説明

溶融亜鉛メッキライン用転がり軸受

【課題】溶融亜鉛メッキラインのシンクロール軸受やサポートロール軸受として好適な溶融亜鉛メッキライン用転がり軸受を提供する。
【解決手段】溶融亜鉛メッキ浴に浸漬されて使用される転がり軸受の内輪11、外輪12及び転動体13を、Siまたはα−サイアロンまたはβ−サイアロンをマトリックスとし、かつ該マトリックスを強化材で強化したセラミックス基複合材料で形成した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鋼帯の表面に溶融亜鉛メッキ処理を施す溶融亜鉛メッキラインのシンクロール軸受やサポートロール軸受として用いられる転がり軸受に関する。
【背景技術】
【0002】
溶融亜鉛メッキラインでは、従来、シンクロールやサポートロールを支持する軸受として、すべり軸受が多く用いられている。しかし、例えば特許文献1に示されているようなすべり軸受をシンクロール軸受やサポートロール軸受として用いると、摩耗によって使用中の回転精度が悪くなり、2〜3週間程度で交換を余儀なくされるため、メンテナンス工数が増大するという問題がある。また、これを解決するために、特許文献2あるいは特許文献3に示されているような転がり軸受をシンクロール軸受やサポートロール軸受として用いると、省スペース化を図ることが難しいという問題があり、さらにシンクロールのような大きな負荷荷重がかかる箇所では適用が難しいという問題がある。
【特許文献1】特開2001−262299号公報
【特許文献2】特開平5−239592号公報
【特許文献3】特開2005−69378号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
本発明は上述した点に鑑みてなされたものであり、その目的は、溶融亜鉛メッキラインのシンクロール軸受やサポートロール軸受として好適な溶融亜鉛メッキライン用転がり軸受を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0004】
上記の目的を達成するために、本発明に係る溶融亜鉛メッキライン用転がり軸受は、内輪と外輪との間に複数の転動体を有し、かつ溶融亜鉛メッキ浴に浸漬されて使用される溶融亜鉛メッキライン用転がり軸受において、前記内輪、外輪及び転動体をSiまたはα−サイアロンまたはβ−サイアロンをマトリックスとし、該マトリックス内に強化材を複合化したセラミックス基複合材料から形成したことを特徴とする。
【0005】
本発明に係る溶融亜鉛メッキライン用転がり軸受において、セラミックス基複合材料はα−サイアロンまたはβ−サイアロンをマトリックスとするものであることが好ましい。
また、本発明に係る溶融亜鉛メッキライン用転がり軸受において、セラミックス基複合材料の強化材はSiCウィスカー、Siウィスカー等のセラミックスウィスカー、SiC、TiC、BC、BN、TiN、TiB、NbB、WB、MoB等のセラミックス粒子及び炭素繊維のうち少なくとも1種の物質と長繊維であることが好ましい。
【発明の効果】
【0006】
本発明に係る溶融亜鉛メッキライン用転がり軸受によれば、内輪、外輪及び転動体がSiで形成されているものに比較して、耐摩耗性が飛躍的に向上する。したがって、摩耗によって使用中の回転精度が悪くなり、2〜3週間程度で交換を余儀なくされるということがないので、メンテナンス工数を減らすことができる。
また、内外輪や転動体の素材が窒化珪素系のセラミックスであるため、耐食性や高温強度についても問題が生じることがないので、コンパクト化を図れるとともに、大きな負荷荷重が作用する箇所でも使用することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
以下、本発明に係る溶融亜鉛メッキライン用転がり軸受を図面に基づいて説明する。
図1は、本発明の第1の実施形態に係る溶融亜鉛メッキライン用転がり軸受の一部を示す断面図である。同図に示される溶融亜鉛メッキライン用転がり軸受は内輪11、外輪12及び複数の転動体13を備えており、これらの内輪11、外輪12及び転動体13はSiまたはα−サイアロンまたはβ−サイアロンをマトリックスとし、そのマトリックス内に強化材を複合化したセラミックス基複合材料(好ましくはα−サイアロンまたはβ−サイアロンをマトリックスとするセラミックス基複合材料、より好ましくは強化材がセラミックスウィスカー、セラミックス粒子及び炭素繊維のうち少なくとも1種の物質と長繊維であるセラミックス基複合材料)から形成されている。なお、図1中14は転動体13を保持する保持器を示している。
【0008】
上述したセラミックス基複合材料を内輪11、外輪12及び転動体13の素材として用いた理由を図2、図3及び表1を参照して説明する。
本発明者は、セラミックス基複合材料を溶融亜鉛メッキライン用転がり軸受の内外輪素材や転動体素材として用いた場合の耐摩耗性を評価するために、円筒状の回転試験片と板状の固定試験片を表1に示す4種類の試験片材料A〜Dでそれぞれ作製した。そして、図2に示すように、作製した回転試験片15を200MPaの最大面圧で固定試験片16に押し付け、この状態で回転試験片15を回転速度:4000min−1、回転時間:10minの条件で回転させた後、固定試験片16の摩耗量を測定した。
【0009】
【表1】

【0010】
表1の試験片材料A〜Dで作製された各試験片の摩耗量を測定した結果を図3に示す。同図において、試験例1は試験片材料A(Si)で作製された試験片の摩耗量を示し、試験例2〜4は試験片材料B〜D(セラミックス基複合材料)で作製された試験片の摩耗量を示している。なお、試験片材料B〜Dの強化材はセラミックスウィスカー、セラミックス粒子及び炭素繊維のうち少なくとも1種の物質と長繊維とからなるものである。
【0011】
試験例1と試験例2ないし4とを比較すると、試験例1の試験片摩耗量を1とした場合、試験例2は試験片摩耗量が0.4程度になり、試験例3及び4は試験片摩耗量が0.3程度になることがわかる。
したがって、溶融亜鉛メッキラインのシンクロール軸受やサポートロール軸受として用いられる転がり軸受の内外輪や転動体を、Siまたはα−サイアロンまたはβ−サイアロンをマトリックスとし、そのマトリックス内に強化材を複合化したセラミックス基複合材料(好ましくはα−サイアロンまたはβ−サイアロンをマトリックスとするセラミックス基複合材料、より好ましくは強化材がセラミックスウィスカー、セラミックス粒子及び炭素繊維のうち少なくとも1種の物質と長繊維であるセラミックス基複合材料)から形成することにより、溶融亜鉛メッキライン用転がり軸受の耐摩耗性を飛躍的に高めることができる。よって、窒化珪素製のすべり軸受を溶融亜鉛メッキラインのシンクロール軸受やサポートロール軸受として用いた場合のように、摩耗によって使用中の回転精度が悪くなり、2〜3週間程度で交換を余儀なくされるということがないので、メンテナンス工数を減らすことができる。
【0012】
また、耐食性や高温強度についても問題が生じることがないので、コンパクト化を図れるとともに、大きな負荷荷重が作用する箇所でも使用することができる。
なお、図1に示した第1の実施形態では溶融亜鉛メッキライン用転がり軸受として円筒ころ軸受を例示したが、これに限定されるものでなく、例えば玉軸受等にも本発明を適用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明の第1の実施形態に係る溶融亜鉛メッキライン用転がり軸受の一部を示す断面図である。
【図2】作製された試験片の摩耗試験を説明するための図である。
【図3】Siで作製された試験片とセラミックス基複合材料で作製された試験片の摩耗量を示す図である。
【符号の説明】
【0014】
11 内輪
12 外輪
13 転動体
14 保持器

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内輪と外輪との間に複数の転動体を有し、かつ溶融亜鉛メッキ浴に浸漬されて使用される溶融亜鉛メッキライン用転がり軸受において、
前記内輪、外輪及び転動体をSiまたはα−サイアロンまたはβ−サイアロンをマトリックスとし、該マトリックス内に強化材を複合化したセラミックス基複合材料から形成したことを特徴とする溶融亜鉛メッキライン用転がり軸受。
【請求項2】
前記セラミックス基複合材料がα−サイアロンまたはβ−サイアロンをマトリックスとすることを特徴とする請求項1記載の溶融亜鉛メッキライン用転がり軸受。
【請求項3】
前記セラミックス基複合材料の強化材がセラミックスウィスカー、セラミックス粒子及び炭素繊維のうち少なくとも1種の物質と長繊維であることを特徴とする請求項1または2記載の溶融亜鉛メッキライン用転がり軸受。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2008−128263(P2008−128263A)
【公開日】平成20年6月5日(2008.6.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−310136(P2006−310136)
【出願日】平成18年11月16日(2006.11.16)
【出願人】(000004204)日本精工株式会社 (8,378)
【Fターム(参考)】