説明

減速比自動切換装置

【課題】構成部品である歯車等の各種諸元及び構成部品間の関係を設定することにある。
【解決手段】太陽歯車216、遊星歯車218a〜218c及び内歯車220に設けられたはすば歯車のねじれ角を、25度以上45度以下に設定する。また、ロック部232a〜232d、233a〜233d及び内歯車220の内歯車ロック受部230a〜230d、231a〜231dにそれぞれ設けられた爪部の立ち上がり角度γを、0≦tanγ<(η・di)/{dp・tan(90−α)}の関係式を充足するように設定する。但し、α:太陽歯車のねじれ角、η:太陽歯車の滑りねじとしてのねじ効率、dp:太陽歯車のピッチ円直径、di:内歯車の外径(爪部のトルクがかかる中心)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、所定トルクを越える負荷が付与された際、遊星歯車機構を用いて出力軸から他の部材、装置等に伝達される減速比を自動的に切り換えることが可能な減速比自動切換装置に関し、その適用分野乃至利用分野としては、後述するような各種広汎な分野に適用乃至利用することができる。
【背景技術】
【0002】
従来から、例えば、減速比切換機構が適用されるものとして、建設機械等の機械システムがある。この機械システムでは、リンク機構を駆動する伸縮作動系のアクチュエータとして電動シリンダが用いられている。
【0003】
この種の電動シリンダは、ケーシング内において、回転軸が電動モータの入力部に連結され、この回転軸内にねじ軸が配置されている。ねじ軸は、ケーシング内に回転自在に支持されたナット部材に螺合し、回転軸とナット部材の間に減速比の異なる2組の遊星歯車機構が設けられている。各遊星歯車機構は、太陽歯車と、この各太陽歯車と筒状ケーシングの内側に設けた内歯車に噛み合って遊星運動する遊星歯車とからなり、それぞれの各太陽歯車は係合方向が正転方向と逆転方向に異なる一方向クラッチを介して回転軸に連結されている。そして、各遊星歯車機構の遊星歯車を回転自在に支持している遊星支持軸はナット部材に結合されている。
【0004】
この電動シリンダでは、電動モータが正転方向に回転駆動すると、回転軸も正転方向に回転し、減速比が小さい遊星歯車機構を介してナット部材が正転してねじ軸が伸長動される。一方、電動モータが逆転方向に回転駆動すると、回転軸も逆転方向に回転し、減速比が大きい遊星歯車機構を介してナット部材が逆転してねじ軸が短縮動される(特許文献1参照)。
【0005】
しかしながら、上述の電動シリンダでは、ねじ軸が伸長動作、短縮動作を行うために、2種類の減速比の異なる遊星歯車機構を用いる必要があり、部品点数が増え、電動シリンダ全体が大きくなってしまうという問題がある。また、上述の電動シリンダの遊星歯車機構では、電動シリンダにかかる負荷トルクの大小にかかわらず、伸長動作は低速、大推力であり、一方、短縮動作は、高速、小推力である。従って、伸長動作については、電動シリンダにかかる負荷トルクが小さい場合であっても、ねじ軸の移動速度を高速にすることができないという他の問題がある。
【0006】
そこで、本出願人は、アクチュエータを構成する変位部材の動作に対応して自動的に減速比を切り換え、これによって、トルクの制御、高速なトルクの伝達をすることができる減速比自動切換装置を提案している(特願2005−141123号)。
【0007】
【特許文献1】特開2003−184982号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、前記提案に関連してなされたものであり、例えば、構成部品である歯車等の各種諸元及び構成部品間の関係を設定することにより、当業者が簡便且つ最適に製造することが可能な減速比自動切換装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記の目的を達成するために、本発明は、回転駆動源とアクチュエータとの間に配設され、前記回転駆動源の回転駆動力によって動作する変位部材の減速比を自動的に切り換える装置であって、
前記回転駆動源に連結される入力軸と、前記アクチュエータに連結される出力軸と、はすば歯車である太陽歯車と遊星歯車と内歯車と、前記遊星歯車を回転自在に軸支すると共に、前記遊星歯車の公転に伴って一体的に回転するキャリアとを含む遊星歯車機構と、
前記内歯車に内挿された前記キャリアのインナ部と前記遊星歯車と前記内歯車との間に設けられ、前記内歯車と前記遊星歯車との間でスラスト力を発生させる粘性抵抗体と、
出力負荷の増減に従って前記内歯車を前記スラスト力により入力軸方向又は出力軸方向に平行移動させ、前記内歯車の回転運動を制動させる制動手段と、
を備え、
前記太陽歯車、遊星歯車及び内歯車に設けられたはすば歯車のねじれ角は、25度以上45度以下に設定されることを特徴とする。
【0010】
本発明によれば、太陽歯車、遊星歯車及び内歯車にはすば歯車を用い、キャリア部に設けられたインナ部と内歯車との間に粘性抵抗体を設けることにより、予め設定されたトルクを超える負荷がキャリアに付与された場合に、内歯車とキャリアとの相対的回転速度差に基づいて内歯車が入力軸方向又は出力軸方向に平行移動し、キャリアに連結された出力軸からアクチュエータの変位部材に伝達される減速比を自動的に切り換えることができる。
【0011】
この場合、はすば歯車のねじれ角を45度を超える角度に設定すると、例えば、遊星歯車に対して軸方向に変位する力が付与され、前記遊星歯車の端面がキャリアと接触して摺動し、前記遊星歯車とキャリアとの間に過大な摩擦抵抗が作用して、前記遊星歯車の回転が阻止されるという不具合がある。
【0012】
一方、はすば歯車のねじれ角を25度未満に設定すると、内歯車が軸方向に向かって変位する力(スラスト力)が弱くなって、前記内歯車の応答感度(応答速度)が劣化するという不具合がある。
【0013】
また、本発明は、回転駆動源とアクチュエータとの間に配設され、前記回転駆動源の回転駆動力によって動作する変位部材の減速比を自動的に切り換える装置であって、
前記回転駆動源に連結される入力軸と、前記アクチュエータに連結される出力軸と、はすば歯車である太陽歯車と遊星歯車と内歯車と、前記遊星歯車を回転自在に軸支すると共に、前記遊星歯車の公転に伴って一体的に回転するキャリアとを含む遊星歯車機構と、
前記内歯車に内挿された前記キャリアのインナ部と前記遊星歯車と前記内歯車との間に設けられ、前記内歯車と前記遊星歯車との間でスラスト力を発生させる粘性抵抗体と、
出力負荷の増減に従って前記内歯車を前記スラスト力により入力軸方向又は出力軸方向に平行移動させ、前記内歯車の回転運動を制動させる制動手段と、
を備え、
前記制動手段は、遊星歯車機構を収装するハウジングに設けられたロック部と、前記内歯車の周縁部に設けられた内歯車クラッチとからなり、前記ロック部及び前記内歯車クラッチにそれぞれ設けられた爪部の立ち上がり角度γは、以下の関係式を充足するように設定されることを特徴とする。
【0014】
0≦tanγ<(η・di)/{dp・tan(90−α)}
但し、
α:太陽歯車のねじれ角
η:太陽歯車の滑りねじとしてのねじ効率
dp:太陽歯車のピッチ円直径
di:内歯車の外径(爪部のトルクがかかる中心)
【0015】
本発明によれば、爪部の立ち上がり角度γが、0≦tanγ<(η・di)/{dp・tan(90−α)}からなる関係式を充足するように設定されることにより、爪部の高さが適正に設定され、前記爪部の過剰な摩耗や爪部の根本部の割れを防止することができる。
【0016】
さらに、本発明は、回転駆動源とアクチュエータとの間に配設され、前記回転駆動源の回転駆動力によって動作する変位部材の減速比を自動的に切り換える装置であって、
前記回転駆動源に連結される入力軸と、前記アクチュエータに連結される出力軸と、はすば歯車である太陽歯車と遊星歯車と内歯車と、前記遊星歯車を回転自在に軸支すると共に、前記遊星歯車の公転に伴って一体的に回転するキャリアとを含む遊星歯車機構と、
前記内歯車に内挿された前記キャリアのインナ部と前記遊星歯車と前記内歯車との間に設けられ、前記内歯車と前記遊星歯車との間でスラスト力を発生させる粘性抵抗体と、
出力負荷の増減に従って前記内歯車を前記スラスト力により入力軸方向又は出力軸方向に平行移動させ、前記内歯車の回転運動を制動させる制動手段と、
を備え、
前記粘性抵抗体が前記キャリアから流出するのを防ぐための第1シール手段が前記キャリアの環状溝に設けられ、
前記第1シール手段は一組のOリングからなり、前記Oリングのつぶし量は、略円形状の縦断面積の0.5%以上1.5%以下に設定されることを特徴とする。
【0017】
さらにまた、本発明は、回転駆動源とアクチュエータとの間に配設され、前記回転駆動源の回転駆動力によって動作する変位部材の減速比を自動的に切り換える装置であって、
前記回転駆動源に連結される入力軸と、前記アクチュエータに連結される出力軸と、はすば歯車である太陽歯車と遊星歯車と内歯車と、前記遊星歯車を回転自在に軸支すると共に、前記遊星歯車の公転に伴って一体的に回転するキャリアとを含む遊星歯車機構と、
前記内歯車に内挿された前記キャリアのインナ部と前記遊星歯車と前記内歯車との間に設けられ、前記内歯車と前記遊星歯車との間でスラスト力を発生させる粘性抵抗体と、
出力負荷の増減に従って前記内歯車を前記スラスト力により入力軸方向又は出力軸方向に平行移動させ、前記内歯車の回転運動を制動させる制動手段と、
を備え、
前記粘性抵抗体が前記入力軸からから流出するのを防ぐための第2シール手段が前記入力軸の環状溝に設けられ、
前記第2シール手段は断面略X状のリングからなり、前記断面略X状のリングのつぶし量は、縦断面積の0.5%以上1.5%以下に設定されることを特徴とする。
【0018】
本発明によれば、前記つぶし量が1.5%を超えると回転抵抗があまりに大きくなって歯車全体の効率が低下し、一方、前記つぶし量が0.5%未満であるとシール機能が低下してグリスが漏出してしまうからである。
【0019】
さらにまた、本発明では、回転駆動源とアクチュエータとの間に配設され、前記回転駆動源の回転駆動力によって動作する変位部材の減速比を自動的に切り換える装置であって、
前記回転駆動源に連結される入力軸と、前記アクチュエータに連結される出力軸と、はすば歯車である太陽歯車と遊星歯車と内歯車と、前記遊星歯車を回転自在に軸支すると共に、前記遊星歯車の公転に伴って一体的に回転するキャリアとを含む遊星歯車機構と、
前記内歯車に内挿された前記キャリアのインナ部と前記遊星歯車と前記内歯車との間に設けられ、前記内歯車と前記遊星歯車との間でスラスト力を発生させる粘性抵抗体と、
出力負荷の増減に従って前記内歯車を前記スラスト力により入力軸方向又は出力軸方向に平行移動させ、前記内歯車の回転運動を制動させる制動手段と、
を備え、
前記制動手段は、前記内歯車の周縁部に設けられたロック受部と、内側の第1ベアリングと外側の第2ベアリングとの間で一方向にのみ空転する円筒体を有し前記円筒体の軸方向に沿った周縁部に前記内歯車のロック受部に係合するロック部が形成されたクラッチ機構とからなり、前記クラッチ機構は、同一構造で入力軸側及び出力軸側にそれぞれ設けられることを特徴とする。
【0020】
本発明によれば、ロック部が内歯車のロック受部と当接した際、前記ロック部を有する円筒体が第1ベアリングと第2ベアリングとの間で回動することにより、当接したときの衝撃が緩衝されて当接音を極力抑制することができる。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、例えば、構成部品である歯車等の各種諸元及び構成部品間の関係を設定することにより、当業者が簡便且つ最適に製造することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
本発明に係る減速比自動切換装置について好適な実施の形態を挙げ、添付の図面を参照しながら以下詳細に説明する。
【0023】
図1は、本発明の参考例に係る減速比自動切換装置の分解斜視図である。図1に示すように、この参考例に係る減速比自動切換装置10は、2分割されて構成されるハウジング12a、12b及び遊星歯車機構14を備える。
【0024】
ハウジング12aは断面矩形状であり、後述する内歯車20が入力軸26方向に平行移動した場合に、後述する内歯車ロック受部30a〜30dと係合するための円弧状突起であるロック部32a〜32dが内部に形成され、さらに、前記入力軸26を回転自在に軸支するための軸受部34aが設けられている。
【0025】
ハウジング12bは、ハウジング12aと同様に断面矩形状であり、後述するように内歯車20が出力軸28方向に平行移動した場合に、内歯車ロック受部31a〜31dと係合するための円弧状突起であるロック部33a〜33dが内部に形成され、さらに、出力軸28を回転自在に軸支するための軸受部34bが設けられている。
【0026】
遊星歯車機構14は、入力軸26と一体的に形成された太陽歯車16と、前記太陽歯車16の周方向に沿って約120度の角度で互いに離間して噛合し、公転及び自転する遊星歯車18a、18b、18cと、内歯車20及びキャリア22を備えている。
【0027】
前記キャリア22は、円筒状の大径なインナ部23とこのインナ部23から前記ハウジング12bに指向して突出する出力軸28を有する。前記インナ部23の内方に前記太陽歯車16が臨入する。前記インナ部23には、120度ずつ等角度で離間する窓部21が形成され、前記遊星歯車18a、18b、18cは、窓部21に臨むように設けられる。
【0028】
前記遊星歯車18a、18b、18cは、この場合、ピン24を用いてキャリア22に回転自在に軸支され、ピン24には、図3A、図3Bに示されるようにその外周の一部を切り欠き形成した切欠部29a、29bが設けられている。前記切欠部29a、29bによって、遊星歯車18a、18b、18cとピン24の間にクリアランス25a、25bが設けられ、これらのクリアランス25a、25bにオイルやグリス等が充填される。前記オイル又はグリスは粘度の高い品質のものが好ましい。さらに、前記遊星歯車18a、18b、18cの外周側には、大径な内歯車20が嵌合し、前記内歯車20の内周に刻設された内歯と噛合する。前記太陽歯車16と一体的な入力軸26は、図示しない回転駆動源の回転駆動軸にカップリング部材(図示せず)を介して連結される。この場合、前記入力軸26と出力軸28とは、同軸上に設けられていることは図1から容易に諒解されよう。
【0029】
太陽歯車16、遊星歯車18a、18b、18c及び内歯車20は、はすば歯車で構成されている。この場合、遊星歯車18a、18b、18cとキャリア22のインナ部23との間及び遊星歯車18a、18b、18cと内歯車20の間には、粘性抵抗を得るために、粘度の高いオイルやグリス等が充填乃至塗布されている。
【0030】
前記内歯車20の円筒状の端部にはそれぞれ湾曲して突出する複数の内歯車ロック受部30a〜30d、31a〜31dが形成されている。内歯車ロック受部30a〜30d、31a〜31dは、図14に示すようにロック部32a〜32d、33a〜33dに対応して周方向に曲線を描く突起形状である。内歯車ロック受部30a〜30d、31a〜31d及びロック部32a〜32d、33a〜33dは、内歯車ロック手段として機能する。
【0031】
前記のように構成される入力軸26、内歯車20及びキャリア22を組み立てるに際しては、先ず、入力軸26をハウジング12aの軸受部34aに挿入し、出力軸28をハウジング12bの軸受部34bに挿入し、前記キャリア22の外側に内歯車20を嵌合する。
【0032】
そして、入力軸26の太陽歯車16を遊星歯車18a、18b、18cに噛合するようにハウジング12aとハウジング12bとを接合し、ねじ止めすることにより、前記ハウジング12a、12bの内部に遊星歯車機構14が収装される(図5参照)。
【0033】
次に、前記参考例に係る減速比自動切換装置10の動作について説明する。先ず、図示しない回転駆動源を付勢して回転駆動源の回転駆動力を、入力軸26を介して太陽歯車16に伝達する。この回転駆動力は、入力軸26から出力軸28の方向(図2の矢印Z方向)に見て、入力軸26及び太陽歯車16を時計方向に回転させるものとする。
【0034】
入力軸26に低負荷の回転力が伝達されると、太陽歯車16、遊星歯車18a、18b、18c、インナ部23及び内歯車20間では粘性抵抗体が用いられているため、この粘性抵抗体の粘性抵抗によって静摩擦力が働くために、遊星歯車18a、18b、18cは自転することなく矢印方向に公転(これをクロスした矢印方向で示す。以下同様)し、内歯車20も矢印方向に公転(太字の矢印方向で示す。以下同様)し、キャリア22も一体となって時計方向に公転する(図6参照)。
【0035】
すなわち、図6において、太陽歯車16が矢印方向に回転(斜線の矢印方向で示す。以下同様)すると、低回転であるためにインナ部23と内歯車20との間の粘性抵抗体によって、静摩擦力が作用し、インナ部23と、内歯車20と、遊星歯車18a、18b、18cと、太陽歯車16が一体化して回転するに至る。
【0036】
次に、予め設定されたトルクを越える負荷が出力軸28を介してキャリア22に付与された場合、太陽歯車16が回転することにより、遊星歯車18は公転せずに太陽歯車16と反対方向である反時計方向に自転(白抜き矢印方向)し、遊星歯車18と噛合している内歯車20は反時計方向に回転することとなる(図7参照)。
【0037】
すなわち、出力軸28が付与される負荷によって回転速度が低下すると、前記出力軸28と一体的に形成されたキャリア22も回転速度が低下するに至る。しかしながら、内歯車20は従前のまま回転しようとするために、換言すれば、キャリア22の回転速度よりも内歯車20の回転速度が大であるために、前記内歯車20とキャリア22の間の粘性抵抗が増加する。この粘性抵抗の増大に伴い、遊星歯車18a、18b、18c及びそれらに噛合する内歯車20がはすば歯車であることから、その歯筋方向にスラスト力を生じ、図8に示すように、内歯車20が矢印方向Z1へと移動することになる。
【0038】
この結果、内歯車ロック受部31bとロック部33b、内歯車ロック受部31cとロック部33cが噛合し、内歯車20がロック状態になって、更なる移動が出来なくなる。前記内歯車20がロック状態になることにより、太陽歯車16の図6における斜線矢印方向の自転によって遊星歯車18a、18b、18cが反時計方向に自転しながら、キャリア22と共に時計方向に公転し(図9参照)、出力軸28に対し減速された回転速度と増大されたトルクとが伝達される。この場合、前記トルクは遊星歯車18a、18b、18cと内歯車20とのギア比に対応した力となる。
【0039】
次いで、内歯車20のロック状態を解除するために、回転駆動方向を反転させる。すなわち、入力軸26を介して太陽歯車16を反時計方向に回転させる。この結果、図10に示すように、太陽歯車16の回転によって遊星歯車18a、18b、18cが時計方向に自転しながら、キャリア22と共に反時計方向に公転する(図10参照)。
【0040】
太陽歯車16が反時計方向への回転を開始した直後は、内歯車20は、ロック状態、すなわち、停止した状態であるために、キャリア22と内歯車20の間には、相対的回転速度数の差が生じることにより、内歯車20とインナ部23間の粘性抵抗が増大する。この内歯車20とインナ部23間の粘性抵抗の増大並びに遊星歯車18a、18b、18c及び内歯車20がはすば歯車あることから、歯車円筒面に螺旋状に形成された歯筋の方向にスラスト力が生じる。
【0041】
このスラスト力によって、内歯車20がZ1方向と逆方向に平行移動することとなる。内歯車20がZ1方向と逆方向に且つ時計方向に回転しながら平行移動し、内歯車20の内歯車ロック受部30がハウジング12bのロック部32から離間し、内歯車20のロック状態が解除される。
【0042】
前記のように、内歯車20のロック状態が解除されると、太陽歯車16の反時計方向の回転に合わせて、遊星歯車18a、18b、18c、内歯車20及びキャリア22が再び一体となって、太陽歯車16の周りを反時計方向に公転し(図11参照)、図5に示す初期位置に復帰する。すなわち、内歯車20のロック状態が解除された後、太陽歯車16が反時計方向へと高速度で回転すると、遊星歯車18a、18b、18cはその自転をすることなく反時計方向へと回転し、内歯車20も反時計方向へと自転する。
【0043】
前記の場合は、入力軸26及び太陽歯車16を時計方向に回転させている状態を説明したが、これら入力軸26と太陽歯車16を反時計方向に回転させた場合も同様の動作及び効果が達成される。
【0044】
すなわち、入力軸26及び太陽歯車16を反時計方向に回転させ、この状態で、予め設定されたトルクを越える負荷が出力軸28を介してキャリア22に付与された場合には、図12に示すように、内歯車ロック受部30bとロック部32b、内歯車ロック受部30cとロック部32cが噛合し、内歯車20がロック状態になる。
【0045】
さらにまた、回転駆動力を反転し、入力軸26を介して太陽歯車16を時計方向に回転させることにより、内歯車20がロック状態から解除され、図5に示す初期位置に復帰する。
【0046】
一方、図8に示されるように内歯車20がロック状態にあるとき、出力軸28へ付与される負荷を減少させることにより、前記内歯車20のロック状態の解除を行うことができる。
【0047】
すなわち、出力軸28への負荷が減少した状態では、太陽歯車16の時計方向の回転によって遊星歯車18a、18b、18cが反時計方向に自転しながら、キャリア22と共に時計方向に公転し、遊星歯車18a、18b、18cと噛合している内歯車20は時計方向に回転する(図13参照)。
【0048】
この状態において、内歯車20とインナ部23間の粘性抵抗体によって、内歯車20の回転速度がキャリア22の回転速度よりも小さくなり、前記キャリア22と内歯車20の間には、相対的回転速度数に差が生じ、その結果、内歯車20とインナ部23間の粘性抵抗が増大する。この内歯車20とインナ部23間の粘性抵抗体の増大並びに遊星歯車18と内歯車20がはすば歯車あることから、歯車円筒面に螺旋状に形成された歯すじの方向にスラスト力が生じる。
【0049】
さらに、図14に示すように、内歯車ロック受部31cとロック部33cは、周方向に曲線を描く形状となっているために、内歯車20が時計方向に回転することにより、Z1方向と逆方向に前記スラスト力と共に力が作用し、内歯車20が平行移動することとなる。すなわち、内歯車20がZ1方向と逆方向に且つ時計方向に回転しながら平行移動し、内歯車ロック受部31a〜31dがロック部33a〜33dから離間し、内歯車20のロック状態が解除される。
【0050】
参考例に係る減速比自動切換装置10では、太陽歯車16、遊星歯車18及び内歯車20に、はすば歯車を用い、キャリア22に設けられたインナ部23と内歯車20との間に粘性抵抗体を設けることにより、予め設定されたトルクを超える負荷がキャリア22に付与された場合に、内歯車20とキャリア22との相対的回転速度差に基づいて、内歯車20が入力軸26方向又は出力軸28方向に平行移動し、出力軸28からアクチュエータの変位部材に伝達される減速比を自動的に切り換えることができる。
【0051】
また、アクチュエータの変位部材が往路で一旦停止した後に、再び、往路方向に変位する場合も容易に内歯車20のロック状態も解除し、減速比を自動に切り換えることが可能となり且つ、アクチュエータの変位部材を、低トルク、高速で往路に沿って変位させることができる。
【0052】
なお、このアクチュエータには、例えば、リニアアクチュエータ、ロータリーアクチュエータ等の種々のアクチュエータが含まれることは勿論である。
【0053】
次に、本発明の実施形態に係る減速比自動切換装置100を図15及び図16に示す。
【0054】
減速比自動切換装置100は、参考例に係る減速比自動切換装置10に対して、ハウジング12a、12bを3分割された第1〜第3ハウジング212a、212b、212cで構成し、キャリア22をキャリア222a、222bで構成し、遊星歯車機構214内に一対のOリング240a、240b、入力軸リング242を有し、ハウジング12a内に形成されていたロック部32a〜32dをロック板244aにロック部232a〜232dとして設け、ハウジング12b内に形成されていたロック部33a〜33dをロック板244bにロック部233a〜233dとして設けた点で相違している。
【0055】
第1ハウジング212aは円環状であり、入力軸226を回転自在に軸支するための軸受部234aが設けられ、第2ハウジング212bは、第1ハウジング212aと同様に円環状であり、出力軸228を回転自在に軸支するための軸受部234bが設けられ、第3ハウジング212cは円筒状に形成されて前記第1ハウジング212aと第2ハウジング212bとの間に介装される。
【0056】
ロック板244aは円環状であり、後述する内歯車220が入力軸226方向に平行移動した場合に、後述する内歯車ロック受部230a〜230dと係合するための円弧状突起からなるロック部232a〜232dが相互に対向するように設けられている。
【0057】
ロック板244bは、ロック板244aと同様に円環状からなり、後述するように内歯車220が出力軸228方向に平行移動した場合に、内歯車ロック受部231a〜231dと係合するための円弧状突起からなるロック部233a〜233dが相互に対向するように設けられている。
【0058】
なお、内歯車ロック受部230a〜230dとロック部232a〜232d又は内歯車ロック受部230a〜230dとロック部232a〜232dが係合する場合には衝撃力が作用し、内歯車ロック受部230、ロック部232は摩耗しやすくなる。
【0059】
この摩耗を防ぐためには、内歯車ロック受部230、ロック部232の円弧状突起部同士の接触面積を大きくし、又は内歯車ロック受部230、ロック部232に多くの円弧状突起部を設けると好ましい。
【0060】
また、摩耗を防ぐための他の方法としては、内歯車220とロック板244a、244bの機械的強度を高める方法を採用することもできる。機械的強度を高める場合には、内歯車220とロック板244a、244bのロックウエル硬度(HRC)を50以上にすることが好ましい。さらに、摩耗を防ぐための他の方法としては、内歯車220とロック板244a、244bの材料を同じにして機械的強度を同等にする方法がある。
【0061】
内歯車220とロック板244a、244bの材料は同じものであれば、特に限定されるものではないが、例えば、ポリアセタールを用いて内歯車220とロック板244a、244bを形成することができる。ポリアセタール等の樹脂系の材料を用いた場合には、内歯車220とロック板244a、244bの自重を軽くすることができるために、内歯車220とロック板244a、244bが接触するときに発生する音を低減することができる。
【0062】
遊星歯車機構214は、入力軸226と一体的に形成された太陽歯車216と、前記太陽歯車216の周方向に沿って約120度の角度で互いに離間して噛合し、公転及び自転する遊星歯車218a、218b、218cと、内歯車220、キャリア222a、222b、Oリング240a、240b及び入力軸リング242を備えている。
【0063】
前記キャリア222bは、周方向に沿って複数個に分割形成されたインナ部223とこのインナ部223から前記第2ハウジング212bに指向して突出する出力軸228を有する。前記インナ部223の内径部に前記太陽歯車216が臨入する。前記インナ部223には、120度ずつ等角度で離間する窓部221が形成され、前記遊星歯車218a、218b、218cは、前記窓部221に臨むように設けられる。前記遊星歯車218a、218b、218cは、この場合、ピン224を用いて一方のキャリア222aと他方のキャリア222bとの間に回転自在に軸支される。
【0064】
また、前記遊星歯車218a、218b、218cの外周側には、円筒状で内周に内歯246が刻設された大径な内歯車220が嵌合し、前記内歯246と噛合する。また、前記キャリア222bの側周面には、鋼球248とばね250から構成される係止手段252を取り付けるための穴254が設けられ、内歯車220の内周面の前記係止手段252に対応する位置に環状の溝256が設けられている。
【0065】
例えば、アクチュエータとして無負荷又は低負荷で駆動しても入力軸26と出力軸28との間に回転数のずれが発生する場合があり、前記回転数のずれによって内歯車20が軸方向に移動するおそれがある。
【0066】
これに対し減速比自動切換装置100では、無負荷又は低負荷で駆動され入力軸226と出力軸228との間で回転数のずれが発生しようとする場合であっても、内歯車220が入力軸226方向又は出力軸228方向に移動するのを阻止して無負荷又は低負荷時における入力軸226と出力軸228との回転数のずれを防止する前記係止手段252が設けられている。
【0067】
従って、前記係止手段252を設けることにより、内歯車220が入力軸226方向又は出力軸228方向に移動することが阻止され(図17A参照)、無負荷又は低負荷時における内歯車220とロック板258a、258bとの当接が回避されて当接音の発生を防止することができる。
【0068】
逆説的にいうと、前記係止手段252を設けない場合には、無負荷又は低負荷時において、内歯車220が入力軸226方向又は出力軸228方向に移動し内歯車220とロック板258a、258bとが当接して当接音が発生する。例えば、前記内歯車220が出力軸228方向に移動したとき、前記内歯車220は入力軸226側からみて時計回り方向に回転しているため、内歯車ロック受部231aとロック板244bのロック部233bとが噛み合うことがなく当接し、当接音が発生する。
【0069】
太陽歯車216、遊星歯車218a、218b、218c及び内歯車220は、参考例に係る減速比自動切換装置10と同様に、はすば歯車で構成されている。この場合、遊星歯車218a、218b、218cとキャリア222bのインナ部223との間及び遊星歯車218a、218b、218cと内歯246の間には、粘性抵抗を得るために、粘度の高いオイルやグリス等が充填乃至塗布されている。
【0070】
なお、粘性抵抗を効果的に得るためには、キャリア222bのインナ部223と内歯車220の内歯246の歯先との間のクリアランスが、0.1mm以下であることが好ましい。
【0071】
太陽歯車216、遊星歯車218a〜218c及び内歯車220(内歯246)を構成するはすば歯車のねじれ角θは、25度以上45度以下に設定されるとよく、好ましくは30度以上40度以下に設定されるとよい(図18参照)。
【0072】
この場合、はすば歯車のねじれ角θを45度を超える角度に設定すると、例えば、遊星歯車218a〜218cに対して軸方向に変位する力が付与され、前記遊星歯車218a〜218cの端面がキャリア222b(222a)と摺動し、前記遊星歯車218a〜218cとキャリア222b(222a)との間に過大な摩擦抵抗が作用して、最悪の場合、前記遊星歯車218a〜218cの回転が阻止されるという不具合がある。
【0073】
一方、はすば歯車のねじれ角θを25度未満に設定すると、内歯車220が軸方向に向かって変位する力(スラスト力)が弱くなって、前記内歯車220の応答感度が劣化するという不具合がある。
【0074】
また、粘性抵抗体として用いられるオイルやグリス等の粘度は、約10000〜100000(cSt)であることが好ましい。さらに、粘性抵抗体の粘性抵抗は、上述した、クリアランスの幅、グリス等の粘度の他にせん断速度によっても変化させることができる。
【0075】
また、前記オイルやグリス等が前記内歯車220から漏出することを防止するために、前記内歯車220とキャリア222aとの間にOリング240aが設けられると共に、前記内歯車220とキャリア222bとの間にOリング240bが設けられている。
【0076】
前記一対のOリング240a、240bは、それぞれ、第1シール手段として機能するものであり、例えば、NBR等のゴム製材料によって形成されるとよい。
【0077】
この場合、前記Oリング240a、240bのつぶし量は、略円形状の縦断面積の約0.5%以上1.5%以下に設定され、好ましくは約1%となるように設定されるとよい。前記つぶし量が1.5%を超えると回転抵抗があまりに大きくなって歯車全体の効率が低下し、一方、前記つぶし量が0.5%未満であるとシール機能が低下してグリスが漏出してしまうからである。
【0078】
実験では、硬度70でNBRからなるJIS規格の縦断面積1.76mm2からなるOリングを用い、つぶし量の縦断面積を0.018mm2に設定した。
【0079】
なお、前記つぶし量とは、Oリング240a、240bが溝部等に装着されたときの太さの減少量であって、いわゆる、「つぶししろ」をいう。
【0080】
さらに、遊星歯車218a、218b、218cと噛合する太陽歯車216から入力軸226側へ漏出するオイルやグリス等を防ぐために入力軸リング242が環状溝を介して入力軸226に装着されている。前記入力軸リング242は、第2シール手段として機能するものであり、例えば、潤滑性を有するシリコーンゴム等のゴム製材料によって形成されるとよい。
【0081】
縦断面略X状からなる前記入力軸リング242のつぶし量は、前記Oリング240a、240bと同様に、縦断面積で約0.5%以上1.5%以下に設定され、好ましくは約1%となるように設定されるとよい。
【0082】
この場合、縦断面略X状からなる入力軸リング242における通常のつぶし量に設定すると回転抵抗が過大となるため、縦断面積で約0.5%以上1.5%以下である約1%に設定した。このような縦断面略X状からなる入力軸リング242のつぶし量の設定により、キャリア222aと入力軸リング242とを密着させ、入力軸226と一体的に回転するカラー部材を、前記カラー部材の環状溝内に装着された入力軸リング242に対して空回りさせた状態であっても十分なシール効果を得ることができた。
【0083】
前記Oリング240a、240b、入力軸リング242の形状は、Oリング240a、240bの断面形状が略長円状又は略円形状であることが好ましく、また、入力軸リング242の断面形状は略X状であることが好ましい。
【0084】
前記内歯車220の円筒状の両端部にはそれぞれ周方向に湾曲し且つ軸線方向に所定長だけ突出する複数の内歯車ロック受部230a〜230d、231a〜231dが形成されている。内歯車ロック受部230a〜230d、231a〜231dは、図27に示すようにロック部232a〜232d、233a〜233dに対応して周方向に沿って曲線状で且つ突起形状に形成される。なお、内歯車ロック受部230a〜230d、231a〜231d及びロック部232a〜232d、233a〜233dは、内歯車ロック手段として機能するものである。
【0085】
第1〜第3ハウジング212a、212b、212c及びロック板244a、244bには、入力軸226、内歯車220及びキャリア222a、222bを組み立てるためのねじ258を挿入するための組立穴260が各々に設けられている。
【0086】
前記ロック板244aのロック部232a〜232d、ロック板244bのロック部233a〜233d及び前記内歯車220の内歯車ロック受部230a〜230d、231a〜231dは、相互に噛み合う爪部として機能するものであり、この爪部の立ち上がり角度γについて考察する。
【0087】
前記爪部の高さを低くしすぎると爪部の摩耗により引っかかりがなくなり、かみ合い機能の早期低下となり、一方、前記爪部の高さを高くしすぎると爪部の根本に付与される応力が過大となり、繰り返し付与される衝撃によって、根本部分から爪部の割れが発生するおそれがあるからである。
【0088】
先ず、内歯車220の発生推力(スラスト力)であるF1、F2が以下のように表される(図19及び図20参照)。
【0089】
F1=(2π・η・β・T)/{π・dp・tan(90−α)}
F2={(2β・T)/di}
但し、
α:太陽歯車のねじれ角
β:増力比(減速比)
γ:爪部の立ち上がり角度
η:太陽歯車の滑りねじとしてのねじ効率
dp:太陽歯車のピッチ円直径
di:内歯車の外径(爪部のトルクがかかる中心)
T:入力トルク
ベクトルを用いた力の分力によって、f1、f2が以下のように表される。
【0090】
f1={(2π・η・β・T)/π・dp・tan(90−α)}・cosγ
f2={(2β・T)/di}sinγ
相互に噛み合った爪部同士が抜けないようにするために、f1>f2を条件として式を整理すると、
tanγ<(η・di)/{dp・tan(90−α)}
と表される。そこで、前記式tanγ<(η・di)/{dp・tan(90−α)}を充足するように爪部の立ち上がり角度γを設定するとよい。
【0091】
例えば、内歯車220がロック板244a(244b)にまだロックされていないスリップ状態において、ねじ効率η=0.7、内歯車220の外径di=φ27、太陽歯車216のピッチ円直径dp=φ7.39、ねじれ角α=30度とすると、爪部の立ち上がり角度γは、上式からγ<16.45となり、確実に噛み合わせが発生するためには、爪部の立ち上がり角度γを16.45度以下に設定するとよい。
【0092】
なお、前記γを0度未満に設定してしまうと、爪部が抜けなくなってしまうので、必ず0度以上に設定する必要がある。この結果、爪部の立ち上がり角度γに関する上式は、以下のように表される。
【0093】
0≦tanγ<(η・di)/{dp・tan(90−α)}
【0094】
本発明の実施形態に係る減速比自動切換装置100は、参考例に係る減速比自動切換装置10と基本的には同様な動作を行う。但し、減速比自動切換装置100では、減速比自動切換装置10と比較して係止手段252を有するため、無負荷又は低負荷で駆動している場合、前記係止手段252の鋼球248が、ばね250のばね力によって内歯車220の溝256側に押圧されて保持されることにより、内歯車220の出力軸228方向又は入力軸226方向への移動を防ぐことができる(図17A参照)。
【0095】
出力軸228に予め設定されたトルクを越える負荷が出力軸228に付与された場合には、鋼球248がばね250のばね力に打ち勝って僅かにばね250側に変位し、前記鋼球248が溝256を乗り越えて該溝256から離脱して保持状態が解除されることにより、内歯車220が出力軸228方向又は入力軸226方向に移動する(図17B、17C参照)。
【0096】
次に、本発明の他の実施形態に係る減速比自動切換装置300を図21〜図23に示す。なお、図15及び図16に示す前記実施形態に係る減速比自動切換装置10と同一の構成要素には、同一の参照符号を付し、その詳細な説明を省略する。
【0097】
この他の実施形態に係る減速比自動切換装置300では、入力軸226側及び出力軸228側にそれぞれ同一構成からなるクラッチ機構302が設けられている点で相違している。このクラッチ機構302は、回転する一方向で空転しその逆方向で回転を阻止してロックする機能を有するものである。
【0098】
このクラッチ機構302は、図23に示されるように、入力軸226(出力軸228)に外嵌されて該入力軸226と一体的に回転する第1円筒部材304と、前記第1円筒部材304の外周面に形成された一組の第1環状溝306に沿って転動する複列の第1ボール群308と、複数の第1ボルト310を介して第1ハウジング212a(第2ハウジング212b)に固定されると共に前記第1円筒部材304に外嵌される第2円筒部材312とを含む。
【0099】
前記第2円筒部材312の内周面には、前記第1環状溝306に対向し前記第1ボール群308が転動する一組の第2環状溝314が形成され、前記第2円筒部材312の外周面には、第3環状溝316に沿って転動する複列の第2ボール群(第1ベアリング)318が設けられる。
【0100】
さらに、前記クラッチ機構302は、内周面に前記第3環状溝316に対向し前記第2ボール群318が転動する一組の第4環状溝320が形成されると共に、内歯車220が入力軸226方向に平行移動したときに内歯車ロック受部230a〜230dと係合するための円弧状突起部からなるロック部232a〜232dが周縁部に突出形成された第3円筒部材(円筒体)322と、前記第3円筒部材322に外嵌され、両鍔部に沿って内周面に沿って並設された複数のニードルベアリング(第2ベアリング)324を有する第4円筒部材326と、前記第4円筒部材326に外嵌され、複数の第2ボルト328を介して第1ハウジング212a及び第3ハウジング212cに固定される第5円筒部材330とを備える。
【0101】
なお、前記第4円筒部材326の内周面には、個々のニードルベアリング324を保持する断面楔状の溝部(図示せず)が形成され、前記ニードルベアリング324が前記断面楔状の溝部によって係止されることによりロック部232a〜232dを有する第3円筒部材322がロック状態となる。また、前記断面楔状の溝部には、ニードルベアリング324を図示しない前記溝部から離間させる方向に付勢する、例えば、板ばね等の復帰ばね(図示せず)が設けられる。この復帰ばねのばね力によってロック状態が解除される。
【0102】
他の実施形態では、内歯車220が入力軸226方向又は出力軸228方向に平行移動した場合、前記内歯車220の内歯車ロック受部230a〜230dと第3円筒部材322のロック部232a〜232dとが係合する際、第2ボール群318及びニードルベアリング324の転動作用によって前記ロック部232a〜232dを有する第3円筒部材322が回転可能に設けられているため、当接した際の衝撃が緩衝されて当接音を極力抑制することができる。従って、ロック部232a〜232d及び内歯車ロック受部230a〜230dの爪部の摩耗を抑制して耐久性を向上させることができる。
【0103】
換言すると、前記内歯車220の内歯車ロック受部230a〜230dと第3円筒部材322のロック部232a〜232dとが係合する際、前記第3円筒部材322のロック部232a〜232dが第2ボール群318及びニードルベアリング324によって回動可能に保持されているため、前記ロック部232a〜232dと内歯車ロック受部230a〜230dとが当接する際の衝撃が緩和されて当接音の発生を抑制することができる。
【0104】
次に、軸方向に沿って突出して形成されたインナ部223(図15参照)を有する出力軸228側のキャリア222bの変形例を図24〜図28に示す。
【0105】
入力軸226側及び出力軸228側にそれぞれ設けられた一組のキャリア222a、222bには、軸方向に沿って離間して配置された一組のOリング240a、240bが装着され、前記Oリング240a、240bのシール機能によって遊星歯車機構内にグリスが保持されている。
【0106】
この場合、出力軸228側のキャリア222bに形成されるインナ部223の形状は、前記Oリング装着溝、入力軸リング242の摺動面、内歯車220の内周面とキャリア222bの外周面との間のクリアランスを狭小としてせん断トルクを増大させることが可能な形状とすることが好ましい。
【0107】
そこで、内歯車220の内歯246の歯先円とキャリア222bの隙間部分の面積を大きくすることができると共に、グリス(潤滑油)の油溜まり部となるような形状に設定している。
【0108】
第1変形例に係るキャリア400は、図24及び図25に示されるように、インナ部223の外径面に軸方向と平行な複数(例えば、3条)の溝部402を形成している点に特徴がある。
【0109】
第2変形例に係るキャリア410は、図26に示されるように、インナ部223の外径面に軸方向と直交する周方向と平行な複数の環状溝412を形成している点に特徴がある。
【0110】
第3変形例に係るキャリア420は、図27に示されるように、インナ部223の外径面に軸方向と所定角度で交差する複数の傾斜状溝部422が並設されている点に特徴がある。
【0111】
第4変形例に係るキャリア430は、図28に示されるように、インナ部223の外径面に断面半球状の凹部からなる複数のディンプル432が軸方向に沿って直線状に延在し且つ軸方向と平行に複数条形成されている点に特徴がある。
【0112】
次に、以上のように構成される減速比自動切換装置100、300の適用分野及び利用分野について説明する。
【0113】
この減速比自動切換装置100、300は、動力源に対する負荷変動が発生することにより、負荷抵抗の増大・減少時に補正して動くシステムである回転系の全ての分野に適用乃至利用することができる。
【0114】
例えば、車両、船舶、飛行機、農業機械(耕耘機、芝刈り機等)、戦車、重量車両(大型建設機械、鉱山用機械等)、プレス機械、コンプレッサ、発電機、食品機械、工作機械、工作機械、リフタ機構、介護用変速装置、上下水平移動装置、車いす(電動又は手動の車いすを含む)、ドアの開閉機構、スライドドアの開閉機構、スライドドアの閉時の増し閉め機構、各種ルーフの開閉機構、各種ブレーキ機構(ドラムブレーキ、ディスクブレーキを含む)等に適用される。
【0115】
なお、車両では、動力エンジン(ガソリンエンジン、ディーゼルエンジンを含む)、燃料電池で起動するモータ、ハイブリッドシステム等が搭載された自動車が含まれる。その際、回転駆動源としては、電動モータに限定されるものではなく、人力、内燃機関、水力、油圧・空圧源であってもよい。
【0116】
高速回転型モータを高トルクモータとして使用可能とするものであり、トルクが不要な領域では、高速回転が可能となる。換言すると、負荷が小さくなることにより、従来のギャードモータを高速で回転させることができる。モータの直径を縮系して小型化することができる。
【0117】
次に、車両に使用される部位としては、ワイパ用モータ、パワーウインド用モータ、パワーシート用モータ、スライドドア用の駆動モータ、自動車の駆動用モータ等が挙げられる。ワイパ用モータに適用した場合、雪、ブレード等の抵抗が増大したときであってもワイパを円滑に起動させることができる。自動車の車輪駆動用モータとしては、図29に示されるように、直流モータ、誘導モータ、インホイールモータ等の各種モータ500を含む。前記モータ500の小型化を推進することができると共に、障害物や登り坂のときに出力(トルク)を増大させることができる。前記インホイールモータでは、小型で自力式の変速機を有効に活用することができる。それぞれのホイールに組み込んだ場合、従来の自動変速機では大型化されていて組み込むことが困難となるからである。従来からインホイールモータに遊星ギヤ機構を組み込んだものが知られており、これらを本実施の形態に係る減速比自動切換装置と組み合わせて用いることにより、より一層小型な変速装置付インホイールモータを構成することができる。
【0118】
次に、本実施の形態に係る減速比自動切換装置100(300)と遊星ギヤ機構との組み合わせパターンを、図59A〜図59Dに示す。図59A及び図59Bに示される各パターンでは、減速比自動切換装置100(300)の入力側又は出力側に、それぞれ、単一の遊星ギヤ機構501を配設することにより、減速比を1/12〜1/4の範囲内に設定することができる。
【0119】
図59Cに示されるパターンでは、減速比自動切換装置100(300)の入力側及び出力側の両方に、それぞれ、単一の遊星ギヤ機構501を配設することにより、減速比を1/48〜1/16の範囲内に設定することができる。
【0120】
図59Dに示されるパターンでは、減速比自動切換装置100(300)を2つ組み合わせることにより、減速比を1/9〜1/3〜1/1の範囲内に設定することができる。
【0121】
モータ入力パターンとしては、回転数に対してトルクが一定のタイプ(図30参照)であってもよいし、あるいは回転数に対してトルクが変化するタイプ(図31参照)のいずれであってよい。
【0122】
また、遊星ギヤ内部の抵抗特性の切換パターンとしては、回転速度差と発生トルクとの関係が、完全ビスカスカップリング特性(潤滑油特性のみ)によってトルクが直線状(比例的)に変化するもの(図32A参照)、前記ビスカスカップリング特性に静止摩擦発生機構(例えば、図34Bに示されるように、バネ502によって摩擦板505を押圧して静止摩擦を発生させる機構)を含みトルクが曲線的に変化するもの(図32B参照)、キャリア/内歯車にトルクリミットタイプを含みトルクが一旦低下したのち一定に保持されるもの(図33参照)、キャリア/内歯車にディテントタイプ(例えば、図34Aに示されるように、バネ502によってボール504を押圧することにより係止作用を営むもの)を含むもの、等のいずれを用いてもよい。
【0123】
この場合、遊星ギヤ機構の内部に油(潤滑油等)を封じ込めるシール手段として、例えば、Oリングやウェアリング等は、静止摩擦や流体潤滑特性を含む抵抗特性を有するため、簡便なシール手段として用いることができる。また、Oリングの弾性体を図32Bに示されるばね部材に代替して利用してもよい。このような構造は、油圧シリンダのシール手段としてよく利用されている。
【0124】
また、前記減速比自動切換装置100、300をロックアップ機構又は遠心クラッチ機構(後述する)と組み合わせることにより、高速回転時のスリップロス(図35に示される斜線部分参照)をなくすことができ、前記ロックアップ機構又は遠心クラッチ機構の効率(トルクと回転数との関係における動力特性)を向上させることもできる。
【0125】
なお、遠心クラッチ機構としては、遠心ウェイトとバネによって遊星ギヤを固定する構造のもの、また、WO2004/61318公報に開示されているような多数の転動体と案内クラッチ板によるクラッチ構造のものであってもよい。
【0126】
例えば、図60は、図2に示された遊星歯車機構14と入力軸26との間にレブロック型の遠心クラッチ580及び多板摩擦クラッチ582を組み入れた構造を示したものであり、また、図61は、図22に示された遊星歯車機構214と入力軸226との間にレブロック型の遠心クラッチ580及び多板摩擦クラッチ582を組み入れた構造を示したものである。
【0127】
図60及び図61では、入力軸26(226)が所定方向に回転すると、前記入力軸26(226)に連結された遠心クラッチ580及び多板摩擦クラッチ582が該入力軸26(226)と一体的に回転する。この場合、遠心クラッチ580のクラッチプレート584の内部空間に設けられたボール(鋼球)586が遠心力の作用下に半径外方向に沿って変位しようとする力が発生する。この力が前記ボール586を保持しようとする図示しないクラッチスプリングに勝るとボール586が半径外方向に沿って変位してプッシュロッド588を押圧し、前記プッシュロッド588の押圧力によって多板摩擦クラッチ582を圧着させてクラッチ力が発生する。
【0128】
図2では、ワンウェイクラッチ(ONEWAY CLUTCH)としてスパイラルジョークラッチ(SPIRAL-JAW CLUTCH )が用いられているが、本実施の形態では、ワンウェイクラッチとしてジョー(JAW)を用いるのではなく、ボール、ローラ、スプラグタイプのワンウェイクラッチをベアリングと一体的に組み付けて構成したものである。その際、リングギヤとの結合には、スクウェアジョークラッチ(SQUARE-JAW CLUTCHやカービックカップリングを用いるとよい。
【0129】
さらに、前記減速比自動切換装置100、300を、プレス加工装置、曲げ加工装置、型閉め加工装置、射出成形装置、ダイカスト鋳造成形装置等に適用するとよい。これらの各種加工/成形装置では、生産効率を向上させるために、可動要素が変位終端の近傍で大きな力(高トルク)を発生させ且つ前記変位終端までの到達時間を短縮させることが要求される。
【0130】
すなわち、可動要素(図36に示される下型506に対して接近乃至離間する上型508参照)の1つのストロークにおいて、大きな加速度を加えて高速で変位させ、ほとんど仕事をしないまま迅速に変位終端位置まで移動し、その変位終端位置で大きな力を発生させる必要があるからである。
【0131】
これらの各種加工/成形装置では、変位終端位置で、例えば、トグルリンク機構やカム機構等の可変速機構と連結されて使用される場合が多いが、前記減速比自動切換装置100、300は、簡単な自力式の可変速機構であってコストを低減させてFA機器に有益とすることができる。加えて、電動サーボガンの早送り機構に設けられたサーボモータ部分に対して前記減速比自動切換装置100、300を組み入れることにより、サーボモータを小型化し、ロボット先端部の負荷を小さくして特性向上を図ることができる。
【0132】
図37は、減速比自動切換装置100、300が組み付けられたモータ510によって駆動されるアキシャルポンプ512から吐出される圧油によりピストン514及びピストンロッド516が変位する状態を示す。なお、本出願人は、例えば、米国特許出願公開第2004−71563号公報、米国特許出願公開第2005−87068号公報、米国特許出願公開第2005−22523号公報等に示される電動油圧システムを既に提案しており、この電動油圧システム内に配設されたアキシャルポンプを駆動させるモータに対して減速比自動切換装置100、300を組み付けることにより、前記モータの小型・軽量化を図ることができる。
【0133】
また、図38は、減速比自動切換装置100、300が組み付けられたモータ518による遊星歯車機構520の駆動作用下にナット部材522を所定方向に回転させ、前記ナット部材522に係合するボールねじ軸524を矢印B1又はB2方向に変位させた状態を示す。
【0134】
さらに、図39は、減速比自動切換装置100、300が組み付けられたモータ526によってボールねじ軸528を回転させる状態を示す。さらにまた、図40は、減速比自動切換装置100、300が組み付けられたモータ530によって駆動されるアキシャルポンプ532から吐出される圧油により両ロッドタイプのピストン534を変位させた状態を示す。
【0135】
この減速比自動切換装置100、300を、重量物536をコンベア538によって搬送するギャードモータ540(図41参照)又はコンベアモータ、ドリル542を回転させてワークを切削加工する電動ドリル544に設けられたスピンドルモータ546(図42及び図43参照)、ねじ締め機(タッピングねじのねじ締め、通常のねじ締め)に設けられたパルスモータ548(図44参照)、ブラシレスDCモータ、ブラシ付きDCモータ、インダクションモータ、ACサーボモータ等に一体的に組み付けて適用するとよい。
【0136】
前記ギャードモータに適用した場合、前記ギャードモータの高トルク化と、低トルクで負荷が付与されたときの小型高速回転化との両方の機能を達成することができる(図45参照)。
【0137】
この減速比自動切換装置100、300を、ワーク550a、550bをモータ552駆動によって回転させるロータリアクチュエータ554に適用した場合、直線/回転時の低抵抗案内や浮上があって、加速時に高トルクで加速することができることによって高効率からなるFA機器とすることができる。例えば、加速時に大部分のパワーを使用して回転数を上昇させた後、その後に慣性のみでワークを回動させることができる。
【0138】
この減速比自動切換装置100、300を、電動車いす556又は電気自動車(ハイブリッド自動車、燃料電池によって駆動される電動モータ558を搭載した自動車等をいう)に適用した場合、例えば、平坦面から隆起した段差を乗り越えるときに自動的に速度が低下し且つトルクアップさせた状態で前記段差を乗り超えることができる(図48参照)。なお、人力によってハンド回転力をトルクアップさせてもよい。
【0139】
この減速比自動切換装置100、300を、例えば、加締め機用、アーム560を回動させてワークをクランプするクランプ装置562用(図49参照)、型閉め用のカム機構やトグルリンク機構と組み合わせて使用することにより、前記カム機構やトグルリンク機構の作動力を増大させることができる。また、前記作動力が働かないときは高速で変位させることができる。
【0140】
この減速比自動切換装置100、300を、バイス(加工物を固定するクランプとして機能するバイスを含む)、クランプ、チャック(数値制御装置のチャックを含む)等の早送り機構や締め付け機構等に適用するとよい。
【0141】
なお、この減速比自動切換装置100、300を、特開2005−133379号公報に開示された車両用のスライドドア600を駆動させる進退移動手段602のモータ部(図50参照)、米国特許第5730494号公報に開示された電動椅子604を駆動させるリニアアクチュエータ機構のモータ部(図51参照)、米国特許第5041748号公報に開示され飛行機に組み込まれるエレクトロメカニカルアクチュエータ606のモータ部(図52参照)、米国特許第5730232号公報に開示された電動ファスナー608のモータ部又は遊星ギヤ部(図53)、米国特許第5813666号公報に開示されたクランプ装置610の遊星ギヤ部(図54)、米国特許第4869139号公報に開示された自動速度トルク切換装置612の複数の遊星ギヤ部の少なくともいずれか1つ又は複数或いはモータ部(図55)、米国特許第6806602号公報に開示されたエレクトロメカニカルホィールブレーキ装置614のねじ部とモータ部との間(図56)、米国特許第3164034号公報に開示されたトルク変換装置616(図57)、米国特許出願公開第2004−104554号公報に開示された手動車いす618(図58)に対して、それぞれ、適用するとよい。
【0142】
前記米国特許第3164034号公報に開示されたトルク変換装置616の遊星ギヤ部、トルクコンバータ、フルードカップリング部のいずれかと本実施の形態に係る減速比自動切換装置100、300とを代替させることにより、遊星ギヤ機構自体が双方向に対してトルクアップを図ることができると共に、遊星ギヤ機構自体がビスカスカップリング特性を有するフルードカップリングとして使用することができる。
【0143】
また、米国特許出願公開第2004−104554号公報に開示された手動車いす618(図58)のクラッチやギヤ部分に対して本実施の形態に係る減速比自動切換装置100、300を適用することにより、左右車輪のそれぞれが独立に前後方向にトルクアップすることができ、段差があったときに非力な人や障害者や老人等が車いすを駆動させる労力を削減することができる。
【0144】
ところで、太陽歯車216、遊星歯車218a〜218c及び内歯車220を一体的に回転させる要素としては、1)内歯車220と遊星歯車218a〜218cとの間のクリアランス、2)太陽歯車216、遊星歯車218a〜218c及び内歯車220に設けられたはすば歯車のねじれ角、3)太陽歯車216、遊星歯車218a〜218c、内歯車220間の粘性抵抗、4)遊星歯車218a〜218cとこれを軸支するピン24との摩擦抵抗(図3A及び図3Bに示されるオイル又はグリスであって、好適には粘度が調整されたシリコンオイル又はシリコングリス)とが挙げられる。
【0145】
また、内歯車220を入力軸方向又は出力軸方向に平行移動させるスラスト力は、前記内歯車220とキャリア222a(222b)との間の抵抗(粘性抵抗)等によって発生する。
【0146】
この抵抗があまりに大きいとスリップが無くなり伝達効率が向上するが、前記内歯車220を入力軸方向又は出力軸方向に平行移動させるときの抵抗となる。従って、内歯車220及びキャリア222a(222b)間の抵抗は、応答時間や耐久性(寿命)等を考慮して決定されるべきである。
【0147】
ところが、前記スリップは全体の伝達効率を低下させる要因となるため、これを向上させる手段として前記内歯車220と前記キャリア222a(222b)との間の抵抗ではなく、スラスト力に影響を与えない、第2の抵抗として、入力軸226(出力軸228)とキャリア222a(222b)との間の抵抗をある程度の大きさに設定すると、前記内歯車220のスラスト力を増大させることがなくスリップを減少させることができる。
【0148】
この結果、この2つの抵抗の値と比を適宜に配分することによって、前記内歯車220の応答時間を確保しながら、スリップを小さくすることができる。
【0149】
さらに、モータ等の回転駆動源からの入力トルクに基づいて回転運動又は直線運動等の所要の動作を行って出力側機構に伝達する入力側装置では、出力側からの過大な負荷(力)、垂直動作による負荷(重力)、エネルギを貯蓄するスプリング力等が付与される場合がある。このように出力側からの逆入力トルクが付与される場合には、本実施の形態に係る減速比自動切換装置100、300と共に、出力側からの逆入力トルクをロックして入力側に還流させない機能を有する逆入力防止クラッチ(例えば、特開2002−266902号公報、特開平1−69829号公報参照)を前記回転駆動源と前記入力側装置との間に設けるとよい。
【0150】
前記逆入力防止クラッチを設けることにより、動力伝達系における出力側の過大な負荷から入力側装置自体が保護されると共に、回転駆動源から入力トルクが停止した場合のワークの保持、ロック等ができる。鉛直方向に沿ってワークを昇降させる場合には、ワークが停止位置に確実にロックされて入力側機器の損傷を防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0151】
【図1】本発明の参考例に係る減速比自動切換装置の分解斜視図である。
【図2】本発明の参考例に係る減速比自動切換装置の軸線方向に沿った縦断面図である。
【図3】図3Aは、図1に示す減速比自動切換装置を構成する遊星歯車の縦断面図であり、図3Bは、図3AのIIIB−IIIB線に沿った横断面図である。
【図4】遊星歯車と内歯車の噛合部分の部分拡大縦断面図である。
【図5】本発明の参考例に係る減速比自動切換装置の一部切り欠き斜視図である。
【図6】高速回転している状態における太陽歯車、遊星歯車及び内歯車を示す図である。
【図7】予め設定されたトルクを越える負荷がキャリアに付与された場合における太陽歯車、遊星歯車及び内歯車を示す図である。
【図8】本発明の参考例に係る減速比自動切換装置におけるロック状態を示した一部切り欠き斜視図である。
【図9】ロック状態における太陽歯車、遊星歯車及び内歯車を示す図である。
【図10】太陽歯車が反転した直後における太陽歯車、遊星歯車及び内歯車を示す図である。
【図11】太陽歯車が反転し、高速回転している状態における太陽歯車、遊星歯車及び内歯車が示す図である。
【図12】本発明の参考例に係る減速比自動切換装置におけるロック状態を示した一部切り欠き斜視図である。
【図13】図8において出力軸への負荷が減少した状態における太陽歯車と遊星歯車と内歯車の回転方向を示す説明図である。
【図14】図8において、内歯車クラッチとロック部が噛合する部分の拡大図である。
【図15】本発明の実施形態に係る減速比自動切換装置の分解斜視図である。
【図16】本発明の実施の形態に係る減速比自動切換装置の縦断面図である。
【図17】図17Aは、係止手段により内歯車が保持されている状態を示す図であり、図17B、図17Cは、それぞれ、内歯車が係止手段からはずれて出力軸方向又は入力軸方向に水平移動した状態を示す部分拡大縦断面図である。
【図18】はすば歯車のねじれ角を示す説明図である。
【図19】内歯車の発生推力(スラスト力)であるF1及びその分力であるf1の説明に供される図である。
【図20】内歯車の発生推力(スラスト力)であるF2及びその分力であるf2の説明に供される図である。
【図21】本発明の他の実施形態に係る減速比自動切換装置の斜視図である。
【図22】図21に示す減速比自動切換装置の軸線方向に沿った縦断面図である。
【図23】図21に示す減速比自動切換装置に設けられるクラッチ機構の分解斜視図である。
【図24】第1変形例に係るキャリアの斜視図である。
【図25】図24のXXV−XXV線に沿った縦断面図である。
【図26】第2変形例に係るキャリアの斜視図である。
【図27】第3変形例に係るキャリアの斜視図である。
【図28】第4変形例に係るキャリアの斜視図である。
【図29】本発明の実施の形態に係る前記自動減速比切換装置を車輪駆動用のモータに適用した一部省略側面図である。
【図30】回転数とトルクとの関係を示すモータ特性図である。
【図31】回転数とトルクとの関係を示すモータ特性図である。
【図32】図32Aは、回転数とトルクとの関係がリニアである完全ビスカス特性図であり、図32Bは、回転数とトルクとの関係が変化する静止摩擦+ビスカス特性図である。
【図33】回転数とトルクとの関係を示す抵抗特性図である。
【図34】図34Aは、ボールをバネによって押圧して係止するデテント機構を示す縦断面図であり、図34Bは、摩擦部材をバネによって押圧して係止する静止摩擦機構を示す縦断面図である。
【図35】ロックアップ機構又は遠心クラッチ機構の有無によって回転数に対するトルク変化を示す特性図である。
【図36】本発明の実施の形態に係る前記自動減速比切換装置をプレス機に適用した概略構成図である。
【図37】本発明の実施の形態に係る前記自動減速比切換装置をアキシャルポンプを駆動させるモータに適用した概略構成図である。
【図38】本発明の実施の形態に係る前記自動減速比切換装置をボールねじ機構を駆動させるモータに適用した概略構成図である。
【図39】本発明の実施の形態に係る前記自動減速比切換装置をボールねじ軸を駆動させるモータに適用した概略構成図である。
【図40】本発明の実施の形態に係る前記自動減速比切換装置をアキシャルポンプを駆動させるモータに適用した概略構成図である。
【図41】本発明の実施の形態に係る前記自動減速比切換装置をコンベアを駆動させるギャードモータに適用した概略構成図である。
【図42】電動ドリルの正面図である。
【図43】本発明の実施の形態に係る前記自動減速比切換装置を前記電動ドリルのドリルを駆動させるモータに適用した斜視図である。
【図44】本発明の実施の形態に係る前記自動減速比切換装置をねじ締め機のモータに適用した斜視図である。
【図45】前記ギャードモータの回転数に対するトルク変化を示す特性図である。
【図46】本発明の実施の形態に係る前記自動減速比切換装置をワークを回転させるロータリーアクチュエータに適用した斜視図である。
【図47】本発明の実施の形態に係る前記自動減速比切換装置を電動車椅子を駆動させるモータに適用した斜視図である。
【図48】図47に示される電動車椅子が段差を昇る状態を示す側面図である。
【図49】本発明の実施の形態に係る前記自動減速比切換装置をクランプ装置に適用した側面図である。
【図50】本発明の実施の形態に係る前記自動減速比切換装置が適用される従来技術に開示されたスライドドアの正面図である。
【図51】本発明の実施の形態に係る前記自動減速比切換装置が適用される従来技術に開示された電動椅子の斜視図である。
【図52】本発明の実施の形態に係る前記自動減速比切換装置が適用される従来技術に開示されたエレクトロメカニカルアクチュエータの縦断面図である。
【図53】本発明の実施の形態に係る前記自動減速比切換装置が適用される従来技術に開示された電動ファスナーの縦断面図である。
【図54】本発明の実施の形態に係る前記自動減速比切換装置が適用される従来技術に開示されたクランプ装置の縦断面図である。
【図55】本発明の実施の形態に係る前記自動減速比切換装置が適用される従来技術に開示された自動トルク切換装置の縦断面図である。
【図56】本発明の実施の形態に係る前記自動減速比切換装置が適用される従来技術に開示されたエレクトロメカニカルホィールブレーキ装置の縦断面図である。
【図57】本発明の実施の形態に係る前記自動減速比切換装置が適用される従来技術に開示されたトルク変換装置の縦断面図である。
【図58】本発明の実施の形態に係る前記自動減速比切換装置が適用される従来技術に開示された電動車椅子の斜視図である。
【図59】図59A〜図59Dは、それぞれ、本実施の形態に係る減速比自動切換装置100(300)と遊星ギヤ機構との組み合わせパターンを示した概略構成図である。
【図60】図2の減速比自動切換装置を構成する遊星歯車機構と入力軸との間にレブロック型の遠心クラッチ及び多板摩擦クラッチを組み入れた構造を示した縦断面図である。
【図61】図22の減速比自動切換装置を構成する遊星歯車機構と入力軸との間にレブロック型の遠心クラッチ及び多板摩擦クラッチを組み入れた構造を示した縦断面図である。
【符号の説明】
【0152】
10、100、300…減速比自動切換装置
12a、12b、212a〜212c…ハウジング
14、214、520…遊星歯車機構
16、216…太陽歯車
18、18a〜18c、218a〜218c…遊星歯車
20、220…内歯車 21、221…窓部
22、222a、222b、400、410、420、430…キャリア
23、223…インナ部 24、224…ピン
26、226…入力軸 28、228…出力軸
30、30a〜30d、31a〜31d、230、230a〜230d、231a〜231d…内歯車ロック受部
32、32a〜32d、33a〜33d、232、232a〜232d、233a〜233d…ロック部
34a、34b、234a、234b…軸受部
240a、240b…Oリング 242…入力軸リング
244a、244b、258a、258b…ロック板
246…内歯 248…鋼球
252…係止手段 254…穴
256…溝 260…組立穴
302…クラッチ機構


【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転駆動源とアクチュエータとの間に配設され、前記回転駆動源の回転駆動力によって動作する変位部材の減速比を自動的に切り換える装置であって、
前記回転駆動源に連結される入力軸と、前記アクチュエータに連結される出力軸と、はすば歯車である太陽歯車と遊星歯車と内歯車と、前記遊星歯車を回転自在に軸支すると共に、前記遊星歯車の公転に伴って一体的に回転するキャリアとを含む遊星歯車機構と、
前記内歯車に内挿された前記キャリアのインナ部と前記遊星歯車と前記内歯車との間に設けられ、前記内歯車と前記遊星歯車との間でスラスト力を発生させる粘性抵抗体と、
出力負荷の増減に従って前記内歯車を前記スラスト力により入力軸方向又は出力軸方向に平行移動させ、前記内歯車の回転運動を制動させる制動手段と、
を備え、
前記太陽歯車、遊星歯車及び内歯車に設けられたはすば歯車のねじれ角は、25度以上45度以下に設定されることを特徴とする減速比自動切換装置。
【請求項2】
回転駆動源とアクチュエータとの間に配設され、前記回転駆動源の回転駆動力によって動作する変位部材の減速比を自動的に切り換える装置であって、
前記回転駆動源に連結される入力軸と、前記アクチュエータに連結される出力軸と、はすば歯車である太陽歯車と遊星歯車と内歯車と、前記遊星歯車を回転自在に軸支すると共に、前記遊星歯車の公転に伴って一体的に回転するキャリアとを含む遊星歯車機構と、
前記内歯車に内挿された前記キャリアのインナ部と前記遊星歯車と前記内歯車との間に設けられ、前記内歯車と前記遊星歯車との間でスラスト力を発生させる粘性抵抗体と、
出力負荷の増減に従って前記内歯車を前記スラスト力により入力軸方向又は出力軸方向に平行移動させ、前記内歯車の回転運動を制動させる制動手段と、
を備え、
前記制動手段は、遊星歯車機構を収装するハウジングに設けられたロック部と、前記内歯車の周縁部に設けられた内歯車クラッチとからなり、前記ロック部及び前記内歯車クラッチにそれぞれ設けられた爪部の立ち上がり角度γは、以下の関係式を充足するように設定されることを特徴とする減速比自動切換装置。
0≦tanγ<(η・di)/{dp・tan(90−α)}
但し、
α:太陽歯車のねじれ角
η:太陽歯車の滑りねじとしてのねじ効率
dp:太陽歯車のピッチ円直径
di:内歯車の外径(爪部のトルクがかかる中心)
【請求項3】
回転駆動源とアクチュエータとの間に配設され、前記回転駆動源の回転駆動力によって動作する変位部材の減速比を自動的に切り換える装置であって、
前記回転駆動源に連結される入力軸と、前記アクチュエータに連結される出力軸と、はすば歯車である太陽歯車と遊星歯車と内歯車と、前記遊星歯車を回転自在に軸支すると共に、前記遊星歯車の公転に伴って一体的に回転するキャリアとを含む遊星歯車機構と、
前記内歯車に内挿された前記キャリアのインナ部と前記遊星歯車と前記内歯車との間に設けられ、前記内歯車と前記遊星歯車との間でスラスト力を発生させる粘性抵抗体と、
出力負荷の増減に従って前記内歯車を前記スラスト力により入力軸方向又は出力軸方向に平行移動させ、前記内歯車の回転運動を制動させる制動手段と、
を備え、
前記粘性抵抗体が前記キャリアから流出するのを防ぐための第1シール手段が前記キャリアの環状溝に設けられ、
前記第1シール手段は一組のOリングからなり、前記Oリングのつぶし量は、略円形状の縦断面積の0.5%以上1.5%以下に設定されることを特徴とする減速比自動切換装置。
【請求項4】
回転駆動源とアクチュエータとの間に配設され、前記回転駆動源の回転駆動力によって動作する変位部材の減速比を自動的に切り換える装置であって、
前記回転駆動源に連結される入力軸と、前記アクチュエータに連結される出力軸と、はすば歯車である太陽歯車と遊星歯車と内歯車と、前記遊星歯車を回転自在に軸支すると共に、前記遊星歯車の公転に伴って一体的に回転するキャリアとを含む遊星歯車機構と、
前記内歯車に内挿された前記キャリアのインナ部と前記遊星歯車と前記内歯車との間に設けられ、前記内歯車と前記遊星歯車との間でスラスト力を発生させる粘性抵抗体と、
出力負荷の増減に従って前記内歯車を前記スラスト力により入力軸方向又は出力軸方向に平行移動させ、前記内歯車の回転運動を制動させる制動手段と、
を備え、
前記粘性抵抗体が前記入力軸からから流出するのを防ぐための第2シール手段が前記入力軸の環状溝に設けられ、
前記第2シール手段は断面略X状のリングからなり、前記断面略X状のリングのつぶし量は、縦断面積の0.5%以上1.5%以下に設定されることを特徴とする減速比自動切換装置。
【請求項5】
回転駆動源とアクチュエータとの間に配設され、前記回転駆動源の回転駆動力によって動作する変位部材の減速比を自動的に切り換える装置であって、
前記回転駆動源に連結される入力軸と、前記アクチュエータに連結される出力軸と、はすば歯車である太陽歯車と遊星歯車と内歯車と、前記遊星歯車を回転自在に軸支すると共に、前記遊星歯車の公転に伴って一体的に回転するキャリアとを含む遊星歯車機構と、
前記内歯車に内挿された前記キャリアのインナ部と前記遊星歯車と前記内歯車との間に設けられ、前記内歯車と前記遊星歯車との間でスラスト力を発生させる粘性抵抗体と、
出力負荷の増減に従って前記内歯車を前記スラスト力により入力軸方向又は出力軸方向に平行移動させ、前記内歯車の回転運動を制動させる制動手段と、
を備え、
前記制動手段は、前記内歯車の周縁部に設けられたロック受部と、内側の第1ベアリングと外側の第2ベアリングとの間で一方向にのみ空転する円筒体を有し前記円筒体の軸方向に沿った周縁部に前記内歯車のロック受部に係合するロック部が形成されたクラッチ機構とからなり、前記クラッチ機構は、同一構造で入力軸側及び出力軸側にそれぞれ設けられることを特徴とする減速比自動切換装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【図24】
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【図25】
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【図26】
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【図27】
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【図28】
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【図29】
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【図30】
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【図31】
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【図32】
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【図33】
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【図34】
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【図35】
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【図36】
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【図37】
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【図38】
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【図39】
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【図40】
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【図41】
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【図42】
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【図43】
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【図44】
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【図45】
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【図46】
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【図47】
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【図48】
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【図49】
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【図50】
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【図51】
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【図52】
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【図53】
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【図54】
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【図55】
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【図56】
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【図57】
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【図58】
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【図59】
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【図60】
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【図61】
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【公開番号】特開2007−92982(P2007−92982A)
【公開日】平成19年4月12日(2007.4.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−338743(P2005−338743)
【出願日】平成17年11月24日(2005.11.24)
【出願人】(000102511)SMC株式会社 (344)
【Fターム(参考)】