説明

渦電流式減速装置

【課題】制動時に、制動力を確保しつつ、電力を回収することができる電力生成機能付き渦電流式減速装置を提供する。
【解決手段】減速装置は、回転軸に固定された制動ドラム1Aと、制動ドラム1Aの内周面に対向して円周方向にわたり永久磁石3および電力生成用の巻線コイル5を保持する強磁性体の磁石保持リング2Aと、制動状態と非制動状態に切り替える制動切替え機構と、を備え、磁石3およびコイル5は、2つの磁石3と1つのコイル5を一組としてその各々が円周方向に繰り返し等角度間隔で配列され、互いに隣接する磁石3の磁極の向きが異なり、かつ、コイル5を間に挟んで隣接する磁石3の磁極の向きが同じであり、制動ドラム1Aの内周面には、コイル5それぞれの配置角度と一致して凹部6が形成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、永久磁石を用いる渦電流式減速装置に関し、特に、車両の回転軸の運動エネルギーを制動力を生むエネルギーに変換すると同時に、電気エネルギーに変換し電力として回収することを図った電力生成機能付き渦電流式減速装置に関する。
【背景技術】
【0002】
トラックやバスなどの大型車両においては、主ブレーキであるフットブレーキ(摩擦ブレーキ)の他に、補助ブレーキとしてエンジンブレーキや排気ブレーキが用いられる。近年では、車両エンジンの小排気量化が進展し、これに伴いエンジンブレーキや排気ブレーキの能力が低下することから、渦電流式減速装置(以下、単に「減速装置」ともいう)を車両に搭載して補助ブレーキを強化する場合が多い。
【0003】
減速装置は、制動力をもたらす磁界を発生させるために、電磁石を用いる方式と、永久磁石を用いる方式に大別されるが、昨今、制動力を発生させるのに電力を必要としない永久磁石方式のものが主流となっている。また、永久磁石方式の減速装置は、制動力が与えられる制動部材の形状に応じ、ドラム型とディスク型に区分される。
【0004】
例えば、特許文献1、2には、大型車両に搭載される永久磁石方式の減速装置の一般的な構成が開示されている。
【0005】
特許文献1に開示される減速装置はドラム型であり、プロペラシャフトなどの回転軸に制動部材として円筒状の制動ドラムが固定され、この制動ドラムの内側にリング状の磁石保持部材が配設されている。磁石保持部材には、各々の磁極の向きが交互に異なるように、複数の永久磁石が等角度間隔で周設され、制動ドラムの内周面と永久磁石との隙間には、永久磁石それぞれの配置角度と一致して強磁性体のスイッチ板が配設されている。同文献に開示される減速装置では、磁石保持部材を回転軸を中心に旋回させて、スイッチ板を永久磁石と重なる状態と互いに隣接する永久磁石の間を跨ぐ状態とに維持することにより、制動と非制動の切替えが行われる。このような制動切替え方式は、スイッチ板を永久磁石に対し相対的に旋回させることから、旋回スイッチ方式と称される。
【0006】
特許文献2に開示される減速装置はディスク型であり、制動部材として円板状の制動ディスクが回転軸に固定され、この制動ディスクの主面に対向して円板状の磁石保持部材が配設されている。磁石保持部材には、制動ディスクに対向する面の円周方向にわたり、各々の磁極の向きが交互に異なるように、複数の永久磁石が等角度間隔で設けられている。同文献に開示される減速装置では、磁石保持部材を回転軸の軸方向に進退させて、制動ディスクに接近した状態と離間した状態とに維持することにより、制動と非制動の切替えが行われる。このような制動切替え方式は、永久磁石を制動部材に対し軸方向に進退させることから、軸方向スライドスイッチ方式と称される。
【0007】
ドラム型およびディスク型のいずれの減速装置でも、制動切替え方式にかかわらず、制動時に永久磁石と制動部材(ドラム型の場合は制動ドラム、ディスク型の場合は制動ディスク)との間に磁気回路が発生し、非制動時にはその磁気回路は発生しない。このため、制動時、永久磁石と対向する制動部材の表面(ドラム型の場合は制動ドラムの内周面、ディスク型の場合は制動ディスクの主面)には、磁気回路に基づく磁界の変動によって渦電流が発生し、この渦電流と永久磁石からの磁束密度との相互作用によるフレミングの左手の法則に従い、回転軸とともに回転する制動部材に回転方向と逆向きの制動力が生じ、回転軸の回転を減速させることができる。
【0008】
近年、地球温暖化の防止とともに、生活環境の改善や石油依存度の低減を図るため、乗用車などの小型車両のみならず、トラックやバスなどの大型車両においても、推進用の動力の一部や全部を電動モータで得るハイブリッド電気車両(Hybrid electric vehicle:HEV)や電気車両(Electric vehicle:EV)が普及する傾向にある。通常、大型車両は、電力を必要とする数々の電装機器を装備することから、その電力を賄うために、エンジンから動力を得て発電するオルタネータなどの発電機を搭載している。しかし、HEVやEVの大型車両においては、推進用電動モータで電力を著しく消費することから、オルタネータなどの発電機のみで電力を賄うには限界がある。
【0009】
このような問題に対し、例えば、特許文献3には、エンジンからの排気ガスの排熱を利用して発電する排熱発電機と、電力によって作動する電磁石方式の渦電流式減速装置と、電力によって推進用の動力を発生するとともに、減速時に発電機として機能する電動モータと、を備えたHEVが開示されている。同文献に開示される技術では、排熱発電機や電動モータで発電が行われ、排熱発電機で発電した電力が推進用電動モータの駆動に利用され、電動モータで発電した電力が電磁石方式の減速装置の駆動に利用される。
【0010】
しかし、特許文献3に開示された技術は、減速装置が電磁石方式であるために減速装置で電力が消費され、さらに、エンジンを搭載することなく排気ガスを発生しないEVの場合、排熱発電機による発電は不可能であり、実用性に乏しい。
【0011】
以上のことから、大型車両においては、制動力を発生させるのに電力を必要としない永久磁石方式の渦電流式減速装置を搭載し、さらに、この減速装置に電力生成機能を付加して、回転軸の運動エネルギーを制動時に制動力を生むエネルギーに変換すると同時に、電気エネルギーに変換し電力として回収することが有益であり、この技術の実現が強く望まれる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】特開2002−51533号公報
【特許文献2】特開2007−14067号公報
【特許文献3】特開2008−284971号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明は、上記の実情に鑑みてなされたものであり、制動力を発生させるのに永久磁石を用い、制動時に、制動力を確保しつつ、電力を回収することができる電力生成機能付き渦電流式減速装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明者らは、上記目的を達成するために鋭意検討を重ねた結果、下記の知見を得た。永久磁石方式の減速装置において、制動時に、回転軸の運動エネルギーを電力として生成するには、磁石保持部材に配列する永久磁石の一部を電力生成用の巻線コイルに置き換え、永久磁石からの磁界の変動に伴う電磁誘導を利用して、その巻線コイルに誘導起電力を発生させるのが有効である。ただし、単に永久磁石の一部を巻線コイルに置き換えるだけでは巻線コイルを貫く磁界が変動しないため、電力を生成することができない。この不都合を解消すべく、巻線コイルを貫く磁界の変動を起こさせるには、磁石保持部材と対を成して制動力が与えられる制動部材の制動面に、凹部を形成することが有効である。
【0015】
本発明は、上記の知見に基づいて完成させたものであり、その要旨は、下記に示す電力生成機能付き渦電流式減速装置にある。すなわち、車両の回転軸に固定された制動部材と、この制動部材の制動面に対向して円周方向にわたり永久磁石および電力生成用の巻線コイルを保持する強磁性体の磁石保持部材と、制動時に前記永久磁石と前記制動部材との間に相対的な回転速度差を生じさせつつ磁気回路を発生させ、非制動時に前記回転速度差または前記磁気回路を発生させない状態に切り替える制動切替え機構と、を備え、前記永久磁石および前記巻線コイルは、2つの前記永久磁石と1つの前記巻線コイルを一組としてその各々が円周方向に繰り返し等角度間隔で配列され、互いに隣接する前記永久磁石の磁極の向きが異なり、かつ、前記巻線コイルを間に挟んで隣接する前記永久磁石の磁極の向きが同じであり、前記制動面には、前記巻線コイルそれぞれの配置角度と一致して凹部が形成されていることを特徴とする電力生成機能付き渦電流式減速装置である。
【0016】
上記の減速装置は、前記制動切替え機構として、前記制動面と前記永久磁石および前記巻線コイルとの隙間に、前記永久磁石および前記巻線コイルそれぞれの配置角度と一致して強磁性体のスイッチ板が設けられ、これらのスイッチ板は、前記磁石保持部材に対し相対的に円周方向に旋回可能に構成され、制動時に前記永久磁石および前記巻線コイルの各々と重なる状態に維持され、非制動時に互いに隣接する前記永久磁石の間、および互いに隣接する前記永久磁石と前記巻線コイルの間を跨ぐ状態に維持される構成とすることができる。
【0017】
上記の減速装置は、前記制動切替え機構として、前記磁石保持部材が前記制動部材に対し前記回転軸の軸方向に進退可能に構成され、前記磁石保持部材は、制動時に前記制動部材に接近した状態に維持され、非制動時に前記制動部材から離間した状態に維持される構成とすることもできる。
【0018】
上記の減速装置は、前記制動切替え機構として、前記磁石保持部材およびスイッチブレーキディスクを有して前記回転軸に回転可能に支持される回転部材と、前記スイッチブレーキディスクを間に挟むブレーキパッドと、このブレーキパッドを直線駆動させるアクチュエータと、を備え、前記磁石保持部材は、制動時に前記アクチュエータによる前記ブレーキパッドの駆動に伴って前記スイッチブレーキディスクが挟持されることにより停止の状態に維持され、非制動時に前記アクチュエータによる前記スイッチブレーキディスクの挟持が解放されて回転自在の状態に維持される構成とすることもできる。
【0019】
これらの減速装置では、前記制動部材が円筒状の制動ドラムであり、前記制動面が前記制動ドラムの内周面である構成とすることが好ましい。
【0020】
さらに、これらの減速装置において、前記制動部材は、前記制動面の前記凹部を除く表層部が低合金鋼で構成されることが好ましい。この場合、前記制動部材は、前記表層部を除き電磁鋼で構成されることが好ましい。
【発明の効果】
【0021】
本発明の電力生成機能付き渦電流式減速装置によれば、制動時に、制動部材の回転に伴って、制動部材の内周面に渦電流が常時発生するとともに、巻線コイルに誘導起電力が繰り返し発生するため、制動力を安定して確保しつつ、電力を回収することが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本発明の第1実施形態である電力生成機能付き渦電流式減速装置の構成例を示す縦断面図である。
【図2】第1実施形態の減速装置における制動部材と磁石保持部材を円周方向に展開した図であり、同図(a)、(b)は制動時の状態を示し、そのうちの同図(b)は誘導起電力が発生する状態を示し、同図(c)は非制動時の状態を示す。
【図3】本発明の第2実施形態である電力生成機能付き渦電流式減速装置の構成例を示す縦断面図である。
【図4】第2実施形態の減速装置における制動部材と磁石保持部材を円周方向に展開した図であり、同図(a)、(b)は制動時の状態を示し、そのうちの同図(b)は誘導起電力が発生する状態を示し、同図(c)は非制動時の状態を示す。
【図5】本発明の第3実施形態である電力生成機能付き渦電流式減速装置の構成例を示す縦断面図である。
【図6】第3実施形態の減速装置における制動部材と磁石保持部材を円周方向に展開した図であり、同図(a)、(b)は制動時の状態を示し、そのうちの同図(b)は誘導起電力が発生する状態を示し、同図(c)は非制動時の状態を示す。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下に、本発明の電力生成機能付き渦電流式減速装置について、その実施形態を詳述する。
【0024】
1.第1実施形態
図1は、本発明の第1実施形態である電力生成機能付き渦電流式減速装置の構成例を示す縦断面図である。図2は、第1実施形態の減速装置における制動部材と磁石保持部材を円周方向に展開した図であり、同図(a)、(b)は制動時の状態を示し、そのうちの同図(b)は誘導起電力が発生する状態を示し、同図(c)は非制動時の状態を示す。図1、図2に示す第1実施形態の渦電流式減速装置は、制動力を発生させるのに永久磁石を用い、制動と非制動の切替えに旋回スイッチ方式を採用するドラム型の減速装置である。
【0025】
図1に示すように、第1実施形態の減速装置は、円筒状の制動ドラム1Aと、この制動ドラム1Aの内側に配設された磁石保持リング2Aと、この磁石保持リング2Aと同心状で制動ドラム1Aと磁石保持リング2Aとの間に配置されたスイッチ板保持リング13と、を備える。
【0026】
制動ドラム1Aは、制動力が付与される制動部材に相当し、車両のプロペラシャフトなどの回転軸10にロータ支持部材11を介して固定され、回転軸10と一体で回転するように構成される。制動ドラム1Aの外周には、放熱フィン7が設けられる。この放熱フィン7は、制動時に、渦電流の発生に伴うジュール熱によって発熱する制動ドラム1Aを冷却する役割を担う。
【0027】
磁石保持リング2Aは、制動ドラム1Aに制動力を発生させるために制動ドラム1A(制動部材)と対を成す磁石保持部材に相当し、ステータ支持部材12を介し、回転軸10を中心に旋回可能に支持される。ステータ支持部材12は、図示しない車両のトランスミッションカバーなどの非回転部に固定される。制動と非制動の切替えの際、磁石保持リング2Aは、図示しないエアシリンダや電動アクチュエータによって旋回する。
【0028】
さらに、磁石保持リング2Aの外周面は、制動ドラム1Aの制動面となる内周面と対向し、円周方向にわたり複数の永久磁石3が固着される。永久磁石3は、各々の磁極(N極、S極)の向きが交互に異なるように等角度間隔で配列された形態とされる。
【0029】
ここで、第1実施形態の減速装置では、電力生成機能を付加するため、磁石保持リング2Aが強磁性体であり、順に隣接する3つの永久磁石3を一組とし、そのうちの1つの永久磁石3が電力生成用の巻線コイル5に置き換えられている。すなわち、図2に示すように、磁石保持リング2Aには、順に隣接する2つの永久磁石3と1つの巻線コイル5を一組とし、その各々が円周方向に繰り返し等角度間隔で配列されている。これにより、互いに隣接する永久磁石3の磁極の向きが異なり、かつ、巻線コイル5を間に挟んで隣接する永久磁石3の磁極の向きが同じとなっている。
【0030】
巻線コイル5は、鉄芯5aに銅線などの導電率の高い電導線5bを幾重にも巻いて成る。巻線コイル5の電導線5bは、減速装置から引き出され、車両に搭載される蓄電池に対し制御回路を通じて接続される。
【0031】
スイッチ板保持リング13は、旋回スイッチ方式で必須となる強磁性体のスイッチ板4を円周方向にわたり複数保持し、ステータ支持部材12に固定される。具体的には、図2に示すように、スイッチ板4は、制動ドラム1Aの内周面と永久磁石3および巻線コイル5との隙間に、永久磁石3および巻線コイル5それぞれの配置角度と一致して設けられている。スイッチ板4は、永久磁石3および巻線コイル5の単体とほぼ同じサイズである。
【0032】
さらに、第1実施形態の減速装置では、巻線コイル5の設置に伴って電力生成機能を発現させるため、制動ドラム1Aの制動面となる内周面に、巻線コイル5それぞれの配置角度と一致して凹部6が形成されている。凹部6は、永久磁石3および巻線コイル5の単体とほぼ同じサイズである。
【0033】
図1、図2に示す制動ドラム1Aの場合、制動面となる内周面の凹部6を除く表層部8には、導電性に優れた低合金鋼を用い、その表層部8を除く部分には電磁鋼を用いる。低合金鋼としては、例えばCr−Mo鋼や特許第3036372号公報に記載されているロータ材などを用いることができる。制動ドラム1Aの内周面の表層部8を低合金鋼とすることにより、制動力を生む渦電流をその表層部8に有効に発生させることができ、その表層部8を除く部分を電磁鋼とすることにより、発熱を低減することができるからである。ただし、制動ドラム1Aは、表層部8を除く部分を含めた全体を低合金鋼としても構わない。
【0034】
また、制動ドラム1Aの内周面の表層部8には、さらに銅などのメッキ層を積層することができる。メッキ層を設けることにより、渦電流を一層有効に発生させることができるからである。
【0035】
続いて、このような構成の電力生成機能付き減速装置の動作を説明する。非制動時は、図2(c)に示すように、各スイッチ板4が、互いに隣接する永久磁石3の間、および互いに隣接する永久磁石3と巻線コイル5の間を跨ぐ状態に維持される。
【0036】
この場合、永久磁石3からの磁束(磁界)は、図2(c)中の実線矢印で示すように、制動ドラム1Aに達することなく、スイッチ板4を通じた後、隣接する永久磁石3もしくは巻線コイル5に達し、磁石保持リング2Aを通じて戻るか、または、磁石保持リング2Aを通じた後、隣接する巻線コイル5に達し、制動ドラム1Aに達することなく、スイッチ板4を通じて戻る。従って、永久磁石3と制動ドラム1Aとの間には磁気回路が発生しない状態となる。
【0037】
この非制動時の状態では、制動ドラム1Aの内周面を貫く磁界がないため、制動ドラム1Aの内周面に渦電流が生じることなく、制動力は発生しない。また、巻線コイル5を磁界が貫いているものの、その磁界の変動は起こらないため、巻線コイル5に誘導起電力が生じることはなく、電力は発生しない。
【0038】
一方、制動時は、図2(a)、(b)に示すように、磁石保持リング2Aを永久磁石3の配置角度の半分だけ旋回させる。これにより、各スイッチ板4が、永久磁石3および巻線コイル5の各々と重なる状態に維持される。
【0039】
その際、図2(a)に示すように、制動ドラム1Aの回転に伴って、制動ドラム1Aの凹部6を除く内周面(表層部8)が、互いに隣接する永久磁石3の両者に同時に対向する位置にあるとき、すなわち、制動ドラム1Aの凹部6が巻線コイル5に対向する位置にあるとき、永久磁石3からの磁束は、次の態様になる。
【0040】
永久磁石3からの磁束は、これに対向するスイッチ板4を貫いて制動ドラム1Aに達した後、隣接するスイッチ板4を貫いてこれに対向する永久磁石3に達し、磁石保持リング2Aを通じて戻る(図2(a)中の実線矢印参照)。従って、永久磁石3と制動ドラム1Aとの間に磁気回路が発生する状態となり、制動ドラム1Aの内周面を貫く磁界が発生する。このとき、巻線コイル5に対向するスイッチ板4と制動ドラム1Aとは、凹部6によって間隔が広がっているため、巻線コイル5を貫く磁界は発生しない。
【0041】
このような図2(a)に示す制動時では、永久磁石3と制動ドラム1Aとの間に磁気回路が発生しつつ、両者の間に相対的な回転速度差が生じているため、制動ドラム1Aの内周面を貫く磁界が変動する。この磁界の変動により、制動ドラム1Aの内周面に渦電流が生じ、この渦電流と永久磁石3からの磁束密度との相互作用によるフレミングの左手の法則に従い、回転軸10とともに回転する制動ドラム1Aに回転方向とは逆向きの制動力が発生する(図2(a)中の白抜き矢印参照)。
【0042】
同じ制動時でも、図2(b)に示すように、制動ドラム1Aの凹部6を除く内周面(表層部8)が、互いに隣接する永久磁石3と巻線コイル5の両者に同時に対向する位置にあるとき、すなわち、制動ドラム1Aの凹部6が永久磁石3に対向する位置にあるとき、永久磁石3からの磁束は、次の態様になる。
【0043】
永久磁石3からの磁束は、これに対向するスイッチ板4を貫いて制動ドラム1Aに達した後、隣接するスイッチ板4を貫いてこれに対向する巻線コイル5に達し、磁石保持リング2Aを通じて戻るか、または、磁石保持リング2Aを通じ、隣接する巻線コイル5に達し、これに対向するスイッチ板4を貫いて制動ドラム1Aに達した後、隣接するスイッチ板4を貫いて戻る(図2(b)中の実線矢印参照)。従って、永久磁石3と制動ドラム1Aとの間に磁気回路が発生する状態となり、制動ドラム1Aの内周面を貫く磁界が発生するとともに、巻線コイル5を貫く磁界が発生する。このとき、互いに隣接する永久磁石3のうちの1つに対向するスイッチ板4と制動ドラム1Aとは、凹部6によって間隔が広がっているため、互いに隣接する永久磁石3には磁気回路が発生しない。
【0044】
このような図2(b)に示す制動時では、前記図2(a)に示すときと同様に、永久磁石3と制動ドラム1Aとの間に磁気回路が発生しつつ、両者の間に相対的な回転速度差が生じているため、制動ドラム1Aの内周面を貫く磁界の変動により、制動ドラム1Aの内周面に渦電流が生じ、制動ドラム1Aに制動力が発生する(図2(b)中の白抜き矢印参照)。さらに、この場合は、巻線コイル5を貫く磁界も変動するため、巻線コイル5に電磁誘導による誘導起電力が発生する。
【0045】
このように、制動時には、制動ドラム1Aの回転に伴って、制動ドラム1Aの内周面に渦電流が常時発生するとともに、巻線コイル5に誘導起電力が繰り返し発生する。巻線コイル5に生じた誘導起電力は、減速装置から引き出された電導線5bを通じて回収され、電力として蓄電池に蓄えることができる。蓄電池に回収した電力は、大型車両に装備された数々の電装機器の動力源として用いられ、また、HEVやEVの大型車両の場合は、推進用電動モータの動力源としても用いられる。
【0046】
第1実施形態の電力生成機能付き減速装置によれば、制動時に、制動ドラム1Aの内周面に渦電流を常時発生させることができ、制動力を安定して確保することが可能になる。これと同時に、巻線コイル5に誘導起電力を発生させることができ、電力の回収が可能になる。
【0047】
また、制動ドラム1Aの内周面に形成された凹部6は、上述したように、巻線コイル5に誘導起電力を発生させる役割を担うだけでなく、制動ドラム1Aの内周面周辺に存在する空気の流動を促す役割も担う。このため、凹部6により制動ドラム1Aや永久磁石3の温度上昇を抑制することも可能になる。
【0048】
2.第2実施形態
図3は、本発明の第2実施形態である電力生成機能付き渦電流式減速装置の構成例を示す縦断面図である。図4は、第2実施形態の減速装置における制動部材と磁石保持部材を円周方向に展開した図であり、同図(a)、(b)は制動時の状態を示し、そのうちの同図(b)は誘導起電力が発生する状態を示し、同図(c)は非制動時の状態を示す。
【0049】
第2実施形態の渦電流式減速装置は、前記図1、図2に示す第1実施形態の減速装置と基本構成は同じであり、制動力を発生させるのに永久磁石を用いる点で共通するが、前記第1実施形態と比較し、制動と非制動の切替えに軸方向スライドスイッチ方式を採用し、ディスク型である点で相違する。すなわち、第2実施形態の減速装置は、前記第1実施形態における制動部材に相当する制動ドラム1Aを円板状の制動ディスク1Bに変更し、これに伴い、磁石保持部材に相当する磁石保持リング2Aを円板状の磁石保持ディスク2Bに変更し、さらにスイッチ板4を保持するスイッチ板保持リング13は設けない構成である。
【0050】
第2実施形態では、図3に示すように、制動ディスク1Bは、回転軸10に対して固定され、回転軸10と一体で回転する。磁石保持ディスク2Bは、制動ディスク1Bの主面に対向して配置され、ステータ支持部材12を介し、回転軸10の軸方向にスライド可能に支持される。磁石保持ディスク2Bには、図4に示すように、制動ディスク1Bの主面と対向する面に、前記第1実施形態と同じく、順に隣接する2つの永久磁石3と1つの巻線コイル5を一組とし、その各々が円周方向に繰り返し等角度間隔で配列される。
【0051】
制動ディスク1Bの制動面となる主面には、前記第1実施形態と同じく、巻線コイル5それぞれの配置角度と一致して凹部6が形成される。制動と非制動の切替えの際、磁石保持ディスク2Bは、図3に示すように、エアシリンダ14によって回転軸10の軸方向に進退するように構成される。
【0052】
このような構成の電力生成機能付き減速装置において、非制動時は、図4(c)に示すように、磁石保持ディスク2Bが制動ディスク1Bから離間した状態に維持される。
【0053】
この場合、永久磁石3からの磁束(磁界)は、図4(c)中の実線矢印で示すように、制動ディスク1Bに達することなく、隣接する永久磁石3に達し、磁石保持ディスク2Bを通じて戻る。従って、永久磁石3と制動ディスク1Bとの間には磁気回路が発生しない状態となる。
【0054】
この非制動時の状態では、制動ディスク1Bの主面を貫く磁界がなく、巻線コイル5を貫く磁界もない。このため、制動ディスク1Bの主面に渦電流が生じることはなく、また、巻線コイル5に誘導起電力も生じないため、制動力および電力のいずれも発生しない。
【0055】
一方、制動時は、磁石保持ディスク2Bを回転軸10の軸方向に進出させる。これにより、図4(a)、(b)に示すように、磁石保持ディスク2Bが制動ディスク1Bに接近した状態に維持される。
【0056】
その際、図4(a)に示すように、制動ディスク1Bの回転に伴って、制動ディスク1Bの凹部6を除く主面(表層部8)が、互いに隣接する永久磁石3の両者に同時に対向する位置にあるとき、すなわち、制動ディスク1Bの凹部6が巻線コイル5に対向する位置にあるとき、永久磁石3からの磁束は、次の態様になる。
【0057】
永久磁石3からの磁束は、制動ディスク1Bに達した後、隣接する永久磁石3に達し、磁石保持ディスク2Bを通じて戻る(図4(a)中の実線矢印参照)。従って、永久磁石3と制動ディスク1Bとの間に磁気回路が発生する状態となり、制動ディスク1Bの主面を貫く磁界が発生する。このとき、巻線コイル5と制動ディスク1Bとは、凹部6によって間隔が広がっているため、巻線コイル5を貫く磁界は発生しない。
【0058】
このような図4(a)に示す制動時では、永久磁石3と制動ディスク1Bとの間に磁気回路が発生しつつ、両者の間に相対的な回転速度差が生じているため、制動ディスク1Bの主面を貫く磁界が変動する。この磁界の変動により、制動ディスク1Bの主面に渦電流が生じ、回転軸10とともに回転する制動ディスク1Bに回転方向とは逆向きの制動力が発生する(図4(a)中の白抜き矢印参照)。
【0059】
同じ制動時でも、図4(b)に示すように、制動ディスク1Bの凹部6を除く主面(表層部8)が、互いに隣接する永久磁石3と巻線コイル5の両者に同時に対向する位置にあるとき、すなわち、制動ディスク1Bの凹部6が永久磁石3に対向する位置にあるとき、永久磁石3からの磁束は、次の態様になる。
【0060】
永久磁石3からの磁束は、制動ディスク1Bに達した後、隣接する巻線コイル5に達し、磁石保持ディスク2Bを通じて戻るか、または、磁石保持ディスク2Bを通じ、隣接する巻線コイル5に達した後、制動ディスク1Bに達して戻る(図4(b)中の実線矢印参照)。従って、永久磁石3と制動ディスク1Bとの間に磁気回路が発生する状態となり、制動ディスク1Bの主面を貫く磁界が発生するとともに、巻線コイル5を貫く磁界が発生する。このとき、互いに隣接する永久磁石3のうちの1つと制動ディスク1Bとは、凹部6によって間隔が広がっているため、互いに隣接する永久磁石3には磁気回路が発生しない。
【0061】
このような図4(b)に示す制動時では、前記図4(a)に示すときと同様に、永久磁石3と制動ディスク1Bとの間に磁気回路が発生しつつ、両者の間に相対的な回転速度差が生じているため、制動ディスク1Bの主面を貫く磁界の変動により、制動ディスク1Bの主面に渦電流が生じ、制動ディスク1Bに制動力が発生する(図4(b)中の白抜き矢印参照)。さらに、この場合は、巻線コイル5を貫く磁界も変動するため、巻線コイル5に電磁誘導による誘導起電力が発生する。
【0062】
このように、制動時には、制動ディスク1Bの回転に伴って、制動ディスク1Bの主面に渦電流が常時発生するとともに、巻線コイル5に誘導起電力が繰り返し発生する。
【0063】
従って、第2実施形態の減速装置でも、前記第1実施形態と同様の効果を奏することができる。
【0064】
3.第3実施形態
図5は、本発明の第3実施形態である電力生成機能付き渦電流式減速装置の構成例を示す縦断面図である。図6は、第3実施形態の減速装置における制動部材と磁石保持部材を円周方向に展開した図であり、同図(a)、(b)は制動時の状態を示し、そのうちの同図(b)は誘導起電力が発生する状態を示し、同図(c)は非制動時の状態を示す。第3実施形態の渦電流式減速装置は、前記図3、図4に示す第2実施形態の構成を基本とし、制動力を発生させるのに永久磁石を用いたディスク型であるが、前記第2実施形態と比較し、制動切替え方式が相違する。
【0065】
図5に示すように、第3実施形態の減速装置は、制動ディスク1Bと、磁石保持ディスク2Bおよびスイッチブレーキディスク16を有する回転部材15と、スイッチブレーキディスク16を間に挟むブレーキパッド18a、18bを有するスイッチブレーキキャリパ17と、スイッチブレーキキャリパ17を駆動させる電動式直動アクチュエータ19とを備える。
【0066】
制動ディスク1Bは、回転軸10と一体で回転するように構成される。具体的には、回転軸10と同軸上に連結軸21がボルトなどによって固定され、フランジ付きのスリーブ22がその連結軸21にスプラインで噛み合いながら挿入されてナット23で固定されている。制動ディスク1Bは、回転軸10と一体化されたスリーブ22のフランジにボルトなどで固定され、これにより、回転軸10と一体で回転するようになる。
【0067】
回転部材15は、回転軸10に対し回転可能に構成される。具体的には、回転部材15は、連結軸21と同心状の環状部材であり、回転軸10と一体化されたスリーブ22に軸受24a、24bを介して支持され、これにより、回転軸10に対し自由に回転が可能になる。軸受24a、24bには潤滑グリスが充填され、この潤滑グリスは、回転部材15の前後両端に装着されたリング状のシール部材25a、25bにより漏出を防止される。
【0068】
回転部材15は、制動ディスク1Bの主面に対向する磁石保持ディスク2Bを有する。この磁石保持ディスク2Bは、回転部材15と一体成形してもよいし、個別に成形しボルトなどで回転部材15に固定してもよい。磁石保持ディスク2Bには、制動ディスク1Bの主面と対向する面に、前記第2実施形態と同じく、順に隣接する2つの永久磁石3と1つの巻線コイル5を一組とし、その各々が円周方向に繰り返し等角度間隔で配列される(図6参照)。
【0069】
また、制動ディスク1Bの主面には、前記第2実施形態と同じく、巻線コイル5それぞれの配置角度と一致して凹部6が形成される(図6参照)。
【0070】
磁石保持ディスク2Bには、永久磁石3および巻線コイル5を覆う薄板カバー29が取り付けられる。薄板カバー29は、永久磁石3からの磁界に影響を及ぼさないように、非磁性材料を用いることが好ましい。
【0071】
さらに、回転部材15は、磁石保持ディスク2Bの後方にスイッチブレーキディスク16を有する。スイッチブレーキディスク16は、ボルトなどで回転部材15に取り付けられ、回転部材15と一体化される。
【0072】
スイッチブレーキキャリパ17は、前後で一対のブレーキパッド18a、18bを有しており、ブレーキパッド18a、18bの間にスイッチブレーキディスク16を配置し所定の隙間を設けて挟んだ状態で、バネを搭載したボルトなどによりブラケット26に付勢支持される。このブラケット26は、車両のシャーシやクロスメンバーなどの非回転部に取り付けられる。
【0073】
また、図5に示すブラケット26は、スイッチブレーキディスク16の後方で回転部材15を包囲し、回転部材15に軸受27を介して回転可能に支持される。この軸受27にも潤滑グリスが充填され、この潤滑グリスは、ブラケット26の前後両端に装着されたリング状のシール部材28a、28bにより漏出を防止される。
【0074】
スイッチブレーキキャリパ17には、アクチュエータ19がボルトなどで固定される。アクチュエータ19は、電動モータ20に与える電力を動力源として作動し、電動モータ20の回転運動を直線運動に変換して後側のブレーキパッド18bをスイッチブレーキディスク16に向け直線駆動させる。これにより、後側のブレーキパッド18bがスイッチブレーキディスク16を押圧し、これに伴う反力の作用で、前側のブレーキパッド18aがスイッチブレーキディスク16に向け移動し、その結果、スイッチブレーキディスク16を前後のブレーキパッド18a、18bで強力に挟持することができる。
【0075】
アクチュエータ19としては、例えば、ボールねじ機構やボールランプ機構のものを採用することができる。ボールねじ機構やボールランプ機構のアクチュエータは、リードを有するねじ筋や傾斜カム面にボールを沿わせる運動変換機構により、電動モータ20の回転運動を直線運動に変換するものである。
【0076】
巻線コイル5の電導線5bは、回転部材15の表面に引き出されて露出し、回転部材15の表面に設置した端子30に接続される。図5では、回転部材15の後端から環状凸部31が突出しており、この環状凸部31の外周に端子30が設置された例を示している。端子30にはブラシなどの電気接点32が摺動可能に接触し、この電気接点32は、車両の非回転部に固定され、車両に搭載される蓄電池に対し制御回路を通じて接続される。
【0077】
続いて、このような構成の電力生成機能付き減速装置の動作を説明する。非制動時は、電動モータ20に通電を行うことなくアクチュエータ19を作動させない状態にある。このとき、回転軸10と一体で制動ディスク1Bが回転するのに伴い、回転部材15が、これと一体の磁石保持ディスク2Bで保持する永久磁石3と、制動ディスク1Bとの磁気吸引作用により、制動ディスク1Bと同期して一体的に回転する。
【0078】
この場合、永久磁石3からの磁束(磁界)は、図6(c)中の実線矢印で示すように、制動ディスク1Bに達した後、隣接する永久磁石3に達し、磁石保持ディスク2Bを通じて戻る。しかし、この場合は、制動ディスク1Bと磁石保持ディスク2Bとの間に相対的な回転速度差が生じないため、制動ディスク1Bの主面を貫く永久磁石3からの磁界は変動しない。従って、永久磁石3と制動ドラム1Aとの間には、実質的に磁気回路が発生しない状態と同じ状態になり、制動ディスク1Bの主面に渦電流が生じることはなく、また、巻線コイル5に誘導起電力も生じないため、制動力および電力のいずれも発生しない。
【0079】
一方、制動時は、電動モータ20に通電を行ってアクチュエータ19を作動させる。これにより、回転部材15と一体で回転しているスイッチブレーキディスク16がブレーキパッド18a、18bによって挟み込まれ、図6(a)、(b)に示すように、回転部材15の回転が速やかに停止する。
【0080】
制動ディスク1Bが回転している際に回転部材15のみが停止すると、制動ディスク1Bと磁石保持ディスク2Bとの間に相対的な回転速度差が生じる。これにより、図6(a)、(b)に示すように、前記第2実施形態と同じく、制動ディスク1Bの回転に伴って、制動ディスク1Bの主面および巻線コイル5を貫く磁界が変動し、制動ディスク1Bの主面に渦電流が常時発生するとともに、巻線コイル5に誘導起電力が繰り返し発生する。
【0081】
従って、第3実施形態の減速装置でも、前記第1、第2実施形態と同様の効果を奏することができる。
【0082】
第3実施形態の減速装置によって蓄電池に回収した電力は、減速装置を構成する電動モータ20の動力源としても用いられる。従って、第3実施形態の減速装置では、自身で消費する電力を、自身で生成した電力で補うことができる。
【0083】
その他、本発明は上記の各実施形態に限定されず、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、種々の変更が可能である。例えば、上記第1実施形態では、制動と非制動を旋回スイッチ方式で切り替えるために、スイッチ板に対し磁石保持部材を旋回させる構成であるが、両者が相対的に旋回する限り、スイッチ板の方を旋回させる構成にすることもできる。
【0084】
また、ドラム型で旋回スイッチ方式を採用する上記第1実施形態の減速装置は、ディスク型に変更することができる。すなわち、上記第1実施形態において、上記第2実施形態のように、制動部材として、主面に凹部を形成した制動ディスクを採用し、これに伴い、回転軸回りに旋回可能な磁石保持部材として、その制動ディスクの主面に対向して永久磁石および巻線コイルを保持する磁石保持ディスクを採用する構成にすることができる。この場合、制動ディスクの主面と永久磁石および巻線コイルの隙間にスイッチ板を配設した構成とする。
【0085】
ディスク型で軸方向スライドスイッチ方式を採用する上記第2実施形態の減速装置は、ドラム型に変更することができる。すなわち、上記第2実施形態において、上記第1実施形態のように、制動部材として、内周面に凹部を形成した制動ドラムを採用し、これに伴い、回転軸の軸方向にスライド可能な磁石保持部材として、その制動ドラムの内周面に対向して永久磁石および巻線コイルを保持する磁石保持リングを採用する構成にすることができる。
【0086】
上記第3実施形態のディスク型の減速装置も、ドラム型に変更することができる。すなわち、上記第3実施形態において、上記第1実施形態のように、制動部材として、内周面に凹部を形成した制動ドラムを採用し、これに伴い、スイッチブレーキディスクを有する回転部材と一体の磁石保持部材として、その制動ドラムの内周面に対向して永久磁石および巻線コイルを保持する磁石保持リングを採用する構成にすることができる。
【産業上の利用可能性】
【0087】
本発明の電力生成機能付き渦電流式減速装置によれば、制動時に、制動部材の内周面に渦電流が常時発生するとともに、巻線コイルに誘導起電力が繰り返し発生するため、制動力を安定して確保しつつ、電力を回収することができる。従って、本発明の渦電流式減速装置は、地球環境問題に対応し、HEVやEVを含めたあらゆる車両の補助ブレーキとして極めて有用である。
【符号の説明】
【0088】
1A:制動ドラム、 1B:制動ディスク、 2A:磁石保持リング、
2B:磁石保持ディスク、 3:永久磁石、 4:スイッチ板、
5:巻線コイル、 5a:鉄芯、 5b:電導線、 6:凹部、
7:放熱フィン、 8:表層部、 10:回転軸、
11:ロータ支持部材、 12:ステータ支持部材、
13:スイッチ板保持リング、 14:エアシリンダ、 15:回転部材、
16:スイッチブレーキディスク、 17:スイッチブレーキキャリパ、
18a、18b:ブレーキパッド、 19:電動式直動アクチュエータ、
20:電動モータ、 21:連結軸、 22:スリーブ、 23:ナット、
24a、24b:軸受、 25a、25b:シール部材、
26:ブラケット、 27:軸受、 28a、28b:シール部材、
29:薄板カバー、 30:端子、 31:環状凸部、 32:電気接点

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両の回転軸に固定された制動部材と、
この制動部材の制動面に対向して円周方向にわたり永久磁石および電力生成用の巻線コイルを保持する強磁性体の磁石保持部材と、
制動時に前記永久磁石と前記制動部材との間に相対的な回転速度差を生じさせつつ磁気回路を発生させ、非制動時に前記回転速度差または前記磁気回路を発生させない状態に切り替える制動切替え機構と、を備え、
前記永久磁石および前記巻線コイルは、2つの前記永久磁石と1つの前記巻線コイルを一組としてその各々が円周方向に繰り返し等角度間隔で配列され、互いに隣接する前記永久磁石の磁極の向きが異なり、かつ、前記巻線コイルを間に挟んで隣接する前記永久磁石の磁極の向きが同じであり、
前記制動面には、前記巻線コイルそれぞれの配置角度と一致して凹部が形成されていることを特徴とする電力生成機能付き渦電流式減速装置。
【請求項2】
前記制動切替え機構として、前記制動面と前記永久磁石および前記巻線コイルとの隙間に、前記永久磁石および前記巻線コイルそれぞれの配置角度と一致して強磁性体のスイッチ板が設けられ、これらのスイッチ板は、前記磁石保持部材に対し相対的に円周方向に旋回可能に構成され、制動時に前記永久磁石および前記巻線コイルの各々と重なる状態に維持され、非制動時に互いに隣接する前記永久磁石の間、および互いに隣接する前記永久磁石と前記巻線コイルの間を跨ぐ状態に維持されることを特徴とする請求項1に記載の電力生成機能付き渦電流式減速装置。
【請求項3】
前記制動切替え機構として、前記磁石保持部材が前記制動部材に対し前記回転軸の軸方向に進退可能に構成され、前記磁石保持部材は、制動時に前記制動部材に接近した状態に維持され、非制動時に前記制動部材から離間した状態に維持されることを特徴とする請求項1に記載の電力生成機能付き渦電流式減速装置。
【請求項4】
前記制動切替え機構として、前記磁石保持部材およびスイッチブレーキディスクを有して前記回転軸に回転可能に支持される回転部材と、前記スイッチブレーキディスクを間に挟むブレーキパッドと、このブレーキパッドを直線駆動させるアクチュエータと、を備え、前記磁石保持部材は、制動時に前記アクチュエータによる前記ブレーキパッドの駆動に伴って前記スイッチブレーキディスクが挟持されることにより停止の状態に維持され、非制動時に前記アクチュエータによる前記スイッチブレーキディスクの挟持が解放されて回転自在の状態に維持されることを特徴とする請求項1に記載の電力生成機能付き渦電流式減速装置。
【請求項5】
前記制動部材が円筒状の制動ドラムであり、前記制動面が前記制動ドラムの内周面であることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の電力生成機能付き渦電流式減速装置。
【請求項6】
前記制動部材は、前記制動面の前記凹部を除く表層部が低合金鋼で構成されることを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の電力生成機能付き渦電流式減速装置。
【請求項7】
前記制動部材は、前記表層部を除き電磁鋼で構成されることを特徴とする請求項6のいずれかに記載の電力生成機能付き渦電流式減速装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−152060(P2012−152060A)
【公開日】平成24年8月9日(2012.8.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−9930(P2011−9930)
【出願日】平成23年1月20日(2011.1.20)
【出願人】(000002118)住友金属工業株式会社 (2,544)
【Fターム(参考)】