説明

溶融開始温度の降下に対するモデルを用いた樹脂粘着性の程度のオンライン決定のための方法

いくつかの実施形態において、方法は、流動床反応器内の重合体樹脂を製造する重合反応中、少なくとも反応器温度と、樹脂の少なくとも一つの特性と、反応器内の少なくとも一つの凝縮性希釈ガスの量とを含む反応パラメータを測定する工程と、事前に設定した相関性を用いて、少なくとも一つの測定樹脂特性から、重合体樹脂の乾燥バージョンに対するドライ溶融開始温度値を決定する工程と、反応中、オンライン形式で、溶融開始温度降下モデルを用いて、反応器内の少なくとも一つの凝縮性希釈ガスの存在下で該樹脂の換算溶融開始温度(例えば、該樹脂が溶け始めると考えられる温度)を決定する工程とを含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、重合反応(例えば、気相反応器内で行われるオレフィン重合反応)を監視し、事前に設定したモデルに従って、監視した反応パラメータから溶融開始温度(反応器内の重合体樹脂が溶け始めると考えられる温度を示す)を決定し、更にまた、該溶融開始温度に応じて反応を随意的に制御するための方法に関する。本発明の実施形態は、流動床反応器内の気相重合反応を監視し、事前に設定した溶融開始温度降下モデルに従って、監視した反応パラメータから溶融開始温度(反応器内の重合体樹脂が溶け始めると考えられる温度を示す)をオンラインベースで決定(測定)し、更にまた、該溶融開始温度に応じて反応を随意的に制御することに関連する。
【背景技術】
【0002】
反応中のデータの「オンライン生成」という表現は、データが反応中の使用のために本質的に即座に利用可能であるように十分に速いデータの生成を意味するようにここでは用いられる。反応中の「オンライン形式でのデータの生成」という表現は、反応中のデータのオンライン生成という表現と同義で用いられる。(反応に用いたか又は反応で発生した少なくとも一つの物質についての)実験室試験からのデータの生成は、反応のパラメータが該試験中に著しく変化し得るように該実験室試験が多大な時間を費やす場合、反応中のデータの「オンライン生成」とはみなされない。データのオンライン生成は、時間のかかる実験室試験を含む種々の方法のいずれかで生成されたかもしれない予め生成したデータベースの使用を含むことができる点が企図される。
【0003】
連続反応によって製造されいる生成物(生産物もしくは製品)に関して、該生成物の特性の「瞬時」値という表現は、該生成物の最も最近製造した量の該特性の値をここでは意味する。最も最近製造した量は、典型的に、該生成物の予め製造した量との混合を被り、これは、該最近及び以前製造した生成物の混合物が反応器を出る前である。対照的に、連続反応によって製造されている生成物に関して、ある特性のある時間「T」での「平均」(又は「床平均」)値は、時間Tで反応器を出る該生成物の該特性の値をここでは意味する。
【0004】
この開示の全体にわたり、表現「希釈剤」(又は「凝縮性希釈剤」又は「凝縮性希釈ガス(気体)」)は、重合体樹脂が製造されている重合反応器内に存在する凝縮性ガス((複数の)凝縮性ガスの混合物)を意味する。この希釈剤は、プロセス熱交換器内で生じる温度で凝縮できる。希釈剤の例には、誘導縮合剤(ICA)、コモノマー、コモノマーの異性体、及びこれらの組合わせが含まれる。
【0005】
表現「乾燥重合体樹脂」(又は重合体樹脂の「乾燥バージョン」)は、かなりの量の溶解ガスを含まない重合体樹脂を意味するようにここでは用いられる。乾燥重合体樹脂の例は、重合反応器内で予め製造され、次いで、製造時に重合体において溶解されたすべての(もしくは実質的にすべての)未反応のコモノマー及びICAを除去するためにパージされた重合体である。後述するように、重合体樹脂の乾燥バージョンは、同じ重合体樹脂がかなりの量の凝縮性希釈ガス及びコモノマーの存在下にあったならば見られるであろうものとは著しく異なる溶融ふるまい(動作)を有する。
【0006】
表現ポリエチレンは、エチレン及び随意的な一つ又は複数のC3−C10α−オレフィンからなる重合体を意味し、他方、ポリオレフィンは、一つ又は複数のC2−C10α−オレフィンからなる重合体を意味する。
【0007】
この開示の全体にわたり、略語「MI」(又はI2)は、ASTM−D−1238−E238−Eに従うメルトインデックスを意味する。
【0008】
重合体を製造するために一般的に使用される一つの方法が気相重合である。慣用の気相流動床反応器は、重合によりポリオレフィンを製造する操作時において、反応ガス、重合体(樹脂)粒子、触媒、及び(付随的)触媒改質剤(重合調製剤)の混合物を含む流動濃密相床を含む。一般に、いくつかのプロセス制御変数のいずれもが、反応生成物が望ましい特性を有するようにするために制御され得る。
【0009】
一般に、単量体から重合体を製造するための気相流動床において、一つ又は複数の単量体を含むガス状ストリームは、触媒の存在する反応状態下で流動床に連続的に通される。このガス状ストリームは流動床から引き出され、反応器内へと再循環(リサイクル)される。同時に、重合体生成物が反応器から引き出され、重合単量体と交換するために新たな単量体が加えられる。再循環されたガスストリームは、反応器内で重合の熱によって加熱される。この熱は、反応器外部の冷却システムによってサイクルの別の部分で除去される。
【0010】
反応器内部の樹脂及びガス状ストリームの温度を、重合体融点及び/又は触媒失活温度未満の温度に維持するため、反応によって生じる熱を取り去ることが重要である。更に、熱除去は、重合体粒子の過度な粘着性(粘性)を防ぐために重要であり、これが抑制されていないままの場合、重合体の大きい塊もしくはシートの形成(これは生成物として除去できない)を招き得る粘着性粒子の流動化又は凝集の喪失をもたらし得る。更に、そのような塊もしくはシートは、分配板上に落下し得、これは流動化を弱め、多くの場合、反応器の運転停止を強制する。そのような粘着性の防止は、流動床の温度を、重合体粒子の融解温度又は焼結温度未満の温度へと制御することによって成し遂げられてきた。この融解又は焼結温度より高いと、実験的証拠は、そのような融解又は焼結が凝集もしくは粘着性を招くことを示唆し、これは次いで、抑制されていないままでは、上記状態に至り得る。
【0011】
流動床重合プロセスで製造される重合体の量は、流動床反応域から引き抜かれ得る熱の量に直接関連し、これは、反応によって生じる発熱が重合体生成の速度(割合)に正比例するからである。反応プロセスの定常状態操作において、流動床からの熱除去の速度は、床温度が一定のままであるように、発熱の速度に等しくなければならない。従来から、反応器外部の熱交換器においてガス再循環ストリームを冷却することにより、熱が流動床から取り除かれている。
【0012】
流動床プロセスの要求は、ガス状再循環ストリームの速度が、反応域を流動状態に維持するのに十分なものであることである。慣用の流動床重合プロセスにおいて、重合の熱を除去するために循環される流体の量は、流動床の支持のため、及び流動床内での固体の十分な混合のために必要な流体の量よりも多い。過度な速度は、付加的な冷却能力及び反応器床のより徹底した混合のため、流動床に対する(及び流動床を通る)付加的なガスフローを供給する。しかしながら、流動床から引き出されたガス状ストリームにおける固体の過度な同伴を防ぐために、ガス状ストリームの速度は調整されなければならない。
【0013】
当面は、反応器の外部のガス状ストリームの温度(別に再循環ストリーム温度として知られている)は、反応器システムの重合体凝集もしくはつまりの問題を引き起こすことなく再循環ストリームの露点未満に低下することはできない。再循環ストリームの露点は、凝縮液がガス状再循環ストリームに最初に生じ始める温度である。露点は、ガス組成を知ることにより計算され得、また、状態方程式を用いて熱力学的に定義される。
【0014】
この信念に反して、米国特許第4,543,399号及び関連する米国特許第4,588,790号においてJenkins等によって提案されるように、再循環ストリームは、流動床重合プロセスにおいて露点未満の温度に冷却され得、これが結果的に再循環ガスストリームの一部を凝縮させる。結果として生じた、同伴液体を含むストリームは、次いで、上述した凝集及び/又はつまり現象(これはJenkins予め想定されていた)を引き起こすことなく反応器に戻される。再循環ストリームの一部を意図的に凝縮するプロセスは、気相重合プロセスにおける「凝縮モード」運転(操作)として当業界において知られている。
【0015】
Jenkins等への上記引用米国特許は、再循環ストリーム温度が「凝縮モード」運転においてその露点未満の温度に下がった場合、冷却能力の向上により、非凝縮モードにおける製造と比べて重合体生成量の増加が可能であることを示唆する。その結果、空時収量(ある一定の反応器体積(容積)における重合体生成量)の実質的な増加が、製造特性をほとんど又は全く変えることなく、凝縮モード運転によって達成され得る。
【0016】
ガス露点温度未満の温度への再循環ストリームの冷却は、二相気体/液体混合物とこれらの相の両方に含まれる固体とを作り出す。「凝縮モード」運転におけるこの二層気体/液体混合物の液相は、該混合物の気相に同伴もしくは懸濁されたままである。液体の蒸発(気化)は、熱が加えられるか又は圧力が低下する場合にのみ生じる。Jenkins等が記述した方法において、蒸発は二相混合物が流動床に入った際に生じ、より暖かい樹脂が蒸発に必要な熱を提供する。そのため、蒸発は、流動床から反応の熱を抜き取る付加的な手段を提供する。熱除去能力は、流動床に入るガスストリームのより低いガス温度により、凝縮モード運動において更に高められる。これらの因子の両方がシステムの全熱除去能力を高め、これにより、より高い空時収量(流動床の単位体積当たりのより高い反応器製造速度)を可能にする。
【0017】
Jenkins等は、特に凝縮モードでの運転時における、そのような反応器制御一般の困難さ及び複雑さ、及び気相反応器の空時収量を最適化する安定運転域を拡張する試みの困難さ及び複雑さを例示する。
【0018】
再循環ガスの冷却能力は、ある一定の反応温度及び冷却熱伝達媒体のある一定の温度にある間に更に高まり得る。記述された一つのオプションは、反応器に重合せず反応しない材料(該材料はプロセス熱交換器に生じる温度で凝縮可能である)を加えることである。そのような反応しない凝縮性材料は誘導縮合剤(ICA)と総称されている。反応器内のICAの濃縮(濃度)の増長は、反応器ガスの露点温度の対応する上昇をもたらし、これは、反応器からのより高い(限定された熱伝達)製造速度に対するより高いレベルの凝縮を助長する。適切なICA材料は、それらの比熱及び沸点特性に基づいて選択される。特に、ICA化合物は、該材料の相対的に高い部分が重合体製造プラントに利用可能な冷却水温度(これは典型的に20〜40℃である)で凝縮されるように選択される。ICA材料は、ヘキサン、イソヘキサン、ペンタン、イソペンタン、ブタン、イソブタン、及び、重合プロセスにおいて同様に反応しない他の炭化水素化合物を含む。
【0019】
DeChellis等への米国特許第5,352,749号は、ICA材料、コモノマー又はこれらの組合せであろうとなかろうと、反応システムに許容され得る凝縮性ガスの濃度(濃縮もしくは凝縮)に対する限界があることを教示している。ある一定の限界濃度を超えると、凝縮性ガスは、反応器における流動化の突然の喪失、及びその結果として生じる、流動床の温度を制御する能力の低下をもたらし得る。上記引用米国特許第5,352,749号、及び米国特許第5,405,922号及び第5,436,304号は、製造中の重合体のタイプに応じて反応器内のICAの上限が論じられることを開示している。米国特許第5,352,749号は、ICA(イソペンタン)の限界濃度が存在し、それを超えて反応器内容物が流動化を突然失うことを開示している。著者は、この限界を、固定した(安定した)かさ密度に対する流動かさ密度の比を追跡することによって特徴付けた。イソペンタンの濃度が高まるにつれ、彼らは、上記かさ密度比が着実に低下することを見出した。かさ密度比0.59に対応して、イソペンタンの濃度が十分に高い場合、反応器内の流動化が失われることを彼らは見出した。そのため、彼らは、この比率(0.59)が引き返し限界点であり、それ未満では反応器は流動化の喪失により働きを止めると判断した。
【0020】
米国特許第5,352,749号の著者は認識していないが、比較的高いICA濃度での流動化の突然喪失は粘着性重合体の形成のためである。
【0021】
PCT出願公開番号WO2005/113615(A2)号に記述されるように、過度なICA濃度により重合反応器を稼働させる試みは、流動床に懸濁される重合体粒子を凝集性(結合力を有するもの)すなわち「粘着性」にし、ある場合、流動床を大きな塊の形態で固化する。この粘着性の問題は、望ましくない流動化の変化及び流動床内の混合によって特徴付けられる。これが抑制されていないままの場合、反応器不連続(途切れ)イベント、例えば、そのような反応器の直線側反応器区域におけるシーティング(シート化)、ドームにおけるシーティング、又はチャンキング(塊化)等へと進展し得る。これらのイベントのいずれもが反応器の停止を招き得、これは、大規模反応器において高コストである。重合体のこれらの固体塊(シートもしくは塊)は、最終的に壁から取れて、反応区域内へと落ち、分配板上に定着し、ここで、それらは流動化を妨害し、生成物排出ポートを塞ぎ、通常、反応器を洗浄のために強制的に停止させる。用語「不連続イベント」は、シーティング、チャンキング、もしくは分配板付着物によって引き起こされる重合反応器の連続稼働(運転もしくは操作)における途絶(中断)を表すために用いられる。用語「シーティング及び/又はチャンキング」は、本明細書において同義で用いられるが、流動床における過度な重合体粘着性によって引き起こされる問題の異なる現れ(しるしもしくは兆候)を表し得る。いずれの現れ(シーティング又はチャンキング)においても、過度の重合体粘着性は、反応器不連続イベント及び関連する製造損失に直結し得る。
【0022】
Process Analysis & Automation Limited(PAA)による二つの記事、すなわち、タイトル「Agglomeration Detection by Acoustic Emission(アコースティックエミッションによる凝集検出)」PAAアプリケーションノート、2002/111(著作権2000)、及び、タイトル「Acoustic Emission Technology - a New Sensing Technique for Optimising Polyolefin Production(アコースティックエミッションテクノロジー−ポリオレフィン製品を最適化するための新しい検出技術)」(著作権2000)は、反応器及び再循環配管のさまざまな位置に位置付けされるアコースティックエミッションセンサを利用したポリオレフィンの流動床製造におけるプロセス制御を提案する。これらの出版物は、樹脂粒子の粘着性を検出するのではなく、反応器内の大きい重合体凝集体(塊もしくはシート等)を検出する問題を解決すると主張し、また、たった一つの特定の例を提供し、工業用(実用もしくは商用)流動床反応器内の直径がほぼ1.5メートルの塊の検出を示す。重合体の粘着性もしくは凝集性(結合力)の検出については全く言及していない。実際には、該PAA文献は、抑制されないままでは凝集体の形成に至り得る樹脂粘着性の検出ではなく、凝集体が反応器で形成された後の該塊の検出を記述している。
【0023】
PCT出願公開番号WO03/051929号は、流動床反応器におけるシーティングの発生の始まり及び存在を検出する数学的カオス理論の使用を記述する。アコースティックエミッションセンサ、差圧センサ、静電気センサ、及び壁温度センサを含むある種類の機器からの信号は、「時系列」のデータを構成するためにある指定された方法によってフィルタ処理され、これは次いで、本明細書でカオス理論と呼ぶ非線形力学の方法によって処理され、シーティングを伴わずに稼働している制御反応器からのデータと比較される。シーティングの発生の始まりは、通常、時系列の「平均偏差」の低下を同時に伴う平均「サイクル時間」の増加(基準線、すなわち制御反応器に対する)によって示される。あるいは、シーティングの発生の始まりは、シーティングを伴わずに稼働している同様の反応器と比べての、時系列データの数学的「エントロピー」の減少によって示される。(用語「時系列」、「サイクル時間」、「平均偏差」、及び「エントロピー」は、本明細書中、カオス理論によって定義される計算パラメータを意味する。)この参考文献は、反応器内の樹脂が粘着性になると予測される状態を示すデータを生成するための(カオス理論に関連する複雑さに頼ることのない)センサ読取り値の処理、又は、最大製造速度のための極限冷却能力の限界付近での重合反応器の安全な運転を可能にするいかなる方法をも開示していない。
【0024】
ICAを用いながら粘着性の制御の複雑さが増すと、異なる重合体生成物は、それらのICA材料に耐える(許容する)能力が広範に変化し、あるものは比較的高い耐性(反応器内のICAの分圧で表現される)、例えば50psiaを有し、その一方、他の重合体はわずか5psiaの耐性であり得る。これら後者の重合体において、同様の条件下での熱伝達制限製造速度は実質的により低い。より均一なコモノマー組成分布を持つ重合体は、反応器内のICAの分圧に対してより高い耐性を有することが知られている。典型的なメタロセン触媒は、より均一なコモノマー組成を有する重合体を製造し得る触媒の好ましい例である。しかしながら、ある時点でこれらのメタロセン製造重合体でさえ、粘着性を誘発する限界ICA濃度に到達する。限界ICA濃度は、重合体タイプの他に、反応器温度、コモノマータイプ及び濃度を含むいくつかの因子に依存する。更に、すべて粘着性の発生の始まりに影響を及ぼす温度、ICAレベル及びコモノマーレベルの作用により、粘着が生じ始める時点の決定は、従来、困難であった。
【0025】
慣用の安全な運転の制約内でさえ、そのような反応器の制御は複雑であり、誰かがより大きい製造速度をもたらし得る新規の改良された稼働条件を発見したい場合、実験の困難性及び不確実性を更に高める。大規模な気相プラントは高コストで高い生産力がある。そのようなプラントでの実験に関連するリスクは、中断時間が高コストであるため大きい。そのため、コスト及びリスクに鑑みて、設計及び稼働限界を実験的に探求することは難しい。
【0026】
プラントの最適な設計、及び、ある一定のプラント設計における最適もしくは最大の製造速度のための望ましいプロセス条件の決定を助長する、ガス流動床重合のための、特に凝縮モードでの運転の場合の安定した稼働状態を決定(特定)する方法を提供することが望まれるであろう。
【0027】
従来の技術(例えば、米国特許第5,352,749号に記述されるような流動かさ密度の監視)よりも粘着性の発生の始まりの指標がより良好もしくはより迅速である、粘着性の発生の始まりを検出するための工業用気相反応器の機構を有することも望ましいであろう。そのような機構は、オペレータが、限界粘着性の状態が近付いている時点を決定することを可能にし、また、反応器を最大ICA濃度の状態もしくはこの状態付近に保ち、実質的に低リスクにてより高い製造速度を許容しながら、不連続イベント(シーティング及びチャンキング)が生じる前に是正措置を採ることを可能にするであろう。
【0028】
PCT出願公開番号WO2005/113615号及び、2005年12月1日付け公開の対応する米国特許出願公開第2005/0267269号は、それ未満では重合反応器内の樹脂が粘着性になることができない臨界温度の実験室での決定、及び、反応器を制御するための、この事前に設定した臨界温度の使用を記述する。これらの参考文献は、流動床反応器内で製造される重合体の「ドライ粘着温度」を、反応器が標準の圧力及びガス速度(しかし、標準気体成分ではなく実質的に純粋な窒素の存在下)で稼働している反応器容器のいずれかの面に凝集もしくは付着物が生じ始める温度、又は、床DP読取り値の帯域幅が少なくとも50%低下する温度のいずれか低い方と定義する(ここで、「床読取り値」は、流動床の底部及び頂部間の測定圧力差を意味する)。該文献は、「融点降下」を、反応器内の重合体の融点が、反応に用いられる凝縮性物(ICA及びコモノマー)の存在によって低下させられる温度と定義する。該文献はまた、製造される重合体のドライ粘着温度を決定するステップと、反応を監視することによってもたらされた反応パラメータ測定ではなく実験室測定(すなわち、製造され、液体又は液体混合物に浸漬される重合体のサンプルに対して実験室で行われた試験による)の結果として反応に対する融点降下を決定するステップと、ドライ粘着温度マイナス(引く)融点降下として定義された「臨界温度」未満の床温度で気相反応器プロセスを稼働させるステップとを含む方法を記述する。該文献は臨界温度未満の床温度での反応の実行は、高濃度の凝縮性物により樹脂の粘着性を除去することができることを教示する。
【0029】
Michael E. Muhle及びRobert O. Hagertyによって2005年9月14日付けで出願されたタイトル「Method for Operating a Gas-Phase Reactor at or Near Maximum Production Rates While Controlling Polymer Stickiness(重合体粘着性を制御しながら最大製造速度又はその付近で気相反応器を稼働させるための方法)」の米国特許出願第11/227,710号は、アコースティックエミッションセンサを用いて反応器の内容物のアコースティックエミッションの時系列の読取り値を生成することにより、樹脂粘着性の(重合反応器の稼働中の)監視を開示する。アコースティックエミッション測定値は、(関連した重合体を製造している)反応器の定常状態運転中にもたらされる。付加的なアコースティックエミッション測定値(反応器の稼働中にもたらされる)は、これらが、定常状態反応器運転を示すアコースティックエミッションから逸脱するか否かを決定するために処理される。そのような逸脱(偏差)は、反応器における重合体粒子の過度な粘着性の発生の始まりの指示(兆候)として扱われる。アコースティックエミッション測定値が定常状態反応器のアコースティックエミッション測定値から外れると決定した場合、是正処置が採られ得る(例えば、ICA及び/又は単量体レベル及び/又は反応器温度が調整せれ得る)。しかしながら、この出願は、その温度を超えると反応器内の樹脂が粘着性になると予測される基準温度の生成を教示していない。
【0030】
他の背景文献には、米国特許出願公開第2004/063871号、第2007/073010号、WO2005/049663号、WO2005/113610号、WO2006/009980号、及び、Ardell等の「Model Prediction for Reactor Control(反応器制御のためのモデル予測)」(Chemical Engineering Progress、米国化学技師協会、米国、第79巻、第6号(1983年6月))が含まれる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0031】
実施形態の類において、本発明は、流動床反応器内の重合体粘着性の程度を特徴付ける反応制御パラメータ、及び、このパラメータに基づいて、過度の樹脂粘着性の状態を回避するために反応器を制御する方法(プロセス)を提供する。本明細書中でΔMITと定義される該新規のパラメータは、樹脂粘着性に影響を及ぼすことが知られているすべての変数の影響(作用効果)を組み合わせて単一の変数とし、該変数は、過度な樹脂粘着性に関連する不連続問題を回避するように反応器内のプロセス状態(条件)を制御するための定量的基準として使用可能である。このプロセス制御パラメータはまた、最大製造速度のためのそのプロセス限界付近で反応器システムの稼働を可能にする反応器制御システムで使用され得る。
【課題を解決するための手段】
【0032】
ある実施形態において、本発明に係る方法は、
重合体樹脂を製造する流動床反応器内の重合反応中において、少なくとも反応器温度、重合体樹脂の少なくとも一つの樹脂特性(例えば、密度及びメルトインデックス)、及び、反応器内の少なくとも一つの凝縮性希釈ガスの濃度(例えば分圧)(例えば、反応器内のICA、コモノマー、及びコモノマーの少なくとも一つの異性体の分圧)を含む反応パラメータを測定する工程(a)と、
事前に設定した相関性を用いて、前記少なくとも一つの樹脂特性から、重合体樹脂の乾燥バージョンに対するドライ(乾燥)溶融開始温度(「ドライMIT」又は「MIT」)値(すなわち、樹脂の乾燥バージョンが溶け始めると予測される温度)決定する工程(b)と、
前記反応中において、オンライン形式で決定する温度降下モデルを用いて、工程(a)で測定したパラメータの少なくとも一つ、及び工程(b)で決定したドライ溶融開始温度値から、少なくとも一つの凝縮性希釈ガスの存在下における重合体樹脂に対する換算(低下)溶融開始温度(本明細書中「MITR」で表される)を決定する工程にして、前記モデルは、少なくとも一つの凝縮性希釈ガスの存在による重合体樹脂のドライMIT値の降下(低下)の推測される程度を特定する該工程(c)とを含む。好ましくは、MIT降下モデルは、フローリの式(フローリの式)を実行する。換算溶融開始温度は、重合体樹脂が反応器内において少なくとも一つの凝縮性ガスの存在下で溶け始めると予測される温度であり得る。パラメータMITRは、反応器内の樹脂が(凝縮性ガスの存在下で)溶け始める温度を特徴付けると考えられる。典型的に、MITRは、MIT−Dに少なくとも実質的に(おおむね)等しい。ここで、MIT(「溶融開始温度」)は、工程(b)で決定したドライMIT値であり、Dは、反応器内に樹脂と共に存在する少なくとも一つの凝縮性希釈ガスによるMIT降下の推定程度である。
【0033】
工程(b)及び(c)は、前記事前に設定した相関性すなわち前記モデルに従って準備した一つ又は複数のルックアップテーブル(参照表)にアクセスすることを含む種々の方法のいずれかで実行され得る。
【0034】
ある実施形態において、ドライMIT値は、標準の圧力及びガス速度で(反応中に反応器内に実際に存在する任意のかなりの量の凝縮性希釈ガスではなく実質的に純粋な窒素の存在下で)稼働している反応器内において重合体樹脂が溶け始めると予測される温度である。
【0035】
典型的に、ドライMIT値は、ドライMIT値対重合体特性(例えば、密度、MI等)の相関性を用いて、反応器内の特定の重合体に対して工程(b)で決定される。該相関性は、反応器で製造されると考えられる重合体の(密度、MI等が異なる)全種類に対して事前に求めたドライMIT値から発展される。重合体特性(密度、MI等)は、該相関性に対する入力として与えられ、ドライMIT値は出力として与えられる。
【0036】
あるいは、ドライMIT値は、ドライMIT値のデータベースを用いて反応器内の特定の重合体に対して工程(b)で決定され得る。該データベースには、反応器で製造されると考えられる重合体の全種類に対して事前に求めたドライMIT値が投入される。重合体特性(密度、MI等)は、データベースに対する入力として与えられ、ドライMIT値は出力として与えられる。ドライMIT値は、後述するDSC(示差走査熱量測定)測定値から求められ得る。
【0037】
好ましくは、工程(a)〜(c)は、一連のMITR値を生成する反応中において繰り返し(例えば継続ベースで)実行される。MITRの計算値は、現在の反応条件下で流動床内の重合体の顕著な溶融が生じ始めるであろう温度の表示(又は推定)として採用され得る。該方法はまた、好ましくは、過度な樹脂粘着性の状態を回避するため、反応の制御のため(例えば、反応器におけるオンラインMITR値を、事前に設定した限界値又は値の範囲との事前に設定した関係に維持するため又は維持することを試みるため)の定量的な基準として(現在反応器データを用いてオンラインで計算された)現在MITR値を使用する工程を含む。
【0038】
典型的に、上述した三工程方法はまた、
(d)工程(c)で決定した換算溶融開始温度及び反応器温度の現在値から反応器における樹脂粘着性を示す温度値を決定する工程を含む。
【0039】
好ましくは、上述した三工程方法はまた、
(d)工程(c)で決定した換算溶融開始温度及び反応器温度の現在値から反応器における樹脂粘着性を示す温度値をオンライン形式で決定する工程を含む。
【0040】
ある実施形態において、工程(d)で生じた温度値は温度値ΔMITであり、該ΔMITはTrx−MITRに少なくとも実質的に等しい。ここで、Trxは、現在反応器温度であり、MITRは工程(c)で決定した換算溶融開始温度である。他の実施形態において、工程(d)で生じた温度値は、流動床における樹脂粘着性の程度を表示する温度値である。
【0041】
好ましくは、工程(a)〜(d)は、反応器における樹脂粘着性を示す一連の温度値(例えば、ΔMITの経時変化(時間の経過と共に変化する)値を示す一連のΔMITの値又はデータ)を生成する反応中において繰り返し(例えば継続ベースで)実行される。該方法はまた、
(e)反応器における容認できない樹脂粘着性を防ぐため(例えば、現在オンラインΔMIT値を、事前に設定した限界温度値又は値の範囲との事前に設定した関係に維持するため)、反応器における樹脂粘着性を示す前記一連の温度値に応じて反応を制御する工程を含む。工程(e)において制御される反応がメタロセン触媒(後述され、本明細書中「触媒A」と称される)を用いるポリエチレン重合反応である本発明のある実施形態では、工程(d)で生じた温度値は、Trx−MITRに少なくとも実質的に等しい温度値ΔMITであり、工程(e)は、ΔMITが事前に設定した限界範囲5℃〜6℃内(又は事前に設定した限界値6℃〜7℃未満)にあるように反応パラメータを維持する(もしくは維持するように試みる)。典型的に、MITRは、MIT−Dに少なくとも実質的に等しい。ここで、MIT(「溶融開始温度」)は、工程(b)で決定したドライMIT値であり、Dは、反応器内に樹脂と共に存在する少なくとも一つの凝縮性ガスによるMIT降下の推定程度である。
【0042】
典型的な実施形態において、工程(d)で決定される温度値(例えば、ΔMITの現在値)は、過度な樹脂粘着性に関連する不連続問題を回避するように反応器におけるプロセス状態を制御するための定量的基準として用いられる。例えば、工程(d)で生じた温度値が、Trx−MITRに少なくとも実質的に等しい温度値ΔMITである場合、ΔMIの現在値は、該反応に特有(固有)の事前に設定した限界値よりも大きいΔMIT値、又は、反応に用いる特定の触媒に特有の事前に設定した限界範囲外のΔMIT値を作り出すプロセス状態を回避するように、反応器のプロセス状態を制御するための定量的基準として使用可能である。
【0043】
工程(d)で決定した温度値は、反応器製造速度を最大にするための基準としても使用可能である。例えば、工程(d)で生じた温度値がTrx−MITRに少なくとも実質的に等しい温度値ΔMITであり、かつΔMITの限界(最大)値が5℃〜6℃の範囲内にある場合、該反応は、2℃〜5℃の範囲内の比較的高い(しかし依然として安全な)ΔMITの値で進行するため、フィードバックとしてΔMITの現在値を用いて制御され得る。これは、最大安全凝縮モード冷却能力及び最大製造速度を提供することができる。
【0044】
流動床反応移行(遷移)(例えば、異なる重合体グレードへの移行)中、反応器の状態は、異なる密度及び/又はメルトインデックスの新規な重合体グレードを製造するために調整され得る。ほとんどの場合、プロセス状態における調整はかなり迅速になされ得るが、流動床が該新規な樹脂の特性へと切り替わる(移行する)ためにかなりの時間が必要である。完全な移行をもたらすのに必要な時間は、一般に、三又は四床ターンオーバー(回転)である。反応移行中、床平均特性(例えば、樹脂密度及びメルトインデックス)は、現在製造中の樹脂(「瞬時生成物」)の特性に等しくない。そのため、工程(d)において二つの異なる温度値、すなわち、床平均樹脂の特性により計算されるものと、瞬時生成物の特性により計算されるものとを決定することが可能である。(過度な樹脂粘着性を伴わない)信頼できる運転のため、両温度値は、反応器に特有の限界値未満又は限界値範囲内でなければならない。
【0045】
好ましい実施形態は、定常状態重合反応の床平均パラメータに基づいて換算溶融開始温度値(及びΔMIT値)を生成し、これらを使用して、定常状態反応を特徴付けかつ制御する。そのような反応の移行中、好ましい実施形態は、瞬時反応パラメータに基づいて換算溶融開始温度値(及びΔMIT値)を生成し、これらを使用して、移行中に該反応を特徴付けかつ制御する。例えば、定常状態反応は、臨界(又は限界)ΔMIT値に比較的近いΔMIT値で進行するように制御可能である。しかしながら、そのような反応の移行中、該反応は、一般に、臨界ΔMIT値からより遠いΔMIT値(本発明に従って瞬時樹脂密度及びMI値により決定される)で進行するように制御されるべきである。好ましくは、安全性及び信頼性がより高く、樹脂粘着性を伴わない運転のため、反応は、「ΔMITave」温度(現在反応器温度と基準温度(基準温度を超えると、反応器内の床平均樹脂特性を有する樹脂が粘着性になると予測される)との間の差を表す)も「ΔMITinst」温度(現在反応器温度と基準温度(基準温度を超えると、反応器内で現在製造中の樹脂が粘着性になると予測される)との間の差を表す)も事前に設定した限界を超えず、又は事前に設定した範囲を出ないように制御されるべきである。ΔMITaveに対する事前に設定した限界又は範囲は、ΔMITinstに対する事前に設定した限界又は範囲とは異なり得る。
【0046】
ΔMIT値(本発明に従って生成した)が臨界ΔMIT値を超えるのを(又は、臨界ΔMIT範囲を逸脱するのを)防ぐために反応を制御する際、反応器温度又はICA濃度は、ΔMIT値を許容範囲内に戻すように調整(一般に低下)され得る。応器器温度Trxの調整は、関連する比較的迅速な応答時間のため、一般に好ましい。例えば、ΔMITの計算値が1℃だけ高すぎる場合、1℃の反応温度の低減が数分以内に該ΔMITを範囲内に戻すであろう。あるいは、過度に高いΔMIT値は、反応器内のICAの濃度(又は分圧)を低下させることにより修正され得る。これは、例えば、反応器へのICA供給速度を低下させることにより、又は反応器からのベンティング(抜く/逃がす)速度を高めることによって行われ得る。いずれの場合も、ICA濃度(又は分圧)の変化の速度は比較的遅く、所期の変化をもたらすのに通常数時間を要する。この理由のため、反応器温度の調整は一般に好ましい。
【0047】
典型的な実施形態において、工程(b)で用いられる、ドライMIT値と樹脂特性(密度及びMI)との間の事前に設定した相関性は、反応器内において製造され得る重合体樹脂の異なるタイプ又はグレードの見本(典型)セットを用いて実験室データから発展される。そのような実施形態において、ドライ溶融開始温度が、いくつかの異なる方法のいずれかで決定もしくは定義され得ることが企図される。好ましくは、上記セットにおける重合体の重合体密度及びメルトインデックスは、該方法で用いられる各触媒タイプに対して製造可能な重合体密度値及びメルトインデックス値の全範囲に及ぶ。該測定データは、次いで、重合体密度、メルトインデックス及び触媒タイプ(必要な場合)の関数としてのドライ溶融開始温度の数学的相関性を提供するため、一般に分析(及び回帰)される。あるいは、ドライ溶融開始温度データは、事前に設定したデータベース(「溶融参照(基準)データベース」)又はルックアップテーブルの形態で提供される。該データベース又はルックアップテーブルは、測定した密度及び/又はメルトインデックスを有する重合体樹脂のためのドライ溶融開始温度を決定するためにアクセス可能である。該データベースは、好ましくは、反応器で製造される重合体の各グレードの乾燥バージョンに対するドライ溶融開始温度データを含むであろう。
【0048】
好ましい実施形態において、工程(b)で用いられる事前に設定した相関性は、反応器で製造され得る重合体樹脂の異なるタイプ又はグレードを表すサンプル群について実験室で測定される第1溶融DSC曲線から発展される。適切なDSC(示差走査熱量測定)データは、当業者によく知られている標準方法によっ取得され得る。しかしながら、「第1溶融」データ、すなわち、予め溶けていなかった粒状重合体サンプルからのデータを用いることが好ましい。何故なら、これらのサンプルは、重合体が反応器内に存在する際、該重合体を最も良く表すと考えられるからである。第1溶融DSC測定値から決定したドライ溶融開始温度の測定値は、低密度ポリエチレンサンプル群に対する表1において後述される。これらの測定の結果は、式:MIT=763.4ρ−1.7524・ln(MI)−6006.09によって相互に関連付けられた。ここで、ρは、重合体の密度(g/cc,ASTMを単位にして)を表し、MIは、重合体のメルトインデックス、I2(dg/min、ASTMを単位にして)を表す。この式は、表1に明確に挙げられていない重合体に対するドライ溶融開始温度を事前に決めるために本発明のいくつかの実施形態で使用される。
【0049】
換算溶融開始温度を決定する工程(c)を実行するため、適切な技術方法及び相関性が使用されるべきである。典型的に、換算溶融開始温度は、反応器床温度反と応器内のコモノマー濃度及び希釈剤濃度との関数として決定される。周知のフローリの式を用いて換算溶融開始温度を決定するための(多くの用途に適した)方法が後述される。該方法は、反応器内の凝縮性ガス濃度の測定値(反応器内のコモノマー、ICA、及び任意の他の凝縮性不活性物)と、重合体溶融曲線及びMITにおける予測される降下(又は低減)を計算する、重合体における炭化水素の溶解度のための式とを用いる。該方法を用いて、本発明者は、MIT降下の推定程度が、一般に、凝縮性希釈ガス分圧の変化によって変わり、かつ、高ICA濃度による凝縮モード運転で製造される典型的なメタロセン樹脂生成物では15〜16℃程度の高さでりあり得ることを見出した。
【0050】
ある実施形態において、工程(d)で生じた温度値は温度値ΔMITであり、工程(e)は、ΔMITの現在値を事前に設定した限界温度値(又は値の範囲)未満に維持する(又は維持するように試みる)ように反応を制御する工程を含む。該限界温度値又は範囲は、反応器温度を、ドームシート、壁シート、及び分配板の急速な付着物の形成と相互に関連付ける履歴反応器データを用いて事前に設定され得る。異なる事前に設定し限界温度値(又は範囲)は、工程(b)、(c)及び(d)が実行される特定の態様に応じて使用され得る。これは、測定及び計算の首尾一貫した方法が初めから終わりまで用いられる限り、本発明の実施形態の実行に問題を提起しない。本発明者が行った実験において、メタロセン触媒(後述される「触媒A」)を用いたポリエチレン重合反応からの履歴データは、ΔMITの現在値が、約5℃〜約6℃の範囲の限界値を超える場合に粘着性の状態が生じること示した。上記限界値を超えるΔMITの現在値では、履歴データは、連続性問題(ドームシーティング、壁シーティング、及び分配板付着物)が、この触媒により発生する可能性があることを示した。
【0051】
ある実施形態において、工程(d)で生じた温度値は、Trx−MITRに少なくとも実質的に等しい温度値ΔMITであり、ΔMITの現在値の稼働時計算(running calculation)は、反応が進行する間、プロセス制御コンピュータで動作するアプリケーションソフトウェアによって供給される。プロセスデータ(床温度、ICA、コモノマー、異性体分圧、樹脂密度、及び、メルトインデックス)の現在値は、アプリケーションソフトウェアに対する入力として与えられる。樹脂密度及びメルトインデックスの現在値に基づき、該アプリケーションソフトウェアは、ドライMIT値と樹脂密度及びメルトインデックスとの間の事前に設定した相関性からドライMIT値を決定する。ICA、コモノマー、異性体分圧、樹脂密度、及びメルトインデックス(及びドライMIT値)の現在値に基づき、該アプリケーションソフトウェアはまた、換算溶融開始温度MITRを決定する。結果として生じたΔMITの稼働時計算は、反応器における限界粘着性の状態に近付く程度の要求稼働時推定を提供する。ある反応では、限界粘着性の状態は、現在ΔMIT値が5℃〜6℃の範囲における限界値を超えた場合に生じる。
【0052】
典型的な実施形態において、プロセス状態は、工程(d)で生じた(限界値よりも大きい(又は事前に設定した限界値範囲外の))ΔMIT値による稼働を回避する必要に応じて調整される。工程(d)で生じたΔMIT値が限界値(例えば、後述されるメタロセン触媒Aを用いたいくつかのポリエチレン重合反応の場合、5℃〜6℃の範囲の値)に近付くか、又は限界値範囲の限界に近付く場合、過度な樹脂粘着性を回避するために制御動作が採られ得る。これらの制御動作は、反応器床温度の低減、ICA分圧の低下、モノマー分圧の低下、樹脂密度の増長、又はこれら四つの任意の組合せを含む。
【0053】
典型的な実施形態において、プロセス状態は、高い凝縮モード製造速度にて安全な運転を可能にするために調整される。工程(d)で生じた現在ΔMIT値が限界値よりも著しく下にある(又は限界値範囲に申し分なく入っている)場合、該システムの最大伝達能力を高めるため、変更が反応器プロセス状態になされ得る。これらの動作は、反応器床温度の増長又はICA分圧の増長を含み得る。高められた反応器温度は、付加的な反応器冷却のために(冷却水温度に対して)より高い温度差動を提供することができる。高められたICA分圧は、より高い反応器ガス露点温度、及びこれに対応して、反応器入口ガスストリームにおけるより高い凝縮レベルを提供することができる。
【0054】
一実施形態において、本発明は、反応器稼働(反応器運転もしくは反応器動作)を監視し、過度な樹脂粘着性が引き起こす問題を回避するように反応器稼働を制御する方法である。特定のプロセス変数(例えば、反応器温度、ICA、コモノマー、異性体分圧、樹脂密度、及びメルトインデックス)の現在値が測定され、該現在値は、反応器における樹脂粘着性を示す温度値(ΔMIT)を決定するため、事前に設定した数学的相関性により用いられる。ΔMITの現在値は、以前決定した限界値又は値の範囲と比較される。現在ΔMIT値が限界値に近付く(又は、値の限界範囲の終点に近付く)場合、現在ΔMIT値を低下させて限界値を回避し(又は値の限界範囲から出ることを防ぎ)、これにより過度の粘着性からもたらされるであろう不連続問題を回避するため、変更が反応器プロセス状態においてなされ得る。該制御動作は、反応器温度(すなわち反応器床温度)の低減、ICA分圧の低下、コモノマー分圧の低下、樹脂密度の増長、又はこれら四つの任意の組み合わせを含み得る。
【0055】
別の実施形態において、本発明は、反応器稼働を監視し(オンラインベースで監視データを生成することによるものを含む)、過度な樹脂粘着性が引き起こす問題を回避するように反応器稼働を制御する(オンランインベースで反応制御データを生成することによるものを含む)方法である。プロセス変数(例えば、反応器温度、ICA、コモノマー、異性体分圧、樹脂密度、及びメルトインデックス)の特定のプロセス現在値は、オンラインベースで測定され、反応器における樹脂粘着性を示す温度値(ΔMIT)を決定するため、事前に設定した数学的相関性により使用される。ΔMITの現在値は、予め決定した限界値又は値の範囲と比較される。現在ΔMIT値が限界値に近付く(又は値の限界範囲の終点に近付く)場合、現在ΔMIT値を低減して限界値を回避し(又は、値の限界範囲から出ることを防ぎ)、これにより、過度の粘着性からもたらされるであろう不連続問題を回避するため、変更が反応器プロセス状態においてなされ得る。該制御動作は、反応器温度(すなわち反応器床温度)の低減、ICA分圧の低下、コモノマー分圧の低下、樹脂密度の増長、又はこれら四つの任意の組合せを含み得る。
【0056】
別の実施形態において、本発明は、反応器稼働を監視し(オンラインベースで監視データを生成することによるものを含む)、過度な樹脂粘着性が引き起こす不連続問題を依然として回避しながら最大反応器製造速度にて安全な稼働を可能にするため、反応器稼働を制御する(オンラインベースで反応制御データを生成することによるものを含む)方法である。この場合、特定のプロセス変数(例えば、温度、ICA、コモノマー、異性体分圧、樹脂密度、及びメルトインデックス)の現在値が測定され、該現在値は、反応器における樹脂粘着性を示す温度値(ΔMIT)を決定するため、事前に設定した数学的相関性により用いられる。ΔMITの現在値は、以前決定した限界値又は値の範囲と比較される。現在ΔMIT値が限界値よりも著しく下にある(又は値の限界値範囲の終点から著しく遠い)場合、該システムの最大熱伝達能力を高めるため、変更が反応器プロセス状態においてなされ得る。これらの動作は、反応器床温度の増長又はICA分圧の増長を含み得る。高められた反応器温度は、付加的な反応器冷却のために(冷却水温度に対して)より高い温度差動を提供することができる。高められたICA分圧は、より高い反応器ガス露点温度、及びこれに対応して、反応器入口ガスストリームにおけるより高い凝縮レベルを提供することができる。
【0057】
他の実施形態において、本発明は、グレード移行中に反応器状態を制御するための改良された方法を提供する。これは、高い密度グレードから非常に低い密度重合体グレード(VLDPE)への移行中において特に重要である。何故なら、該VLDPEに対する樹脂溶融温度及び樹脂付着(粘着)温度が非常に低いからである。これらの移行を成し遂げるため、反応器は、より低い反応温度、より低いICA濃度、より低い製造速度、及びより低い樹脂密度へと調整されなければならない。商業運転において、これら四つの変数は、過度なねばねばした(粘着性の)重合体の形成をもたらすであろう状態を回避しながら不良材料の製造を最小にするため、迅速に変更されなければならない。本発明の実施形態は、重合体付着温度に対するこれら変数各々の影響を統合し、過度な樹脂粘着性及び、起こり得る不連続問題(シーティング、板付着物、及び/又はチャンキング)を回避するように反応器移行の経路を案内することを可能にする。反応移行中、床平均特性(例えば、樹脂密度及びメルトインデックス)は、現在製造中の樹脂(「瞬時生成物」)の特性とは等しくない。そのため、樹脂粘着性を示す二つの異なる温度値、すなわち、床平均樹脂特性により計算される温度値と、瞬時生成物の特性により計算される温度値を(例えば本発明の方法の工程(d)において)決定することが可能である。(樹脂粘着性を伴わない)信頼性の高い運転のため、両温度値は、反応に特有の限界値未満又は反応に特有の限界値範囲内でなければならない。
【図面の簡単な説明】
【0058】
【図1】図1は、流動床反応器(10)を含む反応システムの簡易化した断面図であり、該システムの動作は、本発明に従って制御され得、また、随意的に制御もされ得る。
【図2】図2は、制御変数MITR及びΔMITを計算するためのプロセスを実行するための図1のシステムのいくつかの構成要素及び付加的な構成要素のブロック図である。これらのパラメータは、反応システムからのオンラインデータを用いて計算され得、また、流動床における樹脂粘着性程度のリアルタイム見積もりを提供するために用いられ得る。
【図3】図3は、重合体に対する測定データ及び表1の第6行に挙げた触媒から生成した第1溶融DSC曲線である。97.4℃のドライMIT値は、該図に示すDSC曲線の初期変曲点から決定される。
【図4】図4は、図3のDSC曲線と別の第1溶融DSC曲線を示し、該別の第1溶融DSC曲線は、図3のDSC曲線をより低い温度値へとずらした(又は「押し下げた」)状態における溶解炭化水素の影響を示す。該溶解炭化水素も、MITのより低い値(MITRで表される)への低下をもたらす。MIT値(D)のこの移動(又はずれ)は、フローリの式を用いて計算される。
【図5】図5は第1溶融DSC曲線であり、反応器温度(Trx)と溶融開始温度の移動値MITRの差として制御変数ΔMITを計算する例を表す。
【発明を実施するための形態】
【0059】
その稼働(運転もしくは動作)が本発明に従って監視可能でかつ随意的に制御も可能な反応器システムが図1を参照して記述される。図1のシステムは流動床反応器10を含む。反応器10は、底端部11と、頂部拡張区域19と、底端部11と頂部拡張区域19との間の円筒(直線状)区域14と、区域14内の分配板12とを有する。粒状重合体及び触媒粒子の流動床15は、直線状区域14内に収容される。床は、分配板12を通る再循環ガスの定常流によって流動化される。流動化ガスの流量は、図示されるように流動床に比較的良好な混合を与えるために調整される。
【0060】
反応器システムはまた、流動床反応域に対する重合触媒の制御された追加のための触媒フィーダ9を有する。反応域(すなわち流動床)内において、触媒粒子は、エチレン及びコモノマー、更に随意的に他の反応ガスと反応して、粒状重合体粒子を作り出す。新たな重合体粒子が生成されるにつれ、他の重合体粒子は生成物排出システム(図示せず)を通じて流動床から連続的に引き出される。生成物排出システムを通過した後、重合体顆粒は、溶解炭化水素材料の実質的にすべてを除去するため、不活性窒素の流れによりガス抜き(もしくは「パージ」)される。
【0061】
図1の反応器システムはまた冷却制御ループを有し、該ループは、図示のように反応器10に連結される再循環ガスライン31、循環ガスクーラー30及び圧縮機32を含む。運転中、クーラー30からの冷却された循環ガスは、入口34を通って反応器10内へと流れ、次いで、床を通って上方へと伝搬し、出口33を介して反応器10から出る。
【0062】
拡張区域19は「減速域」としても知られており、流動床からの粒子同伴の量を最小にするように設計される。拡張区域19の各水平断面の各直径は、直線状区域14の直径よりも大きい。直径の増長は、流動化ガスのスピードの低下をもたらし、これは、ほとんどの同伴粒子(触媒及び樹脂粒子)が流動床内へ沈降することを可能にし、これにより、流動床から再循環ガスライン31を通って「持ち越し(キャリーオーバー)」される固体粒子の量(ある一定の流動化ガス速度値においての)を最小化する。
【0063】
一つ又は複数の温度センサ16が流動床に設置され、制御システム(図1には示さないが、該制御システムは図2のプロセッサ50を含み得る)、及び流動床温度Trxをプロセスセットポイント付近に冷却する外部冷却ループにより使用され得る。比較的暖かい反応器ガス(これらの温度は反応器10を通る間に高められている)は出口33から抜かれ、圧縮機32によるポンプ動作によりクーラー30へと送られ、ここで該ガス(冷却流体)の温度は低減される。クーラー(該クーラーは凝縮された液体を含み得る)からの比較的冷たい(クールな)流体は、反応器入口34へと流れて流動床を冷却する。クーラー30の入口及び出口付近の温度センサ(図示せず)は、クーラー30が反応器に入る流体の温度を下げる分だけ量を調整するため、制御システムへフィードバックを供給し得る。
【0064】
図1のシステムはまた、反応器壁の直線状区域14に沿う(複数)位置に、反応器壁から床内部へと小量(例えば、8分の1インチ〜4分の1インチ)だけ突出するように取り付けられた「外板(skin)温度」センサ8を含む。センサ8は、運転中、反応器10の壁付近の樹脂の温度Twを検出するように構成及び配置される。
【0065】
流動床における一つ又は複数の温度センサ16は、反応器稼働中、反応器10内の反応器壁から離れた位置の床温度を検出するように配置され設計された少なくとも一つの抵抗温度センサを含み得る。該抵抗温度センサは、センサ8よりも深く(床内に突出する例えば、反応器壁から8インチ〜18インチ離れる)ように配置され得る。
【0066】
他のセンサ、及び随意的に他の装置も、重合反応中、他の反応パラメータを測定するために使用され得る。そのような他の反応パラメータは、好ましくは、瞬時及び床平均樹脂生成物特性(例えば、重合反応中に図1のシステムが製造している重合体樹脂生成物のメルトインデックス及び密度)を含む。樹脂生成物特性は、樹脂が反応器を出る際に周期的に樹脂をサンプリングし、(例えば1時間に1回)、品質管理実験室で適切な試験を実行することにより、慣用的な方法で測定される。
【0067】
他の測定される反応パラメータは、好ましくは、反応器ガス組成、例えば、すべての反応ガス及び誘導縮合剤(ICA)、並びに関連する量で存在するすべての不活性ガス(例えば、窒素、炭化水素不活性物等)の濃度(及び分圧)を含む。反応器ガス組成は、ガスクロマトグラフシステム40を用いて測定され得る。
【0068】
図1のシステムが実行する種々の反応を制御するため、種々のプロセス制御変数をどのように制御するか(例えば、反応器10内の気相組成、反応器10内に導入された誘導縮合剤(ICA)及びコモノマーの濃度、反応器内に導入された少なくとも一つの反応物質(例えばエチレン)の分圧、及び、反応器10内に導入された各触媒のタイプ及び特性を制御するため、及び、温度を制御するため上述した態様で構成要素30及び32を使用するため)はよく知られている。例えば、生成物(粒状重合体樹脂)が移行の開始時に設定した初期仕様に準拠する特性を有する;移行中に製造される生成物が最初に設定した初期仕様に準拠することを止める;及び、生成物が移行の最後に設定した最終仕様に準拠する特性を有するように、プロセス制御変数を制御することにより、該移行中に重合反応をどのように制御するかはよく知られている。
【0069】
本発明の典型的な実施形態において、重合反応器が実行する反応(例えば、定常状態反応及び/又は反応移行)は、本発明に従って決定された少なくとも一つの新規な制御変数に応じて制御プロセス変数を調整(もしくは加減)することによって制御される。本発明の該一つ又は複数の新規な新規な制御変数(これは、本明細書中で定義したMITR及びΔMITを典型的に含む。)は、反応パラメータを測定するセンサ(及び随意的に他の装置)の出力に基づいてが決定される。図2のプロセッサ50は、反応中に測定される反応パラメータ(例えば、温度センサ16の出力、樹脂特性(密度及びMI)、及び、プロセスガスクロマトグラフ40によって決定されるパラメータ)に応じて、本発明の任意の実施形態に従ってそのような新規な制御変数を発生させ、かつ、これらの温度値に応じて反応を制御するようにプログラムされたプロセッサの例である。プロセッサ50は、別個のスタンドアロンプロセッサであり得、あるいは、反応器システムの監視及び制御に慣用的に使用される他の制御コンピュータと一体化され得る。
【0070】
図3〜5を参照して本発明のいくつかの実施形態が記述される。図3は、表1の6行に記載される(表1の6行に挙げた触媒を用いて重合により製造した)重合体に対する測定データから生成した第1溶融DSC曲線を示す。溶融開始温度MITは、溶融の急速な発生の始まりとして採られる。定量値は、図示のように二つの接線の交点として図表から取得され得る。この特定の重合体では、ピーク溶融温度は116.1℃と測定され、MITは97.4と測定された。
【0071】
図4は、重合体溶融曲線の移動(又は「ずらし」もしくは「押し下げ」)における溶解炭化水素の影響(効果)を例示する。これらの溶融成分、主として溶融コモノマー及びICAの影響は、溶融曲線全体(図3に示され、図4にも破線で示される)をより低い温度に向けてずらすと現在作業において想定され、その結果としてのずれた曲線が図4に示される。重合体ピーク溶融温度は、MITと共に下方に移動される。移動(ずれ)の量は(温度℃を単位として)Dで表され、フローリの式及び、重合体における凝縮性炭化水素の溶解度に対する適切なデータ(又は相関性)を用いて計算される。MITの移動値は、MITRで表される。
【0072】
図5は、制御変数ΔMITの計算を例示する。これは、ΔMIT=Trx−MITRとして計算され、反応器床温度がMITの移動値を超える(又は「オーバーラップする」)分の程度を示す。ΔMITの物理単位は摂氏の温度である。ΔMITは、樹脂粘着性に影響を及ぼすすべての既知のプロセス変数(例えば、樹脂密度及びMI、反応器温度Trx、及び、炭化水素濃度及び溶解度)を単一の変数へと合併(併合)させる。該単一の変数は、(反応中)オンラインで監視可能であり、過度の粘着性に関連する問題を防止するか、及び/又、反応器製造速度を最大にする反応器の制御のための基準として使用可能である。ΔMITの限界値は粘着性の限界値に対応し、また、異なる触媒系に対して異なり得る。触媒A(後述するメタロセン触媒)によって製造する重合体では、ΔMITの限界値は6〜7℃の範囲にあると割り出された。
【0073】
本発明の実施形態は、反応の少なくとも一つのパラメータから、及び、フローリの式に基づく事前に設定した溶融開始温度降下モデルを用いて、重合反応中、反応器内における樹脂と共に少なくとも一つの希釈剤(例えば、ICA、コモノマー、コモノマーの少なくとも一つの異性体)の存在による重合体樹脂に対するドライ溶融開始温度の降下の推定程度を決定する。上述したように、気凝縮性希釈剤(例えば、コモノマー及び縮合剤、及びコモノマーの異性体)の存在は、相重合反応器内の重合体樹脂(例えばポリエチレン)のドライ溶融開始温度を低下させる。ドライ溶融開始温度の降下の大きさは、換算溶融開始温度を反応温度付近にするのに十分なものであり得る。重要な実施形態で使用されるモデルは、重合体樹脂の乾燥バージョンのドライ溶融開始温度(これ自体は、樹脂メルトインデックス及び密度との事前に設定した相関性によって一般に決定される)と、重合体樹脂が製造されている間、該樹脂と共に存在するかなりの量の希釈剤成分(典型的に可溶性炭化水素)の存在下にある該重合体樹脂の換算溶融開始温度とに関連する。該モデルに従って、反応器温度及び、希釈剤成分の濃度、溶解度及び液体濃度(比重)を示すデータを処理することにより、ドライ溶融開始温度から本発明に従って換算溶融開始温度が決定され得る。該モデル(時には、本明細書中で溶融開始温度降下モデルもしくはMIT降下モデルと称される)は、樹脂粘着性を招くプロセス状態の組合せの監視を提供するため、スタンドアロンコンピュータ又は慣用のプラントDCSシステム内に容易にプログラム可能である。これは、粘着性を避けると共にシーティングインシデントの可能性を低減するため、運転が反応器状態を調整することを可能にする。
【0074】
本発明の他の実施形態は、オンラインベースで測定される反応の少なくとも一つのパラメータから、及び、フローリの式に基づく事前に設定した溶融開始温度降下モデルを用いて、重合反応中、反応器内の樹脂と共に少なくとも一つの希釈剤(例えば、ICA、コモノマー、及びコモノマーの少なくとも一つの異性体)の存在による重合体樹脂に対するドライ溶融開始温度の降下の推定程度を決定する。上述したように、凝縮性希釈剤(例えば、コモノマー及び縮合剤、及びコモノマーの異性体)の存在は、気相重合反応器内の重合体樹脂(例えば、ポリエチレン)のドライ溶融開始温度を低下させる。ドライ溶融開始温度の降下の大きさは、換算溶融開始温度を反応温度付近にするのに十分なものであり得る。重要な実施形態で使用される該モデルは、重合体樹脂の乾燥バージョンのドライ溶融開始温度(これ自体は、樹脂メルトインデックス及び密度との事前に設定した相関性によって一般に決定される)と、重合体樹脂が製造されている間、該樹脂と共に存在するかなりの量の希釈剤成分(典型的に可溶性炭化水素)の存在下にある該重合体樹脂の換算溶融開始温度とに関連する。該モデルに従って、反応器温度及び、希釈剤成分の濃度、溶解度及び液体濃度(比重)を示すデータを処理することにより、ドライ溶融開始温度から本発明に従って換算溶融開始温度が決定され得る。該モデル(時には、本明細書中で溶融開始温度降下モデルもしくはMIT降下モデルと称される)は、樹脂粘着性を招くプロセス状態の組合せの監視を提供するため、スタンドアロンコンピュータ又は慣用のプラントDCSシステム内に容易にプログラム可能である。これは、粘着性を避けると共にシーティングインシデントの可能性を低減するため、運転が反応器状態を調整することを可能にする。
【0075】
重要な実施形態は、製造されている重合体樹脂の乾燥バージョンに対するDCS(示差走査熱量測定)溶融曲線を好ましくは特徴付けることにより、該製造されている重合体樹脂に対するドライ溶融開始温度を決定する工程と、反応器内で製造されている該樹脂と共に実際に存在する凝縮性希釈剤成分の存在によりドライ溶融開始温度が低下する分だけの量を推定する(見積もる)工程とを含む。そのようなDSC溶融曲線を特徴付けることにおいて、DSC溶融曲線における変曲点がドライ溶融開始温度(MIT)として一般に定義される。フローリの式を用いて、これらの実施形態は換算溶融開始温度(MITR)を決定し、該換算溶融開始温度において、反応器内の樹脂は、反応中に該樹脂と共に存在する凝縮性希釈ガス(例えば、可溶性炭化水素)の存在下で溶け始める。換算溶融開始温度MITRはMIT−Dに少なくとも実質的に等しい。ここで、MITはドライ溶融開始温度であり、Dは、反応器内の可溶性希釈剤ガス成分によってもたらされるMIT降下の推定程度である。
【0076】
ドライ溶融開始温度の降下Dを推定するための方法論は、フローリの式、及び重合体樹脂における蒸気溶解度に対する既存のモデルに基づき得る。重要な実施形態は、一般に、反応器温度が(低下した)溶融曲線とオーバーラップする程度を定量化し、かつ樹脂粘着性の程度を定量化するため、単一の計算パラメータすなわちΔMITを決定する。該ΔMITは反応器温度TrxとMITとの差である。
【0077】
本明細書中、重合体樹脂の乾燥バージョンに対する表現「DSC溶融曲線」は、熱がドライ(乾燥)樹脂のサンプルによって吸収される速度(例えば、mcal/secを単位にしての)と、該サンプルについての示差走査熱量測定の測定値から得たDSC溶融曲線データから決定される該サンプルの温度との間の実験的に突き止めた関係を意味する。DSC溶融曲線の二つのタイプは、「第1溶融」曲線と「第2溶融」曲線である。第1溶融曲線は、予め溶融されていないサンプルについての測定値によって決定される。第2溶融曲線は、サンプルがDSCを通じての第1スキャンにおいて溶解されており、次いで冷却されて周囲温度に戻され、次いで第2DSC試験のためにゆっくりと再加熱されるという意味で、予め溶融されているサンプルについての測定値によって決定される。本発明の好ましい実施形態に使用されるDSC溶融曲線は第1溶融曲線であり、それは、第1溶融データが、重合反応器内に重合体樹脂が存在する際の該重合体樹脂の真の溶融曲線を第2溶融データよりも正確に反映すると考えられるからである。
【0078】
溶融開始温度降下モデル(例えば、フローリの式に基づきかつ該式を実行するもの)を用いる本発明に係る方法のある実施形態は、以下の複数工程(a)〜(d)を含む。
【0079】
重合体樹脂を製造する流動床反応器内の重合反応中において、反応器温度、重合体樹脂の少なくとも一つの樹脂特性(例えば、密度及びメルトインデックス)、及び、反応器内の少なくとも一つの凝縮性希釈ガスの濃度(例えば分圧)(例えば、反応器内のICA、コモノマー、及びコモノマーの少なくとも一つの異性体の分圧)を含む該反応のパラメータの現在値を測定する工程(a);
【0080】
樹脂溶融温度と前記少なくとも一つの樹脂特性との間の事前に設定した相関性に基づいて少なくとも一つの樹脂特性の現在値の少なくとも一つの現在値から、重合体樹脂の乾燥バージョンが溶け始めると予測される温度(例えば、反応器内の重合体樹脂が、反応中に反応器内に実際に存在する凝縮性希釈ガスの任意のかなりの(著しい)量は無い状態で溶け始めると予測される温度)を示すドライ溶融開始温度値(「ドライMIT値」もしくは「MIT」)を決定する工程(b);典型的に、ドライMIT値は、樹脂特性(密度、MI等)の関数として(DSC測定値から求められる)予め測定したMIT値を含むデータベースを用いて決定される。
【0081】
反応中、溶融開始温度(MIT)降下モデルを使用して、重合体樹脂が反応器内において少なくとも一つの凝縮性希釈ガスの存在下で溶け始めると予測される換算溶融開始温度を決定する工程(c);該モデルは、重合体樹脂と少なくとも一つの希釈剤の存在(例えば、反応中に反応器内に重合体樹脂と共に実際に存在する凝縮性希釈ガスの存在)によるドライMIT値の降下の推定程度を特定する。好ましくは、MIT降下モデルはフローリの式を実行する。
【0082】
工程(c)で決定した換算溶融開始温度と反応温度の現在値から、反応器内の樹脂粘着性を示す温度値を決定する工程(d)。
【0083】
工程(b)及び(c)は、事前に設定した相関性又は該モデルに従って準備した一つ又は複数のルックアップテーブルにアクセスすることを含む種々の方法のいずれかで実行され得る。
【0084】
溶融開始温度降下モデル(例えば、フローリの式に基づきかつ該式を実行するもの)を用いる本発明に係る方法の追加の実施形態は、以下の複数工程(a)〜(d)を含む。
【0085】
重合体樹脂を製造する流動床反応器内の重合反応中において、反応器温度、重合体樹脂の少なくとも一つの樹脂特性(例えば、密度及びメルトインデックス)、及び、反応器内の少なくとも一つの凝縮性希釈ガスの濃度(例えば分圧)(例えば、反応器内のICA、コモノマー、及びコモノマーの少なくとも一つの異性体の分圧)を含む該反応のパラメータの現在値を測定する工程(a);
【0086】
樹脂溶融温度と前記少なくとも一つの樹脂特性との間の事前に設定した相関性に基づいて少なくとも一つの樹脂特性の現在値の少なくとも一つの現在値から、重合体樹脂の乾燥バージョンが溶け始めると予測される温度(例えば、反応器内の重合体樹脂が、反応中に反応器内に実際に存在する凝縮性希釈ガスの任意のかなりの量は無い状態で溶け始めると予測される温度)を示すドライ溶融開始温度値(「ドライMIT値」もしくは「MIT」)を決定する工程(b);典型的に、ドライMIT値は、樹脂特性(密度、MI等)の関数として(DCS測定値から求められる)予め測定したMIT値を含むデータベースを用いて決定される。
【0087】
反応中、溶融開始温度(MIT)降下モデルを使用して、重合体樹脂が反応器内において少なくとも一つの凝縮性希釈ガスの存在下で溶け始めると予測される換算溶融開始温度をオンライン形式で決定する工程(c);該モデルは、重合体樹脂と少なくとも一つの希釈剤の存在(例えば、反応中に反応器内に重合体樹脂と共に実際に存在する凝縮性希釈ガスの存在)によるドライMIT値の降下の推定程度を特定する。好ましくは、MIT降下モデルはフローリの式を実行する。
【0088】
工程(c)で決定した換算溶融開始温度と反応温度の現在値から、反応器内の樹脂粘着性を示す温度値をオンライン形式で決定する工程(d)。
【0089】
工程(b)及び(c)は、事前に設定した相関性又は該モデルに従って準備した一つ又は複数のルックアップテーブルにアクセスすることを含む種々の方法のいずれかで実行され得る。
【0090】
典型的に、工程(c)で決定した換算溶融開始温度は、温度(MITR)であり、該温度(MITR)を超えると、(凝縮性希釈ガスの存在下の)反応器内の樹脂は溶け始めると予測される。ある実施形態において、工程(d)で生じた温度値は温度値ΔMITであり、温度値ΔMITはTrx−MITRに少なくとも実質的に等しい。ここで、Trxは現在反応器温度であり、MITRは工程(c)で決定した換算溶融開始温度である。典型的に、MITR は、MIT−Dに少なくとも実質的に等しい。ここで、MIT(「溶融開始温度」)は、工程(b)で決定したドライMIT値であり、Dは、反応器内に樹脂と共に存在する少なくとも一つの凝縮性希釈ガスによるMIT降下の推定程度である。他の実施形態において、工程(d)で生じた温度値は、流動床内の樹脂粘着性の程度を別の方法で示す温度値である。
【0091】
好ましくは、工程(a)〜(d)は、反応器内の樹脂粘着性を示す一連の温度値(例えば、ΔMITの経時変化値を示す一連のΔMITの値又はデータ)を生成する反応中において繰り返し(例えば継続ベースで)実行される。該方法はまた、
(e)反応器における樹脂粘着性を、事前に設定した限界温度値又は値の範囲との事前に設定した関係に維持する(又は維持することを試みる)(例えば、ΔMITの現在値を事前に設定した限界温度値又は値の範囲との事前に設定した関係に維持する)ために反応を制御する工程を含む。
【0092】
ある実施形態では、工程(e)で制御される反応は、触媒A(後述)と称されるメタロセン触媒を用いるポリエチレン重合反応であり、また、工程(d)で生じた温度値は温度値ΔMITである。温度値ΔMITはTrx−MITRに少なくとも実質的に等しい。そのような温度値ΔMITは、工業用気相反応器でのポリエチレン重合反応(触媒Aを用いて実行される)の同じタイプを特徴付ける測定データと相互に関連付けられている。該データは、反応中に生じるいくつかの壁及びドームシーティングインシデント、並びにシーティングを伴わずに行われる通常の運転を特徴付けた。該相関性は、ΔMIT値が臨界値(6℃〜7℃の範囲にあるとわりだされた)を超えた時、シーティングの可能性が著しく高まることを明らかにした。該相関性はまた、ΔMIT値をこの臨界値未満に維持することが、分析したタイプの反応中、壁及びドームシーティングの両方を回避するために重要であることを明らかにした。従って、重要な実施形態において、工程(e)は、ΔMITが事前に設定した限界範囲5℃〜6℃内に(又は、事前に接待した限界値6℃〜7℃未満で)あるように、反応パラメータを好ましく維持する(又は維持するよう試みる)。
【0093】
上述した触媒A以外の触媒を用いる他のポリエチレン重合反応では、工程(d)で生じた温度値は、Trx−MITRに少なくとも実質的に等しい温度値ΔMITであり、工程(e)は、ΔMITが、この触媒に対して適していることが(工業的経験で)見出されている事前に設定した限界範囲内にあるように反応パラメータを維持する(又は維持するように試みる)。これら他の触媒系では、過度な樹脂粘着性を回避するのに要するΔMIT値の範囲は5℃〜6℃とは異なり得る。これらの触媒に対する限界ΔMIT値(又は値の範囲)は、工業用反応器システム内の該特定の触媒による不連続イベント(シーティング、チャンキング及び/又は、分配板の急速付着物)と相互に関連することが見出される限界ΔMIT値(又は値の範囲)として採用される。
【0094】
次に、ドライ溶融開始温度値が工程(b)で決定したと仮定して、工程(c)の実行の例が記述される。
【0095】
熱力学的考慮から、可溶性凝縮性物質(例えば炭化水素)は、重合体の溶融温度を低下させる。希釈剤による高分子量重合体の融点降下に対する(フローリの式として知られている)関係は、ニュージャージー州アッパーサドルリバー所在のプレンティスホール社1995年のFried, J. R.著Polymer Science and Technology(高分子科学及び技術)で次のように与えられる。
【数1】

ここで、
Rは、気体定数であり、
uは、重合体(ポリマー)繰り返し単位のモル体積であり、
sは、希釈剤のモル体積であり、
mは、希釈剤がある重合体のピーク溶融温度(℃)であり、
m0は、希釈剤がない重合体のピーク溶融温度(℃)であり、
ΔHuは、重合体繰り返し単位に対する融解のエンタルピー(850.6cal/mol)であり、
φ1は、希釈剤の体積分率(単一成分又は多成分)であり、
χは、二成分系相互作用パラメータである。
【0096】
パラメータχは、上記参照(基準)により、次のように定義される。
【数2】

ここで、
δ1は、希釈剤の溶解度パラメータであり、
δ2は、重合体の溶解度パラメータである。
【0097】
複数気体(ガス)の混合物である希釈剤では、
【数3】

ここで、fiは、希釈剤成分iの体積分率であり、δiは、成分iの溶解度パラメータであり、また、すべての希釈剤成分に対する体積分率の合計は1に等しい。式3は、混合物に対するχを計算するため、式2に代入される。
式1においてTmについて解くと、次の式が得られる。
【数4】

【0098】
この式は、可溶性成分の関数として重合体のピーク溶融温度を予測する。例において、Tm0は、重合体に対する第1溶融DCS曲線から決定したピーク溶融温度であり、また、Tm0は、希釈剤の存在下の重合体に対して予測されるピーク溶融温度である。熱力学考慮から、可溶性希釈剤の影響(効果)はピーク溶融温度を低下され(又は「押し下げ」)、そのため、Tmは、一つ又は複数の可溶性希釈剤の存在下で常にTm0未満であり、差Tm0−Tmは常に正である。
【0099】
本例において、溶融開始温度MITの降下の程度を推定することが必要である。MITの必要な降下は、フローリの式から上記で決定したように、ピーク溶融温度の降下に等しいように採られる。パラメータDを溶融開始温度の降下(又はずれ(移動))として定義する。
【数5】

【0100】
換算溶融開始温度は、(工程(b)で決定した)溶融開始温度から工程(c)において次のように決定される。
【数6】

【0101】
該例において、工程(d)で生じた温度値は、温度値ΔMIT=Trx−MITRである。ここで、Trxは現在反応器温度であり、MITRは式6で与えられる。値ΔMITは、反応器温度(Trx)と重合体の溶融開始温度との差であり、可溶性炭化水素のための融点の降下を説明する。正の値のΔMITは、反応器温度が降下した溶融開始温度を超える程度を示す。
【0102】
式4を用いるため、重合体中の希釈剤成分の溶解度に対する関係が必要となる。一つのそのような一般化された関係がStiel, L. I.等、J. Appl. Poly. Sci.、第30巻、1145−1165、1985年に記述され、これはヘンリーの法則の定数の推定値を次のように与える。
【数7】

ここで、
Kρは、ヘンリーの法則の定数であり、
ωは、偏心因子であり、
Tcは、希釈剤の臨界温度(°K)であり、
Tは、温度(°K)である。
【0103】
蒸気溶解度を計算するため、Stiel等(上記で引用)により次式が与えられた。
【数8】

ここで、
Py1は、反応器総圧(atm)であり、
1は、気相モル分率であり、
10は、273.2°K及び1気圧におけるcm3希釈剤/g重合体の蒸気溶解度である。
【0104】
式7及び8を組み合わせることにより、希釈剤の蒸気溶解度(重量分率を単位にして)は次のように表され得る。
【数9】

ここで、
Taは、273.15(°K)であり、
Rは、気体定数(82.06cm3・atm/mol・°K)であり、
Mwは、希釈剤の分子量である。
又は、
【数10】

【0105】
Pが(気圧ではなく)バールを単位にしているなら、式10の分母の定数は、22710.9である。
【0106】
Tc、ω及びMw等の成分特性は、Reid, R. C.等のThe Properties of Gases and Liquids(気体及び液体の特性)、第4編、マグローヒル、ニューヨーク州、1987年に見出され得る。式4により融点降下を計算するため、重合体中の希釈剤φの体積分率が推定されなければならない。付加的(加法)体積を仮定すれば、次の関係が当てはまる。
【数11】

ここで、
Msは、希釈剤の質量分率であり、
ρsは、希釈剤の密度(g/cm3)であり、
ρpは、重合体の密度(g/cm3)である。
【0107】
他の蒸気溶解度の式が、式10の代わりに使用可能である。例えば、エチレンが存在し、かつ希釈剤としてイソペンタンが使用される重合反応では、蒸気溶解度S(重量分率を単位にして)に対する次の関係が用いられ得る。
【数12】

ここで、MIは、重合体メルトインデックスI2(g/10min)であり、ρは重合体密度(g/cm3)であり、Trxは反応器温度(°K)であり、Pは、該樹脂状態における炭化水素分圧(psia)であり、更に、a、b1、c、d、及びeは、事前に設定したパラメータである。
【0108】
別の例として、1−ブテン及び1−ヘキセンが希釈剤である重合反応では、溶解度S(重量分率を単位にして)に対する次の関係が用いられ得る。
【数13】

ここで(再び)、MIは、重合体メルトインデックスI2(g/10min)であり、ρは重合体密度(g/cm3)であり、Trxは反応器温度(°K)であり、Pは、該樹脂状態における炭化水素分圧(psia)であり、更に、a、b1、c、d、及びeは、事前に設定したパラメータである。
【0109】
該例において、希釈剤混合物モル体積が必要である。Chueh-Prauxnitz混合規則を用いるRackett法、もしくは混合物に対するHankinson-Brobst-Thomson法等の周知の方法が使用され得る。本明細書中で用いるモル体積は、(described in Reid, R. C.等のThe Properties of Gases and Liquids(気体及び液体の特性)、第4編、マグローヒル、ニューヨーク州、1987年に記述されるように)Chueh-Prausnitz混合規則を用いる変形(修正)Rackett法を用いて計算された。
【0110】
式4においてχを推定するために、各可溶性成分の体積分率も必要である。該例において、χパラメータは、式2を次のように変形することによって計算された。
【数14】

ここで、
δpは、重合体溶解度パラメータであり、
δiは、希釈剤成分iの溶解度パラメータであり、
iは、式10によって定義され、
温度Tは、Trxとして採られる。
【0111】
該例において、工程(b)が実行される前に溶融DSC測定は一連の重合体(種々の触媒を用いて製造された)に対してなされた。表1は、各重合体のメルトインデックス(MI)及び密度(ρ)と、重合体を製造するために用いた(また、測定される重合体サンプルと共に含めた)触媒と、重合体に対して決定した溶融開始温度及びピーク溶融温度とを示す。重合体の密度は、0.909〜0.966g/cm3に及び、それらのメルトインデックスは、0.81〜19.0g/10minに及んだ。
【0112】
表1及び本明細書において、重合体密度は、ASTM1505及びASTMD−1928に従って測定される密度のことをいう。プラークが作られ、これは、平衡結晶化度に近付くために100℃で1時間条件付けられる(慣らされる)。密度の測定が次いで密度勾配コラムで行われる。メルトインデックス(MI)は、ASTM D 1238−E(190℃、2.16kg)に従って測定される。
【0113】
表1及び本明細書において、「触媒A」は、PCT出願公開番号WO9961486A1号(1999年12月02日公開)に記述されたメタロセン触媒であり、該文献中でメタロセン触媒は「触媒A」とも呼ばれている。PCT出願公開番号WO9961486A1号は、この触媒を調製するための次の方法を教示する(第29頁)。すなわち、「Davison(ダビソン)グレード948シリカ(メリーランド州ボルチモア所在のW.R. Grace(WRグレース)社のDavison Chemical Division(ダビソン化学部門)から入手可能)が600℃で脱水(乾燥)され、担体として使用された。該脱水シリカ(850g)は、2ガロン反応器内に装入され、1060mlの30wt%メチルアルミノキサン(MAO)(ルイジアナ州バトンルージュ所在のAlbemarle社から入手可能)がゆっくり撹拌しながら加えられた。次に、トルエン(2000ml)が反応器に装入され、この混合物は、150°F(66℃)で4時間かき混ぜることが許容された。MAO反応時間に続き、23グラムのビス−(1,3−メチル−n−ブチル シクロペンタジエニル)二塩化ジルコニウムがトルエン中に10wt%溶液として添加された。バルキーな配位子メタロセン−タイプ触媒化合物に対する反応時間は1時間であり、その後、触媒系がN2と共に真空下で乾燥させられた。乾燥時間は150°F(66℃)及び30rpmの低減した撹拌速度で3時間であった。総計1200グラムの乾燥した易流動性の触媒が分離された。」である。
【0114】
表1及び本明細書において、「触媒B」は、PCT出願公開番号WO9961486A1(1999年12月02日公開)に記述されたメタロセン触媒である。該触媒は、該文献において「触媒D」として特定され、また、「バルキーな配位子メタロセン−タイプ触媒化合物」、ジメチルシリル−ビス(テトラヒドロインデニル)二塩化ジルコニウム(Me2Si(H4Ind)2ZrCl2)(これは、ルイジアナ州バトンルージュ所在のAlbemarle社から入手可能)に基づく。PCT出願公開番号WO9961486A1は、この触媒を調製するための次の方法を教示する(第32頁第11行〜第33頁第11行)。すなわち、「(Me2Si(H4Ind)2ZrCl2)触媒化合物は、ほぼ1.0重量パーセントの含水率を有する600℃で脱水されるES−70グレードシリカにおいて調製された。平均粒径40ミクロンを有するCrosfield ES−70グレードシリカは、英国マンチェスター所在のCrosfield社から入手可能である。上記担持メタロセン−タイプ触媒の製造における第1工程は、前駆溶液(溶剤)を形成することを含む。460lbs(209kg)の散布され乾燥させられたトルエンが撹拌された反応器に加えられ、その後、1060lbs(482kg)の重量パーセントメチルアルミノキサン(ルイジアナ州バトンルージュ所在のAlbemarle社)が添加される。947lbs(430kg)の2重量パーセントトルエン溶液のジメチルシリルビス(テトラヒドロインデニル)二塩化ジルコニウム触媒化合物及び600lbs(272kg)の追加トルエンが該反応器に導入される。該前駆溶液は、次いで、80°F〜100°F(26.7〜37.8℃)で1時間撹拌される。上記前前駆溶液を撹拌しながら、850lbs(386kg)の、既述したように600℃で脱水したシリカが前駆溶液にゆっくりと添加され、該混合物は、80°F〜100°F(26.7〜37.8℃)で30分間撹拌された。該混合物の30分撹拌の最後において、240lbs(109kg)の10重量パーセントトルエン溶液のAS−990(N,N−ビス(2−ヒドロキシエチル)オクタデシルアミン(C1837N(CH2CH20H)2)(テネシー州メンフィス所在のWitco社からKemamine AS−990として市販される)が、追加の10lbs(50kg)のトルエンリンスと共に添加され、該反応器内容物は、次いで、175°F(79℃)まで加熱されながら30分間混合された。30分後、真空が適用され、該触媒混合物が易流動性の粉末となるまで175°F(79℃)で約15時間乾燥させられる。最終触媒重量は1200lbs(544kg)であり、0.35wt%のZr及び12.0wt%のAlを有していた。」である。
【0115】
表1及び本明細書において、「触媒C」は、米国特許第4,302,566号に従って調製された担持チーグラー−ナッタ触媒である。この触媒は三工程で調製される。第1工程において、600℃で脱水したW.R. Grace & Co.の955シリカがイソペンタン中で60℃でトリエチルアルミニウム(AlEt3)と反応させられ、溶剤が除去され、更に、結果として生じた生成物が乾燥させられる。第2工程において、THFに溶解されたMgCl2及びTiCl3.1/3AlCl3の溶液が第1工程で形成した生成物と60℃で混合され、溶剤が除去され、更に、結果として生じた生成物が、該生成物中のTHF濃度を0.13〜0.15の範囲まで低減するために乾燥させられる。第3工程において、第2工程で形成した生成物は、イソペンタン中で60℃でEt2AlCl及びAl(n−ヘキシル)3と反応させられ、溶剤が除去され、更に、該生成物が乾燥させられる。第3工程で用いるEt2AlClの量は、Et2AlCl/THFのモル比が0.50であるようにされる。第3工程で用いるAl(n−ヘキシル)3の量は、Al(n−ヘキシル)3/THFのモル比が0.30であるようにされる。
【0116】
評価される各重合体では、第1溶融DSCのみが使用される。何故なら、第1溶融DCSは、重合体が反応器内に存在する際、該重合体を、より慣用な第2溶融DSC曲線に比べより良く表すと考えられるためである。第2溶融DSC曲線は、第1溶融DSC曲線とは著しく異なり得、一般に、より低いピーク溶融温度及びより鋭い溶融ピークを示す。下記の表2のデータにおいて、DSC曲線は、10℃/分の温度傾斜速度及び4.5mgの典型的サンプル量で生成された。
【0117】
【表1】

【0118】
回帰直線は次のようになった。
【数15】

ここで、ρは重合体の密度(g/cc、ASTMを単位にして)を表し、MIは、重合体のメルトインデックスI2(dg/min、ASTMを単位にして)を表す。
【0119】
ある実施形態において、式15は、表1に明確に掲載された重合体以外の重合体に対するドライ溶融開始温度(MIT)を決定するために使用される。式15において、重合体を製造するために使用される特定の触媒タイプを説明する用語は全く用いられていない。これは適切である。何故なら、DSC測定が実行される重合体と触媒のすべての組合せが、式15の相関性に適合することが分かったからである。しかしながら、他の触媒系(すなわち、触媒A、B又はC以外の)によって製造される重合体は、式15が定義する回帰曲線に適合しないMIT値を有し得ることが予想される。
【0120】
本発明者は、典型的な凝縮性ガス成分(C4オレフィン、C4飽和物、C6オレフィン、C6飽和物及びイソペンタン)を伴うポリエチレンの重合に対する適用のため、式4、9、10、及び11を用いる上述した溶融開始温度降下モデルをエクセルスプレッドシートへとコード化した。これらのガスに対する溶解度パラメータは、Chemical Properties Handbook(化学的特性ハンドブック)著作権1999年から取得され、下記の表2に掲載される。ポリエチレンの溶解度パラメータに対する値は、Polymer Handbook(ポリマーハンドブック)第4編においてポリエチレンに対し掲載されるいくつかの値の平均から得た。
【0121】
【表2】

【0122】
表3は、メルトインデックス(MI)が1.0dg/min(ASTM)でかつ密度が0.918g/cc(ASTM)にて触媒Aによって製造されるタイプの、流動床反応器内で製造中の重合体に対するコード化溶融開始温度降下モデルを用いて実行される模範的計算を示す。該計算は、工業的運転において触媒Aの典型(見本もしくは代表物)であると考えられる凝縮性希釈ガスの濃度、温度及び圧力の推定値(該表に記載される)に基づいた。
【0123】
【表3】

【0124】
模範的計算において、重合体に対するドライ溶融開始温度(MIT)は、式15の相関性から決定された。融点降下Dは、式4、9、10及び11から決定され(温度及び希釈剤ガス濃度の表示値を用いて)、結果として生じた計算値は13℃であった。換算溶融開始温度MITRの値は、差MIT−Dとして決定され、これは、推定値81.71℃を生成した。これは、反応器温度(Trx)85℃より低かったので、該計算は、そのため、(この例の)システムが3.38℃に等しい正値のΔMITで稼働していると決定した。これは、触媒Aに適用するΔMIT値の限界範囲(5〜6℃)未満であったため、反応器システムは、流動床に過度な樹脂粘着を伴わず、従って、過度な粘着性が引き起こすシーティング、チャンキング又は分配板付着を伴わずに、上記状態で稼働することが予想された。
【0125】
上述したMIT降下モデルを使用する本発明に係る方法の実施形態は、樹脂特性と反応器稼働状態のリンクが、稼働(運転)状態(この状態下で樹脂粘着性による不連続イベントが定常状態運転中並びに運転開始時において回避され得る)を予測することを可能にする。これらの実施形態はまた、不連続イベントの可能性を最小化しつつ、反応器製造速度が安全に最大化されることをも可能にし、また、過度な粘着性及び不連続イベントに招くであろう反応器の状態(条件)(もしくは状態の組合せ)を回避しつつ、製造速度が最大化される(すなわち、反応器温度とICAの最大の組合せで進行する)ことを可能にする。これらの実施形態は、容易に利用可能なプロセス及び樹脂特性データのみを使用し、また、プロセス制御システムを通じてのオンラインで(すなわち、本発明に係る方法を実行するようにプログラムされているプロセッサにおいて関連データを処理することにより)プラント位置にて容易に実行され得るか、又は、利用可能なスプレッドシートを用いてオフラインで実行され得る。
【0126】
本発明に係る方法の既述した例のいくつかの変更(又は改良)が次のように企図される。
すなわち、凝縮及びコモノマーに対する他の溶解度相関性が使用可能であり、
多成分システムにおいて(ことによるとより正確な)相互溶解度を予測する他の方法が使用可能であり、
融解値の改良エンタルピー(ΔHu)が、重合体密度によるΔHuの変形を説明するため、使用可能であり(ΔHuが重合体密度の関数である点が上記文献で報告されている。)、更に、
膨張計測データが、(ことによるとより正確な)重合体及び希釈剤体積分率を予測するために使用可能である。
【0127】
本発明者は、反応器内で生じている重合反応(例えば、メタロセン触媒重合状態下のポリエチレン重合反応)の監視及び随意的な制御における、流動床重合反応器内に存在する異性体化合物(コモノマーの異性体異性体)の重要性を認識した。そのような異性体化合物は、比較的不活性であり、回収システムに取り付けられる工業用反応器内に著しく堆積する(コモノマーの異性体は、回収システムと共には稼働しないパイロットプラントにおいてかなりの量ではめったに観察されない。)。これらの異性体は、工業用反応システム内にかなりの量で存在し得るため、これらは、融点降下D及び換算溶融開始温度MITRの実質的影響を及ぼし得る。本発明の好ましい実施形態は、融点降下D、及び結果として生じたMITR 及びΔMITの値に対する堆積した異性体の影響を認識して説明する。堆積した異性体の影響(後述する反応器の制御されたベンティング等)を改善する手順も好ましくは実行される。
【0128】
本発明者は、触媒Aと実質的に同等である触媒により稼働する少なくとも一つの工業用気相ポリエチレン重合反応器内の異性体に対するガスクロマトグラフ組成データを考慮した。該データは、反応器からのサイクルガスのサンプルにおいて1−ヘキセンコモノマーとコモノマーのC6異性体及びC6+異性体とを別々に特徴付けるために分析された。該データは、(全反応器ガスの)2.5モルパーセント程度に高い異性体濃度(これは、1−ヘキセン単独のほぼ1〜1.5モルパーセント濃度よりも実質的に高い)が反応器システムにおいて得られたことを示した。更に、これらのレベルにおいて、異性体自体(コモノマーを除く)は、4℃に等しいMITの更なる降下を作り出した。これは、シーティングに対する傾向を含む、工業的運転に対する非常に重要な影響を表す。本発明者は、2.5モルパーセントよりも大きい異性体濃度が、異性体堆積がそのような濃度に達するまで継続することが許容される場合、MIT降下の推定程度及びシーティングの可能性にそれ相応に大きい影響を与えるあろうと予想する。
【0129】
本発明の種々の実施形態に使用される(重合によって製造されている重合体樹脂の乾燥バージョンの)ドライ溶融開始温度が、いくつかの異なる方法のいずれかで決定され又は定義され得ることが企図される。例えば、ある実施形態において、それは、第1又は第2溶融DCS測定から決定されるピーク重合体溶融温度である。他の実施形態において、それは、樹脂フィルムサンプルに対して測定される重合体シール開始温度(Seal Initiation Temperature)(例えば、上記参照のPCT出願公開番号WO2005/113615号に記述される熱シール開始温度)、樹脂ホット粘着性開始温度(Hot Tack Initiation Temperature)(例えば、上記参照のPCT出願公開番号WO2005/113615号に記述されるホット粘着性開始温度)、流動床内の粒状重合体のドライ付着温度、第1又は第2溶融DSC曲線における急速溶融の発生の始まりとして図表により決定される溶融開始温度(Melt Initiation Temperature)(MIT)、又は、(反応器が標準の圧力及びガス速度で、かつ、反応中に反応器内に実際に存在するガス成分ではなく実質的に純粋な窒素の存在下で稼働中に)反応器容器の任意の面上に凝集又は付着物が生じ始めるドライ付着温度、もしくは床DP読取り値(「床DP読取り値」は、流動床の底部と頂部(上部)との間の測定した圧力差を意味する)の帯域幅に少なくとも50%の低下がある温度のいずれか低い方である。溶融開始温度を決定するためにどような方法も使用されるが、計算の全体、及び好ましくは実際の稼働経験を通じて確立されたΔMITに対する適切な限界(使用される特定の溶融開始温度に適用される限界)の全体にわたって首尾一貫した方法が使用されることが推奨される。実施には、ΔMITの限界値は、典型的には、シーティング、チャンキング及び/又は分配板付着物に対する増長した傾向と関連する値である。
【0130】
溶融曲線降下を計算することによって重合体粘着性を推測するための特定の方法及びシステムが本明細書中に記述される。しかしながら、溶融曲線降下Dはいくつかの異なる方法のいずれかで決定又は推定され得ることも企図される。例えば、フローリの式の利用しない方法、又は、該例において提示されるもの(成分)以外の樹脂中の希釈剤ガス成分の溶解度に対する相関性を使用する方法である。発明者は、他のそのような方法が積極的に使用され得ることを企図する。例えば、希釈剤ガス溶解度の合理的な工学的推定、及びその結果として生じる重合体溶融曲線の降下を含む方法が使用され得る。本発明の好ましい実施形態において、サイクルガスストリーム(コモノマー異性体を含む)における顕著な(相当な)量で存在するすべての凝縮性成分が測定され、MIT降下の推定程度を決定する工程は、そのような顕著な凝縮性成分を説明する。上記顕著な成分は、存在する各コモノマー(例えば、C6異性体である各コモノマー、又はC3−C10アルファオレフィンである各コモノマー)の異性体を含むはずである。本発明のある実施形態は、顕著な濃度で存在するすべての異性体の寄与を説明するMIT降下の推定程度を決定するために集中異性体濃度値を使用すると予想される。MIT降下の推定程度の決定における異性体の正確な説明は、本発明のすべての実施形態ではないが、多くの実施形態(定常状態反応の床平均パラメータに基づいて換算溶融開始温度値(又はΔMIT値)を生成し、これらを用いて定常状態反応を特徴付けて制御する実施形態、及び、瞬時反応パラメータに基づいて換算溶融開始温度値(又はΔMIT値)を生成し、これらを用いて反応移行中の反応を特徴付けて制御する実施形態を含む)において直接的な利益を提供すると考えられる。
【0131】
ΔMITに対する(コモノマーの)異性体の影響を改善する特定の制御動作は、反応器/再循環システムから異性体を抜く(逃がす/ベントする)ことである。抜かれた異性体は、ゆらゆら燃えるようにする(フレアにする)か、又は、反応器/反応器の再循環システムから分離した回収システムへと向かう。当業者には周知のように、ゆらゆら燃えるようにするサイクルガスの直接ベンティングが可能であるが、最適なものとは程遠い可能性がある。ベントを抜き取るための好ましいポイントは、樹脂パージングシステムを出るガスストリームからである。この位置からのガスベントは、比較的高濃度(50重量パーセントまで)の異性体と比較的低濃度のエチレンを含有する。特定の設計に応じて、他の構成の生成物排出システム、パージングシステム及び回収システムを有する他の反応器システムが異なる好ましいベントポイントを有し得る。
【0132】
次に、本発明に従って監視され得、随意的に制御もされ得る工業(商業)的規模の反応(例えば、工業的規模の気相流動床重合反応)の例を記述する。いくつかのそのような反応は、図1の反応器10の形態を有する反応器内で行われ得る。本発明の異なる実施形態において、種々の異なる反応器のいずれかの性能が本発明に従って監視され、随意的に制御もされる。
【0133】
いくつかの実施形態において、連続気相流動床反応器が、次のように重合を実行するために稼働しながら、本発明に従って監視され、随意的に制御もされる。流動床は重合体顆粒から構成される。一次(主要)単量体及び水素のガス状供給ストリームと液体もしくはガス状コモノマーとが、混合T字形構成内で互いに混合され、反応器床下の再循環ガスライン内に導入される。例えば、上記一次単量体はエチレンであり、コモノマーは1−ヘキセンである。エチレン、水素及びコモノマーの個々の流量は、固定されたガス成分ターゲットを維持するように制御される。エチレン濃度は、一定のエチレン分圧を維持するように制御される。水素は、一定の水素対エチレンモル比を維持するように制御される。ヘキセンは、一定のヘキセン対エチレンモル比を維持する(あるいは、コモノマー及びエチレンの流量が固定比率に保たれる)ように制御される。すべてのガスの濃度は、再循環ガスストリーム中の比較的一定の組成を保証するため、オンラインガスクロマトグラフによって測定される。固体又は液体触媒は、担体として精製窒素を用いて流動床内に直接注入される。触媒の供給速度は、一定の製造速度を維持するように調製される。成長(増大)する重合体粒子の反応床は、反応域(すなわち流動床)を通る供給及び再循環ガスを構成する連続流によって流動化状態に維持される。ある実施形態において、1〜3ft/secの表面ガス速度がこれを達成するために用いられ、また、反応器は300psigの全圧で稼働される。一定の反応器温度を維持するため、再循環ガスの温度は、重合による発熱速度のいかなる変化をも吸収するため、連続的に上下に調製される。流動床は、粒状生成物の形成速度に等しい速度で床の一部を引き抜くことにより、一定の高さに維持される。該生成物は、一連の弁を介して固定体積室内へと半連続的に移動させられ、これは、同時に反応器へとベントされて戻される。これは、同時に未反応のガスの大部分を反応器へと再循環させながらの生成物の高効率的な除去(移動)を可能にする。この生成物は、同伴炭化水素を除去するためにパージされ、また、残留触媒がたとえ微量でもあれば、それを不活性化させるため、加湿窒素の小さいストリームによって処理される。
【0134】
他の実施形態において、反応器は、種々の異なるプロセス(例えば、スラリープロセス又は気相プロセス)のいずれかを使用して重合を実行するために稼働されながら、本発明に従って監視され、随意的に制御もされる。例えば、反応器は、気相重合プロセスにより、ポリオレフィン重合体を製造するために稼働する流動床反応器であり得る。このタイプの反応器及びそのような反応器を稼働させるための手段は周知である。気相重合プロセスを実行するそのような反応器の運転において、重合媒体は、機械的に撹拌されるか、又はガス状単量体及び希釈剤の連続流によって流動化され得る。
【0135】
ある実施形態において、連続気相プロセス(例えば流動床プロセス)である重合反応は、本発明に従って監視され、随意的に制御もされる。そのようなプロセスを実行するための流動床反応器は、反応域といわゆる減速域とを一般に含む。反応域は、成長する重合体粒子と、形成された重合体粒子と、小量の触媒粒子とを含み、これらは、反応域を通って重合体の熱を除去するガス状単量体及び希釈剤の連続流によって流動化される。随意的に、再循環されたガスのいくつかは、冷却されて、液体を形成するように圧縮され得る。該液体は、反応域に再度入る際に循環ガスストリームの熱除去能力を高める。この稼働の方法は、「凝縮モード」と称される。適切なガス流量は、簡易な実験によって容易に決定され得る。循環ガスストリームに対するガス状単量体の構成は、粒状重合体生成物及びこれに関連する単量体が反応器から引き抜かれる速度に等しい速度にあり、反応器を通過するガスの組成は、反応域内の本質的定常状態ガス状組成を維持するように調整される。反応域を出るガスは減速域に送られ、ここで、同伴粒子が除去される。より細かい同伴粒子及びダストは、サイクロン及び/又は微細フィルタで除去され得る。該ガスは、圧縮機で圧縮されて熱交換器に通され、ここで重合の熱が除去され、次いで反応域に戻される。
【0136】
流動床プロセスの反応器温度(Trx)は、通常、流動床内における重合体の粘着性もしくは焼結特性から判断して実行可能な最も高い温度で動作される。反応器温度の上限を確立するための方法は一般に認識されていないが、該上限は、重合体生成物の焼結温度に関連すると考えられる。本方法は、MITR(反応器において溶融の始まりが生じると想定される温度)に基づいて温度限界を設定するための定量的方法を提供する。反応器温度の上限は、好ましくは、上記で定義したΔMITの限界値によって設定される。本明細書中で定義したΔMITの限界値は、生成物に過剰な粘着性を引き起こすことなく反応器温度がMITRを超える分の最大値である。
【0137】
他の実施形態において、反応器(その稼働が本発明に従って監視され、随意的に制御もされる)は、スラリー重合プロセスによって重合をもたらす。スラリー重合プロセスは、一般に、1〜50気圧の圧力、及び、0℃〜120℃、特に30℃〜100℃の温度を使用する。スラリー重合において、固体粒状重合体の懸濁が液体重合希釈剤媒体中に形成され、該媒体には、単量体、コモノマー、及びしばしば水素が触媒と共に加えられる。希釈剤を含む該懸濁物は、反応器から間欠的に又は連続的に除去され、そこで揮発性成分が重合体から分離され、随意的に蒸留後、反応器へ再循環される。重合媒体において使用される液体希釈剤は、典型的には3〜7炭素原子を有するアルカンであり、一実施形態において分岐アルカンである。使用される媒体は、重合の状態下で液体で、かつ比較的不活性であるべきである。プロパン媒体が使用される場合、該プロセスは、反応希釈剤臨界温度及び圧力を上回って動作されなければならない。一実施形態において、ヘキサン、イソペンタン又はイソブタン媒体が使用される。
【0138】
他の実施形態において、本発明に従って監視され、随意的に制御もされる反応は、粒子形成重合であるかもしくは粒子形成重合を含み、又は、温度が、重合体が溶剤内に入る温度未満に保たれるスラリープロセスであるかもしくはスラリープロセスを含む。他の実施形態において、本発明に従って監視され、随意的に制御もされる反応は、ループ反応器、もしくは一連で平行な複数の撹拌反応器のうちの一つ、又はこれらの組合せであり得る。スラリープロセスの非限定的な例は、連続ループプロセス又は撹拌タンクプロセスを含む。
【0139】
本発明のある実施形態に従って監視され、随意的に制御もされる反応は、オレフィンの単独重合体(例えば、エチレンの単独重合体)、及び/又は、オレフィン、特にエチレン及び少なくとも一つの他のオレフィンの共重合体、三元共重合体等を作り出すことができる。例えば、オレフィンは、一実施形態において2〜16炭素原子を含み得、別の実施形態において3〜12炭素原子を含むエチレン及びコモノマーを、更に別の実施形態において4〜10炭素原子を含むエチレン及びコモノマーを含み得る。本発明に従って監視され、随意的に制御もされる反応は、ポリエチレンを作り出すことができる。このようなポリエチレンは、エチレンの単独重合体、及び、エチレン及び少なくとも一つのα−オレフィンの共重合体(インターポリマー)(本明細書においてエチレン含有率は関連する総単量体の少なくとも約50重量%である)であり得る。本発明の実施形態で利用され得る模範的なオレフィンは、エチレン、プロピレン、1−ブテン、1−ペンテン、1−ヘキセン、1−ヘプテン、1−オクテン、4−メチル−l−ペンテン、1−デセン、1−ドデセン、1−ヘキサデセンその他である。本明細書において利用できるものはまた、例えば、1,3−ヘキサジエン、1,4−ヘキサジエン、シクロペンタジエン、ジシクロペンタジエン、4−ビニルシクロ−1−ヘキセン、1,5−シクロオクタジエン、5−ビニリデン−2−ノルボルネン及び5−ビニル−2−ノルボルネン等のポリエン、及び、重合媒体において現場で形成されるオレフィンである。オレフィンが重合体媒体において現場で形成される場合、長鎖分岐を含むポリオレフィンの形成が行われ得る。
【0140】
ポリエチレン又はポリプロピレンの製造において、コモノマーが重合反応器内に存在し得る。コモノマーが存在する場合、該コモノマーは、完成樹脂中へのコモノマーの望ましい重量パーセントの組込み(混合)を達成するエチレン又はプロピレン単量体と共に、いずれのレベルでも存在し得る。ポリエチレン製造の一実施形態において、コモノマーは、0.0001(コモノマー:エチレン)〜50の気相におけるモル比のエチレンと共に存在し、別の実施形態では0.0001〜5、更に別の実施形態では0.0005〜1.0、更なる実施形態では0.001〜0.5である。絶対項で表現すれば、ポリエチレンの形成において、重合反応器に存在するエチレンの量は、一実施形態において1000大気圧までの範囲であり得、別の実施形態では500大気圧まで、更に別の実施形態では100大気圧まで、更なる実施形態では50気圧まで、更に別の実施形態では10気圧までであり得る。
【0141】
水素ガスは、ポリオレフィンの最終特性を制御するためにオレフィン重合にしばしば使用される。あるタイプの触媒系では、水素の増長する濃度(又は分圧)が発生するポリオレフィンの分子量又はメルトインデックス(MI)を変え得ることが知られている。そのため、MIは水素濃度に影響され得る。重合における水素の量は、重合可能な総単量体、例えば、エチレン、又はエチレンとヘキセンもしくはプロピレンとのブレンドに対するモル比で表現され得る。ある重合プロセスで使用される水素の量は、完成ポリオレフィン樹脂の望ましいMI(又は分子量)を実現するために必要な量である。一実施形態において、総単量体に対する水素の気相におけるモル比(H2:単量体)は、0.00001よりも大きい。該モル比は、別の実施形態において0.0005より大きく、更に別の実施形態において0.001より大きく、更なる実施形態において10未満であり、更に別の実施形態では5未満、更なる実施形態では3未満、更に別の実施形態では0.10未満である。ここで、望ましい範囲は、本明細書中に記載したいずれかのモル比上限といずれかのモル比下限の任意の組合せからなり得る。別の方法で表せば、任意の時間における反応器中の水素の量は、一実施形態において10ppmまでの範囲であり得、別の実施形態において、100もしくは3000もしくは4000もしくは5000ppmまで、又は、別の実施形態において10ppm〜5000ppm、もしくは更に別の実施形態において500ppm〜2000ppmであり得る。
【0142】
本発明のある実施形態に従って監視され、随意的に制御もされる反応器は、二つ以上の反応器を直列(連続)に使用する段階的反応器の構成要素であり得、ここで、一つの反応器が、例えば、高分子量成分を、別の反応器は低分子量成分を作り出し得る。
【0143】
本発明に従って監視され、随意的に制御もされる反応器は、バルキー配位子メタロセンタイプ触媒系の存在下でかついかなる補足剤(例えば、トリエチルアルミニウム、トリメチルアルミニウム、トリ−イソブチルアルミニウム、トリ−n−ヘキシルアルミニウム、ジエチル塩化アルミニウム、及びジブチル亜鉛等)も存在しないか又は本質的に無い状態で、スラリー又は気相プロセスを実行し得る。「本質的に無い」は、これらの成分が意図的に反応器又はいずれの反応器成分にも加えられず、もし存在しても、反応器内に1ppm未満までで存在することを意味する。
【0144】
本発明に従って監視され、随意的に制御もされる反応器は、触媒系(又はその成分)の重量に基づいて10wt%までの金属−脂肪酸化合物、例えばステアリン酸アルミニウムと結合された一つ又は複数の触媒を使用可能である。適切であり得る他の金属は、他の2族及び5〜13族金属を含み得る。他の実施形態において、金属−脂肪酸化合物の溶剤が反応器内に供給される。他の実施形態において、金属−脂肪酸化合物は触媒と混合され、また、反応器内に別々に供給される。これらの作用剤は、触媒と混合され得、又は、触媒系もしくはその成分と共に又は触媒系もしくはその成分を伴わずに、溶剤、スラリーでもしくは固体(好ましくは粉末)として反応器内に供給され得る。
【0145】
本発明のある実施形態に従って監視され、随意的に制御もされる反応器において、担持触媒は、活性剤と結合され得、また、タンブリング及び/又は他の適切な手段によって(触媒組成の重量で)2.5wt%までの帯電防止剤(例えばエトキシ化又はメトキシル化アミン)(その一例がKemamine AS−990(ICI Specialties, Bloomington Delaware)である)と結合され得る。他の帯電防止組成物は、Octastatファミリーの化合物、より詳しくは、Octastat2000、3000及び5000を含む。
【0146】
脂肪酸金属及び帯電防止剤は、別個の供給物として、固体スラリー、溶剤又は固体(好ましくは粉末)のいずれかで反応器に添加され得る。この添加方法の一つの利点は、該添加物のレベルのオンライン調整を許容することである。
【0147】
本発明に従って製造可能な重合体の例は、次のものを含む。すなわち、C2−C18アルファオレフィンの単独重合体及び共重合体;ポリ塩化ビニル、エチレンプロピレンゴム(EPR)、エチレン−プロピレンジエンゴム(EPDM);ポリイソプレン;ポリスチレン;ポリブタジエン;スチレンと共重合されたブタジエンの重合体;イソプレンと共重合されたブタジエンの重合体;アクリロニトリルとブタジエンの重合;イソプレンと共重合されたイソブチレンの重合体;エチレンブテンゴム及びエチレンブテンジエンゴム;及び、ポリクロロプレン;一つ又は複数のC2−C18アルファオレフィンとのノルボルネン単独重合体及び共重合体;ジエンとの一つ又は複数のC2−C18アルファオレフィンの三元共重合体である。
【0148】
本発明に従って監視され、随意的に制御もされる反応器内に存在することができる単量体は、C2−C18アルファオレフィン、例えば、エチレン、プロピレン;随意的に少なくとも一つのジエン、例えば、ヘキサジエン、ジシクロペンタジエン、メチルオクタエンを含むオクタエン(例えば、1−メチル−1,6−オクタエン及び7−メチル−1,6−オクタエン)、ノルボルナジエン、及びエチリデンノルボルネン;及び、容易に凝縮できる単量体、例えば、イソプレン、スチレン、ブタジエン、イソブチレン、クロロプレン、アクリロニトリル、ノルボルネン等の環状オレフィン;のうちの一つ又は複数を含む。
【0149】
流動床重合は、本発明のある実施形態に従って監視され、随意的に制御もされ得る。反応は、流動重合反応のいずれのタイプでもあり得、単一反応器又は、二以上の反応器が直列(連続)するような複数反応器で実行可能である。
【0150】
種々の実施形態において、多くの異なるタイプの重合触媒のいずれかが、本発明に従って監視され、随意的に制御もされる重合プロセスにおいて使用可能である。所望により、単一の触媒又は触媒の混合物が使用され得る。触媒は、可溶性又は不溶性であり得、また、担持され得又は担持されない。これは、フィラー、液体もしくは溶剤、スラリー/懸濁もしくは分散を伴うか又は伴わずにスプレードライされたプレポリマーであり得る。これらの触媒は、技術的によく知られている共触媒及び助触媒と共に使用される。典型的に、これらは、アルキルアルミニウム、ハロゲン化アルキルアルミニウム、水素化アルキルアルミニウム、並びにアルキノサンである。例示目的のみで、適切な触媒の例は、チーグラー−ナッタ触媒、クロムベースの触媒、バナジウムベースの触媒(例えば、オキシ塩化バナジウム及びバナジウムアセチルアセトン)、メタロセン触媒、及び他のシングルサイトもしくはシングルサイト状触媒、ハロゲン化金属(例えば、三ハロゲン化アルミニウム)のカチオン形態、アニオン開始剤(例えば、ブチルリチウム)、コバルト触媒及びそれらの混合物、ニッケル触媒及びそれらの混合物、希土類金属触媒(すなわち、周期表の原子番号57〜103を有する金属を含有するもの)、例えば、セリウム、ランタン、プラセオジム、ガドリニウム、及びネオジムの化合物等を含む。
【0151】
種々の実施形態において、本発明に従って監視され、随意的に制御もされる重合反応は、他の添加物、例えば、不活性粒状粒子等を用いることができる。
【0152】
当然のことながら、本発明のいくつかの実施形態が本明細書中に例示され記述されるが、本発明は、記述し例示した特定の実施形態に限定されない。
【符号の説明】
【0153】
9 触媒フィーダ
10 流動床反応器
11 底端部
12 分配板
14 円筒(直線状)区域
15 流動床
16 温度センサ
19 頂部拡張区域
30 循環ガスクーラ
31 再循環ガスライン
32 圧縮機
33 出口
34 入口
50 プロセッサ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)重合体樹脂を製造する流動床反応器内の重合反応中、少なくとも反応器温度と、前記重合体樹脂の少なくとも一つの樹脂特性と、前記反応器内の少なくとも一つの凝縮性希釈ガスの濃度とを含む該反応のパラメータを測定する工程と、
(b)樹脂溶融温度と前記少なくとも一つの樹脂特性との間の事前に設定した相関性を用いて、前記少なくとも一つの樹脂特性から、前記重合体樹脂の乾燥バージョンのドライ溶融開始温度を決定する工程と、
(c)前記反応中、工程(a)で測定した前記パラメータ及び前記ドライ溶融開始温度値のうちの少なくとも一つからオンライン形式で、溶融開始温度降下モデルを用いて、前記少なくとも一つの凝縮性希釈ガスの存在下で前記重合体樹脂に対する換算溶融開始温度を決定する工程とを含み、
前記溶融開始温度降下モデルは、前記重合体樹脂と共に前記希釈剤が存在することによる前記ドライ溶融開始温度の降下の推定温度を特定する方法。
【請求項2】
前記溶融開始温度降下モデルはフローリの式を実行する請求項1の方法。
【請求項3】
前記事前に設定した相関性は、重合体樹脂の乾燥サンプルのセットに対する示差走査熱量測定によって少なくとも部分的に決定される請求項1又は2の方法。
【請求項4】
前記工程(a)は、前記反応器内における前記重合体樹脂の密度及びメルトインデックスと、少なくとも一つの誘導縮合剤の濃度と、少なくとも一つのコモノマーの濃度と、前記反応器内の前記コモノマーの少なくとも一つの異性体の濃度とを測定する工程を含む請求項1〜3のいずれか一つの方法。
【請求項5】
前記ドライ溶融開始温度は、前記重合体樹脂の乾燥バージョンが溶け始めると予測される温度である請求項1〜4のいずれか一つの方法。
【請求項6】
前記工程(b)は、前記事前に設定した相関性に従って準備した少なくとも一つのルックアップテーブルにアクセスする工程を含む請求項1〜5のいずれか一つの方法。
【請求項7】
前記工程(c)は、前記溶融開始温度降下モデルに従って準備した少なくとも一つのルックアップテーブルにアクセスする工程を含む請求項1〜6のいずれか一つの方法。
【請求項8】
前記工程(c)は、工程(a)で測定した前記パラメータ及び前記ドライ溶融開始温度値のうちの前記少なくとも一つを、前記溶融開始温度降下モデルを実行するようにプログラムされたプロセッサにおいて処理する工程を含む請求項1〜6のいずれか一つの方法。
【請求項9】
前記換算溶融開始温度は、前記反応器内の前記少なくとも一つの凝縮性希釈ガスの存在下で前記重合体樹脂が溶け始めると予測される温度である請求項1〜8のいずれか一つの方法。
【請求項10】
前記工程(a)〜(c)は、一連の換算溶融開始温度値を生成するために該反応中繰り返し実行され、該方法は、反応を制御するために該一連の換算溶融開始温度値を用いる工程を含む請求項1〜9のいずれか一つの方法。
【請求項11】
(d)前記工程(c)で決定した換算溶融開始温度及び前記反応器温度の現在値から、前記反応器内の樹脂粘着性を示す温度値をオンライン形式で決定する工程を含む請求項1〜10のいずれか一つの方法。
【請求項12】
前記工程(d)で生成した温度値は、Trx−MITRに少なくとも実質的に等しい温度値ΔMITであり、ここで、Trxは反応器温度の現在値であり、MITRは工程(c)で決定した換算溶融開始温度である請求項11の方法。
【請求項13】
前記工程(a)〜(d)は、前記反応器内の樹脂粘着性を示す一連の温度値を生成するために該反応中繰り返し実行され、該方法は、
(e)前記反応器内の樹脂粘着性を示す前記一連の温度値の少なくともいくつかに応じて前記反応を制御する工程を含む請求項11又は12の方法。
【請求項14】
前記反応はポリエチレン重合反応であり、工程(d)の各繰り返しで生成した前記温度値は、Trx−MITRに少なくとも実質的に等しい温度値ΔMITであり、ここで、Trxは反応器温度の現在値であり、MITRは工程(c)で決定した換算溶融開始温度であり、工程(e)は、事前に設定した温度範囲内でΔMITの現在値を維持するように該反応を制御する請求項13の方法。
【請求項15】
(e)前記工程(d)で生成した前記温度値に応じて該反応を制御する工程を含む請求項11〜14のいずれか一つの方法。
【請求項16】
前記工程(e)は、前記反応器内の過度な樹脂粘着性の発生を防止するように該反応を制御する工程を含む請求項15の方法。
【請求項17】
前記工程工程(e)は、前記反応器内の過度な樹脂粘着性の発生を防止しながら反応器製造速度を最大にするように該反応を制御する工程を含む請求項15の方法。
【請求項18】
前記工程(a)は、少なくとも一つの誘導縮合剤と、少なくとも一つのコモノマーと、該コモノマーの少なくとも一つの異性体との濃度を測定する工程を含む請求項1〜17のうちのいずれか一つの方法。
【請求項19】
前記反応は、チーグラー−ナッタ、クロム、酸化クロム、AlCl3、コバルト、鉄、パラジウム、及びメタロセン触媒からなる群から選択される触媒の存在下でエチレンと前記少なくとも一つのコモノマーを重合する請求項18の方法。
【請求項20】
前記重合体樹脂はポリエチレンであり、各前記コモノマーはC3−C10アルファオレフィンである請求項1〜19のいずれか一つの方法。
【請求項21】
前記重合体樹脂はポリオレフィンである請求項1〜20のいずれか一つの方法。
【請求項22】
前記重合体樹脂はポリエチレンである請求項1〜21のいずれか一つの方法。
【請求項23】
前記工程(a)は、前記重合反応中、前記重合体樹脂の少なくとも一つの床平均特性を測定する工程を含む請求項1〜22のいずれか一つの方法。
【請求項24】
前記工程(a)は、前記重合反応中、該重合反応の前記パラメータの少なくとも一つの少なくとも一つの瞬時特性を測定する工程を含む請求項1〜22のいずれか一つの方法。
【請求項25】
前記工程(a)は、前記重合反応中、少なくとも瞬時反応器温度と前記反応器内の少なくとも一つの凝縮性希釈ガスの瞬時濃度とを測定する工程を含む請求項1〜22のいずれか一つの方法。
【請求項26】
(a)重合体樹脂を製造する流動床反応器内の重合反応中、該重合体樹脂の少なくとも一つの瞬時特性及び該重合体樹脂の少なくとも一つの床平均特性を含む反応の瞬時及び床平均パラメータを測定する工程と、
(b)前記重合体樹脂の前記少なくとも一つの瞬時特性から該重合体樹脂の乾燥バージョンの第1ドライ溶融開始温度を決定すると共に、前記重合体樹脂の前記少なくとも一つの床平均特性から該重合体樹脂の前記乾燥バージョンの第2ドライ溶融開始温度を決定する工程と、
(c)前記反応中、工程(a)で測定した前記パラメータと、前記ドライ溶融開始温度値と、前記第2ドライ溶融開始温度値の少なくともいくつかからオンライン形式で、溶融開始温度降下モデルを用いて、少なくとも一つの凝縮性希釈ガスで前記重合体樹脂に対する第1換算溶融開始温度及び第2ドライ溶融開始温度値を決定する工程と、
(d)オンライン形式で、前記第1換算溶融開始温度及び前記反応器温度の現在値から該反応器における樹脂粘着性を示す第1温度値を決定すると共に、前記第2換算溶融開始温度及び前記反応器温度の現在値から該反応器における樹脂粘着性を示す第2温度値を決定する工程とを含む方法。
【請求項27】
(e)前記工程(d)で生成した前記第1温度値及び第2温度値の少なくとも一つに応じて該反応を制御する工程を含む請求項26の方法。
【請求項28】
前記工程(e)は、前記反応における移行中、前記第2温度値に応じて該反応を制御する工程と、該反応が移行を受けない場合に前記第1温度に応じて該反応を制御する工程とを含む請求項27の方法。
【請求項29】
前記工程(e)は、前記第1温度値を第1事前設定限界未満に維持すると共に、前記第2温度値を第2事前設定限界未満に維持するように該反応を制御する工程を含む請求項27の方法。
【請求項30】
前記工程(e)は、前記第1温度値を第1事前設定範囲内に維持すると共に、前記第2温度値を第2事前設定範囲内に維持するように該反応を制御する工程を含む請求項27の方法。
【請求項31】
前記工程(a)は、少なくとも一つの誘導縮合剤と、少なくとも一つのコモノマーと、該コモノマーの少なくとも一つの異性体との濃度を測定する工程を含む請求項26〜30のいずれか一つの方法。
【請求項32】
前記反応は、チーグラー−ナッタ、クロム、酸化クロム、AlCl3、コバルト、鉄、パラジウム、及びメタロセン触媒からなる群から選択される触媒の存在下でエチレンと前記少なくとも一つのコモノマーを重合する請求項26〜31のいずれか一つの方法。
【請求項33】
前記重合体樹脂はポリエチレンであり、各前記コモノマーはC3−C10アルファオレフィンである請求項26〜32のいずれか一つの方法。
【請求項34】
前記重合体樹脂はポリオレフィンである請求項26〜33のいずれか一つの方法。
【請求項35】
前記溶融開始温度降下モデルはフローリの式を実行する請求項26〜34のいずれか一つの方法。
【請求項36】
前記事前に設定した相関性は、重合体樹脂の乾燥サンプルのセットに対する示差走査熱量測定によって少なくとも部分的に決定される請求項26〜35のいずれか一つの方法。
【請求項37】
(a)重合体樹脂を製造する流動床反応器内の重合反応中、
少なくとも反応器温度と、前記重合体樹脂の少なくとも一つの樹脂特性と、前記反応器内の少なくとも一つの凝縮性希釈ガスの濃度とを含む該反応のパラメータを測定する工程と、
(b)樹脂溶融温度と前記少なくとも一つの樹脂特性との間の事前に設定した相関性を用いて、前記少なくとも一つの樹脂特性から、前記重合体樹脂の乾燥バージョンのドライ溶融開始温度を決定する工程と、
(c)前記反応中、工程(a)で測定した前記パラメータ及び前記ドライ溶融開始温度値のうちの少なくとも一つから、溶融開始温度降下モデルを用いて、前記少なくとも一つの凝縮性希釈ガスの存在下で前記重合体樹脂に対する換算溶融開始温度を決定する工程とを含み、
前記溶融開始温度降下モデルは、前記重合体樹脂と共に前記希釈剤が存在することによる前記ドライ溶融開始温度の降下の推定温度を特定する方法。
【請求項38】
前記溶融開始温度降下モデルはフローリの式を実行する請求項37の方法。
【請求項39】
前記事前に設定した相関性は、重合体樹脂の乾燥サンプルのセットに対する示差走査熱量測定によって少なくとも部分的に決定される請求項37又は38の方法。
【請求項40】
前記工程(a)は、前記反応器内における前記重合体樹脂の密度及びメルトインデックスと、少なくとも一つの誘導縮合剤の濃度と、少なくとも一つのコモノマーの濃度と、前記反応器内の前記コモノマーの少なくとも一つの異性体の濃度とを測定する工程を含む請求項37〜39のいずれか一つの方法。
【請求項41】
前記ドライ溶融開始温度は、前記重合体樹脂の乾燥バージョンが溶け始めると予測される温度である請求項37〜40のいずれか一つの方法。
【請求項42】
前記工程(b)は、前記事前に設定した相関性に従って準備した少なくとも一つのルックアップテーブルにアクセスする工程を含む請求項37〜41のいずれか一つの方法。
【請求項43】
前記工程(c)は、前記溶融開始温度降下モデルに従って準備した少なくとも一つのルックアップテーブルにアクセスする工程を含む請求項37〜42のいずれか一つの方法。
【請求項44】
前記工程(c)は、工程(a)で測定した前記パラメータ及び前記ドライ溶融開始温度値のうちの前記少なくとも一つを、前記溶融開始温度降下モデルを実行するようにプログラムされたプロセッサにおいて処理する工程を含む請求項37〜42のいずれか一つの方法。
【請求項45】
前記換算溶融開始温度は、前記反応器内の前記少なくとも一つの凝縮性希釈ガスの存在下で前記重合体樹脂が溶け始めると予測される温度である請求項37〜44のいずれか一つの方法。
【請求項46】
前記工程(a)〜(c)は、一連の換算溶融開始温度値を生成するために該反応中繰り返し実行され、該方法は、反応を制御するために該一連の換算溶融開始温度値を用いる工程を含む請求項37〜45のいずれか一つの方法。
【請求項47】
前記換算溶融開始温度は、それを超えると、前記少なくとも一つの凝縮性希釈ガスの存在で前記反応器内の前記重合体樹脂が粘着性になると予測される温度である請求項37〜46のいずれか一つの方法。
【請求項48】
(d)前記工程(c)で決定した換算溶融開始温度及び前記反応器温度の現在値から、前記反応器内の樹脂粘着性を示す温度値を決定する工程を含む請求項37〜47のいずれか一つの方法。
【請求項49】
前記工程(d)で生成した温度値は、Trx−MITrに少なくとも実質的に等しい温度値ΔMITであり、ここで、Trxは反応器温度の現在値であり、MITrは工程(c)で決定した換算溶融開始温度である請求項48の方法。
【請求項50】
前記工程(a)〜(d)は、前記反応器内の樹脂粘着性を示す一連の温度値を生成するために該反応中繰り返し実行され、該方法は、
(e)前記反応器内の樹脂粘着性を示す前記一連の温度値の少なくともいくつかに応じて前記反応を制御する工程を含む請求項48又は49の方法。
【請求項51】
前記反応はポリエチレン重合反応であり、工程(d)の各繰り返しで生成した前記温度値は、Trx−MITrに少なくとも実質的に等しい温度値ΔMITであり、ここで、Trxは反応器温度の現在値であり、MITrは工程(c)で決定した換算溶融開始温度であり、工程(e)は、事前に設定した温度範囲内でΔMITの現在値を維持するように該反応を制御する請求項50の方法。
【請求項52】
(e)前記工程(d)で生成した前記温度値に応じて該反応を制御する工程を含む請求項48〜51のいずれか一つの方法。
【請求項53】
前記工程(e)は、前記反応器内の過度な樹脂粘着性の発生を防止するように該反応を制御する工程を含む請求項52の方法。
【請求項54】
前記工程工程(e)は、前記反応器内の過度な樹脂粘着性の発生を防止しながら反応器製造速度を最大にするように該反応を制御する工程を含む請求項53の方法。
【請求項55】
前記工程(a)は、少なくとも一つの誘導縮合剤と、少なくとも一つのコモノマーと、該コモノマーの少なくとも一つの異性体との濃度を測定する工程を含む請求項37〜54のうちのいずれか一つの方法。
【請求項56】
前記反応は、チーグラー−ナッタ、クロム、酸化クロム、AlCl3、コバルト、鉄、パラジウム、及びメタロセン触媒からなる群から選択される触媒の存在下でエチレンと前記少なくとも一つのコモノマーを重合する請求項37〜55のいずれか一つの方法。
【請求項57】
前記重合体樹脂はポリエチレンであり、各前記コモノマーはC3−C10アルファオレフィンである請求項37〜56のいずれか一つの方法。
【請求項58】
前記重合体樹脂はポリオレフィンである請求項37〜57のいずれか一つの方法。
【請求項59】
前記重合体樹脂はポリエチレンである請求項37〜58のいずれか一つの方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公表番号】特表2010−502812(P2010−502812A)
【公表日】平成22年1月28日(2010.1.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−527343(P2009−527343)
【出願日】平成19年7月13日(2007.7.13)
【国際出願番号】PCT/US2007/016047
【国際公開番号】WO2008/030294
【国際公開日】平成20年3月13日(2008.3.13)
【出願人】(599168648)ユニベーション・テクノロジーズ・エルエルシー (70)
【Fターム(参考)】