説明

溶造Si電熱合金の抵抗温度曲線を平坦化する方法

【課題】
従来のSi合金電熱合金は、抵抗温度曲線が急峻な山の形状で、均一な温度分布が得がたい。温度の暴走、昇温不能に陥りやすい欠点がある。
【解決方法】
必須相成分としてSi相と珪化物相が存在するミクロ組織を持つSi電熱合金の珪化物相の面積率を25体積%以上にすることで課題を解決する。またSi成分の出発原料として99質量%純度以下のシリコン原料を使用することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、溶造によって製造したSi電熱合金の抵抗温度曲線を平坦化する方法にかかわり、更に詳しくは、溶造Si合金のバルク体ヒーターおよび溶造Si合金の皮膜体が融着したセラミックスヒーターの常温から高温にいたるまでの抵抗温度曲線を平坦化する方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
特許文献1、特許文献2には、Siと、(Fe、Ni、Co、Ti、Zr、Nb、Ta、Mo、Ta、B、P、Ge、Al、Cu、Mn、希土類元素)から選択された一種あるいは二種以上の元素の合金から成る電熱皮膜が融着した窒化アルミニウムヒーターが開示されており、溶造Si合金を電熱合金として利用することは既に公知である。
これら従来の溶造Si電熱合金には、下記三つの問題がある。
【0003】
一つ目は、ヒーター加熱面の均一な温度分布が得られないことである。
バルク体ヒーターあるいは窒化アルミニウムセラミックス基材に、この合金の皮膜を融着させたセラミックス面状ヒーターであっても、ヒーター加熱面の均一な温度分布が得られないことである。
二つ目は、高温に急速加熱したとき、温度が暴走、急上昇して、発熱体の溶断が発生することである。あるいはこの合金の皮膜を融着させたセラミックス面状ヒーターにあっては、電熱皮膜の溶断あるいはセラミックス基材の破壊が発生することである。
三つ目は、抵抗値の上昇が激しいために、高温域で電流が流れなくなり、昇温不能になることである。
【0004】
加熱面の均一な温度分布が得られない理由(一つ目の問題点)
従来のSi合金は、温度に対する抵抗の増加率が極めて大きいために、少しの温度変化で、抵抗値が大きく変化する。この結果、回路内の小さな温度ムラでも個々の部分の発熱量が大きく変化するために、温度ムラは益々拡大し、温度分布が均一な加熱面が得られない。
【0005】
温度が暴走する理由(二つ目の問題点)
従来のSi合金の抵抗値は、概ね500〜800℃間で、最高値に達し、その後は温度上昇と共に、抵抗値が急降下する性質がある。つまり昇り、下りと頂上があり、下りが特別急峻な山のような形状の抵抗温度曲線を持つ。この結果、抵抗値最大の温度以上に急速加熱するとき、抵抗値の急激な減少のために電流の制御がおいつかず、制御不能な状態に陥って、電熱合金が溶融して断線するまで、あるいはセラミックス基材が破壊されるまで温度が暴走して急上昇するためである。
【0006】
昇温不能になる理由(三つ目の問題点)
高温域の抵抗値が常温の数倍に達するために、高温域で電流が流れなくなるためである。
【0007】
上記三つの問題点は、いずれも従来の溶造Si合金が急峻な山のような形状の抵抗温度曲線を持つことに起因するものである。
【0008】
【特許文献1】特開平10−144459
【特許文献2】特許第3254478号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明はかかる問題点に鑑みてなされたもので、その目的は、溶造Si合金の急峻な山のような形状の抵抗温度曲線を平坦化する方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者は上記課題に関して鋭意研究を行い、上記課題は下記方法で解決できることを見出した。
すなわち、必須相成分としてSi相と珪化物相が存在する凝固組織を持つ溶造Si電熱合金の常温から1000℃間の抵抗温度曲線は、その凝固組織の珪化物相の面積率が25体積%以上になると、最大体積抵抗(抵抗温度曲線の山の頂上の体積抵抗)と最低体積抵抗(抵抗温度曲線の常温あるいは1000℃の体積抵抗)の差が極小化して、なだらかな高原状のスロープに変化し、つまり急峻な山がなだらかな高原状のスロープに変化し、温度分布、温度の暴走、昇温不能の三つの課題が同時に解決できることを見出した。
【0011】
また、必須相成分としてSi相と珪化物相が存在する凝固組織を持つ溶造Si電熱合金の常温から1000℃間の抵抗温度曲線は、このSi合金に5質量%以上SiC粒子を融合分散させることで珪化物相の全ての面積比率で、その抵抗値を低下させることができる、つまり抵抗温度曲線全体を抵抗の低い方(下方)へ平行移動できる共に、珪化物相の面積率を15体積%以上にすると、抵抗温度曲線の下りがなくなり、なだらかな上りだけの曲線形状に変化することを見出した。
これにより、温度の暴走が解決でき、あわせて昇温不能と温度分布の問題も改善されることを見出した。
【0012】
また、必須相成分としてSi相と珪化物相が存在する凝固組織を持つ溶造Si電熱合金のSi成分の出発原料として99質量%純度以下のシリコン原料を使用すると、珪化物相の全ての面積比率で、その抵抗値が低下すると共に、その抵抗温度曲線の山の頂上が削られてより平坦化されることを見出した。そして珪化物相の面積率が18体積%以上になると、常温から1000℃まで、その最大抵抗値と最小抵抗値の差がほとんどなくなり、その抵抗温度曲線がほぼ平坦になり、平坦度が劇的に改善されることを見出した。
本発明は以上の知見を基になされたものである。
【0013】
99質量%純度以下のシリコン原料には、不純物として、Fe,Al≦1質量%、Ca≦0.5質量%、及び微量のMn等が含有されているが、これら微量元素の中の含有量が特別多いFe、Alが電気抵抗の低下、抵抗温度曲線形状の劇的改善に有効に作用したものと推察される。Caは蒸気圧が高いので、電熱合金を高温溶造時に揮散して、溶造後はほとんど残存しない、あるいは溶造後痕跡程度残存するだけである。
Feは、珪化物を形成する元素であるので、不純物として含まれるFeを珪化物形成元素として代用することも可能であり、Si原料に1%を超える量含まれていてもかまわないが、Alが多くなると、凝固組織の中に、金属Alの形態で晶出して、電熱合金の耐熱、耐酸化性が損なわれるので、Al≦1質量%が好ましい。最も好ましくは、Al≦0.5質量%である。
Fe,Al,Caは、原料Siに不可避的に不純物として含まれるもので、Alだけを、特別調整することが不可能であるが、98%純度のシリコン原料の実績では、Al<0.5%、95%純度の実績で、Al<1.0である。
従って95%純度以上のシリコン原料から、Al≦1質量%(あるいはAl≦0.5質量%)を満足する原料を選定することができる。
【0014】
本発明の99質量%純度以下のシリコン原料として、高純度Si原料に、99質量%純度以下のシリコン原料に含まれるFe、Al、Caを同量添加したものでもよい。
すなわち、下記の量添加したものでもよい。
Fe≦1質量%
Al≦1質量%(好ましくは、Al≦0.5質量%)
Ca≦0.5質量%
なお、珪化物形成元素としてFeを使用する電熱合金では、シリコン原料に1質量%以上、Feが含まれていてもかまわない。
【0015】
Caは、溶造後はほとんど残存しない、あるいは溶造後痕跡程度残存するだけであるが、Si合金溶造時、清浄度を改善する効果があるので、Ca≦0.5質量%添加してもよい。
【0016】
本発明のSi電熱合金は、液相の晶出する温度、つまり合金の固相線温度以上に加熱して液相を晶出させて溶造するものであり、バルク体からセラミックス基材に融着した皮膜体まで、その目的に応じて任意自在に、その形状、構造を変えることができる。
本発明で溶造とは、合金の固相線温度以上に加熱して液相を晶出させて、溶融、凝固させて製造することを意味する。
【0017】
本発明の抵抗温度曲線とは、常温から1000℃までの抵抗温度係数の変化を表す曲線を意味する。
上限温度を1000℃に限定するのは、1000℃まで平坦化した抵抗温度曲線は、1000℃を超える温度でも平坦であるので、本発明では抵抗温度曲線の上限温度を1000℃とした。
【0018】
本発明では、抵抗温度曲線の平坦度を表す指標として、下記の計算式を用いた。
すなわち、常温から1000℃間の体積抵抗の最大値(Rmax)と、体積抵抗の最低値(Rmin)の差をΔRとし、ΔRを1000で除した値を平坦度の指標とした。
【0019】
【数1】

従来の抵抗温度曲線では、体積抵抗の最大値(Rmax)は、抵抗温度曲線の山の頂上の体積抵抗になる。最低値(Rmin)は、常温あるいは1000℃の体積抵抗のいずれか低いほうになる。
【0020】
本発明の抵抗温度曲線を平坦化する方法とは、ΔRをより小さくする方法を意味する。
ΔRが小さくなることは、抵抗温度曲線の山がより低くなり、平地により近くなることを意味する。また、抵抗温度曲線を穏やかな上りだけにして、下りをなくすことで、ΔRを小さくすることができる。
【0021】
溶造Si電熱合金は、基本的には三種類の凝固組織を持つ。つまりSi電熱合金の溶融後の凝固組織(顕微鏡組織)には三つの形態がある。
タイプ1
Si相と珪化物相から成る凝固組織
ほとんどの場合がこれに該当する。すなわち、Siと、(Fe、Ni、Co、Ti、Zr、Nb、Ta、Hf、Mo、W、Cu、Mn、希土類元素、B、P)の中の一種あるいは一種以上の元素からなる合金は、Si相(初晶あるいは共晶)と珪化物相(初晶あるいは共晶)から成る凝固組織になる。
【0022】
タイプ2
SiとAl、Agの合金のように、珪化物相を形成せずに一方の成分元素(Al、Ag)が直接晶出するタイプである。
【0023】
タイプ3
SiとGeのように全率固溶体を形成する場合であり、固溶体一相の組織と成る。
【0024】
本発明の必須相成分としてSi相と珪化物相が存在する凝固組織を持つSi電熱合金とは、基本的には、タイプ1の凝固組織を持つ合金を意味する。なお、この際、凝固組織の中にAl、Agが存在することを必ずしも排除するものではない。GeはSiに固溶されるだけであり、存在することを必ずしも排除するものではない。
【0025】
必須相成分としてSi相と珪化物相が存在する凝固組織を持つ溶造Si電熱合金は、Si原料として高純度Si(99.99質量%)を使用するとき、凝固組織中の珪化物面積率が25体積%以上になると、平坦度(ΔR/1000)は、ほぼ一定値(0〜1.2)に収束する。
平坦度(ΔR/1000)が0〜1.2の抵抗温度曲線は、平坦〜平坦にややフクラミが加わったスロープの曲線になる。
珪化物面積率が25体積%以上では、温度分布、温度の暴走、昇温不能の三つの課題が解決できる。一方、珪化物面積率が25体積%未満(平坦度>1.2)では、抵抗温度曲線に突き出た山が発生するようになり、上記三つの課題が解決できない。
【0026】
本発明電熱合金は、液相を晶出させて溶造するので、皮膜体でも、セラミックス基材に容易に融着させることができる。あるいは、バルク体でも容易に溶造できるが、珪化物面積率が70体積%を越えると、溶造する温度が高くなり、皮膜体をセラミックス基材に融着させることが難しくなる。またバルク体を溶造することが難しくなる。したがって珪化物面積率の上限は、70体積%以下が好ましい。
【0027】
上記したように、0〜1.2の平坦度を得るためには、Si原料として高純度Si(99.99質量%)を使用する時は、珪化物面積率を25体積%以上にしなければならないが、Si原料として99質量%純度以下の原料を使用すると、珪化物面積率18体積%以上から同等以上の平坦度(0.15〜0.05)を得ることができる。99質量%純度以下のSi原料に含まれる不純物は、本発明では、平坦度改善に劇的効果のある有用な元素として作用する。なおSi原料として99質量%純度以下の原料を使用する時も、珪化物面積率の上限は、前記したように70体積%以下が好ましい。
【0028】
必須相成分としてSi相と珪化物相が存在するミクロ組織を持つSi電熱合金の中に、合金の線膨張係数を調整するために、あるいは電気抵抗を調整するために、必要に応じて適宜SiC粒子を融合分散させることができるが、SiC粒子を融合分散させることによって下記のような新しい効果が発現する。
すなわち、珪化物相の面積率を15体積%以上にして、このミクロ組織の中に、SiC粒子を、電熱合金の5質量%以上融合分散させると、抵抗温度曲線の下りがなくなり、なだらかな上りだけの曲線形状に変化する。
珪化物相の面積率が15体積%未満では、抵抗温度曲線の下りは消滅しない。
また面積率15体積%以上でも、SiC粒子5質量%未満では、抵抗温度曲線の下りは消滅しない。
SiC粒子の上限は30質量%以下が好ましい。上限を越えると電熱合金に融合させることが難しくなる。また珪化物相とSiC粒子の合計面積率は70体積%以下が好ましい。上限を越えると、溶造する温度が高くなり、皮膜体をセラミックス基材に融着させることが難しくなる。
【0029】
本発明の溶造Si電熱合金をセラミックス基材に融着させて皮膜体で使用する場合、皮膜体とセラミックス基材の線膨張係数を整合させることが好ましい。
皮膜とセラミックス基材の線膨張係数の差の絶対値は、1.5×10−6以下が好ましい。最も好ましくは1.0×10−6以下である。
上記範囲を外れると、Si電熱合金皮膜体のヒーターとしての耐久性が劣ってくる。
【0030】
Si電熱合金とセラミックス基材の線膨張係数を上記範囲に調整させるためには、セラミックス基材の種類に応じて、合金元素の種類と量を調整すればよい。
すなわち、本発明の珪化物面積率25体積%以上を満足させるためには、セラミックス基材がアルミナの場合、珪化物としては、Fe、Ni、Co、Cr、Mo、W、Ti、Zr、Hf、Nb、Ta、Cu、Mn、希土類元素、B等の珪化物を適宜調整して使用すればよい。あるいはこれらの元素を原料として使用して、Siと溶融反応させて珪化物に変えればよい。
【0031】
セラミックス基材が窒化アルミニウムの場合、珪化物としては、Fe、Ni、Co、Cr、Mo、W、Ti、Zr、Nb、Ta、希土類元素、B等の珪化物が好適である。最も好ましくは、Fe、Ni、Co、Cr、Mo、W、Zr、B等である。
合金の原料成分としては珪化物そのもの、あるいはこれらの元素を原料として使用して、Siと溶融反応させて珪化物に変えればよい。
【0032】
本発明の電熱合金にBを添加することは、抵抗値を下げる、耐酸化性の改善、抵抗値の変化を抑制するために極めて有効である。概ね0.05質量%の添加で効果が発現する。
【発明の効果】
【0033】
Si電熱合金の急峻な山のような形状の抵抗温度曲線を平坦化することが可能になり、電熱合金の加熱面の温度分布が均一になり、温度の暴走、昇温不能を防止できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0034】
実施例1
電熱合金の体積抵抗の測定
Si粉末とチタン粉末を磁製ボートに入れて真空中で溶解して、Ti珪化物の面積率が異なる下記表1に示す9種の組成のSi−Ti合金から成る棒状電熱体を溶造した。
Si粉末は高純度(99.99質量%純度)Si粉末を使用した。
電熱体の寸法は、5×5×25mm長さである。
【0035】
電熱体の体積抵抗の測定は、4端子法にて、真空中で行った。
側面のロッドはカーボン製(定電流を流す)、上面のロッド(端子間距離20mm間の電位差を測定する)は、Moを用いた。
昇温は10分/分とし、200、400、600、800、1000℃で2分保持後、その温度における体積抵抗を測定して抵抗温度曲線の平坦度を算出した。
【0036】
電熱合金の面積率、常温体積抵抗、最大体積抵抗、1000℃の体積抵抗、およびその平坦度を表1に示す。
【0037】
【表1】

表1の結果を図1に示す。
【0038】
表1、図1から判るように、最大抵抗値(山の頂上)は、概ね600℃付近に現れる。最低抵抗値は、常温あるいは1000℃のいずれかである。
抵抗温度曲線の形状は、珪化物の面積率が25体積%未満では、急勾配の上り、下りと、頂上のある急峻な山の形状であるが、珪化物の面積率が25体積%以上になると、穏やかなスロープのほぼ平坦に近い形状に変化する。
面積率25%以上では、平坦度は、ほぼ一定の値(0.97〜1.1)に収束した。本発明範囲では、ほぼ平坦に近い抵抗温度曲線の形状が得られることを確認できた。
【0039】
実施例2
電熱合金の体積抵抗の測定
粉末SiとZrSi粉末とSiC粉末を磁製ボートに入れて真空中で溶解して下記表2に示す6種の組成のSi−Zr−SiC合金から成る棒状電熱体を溶造した。なおSiC粉末は、10μmアンダーの粉末を使用した。
Si粉末は高純度(99.99質量%純度)Si粉末を使用した。
電熱体の寸法は、5×5×25mm長さである。
【0040】
電熱合金の体積抵抗の測定は、実施例1と同じく4端子法にて、真空中で行った。側面のロッドはカーボン製(定電流を流す)、上面のロッド(端子間距離20mm間の電位差を測定する)は、Moを用いた。
昇温は10分/分とし、200、400、600、800、1000℃で2分保持後、その温度における体積抵抗を測定して抵抗温度曲線の平坦度を算出した。
結果を表2に示す。
【0041】
【表2】

結果
珪化物面積率15体積%以上、SiC5質量%以上の本発明範囲では、抵抗温度曲線は、いずれもなだらかな上りだけの曲線に変化し、温度暴走の原因となる下り部分が消失した。またSiC5質量%以上の添加で、体積抵抗は、約半分程度まで低下した。
【0042】
実施例3
電熱合金の体積抵抗の測定
Si原料として市販の99%Si粉末及び高純度Si粉末を使用して、Si原料、Ti粉末、Mo粉末を磁製ボートに入れて真空中で溶解して溶造した。
Ti量は7〜25質量%まで変え、Moは全ての合金に対して5質量%添加して、珪化物の面積率が9体積%、18体積%、40体積%の3種類のSi−Ti−Mo電熱合金を溶造した。
Moは全てTi珪化物に固溶されて、複珪化物として存在していた。
溶造した塊から、5×5×25mm長さの寸法の電熱体を切り出して、体積抵抗の測定に供した。
【0043】
使用した市販の99%Si粉末の成分分析値は下記のとおりである。
単位は質量%
Si:99.3
Fe:0.2
Al:0.2
Ca:0.1
【0044】
使用した高純度Si粉末(4N:99.99%)の成分分析値は下記のとおりである。
単位はppm
Al : 5.1
Fe : 3.5
Cu,Ca: <0.2
Cr : 0.2
Ni : 0.2
Mg,Mn,Co,Ti,Zn: <0.1
【0045】
電熱合金の体積抵抗の測定は、実施例1と同じく4端子法にて、真空中で行った。側面のロッドはカーボン製(定電流を流す)、上面のロッド(端子間距離20mm間の電位差を測定する)は、Moを用いた。
昇温は10分/分とし、200、400、600、800、1000℃で2分保持後、その温度における体積抵抗を測定して抵抗温度曲線の平坦度を算出した。
結果を表3、図2に示す。
【0046】
【表3】

【0047】
図2の1は、珪化物面積率9体積%で、Si原料に高純度Si使用したときの常温から1000℃までの抵抗温度曲線である。
図2の2は、珪化物面積率9体積%で、Si原料に99%Si使用したときの常温から1000℃までの抵抗温度曲線である。
図2の3は、珪化物面積率18体積%で、Si原料に高純度Si使用したときの常温から1000℃までの抵抗温度曲線である。
図2の4は、珪化物面積率18体積%で、Si原料に99%Si使用したときの常温から1000℃までの抵抗温度曲線である。
図2の5の曲線は、珪化物面積率40体積%で、Si原料に99%Si使用したときの常温から1000℃までの抵抗温度曲線である。
【0048】
結果
表3および図2から、Si電熱合金のSi原料として、市販の99%純度のSi原料を使用すると、珪化物の低い面積率(9体積%)から高い面積率(40体積%)まで、抵抗温度曲線の平坦化が著しく改善されることが判った。そして面積率18体積%以上では、平坦度は、0.15〜0.05になり、抵抗温度曲線は常温から1000℃まで抵抗変化がほとんどなくなり、平坦化することが判った。
99%純度以下のSi原料の使用は、珪化物の広い組成範囲で、抵抗温度曲線の平坦化に著しい効果があることが判った。
【0049】
実施例4
皮膜体の体積抵抗測定
実施例1〜3の中の、本発明範囲の電熱合金と同じ成分組成の電熱合金の皮膜を溶融してセラミックス基材に融着させて、皮膜体の体積抵抗を測定した。
セラミックス基材は、窒化アルミニウム、92%アルミナを用いた。
電熱合金の皮膜の線膨張係数とセラミックス基材の線膨張係数の差の絶対値が1.5×10−6以下になるようにセラミックス基材を選択した。
【0050】
印刷ペーストの作成
実施例1のSi−Ti系合金では、Siの原料粉末に、高純度(99.99質量%純度)Si粉末を使用し、Si粉末とチタン珪化物の粉末を、融着後のチタン珪化物の面積率30体積%、40体積%になるように配合した混合粉末にPVPのアルコール溶液を混ぜて印刷用のペーストを作成した。
印刷するセラミックス基材には、92%アルミナ基材を用いた。
【0051】
実施例2のSi−Zr−SiC合金では、Siの原料粉末には、高純度(99.99質量%純度)Si粉末を使用し、Si粉末とジルコニウム珪化物粉末とSiC粉末を、融着後の組成が、下記2種類の組成になるように配合した粉末にPVPのアルコール溶液を混ぜて印刷用のペーストを作成した。
印刷するセラミックス基材には、窒化アルミニウムセラミックス基材を用いた。
融着後の組成
ジルコニウム珪化物の面積率15体積%+5質量%SiC
ジルコニウム珪化物の面積率20体積%+5質量%SiC
【0052】
実施例3のSi−Ti−Mo電熱合金では、Si原料として、実施例1で使用した市販の99%Si粉末を使用して、Moは全ての合金に対して5質量%添加して、Ti珪化物の量を変えて、融着後の珪化物の面積率が9体積%、18体積%、40体積%になるように配合した粉末にPVPのアルコール溶液を混ぜて印刷用のペーストを作成した。
印刷するセラミックス基材には、珪化物の面積率が9体積%の皮膜には、窒化アルミニウムセラミックス基材を、18体積%、40体積%の皮膜には、92%アルミナ基材を用いた。なお珪化物9%で、高純度Siを使用する比較材も作った。
【0053】
ペーストの印刷、乾燥、焼成
セラミックス基材(2インチ角×3mm厚さ)の表面に、図3に示す電熱回路(回路幅:5mm)をスクリーン印刷し、乾燥後、真空中で加熱して、セラミックス基材表面に電熱合金の皮膜体を融着させた。皮膜の厚さは、70〜80μmであった。
図3で、6はセラミックス基材、7は電熱回路、8はボルトを差し込む孔である。
【0054】
昇温テストと固有抵抗の算出
電熱回路両端の孔に耐熱鋼製のボルトを差し込んで、耐熱ニッケル電線とつなぎ、アルゴン雰囲気で、回路に交流を通電して加熱、昇温させた。
電熱回路とセラミックス基材は、共にセラミックス繊維の布で包み、耐熱ニッケル電線を布から外に出して通電して1時間で1000℃まで昇温させた。
各温度の電圧、電流から抵抗値を算出した。
各温度の抵抗値、融着皮膜の厚さの実測値、電熱回路の幅、長さの実測値から、各温度の体積抵抗を算出した。
結果を表4に示す。
【0055】
【表4】

表4の結果より、本発明範囲の電熱合金は、皮膜体がバルク体より体積抵抗が若干高くなるものの、原料Siが同じで、その成分組成が同じであれば、その抵抗温度曲線は、バルク体でも皮膜体でも、同じ傾向を持つ形状になり、平坦度はほぼ同じ値になることが確認できた。
【0056】
実施例5
皮膜体の体積抵抗測定
実施例1〜3の電熱合金と、その珪化物の種類が異なる時の皮膜体の体積抵抗を測定した。
珪化物として、Co珪化物、Ni珪化物を用いた。
セラミックス基材は、窒化アルミニウム、92%アルミナを用いた。
電熱合金の皮膜の線膨張係数とセラミックス基材の線膨張係数の差の絶対値が1.5×10−6以下になるようにセラミックス基材を選択した。
【0057】
Co系印刷ペーストの作成(その1)
Siの原料粉末には、実施例3で使用した高純度(99.99質量%純度)Si粉末を使用した。
Si粉末とCo珪化物の粉末を、融着後のCo珪化物の面積率30体積%、40体積%になるように配合した粉末にPVPのアルコール溶液を混ぜて印刷用のペーストを作成した。
印刷するセラミックス基材には、92%アルミナ基材を用いた。
【0058】
Co系印刷ペーストの作成(その2)
Siの原料粉末には、98%Si粉末を使用した。
Si粉末とCo珪化物の粉末を、融着後のCo珪化物の面積率9体積%、18体積%、40体積%になるように配合した粉末にPVPのアルコール溶液を混ぜて印刷用のペーストを作成した。
印刷するセラミックス基材には、面積率9体積%、18体積%の皮膜には、窒化アルミニウム基材を、40体積%には、92%アルミナ基材を用いた。
【0059】
使用した市販の98%Si粉末の成分分析値は下記のとおりである。
単位は質量%
Si:98.9
Fe:0.36
Al:0.11
Ca:0.06
【0060】
Co系印刷ペーストの作成(その3)
Siの原料粉末には、実施例3で使用した高純度(99.99質量%純度)Si粉末に、Feを0.3質量%、Alを0.2質量%、Caを0.1質量%添加したものを使用した。Feは、Fe−Si合金で添加、AlはAl−Si合金で添加、CaはCa−Si合金で添加した。
Si粉末とCo珪化物の粉末を、融着後のCo珪化物の面積率40体積%になるように配合した粉末にPVPのアルコール溶液を混ぜて印刷用のペーストを作成した。
印刷するセラミックス基材には、92%アルミナ基材を用いた。
【0061】
Ni系印刷ペーストの作成
Siの原料粉末には、実施例3で使用した高純度(99.99質量%純度)Si粉末を使用した。
Si粉末とNi珪化物粉末とSiC粉末を、融着後のNi珪化物の面積率15体積%、SiC粉末5質量%になるように配合した粉末にPVPのアルコール溶液を混ぜて印刷用のペーストを作成した。
印刷するセラミックス基材には、窒化アルミニウム基材を用いた。
【0062】
ペーストの印刷、乾燥、焼成
セラミックス基材(2インチ角×3mm厚さ)の表面に、図3に示す電熱回路(回路幅:5mm)をスクリーン印刷し、乾燥後、真空中で加熱して、セラミックス基材表面に電熱合金の皮膜体を融着させた。皮膜の厚さは、70〜80μmであった。
【0063】
昇温テストと固有抵抗の算出
電熱回路両端の孔に耐熱鋼製のボルトを差し込んで、耐熱ニッケル電線とつなぎ、アルゴン雰囲気で、回路に交流を通電して加熱、昇温させた。
電熱回路とセラミックス基材は、共にセラミックス繊維の布で包み、耐熱ニッケル電線を布から外に出して通電して1時間で1000℃まで昇温させた。
各温度の電圧、電流から抵抗値を算出した。
各温度の抵抗値、融着皮膜の厚さの実測値、電熱回路の幅、長さの実測値から、各温度の体積抵抗を算出した。
結果を表5に示す。
【0064】
【表5】

表5の結果より、本発明範囲の電熱合金は、珪化物の種類が異なっても、その原料Siが同じで、面積率が同じであれば、その抵抗温度曲線は、バルク体でも皮膜体でも、同じ傾向を持つ形状になり、平坦度は、ほぼ同じ値になることが確認できた。また原料Siは、高純度SiにFe、Al、Caを添加したものでも、市販の99%純度以下のSi原料と同等の効果が得られることがわかった。
【0065】
加熱テスト
表5の窒化アルミニウム基材に電熱皮膜を融着させた平坦度が0.1のセラミックスヒーターに対して昇温テストをした。
昇温条件:アルゴン雰囲気中、1000℃まで10分で加熱した。
温度の暴走、割れもなく、また昇温不能に陥ることもなく、1000℃まで急速昇温できた。また昇温途中、300℃で、加熱面(電熱皮膜を融着させた面の反対面)の温度ムラは、±1℃以内で、極めて小さく、温度分布は均一であつた。
【産業上の利用可能性】
【0066】
半導体を高温で加熱する窒化アルミニウム面状発熱体に好適に使用でき、半導体関連の加熱用途に多くの利用可能性がある。
【図面の簡単な説明】
【0067】
【図1】図1は、平坦度と珪化物の面積率の関係を示す図である。
【図2】図2は、Si原料に高純度Siと99%Siを使用したときの抵抗温度曲線を比較する図である。
【図3】図3は実施例で使用した電熱電熱回路の図である。
【符号の説明】
【0068】
1 高純度Si使用抵抗温度曲線(9体積%)
2 99%Si使用抵抗温度曲線(9体積%)
3 高純度Si使用抵抗温度曲線(18体積%)
4 99%Si使用抵抗温度曲線(18体積%)
5 99%Si使用抵抗温度曲線(40体積%)
6 セラミックス基材
7 電熱回路
8 ボルトを差し込む孔


【特許請求の範囲】
【請求項1】
必須相成分としてSi相と珪化物相が存在する凝固組織を持つ溶造Si電熱合金の珪化物相の面積率を25〜70体積%にすることを特徴とする溶造Si電熱合金の抵抗温度曲線を平坦化する方法。
【請求項2】
必須相成分としてSi相と珪化物相が存在する凝固組織を持つ溶造Si電熱合金の珪化物相の面積率を15体積%以上にし、かつ該凝固組織の中に、SiC粒子を該電熱合金の5質量%以上融合分散させることを特徴とする溶造Si電熱合金の抵抗温度曲線を平坦化する方法。
【請求項3】
必須相成分としてSi相と珪化物相が存在する凝固組織を持つ溶造Si電熱合金のSi成分の出発原料として、99質量%純度以下のシリコン原料を使用することを特徴とする溶造Si電熱合金の抵抗温度曲線を平坦化する方法。
【請求項4】
必須相成分としてSi相と珪化物相が存在する凝固組織を持つ溶造Si電熱合金のSi成分の出発原料として、高純度シリコン原料に99質量%純度以下のシリコン原料に含まれるFe、Al、Caを同量添加したシリコン原料を使用することを特徴とする溶造Si電熱合金の抵抗温度曲線を平坦化する方法。
【請求項5】
上記珪化物相の面積率を18体積%以上にすることを特徴とする請求項3〜4のいずれか1項に記載の溶造Si電熱合金の抵抗温度曲線を平坦化する方法。
【請求項6】
上記電熱合金が、セラミックス基材に融着してなる皮膜体であることを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載の溶造Si電熱合金の抵抗温度曲線を平坦化する方法。
【請求項7】
上記電熱合金にBが含有されてなることを特徴とする請求項1〜6のいずれか1項に記載の溶造Si電熱合金の抵抗温度曲線を平坦化する方法。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2010−10009(P2010−10009A)
【公開日】平成22年1月14日(2010.1.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−169790(P2008−169790)
【出願日】平成20年6月30日(2008.6.30)
【出願人】(000170716)黒崎播磨株式会社 (314)
【Fターム(参考)】