説明

湿式蛍光磁粉探傷試験に用いる検査液における各成分濃度の測定方法および測定装置

【課題】湿式蛍光磁粉探傷試験に用いる検査液の成分濃度の測定方法および測定装置を提供する。
【解決手段】撹拌された検査液を測定具3に導入し、異なる波長の複数の光源として、紫外線LEDランプ4a、複数の異なる波長の可視光LEDランプ4b,4cおよび赤外線LEDランプ4dの光を、測定具3の一側方から検査液に照射して得られた透過光および励起して発光した可視光を用い、透過光を検出する紫外線検出器5a、可視光検出器5c,5dおよび赤外線検出器5eと、励起して発光した可視光を検出する蛍光輝度検出器5bとの各検出値および検査液の各成分の時間経過に伴う沈降特性の違いによって得られる各検出器の検出値の変化および光源のうち、異なる波長の2の光源4b,4dに応じた検出器5c,5eによる各検出値の差分値から、検査液の各成分濃度を測定。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、被検査体の磁化した金属の表面に、少なくとも蛍光磁粉を混合してなる検査液を接触させ、表面の傷部に蛍光磁粉を集合および付着させることによって、傷部を探傷する湿式蛍光磁粉探傷試験に用いる検査液に関し、より詳細には、検査液における各成分濃度の測定方法および測定装置に関する。
【背景技術】
【0002】
湿式蛍光磁粉探傷試験は、一般的にビレットなどの鋼材や、自動車のシャフトなどの部品の探傷検査に適用する、JIS−Z−2320に規格化されたものである。これは、被検査体を磁化することにより、被検査体の表層部に傷部を有していれば、この傷部に磁極が発生するため、当該磁極に磁粉を付着させることで傷部を判定する、例えば特許文献1〜2に記載のような周知の非破壊検査法である。この傷部に付着させる磁粉は蛍光磁粉を使用しているため、暗室内で紫外線を照射し、傷部に付着した蛍光磁粉の蛍光体を発光させることで視認性を向上させ、検査を容易にする効果が得られる。検査に適用する検査液は数μm〜数十μmの蛍光磁粉と水もしくは白灯油と所定の分散剤、所定の防錆剤からなるのが一般的である。探傷検査において検査液内の蛍光磁粉の含有量が、傷部の視認性や検出限界などを左右する重要な要素である。検査液中の蛍光磁粉の濃度を測定する一般的な手法は、沈殿管を用いたもの(非破壊検査シリーズ、磁粉探傷試験IIIP82〜83)である。その手法は、よく撹拌し懸濁した検査液を散布ノズルから採取し、沈殿管を30分間静置した後、沈殿管底部に沈殿した沈殿物の容積を求めていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2009−109424号公報
【特許文献2】特開2007−303824号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、上記のような湿式蛍光磁粉探傷試験に用いる検査液の成分濃度の測定方法では、サンプリングの状況や、スケールおよびゴミなど異物の混入によって沈殿量が多くなっている場合、濃度測定値にばらつきを生じていた。そこで、この問題を解決するために、擬似欠陥に付着した蛍光体の明るさを指針として測定する方法(特開平7―113787)や、その明るさをCCDで読み取り画像処理することで測定する方法(特開2009−75098)、さらには鉄粉の電磁気特性と蛍光輝度を併用して測定する手法(特開平5−215724)が提案されているが、擬似欠陥を有した試験片の磁化状態、散布法などにより測定結果のばらつきは避けられない。また、上述したサンプリング操作は煩わしく、作業性が悪いという問題もあった。
【0005】
さらに、上述してきた検査液の成分濃度の測定方法では、蛍光磁粉の濃度しか測定することができない。ところで、検査液中における蛍光磁粉の濃度は、探傷の視認性を左右するとともに、分散剤の濃度は、検査液の被検査体への濡れ性を左右する。分散剤の評価方法としては、特開平8−128993に開示した、表面あらさ標準片の標準面と透明板体の一面とが所要間隔を置いて対面している状態で固定し、当該両面が垂直になる姿勢で設置した測定装置にて、その下端部を試料に浸漬して前記間隔を毛細管現象によって上昇する試料の上昇値を測定し、当該測定値によって当該検査液中の分散剤の濡れ性を評価するものがあるが、分散剤自体の濃度を測定するものではなく、また、分散剤の評価のためだけに別途測定装置を設けなければならず、コスト高となるとともに作業効率が悪いという問題もあった。また、検査液の多くは、検査液タンクで調製され、磁化した被検査体に塗布された後、余剰分の検査液は回収し、再び被検査体に散布される。被検査体に対して前工程でショットブラストなどの表面処理を行っている場合、この表面処理で生じた鉄屑などのスケールが被検査体に付着し、このスケールの付着した被検査体に検査液を塗布すると、検査液タンクには余剰分の検査液に混入したスケールも回収されてしまう。このスケールは、酸化鉄などの強磁性体であるため、探傷の際、傷部への蛍光磁粉の付着を阻害し、探傷精度を著しく低下させてしまう。
【0006】
そこで、本願発明者らは、検査液に含まれる成分の濃度を把握し、探傷精度を向上させるため、特願2010−257667に記載したように、撹拌された検査液を透明な測定具に導入し、この測定具内の検査液に、光源としての紫外線LEDランプおよび赤外線LEDランプを測定具の一側方から照射し、紫外線照射により検査液から得られた透過光を検出する紫外線検出器と、赤外線照射により検査液から得られた透過光を検出する赤外線検出器と、紫外線照射により検査液から得られた励起して発光した可視光を検出する蛍光輝度検出器とによる各検出値(検査液流動状態)および、検査液中の各成分の時間経過に伴う沈降特性の違いによって得られた上記各検出器による検出値(検査液静置状態)から、検査液に含有する蛍光磁粉、分散剤、防錆剤、スケールの各濃度を測定する方法および装置を開発した。
【0007】
しかしながら、被試験体である自動車部品などの鋼材は、製造工程における探傷試験の前工程で切削加工が行われる場合が多く、被検査体表面には、切削油や防腐剤など周知の油分が付着し、上述したスケール同様にこれら油分も検査液とともに検査液タンクに回収されていく。そして、このような検査液中への油分の混入量の増加は、検査液内での蛍光磁粉の凝集を促進させ、探傷精度を著しく低下させてしまう。ここで、油分が蛍光磁粉の凝集を発生させる要因としては、油分中で蛍光磁粉の分散が始まるが、この油分により蛍光磁粉が分散途中などでそのまま固まってしまうことや、油分が検査液に含まれる分散剤の分散能力を低下させることなどが挙げられ、この結果、検査液内への油分の混入は検査液の性能を不安定なものとする。
【0008】
そこで、検査液中に含まれる油分の濃度を把握できれば、検査液の液質管理(交換のタイミングなど)をすることで探傷性能の維持が可能となるが、従来では、検査液中に含まれるこの油分濃度を測定することができず、その結果、検査液中の油分濃度の上昇に伴い、探傷試験の際の傷部の検出性能が低下していても、そのまま探傷試験が続行されることから、探傷試験の性能低下という問題があった。
【0009】
従って、この発明の目的は、検査液に混入した切削油や防腐剤などの油分濃度を測定可能にするとともに、この油分濃度に加え、検査液に含有するスケールや、検査液を構成する蛍光磁粉、分散剤、防錆剤など検査液中の各成分濃度を簡単な方法で同時に測定でき、かつそれらの濃度を瞬時かつ高精度に測定可能とした、探傷試験の際の傷部の検出性能および作業性を向上させた湿式蛍光磁粉探傷試験に用いる検査液の成分濃度の測定方法および測定装置を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
このため、請求項1に記載の発明は、被検査体の磁化した金属の表面に、少なくとも蛍光磁粉を混合してなる検査液を接触させ、前記表面の傷部に前記蛍光磁粉を集合および付着させることによって、前記傷部を探傷する湿式蛍光磁粉探傷試験に用いる前記検査液の成分濃度測定方法であって、該成分濃度測定方法は、撹拌された前記検査液を測定具に導入し、異なる波長の複数の光源として、紫外線LEDランプ、可視光LEDランプ1個または波長が異なる可視光LEDランプ複数個、および赤外線LEDランプの光を、前記測定具の一側方から前記検査液に照射して得られた透過光および励起して発光した可視光を用い、前記透過光を検出する紫外線検出器、可視光検出器および赤外線検出器と、前記励起して発光した可視光を検出する蛍光輝度検出器との各検出値および前記検査液の各成分の時間経過に伴う沈降特性の違いによって得られる前記各検出器の検出値の変化および前記光源のうち、異なる波長の2つの光源に応じた前記検出器による各検出値の差分値から、前記検査液の各成分濃度を測定することを特徴とする。
【0011】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の湿式蛍光磁粉探傷試験に用いる検査液の成分濃度測定方法において、前記紫外線検出器、前記可視光検出器および前記赤外線検出器は、前記測定具を挟んで前記光源の対向位置に設置することを特徴とする。
【0012】
請求項3に記載の発明は、請求項1に記載の湿式蛍光磁粉探傷試験に用いる検査液の成分濃度測定方法において、前記各成分は、蛍光磁粉と、分散剤と、防錆剤と、スケールと、油分とを含むことを特徴とする。
【0013】
請求項4に記載の発明は、被検査体の磁化した金属の表面に、少なくとも蛍光磁粉を混合してなる検査液を接触させ、前記金属表面の傷部に前記蛍光磁粉を集合および付着させることによって、前記傷部を探傷する湿式蛍光磁粉探傷試験に用いる前記検査液の成分濃度測定装置であって、該成分濃度測定装置は、前記検査液を導入する測定具と、前記検査液の流れを制御するポンプと、該測定具内の前記検査液に紫外線を照射する光源の紫外線LEDランプと、該測定具内の前記検査液に可視光を照射する光源の可視光LEDランプ1個または波長が異なる可視光LEDランプ複数個と、該測定具内の前記検査液に赤外線を照射する光源の赤外線LEDランプと、前記紫外線照射により前記検査液から得られた透過光を検出する紫外線検出器と、前記可視光照射により前記検査液から得られた透過光を検出する可視光検出器と、前記赤外線照射により前記検査液から得られた透過光を検出する赤外線検出器と、前記紫外線照射により前記検査液から得られた励起して発光した可視光を検出する蛍光輝度検出器と、前記ポンプの動作時および停止時の前記検査液の、前記紫外線検出器、前記可視光検出器、前記赤外線検出器、前記蛍光輝度検出器による各検出値に基づいて、それぞれ前記検査液に含有する前記蛍光磁粉の濃度および分散剤濃度、防錆剤濃度、スケール濃度、油分濃度を算出する情報処理部とを備え、かつ前記測定具は、暗箱体内に設置するとともに、前記紫外線LEDランプと、前記可視光LEDランプと、前記赤外線LEDランプと、前記紫外線検出器と、前記可視光検出器と、前記赤外線検出器と、前記蛍光輝度検出器とは、前記暗箱体内に備えることを特徴とする。
【0014】
請求項5に記載の発明は、少なくとも蛍光磁粉を混合してなる検査液を貯留する検査液タンクと、該検査液タンク内の前記検査液を循環手段で取り出すとともに、前記検査液タンク内に還流させる移送手段と、該移送手段内の前記検査液を、被検査体の磁化した金属の表面に接触させて、前記表面の傷部の探傷を行う探傷部とを備える湿式蛍光磁粉探傷試験装置であって、前記移送手段は、前記検査液の成分濃度を測定する、請求項4に記載の成分濃度測定装置を備え、前記移送手段が、前記探傷部に前記検査液を圧送する試験用配管であって、該試験用配管に、前記成分濃度測定装置の前記測定具を接続したことを特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
請求項1に記載の発明によれば、被検査体の磁化した金属の表面に、少なくとも蛍光磁粉を混合してなる検査液を接触させ、表面の傷部に前記蛍光磁粉を集合および付着させることによって、傷部を探傷する湿式蛍光磁粉探傷試験に用いる検査液の成分濃度測定方法であって、この成分濃度測定方法は、撹拌された検査液を測定具に導入し、異なる波長の複数の光源として、紫外線LEDランプ、可視光LEDランプ1個または波長が異なる可視光LEDランプ複数個、および赤外線LEDランプの光を、測定具の一側方から検査液に照射して得られた透過光および励起して発光した可視光を用い、透過光を検出する紫外線検出器、可視光検出器および赤外線検出器と、励起して発光した可視光を検出する蛍光輝度検出器との各検出値および検査液の各成分の時間経過に伴う沈降特性の違いによって得られる各検出器の検出値の変化および光源のうち、異なる波長の2つの光源に応じた検出器による各検出値の差分値から、検査液の各成分濃度を測定するので、光学的手法を用いた簡単な構成により、検査液中に含まれる混入物を含む各成分の濃度を瞬時かつ高精度で、容易に測定することができる。
【0016】
特に、検査液内での蛍光磁粉の凝集を促進させ、探傷精度を著しく低下させてしまう切削油や防腐剤など、従来では測定できなかった検査液中に混入した油分濃度を、検査液に含まれる他の成分または混入物(蛍光磁粉、分散剤、防錆剤、スケール)の各濃度とともに測定することができるため、検査液の液質管理によって探傷性能を維持することができる。
【0017】
また、波長の異なる3種類の電磁波を用いて、検査液および検査液中に含まれる各成分から、成分濃度算出に必要な多種類の測定データを得ることができるとともに、LEDランプを用いることで検査液に吸光および励起発光させる光源ランプの使用寿命が長くなり、コストダウンを図ることができる。従って、各成分濃度の測定を可能にするとともに、測定精度および作業性を向上させた湿式蛍光磁粉探傷試験に用いる検査液の成分濃度の測定方法を提供することができる。
【0018】
請求項2に記載の発明によれば、紫外線検出器、可視光検出器および赤外線検出器は、測定具を挟んで光源の対向位置に設置するので、紫外線LEDランプ、可視光LEDランプおよび赤外線LEDランプから検査液に入射し、液中を略直進的に透過した紫外線、可視光および赤外線の各透過光を、各成分の吸光濃度として正確かつ安定的に測定することができる。従って、簡単な構成で測定精度を向上させた、湿式蛍光磁粉探傷試験に用いる検査液の成分濃度の測定方法を提供することができる。
【0019】
請求項3に記載の発明によれば、各成分は、蛍光磁粉と、分散剤と、防錆剤と、スケールと、油分とを含むので、検査液内での蛍光磁粉の凝集を促進させ、探傷精度を著しく低下させてしまう切削油や防腐剤など、従来では測定できなかった検査液中に混入した油分濃度を、検査液に含まれる蛍光磁粉、分散剤、防錆剤、スケールの各濃度とともに測定することができる。従って、混入物を含む各成分濃度の測定を可能にするとともに、測定精度および作業性を向上させた、湿式蛍光磁粉探傷試験に用いる検査液の成分濃度の測定方法を提供することができる。
【0020】
請求項4に記載の発明によれば、被検査体の磁化した金属の表面に、少なくとも蛍光磁粉を混合してなる検査液を接触させ、金属表面の傷部に蛍光磁粉を集合および付着させることによって、傷部を探傷する湿式蛍光磁粉探傷試験に用いる検査液の成分濃度測定装置であって、この成分濃度測定装置は、検査液を導入する測定具と、検査液の流れを制御するポンプと、この測定具内の検査液に紫外線を照射する光源の紫外線LEDランプと、この測定具内の検査液に可視光を照射する光源の可視光LEDランプ1個または波長が異なる可視光LEDランプ複数個と、この測定具内の検査液に赤外線を照射する光源の赤外線LEDランプと、紫外線照射により検査液から得られた透過光を検出する紫外線検出器と、可視光照射により検査液から得られた透過光を検出する可視光検出器と、赤外線照射により検査液から得られた透過光を検出する赤外線検出器と、紫外線照射により検査液から得られた励起して発光した可視光を検出する蛍光輝度検出器と、ポンプの動作時および停止時の前記検査液の、紫外線検出器、可視光検出器、赤外線検出器、蛍光輝度検出器による各検出値に基づいて、それぞれ検査液に含有する蛍光磁粉の濃度および、分散剤濃度、防錆剤濃度、スケール濃度、油分濃度を算出する情報処理部とを備え、かつ測定具は、暗箱体内に設置するとともに、紫外線LEDランプと、可視光LEDランプと、赤外線LEDランプと、紫外線検出器と、可視光検出器と、赤外線検出器と、蛍光輝度検出器とは、暗箱体内に備えるので、検査液中に含まれる混入物を含む各成分の濃度を瞬時かつ高精度で、容易に測定することができる。
【0021】
特に、検査液内での蛍光磁粉の凝集を促進させ、探傷精度を著しく低下させてしまう切削油や防腐剤など、従来では測定できなかった検査液中に混入した油分濃度を、検査液に含まれる他の成分または混入物(蛍光磁粉、分散剤、防錆剤、スケール)の各濃度とともに測定することができるため、検査液の液質管理によって探傷性能を維持することができる。従って、各成分濃度の測定を可能にするとともに、測定精度および作業性を向上させた湿式蛍光磁粉探傷試験に用いる検査液の成分濃度測定装置を提供することができる。
【0022】
さらに、本成分濃度測定装置は、設置場所を限定せず、探傷試験装置に組込んだり、成分濃度測定装置を測定ユニットとして携帯可能とし、サンプリングした検査液の成分濃度を、任意の場所で測定することができる。従って、測定精度および作業性を向上させた湿式蛍光磁粉探傷試験に用いる検査液の成分濃度の測定装置を提供することができる。
【0023】
請求項5に記載の発明によれば、少なくとも蛍光磁粉を混合してなる検査液を貯留する検査液タンクと、この検査液タンク内の検査液を循環手段で取り出すとともに、検査液タンク内に還流させる移送手段と、この移送手段内の検査液を、被検査体の磁化した金属の表面に接触させて、表面の傷部の探傷を行う探傷部とを備える湿式蛍光磁粉探傷試験装置であって、移送手段は、検査液の成分濃度を測定する、請求項4に記載の成分濃度測定装置を備え、移送手段が、探傷部に検査液を圧送する試験用配管であって、この試験用配管に、成分濃度測定装置の測定具を接続したので、成分濃度測定装置が湿式蛍光磁粉探傷試験装置と一体に構成され、従来のように検査液をサンプリングして探傷試験装置とは別の場所で成分濃度測定を行う必要がない。
【0024】
つまり、検査液タンクから探傷部へ移送途中である検査液の成分濃度を、散布装置での散布直前に探傷試験の一環としてオンラインで瞬時に測定することができる。従って、作業性を向上させた湿式蛍光磁粉探傷試験装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】本発明の一例を示す、湿式蛍光磁粉探傷試験に用いる検査液の成分濃度測定装置の斜視図である。
【図2】成分濃度測定装置の平面図および測定具の斜視図である。
【図3】成分濃度測定装置の正面図である。
【図4】測定具に対する光源(紫外線LEDランプ)と、紫外線検出器および蛍光輝度検出器の設置位置を示す測定具周辺の正面模式図である。
【図5】測定具に対する光源(可視光LEDランプまたは赤外線LEDランプ)と、可視光検出器または赤外線検出器の設置位置を示す測定具周辺の正面模式図である。
【図6】成分濃度測定装置のブロック制御図である。
【図7】検査液中の各成分(a)〜(d)の濃度に対する吸光濃度および蛍光輝度を示すグラフ(検査液を撹拌・流動状態)である。
【図8】検査液中の各成分(a)〜(d)の濃度に対する紫外線沈降吸光濃度を示すグラフ(検査液静止状態)である。
【図9】防錆剤および油分における光の波長による透過率の違いを示すグラフである。
【図10】油分としての切削油の各波長における濃度と吸光度の関係を示すグラフである。
【図11】コントローラによる検査液中の成分濃度算出経路のブロック図である。
【図12】切削油の濃度と、青色可視光および赤外線による吸光濃度の差分との関係を示すグラフである。
【図13】本発明の他の例を示す、光源をダイヤル式に配置した、湿式蛍光磁粉探傷試験に用いる検査液の成分濃度測定装置の斜視図である。
【図14】湿式蛍光磁粉探傷試験装置の一例を示した全体模式図である。
【図15】探傷部の拡大模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、図面を参照しつつ、この発明を実施するための最良の形態について詳述する。図1は本発明の一例を示した、湿式蛍光磁粉探傷試験に用いる検査液の成分濃度測定装置を示す斜視図、図2は成分濃度測定装置の平面図、図3は成分濃度測定装置の正面図、図4は測定具に対する光源(紫外線LEDランプ)と、紫外線検出器および蛍光輝度検出器の設置位置を示す測定具周辺の正面模式図、図5は測定具に対する光源(可視光LEDランプまたは赤外線LEDランプ)と、可視光検出器または赤外線検出器の設置位置を示す測定具周辺の正面模式図、図6は成分濃度測定装置のブロック制御図である。
【0027】
まず、周知のとおり湿式蛍光磁粉探傷試験に用いる検査液は、蛍光磁粉と、分散剤と、必要に応じて防錆剤とを混合させてなるものである。そして、それら成分の詳細は、例えば上述した特開2009−109424号公報などに記載されているように、まず蛍光磁粉としては、例えば、市販の磁粉(四三酸化鉄粒子や純鉄粒子などの導磁性粒子に酢酸セルローズ系合成樹脂やビニルブチラール系合成樹脂などの合成樹脂バインダーを用いてルモゲンイエロー50790:商品名:BASF社製やフエスタA:商品名:Swada社製などの蛍光顔料を付着させてなるメジアン径3〜70μm:体積基準分布表示−以下、同じ−で真比重2〜5g/cm3の粉末;以下「蛍光磁粉」という)を用いることができる。
【0028】
また、分散剤は、例えば、ポリオキシアルキレンアリルフェニルエーテル型非イオン系界面活性剤および陰イオン活性剤を用いることができる。さらに防錆剤としては、例えば亜硝酸ナトリウムなどを用いることができる。なお、蛍光磁粉や分散剤、防錆剤は上述した成分に限定されない。
【0029】
そして、湿式蛍光磁粉探傷試験では、上記のような各成分(蛍光磁粉、分散剤、防錆剤)について、探傷試験の対象に応じて設定したそれぞれの所定量で混合し、調製した検査液を、自動車のシャフトなどの鋼製部品や、ビレットなどの鋼材である被検査体に接触させ、当該被検査体の表面傷部(検査物の表面乃至表面近傍に存在する微細なワレやピンホール)に当該検査液に分散している当該磁粉を集合させて形成した磁粉模様によって表面傷部を探傷する周知の技術である。
【0030】
この検査液は、多くが検査液タンクで調製され、磁化した被検査体に塗布された後、余剰分の検査液は回収し、再び被検査体に散布される。上述したように、被検査体に対して前工程で表面処理を行っている場合、この表面処理で生じた鉄屑などのスケールが被検査体に付着し、このスケールの付着した被検査体に検査液を塗布すると、検査液タンクには余剰分の検査液に混入したスケールが回収されてしまうことから、検査液には探傷の使用当初(調製当初)は存在しなかったスケールが混入されるとともに、その濃度は徐々に上昇する。そして、このスケールは、酸化鉄などの強磁性体であるため、探傷の際、傷部への蛍光磁粉の付着を阻害し、探傷精度を著しく低下させてしまう。
【0031】
さらに、このような鋼材など被検査体は、探傷試験の前工程で切削加工が行われる場合が多く、被検査体表面には、切削油や防腐剤など周知の油分が付着し、上述したスケール同様にこれら油分も検査液とともに検査液タンクに回収されていく。このような検査液中への油分の混入量の増加は、検査液内での蛍光磁粉の凝集を促進させ、探傷精度を著しく低下させてしまう。
【0032】
また、検査液中における蛍光磁粉の濃度は、探傷の視認性を左右し、分散剤の濃度も、検査液の被検査体への濡れ性を左右するとともに、防錆剤の濃度管理も当然必要である。このような検査液を用いて行なう、後述する湿式蛍光磁粉探傷試験装置において、検査液タンク内からポンプで取出し、被検査体に接触させて探傷試験を行った検査液は、検査液タンクに戻された後、再度探傷試験に使用して循環利用されるため、その検査液の成分濃度が刻々と変動することから、探傷検出性能を向上させ、高精度な被検査体の探傷試験を行うには、検査液中の各成分濃度を同時かつ瞬時に測定でき、それら濃度を把握し管理する必要がある。
【0033】
そこで、本願発明者らは、光学的手法を用いることにより、検査液中に混入した油分の濃度を測定可能にするとともに、この油分濃度に加えて、検査液中に含まれる各成分の濃度(蛍光磁粉、分散剤、防錆剤およびスケール)を、瞬時かつ同時に測定可能とした、湿式蛍光磁粉探傷試験に用いる検査液の成分濃度の測定方法および測定装置を開発した。
【0034】
まず、検査液の成分濃度測定装置1としては、例えば、図1〜3に示すように、暗箱2と、この暗箱体2内に設置した測定具3と、さらには暗箱体2内に取付けられた例えば光源4a,4b,4c,4dおよびこれら光源4a,4b,4c,4dによる照射光の検出器5a,5b,5c,5d,5eとから構成されるものである。以下の説明では、成分濃度測定装置1を、設置場所を自由とし、後述する検査液タンク22内からサンプリングした検査液の成分濃度を測定できる測定装置ユニットとして説明する。
【0035】
暗箱体2は、例えば、正面視略台形の形状(限定しない)を有し、材質は特に限定されないが、プラスチックなどの合成樹脂またはアルミなどの金属からなる、内部を暗室とした箱材である。また、暗箱体2における正面および背面の中央近傍を結ぶ直線上には、円形(限定しない、後述する測定具3の外形に応じた形状とする)の穴部hが設けられている。さらに暗箱体2における天面の左右肩部には、左右の一方または双方(図例では双方)の外側端部を外方に向けて下降傾斜させた傾斜部8を形成する。なお、この暗箱体2には、例えば図3に示すような把持部16を天面などに設けてもよい。
【0036】
次に、測定具3は、図2に示すように、上述した暗箱体2の穴部hに貫設可能とし、暗箱体2の前後方向に略等しい長さを有する、側面部が透明(半透明など各光源からの光を測定できるものであればよい)な円筒形状(限定しない)のものであり、その材質は、測定具3内面の摩擦係数を小さくできるフッ素樹脂から構成されている。なお、円筒部の直径は、例えば6mm程度(限定されない)とされる。なお、測定具3の材質は上述したフッ素樹脂が好ましいが、測定具3内面の摩擦係数を小さくできる材質であれば適宜用いることができる。
【0037】
また、測定具3は、例えば、基端部は、本体から図示しない螺旋溝などで着脱自在とした鍔部9を備える蓋体10を有しており、この蓋体10および測定具3の先端部11に遮光板の貼付や着色などをすることにより、測定具3を暗箱体2の穴部hに貫設設置した際に、暗箱体2内に周囲から光が入らないように遮光している。
【0038】
さらに、例えば、暗箱体2の背面側(装着させた測定具3の先端側)外側部には、測定具3の撹拌手段としてのケース16a内に設置した駆動モータ16が取付けられる。この場合、測定具3の先端部には、モータ軸17に嵌合可能とする凹部18が取付けられており、測定具3を暗箱体2に装着した際、凹部18をモータ軸17に嵌合させ、駆動モータ16の回転駆動によりモータ軸17を介して測定具3が暗箱体2の前後方向を軸芯として回転する。
【0039】
次に、この暗箱体2の左右一方の側面(図1中では手前に示した左側面)前後位置には、前部から順に適宜間隔を空けて、光源4aとしての紫外線LED(Light Emitting Diode)ランプ(図例では左側)、光源4bとしての、例えば青色可視光LEDランプ、光源4cとしての、例えば緑色可視光LEDランプおよび光源4dとしての赤外線LEDランプ(図例では右側)が、暗箱体2の内側暗室内を照射方向として取付けられている。なお、これら各LEDランプ4a,4b,4c,4dの設置位置(暗箱体2側面の左右位置)や設置順は上述に限定されず、左右逆位置など適宜設置することができる。
【0040】
ここで、可視光は、 電磁波のうち、 人間の目で見える波長であり、その波長域は、おおよそ380nm〜750nmであり、波長の短い側から順に、紫(380nm〜450nm)、青(450nm〜495nm)、緑(495nm〜570nm)、黄(570nm〜590nm)、橙(590nm〜620nm)、赤(620nm〜750nm)の各色を有して見える。なお、紫外線領域は約380nm以下、赤外線領域は約750nm以上である。
【0041】
本願発明の検査液の成分濃度測定装置1では、可視光を照射する光源として、1または複数の異なる波長の可視光LEDランプを用いる。この例では、青色可視光LEDランプ4bおよび緑色可視光LEDランプ4cの2つを用いるものとするが、これら可視光LEDランプの設置は、上記可視光波長域内のいずれか1つ(1色)の可視光LEDランプであっても、あるいは可視光波長域内であって、異なる波長域を有するいずれか3つ(3色)以上の可視光LEDランプとしてもよく、測定する油分濃度の油分種類数によって適宜設定することができる。なお、これらLEDランプ4a〜4dは周知の技術であるため、詳細な説明は省略する。
【0042】
また、暗箱体2における左右他方の内側面(図1中では奥に示した右側面)の端部(図例では左側)であって、暗箱体2に装着した状態での測定具3を挟んだ紫外線LEDランプ4aの取付位置に対向する位置には、紫外線検出器5aが設置される。この紫外線検出器5aでは、紫外線LEDランプ4aから照射され、測定具3内の検査液を通過して得られた紫外線の透過度が検出される。なお、この紫外線検出器5aは周知の技術であるため、詳細な説明は省略する。
【0043】
また、例えば、暗箱体2の紫外線LEDランプ4aが設置されている側(図1中では手前に示した左上面傾斜)の傾斜部8における紫外線LEDランプ4aの斜め上方の内面には、蛍光輝度検出器5bが取付けられる。この蛍光輝度検出器5bでは、紫外線を測定具3内の検査液に照射し、検査液から得られた可視光(励起して発光した可視光)が蛍光輝度として検出される。なお、この蛍光輝度検出器5bも周知の技術であるため、詳細な説明は省略する。
【0044】
また、暗箱体2における左右他方の内側面(図1中では奥に示した右側面)の前端部(図例では紫外線検出器5aの隣に、順に並設)であって、暗箱体2に装着した状態での測定具3を挟んだ青色可視光LEDランプ4bおよび緑色可視光LEDランプ4cの取付位置に対向するそれぞれの位置には、可視光検出器5c,5dが設置される。これら各可視光検出器5c,5dでは、青色可視光LEDランプ4bおよび緑色可視光LEDランプ4cのそれぞれから照射され、測定具3内の検査液を通過して得られたそれぞれ青色可視光および緑色可視光の透過度が検出される。なお、これら可視光検出器5c,5dは周知の技術であるため、詳細な説明は省略する。
【0045】
さらに、暗箱体2における左右他方の内側面(図1中では奥に示した右側面)の後端部(図例では右側)であって、暗箱体2に装着した状態での測定具3を挟んだ赤外線LEDランプ4dの取付位置に対向する位置には、赤外線検出器5eが設置される。この赤外線検出器5eでは、赤外線LEDランプ4dから照射され、測定具3内の検査液を通過して得られた赤外線の透過度が検出される。なお、この赤外線検出器5eは周知の技術であるため、詳細な説明は省略する。
【0046】
光源4aおよび測定具3に対するこれら紫外線検出器5aおよび蛍光輝度検出器5b の設置位置は、図4に示すように、まず、紫外線検出器5aは、上述したように測定具3を介して紫外線LEDランプ4aの対向位置に設置されるが、この紫外線LEDランプ4aの紫外線照射方向(測定具3内の検査液中への入射方向)の延長線上から正負適宜角度範囲内であって、好ましくは延長線上における暗箱体2の内側面に設置する。
【0047】
また、蛍光輝度検出器5bは、紫外線LEDランプ4a側の測定具3の周囲であって、測定具3の正面中心位置cから、紫外線LEDランプ4aによる照射光の照射方向に対して、正側(上側)90度の範囲内であって、例えば40度〜50度、好ましくは50度となる暗箱体2における傾斜部8内面に設置する。なお、蛍光輝度検出器5bは、広範な濃度の蛍光磁粉の蛍光輝度値をより正確に測定し得る位置として、実験データに基づき、前記50度が適切な角度の1つとして挙げられる。
【0048】
また、可視光検出器5c,5dの設置位置は、図5に示すように、測定具3を介して各青色可視光LEDランプ4bおよび緑色可視光LEDランプ4cの対向位置に設置されるが、これら青色可視光LEDランプ4bおよび緑色可視光LEDランプ4cの可視光照射方向(測定具3内の検査液中への入射方向)の延長線上から正負適宜角度範囲内であって、好ましくは延長線上における暗箱体2の内側面に設置する。
【0049】
また、赤外線検出器5eの設置位置も図5に示すように、測定具3を介して赤外線LEDランプ4dの対向位置に設置されるが、この赤外線LEDランプ4dの赤外線照射方向(測定具3内の検査液中への入射方向)の延長線上から正負適宜角度範囲内であって、好ましくは延長線上における暗箱体2の内側面に設置する。
【0050】
さらに、図6に示すように、これら検出器5a,5b,5c,5d,5eは、暗箱体2内に設置されたコントローラC内の情報処理部14などに接続されており、この情報処理部14には、後述する図7,8,10のグラフから得られた各種データを含む計算式などを予め入力しておく。
【0051】
そして、このコントローラCには、例えば、暗箱体2の傾斜部8面上に設けた、蛍光磁粉濃度や分散剤濃度、防錆剤濃度、スケール濃度、油分濃度などを表示(デジタル表示など)させる、液晶などの表示パネルとしての表示部15を接続させる。なお、表示部15は、暗箱体2以外に、暗箱体2とは別体の表示装置や、後述する湿式蛍光磁粉探傷試験装置21内に設置してもよい。
【0052】
検査液に紫外線を照射すると、検査液中に含まれる各成分のうち、紫外線を照射された蛍光磁粉は、その蛍光顔料などの蛍光物質が励起して発光するため、この発光した可視光を蛍光輝度(照度)として上述の蛍光輝度検出器6により検出することができる。この蛍光輝度は、検査液中の蛍光磁粉の濃度によって異なる。
【0053】
また、検査液に紫外線、可視光および赤外線を照射すると、検査液に入射した紫外線、可視光および赤外線は、混入物や各成分を含む検査液中を通過し、入射方向とは逆方向から透過して液外に放射される。このとき、光のエネルギーは、透過や反射によって伝達され、光の透過は通常、次式1のように吸光濃度として表される。
吸光濃度=−LOG10(放射光束/入射光束)・・・・・[式1]
【0054】
この吸光濃度は、検査液中に含まれる各成分(蛍光磁粉、分散剤、防錆剤、スケールなど)によって異なるとともに、各成分の濃度によっても異なる。さらには、検査液が撹拌(流動)されない静置状態においても、各成分の時間経過に伴う沈降特性の違いによっても異なる。
【0055】
そこで、上述した成分濃度測定装置1などを用い、以下の表1に示す要領で調製した検査液に見立てた各試験液に、光源4a,4dから波長の異なる電磁波(紫外線および赤外線)を照射し、各成分別に検出器5a,5b,5eで蛍光輝度および吸光濃度を検出して、各成分の特性を得る実験を行った。図7は検査液中の各成分(a)〜(d)の濃度に対する吸光濃度および蛍光輝度を示すグラフ(検査液は撹拌・流動状態)、図8は検査液中の各成分(a)〜(d)の濃度に対する紫外線沈降吸光濃度を示すグラフ(検査液は静止状態)である。
【0056】
【表1】

【0057】
なお、これら試験液は、例えばグループ1では、蛍光磁粉のみを水2Lに添加する場合、それら磁粉濃度が、それぞれ0g/L(無添加)、0.3g/L、0.5g/L、1.0g/L、2.0g/Lになるように蛍光磁粉の添加量を変更して5種類の磁粉濃度を有する試験液を作成したものである。同様にグループ2は分散剤のみを有する試験液、グループ3は防錆剤のみを有する試験液、グループ4はスケールのみを有する試験液を作成した。なお、蛍光磁粉には、LY−20(マークテック株式会社製、スーパーマグナ蛍光磁粉)、分散剤には、EC−600C(マークテック株式会社製、エコマグナ分散剤)、防錆剤には、AR−100K(マークテック株式会社製、スーパーキープ防錆剤)、スケールには、酸化鉄粉体をそれぞれ使用した。
【0058】
まず、成分濃度測定装置1における蓋体10を脱着した測定具3内にサンプリングした、例えば試験液グループ1の磁粉濃度が0g/Lの試験液No1を装填し、再び蓋体10を取付けた測定具3を、暗箱体2の穴部7に回転可能に貫設する。このとき、測定具3の先端部は、暗箱体2の背面の穴部7およびモータ軸17に凹部18を嵌合させることで、安定的に支持されるとともに、測定具3の基端部は、蓋体10の鍔部9が暗箱2正面板へのストッパーとなり、暗箱体2に測定具3をずれることなく安定装着させることができる。
【0059】
そして、駆動モータ16の動力により、モータ軸17および凹部18を介して測定具3を回転させて試験液No1を撹拌し、この撹拌開始から3分後に、測定具3内で撹拌されている検査液に、紫外線LEDランプ4aおよび赤外線LEDランプ4dを点灯させて紫外線および赤外線を照射し、各検出器5a,5b,5eにより該試験液の蛍光輝度、紫外線吸光濃度、赤外線吸光濃度を検出した。同様にして、磁粉濃度が0.3〜2.0g/Lの順(順不問)に各試験液の蛍光輝度、紫外線吸光濃度、赤外線吸光濃度を検出した結果を、図7(a)のグラフに示した。
【0060】
また、同様にして、試験液グループ2の分散剤濃度別、試験液グループ3の防錆剤濃度別、試験液グループ4のスケール濃度別の各試験液についても蛍光輝度、紫外線吸光濃度、赤外線吸光濃度を検出した結果を、図7(b)〜(d)のグラフに示した。
【0061】
そして、これら各値から撹拌中における各成分(蛍光磁粉、分散剤、防錆剤およびスケール)は、それぞれの成分濃度と、各検出値(蛍光輝度、紫外線吸光濃度、赤外線吸光濃度)との間に略一次直線を有する相関性を見出すことができ、各成分固有の相関係数(各直線の傾き)として情報処理部14に入力される。なお、これら相関係数は、後述する検査液測定で説明する。
【0062】
次に、成分濃度測定装置1において、上述同様にして測定具3内に充填したグループ1〜4の各濃度におけるそれぞれの試験液を駆動モータ16で撹拌させ、この駆動モータ16の駆動を停止して所定時間(例えば2分間)経過したときの、静置状態時におけるこれら試験液に紫外線LEDランプ4aで紫外線を照射し、紫外線検出器5aにより紫外線吸光濃度を検出した。
【0063】
さらに、それぞれの成分(蛍光磁粉、分散剤、防錆剤およびスケール)の各濃度において、上述した試験液撹拌時の紫外線吸光濃度の値から、静置状態時の紫外線吸光濃度の値を差し引いた差分値の値(紫外線沈降吸光濃度)を、図8(a)〜(d)のグラフに示した。なお、この図8(a)〜(d)には、上記成分の各濃度において、上述した試験液撹拌時の赤外線吸光濃度の値から、静置状態時の赤外線吸光濃度の値を差し引いた差分値の値(赤外線沈降吸光濃度)および試験液撹拌時の蛍光輝度の値から、静置状態時の蛍光輝度の値を差し引いた差分値の値(沈降蛍光輝度)も示している。
【0064】
そして、これら各値から、静置中における各成分(蛍光磁粉、分散剤、防錆剤およびスケール)は、それぞれの成分濃度と、各差分値(紫外線沈降吸光濃度、赤外線沈降吸光濃度、沈降蛍光輝度)との間に略一次直線を有する相関性を見出すことができ、各成分固有の沈降特性として、それら相関係数(各直線の傾き)が情報処理部14に入力される。なお、これら相関係数は、後述する検査液測定で説明する。
【0065】
一方、検査液中に混入する油分の種類としては、上述したように切削油や防腐剤などが挙げられるが、本例では切削油で説明する。図9は防錆剤および油分における光の波長による透過率の違いを示すグラフ、図10は切削油の各波長における切削油濃度と吸光濃度の関係を示すグラフ、図11はコントローラによる検査液中の成分濃度算出経路のブロック図、図12は切削油の濃度と、青色可視光および赤外線による吸光濃度の差分との関係を示すグラフである。
【0066】
防錆剤および切削油の波長による光の透過率は、図9に示すように、防錆剤は400nm付近を境にして紫外線を吸光するが、可視光は透過する。一方、切削油では、赤外線領域に近いほど光の透過量が高くなる傾向であることが分かった。なお、本実験では、防錆剤(マークテック株式会社製、AR−100K)および切削油(ソリブル油、汎用品)をそれぞれ水で希釈し、2%にした濃度のものを、分光器(株式会社島津製作所製、自動分光光度計UV−2200)で測定したものである。
【0067】
防錆剤は、紫外線を吸収するため、例えば、光源から紫外線の照射方向に対して防錆剤の裏側に切削油が位置した場合、この防錆剤が紫外線を吸光することで、切削油は正確な吸光濃度を測定することができない。ところで、防錆剤は、可視光および赤外線を通過させることができる。
【0068】
ここで、図10に示すように、濃度の異なる切削油に、異なる波長の紫外線、可視光、赤外線、さらに可視光においても異なる波長の青色可視光、緑色可視光を、それぞれから照射し、濃度別に各波長による吸光度を測定した。なお、切削油(ソリブル油、汎用品)は、水で希釈した各濃度(0%〜4%)のものを作成した。また、本実験では、成分濃度測定装置1における紫外線LEDランプ4a、青色可視光LEDランプ4b、緑色可視光LEDランプ4cおよび赤外線LEDランプ4dと、それらの吸光濃度を検出する紫外線検出器5a、可視光検出器5c,5d、赤外線検出器5eを用いることができる。
【0069】
この図10の結果から、切削油は、各波長における濃度と吸光濃度との間に略一次直線を有する相関性を見出すことができた。そして、切削油の所定の濃度に対して、各波長間の吸光濃度の差分値(例えば、青色可視光による吸光濃度と、赤外線による吸光濃度の差分値)が所定の値を示していることが分かった。ここで、上述したように、紫外線の吸光濃度は、検査液中には切削油とともに防錆剤も含まれる場合があり、この防錆剤の存在によって、正確な吸光濃度が得られないことがある。
【0070】
そこで、切削油の濃度は、紫外線による吸光濃度の値を用いず、例えば、青色可視光による吸光濃度と、赤外線による吸光濃度との差分値から、予めコントローラCに入力しておいた上記図10の各波長における濃度と吸光濃度との間の相関によって正確に算出することができる。なお、波長の組み合わせは、紫外線を除いて上述した青色可視光および赤外線の組合せに限定しない。
【0071】
このように、切削油の濃度は、紫外線を除く波長の異なる2種の光源による吸光濃度の差分値から求めることができるが、本願発明の成分濃度測定装置1では、油分としてこの切削油の濃度と同時に、検査液中の他の成分(蛍光磁粉、分散剤、防錆剤およびスケール)の濃度も同時に測定することができる。
【0072】
検査液中に含まれる各成分の濃度は、以下に例示する式から求めることができる。まず、例えば、知りたい検査液中の4種類の成分濃度(蛍光磁粉、分散剤、防錆剤およびスケール)をそれぞれ未知数として、イ、ロ、ハ、ニとし、成分濃度測定装置1などで測定した検査液の、実測データ(蛍光輝度、紫外線吸光濃度、赤外線吸光濃度、紫外線沈降吸光濃度)をそれぞれα、β、γ、δとすれば、上記相関係数と実測データは以下のような四元連立一次方程式となる。
【0073】
[式2]
a×イ+b×ロ+c×ハ+d×ニ=α
e×イ+f×ロ+g×ハ+h×ニ=β
i×イ+j×ロ+k×ハ+l×ニ=γ
m×イ+n×ロ+o×ハ+p×ニ=δ

なお、a〜dは各成分における蛍光輝度の相関係数、e〜hは各成分における紫外線吸光濃度の相関係数、i〜lは各成分における赤外線吸光濃度の相関係数、m〜pは各成分における紫外線沈降吸光濃度の相関係数を示す。
【0074】
そして、上述の式[2]を行列式で表記すると、
[式3]

以上のようにした場合、A×C=B・・・[式4]
つまり、C=A―1×B・・・[式5]
となり、B(α、β、γ、δ)の値(検査液の実測値)が分かると、知りたい検査液中の4種類の成分濃度(蛍光磁粉、分散剤、防錆剤およびスケール)が判明する。従って、情報処理部14には、このような計算式ならびに各相関係数が入力される。なお、上述の例では、紫外線沈降吸光濃度を使用したが、この紫外線沈降吸光濃度の代わりに、赤外線沈降吸光濃度や蛍光沈降輝度を用いてもよい。
【0075】
ここで、例えば、後述の湿式蛍光磁粉探傷試験装置21における検査液タンク22内の検査液の成分濃度を測定したい場合には、まず、蓋体10を脱着した測定具3内にサンプリングした検査液を装填し、再び蓋体10を取付けた測定具3を、暗箱体2の穴部hに回転可能に貫設する。
【0076】
そして、測定開始のスイッチを投入するなどした際、コントローラCは、駆動モータ16を作動させ、モータ軸17および凹部18を介して測定具3を回転させることで、測定具3内で検査液を撹拌する。そして、コントローラCは、この測定具3の回転開始から所定時間(例えば3分)後に、紫外線LEDランプ4a、青色可視光LEDランプ4b、緑色可視光LEDランプ4cおよび赤外線LEDランプ4dを点灯させて紫外線、青色可視光、緑色可視光および赤外線を検査液に照射する。
【0077】
次いで、撹拌中で均質な検査液を透過した透過光である紫外線、青色可視光、緑色可視光および赤外線を紫外線吸光濃度、可視光吸光濃度(青色)、可視光吸光濃度(緑色)および赤外線吸光濃度として、それぞれ紫外線検出器5a、可視光検出器5c,5dおよび赤外線検出器5eで検出し、その検出結果が情報処理部14に送信されるとともに、検査液から得られる、励起して発光した可視光を蛍光輝度として蛍光輝度検出器5bで検出し、その検出結果が情報処理部14に送信される。
【0078】
次に、コントローラCは、この測定具3の回転開始から所定時間(例えば3分)後であって、上述した検査液における紫外線吸光濃度、可視光吸光濃度(青色、緑色)、赤外線吸光濃度および蛍光輝度の検出後に、駆動モータ16の回転を停止し、さらに、駆動モータ16の回転停止から所定時間(例えば2分)後に、紫外線LEDランプ4a(または/および赤外線LEDランプ4dなどであってもよい)を点灯させて紫外線(または/および赤外線であってもよい)を検査液に照射する。
【0079】
次いで、静置中の検査液を透過した透過光である紫外線を紫外線吸光濃度として、紫外線検出器5bで検出し、その検出結果が情報処理部14に送信される。なお、この場合の検査液の測定は、上述の紫外線吸光濃度に代えて、赤外線吸光濃度または蛍光輝度などであってもよい。
【0080】
そして、情報処理部14では、撹拌中の検査液から測定した紫外線吸光濃度と、静置中の検査液から測定した紫外線吸光濃度との差分値を紫外線沈降吸光濃度として算出するとともに、撹拌中の検査液における蛍光輝度や紫外線吸光濃度、赤外線吸光濃度の実測値を用いて、上述した[式5]のような行列式から検査液中の各成分(蛍光磁粉、分散剤、防錆剤およびスケール)の濃度を算出する。
【0081】
以下に、行列式を用いた検査液の各成分濃度の算出例(式6)を示す。
(式6)

式中のUVは紫外線(ultraviolet)、IRは赤外線(infrared)を示す。
【0082】
一方、コントローラCは、青色可視光による吸光濃度と、赤外線による吸光濃度の検出情報に基づいて、予めコントローラCに入力しておいた上記図10における切削油の各波長における濃度と吸光濃度との間の差分値から切削油の濃度を算出する。
【0083】
従って、図11に示すように、コントローラCは、各検出器5a〜5eからの検出情報に基づいて、一方では、異なる光源による吸光濃度(例えば、青色可視光照射による吸光濃度と、赤外線照射による吸光濃度)の差分値から、検査液中に含まれる油分としての切削油の濃度を算出するとともに、他方では、上述した四元連立一次方程式から検査液中に含まれる蛍光磁粉、分散剤、防錆剤、スケールの濃度を、同時かつ瞬時に算出することができる。
【0084】
次に、検査液中の混入物を含む各成分(蛍光磁粉、分散剤、防錆剤、スケールおよび油分)全ての濃度を、後に例示する式から同時かつ瞬時に求めることもできる。ここで、上述の図10に示した、切削油の所定の濃度に対して、各波長間の吸光濃度の差分値(例えば、青色可視光による吸光濃度と、赤外線による吸光濃度の差分値)が所定の値を示していることから、図12に示すように、各濃度に対する差分値が、この切削油における濃度と差分値との間に略一次直線を有する相関性(差分値相関係数)を見出すことができる。
【0085】
なお、図示しないが、異なる波長の光源による各成分(蛍光磁粉、分散剤、防錆剤およびスケール)の各濃度に対する吸光濃度の差分値もそれぞれの成分の濃度との間に略一次直線を有する相関性(相関係数)を見出すことができる。
【0086】
まず、例えば、知りたい検査液中の5種類の成分濃度(蛍光磁粉、分散剤、防錆剤、スケールおよび油分)をそれぞれ未知数として、イ、ロ、ハ、ニ、ホとし、成分濃度測定装置1などで測定した検査液の、実測データ(蛍光輝度、紫外線吸光濃度、赤外線吸光濃度、紫外線沈降吸光濃度、可視光吸光濃度)をそれぞれα、β、γ、δ、ηとすれば、上記相関係数と実測データは以下のような五元連立一次方程式となる。
【0087】
[式7]
a×イ+b×ロ+c×ハ+d×ニ+e×ホ=α
f×イ+g×ロ+h×ハ+i×ニ+j×ホ=β
k×イ+l×ロ+m×ハ+n×ニ+o×ホ=γ
p×イ+q×ロ+r×ハ+s×ニ+t×ホ=δ
u×イ+v×ロ+w×ハ+x×ニ+y×ホ=η

なお、a〜dは各成分における蛍光輝度の相関係数、e〜hは各成分における紫外線吸光濃度の相関係数、i〜lは各成分における赤外線吸光濃度の相関係数、m〜pは各成分における紫外線沈降吸光濃度の相関係数、q〜tは各成分それぞれの濃度における異なる波長から得られた吸光濃度差分値相関係数を示す。
【0088】
そして、上述の式[7]を行列式で表記すると、
式[8]

以上のようにした場合、A×C=B・・・[式9]
つまり、C=A―1×B・・・[式10]
となり、B(α、β、γ、δ、η)の値(検査液の実測値)が分かると、知りたい検査液中の5種類の成分濃度(蛍光磁粉、分散剤、防錆剤、スケールおよび油分)が判明する。従って、情報処理部14には、このような計算式ならびに各相関係数が入力される。
【0089】
つまり、情報処理部14では、撹拌中の検査液から測定した紫外線吸光濃度と、静置中の検査液から測定した紫外線吸光濃度との差分値を紫外線沈降吸光濃度として算出するとともに、撹拌中の検査液における蛍光輝度や紫外線吸光濃度、青色可視光吸光濃度、赤外線吸光濃度の実測値を用いて、上述した[式9]のような行列式から検査液中の各成分(蛍光磁粉、分散剤、防錆剤、スケールおよび油分)の濃度を算出する。
【0090】
以下に、行列式を用いた検査液の各成分濃度の算出例(式11)を示す。

[式11]

【0091】
このように、[式10]のAに当たる各ファクターには、図7〜10に示した各グラフの傾き値が予め入力されているため、上述したような検査液の各実測値が、上式に入力されることで、行列式により検査液中の各成分(蛍光磁粉、分散剤、防錆剤、スケールおよび油分)の濃度を算出することができる。このように、各成分濃度を異にする様々な種類の検査液および、経時変化に伴い変動する検査液に対応して、各成分濃度を正確かつ瞬時に算出させることができるのである。なお、実測値に基づく実際の各成分濃度の記載は省略する。
【0092】
このようにして、検査液中の混入物を含む各成分(蛍光磁粉、分散剤、防錆剤、スケールおよび油分)の濃度が算出され、それら算出結果を、コントローラCは、表示部15に表示させる。従って、検査液の撹拌開始から各成分濃度を表示部15に表示させるまで、その間わずか数分程度の短時間で検査液の各成分濃度を自動かつ同時に測定することができる。
【0093】
以上のような構成により、撹拌された検査液を透明な測定具3に導入し、異なる波長の複数の光源として、紫外線LEDランプ4a、複数の異なる波長の可視光LEDランプ4b,4cおよび赤外線LEDランプ4dの光を、測定具3の一側方から検査液に照射して得られた透過光および励起して発光した可視光を用い、透過光を検出する紫外線検出器5a、可視光検出器5c,5dおよび赤外線検出器5eと、励起して発光した可視光を検出する蛍光輝度検出器5bとの各検出値および検査液の各成分の時間経過に伴う沈降特性の違いによって得られる各検出器の検出値の変化および光源のうち、異なる波長の2の光源4b,4dに応じた検出器5c,5eによる各検出値の差分値から、検査液の各成分濃度を測定するので、光学的手法を用いた簡単な構成により、検査液中に含まれる混入物を含む各成分の濃度を瞬時かつ高精度で、容易に測定することができる。
【0094】
特に、検査液内での蛍光磁粉の凝集を促進させ、探傷精度を著しく低下させてしまう切削油や防腐剤など、従来では測定できなかった検査液中に混入した油分濃度を、検査液に含まれる他の成分または混入物(蛍光磁粉、分散剤、防錆剤、スケール)の各濃度とともに測定することができるため、検査液の液質管理によって探傷性能を維持することができる。
【0095】
また、光源4a〜4dは、LEDランプを用いているので、複数の波長の異なる電磁波を用いて、検査液および検査液中に含まれる各成分から、成分濃度算出に必要な多種類の測定データを得ることができるとともに、検査液に吸光および励起発光させる光源ランプの使用寿命が長くなり、コストダウンを図ることができる。
【0096】
また、紫外線検出器5a可視光検出器5c,5dおよび赤外線検出器5eは、測定具3を挟んで光源4a〜4dの対向位置に設置するので、各LEDランプ4a〜4dから検査液に入射し、液中を略直進的に透過した紫外線、可視光(青、緑)および赤外線の透過光を、各成分の吸光濃度として正確かつ安定的に測定することができる。
【0097】
また、測定具3は、フッ素樹脂からなるので、摩擦係数が小さい測定具内面への検査液中の蛍光磁粉の付着を減らし、測定具3内の清掃作業などメンテナンス頻度を低下させるとともに、長期間安定した計測を行うことができる。
【0098】
さらに、測定具3は、暗箱体2内に設置するとともに、各光源4a〜4dおよび各検出器5a〜5eは、暗箱体2内に備えるので、暗室内において検査液への紫外線、可視光、赤外線の透過光および蛍光輝度を正確に測定することができる。
【0099】
そして、本成分濃度測定装置1は、設置場所を限定せず、成分濃度測定装置1を測定ユニットとして携帯可能とし、サンプリングした検査液の成分濃度を、任意の場所で測定することができる。なお、成分濃度測定装置1は、上述したような形状に限定されるものではない。
【0100】
なお、上述の例では、検査液に混入した油分として、切削油の濃度測定を説明したが、油分の種類には切削油の他に防腐剤なども挙げられる。そこで、検査液に防腐剤も混入し、この防腐剤の濃度も測定したい場合には、次の方法で測定することができる。なお、防腐剤濃度の算出方法も切削油と類似しているため、以下簡略に説明する。
【0101】
上述したように、切削油は、青色可視光および赤外線を用いて両者の吸光濃度の差分値から切削油の濃度を測定したが、防腐剤では、例えば、緑色可視光および赤外線を用いる(防腐剤の濃度測定に青色可視光および赤外線を用い、切削油の濃度測定に緑色可視光および赤外線を用いてもよい)ことができる。
【0102】
切削油と同様にして、濃度の異なる防腐剤に、可視光LEDランプ4bおよび赤外線LEDランプ4dの光を照射し、可視光検出器5cおよび赤外線検出器5eによりそれぞれ吸光度が得られるが、それら濃度と吸光度の差分値との間には、図示しないが、略一次的な相関関係を有し、相関係数として算出することができる。
【0103】
そこで、検査液中に混入した切削油に加えて防腐剤の濃度をも測定する場合には、上述同様に、[式11]の油分に防腐剤の項目を増設(油分を切削油としてもよい)し、差分値の相関係数として、検査液中の各成分の濃度別に得られた緑色可視光および赤外線による吸光濃度の差分値の相関係数を予め与えておく。
【0104】
そして、成分濃度測定装置1により検査液から得られる各検出値(蛍光輝度、UV吸光濃度、IR吸光濃度、UV沈降吸光濃度、青色可視光吸光濃度および緑色可視光吸光濃度)をコントローラCが六元連立一次方程式(差分値のみから算出してもよい)により、検査液中に含まれる蛍光磁粉、分散剤、防錆剤、スケール、切削油および防腐剤の6種類の成分を同時かつ瞬時に算出することができる。
【0105】
なお、上述では、検査液に混入する油分として切削油および防腐剤の両者を同時に測定する例で説明したが、異なる光源の波長による吸光濃度の差分値や差分値相関係数を用いて、切削油のみあるいは防腐剤のみで測定してもよく、また、油分の測定に代えて他の含有成分や混入物を測定してもよい。そして、同じ可視光であっても、可視光内の他の波長領域を用いることで、さらに濃度測定できる検査液に含まれる成分(混入物)数を増やすことができる。
【0106】
上記成分濃度測定装置1は、光源および検出器を他の配置にすることもできる。図13は本発明の他の例を示す、光源をダイヤル式に配置した、湿式蛍光磁粉探傷試験に用いる検査液の成分濃度測定装置の斜視図である。
【0107】
この図13に示すように、成分濃度測定装置1´は、暗箱体2の左右一方の側面(図13中では手前に示した左側面)略中央近傍位置に、ダイヤル式の光源4を設けてもよい。この回転可能なダイヤル盤19は周知の構成でよく、紫外線LEDランプ4a、青色可視光LEDランプ4b、緑色可視光LEDランプ4cおよび赤外線LEDランプ4dが、暗箱体2の内側暗室内を照射方向としてダイヤル盤19の周囲に取付けられる。
【0108】
なお、ダイヤル盤19の回転により、必ず光源ランプ4a〜4dの1つが、後述する測定具3を挟んで透過光検出器5´の正面に位置するよう、ダイヤル盤19の回転軸を暗箱体2の側面に設置する。そして、これら各光源ランプ4a〜4dの設置順は限定されない。また、図中の4nは、可視光ランプを上述の青色および緑色の他にも複数設置可能であることを示したものである。
【0109】
また、暗箱体2における左右他方の内側面(図1中では奥に示した右側面)であって、暗箱体2に装着した状態での測定具3を挟んだ光源4を設けたダイヤル盤19の取付位置に対向する位置には、紫外線〜赤外線に至る全レンジの透過光を測定可能な透過光検出器5´が設置される。透過光検出器5´は周知の技術であるため、詳細な説明は省略する。なお、蛍光輝度検出器5bや駆動モータ16などの設置位置は上述と同じである。
【0110】
従って、測定具3内の検査液における各成分濃度を測定する際には、ダイヤル盤19を手動もしくは自動(自動の場合は別途モータを設置)で回転させ、順に光源ランプ4a〜4dを検査液に照射し、上述同様に検査液中の各成分濃度を測定することができる。このような構成の成分濃度測定装置1´にすることで、設置機器の点数を削減できるとともに、装置の前後長さを短くして装置のコンパクト化を図ることができる。
【0111】
上記成分濃度測定装置1,1´は、上述した例のように、検査液タンク内からサンプリングした検査液の成分濃度を測定できる測定装置ユニットとして説明したが、この成分濃度測定装置1を湿式蛍光磁粉探傷試験装置内に成分濃度測定装置1´´として組み込んで検査液の濃度測定をすることができる。
【0112】
以下、図14は湿式蛍光磁粉探傷試験装置の一例を示した全体模式図、図15は探傷部の拡大模式図である。
【0113】
湿式蛍光磁粉探傷試験装置21(例えば、商品名:スーパーマグナなど、マークテック株式会社製)は、図14に示すように、検査液を貯留する検査液タンク22と、この検査液タンク22内の検査液を、ポンプなどの循環手段23で取り出すとともに、検査液タンク22内に還流させる配管などの移送手段24と、この移送手段24内の検査液を、被検査体の磁化した金属の表面に接触させて、表面の傷部の探傷を行う探傷部25とから構成される。
【0114】
この探傷部25は、図15に示すように、搬送ローラ26aを備え、コンベア26b上の被検査体を搬送する搬送装置26と、検査液タンク22内から取出した検査液を被検査体上に散布する散布装置27(図示しないが、散布した検査液を回収して検査液タンク内に戻す循環装置を含む)と、貫通コイル28aおよびヨークコイル28bなどからなり、コンベア26b上の被検査体を磁化する磁化装置28と、紫外線探傷灯29a(ブラックライト)を被検査体に照射して探傷を行う探傷装置29(図示しないが、傷部を検出するCCDカメラなど画像処理装置を含む)とから構成される。
【0115】
なお、この湿式蛍光磁粉探傷試験装置21は、上述してきたように周知の装置(技術)であるため、それら詳細な説明は省略する。
【0116】
そして、本願発明の検査液の成分濃度測定装置1´´は、湿式蛍光磁粉探傷試験装置21における検査液タンク22と、探傷部25との間の移送手段24中途部に設置される。
【0117】
なお、成分濃度測定装置1´´は、測定具3´を挿入する穴部h近傍に、上述したような遮光手段を設けるとともに、湿式蛍光磁粉探傷試験装置21では循環手段23を備えているため、移送手段24中を検査液が搬送されることから、成分濃度測定装置1,1´で説明した暗箱体2内の撹拌手段の設置は不要とされる。また、表示部15は、各暗箱体2a,2bの天面水平部分や、湿式蛍光磁粉探傷試験装置21の操作盤など、適宜位置に設けることができる。
【0118】
そして、この湿式蛍光磁粉探傷試験装置21で被検査体の探傷試験を行う際、検査液タンク22内に貯留される検査液を、移送手段24内に循環手段23で取り出し、探傷部25に圧送するが、この移送途中において移送手段24内の検査液は、成分濃度測定装置1´´の暗箱体2の測定具3´内を通過した後、移送手段24内から探傷部25に到達する。
【0119】
そして、検査液中の成分濃度を測定する場合には、上述した成分濃度測定装置1での測定のように、この場合、湿式蛍光磁粉探傷試験装置21において、循環手段23による検査液の循環開始から所定時間(例えば3分)後に、暗箱体2において、測定具3´内を通過中の検査液(循環による撹拌状態)に、光源4a〜4dから紫外線、可視光(青や緑など)および赤外線を照射し、各検出器5a〜5eによって、上述同様に各測定値(紫外線吸光濃度、青色可視色吸光濃度、緑色可視色吸光濃度、赤外線吸光濃度および蛍光輝度)を得る。
【0120】
次いで、循環開始から所定時間(例えば3分)後であって、上述の各測定値の検出後に、循環手段23の駆動を停止し、さらに、循環手段23の駆動停止から所定時間(例えば2分)後に、暗箱体2において、測定具3´内を静置中の検査液に、光源4a〜4dから紫外線、可視光(青や緑など)および赤外線を照射し、各検出器5a〜5eによって、所定の測定値を得て、情報処理部14において、上述した算出方法により検査液中の各成分(蛍光磁粉、分散剤、防錆剤、スケールおよび油分)が上述同様にして算出され、表示部15などに表示される。
【0121】
なお、コントローラCには、予め検査液の各成分濃度の上限値や下限値を設置しておくことで、例えば、検査液中のスケール濃度や油分濃度が、設定値に到達したところで、表示部15や図示しない警報装置などを介して周囲に注意を喚起することで、検査液の交換など適切な処理が施される。
【0122】
なお、上述した静置中の検査液の各測定値を検出した後は、循環手段23の駆動を開始し、湿式蛍光磁粉探傷試験装置21において、循環手段23により検査液の循環が開始され、上述した検査液の測定操作が繰り返される。
【0123】
このような構成にすることで、成分濃度測定装置1´´が湿式蛍光磁粉探傷試験装置21と一体に構成され、検査液タンク22から探傷部25へ移送途中である検査液中の各成分濃度を、散布装置27での散布直前に探傷試験の一環としてオンラインで瞬時に測定することができ、作業性とともに探傷性能を向上させることで、被検査体の生産性および品質向上に貢献することができる。
【0124】
また、成分濃度測定装置1´´は、図示しないが、検査液タンク22に別途設けた、循環手段を備える、検査液中の各成分濃度の測定専用配管である移送手段の中途部に設置させることもできる。
【0125】
このような構成にすることで、検査液タンク22から測定用配管などの移送手段24´を介して検査液タンク22に戻される循環中の検査液の各成分濃度を、探傷試験の一環としてオンラインで瞬時に測定することができる。そして、この場合、検査液の散布経路とは別に、検査液の測定専用経路を設けたため、例えば散布経路に不都合などが生じて、散布が停止しても、測定専用経路で常時検査液中の各成分濃度を測定することができる。
【産業上の利用可能性】
【0126】
本発明は、湿式蛍光磁粉探傷試験に用いる検査液中の各成分濃度を測定する、あらゆる湿式蛍光磁粉探傷試験装置および検査液の成分濃度測定装置に適用することができる。
【符号の説明】
【0127】
1,1´,1´´ 成分濃度測定装置
2 暗箱体
3,3´ 測定具
4a 紫外線LEDランプ(光源)
4b 可視光LEDランプ(青、光源)
4c 可視光LEDランプ(緑、光源)
4d 赤外線LEDランプ(光源)
5a 紫外線検出器
5b 蛍光輝度検出器
5c 可視光検出器(青)
5d 可視光検出器(緑)
5e 赤外線検出器
8 傾斜部
14 情報処理部
21 湿式蛍光磁粉探傷試験装置
22 検査液タンク
23 循環手段
24 移送手段
C コントローラ
c 正面中心位置
h 穴部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被検査体の磁化した金属の表面に、少なくとも蛍光磁粉を混合してなる検査液を接触させ、前記表面の傷部に前記蛍光磁粉を集合および付着させることによって、前記傷部を探傷する湿式蛍光磁粉探傷試験に用いる前記検査液の成分濃度測定方法であって、該成分濃度測定方法は、撹拌された前記検査液を測定具に導入し、異なる波長の複数の光源として、紫外線LEDランプ、可視光LEDランプ1個または波長が異なる可視光LEDランプ複数個、および赤外線LEDランプの光を、前記測定具の一側方から前記検査液に照射して得られた透過光および励起して発光した可視光を用い、前記透過光を検出する紫外線検出器、可視光検出器および赤外線検出器と、前記励起して発光した可視光を検出する蛍光輝度検出器との各検出値および前記検査液の各成分の時間経過に伴う沈降特性の違いによって得られる前記各検出器の検出値の変化および前記光源のうち、異なる波長の2つの光源に応じた前記検出器による各検出値の差分値から、前記検査液の各成分濃度を測定することを特徴とする、湿式蛍光磁粉探傷試験に用いる検査液の成分濃度測定方法。
【請求項2】
前記紫外線検出器、前記可視光検出器および前記赤外線検出器は、前記測定具を挟んで前記光源の対向位置に設置することを特徴とする、請求項1に記載の湿式蛍光磁粉探傷試験に用いる検査液の成分濃度測定方法。
【請求項3】
前記各成分は、蛍光磁粉と、分散剤と、防錆剤と、スケールと、油分とを含むことを特徴とする、請求項1に記載の湿式蛍光磁粉探傷試験に用いる検査液の成分濃度測定方法。
【請求項4】
被検査体の磁化した金属の表面に、少なくとも蛍光磁粉を混合してなる検査液を接触させ、前記金属表面の傷部に前記蛍光磁粉を集合および付着させることによって、前記傷部を探傷する湿式蛍光磁粉探傷試験に用いる前記検査液の成分濃度測定装置であって、
該成分濃度測定装置は、前記検査液を導入する測定具と、
前記検査液の流れを制御するポンプと、
該測定具内の前記検査液に紫外線を照射する光源の紫外線LEDランプと、
該測定具内の前記検査液に可視光を照射する光源の可視光LEDランプ1個または波長が異なる可視光LEDランプ複数個と、
該測定具内の前記検査液に赤外線を照射する光源の赤外線LEDランプと、
前記紫外線照射により前記検査液から得られた透過光を検出する紫外線検出器と、
前記可視光照射により前記検査液から得られた透過光を検出する可視光検出器と、
前記赤外線照射により前記検査液から得られた透過光を検出する赤外線検出器と、
前記紫外線照射により前記検査液から得られた励起して発光した可視光を検出する蛍光輝度検出器と、
前記ポンプの動作時および停止時の前記検査液の、前記紫外線検出器、前記可視光検出器、前記赤外線検出器、前記蛍光輝度検出器による各検出値に基づいて、それぞれ前記検査液に含有する前記蛍光磁粉の濃度および、分散剤濃度、防錆剤濃度、スケール濃度、油分濃度を算出する情報処理部とを備え、
かつ前記測定具は、暗箱体内に設置するとともに、前記紫外線LEDランプと、前記可視光LEDランプと、前記赤外線LEDランプと、前記紫外線検出器と、前記可視光検出器と、前記赤外線検出器と、前記蛍光輝度検出器とは、前記暗箱体内に備えることを特徴とする湿式蛍光磁粉探傷試験に用いる検査液の成分濃度測定装置。
【請求項5】
少なくとも蛍光磁粉を混合してなる検査液を貯留する検査液タンクと、
該検査液タンク内の前記検査液を循環手段で取り出すとともに、前記検査液タンク内に還流させる移送手段と、
該移送手段内の前記検査液を、被検査体の磁化した金属の表面に接触させて、前記表面の傷部の探傷を行う探傷部とを備える湿式蛍光磁粉探傷試験装置であって、
前記移送手段は、前記検査液の成分濃度を測定する、請求項4に記載の成分濃度測定装置を備え、前記移送手段が、前記探傷部に前記検査液を圧送する試験用配管であって、該試験用配管に、前記成分濃度測定装置の前記測定具を接続したことを特徴とする湿式蛍光磁粉探傷試験装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【公開番号】特開2012−247210(P2012−247210A)
【公開日】平成24年12月13日(2012.12.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−116956(P2011−116956)
【出願日】平成23年5月25日(2011.5.25)
【出願人】(390002808)マークテック株式会社 (42)
【Fターム(参考)】