説明

湿式多板クラッチ

【課題】フリクションディスクとセパレータプレートとの間に潤滑油を十分に供給することができる湿式多板クラッチを提供する。
【解決手段】湿式多板クラッチ1は、ドラム21の外周面21aを覆う固定カバー3を備えている。この固定カバー3は、ドラム21の外周面21aとの間に隙間3sを開けている。この隙間3sは、ドラム21の回転方向21gと同じ方向に且つ各列の複数のドラム穴(ドラム長穴21d、ドラム丸穴21e)に向けて回転方向21gの順に徐々に狭まるように形成されている。これにより、隙間3sに回転方向21gと同じ方向に流れている空気Cの流れを各ドラム穴の近傍Dで速くして負圧を発生させている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ホイールローダ等の車両に用いられる湿式多板クラッチに関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、ホイールローダ等の車両に用いられるクラッチとしては湿式多板クラッチが知られている(例えば特許文献1参照)。この湿式多板クラッチは、交互に配置された複数の摩擦板を潤滑油が供給された状態で係合することにより動力を伝達するものである。
【0003】
従来の湿式多板クラッチは、例えば、一端側が開放された円筒状のドラム(クラッチドラム)と、ドラム内に同一軸線上に配置された環状のハブ(クラッチハブ)とを備えている。ドラムの他端側にある側壁の回転中心には出力軸が結合しており、ドラムは出力軸と一体に回転する。ハブの軸穴には入力軸がスプライン嵌合されており、ハブは入力軸と一体に回転する。
【0004】
ドラムの内周面には、複数の環状のセパレータプレート(クラッチプレート)が軸方向に離間して且つ移動可能にスプライン嵌合されている。ハブの外周面には、複数の環状のフリクションディスク(クラッチディスク)が複数のセパレータプレート間に1枚ずつ配置されて軸方向に移動可能にスプライン嵌合されている。
【0005】
複数のセパレータプレートと複数のフリクションディスクは、変速時にピストン(クラッチピストン)が一方側から軸方向に押圧することにより係合される。これによりエンジンからトルクコンバータを介して入力軸に伝達されてきた動力は、ハブ、複数のフリクションディスク、複数のセパレータプレート、ドラムを介して出力軸に伝達される。
【0006】
また入力軸の内部または出力軸の内部には、ドラム内に潤滑油を供給する供給路が設けられている。ハブの周壁にはドラム内に供給された潤滑油を隣接するフリクションディスクとセパレータプレートとの間に供給する複数のハブ穴が貫通して設けられている。ドラムの周壁には隣接するフリクションディスクとセパレータプレートとの間に供給された潤滑油をドラムの外部に排出する複数のドラム穴が貫通して設けられている。
【0007】
したがってドラム内に供給された潤滑油は、各ハブ穴からフリクションディスクとセパレータプレートとの間に供給されて各ドラム穴から外部に排出される。このように従来の湿式多板クラッチでは、潤滑油によりフリクションディスクとセパレータプレートとの間を冷却することが可能になっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開昭62−124327号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、従来の湿式多板クラッチは、潤滑油をドラム内に供給するときの供給圧力ではフリクションディスクとセパレータプレートとの間に潤滑油を十分に供給することができない。このため、フリクションディスクとセパレータプレートとの間を十分に冷却することができない。
【0010】
その結果、フリクションディスクとセパレータプレートとの間に高い摩擦熱が発生してフリクションディスクやセパレータプレートが熱変形してしまい、クラッチの過大な引きずりやクラッチが切れない等の不具合が発生してしまう。
【0011】
本発明は以上の問題を鑑みて成されたものであり、フリクションディスクとセパレータプレートとの間に潤滑油を十分に供給することができる湿式多板クラッチを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者等は、鋭意研究の結果、前記課題を解決するために以下のような湿式多板クラッチを採用した。
【0013】
本発明の湿式多板クラッチは、
一端側が開放された円筒状に形成されて他端側にある側壁の回転中心に出力軸が結合されたドラムと、環状に形成されて前記ドラム内に前記出力軸と同一軸線上に配置されて軸穴に入力軸がスプライン嵌合されたハブとを備え、
前記ドラムの内周面には複数の環状のセパレータプレートが軸方向に離間して且つ移動可能にスプライン嵌合され、
前記ハブの外周面には複数の環状のフリクションディスクが前記複数のセパレータプレート間に1枚ずつ配置されて前記軸方向に移動可能にスプライン嵌合され、
前記複数のセパレータプレートおよび前記複数のフリクションディスクはピストンにより一方側から前記軸方向に押圧されて係合される湿式多板クラッチであって、
前記入力軸の内部または前記出力軸の内部には前記ドラム内に潤滑油を供給する供給路が設けられ、
前記ハブの周壁には前記ドラム内に供給された前記潤滑油を隣接する前記フリクションディスクと前記セパレータプレートとの間に供給する複数のハブ穴が貫通して設けられ、
前記ドラムの周壁には隣接する前記フリクションディスクと前記セパレータプレートとの間に供給された前記潤滑油を前記ドラムの外部に排出する複数のドラム穴が貫通して設けられ、
前記複数のドラム穴のうち、少なくとも1つのドラム穴の近傍に負圧を発生させる負圧発生手段を備えることを特徴としている。
【発明の効果】
【0014】
本発明の湿式多板クラッチでは、少なくとも1つのドラム穴の近傍に負圧を発生させる負圧発生手段を備えた。これにより、フリクションディスクとセパレータプレートとの間にはドラム穴へ向けて吸引力が生じるので、フリクションディスクとセパレータプレートとの間に流入した潤滑油は、この吸引力を利用してフリクションディスクとセパレータプレートとの間からスムーズに流出することが可能になる。よって、本発明の湿式多板クラッチは、フリクションディスクとセパレータプレートとの間に潤滑油を十分に供給することができる。また、これによりフリクションディスクとセパレータプレートとの間を十分に冷却することができ、フリクションディスクとセパレータプレートとの間に高い摩擦熱が発生するのを抑えることができる。その結果、フリクションディスクやセパレータプレートの熱変形を防止することができ、クラッチの過大な引きずりやクラッチが切れない等の湿式多板クラッチの不具合の発生を防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明の第1の実施の形態を示すホイールローダの側面図である。
【図2】同実施の形態の湿式多板クラッチの斜視図である。
【図3】同実施の形態のクラッチ本体の構成を示す模式図である。
【図4】(a)は同実施の形態のハブと出力軸の側面図である。(b)は同実施の形態のハブと出力軸の縦断面図である。
【図5】同実施の形態のフリクションディスクの正面図である。
【図6】同実施の形態のセパレータプレートの正面図である。
【図7】(a)は同実施の形態のドラムと固定カバーの側面図である。(b)は同実施の形態のドラムと固定カバーの正面図である。
【図8】同実施の形態のクラッチ本体の非係合時の潤滑油の流れを示す模式図である。
【図9】同実施の形態のクラッチ本体の係合時の潤滑油の流れを示す模式図である。
【図10】図7(b)を用いて負圧の発生を説明した模式図である。
【図11】同実施の形態のフリクションディスクの変形例である。
【図12】(a)は本発明の第2の実施の形態を示す湿式多板クラッチのドラムと固定カバーの側面図である。(b)は同実施の形態のドラムと固定カバーの正面図である。
【図13】図12を用いて負圧の発生を説明した模式図である。
【図14】(a)は本発明の第3の実施の形態を示す湿式多板クラッチのドラムと固定カバーの側面図である。(b)は同実施の形態のドラムと固定カバーの正面図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の実施の形態を図にしたがって説明する。
【0017】
(第1の実施の形態)
図1は、本発明の第1の実施の形態を示すホイールローダ101の側面図である。このホイールローダ101に用いられる湿式多板クラッチは、ホイールローダ101の車体後部に設けられたトランスミッション102の内部に設けられている。
【0018】
湿式多板クラッチは、複数の摩擦板(セパレータプレートとフリクションディスク)を潤滑油が供給された状態で係合することにより、車体後部に設けられたエンジン103からトルクコンバータ(図示せず)を介して伝達されてきた動力をトランスミッション102内で伝達する。トランスミッション102に伝達された動力は、プロペラシャフト104を介して前輪105と後輪106に伝達される。
【0019】
図2は湿式多板クラッチ1の斜視図である。この湿式多板クラッチ1は、円筒状のクラッチ本体2と、クラッチ本体2(ドラム21)の外周面21aを覆う固定カバー3(本発明の負圧発生手段)とを備えている。
【0020】
図3はクラッチ本体2の構成を示す模式図である。図3のクラッチ本体2では非係合の状態を示しており、またクラッチ本体2の上半分を示している。最初にクラッチ本体2の基本的な構成について説明する。このクラッチ本体2は、ドラム21と、ドラム21内に配置されたハブ22とを中心にして構成されている。
【0021】
ドラム21は一端側が開放された円筒状に形成されている。ドラム21の他端側にある側壁21kの回転中心には出力軸23の一端側が貫通して結合されており、ドラム21は出力軸23と一体に回転する。出力軸23の他端側はトランスミッションの入力軸に接続している。
【0022】
ドラム21の内周面21bには、複数の環状のセパレータプレート24がドラム21の軸方向Aに離間して且つ移動可能にスプライン嵌合されている。さらに、左側のセパレータプレート24の左側にはエンドプレート25(セパレータプレート)がスプライン嵌合されている。エンドプレート25の左側には環状のスナップリング26が取り付けられており、エンドプレート25の抜け止めをしている。
【0023】
ハブ22は環状に形成され、出力軸23と同一軸線上に配置されている。ハブ22の軸穴22aには図示しないが入力軸の一端側がスプライン嵌合されている。入力軸の他端側はトルクコンバータを介してエンジン103の出力軸(図示せず)に接続している。これにより入力軸はエンジン103の回転に同期して回転し、ハブ22は入力軸と一体に回転する。
【0024】
ハブ22の外周面22bには、複数の環状のフリクションディスク27が隣接するセパレータプレート24,24間に1枚ずつ配置されて軸方向Aに移動可能にスプライン嵌合されている。
【0025】
各フリクションディスク27は、環状のコアプレート271と、コアプレート271の両端面に設けられた環状のフェーシング272,272(摩擦材)とを備えている。
【0026】
ドラム21内には、右側のセパレータプレート24の右側にピストン28が配置されている。ピストン28とドラム21との間には油圧室(図示せず)が形成されている。
【0027】
さらにドラム21内には、スプリングリテーナ(図示せず)がピストン28と対向して配置されている。このスプリングリテーナとピストン28との間にはリターンスプリング(図示せず)が配置されている。このリターンスプリングは、ピストン28をセパレータプレート24およびフリクションディスク27から離間する方向に付勢している。
【0028】
次に、クラッチ本体2の潤滑油の供給に関係する構成について説明する。出力軸23の内部にはドラム21内に潤滑油を供給する供給路23aが設けられている。
【0029】
この供給路23aは、出力軸23の内部を軸方向Aに延びる流入路23bと、流入路23bから出力軸23の外周面の外側に抜ける複数の流出路23cとを備えている。流入路23bは図示しないがチャージングポンプを介してオイルタンクに接続されている。
【0030】
オイルタンク内には潤滑油が貯留されている。オイルタンク内の潤滑油はチャージングポンプによって吸い上げられてチャージングポンプから吐出し、流入路23bと流出路23cとを通ってドラム21内に供給される。
【0031】
ハブ22の周壁22cには、図4にも示すように複数のハブ穴(複数のハブ長穴22dと複数のハブ丸穴22e)が貫通して設けられている。この複数のハブ穴は、供給路23aによってドラム21内に供給された潤滑油を隣接するセパレータプレート24とフリクションディスク27との間に供給するものである。
【0032】
図4を用いてハブ長穴22dとハブ丸穴22eを具体的に説明する。まず、図4の(b)に示すようにハブ22の外周面22bには、複数のスプライン溝221と複数のスプライン歯222が周方向Bに交互に設けられている。これらのスプライン溝221とスプライン歯222は軸方向Aに延びて形成されており、各フリクションディスク27をスプライン嵌合させるものである。
【0033】
図4の(a)と(b)に示すように複数のハブ長穴22dと複数のハブ丸穴22eは、ハブ22の周壁22cに周方向Bに交互に並んで配置されている。複数のハブ長穴22dは、スプライン溝221上にハブ22の軸方向Aに並んで配置されている。各ハブ長穴22dは、ハブ22の軸方向Aに長く形成されている。また、複数のハブ丸穴22eはスプライン歯222上にハブ22の軸方向Aに並んで配置されている。
【0034】
図3と図5に示すように各フリクションディスク27には、複数の冷却路27aがコアプレート271を貫通して設けられている。
【0035】
図5を用いて冷却路27aを具体的に説明する。まず、コアプレート271の内周面には、複数のスプライン溝271aと複数のスプライン歯271bが周方向Bに交互に設けられている。これらのスプライン溝271aとスプライン歯271bは、ハブ22のスプライン溝221とスプライン歯222(図4の(b)参照)に嵌合される。
【0036】
複数の冷却路27aは等間隔に配置されており、それぞれスプライン歯271bの内面側からコアプレート271の外周面側に貫通して設けられている。各冷却路27aは全体にわたって径が同じに設定されており、断面が円形状に形成されている。また各冷却路27aは、図3に示すようにハブ長穴22dと連通している。
【0037】
図3と図6に示すように各セパレータプレート24には、複数の冷却路24aが貫通して設けられている。
【0038】
図6を用いて冷却路24aを具体的に説明する。まず、各セパレータプレート24の外周面には、複数のスプライン溝241aと複数のスプライン歯241bが周方向Bに交互に設けられている。これらのスプライン溝241aとスプライン歯241bは、各セパレータプレート24をドラム21の内周面21bにスプライン嵌合させるものである。
【0039】
複数の冷却路24aは等間隔に配置されており、それぞれスプライン歯241bの外面側からセパレータプレート24の内周面側に貫通している。各冷却路24aは全体にわたって径が同じに設定されており、断面が円形状に形成されている。
【0040】
図3と図7に示すようにドラム21の周壁21cには、複数のドラム穴(複数のドラム長穴21dと複数のドラム丸穴21e)が貫通して設けられている。この複数のドラム穴は、複数のハブ穴(複数のハブ長穴22dと複数のハブ丸穴22e)によってセパレータプレート24とフリクションディスク27との間に供給された潤滑油をドラム21の外部に排出するものである。
【0041】
図7を用いてドラム長穴21dとドラム丸穴21eを具体的に説明する。まず、図7の(b)に示すようにドラム21の内周面21bには、複数のスプライン溝211と複数のスプライン歯212が周方向Bに交互に設けられている。これらのスプライン溝211とスプライン歯212は軸方向Aに延びて形成されており、各セパレータプレート24のスプライン溝241aとスプライン歯241b(図6参照)に嵌合される。
【0042】
図7の(a)と(b)に示すように複数のドラム長穴21dと複数のドラム丸穴21eは、ドラム21の周壁21cに周方向Bに交互に並んで配置されている。複数のドラム丸穴21eは、スプライン歯222上にドラム21の軸方向Aに並んで配置されて周壁21cを貫通している。
【0043】
また、図7の(a)と(b)に示すように複数のドラム長穴21dは、スプライン溝211上にドラム21の軸方向Aに並んで配置されて周壁21cを貫通している。各ドラム長穴21dはドラム21の軸方向Aに長く形成されている。ここで、図3に示すように各セパレータプレート24の冷却路24aはドラム長穴21dと連通している。
【0044】
次に、図2と図7を用いて固定カバー3の構成を説明する。この固定カバー3は、図2に示すようにドラム21の外周面21aに沿うように形成された板状の湾曲部31と、湾曲部31の軸方向Aの両端側に形成されてドラム21の外周面21aに当接した一対の板状の脚部32,32とを備えている。したがって、この固定カバー3は周方向B側の両端が開口して形成されている。また、この固定カバー3は、ドラム21を覆うハウジング等に固定されて位置が固定されている。
【0045】
さらに、この固定カバー3は、図7の(b)に示すように湾曲部31とドラム21の外周面21aとの間に隙間3sを開けている。この隙間3sは、ドラム21の回転方向21gと同じ方向に、且つ、ドラム21の軸方向Aに並んでいる各列の複数のドラム穴(複数のドラム長穴21dと複数のドラム丸穴21e)へ向けて回転方向21gの順に徐々に狭まるように形成されている。
【0046】
以上のように構成されている湿式多板クラッチ1において、次に、クラッチ本体2の非係合時と係合時の潤滑油の流れを説明する。
【0047】
図8に示すように非係合時にはチャージングポンプが駆動すると、矢印a、bで示すように潤滑油は供給路23a(流入路23b、流出路23c)を通ってドラム21内に供給される。
【0048】
ドラム21内に供給された潤滑油は、矢印c、d、gで示すように、ハブ長穴22dやハブ丸穴22e(図4参照)からフリクションディスク27とセパレータプレート24(エンドプレート25)との間に供給され、ドラム長穴21dやドラム丸穴21e(図7参照)からドラム21の外部に排出される。
【0049】
また、ハブ長穴22dはフリクションディスク27の冷却路27aと連通している。したがって、ハブ長穴22dを通過した潤滑油は、矢印c、e、gで示すように冷却路27aを通過してドラム長穴21dやドラム丸穴21eからドラム21の外部に排出される。
【0050】
また、矢印c、f、gで示すように、ハブ長穴22dやハブ丸穴22eを通過した潤滑油はセパレータプレート24の冷却路24aに入る。ここで冷却路24aはドラム長穴21dと連通している。したがって、冷却路24aを通過した潤滑油はドラム長穴21dからドラム21の外部(ハウジング内)に排出される。
【0051】
なお、ハウジング内に排出された潤滑油は、図示しないが吸引管とチャージングポンプとを介してオイルタンクに戻される。つまり潤滑油は、チャージングポンプを介してオイルタンクとクラッチ本体2との間で循環されている。
【0052】
このように非係合時には、潤滑油が、フリクションディスク27とセパレータプレート24との間、フリクションディスク27の内部、セパレータプレート24の内部に供給されてフリクションディスク27とセパレータプレート24(エンドプレート25)が冷却される。
【0053】
そして変速時には、チャージングポンプにより油圧室に潤滑油が供給されて油圧がかけられる。すると、図9に示すようにピストン28がリターンスプリングのバネ力に抗して一方側のセパレータプレート24を押圧して複数のセパレータプレート24と複数のフリクションディスク27とを係合させる。つまりクラッチが繋がった状態になる。これにより、エンジン103(図1参照)からトルクコンバータ(図示せず)を介して入力軸に伝達されてきた動力が、ハブ22、複数のフリクションディスク27、複数のセパレータプレート24、ドラム21を介して出力軸23に伝達される。
【0054】
また、油室内の潤滑油がドラム長穴21dやドラム丸穴21eからドラム21の外部
(ハウジング内)に排出されると、ピストン28はリターンスプリングのバネ力により元の位置に戻される。これにより複数のセパレータプレート24と複数のフリクションディスク27とが離間して係合状態が解除される。つまりクラッチが切れた状態になる。
【0055】
また、係合時には、非係合時と同様にドラム21内に供給された潤滑油が、矢印c、d、gで示すようにハブ長穴22dやハブ丸穴22eからフリクションディスク27とセパレータプレート24との間に供給され、ドラム長穴21dやドラム丸穴21eからドラム21の外部(ハウジング内)に排出される。
【0056】
また、矢印c、e、gで示すように、ハブ長穴22dを通過した潤滑油はフリクションディスク27の冷却路27aを通過してドラム長穴21dやドラム丸穴21eからドラム21の外部(ハウジング内)に排出される。
【0057】
さらに、矢印c、f、gで示すように、ハブ長穴22dやハブ丸穴22eを通過した潤滑油はセパレータプレート24の冷却路24aを通過してドラム長穴21dからドラム21の外部(ハウジング内)に排出される。
【0058】
このように係合時においても、潤滑油が、フリクションディスク27とセパレータプレート24との間、フリクションディスク27の内部、セパレータプレート24の内部に供給されてフリクションディスク27とセパレータプレート24が冷却される。
【0059】
そして、本実施の形態の湿式多板クラッチ1では、図2や図7で説明したように固定カバー3を備えている。これにより非係合時や係合時に関わらず、ドラム21の軸方向Aに並んでいる各列の複数のドラム穴(複数のドラム長穴21d、複数のドラム丸穴21e)の各近傍にはドラム21の回転に伴って負圧が発生する。
【0060】
この負圧の発生について図10を用いて具体的に説明する。ドラム21の外周面21aと固定カバー3との間に形成されている隙間3sには、ドラム21の回転によって回転方向21gと同じ方向に空気Cが流れている。本実施の形態では、隙間3sを複数のドラム穴へ向けて徐々に狭まるように形成しているため、空気Cの流れが各ドラム穴の近傍Dで速くなって負圧が発生する。つまりベンチュリ効果により負圧が発生する。
【0061】
このようにして各ドラム穴の近傍Dに負圧が発生すると、各ハブ穴(各ハブ長穴22d、各ハブ丸穴22e)から各ドラム穴(各ドラム長穴21d、各ドラム丸穴21e)へ向けて吸引力が生じる。したがって、フリクションディスク27とセパレータプレート24との間には各ドラム穴へ向けて吸引力が生じる。このため、フリクションディスク27とセパレータプレート24との間に流入した潤滑油は、この吸引力を利用してフリクションディスク27とセパレータプレート24との間からスムーズに流出することが可能になる。よって、本実施の形態の湿式多板クラッチ1では、フリクションディスク27とセパレータプレート24との間に潤滑油を十分に供給する(流す)ことができる。
【0062】
また、これによりフリクションディスク27とセパレータプレート24との間を十分に冷却することができ、フリクションディスク27とセパレータプレート24との間に高い摩擦熱が発生するのを抑えることができる。その結果、フリクションディスク27やセパレータプレート24の熱変形を抑えることができ、クラッチの過大な引きずりやクラッチが切れない等の湿式多板クラッチ1の不具合の発生を防止することができる。
【0063】
また、本実施の形態の湿式多板クラッチ1では、本発明の負圧発生手段として固定カバー3を用いたので、コストを抑えて、フリクションディスク27とセパレータプレート24との間に潤滑油を十分に供給することができる。
【0064】
また、本実施の形態の固定カバー3は周方向B側の両端が開口するように形成されていることから隙間3sは周方向B側の両端が開口している。したがって、この固定カバー3は、ドラム21の回転で生じる空気Cの流れを回転方向21gと同じ方向にスムーズに流すガイド部材となる。
【0065】
このため、近傍Dに十分な量の空気Cを速く流すことができ、近傍Dに高い負圧を発生させることが可能になる。これにより、フリクションディスク27とセパレータプレート24との間から各ドラム穴に向かう吸引力がさらに高まる。よって、フリクションディスク27とセパレータプレート24との間により十分な量の潤滑油を供給でき、フリクションディスク27とセパレータプレート24との間の冷却効率を高めることができる。その結果、フリクションディスク27やセパレータプレート24の熱変形を確実に抑えて、湿式多板クラッチ1の発生を確実に防止することができる。
【0066】
また、本実施の形態では、フリクションディスク27の内部やセパレータプレート24の内部に潤滑油を流す冷却路27a、24aを設けたので、フリクションディスク27自体やセパレータプレート24自体を冷却することが可能になる。したがって、フリクションディスク27やセパレータプレート24の熱変形を確実に抑えて、湿式多板クラッチ1の不具合の発生をより確実に防止することができる。
【0067】
さらに、本実施の形態では、フリクションディスク27の冷却路27aをハブ穴(ハブ長穴22d)と連通させた。これにより、ハブ穴を通過した潤滑油をフリクションディスク27の内部に直接通すことが可能になり、フリクションディスク27自体の冷却効率を上げることができる。よって、フリクションディスク27の熱変形をさらに確実に抑えて、湿式多板クラッチ1の不具合の発生をさらに確実に防止することができる。
【0068】
また、フリクションディスク27の冷却路27aと連通するハブ穴をハブ22の軸方向Aに長く形成したハブ長穴22dとした。これによりフリクションディスク27が軸方向Aに移動しても、ハブ長穴22dを通過した潤滑油をフリクションディスク27の内部に直接通すことが可能になる。したがって、非係合時や係合時に関わらずフリクションディスク自体の冷却効率を上げることができる。よって、フリクションディスク27の熱変形をさらに抑えて、湿式多板クラッチ1の不具合の発生をさらに確実に防止することができる。
【0069】
また、セパレータプレート24の冷却路24aをドラム穴(ドラム長穴21d)と連通させた。これにより、冷却路24aを通過した潤滑油をドラム穴に直接通すことが可能になるので、この潤滑油をドラム21の外部に確実に排出することが可能になる。したがってセパレータプレート24内に潤滑油をスムーズに流すことができ、セパレータプレート24自体の冷却効率をさらに上げることができる。よって、セパレータプレート24の熱変形をさらに確実に抑えて、湿式多板クラッチ1の不具合の発生をより確実に防止することができる。
【0070】
さらに、セパレータプレート24の冷却路24aと連通するドラム穴をドラム21の軸方向Aに長く形成したドラム長穴21dとした。これによりセパレータプレート24が軸方向Aに移動しても、冷却路24aを通過した潤滑油をドラム長穴21dに直接通すことが可能になる。したがって、非係合時や係合時に関わらずセパレータプレート24自体の冷却効率を上げることができる。よって、セパレータプレート24の熱変形をさらに確実に抑えて、湿式多板クラッチ1の不具合の発生をさらに確実に防止することができる。
【0071】
なお、本実施の形態のフリクションディスク27では、図5に示したように冷却路27aの径を全体にわたって同じ径に設定したが、このフリクションディスク27の代わりに図11に示すようなフリクションディスク127を使用しても良い。
【0072】
このフリクションディスク127では、冷却路127aの径をコアプレート1271の内端から外端に向けて広くなるように設定している。これにより、冷却路127aから潤滑油が流出するときの圧力を抑えることが可能になるので、フリクションディスク127内に潤滑油をスムーズに供給することができ、フリクションディスク127自体の冷却効率を上げることができる。したがって、フリクションディスク27の熱変形をさらに確実に抑えて、湿式多板クラッチ1の不具合の発生をさらに確実に防止することができる。
【0073】
また、図示しないが、セパレータプレート24の冷却路24aの径についても、図11のフリクションディスク127の冷却路127aと同様に、内端から外端に向けて広くなるように変更しても良い。この場合には、冷却路24aから潤滑油が流出するときの圧力を抑えることが可能になるので、セパレータプレート24内に潤滑油をスムーズに供給することができ、セパレータプレート24自体の冷却効率を上げることができる。したがって、セパレータプレート24の熱変形をさらに確実に抑えて、湿式多板クラッチ1の不具合の発生をさらに確実に防止することができる。
【0074】
なお、本実施の形態のフリクションディスク27やセパレータプレート24では、冷却路27a、24aの断面形状を円形状にしたが、断面形状は円形状に限定しなくても良く、例えば矩形状に形成しても良い。
【0075】
(第2の実施の形態)
図12の(a)は本発明の第2の実施の形態を示す湿式多板クラッチ201のドラム21と固定カバー203(本発明の負圧発生手段)の側面図であり、(b)はドラム21と固定カバー203の正面図である。なお、本実施の形態では、第1の実施の形態と同様な部分には同じ符号を付している。
【0076】
この固定カバー203は、第1の実施の形態で説明した固定カバー3(図7の(a)と(b)参照)に対して回転方向21g側の端を延長して形成されたものである。以下に固定カバー203の具体的な構成について説明する。
【0077】
この固定カバー203は、ドラム21の外周面21aに沿うように形成された板状の湾曲部231と、湾曲部231の軸方向Aの両端側に形成されてドラム21の外周面21aに当接した一対の板状の第1脚部232,232と、湾曲部231の回転方向21g側の端から回転方向21g側に斜め上方へ延びて形成された板状の延長部233と、延長部233の軸方向Aの両端側に形成されてドラム21の外周面21aに当接した一対の板状の第2脚部234,234とを備えている。
【0078】
したがって、この固定カバー203は、第1の実施の形態の固定カバー3と同様に周方向B側の両端が開口して形成されている。また、この固定カバー203は、ドラム21を覆うハウジング等に固定されて位置が固定されている。
【0079】
さらに、この固定カバー203は、図12の(b)に示すようにドラム21の外周面21aとの間に隙間203sを開けている。この隙間203sは、湾曲部231とドラム21の外周面21aとの間に形成された第1隙間203saと、延長部233とドラム21の外周面21aとの間に形成された第2隙間203sbとを備えている。
【0080】
第1隙間203saは、第1の実施の形態と同様に、ドラム21の回転方向21gと同じ方向に、且つ、軸方向Aに並んだ各列の複数のドラム穴(複数のドラム長穴21d、複数のドラム丸穴21e)へ向けて回転方向21gの順に徐々に狭まるように形成されている。第2隙間203sbは、湾曲部231の回転方向21g側の端から回転方向21g側へ徐々に広がるように形成されている。
【0081】
以上のように構成されている湿式多板クラッチ201は、固定カバー203を備えていることにより、ドラム21の軸方向Aに並んでいる各列の複数のドラム穴(複数のドラム長穴21d、ドラム丸穴21e)の各近傍Dに負圧を発生させる。
【0082】
この負圧の発生について図13を用いて具体的に説明する。隙間203s(第1隙間203sa、第2隙間203sb)には、ドラム21の回転によって回転方向21gと同じ方向に空気Cが流れている。本実施の形態では、第1隙間203saを複数のドラム穴へ向けて徐々に狭くなるように形成している。このため、空気Cの流れが各ドラム穴の近傍D(第1隙間203saの回転方向21gの端側)で速くなって負圧が発生する。つまりベンチュリ効果により負圧が発生する。
【0083】
このようにして各ドラム穴の近傍Dに負圧が発生すると、各ハブ穴(各ハブ長穴22d、各ハブ丸穴22e)から各ドラム穴(各ドラム長穴21d、各ドラム丸穴21e)へ向けて吸引力が生じるので、フリクションディスク27とセパレータプレート24との間には各ドラム穴へ向けて吸引力が生じる。このため、フリクションディスク27とセパレータプレート24との間に流入した潤滑油は、この吸引力を利用してフリクションディスク27とセパレータプレート24との間からスムーズに流出することが可能になる。よって、本実施の形態の湿式多板クラッチ201では、フリクションディスク27とセパレータプレート24との間に潤滑油を十分に供給することができる。
【0084】
さらに、本実施の形態では、第2隙間203sbを湾曲部231の回転方向21g側の端(第1隙間203sが一番狭まる位置E)から回転方向21g側へ徐々に広がるように形成している。これにより、第2隙間203sを通る空気Cの流れは、隙間203sが一番狭まる位置Eを含む両側(第1隙間203saの回転方向21gの端側から第2隙間203sbの回転方向21gと逆側の端側)で速くなり負圧を発生させている。したがって、各ドラム穴の近傍Dにおいて第1の実施の形態よりも広い領域でベンチュリ効果により負圧を発生させることができる。
【0085】
これにより、各ハブ穴から各ドラム穴へ向かう吸引力は第1の実施の形態の場合に比べて強まるので、フリクションディスク27とセパレータプレート24との間からドラム穴へ向かう吸引力も第1の実施の形態の場合に比べて強まるので、フリクションディスク27とセパレータプレート24との間に流入した潤滑油をフリクションディスク27とセパレータプレート24との間からよりスムーズに流出させることができる。よって、本実施の形態の湿式多板クラッチ201では、第1の実施の形態の湿式多板クラッチ1よりも、フリクションディスク27とセパレータプレート24との間に潤滑油を十分に供給することができる。
【0086】
したがって、本実施の形態の湿式多板クラッチ201では、第1の実施の形態の湿式多板クラッチ1よりも、フリクションディスク27とセパレータプレート24との間を十分に冷却することができる。その結果、フリクションディスク27やセパレータプレート24の熱変形を確実に抑えることができ、湿式多板クラッチ201の不具合の発生を確実に防止することができる。
【0087】
また、本実施の形態の湿式多板クラッチ201では、第1の実施の形態の湿式多板クラッチ1と同様に、本発明の負圧発生手段として固定カバー203を用いたので、コストを抑えて、フリクションディスク27とセパレータプレート24との間に潤滑油を十分に供給することができる。
【0088】
また、本実施の形態の固定カバー203は、第1の実施の形態の固定カバー3と同様に周方向B側の両端が開口するように形成されているので、空気Cの流れを回転方向21gと同じ方向にスムーズに流すことが可能になる。このため、近傍Dに十分な量の空気Cを速く流すことができ、近傍Dに高い負圧を発生させることが可能になる。
【0089】
これにより、フリクションディスク27とセパレータプレート24との間からドラム穴へ向かう吸引力をさらに高めることができる。よって、フリクションディスク27とセパレータプレート24との間にさらに十分な量の潤滑油を供給でき、フリクションディスク27とセパレータプレート24との間の冷却効率を高めることができる。したがって、フリクションディスク27やセパレータプレート24の熱変形をさらに確実に抑えて、湿式多板クラッチ201の不具合の発生を確実に防止することができる。
【0090】
(第3の実施の形態)
図14の(a)は本発明の第3の実施の形態を示す湿式多板クラッチ301のドラム21と固定カバー303の側面図であり、(b)はドラム21と固定カバー303の正面図である。なお、本実施の形態では、第1の実施の形態と同様な部分には同じ符号を付している。
【0091】
本実施の形態の固定カバー303はドラム21を囲むように円筒状に形成されており、ハウジング等によって固定されて位置が固定されている。
【0092】
この固定カバー303は、ドラム21の外周面21a全体にわたって沿うように形成された環状の被覆部331と、被覆部331の軸方向Aの両端側に形成されてドラム21の外周面21aに当接した一対の環状の脚部332,332とを備えている。
【0093】
被覆部331は全てのドラム穴(ドラム長穴21d、ドラム丸穴21e)を覆うように形成されている。また、被覆部331とドラム21の外周面21aとの間には隙間303sが形成されている。
【0094】
この隙間303sには吸引管401が挿入されている。この吸引管401は図示しないがチャージングポンプに接続している。このチャージングポンプは吸引管401を介して隙間303s内の空気を吸引する。これにより隙間303s内(全てのドラム穴の近傍)には吸引管401へ向かう空気の速い流れが生じて負圧が発生する。したがって、本実施の形態では、チャージングポンプと、吸引管401と、固定カバー303とにより本発明の負圧発生手段が構成されている。
【0095】
このようにして隙間303s内に負圧が発生すると、各ハブ穴(各ハブ長穴22d、各ハブ丸穴22e)から各ドラム穴(各ドラム長穴21d、各ドラム丸穴21e)へ向けて吸引力が生じる。したがって、フリクションディスク27とセパレータプレート24との間からドラム穴へ向けても吸引力が生じる。
【0096】
このため、フリクションディスク27とセパレータプレート24との間に流入した潤滑油は、この吸引力を利用してフリクションディスク27とセパレータプレート24との間からスムーズに流出することが可能になる。よって、本実施の形態の湿式多板クラッチ301は、フリクションディスク27とセパレータプレート24との間に潤滑油を十分に供給することができる。したがって、フリクションディスク27とセパレータプレート24との間を十分に冷却することができる。その結果、フリクションディスク27とセパレータプレート24の熱変形が抑えられ、湿式多板クラッチ301の不具合の発生を防止することができる。
【0097】
以上、本発明にかかる実施の形態を例示したが、これらの実施の形態は本発明の内容を限定するものではない。また、本発明の請求項の範囲を逸脱しない範囲であれば、各種の変更等は可能である。
【0098】
例えば、第1の実施の形態の固定カバー3や第2の実施の形態の固定カバー203ではドラム21の外周面21aの一部を覆うように形成したが、これらの固定カバーを第3の実施の形態の固定カバー303のようにドラム21の外周面21aの全体を覆うように形成しても良い。また、第1の実施の形態の固定カバー3や第2の実施の形態の固定カバー203では、複数のドラム穴の近傍に負圧を発生させるようにしたが、少なくとも1つのドラム穴の近傍に負圧を発生させるようにしても良い。
【符号の説明】
【0099】
1 湿式多板クラッチ
3 固定カバー(負圧発生手段)
3s 隙間
21 ドラム
21b ドラムの内周面
21c ドラムの周壁
21d ドラム長穴(ドラム穴)
21e ドラム丸穴(ドラム穴)
21k ドラムの側壁
21g ドラムの回転方向
22 ハブ
22a ハブの軸穴
22b ハブの外周面
22c ハブの周壁
22d ハブ長穴(ハブ穴)
22e ハブ丸穴(ハブ穴)
23 出力軸
24 セパレータプレート
27 フリクションディスク
28 ピストン
127 フリクションディスク
201 湿式多板クラッチ
203 固定カバー(負圧発生手段)
203s 隙間
301 湿式多板クラッチ
303 固定カバー(負圧発生手段)
401 吸引管(負圧発生手段)
A 軸方向
B 周方向
C 空気
D 近傍
E 隙間が一番狭まる位置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一端側が開放された円筒状に形成されて他端側にある側壁の回転中心に出力軸が結合されたドラムと、環状に形成されて前記ドラム内に前記出力軸と同一軸線上に配置されて軸穴に入力軸がスプライン嵌合されたハブとを備え、
前記ドラムの内周面には複数の環状のセパレータプレートが軸方向に離間して且つ移動可能にスプライン嵌合され、
前記ハブの外周面には複数の環状のフリクションディスクが前記複数のセパレータプレート間に1枚ずつ配置されて前記軸方向に移動可能にスプライン嵌合され、
前記複数のセパレータプレートおよび前記複数のフリクションディスクはピストンにより一方側から前記軸方向に押圧されて係合される湿式多板クラッチであって、
前記入力軸の内部または前記出力軸の内部には前記ドラム内に潤滑油を供給する供給路が設けられ、
前記ハブの周壁には前記ドラム内に供給された前記潤滑油を隣接する前記フリクションディスクと前記セパレータプレートとの間に供給する複数のハブ穴が貫通して設けられ、
前記ドラムの周壁には隣接する前記フリクションディスクと前記セパレータプレートとの間に供給された前記潤滑油を前記ドラムの外部に排出する複数のドラム穴が貫通して設けられ、
前記複数のドラム穴のうち、少なくとも1つのドラム穴の近傍に負圧を発生させる負圧発生手段を備えることを特徴とする湿式多板クラッチ。
【請求項2】
請求項1に記載の湿式多板クラッチにおいて、
前記負圧発生手段は、前記ドラムの外周面の外側で位置が固定されて当該外周面との間に隙間を開けて覆う固定カバーであり、
当該固定カバーは、前記隙間を前記ドラムの回転方向と同じ方向に且つ前記少なくとも1つのドラム穴へ向けて徐々に狭めるように形成して、当該隙間に前記回転方向と同じ方向に流れている空気の流れを前記少なくとも1つのドラム穴の近傍で速くすることにより負圧を発生させることを特徴とする湿式多板クラッチ。
【請求項3】
請求項2に記載の湿式多板クラッチにおいて、
前記固定カバーを、前記隙間が一番狭まる位置から前記回転方向側へ徐々に広がるように形成したことを特徴とする湿式多板クラッチ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【公開番号】特開2013−53706(P2013−53706A)
【公開日】平成25年3月21日(2013.3.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−193524(P2011−193524)
【出願日】平成23年9月6日(2011.9.6)
【出願人】(000005522)日立建機株式会社 (2,611)
【Fターム(参考)】