説明

潤滑剤供給材および直動装置

【課題】ボールねじ等の直動装置の潤滑性能を向上できるとともに、シール性を向上できる潤滑剤供給材、および、それを用いた直動装置を提供する。
【解決手段】ボールねじのねじ軸1とボールねじナット3との間に介在し、ねじ軸1に摺接するシール部材6であって、シール部材6は樹脂と潤滑剤とを少なくとも含む混合物を焼成してなり、潤滑剤が樹脂の焼結体中に含浸されてなり、その配合割合は、樹脂 100 重量部に対し、10〜150 重量部であり、樹脂は熱可塑性エラストマーであり、また特に熱可塑性ポリウレタンエラストマーまたは熱可塑性ポリエステルエラストマーであり、樹脂は1辺が 0.01 mm 以上、1 mm 以下の樹脂ペレットであり、またそのアスペクト比が 2 以上、50 以下である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ボールねじ、リニアガイド、プリンタキャリッジ等の直動装置用の潤滑剤供給材およびこれを用いた直動装置に関し、特に潤滑剤供給材をシール部材として用いたボールねじに関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、ボールねじは、ねじ軸の外周面に設けたらせん状の溝と、ボールナットの内周面に設けたらせん状の溝との間に、所定数のボールを配し、上記ねじ軸またはボールナットの回転運動を上記ボールを介して、上記ボールナットまたはねじ軸の運動に変換するものである。このボールねじには、その内部に充填した潤滑剤の洩出、または外部からの異物の侵入を防止するため、ボールねじ両端部のねじ軸とボールナットの間にシール部材が設けられている。このシール部材は一般的に超高分子量ポリエチレン樹脂等のプラスチック材を成形して製造されている。
従来の潤滑油またはグリース潤滑方式のボールねじは、特に高温の環境で使用されるような場合には、ナット内部に充填されている潤滑剤が外部に流れ出してしまうため消耗が早くて短期間に補給を繰り返さなければならないという問題点がある。また、粉塵や水滴等の内部侵入を防止するため、シール部材をナットの端部に取り付けると、ねじ軸とシール部材との摩擦・摩耗が発生してトルクが上昇するという問題点がある。
【0003】
これらの問題点を解決するために、シール部材として潤滑油含有ポリマー(または含油樹脂成形体)を用いたボールねじが知られている(特許文献1〜特許文献3参照)。また、シール性を高めるために、該シール部材をねじ軸のねじ溝面と摺接させることを特徴としたボールねじが知られている(特許文献4参照)。また、シール性や潤滑性を高めるために、該シール部材をボールと接触させることを特徴としたボールねじが知られている(特許文献5参照)。
このような潤滑油含有ポリマー(または含油樹脂成形体)(以下、まとめて固形潤滑剤と記す)は潤滑油を徐々に染み出させるものであり、ボールねじ用シール部材等に用いると潤滑油の補充のためのメンテナンスが不要になり、水分の多い厳しい使用環境や強い慣性力の働く環境などでも寿命の長期化に役立つ場合が多い。
【0004】
しかしながら、上記した従来技術による固形潤滑剤をシール部材として用いたボールねじでは、固形潤滑剤が焼成時に収縮することから、固体潤滑剤がねじ軸やボールを抱え込んでしまうためトルクが大きい、若干の隙間が生じるため外部からの異物等の侵入を完全に防ぐことができない、そして固形潤滑剤からの油の滲み出し量が少ないために潤滑性能に劣るという欠点がある。
【特許文献1】実開平7−4952号公報
【特許文献2】特開平10−273643号公報
【特許文献3】特開平11−335657号公報
【特許文献4】特開平11−201258号公報
【特許文献5】特開平11−223260号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、このような問題点に対処するためになされたものであり、ボールねじ等の直動装置の潤滑性能を向上できるとともに、シール性を向上できる潤滑剤供給材、および、それを用いた直動装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の潤滑剤供給材は、案内部材に沿って直線移動する直動装置に、上記案内部材に接触して配設される潤滑剤供給材であって、上記潤滑剤供給材は、樹脂と潤滑剤とを少なくとも含む混合物を焼成してなり、上記潤滑剤が上記樹脂の焼結体中に含浸されてなり、上記潤滑剤の配合割合は、上記樹脂 100 重量部に対し、10〜150 重量部であることを特徴とする。
また、上記混合物の焼成は、該混合物を直動装置内に充填した後になされることを特徴とする。
【0007】
上記樹脂は、熱可塑性エラストマーであることを特徴とする。また、特に熱可塑性ポリウレタンエラストマー、または、熱可塑性ポリエステルエラストマーであることを特徴とする。
上記樹脂は、1辺が 0.01 mm 以上、1 mm 以下の樹脂ペレットであることを特徴とする。またそのアスペクト比が 2 以上、50 以下であることを特徴とする。
【0008】
上記潤滑剤供給材は、ボールねじのねじ軸とボールねじナットとの間に介在し、ねじ軸に摺接するボールねじ用シール部材として用いられることを特徴とする。
【0009】
本発明の直動装置は、案内部材に沿って直線移動する直動装置において、上記案内部材に接触して配設された潤滑剤供給材を備えてなる直動装置であって、上記本発明の潤滑剤供給材を用いることを特徴とする。
また、上記直動装置は、外周面にらせん状のねじ溝を有する案内部材であるねじ軸と、内周面に上記ねじ軸に対応するらせん状のねじ溝を有するボールねじナットと、上記両ねじ溝間に介在する複数のボールと、上記ねじ軸、上記ボールねじナット間に介在し、ねじ軸に摺接する潤滑剤供給材からなるボールねじ用シール部材とを備えたボールねじであることを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明の潤滑剤供給材は、焼結した粉体状の樹脂内部や樹脂ペレット間隙に潤滑油などの潤滑剤が含浸されているので、潤滑剤保持力に優れ、潤滑剤染み出し量を必要最小限に抑制して、ねじ軸のねじ溝(ボール転走面)等に対し潤滑剤の供給が長期間に渡って確実に行なわれる。
また、樹脂から形成される多孔質体であり変形量を大きくとることができるので、ねじ軸等の案内部材に確実に密着させるためのしめしろを設定しやすく、外部からの塵・水分等の侵入に対しては隙間を作らずシールの役割を果たす。また、多少の変形を持ってねじ軸のねじ溝(ボール転走面)等に密着するので、保持されている潤滑剤がボール転走面等に供給されやすい。
これらの結果、本発明の潤滑剤供給材は、ボールねじ等の直動装置の潤滑性能を向上させるとともに、シール性を向上させることができ、長寿命化を図ることができる。
【0011】
本発明の直動装置は、上記の潤滑剤供給材を用いるので、ボール転走面等の摺動面への潤滑剤の供給が長期間に渡って確実に行なわれるとともに、シール性を確保でき、長寿命となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
潤滑油保持力に優れ、潤滑油染み出し量を必要最小限に抑制できるボールねじ用シール部材について鋭意検討の結果、潤滑剤と、粉体状樹脂との混合物をボールねじに充填し焼成したボールねじ用シール部材を得た。
このボールねじ用シール部材は、樹脂粉体同士の一部が溶融・固着して多孔質化された焼結体であり、かつ潤滑剤を樹脂粉体内部や樹脂ペレット間隙に含浸してなる多孔質の固形潤滑剤である。なお、本発明において潤滑剤を樹脂粉体内部や樹脂ペレット間隙に含浸してなるとは、潤滑剤が化合物とならないで、樹脂粉体内部や樹脂ペレット間隙に含まれることをいう。
このボールねじ用シール部材は、潤滑油保持力に優れ、ボールねじの回転等の外力による変形を受けても潤滑油染み出し量を必要最小限に抑制できることがわかった。また、焼結体への潤滑剤の後含浸工程が不要であり、特に混合物をボールねじ内に充填した後に焼成することで、混合物から焼結体を得るための金型等も不要であり、生産効率が向上し、安価に製造できる。
本発明は以上のような知見に基づくものである。
【0013】
本発明の直動装置としてボールねじおよびボールねじ用シール部材の一例を図1に基づいて説明する。図1はボールねじおよびボールねじ用シール部材を示す断面図である。
本発明のボールねじは、図1に示すように、案内部材であるねじ軸1の外周面に形成したねじ溝2と、ボールナット3の内周面に形成したねじ溝4の間に複数のボール5を介在させたものであり、ねじ軸1またはボールナット3の回転動力をボール5を介してボールナット3(またはねじ軸1)に伝達し、ボールナット3を軸方向に移動させるものである。
【0014】
ボールねじ用シール部材6は、ねじ軸1、ボールねじナット3間に介在し、ねじ軸1に摺接して取り付けられ、潤滑グリースなどの潤滑剤がボールねじの周囲を汚染しないように、また、ごみ等の異物がボールねじ内の摺動部に浸入しないようにシールしている。ボールねじ用シール部材6は、樹脂と潤滑剤とを少なくとも含む混合物を焼成してなり、上記潤滑剤が樹脂の焼結体中に含浸されてなる多孔質体である。このため、多少の変形を持ってねじ軸1のボール転走面に密着するため、潤滑剤が転走面に供給されやすい。
【0015】
本発明の潤滑剤供給材であるボールねじ用シール部材は、樹脂内や焼結した樹脂ペレット間隙に潤滑剤を含浸させるので、樹脂の柔軟性により、ボールねじの回転等の外力による変形により潤滑剤を染み出させて外部に徐放できる。この際、染み出す潤滑油量は、外力の大きさに応じて弾性変形する程度を樹脂の選択や焼結した樹脂ペレット間隙の大きさなどによって変えることにより、必要最小限にすることができる。
特に本発明のボールねじ用シール部材は、樹脂自身に含浸された潤滑剤と気孔内(粉体ペレット間の空孔)に存在する潤滑剤という染み出し速度の異なる潤滑剤保持機構で形成されるため、潤滑剤を比較的多量に必要とする潤滑初期には充分な潤滑剤が供給され、その後は潤滑剤成分を適当な速度で徐放し、ボールねじを長時間にわたって潤滑することができる。
【0016】
また、本発明において樹脂は、粉体状ペレット同士の一部が溶融・固着し多孔質化しているので表面積が大きくなっており、染み出した余剰の潤滑油を再び樹脂ペレット間隙に一時的に保持することもできて染み出す潤滑油量は安定しており、また樹脂内に潤滑剤を含浸させるとともに焼結した樹脂ペレット間隙に含浸させることによって非多孔質の状態より潤滑油の保持量も多くなる。
その上、本発明におけるボールねじ用シール部材は、非多孔質体と比較して屈曲時に必要なエネルギーが非常に小さく、潤滑油を高密度に保持しながら柔軟な変形が可能である。また、多孔質部分を多く持つため、軽量化の点でも有利である。
【0017】
また、粉体状の樹脂と潤滑剤を混合して所定の温度で焼成するだけであるので、特別な設備も不要であり、任意の場所に充填することが可能である。さらに、焼成温度をコントロールすることによりシール部材の密度を変化させることができる。
【0018】
本発明の潤滑剤供給材であるボールねじ用シール部材は、樹脂から形成される多孔質体であるから、変形量を大きくとることができる。よって、確実に密着させるためのしめしろを設定しやすい。また、外部からの塵・水分等の侵入に対しては隙間を作らずシールの役割を果たす。さらに、多少の変形を持ってねじ軸のボール転走面に密着するため、潤滑剤が転走面に供給されやすい。
【0019】
本発明において潤滑剤供給材であるボールねじ用シール部材を得るために用いる樹脂は、熱可塑性エラストマーであることが望ましい。熱可塑性エラストマーであれば、構造体としての強度を保ちながら柔軟性を付与できるので、圧縮や屈曲などの外部応力が高い頻度で繰り返し加わる部位に使用すると、圧縮や屈曲に追従して変形しやすくなる。
本発明に用いることができるエラストマーとしては、ポリオレフィン系(TPO)(例えば、三井化学社製ミラストマー)、ポリスチレン系(TPS)(例えば、三菱化学社製ラバロン)、ポリ塩化ビニル系(TPCV)(例えば、アプコ社製サンプレーン)、ポリエステル系(TPEE)(例えば、東レデュポン社製ハイトレル)、ポリウレタン系(TPU)(例えば、BASF社製エラストラン)、ポリアミド系(TPEA)(例えば、アルケマ社製ペバックス) 等を挙げることができる。これらの中で柔軟性と強度のバランスのとれた熱可塑性ポリウレタンエラストマー、熱可塑性ポリエステルエラストマーを用いることが好ましい。
【0020】
本発明に用いる樹脂は1辺が 0.01mm 以上、1 mm 以下の樹脂ペレットであることが好ましい。ここで樹脂ペレットは球状体もしくは短繊維状であり、この球状体もしくは短繊維状を平面視したときその最長径もしくは最長長さの平均長さを1辺とする。1辺が 1 mm より大きい樹脂ペレットの場合は多孔質の空間体積が小さくなり、保持できる潤滑剤が減少する。また、樹脂ペレット同士の接着点も減少するために、強度的に不利である。
また、1辺が 0.01 mm 未満の樹脂ペレットでは、ペレット同士が密着し過ぎて多孔質化の割合が小さくなり保油力が低下する。さらに、製造コストが高くなる。
【0021】
本発明に用いる樹脂ペレットはアスペクト比が 2 以上、50 以下の樹脂ペレットであることが好ましい。ここでアスペクト比は球状体もしくは短繊維状の樹脂ペレットを平面視したときの最長径もしくは最長長さの平均長さを最小径もしくは最短長さの平均長さで除した数値とする。アスペクト比が 2 より小さいと、多孔質の空間体積が小さくなり、保持できる潤滑剤が減少する。また、樹脂ペレット同士の接着点も減少するために、強度的に不利である。
また、アスペクト比が 50 をこえる樹脂ペレットは、粗になり過ぎるので、多孔質体となった時の保油力が低下する。さらに、製造コストが高くなる。
【0022】
本発明において潤滑剤供給材であるボールねじ用シール部材を得るために用いる潤滑剤としては、多孔質体を形成する樹脂を溶解しないものであれば種類を選ばずに使用することができるが、例えば潤滑油、グリース、ワックスなどを単独もしくは混合して用いてもよい。
本発明に使用する潤滑油としては、パラフィン系やナフテン系の鉱物油、エステル系合成油、エーテル系合成油、炭化水素系合成油、GTL基油、フッ素油、シリコーン油等の普通に使用されている潤滑油またはそれらの混合油が挙げられる。
【0023】
本発明に使用できるグリースは基油に増ちょう剤を加えたものであり、基油としては上述の潤滑油を挙げることができ、増ちょう剤としては、リチウム石けん、リチウムコンプレックス石けん、カルシウム石けん、カルシウムコンプレックス石けん、アルミニウム石けん、アルミニウムコンプレックス石けん等の石けん類、ジウレア化合物、ポリウレア化合物等のウレア系化合物が挙げられるが、特に限定されるものではない。
ジウレア化合物は、例えばジイソシアネートとモノアミンの反応で得られる。ジイソシアネートとしては、フェニレンジイソシアネート、ジフェニルジイソシアネート、フェニルジイソシアネート、ジフェニルメタンジイソシアネート、オクタデカンジイソシアネート、デカンジイソシアネート、へキサンジイソシアネート等が挙げられ、モノアミンとしては、オクチルアミン、ドデシルアミン、へキサデシルアミン、オクタデシルアミン、オレイルアミン、アニリン、p-トルイジン、シクロヘキシルアミン等が挙げられる。ポリウレア化合物は、例えば、ジイソシアネートとモノアミン、ジアミンとの反応で得られる。ジイソシアネート、モノアミンとしては、ジウレア化合物の生成に用いられるものと同様のものが挙げられ、ジアミンとしては、エチレンジアミン、プロパンジアミン、ブタンジアミン、ヘキサンジアミン、オクタンジアミン、フェニレンジアミン、トリレンジアミン、キシレンジアミン等が挙げられる。
【0024】
本発明に使用するワックスとしては炭化水素系合成ワックス、ポリエチレンワックス、脂肪酸エステル系ワックス、脂肪酸アミド系ワックス、ケトン・アミン類、水素硬化油などを用いることができる。これらのワックスに油を混合してもよく使用する油成分としては上述の潤滑油と同様のものを用いることができる。
【0025】
本発明に用いる潤滑剤の配合量は、樹脂 100 重量部に対し、潤滑剤は 10 重量部〜150 重量部であることが好ましい。潤滑剤が 10 重量部より少ないと染み出さず、潤滑剤として機能しない。潤滑剤が 150 重量部より多いと、樹脂ペレットが潤滑剤に囲まれて、樹脂ペレット間での融着が不十分となり、焼結体として成立しない。
【0026】
潤滑剤には、さらに二硫化モリブデン、グラファイト等の固体潤滑剤、有機モリブデン等の摩擦調整剤、アミン、脂肪酸、油脂類等の油性剤、アミン系、フェノール系などの酸化防止剤、石油スルフォネート、ジノニルナフタレンスルフォネート、ソルビタンエステルなどの錆止め剤、イオウ系、イオウ−リン系などの極圧剤、有機亜鉛、リン系などの摩耗防止剤、ベンゾトリアゾール、亜硝酸ソーダなどの金属不活性剤、ポリメタクリレート、ポリスチレンなどの粘度指数向上剤などの各種添加剤を含んでいてもよい。
【0027】
樹脂と潤滑剤との混合物の焼成は、混合物が充填された直動装置であるボールねじ内で行なうことができる。ボールねじ内の所定空間に充填された混合物は焼成され、充填空間の形状を有するとともに潤滑剤が含浸された焼結体をボールねじ内で形成する。この焼結体が本発明のボールねじ用シール部材である。
また、混合物をボールねじ内に充填する以外の方法として、成形用金型内に充填後、焼成・成形してもよく、また成形用金型を用いずに焼成・固化させることもできる。成形用金型を用いずに焼成・固化したボールねじ用シール部材は裁断や研削等で目的の形状に後加工してボールねじ内に組み込むこともできる。
これらの方法の中で後加工が不要であることから、混合物をボールねじに充填する方法を採用することが作業面、コスト面で好ましい。
【0028】
樹脂と潤滑剤とを混合する方法は、特に限定されることなく、例えばヘンシェルミキサー、リボンミキサー、ジューサーミキサー等、一般に用いられる撹拌機を使用することができる。
また焼成温度は、樹脂の融点〜融点 +30℃の範囲で選択することが望ましい。樹脂の融点より低いと樹脂ペレットが溶融せず焼結体にならないし、樹脂の融点より高いと必要以上に溶融してしまい多孔質体になりにくい。また、ペレットの融点なき場合には、焼成温度は軟化開始温度 +10℃〜軟化開始温度 +50℃の範囲で選択することが望ましい。
【0029】
本発明の潤滑剤供給材であるボールねじ用シール部材は、樹脂ペレットと潤滑剤とを混合してボールねじに充填し所定の温度で焼成するだけであるので、形状が複雑なボールねじ内の任意の部位にも容易に充填することが可能である。また、シール部材には既に潤滑剤が含浸されている。このため焼結体を得るための成形金型や潤滑剤の後含浸工程等も不要である。
【0030】
本発明の潤滑剤供給材であるボールねじ用シール部材において、樹脂焼結体中に含浸された状態で含まれる潤滑油は、外力による樹脂の変形によっても急激に染み出すことがなく、潤滑油を効率よく染み出させて用いることができる。その結果、潤滑油量は必要最小限でよく、しかも長寿命のボールねじが得られる。このため、本発明の潤滑剤供給材であるボールねじ用シール部材は各種ボールねじに用いることができ、また潤滑剤供給材は、各種産業用機械に用いられるその他の直動装置にも好適に利用できる。
【実施例】
【0031】
実施例1〜実施例5および比較例1
表1に示す割合で樹脂ペレットと潤滑剤とを混合し、ポリテトラフルオロエチレン樹脂製の型に充填した後、表1に示す焼成条件で焼成し成形体(ボールねじ用シール部材)を得た。
【0032】
比較例2
表1に示す割合で樹脂ペレットと潤滑剤とを混合し、ポリテトラフルオロエチレン樹脂製の型に充填した後、表1に示す焼成条件で焼成したが、非常にもろく、固形状にはならなかった。
【0033】
比較例3
表1に示す組成で、樹脂ペレットと潤滑剤とを 190℃にて混合・溶融し、射出成型にて成型して成形体を得た。しかし、多孔質にはならず、油の染み出しもなかった。
【0034】
得られた成形体について以下に示す曲げ弾性率測定および遠心力油分離試験を実施した。結果を表1に併記する。
<曲げ弾性率測定>
曲げ弾性率の測定方法はJIS K 7221-1に準拠した。
<遠心力油分離試験>
成形体をロータ半径 75 mm、回転速度 1000 rpm の条件で 1 時間回転させることによって、成形体に遠心力を加えたときの潤滑油充填量に対する潤滑油残量を測定し、次式により潤滑油減少率として算出したものである。
潤滑油減少率(重量%)=100×(潤滑油充填量−潤滑油残量)/潤滑油充填量
【0035】
【表1】

【0036】
表1に示すように、各実施例は油放出性も良く、かつ柔軟性も持ち合わせているので、潤滑に寄与する充分な潤滑剤を供給しながら圧縮変形に対して形状が追従する性質が強いことがわかる。よって、本発明のボールねじ用シール部材は弾性変形量が大きいため、ねじ溝に摺接した状態とでき、ねじ溝(ボール転走面)への潤滑油の供給が確実に行なわれるとともに、シール性を確保できる。
【産業上の利用可能性】
【0037】
本発明の潤滑剤供給材は、ボールねじ等の直動装置の潤滑性能を向上させるとともに、シール性を向上させることができ、長寿命化を図ることができるので、各種産業用機械に用いられる直動装置に好適に利用できる。
【図面の簡単な説明】
【0038】
【図1】ボールねじ用シール部材およびボールねじを示す断面図である。
【符号の説明】
【0039】
1 ねじ軸
2 ねじ溝
3 ボールナット
4 ねじ溝
5 ボール
6 シール部材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
案内部材に沿って直線移動する直動装置に、前記案内部材に接触して配設される潤滑剤供給材であって、
前記潤滑剤供給材は、樹脂と潤滑剤とを少なくとも含む混合物を焼成してなり、前記潤滑剤が前記樹脂の焼結体中に含浸されてなり、前記潤滑剤の配合割合は、前記樹脂 100 重量部に対し、10〜150 重量部であることを特徴とする潤滑剤供給材。
【請求項2】
前記混合物の焼成は、該混合物を直動装置内に充填した後になされることを特徴とする請求項1記載の潤滑剤供給材。
【請求項3】
前記樹脂は、熱可塑性エラストマーであることを特徴とする請求項1または請求項2記載の潤滑剤供給材。
【請求項4】
前記熱可塑性エラストマーは、熱可塑性ポリウレタンエラストマー、または、熱可塑性ポリエステルエラストマーであることを特徴とする請求項1、請求項2または請求項3記載の潤滑剤供給材。
【請求項5】
前記樹脂は1辺が 0.01 mm 以上、1 mm 以下の樹脂ペレットであることを特徴とする請求項1ないし請求項4のいずれか一項記載の潤滑剤供給材。
【請求項6】
前記樹脂ペレットは、そのアスペクト比が 2 以上、50 以下であることを特徴とする請求項1ないし請求項5のいずれか一項記載の潤滑剤供給材。
【請求項7】
前記潤滑剤供給材は、ボールねじのねじ軸とボールねじナットとの間に介在し、ねじ軸に摺接するボールねじ用シール部材として用いられることを特徴とする請求項1ないし請求項6のいずれか一項記載の潤滑剤供給材。
【請求項8】
案内部材に沿って直線移動する直動装置において、前記案内部材に接触して配設された潤滑剤供給材を備えてなる直動装置であって、
前記潤滑剤供給材は、請求項1ないし請求項7のいずれか一項記載の潤滑剤供給材であることを特徴とする直動装置。
【請求項9】
前記直動装置は、外周面にらせん状のねじ溝を有する案内部材であるねじ軸と、内周面に前記ねじ軸に対応するらせん状のねじ溝を有するボールねじナットと、前記両ねじ溝間に介在する複数のボールと、前記ねじ軸、前記ボールねじナット間に介在し、ねじ軸に摺接する潤滑剤供給材からなるボールねじ用シール部材とを備えたボールねじであることを特徴とする請求項8記載の直動装置。

【図1】
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【公開番号】特開2008−69329(P2008−69329A)
【公開日】平成20年3月27日(2008.3.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−251838(P2006−251838)
【出願日】平成18年9月15日(2006.9.15)
【出願人】(000102692)NTN株式会社 (9,006)
【Fターム(参考)】