説明

溶液製膜方法

【課題】TACフィルムよりも耐湿熱性に優れ、配向しやすいフィルムを、流延工程で品質欠陥が生じないように製造する。
【解決手段】セルロースアセテートプロピオネート(CAP)またはセルロースアセテートブチレート(CAB)とジクロロメタンを主溶媒とする混合溶媒とからドープを製造する。流延ダイ43から吐出された直後のドープの乾燥速度を、固体成分1kgあたり4(kg/min以下とする。流延ダイ43からのドープ27の吐出速度を3m/min以上とする。流延ビードでのカワバリ発生が抑制されるのでフィルムには品質欠陥がない。したがって得られるフィルムは光学特性に優れ、かつ、TACフィルムよりも耐湿熱性に優れる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、溶液製膜方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
セルロースアシレート、特に57.5%〜62.5%の平均酢化度を有するセルローストリアセテート(以下、TACと称する)から形成されるフィルムは、その強靭性と難燃性とから写真感光材料のフィルム用支持体として利用されている。また、TACフィルムは光学等方性に優れていることから、近年市場の拡大している液晶表示装置の偏光板の保護フィルム,光学補償フィルム(例えば、視野角拡大フィルムなど)などに用いられている。
【0003】
TACフィルムは、通常、溶液製膜方法により製造されている。溶液製膜方法によると、溶融製膜方法などの他のフィルム製造方法と比較して光学的性質などの物性により優れたフィルムを製造することができる。溶液製膜方法では、ポリマーなどをジクロロメタンや酢酸メチルを主溶媒とする混合溶媒に溶解した高分子溶液(以下、ドープと称する)を調製する。そのドープを流延ダイより支持体上に流延して流延膜を形成する。その流延膜が支持体上で自己支持性を有するものとなった後に、この流延膜を、溶媒を含んだ状態の湿潤フィルムとして支持体から剥ぎ取り、乾燥させた後にフィルムとして巻き取る(例えば、非特許文献1参照)。
【0004】
スジやムラ等の欠陥がフィルムに生じないように、流延ダイの形態について提案されている(例えば、特許文献1参照)。特にTACを原料とするドープを流延する流延ダイについては様々な提案がなされている(例えば、特許文献2ないし4参照)。
【0005】
また、フィルムの湿熱耐久性を高めるためにTACに代えて他のセルロースアシレートを用いることも提案されている。例えば、セルロースのアシル化に際し、アセチル基(−CO−CH3 )によるアシル化と共にプロピオニル基(−CO−C2 5 )によるアシル化を行い、セルロースアシレートプロピオネート(以下、CAPと称する)を製造し、このCAPをフィルム原料とする方法が知られている(例えば、特許文献5参照。)。得られるCAPフィルムは、CAPがもつ側鎖のアシル基の非親水性により、TACフィルムよりも湿熱耐久性に優れる。また、CAPは、TACと比較して側鎖のアシル基が長いために親油性が高まり、これにより、一般的に有機溶媒への溶解性が向上しドープの調製が容易であるという利点がある。
【0006】
さらに、CAPフィルムは、嵩高いプロピオニル基を有しているため、配向性が生じやすい。このため、面内レターデーション(Re)や厚み方向レターデーション(Rth)を大きくすることができるという特徴をもつ。このため、光学補償が必要なバーティカルアライメント(VA)方式の液晶表示装置の光学フィルムとして好ましく用いられている。CAPのこのような特徴は、セルロースアセテートブチレート(CAB)にも共通する。
【非特許文献1】発明協会公開技報公技番号2001−1745号
【特許文献1】特開平8−025381号公報
【特許文献2】特開2001−071338号公報
【特許文献3】特開2002−254453号公報
【特許文献4】特開2004−066613号公報
【特許文献5】特開2001−188128号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、前記特許文献1ないし4に記載の溶液製膜方法は、原料としてTACを用いており、CAPやCABをフィルム化する方法としては適当ではない。また、前記特許文献5に記載の溶液製膜方法も、TAC原料のときと略同一の条件で製膜を行っており、光学用途のCAPフィルムやCABフィルムを製造するために良い方法とはいえない。
【0008】
例えば、CAPやCABはTACと比較して溶媒への溶解性が良いため、流延膜のゲル強度が小さいという違いがあり、そのため、流延膜を剥ぎ取る際にTACの場合よりも剥ぎ取り不良が生じやすい問題が生じている。剥ぎ取り不良とは、支持体に流延膜の剥ぎ残りが生じたり、剥ぎ取るときの剥ぎ取り力が一定ではなく、剥ぎ取ったフィルムの表面状態(面状)が荒れたり、フィルムが裂けたりする等の現象をいう。また、CAPやCABは、その合成時において、アセチル化の反応性よりもプロピオニル化やブチリル化の反応性の方が劣るために、セルロースの水酸基(−OH)のうちエステル化されないものがTACよりも多いという違いもある。水酸基は、エステル化されたアシル基に比べ、流延ダイ表面との親和性が高いため、CAPやCABは流延ダイとの密着性が高く、ドープの一部が異物になって流延ビード中に発生することがある。流延ビード中に異物が発生すると、流延ビードにはその異物を始点としたスジが生じる問題がある。また、異物は、微小であってもこれが核として成長していき、いわゆるカワバリとなる。カワバリが一定の大きさになると流延ビードから流延膜上に落ち、フィルムに欠陥を生じさせることがある。
【0009】
本発明は、TACよりも耐湿熱性に優れ、かつ配向させやすいフィルムを、流延工程で品質欠陥が生じないように製造することができる溶液製膜方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者が鋭意検討した結果、ドープを流延する際に、ドープ(流延ビード)の乾燥速度、ドープの吐出速度、流延ダイのリップにおけるドープの剥離力と流延ビードの伸張力との調整を行うことでカワバリの発生を防ぐと共に、CAPやCAB(セルロースアセテートブチレート)を原料とした際に、安定して流延を行えることを見出した。
【0011】
本発明の溶液製膜方法は、セルロースアシレートを含む固体成分と溶媒とからなるドープを流延ダイから吐出して支持体上に流延膜を形成し、前記支持体から前記流延膜を剥ぎ取りフィルムとする溶液製膜方法において、前記流延ダイから吐出された直後の前記ドープの乾燥速度を、前記固体成分1kgあたり4kg/min以下とし、前記セルロースアシレートが下記式(I)及び(II)を満たすことを特徴として構成されている。但し、式(I)及び(II)において、Aはセルロースの水酸基の水素原子に対するアセチル基の置換度を表し、Bはセルロースの水酸基の水素原子に対するプロピオニル基,ブチリル基,ペンタノイル基,ヘキサノイル基の置換度の総和を表す。
(I) 2.5≦A+B≦3.0
(II) 1.25≦B≦3.0
【0012】
前記流延ダイから前記ドープを吐出する吐出速度を3m/min以上とすることが好ましい。流延ダイからドープが吐出される方向と、支持体の流延膜が形成される面における法線のうち流延ダイの吐出口の中心を通る直線とがなす角θを0度以上60度以下とし、前記直線上における支持体と流延ダイとの距離を0.5mm以上5mm以下とすることが好ましい。ドープと流延ダイのリップ先端部との剥離抵抗が40g/cm以下であり、且つ流延時における前記ドープの剪断粘度η(Pa・s)と流延ダイから支持体に至るまでのドープの伸張速度ε(1/sec)との関係が150Pa<3・η・ε<15000Paを満たすことが好ましい。剪断速度100(1/sec)以上6500(1/sec)以下における前記ドープの貯蔵弾性率を10Pa以上400Paとすることが好ましい。
【0013】
流延ダイから吐出された直後のドープの表面における前記固形成分の濃度を16重量%以上25重量%以下とすることが好ましい。
【0014】
本発明には、共流延または逐次共流延により前記流延を行う溶液製膜方法が含まれる。
【発明の効果】
【0015】
本発明の溶液製膜方法によれば、セルロースアシレートを含む固体成分と溶媒とからなるドープを流延ダイから吐出して支持体上に流延膜を形成し、前記支持体から前記流延膜を剥ぎ取りフィルムとする溶液製膜方法において、吐出直後のドープの乾燥速度を4(kg・solv)/(kg・solid)・min以下、つまり、吐出直後のドープの乾燥速度を前記固体成分1kgあたり4kg/min以下とし、前記セルロースアシレートが前記式(I),(II)を満たすから、流延故障が抑制されたセルロースアシレートフィルムを得ることができる。これにより、得られるセルロースアシレートフィルムは、厚みムラがなく、平面性に優れた光学フィルムとして好ましく用いることができる。
【0016】
本発明の溶液製膜方法は、
(1)前記流延ダイから前記ドープを吐出する速度、つまり吐出速度を3m/min以上とする、
(2)流延ダイからドープが吐出される方向と、支持体の流延膜が形成される面における法線のうち流延ダイの吐出口の中心を通る直線とがなす角θを0度以上60度以下とする、
(3)前記直線上における前記支持体と前記流延ダイとの距離を0.5mm以上5mm以下とする、
(4)前記ドープと前記流延ダイのリップ先端部との剥離抵抗が40g/cm以下である、
(5)流延時における前記ドープの剪断粘度η(Pa・s)と前記流延ダイから前記支持体に至るまでの前記ドープの伸張速度ε(1/sec)との関係が150Pa<3・η・ε<15000Paの条件を満たす、
(6)剪断速度100(1/sec)以上6500(1/sec)以下における前記ドープの貯蔵弾性率を10Pa以上400Paとする、
ことにより、上記効果をより向上させることができるので、特別な装置を必要とせずに、つまり生産コストの上げることなく上記効果を向上させることができる。本発明により製造されるフィルムは、偏光板保護フィルム、光学機能性フィルムとして使用することができる。前記偏光板保護フィルムで偏光膜の少なくとも片面を覆うことにより偏光板を得ることができる。また、このような偏光板や前記光学機能性フィルムを用いて光学特性に優れる液晶表示装置をつくることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下に、本発明の実施態様について詳細に説明する。ただし、本発明はここに挙げる実施態様に限定されるものではない。
【0018】
[原料]
本発明に用いられるポリマーはセルロースアシレートである。さらにそのなかで下記式(I)及び(II)を満足するセルロースアシレートを用いる。
(I) 2.5≦A+B≦3.0
(II)1.25≦B≦3.0
但し、式中A及びBは、セルロースの水酸基に置換されているアシル基(−CO−R)の置換度を表わし、Aはアセチル基(−CO−CH3 )の置換度を表わしている。またBはセルロースの水酸基の水素原子に対するプロピオニル基(−CO−C2 5 ),ブチリル基(−CO−C3 7 ),ペンタノイル基(−CO−C4 9 ),ヘキサノイル基(−CO−C5 11)の置換度の総和である。なお、Bがプロピオニル基のものをCAP(セルロースアセテートプロピオネート)と称し、Bがブチリル基のものをCAB(セルロースアセテートブチレート)と称する。好ましくは2.6≦A+B≦3.0且つ1.3≦B≦2.97であり、さらに好ましくは2.67≦A+B≦2.97且つ1.4≦B≦2.97である。
【0019】
CAP,CABの90質量%以上が粒径0.1mm〜4mmの粒子であることが好ましい。
【0020】
ドープを調製する溶媒としては、芳香族炭化水素(例えば、ベンゼン,トルエンなど)、ハロゲン化炭化水素(例えば、ジクロロメタン,クロロベンゼンなど)、アルコール(例えば、メタノール,エタノール,n−プロパノール,n−ブタノール,ジエチレングリコールなど)、ケトン(例えば、アセトン,メチルエチルケトンなど)、エステル(例えば、酢酸メチル,酢酸エチル,酢酸プロピルなど)及びエーテル(例えば、テトラヒドロフラン,メチルセロソルブなど)などが挙げられる。なお、本発明において、ドープとはポリマーを溶媒に溶解または分散して得られるポリマー溶液,分散液を意味している。
【0021】
これらの中でも炭素原子数1〜7のハロゲン化炭化水素が好ましく用いられ、ジクロロメタンが最も好ましく用いられる。セルロースアシレートの溶解性、流延膜の支持体からの剥ぎ取り性、フィルムの機械的強度など及びフィルムの光学特性などの物性の観点から、ジクロロメタンの他に炭素原子数1〜5のアルコールを1種ないし数種類混合することが好ましい。アルコールの含有量は、溶媒全体に対し2質量%〜25質量%が好ましく、5質量%〜20質量%がより好ましい。アルコールの具体例としては、メタノール,エタノール,n−プロパノール,イソプロパノール,n−ブタノールなどが挙げられるが、メタノール,エタノール,n−ブタノールあるいはこれらの混合物が好ましく用いられる。
【0022】
ところで、最近、環境に対する影響を最小限に抑えることを目的に、ジクロロメタンを使用しない場合の溶媒組成についても検討が進み、この目的に対しては、炭素原子数が4〜12のエーテル、炭素原子数が3〜12のケトン、炭素原子数が3〜12のエステル、炭素数1〜12のアルコールが好ましく用いられる。これらを適宜混合して用いることがある。例えば、酢酸メチル,アセトン,エタノール,n−ブタノールの混合溶媒が挙げられる。これらのエーテル、ケトン,エステル及びアルコールは、環状構造を有するものであってもよい。また、エーテル、ケトン,エステル及びアルコールの官能基(すなわち、−O−,−CO−,−COO−及び−OH)のいずれかを2つ以上有する化合物も、溶媒として用いることができる。
【0023】
なお、セルロースアシレートの詳細については、特開2005−104148号公報の[0140]段落から[0195]段落に記載されている。これらの記載は本発明に適用することができる。また、溶媒及び可塑剤,劣化防止剤,紫外線吸収剤(UV剤),光学異方性コントロール剤,レターデーション制御剤,染料,マット剤,剥離剤,剥離促進剤などの添加剤についても、同じく特開2005−104148号公報の[0196]段落から[0516]段落に詳細に記載されており、本発明に適用することができる。
【0024】
[ドープ製造方法]
上記原料を用いて、まずドープを製造する。図1にドープ製造ライン10を示す。ドープ原料にCAPを用いる例で説明する。ドープ製造ライン10には、溶媒を貯留するための溶媒タンク11と、溶媒とCAPなどとを混合するための溶解タンク12と、CAPを供給するためのホッパ13と、添加剤を貯留するための添加剤タンク14と、後述する膨潤液を加熱するための加熱装置15と、調製されたドープの温度を調整する温調機16と、濾過装置17とを備える。ドープ製造ライン10には、さらに、調製されたドープを濃縮するフラッシュ装置30と、濾過装置31、溶媒を回収するための回収装置32と、回収された溶媒を再生するための再生装置33とが備えられる。そして、このドープ製造ライン10は、ストックタンク41を介してフィルム製造ライン40と接続されている。
【0025】
上記ドープ製造ライン10を用いて以下の方法でドープが製造される。まず始めに、バルブ18を開き、溶媒が溶媒タンク11から溶解タンク12に送られる。次にホッパ13に入れられているCAPが、計量されながら溶解タンク12に送り込まれる。また、添加剤溶液は、バルブ19の開閉操作により必要量が添加剤タンク14から溶解タンク12に送り込まれる。
【0026】
添加剤の溶解タンク12への送り方法としては、常温で固体の場合には溶液として送り込む方法、常温で液体の場合にはその液体状態のままで送り込む方法等がある。添加剤が固体の場合には、ホッパなどを用いて固体のまま溶解タンク12に送り込む方法もある。添加剤を複数種類添加する場合には、複数種類の添加剤を溶解させた溶液を添加剤タンク14の中に入れておいてもよい。複数の添加剤タンクを用いてそれぞれに添加剤が溶解している溶液を入れて、各添加剤タンクからそれぞれ独立した配管により添加剤溶液を溶解タンク12に送り込むこともできる。
【0027】
前述した説明においては、溶解タンク12に入れる順番が、溶媒、CAP、添加剤であったが、この順番に限定されるものではない。例えば、CAPを計量しながら溶解タンク12に送り込んだ後に、所定量の溶媒を送液することもできる。なお、溶媒は、複数の化合物の混合物であってもよい。また、添加剤は必ずしも溶解タンク12に予め入れる必要はなく、後の工程でCAPと溶媒との混合物に混合させることもできる。
【0028】
溶解タンク12には、図1に示すようにその外面を覆うジャケット20と、モータ21により回転する第1攪拌機22とが備えられる。さらに、溶解タンク12には、モータ23により回転する第2攪拌機24が取り付けられることが好ましい。なお、第1攪拌機22は、アンカー翼を備えたものであることが好ましく、第2攪拌機24は、ディゾルバータイプの偏芯型撹拌機であることが好ましい。ただし、第1攪拌機22,第2攪拌機24のタイプはこれに限定されない。そして、溶解タンク12は、ジャケット20の内側に流される伝熱媒体により温度調整され、−10℃〜55℃の範囲で一定の温度とされることが好ましい。以上の条件により、CAPが溶媒中で膨潤した膨潤液25を得る。
【0029】
次に、膨潤液25は、ポンプ26により加熱装置15に送られる。加熱装置15は、ジャケット付き配管であることが好ましく、さらに、膨潤液25を加圧する加圧機構を有するものが好ましい。このような加熱装置15を用いることにより、加熱条件下または加圧加熱条件下で膨潤液25中の固形分を溶解させたドープ27を得る。以下、この方法を加熱溶解法と称する。加熱溶解法においては、膨潤液25の温度を50℃〜120℃の範囲で略一定となるように加熱することが好ましい。
【0030】
上記加熱溶解法に代えて、冷却溶解法を適用することもできる。この冷却溶解法では、膨潤液25を−100℃〜−30℃の範囲で一定となるように冷却することが好ましい。上記の加熱溶解法及び冷却溶解法を適宜選択して行うことにより、CAPを溶媒に充分溶解させることが可能となる。ドープ27を温調機16により略室温とした後に、濾過装置17により濾過してドープ27中に含まれる不純物を取り除く。濾過装置17に使用される濾過フィルタは、その平均孔径が100μm以下であるものが好ましい。また、濾過流量は、50L/hr以上であることが好ましい。濾過後のドープ27は、バルブ28を介してフィルム製造ライン40中のストックタンク41に送られここに貯留される。
【0031】
ところで、上記のように、一旦膨潤液25を調製し、その後にこの膨潤液25をドープ27とする方法は、CAPの濃度を上昇させるほど要する時間が長くなり、製造の効率及び製造コストの点で問題となる場合がある。その場合には、目的とする濃度よりも低濃度のドープを一旦調製してから、目的の濃度となるようにこのドープを濃縮する濃縮工程を実施することが好ましい。本実施形態の濃縮工程では、濾過装置17で濾過されたドープを、バルブ28を介してフラッシュ装置30に送り、このフラッシュ装置30内でドープ中の溶媒の一部を蒸発させる。蒸発により発生した溶媒ガスは、凝縮器(図示しない)により凝縮されて液体となり回収装置32により回収される。回収された溶媒は再生装置33によりドープ調製用の溶媒として再生されて再利用される。この再利用はコストの点で効果がある。
【0032】
また、濃縮されたドープ27は、ポンプ34によりフラッシュ装置30から抜き出される。さらに、ドープ27に発生した気泡を抜くために泡抜き処理が行われることが好ましい。この泡抜き方法としては、公知の種々の方法が適用され、例えば超音波照射法が挙げられる。ドープ27は続いて濾過装置31に送られて、異物が除去される。なお、濾過の際のドープ27の温度は、0℃〜200℃の範囲で一定であることが好ましい。そしてドープ27はストックタンク41に送られ、貯蔵される。
【0033】
以上の方法により、CAP濃度が5質量%〜40質量%であるドープ27を製造することができる。より好ましくはCAP濃度が15質量%以上30質量%以下であり、最も好ましくは17質量%以上25質量%以下の範囲である。また、添加剤(主には可塑剤である)の濃度は、ドープ中の固形分全体の質量を100とした場合に1以上20以下の範囲であることが好ましい。なお、CAPフィルムを得る溶液製膜法における素材、原料、添加剤の溶解方法及び添加方法、濾過方法、脱泡などのドープの製造方法については、特開2005−104148号公報の[0517]段落から[0616]段落が詳しい。これらの記載も本発明に適用できる。
【0034】
[溶液製膜方法]
次に、ドープ27を用いてフィルムを製造する方法を説明する。図2はフィルム製造ライン40を示す概略図である。また、図3は図2の流延ダイ近傍の拡大図である。ただし、本発明は、図2及び図3に示すようなフィルム製造ラインに限定されるものではない。フィルム製造ライン40には、ストックタンク41、濾過装置42、流延ダイ43、回転ローラ44,45に掛け渡された流延バンド46及びテンタ式乾燥機47などが備えられている。さらに耳切装置50、乾燥室51、冷却室52及び巻取室53などが配されている。
【0035】
ストックタンク41には、モータ60で回転する攪拌機61が取り付けられている。そして、ストックタンク41は、ポンプ62及び濾過装置42を介して流延ダイ43と接続している。
【0036】
流延ダイ43の材質としては、析出硬化型のステンレス鋼が好ましく、その熱膨張率が2×10-5(℃-1)以下であることが好ましい。そして、電解質水溶液での強制腐食試験でSUS316と略同等の耐腐食性を有するものも、この流延ダイ43の材質として用いることができる。また、この流延ダイ43の材質としては、ジクロロメタン、メタノール、水の混合液に3ヵ月浸漬しても気液界面にピッティング(孔開き)が生じない耐腐食性を有するものが好ましい。流延ダイ43は、鋳造後1ヶ月以上経過したものを研削加工して作製されることが好ましい。これにより、流延ダイ43内をドープ27が一様に流れ、流延膜にスジなどが生じることが防止される。流延ダイ43の接液面、つまり流延ダイ43のドープ27に接する部分の表面仕上げの精度は、表面粗さで1μm以下、真直度はいずれの方向にも1μm/m以下であることが好ましい。流延ダイ43のスリットのクリアランスは、自動調整により0.5mm〜3.5mmの範囲で調整可能とされる。また、流延ダイ43内部における剪断速度は1(1/sec)〜5000(1/sec)とされることが好ましい。
【0037】
流延ダイ43の先端部、つまりリップ先端は、ビッカース硬さHvが400以上であることが好ましく、より好ましくは600以上であり、最も好ましくは1100以上である。Hvが400未満であるとリップに傷つきやすく、好ましくない場合がある。また、流延ダイ43の先端部の表面張力は大きいほど好ましい。流延ダイの表面張力が大きいほど溶媒による濡れ性がよくなり、カワバリが発生しにくくなるからである。具体的には、この表面張力は、380μN/cm以上であることが好ましく、より好ましくは390μN/cm以上であり、最も好ましくは400μN/cm以上である。表面張力が380μN/cm未満であると、ドープ接液界面でカワバリを形成しやすくなるおそれがある。
【0038】
流延ダイ43のリップ先端の接液部の角部分について、その面取り半径Rは全巾にわたり5μm以上50μm以下とされることが好ましい。これにより流延ビードを好ましく形成して、その形状を維持することができる。面取り半径を5μm未満とすると流延ビードにスジなどの欠陥が生じやすくなる。また、面取り半径が50μmを超えると、流延ダイ43のリップクリアランスを略均一とすることが困難となる場合があり、流延膜に厚みムラが生じるおそれがある。流延ダイ43の先端部の中心線平均粗さは、0.013μm以上1.6μm以下とすることが好ましい。中心線平均粗さが0.013μm未満であると、超精密加工が必要となりコスト高の原因となる。また、中心線平均粗さが1.6μmを超えると、流延ビードにスジ、ムラなどの欠陥が生じるおそれがある。
【0039】
流延ダイ43の幅は、特に限定されるものではないが、最終製品となるフィルムの幅の1.01倍〜1.3倍であることが好ましい。また、製膜中におけるドープの温度が所定温度に保持されるように、この流延ダイ43に温調機を取り付けることが好ましい。また、流延ダイ43はコートハンガー型のものが好ましい。流延ダイ43には、その幅方向に複数の厚み調整ボルト(ヒートボルト)が所定間隔で設けられるとともに、このヒートボルトを使用する自動厚み調整機構が備えられることが好ましい。特に、予め設定されるプログラムによりポンプ(高精度ギヤポンプが好ましい)56の送液量に応じて、ヒートボルトのプロファイルを設定することが好ましい。また、フィルム製造ライン50中に図示しない厚み計(例えば、赤外線厚み計)を設け、この厚み計によるプロファイルに基づく調整プログラムによってフィードバック制御を行っても良い。製品フィルムの流延エッジ部を除く幅方向の任意の2点の厚み差は1μm以内とされ、幅方向厚みの最小値と最大値との差が3μm以下とされることが好ましく、2μm以下にされることがより好ましい。また、厚み精度は±1.5μm以下とされることが好ましい。
【0040】
流延ダイ43のリップ先端には、硬化膜が形成されていることがより好ましい。硬化膜の形成方法は、特に限定されるものではないが、セラミックスコーティング、ハードクロムメッキ、窒化処理方法などが例示される。硬化膜の素材としてセラミックスを用いる場合には、研削することができ、気孔率が低く、脆くなく、耐腐食性に優れ、かつ流延ダイ43との密着性に優れ、ドープと密着性しないものが好ましい。具体的には、タングステン・カーバイド(WC),Al2 3 ,TiN,Cr2 3 などが挙げられるが、なかでも特に好ましくはWCである。WCコーティングは、溶射法で行うことができる。
【0041】
流延ダイ43から流出したドープがスリット端で局所的に乾燥固化することを防止するために、溶媒供給装置(図示しない)をスリット端に取り付けることが好ましい。溶媒供給装置は、ドープを溶かすことができる溶媒を流延ダイの所定の位置に所定の流量で供給するものである。この場合の溶媒としては、例えば、ジクロロメタン86.5質量部,アセトン13質量部,n−ブタノール0.5質量部の混合物が例示される。溶媒の供給位置は、流延ビードの両端部、ダイスリット端部及び外気が形成する三相接触線の周辺部付近が好ましい。溶媒を供給するときの流量は、端部の片側それぞれに対し、0.1mL/min〜1.0mL/minとすることが好ましい。このように溶媒供給装置を用いることにより、流延膜中への異物混入を防止することができる。なお、溶媒を供給するポンプとしては、脈動率が5%以下のものが好ましい。
【0042】
流延ダイ43の下方には、回転ローラ44,45に掛け渡された流延バンド46が設けられている。回転ローラ44,45は図示しない駆動装置により回転し、この回転に伴い流延バンド46は無端で走行する。流延バンド46の移動速度、すなわち流延速度を10m/分〜200m/分の範囲内で設定することが好ましい。また、流延バンド46の表面温度を所定の値にするために、回転ローラ44,45に伝熱媒体循環装置63が取り付けられていることが好ましい。流延バンド46は、その表面温度が−20℃〜40℃の範囲で一定に調整可能なものであることが好ましい。回転ローラ44,45内には伝熱媒体流路(図示しない)が形成されており、その中を所定の温度に保持されている伝熱媒体が通過することにより、回転ローラ44,45の温度を所定の値に保持されるものとなっている。
【0043】
流延バンド46の幅は特に限定されないが、ドープ27の流延幅の1.05倍〜1.5倍の範囲であることが好ましい。また、長さは60m〜120m、厚みは1mm〜2mmであり、表面粗さは0.05μm以下となるように研磨されていることが好ましい。流延バンド46は、ステンレス製であることが好ましく、十分な耐腐食性と強度とを有するようにSUS316製であることがより好ましい。また、流延バンド46の全体の厚みムラは0.5%以下であることが好ましい。
【0044】
流延ダイ43と支持体である流延バンド46との位置関係について説明する。吐出口43aからドープが吐出される方向を直線L1で表わす。また、図3のように流延ダイ43と流延バンド46とを側面から見た図において、流延バンド46の露出面における法線のうち吐出口43aを通る直線をL2とする。図3に示す吐出口43aと流延バンド46との距離L(mm)は、0.5mm以上5mm以下とすることが好ましく、より好ましくは1mm以上4mm以下であり、最も好ましくは1mm以上3mm以下である。なお、この場合の距離L(mm)とは、前記直線L2上で測定される距離である。距離L(mm)が0.5mm未満であると、回転ローラ45の回転に伴う流延バンド46の上下方向における位置変動により、リップ先端と流延バンド46とが接触するおそれがある。また、距離L(mm)が5mmを超えると、流延ビード69aの形成が不安定になるおそれがある。
【0045】
直線L1と直線L2とのなす角を以下の説明において流延ダイの角度θと称する。なお、流延ダイの角度θは、直線L1と直線L2とが交差する吐出口43aの中心部を回転中心として直線L1が直線L2の反時計回りに90度まで回転した位置の場合をプラスの値、時計回りに90未満回転した位置の場合をマイナスの値として示す。流延ダイの角度θ(度)は、0度以上60度以下であることが好ましく、より好ましくは5度以上60度以下であり、最も好ましくは10度以上60度以下である。流延ダイの角度θが0度とは直線L1が直線L2に重なることを意味する。流延ダイの角度θが0度未満であると、ドープ27の吐出の向きが流延バンド46の走行の向きに逆らうように、吐出口43aが向けられていることとなるので、下流側のリップ先端43bにドープ27が多量に付着して流延ビード69aの形成が困難となる。また、流延ダイの角度θが60度を越えると、流延ダイ43が流延バンド46に対して傾きすぎてしまうので、上流側のリップ先端43cにドープが多量に付着して流延が困難となるおそれがある。
【0046】
なお、流延バンド46に代えてドラム(図示なし)を支持体として用いることも可能である。この場合には、回転ムラが0.2mm以下となるように高精度で回転できるものであることが好ましい。この場合には、ドラムの表面の平均粗さを0.01μm以下とすることが好ましい。そこで、ドラムの表面にクロムメッキ処理などを行い、十分な硬度と耐久性とを持たせる。なお、支持体(流延バンド46やこれを支持する回転ローラ44,45、ドラム)の表面欠陥は最小限に抑制する必要がある。具体的には、30μm以上のピンホールが無く、10μm以上30μm未満のピンホールは1個/m2 以下であり、10μm未満のピンホールは2個/m2 以下であることが好ましい。
【0047】
流延ダイ43、流延バンド46などは流延室64に収められている。流延室64には、その内部温度を所定の値に保つための温調設備65と、揮発した有機溶媒を凝縮回収するための凝縮器(コンデンサ)66とが設けられる。そして、凝縮液化した有機溶媒を回収するための回収装置67が流延室64の外部に設けられる。また、流延ダイ43から流延バンド46にかけて形成される流延ビードの背面部、つまり流延バンドの走行方向における流延ビードの上流側エリアを圧力制御するための減圧チャンバ68が配されていることが好ましく、本実施形態においてもこれを使用している。
【0048】
流延膜69中の溶媒を蒸発させるため送風ダクト70,71,72が流延バンド46の周面近くに設けられる。それらの送風ダクトのうち最上流の送風ダクト70の送風口(図示なし)近傍には遮風板73が備えられることが好ましい。これは、流延直後の流延膜69に対する乾燥風の吹き付けによる流延膜69の面状悪化を抑制するためである。
【0049】
渡り部80には、送風機81が備えられ、テンタ式乾燥機47の下流の耳切装置50には、切り取られたフィルム82の側端部(耳と称される)の屑を細かく切断処理するためのクラッシャ90が接続されている。
【0050】
乾燥室51には、多数のローラ91が備えられており、蒸発して発生した溶媒ガスを吸着回収するための吸着回収装置92が取り付けられてある。そして、図2においては、乾燥室51の下流に冷却室52が設けられているが、乾燥室51と冷却室52との間に調湿室(図示しない)を設けても良い。冷却室52の下流には、フィルム82の帯電圧を所定の範囲(例えば、−3kV〜+3kV)とするための強制除電装置(除電バー)93が設けられている。図2においては、強制除電装置93を冷却室52の下流側に設置した例を図示しているが、この設置位置に限定されるものではない。さらに、本実施形態においては、フィルム82の両縁にエンボス加工でナーリングを付与するためのナーリング付与ローラ94が強制除電装置93の下流に適宜設けられる。また、巻取室53の内部には、フィルム82を巻き取るための巻取ローラ95と、その巻き取り時のテンションを制御するためのプレスローラ96とが備えられている。
【0051】
次に、以上のようなフィルム製造ライン40を使用してフィルム82を製造する方法の一例を説明する。ドープ27は、攪拌機61の回転により常に均一化されている。ドープ27には、この攪拌の際にも可塑剤,紫外線吸収剤などの添加剤を混合させることができる。ドープ27を貯蔵する際には、剪断速度100〜6500(1/sec)におけるドープ27の貯蔵弾性率が10Pa以上400Pa以下であることが好ましく、より好ましくは30Pa以上400Pa以下であり、最も好ましくは50Pa以上400Pa以下である。この場合に、ドープ温度は20℃〜50℃の範囲とすることが好ましい。貯蔵弾性率が、10Pa未満であるとビード引取力が不足するおそれがある。また、貯蔵弾性率が400Paを超えると、流延ビードの厚みムラの発生や面状の悪化が生じるおそれがある。
【0052】
ドープ27は、ポンプ62により濾過装置42に送られてここで濾過された後に、流延ダイ43から流延バンド46上に流延される。回転ローラ44,45の駆動は、流延バンド46に生じるテンションが104 N/m〜105 N/mとなるように調整されることが好ましい。また、流延バンド46と回転ローラ44,45との相対速度差は、0.01m/min以下に調整される。流延バンド46の速度変動を0.5%以下とし、流延バンド46が一回転する際に生じる幅方向の位置ずれの量、つまり蛇行幅は1.5mm以内に抑えられることが好ましい。この蛇行幅を制御するために、流延バンド46の両端の位置を検出する検出器(図示しない)を設け、その測定値に基づいて、流延バンド46の位置制御機(図示しない)にフィードバック制御を行い、流延バンド46の位置を調整することがより好ましい。さらに、流延ダイ43直下における流延バンド46は、回転ローラ55の回転に伴って上下方向に位置が変動することがあるが、この変動量を200μm以下に抑制することが好ましい。また、流延室64の温度は、温調設備65により−10℃〜57℃とされていることが好ましい。なお、流延室64の内部で蒸発した溶媒は回収装置67により回収された後に、再生させてドープ調製用溶媒として再利用される。
【0053】
流延ダイ43から流延バンド46にかけては流延ビード69aが形成され、流延バンド46上には流延膜69が形成される。流延時のドープ27の温度は、−10℃〜57℃の範囲で一定であることが好ましい。また、流延ビード69aを安定させるために、ビード背面側のエリアは、減圧チャンバ68を用いて、前面側のエリアよりも−2000Pa〜−10Paの範囲に減圧されることが好ましい。さらに、減圧チャンバ68にはジャケット(図示しない)を取り付けて、内部温度が所定の温度を保つように温度制御されることが好ましい。減圧チャンバ68の温度は特に限定されるものではないが、ドープに使用される有機溶媒の凝縮点以上にすることが好ましい。また、流延ビード69aの形状を所望の形状に保つために流延ダイ43のエッジ部に吸引装置(図示しない)を取り付けて、1L/min〜100L/minの範囲の風量でエッジを吸引することが好ましい。
【0054】
流延ダイ43からのドープ27の吐出速度を3m/min以上とすることが好ましく、より好ましくは5m/min以上である。吐出速度を3m/min以上とすることで流延ダイの吐出口でのドープ27の滞留が抑制される。また、吐出速度の下限は特に限定されるものではないが、3m/min未満であると生産性が低下するために好ましくない。なお、ドープ27の吐出速度は、ドープ流量を吐出口43aの面積で除することにより求めることができる。また、ドープ27の吐出速度は、吐出口43aのクリアランスを調整すること、ドープ流量を増減することにより等の方法により制御することができる。
【0055】
ドープ27と流延ダイ43のリップ先端部との剥離抵抗が40g/cm以下であることが好ましく、より好ましくは20g/cm以下であり、最も好ましくは5g/cm以下である。剥離抵抗が40g/cmを超えると、ドープ27が流延ダイ43に付着しやすくなり、カワバリの発生の原因となる。ドープ27と流延ダイ43のリップ先端部との剥離抵抗とは、流延ダイ43でドープを乾かしてこれを剥離するために要する力であり、剥離荷重ともいわれるものである。その測定は、ロードセルにより、具体的には次の方法により測定することができる。流延ダイ43と同じ材質及び同じ表面粗さの金属板上にドープ27を滴下し、ドクターブレードを用いて均等な厚さに展延し乾燥する。カッターナイフで乾燥したドープ27に均等幅の切れ込みを入れ、切れ片の端部を手で剥がしてストレンゲージにつながったクリップで挟み、ストレンゲージを斜め45度方向に引き上げながら、荷重変化を測定する。なお、剥離抵抗の調整は、主として流延ダイリップ先端部の表面材質とドープの組成との関係を基にこれらを適宜決定することにより行われる。
【0056】
また、流延時、つまり、流延ダイから吐出される時のドープ27の剪断粘度η(Pa・s)と、流延ビード69aの伸張速度ε(1/sec)とが150Pa<3・η・ε<15000Paの条件を満たすことが好ましく、より好ましくは500Pa<3・η・ε<10000Paである。(3・η・ε)の値が150Pa未満であるとドープがダイリップ先端に滞留するおそれがある。また、(3・η・ε)の値が15000Paを超えると流延膜69の平面性が悪化するおそれがある。
【0057】
流延ビード69aの伸張速度εは、本明細書中では、吐出口43aの中央部における数値としている。特開2001−71338号公報の[0020]に記載される式を用いて求めることができる。なお、本明細書の伸張速度εとは同公報における伸張ひずみ速度である。具体的には以下である。吐出口43aの中央部における流延ビード69aの剪断粘度η、伸張応力をτ、吐出速度をv1、接触開始点速度をv2、先端リップのクリアランスをCL、フィルム82の厚みをt、流延ビード69aの長さをLとする。なお、接触開始点速度とは、流延ビード69aが流延バンド46に接触し始めた位置における流延ビード69の流れ速度であり、流延バンド46の速度や流延速度に代えてもよい。すると、伸張速度εは以下の式を用いて求められる。したがって、伸張速度εは、剪断粘度η、吐出速度v1、接触開始点速度v2、先端リップのクリアランスCL、フィルム82の厚みt、流延ビード69aの長さLを制御することにより調整することができる。
τ=ε*η
=(v2−v1)/L*η
=(v2−t/CL*v2)L*η
【0058】
流延膜69は、流延バンド46の走行により移動し、このときに送風ダクト70,71,72により乾燥風があてられて溶媒の蒸発が促進される。この乾燥風の吹き付けにより流延膜69の面状が変動することがあるので、遮風板73の使用によりこの変動を抑制する。なお、流延バンド46の表面温度は、−20℃〜40℃であることが好ましい。
【0059】
流延ビード69aから急激に溶媒が蒸発して、流延ビード69aの厚みムラなどの欠陥やカワバリの発生を抑制するために、流延ビードの乾燥速度を4(kg・solv)/(kg・solid)・min以下とすることが好ましく、3.5(kg・solv)/(kg・solid)・min以下とすることがより好ましく、3.0(kg・solv)/(kg・solid)・min以下とすることが最も好ましい。上記乾燥速度の値は、流延ビード69aの固形成分1kgに対して、1分間に蒸発する溶媒の質量(kg)を示す。乾燥速度の調整は、流延ダイの温度,ドープの処方(例えば、添加剤を含有させる)、流延室内の雰囲気温度、送風ダクト70,71,72からの乾燥風の温度,湿度及び風速などを調整することで容易に行うことができる。
【0060】
流延ダイ43から出た直後の流延ビード69aの表面における固形分濃度は16重量%以上25重量%以下であることが好ましい。この固形分濃度が16重量%よりも小さいと、流延ビード69aの粘度が低すぎて伸張応力が不足するために、流延ビード69aがリップ先端部43b,43cに付着したときに剥がれにくくなるという問題が生じる場合があり、一方25重量%よりも大きいと吐出口43aで形成されるシャークスキン面の状態が悪化するという問題が生じる場合がある。シャークスキン面とは、流延ビード69aの鮫肌状になった表面である。なお、流延ダイ43から出た直後の流延ビード69aの表面における固形分濃度は、製造ラインにおいてオンラインで実測することが困難であるので、流延ダイ43に送り込むドープ27の固形分濃度をこの値としてもよい。
【0061】
具体的には、ポリマーとしてCABを用い、ドープにおけるポリマー濃度を19重量%〜28重量%とする場合には、流延ダイの温度を10℃〜40℃とし、溶媒をジクロロメタンとし、添加剤であるTPP/BDPを固形分基準で3重量%、N,N’−ジメタトリル−N’’−p−メトキシフェニル−1,3,5−トリアジン−2,4,6−トリアミンを4重量%添加したドープを用いる。また、流延室内の雰囲気温度は、15℃〜45℃に保持し、送風ダクト70からの乾燥風は、15℃〜45℃,風速2m/s〜15m/sとする。また、送風ダクト72からの乾燥風は、15℃〜45℃,風速1m/s〜5m/sとする。
【0062】
流延膜69は、自己支持性を有するものとなった後に、湿潤フィルム74として剥取ローラ75で支持されながら流延バンド46から剥ぎ取られる。剥ぎ取り時の残留溶媒量は、固形分基準で20質量%〜250質量%であることが好ましい。その後に多数のローラが設けられている渡り部80を搬送させて、テンタ式乾燥機47に湿潤フィルム74を送り込む。渡り部80では、送風機81から所望の温度の乾燥風を送風することで湿潤フィルム74の乾燥を進行させる。このとき乾燥風の温度が、20℃〜50℃であることが好ましい。なお、渡り部80では下流側のローラの回転速度を上流側のローラの回転速度より速くすることにより湿潤フィルム74にドローテンションを付与させることも可能である。
【0063】
テンタ式乾燥機47に送られている湿潤フィルム74は、その両端部がクリップで把持されて搬送されながら乾燥される。また、テンタ式乾燥機47の内部を温度ゾーンに区画分割して、その区画毎に乾燥条件を適宜調整することが好ましい。テンタ式乾燥機47を用いて湿潤フィルム74を幅方向に延伸させることも可能である。このように、渡り部80及び/またはテンタ式乾燥機47で湿潤フィルム74の流延方向と幅方向との少なくとも1方向を0.5%〜300%延伸することが好ましい。
【0064】
湿潤フィルム74は、テンタ式乾燥機47で所定の残留溶媒量まで乾燥された後、フィルム82として下流側に送り出される。フィルム82の両側端部は、耳切装置50によりその両縁が切断される。切断された側端部は、図示しないカッターブロワによりクラッシャ90に送られる。クラッシャ90により、フィルム側端部は粉砕されてチップとなる。このチップはドープ調製用に再利用されるので、この方法はコストの点において有効である。なお、このフィルム両側端部の切断工程については省略することもできるが、前記流延工程から前記フィルムを巻き取る工程までのいずれかで行うことが好ましい。
【0065】
両側端部を切断除去されたフィルム82は、乾燥室51に送られ、さらに乾燥される。乾燥室51内の温度は、特に限定されるものではないが、50℃〜160℃の範囲であることが好ましい。乾燥室51においては、フィルム82は、ローラ91に巻き掛けられながら搬送されており、ここで蒸発して発生した溶媒ガスは、吸着回収装置92により吸着回収される。溶媒成分が除去された空気は、乾燥室51の内部に乾燥風として再度送風される。なお、乾燥室51は、乾燥温度を変えるために複数の区画に分割されていることがより好ましい。また、耳切装置50と乾燥室51との間に予備乾燥室(図示しない)を設けてフィルム82を予備乾燥すると、乾燥室51においてフィルム温度が急激に上昇することが防止されるので、これによりフィルム82の形状変化をより抑制することができる。
【0066】
フィルム82は、冷却室52で略室温まで冷却される。なお、乾燥室51と冷却室52との間に調湿室(図示しない)を設けても良く、この調湿室でフィルム82に対して、所望の湿度及び温度に調整された空気を吹き付けられることが好ましい。これにより、フィルム82のカールの発生や巻き取る際の巻き取り不良の発生を抑制することができる。
【0067】
また、強制除電装置(除電バー)93により、フィルム82が搬送されている間の帯電圧が所定の範囲(例えば、−3kV〜+3kV)とされる。図2では冷却室52の下流側に設けられている例を図示しているがその位置に限定されるものではない。さらに、ナーリング付与ローラ94を設けて、フィルム82の両縁にエンボス加工でナーリングを付与することが好ましい。なお、ナーリングされた箇所の凹凸が、1μm〜200μmであることが好ましい。
【0068】
最後に、フィルム82を巻取室53内の巻取ローラ95で巻き取る。この際には、プレスローラ96で所望のテンションを付与しつつ巻き取ることが好ましい。なお、テンションは巻取開始時から終了時まで徐々に変化させることがより好ましい。巻き取られるフィルム82は、長手方向(流延方向)に少なくとも100m以上とすることが好ましい。また、フィルム82の幅が600mm以上であることが好ましく、1400mm以上1800mm以下であることがより好ましい。また、本発明は、1800mmより大きい場合にも効果がある。フィルム82の厚みが15μm以上100μm以下の薄いフィルムを製造する際にも本発明は適用される。
【0069】
本発明の溶液製膜方法において、ドープを流延する際に、2種類以上のドープを同時積層共流延又は逐次積層共流延させることもできる。さらに両共流延を組み合わせても良い。同時積層共流延を行う際には、フィードブロックを取り付けた流延ダイを用いても良いし、マルチマニホールド型流延ダイを用いても良い。共流延により多層からなるフィルムは、空気面側の層の厚さと支持体側の層の厚さとの少なくともいずれか一方が、フィルム全体の厚みの0.5%〜30%であることが好ましい。さらに、同時積層共流延を行う場合には、ダイスリットから支持体にドープを流延する際に、高粘度ドープが低粘度ドープにより包み込まれることが好ましい。また、同時積層共流延を行なう場合には、ダイスリットから支持体にかけて形成される流延ビードのうち、外界と接するドープが内部のドープよりもアルコールの組成比が大きいことが好ましい。
【0070】
流延ダイ、減圧チャンバ、支持体などの構造、共流延、剥離法、延伸、各工程の乾燥条件、ハンドリング方法、カール、平面性矯正後の巻取方法から、溶媒回収方法、フィルム回収方法まで、特開2005−104148号公報の[0617]段落から[0889]段落に詳しく記述されている。これらの記載も本発明に適用できる。
【0071】
[性能・測定法]
(カール度・厚み)
巻き取られたセルロースアシレートフィルムの性能及びそれらの測定法は、特開2005−104148号公報の[0112]段落から[0139]段落に記載されている。これらも本発明にも適用できる。
【0072】
[表面処理]
前記セルロースアシレートフィルムの少なくとも一方の面が表面処理されていることが好ましい。前記表面処理が真空グロー放電処理、大気圧プラズマ放電処理、紫外線照射処理、コロナ放電処理、火炎処理、酸処理またはアルカリ処理の少なくとも一種であることが好ましい。
【0073】
[機能層]
(帯電防止・硬化層・反射防止・易接着・防眩)
前記セルロースアシレートフィルムの少なくとも一方の面が下塗りされていても良い。
【0074】
さらに前記セルロースアシレートフィルムをベースフィルムとして、他の機能性層を付与した機能性材料として用いることが好ましい。前記機能性層が帯電防止層、硬化樹脂層、反射防止層、易接着層、防眩層及び光学補償層から選択される少なくとも1層を設けることが好ましい。
【0075】
前記機能性層が、少なくとも一種の界面活性剤を0.1mg/m2 〜1000mg/m2 含有することが好ましい。また、前記機能性層が、少なくとも一種の滑り剤を0.1mg/m2 〜1000mg/m2 含有することが好ましい。さらに、前記機能性層が、少なくとも一種のマット剤を0.1mg/m2 〜1000mg/m2 含有することが好ましい。さらには、前記機能性層が、少なくとも一種の帯電防止剤を1mg/m2 〜1000mg/m2 含有することが好ましい。セルロースアシレートフィルムに、種々様々な機能、特性を実現するための表面処理機能性層の付与方法は、上記以外にも、特開2005−104148号公報の[0890]段落から[1087]段落に詳細な条件、方法も含めて記載されている。これらも本発明に適用できる。
【0076】
(用途)
前記セルロースアシレートフィルムは、特に偏光板保護フィルムとして有用である。セルロースアシレートフィルムを偏光子に貼り合わせた偏光板を、液晶層に通常は2枚貼って液晶表示装置を作製する。ただし、液晶層と偏光板との配置は限定されるものではなく、公知の各種配置とすることができる。特開2005−104148号公報には、液晶表示装置として、TN型,STN型,VA型,OCB型,反射型、その他の例が詳しく記載されている。この方法は、本発明にも適用できる。また、同出願には光学的異方性層を付与した、セルロースアシレートフィルムや、反射防止、防眩機能を付与したセルロースアシレートフィルムについての記載もある。更には適度な光学性能を付与し二軸性セルロースアシレートフィルムとして光学補償フィルムとしての用途も記載されている。これは、偏光板保護フィルムと兼用して使用することもできる。これらの記載は、本発明にも適用できる。特開2005−104148号公報の[1088]段落から[1265]段落に詳細が記載されている。
【0077】
また、本発明の製造方法により光学特性に優れるCAPフィルム,CABフィルムを得ることができる。前記CAPフィルム,CABフィルムは、偏光板保護フィルムや写真感光材料のベースフィルムとして用いることができる。さらにテレビ用途等の液晶表示装置の視野角依存性を改良するための光学補償フィルムとしても使用可能である。特に偏光板の保護膜を兼ねる用途に効果的である。そのため、従来のTNモードだけでなくIPSモード、OCBモード、VAモードなどに用いられる。また、前記偏光板保護膜用フィルムを用いて偏光板を構成しても良い。
【実施例1】
【0078】
以下に実施例を挙げるが、本発明はこれらに限定されるものではない。実験1〜3は、本発明における実施様態であり、実験4〜7は、本発明に対する比較実験である。また、説明において、実験1で詳細に説明を行い、実験2〜7については、実験1と同じ条件の説明は省略する。
【0079】
[実験1]
次に、本発明の実施例を説明する。フィルム製造に使用したドープの成分の組成を下記に示す。
【0080】
[組成]
セルロースアセテートブチレート(CAB;アセチル置換度1.00、ブチリル置換度1.70、トータル置換度2.70、粘度平均重合度220、含水率0.2質量%、ジクロロメタン溶液中6質量%の粘度 190mPa・s、平均粒子径1.5mmであって標準偏差0.5mmである粉体) 100重量部
ジクロロメタン(第1溶媒) 293重量部
メタノール(第2溶媒) 53重量部
1−ブタノール(第3溶媒) 13重量部
N,N’−ジメタトリル−N’’−p−メトキシフェニル−1,3,5−トリアジン−2,4,6−トリアミン 4重量部
可塑剤A(トリフェニルフォスフェート) 2重量部
可塑剤B(ビフェニルジフェニルフォスフェート) 1重量部
剥離剤(クエン酸エチルエステル) 0.2重量部
【0081】
ここで、使用したCABは、残存酢酸量が0.1質量%以下、残留ブタン酸が0.1質量%以下であり、Ca含有量が80ppm、Mg含有量が22ppm、Fe含有量が0.5ppmであり、さらに硫酸基としてのイオウ量を105ppm含むものであった。また6位アセチル基の置換度は0.33、6位ブチリル基の置換度は0.57であり全アシル基に占める割合は33%であった。また、メタノール抽出分は5質量%以下、重量平均分子量/数平均分子量比は2.8であった。また、イエローインデックスは1.6であり、ヘイズは0.07、透明度は92.9%であり、Tg(ガラス転移温度;DSCにより測定)は128℃であった。このCABは綿から採取したセルロースを原料として合成されている。
【0082】
(1−1)ドープ仕込み
図1に示すドープ製造ライン10を用いてドープ27を調製した。攪拌羽根を有する4000Lのステンレス製溶解タンク12で前記複数の溶媒を混合してよく攪拌し、混合溶媒とした。なお、溶媒の各原料としては、すべてその含水率が0.5質量%以下のものを使用した。次に、CABのフレーク状粉体をホッパ13から徐々に添加した。CAB粉末は、溶解タンク12に投入されて、最初は5m/secの周速で攪拌するディゾルバータイプの偏芯攪拌機24及び中心軸にアンカー翼を有する攪拌機22を周速1m/secで攪拌する条件下で30分間分散した。分散開始時の温度は25℃であり、最終到達温度は48℃となった。さらに、予め調製された添加剤溶液を添加剤タンク14からバルブ19で送液量を調整して、全体が2000kgとなるようにした。添加剤溶液の分散を終了した後に、高速攪拌は停止した。そして、攪拌機22のアンカー翼の周速を0.5m/secとしてさらに100分間攪拌し、CABフレークを膨潤させて膨潤液25を得た。膨潤終了までは窒素ガスにより溶解タンク12内を0.12MPaになるように加圧した。この際の溶解タンク12の内部は、酸素濃度が2vol%未満であり防爆上で問題のない状態を保った。また膨潤液25中の水分量は0.3質量%であった。
【0083】
(1−2)溶解・濾過
膨潤液25を溶解タンク12からポンプ26を用いてジャケット付配管15に送液した。ジャケット付き配管15で膨潤液25を50℃まで加熱して、更に2MPaの加圧下で90℃まで加熱し、完全溶解した。このときの加熱時間は15分であった。次に溶解された液を温調機16で36℃まで温度を下げ、公称孔径8μmの濾材を有する濾過装置17を通過させドープ(以下、濃縮前ドープと称する)を得た。この際、濾過装置17における1次側圧力は1.5MPa、2次側圧力を1.2MPaとした。高温にさらされるフィルタ、ハウジング及び配管はハステロイ(商品名)合金製で耐食性の優れたものを利用し保温加熱用の伝熱媒体を流通させるジャケットを備えたものを使用した。
【0084】
(1−3)濃縮・濾過・脱泡・添加剤
このようにして得られた濃縮前ドープを80℃で常圧とされたフラッシュ装置30内でフラッシュ蒸発させて、蒸発した溶媒を凝縮器で回収した。フラッシュ後のドープ27の固形分濃度は、23重量%となった。なお、凝縮された溶媒はドープ調製用溶媒として再利用すべく回収装置32で回収した。その後に再生装置33で再生した後に溶媒タンク11に送液した。回収装置32,再生装置33では、蒸留や脱水を行った。フラッシュ装置30のフラッシュタンクには攪拌軸にアンカー翼を備えた攪拌機(図示しない)を設け、その攪拌機により周速0.5m/secでフラッシュされたドープを攪拌して脱泡を行った。このフラッシュタンク内のドープの温度は25℃であり、タンク内におけるドープの平均滞留時間は50分であった。このドープ27を採取して25℃で測定した剪断粘度は、剪断速度10(sec-1)で450Pa・sであった。
【0085】
次に、このドープ27に弱い超音波を照射することにより泡抜きを実施した。その後、ポンプ34を用いて1.5MPaに加圧した状態で、濾過装置31を通過させた。濾過装置31では、最初公称孔径10μmの焼結繊維金属フィルタを通過させ、ついで同じく10μmの焼結繊維フィルタを通過させた。それぞれの1次側圧力は1.5MPa,1.2MPaであり、2次側圧力は1.0MPa,0.8MPaであった。濾過後のドープ温度を36℃に調整して2000Lのステンレス製ストックタンク41内にドープ27を送液して貯蔵した。ストックタンク41は中心軸にアンカー翼を備えた攪拌機61を有しており、周速0.3m/secで常時攪拌を行った。なお、濃縮前ドープからドープを調製する際に、ドープ接液部には、腐食などの問題は全く生じなかった。
【0086】
また、ジクロロメタンが86.5質量部、アセトンが13質量部、1−ブタノールが0.5質量部の混合溶媒Aを作製した。
【0087】
(1−4)吐出・直前添加・流延・ビード減圧
図2に示すフィルム製造ライン40を用いてフィルム82を製造した。ストックタンク41内のドープ27を高精度のギアポンプ62で濾過装置42へ送った。このギアポンプ62は、ポンプ62の1次側を増圧する機能を有しており、1次側の圧力が0.8MPaになるようにインバーターモータによりギアポンプ62の上流側に対するフィードバック制御を行い送液した。ギアポンプ62は容積効率99.2%、吐出量の変動率0.5%以下の性能であるものを用いた。また、吐出圧力は1.5MPaであった。そして、濾過装置42を通ったドープ27を流延ダイ43に送液した。
【0088】
流延ダイ43は、幅が1.8mであり乾燥されたフィルムの膜厚が95μmとなるように、流延ダイ43の吐出口のドープ27の流量を調整して流延を行った。また流延ダイ43の吐出口からのドープ27の流延幅を1700mmとした。なお、流延速度は、8m/minとした。ドープ27の温度を20℃に調整するために、流延ダイ43にジャケット(図示しない)を設けてジャケット内に供給する伝熱媒体の入口温度を20℃とした。
【0089】
流延ダイ43と配管とはすべて、製膜中には20℃に保温した。流延ダイ43は、コートハンガータイプのダイを用いた。流延ダイ43には、厚み調整ボルトが20mmピッチに設けられており、ヒートボルトによる自動厚み調整機構を具備しているものを使用した。このヒートボルトは、予め設定したプログラムによりギアポンプ62の送液量に応じたプロファイルを設定することもでき、フィルム製造ライン40に設置した赤外線厚み計(図示しない)のプロファイルに基づいた調整プログラムによってフィードバック制御も可能な性能を有するものを用いた。端部20mmを除いたフィルムにおいては、50mm離れた任意の2点の厚み差は1μm以内であり、幅方向における厚みのばらつきが3μm/m以下となるように調整した。また、全体厚みは±1.5%以下に調整した。
【0090】
また、流延ダイ43の1次側には、この部分を減圧するための減圧チャンバ68を設置した。この減圧チャンバ68の減圧度は、流延ビードの前後で1Pa〜5000Paの圧力差が生じるように調整され、この調整は流延速度に応じてなされる。その際に、流延ビードの長さが5mm〜15mmとなるように流延ビードの両面側の圧力差を設定した。また、減圧チャンバ68は、流延部周囲のガスの凝縮温度よりも高い温度に設定できる機構を具備したものを用いた。ダイ吐出口におけるビードの前面部、背面部にはラビリンスパッキン(図示しない)を設けた。また、流延ダイのダイ吐出口の両端には開口部を設けた。さらに、流延ダイ43には、流延ビードの両縁の乱れを調整するためのエッジ吸引装置(図示しない)を取り付けた。
【0091】
(1−5)流延ダイ
流延ダイ43の材質は、熱膨張率が2×10-5(℃-1)以下の析出硬化型のステンレス鋼を用いた。これは、電解質水溶液での強制腐食試験でSUS316製と略同等の耐腐食性を有するものであった。また、ジクロロメタン,メタノール,水の混合液に3ヶ月浸漬しても気液界面にピッティング(孔開き)が生じない耐腐食性を有していた。流延ダイ43の接液面の仕上げ精度は表面粗さで1μm以下、真直度はいずれの方向にも1μm/m以下であり、スリットのクリアランスは1.0mmに調整した。流延ダイ43のリップ先端の接液部の角部分については、Rはスリット全巾に亘り50μm以下になるように加工されているものを用いた。流延ダイ43内部でのドープ27の剪断速度は1(1/sec)〜5000(1/sec)の範囲であった。また、流延ダイ43のリップ先端には、溶射法によりWC(タングステンカーバイト)コーティングをおこない硬化膜を設けた。
【0092】
さらに流延ダイ43の吐出口には、流出するドープ27が局所的に乾燥固化することを防止するために、ドープ27を可溶化するための混合溶媒Aを流延ビードの両側端部と吐出口との界面部に対し、それぞれ0.5ml/minずつ供給した。混合溶媒Aを供給するポンプの脈動率は5%以下であった。また、減圧チャンバ68により流延ビード背面側の圧力を前面部よりも150Pa低くした。減圧チャンバ68の内部温度を所定の温度で一定にするためにジャケット(図示しない)を取り付けた。そのジャケット内には35℃に調整された伝熱媒体を供給した。前記エッジ吸引装置は、1L/min〜100L/minの範囲となるようにエッジ吸引風量を調整することができるものであり、本実施例ではこれを30L/min〜40L/minの範囲となるように適宜調整した。
【0093】
(1−6)金属支持体
支持体として幅2.1mで長さが70mのステンレス製のエンドレスバンドを流延バンド46として利用した。流延バンド46は、厚みが1.5mm、表面粗さが0.05μm以下になるように研磨した。その材質はSUS316製であり、十分な耐腐食性と強度を有するものを用いた。流延バンド46の全体の厚みムラは0.5%以下であった。流延バンド46は、2個の回転ローラ44,45により駆動させた。その際の流延バンド46の搬送方向における張力は1.5×105 N/m2 なるように調整した。また、流延バンド46と回転ローラ44,45との相対速度差が0.01m/min以下になるように調整した。このときに、流延バンド46の速度変動を0.5%以下とした。また1回転の幅方向の蛇行が、1.5mm以下に制限されるように流延バンド46の両端位置を検出して制御した。流延ダイ43の直下におけるダイリップ先端と流延バンド46との上下方向の位置変動は200μm以下にした。流延バンド46は、風圧変動抑制手段(図示しない)を有した流延室64内に設置した。この流延バンド46上に流延ダイ43からドープ27を流延した。
【0094】
回転ローラ44,45は、流延バンド46の温度調整を行うことができるように、内部に伝熱媒体を送液できるものを用いた。流延ダイ43側の回転ローラ45には5℃の伝熱媒体を流し、他方の回転ローラ44には乾燥のために40℃の伝熱媒体を流した。流延直前の流延バンド46中央部の表面温度は15℃であり、その両側端の温度差は6℃以下であった。なお、流延バンド46には、表面欠陥がないものが好ましく、30μm以上のピンホールは皆無であり、10μm〜30μmのピンホールは1個/m2 以下、10μm未満のピンホールは2個/m2 以下であるものを用いた。
【0095】
流延ダイ43のダイ高さL(mm)が1mm、流延ダイの角度θ(度)が50度になるように流延ダイ43と流延バンド46との各位置を決定した。
【0096】
(1−7)流延乾燥
流延室64の温度は、温調設備65を用いて35℃に保った。流延ダイ43からのドープ27の吐出速度を2.5m/分とした。なお、流延ビード69aの乾燥速度は、表1の「初期乾燥速度」欄に示す。初期乾燥速度の単位は、ドープ27の固体成分1kgあたり、1分間に蒸発する溶媒の質量(kg)で示し、これを(kg・solv)/(kg/solid)/minと記すものとする。流延バンド46上に流延されたドープ27から形成された流延膜69には、最初に流延膜69に対して平行に流れる乾燥風を送り、流延膜69を乾燥した。この乾燥風からの流延膜69への総括伝熱係数は24kcal/(m2 ・hr・℃)であった。乾燥風の温度は、流延バンド46上部の上流側の送風ダクト70からは135℃の乾燥風を送風した。また下流側の送風ダクト71からは140℃の乾燥風を送風し、流延バンド46下部の送風ダクト72からは65℃の乾燥風を送風した。それぞれの乾燥風の飽和温度は、いずれも−8℃付近であった。流延バンド43上での乾燥雰囲気における酸素濃度は5vol%に保持した。なお、この酸素濃度を5vol%に保持するために空気を窒素ガスで置換した。また、流延室64内の溶媒を凝縮回収するために、凝縮器(コンデンサ)66を設け、その出口温度を−10℃に設定した。
【0097】
流延後5秒間は乾燥風が、直接に流延ビード及び流延膜69に当たらないように遮風板73を設け、これにより流延ダイ43近傍の静圧変動を±1Pa以下に抑制した。流延膜69中の溶媒比率が乾量基準で15重量%になったところで流延バンド46から剥取ローラ75で支持しながらフィルム(以下、湿潤フィルムと称する)74として剥ぎ取った。なお、この乾量基準による溶媒含有率は、サンプリング時におけるフィルム重量をx、そのサンプリングフィルムを乾燥した後の重量をyとするとき{(x−y)/y}×100で算出される値である。また剥取テンションは1×102 N/m2 あり、剥取不良を抑制するために流延バンド46の速度に対して剥取速度(剥取ローラドロー)は100.1%〜110%の範囲で適切に調整した。剥ぎ取った湿潤フィルム74の表面温度は15℃であった。流延バンド46上での乾燥速度は、平均60質量%乾量基準溶媒/minであった。乾燥により発生した溶媒ガスは−10℃の凝縮器66で凝縮液化して回収装置67で回収した。回収された溶媒は、水分量が0.5%以下となるように調整した。また、溶媒が除去された乾燥風は、再度加熱して乾燥風として再利用した。湿潤フィルム74を渡り部80のローラを介して搬送し、テンタ式乾燥機47に送った。この渡り部80では送風機81から40℃の乾燥風を湿潤フィルム74に送風した。なお、渡り部80のローラで搬送している際に、湿潤フィルム74に約30Nのテンションを付与した。
【0098】
(1−8)テンタ搬送・乾燥・耳切
テンタ式乾燥機47に送られた湿潤フィルム74は、クリップでその両端を固定されながらテンタ式乾燥機47の乾燥ゾーン内を搬送され、この間に乾燥風により乾燥された。クリップは、20℃の伝熱媒体の供給により冷却した。クリップの搬送は、チェーンで行い、そのスプロケットの速度変動は0.5%以下であった。また、テンタ式乾燥機47内を3ゾーンに分け、それぞれのゾーンの乾燥風温度を上流側から90℃,110℃,120℃とした。乾燥風のガス組成は−10℃における飽和ガス濃度とした。テンタ式乾燥機47内での平均乾燥速度は120質量%(乾量基準溶媒)/minであった。テンタ式乾燥機47の出口ではフィルム82内の残留溶媒量が7質量%となるように、乾燥ゾーンの条件を調整した。テンタ式乾燥機47内では搬送しつつ幅方向に延伸も行った。なお、この延伸前の湿潤フィルム74の幅を100%としたとき、延伸後の幅が103%となるように延伸した。剥取ローラ75からテンタ式乾燥機47の入口に至るまでの延伸率(テンタ駆動ドロー)は102%とした。
【0099】
テンタ式乾燥機47内での延伸率は、クリップによる噛み込み開始位置から10mm以上離れた位置の任意の2点における各実質延伸率の差異が10%以下であり、かつ20mm離れた任意の2点の延伸率の差は5%以下であった。また、テンタ式乾燥機47の入口から出口までの長さに対する、クリップ挟持開始位置から挟持解除位置までの長さの割合は90%とした。テンタ式乾燥機47内で蒸発した溶媒は−10℃の温度で凝縮させ液化して回収した。凝縮回収用に凝縮器(コンデンサ)を設け、その出口温度は−8℃に設定した。そして凝縮溶媒は、含まれる水分量が0.5質量%以下に調整されて再使用された。そして、テンタ式乾燥機47からフィルム82として送り出した。
【0100】
テンタ式乾燥機47の出口から30秒以内にフィルム82の両端の耳切を耳切装置50で行った。NT型カッターにより両側50mmの耳をカットし、カットした耳はカッターブロワ(図示しない)によりクラッシャ90に風送して平均80mm2 程度のチップに粉砕した。このチップは、再度ドープ調製用原料としてCABフレークと共にドープ製造の際の原料として利用した。テンタ式乾燥機47の乾燥雰囲気における酸素濃度は5vol%に保持した。なお、酸素濃度を5vol%に保持するため空気を窒素ガスで置換した。後述する乾燥室51で高温乾燥させる前に、100℃の乾燥風が供給されている予備乾燥室(図示しない)でフィルム82を予備加熱した。
【0101】
(1−9)後乾燥・除電
フィルム82を乾燥室51で高温乾燥した。乾燥室51を4区画に分割して、上流側から120℃,130℃,130℃,130℃の乾燥風を送風機(図示しない)から給気した。フィルム82のローラ91による搬送テンションを100N/mとして、最終的に残留溶媒量が0.3質量%になるまで約10分間乾燥した。ローラ91のラップ角度(フィルムの巻き掛け中心角)は、90度および180度とした。ローラ91の材質はアルミ製もしくは炭素鋼製であり、表面にはハードクロム鍍金を施した。ローラ91の表面形状はフラットなものとブラストによりマット化加工したものとを用いた。ローラ91の回転によるフィルム位置の振れは、全て50μm以下であった。また、テンション100N/mでのローラ撓みは0.5mm以下となるように選定した。
【0102】
乾燥風に含まれる溶媒ガスは、吸着回収装置92を用いて吸着回収除去した。ここに使用した吸着剤は活性炭であり、脱着は乾燥窒素を用いて行った。回収した溶媒は、水分量を0.3質量%以下に調整してドープ調製用溶媒として再利用した。乾燥風には、溶媒ガスの他、可塑剤,UV吸収剤,その他の高沸点物が含まれるので冷却除去する冷却器およびプレアドソーバでこれらを除去して再生循環使用した。そして、最終的に屋外排出ガス中のVOC(揮発性有機化合物)は10ppm以下となるよう、吸脱着条件を設定した。また、全蒸発溶媒のうち、凝縮法で回収する溶媒量は90質量%であり、残りのものの大部分は吸着回収により回収した。
【0103】
乾燥されたフィルム82を第1調湿室(図示しない)に搬送した。乾燥室51と第1調湿室との間の渡り部には、110℃の乾燥風を給気した。第1調湿室には、温度50℃、露点が20℃の空気を給気した。さらに、フィルム82のカールの発生を抑制する第2調湿室(図示しない)にフィルム82を搬送した。第2調湿室では、フィルム82に直接90℃,湿度70%の空気をあてた。
【0104】
(1−10)ナーリング、巻取条件
調湿後のフィルム82は、冷却室52で30℃以下に冷却した後に耳切装置(図示しない)で再度両端の耳切りを行った。搬送中のフィルム82の帯電圧は、常時−3kV〜+3kVの範囲となるように強制除電装置(除電バー)93を設置した。さらにフィルム82の両端にナーリング付与ローラ94でナーリングの付与を行った。ナーリングはフィルム82の片側からエンボス加工を行うことで付与し、ナーリングを付与する幅は10mmであり、凹凸の高さがフィルム81の平均厚みよりも平均12μm高くなるようにナーリング付与ローラによる押し圧を設定した。
【0105】
そして、フィルム82を巻取室53に搬送した。巻取室53は、室内温度28℃,湿度70%に保持した。巻取室53の内部には、フィルム82の帯電圧が−1.5kV〜+1.5kVとなるようにイオン風除電装置(図示しない)も設置した。このようにして得られたフィルム(厚さ95μm)82の製品幅は、1475mmとなった。巻取ローラ95の径は169mmのものを用いた。巻き始めテンションは300N/mであり、巻き終わりが200N/mになるようなテンションパターンとした。巻き取り全長は3940mであった。巻き取りの際の巻きズレの変動幅(オシレート幅と称することもある)を±5mmとした、巻取ローラ95に対する巻きズレ周期を400mとした。また、巻取ローラ95に対するプレスローラ96の押し圧は、50N/mに設定した。巻き取り時のフィルム82の温度は25℃、含水量は1.4質量%、残留溶媒量は0.3質量%であった。全工程を通して、平均乾燥速度は20質量%(乾量基準溶媒)/minであった。また巻き緩み、シワもなく、10Gでの衝撃テストにおいても巻きずれが生じなかった。また、ロール外観も良好であった。得られたフィルム82の流延方向及び幅方向の厚み及び外観検査を行ったところ、フィルムには厚み方向の凹凸が無く、平面性は非常に良好であった。なお、このようなフィルムの面状の評価結果については、表1の「フィルム面状」欄に示す。「フィルム面状」欄では、凹凸が認められず平面性が非常に良好である場合を◎、凹凸がほとんど認められず平面性が良好である場合を○、凹凸が有り、用途によっては使用できないような平面性であると判断される場合は△、凹凸が大きく不良品とみなせる場合を×とした。
【0106】
フィルム82のフィルムロールを25℃、55%RHの貯蔵ラックに1ヶ月保管して、さらに上記と同様に検査した結果、いずれも有意な変化は認められなかった。さらにロール内においても接着も認められなかった。また、フィルム82を製膜した後に、流延バンド46上には流延膜69の剥げ残りは全く見られなかった。
【0107】
[実験2]
ドープは、実験1と同じ処方、同じ固形分濃度のものとした。流延ダイ高さL(mm)は1mm、流延ダイの角度θ(度)は50度とした。また、流延ダイ温度は30℃とし、ドープ吐出速度は3.5m/minとした。流延バンド46の移動速度、つまり流延速度は11m/minとした。初期乾燥速度については、これを4(kg・solv)/(kg・solid)・minとした。そして、流延膜69の残留溶剤量が50重量%以下になったときに湿潤フィルム74として剥ぎ取り、実験1と同じ乾燥処理を行い、厚み95μmのフィルム82を得た。得られたフィルム82の流延方向と幅方向との厚み分布及び外観検査を行ったところ、厚み方向の凹凸も無く、平面性は良好であった。
【0108】
[実験3]
ドープは、実験1と同じ処方で製造し、固形分濃度を25重量%とした。流延ダイ高さL(mm)を3mmとし、流延ダイの角度θ(度)を10度になるように流延ダイ43を流延バンド46の上方に配した。また、流延ダイ温度は30℃とし、ドープ吐出速度は7m/minとした。流延速度を20m/minとし、初期乾燥速度については、これを4(kg・solv)/(kg・solid)・minとした。そして、流延膜69中の残留溶媒量が50重量%以下となったときに湿潤フィルム74として流延バンド46から剥ぎ取った。その後、実験1と同じ条件で乾燥処理を行い厚み95μmのフィルム82を得た。得られたフィルムの流延方向及び幅方向の厚み分布及び外観検査を行ったところ、厚み方向の凹凸も無く、平面性は良好であった。
【0109】
[実験4]
比較例である実験4では、ドープの処方及び固形分濃度は実験1と同じ条件とした。また、流延条件は流延ダイ温度を30℃とし、初期乾燥速度を4(kg・solv)/(kg・solid)・minとした以外は実験1と同じ条件で行いフィルムを得た。得られたフィルムの流延方向と幅方向との厚み分布及び外観検査を行ったところ、得られたフィルムは、凹凸が有り、用途によっては使用できないような平面性であった。
【0110】
[実験5]
比較例である実験5では、ドープの処方及び固形分濃度は実験1と同じとした。流延ダイ43の高さL(mm)を3mmとし、流延ダイの角度θ(度)が−10度となるように流延ダイ43を配置した。流延ダイ43の温度は36℃、流延ダイ43からドープ27の吐出速度は7m/minとして、流延速度は20m/minとし、初期乾燥速度を4(kg・solv)/(kg・solid)・minとした以外は実験1と同じ条件で行った。流延膜中の残留溶媒率が15重量%以下となったときに流延バンド46から湿潤フィルムとして剥ぎ取った。その後に実験1と同じ乾燥処理を行い、フィルムを得た。得られたフィルムの流延方向と幅方向との厚み分布及び外観検査を行ったところ、得られたフィルムは、凹凸が有り、用途によっては使用できないような平面性であった。
【0111】
[実験6]
ドープの成分は実験1と同じであるが、固形分濃度は26重量%とした。初期乾燥速度を4.5(kg・solv)/(kg・solid)・min、流延ダイの角度θは−10度、流延ダイの温度は36℃とした。その他の条件は実験3と同じである。フィルムは、凹凸が大きく不良品であった。
【0112】
[実験7]
流延ダイ43の高さL(mm)を0.3mmとし、流延ダイの角度θ(度)が10度となるように流延ダイ43を配置した。その他の条件は実験5と同じである。得られたフィルムは、凹凸が有り、用途によっては使用できないような平面性であった。
【0113】
【表1】

【実施例2】
【0114】
[実験1]〜[実験7]
ドープの成分の組成を下記に代えて実施例1と同様に実施した。なお、本実施例2における実験1〜7のその他の条件は、実施例1の実験1〜7の同じ実験番号に対応して同じである。
[組成]
セルロースアセテートプロピオネート(CAP;アセチル置換度0.20、プロピオニル置換度2.50、トータル置換度2.70、粘度平均重合度270、含水率0.2質量%、ジクロロメタン溶液中6質量%の粘度 250mPa・s、平均粒子径1.5mmであって標準偏差0.5mmである粉体) 100重量部
ジクロロメタン(第1溶媒) 293重量部
メタノール(第2溶媒) 53重量部
1−ブタノール(第3溶媒) 13重量部
N,N’−ジメタトリル−N’’−p−メトキシフェニル−1,3,5−トリアジン−2,4,6−トリアミン 4重量部
可塑剤A(トリフェニルフォスフェート) 2重量部
可塑剤B(ビフェニルジフェニルフォスフェート) 1重量部
剥離剤(クエン酸エチルエステル) 0.2重量部
【0115】
ここで、使用したCAPは、残存酢酸量が0.1質量%以下、残留プロピオン酸が0.1質量%以下であり、Ca含有量が80ppm、Mg含有量が22ppm、Fe含有量が0.5ppmであり、さらに硫酸基としてのイオウ量を105ppm含むものであった。また6位アセチル基の置換度は0.11、6位プロピオニル基の置換度は0.69であり全アシル基に占める割合は33%であった。また、メタノール抽出分は5質量%以下、重量平均分子量/数平均分子量比は2.8であった。また、イエローインデックスは1.6であり、ヘイズは0.07、透明度は92.9%であり、Tg(ガラス転移温度;DSCにより測定)は128℃であった。このCAPは、綿から採取したセルロースを原料として合成されている。
【0116】
【表2】

【図面の簡単な説明】
【0117】
【図1】本発明に係る溶液製膜方法に用いられるドープを製造する製造ラインの概略図である。
【図2】本発明に係る溶液製膜方法を実施するための製造ラインの概略図である。
【図3】図2の要部拡大図である。
【符号の説明】
【0118】
27 ドープ
40 フィルム製造ライン
43 流延ダイ
43a 吐出口
46 流延バンド
69 流延膜
69a 流延ビード
74 湿潤フィルム
82 フィルム
L 流延ダイ高さ
L1 ドープの吐出方向
L2 流延バンドの流延面の法線のうち、流延ダイの吐出口の中心を通る直線
θ 流延ダイ角度


【特許請求の範囲】
【請求項1】
セルロースアシレートを含む固体成分と溶媒とからなるドープを流延ダイから吐出して支持体上に流延膜を形成し、前記支持体から前記流延膜を剥ぎ取りフィルムとする溶液製膜方法において、
前記流延ダイから吐出された直後の前記ドープの乾燥速度を、前記固体成分1kgあたり4kg/min以下とし、
前記セルロースアシレートが下記式(I)及び(II)を満たすことを特徴とする溶液製膜方法。
(I) 2.5≦A+B≦3.0
(II) 1.25≦B≦3.0
但し、式(I)及び(II)中で、Aはセルロースの水酸基の水素原子に対するアセチル基の置換度を表し、Bはセルロースの水酸基の水素原子に対するプロピオニル基,ブチリル基,ペンタノイル基,ヘキサノイル基の置換度の総和を表す。
【請求項2】
前記流延ダイから前記ドープを吐出する吐出速度を3m/min以上とすることを特徴とする請求項1記載の溶液製膜方法。
【請求項3】
前記流延ダイから前記ドープが吐出される方向と、前記支持体の前記流延膜が形成される面における法線のうち前記流延ダイの吐出口の中心を通る直線とがなす角θを0度以上60度以下とし、
前記直線上における前記支持体と前記流延ダイとの距離を0.5mm以上5mm以下とすることを特徴とする請求項1または2記載の溶液製膜方法。
【請求項4】
前記ドープと前記流延ダイのリップ先端部との剥離抵抗が40g/cm以下であり、
且つ流延時における前記ドープの剪断粘度η(Pa・s)と前記流延ダイから前記支持体に至るまでの前記ドープの伸張速度ε(1/sec)との関係が150Pa<3・η・ε<15000Paを満たすことを特徴とする請求項1ないし3いずれか1つ記載の溶液製膜方法。
【請求項5】
前記流延ダイから吐出された直後の前記ドープの表面における前記固形成分の濃度を16重量%以上25重量%以下とすることを特徴とする請求項1ないし4いずれか1つ記載の溶液製膜方法。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2006−188052(P2006−188052A)
【公開日】平成18年7月20日(2006.7.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−354447(P2005−354447)
【出願日】平成17年12月8日(2005.12.8)
【出願人】(000005201)富士写真フイルム株式会社 (7,609)
【Fターム(参考)】