説明

測定方法及び測定装置

【課題】被検体の分光特性の分布を高解像度で比較的簡単に測定することが可能な測定方法及び測定装置を提供する。
【解決手段】被検体内部の分光特性を測定する測定方法において、被検体に光を照射することによって前記被検体の分光特性を拡散光トモグラフィを利用して測定する第1のステップと、前記被検体に光を照射することによって前記被検体の分光特性を音響光学トモグラフィ又は光音響トモグラフィを利用して測定する第2のステップと、前記被検体内部の分光特性の分布を仮定し、当該仮定から得られる前記分光特性の予想値と前記第1のステップで得られる実測値との差が許容範囲になるように前記仮定を変更する第3のステップと、を有し、当該第3のステップは、前記第2のステップで取得したデータを初期値、制約条件及び境界条件の少なくとも一つに利用することを特徴とする測定方法を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、被検体内部の分光特性を測定する測定方法及び測定装置に関する。
【背景技術】
【0002】
光マンモグラフィなど、生体組織内部の分光特性又は減衰特性を測定して分光特性の空間分布や生体組織の代謝を画像化する測定装置は知られている。ここで、分光特性は吸収(分光)特性と散乱(分光)特性を含み、本出願では、吸収特性及び散乱特性を吸収散乱特性と呼ぶ場合もある。従来の測定手法として、拡散光トモグラフィ(DOT:Diffused Optical Tomography)が知られている。
【0003】
DOTは、特許文献1に開示されているように、近赤外光を被検体に導入してその拡散光を検出する。特許文献1は、分光特性の内部分布を仮定し、測定結果に応じて仮定を変更又は内部分布を再構成するアルゴリズムを使用する。
【0004】
その他の従来技術としては、特許文献2乃至4、非特許文献1及び2がある。
【特許文献1】特開2005−331292号公報
【特許文献2】米国特許第6738653号明細書
【特許文献3】米国特許第5840023号明細書
【特許文献4】米国特許第6957096号明細書
【非特許文献1】Lihong V. Wang, “Mechanism of Ultrasonic Modulation of Multiply Scattered Coherent Light:An Analytical Model,” Phys. Rev. Lett., vol.87,No.4, 2001
【非特許文献2】Gang Yao and Lihong V. Wang, “Signal dependence and noise source in ultrasound−modulated optical tomography,” Appl. Opt., vol.43,No.6, 2004
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に記載された画像再構成の方法は、内部分布を求める計算が複雑かつ膨大で時間がかかり、最適解に短時間で収束しにくいという問題がある。また、DOTの測定結果は、より高解像度が求められていた。
【0006】
本発明は、被検体の分光特性の分布を高解像度で比較的簡単に測定することが可能な測定方法及び測定装置に関する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一側面としての測定方法は、被検体内部の分光特性を測定する測定方法において、被検体に光を照射することによって前記被検体の分光特性を拡散光トモグラフィを利用して測定する第1のステップと、前記被検体に光を照射することによって前記被検体の分光特性を音響光学トモグラフィ又は光音響トモグラフィを利用して測定する第2のステップと、前記被検体内部の分光特性の分布を仮定し、当該仮定から得られる前記分光特性の予想値と前記第1のステップで得られる実測値との差が許容範囲になるように前記仮定を変更する第3のステップと、を有し、当該第3のステップは、前記第2のステップで取得したデータを初期値、制約条件及び境界条件の少なくとも一つに利用することを特徴とする。
【0008】
本発明の更なる目的又はその他の特徴は、以下、添付図面を参照して説明される好ましい実施例によって明らかにされるであろう。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、被検体の分光特性の分布を高解像度で比較的簡単に測定することが可能な測定方法及び測定装置を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】

以下、添付図面を参照して本発明の実施例について説明する。
【実施例1】
【0011】
図1(a)は、実施例1の測定装置100のブロック図である。測定装置100は、被検体Eの組織内部の分光特性である吸収散乱特性をAOT又はPATを利用して測定し、そのデータを分光特性の分布を推定する際に使用することによって最適解に短時間で確実に到達できるようにしている。測定装置100は、第1の測定部と、第2の測定部と、を有する。
【0012】
ここで、AOTは、音響光学トモグラフィ(Acousto−Optical Tomography)であり、PATは光音響トモグラフィ(Photo−Acoustic Tomography)である。AOTは、特許文献2に開示されているように、生体組織内部にコヒーレント光及び集束超音波を照射し、超音波が集束された領域(被検部位)において光が変調される効果(音響光学効果)を利用し、変調光を光検出器で検出する。PATは、腫瘍などの被検部位とそれ以外の組織との光エネルギーの吸収率の差を利用し、被検部位が照射された光エネルギーを吸収して瞬間的に膨張する際の弾性波(超音波又は光音響信号)を超音波トランスデューサで受信する。PATは、例えば、特許文献3に開示されている。
【0013】
被検体Eは、乳房などの生体組織であり、吸収散乱体である。被検体Eは図1(b)に示す測定容器15に収められる。図1(b)は測定容器15の概略断面図である。被検体Eと測定容器15の間は、光の屈折率や散乱係数及び、超音波の音響特性が測定対象物にほぼ同等とみなせる、特性が既知で均一の媒質(マッチング材16)で満たされる。
【0014】
第1の測定部は、被検体Eの分光特性をDOTを利用して測定する。信号発生器2は、周波数fの正弦波信号を発生する。信号発生器2が発生する正弦波信号は光源3を駆動するのに使用される。一般に生体計測においては、数十〜数百MHzの正弦波で強度変調する。光源3は、レーザなどのコヒーレント光を供給可能なものを用い、複数の波長の光を発生する。光源の波長は、生体組織を構成する水、脂肪、タンパク質、酸化ヘモグロビン、還元ヘモグロビン、などの吸収スペクトルに応じた波長を選定する。一例としては、生体内部組織の主成分である水の吸収が小さいため光が良く透過し、脂肪、酸化ヘモグロビン、還元ヘモグロビンのスペクトルに特徴がある600乃至1500nm範囲が適当である。信号発生器2からの信号により、光源3からは周波数fの強度変調光として放射され、ファイバ11に導かれる。ファイバ11は測定容器15の側面に接続され、測定容器15と光源3との間に切替器4が配置されている。
【0015】
切替器4は、シャッターなどの開閉機構の機能を備え、n本のファイバのうち制御部1が指定した1本のファイバ11に光源3からの光を入射させ、残りのn−1本のファイバ11への光源3からの光を遮光する。n−1本のファイバ11は、測定容器15の側面から放射される、被検体Eやマッチング材16を通過した拡散光を光検出器13に導く。切替器4は、光源からの光を測定容器15に導くファイバ11から光検出器13への光路を遮光する。光源3からの光を測定容器へと導く1本のファイバ11と測定容器15からの拡散光を光検出器13へと導くn−1本のファイバ11は排他的である。
【0016】
ファイバ11から測定容器内15に入射した光は、マッチング材16や被検体Eの内部において吸収及び散乱を繰り返し、様々な方向に拡散光として伝播する。被検体Eやマッチング材16のような吸収散乱媒質中の光の伝播は、光拡散方程式によって記述することができる。吸収散乱媒質中の位置r、時刻tにおける光子のフルエンス率は次式のように表される。
【0017】
【数1】

【0018】
但し、

【0019】
は光子のフルエンス率[光子数/(mm・sec)]、

【0020】

【0021】
は拡散係数[mm/sec]、

【0022】
は等価散乱係数[1/mm]、

【0023】
は吸収散乱体内部の光速度[mm/sec]、

【0024】
は吸収係数[1/mm]である。また、

【0025】
は光源の放射光子流密度[光子数/(mm・sec)]である。
【0026】
吸収散乱媒質中において、ファイバ11から測定容器15に入射した強度変調光は、数式1から導かれるように、周波数fの拡散光子密度波と呼ばれる、エネルギー密度波として媒質中を伝播する。例えば、無限大の均質媒質中を光源から距離r伝播した場合、この密度波の光強度

【0027】
及び位相

【0028】
は次式で表される。
【0029】
【数2】

【0030】
【数3】

【0031】
ここで、

【0032】
は強度変調波の角周波数[rad/sec]、

【0033】
は入射光子数[光子数/sec]、

【0034】
は光源の位相[rad]である。拡散光子密度波の光強度をn−1本のファイバ11を通して光検出器13で検出する。
【0035】
光検出器13で検出された信号は信号抽出部14に伝達される。信号抽出部14は、信号発生器2から送られた信号を参照信号として光検出器13で検出された信号から数式2及び3でそれぞれ表される拡散光子密度波の振幅と位相を算出する。これをn−1本の全ての信号に対して行う。数式2及び3に示すように、拡散光子密度波の振幅や位相は媒質の吸収係数や散乱係数に依存する。但し、数式2及び3は理想的な場合の解析解であり、実際には後述するように、数式1を測定システムの境界条件等に即して解いた結果を用いる。
【0036】
信号抽出部14で算出された振幅と位相のデータは記憶部5に送られて保存される。また、測定データと合わせて、光源として使用したファイバなどの測定条件も同時に記憶部5に保存される。これをn本のファイバそれぞれが光源になるように測定をn回繰り返し、全ての測定データを記憶部5に保存する(第1のステップ)。
【0037】
ファイバ11は測定容器15の側面に3次元的に配置されていてもよいし、2次元的にある一段面にファイバ11が配置されたモジュールを測定容器15の側面を上下方向に走査することで3次元データを取得してもよい。
【0038】
第1の測定部が取得したデータを第1の測定データと呼ぶ。第1の測定部は、光源3に強度変調光を利用し、数式1を周波数領域において解いているが、光源3にピコ秒のパルス光を利用し、数式1の時間領域において解いてもよい。
【0039】
第2の測定部は、被検体Eの第2の範囲の分光特性をAOT又はPAT(実施例ではAOT)を利用して測定する。
【0040】
制御部1が信号発生器2を制御して光源3から連続光を射出させる。前述と同様に光源3からの光はファイバ11に導かれ、切替器4を制御部1で制御して1本のファイバ11を光源として選択する。選択されたファイバ11を通して光源3からの光は、測定容器15の側面から入射される。測定容器15に入射した光は、前述と同様に測定容器15の内部を吸収と散乱を繰り返して伝播する。
【0041】
制御部1の制御の下、信号発生器2からの信号は増幅器8を経て超音波振動子アレイ12を連続的に駆動するのにも使用される。超音波振動子アレイ12は、制御部1が指定した測定容器15内部の被検部位(超音波集束領域)Xに超音波が集束するように個々の超音波振動子を動作させ、周波数Ωの超音波が射出される。超音波振動子アレイ12から射出された超音波は、集束位置にスポットが数mm程度になるように集束される。このように超音波振動子アレイ12は、超音波発生器と超音波集束装置の機能を有する。
【0042】
超音波集束領域では、媒質密度が変化し、媒質の屈折率変化及び散乱体の変位が照射した超音波の周波数に応じて変化する。被検部位Xを光が通過すると、屈折率変化や散乱体の変位によって光の光学的位相が変化し、ドップラーシフトを受け波長が変化する。ここでは、この現象を音響光学効果と呼ぶ。超音波集束領域における光の変調効果は、非特許文献1で解析的にモデル化され、吸収係数による効果は非特許文献2に記載されている。これらを用いれば、例えば特許文献4で述べられているように、吸収散乱媒質中において、ある位置

【0043】
で超音波集束領域を通過して超音波による変調効果を受けて検出される光強度

【0044】
を以下の式から求めることができる。
【0045】
【数4】

【0046】
但し、

【0047】
は光源の位置

【0048】
から

【0049】
までの光子のフルエンス率、

【0050】


【0051】
から検出器の位置

【0052】
までの光子のフルエンス率、

【0053】
は超音波による変調効率である。
【0054】
光検出器13は、被検部位Xを通過し、超音波によって変調された変調光と、超音波の変調を受けていない非変調光とを同時に検出する。信号検出部14は、数式4で表される、超音波の周波数Ωで変調された変調信号を測定する。効率的に信号を検出するために、バンドパスフィルタやロックイン検出などを用いて信号を抽出してもよい。
【0055】
第2の測定部が取得したデータを第2の測定データと呼ぶ。第2の測定データは第1の測定データと区別して記憶部5に格納される。第1の測定と同様に、第2の測定データも、光源として使用したファイバや超音波集束位置、超音波照射強度など後の画像再構成を行う際に必要なパラメータは全てデータ毎に記憶部5に記録される。
【0056】
光源として選択するファイバ11は、超音波による変調光の強度を向上させるために被検部位Xからの距離が近いことが望ましい。また、解像度を上げるために、信号発生器2にて連続信号ではなく、サブマイクロ秒から数マイクロ秒のパルス幅の信号を作って超音波振動子アレイ12を駆動させてもよい。超音波集束位置を測定容器15内の任意の位置に複数設定し、第2の測定部が取得したデータを記憶部5へ送る(第2のステップ)。
【0057】
第2の測定部は、参照光の光路を別途設けてヘテロダイン検出を行ってもよい。その際、光検出器13をCCDやCMOSなどのアレイセンサを用いてスペックル並列計測を行ってもよい。あるいは、参照光と信号光の合流位置にフォトリフラクティブ素子を用いてPMTなどの光検出器で測定する手法を用いて信号のSNを向上させる手法を用いてもよい。
【0058】
第1の測定部による測定及び第2の測定部による測定が終了したら、記憶部5から第1の測定データと第2の測定データを読み出して、信号処理部6にて画像再構成を行う。信号処理部6は、画像再構成に必要なデータを随時記憶部5から読み出して処理する。画像再構成は、例えば、光拡散方程式を有限要素法を用いて推定する手法などがある。測定容器15内の媒質をメッシュ状に切り、各メッシュの位置座標(i,j)における吸収係数

【0059】
や散乱係数

【0060】
の値を与える。媒質内の吸収・散乱係数分布

【0061】
に対して、数式5のように、第1の測定部による測定を光拡散方程式に基づく関数

【0062】
でモデル化し、出力

【0063】
を求める。
【0064】
【数5】

【0065】
各光検出器13のそれぞれの位置で数式5に基づき算出される信号

【0066】
が実測値と許容誤差ε以下になるまで、吸収・散乱特性の分布を設定して最適化を繰り返す。実施例1では、数式5に加えて、第2の測定部が取得したデータを利用する。位置

【0067】
において超音波集束領域の大きさ

【0068】
、照射する超音波強度

【0069】
、超音波周波数

【0070】
が与えられたとき、数式4の変調効率

【0071】
が算出できる。数式4に基づき、第2の測定部による測定を関数

【0072】
でモデル化し、その出力を

【0073】
とすると、数式6のようになる。
【0074】
【数6】

【0075】
第1の測定部による測定と第2の測定部による測定で検出される光の伝播経路を模式的に示すと、それぞれ図2(a)及び図2(b)に示すようになる。第2の測定部による測定では、被検部位Xで光源3の光が変調され、あたかも変調光源が仮想的に媒質内部にあるかのようにみなすことができる。この仮想光源から、各光検出器で検出される光が辿る主な伝播経路は、図2(a)で示す第1の測定部による測定によって検出される光が経路とは異なる。
【0076】
第1の測定部は、測定容器15内部で拡散されて伝播し、空間的に広がりを持った経路を辿る拡散光を測定する。第2の測定部は、被検部位Xの局所的な位置を必ず通過した、空間的に限定された経路を辿る光を測定する。第2の測定部による測定は、第1の測定部による測定よりもより限定された条件を課す。
【0077】
本実施例は、被検体内部の分光特性の分布を仮定し、当該仮定から得られる分光特性の予想値と第1の測定部による測定結果(第1のステップで得られる実測値)との差が許容範囲になるように前記仮定を変更している。この仮定を変更して最適解を得るステップ(第3のステップ)において、第2の測定部(第2のステップ)で取得したデータを初期値、制約条件及び境界条件の少なくとも一つに利用する。数式5に基づく第1の測定データのみを使用して画像再構成を行うよりも、数式6に基づく第2の測定データを使用することで不良設定問題(ill−posed problem)における解の自由度を制限することができる。このため、画像再構成の精度を向上させることができる。
【0078】
被検部位Xを第2の測定部で測定すると被検部位Xを任意の異なる位置に移動させ、再度第2の測定部による測定を行う。順次これを繰り返して、図3に示すように、第2の測定部を複数の被検部位Xで測定し、数式6で与えられる制約条件を取得する。図4に信号処理部6が行う第3のステップのフローを示す。
【0079】
まず、第2の測定データに基づき、それぞれの測定での超音波集束位置に対して、吸収係数、散乱係数の初期値を設定する(S100)。また、超音波集束位置以外の媒質の初期値も設定する。例えば、マッチング材16の値を初期値に用いる。初期値の設定は各メッシュごとに行う。
【0080】
媒質の吸収散乱特性が設定されたら、第2の測定部による測定における前述の式で示す物理モデルに従い、それぞれの測定条件に合わせて順問題として物理現象を順次計算し、想定される光検出信号を算出する(S101)。
【0081】
S101で算出された信号と実際に測定された信号とを比較し、その差分を誤差E2として算出する(S102)。E2が予め設定した許容誤差εよりも大きい場合には、再度第2の測定データにおける被検部位Xの吸収係数、散乱係数の値を設定する(S103)。改めて計算によって測定される測定予想値を求め、誤差E2を算出し、E2がεよりも小さくなるまでS100からS103のフローを繰り返す。これを第2の測定データすべてにおいて実行する。
【0082】
E2がεよりも小さくなったら、次に第1の測定データに基づいて逆問題推定を行う。S103までのフローで第2の測定データを利用して被検部位Xにおける適切な吸収係数、散乱係数の初期値を求める。求められた被検部位Xでの吸収、散乱係数を新たに初期値として設定し(S104)、被検部位X以外の媒質の吸収散乱係数も改めて初期値を設定する(S105)。
【0083】
第1の測定部による測定における物理モデルに従い、測定条件に合わせて光拡散方程式に従って、検出される予想値を求める(S106)。この予想値に対して実際に第1の測定部による測定で得られた値を比較し、その差分である誤差E1を算出する(S107)。同様にして、第2の測定部による測定における物理モデルに従い、第2の測定部による測定予想値を求め(S108)、実測値との差分である誤差E2を算出する(S109)。S110でE1とE2がどちらも許容誤差εより小さいという条件を満たすまで測定容器内の媒質の吸収係数、散乱係数の分布を設定して順問題として計算を行い、実測と比較するS104からS109までの作業を繰り返す。E1とE2がε以下になった時点で信号処理部6による画像再構成は終了し、測定容器15内部の吸収係数、散乱係数の分布が得られる。許容誤差εは、第1の測定と第2の測定でそれぞれ別々に設定してもよい。また、第2の測定のみに関しても、S103の許容誤差εとS110の許容誤差εは同じである必要はない。このデータを表示部7に送り、表示部7にてデータが出力される。これを複数の波長に対して前述と同様の測定及び処理を実行することで分光的な情報を取得する。この際、信号処理部6は、各波長における吸収係数のデータからランベルト・ベール則を用いて、被検体Eの主要な構成要素、例えば酸化ヘモグロビン、還元ヘモグロビン、水、脂肪、コラーゲンなどの比率やヘモグロビン濃度から酸素飽和指数などの機能的な情報を算出する。また、信号処理部6は、被検体Eの分光情報や構成要素、機能情報などの三次元的な断層像を形成する画像形成部を含む。表示部7は、三次元的な断層像を表示する。
【0084】
画像再構成における光伝播を計算する物理モデルは、拡散方程式に基づくモデルや、モンテカルロシミュレーションによる光伝播をモデル化したものでもよいし、光子の輸送方程式を用いてもよい。
【0085】
本実施例は、第2の測定データを制約条件として利用するだけでなく、局所的な情報を初期値に設定することで、計算時間を短縮して精度のよい画像を得ている。本実施例の第1の測定部と第2の測定部が共通の光検出器13を使用しているが、異なってもよい。
【実施例2】
【0086】
以下、本発明の実施例2の測定装置について説明する。AOTやPATは、DOTよりも高解像度な分光特性の測定が可能であるが、DOTよりも被検体の深さ方向に対する測定範囲が狭い。本実施例の測定装置の構成は実施例1と同様であるが、被検体Eが実施例1よりも大きい。第2の測定部で得られる信号は、被検部位Xの変調光に限定されるため、第1の測定部による測定で得られる信号よりずっと小さい。従って、被検体Eが大きい場合や吸収係数が大きい場合は、第2の測定部が被検体Eにおいて測定可能な領域が限定される。光が伝播する距離に応じて減衰する光強度が光検出器13で検出できる限界を超えてしまうと信号が検出できなくなる。本実施例では、第1の測定部は被検体Eの全領域を測定できるが、第2の測定部は被検体Eの一部の領域しか測定することができない。
【0087】
測定容器15内において、第2の測定部が測定可能な領域は、図5に示すように、被検体Eの表層からある深さまでのハッチングされたドーナツ形状の領域23のみとなる。領域23の内側の領域24は第2の測定部は測定不可能で第1の測定部のみが測定可能である。
【0088】
本実施例では、実施例1と同様に、測定容器15内部全体の分光特性を第1の測定部で測定する。実施例1と同様に第1の測定部による測定を行い、第1の測定データを測定条件と合わせて記憶部5に保存する。領域23に対しては、被検部位Xを測定容器15内で一点一点走査して第2の測定部による測定を行い、吸収・散乱分布を求める。領域24に対しては、第1の測定データと第2の測定部による測定が可能な領域23で求めた吸収・散乱分布を利用して、領域24の吸収・散乱分布を推定する。
【0089】
第1の測定部による測定が終了すると、図6(a)に示すように、マッチング材16の領域に被検部位Xを設定して第2の測定部による測定を実施する。マッチング材16の吸収係数・散乱係数は既知であり、図6(a)に示すように光源用のファイバと検出用のファイバを選択すれば、吸収・散乱が既知の媒質における検出光強度を求めることができる。これを基準データとする。
【0090】
次に、図6(b)に示すように、被検部位Xを被検体内部に設定して測定を行う。このときの光の伝播距離による信号の減衰を補正した計算値と測定値を比較することで吸収係数、散乱係数の基準データとの差分が得られる。この差分のデータを利用して被検部位Xにおける局所的な吸収係数、散乱係数の値を求めることができる。
【0091】
このように測定容器15の周囲から、第2の測定部による測定方法を用いて吸収係数、散乱係数を帰納的に求めていく。測定媒質の表層付近にあるマッチング材16領域から測定容器15内の中心に向かって、徐々に被検部位Xを走査しながら第2の測定部による測定を行い、第2の測定部による測定が不可能になる領域まで第2の測定部による測定を実行する。第2の測定部による測定が不可能になった時点で測定を終了する。
【0092】
或いは、被検部位Xを図7のように設定して測定を行う。領域23に対して、吸収係数・散乱係数をある計算メッシュごとに仮定する。これを数式6のモデルに従って計算した結果と測定結果を比較して領域23の吸収・散乱係数を算出する。
【0093】
以上の結果、第2の測定部は図5の領域23の吸収係数・散乱係数を局所的に測定する。
【0094】
信号処理部6で、記憶部5から測定条件や測定データを随時読み出して画像再構成を行う。既に領域23は吸収係数、散乱係数の分布が超音波の集束領域サイズで既知となっているので、これを画像再構成の解として与える。領域24のみを画像再構成すればよいので測定容器全体を対象とするよりも推定領域が小さい。また、領域23は既に第2の測定部により解が得られているので、これを再構成時の境界条件として用いることができるので推定時間が短縮される。吸収係数・散乱係数が確定している領域23から、外挿して領域24の吸収係数や散乱係数の分布を推定し、これを初期値として設定して画像再構成を行ってもよい。
【0095】
画像再構成手法は、拡散方程式に基づくモデルや、モンテカルロシミュレーションによる光伝播をモデル化したものでもよいし、光子の輸送方程式を用いたものであってもよい。
【0096】
本実施例で得られる断層像は、領域23においては超音波の集束サイズにほぼ等しい高解像度となる。また、領域24においては、例えば、周囲の境界条件や推定領域の縮小化によって空間解像度や測定速度を向上させることができる。従って、被検体Eの分光特性を高解像度で比較的簡単に(又は短時間で)取得することができる。
【0097】
本実施例は、測定容器15の周囲から被検部位Xを設定して第2の測定部による測定方法を実施して、帰納的に吸収係数、散乱係数を算出している。これに対し、領域23の全領域に対して吸収・散乱に関わる信号を、各被検部位Xごとに算出しておき、第1の測定部による測定から画像再構成で得られた吸収係数と散乱係数を用いて、第2の測定部による測定の各測定点に対して吸収散乱分布を算出してもよい。
【実施例3】
【0098】
以下、本発明の実施例3の測定装置について説明する。図8は、実施例3の測定装置100Aのブロック図である。測定装置100Aは、光源18、信号抽出部19、超音波振動子アレイ20を更に有する。第1の測定部による測定については、測定装置100と同様であり、以下、第2の測定部について説明する。本実施例の第2の測定部はPATを利用して被検部位Xの分光特性を測定する。
【0099】
光源18で数十ナノ秒のパルス光をファイバ11へ導き、切替器4にて、光源として使用するファイバ11を複数本選択し、パルス光を測定容器15に照射させる。光源として選択したファイバ11は各々が測定容器15の近傍に配置されているもの一群となる。測定容器15内に入射した光は測定容器内で拡散する。光が被検体Eに吸収されると吸収によって損失されたエネルギーが熱に変換される。このとき光のパルス幅が応力緩和時間より短くなるような応力閉じ込め条件を満たしたとき熱弾性過程により弾性波が放出される。吸収散乱媒質中の位置rにおける弾性波の圧力

【0100】
は一般的に以下の式で表される。
【0101】
【数7】

【0102】
但し、

【0103】
はグリュナイゼン係数(熱-音響変換効率)、

【0104】
は位置rにおける吸収係数、

【0105】
は位置rにおける光子のフルエンス率である。
【0106】
数式7に示すように、弾性波は光の局所的な吸収係数に比例した圧力波であるので音響信号から吸収係数を推定することができる。発生した弾性波は光のような散乱の影響は受けないため、局所的な吸収係数を測定することができる。送受信可能な超音波振動子アレイ20で被検部位Xからの弾性波を検出し、信号抽出部19で信号の音圧分布から吸収係数を求める。被検部位Xを任意に設定し、弾性波の検出から吸収係数を推定する。光源として用いるファイバは、超音波振動子アレイ20で設定している被検部位Xの位置からの距離が近いものを使用することが望ましい。
【0107】
測定容器15で、任意の複数点に対して第2の測定部による測定を行い、測定された吸収係数を記憶部5に保持する。検出された弾性波から吸収係数を推定する際に、マッチング材16における音圧を予め測定して校正に用いてもよい。第1の測定部による測定と第2の測定部による測定が終了したら、信号処理部6で画像再構成を行う。第2の測定部による測定によって得られた複数の局所的な吸収係数を空間的に補間して吸収係数の分布を求め、これを画像再構成の初期値として設定する。吸収係数の相対的な分布を初期値として設定し、信号処理部6にて画像再構成により、吸収散乱体内部の吸収係数分布・散乱係数分布を推定する。
【実施例4】
【0108】
以下、本発明の実施例4の測定装置について説明する。本実施例の測定装置の構成は実施例3と同様である。第1の測定データは実施例3と同様にして取得して記憶部5に格納する。本実施例では、超音波振動子アレイ20を超音波エコー装置として動作させることを特徴とする。
【0109】
次に、信号発生器2から増幅器8を通して超音波振動子アレイ20を駆動する。超音波振動子アレイ20には、測定容器15内のある位置に超音波が集束する図示しない超音波集束装置が接続されている。超音波集束位置における音響インピーダンスに応じて反射してくるエコー信号を、超音波振動子アレイ20で捉える。超音波振動子アレイ20の集束位置を走査することで構造特性を測定することができ(第4のステップ)、このデータを記憶部5に格納する。
【0110】
次に、信号処理部6から超音波エコー検出によって得られた被検体Eの構造情報を読み出し、構造的な特徴が認められる部分を抽出する。例えば、超音波エコー画像に対してエッジ処理を行い、構造上の境界部分を抽出し、その位置座標を求め、記憶部5に構造情報を保存する。この構造情報を利用して第2の測定部による測定を実施する。まず、エッジ抽出によって得られた構造的な特徴がある部分を記憶部5から読み出し、その近傍を超音波振動子アレイ20の集束位置として設定する。その位置に比較的近いファイバを光源として用い、被検部位Xからのパルス光を測定容器15へと入射させ、前述の集束位置から発生する弾性波を超音波振動子アレイ20で測定する。
【0111】
超音波振動子アレイ20で検出された信号の音圧分布に基づいて、信号抽出部19は被検部位Xの吸収係数を求める。エッジ抽出によって得られた構造的な特徴がある位置の近傍に対して第2の測定部による測定を行う。超音波振動子アレイ12の集束位置を記憶部5から読み出した構造的なエッジ近傍に設定し、第2の測定データを得る。これを記憶部5に保存する。
【0112】
構造的に変化が認められる部分は、組織的に異なり、光学的な特性も異なる可能性が高い。このような領域において第2の測定部が集中的に分光特性を測定することによって第1の測定データから画像再構成をする際に高精度に吸収、散乱分布を求めることができる。
【0113】
以上により得られた吸収係数分布を初期値として設定し、第1の測定データを用いて画像再構成を行う。これまで述べた実施例を組み合わせることもできる。例えば、超音波エコーをAOTと組み合わせるなどである。また、第2の測定データを画像再構成において利用する際には、初期値、制約条件、境界条件のいずれで使用してもよいし、またはそれらを自由に組み合わせてもよい。
【0114】
以上説明したように、実施例1乃至4は、光と超音波の相互作用を用いたAOT又はPAT測定を利用してDOTにおける逆問題を推定する際の条件を増やすことができる。これにより、不良設定問題を回避して被検体Eの吸収・散乱特性の推定精度や空間解像度を向上させ、推定時間を短縮することができる。また、光源や光検出器の配置による再現性の劣化も軽減することができる。
【0115】
以上、本発明の好ましい実施例を説明したが、本発明はこれらに限定されずその要旨の範囲内で種々の変形及び変更が可能である。
【図面の簡単な説明】
【0116】
【図1】図1(a)は本発明の実施例1の測定装置のブロック図であり、図1(b)は 図1(a)に示す測定装置の測定容器の概略断面図である。
【図2】図2(a)は、図1(a)に示す第1の測定部による測定における光の伝播経路を示す概略断面図であり、図2(b)は、図1(a)に示す第2の測定部による測定における光の伝播経路を示す概略断面図である。
【図3】図1(a)に示す第2の測定部の超音波集束位置を示す概略断面図である。
【図4】図1(a)に示す測定装置の信号処理装置の動作を説明するためのフローチャートである。
【図5】実施例2における第2の測定部が測定可能な領域と測定不能な領域を示す概略断面図である。
【図6】図6(a)及び図6(b)は、実施例2における第2の測定部の動作を説明するための概略断面図である。
【図7】実施例2における第2の測定部の別の動作を説明するための概略断面図である。
【図8】本発明の実施例3及び4の測定装置のブロック図である。
【符号の説明】
【0117】
3 光源
12、20 超音波振動子アレイ
6 信号処理部
13 光検出器
20 超音波トランスデューサ
100、100A 測定装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被検体内部の分光特性を測定する測定方法において、
被検体に光を照射することによって前記被検体の分光特性を拡散光トモグラフィを利用して測定する第1のステップと、
前記被検体に光を照射することによって前記被検体の分光特性を音響光学トモグラフィ又は光音響トモグラフィを利用して測定する第2のステップと、
前記被検体内部の分光特性の分布を仮定し、当該仮定から得られる前記分光特性の予想値と前記第1のステップで得られる実測値との差が許容範囲になるように前記仮定を変更する第3のステップと、を有し、
当該第3のステップは、前記第2のステップで取得したデータを初期値、制約条件及び境界条件の少なくとも一つに利用することを特徴とする測定方法。
【請求項2】
前記第3のステップは、前記第2のステップが測定可能な範囲においては前記データを使用して前記被検体の分光特性の分布を推定し、前記第2のステップが測定不可能な範囲においては前記第1のステップで取得したデータと前記第2のステップで取得したデータを使用して前記被検体の分光特性の分布を推定することを特徴とする請求項1に記載の測定方法。
【請求項3】
前記第3のステップは、前記データを空間的に補間して得られたデータを更に使用して前記被検体の分光特性の分布を推定することを特徴とする請求項1又は2に記載の測定方法。
【請求項4】
前記被検体の構造特性を超音波エコーを利用して測定する第4のステップを更に有し、
前記第1のステップは、前記第4のステップで取得した構造特性に変化がある部分のデータを更に使用して前記被検体の分光特性の分布を推定することを特徴とする請求項1乃至3のうちいずれか一項に記載の測定方法。
【請求項5】
前記分光特性若しくは当該分光特性の吸収に寄与した構成要素の濃度及び成分比率を算出することによって前記被検体の三次元的な断層像を形成するステップと、
前記三次元的な断層像を表示するステップを更に有することを特徴とする請求項1乃至4のうちいずれか一項に記載の測定方法。
【請求項6】
被検体内部の分光特性を測定する測定装置において、
被検体の分光特性を拡散光トモグラフィを利用して測定する第1の測定部と、
前記被検体の分光特性を音響光学トモグラフィ又は光音響トモグラフィを利用して測定する第2の測定部と、
前記被検体内部の分光特性の分布を仮定し、当該仮定から得られる前記分光特性の予想値と前記第1の測定部で得られる実測値との差が許容範囲になるように前記仮定を変更する信号処理部と、を有し、
当該信号処理部は、前記第2の測定部で取得したデータを初期値、制約条件及び境界条件の少なくとも一つに利用することを特徴とする測定装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2009−68962(P2009−68962A)
【公開日】平成21年4月2日(2009.4.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−237010(P2007−237010)
【出願日】平成19年9月12日(2007.9.12)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】