説明

溶剤可溶性ポリイミド樹脂

【課題】溶剤可溶で成形加工性に優れ、且つ、高耐熱性、高透明性であり、且つ靱性に優れたポリイミド樹脂、当該ポリイミド樹脂を成形して得られるポリイミドフィルム、及び当該ポリイミドフィルムを具備してなる電気・電子部品を提供する。
【解決手段】シス構造のシクロヘキサンテトラカルボン酸二無水物と、ビス(アミノフェノキシフェニル)スルホンとから得られる溶剤可溶性ポリイミド樹脂。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規なポリイミド樹脂に関する。より詳しくは、有機溶剤に可溶で、成形加工性にも優れ、製膜後の膜靱性に特に優れた脂環式ポリイミド樹脂、これを成形してなるポリイミドフィルム、及び、当該ポリイミドフィルムを具備してなる電気・電子部品に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、ポリイミド樹脂は、高い耐熱性に加え、高機械強度、耐磨耗性、寸法安定性、耐薬品性などの優れた機械特性、絶縁性などの優れた電気特性を併せ持つことから、フレキシブルプリント基板のベースフィルムなどの電気・電子産業分野で広く用いられている。近年、高度情報化社会の到来に伴い、光ファイバー、光導波路等の光通信分野、液晶配向膜、カラーフィルター用保護膜等表示装置分野では、耐熱性と透明性とを併せ持つ材料が求められている。特に表示装置分野では、軽量でフレキシブル性に優れたプラスチック基板へのガラス基板代替検討や曲げたり丸めたりすることが可能なフレキシブルディスプレイの開発が盛んに行われている。この分野では、透明性と耐熱性に加え、厚膜のフィルム形成が容易で、さらに得られるフィルム靱性に優れた樹脂材料の開発が強く求められている。
【0003】
しかしながら、一般にポリイミド樹脂は分子内共役や電荷移動錯体の形成により本質的に黄褐色に着色する。その解決策として、例えばフッ素を導入したり、主鎖に屈曲性を与えたり、嵩高い側鎖を導入するなどして電荷移動錯体の形成阻害し透明性を発現させる方法が提案されている(非特許文献1)。また、原理的に電荷移動錯体を形成しない半脂環式または全脂環式ポリイミド樹脂を用いることにより透明性を発現させる方法も提案されている(特許文献1、特許文献2)。
【0004】
脂環式テトラカルボン酸二無水物をモノマー成分として使用することは透明ポリイミドを得るために極めて有効な方法である。しかしながら、現在知られている殆どの脂環式テトラカルボン酸二無水物は従来の芳香族テトラカルボン酸二無水物に比べて重合反応性が低いため、フィルム状に加工した際、膜靭性を維持しうる十分なレベルの重合度が得られにくいといった問題点が指摘されている。膜靭性はポリマー鎖の絡み合いによる粘性効果により発現されるので、一般には高分子量体であるほど、膜靭性にとって有利である。
【0005】
脂環式テトラカルボン酸二無水物の重合反応性の低さを補い、重合度を高める方策として、芳香族ジアミンよりはるかに塩基性の高い脂肪族ジアミンの使用が挙げられる。しかしながら、脂肪族ジアミンは重合初期に生成した低分子量アミド酸中のカルボキシル基と反応して溶媒不溶性の塩を形成し、しばしば重合の進行を妨げるといった重大な問題を引き起こす。
【0006】
このように、脂環式テトラカルボン酸二無水物を使用する限り、ポリイミド樹脂の重合度(分子量)を劇的に高めることは容易ではなく、脂環式テトラカルボン酸二無水物を用いた脂環系ポリイミド樹脂において、透明性と膜靱性を両立させることはきわめて困難な課題であった。
【0007】
【非特許文献1】「ポリマー(Polymer)」,(米国),2006年,第47巻,p.2337-2348
【特許文献1】特開2002−348374号公報
【特許文献2】特開2005−15629号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の目的は、成形加工性に優れ、透明性、耐熱性、靱性に優れるポリイミド樹脂、ポリイミドフィルム及び当該ポリイミドフィルムを具備する電気・電子部品を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、前記課題を解決すべく検討した結果、特定の脂環式テトラカルボン酸二無水物と、スルホン基を含有する特定の芳香族ジアミンとを反応して得られたポリイミド樹脂が、有機溶剤に可溶で、さらに、成形加工性に優れ、且つ得られるポリイミドフィルムが、透明性、耐熱性、靭性等に優れていることを見出した。本発明は係る知見に基づいて完成されたものであり、以下の発明を提供するものである。
【0010】
(項1) 下記一般式(1)で表される繰り返し単位を有する溶剤可溶性ポリイミド樹脂。
【化1】

[式中、nは1以上の整数を表す。]
【0011】
(項2) 一般式(1)で表される繰り返し単位を50モル%以上含有する上記項1に記載の溶剤可溶性ポリイミド樹脂。
【0012】
(項3) 固有粘度が、0.3dL/g以上である上記項1又は2に記載の溶剤可溶性ポリイミド樹脂。
【0013】
(項4) ガラス転移温度が300℃以上、波長400nmにおける厚さ20μmのフィルムの光線透過率が80%以上、および引張試験における破断伸びが10%以上である上記項1〜3のいずれかに記載の溶剤可溶性ポリイミド樹脂。
【0014】
(項5) 上記項1〜4のいずれかに記載のポリイミド樹脂を成形して得られるポリイミドフィルム。
【0015】
(項6) 上記項5に記載のポリイミドフィルムを1軸方向、または直交2軸方向に延伸して得られる延伸ポリイミドフィルム。
【0016】
(項7) 上記項5に記載のポリイミドフィルムを具備してなる電気・電子部品。
【0017】
(項8) 電気・電子部品が、液晶ディスプレー、有機エレクトロルミネッセンスディスプレー、電子ペーパー、透明回路基板である請求項7に記載の電気・電子部品。
【0018】
(項9) 上記項6に記載の延伸ポリイミドフィルムを具備してなる液晶ディスプレー用位相差フィルム。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、溶剤可溶性であり、透明性、耐熱性及び膜靱性に優れた脂環系ポリイミド樹脂が容易に得られる。当該ポリイミド樹脂は、成型加工性にも優れるため、耐熱性、透明性等の光学特性、靭性等の機械特性に優れたイミドフィルムとすることができ、電気・電子部品、特に透明性と耐熱性が求められるディスプレー材料として有用である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
[ポリイミド樹脂]
本発明のポリイミド樹脂は、一般式(1)で表され、1,2,4,5−シクロヘキサンテトラカルボン酸二無水物(以下、「HPMDA」という。)と、ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]スルホン及びビス[4−(3−アミノフェノキシ)フェニル]スルホンとからなる群から選ばれる少なくとも1種(以下、「BAPS」という。)を従来公知の方法で重付加反応させポリイミド前駆体を得て、次いでイミド化することにより得られるポリイミド樹脂(以下、「本ポリイミド」という。)である。
【0021】
本ポリイミドの製造方法としては特に制限はないが、例えば、HPMDAとBAPSとを、有機溶媒中、好ましくはチッ素又はアルゴン等の不活性ガス気流下で、ポリイミド前駆体であるポリアミド酸を製造した後、(1)加熱し生成水を系外に留去させてイミド化する方法や、(2)無水酢酸等の脱水作用のある化合物を使用してイミド化する方法などが挙げられる。
【0022】
本発明に係わるHPMDAは、下記式(2)で表されるように、シクロヘキサン環が船型で、かつ、4つのカルボキシル基が全てシス配置である。
【0023】
【化2】

【0024】
このような立体構造を有するHPMDAを用いて得られるポリイミド前駆体及びポリイミドは、HPMDAの立体構造を保持している。このような立体構造のシクロヘキサンテトラカルボン酸ジイミド構造は、熱力学的に最も安定である。従って、熱イミド化、化学イミド化の条件によらず、熱的に有利な条件、即ち、より低温でポリイミド樹脂が得られことを意味している。従って、式(2)で表されるHPMDAを用いて得られるポリイミド樹脂は、より着色が少ない利点を有する。
【0025】
一方、例えば他の脂環式テトラカルボン酸二無水物成分として、1,2,3,4−シクロブタンテトラカルボン酸二無水物を選択した場合、これより得られるポリイミド前駆体はイミド化反応しにくく、イミド化反応を完結するためにはより高温での処理を必要とする。また、室温での化学イミド化も完結しにくい。そのため場合によっては樹脂が着色する。これはシクロブタン環の立体的歪みによりイミド環が熱力学的に不安定であることが原因である。
【0026】
ポリイミド前駆体を製造するに際して、重付加反応開始時のHPMDAとBAPSとの使用比率は特に限定されないが、得られる本ポリイミドの重合度、機械的特性の観点から、HPMDA1モルに対して、BAPSを0.9〜1.1、好ましくは0.95〜1.05、特に好ましくは0.98〜1.02の範囲であることが推奨される。
【0027】
なお、反応性及び得られるポリイミド樹脂の特性に影響を及ぼさない限り、HPMDA、BAPSの一部を、他のテトラカルボン酸二無水物やジアミンに代えて、ポリイミド共重合体とすることもできる。
【0028】
上記他のテトラカルボン酸二無水物としては、3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、3,3’,4,4’−ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物、3,3’,4,4’−ビフェニルエーテルテトラカルボン酸二無水物、3,3’,4,4’−ジフェニルスルホンテトラカルボン酸二無水物、2,2’−ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)ヘキサフルオロプロパン酸二無水物、2,2’−ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)プロパン酸二無水物、1,4,5,8−ナフタレンテトラカルボン酸二無水物の芳香族テトラカルボン酸二無水物、ビシクロ[2.2.2]オクト−7−エン−2,3,5,6−テトラカルボン酸二無水物、5−(ジオキソテトラヒドロフリル−3−メチル−3−シクロヘキセン−1,2−ジカルボン酸無水物、4−(2,5−ジオキソテトラヒドロフラン−3−イル)−テトラリン−1,2−ジカルボン酸無水物、テトラヒドロフラン−2,3,4,5−テトラカルボン酸二無水物、ビシクロ−3,3’ ,4,4’−テトラカルボン酸二無水物、3c−カルボキシメチルシクロペンタンー1r,2c,4c−トリカルボン酸1,4:2,3−二無水物、1,2,3,4−シクロブタンテトラカルボン酸二無水物、1,2,3,4−シクロペンタンテトラカルボン酸二無水物、1,2,3,4−ブタンテトラカルボン酸二無水物等の脂肪族又は脂環族テトラカルボン酸二無水物等が例示され、これら単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0029】
また、他のジアミン化合物としては、1,4−ジアミノシクロヘキサン、1,4−ビス(アミノメチル)シクロヘキサン、2,5−ビス(アミノメチル)ビシクロ〔2.2.1〕ヘプタン、2,6−ビス(アミノメチル)ビシクロ〔2.2.1〕ヘプタン、3,8−ビス(アミノメチル)トリシクロ〔5.2.1.0〕デカン、1,3−ジアミノアダマンタン、2,2−ビス(4−アミノシクロヘキシル)プロパン、2,2−ビス(4−アミノシクロヘキシル)ヘキサフルオロプロパン、1,3−プロパンジアミン、1,4−テトラメチレンジアミン、1,5−ペンタメチレンジアミン、1,6−ヘキサメチレンジアミン、1,7−ヘプタメチレンジアミン、1,8−オクタメチレンジアミン、1,9−ノナメチレンジアミン等の脂環族若しくは脂肪族ジアミン、p−フェニレンジアミン、m−フェニレンジアミン、2,4−ジアミノトルエン、2,5−ジアミノトルエン、2,4−ジアミノキシレン、2,4−ジアミノデュレン、4,4’−ジアミノジフェニルメタン、4,4’−メチレンビス(2−メチルアニリン)、4,4’−メチレンビス(2−エチルアニリン)、4,4’−メチレンビス(2,6−ジメチルアニリン)、4,4’−メチレンビス(2,6−ジエチルアニリン)、4,4’−ジアミノジフェニルエーテル、3,4’−ジアミノジフェニルエーテル、3,3’−ジアミノジフェニルエーテル、2,4’−ジアミノジフェニルエーテル、4,4’−ジアミノジフェニルスルホン、3,3’−ジアミノジフェニルスルホン、4,4’−ジアミノベンゾフェノン、3,3’−ジアミノベンゾフェノン、4,4’−ジアミノベンズアニリド、ベンジジン、3,3’−ジヒドロキシベンジジン、3,3’−ジメトキシベンジジン、o−トリジン、m−トリジン、2,2’−ビス(トリフルオロメチル)ベンジジン、1,4−ビス(4−アミノフェノキシ)ベンゼン、1,3−ビス(4−アミノフェノキシ)ベンゼン、1,3−ビス(3−アミノフェノキシ)ベンゼン、4,4’−ビス(4-アミノフェノキシ)ビフェニル、2,2−ビス(4−(4−アミノフェノキシ)フェニル)プロパン、2,2−ビス(4−(4−アミノフェノキシ)フェニル)ヘキサフルオロプロパン、2,2−ビス(4−アミノフェニル)ヘキサフルオロプロパン、p−ターフェニレンジアミン等の芳香族ジアミンが例示され、これらを単独で又は2種以上を適宜組み合わせて用いることができる。
【0030】
これらの他の酸無水物、ジアミンを併用する場合、その使用量の合計は、全原料の50モル%以下、好ましくは30モル%以下、特に好ましくは10モル%以下が推奨される。
【0031】
また、耐熱性や接着性向上、分子量制御等を目的に1官能の酸無水物やアミン等の末端封止剤(エンドキャップ剤)を併用することができる。該エンドキャップ剤の具体例としては、酸無水物としては無水フタル酸、無水マレイン酸、無水ナジック酸、テトラヒドロ無水フタル酸、ヘキサヒドロ無水フタル酸など、アミンとしてはアニリン、メチルアニリン、アリルアミン等などが挙げられる。
【0032】
上記有機溶媒としては、非プロトン性極性溶剤が好適に用いられ、具体的には、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、N−メチル−2−ピロリドン、ジメチルスルホキシド、スルホラン、ヘキサメチルリン酸トリアミド、1,3−ジメチルイミダゾリドン、ジグライム、トリグライム、シクロヘキサノン、シクロペンタノン、γ−ブチロラクトン、メチルプロピレングリコールアセテート、メチルエチレングリコールアセテート、ブチルプロピレングリコールアセテート等が例示され、これらは単独で又は混合系として用いることもできる。これらのうち特に、重合性、粘度安定性の点から、N,N−ジメチルアセトアミド、N−メチル−2−ピロリドン、γ−ブチロラクトン、メチルプロピレングリコールアセテートが好ましい。
【0033】
有機溶媒の使用量としては、テトラカルボン酸二無水物とジアミンの総量に対して、通常100〜1000重量%、好ましくは、150〜500重量%の範囲である。
【0034】
また、反応の際に、イミド化反応により生成する水を系外へ効率良く取り出す目的で、有機溶媒の一部を水同伴剤に代えることができる。該水同伴剤としては、トルエン、キシレン、ソルベントナフサ等の芳香族炭化水素や、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン、ジメチルシクロヘキサン等の脂環式炭化水素等が例示される。これらの水同伴剤を使用する場合、その使用量は、通常、全有機溶媒中の1〜30重量%、好ましくは5〜20重量%の範囲が推奨される。
【0035】
また、イミド化を促進させる目的で触媒を用いることもできる。係る触媒の具体例としてはピリジン、キノリン、イソキノリン、α−ピコリン、β−ピコリン、ピペリジン、2,4−ルチジン、2,6−ルチジン、トリメチルアミン、トリエチルアミン、トリプロピルアミン、トリブチルアミン、イミダゾール、N,N−ジメチルアニリン、N,N−ジエチルアニリン等の有機塩基、水酸化カリウムや水酸化ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸ナトリウム、炭酸水素カリウム、炭酸水素ナトリウムで代表される無機塩基が挙げられる。また、酸触媒としてクロトン酸、アクリル酸、トランス−3−ヘキセノイック酸、桂皮酸、安息香酸、メチル安息香酸、オキシ安息香酸、テレフタル酸、ベンゼンスルホン酸、パラトルエンスルホン酸、ナフタレンスルホン酸等が挙げられる。さらに、γ-ブチロラクトン、γ-バレロラクトンなどのラクトンを用いても良い。
【0036】
重付加反応の温度としては、通常0℃〜100℃、好ましくは10〜50℃が例示され、反応時間としては、通常0.5〜24時間が例示される。
【0037】
重付加反応完了後、加熱脱水及び/又は脱水剤を使用してイミド化反応する。加熱脱水による熱イミド化の反応温度は、反応に用いる有機溶媒の環流温度であり、通常100〜250℃、好ましくは130〜230℃である。反応は、一般的に常圧下で行われるが、減圧又は加圧下で行うこともできる。反応時間は、通常0.5〜24時間が例示される。
【0038】
また、化学的な脱水剤を使用して化学イミド化を行うこともできる。脱水剤としては、無水酢酸、無水プロピオン酸、無水酪酸等の脂肪族カルボン酸無水物が例示される。これら脱水剤の使用量は、特に制限はないが、テトラカルボン酸二無水物1モルに対して、通常0.1〜4モルが例示される。尚、脱水剤を重付加反応の段階から入れておくこともでき、また、前記熱イミド化反応と化学イミド化反応を併用することもできる。
【0039】
本イミドのイミド化率は100%であることが好ましいが、工業的な観点から有効なイミド化率は、通常80%以上、好ましくは90%以上、より好ましくは95%以上が推奨される。一般的なポリイミド樹脂では95%を越えて100%にイミド化率を近づける操作により、反応系の増粘、ゲル状物、沈殿物の副生等好ましくない結果を助長することがあり生産性の低下を招くことがあるが、本発明のポリイミド樹脂は有機溶媒に対する溶解性が極めて高いため、イミド化率をより高くすることができる。
【0040】
かくして得られる重合溶液は、本発明のポリイミド樹脂を含有するポリイミド樹脂溶液である。該ポリイミド樹脂溶液を加熱乾燥又は貧溶剤を添加するなどにより、本発明のポリイミド樹脂を単離することもできる他、イミド化反応終了後の重合溶液をそのまま、或いは、有機溶媒の一部を低沸点溶剤に置換し、又は単離した本イミドを再度有機溶媒に溶解して、ポリイミドワニスの形態として使用することもできる。
【0041】
本ポリイミド又はポリイミド前駆体をポリイミドワニスの形態で使用する場合の有機溶媒としては、特に限定されないが、前記イミド反応時の有機溶媒が挙げられる。具体的には、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、N−メチル−2−ピロリドン、ジメチルスルホキシド、スルホラン、ヘキサメチルリン酸トリアミド、1,3−ジメチルイミダゾリドン、ジグライム、トリグライム、シクロヘキサノン、シクロペンタノン、γ−ブチロラクトン、メチルプロピレングリコールアセテート、メチルエチレングリコールアセテート、ブチルプロピレングリコールアセテート等が例示され、これらは単独で又は混合系として用いることもできる。これらのうち特に、重合性、粘度安定性の点からN−メチル−2−ピロリドン、γ−ブチロラクトン、メチルプロピレングリコールアセテートが好ましい。
【0042】
上記ワニスの濃度は、使用目的等により適宜選択することができるが、通常固形分として5〜40重量%が好ましく、特に10〜30重量%が好ましい。
【0043】
本ポリイミドの重合度(分子量)には特に制限がないが、溶剤溶解性、機械的強度、熱特性のバランスに優れる点で、固有粘度で0.3dL/g以上、好ましくは0.5dL/g以上であり、1.0dL/g以上が特に好ましい。固有粘度の上限には特に制限はないが、操作性の観点から通常5.0dL/g以下である。なお、固有粘度は後述の実施例の項に記載の方法で測定される値である。
【0044】
本ポリイミドのガラス転移温度(Tg)としては、通常250℃以上、好ましくは300℃以上であることが推奨される。尚、Tgは、後述の実施例の項に記載の方法で測定される値である。
【0045】
本ポリイミドの透明性としては、波長400nmに対する厚さ20μmでの光線透過率が、通常80%以上である。尚、光線透過率は、後述の実施例の項に記載の方法で測定される値である。
【0046】
本ポリイミドの膜靭性は、破断伸びとして通常10%以上、より好ましくは15%以上が推奨される。尚、破断伸びは、後述の実施例の項に記載の方法で測定される値である。
【0047】
本ポリイミドの5%重量減少温度(5%Td)としては、通常、窒素中で430℃以上であり、好ましくは450℃以上である。また、空気中では、通常400℃以上であり、好ましくは430℃以上である。尚、5%Tdは、後述の実施例の項に記載の方法で測定される値である。
【0048】
本ポリイミドをディスプレー用基板に適用する場合は、フィルムとした際の複屈折はゼロに近いほどよいが、0.005以下であることが好ましく、より好ましくは0.001以下が推奨される。尚、複屈折は、後述の実施例の項に記載の方法で測定される値である。
【0049】
本ポリイミドの使用方法は特に制限がなく従来公知の方法で使用することができる。例えば、本ポリイミド又はポリイミド前駆体を含有するワニスをそのまま被着物の表面に公知の方法で塗布し、或いは被着物を本願発明の本ワニス中に浸漬して塗布し、得られる塗膜を乾燥、硬化することにより、ポリイミド成形体とすることができる。この場合、得られるポリイミド形体は、透明の層ないし皮膜の形態にある。この層ないし皮膜の厚さは、使用目的にもよるが、一般には0.1〜500μm、特に3〜200μmであるのが好ましい。
【0050】
また、本ポリイミド又はポリイミド前駆体を含有するワニスを、ガラス基板又はPETなどの樹脂フィルム等の支持体上に塗布し、得られる塗膜を乾燥、硬化した後、得られるポリイミド成形体を支持体から剥離することによって、シート状又はフィルム状の成形体を得ることもできる。尚、支持体からの剥離は、乾燥、硬化が完了してからでなくてもよく、自己支持性が得られるまで乾燥、硬化した段階で、支持体から剥離した後、再度、乾燥、硬化を行ってもよい。係る成形体の製造方法は、本発明のポリイミド樹脂をプラスチック基板として用いる場合に、好適な製造方法である。
【0051】
ここで、「乾燥、硬化」とは、本イミド又はポリイミド前駆体を含有するワニスから有機溶剤を揮発させ、更に、有機溶剤を揮発させるとともにイミド化反応させることであるが、実際の操業上は厳密に区別されるものではない。乾燥、硬化条件としては、基材の種類、使用方法により異なるが、通常50〜400℃(好ましくは100〜350℃)、10〜400分(好ましくは60〜200分)の条件が例示される。尚、加熱は段階的に昇温しながら行うことが望ましい。また、乾燥、硬化は、真空中または窒素等の不活性ガス雰囲気中で行うことが望ましく、また、無水酢酸等の脱水試薬を用いながら行ってもよい。
【0052】
かくして得られる本発明のポリイミドフィルムは、従来ガラス基板が用いられてきた分野において、その代替基板として用いることができる。本発明のポリイミドフィルムは、そのままで、或いは、ポリイミドフィルムに、さらに、ハードコート層、ガスバリア層、ITO等の透明電極が形成された複数の層からなる複合フィルムとすることもできる。該フィルムの具体的用途としては、広い範囲の電気・電子部品用の部材が挙げられ、例えば、透明回路基板用のフレキシブルプリント基板(FCCL)、液晶ディスプレー用のフィルム基板、有機エレクトロルミネッセンス(有機EL)ディスプレー用のフィルム基板、電子ペーパー用のフィルム基板等の表示素子用プラスチック基板、太陽電池用のフィルム基板、タッチパネル用フィルム等が例示される。なかでも、表示素子用の基板に好適であり、特にフレキシブルフィルム液晶ディスプレー用プラスチック基板用に好適に用いることができる。
【0053】
また本発明のポリイミドフィルムは、靭性が高いため、延伸することにより所望する方向に配向させることが可能である。この際の延伸は公知の方法により公知の延伸装置を用いて行うことができる。延伸方向としては一軸又は2軸延伸が挙げられる。延伸する際の温度としては、延伸が可能である限り特に制限はないが、例えば100〜400℃、着色を抑制するという観点から好ましくは100〜300℃が例示される。延伸倍率としては、目的に応じて適宜選択され、一軸又は2軸いずれも、1.05〜4倍、好ましくは1.1〜2倍程度が例示される。このようにして延伸配向処理を施した本発明のポリイミドフィルムは、液晶ディスプレーにおける広視野角化部材である光学補償フィルム(位相差フィルム)として適用することができ、直交同時2軸延伸した本発明のポリイミドフィルムを垂直配向(VA)モード液晶ディスプレー等に適用することができる。
【実施例】
【0054】
以下、本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明がこれら実施例に限定されるものではない。尚、各実施例及び比較例における分析値は以下の方法により求めた。
【0055】
(a)固有粘度
0.5重量%のポリイミド溶液又はポリイミド前駆体溶液をオストワルド粘度計を用いて30℃で測定した。なお、通常、ポリイミドの固有粘度は、当該ポリイミド前駆体の固有粘度以上である。
【0056】
(b)ガラス転移温度(Tg)
動的粘弾性測定装置 RHEOGEL−E4000(ユーピーエム社製)を用いて、引張モード、周波数0.1Hz、昇温速度5℃/分における試験片の損失ピークを測定し、その極大値をTg(℃)とした。
【0057】
(c)線熱膨張係数(CTE)
動的粘弾性測定装置 RHEOGEL−E4000(ユーピーエム社製)を用いて、荷重0.5g/膜厚1μm、昇温速度5℃/分における試験片の伸びより、100〜200℃の範囲での平均値としてCTE(ppm/K)を求めた。
【0058】
(d)5%重量減少温度(5%Td)
示差熱熱重量同時測定装置 TG−DTA200(マック・サイエンス社製)を用いて、試験片の空気又はチッ素流量100ml/min、昇温速度10℃/分、試料重量10mgの条件で測定し、重量が5%減少した温度(℃)を測定した。
【0059】
(e)破断伸び、破断強度、引張弾性率
万能材料試験機5565(インストロン社製)を用い、JISK7127に準じて測定した。まず厚さ20μm、幅10mmの試験片を長さ50mmとなるように固定し、25℃、RH60%の条件下、10mm/分の速度で試験片を引き伸ばして、引張弾性率(GPa)、破断強度(GPa)及び破断伸び(%)を測定した。
【0060】
(f)カットオフ波長、400nm光線透過率(T%)
分光光度計 V−520(日本分光製)を用いて、試験片の200〜1000nmの可視及び紫外線透過率を測定した。透過率が1%以下となる波長の最大値をカットオフ波長(nm)とした。また、400nmにおける透過率(T%)を求めた。
【0061】
(g)屈折率(nin、nout)、複屈折(Δn)、誘電率(ε)
アッベ屈折計 4T(アタゴ社製)を用いて、試験片の垂直方向(nin)、水平方向(nout)の屈折率を測定し、平均屈折率(nav=2nin+nout)を求めた後、1MHzにおける誘電率を下記式より算出した。また、ninとnoutの差の絶対値から、複屈折を求めた。
ε=1.1 × nav
【0062】
(実施例1)
温度計、撹拌機、窒素導入管、分液デカンタ及び冷却管を備えた0.5L4つ口フラスコに、窒素気流下、ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]スルホン 36.84g(0.10モル)、反応溶媒としてN,N−ジメチルアセトアミド(以下、「DMAc」という。)138gを仕込み、室温でジアミンを溶解させた。次いで、HPMDA22.42g(0.10モル)を添加して、そのまま室温で2時間撹拌した。得られたポリイミド前駆体の固有粘度は0.34dL/gであった。
【0063】
重付加反応完了後のポリイミド前駆体を含有する重合溶液をナイフコーターで、ガラス基板上に室温で塗布した。次に当該ガラス基板を乾燥機に入れ、60℃、2時間予備乾燥した。続いて、減圧下180℃で30分、続いて320℃で1時間、さらに、300℃で1時間で乾燥硬化した。冷却後、ガラス基板からポリイミドを剥離し、厚み20ミクロンのポリイミドフィルムを得た。このポリイミドフィルムについて、物性を評価し、その結果を表1に示した。また、このポリイミドフィルムをジメチルアセトアミド、ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、N−メチルピロリドン、メタクレゾールのそれぞれに溶解させたところ、いずれも易溶解性であった。
【0064】
(実施例2)
温度計、撹拌機、窒素導入管、分液デカンタ及び冷却管を備えた0.5L4つ口フラスコに、窒素気流下、ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]スルホン 36.84g(0.10モル)、反応溶媒としてN,N−ジメチルアセトアミド(以下、「DMAc」という。)138gを仕込み、室温でジアミンを溶解させた。次いで、HPMDA22.42g(0.10モル)を添加して、そのまま室温で2時間撹拌した。さらに、無水酢酸24.48g(0.22)モル及びピリジン10.5gを加え、室温で24時間撹拌した後、反応液を多量のメタノール中に加え、析出沈殿したポリイミド樹脂を濾別し、メタノールで洗浄して、真空乾燥機で減圧下80℃で乾燥した。得られたポリイミド樹脂の固有粘度は0.41dL/gであった。
【0065】
上記ポリイミド樹脂をDMAcに溶解し得られたポリイミド溶液をナイフコーターで、ガラス基板上に室温で塗布した。次に当該ガラス基板を乾燥機に入れ、常圧で100℃、2時間予備乾燥した後、減圧条件下250℃で20分、続いて300℃で1時間、乾燥硬化した。冷却後、ガラス基板からポリイミドを剥離し、厚さ20ミクロンのポリイミドフィルムを得た。このポリイミドフィルムについて物性を評価しし、その結果を表1に示した。また、このポリイミドフィルムをジメチルアセトアミド、ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、N−メチルピロリドン、メタクレゾールのそれぞれに溶解させたところ、いずれも易溶解性であった。
【0066】
(比較例1)
実施例1のビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]スルホンに代えて、ビス(4−アミノフェニル)スルホン 24.83g(0.10モル)を用いてポリイミド前駆体を得ようとしたが、溶媒に不溶な塩が析出して、反応を継続することができなかった。
【0067】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0068】
本発明のポリイミド樹脂は、溶剤可溶性で耐熱性、透明性、靱性に特に優れ、また、その他光学特性、機械物性も良好であり、液晶ディスプレー用のフィルム基板、有機エレクトロルミネッセンス(有機EL)ディスプレー用のフィルム基板透明フィルムとして、さらには、延伸したポリイミドフィルムは、液晶ディスプレイの異相差フィルム等として利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0069】
【図1】実施例1で得られたポリイミドフィルムのIRチャート

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(1)で表される繰り返し単位を有する溶剤可溶性ポリイミド樹脂。
【化1】

[式中、nは1以上の整数を表す。]
【請求項2】
一般式(1)で表される繰り返し単位を50モル%以上含有する請求項1に記載の溶剤可溶性ポリイミド樹脂。
【請求項3】
固有粘度が、0.3dL/g以上である請求項1又は2に記載の溶剤可溶性ポリイミド樹脂。
【請求項4】
ガラス転移温度が300℃以上、波長400nmに対する厚さ20μmの光線透過率が80%以上、および引張試験における破断伸びが10%以上である請求項1〜3のいずれかに記載の溶剤可溶性ポリイミド樹脂。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれかに記載のポリイミド樹脂を成形して得られるポリイミドフィルム。
【請求項6】
請求項5に記載のポリイミドフィルムを1軸方向、または2軸方向に延伸して得られる延伸ポリイミドフィルム。
【請求項7】
請求項5に記載のポリイミドフィルムを具備してなる電気・電子部品。
【請求項8】
電気・電子部品が、液晶ディスプレー、有機エレクトロルミネッセンスディスプレー、電子ペーパーである請求項7に記載の電気・電子部品。
【請求項9】
請求項6に記載の延伸ポリイミドフィルムを具備してなる液晶ディスプレー用位相差フィルム。

【図1】
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【公開番号】特開2008−297360(P2008−297360A)
【公開日】平成20年12月11日(2008.12.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−142396(P2007−142396)
【出願日】平成19年5月29日(2007.5.29)
【出願人】(000191250)新日本理化株式会社 (90)
【Fターム(参考)】