19の外周19aとの間に介在することのできる位置であればよい。また、各押込部46は、ウォームホイール19が第1回転方向X1および第2回転方向X2の何れに回転するときにも、ウォームホイール19の歯溝25に潤滑剤を押し込む機能を果たす。
【0036】
本実施の形態においても、噛み合い領域Bから遠い位置にある潤滑剤を、ウォームホイール19の回転に伴って、ウォームホイール19の各歯先26とスライド部材27との間に挟持した状態で、噛み合い領域Bに、より近い位置まで搬送することができる。これにより、潤滑剤の滞留を防止することができ、噛み合い領域Bに潤沢に潤滑剤を供給することができるので、耐久性を向上することができる。また、ウォームホイール19の回転に伴って、押込部46によって潤滑剤をウォームホイール19の歯溝25に押し込むことができるので、噛み合い領域Bに、より潤滑に潤滑剤を供給することができる。
【0037】
また、押込部46の数を、図8の実施の形態の減速機構17Cに示すように、例えば3つ以上と、さらに増やすことにより、より多くの潤滑剤を歯溝25へ押し込むことが可能となる。
本発明は前記各実施の形態に限定されるものではなく、図9の実施の形態の減速機構17Dに示すように、押込部として、図5の実施の形態に示すように各規制部材29,30に設けられた押込部42,43と、図7(ないし図8)の実施の形態に示すように各規制部材29,30から離隔して設けられた押込部46とを併用してもよい。この場合、押込み箇所が増加するので、より潤沢に潤滑剤を歯溝25に押し込むことができる。
【0038】
次いで、図10は本発明のさらに別の実施の形態の減速機構17Eを示している。図10を参照して、本実施の形態が図7の実施の形態と異なるのは、ウォームホイール19の回転方向X1,X2に離隔する複数のスライド部材127,227,327を設け、各スライド部材127,227,327の移動範囲を規制する規制部材29,30,53,54を設け、各スライド部材127,227,327にそれぞれ対応して複数の押込部46を設けた点にある。
【0039】
具体的には、スライド部材127は、第1規制部材29と規制部材53とによって、その移動範囲を規制される。スライド部材227は、規制部材53と規制部材54とによって、その移動範囲を規制される。スライド部材327は、規制部材54と第2規制部材30とによって、その移動範囲を規制される。
本実施の形態によれば、各スライド部材127,227,327が、噛み合い領域B側へ潤滑剤Lを搬送するとともに、各スライド部材127,227,327にそれぞれ対応する複数の押込部46によって、より多くの潤滑剤を歯溝25へ押し込むことが可能となる。
【0040】
次いで、図11および図12は、本発明の別の実施の形態の減速機構17Fを示している。減速機構17Fは、図11(a)に示す第1押込部47と、図12(a)に示す第2押込部48を備えている。図11(b)に示すように、被動ギヤとしてのウォームホイール19が進み角θを有している。ウォームホイール19の歯部24は、歯すじ方向Y1に関して第1端部241および第2端部242を有している。
【0041】
図11(a)および(b)に示すように、第1押込部47は、第1回転方向X1に向かうにしたがってウォームホイール19の外周19a(図11では示さず)に近づく第1傾斜部49を有している。
図11(b)に示すように、第1傾斜部49は、第1端部241および第2端部242のうち、ウォームホイール19が第1回転方向X1に回転するときにウォーム軸18と先に噛み合うほうの端部である第1端部241に対向する位置に配置されている。
【0042】
また、図11(a)および(b)に示すように、第1押込部47は、ウォームホイール19が第1回転方向X1に回転するときにスライド部材27と同伴移動する潤滑剤Lを第1傾斜部49に案内する第1案内部50を含んでいる。第1案内部50は、ウォームホイール19の第1回転方向X1に対して傾斜した部分50aを含んでいる。
図12(a)および(b)に示すように、第2押込部48は、第2回転方向X2に向かうにしたがってウォームホイール19の外周19a(図12では示さず)に近づく第2傾斜部51を有している。
【0043】
図12(b)に示すように、第2傾斜部51は、第1端部241および第2端部242のうち、ウォームホイール19が第2回転方向X2に回転するときにウォーム軸18と先に噛み合うほうの端部である第2端部242に対向する位置に配置されている。
また、図12(a)および(b)に示すように、第2押込部48は、ウォームホイール19が第2回転方向X2に回転するときにスライド部材27と同伴移動する潤滑剤Lを第2傾斜部51に案内する第2案内部52を含んでいる。第2案内部52は、ウォームホイール19の第2回転方向X2に対して傾斜した部分52aを含んでいる。
【0044】
本実施の形態によれば、ウォームホイール19が第1回転方向X1および第2回転方向X2の何れに回転するときにも、ウォームホイール19の歯部24においてウォーム軸18と先に接触するほうの端部241または242から潤滑剤Lを供給するので、噛み合い時のウォームホイール19の歯面において、潤滑剤切れを生じ難い。その結果、噛み合い領域Bでの潤滑性を一層向上することができる。
【0045】
なお、図11に示した第1押込部47と図12に示した第2押込部48とを単一のブロックで一体に形成した、図13に示すような押込ユニットUを構成してもよい。押込ユニットUは、第1押込部47の構成要素である第1傾斜部49および第1案内部50(第1案内部50は前記部分50aを有する)を含み、且つ、第2押込部48の構成要素である第2傾斜部51および第2案内部52(第2案内部52は前記部分52aを有する)を含むことになる。本実施の形態の減速機構17Gの構成要素において、図11および図12と同じ構成要素には、図11および図12と同じ参照符号を付してある。
【0046】
本実施の形態によれば、図11および図12と同じ作用効果を奏することに加えて、第1押込部47および第2押込部48を単一のブロックで一体に形成された押込ユニットUに構成しているので、構造を簡素化することができる。
特に、図7、図8、図9および図10の各実施の形態の押込部46として、図11の第1押込部47や図12の第2押込部48を用いたり、或いは図13の押込ユニットUを用いることにより、潤滑剤Lの押込み効果を高めて、潤滑剤Lを噛み合い領域Bに効率良く供給することができる。
【0047】
特に図8や図10のように噛み合い領域Bから離れた位置に配置された押込部46として、押込ユニットUを用いることが好ましい。これにより、第1回転方向X1に対して傾斜した第1傾斜部49の働き、および第2回転方向X2に対して傾斜した第2傾斜部51の働きによって、傾斜部がない場合と比較して、噛み合い領域Bから離れた位置に滞留する潤滑剤Lの流れをより良好にでき、また、押込み効果もより高まる。したがって、噛み合い領域Bから離れた位置に滞留する潤滑剤Lを噛み合い領域Bに、より効率良く供給することが可能になる。
【0048】
なお、本発明は前記各実施の形態に限定されるものではなく、前記各実施の形態において、例えば、図14に示すように、ウォームホイール119の歯溝125が側方へ開放せず、ウォームホイール119の外周119aが、歯溝125の両側に配置された一対の円筒面119b,119cを有していてもよい。また、被動ギヤ収容ハウジング22の内周22aの一対の収容溝55にそれぞれ収容された環状の弾性部材56(例えばOリング等)が、対応する円筒面119b,119cに弾性的に接触している。
【0049】
この場合、一対の弾性部材56によって、歯溝125を含む外周119aから、ウォームホイール119の側面119d,119e側へ、潤滑剤Lが流出することを防止することができる。したがって、歯溝125を含む外周119aに潤沢に潤滑剤Lを保持しておくことができ、ひいては、噛み合い領域Bにおいて高い潤滑性能を発揮することができる。
【0050】
その他、本発明は請求項記載の範囲で種々の変更を施すことができる。
【符号の説明】
【0051】
1…電動パワーステアリング装置、2…操舵部材、3…操舵軸、3b…操舵出力軸、16…電動モータ、17;17A;17B;17C;17D;17E;17F;17G…減速機構、18…ウォーム軸(駆動ギヤ)、19…ウォームホイール(被動ギヤ)、19a…外周、20…ギヤハウジング、22…被動ギヤ収容ハウジング、22a…内周、24…歯部、241…第1端部、242…第2端部、25…歯溝、26…歯先、27;127,227,327…スライド部材、271…第1端部、272…第2端部、28…案内溝、29…第1規制部材、30…第2規制部材、42…第1押込部、43…第2押込部、44…第1傾斜部、45…第2傾斜部、46…押込部、47…第1押込部、48…第2押込部、49…第1傾斜部、50…第1案内部、51…第2傾斜部、52…第2案内部、53,54…規制部材、55…収容溝、56…弾性部材、A…転舵機構、B…噛み合い領域、L…潤滑剤、U…押込ユニット、X1…第1回転方向、X2…第2回転方向、Y1…歯すじ方向、119…ウォームホイール(被動ギヤ)、119a…外周、119b,119c…円筒面、119d,119e…側面、125…歯溝
【特許請求の範囲】
【請求項1】
噛み合い領域で駆動ギヤと噛み合う円筒ギヤからなる被動ギヤと、
被動ギヤを収容する被動ギヤ収容ハウジングを含み、潤滑剤を収容したギヤハウジングと、
被動ギヤの外周に対向し、被動ギヤの回転に伴って潤滑剤の粘性を介して被動ギヤに連れ回りすることにより、被動ギヤ収容ハウジングの内周に沿ってスライド可能なスライド部材と、
被動ギヤの回転に連れ回りするスライド部材と当接することにより、噛み合い領域への、スライド部材の移動を規制する規制部材と、を備える減速機構。
【請求項2】
請求項1において、前記被動ギヤの回転に伴ってスライド部材と同伴移動する潤滑剤を被動ギヤの歯溝に押し込む押込部を備え、
前記押込部と被動ギヤの外周との間の隙間が、スライド部材と被動ギヤの外周との間の隙間よりも小さく、
前記押込部は、被動ギヤ収容ハウジングまたは被動ギヤ収容ハウジングに固定された部材に設けられている減速機構。
【請求項3】
請求項2において、前記押込部は、前記規制部材に設けられている減速機構。
【請求項4】
請求項2または3において、前記押込部は、被動ギヤが所定の回転方向に回転するときに、その所定の回転方向に向かうにしたがって被動ギヤの外周に近づく傾斜部を含む減速機構。
【請求項5】
請求項4において、前記被動ギヤの所定の回転方向は、第1回転方向と、前記第1回転方向の反対方向である第2の回転方向と、を含み、
前記押込み部は、第1回転方向に向かうにしたがって被動ギヤの外周に近づく第1傾斜部を有する第1押込部と、第2回転方向に向かうにしたがって被動ギヤの外周に近づく第2傾斜部を有する第2押込部と、を含む減速機構。
【請求項6】
請求項4において、前記第1押込部および第2押込部は、単一のブロックで一体に形成された押込ユニットを構成している減速機構。
【請求項7】
請求項5または6において、前記被動ギヤとしてのウォームホイールは進み角を有し、 ウォームホイールの歯部は、歯すじ方向に関して第1端部および第2端部を含み、
前記第1端部は、ウォームホイールが第1回転方向に回転するときに駆動ギヤとしてのウォーム軸と先に噛み合い、
前記第2端部は、ウォームホイールが第2回転方向に回転するときに駆動ギヤとしてのウォーム軸と先に噛み合い、
前記第1傾斜部は、前記第1端部に対向する位置に配置され、
前記第2傾斜部は、前記第2端部に対向する位置に配置され、
前記第1押込部は、ウォームホイールが第1回転方向に回転するときに潤滑剤を第1傾斜部に案内する第1案内部を含み、
前記第2押込部は、ウォームホイールが第2回転方向に回転するときに潤滑剤を第2傾斜部に案内する第2案内部を含む減速機構。
【請求項8】
請求項1から7の何れか1項に記載の減速機構によって、操舵補助用の電動モータの回転を減速する電動パワーステアリング装置。
【請求項1】
噛み合い領域で駆動ギヤと噛み合う円筒ギヤからなる被動ギヤと、
被動ギヤを収容する被動ギヤ収容ハウジングを含み、潤滑剤を収容したギヤハウジングと、
被動ギヤの外周に対向し、被動ギヤの回転に伴って潤滑剤の粘性を介して被動ギヤに連れ回りすることにより、被動ギヤ収容ハウジングの内周に沿ってスライド可能なスライド部材と、
被動ギヤの回転に連れ回りするスライド部材と当接することにより、噛み合い領域への、スライド部材の移動を規制する規制部材と、を備える減速機構。
【請求項2】
請求項1において、前記被動ギヤの回転に伴ってスライド部材と同伴移動する潤滑剤を被動ギヤの歯溝に押し込む押込部を備え、
前記押込部と被動ギヤの外周との間の隙間が、スライド部材と被動ギヤの外周との間の隙間よりも小さく、
前記押込部は、被動ギヤ収容ハウジングまたは被動ギヤ収容ハウジングに固定された部材に設けられている減速機構。
【請求項3】
請求項2において、前記押込部は、前記規制部材に設けられている減速機構。
【請求項4】
請求項2または3において、前記押込部は、被動ギヤが所定の回転方向に回転するときに、その所定の回転方向に向かうにしたがって被動ギヤの外周に近づく傾斜部を含む減速機構。
【請求項5】
請求項4において、前記被動ギヤの所定の回転方向は、第1回転方向と、前記第1回転方向の反対方向である第2の回転方向と、を含み、
前記押込み部は、第1回転方向に向かうにしたがって被動ギヤの外周に近づく第1傾斜部を有する第1押込部と、第2回転方向に向かうにしたがって被動ギヤの外周に近づく第2傾斜部を有する第2押込部と、を含む減速機構。
【請求項6】
請求項4において、前記第1押込部および第2押込部は、単一のブロックで一体に形成された押込ユニットを構成している減速機構。
【請求項7】
請求項5または6において、前記被動ギヤとしてのウォームホイールは進み角を有し、 ウォームホイールの歯部は、歯すじ方向に関して第1端部および第2端部を含み、
前記第1端部は、ウォームホイールが第1回転方向に回転するときに駆動ギヤとしてのウォーム軸と先に噛み合い、
前記第2端部は、ウォームホイールが第2回転方向に回転するときに駆動ギヤとしてのウォーム軸と先に噛み合い、
前記第1傾斜部は、前記第1端部に対向する位置に配置され、
前記第2傾斜部は、前記第2端部に対向する位置に配置され、
前記第1押込部は、ウォームホイールが第1回転方向に回転するときに潤滑剤を第1傾斜部に案内する第1案内部を含み、
前記第2押込部は、ウォームホイールが第2回転方向に回転するときに潤滑剤を第2傾斜部に案内する第2案内部を含む減速機構。
【請求項8】
請求項1から7の何れか1項に記載の減速機構によって、操舵補助用の電動モータの回転を減速する電動パワーステアリング装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【公開番号】特開2012−202420(P2012−202420A)
【公開日】平成24年10月22日(2012.10.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−64625(P2011−64625)
【出願日】平成23年3月23日(2011.3.23)
【出願人】(000001247)株式会社ジェイテクト (7,053)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年10月22日(2012.10.22)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年3月23日(2011.3.23)
【出願人】(000001247)株式会社ジェイテクト (7,053)
【Fターム(参考)】
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