説明

溶液中の微量物質のその場X線吸収端微細構造分析装置及び方法

【課題】 その場分析で溶液中の微量物質の反応過程の解析が可能な溶液中の微量物質のin−situ XAFS分析装置を提供する。
【解決手段】 微量物質を含む溶液11を一様に攪拌するとともに溶液11中の特定の反応を進行させるヒータ付きスターラ1と、溶液11の流入口、流出口とともに前記流入口及び流出口の間に溶液11の貯留部3Aを有して溶液11の一様性を維持し得るとともにX線源から放射した入射X線12を貯留部3A内の溶液11に照射するための受光窓3Bを有する測定セル3と、X線を照射した溶液11が放射する蛍光X線13を受光窓3Bを介して受光することにより溶液11中の微量物質をその場で検出し得る7素子SDD8と、ヒータ付きスターラと測定セル3との間を連通する流路4,5と、流路4,5の途中に介在されてヒータ付きスターラと測定セル3との間で溶液11を循環させる送液ポンプ2とを具備する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は溶液中の微量物質のその場X線吸収端微細構造分析(以下、in−situ XAFS(X−ray Absorption Fine Structure)分析と略称する)装置及び方法に関し、特に溶液中の微量物質の反応過程の解析等に適用して有用なものである。
【背景技術】
【0002】
溶液中の微量物質の分析方法としてICP発光分析が知られている。ICP発光分析は、分析対象となる微量物質が複数の形態で存在する場合、必要な前処理を行うことによって形態ごとの定量分析にも適用できる。例えば、溶液試料中の微量なSe(IV)とSe(VI)の濃度を形態ごとに測定する場合、図14(a)及び図14(b)のフロー図に示すように、有機物分解及び還元の前処理を行ってから試料中のSeを水素化(水素化セレンHSeを発生させる)してICP発光分析装置で測定する手法がJIS法に記載されており(JIS−K0102 67.3)、これによって試料中の全Se(SeTotal)を定量することができる(ステップST1乃至ステップST3参照)。Seを形態ごとに定量する分析手法については、イオンクロマトグラフィーで形態分離してからICP−MS(質量分析装置)で測定する手法や、テルル(Te)による共沈分離を利用したもの等と、様々な検討がなされているが、JISには明確な規定はない。
【0003】
そこで、Se(IV)は水素化されるがSe(VI)は水素化されないという特性を利用して、JIS法の前処理操作を省いて水素化ICPで分析することによってSe(IV)を定量し(ステップST2及びステップST4参照)、そのSe(IV)濃度と通常のJIS法で得られた全Se(SeTotal)濃度との差をSe(VI)濃度として算出している(ステップST5参照)。
【0004】
しかしながら、かかるICP分光分析では、図14に示すように、前処理(ステップST1参照)をして試料中の全Se(SeTotal)を定量する(ステップST3参照)一方、前処理をすることなくSe(IV)濃度を検出し、その後全Se(SeTotal)濃度との差に基づきSe(VI)濃度を算出している。この結果、分析に多大の時間を要する。特に、前処理は、硫酸、硝酸の添加、加熱、放冷、塩酸の添加、加熱等、多くの煩雑な処理を行なう必要があり、その処理自体が面倒であるばかりでなく、処理の数が多いことに基因する大きな分析誤差を孕む可能性も大きく、分析精度の向上にも限界がある。
【0005】
特に、分析対象である溶液から分析の度に少量の試料を抽出しなければならず、試料の状態を変えざるを得ないという分析精度の向上を図る上で致命的な欠点を有するものとなっている。
【0006】
また、分析の都度、サンプルを抽出して所定の分析を行う必要があるので、離散的な時間軸での分析結果しか得ることができず、試料中の特定の反応の反応過程等を検出することが困難であるという問題も有している。特に時間的に連続な反応過程をリアルタイムで追跡することは不可能である。
【0007】
一方、すべての元素は、特定の波長のX線を吸収する特性を持つ。試料に照射したX線(入射X線)の強度と、試料を透過したX線(透過X線)或いは試料から発生した蛍光X線の比から算出したX線吸収率を入射X線のエネルギ(波長)に対してプロットすると、吸収原子の化学形態を反映したスペクトル(XAFSスペクトル)が得られる。かかる性質を利用して試料中の微量物質の化学的な形態を分析することが行われている。これをXAFS分析という。かかるXAFS分析を利用すれば、溶液中の微量物質の形態を特定することは容易に可能になると考えられる。
【0008】
ただ、従来技術に係るXAFS分析を単に利用するだけでは、微量物質を含む溶液中で生起されている反応過程を時間の経過とともに検出することはできない。
【0009】
かかる反応過程を時間の経過とともに観察することができれば、従来では時間的に離散した情報しか得られないのに対し、時間的に連続な反応過程の情報を得ることができるようになり、微量物質の反応過程等、極めて広範な分析等に適用することにより未知の有益な情報を得ることができるものと考えられる。
【0010】
なお、XAFS分析に関する公知文献として特許文献1をあげることができる。
【0011】
【特許文献1】特開2005−262063号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明は、上記従来技術に鑑み、その場分析で溶液中の微量物質の反応過程の解析が可能な溶液中の微量物質のin−situ XAFS分析装置及び方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記目的を達成する本発明の第1の態様は、
微量物質を含む溶液を一様に攪拌するとともに前記溶液中の特定の反応を進行させる反応手段と、
前記溶液の流入口、流出口とともに前記流入口及び流出口の間に前記溶液の貯留部を有して前記溶液の一様性を維持し得るとともにX線源から放射したX線を前記貯留部内の溶液に照射するための受光窓を有する測定セルと、
前記X線を照射した前記溶液が放射する蛍光X線を前記受光窓を介して受光することにより前記溶液中の前記微量物質をその場で検出し得る検出手段と、
前記反応手段と前記測定セルとの間を連通する流路と、
前記流路の途中に介在されて前記反応手段と前記測定手段との間で前記溶液を循環させる送液ポンプとを具備することを特徴とする溶液中の微量物質のin−situ XAFS分析装置にある。
【0014】
本態様によれば、動的な場とせざるを得ない反応場と、可及的に場の乱れを生起しないで溶液を入れ替えることが要求される測定場とを切り離した状態でそれぞれの機能を発揮させ、しかも反応系としては閉じられた一つの一体的な系を形成することができるので、測定セルにX線を照射することにより、当該反応系で進行している反応を乱すことなくin-situ XAFS分析することができる。この結果、溶液中で進行している反応を反応系を乱すことなく高精度に、しかもリアルタイムで連続的に分析することができる。この結果、従来技術においては不可能であった溶液中の微量物質の反応の過程を明らかにすることができ、極めて広範な応用が考えられる。
【0015】
本発明の第2の態様は、
第1の態様に記載する溶液中の微量物質のin−situ XAFS分析装置において、
前記測定セルの前記流入口は前記貯留部の下部に開口するとともに、前記流出口は前記貯留部の上部に開口し、さらに前記受光窓は前記貯留部の中央部に臨むように構成したことを特徴とする溶液中の微量物質のin−situ XAFS分析装置にある。
【0016】
本態様によれば、貯留部の下部から溶液が充満され、上部から排出されるので測定場となる中央部では実質的に溶液の流れがない溶液の貯留部とすることができる。しかも、貯留部の溶液は連続的に入れ替わっているので、溶液中で生起されている反応を正確に追跡することができる。
【0017】
本発明の第3の態様は、
第2の態様に記載する溶液中の微量物質のin−situ XAFS分析装置において、
前記流入口及び流出口は前記貯留部の鉛直方向の中心線上で開口していることを特徴とする溶液中の微量物質のin−situ XAFS分析装置にある。
【0018】
本態様によれば、貯留部に対する溶液の出入りによる影響を可及的に抑制することができ、最も静的な測定場を構成することができ、その分高精度の測定に資することができる。
【0019】
本発明の第4の態様は、
第1乃至第3の態様の何れか一つに記載する溶液中の微量物質のin−situ XAFS分析装置において、
前記貯留部の表面は前記受光窓と平行な平面であることを特徴とする溶液中の微量物質のin−situ XAFS分析装置にある。
【0020】
本態様によれば、溶液の表面に浅い角度でX線を入射させることができ、最も効率的に蛍光X線を貯留部の溶液から発生させることができる。
【0021】
本発明の第5の態様は、
第1乃至第4の態様に記載する溶液中の微量物質のin−situ XAFS分析装置において、
前記反応手段は前記溶液の加熱手段を有することを特徴とする溶液中の微量物質のin−situ XAFS分析装置にある。
【0022】
本態様によれば、反応場における所定の反応を良好に促進させることができる。
【0023】
本発明の第6の態様は、
微量物質を含む溶液を一様に攪拌するとともに前記溶液中の特定の反応を進行させる反応場から測定場における貯留部に前記溶液を流入させて貯留するとともに前記貯留部から前記溶液を流出させることで前記貯留部における前記溶液の一様性を維持しつつ前記溶液が入れ替わるよう前記反応場と前記測定場との間で前記溶液を循環させる一方、前記貯留部の前記溶液にX線を照射し、この結果照射された前記溶液から放射される蛍光X線を検出することにより前記溶液中の前記微量物質をその場で検出することを特徴とする溶液中の微量物質のin−situ XAFS分析方法にある。
【0024】
本態様によれば、攪拌等により反応を促進させるべく動的な場とせざるを得ない反応場と、可及的に場の乱れを生起しないことが要求される測定場とを切り離した状態でそれぞれの機能を発揮させ、しかも反応系としては閉じられた一つの一体的な系により溶液中の微量物質のその場XAFS分析を行うことができる。この結果、溶液中の微量物質の反応過程を解析できるその場XAFS分析技術を提供することが可能となる。
【0025】
本発明の第7の態様は、第6の態様に記載する溶液中の微量物質のその場X線吸収端微細構造分析方法において、前記溶液は酸化剤ならびに自身が酸化され得る形態の微量物質とを含む溶液であり、前記蛍光X線を検出することにより前記溶液中の前記微量物質の酸化過程をその場で分析するものであることを特徴とする溶液中の微量物質のその場X線吸収端微細構造分析方法にある。
【0026】
本態様によれば、自身が酸化され得る微量物質の1つとして酸化反応過程にある溶液中のセレン(Se(IV))にその場XAFS分析を適用した結果、反応時間の進行に伴うSe(IV)からSe(VI)への形態変化を捉えることができた。ここで、XAFSスペクトルの線形フィッティング解析により求めたSe(IV)とSe(VI)の濃度変化は、ICP発光分析による形態別の定量分析の結果とほぼ一致した。このことから、本態様に係るその場XAFS分析の結果が高い定量性を有していることが判明した。
【0027】
本発明の第8の態様は、
請求項6に記載する溶液中の微量物質のin−situ XAFS分析方法において、
前記溶液は酸化剤ならびに自身が酸化され得る形態の微量物質とを含む溶液に、前記微量物質の酸化を抑制する可能性のある添加物を加えたものであり、前記蛍光X線を検出することにより前記溶液中における前記添加物による前記微量物質に対する酸化抑制効果をその場で分析するものであることを特徴とする溶液中の微量物質のin−situ XAFS分析方法にある。
【0028】
本態様によりその場XAFS分析技術を利用して、Se(IV)の酸化を抑制する可能性のある添加物の1つとしてMn(II)によるSe(IV)の酸化抑制機構について検討した結果、溶液中の酸化剤(S2-)がSe(IV)ではなくMn(II)を酸化してMn(IV)Oの沈殿が生成するとともに、Se(IV)の一部がMn(IV)Oの沈殿に取り込まれ、Se(IV)の酸化が抑制されることが明らかとなった。
【発明の効果】
【0029】
本発明によれば、反応系として閉じられた一つの一体的な系を形成する微量物質を含む一様な溶液の循環系を形成しているので、測定セルにX線を照射することにより、当該反応系で進行している微量物質に基因する反応を反応系を乱すことなくin-situ XAFS分析することができる。この結果、溶液中で進行している反応を反応系を乱すことなく高精度に、しかもリアルタイムで連続的に分析することができる。この結果、従来技術においては不可能であった溶液中の微量物質の反応の過程を明らかにすることができる。
【0030】
この結果、従来では時間的に離散した情報しか得られないのに対し、時間的に連続な反応過程の情報を得ることができるようになり、微量物質の反応過程等、極めて広範な分析等に適用することにより未知の有益な情報を得ることができるものと考えられる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0031】
以下本発明の実施の形態を図面に基づき詳細に説明する。図1は本発明の実施の形態に係るin−situ XAFS分析装置の全体を示す説明図、図2はその測定セル部分を抽出して示す分解斜視図、図3は測定セル部分を拡大して示す図で、(a)はその正面図、(b)はそのA−A線断面図である。
【0032】
図1に示すように、本形態に係るin−situ XAFS分析装置は、反応手段であるヒータ付きスターラ1、送液ポンプ2、測定セル3、管路4,5、7素子SDD8及びX線源(図示せず)を有している。ここで、ヒータ付きスターラ1は、加熱手段であるヒータを有して反応容器1Aに収納した試料である微量物質を含む溶液11を一様に攪拌する装置である。すなわち、特定の反応を促進させる反応場を構成するものである。
【0033】
送液ポンプ2は往路となる管路4及び復路となる管路5を介して反応容器1A内で所定の反応が進行している溶液11をヒータ付きスターラ1と測定セル3との間で循環させる。
【0034】
測定セル3は、流入する溶液11を一旦貯留した後流出させる貯留部3Aを有して流入した溶液11の一様性を維持するとともにX線源(図示せず)から放射した入射X線12を貯留部3A内の溶液11に照射するための受光窓3Bを有している。
【0035】
7素子SDD8は、X線の照射により溶液11が放射する蛍光X線13を受光窓3Bを介して受光することにより溶液11中の微量物質を分析する検出手段であり、従来の半導体素子検出器(SSD)に比べ、より高フラックスのX線計測を可能にしたシリコンドリフト検出器(SDD)を幾何学的に7素子配置することにより、溶液11中に含まれる10mg/kg以下の微量物質に対してもXAFS分析を適用可能にしたものである。
【0036】
これらのうち測定セル3は、図2及び図3にさらに詳細に示すように、X線に対する干渉を防ぐためセル本体3Cをアクリル製とし、管路4に一体的に連通するようセル本体3Cに形成された流入路3Gを介して上部から注入された溶液11が貯留部3Aでセル本体3Cの表面を下から上に向かって流れ、管路5に一体的に連通するようセル本体3Cに形成された流出路3Hを介して再び上部から管路5に抜ける構造としている。ここで、Oリング3DとX線透過性の高いポリエステル製のマイラーフィルム3Eをはさみ、中心に受光窓3Bが開いたアクリル製のセルカバー3Fをセル本体3Cにアクリル製のネジ9及びナット10で固定することによって溶液11の漏れを防いでいる。ここで、貯留部3Aは円形の凹部としてセル本体3Cの中央部に形成するとともに、流入路3Gの端部である流入口3Iが貯留部3Aの下部に開口するとともに、流出路3Hの端部である流出口3Jが貯留部3Aの上部に開口し、さらに受光窓3Bが貯留部3Aの中央部に臨むように構成してある。特に、本形態では流入口3I及び流出口3Jが貯留部3Aの鉛直方向の中心線上で開口している。ここで、流入口3I及び流出口3Jの配置は本形態のものが最適である。流入口3Iを介して貯留部3Aに流入した溶液11が貯留部3A内で場の乱れを生起することなく上部に移動し、流出口3Jを介して最も良好に溶液11の一様性を維持しながら排出される一方、流入口3Iと流出口3Jの間の最も静的な場である中央部の溶液11に受光窓3Bを介して入射X線12が照射されるからである。
【0037】
ただ、攪拌等により動的な場となっている反応容器1A内の溶液11の影響を受けないような静的な場に貯留部3A内の溶液11がなっていれば上述の如き構成に限定するものではない。反応容器1A内の溶液11の一様性が貯留部3Aでも維持できていれば良いからである。
【0038】
また、貯留部3Aの表面は受光窓3Bと平行な平面として形成するのが最適である。貯留部3Aの溶液11の表面に浅い角度で入射X線12を入射させることができ、最も効率的に蛍光X線13を貯留部3Aの溶液11から放射させることができるからである。
【0039】
かくして、ヒータ付きスターラ1の反応容器1A内では特定の反応が良好に進行するとともに、溶液11は、送液ポンプ2によって反応容器1Aと測定セル3との間を循環するため、貯留部3Aの溶液11は常時入れ替わり反応容器1A内で進行している反応過程を静的な場である貯留部3A内で再現させることができる。すなわち、測定セル3は、貯留部3Aに流入した溶液11の一様性を維持しつつ溶液11を入れ替えることができるので、X線源(図示せず)から放射した入射X線12を貯留部3A内の溶液11に照射して得る蛍光X線13を7素子SDD8で受光して分析することにより溶液11中の微量物質のin-situ XAFS分析を行うことができる。
【0040】
今回、本発明者等は、上述の如きin−situ XAFS分析装置を用いて反応過程にある溶液中の微量物質であるセレン(Se)にin−situ XAFS分析を適用した。また、同装置を用いてMnによるSe(IV)の酸化抑制機構についてin-situ XAFS分析に基づく検討を行った。そこで、これらを第1乃至第2の実施例とする本発明に係るin-situ XAFS分析方法を説明しておく。この場合のそれぞれの測定条件を表1に示す。
【0041】
【表1】

【0042】
表1において、Se(IV)は試薬のSeOを水に溶解させて調整したものを使用した。また、溶液中の形態はSe(IV)O2−であり、表中の値はSeとしての濃度である。
【0043】
表1において、S2−は試薬のKを水に溶解させて調整したものを使用した。また、表中の値はS2−としての濃度である。
【0044】
表1において、Mn(II)は試薬のMn標準液を水で希釈したものを使用した。
【0045】
さらに、この場合の各XAFS分析の測定条件を表2に示す。
【0046】
【表2】

【0047】
この場合のXAFS分析では、Se−K吸収端(12.655keV)及びMn-K吸収端(6.538keV)前後で入射するX線のエネルギーを連続的に変えて行い、入射X線12の強度と入射スリットで制限するとともに、7素子SDD8の感度や測定セル3との距離を変えることにより、1回あたりの分析時間を約60分に調整した。また、本実施例では比較のために測定対象元素であるSe、Mnを含む各種標準物質、ならびに反応時に生成した沈殿についてもXAFS分析を行った。
【0048】
さらに、本実施例におけるXAFS分析は、SPring−8産業用専用ビームラインBL16B2にて実施した。偏光電磁石からの放射光源が利用可能なBL16B2では、広い波長領域(3.5〜130keV相当)の白色X線が利用できることから、幅広い元素に対して安定で精度の高いZAFS測定が可能であるという特徴を有している。
【0049】
一般的な透過法によるXAFS測定では、元素固有のX線吸収端エネルギー近傍において、測定試料のX線吸収率の測定を行うが、対象元素が低濃度である場合はIO(入射X線強度)とI(透過X線強度)の差が小さく、精度の良い吸光度の測定が出来ない。そこで今回の実験では、試料に照射したX線にともない発生する蛍光X線を透過X線の代わりに測定する蛍光法を採用した。発生する蛍光X線の強度は、吸収されたX線強度に比例するため、これを入射X線のエネルギーに対してプロットすることによって透過法と同様のXAFSスペクトルが得られる。そこで、本実施例に係るin−situ XAFS分析は、すべて蛍光法で実施した。
【0050】
<反応過程にある溶液中のセレン(Se)に対するin−situ XAFS分析方法>
溶液11中のSe濃度は100mg/lとし、試薬の二酸化セレン(Se(IV)O)の粉末を水に溶解させて調製した。この溶液11に酸化剤であるS2−を、5,000mg/lとなるように加えた(表1の条件[1])。また、XAFS測定条件は表2におけるSe−K吸収端(12.655keV)に関するものである。
【0051】
かかる条件でin−situ XAFS分析により得たXAFSスペクトルを図4に示す。同図に示すように、Seを微量物質として含む溶液11のin−situ XAFS分析で得られたSe−K吸収端のXAFSスペクトルは、吸収端近傍に現れる吸収原子の局所電子構造や原子構造を反映したX線吸収端近傍構造(XANES:X−ray Absorption Near Edge Structure)と、XANES領域よりも高エネルギー側に現れる吸収原子周囲の定量的な局所構造を反映した広域X線吸収微細構造(EXAFS:Extended X−ray Absorption Fine Structure)とに分けられ、これらを解析することによって吸収原子の化学形態を特定することが可能となる。
【0052】
また、図5はSeを微量物質として含む溶液11のin−situ XAFS分析で得られたSe−K吸収端のXAFSスペクトルの経時変化を示している。同図には、比較のためSe(IV)O2−(0minに相当)とSe(VI)O2−(標準液(std))とのXAFSスペクトルも併せて示した。
【0053】
図5に示すように、価数の違いによってピークトップをとるエネルギー値が異なっている。また、Se(VI)O2−のスペクトルには、12.68keV付近で緩やかなピークが見られる。また、かかるin−situ分析で得られたXAFSスペクトルは、ピークトップをとるエネルギー値が時間の経過とともにSe(IV)(12.662keV)からSe(VI)(12.665keV)に向かってシフトしていることが確認された。また、Se(VI)の特徴である12.68keV付近のピークが反応時間の経過とともに徐々に現れた。これらの結果は、in−situ XAFS分析で得られたXAFSスペクトルが、Se(IV)からSe(VI)への形態変化を捉えたことを示している。ちなみに、図5に示すような鋭い吸収端の立ち上がりはホワイトラインと呼ばれ、吸収原子が酸素と結合している場合に現れるものであり、溶液11中のSeが、Se(IV)O2−やSe(VI)O2−のような酸素と結合した形態であることを意味している。
【0054】
EXAFSスペクトルはフーリエ変換することによって動径分布関数のようなものが得られ、吸収原子の局所構造に関する情報が得られる。
【0055】
図6は、本実施例に係るin−situ XAFS分析方法で得られたSeを微量物質として含有する溶液11のEXAFSスペクトルをフーリエ変換したものであり、横軸はSe原子とSe原子に配位している原子との距離、縦軸は配位数を表している。ここで、Se(IV)O2−は3つのO原子、Se(VI)O2−は4つのO原子がそれぞれSe原子に配位しており、Se−O間の距離は約1.5〜1.8Åであることが知られている。
【0056】
図6では、Se−Oの原子間距離が約1.1〜1.4Åという結果が得られたが、XAFS解析では位相シフト項を含むため実際の距離よりも0.4Å程度短く表示されることを考慮すると、今回の測定結果は実際の原子間距離と良く一致していた。また、縦軸で表される酸素の配位数は、反応時間の経過とともに徐々に増加する傾向が見られた。このことから、本実施例に係るin−situ XAFS分析で得られたEXAFSスペクトルが、Se(IV)O2−からSe(VI)O2−への酸化反応の進行を捉えたものであることが明らかとなった。
【0057】
さらに、混合物質のXAFSスペクトルを構成している複数の化学種がある程度特定できる場合、標準物質のXAFSスペクトルをもとにそれぞれの化学種の寄与を定量化することができる。本実施例で実施したin−situ XAFS分析の場合、溶液11にはSe(IV)とSe(VI)が含まれていることから、それぞれの標準試料のXAFSスペクトルをもとに線形フィッティング解析を行い、酸化反応過程における溶液中のSe(IV)とSe(VI)の割合を算出した。解析に際して、標準試料ならびにin−situ XAFS分析で得られた12.6〜12.8keVのエネルギー範囲のスペクトル(データポイント:607点)について、同一のバックグランド補正ならびに規格化処理を行った。
【0058】
図7は線形フィッティングによる解析例(360min)を示しており、この場合の価数別のSeの存在割合はSe(IV)が41.719%、Se(VI)が58.281%という結果が得られた。
【0059】
in−situ XAFS分析の定量性について検討するため、線形フィッティングによる解析結果と、同一条件での酸化反応過程にある溶液中のSe(IV)、Se(VI)の濃度をICP発光分析により定量した結果と比較した。その結果、図8に示すように、二つの手法により算出、分析したSe(IV)、Se(VI)の存在割合の時間変化はほぼ一致した。すなわち、本実施例に係るin−situ XAFS分析で得られたXAFSスペクトルが、Seの酸化反応の定量的な進行度合いを反映したものであることが明らかとなった。
【0060】
なお、比較として行ったICP発光分析によるSeの定量分析では、図14で示したように還元工程の有無により全SeとSe(IV)をそれぞれ分析し、両者の差分をSe(VI)とした。すなわち、ICP発光分析は還元工程でSe(VI)が完全にSe(IV)に還元され、かつ水素化工程ですべてのSe(IV)が水素化されるという前提に基づいた分析方法である。また、酸を加えて加熱するなどの時間のかかる煩雑な操作を伴うため、その間にもSeの形態が変化する虞があり、完全に還元や水素化が起こると仮定しても、分析者の熟練度も含めた分析誤差の要因となる要素を多く含んでいると思われる。したがって、前処理も不要で形態変化を直接的に解析できるという点においては、ICP発光分析を用いた形態別の定量分析に比べてin−situ XAFS分析の方が有利であると考えられる。
【0061】
図8に示すように、両分析方法の結果が一致したことによって、in−situ XAFS分析の定量性が示されたと同時に、煩雑な前処理操作を伴うICPを用いた形態別定量分析の信頼性についても裏付けられたものと考えられる。
【0062】
以上、詳述したように、本実施例によれば酸化反応過程にある溶液11中のSe(Se換算で100mg/l)に対してin−situ XAFS分析を適用し、得られたXAFSスペクトルを解析した結果、100mg/lという希薄な濃度であったにもかかわらず、Se(IV)からSe(VI)への形態変化を反映したXAFSスペクトルが得られた。さらに、EXAFSのフーリエ変換ではSeに配位する酸素数の変化を捉えることに成功した。また、XAFSスペクトルの線形フィッティングの結果から、定量的な反応の進行度合いを反映していることが明らかとなった。
【0063】
かくして本実施例に係るin−situ XAFS分析方法は溶液中におけるppmオーダーの微量な金属の酸化や還元反応、材料合成反応、固体試料からの溶出挙動など、様々な反応機構の解明につながる情報が得られる可能性があると考えられる。
【0064】
<MnによるSe(IV)の酸化抑止機構に関するin−situ XAFS分析>
燃焼排ガスの処理設備のひとつである湿式脱硫装置の排水には、燃料に由来するSeが含まれる場合がある。一般に排水中のSeはSe(IV)O2−とSe(VI)O2−の形態で存在する。これは、燃焼排ガス中のSe(IV)O(g)が湿式脱硫機置の吸収液に溶解してSe(IV)O2−となり、強い酸化雰囲気である脱硫装置内においてSe(VI)O2−が生成するためであると考えられている。
【0065】
脱硫排水中のSeのうち、Se(IV)は鉄を用いる凝集沈殿やイオン交換などの手法で処理できる。一方、Se(VI)はこのような手法では処理できないため、前処理としてSe(IV)または不溶性の金属Se(Se(0))まで還元する必要があり、微生物や造粒鉄を利用するなど、様々な手法が開発されている。なかでも、造粒鉄を用いたSeの還元除去装置についてはその効果が実証されているが、Seの還元当量の数十倍以上もの鉄を必要とし、また大量のスラッジ(水酸化鉄)が生成することから、スラッジ生成抑制技術の開発や処理コストの低減が課題となっている。
【0066】
排水中のSeを処理する場合には、Se(VI)を還元して除去することに加えて、Se(IV)を酸化させない、すなわちSe(VI)の生成を抑制することも除去コストを低減させる手段の一つと考えられる。これに関して、本発明者等は、液体試料中のSe(Se(IV)、Se(VI)、Se(0))を形態別に定量する手法を提案するとともに、S2−などの酸化性物質を含む水溶液中ではSe(IV)からSe(VI)への酸化反応が起こりやすくなることを発見した。さらに、Mnを添加することによってSeの酸化が抑制されると共に、生成したMnの沈殿にSeの一部が取り込まれることも見出した。
【0067】
本実施例は、かかる知見に基づくMnによるSe(IV)の酸化抑制機構について検討するため、図1に示す分析装置を用いてin-situ XAFS分析を実施したものである。
【0068】
図9はS2−を含むSeの溶液11を実際の脱硫排水の温度に相当する50℃で保持した際のSe(IV)及びSe(VI)の濃度変化を示したものである。同図を参照すれば、Mn未添加の場合は、20時間後に完全にSe(VI)まで酸化されたのに対して、Mn添加時は48時間経過後もSe(IV)が存在しており、同時に生成したMnを主成分とする沈殿にSeの一部が取り込まれたことによる全Seの濃度の減少が見られていることが分かる。この結果は、MnがSe(IV)の酸化抑制、すなわちSe(VI)の生成抑制効果を有することを示す新たな発見である。ただ、かかるSeの酸化抑制に関与するMnの反応機構や沈殿に取り込まれたSeの形態などについては未解明である。このSeの酸化抑制機構の解明には、in−situ XAFS分析が極めて有効な分析手法のであると考えられる。
【0069】
そこで、本実施例においては、100mg/lのSeを含有する溶液11に酸化剤であるS2−を5,000mg/lとなるように加え、さらに酸化抑制効果のあるMnを500mg/lとなるように添加して(表1の条件[2]参照)in−situ XAFS分析を実施した。ここで、Mnは市販の標準溶液(関東化学)であり、溶解しているMnの価数は2価である。in−situ XAFS分析の測定条件は表2のMn-K吸収端(6.538keV)に示す通りである。
【0070】
図10はMnを添加したSe溶液のin−situ XAFS分析で得られたXANESスペクトルの経時変化を示す図で、(a)がSe−K吸収端、(b)がMn−K吸収端をそれぞれ示す特性図である。
【0071】
図10(a)を参照すれば明らかな通り、本実施例においては反応開始から600分経過後までin−situ XAFSでの分析を行ったが、Mn未添加時(図4参照)のような顕著なピークトップエネルギー値のシフトや、Se(VI)の特徴である12.68keV付近のピークは見られない。
【0072】
また、図11は、反応中のXAFSスペクトルを線形フィッティング解析によりSe(IV)とSe(VI)に分離した結果と、ICP発光分析を用いた場合の形態別の定量分析結果を比較して示す特性図である。同図の特性は、両者とも、時間が経過してもSe(VI)への酸化はほとんど起こらないという結果を示している。このことから、Mn添加によりSeの酸化が抑制されたことが確認されるとともに、in−situ XAFS分析が高い定量性を有していることを再度示す結果となった。
【0073】
上述したように、Seの酸化抑制効果はMnの添加によるものである。ここで、図10(b)は、Mnに対するin−situ XAFS分析の結果を示しており、初期のMn(II)は6.551keV付近でピークトップをとったが、時間の経過と共にこのピークが減衰し、6.551keVに新たなピークが現れた。標準試料(Mn(IV)O(std))との比較から、これはMn(II)からMn(IV)へのシフトであることが判明した。すなわち、本実施例によりSeの酸化抑制効果を持つMn(II)自身がMn(IV)に酸化されたことが明らかとなった。
【0074】
図12はMnを添加した際に生成した沈殿のXANESスペクトルを示す図で、(a)がSe−K吸収端、(b)がMn−K吸収端をそれぞれ示す特性図である。これらのうち図12(a)に示すように、沈殿試料は12.662keVでピークトップをとっており、標準試料であるSe(IV)O2−のXANESスペクトルとの比較から、4価の形態であることが判明した。この結果から、具体的な化合物の形態は不明であるものの、溶液11中のSe(IV)は4価のままで沈殿に取り込まれることが判明した。
【0075】
一方、図12(b)は同一の沈殿試料ならびに初期のMn水溶液のMn−K吸収端におけるXANESスペクトルであり、比較として、価数の異なるMnを含む4種類の標準試料の測定結果を併せて記載した。Mn(II)O、Mn(III)、Mn(IV)Oは何れもMn酸化物であり、6.651keV、6.655keV、6.659keVのエネルギー値でそれぞれピークトップをとった。7価のKMn(VII)Oについては、吸収端前の6.54keV付近に鋭いプレエッジが現れるのが特徴的である。沈殿のスペクトルは6.6659keVでピークトップをとったことから、沈殿中のMnの価数は4価と考えられ、さらに吸収端のエネルギー値のみならず、6.54keV付近の緩やかなピークや吸収端よりも高エネルギー側でのスペクトルの形状など、標準のMn(IV)Oと一致したことから、この沈殿はMn(IV)Oであることが明らかとなった。
【0076】
以上詳述したように、SPring−8の産業用専用ビームラインBL16B2を用いたin−situ XAFS分析を通じてSeの酸化抑制機構について検討した結果、次のことが明らかとなった。
1) 酸化性物質(例えば,S2−)によるSe(IV)からSe(VI)への酸化反応はMn(II)の存在によって抑制される。
2) やがてMn(II)は徐々に酸化され、Mn(IV)Oとして沈殿する。
3) 溶液中のSeの一部はこの沈殿に取り込まれ、Se(IV)として存在する。
【0077】
図13に、XAFS分析の結果から推定されるMnによるSeの酸化抑制機構のイメージを示す。同図(a)に示すMn非共存時は、酸化剤(S2−)の作用によりSe(IV)がSe(VI)に酸化されるが、同図(b)に示すMn共存時(Mn添加時)は酸化剤がSeではなくMnに優先的に作用するため、Mn(II)が酸化されてMn(IV)Oの沈殿が生成し、その結果としてSe(VI)が生成しにくくなるものと考えられる。このため、SeはSe(IV)として存在する時間が長くなり、生成したMn(IV)Oの沈殿に取り込まれるものと推定される。
【0078】
一般的に、排水中でのMnは2価のイオン(Mn2+)の形態で存在する場合が多く、空気雰囲気ではほとんど酸化されないため、次式に示すように次亜塩素酸や過マンガン酸カリウムなどの酸化剤を加えてMnOの沈殿として処理されている。
【0079】
Mn2++NaClO+HO→MnO↓+NaCl+2H
3Mn2++2KMnO→5MnO↓+2K+4H
【0080】
すなわち、本実施例では酸化剤として加えたS2−によって溶液11中のMn2+がMnOとして沈殿したものと考えられる。in−situ XAFS分析の適用によって、反応に関与するMn,Seの価数や存在形態の特定など、これまで不明であった反応機構を明らかにすることができた。
【0081】
Se(IV)の酸化抑制機構を完全に解明するには他にも様々な実験や分析が必要であるが、酸化反応過程にある溶液中のSe等に対してin−situ XAFS分析を適用できるようにすることにより以下の結果を得た。
1) 酸化反応過程にある溶液中のSeにin−situ XAFS分析を適用した結果、反応時間の進行に伴うSe(IV)からSe(VI)への形態変化を捉えることに成功した。
2) XAFSスペクトルの線形フィッティング解析により求めたSe(IV)とSe(VI)の濃度変化は、ICP発光分析による形態別の定量分析の結果とほぼ一致したことから、in−situ XAFS分析の結果が高い定量性を有していることが判明した。
3) in−situ XAFS分析を利用して、MnによるSeの酸化抑制機構について検討した結果、溶液11中のS2−がSe(IV)ではなくMn(II)を酸化してMn(IV)Oの沈殿が生成するとともに、Se(IV)の一部がMn(IV)Oの沈殿に取り込まれることが明らかとなった。
【0082】
以上、本実施例によれば溶液中の微量物質の反応過程をin−situ XAFS分析により解明することができた。また、Se(IV)の酸化抑制に関わるMnの反応機構を解明することもできた。
【産業上の利用可能性】
【0083】
本発明は溶液に含まれる微量物質の分析を行う産業分野において有効に利用し得る。
【図面の簡単な説明】
【0084】
【図1】本発明の実施の形態に係るin−situ XAFS分析装置の全体を示す説明図である。
【図2】図1に示すin−situ XAFS分析装置の測定セル部分を抽出して示す分解斜視図である。
【図3】図1に示すin−situ XAFS分析装置の測定セル部分を拡大して示す図で、(a)はその正面図、(b)はそのA−A線断面図である。
【図4】Seを微量物質として含む溶液のin−situ XAFS分析で得られたSe−K吸収端のXAFSスペクトルを示す特性図である。
【図5】Seを微量物質として含む溶液のin−situ XAFS分析で得られたSe−K吸収端のXAFSスペクトルの経時変化を示す特性図である。
【図6】Seを微量物質として含有する溶液のEXAFSスペクトルをフーリエ変換したもので、横軸にSe原子とSe原子に配位している原子との距離、縦軸に配位数を採って示す特性図である。
【図7】Seを微量物質として含有する溶液のin−situ XAFS分析において線形フィティング解析によるXANES領域の解析結果を示す特性図である。
【図8】Seを微量物質として含有する溶液のin−situ XAFS分析における線形フィッティングによる解析結果と、同一条件での酸化反応過程にある溶液中のICP発光分析により定量した結果と比較した特性図である。
【図9】S2−を含むSeの溶液を実際の脱硫排水の温度に相当する50℃で保持した際のSe(IV)及びSe(VI)の濃度変化を示す特性図である。
【図10】Mnを添加したSe溶液のin−situ XAFS分析で得られたXANESスペクトルの経時変化を示す図で、(a)がSe−K吸収端、(b)がMn−K吸収端をそれぞれ示す特性図である。
【図11】Mnを添加したSe溶液の反応中のXAFSスペクトルを線形フィッティング解析によりSe(IV)とSe(VI)に分離した結果と、ICP発光分析を用いた場合の形態別の定量分析結果を比較して示す特性図である。
【図12】Mnを添加した際に生成した沈殿のXANESスペクトルを示す図で、(a)がSe−K吸収端、(b)がMn−K吸収端をそれぞれ示す特性図である。
【図13】XAFS分析の結果から推定されるMnによるSeの酸化抑制機構のイメージを示す図で、(a)がMn非共存時、(b)がMn共存時(Mn添加時)をそれぞれ示す模式図である。
【図14】ICP発光分析の手順を示すフローチャートである。
【符号の説明】
【0085】
1 ヒータ付きスターラ
2 送液ポンプ
3 測定セル
3A 貯留部
3B 受光窓
3I 流入口
3J 流出口
4,5 管路
11 溶液
12 入射X線
13 蛍光X線


【特許請求の範囲】
【請求項1】
微量物質を含む溶液を一様に攪拌するとともに前記溶液中の特定の反応を進行させる反応手段と、
前記溶液の流入口、流出口とともに前記流入口及び流出口の間に前記溶液の貯留部を有して前記溶液の一様性を維持し得るとともにX線源から放射したX線を前記貯留部内の溶液に照射するための受光窓を有する測定セルと、
前記X線を照射した前記溶液が放射する蛍光X線を前記受光窓を介して受光することにより前記溶液中の前記微量物質をその場で検出し得る検出手段と、
前記反応手段と前記測定セルとの間を連通する流路と、
前記流路の途中に介在されて前記反応手段と前記測定手段との間で前記溶液を循環させる送液ポンプとを具備することを特徴とする溶液中の微量物質のその場X線吸収端微細構造分析装置。
【請求項2】
請求項1に記載する溶液中の微量物質のその場X線吸収端微細構造分析装置において、
前記測定セルの前記流入口は前記貯留部の下部に開口するとともに、前記流出口は前記貯留部の上部に開口し、さらに前記受光窓は前記貯留部の中央部に臨むように構成したことを特徴とする溶液中の微量物質のその場X線吸収端微細構造分析装置。
【請求項3】
請求項2に記載する溶液中の微量物質のその場X線吸収端微細構造分析装置において、
前記流入口及び流出口は前記貯留部の鉛直方向の中心線上で開口していることを特徴とする溶液中の微量物質のその場X線吸収端微細構造分析装置。
【請求項4】
請求項1乃至請求項3の何れか一つに記載する溶液中の微量物質のその場X線吸収端微細構造分析装置において、
前記貯留部の表面は前記受光窓と平行な平面であることを特徴とする溶液中の微量物質のその場X線吸収端微細構造分析装置。
【請求項5】
請求項1乃至請求項4に記載する溶液中の微量物質のその場X線吸収端微細構造分析装置において、
前記反応手段は前記溶液の加熱手段を有することを特徴とする溶液中の微量物質のその場X線吸収端微細構造分析装置。
【請求項6】
微量物質を含む溶液を一様に攪拌するとともに前記溶液中の特定の反応を進行させる反応場から測定場における貯留部に前記溶液を流入させて貯留するとともに前記貯留部から前記溶液を流出させることで前記貯留部における前記溶液の一様性を維持しつつ前記溶液が入れ替わるよう前記反応場と前記測定場との間で前記溶液を循環させる一方、前記貯留部の前記溶液にX線を照射し、この結果照射された前記溶液から放射される蛍光X線を検出することにより前記溶液中の前記微量物質をその場で検出することを特徴とする溶液中の微量物質のその場X線吸収端微細構造分析方法。
【請求項7】
請求項6に記載する溶液中の微量物質のその場X線吸収端微細構造分析方法において、
前記溶液は酸化剤ならびに自身が酸化され得る形態の微量物質とを含む溶液であり、前記蛍光X線を検出することにより前記溶液中の前記微量物質の酸化過程をその場で分析するものであることを特徴とする溶液中の微量物質のその場X線吸収端微細構造分析方法。
【請求項8】
請求項6に記載する溶液中の微量物質のその場X線吸収端微細構造分析方法において、
前記溶液は酸化剤ならびに自身が酸化され得る形態の微量物質とを含む溶液に、前記微量物質の酸化を抑制する可能性のある添加物を加えたものであり、前記蛍光X線を検出することにより前記溶液中における前記添加物による前記微量物質に対する酸化抑制効果をその場で分析するものであることを特徴とする溶液中の微量物質のその場X線吸収端微細構造分析方法。


【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図9】
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【図13】
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【図14】
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【図1】
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【図2】
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【図8】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2009−294002(P2009−294002A)
【公開日】平成21年12月17日(2009.12.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−146239(P2008−146239)
【出願日】平成20年6月3日(2008.6.3)
【出願人】(000173809)財団法人電力中央研究所 (1,040)
【Fターム(参考)】